【N.C.D】価値
●
大型のヘリが一機、FiVEのヘリポートで、羽根を回転させていた。
「さて、戦況予報するよ」
『Murky Prophet』西園寺・護(nCL2000129)は、ヘリの中へ覚者達を集め、微笑みで出迎えた。
早速と一同の中央に大きめのタブレット端末を差し出す。
そこに写っていたのは鉄条網に覆われた施設だ。
「ここは西園寺工業の施設でね、いろんな技術の研究をしてるんだ。今日、これから搬入予定の物があって、それが今回の問題だよ」
次に映し出されたのは機械的な強化服だ。
それは以前、レタルを連れ帰る際に起きた最後の戦いに現れたものと酷似する。
これを纏った隔者は、身体能力が強化され、体術において優位に立てる。
敵が纏っていたのと細部は異なるが、一番大きな違いは真っ白な色合いだろう。
更に、肩に三つ巴を元にされた西園寺工業のロゴが描かれていたりと、所々が異なっていた。
「どこから嗅ぎつけたのか、これを狙って隔者がやってくる夢を見たんだよね。数は6人、それぞれ札付きの悪党だね。皆にはこれを奪われないようにしてほしいんだ」
目的は伝わったが、誰かが護に問いかける。
何故敵側の装備をわざわざ作ったのか? そう問われるだろうと思っていたのか、苦笑いを浮かべながら、敵の装備から想定される情報へと映像を切り替える。
「この強化服を何で作ったのか……それを探ろうと思ってる」
現時点の科学の粋を集めた身体強化で筋力を強化したことで攻撃力と回避力の強化は成功している。
だが、この装備では五行の力が使えず、実質封印に近いそうだ
更に護は眉をひそめ、小首をかしげつつ続ける。
回避の反動でダメージを受ける。
体術系メインの強化であり、誰でも使えるわけでもない。
メンテナンスやパーツ交換にとても金をかける。
しかも、これを運用しているのは憤怒者の組織だ。
何故彼等は排除すべき存在の、それも手間が多い装備を開発したのだろうか?
「これの本来の目的って、多分違うところにあると思うんだよね。だから探らせないために……敵側がこっちの情報を探って、敵を差し向けたんじゃないかなってね」
そこはあくまで予想としか断言できないが、そうだと考えるなら、このタイミングでの強襲は納得がいく。
今は到着までに作戦を考える必要があるだろう。
●
「くそっ!?」
ヘリポート傍の鉄条網を突き破り、着陸したヘリを狙う隔者。
しかし、苛立ちを露わに建物の上を睨みつけた。
仲間の一人が再びヘリポートへと突撃を開始すると、遠くから地響きの様に重たい音が響く。
ガァンッ!! 激しい音を響かせて飛び出した隔者の頭に何かが当たると、身体が大きくのけぞりながら後方へと吹き飛ばされ、地面を転がる。
地面を一度跳ね、うつ伏せに倒れた身体は意外にも機敏な動きで起き上がり、コンテナの影に滑り込んだ。
「うぜぇな……っ! これじゃ近づき辛ぇ」
「だからタイミングを合わせろって言ってんだろうが! テメェ一人で突っ込んで、転がってたら意味ねぇんだよ!」
傍に居た他の隔者が苛立ちに苛立ちを叩き返す、やるのか!? と一触即発の雰囲気が立ち込めれば、他の男がコンテナを殴りつける。
ゴォンッ! と重たくも高く響く金属音が、二人の言葉を強引に遮って彼に視線を集中させる。
「黙れ糞ガキども! これ以上勝手に喚くと、テメェをバラしてからいくぞ! 嫌だったら俺に馬鹿みたいに従ってついてこい! このゴミクズ共が!」
ガキ呼ばわれした二人は、舌打ちをしながらも口を噤み、彼の言葉を待つ。
他の仲間が、近くのコンテナを盾に近くまで到達するのにもう少し時間がかかる。
それを待ってから、一気にヘリに取り付く。
なぜか分からないが、衝撃は強いが殺傷能力は皆無の攻撃だ。
冷静に動けばこちらに分があると、リーダー格の男は冷静に苛立ちを原動力の炎へと変えていく。
「マジかよ、覚者……いや、隔者か、あいつら。発現した奴ってのはスゲェもんだな」
ビルの上にいたのは、護のお付きとして傍に居た初老の男、袋田である。
白髪交じりの短い髪に、皺の増えてきた老け顔、そして何を考えているかわからない薄ら笑みの張り付いた表情。
しがない中年会社員といった雰囲気だが、体つきを含めるなら別だ。
程よく引き締まった身体に、太い四肢に首と、戦うための体つきをしている。
ビルの上で依託射撃で隔者を牽制しているのも彼だ。
20mmもある太さの弾丸を放つ対物ライフルで、覚者達を後ろへ追いやっているのだ。
相手の足並みが止まったところへ、輸送ヘリが迫るのが視野に収まる。
降下中の時間稼ぎに、残弾を適度に連射しながら派手に音を立て、動きを制していく。
「任せたぜぇ、皆さんよ!」
役目を終えればライフルを担いで、一目散に逃げ出す。
肝心要の戦いは駆けつけた覚者に託し、悪夢を断つ戦いが今始まる。
大型のヘリが一機、FiVEのヘリポートで、羽根を回転させていた。
「さて、戦況予報するよ」
『Murky Prophet』西園寺・護(nCL2000129)は、ヘリの中へ覚者達を集め、微笑みで出迎えた。
早速と一同の中央に大きめのタブレット端末を差し出す。
そこに写っていたのは鉄条網に覆われた施設だ。
「ここは西園寺工業の施設でね、いろんな技術の研究をしてるんだ。今日、これから搬入予定の物があって、それが今回の問題だよ」
次に映し出されたのは機械的な強化服だ。
それは以前、レタルを連れ帰る際に起きた最後の戦いに現れたものと酷似する。
これを纏った隔者は、身体能力が強化され、体術において優位に立てる。
敵が纏っていたのと細部は異なるが、一番大きな違いは真っ白な色合いだろう。
更に、肩に三つ巴を元にされた西園寺工業のロゴが描かれていたりと、所々が異なっていた。
「どこから嗅ぎつけたのか、これを狙って隔者がやってくる夢を見たんだよね。数は6人、それぞれ札付きの悪党だね。皆にはこれを奪われないようにしてほしいんだ」
目的は伝わったが、誰かが護に問いかける。
何故敵側の装備をわざわざ作ったのか? そう問われるだろうと思っていたのか、苦笑いを浮かべながら、敵の装備から想定される情報へと映像を切り替える。
「この強化服を何で作ったのか……それを探ろうと思ってる」
現時点の科学の粋を集めた身体強化で筋力を強化したことで攻撃力と回避力の強化は成功している。
だが、この装備では五行の力が使えず、実質封印に近いそうだ
更に護は眉をひそめ、小首をかしげつつ続ける。
回避の反動でダメージを受ける。
体術系メインの強化であり、誰でも使えるわけでもない。
メンテナンスやパーツ交換にとても金をかける。
しかも、これを運用しているのは憤怒者の組織だ。
何故彼等は排除すべき存在の、それも手間が多い装備を開発したのだろうか?
「これの本来の目的って、多分違うところにあると思うんだよね。だから探らせないために……敵側がこっちの情報を探って、敵を差し向けたんじゃないかなってね」
そこはあくまで予想としか断言できないが、そうだと考えるなら、このタイミングでの強襲は納得がいく。
今は到着までに作戦を考える必要があるだろう。
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「くそっ!?」
ヘリポート傍の鉄条網を突き破り、着陸したヘリを狙う隔者。
しかし、苛立ちを露わに建物の上を睨みつけた。
仲間の一人が再びヘリポートへと突撃を開始すると、遠くから地響きの様に重たい音が響く。
ガァンッ!! 激しい音を響かせて飛び出した隔者の頭に何かが当たると、身体が大きくのけぞりながら後方へと吹き飛ばされ、地面を転がる。
地面を一度跳ね、うつ伏せに倒れた身体は意外にも機敏な動きで起き上がり、コンテナの影に滑り込んだ。
「うぜぇな……っ! これじゃ近づき辛ぇ」
「だからタイミングを合わせろって言ってんだろうが! テメェ一人で突っ込んで、転がってたら意味ねぇんだよ!」
傍に居た他の隔者が苛立ちに苛立ちを叩き返す、やるのか!? と一触即発の雰囲気が立ち込めれば、他の男がコンテナを殴りつける。
ゴォンッ! と重たくも高く響く金属音が、二人の言葉を強引に遮って彼に視線を集中させる。
「黙れ糞ガキども! これ以上勝手に喚くと、テメェをバラしてからいくぞ! 嫌だったら俺に馬鹿みたいに従ってついてこい! このゴミクズ共が!」
ガキ呼ばわれした二人は、舌打ちをしながらも口を噤み、彼の言葉を待つ。
他の仲間が、近くのコンテナを盾に近くまで到達するのにもう少し時間がかかる。
それを待ってから、一気にヘリに取り付く。
なぜか分からないが、衝撃は強いが殺傷能力は皆無の攻撃だ。
冷静に動けばこちらに分があると、リーダー格の男は冷静に苛立ちを原動力の炎へと変えていく。
「マジかよ、覚者……いや、隔者か、あいつら。発現した奴ってのはスゲェもんだな」
ビルの上にいたのは、護のお付きとして傍に居た初老の男、袋田である。
白髪交じりの短い髪に、皺の増えてきた老け顔、そして何を考えているかわからない薄ら笑みの張り付いた表情。
しがない中年会社員といった雰囲気だが、体つきを含めるなら別だ。
程よく引き締まった身体に、太い四肢に首と、戦うための体つきをしている。
ビルの上で依託射撃で隔者を牽制しているのも彼だ。
20mmもある太さの弾丸を放つ対物ライフルで、覚者達を後ろへ追いやっているのだ。
相手の足並みが止まったところへ、輸送ヘリが迫るのが視野に収まる。
降下中の時間稼ぎに、残弾を適度に連射しながら派手に音を立て、動きを制していく。
「任せたぜぇ、皆さんよ!」
役目を終えればライフルを担いで、一目散に逃げ出す。
肝心要の戦いは駆けつけた覚者に託し、悪夢を断つ戦いが今始まる。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.強化服を隔者に奪われないようにする
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
初めましての方はお初にお目にかかります、再びの方はご愛好いただきありがとうございます。
常陸 岐路です。
シリーズものの一つ目です、戦闘も大切ですが、目標はスーツを奪われないことなので、そこにご注意です。
【戦場情報】
[概要:西園寺工業 第一技研棟]
・スタート地点:4
・隔者スタート地点:2
・強化服の位置:5
金網の張り巡らされた、西園寺工業の研究施設の一つです。
山中の一部を切り開いて作られており、ここ以外に周囲の施設がありません。
ここに来るという用事がなければ、基本的に来訪のない場所です。
戦場の配置はテンキー並びで下記のとおりです
北
789
西456東
123
南
1,2,3:コンテナ置き場
大型コンテナの並んだ貨物置き場があり、そこに隔者達が潜んでいます。
1や3も同様にコンテナが並んでいます。
5:ヘリポート
施設中央にヘリポートがあり、そこにあるまだ動きそうな大型ヘリの貨物室、コンテナ内に強化服が収まっています。
4,6:平地
西と東は開けた場所になっており、4に移動に使用したヘリを近づけ、覚者達が降下します。
9;建物
北東は3階建ての建物があり、OPで狙撃をしていた場所はここになります。
7:格納庫
北西には格納庫があり、整備中のヘリなどが収まっています。
8:通路
施設に出入りするための門へ通じる通路です。
【敵情報】
・高澤 健一×1
・隔者×5
[概要]
高澤 健一が率いる隔者集団です。
6人で徒党を組んでいますが、寄せ集めのため、力のある高澤が隔者を引っ張っています。
全員暦の因子、体術を主体に戦います。
5人の隔者は、覚者と比べてそれほど強くはありませんが、油断できるほどではありません。
高澤については、他の五人より強く、少々手こずるかもしれません。
6人とも、新聞の隅に犯罪者として名を連ねた悪党です。
[攻撃方法]
斬・一の構え 念弾
[高澤 健一のみ使う攻撃方法]
上記にプラスして 疾風斬りを使用。
【その他の情報】
・西園寺戦闘強化服
ヘリのコンテナ内にある戦闘強化服です。
以前、レタルを連れてくる戦いの際に、覚者達に立ちはだかった隔者が使用していたものを模倣して作ったものです。
装着すると、五行のスキルが使用できなくなりますが(使用するとスーツにダメージが入り、故障してしまう)、身体能力が向上し、物理攻撃力と回避力が上昇します。
回避は頭部のセンサー類と合わさり、高い回避力を誇りますが、人体への不可を顧みない回避補助が行われ、反動で少量のダメージを受けます。
3着あり、内2つは予備パーツとして組み立てずに入っています。
武器の登録を行う必要があるため、覚者用に開発中だった武装をテスト品として登録、傍においてあります。
網膜による本人認証、登録機能があり、一度登録すると専用の機材を使わないと登録した者しか使えなくなります。
・96式試作型神具刀
神具化を施された、西園寺工業製の試作品の太刀です。
強化服のそばに置かれている専用武器がこれになります。
引き切る刀の特性から、軽くも先端に重心がかかるようなバランス調整を行い、遠心力をより乗せやすく作られたもの。
実際の使用感は強化服のテストと同時に行う予定でした。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年03月28日
2017年03月28日
■メイン参加者 6人■

●
(「さてさて、強化服一つの為に妙な動きをする連中だね)」
急激な挙動で高度を落としていくヘリの中、八重霞 頼蔵(CL2000693)は落ち着いた様子で、ここへ強襲をかけた隔者達の動向を思考していた。
彼らの意志ではなく、その背後にいる何かの意志というほうが、正しいかもしれないが。
(「如何しても知られたくない何かがあるのか……如何にも気になるね」)
仕事柄か、それとも兄妹の合間に生まれた憎しみの殺し合いの泥沼に惹かれたか。
考える合間にもあっという間にヘリはホバリング状態へと移行する。
「ところでヘリからの降下というのは如何したら……まぁよい、行くとしよう」
少々高さがあったが、覚者達にとっては大したことのない高さだ。
何より、これから先のことと比べれば瑣末すぎて、思考を傾ける必要すらない。
すくっと立ち上がった彼は、揺られたバスから降りるかのようにゆったりと踏み出す。
上体は少し揺れたが、数mの高さを何事もなく着地していた。
(「別段、憤怒者がどうこうってのはないと思うんだ」)
『笑顔の約束』六道 瑠璃(CL2000092)の思案は、とても広く柔らかかった。
憤怒者に限らず、一般人が対抗するために作ったという考えだが、それを肯定させないのは高すぎる性能だろう。
人間が使うには明らかに、過剰出力で身体を壊しかねないのだ。
(「あとは横流しして、憤怒者のターゲットから外してもらうとかか。どちらにしろ」)
ここで敵を捉えれば、何か糸口はつかめるだろう。
彼に続き瑠璃がヘリから飛び降りると、五感のセンサーをフル稼働させていく。
人離れした動体視力、そして音紋ソナーの様に鋭い聴覚、そして守護使役から与えられた、犬並みの嗅覚と、正に人間探索機といった状態だ。
(「戦闘が目的じゃないのは、お互い様だ。出し抜かれればこっちの負けだ」)
目の前の敵に気を取られて、横から掠め取られるのは最悪な結果だろう。
「コンテナの中央付近に集まってる、そこからしか声がしない」
僅かだが、コンテナの方から人の声が響いたのを聞き逃さない。
ヘリのローター音が彼のレーダーを邪魔していたが、音の雰囲気から何か作戦を伝えているようだ。
「分かりましたっ、では一足お先に向かいますねっ」
続けて降下した『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)が返事を返すと、直ぐ隣に降り立った緒形 逝(CL2000156)がポンッと彼女の方に触れた。
「頼んだぞう、あとヘリには近づかせないようにって意識しておいてくれるかね。近づかれたら王手に近いさね」
ヘリまで辿り着ければ、あとは死に物狂いで此方を押さえ込んで抜けようとしてくる可能性がある。
逝はそれを恐れたのだろう、勢い突かせず、背水の陣と捨て身になる気持ちも与えたくはない。
戦いの主導権は此方に、その意志を浅葱だけでなく、他の仲間達にも伝えていく。
「了解ですっ、ではいってきますねっ!」
韋駄天の如き加速で、一気にヘリポートへと向かう浅葱。
白いマフラーがたなびき、地面を滑るような低姿勢で駆け抜ければ、あっという間にヘリへとたどり着き、降りたままのタラップを駆け上る。
「これですねっ、えっと……」
開かれたコンテナの中には、2本柱のリフトがあり、そこで項垂れるように背中向きに吊るされていた。
近くにあるコンソールには、初期設定前作業完了、次の作業完了は約30秒と記されている。
(「今、30秒の余裕はないですねっ。コンテナも閉じそうにないですし……パーツは運び出すの、大変そうですっ」)
残りのパーツも金属コンテナに収まっており、こちらはまだ未開封の状態である。
スーツのコンテナは起動準備を行っていたのもあり、ケーブル類や機器が周囲に配置され、閉ざすのに難しい状態だ。
仕方なく浅葱はそのまま外へと飛び出すと、他の仲間達が到着する。
ヘリ内部の様子を伝える中、『刃に炎を、高貴に責務を』天堂・フィオナ(CL2001421)の思考はこの戦いの背後に向いていた。
(「西園寺工業、か」)
破綻者に両親を失った兄妹。
望まずして力を得た弟、恨み消えぬうちに弟の変貌を目の当たりにした姉。
恨みに交じる悲しみ、それがあの強化服を生み出したのではないかと、フィオナは一人思う。
(「とにかく、隔者に渡すのは絶対無しだ! 私に出来る事、全力でさせて貰うぞ!」)
今は目の前の戦いに集中すべきだと意識を切り替え、鬼ごっこの様相を孕んだ戦いの火蓋が切られていく。
●
「これでよしっと、こっそりと奪われることはこれでないぜ」
敵が飛び出さぬうちに、『正位置の愚者』トール・T・シュミット(CL2000025)が警戒空間をコンテナの周辺と、ヘリ周囲にある死角になりそうなポイントへと展開する。
相手の居座っている場所はコンテナが並んだ、視線を切りやすい場所だ。
陽動されているうちに裏をかかれるのは避けたいと考えたのは、瑠璃と同様である。
更に呪符を翳し、瞳を翳しながら祝詞を黙唱すれば、見えぬ何かが仲間達の身体を包み、すっと身体が軽くなっていく。
「さぁ、これでいいぜ。後ろは任せて存分にやってくれ」
ちょうど敵も出てきたことだしなと、彼の呟いた通り、中央のコンテナ群から敵の姿が顕になる。
ボロボロの剣と槍を携え、まっすぐに此方へ近づいてくるが、それに呼応するように動いたのは浅葱と逝、そしてフィオナだ。
「二人の後ろに隠れているのはお見通しだ!」
守護使役の力で、上空からの映像を確かめているフィオナには、正面の二人が罠であることを見抜いたのだ。
気配や匂い、音、それらで探っても、距離を詰めておけば、紛れていく。
そこで枚数差の有利を得ようとしたようだが、失敗に終わる。
「くそがっ、俺に合わせろ!」
身を低くして走っていた高澤が、悪態をつきながら前を走る仲間に命じる。
ばっと左右に広がった二人の間から、高澤の姿が見えると、手にしていた刀を大きく振りかぶる。
振り下ろし、仲間の二人も合わせるように獲物を震えば、圧縮された念が飛刃の如く唸りを上げて迫った。
(「思った通りさね、少数による物資の奪取をやるなら纏まって取り付くか、囮を出して裏取りで出し抜くかだからねえ」)
攻撃を鋭敏な動きで飛び退いて回避しつつ、逝は冷静に状況を推察し続ける。
高澤という男以外は、チンピラと代わりはしない。
雑魚二人はやけっぱちのような闘志で満ちているのが分かるが、彼だけは氷のように冷静な感情を放っていた。
フィオナは剣を斜めに翳し、浅葱はガントレットの装甲部分を盾にして攻撃を凌いでいく。
その間にも、瑠璃が降下した平地からコンテナ群の途切れ目へ走る。
「左右に別れた、反対側からも来る。おそらく一人だ」
枚数差の不意打ちで此方の陣営を崩し、その上で左右から奇襲をかける。
高澤へ一旦意識を引きつける囮作戦だったらしいが、厳重な索敵網の前にその目論見が崩れていく。
瑠璃の予測通りコンテナの合間から敵が二人飛び出すと、手にした鎌を振り上げた。
空に浮かぶ白い雲の一部が黒く染まると、振り下ろされた鎌に導かれるようにして強烈な雷が降り注ぐ。
「ぐぁっ!?」
「がはっ!?」
周囲のコンテナに放電の焦げ目を残すほどの破壊力に、隔者達が苦悶の表情で足を止める。
一方、東側のコンテナ群から飛び出してきた隔者一人が、全力疾走で平地側から迂回するようにしてヘリへ迫ろうとしていた。
「トール君、東側は私が抑える。後を頼む」
ヘリから付かず離れず程度、程よい距離までカツカツと歩いていきながら、ナイフ付きの拳銃を構える。
半身に構えた安定姿勢のまま、一瞬にして照門と照星を一直線に並べ、引き金を絞る。
ダダンッ! とダブルタップで放たれた弾丸が、敵の進行方向と交差するようにして直撃し、グラリと状態が前へ揺れた。
「ぶっ殺してやらぁっ!」
弱いものほどよく吠えるとはいったものだ、そんな事を心の中で呟きつつも、怜悧な表情は崩れない。
その勢いこそ、最後の愉しみを一層引き立てるスパイスとなるからだ。
●
「いくぞっ!」
飛び道具の洗礼を難なく堪えたフィオナが反撃へと移る。
ステップで刃の射程へ飛び込みつつ、ガラティーンが一瞬にして振り抜かれていく。
その刹那に往復していった刃は斬撃だけを残し、エコーの掛かった風切り音とともに、隔者を切り咲いていった。
鮮血が飛び散る中、フィオナに続くように逝が飛び出す。
そのまま悪食を乱雑に振り抜けば、高澤はバックステップで避けたものの、残りの二人は傷口を広げられていく。
同時に高澤はぞわりとした悪寒を覚え、ギリッと奥歯を噛み締めながら逝を睨みつける。
「縛れたのは一人か、まぁまぁといったところだな」
切り裂かれた剣使いの身体に、一瞬だが黒い何かが絡みついたのが一同の瞳に移る。
何を仕掛けられたのか、それを確かめる暇もなく浅葱が更に攻撃を重ねた。
「天が知る地が知る人知れずっ」
逝の姿を飛び越えつつ、斜めの回転から振り抜かれる左手の裏拳を放つ。
狙われた手下の一人は槍の柄で受け流そうとするも間に合わず、顎を叩きつけられながら上体が仰け反っていく。
「泥棒さん退治のお時間ですっ」
そのスキを逃さず、瞬く間に右の拳が顔面を打ち抜き、血反吐がコンクリートに吸い込まれた。
「降伏するなら、これ以上手荒なことはしませんがっ」
「糞ガキが、調子に乗りやがって!」
憎しみに歪んだ瞳が浅葱を睨みつける。
「良かったな、そいつからだ!」
呼応する高澤が妙な言葉をかければ、反撃と3人の前へ飛び出した。
居合い斬りの様な挙動で半円を描く軌道は、手練の三人の目にも捉えるのに難しい速さ。
甲高い金属音が無数に響き、どうにかガードをしたものの、少々手痛いダメージとなって蓄積されていく。
「お返しだっ!」
「おらぁっ!!」
部下達も一斉に反撃に移ると、狙いを一人へと絞っていく。
槍の鋭い刺突が浅葱の脇腹をすり抜ければ、熱さと共に広がる痛みに顔をしかめる。
身を捩って直撃を避けたところへ、追い打ちに上段から叩きつけるような追撃。
「ふっ、道理が判るなら犯罪に手を染めませんかっ」
ガントレットの装甲で受け止めるも、鈍痛が腕へと響く。
しかし、その痛みすらも、後ろで援護に回ったトールが打ち消してしまう。
降り注ぐ神秘の雫が、浅葱の傷へと浸透するようにして癒やしていくのだ。
「どうするよ、このまま続けるか?」
前衛は一緒でも、回復があるならジリ貧になるのは確実。
トールの一言に部下達の士気が、僅かに下がるのが見えるだろう。
西と東でも、戦いは更に激しく変わっていった。
西側では瑠璃と隔者二人の戦闘が繰り広げられていた。
「くそっ」
枚数では隔者の方が有利だったが、初手の落雷が彼らの身体を痺れさせ、数の不利を覆していた。
痺れで一人が動きを止める中、もう一人が両手にしたナイフを素早く振り回し、瑠璃へ反撃を試みる。
(「どこからこの話を嗅ぎ付けてきたのか……こいつらじゃ大した事は知らないか」)
乱暴に振り回されるだけのナイフは鎌の柄で受け流されていき、ダメージは与えるも大した痛手にはならない。
「こっちの番だ」
淡々と呟かれた一言ともに、目の前の隔者を斬り伏せるように鎌が振り下ろされる。
それに呼応して再び落ちる雷が、周囲のコンテナとの間に蜘蛛の巣のように光を走らせた。
「っは……」
「ぐぅっ」
隔者達が苦悶の声と共に膝をつき、一人は地に伏す。
コンテナの合間というのは、視線を遮りもするが移動範囲を制限するものにも成り得る。
コンテナ同士の間に挟まれた隔者は、相手と立ち位置があまりにも悪かったのだ。
(「この調子なら抑え込めるな」)
しかし油断はしない、瑠璃色の瞳が静かに敵を捉えつづける。
「どうした、もう終わりか?」
東側は、数の不利もなかったこともあり、頼蔵が隔者を圧倒していた。
近づくまでの間の射撃で体力を削り、近接線の間合いに入れば、サーベルとガンナイフの連撃を叩き込む。
隔者の振り回すスレッジハンマーは、鉄の塊がついた先端を避けるように受け流し、回避される。
(「どれ……少しばかり、揺さぶってみるか」)
銃創と裂傷に塗れ、地面に蹲るように倒れた隔者へと近づいていけば、襟首を掴んで引きずっていく。
そのまま声の届くところまで運べば、足蹴にして仰向けに転がす。
「其処のは兎も角。君達は大して何かを握っている訳ではないだろう?」
何が言いたいと睨みつける隔者の傷口に、答え代わりに革靴のつま先がめり込んだ。
「ぐぁぁっ!?」
「つまりは……こういうことだ、馬鹿でなければ分かるだろう?」
激痛の呻きをあげる隔者の喉元へ、サーベルの切っ先が突きつけられる。
逆光でよく見えぬ表情だが、隔者にはしっかりと口角が上がっているのが見えただろう。
(「それにしても、嗚呼。啼く声の何と……く、ククク。」)
この瞬間のために笑わずにいたのだ、命を弄ばれると知り、怯え竦む様をみたいが故に。
●
「な、何してやがるあいつ!?」
倒した敵を嬲っている頼蔵の様子に、痺れの抜けぬ隔者が目を見開きながら呟く。
臆した今ならと、瑠璃はクレセントフェイトを隔者へまっすぐに向ける。
「この状況で任務遂行の為とまだ続けるか?」
気圧されたように後ずさる隔者へ、一歩踏み出して距離を離さぬ瑠璃。
「……くそっ」
思考の一巡と共に溢れる悪態。
悔しさを噛み殺しつつ、隔者は手にしていたハンドアックスを手放す。
西側の一人はホールドアップのまま両膝をつくのであった。
中央での乱戦はじわじわと、体力差を引きなしながら覚者有利へと傾いていた。
「これで一人目だぞう」
「あがっ……」
剣を持った隔者が、長い腕に振り回される刀に×の字に切り裂かれ、刀の餌食となって倒れていく。
枚数の不利が起きる中、頼蔵に嬲られた隔者の絶好が響くと、一瞬戦いの空気が凍りついた。
「聞いてたのと違うじゃねぇか!?」
「黙れっ!」
こちらをFiVEと知っての事だったのか、圧倒した挙句に嬲る光景を見せられたとあれば、明らかな動揺が浮かんでいく。
「ふっ、あんまり強情だと緒形さんに腕の1本2本食べられても知りませんよっ」
「そうだぞう、うっかり喰い殺された者は知らんよ」
浅葱の言葉に乗っかりながら、フルフェイスヘルメットの向こうからさもありなんと言った声が響く。
「降伏するなら今のうちですよっ、でも司法の裁きは受けてもらいますけどねっ」
今となっては、浅葱の言葉が甘い誘惑のように聞こえる。
槍を持つ隔者の構えが緩んだ瞬間、高澤は彼の背を押す。
そのまま覚者達へ押し付けるようにすると、逃亡しようとコンテナへと走るが。
「そうはさせねぇよ」
戦闘の空気が緩んだ合間に距離を詰めていたトールが、神秘の力を周囲の空間へと広げる。
先程までの喧騒が嘘のように静まり返り、そのオーラに呑まれた高澤の意識がグラつく。
「くそっ、これじゃ……何も変わりゃ……」
(「死なせるわけにはいかないからな」)
この騒ぎの原因を聞き出す必要がある。
派手に前のめりに倒れ込んだ高澤を捕らえながら、傾いたレールが一つ、FiVE寄りへと引き直されていった。
●
「まあ個人的な見解だけど……あのスーツは何れ無人化か、覚者と同等に戦えるよう調整されるのだろう
。前に見た敵のヤツね」
確信はないがと付け加えながら、逝がスーツを取り囲む覚者達に呟く。
「やっぱりそう考えるか」
逝と瑠璃の考えはほぼ一致していた。
後は逝が言うとおり、調整か無人化が行われるのだろうか?
そんな未来よりも、浅葱とフィオナ、頼蔵は強化服そのものに興味があるらしく、内側や外側の外装を確かめたりと忙しない。
「着てみたら、よく分かるかもしれないな……」
フィオナの言葉に、浅葱も頷く。
「使い勝手自体は良さそうですしねっ 」
後々解除ができると聞いていたのもあり、試してしまおうかと考えていたところに、タラップを登る甲高い足音が近づく。
「それならよ、今度やる実戦テストにきてくれ。運がよけりゃ新武器のテストも兼ねるって聞いたぜ」
タラップを上がってきたのは、隔者たちへ時間稼ぎをしていた袋田だった。
くわえタバコのまま、薄ら笑みを浮かべる彼は携帯灰皿へタバコを押し込んでいく。
「姉貴をぶっ倒すって息巻いちまってよ、こちとら刀剣なんざナイフぐらいしか知らねぇってのに」
困ったもんだと笑いつつ、強化服の力は次にこそ明かされるだろう。
(「さてさて、強化服一つの為に妙な動きをする連中だね)」
急激な挙動で高度を落としていくヘリの中、八重霞 頼蔵(CL2000693)は落ち着いた様子で、ここへ強襲をかけた隔者達の動向を思考していた。
彼らの意志ではなく、その背後にいる何かの意志というほうが、正しいかもしれないが。
(「如何しても知られたくない何かがあるのか……如何にも気になるね」)
仕事柄か、それとも兄妹の合間に生まれた憎しみの殺し合いの泥沼に惹かれたか。
考える合間にもあっという間にヘリはホバリング状態へと移行する。
「ところでヘリからの降下というのは如何したら……まぁよい、行くとしよう」
少々高さがあったが、覚者達にとっては大したことのない高さだ。
何より、これから先のことと比べれば瑣末すぎて、思考を傾ける必要すらない。
すくっと立ち上がった彼は、揺られたバスから降りるかのようにゆったりと踏み出す。
上体は少し揺れたが、数mの高さを何事もなく着地していた。
(「別段、憤怒者がどうこうってのはないと思うんだ」)
『笑顔の約束』六道 瑠璃(CL2000092)の思案は、とても広く柔らかかった。
憤怒者に限らず、一般人が対抗するために作ったという考えだが、それを肯定させないのは高すぎる性能だろう。
人間が使うには明らかに、過剰出力で身体を壊しかねないのだ。
(「あとは横流しして、憤怒者のターゲットから外してもらうとかか。どちらにしろ」)
ここで敵を捉えれば、何か糸口はつかめるだろう。
彼に続き瑠璃がヘリから飛び降りると、五感のセンサーをフル稼働させていく。
人離れした動体視力、そして音紋ソナーの様に鋭い聴覚、そして守護使役から与えられた、犬並みの嗅覚と、正に人間探索機といった状態だ。
(「戦闘が目的じゃないのは、お互い様だ。出し抜かれればこっちの負けだ」)
目の前の敵に気を取られて、横から掠め取られるのは最悪な結果だろう。
「コンテナの中央付近に集まってる、そこからしか声がしない」
僅かだが、コンテナの方から人の声が響いたのを聞き逃さない。
ヘリのローター音が彼のレーダーを邪魔していたが、音の雰囲気から何か作戦を伝えているようだ。
「分かりましたっ、では一足お先に向かいますねっ」
続けて降下した『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)が返事を返すと、直ぐ隣に降り立った緒形 逝(CL2000156)がポンッと彼女の方に触れた。
「頼んだぞう、あとヘリには近づかせないようにって意識しておいてくれるかね。近づかれたら王手に近いさね」
ヘリまで辿り着ければ、あとは死に物狂いで此方を押さえ込んで抜けようとしてくる可能性がある。
逝はそれを恐れたのだろう、勢い突かせず、背水の陣と捨て身になる気持ちも与えたくはない。
戦いの主導権は此方に、その意志を浅葱だけでなく、他の仲間達にも伝えていく。
「了解ですっ、ではいってきますねっ!」
韋駄天の如き加速で、一気にヘリポートへと向かう浅葱。
白いマフラーがたなびき、地面を滑るような低姿勢で駆け抜ければ、あっという間にヘリへとたどり着き、降りたままのタラップを駆け上る。
「これですねっ、えっと……」
開かれたコンテナの中には、2本柱のリフトがあり、そこで項垂れるように背中向きに吊るされていた。
近くにあるコンソールには、初期設定前作業完了、次の作業完了は約30秒と記されている。
(「今、30秒の余裕はないですねっ。コンテナも閉じそうにないですし……パーツは運び出すの、大変そうですっ」)
残りのパーツも金属コンテナに収まっており、こちらはまだ未開封の状態である。
スーツのコンテナは起動準備を行っていたのもあり、ケーブル類や機器が周囲に配置され、閉ざすのに難しい状態だ。
仕方なく浅葱はそのまま外へと飛び出すと、他の仲間達が到着する。
ヘリ内部の様子を伝える中、『刃に炎を、高貴に責務を』天堂・フィオナ(CL2001421)の思考はこの戦いの背後に向いていた。
(「西園寺工業、か」)
破綻者に両親を失った兄妹。
望まずして力を得た弟、恨み消えぬうちに弟の変貌を目の当たりにした姉。
恨みに交じる悲しみ、それがあの強化服を生み出したのではないかと、フィオナは一人思う。
(「とにかく、隔者に渡すのは絶対無しだ! 私に出来る事、全力でさせて貰うぞ!」)
今は目の前の戦いに集中すべきだと意識を切り替え、鬼ごっこの様相を孕んだ戦いの火蓋が切られていく。
●
「これでよしっと、こっそりと奪われることはこれでないぜ」
敵が飛び出さぬうちに、『正位置の愚者』トール・T・シュミット(CL2000025)が警戒空間をコンテナの周辺と、ヘリ周囲にある死角になりそうなポイントへと展開する。
相手の居座っている場所はコンテナが並んだ、視線を切りやすい場所だ。
陽動されているうちに裏をかかれるのは避けたいと考えたのは、瑠璃と同様である。
更に呪符を翳し、瞳を翳しながら祝詞を黙唱すれば、見えぬ何かが仲間達の身体を包み、すっと身体が軽くなっていく。
「さぁ、これでいいぜ。後ろは任せて存分にやってくれ」
ちょうど敵も出てきたことだしなと、彼の呟いた通り、中央のコンテナ群から敵の姿が顕になる。
ボロボロの剣と槍を携え、まっすぐに此方へ近づいてくるが、それに呼応するように動いたのは浅葱と逝、そしてフィオナだ。
「二人の後ろに隠れているのはお見通しだ!」
守護使役の力で、上空からの映像を確かめているフィオナには、正面の二人が罠であることを見抜いたのだ。
気配や匂い、音、それらで探っても、距離を詰めておけば、紛れていく。
そこで枚数差の有利を得ようとしたようだが、失敗に終わる。
「くそがっ、俺に合わせろ!」
身を低くして走っていた高澤が、悪態をつきながら前を走る仲間に命じる。
ばっと左右に広がった二人の間から、高澤の姿が見えると、手にしていた刀を大きく振りかぶる。
振り下ろし、仲間の二人も合わせるように獲物を震えば、圧縮された念が飛刃の如く唸りを上げて迫った。
(「思った通りさね、少数による物資の奪取をやるなら纏まって取り付くか、囮を出して裏取りで出し抜くかだからねえ」)
攻撃を鋭敏な動きで飛び退いて回避しつつ、逝は冷静に状況を推察し続ける。
高澤という男以外は、チンピラと代わりはしない。
雑魚二人はやけっぱちのような闘志で満ちているのが分かるが、彼だけは氷のように冷静な感情を放っていた。
フィオナは剣を斜めに翳し、浅葱はガントレットの装甲部分を盾にして攻撃を凌いでいく。
その間にも、瑠璃が降下した平地からコンテナ群の途切れ目へ走る。
「左右に別れた、反対側からも来る。おそらく一人だ」
枚数差の不意打ちで此方の陣営を崩し、その上で左右から奇襲をかける。
高澤へ一旦意識を引きつける囮作戦だったらしいが、厳重な索敵網の前にその目論見が崩れていく。
瑠璃の予測通りコンテナの合間から敵が二人飛び出すと、手にした鎌を振り上げた。
空に浮かぶ白い雲の一部が黒く染まると、振り下ろされた鎌に導かれるようにして強烈な雷が降り注ぐ。
「ぐぁっ!?」
「がはっ!?」
周囲のコンテナに放電の焦げ目を残すほどの破壊力に、隔者達が苦悶の表情で足を止める。
一方、東側のコンテナ群から飛び出してきた隔者一人が、全力疾走で平地側から迂回するようにしてヘリへ迫ろうとしていた。
「トール君、東側は私が抑える。後を頼む」
ヘリから付かず離れず程度、程よい距離までカツカツと歩いていきながら、ナイフ付きの拳銃を構える。
半身に構えた安定姿勢のまま、一瞬にして照門と照星を一直線に並べ、引き金を絞る。
ダダンッ! とダブルタップで放たれた弾丸が、敵の進行方向と交差するようにして直撃し、グラリと状態が前へ揺れた。
「ぶっ殺してやらぁっ!」
弱いものほどよく吠えるとはいったものだ、そんな事を心の中で呟きつつも、怜悧な表情は崩れない。
その勢いこそ、最後の愉しみを一層引き立てるスパイスとなるからだ。
●
「いくぞっ!」
飛び道具の洗礼を難なく堪えたフィオナが反撃へと移る。
ステップで刃の射程へ飛び込みつつ、ガラティーンが一瞬にして振り抜かれていく。
その刹那に往復していった刃は斬撃だけを残し、エコーの掛かった風切り音とともに、隔者を切り咲いていった。
鮮血が飛び散る中、フィオナに続くように逝が飛び出す。
そのまま悪食を乱雑に振り抜けば、高澤はバックステップで避けたものの、残りの二人は傷口を広げられていく。
同時に高澤はぞわりとした悪寒を覚え、ギリッと奥歯を噛み締めながら逝を睨みつける。
「縛れたのは一人か、まぁまぁといったところだな」
切り裂かれた剣使いの身体に、一瞬だが黒い何かが絡みついたのが一同の瞳に移る。
何を仕掛けられたのか、それを確かめる暇もなく浅葱が更に攻撃を重ねた。
「天が知る地が知る人知れずっ」
逝の姿を飛び越えつつ、斜めの回転から振り抜かれる左手の裏拳を放つ。
狙われた手下の一人は槍の柄で受け流そうとするも間に合わず、顎を叩きつけられながら上体が仰け反っていく。
「泥棒さん退治のお時間ですっ」
そのスキを逃さず、瞬く間に右の拳が顔面を打ち抜き、血反吐がコンクリートに吸い込まれた。
「降伏するなら、これ以上手荒なことはしませんがっ」
「糞ガキが、調子に乗りやがって!」
憎しみに歪んだ瞳が浅葱を睨みつける。
「良かったな、そいつからだ!」
呼応する高澤が妙な言葉をかければ、反撃と3人の前へ飛び出した。
居合い斬りの様な挙動で半円を描く軌道は、手練の三人の目にも捉えるのに難しい速さ。
甲高い金属音が無数に響き、どうにかガードをしたものの、少々手痛いダメージとなって蓄積されていく。
「お返しだっ!」
「おらぁっ!!」
部下達も一斉に反撃に移ると、狙いを一人へと絞っていく。
槍の鋭い刺突が浅葱の脇腹をすり抜ければ、熱さと共に広がる痛みに顔をしかめる。
身を捩って直撃を避けたところへ、追い打ちに上段から叩きつけるような追撃。
「ふっ、道理が判るなら犯罪に手を染めませんかっ」
ガントレットの装甲で受け止めるも、鈍痛が腕へと響く。
しかし、その痛みすらも、後ろで援護に回ったトールが打ち消してしまう。
降り注ぐ神秘の雫が、浅葱の傷へと浸透するようにして癒やしていくのだ。
「どうするよ、このまま続けるか?」
前衛は一緒でも、回復があるならジリ貧になるのは確実。
トールの一言に部下達の士気が、僅かに下がるのが見えるだろう。
西と東でも、戦いは更に激しく変わっていった。
西側では瑠璃と隔者二人の戦闘が繰り広げられていた。
「くそっ」
枚数では隔者の方が有利だったが、初手の落雷が彼らの身体を痺れさせ、数の不利を覆していた。
痺れで一人が動きを止める中、もう一人が両手にしたナイフを素早く振り回し、瑠璃へ反撃を試みる。
(「どこからこの話を嗅ぎ付けてきたのか……こいつらじゃ大した事は知らないか」)
乱暴に振り回されるだけのナイフは鎌の柄で受け流されていき、ダメージは与えるも大した痛手にはならない。
「こっちの番だ」
淡々と呟かれた一言ともに、目の前の隔者を斬り伏せるように鎌が振り下ろされる。
それに呼応して再び落ちる雷が、周囲のコンテナとの間に蜘蛛の巣のように光を走らせた。
「っは……」
「ぐぅっ」
隔者達が苦悶の声と共に膝をつき、一人は地に伏す。
コンテナの合間というのは、視線を遮りもするが移動範囲を制限するものにも成り得る。
コンテナ同士の間に挟まれた隔者は、相手と立ち位置があまりにも悪かったのだ。
(「この調子なら抑え込めるな」)
しかし油断はしない、瑠璃色の瞳が静かに敵を捉えつづける。
「どうした、もう終わりか?」
東側は、数の不利もなかったこともあり、頼蔵が隔者を圧倒していた。
近づくまでの間の射撃で体力を削り、近接線の間合いに入れば、サーベルとガンナイフの連撃を叩き込む。
隔者の振り回すスレッジハンマーは、鉄の塊がついた先端を避けるように受け流し、回避される。
(「どれ……少しばかり、揺さぶってみるか」)
銃創と裂傷に塗れ、地面に蹲るように倒れた隔者へと近づいていけば、襟首を掴んで引きずっていく。
そのまま声の届くところまで運べば、足蹴にして仰向けに転がす。
「其処のは兎も角。君達は大して何かを握っている訳ではないだろう?」
何が言いたいと睨みつける隔者の傷口に、答え代わりに革靴のつま先がめり込んだ。
「ぐぁぁっ!?」
「つまりは……こういうことだ、馬鹿でなければ分かるだろう?」
激痛の呻きをあげる隔者の喉元へ、サーベルの切っ先が突きつけられる。
逆光でよく見えぬ表情だが、隔者にはしっかりと口角が上がっているのが見えただろう。
(「それにしても、嗚呼。啼く声の何と……く、ククク。」)
この瞬間のために笑わずにいたのだ、命を弄ばれると知り、怯え竦む様をみたいが故に。
●
「な、何してやがるあいつ!?」
倒した敵を嬲っている頼蔵の様子に、痺れの抜けぬ隔者が目を見開きながら呟く。
臆した今ならと、瑠璃はクレセントフェイトを隔者へまっすぐに向ける。
「この状況で任務遂行の為とまだ続けるか?」
気圧されたように後ずさる隔者へ、一歩踏み出して距離を離さぬ瑠璃。
「……くそっ」
思考の一巡と共に溢れる悪態。
悔しさを噛み殺しつつ、隔者は手にしていたハンドアックスを手放す。
西側の一人はホールドアップのまま両膝をつくのであった。
中央での乱戦はじわじわと、体力差を引きなしながら覚者有利へと傾いていた。
「これで一人目だぞう」
「あがっ……」
剣を持った隔者が、長い腕に振り回される刀に×の字に切り裂かれ、刀の餌食となって倒れていく。
枚数の不利が起きる中、頼蔵に嬲られた隔者の絶好が響くと、一瞬戦いの空気が凍りついた。
「聞いてたのと違うじゃねぇか!?」
「黙れっ!」
こちらをFiVEと知っての事だったのか、圧倒した挙句に嬲る光景を見せられたとあれば、明らかな動揺が浮かんでいく。
「ふっ、あんまり強情だと緒形さんに腕の1本2本食べられても知りませんよっ」
「そうだぞう、うっかり喰い殺された者は知らんよ」
浅葱の言葉に乗っかりながら、フルフェイスヘルメットの向こうからさもありなんと言った声が響く。
「降伏するなら今のうちですよっ、でも司法の裁きは受けてもらいますけどねっ」
今となっては、浅葱の言葉が甘い誘惑のように聞こえる。
槍を持つ隔者の構えが緩んだ瞬間、高澤は彼の背を押す。
そのまま覚者達へ押し付けるようにすると、逃亡しようとコンテナへと走るが。
「そうはさせねぇよ」
戦闘の空気が緩んだ合間に距離を詰めていたトールが、神秘の力を周囲の空間へと広げる。
先程までの喧騒が嘘のように静まり返り、そのオーラに呑まれた高澤の意識がグラつく。
「くそっ、これじゃ……何も変わりゃ……」
(「死なせるわけにはいかないからな」)
この騒ぎの原因を聞き出す必要がある。
派手に前のめりに倒れ込んだ高澤を捕らえながら、傾いたレールが一つ、FiVE寄りへと引き直されていった。
●
「まあ個人的な見解だけど……あのスーツは何れ無人化か、覚者と同等に戦えるよう調整されるのだろう
。前に見た敵のヤツね」
確信はないがと付け加えながら、逝がスーツを取り囲む覚者達に呟く。
「やっぱりそう考えるか」
逝と瑠璃の考えはほぼ一致していた。
後は逝が言うとおり、調整か無人化が行われるのだろうか?
そんな未来よりも、浅葱とフィオナ、頼蔵は強化服そのものに興味があるらしく、内側や外側の外装を確かめたりと忙しない。
「着てみたら、よく分かるかもしれないな……」
フィオナの言葉に、浅葱も頷く。
「使い勝手自体は良さそうですしねっ 」
後々解除ができると聞いていたのもあり、試してしまおうかと考えていたところに、タラップを登る甲高い足音が近づく。
「それならよ、今度やる実戦テストにきてくれ。運がよけりゃ新武器のテストも兼ねるって聞いたぜ」
タラップを上がってきたのは、隔者たちへ時間稼ぎをしていた袋田だった。
くわえタバコのまま、薄ら笑みを浮かべる彼は携帯灰皿へタバコを押し込んでいく。
「姉貴をぶっ倒すって息巻いちまってよ、こちとら刀剣なんざナイフぐらいしか知らねぇってのに」
困ったもんだと笑いつつ、強化服の力は次にこそ明かされるだろう。

■あとがき■
お待たせしました、如何でしたでしょうか?
索敵を厳重に行っていただけたことで、囮作戦からの包囲しての突破狙いを上手く潰せていたと思います。
今回のMVPは八重霞 頼蔵さんにお送りします。
狙ってか狙わずか、FiVE を一瞬だけ恐ろしい組織として認識させ、統率を瓦解させたのは大きかったと思います。
次回はリプレイにあったとおり、強化服を使っての話となります。
よろしければ、またご参加ください!
ではでは、ご参加いただきありがとうございました!
索敵を厳重に行っていただけたことで、囮作戦からの包囲しての突破狙いを上手く潰せていたと思います。
今回のMVPは八重霞 頼蔵さんにお送りします。
狙ってか狙わずか、FiVE を一瞬だけ恐ろしい組織として認識させ、統率を瓦解させたのは大きかったと思います。
次回はリプレイにあったとおり、強化服を使っての話となります。
よろしければ、またご参加ください!
ではでは、ご参加いただきありがとうございました!
