炎の中の盗掘者
炎の中の盗掘者


●盗掘者のぼやき
 奈良県のとある遺跡。
 それは、某市の町外れにおいて、ボーリング調査を行っていた際に発見された。
 きっかけはボーリングマシンから突然炎が湧き出て、工事現場で働いていた男性達が焼死した事件。この原因は、地中から現れた炎の塊のような妖であったという。
 妖が出現するとあって、この場所の土地計画……商業施設が建設予定だったらしいが、白紙に戻された。
 これにより、考古学者達は炎が噴き出すその場所に興味を抱き、調査を始めていたのだが、妖はもちろんのこと、遺跡内に充満する炎とトラップが障害となってしまう。
 考古学者はほとんどが非覚者。この為、F.i.V.E.に依頼が舞い込んでいた……のだが。

 その2人の隔者は考古学者の調査の目を掻い潜り、遺跡内に侵入していく。
 2人は盗掘メインに活動する隔者コンビ『MIA』。調査の目は南に向いていた為、彼女達は燃え盛る北側へと立ち入っていた。
「はぁ、はぁっ……!」
 遺跡の罠を潜り抜け、奥の部屋で火の玉の妖を倒し、彼女達は朱色の鏡を手に入れるに至っていた。
「あっついわね……」
 1人は大胆な衣装を纏った翼人女性。彼女は水行の力で自身と相棒の傷を癒していく。
「あやー、もうやめよー」
 もう1人の気弱そうな女性は、露出控えめな酉の因子持ちの獣憑の女性。ただ、火の妖を肉弾戦で相手にしていたりする。
 しかし……、苦労の末に得られたものは価値があるのか分からぬ鏡1枚。なんとも泣けてくるではないか。
「とっとと出ましょ。こんな遺跡、二度と来るもんかっ!」
「あやー、待ってー」
 愚痴って部屋を出る翼人女性を、獣憑女性が慌てて追っていくのだった。

●盗掘者から鏡を守れ!
「この下にある炎の遺跡(仮称)に、女性コンビの盗掘者が現れたようじゃの」
 『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)が渋い顔をして、覚者達へとブリーフィングを行う。
 そこは、現場となる遺跡上部の工事現場跡だ。盗掘者達はすでに突入していて時間がなかった為に、この場へと召集しての説明と相成ったらしい。
 炎の遺跡の探索も回数を重ねてはいるが、このタイミングで遺跡探索に興味を持つ者もいた為、けいは完結ではあるが探索状況の説明を行う。

 現状、過去の依頼に参加した覚者達の判断で、突入口から南方面へと探索を重ねている。
 遺跡の形はすでに、考古学者達がその構造把握が進んでいる。しかしながら、遺跡内には体力をじりじりと削る炎、そして、途中には炎の噴き出すトラップが遺跡内に確認されており、火の玉の妖の出現と合わせて探索、調査の妨げとなっている。
 通路の炎は妖を倒すことで徐々にその領域が小さくなるようだが、すぐに消えるわけでもない。今回突入する領域内で炎がなくなるのは期待できないだろう。
 また、炎のトラップは術式をぶつけるなどして、消すことが出来るのが確認されている。
「どうやら、妖と通路の炎が関連している可能性が高そうじゃが……」
 遺跡に備え付けられた罠、そして、封印。複数要因が絡み合っている形ではないかと学者達は推論を立てている。
 以前、探索した大亀遺跡は地震で通路が寸断されていたが、この遺跡は構造だけはほぼ完全な形で残っている。
 2つの遺跡がほぼ同じ構造ではないかと考える学者達は、これらの遺跡を照らし合わせ、口のような形にその頂点から斜めに延びた場所に小部屋がある構造ではないか、と考えていたようだ。

 ここで、朱の鏡を奪った盗掘者に話を戻す。
「彼女達から、鏡を奪い返して欲しいのじゃ」
 前回、回収した蒼の鏡は分析により、文字と思われるものが刻まれていたのが分かった。だからこそ、この朱の鏡もまた遺跡を調べる為に有用と判断されたのである。
 突入口は口の左の縦棒の中央部付近と考えてもらいたい。盗掘者コンビ『MIA』達は敢えて、手づかずの北側へと向かっていったようだ。
「北も南と同じように、分岐点があるはずじゃ」
 垂直に右に曲がる道と、左斜め前に進む道。おそらく、その辺りでそちらから出てきた盗掘者と出くわし、取り押さえることとなるだろう。
「突入口で抑える手もなくはないのじゃが……」
 相手は、1人は翼人。1人は面接着持ち。逃げられる危険も高い為、お勧めできないとけいはこちらの案を否定する。もちろん、対処が出来るならば話は別だが……。
 また、火の玉の妖は覚者も隔者も関係なく襲ってくる。面倒だが、こちらの対処も頭に入れておきたい。
「もし、この盗掘者達をうまく取り押さえられれば、いいことがあるかもしれんの」
 例えば、遺跡の調査完了まで彼女達に遺跡の妖討伐を手伝わせるとか……。
「とはいえ、危険な状況での交戦になるから、無理はせんようにの」
 ブリーフィング終了と同時に早速、遺跡へと突入しようとする覚者達を、けいは心配そうに気遣うのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.朱の鏡の確保
2.なし
3.なし
初めましての方も、
どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。

こちらは、遺跡関連シナリオですが、
どなた様でも参加できますよう
シリーズシナリオとはなっておりません。
予めご了承願います。
なお、今回は『炎の遺跡(仮称)』5回目の探索です。

●敵

◎盗掘者コンビ『MIA』……隔者の女性2人組です。
名前は彼女達の苗字、頭文字から。両者共にかなりの力を持つようです。
数々の遺跡を荒らしている為か、AAAからお尋ね者になっています。
考古学者の調査が遺跡南側に向いているところを狙い、
北側へと侵入したようです。

○水玉・彩矢(みずたま・あや)翼×水
飛行、物質透過をセット済み。朱の鏡を所持しています。
ぐいぐい引っ張るタイプのちょっと露出高めの女性。
主に彼女の力で遺跡内を突破してきたようです。
戦闘では逆に回復支援を行いつつ、
弓矢を飛ばしたり、波動弾を放ったりして攻撃してきます。
「あやや」と呼ばれることと、成生が怪我することに怒るようです。

○荒石・成生(あらいし・なるき)獣(酉)×土
面接着、守護空間をセット済み。
相棒の彩矢に振り回されがちな気弱な性格で、
ゆったりした露出が小さな服を着た女性です。
見た目に似合わず、前に立って直接拳で殴りかかってくる一方、
防御態勢を取り、霞舞を使ってくる厄介な相手です。
「なりなり」と呼ばれるのと、彩矢が傷つくことが嫌なのだとか。

◎妖(自然系)
非戦闘時、5ターン毎にランダム判定で3~5体出現します。
ただし、盗掘者と会話、及び交戦時に関しては
この判定は引き続いて行われ、
覚者、隔者問わず襲い掛かってきます。

今回はランク1、直径15センチ前後の火の玉のみ登場します。
その全てが浮遊、火傷無効状態にあります。
・火炎弾……特遠単・火傷
・体当たり……物遠単

なお、火傷系BSと下記特別ルールのHP減少のダメージは重複します。

●状況
盗掘者は、遺跡の北西で朱の鏡を入手しています。
突入口より北側の炎は燃えたままなので、
炎で体力を削られながら、
彼女達を遺跡から出さぬように対処する必要があるでしょう。

●遺跡について
遺跡の通路、突入口付近の炎は消えていますが、
奥に行くと通路は炎に包まれております。
詳しくは特別ルールをご参照くださいませ。

遺跡には侵入者避け用と思われる、
炎が噴き出す罠が壁に設置されています。
2、3ターンに一度壁から通路を塞ぐ炎が発する箇所があります。
対策なしにこれを食らうとダメージ(HP50減少)を負いますが、
術式で一時的に炎を止めることが可能です。

●当シナリオ特別ルール
炎上エリア突入時は
1ターン(10秒)経過ごとにHPが10減少し、
戦闘以外でも回復することがありません。
今回は突入口底から南100m、
分岐点部分までの範囲の炎が消えていますが、
こちらへ立ち入る可能性は低いでしょう。
また、今後の展開次第で
このルール適用除外エリアが広がる可能性があります。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/7
公開日
2017年05月25日

■メイン参加者 7人■

『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)

●遺跡に立ち入る盗掘者
 奈良県某所。
 工事現場に集まったF.i.V.E.の覚者達は、早速盗掘者の女性隔者2人と接触すべく、その地下、炎の遺跡内部へと突入していく。
「この間、工藤が見つけたのとはまた違う鏡か」
 『静かに見つめる眼』東雲 梛(CL2001410) が先ほど、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)から蒼の鏡を見せてもらっていた。縁の模様など、別段変わった様には見えないのだが……。
「蒼の鏡の文字と合わせたら、何か意味のある言葉にならないかな」
 奏空の予想が合っているのかどうか。ともあれ、すでに鏡を持っていると思われる盗掘者から、鏡を取り返さねばならない。
「たった2人で遺跡を攻略してしまうなんて、超すご腕でびっくりなんよ」
 そんな隔者達の話に、『マジシャンガール』茨田・凜(CL2000438) が驚く。その凄腕テクニックを伝授してもらえたならば、遺跡探索がラクになるのに。そう考えながら。
「その盗掘者コンビ『MIA』から、朱の鏡を譲って貰わないとね」
「ほおう、『MIA』とね……」
 奏空の言葉を聞き、『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)が呟く。そのコンビは、『MIA』の意味を知っているのだろうかと。
「まあ何方にせよ、此処で鏡は貰っていくぞう」
 豚が真珠を持ってても栄養にすらならんしなと、逝が辛辣なコメントをしていると、調査における重要な資料を換金しようとする盗掘者に、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)が憤る。
「絶対に、鏡は取り返すんだから!」
 鏡確保の為、一行は燃える遺跡内へと降り立っていく。

●トラップに、妖に
 まず、メンバー達は突入口より北、今なお燃え盛る通路へと突入することになる。
「ここって何度来ても、やっぱり熱いよね」
 身体中から流れ落ちる汗を感じながら、梛は通路を進む。
「先越されたのはちっとばかし悔しいけど、北側ってのはこんな風になってたんだな」
 『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)が通路を見回す。南側とそれほど変わらぬようにも見えるが、やや遺跡に亀裂が入っている部分が多いようにも見える。突入口周辺の炎のトラップも機能していないようだった。
 ただ、進むと機能している罠もある。壁から噴出す炎を、奏空が超直感で察していた。
「トラップの間隔は違うっぽいな」
 そこは、突入口から40mといったところだろうか。
 すると、逝は普通の炎だということで物質透過を使って避けてみせる。
 そこで、飛馬が音を立てて床から岩槍を隆起させ、一時的に炎を消してしまう。
「今回は調査と言うより捕り物だし、なるべく急いで行きたいね」
「トラップに目星つけられそうなら、全力で進んで行きたいな」
 そこを通り過ぎ、先を急ぐ理央。飛馬がそんな提案を仲間達にする。
「そうね、できれば余計な戦闘を控えて、先に追い詰めてしまいたいわね」
 『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496) も同意し、先を急ごうとする。
「ただ、音が響くのが気になるよね」
 奏空がそこでMIAに気づかれることを懸念し、各自のスキルで炎の壁を突破しようと提案するが、メンバー達の前にゆらりと火の玉の妖が出現する。
 凜も遺跡の状況に備えて術式の準備をしていたのだが、仲間達が妖の相手をすべく整える中、彼女は仲間の後方へと位置取る。
「今回はしっかりとお仕事がんばるんよ」
 右肩の刺青を空色に光らせ、凜は仲間の支援の為に動くのである。

 トラップ対処にもたついていたと言うほど時間もなかったろうが、3体の妖は目ざとく覚者の姿を捉えて襲い掛かってくる。
 あまり消耗するのは本意ではないが、金色の髪を揺らす奏空が霧を発して妖の虚弱化を図る。
 そこへ、迫ったのは、腕を戦闘機の両翼のように変化させた逝だ。彼は片っ端から呪いを帯びた直刀・悪食で火の玉へと切りかかり、敵陣の体を縛り付けた。
 ただ、それで硬直したのは1体のみ。他2体は宙を泳いで体当たりを繰り出し、あるいは火炎弾を放ってくる。凜はすかさず、前線メンバーを水のベールで包み込んで支援を行う。
 そうして、水衣に包まれた飛馬は普段、前衛で防御に徹することも多い。
「こういう時に、『へーはせっそくをたっとぶ』って言うと、頭良さそうに聞こえるってとーちゃんが言ってたな」
 ただ、妖はどれだけ出るか分からない。ぼやぼやしているとジリ損になる為に飛馬は攻撃に回り、『厳馬』と『悠馬』を両手に持って地を這う連撃を火の玉どもに斬撃を見舞っていく。覚醒した飛馬は一見すると変化がわからないが、械の因子持ちの彼は時に激しく動く際、球体と成った関節部を袖や裾から垣間見せていた。
 長い髪を赤く変色させたエメレンツィア。国事詔書を手に英霊の力を引き出した彼女は、生成した水竜に火の玉を飲み込ませて1体を消し去る。
 さらに、額に第三の目を出現させた梛。咲かせた花の独特な香りで包み込んだ1体を完全に無力化して鎮火させてしまうと、瞬く間に残る妖は1体となって。
「お邪魔虫はさっさと退散して」
 瞳を赤く変色させた理央がそいつへと高速で水の飛沫を飛ばし、最後の火の玉を霧散させたのだった。

●MIAは軍隊用語で『戦闘中行方不明』のこと
 その後、メンバー達は運良く妖に出くわすこともなく進む。これにはエメレンツィアも気を良くしていたようだ。
 トラップに関しては飛馬が察知する。その後、60m地点と82.5m地点にあったが、1つは梛が第三の目から光を発し、もう一つは理央が水礫で消し去っていた。
 直進してからの分岐点。凜は念の為にとお菓子の包み紙を石で包む。銀紙だからと用意したそれは、しばしの間目に付くだろうと考えてのことだ。
 そこで、メンバー達は左手奥側からやってくる2人の女性の姿を確認する。
「あ、あやー……」
 相棒の声に嘆息した女性が前に進み出る。
「私達が盗掘者コンビ『MIA』と知って、捕らえにきたのかしら」
 それぞれの苗字を取ったコンビ名『MIA』を名乗る彼女達は、こちらをAAAとでも認識しているのだろうか。
「あらあら、盗掘なんて悪い子ね」
 古今東西、この手の輩はどこにでもいる。そう考えつつも、エメレンツィアは2人の体を上から下まで眺めていく。
 遺跡内部の炎に、妖との戦い。衣服を若干傷ませた2人はそれなりに疲労した状態であるのは間違いない。
 それでも、2人は即座に戦闘態勢に入り、不安げな獣憑の荒石・成生が前に出て、彼女を引っ張る翼人の水玉・彩矢が一歩後退していた。
「……意味はご存知かしら。それとも偶然かな」
 逝の問いかけに首を傾げる隔者2人。後ほど辞典で調べてちょうだいと彼は理由を名言しなかった。
「朱の鏡を譲って欲しい」
 大太刀・虔翦に手をかける奏空がそう要求する。金銭目当てであれど、その鏡はおそらく考古学的価値しかないと。
「盗掘は犯罪さね。小金の為に無茶をして廻るのは、さぞ辛かろうよ。自転車操業みたいな物でしょ」
 逝の言葉には図星だったらしい。「そーだよー」と成生などは、隠す素振りすら見せようとはしない。
「……仕事は選んだ方が良いぞう? もう少し利率の良い仕事だって有るだろう」
「ないわ、そんなもの」
 表情を険しくする彩矢が弓矢を構え、すぐにこちらへとその矢を放ってきた。
「仕方ない……強引に頂くね」
 飛んで来る矢を飛馬が受け止める横から、奏空はやっぱりなぁと残念がりつつ、雷帝のインドラの矢のように辺り一面に雷の矢を降り注がせる。
「悪い子には……たっぷりお仕置きしなきゃ、ね?」
 くすりと微笑むエメレンツィアは前に出てきた成生へと水龍牙を飛ばす。
 ついで、梛が攻撃を繰り出す。状況的には覚者側が圧倒的に優勢。落ち着いて攻撃をと考えて後方の彩矢を狙った彼だったが、その攻撃対象がぶれることもあったようだ。
 抵抗する隔者2人。前線の成生が殴りかかってくるのを逝が受け止め、反撃にと大きく投げ飛ばす。
 彼女達の動きを止めるべく、凜はガンナイフから銃弾を撃ち出した。それにより、成生は身体に痺れを走らせ、身体を硬直させてしまう。
 すかさず、理央が鋭利な氷柱を作り出し、相手を纏めて貫かんとする。いくら成生がガード態勢を取ろうとも、これには相手も防ぎようがない。
「巌心流は守りの剣。けど、攻撃ができねーってわけじゃないんだな、これが」
 さらに、飛馬が攻め入る。両手の刃で跳ね上げるように刃を繰り出す彼の連撃に、成生はしっかりと拳でカウンターを叩き返すも、顔を引きつらせてしまう。
「守りの固め方知ってる奴は、崩し方だって知ってるんだぜ?」
「あ、あやー……」
「成生っ、このっ……!」
 傷つく相棒の姿に憤る彩矢がこちらを睨みつけると、エメレンツィアも金の双眸で見つめ、淡々と告げる。
「そもそも、アナタ達がこうして傷つかなきゃいけないのは、自業自得なのよ」
 この遺跡はF.i.V.E.の調査領域。その中で盗掘という犯罪行為を働き、友達が傷つけられている原因。それは……。
「全てアナタのせい。それをこちらに怒りをぶつけるなんて、恥知らずも甚だしいわ!」
 苛立ちすら見せるエメレンツィアに、盗掘者達はたじろぐ。
 勢いはどう見ても覚者側が優勢。MIAは撤退しようと頷き合い、彩矢が大きく背の翼を広げるも……。
「えーと、あんたらの名前、なんつったっけ? あややとなりなり? 逃げてないでかかって来いよ」
「おっと、逃がさないわよ。あやや、なりなり」
「く……っ!!」
「なりなり言うなー」
 飛馬、逝の挑発に、2人は怒りを露わにし、覚者へと向かってくる。ただ、それは覚者達の思う壺。冷静さを欠いた相手ほど御しやすいものはない。
 逝が豪腕の一撃で防御態勢の成生を彩矢ごと殴りつけ、飛馬は己が傷つくのも厭わず刃を浴びせ続けていく。
「互いがそれ以上、傷つかない為に、降参しない? あんた達の扱については、悪いようにはしないからさ」
 その間に、梛が後方の彩矢へと声をかける。
 実際、彼女達は限界だった。
 通路にランク2以上の妖の姿がないのは、MIAが倒したからだろう。まして、遺跡の炎の影響で、かなり体力は減少してきている。……それでも。
「冗談じゃないわ」
 キッと睨みつけ、彩矢は掌に集めた気を波動化させ、一気に撃ち出して来る。
 それを受け止めた梛は、彩矢へと飛び込む。
「分が悪いのは、わかってるのかな?」
 理解はしているはず。それでも、抵抗を続ける相手へ、梛が種を投げつけ、急成長させる。
「うっ……」
 身体に絡みつく植物に締め上げられる形となった彩矢。彼女はがっくりと、うな垂れるように崩れ落ちた。
 床を転がる朱の鏡。それを、梛が拾い上げたのだった。

●火の玉に囲まれて
「あやー!」
 さすがに、ぼんやりとしていた成生も、相棒が倒れたのには敵意をむき出す。
 だが、運悪くこの戦場を取り囲む火の玉達。4体が突撃してきて戦いに介入し始める。
 理央は成生を巻き込むように、水龍を飛ばす。
「あ、あうー……」
 気丈に立っていた相手も、さすがに体力が持たなくなったのか気を失ってしまう。
 こうなれば、後は再び妖の相手を。逝はすっぱりと切り替え、呪いの刃で火の玉を切り裂いていった。
 目的はあくまで鏡だ。隔者を追い込むわけではない。敵を挑発すらしていた逝は淡々と妖を叩く。
「うっ……」
 一言呻いて起き上がる彩矢。自身の魂の一部が砕けるのを感じる彼女は身を焼く暑さに耐えながら、覚者達の戦いを見上げる。
 目覚めた彼女に気づいた奏空がそこで、声をかけた。
「鏡さえ渡してくれれば、手荒な事はしたくないんだ」
 未だ目を覚まさぬ成生を、奏空が庇うようにして迷霧を発していく。
 だが、妖は本能で動き、炎の弾を飛ばしてくる。逝が両翼を交差させて受け止め、地面から振り上げた刃で敵の切り裂いてしまう。
 理央も横に広がる敵へと水龍を浴びせかけて1体を消し去っていた。凜は仲間が攻撃できるようにと神秘の滴を降らせる。時折飛んで来る火炎弾には注意し、直撃を受けぬようにしていたようだ。
 エメレンツィアも回復の補佐に回る。さすがに戦いだけでなく、じりじりと減る体力にフォローが必要と、潤しの雨を仲間に降らせていたようだ。
 気づけば、妖は残り1体。特攻してきた敵を捕らえた梛が第3の目から発した光で射抜き、完全に消滅させたのだった。

●鏡と盗掘者
 妖を討伐し、朱の鏡を確保した覚者一行。
「一見、変わった様子はないけどな」
 MIAを捕縛した梛がそれを手に取って眺めるが、模様も蒼の鏡と似通っており、とりわけ何かあるようには見えない。もっとも、学者が分析すれば、何か分かる可能性もありはするが……。
「えっと、あやちゃん、なるちゃんでいいかな」
 それぞれの気にしている呼び方を避け、凜は2人を呼ぶ。後で、遺跡探索の極意など教えてもらえたらなと考える彼女は、親切に対応していた。
「さすがに、ここで立ち話もね」
「調査したいけど、これ以上の無理は出来ないし、今回はこれで帰還かな?」
 そこで、エメレンツィアが暑さで頭を抱える。理央も皆の体力を気にかけていた。
 遺跡内の炎はメンバーの体力をじりじりと削っている。何より、隔者2人の消耗が激しいこともあり、急いで彼女達を運び出しつつ地上を目指す。

 地上に出ると、理央が貴重な遺物に興味津々で見回していた。
 奏空が持つ鏡と重ねてみたり、梛がエネミースキャンを試みたりするが、これ自体はアイテムと言うことで、何も情報は得られなかったようだ。
「やっぱり何かを封印、あるいは守ろうとしているのかな」
 力を持つ鏡であることは間違いない。とはいえ、これが何の役に立つのか……。覚者達もこれだけの情報では思い至らない。
 そして、エメレンツィアや凜が「MIA」の2人に尋問をしていた。彼女達は鏡こそ確保に動いたF.i.V.E.に、自分達へと害意がないことを知り、複雑な表情をしている。
「一緒に神秘を解明しよう、きっと金銭よりも価値があるかもだよ!」
 遺跡探索に興味があるならば、自分達の調査に協力してほしいと手を差し伸べる。
「調査に協力って、何すりゃいいのよ」
 それに、彩矢が悪態づく。彼女達は多くを語らないが、発現者が白い目で見られるような環境にいたのだろう。
「そうだ、中指令に後で連絡とっとかないとな」
 2人がお手伝いしてくれたら、何か報酬を上げられる環境を与えられないかと奏空は後ほど、F.i.V.E.の指揮をとる中 恭介への打診を考える。
「あやー……」
「ま、なるようにしかならないわね」
 やや不安そうな顔をする彩矢と成生。
 しかしながら、F.i.V.E.に連行された彼女達は、考古学者達の手伝いをする仕事を得たことで、食いぶちができたと歓喜するのだが、それはまた別の話である。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『朱の鏡』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:東雲 梛(CL2001410)



■あとがき■

レアドロップ!
アイテム名:『朱の鏡』
取得者:東雲 梛(CL2001410)




 
ここはミラーサイトです