Faith Justice Anger(Ⅲ)
【憤怒の祈り】Faith Justice Anger(Ⅲ)


●CASE1――JUSTICE
 最初に覚者を殺したのは、十年前。そいつは力を使って放火を行う奴だった。
 どうにか追い詰めて倒したら命乞いを始めてな。あまりにも憐れだったから見逃してやったんだ。自首して来いってAAAの支部の前まで送ったのさ。俺も叩けば埃が出る身だ。それ以上は送れなかった。
 そしてAAAの支部内で大火災が起きた。そいつは反省なんかまったくしてなかった。AAA職員全員が戦闘に長けてるわけじゃない。パニック状態だ。怒りもあったんだろうな。パニックに紛れるようにそいつの脳天に弾丸を叩き込んだよ。
 命乞いなど信用できない。覚者は武器も持たずに戦闘ができる。無力化するには殺すしかない。それを痛感したよ。
 そこからは加速的だ。どれだけ殺したかなんて覚えていない。会話をする前に殺したことだってある。
 ……いや、分かっている。もしかしたら今まで殺した奴らも、本当は反省していたかもしれない。しっかり対話すれば、もしかしたらわかりあえたかもしれない。
 でもなあ、俺はあの大火事が忘れられないんだ。あの時殺しておけば、AAAの人達は無事だったかもしれない。
 かもしれないばかりだな。ただこれだけは言えるよ。俺は人殺しで、あんたら覚者の敵だ。後悔はあるけど、引き金を引くのに躊躇はないぜ。

●CASE2――ANGER
 復讐に生きた五年間でした。
 その覚者は私の兄を殺しました。植物の毒により、悲鳴を上げながら兄は亡くなりました。その時、私の心に穴が開いたのです。
 その穴を埋めるようにエグゾルツィーズムに入りました。あの覚者を殺せば、この穴は埋まる。そこから聞こえる兄の悲鳴は消える。そう信じて戦闘訓練を積み『実践』を繰り返す。
 イレブンのネットワークは広く、その覚者の特定は三年で完了しました。そこから用意周到に計画を進め、そしてようやく復讐を果たしました。これで終わりとその時は胸をなでおろしました。
 ああ、なのに。
 私の中にある穴は、消えてくれません。兄の悲鳴は収まりません。
 だから殺しました。覚者を殺した時だけ、穴の存在を忘れることが出来ます。兄の悲鳴は耳から離れます。
 ふふ、大丈夫です。貴方達は殺しません。貴方達は『いい人』なのはわかっています。
 でも、このまま覚者を殺していけばいずれ貴方達のような『いい人』も殺すのでしょう。そうしないと『穴』が埋まらないのですから。

●CASE3――FAITH
 覚者も非覚者も救う。
 ワタシが最初に掲げた理想はそれだ。力の差など肉体差。理性ある人間同士、話し合えばわかりあえる。そう信じていた。ロシアから日本に渡航し、神の愛を説いた。
 だが、結果は無残なものだった。力に溺れる覚者。それを襲う非覚者。力による対立は避けられなかった。ワタシもいつしか十字架を握る手は、武器を握っていた。
 ならば――できるだけ多くを救おう。覚者と非覚者。数が多い非覚者を救おう。
 イレブンに籍を置いたのは、その潤沢な財源とネットワークゆえだ。目的を果たすために利用し、またイレブンもそれを知りながらワタシを利用した。
 イレブンは覚者殲滅を目的とし、ワタシは人を救うという目的で覚者を殺す。その差異こそあれど、歯車はぴったりとはまっているよ。
 だが――本当にすべてを救う組織があるのなら?

●憤怒者――OUTRAGE
「――対話の続きだ。安心しろ、襲い掛かったりはしない」
 シスター服を着たロシア人女性は祈るように手を合わせ、瞑目する。
 リーリヤと及ばれる憤怒者。彼女が率いるエグゾルツィーズムの信者。その中でも『一線を越えた』者達。
「無理強いはしない。かけるべき言葉がないというの言うのが普通だろう。覚者の仇、あるいは純粋に犯罪者として襲い掛かっても構わん。ワタシも、そして二人もそれは納得している」
 覚者殺しの初老の男と、復讐に苛まれる女性。そして理想を武装に変えたロシア人のシスター。自分達が裁かれる側であることは自覚している。
 覚者と相対する憤怒者との対話。
 FiVEの覚者達は、そこに何を見出すのだろうか?



■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:簡単
担当ST:どくどく
■成功条件
1.憤怒者の誰かと対峙する
2.なし
3.なし
 どくどくです。
『エグゾルツィーズム』終章その三。堕ちた人との対話です。

●説明!
 イレブンの憤怒者、リーリヤ。彼女が連絡先を交換した覚者達に連絡を取り、『エグゾルツィーズム』の教会に招待されました。
 覚者に恨みを持ち憤怒者になりかけている一般人達を会話をし(前回依頼)、その対話の後、覚者を殺した経験のある覚者との会話です。
 三人全員と話をする必要はありません。それこそ『コイツはダメだ』と襲い掛かっても問題ありません。
 基本的に憤怒者側から戦闘は仕掛けません。ですが会話の内容によっては、憤怒者側から襲撃する可能性もあります。

●NPC
・佐伯・元春
 五八才男性。憤怒者。白髪の初老です。
 隔者を殺さなかったために大きな被害を出し、それ以降能力者には容赦をしない憤怒者になりました。多くの覚者を殺した憤怒者です。
 戦闘時、火行のキャラクターを優先的に襲う傾向にあります。使用武器は隠し持っていたナックルガード。

・芹沢・二葉
 二四歳女性。。憤怒者。長髪の女性です。
 兄を覚者に殺され、その復讐を果たした憤怒者です。ですが覚者に対する復讐心を押さえきれずに覚者を殺し続けています。
 戦闘時、引き出しにあるナイフを手にして(1ターンかかります)攻撃します。

・リーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナ(×1)
 二十三才女性。憤怒者。白い肌を持つロシア人。
 源素を『悪魔の力』と称して排斥しようとしている憤怒者です。かつては覚者と一般人が手を取りあえるような理想を抱いていましたが、現実の前にその理想を捨てました。多数の幸せの為に覚者を滅する決意を固めます。
 戦闘時、近くにあるスコップを手にして攻撃します。

●場所情報
『エグゾルツィーズム』が所有する教会。その離れにある住宅区。
 NPC一人につき一部屋の個室を持っています。そこで話をする形式です。一人のPCが何人と話をしても構いませんが、一人に絞った方が密のある説得になるでしょう。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年06月29日

■メイン参加者 8人■

『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『愛求独眼鬼/パンツハンター』
瀬織津・鈴鹿(CL2001285)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)

●佐伯・元春
「こんにちは。あんたの経歴は事前に聞いたよ」
『静かに見つめる眼』東雲 梛(CL2001410)は佐伯に自己紹介した後にそう切り出した。
「どうして普段なら躊躇いもなく殺す俺達に対して対話しようとしてくれたの? すごく不思議だった」
「『話を聞け』というのがシュリャピナさんの言葉だからだ。あの人が『信頼できる』と言った以上、義理は果たす」
 シュリャピナって誰だろう、と思ってリーリヤの事かと思い直す梛。
「あんたはあの日、覚者に命乞いされて見逃して、その事が大きな被害に繋がった事をずっと後悔しているんだね。そしてそれからはもう覚者を容赦なく殺すようになった。
 あんたは自覚してるんだと思う」
 一泊置いてから梛は言葉を続けた。
「止められないんだね。もう一人だと」
 佐伯からの否定の言葉はない。ただ静かに目を伏せた。
「あんたはあの日の後悔の為にしてきた行為は、多くの人の命を助けたのかもしれない。でもその逆に多くの可能性を持った命を、奪ったのかもしれない」
 命を奪うということは、可能性を消すことである。死んだ人間は生き返らない。死者は可能性を生まない。
「殺さなければ犠牲が出たかもしれない。全ては『かもしれない』だな」
「だね。でも俺はあんたのした殺人という行為は、許しちゃいけないものだと思っている」
 ぴしゃり、と梛は言い放つ。
「出来ればあんたには自分の罪を償ってほしい。法的でも、法的でなくとも、死以外の方法でね」
「正論だな。そしてそこまでして『死以外』という言葉が出るか」
「死んだら終わりだよ。そして正論だとわかっていても、あんたは止まれない。俺には理解できない複雑な感情が絡み合っている」
 正しい、というのは一つの基準だ。そしてそれは様々な要因で変化する。極論だが、戦争で大量に敵兵を殺せば英雄になる。この憤怒者もそういったしがらみに囚われている。
「止まりたいなら力になりたい。あんたが覚者と向き合おうと思ってくれたこの日に出会ったからこそ」
 言って梛は席を立った。

「最初の殺害は、間違っているとは言えない」
 自己紹介の後、『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)は佐伯の目を見て言い放つ。
「だが、それ以降は……もしかして、貴方は『自分のせい』という事を言い訳にしていないだろうか?」
「ないとは言わない。だが同じ事が起きる可能性がゼロではない」
 守護使役により瞬時に武装できる覚者を無力化するには、戦闘不能に追い込むしかない。しかし時が経てば傷も癒え、そして戦闘力を回復させる。そうなるとわかっている相手を完全に止めるには、命を絶つしかない。
「後悔しているといったな? 本当に手にかけることに迷いがないなら、後悔する暇さえもないはずだ」
 静かに。しかし声に激昂を載せて行成は言葉を紡ぐ。
「殺す力があるなら、生かす力もあるだろう。それとも、そんなことは無理だと最初から諦めるか?」
「そうだな、俺は諦めた。生かして更生させることなど無理だとあの日に痛感した」
「だから殺すというのか。それが安易な道だからか……!」
 行成自身も理解はしている。人を生かし、罪を償わせることの難しさを。今まで依頼で捕えた隔者や憤怒者、それが刑を終えた後に罪を犯す可能性がゼロではないことも。その時に新たな犠牲が出るかもしれないということも。
 殺してしまえばその憂いはない。
「殺さずとらえる方が、ただ殺すよりもずっと難しい。そこで終わり、ではないからだ」
 それでも、殺さない。それは犯した罪を償うことに意味があるからだ。
 殺して終わり。それでは罪を償うことはできない。命を奪っても被害者が受けた傷は癒えることはない――例え叶わなくとも、罪を償っていくことに意味があるのだ。
「私よりも長く、多くの事をみてきたのならばそれくらいの事はわかるだろう……っ!」
 叫びそうになる行成を、驚くことなく静かに見る佐伯。
「……すまない、言葉が荒くなった」
「いいさ。俺にもそう思っていた時期はあった。憤怒者に言われたくはないだろうが、その心が曇らないことを祈る」
 堕ちた正義の祈り。それがこの対話の終了の鐘となった。

●芹沢・二葉
『愛求独眼鬼/パンツハンター』瀬織津・鈴鹿(CL2001285)の経歴は喪失だらけだ。
 育ててくれた父母を憤怒者に奪われ、鈴鹿自身も憤怒者により虐待された。それにより『幸せだった親子の生活』のみが記憶に残り、育ててくれた親がどうなったかの記憶も失っている。
 鈴鹿はそんな状態で『両親を探す為』にFiVEにはいる。既に亡くなっている者を探す人生。両親の死を教えることは簡単だろう。だが鈴鹿はそれを受け入れない。聞いても心が拒絶する。
「お姉さんのお話を聞いて共感してしまったから……私もそういう『穴』があった気がして……多分父様や母様が死んでたら、お姉さんと同じになると思うの」
「そう。貴方も家族を……きっとまだ会えるわ」
 悲し気に呟く鈴鹿。それを元気づけるように芹沢は手を取った。
「だから、お姉さんの『穴』の正体も何となくわかるの。……自分が許せないだよね?」
 自分も同じ気持ちだから。
「仇を討っても最愛の人を救えなかった自分自身への怒り……それが覚者への怒りと合わさって出来たのが穴の正体。お兄さんの悲鳴の正体なの」
 鈴鹿自身も両親を救えなかった自分が許せなかった。力がなかった自分を。そして人を憎み、恐怖し、そんな人たちなんか死んでもいいとさえ思っている。それは今でも変わらない。
 でもだからこそ――
「私、お姉さんは頑張ったと思うの。方法は一般的に悪い事かもだけど……それでもお姉さんにとっての最善を尽くしたの」
 だからこそ、向き合わなければならない。その過去に、そして目の前の人間に。
「だからもう自分を許してもいいんだよ。もし許せないならこれから許せる方法を一緒に模索しようなの」
 芹沢に抱き着き、優しく撫でる鈴鹿。己に語るように、自分自身がそうされたかったかのように。
 芹沢の手が鈴鹿の頭を愛おしげに撫でた。

「芹沢さんは復讐を果たした人なんですね」
『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)は静かに口を開いた。
「だけど、まだ収まらないというのは……『そうか、やっぱり収まらないだな』という感想しか出ませんでした」
「どういう事でしょうか?」
「芹沢さんのケースとは違うけど、俺の父親は隔者と相討ちになって死にました。俺は未だにその隔者を恨んでいて……そいつはもう死んでるのに、今でも夢に見る、思い出してしまうという事がありますから。
 よっぽどの事がないと、その気持ちが完全に消える事はないでしょう」
 復讐は相手を殺して終わる。だが奪われたという事実は無くなるものだはない。その喪失感を抱いたまま、生きていくことになるのだ。
「芹沢さん、あなたの言う『いい人』というのはどんな人ですか?」
「覚者の力で、人を殺さない人です」
「いつかその『いい人』というのも殺すと話してくれましたが……すみません。失礼な言い方になりますが、このままいくと、遅かれ早かれそうなると思いました」
 亮平の言葉に薄く笑う芹沢。自分でもそうなるだろうとわかっているかのように。
「貴方は……お父さんを殺した人を恨まないのかしら? お父さんの声が聞こえるのは夢の中だけなのかしら?」
「はい。俺は……芹沢さんのような『穴』はありません。
 ですが何かが違えばそうなっていたかもしれません」
 家族を奪われた悲しみ。失った家族を求め、芹沢は己に『穴』を認める。そこから聞こえてくる声を兄のモノだと思い込み、その衝動のままに覚者を殺す。
「俺が言ってもどうしようもないかもしれないですけど……。お兄さんの悲鳴を別の悲鳴で掻き消していてはその内、どれが誰の悲鳴か分からなくなるのでは……と、それも気掛かりです」
「ふふ。やはり貴方は『いい人』です。同じ苦しみを持つのに私の心配ができるなんて」
 芹沢は静かに笑い、亮平の言葉を聞きいれる。
 それでもきっと止まらないのだろう。同じ悲しみを知る者だからこそ、亮平は理解できた。

「亡くなった方を思うと、相手の仕打ちに胸が痛みます」
 同じ木行の覚者として相手の仕打ちは許せない。『世界樹の癒し』天野 澄香(CL2000194)は胸を押さえて悲しげな表情を浮かべた。自分がそこに居れば癒して上げれたのに。
「亡くなったのが自分にとって大切な人だったなら想いは強いですよね……お兄さんの悲鳴が耳から離れなくなったのも無理はありません。
 ……けれど」
 一旦言葉を区切り、意を決して澄香は言葉を続けた。
「今聞こえるその悲鳴は本当にお兄さんの物ですか?」
「……どういうこと、でしょうか?」
「復讐を遂げるまでは確かにお兄さんの物だったのかもしれません。
 ですが、その後の悲鳴は貴女自身の物ではないかと。私はお話を聞いてそう感じました」
 惚けた様に芹沢は澄香の言葉を聞いていた。
「人を手に掛ける瞬間はそこに集中してますし、アドレナリンも出ますから悲鳴は聞こえなくなるでしょう。
 でも冷静になってから貴女の心が悲鳴を上げてる、私にはそう思えてなりません」
「私が……悲鳴を? ふふ、どうしてかしら。私は覚者を殺すのに躊躇いなんてないのに」
「いいえ。貴方は……芹沢さんは私達を『いい人だから殺さない』と仰いました。そういう判断が付くという事は、まだ心が闇に染まってはいないんだと信じます」
 しっかりと芹沢の目を見て澄香は答える。
 確かに芹沢は人殺しだ。その術を学び、幾度となく実践した人間だ。
「大切な人を失った穴は復讐なんかで埋まりはしません。私を支えてくれた、大事な人達です」
 両親を失った澄香にも芹沢のような『穴』はあった。だがそれは彼女の叔母や友人たちの絆により小さくなっていく。
 言って心臓に手を当てる。信頼する一人の男性を思い浮かべた。とくん、と心音が響く。
「ああ……ふふ、貴方にはいたのですね。そういう人が」
「貴女にも貴女を大切に思ってくれる他の誰かが絶対にいるはず……貴女はそれを自分から手放していないでしょうか」
「すべて捨てました。復讐の為に不要と決めて。……ふふ、それが貴方と私の違いなのですね」
 脱力し芹沢は澄香を見ていた。遥か遠くの理想郷を見るような目で。

●リーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナ
「ん、フルフェイスを外した方が良いかね?」
 顔全てを隠すマスクを指差し、『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)は問いかける。気にはしないというリーリヤの言葉を受けて、逝は頷いてから新たに問いかける。
「原初の理想を妥協したのかね? ……ああ、貶めている訳ではないさね。聞きたいのよ、天秤を傾けた理由を」
「その通りだ。妥協したのだよ、ワタシは」
 覚者非覚者全てを救おうとした修道女は、ため息を吐くようにそれを認める。
「おっさんは正直に言うと覚者も非覚者も妖も古妖も、同じ物として見ている。ベクトルに違いはあるだろうが其処に差は無い。では『力(あくま)』とは何だろうね」
「ワタシは逆だ。それぞれに差はある。それを知らずに『平等に』扱おうとすれば軋轢が生まれる。その軋轢こそが『悪魔(さべつ)』だ」
「なるほど興味深い答えだ。ま、今は議論をする気はない」
 肩をすくめて話題を切り替える逝。本当に聞きたいことはここからだ、と声色を変えて。
「……ちょっとだけ言葉を変えよう、より多くを救うと言ったな。それは、お宅の感情で選んだのかね。それとも手を伸ばす事を諦めたのかね? 或いは何方でもない何か、か……是非とも聞かせておくれ」
「手を伸ばすことを諦めた、が一番近いだろう。言葉も祈りも、力を手にした人間には届かない」
 覚者はそうでない人間と比べれば多くのアドバンテージがある。単純に源素を扱えることもあるが、『選ばれた』という精神的な高揚もある。それに酔った人間は『一般的』な言葉が届かないこともある。
「『覚者も同じ人間だ』『誠心誠意、心を込めて説得すれば手を取りあえる』。そう信じた修道女は現実に敗れ、信仰が折れた。信じ続けることが出来れば美談だったのだろうが、そうはならなかった。それだけの話だ」
「その選択と決断もお宅だけのモノだ。横から口を出すのは野暮さな」
 リーリヤの言葉の中に込められた想い。過程や推測はできるが、敢えて何も言わずに逝は会話を打ち切った。

「私はそんなの無理だって最初から思ってた。だってこの手はそんなに大きくないもの」
 全てを救いたい。そういったリーリヤの理想を聞いて『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は称賛の言葉を送った。
「結果は同じだ。そう気づくのが遅かったにすぎない」
「違うわ。そんな理想が抱けることがすごいのよ。結果はどうあれ、その理想の為に行動したのはすごいと思う」
 言ってから数多は言葉を止める。言いたいことを纏めるために。
「このまえ大妖の話、したわよね。あいつらが意思をもってこの日本に分けの分かんない力を蔓延させたんじゃないかなって思うのよ」
「大胆な仮説だな。何か根拠があるのか?」
「ないわ。でもあいつらは源素の事を何か知っている。それは確かよ。
 たぶん、あの大妖は非覚者では倒せない。とはいっても覚者だけでもあいつらを倒せないと思う」
 圧倒的な実力。相対した時のことを思い出す数多。力の差で言えば覚者も非覚者も大妖の前では等しく塵芥だ。
「でも倒したらきっと何かがわかるし、源素の事も解明するかもしれない。そうすれば、本当の意味でみんな助けれるかもしれないわ」
 覚者の力の元。源素。それが解明できれば少なくとも不明瞭な部分は消える。正体不明の力に怯えることはなくなる。
「私は勇者でも英雄でもないただの剣士だから、そんな大それた理想なんてない。
 でもね、FiVEならもしかしてその理想を果たすことができるんじゃないかなって私はおもっているんだ」
 神秘解明組織。源素に関連する事件からそれを解明し、同時に覚者や妖に関する事件を解決していく組織。軍の様に力で抑えるのではない。警察のように法で律するのではない。智をもって諭す組織。
「私はバカな小娘だし、楽観的なのかもしれないけど」
 全ては仮定だ。数多が思い描く理想は、かつてリーリヤが抱いていた理想と同じ。
「でもね、リーリヤさんが五麟に来てくれたことで確信したの。うちのブレンド美味しい、亮平さんとこの食事美味しいっていってくれたじゃない?」
 たとえ覚者と非覚者の垣根があっても、感じるものは同じなのだ。
 だからいつか、同じ景色を見て感動することもできる。数多はそう信じていた。

「力を持つ者だからとて、戦わねばならない理由は有りません」
『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)はリーリヤを真正面から見て会話を切り出した。
「それでも、自ら戦う道を選んだ人々が日本には大勢います。リーリヤさん、それは何故だか解りますか?
 ――貴女の言う所の『力がないというだけで暴力に震え、ただ耐えるしかない』こと。そんなものが正しいとは思っていないからですよ。それがFiVEやAAAのような組織です。覚者も非覚者も、その思いに大方然程の違いはないでしょうね」
「相対する『暴力』の違いだ。アナタ達は妖や隔者と呼ばれる存在を。ワタシ達は覚者全般を」
「家族や友人を殺されれば憎むのは当たり前でしょう。
 ですが覚者にも家族や縁者が居るし、その殆どは非覚者だと言う事を理解していますか?」
「知っている。それで憎まれることも当然だと思っている」
「それが貴方の言う『非覚者を救う』という事なのですか?」
「そうだ。信仰を捨てた時から決めたことだ。『全てを救えない』……そう決めた時から」
 冬佳の問いに、澱むことなく答えるリーリヤ。
 可能な限り覚者でない人間は助ける。だが、不可能なら助けない。鉄の意志がそこにあった。
「不十分等と云われずとも私達も政府も理解していますが、だからこそ歩み続けているのです。一人でも多くを救う為に……やがて『全てを救う為』に」
「その歩みは立派だと思う。ワタシには歩めなかった道だ」
 リーリヤの言葉に、嘘偽りは感じられなかった。本当に冬佳の言葉に一定の理解を示し、称賛している。
 だがその上で彼女は『覚者を殺す』と言っているのだ。それが人殺しであることも、悲しみを生むことも、道義に反していることも、かつての信仰に反することも。それら全てを理解してなお。
(神を信じた人が、それを捨ててしまうほどの悲しみ)
 冬佳は神事を司る家の娘だからこそ、信仰の尊さが理解できる。その人間の生き様やモラル。そういった自分自身の基盤ともいえる考え。それを捨てるということは、今までの自分を捨てることと同義だ。
「それが正しいと思って――」
「正しくはない。それでも救われる者もいる。……無論、全てを救える方が正しいのは事実だ」
 正しくなくとも、その道を歩む。
 それがリーリヤ・グラシェヴィーナ・シュリャピナという憤怒者だった。

●そして対話が終わり――
「対話の時間は終わりだ。ここからは互いの組織の役割を果たそう」
 覚者と非覚者の対話は終わり、FiVEとイレブンの関係が始まる。
「ここに集まったのはワタシ達、エグゾルツィーズムの中でも選りすぐりの戦士だ。
 戦ってもらうぞ、FiVE」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 長らく続いた【憤怒の祈り】シリーズは次回で最後です。
 まあ言ってPCの行動で一話ぐらい伸びたりするかもしれないのですが。

 唐突に喧嘩を売る形になりましたが、彼女がこの考えに至った理由はあります。
 その辺りも含めて、次回もよろしければ宜しくお願いします。 




 
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