【金剛無双】七星杯開催
【金剛無双】七星杯開催



「これより……七星剣『金剛』の名において七星杯第3ブロックの一次予選を始める」
 この日、街は不穏な空気に侵されていた。
 檀上には七星剣幹部金剛一派。そして、腕に覚えのある荒くれ者達が広場に集まっているのだ。鬼気迫る殺気が充満し、拡散しているようであった。
「ここに揃ったのは、己が武に生きる兵共。今日はその力を存分に発揮し、証明せよ。我こそが最強であると!」
 道着をまとった金剛一派が声を張り上げる。
 彼らこそが、在野の腕自慢達を集めた張本人だった。ここだけではない。各所で同じように呼びかけが行われ、大勢の者達がそれに呼応した。

 七星剣幹部金剛。
 裏で畏れられるその名を持って、武術大会が開かれるとの報せが轟いたのだ。

「本当に勝ち残れば、莫大な優勝賞金にありつけるんだろうな?」
「無論。望むなら七星剣での高待遇も約束しよう」
 参加者の一人からの質問に、金剛一派は即答する。
 すると参加者達は意気をあげた。元よりここで名を上げんとしようとする輩達。自分の強さを誇示するには格好の舞台といえた。
「今回のルールは単純だ。これから三日間、諸君にはこの街で命掛けで殺し合ってもらう」
 金剛配下の者が、平然と述べる。
 一つ。三日間、この街から出ることを禁じる。
 二つ。三日の間に、多くの参加者を倒した上位者がこの予選を勝ち抜ける。
 三つ。金剛一派の者が参加者達を陰から見張っており、倒した数を不正するのは不可能。
「相手をどう倒すかは自由だ。徒党を組む、騙し討ち、武器の使用、何でもありだ」
 何でもあり。
 それは街の人間がどうなっても構わない、ということをも指し示していた。
 強さこそが正義。
 それこそが、金剛一派の絶対。
「我々は強者を求めている。弱者にはこの世界で生きる資格すらない。掴みたいものがあるならば、己が手で奪い取れ!!」


「フハハッハハハ! 逃げても無駄だぜ!!」
 大会に参加した男。
 十文字リョウの爆炎が光る。同じ大会参加者が、周りの通行人もろとも炎に覆われ。あらゆるものが消し炭となる。悲鳴が飛び交い、街は混乱に包まれた。
「あー、さっぱりくっきりー。燃えるごみ共の処理にまた貢献しちまったぜ」
 爆炎の中心に立ち。
 リョウは獣じみた獰猛な笑みを浮かべる。
「フハハハハ! この大会の優勝は俺様がもらうぜ!!」
 また激しい炎があがり、火の手が無差別に人を家屋を襲う。
 この男は指名手配されている隔者であり、大量殺人を何とも思わぬ殺人鬼であった……そして、そんな彼をどこからか監視する者達がいる。

「ふむ、なかなか生きの良いのがいるようだのう」
「十文字リョウ、このブロックではただいまトップです」
 七星剣幹部金剛は、部下からの報告に軽く頷いた。
 外見上は小柄な老婆といった容姿の金剛。面倒なことは全て他に任せて、熱いお茶をすすり大量の団子を美味そうに頬張る。その姿はどう見ても、七星剣最強の一角と謳われた人物とは思えない。
「さて、ここは何名生き残るかな」
 今の所、大会は順調に進んでいる。
 ただそれもそれでつまらない、と金剛は思う。
「金剛師、子飼いとなった隔者連合の働きもあって参加者が各地で続々と集まっています」
「その反動で、被害が想定より大きくなっており」
「これ以上騒ぎになると、他勢力に気取られる恐れもありますが……」
 部下の言葉にも、金剛は動じることもなく。
 逆に望むところと言わんばかりにお茶を飲みほした。
「それは善哉じゃ。それで気骨のある大魚が釣れるようなら是非もなし……まあ、のんびり高みの見物をしゃれこむとしようか」


「七星剣幹部金剛が、七星杯と称した武術大会を大々的に開催しているらしい」
 中 恭介(nCL2000002)が覚者達に状況を説明する。
 大会に参加するのは、腕自慢の荒くれ者達。全国各地で人が集まり、今は予選が開かれているという情報がファイヴにも飛び込んできた。
「その中でこれから予選が始まる場所の一つが夢見によって突きとめられた。舞台となる街に一定期間潜み、参加者同士が戦い合うルールのようだ」
 このままでは街が戦場となり。
 一般人にも多くの犠牲者が出てしまいかねない。すこしでも被害を少なくするために、参加者達を撃退していってほしいというのが今回の任務だった。
「大会の参加者達も厄介だが、街では審判役として金剛一派の者達も動いているようだ。十二分に気をつけて欲しい」
 以前、ファイヴは金剛率いる一派と戦闘を経験しているが。
 そのときは、金剛の力の前に撤退を余儀なくされている。正面から戦うのは危険な相手だ。幸いにもと言うべきなのか、今回はこちらから手を出さない限りは審判役である金剛一派は不干渉を貫く姿勢をとるだろうというのが夢見の意見だった。
「今回は参加者を止めるのが第一だ。金剛一派の動きも気になるが、無理をすれば前回の二の舞にもなりかねない。皆、よろしく頼む」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:睦月師走
■成功条件
1.最低30人参加者を撃退する
2.十文字リョウの撃退
3.上記1、2を三日の間に完了する
 今回は七星剣『金剛』に関連するシナリオになります。

●このシナリオの特徴
 金剛主催の七星杯という大会が開催されています。
 今回赴くのはその予選会場の一つです。ルールは三日間、参加者を多く狩った上位者が予選を通過します。戦う方法は各々自由。
 ファイヴの覚者達は、一日目の昼過ぎに会場に到着します。
 捜索方法と戦闘方法が重要となるシナリオです。

●現場
 とある内陸の街全体が大会の会場となります。
 参加者は、三日の間この街から出ることはできないルールとなります。街の一般市民にどんな被害がでても構わないという態なので、このままでは多くの巻き添えが生じます。

●大会参加者
 主には腕自慢のアウトロー達が集って参加しています。
 覚者もいれば、非覚者もいます。それぞれが街に潜んで、他の参加者を狩ろうとしています。単身で挑む者もいれば、チームを組んでいる者などさまざまです。今回向かう会場にいる参加者は総勢で80人ほどです。

●十文字リョウ
 指名手配された大量殺人鬼。
 暦の因子:火行の使い手。
 今会場の参加者の中でも要注意人物であり、参加者も一般人も関係なく燃やし尽くそうとします。放っておくと特に街に被害が広がるため、撃退しておくべき隔者です。彼とどう戦うかが、ポイントの一つです。

●金剛一派
 此度の大会主催者です。
 各会場を見張っており、審判役を務めています。今回は、こちらから仕掛けない限りは不干渉です。もし、彼らと戦闘となった場合はシナリオの難易度が上がります。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2017年07月16日

■メイン参加者 10人■

『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『白焔凶刃』
諏訪 刀嗣(CL2000002)
『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)
『雷麒麟』
天明 両慈(CL2000603)
『ストレートダッシュ』
斎 義弘(CL2001487)
『ボーパルホワイトバニー』
飛騨・直斗(CL2001570)


「莫大な優勝賞金が、貰える……?! それ! 乗った! お金は裏切らないから、好きよ」
 『獣の一矢』鳴神 零(CL2000669)が、叫びつつ大太刀を振るう。
 目的の街に着いて早々、覚者達は大会の参加者と思わしき連中に遭遇していた。
「七星杯の賞金は、俺のものだ!」
「いや、俺のものだ!」
「七星剣金剛の大会、ここで名を上げる!」
 参加者の荒くれ者達が、意気込み競い合うように向かってくる。
 それらを『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)は前衛でブロックした。
「金剛ってーと双天だの喧嘩祭だのの上か。アイツらの上なら楽しい殺し合いができそうじゃねえか。先にやりあった奴らがいるみてぇだが、羨ましい限りだぜ」
 七星剣幹部たる金剛。
 最強の一角たる者が主催する大会。それだけに参加者の戦意は高い。
「ふーん、七星剣の幹部が開く武術大会か」
 『静かに見つめる眼』東雲 梛(CL2001410)が銀製の棍を回す。
 敵の戦意を躱すように、その勢いをいなした。
「七星杯ですか……。こういうことをされると、犠牲者が出るのはもちろんですけれど……。覚者の印象が、悪くなりそうですね……」
「確かに、それはあるかもです」
 伊達眼鏡とおさげと変装しているのは上月・里桜(CL2001274)。『ほむほむ』阿久津 ほのか(CL2001276)も念の為に帽子と眼鏡を身に着けていた。岩砕を発動させて、粉砕された岩が参加者へと降り注ぐ。一刻でも早く、この事態を収拾せんとしての一撃。続いて無頼漢で敵へとプレッシャーをかける。
(何でもありの三日間の殺し合い、か。こんなふざけた催しに、これだけの人間が踊らされるとは嘆かわしいものだな……。ふざけてはいるが決して放っておける問題では無い、面倒だが、処理せねばな)
(ひどいものだな。ルール無用の殺し合い。街の一般人が被害を受けてもお構いなしだ。以前、金剛に仲間ごと吹き飛ばされた事もあるが……こんな事は許しておけない。自由にさせてたまるか。全身全霊でもって事に当たろう)
 数が多い敵を相手するのは『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)の得意分野だ。オリジナルの術式である一式・迅で畳み掛ける。雷の力を自在に操り龍の形を形成し、雷龍の口から繰り出される無数の光線が大地に降り注ぐ。『ストレートダッシュ』斎 義弘(CL2001487)は、そんな後衛陣をガードするためにシールドを構えていた。
「いやあ時間無いねえ、実質2日と半日で殺らにゃならん。悪食や、ご飯がいっぱいだ早喰いになるね。しかし乱闘も有り得るから警戒は怠れんぞう。無駄に喧嘩売るのも止めておくれ、消耗は最低限にね」
 緒形 逝(CL2000156)は、地烈で喰い散らかす。
 ただし、まだ初戦だ。あと何度戦うのか分からない。これからのことを考えて、燃費良くいかねばならない。
「奪うだけの獣には、経済の概念はないのでしょうね……」
 『美獣を狩る者』シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)は思う。
 結局、ほぼ国内勢力に限った話になるのは、脅威と見なして干渉する外敵がいないから。奪い合うばかりで国力を磨耗しきった国など、見向きもされないというのに。地を這うような軌跡から一転、跳ね上がるような連撃が冴えわたる。
(バトルロワイアルねぇ……ギャハハハ! クソ隔者共が考える事にしては面白いじゃねぇーか!
だけどよォ……それを一般の街でやるなんて精神が狂ってやがる……そんな害悪許せるわけねーだろ?)
 『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)の殺意は高めだ。追い打ちで殺す事はしないが自身の攻撃では殺す気で攻撃する。上空に卵状の隕石を大量召喚、対象全体を攻撃する。ハンプティ・ダンプティには気を付けないといけない。
 ……当たれば本当に死にかねない。


「いきなり襲われるなんて、運が良いのかな。それとも悪いのかな」
 初戦を無事になんとか終え。
 埃を叩きつつ、ほのかは不意打ちを警戒して第六感を働かす。
「まずは十文字を探さないと。彼のことだから爆音あげて戦闘してそうね」
「だな」
「初日の昼だから既に被害は出てるやも知れんね。まあ良い……猟犬で燃える臭いを探そう。何方かと言えば性質は放火魔に近い気がするなあ」
 零は探知スキルは無いので一応危険予知使いつつ狐のお面で顔を隠す。
 刀嗣と逝は猟犬で火の匂いを嗅いだ。あちこちから燃え焦げる不快な匂いが漂う。
「十文字は火遊びが好きらしいので奴の起こす火の手を探せば見つける事は難しくないだろうが……可能な限り、犠牲者を出す前に見つけたいものだな」
 両慈の手には事前に申請しておいたターゲットの資料が握られている。
 コイツを放っておけば被害は拡大する、初日のうちに捜して撃破するつもりだった。鷹の目が高く上がる火柱をとらえ、そちらの方へと急ぐ。
(十文字は火の因子持ちらしいから、火というのにも気を付けよう)
 時折見かけるのは無惨な姿になった通りや街路樹。
 梛は木の心で植物の記憶をみる。浮かび上がるのは凶悪な形相をした十文字の顔だ。覚者達は、確実に目的の隔者へと近付いていく。
「この先は……駅前ですね」
 里桜は街の広さや地理、人口、街中の移動手段等を調査してあった。
 土の心の効果もあって道に迷う事はない。最短で急行する。
「武装の金属音と……統率された集団の足音が聞こえます」
 シャーロットの鋭聴力がとらえた先。
 辿り着いた駅前の開けた場所は、火の海に包まれていた。炎の渦が大きく巻きに巻き、火の手は次々に広がっていく。
「やられた……十文字の野郎……!!」
「あいつはどこだ!? あの放火クレイジーは!」
「どこにもいねえ! 探せ探せ!!」
 ボロボロになって倒れた者もいれば。
 逃げ惑う者もおり。
 あるいは、徒党を組んでこの惨状を引き起こした張本人を探す者達もいる。
「遅かったか……このまま放っておくわけにもいかないが」
 火の勢いに義弘の顔が照らされる。
 十文字リョウの姿は既にない。ただ火種を残して、そこに他の参加者が集まり。無差別な乱闘の様相を呈している光景は、現実の地獄絵図だった。
「何だ、テメエらは!」
「テメェ等の悪事を止めに来た!」
 覚者達もこの騒動と無関係ではいられない。
 直斗が正義の味方風に宣伝するかのように言い放つ。日本刀が先制し、妖刀ノ楔が暴れる無法者達に轟いた。
「当初の目的とは違いますが――」
「参加者は発見次第、随時戦闘ですね」
 シャーロットの飛燕が、優雅ともいえる仕草で弾け舞う。
 里桜は守護使役でていさつしつつ、迷霧で援護する。粘りつくような高密度な霧が広範囲に広がった。
「雑魚に用はねぇんだよ。とっとと死にやがれ」
「っ」
 刀嗣が貫殺撃で貫通攻撃を行う。
 狙いを定めた一撃で、まとめて相手をぶち抜きにかかる。
「さすがに、名声でバレたりせんよな。まあ目立つ事はしてないし……」
 逝は手近な相手を圧投で投げ飛ばした。
 特殊な力の加え方によって、大の男が高く高く宙を飛ぶ。誰がどう見ても、十二分な負荷がかかったことが分かる構図だ。
「なんかサバイバルだね、これ」
 皆が生き残るために入れ乱れ戦う。
 梛はその中を縫うように、木行の技を見舞った。次々に種を飛ばしては、対象へと付着させる。これも勝ち上がるための手順だ。
「うう……火が。助け……」
「大丈夫ですか、今助けますから」
 ほのかは、水行の技を応用して炎の消火にあたる。
 併せて巻き込まれた人達がいれば、救出を行った。そんな彼女に近付こうとする暴漢もいたが、それは両慈が露払いをする。
「助かります、両慈さん」
「無理をするな」
「こんな状況、俺達でぶち壊してやろうじゃないか!」
 義弘が炎柱を複数の敵へと放り投げる。地面より燃え盛る複数の大柱が荒れ狂った。
 参加者達が一人、また一人。覚者達によって無力化されていく。零は敵陣にガンガン乗り込んで、道を文字通り切り開いた。
「この街に居る諸君! 無駄な命のやり取りするなら、この私がその前に頭ガツンてするからね! こんな場所、死に場所にすんじゃないわよ」
 

「適当な建物が見つかってよかったな」
 火の暮れた夜半。
 刀嗣は鋭聴力を研ぎ澄ませて見張りに立つ。打ち捨てられた廃屋に入って、覚者達は休憩をとることにしていた。
「はい、食料と飲み物です」
「缶詰だけど非常食はたっぷり持ってきたぜ」
「どうも、ありがとうね」
「動くにはエネルギーが必要不可欠だから」
 ほのかは暗視で視界をクリアにしておき、バッグから物資を出して配った。直斗は缶詰を開けて食事の準備をし、ペットボトルの水を零は受け取った。梛も無人のスーパーで調達してきたものを提供する。ちなみにその店内には逃げ出したのか人がおらず、金だけ置いていったものだ。
 今日だけでも戦闘を繰り返したのだ。誰しもが消耗している。
「おっさんの見張りの番は終わったし、休める時は休むわよ」
「さっさと休め」
 逝は横になって、 両慈は味方のコンディションに気を配って必要ならば回復の術を施していた。そんな時でもいつ敵襲があるかは分からない。覚者達はバランスを重視しマイナスの少ない交代制を敷いていた。
 シャーロットに言わせるならば。
「面倒に思われる方も多いと思いますが、このような状況では功利的であるべきです」
 とのことになる。
「今日は、結局十文字リョウには会えませんでしたね」
 里桜は懐中電灯で非常食を照らして呟く。
 一日目は他の参加者の相手をするだけで手一杯で日が沈んでしまったのだ。明日こそは……そう皆が決意を新たにして幾許か。異変が起こる。
「皆、起きろ。妙な気配がする」
 ちょうど見張りだった義弘の超直観に人影のようなものが横切る。
 暗視すると大会の参加者達が、同じく安心出来る宿を求めて建物内に入ってきているのが見えた……まだまだ夜終わりそうにない。覚者達はそっと戦闘準備を行った。


「夜もあまり眠れませんでしたね」
「大丈夫? 結構、過酷だからこれ」
 二日目。
 ほのかは眠そうに目をこすり、梛が主に女性陣を気遣う。夜中も参加者達とやり合うこと数度。ようやく眠れたと思ったら、またという具合であった。まあ、それは敵も同じなのだろうが。チーム全員で固まって動けばどうしても目立つ。
「今日は昨日と打って変わって、あまり匂いがしないな」
「聞き込みをしても、芳しくない」
 逝と義弘が首を傾げる。
 一日目はあれだけ騒がしかったというのに、この二日目は全体的に静かなものだった。スキル等を使ってみても上手く足取りをたどることができない。
 だが、逆に釣れたものもあった。
 覚者達は角を曲がると、すかさず反転。背後からの火球をすんでの所で全員が回避する。
「へえ! 後ろから燃やしてやろうかと思ったが、気付かれていたか!!」
「尾行は、全部丸聞こえだったぜ」
 不意打ちをしてきた隔者。
 誰であろう十文字リョウが佇む。刀嗣が鋭聴力でいち早く気付き、ほのかの第六感などもしっかり反応していたのだ。故に皆で一芝居打った。
「櫻火真陰流、諏訪刀嗣様だ。遊んでやるよ」
「てめえらが、俺様を嗅ぎまわっていた連中だな。こちらから出向いてやったぜ、感謝しな!」
 刀嗣と十文字が息つく暇もなくぶつかり合う。
 どうやら一日目の探索の結果、お互いに相手の情報を得て気に留めていたようだった。そして、今ここに邂逅した。高速の斬撃と、激しい炎が乱舞して余波が舗装された道を大きく抉る。
「大量殺人鬼なんだって……それは結構。ゴミは駆逐すべし。自分が殺されても文句はねェよな?」
「あん!?」
「さぁて、ゴミ掃除の時間だ!」
 指名手配犯相手に、派手に啖呵をきり。
 直斗は仇華浸香で心身ともにダメージを与え、身体能力を弱めにかかる。
(強さしか見ていない方々には、一蹴した小石など記憶にないでしょう)
 シャーロットも鋭く敵と斬り結ぶ。
 目にも止まらぬ二連撃が瞬く間に生まれては消え。また、消えては生まれる。
「さあ、来な! 燃えるゴミ共が!!」
「好き勝手伸び伸び戦闘しているのは楽しそうだけれど。殺してしまうのは趣味じゃないわ」
 零は炎の中心へと恐れず飛び込み、速度を力に変換する。
 圧倒的なスピードを相手に叩き込んで、とめどない流血を強いた。かわりにこちらは相当な火傷を負う。静かだった二日目は、十文字と覚者達の激突によって即刻大騒ぎへと発展していた。
「なんだか、釣られて人が――」
「集まって来たな」
 里桜と両慈は、まず錬覇法を使って力を引き出していたのだが。
 他の参加者はおろか、何事かと一般人まで引き付けられてしまったようだった。
(まずやるべきは、十文字リョウの撃破だ。奴は金剛に監視されている。それを倒せばこちらが注目される可能性があるが、それでも、やらねば。このままでは無関係な一般人にも、参加した隔者にも被害が大きすぎる)
 何としても早期に撃破するぞと。
 義弘は天駆を使って警戒を強める。事実として、十文字の炎は他のどの参加者よりも強力だった。
「十文字さん、さすがに強いですね。でも――」
 ほのかは敵の懐に潜り込み、無頼を撃ち込む。
 強烈なプレッシャーを発し減速効果を生み出す。結果、敵の動きは鈍化を余儀なくされる。
(こっちでも痺れを与えて動きを鈍くさせないと)
 梛が棘散舞を中心に攻撃。
 思惑通りに順調に相手に不利な効果を与えて、こちら側に優位な状況を作り出す。
「固めてから、攻撃するさね」
 逝は岩を鎧のように纏い、防御力を強化した後。
 呪いを帯びた武具で相手の身体を縛りあげる。呪いの効果が出るまで何度でも続けた。
「テメェの火も戦い方もぬるすぎる。そんな程度じゃあ楽しめねぇんだよ」
「ああん!? 言ってくれんじゃねーか!!」
 刀嗣がとっとと死ねと念を込めた一撃を閃かせれば。
 相手も対抗して炎の出力を上げくる。ただし、その動作は仲間のつけた傷によって差が生まれていた。
「やらせてもらうぜ」
 直斗は妖刀ノ楔と雷獣で首を狙う。
 雷雲を発生させて落雷を招き、刃で敵の炎を斬り伏せた。
「戦闘好きなコが集まって来ちゃったか」
「怪我はないか?」
「うん……でも、他が面倒なことになっているかも」
 零は周囲を見回して、いつの間にか周りが人波に溢れているのに気づく。
 それはそのまま、自分達が背後から刺される可能性が上がっていることに繋がる。一瞬の判断の末、後衛に付近に回ることにして他の参加者達の相手をした。両慈はそんな仲間へと補給のフォローを行う。
「巻き込まれた一般の方もいますね」
 里桜は仲間と一般人へと、潤しの雨を展開する。
 回復効果のある癒しの雨が降り注ぎ、シャーロットはそれを受けつつ人混みで混乱する戦線を注意深く眺めた。
「この状況なら――すいませんが、一旦離脱します」
 そう言い残し。
 皆から離れて、本当に姿を消す。
「さあ、気合入れていこう! こんな状況、ぶち壊してやろう!」
 多勢が入り乱れる険しい攻防。
 義弘は射線を通さぬように、大地に根を張ったように踏ん張る。徒党を組むのも自由、ならばこちらは存分にそれを利用する。守られた陰から、梛が破眼光を射ち放った。
「無事、命中だね」
「ちっ」
「逃がしませんよ」
「同じく」
 直撃を受けた十文字が舌打ちして、壁を盾にするように下がる。
 そこへ、ほのかが鉄甲掌・還を叩きつけた。貫通した衝撃が、隔者へと突き刺さる。逝は逝で間髪入れずに投げ技を仕掛けた。
「このっ、貴様ら!!」
「血塗れにしてやるよ」
 負傷を抱えた十文字は、明らかに冷静さを欠いていた。
 刀嗣は回復する暇を与えることなく、次々と重い一撃をぶち当てる。覚者達の攻撃により、文字通り敵の身体は血でコーティングされていた。
 そして、決定的な一撃が生まれる。
「盲目の剣士、ザ・トーイチといいましたか……音という情報の活かし方……参考になります」
「!」
 しのびあしを使った無音状態。
 鋭聴力を頼りにして『見ないで狙う』形で、人混みと遮蔽物に紛れたシャーロットは電撃的な奇襲を行ったのだった。深々と切っ先が十文字の身体を貫通する。
「さあ、首狩りの時間だ」
 直斗の白刃が。
 颯爽と獲物へと迫り――後は残党を各個撃破していき勝敗は決した。


 三日目はほぼ事後処理といった感じであった。
 スキルを使って、他の参加者を追い。まばらに狩っていく。それでも充分に目標数には達する。
「あとで十文字は回収しておこう、逮捕逮捕、懸賞金懸賞金★」
 零は終始うきうき気分だった。
 問題の隔者は何とか一命をとりとめ、今は拘束して適当な場所に突っ込んである。ただし、金には興味のない者もいた。
(金なんざどうでもいい。俺様の望みは金剛とのタイマンだ)
 世界最強の剣士になる俺様だ。
 強ぇやつとやりあえるチャンスは逃さねえ。
 別に今やったって構わねえんだが、邪魔は少ねえ方が楽しめるだろ?
 そうは思わねぇかバーサン。
 ……刀嗣はどこかで見ているであろうと金剛一派へととびきりの殺気を送る。
「金剛さんよォ……次はテメェ等の番だ。首洗ってまっとけよ!」
 直斗が声高に叫ぶ。
 それはこの予選が終わる合図でもあった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 今回の結果は十文字リョウは撃退。大会参加者も34人倒すという事にあいなりました。金剛一派も皆さんの活躍や行動はしっかりと把握していましたので。
 それでは、ご参加ありがとうございました。




 
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