<冷酷島>妖刀マガツオボロヅキ
<冷酷島>妖刀マガツオボロヅキ


●約束されなかった島
 『冷酷島』
 正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立地に作られた複合都市でした。
 日本の多くが妖によって被害を受ける中、日本国土の外側に居住地を建設すれば安全になるのだという主張から建設されたその人工島は、政治家と市民たちが夢見たフロンティアだったのです。
 学校、病院、警察署や消防署、スタジアムや自然公園、高層マンションや一戸建ての住宅街。最新の技術で整えられたその人工島は、安息の地になるはずでした。
 しかし、ならなかったのです。

●妖刀伝説
 以前、冷酷島北東部の敵勢力調査に当たっていた水蓮寺 静護(CL2000471)と緒形 逝(CL2000156)。
 彼らは調査終了後も継続して調査を行なっていた。
「おっさんは、遊園地に出てきた『遊園地っぽくない妖』が気になったんだがね……」
「奇遇だな。俺もだ」
 冷酷島に出来たレイコクパークにはそれはそれは遊園地らしい妖が次から次へと沸いていたのだが、そんな中で刀を持った幽霊のような妖をちらほらと目撃していた。
 こちらの様子をうかがってばかりで攻撃してこないので、作戦中は特に意識していなかったのだが。
「全員共通して帯刀しているというのが気にかかるな。仮に島ででた被害者の霊魂が妖化したんだとしても、おかしい」
「住宅地の妖はみんな手ぶらだったりしたからねえ」
 よって二人は、あえて島外から回り込む形で遊園地の裏へとやってきた。
 そこにあったのは。


「――『レイコク博物館』」
 新田・成(CL2000538)は一通の封筒を手に言った。
 場所は変わってファイヴの会議室。夢見の久方 真由美(nCL2000003)や仲間たちと共に冷酷島調査の結果をまとめているところである。
「この地方に伝わっていた古い日本刀が寄贈されたということで、私にも案内が来ていましてね。お酒に関わらないことでしたので今の今まで忘れておりました」
 開館にあわせて全国の歴史の専門家へとりあえず手紙を送りまくっておくという、博物館あるあるのひとつである。保険会社のチラシみたく無視される所まで含めて。
「日本刀、か。偶然とは思えんな」
 思案顔で呟く静護に、逝もまた頷いた。
「できたばかりの島に日本刀の心霊系妖。こりゃあ、怨念の深いシロモノがしまい込まれてるんじゃあないかと思ってたけど、正解臭いねえ。夢見さんたちは何か見たかい?」
「そうですねえ、関連しているとは思うのですけど……」
 念写によって写真を焼き上げる真由美。
 刀を握った鎧武者の姿。心霊系妖特有のぼんやりとした実像だ。
 それが、博物館から出て島の外へと(水上歩行めいた動きで)移動しはじめる光景であった。
「……ふむ、いけませんね。防衛ラインが引かれているとはいえ、島の外に出る前に倒さなければ」
「至急、戦闘チームの結成を依頼しましょう。場所は冷酷島北東部、博物館前――」
 手早く書類を書き上げる真由美。
 最後にシャチハタをスタンプした。
「目標は、妖の撃破!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.妖『マガツオボロヅキ』の撃破
2.なし
3.なし
 こちらはシーズンシナリオ<冷酷島>のひとつです。
 色々な形に分岐し、場合によってはルートが増える構成となっております。
 そんなわけで、飛び入り参加をいつでも歓迎しております。

【シチュエーション】
 島の外、本土への移動を始める心霊系妖。
 これが移動を始める前に駆けつけ、撃破するのが目標となります。
 現場は海辺にあるため、装甲ボートで直接乗り込みます。

【エネミー】
・マガツオボロヅキ
 推測するに日本刀に宿る怨霊の一部が妖化したもの。
 心霊系妖R2。R2の中でも強力な個体です。
 真由美の予知夢で防衛ラインでの戦闘の様子が把握できており、使用する攻撃の一部や防御性能も判明しています。
・ノロイギリ:特近単【呪縛】
・呪詛:特遠全【凶】
・物防特防フラット型。体力が多め。

・帯刀する幽霊×10
 心霊系妖R1。妖刀についてきた霊魂の群れが妖化したもの。
 シルエットからしてぼんやりしているので特徴がつかめない。
 刀による攻撃をするもよう。
 戦闘力が低いので脅威にはならないが、『マガツオボロヅキ』との戦闘の邪魔になるので序盤からソッコーで潰すのが得策。

【事後調査】
(※こちらは、PLが好むタイプのシナリオへシフトしやすくするための試験運用機能です)
 島内は非常に危険なため、依頼完了後は一般人や調査・戦闘部隊はみな島外に退避します。
 しかし高い生存能力をもつPCたちは依頼終了後に島内の調査を行なうことができます。
 以下の三つのうちから好きな行動を選んでEXプレイングに記入して下さい。
 ※EX外に書いたプレイングは判定されません
・『A:追跡調査』今回の妖や事件の痕跡を更に追うことで同様の事件を見つけやすくなり、同様の依頼が発生しやすくなります。
・『B:特定調査』特定の事件を調査します。「島内で○○な事件が起きているかも」「○○な敵と戦いたい」といった形でプレイングをかけることで、ピンポイントな依頼が発生しやすくなります。
・『C:島外警備』調査や探索はせず、島外の警備を手伝います。依頼発生には影響しなさそうですが、島外に妖が出ないように守ることも大事です。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年06月20日

■メイン参加者 6人■


●英雄譚の主人公になるまえに理解しておくべき三つのこと
「冷酷島、ね……」
 A4コピー用紙三枚分の資料を読み終えて、三島 椿(CL2000061)は耳にかかる髪をかきあげた。
 ボートへどうぞと促すスタッフにバッグを預けると、ボートへと乗り込む。
 安のつくあらゆる性質を捨てて強襲のみに特化したボートである。この迷彩色の鉄の塊がミサイルのように島へ突っ込み、覚者という破壊力をまき散らすのだという。見ないうちにファイヴは随分物騒な装備を調えたものである。
 しかしまあ、何に乗ってどこへ行くのだとしても、椿がやるべきことは同じだ。
「困ってる人がいるなら、戦うだけよ」

 椿が乗り込んだことでメンバーはそろった。
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は顔ぶれを今一度確認する。
 男女比3対3。半数以上は自分とおなじくらいの子供だった。
「おっちゃん、コレありがとうね。今日は頑張るよ」
 虔翦と彫り込まれた刀を手に、シートベルト固定された『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)へと顔を向ける。
 逝は派手に咳き込み、口元を押さえていた。ヘルメットのせいで見えはしないが、心なしか顔色が悪そうだ。
「おっちゃん、どうしたの? 風邪?」
「いや……食あたりみたいなもんさね」
「えっと、お大事にね」
 言外に気にしなくていいと言われた気がして、奏空は話題をすぐに切り替えた。
 リラックスした姿勢の『教授』新田・成(CL2000538)へ顔を向ける。
「新田先生、刀のことなにか知ってませんか」
「沢山知っていますよ。作られたであろう年代。使われているであろう材質。その他諸々……」
「じゃあ」
「しかし、今から役に立つ情報はありませんね。あれば、先に皆さんにお伝えしていますから」
 それもそっか、とうつむく奏空。
「失敗をしたと思って恥じることはありませんよ。何事も試そうとするのは、若さゆえのものですし、試行なき成功はありえません」
「そうだぞう、他に気になってることがあったら今のうちに言うといいさね」
 逝が珍しく成と同じような立ち位置からものを言った。
 いわゆる大人サイドの意見なのだろう。子供として乗って置くところである。
「えっと……やっぱりこの島には妖化しやすい何かがあるってことなんじゃないかなって。古くから伝わる刀とか、そういうものが」
「悪くない考えですな。例えばワイン倉は古くから受け継がれ、カビや湿気などよりよい酵母が育ちやすい環境を維持するといいます。ですが事実として、古くからあるものやいわくつきの品の妖化がさほど多く観測されていない以上、関係性は低いとみるべきでしょう」
「三種の神器が怪獣になったって話は聞かないからなあ」
「じゃあ……マチガイってことですか?」
「発酵は自然現象ですが、起こすには有機物とそれを分解する菌が要ります。妖化も恐らく同じこと。工藤君の考え方は、決して間違っていませんよ。試行を繰り返すことです」

 あっちはなんだか難しい話をしているようだ。
 大辻・想良(CL2001476)は成や奏空の話をあえて聞き流し、重要な部分だけを認識することにした。
 世の全ての人が雨の降る理由を知らなければならないわけではない。雨が降ったら傘をさすことを覚えればよいだけである。
「妖を放置すれば、外のひとが危ないんですよね」
「本土への上陸阻止は勿論、これ以上あの妖を成長させてはなりません。今回で確実に撃破しましょう!」
 『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)がシートベルトを固定して、強く言った。
「はい……妖は、倒します」
 想良は心の中で傘をさした。

●文字通りの突入作戦
 博物館の周囲には帯刀した幽霊があふれていた。否、霊魂を元とした心霊系妖の群れである。
 そんな中で異様な存在感をもつ鎧武者の妖。
 元となったであろう刀からマガツオボロヅキと呼称されたその妖は、爆音をあげて接近する存在を感知し、顔を上げた。
 次の瞬間。
 海沿いの植木とベンチと鉄柵を破壊して、鉄の塊が突っ込んできた。
 鉄の塊はカバーを炸薬によってパージすると、搭乗していた覚者たちを一斉に射出した。
 ボートで乗りつけるとは聞いたが射出されるとは聞いていない。
 翼を広げて体勢を無理矢理に維持すると、椿は弓を引いた。
 マガツオボロヅキを目視確認。螺旋状の空圧を伴った矢を放つ――が、雑兵のように散った心霊系妖が間に割り込んで矢を受けた。痛みを感じても居ないのか、そのまま突撃してくる。
 一方で柔軟に戦闘態勢を整えた逝が、斬りかかってくる雑兵を足払いで転倒させ、マガツオボロヅキへと飛びかかった。
 無力化を狙って瘴気の鎖を放つ。
 対するマガツオボロヅキは自らの腕で鎖を受けると、逝と互いを引っ張り合うような姿勢に持ち込んだ。
 目元に穴あきメダルを翳して小型の魔方陣を発動させるラーラ。
 メダルそのものが三重の円環と八方に魔術記号を放り込んだつくりになっている。ソロモンの鍵でおなじみの魔方陣である。穴を開けて先を見るという狐窓的な使用法はないので、おそらく我流の何かだろうが。
「不吉が刀と鎧を身につけて歩いているような妖ですね。新田さん、何か気づいたことはありますか?」
「強いて言うなら……」
 眼鏡を中指で直し、迫る妖に仕込み杖を押し当てる成。
 妖を通り抜けた衝撃がマガツオボロヅキを襲うが、痛がるそぶりすら見せなかった。どころかその場から一歩たりとも動かない。
「子供向けのテレビゲームに登場しそうな鎧武者ですね。とても正しい作りとは思えません」
 成の言うとおり、間近で確認してもマガツオボロヅキの装備はフィクション作品のような奇抜な作りをしていた。直江兼続しかり奇抜な鎧じたい珍しくは無いが、成の知識にヒットするようなものはないように思えた。
「とにかく、雑兵が邪魔ですね。急いで散らしましょう」
 ラーラは魔方陣をもう一つ開いて火扇という術を発動させた。
 マガツオボロヅキの放つ呪詛への対抗である。
「全部を狙って攻撃すれば、いいんですよね」
 術式を練って天に手を翳す想良。
 彼女の狙いに乗じるように、奏空もまた天空に剣を翳した。
「手伝うよ、一緒にやろう!」
 二人の放った電撃が天空で合わさって爆発。散った粒子のひとつひとつが矢となって妖たちに降り注いだ。
 次々に貫かれ、消滅していく心霊系妖の群れ。
 そのなかで、マガツオボロヅキは刀で矢を切り払うことでしのいで見せた。
 同時に逝の巻き付けた鎖も断ち切られ、反動でわずかにのけぞる逝。
「さて……こっからさね」
 どこからともなく刀を抜くと、逝はマガツオボロヅキへと斬りかかった。
 霊体の剣とぶつかり合い、見えない火花が散った。

●ネクストジェネレーションズ
 黒い気をまき散らし剣をぐるぐると振り回す逝。
 仕込み杖へ刀を納めてじっと姿勢を固める成。
 二人に挟まれているのは、半透明な霊体に覆われた鎧武者の妖、マガツオボロヅキ。
「いくぞう、マガツオボロヅキ。はらい落としてあげるさね」
「奴の呪いは凶悪です。お気をつけて」
 ゆっくりと、妖を中心に円を描くように外周を歩く逝と成。
 マガツオボロヅキがちらりと首を動かしたその瞬間、逝が豪快に斬りかかった。
 剣を力業で振り回し、遠心力をそのまま乗せて強引に叩き付けるという万能剣法である。ワンステップで飛び退くマガツオボロヅキ――の足首を狙って超高速で切り抜ける成。
 常人であれば既に両足が無くなっているところを、物理法則を無視する空中ムーンサルトターンで回避するマガツオボロヅキ。
 逝と成のアイシールドと眼鏡がギラリと光り、反転からの交差斬撃がマガツオボロヅキを打った。
 胴体を三分割されるマガツオボロヅキ――だが、まるで無傷のごとく回転斬りを繰り出し、呪詛の波が成たちを襲った。
「とんでもない相手ね!」
 椿は吹き飛ばされる成を片腕でキャッチし、身体の回転を使って衝撃を吸収。後ろへ一旦飛ばしてから術式の矢を形成。
 水の矢を弓へとつがえる。
「火力で覆います。椿さんは回復弾幕を」
「だんまく!? ――わかったわ、任せて!」
 ラーラは魔導書の鍵穴にキーを差し込むと解封。足下に生まれた魔方陣が垂直方向に増幅して円柱状にラーラを覆っていく。
「良い⼦に⽢い焼き菓⼦を、悪い⼦には⽯炭を――イオ・ブルチャーレ︕」
 魔方陣が四方八方あらゆる方向に転換し巨大な炎の弾を大量に発射。ホーミングした弾がマガツオボロヅキを取り囲み、全方向から襲いかかる。
 一方で椿は弓を構えたままダッシュ。道ばたのベンチを踏み台にして跳躍。翼で勢いをつけて更に街路樹の枝を踏み台に二段跳躍。
 マガツオボロヅキの上をとると、水の矢を発射。拡散した矢が治癒の弾幕となってマガツオボロヅキを覆った。
 再びの回転斬りで呪詛の波を起こすが、椿の弾幕と相殺して消滅。間を縫うように叩き込まれる炎によって炎上し始める。
 腕を振って炎を払うマガツオボロヅキ。
 やけどどころか鎧の焦げ後すら見えない。
「ノーダメージなんてことありえないけど。一体……」
 悔しげに呟く奏空。
「いいえ、ダメージは通っています」
 ラーラと、着地した椿がそれぞれ頷き合った。
「鎧の表面をよく見て」
 椿がマガツオボロヅキの背を指さし、想良と奏空は目をこらした。
 ぱきりとヒビ入り、卵の殻のようにはげ落ちていく。
 しかも、その中身は全くの空洞だったのだ。
「周囲の幽霊のせいで中身があると勘違いしがちだけど、あれは鎧の妖なのよ。痛みも恐怖もないけれど、破壊に対しては素直に反応せざるをえないってわけね。トドメよ、二人とも」
「ありがとうございます」
 想良は両手の間に術式の霧を生み、それを空に放って雷雲と化した。
 妖への暴力的なまでの敵意が電撃となって渦巻き、かわそうとしたマガツオボロヅキを完璧にロック。電撃を次々と浴びせてていく。
「これで終わりだ、マガツオボロヅキ!」
 大きな刀を翳し、奏空は鍔にあたる部分を撫でた。
 手のひらから電撃が生まれ、刀身を伝って膨張していく。
 助走をつけて飛び上がり、大上段から斬りかかる。
 対抗しようとしたマガツオボロヅキ――だが、その足首と手首が砕け散った。
 成と逝が事前に斬撃を打ち込んでいたポイントである。
 防御もままならずに袈裟斬りにされるマガツオボロヅキ。
 爆散した霊体を前に、奏空は深く息をついた。
「妖、討伐完了……っと」

●核心へと迫るには
 妖の気配が消えたことを確認して、六人の仲間たちは島の調査を再開した。
 妖化しそうな美術品はないかと目を光らせる逝。
 島が埋め立てられる前の歴史を探ろうとする成。
 博物館の中に誰かいないかと探し回る奏空。
 想良やラーラも調査に協力するなかで……。

「皆も頑張ってるみたいだし、私も探索してみようかしら……あら?」
 博物館の裏を歩いていた椿は、壁に刺さった矢を見つけた。自分の放った流れ弾ならぬ流れ矢かと思ったがそうではない。
 この場所で過去戦闘がおきたことはないようだ。椿のものでないとすると、これは……?
 矢を引き抜いて、じっくりと見つめる。
「なんだか、アタリをひいちゃう予感がするわね……」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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