消えた炎、消えぬ炎
消えた炎、消えぬ炎


●これでさらに進める……!?
 奈良県のとある遺跡。
 それは、某市の町外れにおいて、ボーリング調査を行っていた際に発見された。
 きっかけはボーリングマシンから突然炎が湧き出て、工事現場で働いていた男性達が焼死した事件。この原因は、地中から現れた炎の塊のような妖であったという。
 妖が出現するとあって、この場所の土地計画……商業施設が建設予定だったらしいが、白紙に戻された。
 これにより、考古学者達は炎が噴き出すその場所に興味を抱き、調査を始めていたのだが、妖はもちろんのこと、遺跡内に充満する炎とトラップが障害となってしまう。
 考古学者はほとんどが非覚者。この為、F.i.V.E.に依頼が舞い込んでいた。

 炎の遺跡の状況に進捗があったとのことで、覚者達は現地へと向かうと、白衣姿の考古学者に紛れて普段着姿の若い女性2人がいた。
「その節はどうも」
「どーもー」
 彼女達の名前は、翼人の水玉・彩矢(みずたま・あや)と、酉の獣憑の荒石・成生(あやいし・なるき)。2人は盗掘専門に活動していた「MIA」と名乗る隔者だったのだが。
 先日、この炎の遺跡に忍び込んだ彼女達は、F.i.V.E.と衝突。覚者達に敗北することとなる。
 その結果、2人は考古学者達の行う遺跡調査に協力することとなった。
 発現者であるMIAの2人は食い扶持にも困る状況であった為、最初は不承不承協力する形だったのだが……。
「思った以上に待遇が良くて、ビックリしたわ」
「ホントだねー。お肉いっぱい食べられて嬉しー」
 思った以上に、2人は晴れやかな表情をしている。高待遇で仕事が出来るのを、2人は喜んでいたようである。
 そんな彼女達は遺跡探索の手腕もさることながら、覚者としての力もなかなかなもの。炎の遺跡内に現れる火の玉の妖の討伐にも一役買ってくれていた。
 まして、F.i.V.E.の覚者達は他にも似た遺跡の存在を示唆している。その発見などにも彼女達は動き出しているという。
「たださ、あんた達が探索を楽しみにしているっていうからさ」
「あたしはー、あやと一緒にごはんが食べられればいーからさー」
 あくまで、彼女達は生計が立てられれば遺跡自体に興味はなく、覚者達を補佐する形で支援できればとのこと。しっかり妖討伐のお仕事をして、何か発見などがあれば、覚者達に伝えたいとMIAの2人は考えているようだ。

「本題だけど」
 まずは、彩矢から状況の確認である。
 仮称、炎の遺跡内部の構造は口のような形に通路が伸びており、それらのから斜めに延びた場所に4つの小部屋がある構造ではないか、と考古学者は考えている。
 入り口は、西側通路の中央。一辺は大体200mくらいの距離である。そして、現状、西側通路と北西、南西の小部屋の鏡を入手という状況だ。
 この遺跡の調査に当たって厄介なのは、遺跡内を包む炎だ。
 覚者達も調査の度にこの対策を強いられている。妖を倒すことで、徐々に炎は入り口を中心として消えているのだが、それも遅々として進まない。
「学者達がなんか怪しげな器具を購入して、背負ってたっけ」
 それは、非発現者の学者達でも利用できる器具で、半球状の物体を背中に背負って起動することで、回数制限はあるものの、擬似的に覚者の力を使えるというもの。彼らは弱い水礫を使いつつ、MIAの2人と共に西側通路のトラップを全解除するに至っている。
「あとー、妖討伐を続けているんだけどー、北側通路はいくら狩っても、炎が消えないんだよねー……」
 成生の話では、逆に南通路はある程度炎が消えたとのことだ。
 また、南北の通路はトラップは解除できておらず、炎が消えた部分にも妖は出現するようだ。
「妖との戦いは避けられないからー、体力的にー、一度の突入は北か南を選んで重点的に行う方がいいかなー」
 なお、覚者達の探索は南をメインに進んでいる状況ではある。北は炎が消えていないということで危険度も高いが、その分、新たな発見が待っている可能性も否定できない。
「こんなところかなー」
 MIAはややぐったりとしている。今日もまた、2人は遺跡内の妖討伐に出向いた直後。全身に汗をかいており、かなり消耗していたようだ。
「私達が帰ってシャワー浴びて寝るわ。あなた達が成果を出すこと、願っているわね」
 そうして、2人は工事現場跡から去っていったのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.北か南へ、遺跡探索領域を広げる。
2.なし
3.なし
覚者の皆様、こんにちは。なちゅいです。

炎の遺跡6度目のシナリオです。
MIAの2人が頑張ってくれたことと、
非発言者の考古学者達が弱いながらも
水礫を使える器具を装着したということで、
遺跡内の炎の領域がぐっと縮まったようです。

とはいえ、妖は出現しますし、
遺跡内は暑い状況が続きますが……。

●目的
遺跡の探索。主に北側か南側の探索を進める。
遺跡の構造は考古学者の推察通りですが、
さらに、北、南の中心から外側へと垂直に延びる通路もあります。
これらの情報を元に探索領域を進めますが、

1.なかなか炎が消えない北側
2.炎がかなり消えてきている南側(全領域ではありません)

どちらかを選択の上で、探索を願います。

●妖
 通路上でエンカウントする恐れがあります。
 1回のエンカウントで、
 ランク2が1体とランク1が3、4体という編成です。
 探索中に2~4回ほどの遭遇を想定していただければと思います。

※ランク2……仮称、顔付き
 直径20センチ余りある大きさの火の玉で、
 人の顔が浮かんでおります。
・火柱……特近列・火傷
・炎上……特遠単・怒り
・かぶりつき……物遠単・HP吸収

※ランク1……仮称、顔なし
 直径15センチ前後の火の玉で、こちらには顔はありません。
・火炎弾……特遠単・火傷
・体当たり……物遠単

なお、火傷系BSと下記特別ルールのHP減少のダメージは重複します。

●遺跡について
遺跡内部には侵入者避け用と思われる、
炎が噴き出す罠が壁に設置されています。
2、3ターンに一度壁から通路を塞ぐ炎が発する箇所があります。
対策なしにこれを食らうとダメージ(HP50減少)を負いますが、
術式で一時的に炎を止めることが可能です。

なお、この炎の罠は、
MIAと考古学者によって、西側通路のみ全解除済みです。
北、南側通路にもありますが、
機能していない場所があったり、
運良くタイミング的にすり抜けた場所があったりしており、
全ての場所は把握できていません。

●当シナリオ特別ルール
炎上エリア突入時は
1ターン(10秒)経過ごとにHPが10減少し、
戦闘以外でも回復することがありません。
今回は西側通路全域、
南側通路一部の炎が消えています。
また、今後の展開次第で
このルール適用除外エリアが広がる可能性があります。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/7
公開日
2017年07月09日

■メイン参加者 7人■


●炎の遺跡と2人の女性
 奈良県のとある工事現場跡の地下。
「おっ久々の探索だな! はりきって、いくぞ!」
 そんな『聖女の救済者』切裂 ジャック(CL2001403) の掛け声と共に、仮称炎の遺跡へと入ったF.i.V.E.の覚者達。すでに6度目の突入だが、それでも『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)の表情はこの上なく明るい。
「遺跡探索遺跡探索~♪」
 とはいえ、通路によっては炎が充満している遺跡内。なにより、妖が出る以上、気を緩める暇すらもない。
 それでも、こういった任務だと心躍らずにはいられない理央である。
「炎かあ、暑いのは苦手なんだがな……!」
「……相変わらず、暑い場所よね」
 ジャックに同意するのは、『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)。
 茶目っ気の強い彼女も、遺跡内の熱気に少々顔をしかめるが、滅入ってもいられないと気丈に耐える。これでも、突入口周辺は炎が消えただけ、以前に比べれば幾分もマシではあるのだが。
 だが、遺跡初突入メンバーには、そんなのは関係ない。
「解せねえ! 何のラスダンかよ! 殺しにきてるじゃねえか!!」
 そう叫ぶのは、フルフェイス姿の緒形 譟(CL2001610) 。共にやってきている元祖フルフェイス男、緒形 逝(CL2000156)の部下に当たる。
「クソ上司、熱いんですけど! 暑いじゃ無くて熱い!!」
 わめく譟がもう1人のフルフェイスを睨みつける。
 そんな部下の様子に、仲間達の視線を集める逝は悠然と構える。
「うん? 『クソ上司』って、呼ぶのくらいなら別に良いさね。個人の自由よ」
 これが上司の余裕という奴だろうか。もっとも、一見何を考えているのか分からない男であるが。
 それはそれとして、この遺跡常連メンバーは別の話題で盛り上がっている。
「MIAの2人は、全うに働いてるみたいだな」
 『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)が通路を歩きながら、最初出くわしたときはどうしたものかと思ったなどと、前回の依頼を思い返す。
 先程、地上で遺跡の探索状況について語ってくれていた女性2人組、水玉、荒石コンビが苗字の最初一文字ずつを取って、MIAと名乗っている。隔者かつ盗掘者として活動していたが、先日のF.i.V.E.の介入で改心し、遺跡調査に協力するに至っている。
「MIAの二人が充実してて良かった!」
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955) も嬉しそうに笑う。
 ああやって、覚者として持て余していた力が役立ち、なおかつ生活資金を得られるこの構図こそ、日本のあるべき姿なのではないか。
「そうなれば、きっとこの力で悲しむ人が少なくなるんじゃないかな……」
 ――これも、よりよい未来の布石になると信じて。
 もちろん、現実はそんなに甘くはないが。それでも、奏空はそんな想いを馳せながら、現場に挑む。
「あの二人に負けるわけにもいかないもの。頑張っていきましょうか」
 エメレンツィアも相槌を打ちつつ、仲間と共に北へと向かうのである。

●謎解き中にもかかわらず……
 遺跡通路を歩くメンバー達。いつ現れるとも分からぬ妖に供えて、皆、覚醒状態となっている。
 飛馬は外見での変化は見られぬが、例えば、ジャックは右目を開眼させていた。
 奏空は髪を金色に、瞳を桃色へと変化させており、エメレンツィアは長い髪を赤く、金の瞳で遺跡内を見回す。
 通路は事前の話通り、西側通路の炎のトラップはMIAらの手によって解除されていた。
「小部屋……北西、南西。……四条ちゃんや、北西と南西って何か無かったかね」
 両腕を戦闘機の主翼のように変化させた逝がぽつりぽつりと呟き、理央に問う。自称ソ連人の逝は、妖刀関連ならばともかく、方角に纏わる事柄は疎いとの事。
「辻にまつわる話なら猿のとかは知ってるけど……、関係無さそうかね」
 逝が言っているのは、京都御所の北東角、鬼門を守る神猿のことだろう。ただ、それが今回の遺跡の謎に繋がるかと言われると、関連性は薄いと、瞳を赤く変色させた理央は首を振る。
 火ばかりというこの遺跡。水や風であっても……と考える逝は、ふて腐れる部下に気づいて。
「フルフェイスに黒スーツとか地獄過ぎるぞ……平気なのはバケモンのクソ上司ぐらいだよ」
 公然と上司の悪口を言う部下、譟。彼もまた、両腕を戦闘機主翼のように変化させている。
 その部下へ、逝は何事もなく声をかけた。
「可愛くない部下も何か思い付いたら、お言いよ。過去の報告書ぐらいは読み込んで来てるだろう」
「んで、何も思い当たりませんよ! 何か良くない方角だって聞いた事ある程度だし!」
 すでに、炎の消えている西側通路。ただ、そんな譟の叫びに応じたわけではないだろうが、ふわりとどこからか現われた4体の火の玉が一行の行く手を遮った。
 敵の姿を確認した奏空は素早く動き出す。彼は瑠璃光を発して仲間の治癒力を高め、さらに、敵陣へと濃い霧を起こして妖を包み込む。
 現われた火の玉の妖どもはそれに包まれ、思うように力を出せぬ中でも特攻し、その身の炎を勢いよく燃え上がらせ、行使してくる。
「すまんな、通らせてもらうでな!」
 後方のジャックも攻撃に打って出る。燃え上がる炎3体が前面にいることを見て、彼は踵を地面を叩くようにして鳴らす。
 カッ、カッ、カツン!
 遺跡内に小さく響くその音。それは、死へのカウントダウン。その場に残されるは大鎌に引き裂かれた残骸のみ。
「今回のメイン回復役、任されました」
 理央は回復にと立ち回るが、さすがに初戦は皆、気力体力は十分。彼女は前面の妖達を巻き込むべく、発生させた水竜を火の玉らへと浴びせかけ、飲み込む。
「火剋水、五行思想の基本だね」
 幾度か浴びせれば、火の玉は鎮火し、ぽとり、ぽとりと地面に落ちていく。
「そっちじゃねー……来いよ、火の玉野郎! 俺が相手になってやる」
 最前線で身を張る飛馬が仲間の為に壁となる。
 彼は鉄壁の構えを取り、海のベールを纏い、祝詞を強く念じて自己強化した上で、太刀と脇差を手に仲間のガードに努める。
 とりわけ、飛馬が敵視していたのは、後方の顔が浮かぶ火の玉。コイツのランクは2、顔付きと呼称されることもある。
 そいつを叩く前に、まずは手前の顔なしの殲滅にあたっていく。
 「直刀・悪食」のおやつにと、逝は刃に呪いを纏わせて斬りつけ、さらに地を這う連撃を見舞って落としていった。
 その上司を含め、仲間の援護にと譟が動く。攻撃の補助に動くのもそうだが、定期的に自身の気力充填の望む上司に、彼は辟易としながらも従っていたようだ。
 そうこうしているうちに、気づけば敵は顔付き1体のみ。
「あまり、時間をかけていられる場所ではないのよね」
 エメレンツィアが告げる。慎重に進みたい状況ではあるが、自分達がこれから入っていくのは燃え上がる炎の中。立っているだけで体力がなくなる場所なのだ。
「見知った敵は見敵必殺。時間をかけず一気にいくわよ!」
 英霊の力を引き出して力を高めた彼女は、生成した水竜へと完全に顔付きを飲み込ませてしまったのだった。

●炎に包まれて
 西側通路の北は左奥と右に曲がる道に分岐しており、この先は炎エリアとなる。メンバーは右に曲がり、北側通路を歩くことになる。
 じりじりと、周囲の炎が覚者達の肌を焦がす。
「いやあ、なんというか、猛暑の8月よりもひどいありさまやな」
 そこに入り、ジャックは流す汗すらもあっさり乾くほどの暑さ、いや、熱さにやや顔をしかめる。水分補給しようにも、補給しようとする水すらも蒸発したり、お湯になったりしてしまうのだ。
「頑張れ、皆。きっとここが終われば、真夏なんて怖くない」
 ジャックは仲間達へとそう声をかけ、癒しの霧を発して仲間の体力を持たせるようにと気がけていた。
 覚者達は熱さを感じながらも、全力移動を行う。
 急ぎたいのは、炎によるダメージを極力減らしたい為。されど、彼らの行く手を両壁より展開された炎が阻む。
 ただ、メンバー達は急ぎながらも慎重に進んでいた。それを飛馬、逝、譟が危険予知で探っており、2度ほど先駆けて発見する。
「おっさん気力は然程無いからね」
 逝は部下にそのトラップを任せて最小の動きでさらりとそれをかわし、通路の先へと向かう。
「どうでも良いけど、働けクソ上司! 出来るのに遣らないクソ上司なんだから!!」
 悪態をつきながら、譟は上司の真似をして炎の罠を抜ける。ただ、上司とは違い、軍用シャベルを使ってトラップの一時解除を試みていたようだ。
 さらに、後続の飛馬が床を槍のように隆起させ、炎の壁が消えたタイミングで他メンバーも進むこととなる。
 2度目のトラップは理央、エメレンツィアが水礫を発し、一時的に壁を霧散させていた。
 その際、奏空はエネミースキャンを試みてみるが……。トラップはトラップ。その解析には繋がらない。それでも、奏空はさらりと割り切り、トラップに傷をつけて目印とすることで、次に通行する際わかるようにしていた。
「しっかし、見たところ今までと同じような対処の仕方してる感じなのに、火が消えないとこがあるのは何でだろうな」
 飛馬がそこで考える。現状、火が消える為の鍵となっている敵を倒していないのではないかと。
「火は必ず火種がある。燃え続けるには燃料がいる。必ず何かが居たり、あったりするのはわかっているんだが……」
 ジャックもこうした一手が敵の挑発につながり、向こうから出てきてくれないだろうかと呟く。
「やっぱり、大元になってる妖がいるのかな。いるなら、確実にそいつがここの主だよね……」
 奏空も、飛馬やジャックに同意する。妖の存在がこの遺跡の炎と関連している可能性は大きそうだ。
 そして、メンバー達は北側通路を半分ほど進んだところで、左に折れる道を発見する。
「こちらを見てみたいね」
 それも、考古学を専攻する理央の勘だろうか。それにメンバーは従う形で、左の道を進む。

 その直後、妖の群れと一度交戦、撃退した一行。
 息つきながら、エメレンツィアがそういえばと口を開く。
「考古学者たちが使うという器具……。聞いた話だけだと、英雨建設で使っていた者と同じ、よね」
 エメレンツィアが言うのは、学者達がMIAの2人と探索を行った際、背中につけていたという半球状の器具のこと。
「あれにも黒霧が関わっていたし……。やはり、ユズルはこの遺跡に何か見出しているのかしら?」
「あとで、MIAや研究者本人らに、どこで入手したのか聞いてみたいな……っ」
 エメレンツィアの懸念に、奏空も何か思うことがあって言葉を発していたところで、何かの気配を感じて。
「何かいますね……」
 譟は前方から何かプレッシャーのような感覚を感じる。
 他のメンバー達も前方を見つめて。エメレンツィアは超視力で前方を見ようとしていた。
「2つの鏡があった理由が、この奥にあるかもしれないものね」
 その鏡の話が逝は引っかかっている。根拠はないが、何かが……。
「大亀遺跡ってところと似てるって話だけど……。そうなると、ここにもやばいやつが封印されてる可能性もあるんだよな」
「んー、古妖はいないようだけどな」
 飛馬の言葉に、ジャックは同族把握をした結果を仲間に伝える
 だからといって、前方のそれが安全とはいえぬ状況ではあるのだが……、ふわりと現われた火の玉の集団がめざとく覚者達を捉え、襲い掛かってきたのだった。

●邪魔する火の玉の集団
 火の玉の妖は、1度目と同様に顔付き1体と顔なし3体。
 3戦目ともなれば、覚者達の疲労は大きい。
 それでも、飛馬は火の玉の前に立ち、仲間の盾として全力で防御体制を取る。
 特に、顔付きは面倒で、広範囲に立ち上る火柱もさることながら、顔面を発火させてこちらの理性を奪う炎上が厄介だ。顔面を炎上させると、時にスキルが使えぬ場合もある。
 今回は率先して顔付きが前面から襲い来ることもあり、奏空が発生させた雷雲から敵に纏めて雷を叩き落とす。燃えている相手だろうと関係なく、その体に痺れを走らせていく。
「周囲の壁などは傷つけないように攻撃しないとな。崩壊したら嫌やし……」
 若干だが、通路幅は先程よりも狭い。ジャックは遺跡の崩壊も懸念しつつ、踵を床で鳴らしていた。
 前線のメンバーが上手く敵の攻撃を引きつける間、譟は火傷を負う仲間に浄化をもたらす。
 さらに、彼は相変わらず上司を気がけながら、折を見て敵へと絡みつく霧を放っていた。
 譟は回復も考えるが、そこは理央がほぼほぼカバーを行う形だ。
 飛馬が突出して負傷するのが多い状況となっており、理央は潤しの滴を振り撒いて癒しに立ち回る。
 そして、3戦目ともあり、徐々に減る気力の充填の為にと、理央は自身のオリジナルスキル、填気水を使ってのサポートも忘れない。
 理央の支援は、前線メンバーが攻撃に集中できる状況を作ることにも繋がって。
 岩を纏って敵の攻撃に備える逝はわらわらと群がる顔なしを「直刀・悪食」で薙ぎ払い、無力化していく。念の為にと回復手段もありはしたが、それを使う必要はなさそうだ。
 エメレンツィアはまれに回復のサポートを行ってはいたが、彼女も基本的に攻勢メイン。放つ水の竜がまたも火の玉を飲み込んでいく。
 気づけば、またも顔付きが1体残るのみ。
 飛馬はうまく仲間をガードしていたが、最後まで気を抜かずに仲間が妖を殲滅させるのを身構えて待ち続ける。
 その横から飛び出す奏空。彼が雷を落とした妖へ、ジャックは水礫を発射し、浴びせかけた。
 苦しそうにもがく顔付きだったが、程なく顔が消え、顔なしと同様に地面へと落下し、燃え尽きてしまったのだった。

●遺跡の奥から、地上へ……
 一戦終えたメンバー達は前方に視線をやる。
 炎に包まれて奥はよく見えないが、奥に大部屋があるのは間違いない。
 これ以上なく、燃え上がる炎に威圧される覚者達。この先に何かいると覚者達は確信する。
「撤退すべき、だね」
「そうね、対策を練らないと……」
 奏空に同意し、無理は禁物とエメレンツィアは仲間達へと引き返すことを提案する。
「余裕があるうちに帰還すべきだね」
 理央も異論はないようだ。一定の成果を挙げ、かつ余裕のあるうちに帰還を。ギリギリまで探索した結果、取得物を取りこぼしたり、帰還が困難になる事態は避けたいからだ。
 そこから背を向けて突入口へと引き返す覚者達。空耳かもしれないが、一行は何かの笑い声を聞いたような気がした。

 地上に出て、一行は涼しい空気を肺に取り込む。
「……正直、早く帰ってシャワーを浴びたいところだわ」
 しかしながら、エメレンツィアは汗だくの体に不快感を覚えていたようだ。
「一応、水玉さんと荒石さんにも伝えて、情報共有しないとね」
 もう疲れて眠っているかもしれないが、ジャックは考古学者達に話し、MIAの2人に連絡する。
「あっ、俺にも話させて!」
 奏空が学者達から携帯電話を借り、話をする。考古学者達のつけた器具について、出来る限り話を聞いていたようだ。
 とはいえ、汗をびっしょりと流す一行もまた心地よい疲労感を覚えており、器具の情報収集は程ほどにして、F.i.V.E.本部へと帰投していくのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

リプレイ、公開です。
ついに、遺跡内の炎の原因がわかりそうです。

参加された方々、
本当にありがとうございました!




 
ここはミラーサイトです