違法労働を強いるブラック企業
【闇企業】違法労働を強いるブラック企業


●死に瀕した作業員
 F.i.V.E.の会議室にて。
 集まった覚者達は、他の覚者が集まるまでの間、先日解決した、カーヴァ生体工学研究所の一連の事件について、『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)に説明を求めていた。
 覚者達の活躍により、所長コーディ・カーヴァの身柄を確保し、AAAに連行。その後、F.i.V.E.メンバーも交えて聴取を行っていた。
 容疑のかかっている、覚者の子供達の監禁、そして、人身売買。事細かにそれらの取調べをしていたのだが……。
「思った以上に、カーヴァはその辺りについて知らんようでのう……。研究がしたいと繰り返すばかりなのじゃ」
 研究対象としてしか子供達を見ていなかった彼は、その境遇にはまるで無頓着だったらしい。けいは嘆息しつつ語る。

 そんな前置きとなる話はひとまず置き、十分な数の覚者が集まったところでけいは本題に入る。なんでも、彼は夢見で事件を予見したのだそうだ。
「とある建設現場で、従業員が過労死する事件を視たのじゃ」
 いわゆる、ブラック企業というヤツだろうか。それなら、AAAなどに任せる事件なのではと、この場の覚者から声が上がる。
「それが、この会社は隔者が牛耳っておっての。現状、非発現者の従業員が虐げられて、違法労働をさせられておるようなのじゃ」
 会社の名前は、英雨(えいう)建設。それを聞き、数人の覚者達が声を上げる。
 今、考古学者の依頼で調査を行っている炎の遺跡と呼ばれる場所。ここは本来、商業施設が建設予定だった。妖の出現により、その予定は完全に中止となったとのことだが……。
「元々、英雨建設は、このビルの建設も受注予定だったそうじゃの」
 そして、幾度目かの遺跡の調査の際、七星剣幹部の1人、『濃霧』霧山・譲がこの工事現場へと姿を現れたことを、けいは告げる。
「うちには、これらが無関係とは思えんのじゃ」
 そして、けいが差し出す資料。それによれば、作業効率工場の為、従業員は皆、背中に半球状の装置をつけた就労が義務付けられているという。
「擬似的に、発現者の力を行使する為の装置という話じゃ」
 これは、用途や大きさなどは違うものの、カーヴァ生体工学研究所の研究成果と繋がる部分がある。これで無関係と考えるほうが難しいというものだ。
 この企業は、霧山・譲、あるいはその所有組織『黒霧』の息がかかっていると見て間違いない。

 話は戻して、予見された従業員の過労死についてだが、とある男性作業員が過労でかなり危ない状態にある。
「皆には、この男性を保護してほしいのじゃが……」
 現場は、京都府内某所にあるビル建設現場だ。
 通常、作業員はビルの建設作業を行っている。しかしながら、50代の現場監督、座間も違法労働に関しては自認しているのだろう。F.i.V.E.のメンバーが突入すれば、座間は15人いる従業員達を襲い掛からせてくると、けいは言う。
 座間は「給料の為に働け」と叫んで傍観の構えのようだが、この男だけは発現者……隔者であり、場合によっては抵抗してくることは予想に難くない。
「男性作業員の方が命を落とす前に、助けて差し上げたいですわね」
 話の途中でこの場にやってきていた、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)も意気込む。できるだけ早く男性を保護して、しかるべき治療を受けさせてあげたい。
「今日も現場は作業を行っておるはずじゃから、よろしく頼むのじゃ」
 けいは最後にそう告げ、出発する覚者達を見送るのだった。


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.作業員の生存
2.なし
3.なし
 お世話になります。なちゅいです。
 新シリーズです。どなた様もご参加いただければ幸いです。

●敵
○現場監督……座間・大吾(ざま・だいご)
 やや太った50代男性。隔者。彩×水。鉄棒を所持。
 難癖つけて怒鳴り散らし、
 建設用の鉄棒で片っ端から作業員を殴打する下劣な男です。

○作業員……15人。全員、非発現者です。
 18歳~50代の男性18人。20代女性2人。
 労働契約もあり、給料の為、座間の指示で侵入者の排除に動いてきます。

 全員が建設用に使う器具を所持しております。
 スパナ、ハンマー、足場板、梯子、電動ドリルを装備。
 基本、殴打武器として扱うものばかりですが、
 殺傷力が高い電動ドリルは注意が必要です。

 また、各自背中に装着した器具で
 多少の身体能力を向上させた上、
 術式に似た攻撃を行うことが出来ます。
 行う攻撃は、以下の内1種のみです。
 木・深緑鞭、火・火炎弾、土・無頼、天・召雷、水・水礫

 作業員の1人、26歳の男性、東・喜孝(あずま・よしたか)は
 過労による体調不良の中で、労働を強要されております。
 彼もまた、武器、器具を装備して襲ってきますが、
 10ターン以内に保護しなければ卒倒し、
 帰らぬ人となってしまいます。

●状況
 ごく普通のビルの建設現場に乗り込むこととなります。
 現場は150平米ほどの広さ。
 現状、鉄骨のみ組まれた状態で、
 足場などは作成されておりません。
 基本的には地上での交戦です。
 
●NPC
 河澄・静音(nCL2000059)
 お邪魔します。
 出来る限り邪魔にならないよう戦いますが、
 皆様のプレイングでのご指示を優先させていただきます。

 それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年04月15日

■メイン参加者 6人■

『星唄う魔女』
秋津洲 いのり(CL2000268)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)

●断ずるべきブラック企業
 京都府某所の工事現場。
 昼間である為か、甲高い金属音や、重機のエンジン音などが周囲に響きわたる。
 工事によって舞い上がる土埃が飛ばないように、現場を取り囲むフェンスが覆っているが、この現場で覆っているのはそれだけではなさそうだ。
「隔者が関わっているなら、私達の仕事ですね」
 おだやかな雰囲気の上月・里桜(CL2001274)が見上げると、フェンスの外からでも、高く組みあがったビルの鉄骨が見える。
「国の為の労働は人民の義務だけど、労働方法を選ぶ権利は人民に在って労働の安全が保証されないのは駄目さね」
 緒形 逝(CL2000156)が言うのは、自身の出身と主張する国のことだろうか。もっとも、日本において、勤労は義務だが、国の為の勤労は義務ではない。
「ブラック企業で、しかも従業員を戦闘にも都合よく使おうとするなんてムシが良すぎるんよ」
 面倒くさがりの『マジシャンガール』茨田・凜(CL2000438)も、こういう企業に呆れを覚えている。
「……放っておけば、東さんだけでなく他の方達も危険でしょうから」
「従業員がクビになって路頭に迷ってしまうのも困るけど、このまま放置してたら危ないからこれも仕方ないんよ」
 従業員の中に、家庭持ちの者は少なくないはず。まして、独り身の方ならば尚更と、里桜は彼らの身を案じる。こうして介入するのも致し方ないと凜は語った。
「家族……」
 『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)も表情を沈ませる。色々と思うことがある彼女もまた、握る拳に力を込めた。
「労働者の安全と正当な対価の保証は、雇用側の義務よ」
 使い潰すのが前提ならば、それはヒトとしての扱いではなく、道具としての扱いでしかない。
「一作業員として、それは許せないさね」
「労働者の方に限界を超えた無理を強いる等、許し難いですわね」
 逝の言葉に、『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)が頷く。
「聞けば、限界寸前の方もいらっしゃるとの事、一刻も早く救出しませんと!」
 いのりの叫びに応じ、覚醒するメンバーは現場へと駆け込んでいく……。

 現場に入っていく覚者達。
 彼らがそこで見たのは、くたびれた表情、そして、やつれた体で働く人々だった。彼らは背中に半球状の物体を背負う作業員は黙々と工事を進めている。
「これだけ疲弊するなんて、一体どんな労働を……。許せません」
 銀色に変色した髪をなびかせた『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)はすぐに、エネミースキャンで保護対象人物の姿を探す。
 事前の夢見の情報によれば、過労死の危機にある男性の名は、東・喜孝。年齢26歳とのこと。合わせて体調が悪い状態を含め、ラーラは合致する作業員を探す。
「違法な労働は、ろーどー基準法とこのファイヴが黙ってないよ!」
 髪を金色に輝かせた『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955) がこの場の作業員へと呼びかける。法律などは理解していない奏空だが、この状況が不当な状況なのは一目瞭然だ。
(東・喜孝さんいますか!)
 そして、彼は送受心・改を発動し、過労で危険な状態にある男性を探す。
 入り口付近の覚者達を一瞥する労働者達は作業の手を止め、周囲を見回すが、そこで怒鳴り散らす声が聞こえてくる。
「おらぁ、このままじゃ、今日のノルマ終わらんぞ!」
 鉄棒を握る現場監督、座間・大吾。そのどなり声に体をびくつかせた作業員は動きを幾分か速める。
 小学生の姿から女子高生の姿へと変貌したいのりも、作業員を魔眼で見つめた。どうやら、背中に背負った器具で多少は抵抗能力が上がっているようだが、それでも非発現者には変わりなく、すぐに催眠状態へと陥る。
 反応があったのは、奥で鋼材を運ぶ男性だ。彼が東で間違いないと覚者達は確信した。
 そんな中で、逝だけは東の姿を探すわけではなく、手近な作業員の感情探査を行いつつ、念写でこの現場の日常光景を紙に写し出す。これにパワーハラスメントの様子が写っていたなら、ブラック企業として証拠に使えそうだと彼は考えたのだ。
「それにしても、作業員の方達が付けている器具……」
 こちらも、覚醒したことで、長い髪を黒から桃色へと変えていた里桜が従業員の背にある器具に注目していた。
 なんでも、術式に似た攻撃ができるとのことだが……、これを付ければ、誰でも覚者になれるということか。もっとも、擬似的なものでしかないのだろうが。
「どういう仕組みなのか……、それに、その器具が広まったら……?」
「幾つか回収して、博士に構造を調べて欲しいさね。確証が欲しい」
 この器具の利用に懸念を抱く里桜。逝はこれもまた、1つの証拠として利用するつもりだ。
 そんな覚者達を、現場監督、座間は黙って見てはいない。
「んだ、てめぇらは。関係者以外立ち入り禁止だぞ、ここは!」
 対して、いのりが座間を睨みつける。
「貴方が現場監督ですわね。労働者の方に無茶な事を強いるのは、止めて頂きますわ!」
 威風を伴っていのりが呼びかける。座間は全く動じないが、周囲の作業員が彼女に圧倒されて身を引いていたようだ。
 さらに、奏空がこの場の作業員達を眠りへと誘う空気で包み込む。
 抵抗する作業員もいたが、やはり一般人の域は出ないらしく、作業員がパタパタと倒れ込んでしまう。保護対象の東もその場で眠り始めたようだ。いのりも合わせて同じ術式を展開し、無力化の為に同じ術式を展開する。
「皆さん、頑張って……」
 仲間達の状況を見守る静音は、前線に出るメンバーを水のベールで包みながら、東の身柄を保護するのを待つ。その回復をいのりから任されていたのだ。
「ちっ、眠ったヤツは今日の支払いナシだ! 起きているヤツ、手を貸せ!」
 眠っても、起きても従業員に安息などないのか。男性4人と女性1人が座間の一喝によろよろと体を動かして入り口へと集まってくる。
 身構える覚者達。東の保護までの間の時間を稼ぐ為に、向かい来る作業員を迎え撃つこととなる。

●衰弱する男性の保護を
 覚者達が相手にするのは一般人、非発現者だ。
 ただ、労働者達が飛ばしてくる攻撃は、確かに術式を思わせた。
 背中の器具より伸ばしたノズルから発せられる炎は火行の火炎弾は覚者達の身を焦がしてくるし、飛ばす水の雫は水行の水礫と同じくメンバーを素早く撃ち抜いて来る。
 それらを、前に立つ逝と里桜が受け止めた。威力は妖などに比べれば微々たるものだが、殺傷力は十分にある。里桜は土の鎧を纏い、彼らの攻撃に備えていた。
 逝、里桜が彼らの攻撃を受け止める間、奏空は東の保護最優先で動く。
 だが、彼の行く手を作業員が遮ってしまう。
「皆、大丈夫だよ!」
 その攻撃を受けながらも説得を行う奏空には、生計の為にと働く彼らの体が疲労の為かふらふらしているように思えた。死んでしまっては意味がない。彼はそう力説する。
「目を覚ませ! 働く所はここだけじゃないはず!」
 奏空の叫びは彼らに届いているのは間違いない。
 しかしながら、今、この状況で座間に逆らう余裕は彼らにはなかった。目の前の作業員は、器具から伸びるノズルを直接鞭のように打ち付けてくる。これは木行の深緑鞭を思わせた。
 抵抗する作業員を見たラーラは圧縮した空気を飛ばして、奏空の行く手を阻む作業員の無力化を図る。
 相手が弾き飛ばされ、道を開くのをいのりは待つが、眠りから覚めた従業員が座間の目を気にしてか、こちらへと近づいてくる。やむを得ず、いのりは再び魔眼の力を使い、作業員へと脇に避けるようにと言って聞かせていた。
(電動ドリルが危なそうだけど……)
 空色の刺青を光らせた凜が前方を見ると、健在の作業員の一人が電動ドリルを唸らせている。ただ、それに気を取られているとスパナやハンマーが怖いと考え、凜は後方に位置取って癒しの滴を振りまく。
 そこで、凜は何かを思いついたようで、財布から小銭を取り出して地面に落としてみる。それに注意を向ける作業員だが、座間の視線を気にしてか、侵入者の排除に全力を注いでいた様子だ。
(まあ、引き付けてる間に何とかしてくれるでしょ)
 東を含めた従業員の対処をする仲間を横目で見つつ、逝は座間の鉄棒を受け止める。
「お前ら確か……、F.i.V.E.とか言ったか?」
「質問するのはこっちよ」
 この男……座間は果たして、従業員の背中につけた装置についてどう考えているのか……。それを尋ねたいと考える逝は、座間の腕を掴んで投げ飛ばす。
(背中の器具の制御装置は、隔者さんが? それとも、器具自体に電源?)
 作業員を抑える里桜もそれを確認すべく、守護使役の朧に座間の様子を注視させる。
 里桜自らは癒しの霧を発して壁となり続けていた。邪魔を行う作業員に、彼女は止むを得ず大地に力を流し込んで足場を揺らし、相手を弾き飛ばしていた。
 それもあって、奏空が東の元に駆け寄り、倒れる彼の保護に成功していた。彼は奏空を静音の元へと運ぶ。
「後は頼んだよ!」
「はい、最善を尽くしますわ」
 静音は早速、東へと癒しの滴を落としていた。
 この間に、続々と目を覚ます作業員達。ラーラはこの場へと結界を生成していく。
「この結界の中に留まることが出来るでしょうか」
 労働契約と給料で縛られているとはいえ、彼らは特別な訓練を受けている訳ではないはずだ。それを示すように、従業員達は一目散にこの場を離れていく。
「くそ、役に立たん奴らめ……!」
 逃げ出す従業員の姿に、座間は怒りで顔を真っ赤にしていたのだった。

●ブラック上司に天罰を
 背中に彩の因子を示す刺青を浮かび上がらせた現場監督、座間。
 そいつは時に水の竜すら操って攻撃を仕掛けてきていたが、もっぱら鉄棒を振り回しての攻撃がお気に入りらしく、空を切って覚者達を叩きつけようとしてくる。
「そんな物を持っていてよろしいのですか? いのりの雷獣の効果が倍増しますわよ」
 雷雲を呼ぶいのりが座間を牽制した。鉄が電気を通すというのは一般常識。座間は周囲を見回し、出来る限り鉄骨から離れようとする。
 しかしながら、あくまでそれは一般常識。発現者の術式は蔓草が火を飲み込むことすらある。移動する座間を捉えたいのりはその頭上へと雷を叩き落とした。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 敵は隔者1人。英霊の力を引き出したラーラは魔導書の封印を解き、火の玉を連続して飛ばし、浴びせかけていった。
 体を痺れさせ、さらに火傷を負う座間はそれでも鉄棒を振り回すのを止めない。里桜はそいつを抑えつつも、敵の状況を観察し続けるが。
(そういえば、作業員の器具……)
 ここまで、座間は作業員に怒鳴り散らすことはあれど、直接作業員の器具に何かする素振りは見せていない。作業員の大多数が逃げ出したときでさえも、制する様子はなかった。
(つまり、器具を間接的に制御することは出来ないのでしょうか……?)
 そんなことを考えながらも、理桜は霧を発して仲間の癒しを続ける。
 凜もまた、回復に当たっていたが、危険なドリルの脅威から逃れて余裕を持って立ち回っていたようだ。
 その戦いを、静音は東の回復に当たりながら見守る。倒れる彼は最悪の事態を免れてはいたようだが……、それでも、まだ、状況は芳しくないようである。
 さて、隔者座間だが、戦い慣れしているとは言いがたい。発現者としての力はそれなりだが、覚者6人相手に叶うはずもなく。
 仲間の布陣の中へと戻った奏空は仲間の中ほどに位置していたが、立ち回る中で1対の忍者等で素早く切りかかっていく。かなり消耗の激しい攻撃だが、座間を追い詰めるには十分。
「あの装置、何なのよ」
「うるせぇぇぇああぁぁ!!!」
 尋ねる逝にも、座間は全く応じず鉄棒を振り上げ、彼の体を殴打してきた。
 念の為、逝は周りに作業員がいないことを確認し、直刀・悪食の柄を握る。
「それじゃ、お仕置きよ」
 彼は地を這う軌跡を描き、座間の体に刃を連続して見舞う。
「……かっ」
 完全に白目をむいたその男は土の上に転がり、ぐったりと倒れ込んだのだった。

●ブラック企業の実態は……
 ひとまず、この場の作業員達の抵抗が完全に停止したところで、凜が眠る作業員達を介抱する。応急手当として癒しの雫を落とすが、衰弱している者もおり、入院を要する者もいる。
 静音もまた、出来る限り彼らを楽にしてあげようと癒しの霧を発する。幾分か顔色がよくなったことに、彼女は安堵の表情を見せていた。
 そして、危険な状態にある東。
「オン・コロコロ・センダリマトウギソワカ」
 奏空が神秘の癒しの水を降り注がせていたが、絶対安静の状態は変わらない。
 凜は担架に載せることも考え、東の背中の器具の接続部のみ使役のばくちゃんに食べてもらい体から切り離す。
 ばくちゃんの食べる量にも限界があった為、後の作業員は出来る限りピッキングを使って取り外そうと凜は試みていたが、戻ってきた作業員の話で、器具の拘束部、そして起動スイッチは装着した者の任意で行えることを聞いていたようだった。
 他作業員を含めれば、かなりの人数を搬送する必要がある為、奏空は近隣の病院へと連絡していた。
 しかしながら、比較的体調の良い作業員ですらも浮かない表情をしている。昏睡状態の座間をAAAに突き出せば、この建設工事も滞る。そうなれば、作業員達は賃金を得られなくなってしまうからだ。
「職安か福祉の窓口を紹介してもらえるよう、F.i.V.E.に掛け合ってみるんよ」
「お爺様に会社で使ってもらえないか頼んでみますわ」
 凜やいのりがそんな提案を持ちかける。いのりの祖父は財閥会長だということだ。ただ、斡旋はすれど、そこからは自分で頑張るしかないといのりは告げる。
「少なくとも、ブラック企業では無いから安心して欲しいですわ」
 そうあってほしいと、女性従業員がようやく本音を吐露してくれた。
 ブラック企業といえば。逝は現場にある事務所へと立ち入り、作業員の診断結果、健康診断書、勤務記録を集める。改竄が激しく、もはや書類としての体すらないものばかりだったが……。
「さーて、おっさんの勘が当たっているかどうか」
 労働中に義務化された、出所の怪しい装置の装着。この不思議は一体何なのか。先ほど紙に映し出した、東が鉄棒で従業員を叩く日常光景を目にしつつ逝は呟く。
 詰まるところ、ここが臨床実験場であると彼は踏んでいたのだ。ただのブラック企業である可能性も否めないが……。
 奏空は色々とやりたいことがあるようで、作業員や座間からあれこれと聞き出していたが、装置についても興味を抱いてこちらの様子を窺っていたようだ。
「博士に構造を調べて欲しいさね」
 己の抱く確証の為に。逝は回収した器具をじっと見つめるのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

リプレイ、公開です。
MVPは男性の保護に動いていただいたあなたへ。
追って、器具の分析を待ちたいと思います。
参加された皆様、
本当にありがとうございました!




 
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