<冷酷島>人の生きてゆけぬ島・導入章
●幸せが約束されなかった島
黎刻ニューアイランドシティは埋め立て地として新たに作られた複合住宅都市でした。
日本の多くが妖によって被害を受ける中、日本国土の外側に居住地を建設すれば安全になるのだという主張から建設されたその人工島は、政治家と市民たちが夢見たフロンティアだったのです。
学校、病院、警察署や消防署、スタジアムや自然公園、そして立ち並ぶマンションや一戸建ての住宅街。最新の技術で整えられたその人工島は、安息の地になるはずでした。
なるはずだと思っていたのは、人間だけだったようですが。
島の南側に位置する二階建ての建造物。その二階にフロアをもつ託児所『はぐくみ子供ハウス』は今、本来の用途を成していなかった。
カーテンで隠した窓から覗き込むように、子供がちらりと外を眺めた。
真ん中で破壊された橋と、海を挟んで向こう側に並ぶ砲車の列。海鳥がその上を飛んでいく。
「なにしてるの! やめなさい!」
職員らしき女性が子供をひっつかみ、カーテンを元に戻す。
カーテンの外。つまるところ屋外では、蜘蛛のような脚を生やした自動車の妖たちがギチギチと牙を鳴らして歩いている。幸いにもカーテンの動きには気づかなかったようだ。
気づかれたらどうなるのかを再現するかのように、ビジネス鞄を抱えた男が道路を走っていく。
それに気づいた妖は口から粘液のようなものを発射し、男に浴びせかけた。
浴びただけで身体の動きが弱まり、手足が焼けるような熱に晒される。どころか、全身がたちまちに燃え上がって男は転げ回った。
倒れた所へ妖が群がり、蜘蛛のような腕で突き刺して引き裂いていく。喰うでもなく遊ぶでもなく、ただ殺すためだけに動く。そんな妖たちである。
託児所の中で、女はへなへなと崩れ落ちた。
「本土はあんな近くに見えるのに……こんなにも遠いなんて」
室内には五人ほどの子供と、自分を含めて三人の職員。誰もが疲弊している。
施設の性質上大量に買い込んでいたお菓子やまだ通っている水道や電気のおかげでまだ生きていられるが、外の妖に気づかれれば皆殺しにされるだろう。
飢えて死ぬのを待つか、外へ出て殺されるのを待つか。選択が迫られている。
本来夢見ていた未来を裏切るように、冷酷に人々を殺していく島。
この島を人々は、恐怖を込めて『冷酷島』と呼んだ。
●長期的な戦闘作戦
「妖の集中的な発生によって立ち入りが禁止された島、通称『冷酷島』における長期的な妖討伐作戦を、ファイヴが引き受けることになりました」
ここはファイヴのブリーフィングルーム。集まった覚者たちに、夢見は島の地図を見せながら話を続けた。
「湾状の土地の中央に建設された人工島は三つの橋でアクセスが可能でしたが、妖の大規模発生により全ての橋を破壊。海や空を渡って侵攻しようとする妖を文字通りの水際で迎撃してなんとか周囲への影響を防いでいる状態です。しかしこの状況が長く続けば人類側が疲弊し、本土が侵略されてしまうでしょう。ですのでファイヴからチームを送り込み、内部の妖を倒す作戦が必要とされています」
ここから先の説明を受け持ったのは、夢見の久方 相馬(nCL2000004)だった。
「俺たちが担当するのは島の南側。民間人が取り残されている託児所だ」
地図を示し、その周囲を赤いマーカーで囲っていく。
「現在この建物周辺には妖がうろついていて救助に迎えない。まずは妖を倒し、救助可能な状態にすることが俺たちの任務にるな。状況が悪化したり、建物内に妖が入り込もうとするようなら、その場で民間人を庇って戦う必要性もでるかもしれない。そこは作戦次第だと思ってくれ」
妖は識別名称『走行凶気』。物質系妖R1。蜘蛛ににたフォルムをした自動車の妖だ。
基本的に複数で行動するため、一人相手にしたら後の全部が群がってくると考えた方がいいだろう。
「現場へはヘリによる直接降下で入る予定だ。周辺のエリアはよく舗装されているから戦闘には困らないだろうけど、いたずらに囲まれることには気をつけてくれ」
加えて、相馬はある資料をメンバーに配った。
「戦闘後には島内を探索するためのチームを派遣する。チームはこの依頼に参加したメンバー1人につき1チームつける予定だ。彼らは作戦終了後に役立ってくれるだろう。詳しくは付属の資料を見てくれ」
黎刻ニューアイランドシティは埋め立て地として新たに作られた複合住宅都市でした。
日本の多くが妖によって被害を受ける中、日本国土の外側に居住地を建設すれば安全になるのだという主張から建設されたその人工島は、政治家と市民たちが夢見たフロンティアだったのです。
学校、病院、警察署や消防署、スタジアムや自然公園、そして立ち並ぶマンションや一戸建ての住宅街。最新の技術で整えられたその人工島は、安息の地になるはずでした。
なるはずだと思っていたのは、人間だけだったようですが。
島の南側に位置する二階建ての建造物。その二階にフロアをもつ託児所『はぐくみ子供ハウス』は今、本来の用途を成していなかった。
カーテンで隠した窓から覗き込むように、子供がちらりと外を眺めた。
真ん中で破壊された橋と、海を挟んで向こう側に並ぶ砲車の列。海鳥がその上を飛んでいく。
「なにしてるの! やめなさい!」
職員らしき女性が子供をひっつかみ、カーテンを元に戻す。
カーテンの外。つまるところ屋外では、蜘蛛のような脚を生やした自動車の妖たちがギチギチと牙を鳴らして歩いている。幸いにもカーテンの動きには気づかなかったようだ。
気づかれたらどうなるのかを再現するかのように、ビジネス鞄を抱えた男が道路を走っていく。
それに気づいた妖は口から粘液のようなものを発射し、男に浴びせかけた。
浴びただけで身体の動きが弱まり、手足が焼けるような熱に晒される。どころか、全身がたちまちに燃え上がって男は転げ回った。
倒れた所へ妖が群がり、蜘蛛のような腕で突き刺して引き裂いていく。喰うでもなく遊ぶでもなく、ただ殺すためだけに動く。そんな妖たちである。
託児所の中で、女はへなへなと崩れ落ちた。
「本土はあんな近くに見えるのに……こんなにも遠いなんて」
室内には五人ほどの子供と、自分を含めて三人の職員。誰もが疲弊している。
施設の性質上大量に買い込んでいたお菓子やまだ通っている水道や電気のおかげでまだ生きていられるが、外の妖に気づかれれば皆殺しにされるだろう。
飢えて死ぬのを待つか、外へ出て殺されるのを待つか。選択が迫られている。
本来夢見ていた未来を裏切るように、冷酷に人々を殺していく島。
この島を人々は、恐怖を込めて『冷酷島』と呼んだ。
●長期的な戦闘作戦
「妖の集中的な発生によって立ち入りが禁止された島、通称『冷酷島』における長期的な妖討伐作戦を、ファイヴが引き受けることになりました」
ここはファイヴのブリーフィングルーム。集まった覚者たちに、夢見は島の地図を見せながら話を続けた。
「湾状の土地の中央に建設された人工島は三つの橋でアクセスが可能でしたが、妖の大規模発生により全ての橋を破壊。海や空を渡って侵攻しようとする妖を文字通りの水際で迎撃してなんとか周囲への影響を防いでいる状態です。しかしこの状況が長く続けば人類側が疲弊し、本土が侵略されてしまうでしょう。ですのでファイヴからチームを送り込み、内部の妖を倒す作戦が必要とされています」
ここから先の説明を受け持ったのは、夢見の久方 相馬(nCL2000004)だった。
「俺たちが担当するのは島の南側。民間人が取り残されている託児所だ」
地図を示し、その周囲を赤いマーカーで囲っていく。
「現在この建物周辺には妖がうろついていて救助に迎えない。まずは妖を倒し、救助可能な状態にすることが俺たちの任務にるな。状況が悪化したり、建物内に妖が入り込もうとするようなら、その場で民間人を庇って戦う必要性もでるかもしれない。そこは作戦次第だと思ってくれ」
妖は識別名称『走行凶気』。物質系妖R1。蜘蛛ににたフォルムをした自動車の妖だ。
基本的に複数で行動するため、一人相手にしたら後の全部が群がってくると考えた方がいいだろう。
「現場へはヘリによる直接降下で入る予定だ。周辺のエリアはよく舗装されているから戦闘には困らないだろうけど、いたずらに囲まれることには気をつけてくれ」
加えて、相馬はある資料をメンバーに配った。
「戦闘後には島内を探索するためのチームを派遣する。チームはこの依頼に参加したメンバー1人につき1チームつける予定だ。彼らは作戦終了後に役立ってくれるだろう。詳しくは付属の資料を見てくれ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の半数以上の討伐
2.民間人半数以上の生存
3.なし
2.民間人半数以上の生存
3.なし
●エネミーデータ
『走行凶気』×12体
蜘蛛のようなフォルムをした自動車の妖です。
物質系妖ランク1
燃焼粘液:遠単【火傷】【鈍化】:燃える粘液を吐きつけます。粘液で動きを弱めるだけでなく熱で焼く効果をもちます。
格闘:近単:足や腕で突き刺したり、自重を利用して体当たりをしかけたりします。
登攀能力:壁や天井を普通に登ることが出来ます
共感:半径50m以内の同じ妖と意識を共有しており、一体が感じたことは他全てが認識します。
●シチュエーションデータ
託児所とその周辺です。
託児所は二階建てで一階がコンビニ、二階が託児所となっています。
二階へ上がるための屋内階段が狭いので妖が入りづらいですが、その気になれば二階へよじ登って窓や壁を破壊しながら侵入できてしまいます。(もし侵入されるとしたら全方位から来るという意味です)
一応屋上に上がることもできますが、当然無防備です。
立地としては大きな十字路の角っこに面した建物で、脇は自動車が二十台はとまれる駐車場になっています。また道路を挟んだ南側には100台キャパの駐車場があります。
主な戦闘エリアはこの道路か駐車場になるでしょう。
また、降下作戦という都合上『着地する場所』をある程度指定することができます。
建物の屋上や側面駐車場。離れた道路や、道路を挟んだ先の駐車場などです。
●後続部隊の行動選択
皆さんには1人につき1チームの後続部隊がついています。AAA・ファイヴ・中途採用組などから混成された汎用チームで、調査研究戦術その他諸々の専門家が集まっています。
後続部隊は依頼完了後に行動し、妖の探索や掃討、特定事件の捜査を行ないます。
EXプレイング内にて以下の内からひとつの行動を選択して『A:周辺探索』や
『C:(指定内容)』というように記入して下さい。
・A:周辺探索
戦闘後に残された痕跡や周辺の状態を探索します。
今回関わった事件と同タイプの依頼が出やすくなります。
・B:残敵掃討
戦闘後に周辺を回ってとにかく妖を倒していきます。
今回関わった事件と同タイプの依頼が出にくくなります。
・C:特定捜査
島内において特定の事件を専門に調査します。
どんな事件を捜査して欲しいかを指定してください。
(※EXプレイング内にない内容は反映されません)
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年04月02日
2017年04月02日
■メイン参加者 6人■

●もしかしたら、なるはずだった日本の姿
ヘリの音に耳が慣れてきた頃、外をはしる暴風も気にならなくなってくる。
けれど、窓から見下ろす地獄めいた風景には、決して慣れることはなかった。
遠くのビルは煙をふいて、巨大な怪鳥めいた妖がむらがっている。
ドーム状のスタジアムには粘液がわらわらと集まっては多様な形をとっていて、中央に固まったものは凝り固まった人骨だという。
二両連結式のバスがねじくれたムカデと化し、畑は魔境と化している。
まるで島全体が化けて出たような、妖だらけの土地である。
「『妖のいない島』って売り文句が、どうしてこんなことに……こんなの酷すぎるッス! 生きるためにナワバリ作るならともかく、殺すためだけに増えるなんてあんまりッス!」
窓に張り付き、ひたすらに悪態をつく『突撃爆走ガール』葛城 舞子(CL2001275)。
至極最もな、この世の誰もが抱くであろう感想である。
というより……日本に住む人々はあまりに『こうなる危険性』から目を背けすぎていたのではなかろうか。そう思えるほどの光景だった。
「しかし、これだけの妖が局地的に、しかも一斉に現われたというのは不思議ですな。なにか外的要因があるように思います」
一方でどこか落ち着いた様子でシートに腰掛ける『教授』新田・成(CL2000538)。
じゃが○こをリスみたいにこりこり囓る遊びに興じていた『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がもしゃもしゃしながら振り返る。
「あっ、プロフェッサーもそう思う? ってか皆そう思ってるよね。絶対原因知りたいはずだよね」
「それも気になるけど、まずは目の前のことからだよね」
行儀良く膝の上に手を置いていた『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は、目的の託児所が近づいてきたことに気づいて顔を上げた。
まずは目の前のこと。
百歩先へ行くには、一歩踏み出さねばならない。それをおろそかにすれば二歩目から先を失うことだってある。こんな場所なら、尚のこと。
「託児所か。本来は安心できる場所であるはずなのに、皮肉なことだね」
こんな皮肉は今にも取り払わねばならぬ。そう言わんばかりに『ニュクスの羽風』如月・彩吹(CL2001525)はしずかに立ち上がる。
皆ベルトを外し、降下装置を装着していた。
がらりと扉を開ける。
慣れたはずの暴風が、より一層に耳についた。まるで自分たちをかきだそうとする悪魔の手だ。
「みんな知ってるかい? 実は余は代々高いところニガ――ハアァァァァァン!?」
早く行けとばかりに舞子に蹴り出されたプリンス。
『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は落ちていくプリンスを見てから、両手をグーにして飛ぶ心構えをとった。
「こんなに、妖だらけの中に取り残されちゃうのは、恐いよね。だから……」
がんばらなきゃ。
そこから先は声に出さず。吸った息を胸に込めたままジャンプした。
●『そこまでだ』と言うがため
覚者による覚醒行為は体力でも気力でもない何かを消耗するものであり、普段からその状態を維持することはないだろう、と専門家は話す。
では、覚醒すべき時とはいつか。
それは。
「今――ッ!」
両手両足を広げて自由落下していた御菓子は自らを青白いキラキラに包み込み衣装を楽団のユニフォームへとチェンジした。
胸のヒモを引いてマルチパラシュートを段階的に開いていく。
最後は空圧をかけて落下の衝撃を殺すのだが、派手に落ちてきた彼女を絶好の殺害対象とみた妖たちがわらわらと落下地点に集まっていた。
足下が邪魔なら払わねばならぬ。
御菓子はヴィオラの弓だけを守護使役から引っ張り出すと、まるで指揮棒を振るように空をかいた。軌跡が水の線となり、ふくらんで蛇となり、やがて竜となって妖たちへと飛んでいく。
そうしてできあがった螺旋状のポケットめがけ――。
「葛木舞子――開眼ッス!」
水の竜に紛れて強引に着地した舞子が、降下装置を高速パージ。
手の中に作ったメンコサイズの氷の板を振り上げると、地面に思い切り叩き付けた。
「ハナシも聞かない妖めっ、これでも食らうッス!」
途端に巻き起こる水の爆発。波紋を広げるかのように何重にも巻き起こった術式性の水流に、妖たちは身を屈めて流されないようにこらえていた。
「ヤーヤーヤー、とおからんものは音にきけー! 余はグレイブル第二の――」
駐車してあるマイクロバスの上に着地していたプリンス……を無視して、妖たちが舞子に集中していた。
「聞いて! 振りかざすよ? 権力ふりかざすよ!?」
とか言いながらハンマーを振りかざしたプリンスはジャンプ一発、妖を着地アンドハンマーアタックでたたきつぶすと、その衝撃でもって周囲の妖をひっくり返した。
蜘蛛脚をがちゃがちゃと振り回して起き上がる妖の群れに、さすがにキモいなと思うプリンスである。
一拍分遅れて着地したミュエルは電柱の上で器用にバランスを取ると、どこからともなく花かごを取り出した。
「はき出す粘液には、注意してね」
籠いっぱいの花びらを掴んで、挙式でも祝うかのように派手にまき散らしていく。
高いところに陣取ったミュエルを打ち落とそうと妖たちが粘液を放つが、まき散らされた花びらとそこから大気中に広がった成分によって中和され、ちょっとオイル臭いだけの液体になっていく。
一方。
「……ふむ」
降下装置を途中で強制パージした成はスーパーヒーロー着地で託児所の屋上に降り立っていた。
先に四人組が南側の駐車場に集まったおかげで、周囲の妖たちはこぞって彼らに群がっている。
この辺は知能の低いランク1妖ならではの素直さである。疑うことを知っている人間相手だとこうはいかない。
しかし、時としてその素直さが邪魔な時もある。
まっすぐ進む上に壁を普通に登ることができるので、迂回するより乗り越えちゃったほうが早いような位置にいる妖たちが託児所へ近づいてしまうのだ。
そうなれば内部の子供たちに気づいてしまうかもしれない。いざとなれば戦うつもりでここに下りたが、本当に妖に群がられたら全て一人で守り切るのは不可能だ。たちまち子供たちが命を散らすだろう。
……という一連のことを、考えない彼らではない。
「おまたせ。こっちは私が引き受けるよ」
翼を広げ、鷹が獲物を狩るように妖を斬りつけていく彩吹。
くるくると回転して空に対空すると、とびかかる妖を器用なスライド飛行で回避した。
「誘導も、任せておいて」
彩吹は適度なヒットアンドアウェイを仕掛けながら妖が託児所を迂回するように誘導していく。
成はハンドサインで礼を言うと、そのまま屋上に身を潜めた。
●愛を知らぬ者どもよ、言いたいことがあるぞ
交差し、群がり、アスファルトの地面を削りながら迫る巨大な蜘蛛がいるとする。鋼のボディと無人の自動車が変異したそれは、『走行凶気』と名付けられた妖の群れである。
人を殺すためだけに動き、人を殺すためだけに生まれたそれを、妖を呼んでいる。
「っしゃおらー! かかってこいッス!」
腕まくりした舞子。水の術式を先端に纏わせた矢を三本同時にホルダーから引っこ抜くと、一発一発連射していく。
一発目が妖のフロントガラスを抜き、眼前まで迫った所で二発目をヘッドライトを貫き……ながらあえてダッシュで接近。スライディングで真下を抜けて背後をとると、額に開いたサードアイから横ピース越しにビームを放った。
体力を失って倒れる妖。力を失ったことでへこんだ誰かの廃車となり、その場に横転したまま停止する。
倒した妖がそのまま遮蔽物となるのだ。
乱射してくる妖の粘液を、御菓子はこの廃車を盾にしてガードした。
廃車を乗り越えて見下ろしてくる妖。ヘッドライトが妖しく光り、後退しようとする御菓子の背後にもまた妖が回り込んでいた。
敵に囲まれた状態……でありながら。
ヴィオラを取り出し、弓を弦に添える。
ピッと背筋を伸ばすと、御菓子は演奏を始めた。
リズミカルに歩きながらの演奏――を遮らんばかりに繰り出された腕(蜘蛛でいう触股部分)をターンステップでかわしていく。
更にターンした所でミュエルが割り込み、ついさきほど御菓子の頭があった空間に鋭利な杖を突き込んだ。
不意を突かれた形になった妖のバンパーを貫いていく杖。
足払いのように放たれた腕をジャンプで回避し、刺さった杖を足場にして更にジャンプ。
妖たちの頭上をとると、ミュエルはミツバチめいた守護使役を顕現。お腹をぽんと叩いてやると、守護使役の口から大量の花びらが放出された。
花びらは意志を持つかのように妖のパーツの隙間隙間へ入り込み、次々に部位を腐食させていく。ついには自重に耐えきれずに足が折れ、妖たちは御菓子とミュエルの前に跪くことになった。
蜘蛛の子を散らすという言葉があって、虫けら程度の知能といえども不利を察することがある。
落ちてきた人間を群れで襲って喰う(この場合捕食ではなく単純な破壊をさす)つもりだったのが、圧倒的なパワーで自らが蹴散らされたとなれ……やはり撤退を考える個体も現われるのだ。
明後日の方向に逃げるなら後回しでもいいのだが、それがよりによって託児所方面となると放ってはおけない。
「ニポンの車は安全で低燃費って聞いたのに暴走しっぱなしじゃない!? アイサイト機能はどこいったの! メッ!」
プリンスは逃げ出した妖を追いかけて走り出した。
追いかけるもの逃げるもの。妖はそのまま託児所を目指すのだが――。
「鬼ごっこかい? 逃がさないよ」
手の中に空圧の手裏剣を作った彩吹は、逃げ去る妖の足めがけて鋭く放った。
後ろから撃たれた兵士が逃げ切れることなどそうそうない。妖はバランスを崩してバンパーから地面に激突。火花を散らしながら滑った所を、大ジャンプをかけけたプリンスのハンマープレスによってルーフ部分がべっこりいった。
これで全部か。何体倒したのか数えよう……とした途端、妖の死体(現実的に述べるならただの廃車である)の中からまだ無事な妖が飛び出した。
更に都合の悪いことに、助かったと思い込んだ子供が窓を開けて手を振っているではないか。
一番殺しやすい個体だと判断したのか、それとも壊れかけた目にその個体しか映らなかったのか、妖は一目散に託児所へと走り出す。
仲間たちの攻撃をジャンプでかわし、プリンスのハンマースイングをも飛び越えた妖は悲鳴をあげる子供へと勢いよく飛びかかる――が、しかし。
「伏兵を疑わないとは」
光と風が駆け抜け、影がアスファルトをかすめた。
気づいたときには成が『止まれ』と書かれた道路の上に立っていた。
「いや、本来なら……無駄になったほうが良かったのかもしれませんな」
僅かに開いた仕込み杖をかちんと納めたその瞬間、背後で妖が真っ二つに切断され、斬新な廃車となった。
「出てこないようにと言ったのに……まあ、いいでしょう」
●修羅の庭で甘いキャンディを探そうか
「よく頑張ったね。えらいえらい」
身を屈め、子供の頭を撫でてやる彩吹。
彼女の出した飴を、子供はおそるおそる両手で受け取った。
ここは島から海を挟んだこちら側。島外に妖が出てこないようにと組まれた防衛ライン上である。
突入に用いたヘリとは別に避難用のヘリ(オスプレイの発展機で、頑丈で安定するうえ50人くらい乗れるというヒノマルからの転用品である)で降り立った子供たちは、安全圏に来たことを実感していた。
呆然とする子もいれば、泣き出す子もいる。連絡手段を失ったことで親が島内にいるか島外にいるか分からないという子供も多かった。
救った命でありつつ、救ってまだ続く命である。
ミュエルはアロマキャンドルに火をともして、まずは暖かいハーブティーを入れてやった。
「みんなよく耐えたッス! 職員さんたちも、偉いッス!」
舞子も紙コップをトレーで運びながら、職員にまでいいこいいこしていた。
自分たちが居なければ子供たちが即座にでも死ぬ環境で、かなり気を張っていたのだろう。それこそ泣き崩れることも珍しくなかった。
「こんな時は笑顔ですよ。子供は大人の様子をちゃんと見ているんです。頼りにしている人が不安定では、心細くなっちゃいますから」
御菓子はそう言って楽器を取り出すと演奏し始めた。
「…………」
そんな一連の様子を、プリンスは腕組みをして眺めていた。
普段から駄菓子さくさくしてるような彼にしては難しい表情である。
彼の思うことを察してか、成がそっとそばに立った。
「頼りにしている人が不安定では、心細い。それは大人にも言えることでしょう。この日本は、安全神話に頼るには危険すぎる。そんなとき私たちは、どんな存在になれるでしょうね」
「……うん、プロフェッサー。ひとつだけ相談してもいい?」
「なんなりと」
「子供たち一人につき150円しかないんだけど、んまい棒で喜んでくれるかな」
「……器の大きな方だ」
振り返ると、島には無数の妖がうごめいているのが分かる。
自分たちはこんな時、どんな存在になれるだろう。
ヘリの音に耳が慣れてきた頃、外をはしる暴風も気にならなくなってくる。
けれど、窓から見下ろす地獄めいた風景には、決して慣れることはなかった。
遠くのビルは煙をふいて、巨大な怪鳥めいた妖がむらがっている。
ドーム状のスタジアムには粘液がわらわらと集まっては多様な形をとっていて、中央に固まったものは凝り固まった人骨だという。
二両連結式のバスがねじくれたムカデと化し、畑は魔境と化している。
まるで島全体が化けて出たような、妖だらけの土地である。
「『妖のいない島』って売り文句が、どうしてこんなことに……こんなの酷すぎるッス! 生きるためにナワバリ作るならともかく、殺すためだけに増えるなんてあんまりッス!」
窓に張り付き、ひたすらに悪態をつく『突撃爆走ガール』葛城 舞子(CL2001275)。
至極最もな、この世の誰もが抱くであろう感想である。
というより……日本に住む人々はあまりに『こうなる危険性』から目を背けすぎていたのではなかろうか。そう思えるほどの光景だった。
「しかし、これだけの妖が局地的に、しかも一斉に現われたというのは不思議ですな。なにか外的要因があるように思います」
一方でどこか落ち着いた様子でシートに腰掛ける『教授』新田・成(CL2000538)。
じゃが○こをリスみたいにこりこり囓る遊びに興じていた『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がもしゃもしゃしながら振り返る。
「あっ、プロフェッサーもそう思う? ってか皆そう思ってるよね。絶対原因知りたいはずだよね」
「それも気になるけど、まずは目の前のことからだよね」
行儀良く膝の上に手を置いていた『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は、目的の託児所が近づいてきたことに気づいて顔を上げた。
まずは目の前のこと。
百歩先へ行くには、一歩踏み出さねばならない。それをおろそかにすれば二歩目から先を失うことだってある。こんな場所なら、尚のこと。
「託児所か。本来は安心できる場所であるはずなのに、皮肉なことだね」
こんな皮肉は今にも取り払わねばならぬ。そう言わんばかりに『ニュクスの羽風』如月・彩吹(CL2001525)はしずかに立ち上がる。
皆ベルトを外し、降下装置を装着していた。
がらりと扉を開ける。
慣れたはずの暴風が、より一層に耳についた。まるで自分たちをかきだそうとする悪魔の手だ。
「みんな知ってるかい? 実は余は代々高いところニガ――ハアァァァァァン!?」
早く行けとばかりに舞子に蹴り出されたプリンス。
『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は落ちていくプリンスを見てから、両手をグーにして飛ぶ心構えをとった。
「こんなに、妖だらけの中に取り残されちゃうのは、恐いよね。だから……」
がんばらなきゃ。
そこから先は声に出さず。吸った息を胸に込めたままジャンプした。
●『そこまでだ』と言うがため
覚者による覚醒行為は体力でも気力でもない何かを消耗するものであり、普段からその状態を維持することはないだろう、と専門家は話す。
では、覚醒すべき時とはいつか。
それは。
「今――ッ!」
両手両足を広げて自由落下していた御菓子は自らを青白いキラキラに包み込み衣装を楽団のユニフォームへとチェンジした。
胸のヒモを引いてマルチパラシュートを段階的に開いていく。
最後は空圧をかけて落下の衝撃を殺すのだが、派手に落ちてきた彼女を絶好の殺害対象とみた妖たちがわらわらと落下地点に集まっていた。
足下が邪魔なら払わねばならぬ。
御菓子はヴィオラの弓だけを守護使役から引っ張り出すと、まるで指揮棒を振るように空をかいた。軌跡が水の線となり、ふくらんで蛇となり、やがて竜となって妖たちへと飛んでいく。
そうしてできあがった螺旋状のポケットめがけ――。
「葛木舞子――開眼ッス!」
水の竜に紛れて強引に着地した舞子が、降下装置を高速パージ。
手の中に作ったメンコサイズの氷の板を振り上げると、地面に思い切り叩き付けた。
「ハナシも聞かない妖めっ、これでも食らうッス!」
途端に巻き起こる水の爆発。波紋を広げるかのように何重にも巻き起こった術式性の水流に、妖たちは身を屈めて流されないようにこらえていた。
「ヤーヤーヤー、とおからんものは音にきけー! 余はグレイブル第二の――」
駐車してあるマイクロバスの上に着地していたプリンス……を無視して、妖たちが舞子に集中していた。
「聞いて! 振りかざすよ? 権力ふりかざすよ!?」
とか言いながらハンマーを振りかざしたプリンスはジャンプ一発、妖を着地アンドハンマーアタックでたたきつぶすと、その衝撃でもって周囲の妖をひっくり返した。
蜘蛛脚をがちゃがちゃと振り回して起き上がる妖の群れに、さすがにキモいなと思うプリンスである。
一拍分遅れて着地したミュエルは電柱の上で器用にバランスを取ると、どこからともなく花かごを取り出した。
「はき出す粘液には、注意してね」
籠いっぱいの花びらを掴んで、挙式でも祝うかのように派手にまき散らしていく。
高いところに陣取ったミュエルを打ち落とそうと妖たちが粘液を放つが、まき散らされた花びらとそこから大気中に広がった成分によって中和され、ちょっとオイル臭いだけの液体になっていく。
一方。
「……ふむ」
降下装置を途中で強制パージした成はスーパーヒーロー着地で託児所の屋上に降り立っていた。
先に四人組が南側の駐車場に集まったおかげで、周囲の妖たちはこぞって彼らに群がっている。
この辺は知能の低いランク1妖ならではの素直さである。疑うことを知っている人間相手だとこうはいかない。
しかし、時としてその素直さが邪魔な時もある。
まっすぐ進む上に壁を普通に登ることができるので、迂回するより乗り越えちゃったほうが早いような位置にいる妖たちが託児所へ近づいてしまうのだ。
そうなれば内部の子供たちに気づいてしまうかもしれない。いざとなれば戦うつもりでここに下りたが、本当に妖に群がられたら全て一人で守り切るのは不可能だ。たちまち子供たちが命を散らすだろう。
……という一連のことを、考えない彼らではない。
「おまたせ。こっちは私が引き受けるよ」
翼を広げ、鷹が獲物を狩るように妖を斬りつけていく彩吹。
くるくると回転して空に対空すると、とびかかる妖を器用なスライド飛行で回避した。
「誘導も、任せておいて」
彩吹は適度なヒットアンドアウェイを仕掛けながら妖が託児所を迂回するように誘導していく。
成はハンドサインで礼を言うと、そのまま屋上に身を潜めた。
●愛を知らぬ者どもよ、言いたいことがあるぞ
交差し、群がり、アスファルトの地面を削りながら迫る巨大な蜘蛛がいるとする。鋼のボディと無人の自動車が変異したそれは、『走行凶気』と名付けられた妖の群れである。
人を殺すためだけに動き、人を殺すためだけに生まれたそれを、妖を呼んでいる。
「っしゃおらー! かかってこいッス!」
腕まくりした舞子。水の術式を先端に纏わせた矢を三本同時にホルダーから引っこ抜くと、一発一発連射していく。
一発目が妖のフロントガラスを抜き、眼前まで迫った所で二発目をヘッドライトを貫き……ながらあえてダッシュで接近。スライディングで真下を抜けて背後をとると、額に開いたサードアイから横ピース越しにビームを放った。
体力を失って倒れる妖。力を失ったことでへこんだ誰かの廃車となり、その場に横転したまま停止する。
倒した妖がそのまま遮蔽物となるのだ。
乱射してくる妖の粘液を、御菓子はこの廃車を盾にしてガードした。
廃車を乗り越えて見下ろしてくる妖。ヘッドライトが妖しく光り、後退しようとする御菓子の背後にもまた妖が回り込んでいた。
敵に囲まれた状態……でありながら。
ヴィオラを取り出し、弓を弦に添える。
ピッと背筋を伸ばすと、御菓子は演奏を始めた。
リズミカルに歩きながらの演奏――を遮らんばかりに繰り出された腕(蜘蛛でいう触股部分)をターンステップでかわしていく。
更にターンした所でミュエルが割り込み、ついさきほど御菓子の頭があった空間に鋭利な杖を突き込んだ。
不意を突かれた形になった妖のバンパーを貫いていく杖。
足払いのように放たれた腕をジャンプで回避し、刺さった杖を足場にして更にジャンプ。
妖たちの頭上をとると、ミュエルはミツバチめいた守護使役を顕現。お腹をぽんと叩いてやると、守護使役の口から大量の花びらが放出された。
花びらは意志を持つかのように妖のパーツの隙間隙間へ入り込み、次々に部位を腐食させていく。ついには自重に耐えきれずに足が折れ、妖たちは御菓子とミュエルの前に跪くことになった。
蜘蛛の子を散らすという言葉があって、虫けら程度の知能といえども不利を察することがある。
落ちてきた人間を群れで襲って喰う(この場合捕食ではなく単純な破壊をさす)つもりだったのが、圧倒的なパワーで自らが蹴散らされたとなれ……やはり撤退を考える個体も現われるのだ。
明後日の方向に逃げるなら後回しでもいいのだが、それがよりによって託児所方面となると放ってはおけない。
「ニポンの車は安全で低燃費って聞いたのに暴走しっぱなしじゃない!? アイサイト機能はどこいったの! メッ!」
プリンスは逃げ出した妖を追いかけて走り出した。
追いかけるもの逃げるもの。妖はそのまま託児所を目指すのだが――。
「鬼ごっこかい? 逃がさないよ」
手の中に空圧の手裏剣を作った彩吹は、逃げ去る妖の足めがけて鋭く放った。
後ろから撃たれた兵士が逃げ切れることなどそうそうない。妖はバランスを崩してバンパーから地面に激突。火花を散らしながら滑った所を、大ジャンプをかけけたプリンスのハンマープレスによってルーフ部分がべっこりいった。
これで全部か。何体倒したのか数えよう……とした途端、妖の死体(現実的に述べるならただの廃車である)の中からまだ無事な妖が飛び出した。
更に都合の悪いことに、助かったと思い込んだ子供が窓を開けて手を振っているではないか。
一番殺しやすい個体だと判断したのか、それとも壊れかけた目にその個体しか映らなかったのか、妖は一目散に託児所へと走り出す。
仲間たちの攻撃をジャンプでかわし、プリンスのハンマースイングをも飛び越えた妖は悲鳴をあげる子供へと勢いよく飛びかかる――が、しかし。
「伏兵を疑わないとは」
光と風が駆け抜け、影がアスファルトをかすめた。
気づいたときには成が『止まれ』と書かれた道路の上に立っていた。
「いや、本来なら……無駄になったほうが良かったのかもしれませんな」
僅かに開いた仕込み杖をかちんと納めたその瞬間、背後で妖が真っ二つに切断され、斬新な廃車となった。
「出てこないようにと言ったのに……まあ、いいでしょう」
●修羅の庭で甘いキャンディを探そうか
「よく頑張ったね。えらいえらい」
身を屈め、子供の頭を撫でてやる彩吹。
彼女の出した飴を、子供はおそるおそる両手で受け取った。
ここは島から海を挟んだこちら側。島外に妖が出てこないようにと組まれた防衛ライン上である。
突入に用いたヘリとは別に避難用のヘリ(オスプレイの発展機で、頑丈で安定するうえ50人くらい乗れるというヒノマルからの転用品である)で降り立った子供たちは、安全圏に来たことを実感していた。
呆然とする子もいれば、泣き出す子もいる。連絡手段を失ったことで親が島内にいるか島外にいるか分からないという子供も多かった。
救った命でありつつ、救ってまだ続く命である。
ミュエルはアロマキャンドルに火をともして、まずは暖かいハーブティーを入れてやった。
「みんなよく耐えたッス! 職員さんたちも、偉いッス!」
舞子も紙コップをトレーで運びながら、職員にまでいいこいいこしていた。
自分たちが居なければ子供たちが即座にでも死ぬ環境で、かなり気を張っていたのだろう。それこそ泣き崩れることも珍しくなかった。
「こんな時は笑顔ですよ。子供は大人の様子をちゃんと見ているんです。頼りにしている人が不安定では、心細くなっちゃいますから」
御菓子はそう言って楽器を取り出すと演奏し始めた。
「…………」
そんな一連の様子を、プリンスは腕組みをして眺めていた。
普段から駄菓子さくさくしてるような彼にしては難しい表情である。
彼の思うことを察してか、成がそっとそばに立った。
「頼りにしている人が不安定では、心細い。それは大人にも言えることでしょう。この日本は、安全神話に頼るには危険すぎる。そんなとき私たちは、どんな存在になれるでしょうね」
「……うん、プロフェッサー。ひとつだけ相談してもいい?」
「なんなりと」
「子供たち一人につき150円しかないんだけど、んまい棒で喜んでくれるかな」
「……器の大きな方だ」
振り返ると、島には無数の妖がうごめいているのが分かる。
自分たちはこんな時、どんな存在になれるだろう。
