おれのかんがえたさいきょうのこよう
●惨劇、発生
その日は朝から寒かった。
例によって自室に研究内容を持ち帰って徹夜し……たつもりがまた寝てしまい、例によって五麟大学のキャンパスを歩いていた『夢見准教授』菊本 正美(nCL2000172)は、その寒さに身を震わせた。
「京都の寒さは身に染みるね」
学生時代に京都に移り住んだ身ではあるが(とはいえ当時は通っていた大学に近かった京都市近辺に住んでいたが)この寒暖差はやはり身にこたえるものがある。
私もトシかな、なんて息を白くしながら冗談交じりにぼやいていた所、ふと。
――ぼふっ。
足元に、何だか。こう。ウーリーな感じの、こう。ふっかふかのものが。こう。
「……?」
何だろうと思い足元を見れば、そこには。
む す う の く ろ い け だ まっ。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」
正美の悲鳴が静かな大学構内にこだました。
●最強、襲来
それからしばらく経った頃。空野 旦太(nCL2000173)は学園内の屋内グラウンドに奇妙な張り紙があることに気づいた。
書かれている字は非常に殴り書きで。
『関係者以外の立入以外禁止』
「いや、これだと関係者じゃない人バンバン入っていい話になるし……関係者入れないし……」
思わずツッコミを入れるが、張り紙をよく見ると何か見覚えのある字だ。
まさかと思ってドアを開け、入ると、そこには。
無数の黒い毛玉。
「ええええええええ……」
よく見ると毛玉に頭を突っ込みこと切れている顔見知りの賢い馬鹿がいる。旦太は彼に近寄ると、その身体をぐらぐらと揺さぶった。
「何やってんすか准教授」
「ふにゃ?」
「……ふにゃ、じゃなくて」
どうやら眠っていたらしい。数発手の甲でぺしぺしと頬を叩いて意識を取り戻させてから、話を聞くことにした。
「つまりこの黒い毛玉は熱エネルギーをエネルギー源として取っている可能性が高く要するにそのせいで周囲の温度ががくんと落ちる訳でそうなると困るからと思ってセンター試験の時に使ったハロゲンヒーターで温めてここにおびき寄せたんだ第一黒という色自体可視光線を吸収するには非常に効率的な色なわけで太陽光でもいいと思うんだがいかんせん最近寒くて彼等はこの街にやってきて食料である熱を」
「ああうん。要するに簡単に言うとコイツは熱を食う古妖で、コイツが寒さを引き起こしてる原因で、准教授はそれの対処に必死になって学園の備品のハロゲンヒーターをかき集めてきたと」
「そういうこと」
端的な説明に、正美は頷きを返した……のだが。
「ついでに言うとそのふかふかに魅了されてたと」
その質問に何故か身体をこわばらせた。
「……黙秘します」
「ここはいつから法廷になったんすか」
「黙秘します!」
「だから黙秘する理由が分からないんですけど」
旦太は思いっきり正美の肩を掴むが彼は首を横に振るだけ。そんな中、ころころと足元にその黒い毛玉が寄って来た。
何か黒い毛で出来たタンブルウィードみたいだ。そう思いながらしゃがんでそいつに触ってみる。
ふかっ、と。音がして。手がその毛玉に沈んだ。確かにこれは心地いい。
「ホント魅惑の触り心地だ……一匹欲しい」
「……猫ばばするのどうかと思いますけどね?」
●と、いうわけで
「……つーことで」
正美を研究室に送った後、集まって来たFiVEの面々を見ながら、旦太は口を開いた。
「御崎所長にこの真っ黒な奴の鑑定をお願いしたら、スミクイって名前の古妖だって分かった。相当昔からちらほら見るらしいんだが、大量発生するのは珍しいってさ」
どこぞの賢い馬鹿の推測通り、スミクイの黒い身体は普段は日光を主食としているためらしい。
何故スミクイという名が付いたかと言えば、その黒い身体もしかりなのだが。それ以上に。
時折人里に降りてきて、火のついた炭を食う――つまり熱を奪ってしまうからなのだそうだ。
だが熱を与えてお腹をいっぱいに(お腹がどこにあるのかという野暮なツッコミはこの際おいておいて)してしまえば、彼等は単なる……いや、極上の触り心地の毛玉だ。
そろそろ春も近い。だがまだ寒い日々も続く。ここを貸し切りにして丸一日、ふわっふわの毛と戯れつつ温まるのもいいかもしれない。
「まあさ、火鉢とか持ってきたりして何か食べつつこいつらと遊ぶのもいいんじゃないか?」
そう言う旦太の足元に、ぼふりと音を立てて一匹のスミクイが転がって来た。
彼等も腹さえ満たせば元の住処に戻っていくだろう。この一日間のふれあいである。
その日は朝から寒かった。
例によって自室に研究内容を持ち帰って徹夜し……たつもりがまた寝てしまい、例によって五麟大学のキャンパスを歩いていた『夢見准教授』菊本 正美(nCL2000172)は、その寒さに身を震わせた。
「京都の寒さは身に染みるね」
学生時代に京都に移り住んだ身ではあるが(とはいえ当時は通っていた大学に近かった京都市近辺に住んでいたが)この寒暖差はやはり身にこたえるものがある。
私もトシかな、なんて息を白くしながら冗談交じりにぼやいていた所、ふと。
――ぼふっ。
足元に、何だか。こう。ウーリーな感じの、こう。ふっかふかのものが。こう。
「……?」
何だろうと思い足元を見れば、そこには。
む す う の く ろ い け だ まっ。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」
正美の悲鳴が静かな大学構内にこだました。
●最強、襲来
それからしばらく経った頃。空野 旦太(nCL2000173)は学園内の屋内グラウンドに奇妙な張り紙があることに気づいた。
書かれている字は非常に殴り書きで。
『関係者以外の立入以外禁止』
「いや、これだと関係者じゃない人バンバン入っていい話になるし……関係者入れないし……」
思わずツッコミを入れるが、張り紙をよく見ると何か見覚えのある字だ。
まさかと思ってドアを開け、入ると、そこには。
無数の黒い毛玉。
「ええええええええ……」
よく見ると毛玉に頭を突っ込みこと切れている顔見知りの賢い馬鹿がいる。旦太は彼に近寄ると、その身体をぐらぐらと揺さぶった。
「何やってんすか准教授」
「ふにゃ?」
「……ふにゃ、じゃなくて」
どうやら眠っていたらしい。数発手の甲でぺしぺしと頬を叩いて意識を取り戻させてから、話を聞くことにした。
「つまりこの黒い毛玉は熱エネルギーをエネルギー源として取っている可能性が高く要するにそのせいで周囲の温度ががくんと落ちる訳でそうなると困るからと思ってセンター試験の時に使ったハロゲンヒーターで温めてここにおびき寄せたんだ第一黒という色自体可視光線を吸収するには非常に効率的な色なわけで太陽光でもいいと思うんだがいかんせん最近寒くて彼等はこの街にやってきて食料である熱を」
「ああうん。要するに簡単に言うとコイツは熱を食う古妖で、コイツが寒さを引き起こしてる原因で、准教授はそれの対処に必死になって学園の備品のハロゲンヒーターをかき集めてきたと」
「そういうこと」
端的な説明に、正美は頷きを返した……のだが。
「ついでに言うとそのふかふかに魅了されてたと」
その質問に何故か身体をこわばらせた。
「……黙秘します」
「ここはいつから法廷になったんすか」
「黙秘します!」
「だから黙秘する理由が分からないんですけど」
旦太は思いっきり正美の肩を掴むが彼は首を横に振るだけ。そんな中、ころころと足元にその黒い毛玉が寄って来た。
何か黒い毛で出来たタンブルウィードみたいだ。そう思いながらしゃがんでそいつに触ってみる。
ふかっ、と。音がして。手がその毛玉に沈んだ。確かにこれは心地いい。
「ホント魅惑の触り心地だ……一匹欲しい」
「……猫ばばするのどうかと思いますけどね?」
●と、いうわけで
「……つーことで」
正美を研究室に送った後、集まって来たFiVEの面々を見ながら、旦太は口を開いた。
「御崎所長にこの真っ黒な奴の鑑定をお願いしたら、スミクイって名前の古妖だって分かった。相当昔からちらほら見るらしいんだが、大量発生するのは珍しいってさ」
どこぞの賢い馬鹿の推測通り、スミクイの黒い身体は普段は日光を主食としているためらしい。
何故スミクイという名が付いたかと言えば、その黒い身体もしかりなのだが。それ以上に。
時折人里に降りてきて、火のついた炭を食う――つまり熱を奪ってしまうからなのだそうだ。
だが熱を与えてお腹をいっぱいに(お腹がどこにあるのかという野暮なツッコミはこの際おいておいて)してしまえば、彼等は単なる……いや、極上の触り心地の毛玉だ。
そろそろ春も近い。だがまだ寒い日々も続く。ここを貸し切りにして丸一日、ふわっふわの毛と戯れつつ温まるのもいいかもしれない。
「まあさ、火鉢とか持ってきたりして何か食べつつこいつらと遊ぶのもいいんじゃないか?」
そう言う旦太の足元に、ぼふりと音を立てて一匹のスミクイが転がって来た。
彼等も腹さえ満たせば元の住処に戻っていくだろう。この一日間のふれあいである。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.あたたまる
2.ふかふかに屈して癒される
3.あと何かあれば
2.ふかふかに屈して癒される
3.あと何かあれば
定員は50人。さばききれるかなと戦々恐々の品部です。
最強の定義をもう一度問い直す必要は特にないかなって。ふかふかis最強。
別に某三鷹の森アニメのアレを参考にしたわけではなくって、黒は事実可視光線集める色だからなんだ……。
§概要
寒い日に屋内グラウンドの一部を借りてとにかくもふもふして温まって癒されましょうって話です。
ハロゲンヒーターは准教授(今回頑張ったからリプレイで出てこないけど)が頑張って集めてきたから大丈夫。
旦太の言う通り火鉢持ってきたりしてもいいし、温まる道具持ってきてスミクイに分け与えてもよし。
旦太と話してもいいですよ。呼ばれればやってきます。
§古妖スミクイ
黒い毛をもつふかふかとした球状の古妖。
体長は直径30cmから大きなものだと2m50cmにまでなる。
外見は黒い毛のタンブルウィード(西部劇で風に吹かれて転がってるアレ)毛の奥に目が見える。
口も何もない。知能は不明。喋りもしないが転がって移動する。
熱が大好物。火を見せると喜ぶ。火行スキルやってもいいけど燃えないようにほどほどに。
お腹いっぱいになったら勝手にどこかにある住処に帰るので、持ち帰っても逃げちゃいます。
さあネタは提供した!! とにかく温まろうぜ!!
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
32/50
32/50
公開日
2017年03月13日
2017年03月13日
■メイン参加者 32人■

「もふもふの古妖さんと戯れるのも事務員として大事な業務です」
学生課の事務員である田中 倖(CL2001407)が真顔でそう言い放った。
事務員って何だっけ。そんな疑問はさておきスイーツともふもふを心から愛する彼は考えた。
全身に熱を纏えば古妖の方からくるのでは、と。そして大量のカイロを貼り付けたのだが、大正解だった。あっという間にぞろぞろと周りにスミクイがやってくる。
「遠慮せずお食べ」
彼も遠慮せずスミクイに埋まってその身体を撫でる。だが、そこである事実に気付いた。
寒い。古妖が熱を食べているせいだ。とはいえこの幸せからは離れられない。
「……っくしゅん!」
寒さに震えつつも、撫でる手は止まらなかった。
野武 七雅(CL2001141)はその黒い古妖を見て思い出した。金曜の夜放送されるアレを。だがそれ以上にふかふかは魅力的である。
熱が好物と聞いてはいたが、生憎彼女は水行だ。氷や冷気の方が得意である。
「ごめんなさいなの」
と言いつつ巨大なスミクイを撫でてみる。ふかふかで触った感じも気持ちいい。
「なつねの体温でよければあげるから、ごろんごろんさせてほしいの!」
彼女は黒い毛の中に埋まり、丸まった。
体温は僅かに取られるが、しかし毛が温かいので平気だ。これはある種の永久機関だろうか。いやそんな考えよりも。
「はわわ~……しあわせなの~」
彼女は毛の中に埋まる幸福をいっぱい噛みしめた。
「暖かいのが好きな古妖さんですか……」
グラウンドに集まった黒い毛玉を見ながら、ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)はそう呟いた。
火の源素の力を用いてみる。予想以上にごうと音がして炎が大きく燃えた瞬間、スミクイが炎の方に寄って来た。
「可愛いですね。……癒されます」
スミクイばかり見ていたせいか、彼女がペスカをちらりと見ると。何だかそっぽを向いてしまって。妬いたのだろか。
ラーラはクスリと笑ってペスカを手招きすると、一緒に毛玉に触れることにしたが……予想以上に集まって来た気がする。でも可愛いので幸せだ。
「おうちはどこなんでしょうね?」
時折人里にやって来るとは聞いたが、来年もまた来るのだろうか? スミクイは黙って、じっと彼女を見るばかりだ。
同じように火の源素を使ってスミクイの気を惹いてみようと思う覚者はいた。
「ふわもこきた!」
と堅物気味の外見にはそぐわず(?)喜ぶ四条・理央(CL2000070)もその一人である。最強の古妖の魔性にやられたようだ。何匹でも全力でもふもふするという意気込みで黒い毛玉に向かった彼女が放ったのは火焔連弾。集中して維持したつもりがやはり攻撃用の術式なのでごうと燃え上がる。だがスミクイは大はしゃぎだ。ぽふんぽふんと音を立てて跳ね上がる。
「か、かわっ……!」
もう寒くなってもいい。理央はスミクイの密集した場所に思いっきりダイブし、思う存分もしゃもしゃとその黒い毛を撫でた。
「ど、どうしよう……! かわいすぎる!」
鐡之蔵 禊(CL2000029)も心の声がだだ漏れだった一人である。かわいいのが大きいのから小さいのまでよりどりみどり。素敵すぎる。
「よーしみんなこーい!」
早速覚醒。そして火の力を自分の身体能力に転化。その時の動きに熱を感知したのか、数匹がころころと禊に寄って来る。
「お?」
更に蹴りの動きをした所でスミクイ達は大盛り上がり。わさわさと寄って来た。
「おお!?」
思わず全力のハグ! 骨抜きだ。というより、最初見た時から既にKOである。あとはお互いにもっふもふともふるだけ。
「蘇我島さん。本当にもふもふした物体がいます」
周囲をきょろきょろと見回しながら、柳 燐花(CL2000695)が言う一方、
「本当にもふもふだねぇ……」
その名を呼ばれた蘇我島 恭司(CL2001015)もしみじみと。手のひらサイズと思っていたがそれ以上に大きいのがいっぱいいる。
そんな傍ら燐花は巨大スミクイによじ登って、ごろんと。
「こうすればお互い幸せじゃないでしょうか」
「あー……良いねぇそれ」
身体がふかふかに沈む。もっふもふの毛に包まれて、燐花は幸せそうだ。
「ちょっと僕も真似しようかな?」
恭司もよじ登って燐花の隣に。重かったら言ってねとスミクイに気を遣ったが、まあ口も無いので何も言わないし、嫌がっては居なさそうだ。准教授もやってたから大丈夫だと……思う。
そんな彼の横で燐花は幸せそう。
「この子、連れて帰れたらいいのに……」
「この子達にも家があるみたいだからねぇ……仕方ないねぇ……」
彼はちょっと残念そうな彼女に声を掛け……。
…………。
スミクイが体温を奪ってしまったせいだろう。寒さに震えて何かに燐花はしがみつき、恭司は何かふかふかした温かい物を抱きしめた……つもりだったのだが。
しばらくして目が覚めた燐花はパニックに陥ることになった。
何せ、何せ。彼女は恭司の腕の中にいたのだから。幸い恭司はまだ眠りの中。すーすーと寝息に包まれている。いや、全然幸いじゃない。温かいだけに、もう、何ていうか。もう。
「ぁぁぁぁぁ……」
魂全部使い切って、命数0になっても駄目です……。
小さな声を上げて身体を折り曲げる燐花であった。
「ものすごくふかふかした無数の黒い毛玉とか、放っておくわけないだろうこの俺が」
そう断言したのはゲイル・レオンハート(CL2000415)だ。……まあ、『ファイヴ村管理人ふわもこ担当』なんて称号ついてりゃ、そりゃ、ねぇ。
眼前に火鉢を置き、どっしりと胡坐をかく。
一つ。スミクイ達が喜ぶ様を眺める。ころころと寄って来る様はいとをかし。
一つ。寄ってきたスミクイに指を埋めさせる。堪能するために全神経をその指先に集中させる。
一つ。触れたら後はうずもれるだけ。これぞ癒し。
ふかふかならナハトたんや桜たん、そして小梅たんの大切な癒しもある。しかし、未知のふわもこを探求せずにはいられないのだ。
そこには、桃源郷があった。
沈黙。そしてスミクイの毛を引っ張ってポツリ。
「寒いのは、これの、せい、な、の?」
桂木・日那乃(CL2000941)は小首を傾げた。古妖は何も言わない。お腹が空いているとは聞いているが、生憎自分は火を出すことができない。そして火鉢も使ったことがない。なのでハロゲンヒーターを小さな身体で引きずって、円形に置く。熱を感じたスミクイ達が引き寄せられて、彼女の周囲に集まって来た。小さな身体が黒い毛で埋もれそうだ。
小さな手で古妖を触って、彼等を抱き寄せる。
「マリンも、来る?」
その声に守護使役もそっとスミクイに近寄って、ぬくぬくと温まる。ほんわかと心地よい感覚に、日那乃はこっくり、こっくりと。周囲のスミクイも眠たそうだ。
「焼き芋ー!」
成瀬 翔(CL2000063)が叫ぶ。サツマイモは寺に住む工藤・奏空(CL2000955)が檀家の方々から頂いたものを用意し、火鉢も彼が持ってきてくれた。
「焼き芋会、とっても楽しみです」
奏空と一緒にやって来た賀茂 たまき(CL2000994)も焼くものを持参してきた。
「よっ」
そんな彼等に挨拶したのは三島 柾(CL2001148)だ。火行ということで彼に火付けを頼んだのだが、最初に出てきたのは巨大な炎。スミクイがわらわらと寄って来た。たまきがしゃがんで古妖を撫で、翔が転がるそれを追いかける。
「……コントロールが難しいな」
奏空が柾に手渡した炭に火がついて、サツマイモの調理開始だ。
「へー……こうやって焼くのか」
灰の中に芋を入れると知って翔は興味津々。
「焼き芋なら任せてよ!」
焼き芋に一家言ある焼き芋奉行・奏空が胸を張る。湿らせた新聞紙を巻いた上からアルミホイルを巻き、切れ目から蜜が出てき字数の為以下割愛。
「詳しいな」
「ふふ。奏空さん、いきいきしてますね」
柾が僅かに驚く傍ら、たまきは小さく笑いつつ火鉢の周りに串に刺したマシュマロとトウモロコシを置いていく。
そんな様子に、食いしん坊な翔が我慢できず灰の中から芋を取り出そうとして……。
奏空が翔の手をひっぱたいた。
「ってー!」
「翔! 我慢!」
「ははは。待つのも食事の内だ」
柾は笑いながら翔の頭をぽふぽふと。更に翔がいじけたのを見て、たまきが笑いながら焼けたマシュマロをひっくり返す。
「しりとりしましょうか? 負けた人は熱々のマシュマロをあーんです」
その言葉に奏空が反応した。
「たまきちゃんにあーん……」
「しりとりの必要がないな」
言いつつも柾は寄って来た古妖を撫でて、もう一度炎を出す。熱を感知して毛玉が寄って来る。
「見せるだけだ。危ないぞ」
「ちょっと、ガッカリしているようにも見えますね」
でも可愛いと思いつつ、たまきは古妖をぎゅーっと抱きしめた。
待つ我慢の限界を迎えた翔が近くにいた従姉から餅とチーズを貰って火鉢の周りは更に豪華に。熱に集まるようにスミクイ達もわらわらとやってきた。
そして、ようやく焼けた所で灰から芋を取り出す。割った所から湯気が上がる様は見ているだけで美味しい。
翔が口の中を火傷しそうになるのを見ながら、柾もしみじみと言う。
「自分達で焼くとまた格別だな」
「俺の焼き方が上手いからね」
「オレこれ貰いっ!」
「あ、翔! それ俺のだったのにー!」
「ふふふ。皆さん楽しそうです」
翔と奏空の食べ物争奪戦を、たまきがにこにこしつつ見る。
約束通りたまきが熱々のマシュマロを奏空にあーんしたりしつつ。
沢山あった芋やトウモロコシも、あっという間に皆のお腹の中に。スミクイ達も熱を貰ってお腹いっぱいだ。
翔は近くにいた一匹を撫でつつ、地面に座った。舟を漕ぎ、今にも夢の中に落ちそうだ。
で、彼に餅とチーズをくれた姉ちゃんこと天野 澄香(CL2000194)の方はと言えば。成瀬 舞(CL2001517)達と麻弓 紡(CL2000623)が持ってきた特大七輪を囲んでいた。
とはいえ舞はスミクイを抱きかかえたまま目を丸くし、紡は子牛が連れられていく某イディッシュ民謡の歌詞ような顔をしている。何故なら如月・彩吹(CL2001525)の放った炎が予想以上に燃え盛り、マシュマロが溶けたせいである。
スミクイが熱を食べた為火は収まったが、マシュマロは溶けたまま。
「ましまろ……」
生八つ橋も干し芋も干しリンゴもあるし、他の材料もまだまだあるのだがそれでもガッカリする。
「しつけが必要だね」
ちょこんと膝に乗ったスミクイを両側から抑えながら、彩吹が言う。
「いぶちゃん、そっち……?」
「お願いしますね彩吹ちゃん。焼き物の極意は弱火の遠火なんですから」
「澄ちゃんまで?」
ボンヤリしがちな舞が二人のツッコミ役に転じるという謎の現象が発生。
「何かおかしな事言いました?」
首を傾げる澄香に
「熱源が炎である以上焦がさずに熱を内部にまで伝えるには適度な距離がある方がいいと思うからおかしくはないと……」
と科学的観点から述べるに留めた舞であった。
そんなハプニングに見舞われたとはいえ、七輪に火が点き澄香の適切な調理法もあって彼女達が用意した材料はおいしく焼けていく。
彩吹がマシュマロを取った所でその熱に誘われてスミクイが寄って来た。
「これはダメ。お前達はこっち」
と彩吹が言った途端、掌からまた炎がごうっと。その一方で澄香は焼けたジャガイモを小さく切ってスミクイに与えてみる。
「あーん……」
とは言ったものの口は見当たらない。思わず澄香は首を傾げるが、熱々だったジャガイモが一気に冷めた。
「口はどこなんでしょう?」
「熱を食べるっていうから口は要らないのかも……?」
なんて澄香と舞が会話をしている傍ら、紡は巨大スミクイに寄りかかって焼けたおやつをもごもご。低体温気味なのでコートにカイロを貼って完全装備。大好きな抹茶味の生八つ橋もあぶって食べて至福のひと時だ。
「みんなで食べればどれだっておいしいけどね」
紡はにへっと笑って更に幸せ。
……とはいえ。舞が大きなスミクイを抱きしめているのがこのメンバーの中で一番小柄な紡としては羨ましい。いいなーなんてごちていると、一番背の高い彩吹が紡に抱き着いた。それを見て澄香と舞もぎゅむぎゅむ。
「ほら、お前達もおいで」
その言葉が分かったのか、スミクイ達も彼女達にぞろぞろ寄ってきておしくらまんじゅうに。
「ボクはちょっと苦しいかも……」
そんなことを言いながらも、温かくてみんな幸せだ。その後澄香が写真を撮って、女子4人全員でそのふわふわの毛を触り心地を家族や友人に自慢したとか。
一旦所変わってこちら室内グラウンド外。
何でか季節外れのキャンプファイヤー、蜘蛛の巣の火型である。……小型でも結構でかいやつだこれ。
で、何でこんなものがグラウンドの外にあるかと言えば。現在火の点いていないキャンプファイヤーの傍で座っている田場 義高(CL2001151)がよく知っている。
「季節外れだけど、キャンプファイヤーなんてスミクイに喜ばれそうだと思うのよね」
向日葵 御菓子(CL2000429)のそんな言葉が発端であった。
「まぁ、そうだな」
「でも、女だけじゃ作るの大変じゃない?」
御菓子の姪である菊坂 結鹿(CL2000432)もその場にいたのだが、二人に任せるのは少々……。
「まぁ、先生は潰されそうだ。それに結鹿にも危険だな」
「だから、男手が必要なの」
――その理屈までは、分かった。そこまで、は。
だが何故自分にだけ材木を運ばせる!? しかしそれでもやってしまうのが彼のサガ。一方、結鹿はそんな義高を尊敬の目で見つめていた。
何せ、結鹿が手伝おうとした所彼は危ないから御菓子の手伝いをしろ、俺が後はやるからと言ったのだ。
なので土をならしたり枝を持ってきたりして手伝いをすることに。
(わたしも大人になったらああなれるかなぁ……?)
と、結鹿は心の底から思った。
かく言う経緯があって出来上がったキャンプファイヤー。
「喜んでくれるといいなぁ……」
そう言いながら御菓子が火をつけると、どこからともなくスミクイがぞろぞろと集まって来た。
あまりの火の大きさに古妖達は皆ハイテンションである。その内の一匹が義高の手に飛び込んできてぽふりと収まった。
「これが報酬って所だな……」
そんな言葉を吐く一方で、御菓子はやって来たスミクイを抱きかかえつつ。
「バーベキューやってもいいかもね」
とポツリ。結鹿はそわそわし出した。
「魚……ドネルケバブ……焼きマシュマロにバウムクーヘン……」
どれもこれも魅力的である。
次の瞬間、結鹿はその健脚を生かして材料を買いに駆け出した。
ご機嫌でハミング一つ。皐月 奈南(CL2001483)は屋外プールの上に置いたポンポン船の上に小さなスミクイを乗せ、ろうそくに火をつけた。
ぽこぽこぽこぽこと音を立てて水面をすーっと進むのを見て、更にご機嫌だ。炭で動くSLも用意したし、スミクイたちも喜ぶはず。炭は要らない枝をバーベキューセットで作ればいい。
「せっかくだからバーベキューをするのだ! スミクイちゃんと一緒にお腹いっぱい食べてあったまるのだ!」
その言葉にスミクイが跳ねた。早速串に野菜や肉を刺して、大好きな餅も焼くことに……したのだが。火に興奮して次から次へとスミクイがやってきて、火力を弱めてしまう羽目に。
「スミクイちゃん! まだダメなのだ! SLもバーベキューも出来なくなっちゃう!」
奈南は思わず叫んだ。
場所を戻して。
「わー、ふわもこの毛玉さんがいっぱいいるー!」
御影・きせき(CL2001110)はグラウンドいっぱいのスミクイに歓喜の声を上げた。
ころころと転がる古妖を駆けまわって追いかけて抱っこするきせきを見て、同行していた片桐・戒都(CL2001498)も嬉しそう。一匹を戒都の膝の上に乗せるが、スミクイは大人しく彼の上でちょこんと座っている。走って体温が上がったせいかきせきの周りには更に古妖達が。
「わー、見て見て! すごい懐いてくれるよ!」
折角ここまで懐いてくれたので、一緒におやつを食べようという話になった。戒都が用意したのはマシュマロと金串だ。近くにあった火鉢を借りて、戒都が金串にマシュマロを刺して二人で炙る。
「こうやって、くるくる回すんだよ」
「へー」
火で炙られてとろりと溶けていく様を二人で眺め、戒都が出来上がった所で息を吹きかけて、にっこりと微笑んだ。
「はい。きせきくん」
「え? 僕に?」
「出来たては作った人の特権だからね?」
きせきは焼きマシュマロを食べるのは初めてだ。あーんと口の中に入れてもらって、彼は満面の笑みを浮かべた。
「おいしいっ!」
「ふふ。やっぱり自分で作ると違うよね。
次はお利口に待っててくれたもふもふ君たちにご馳走しようか」
戒都は足元の古妖をふかふかと撫でつつそう言った。
「古妖さん達も気に入ってくれるかな?」
ここにも火鉢を用意した覚者が。月歌 浅葱(CL2000915)と姫神 桃(CL2001376)の二人だ。
「ヒーターより火鉢の方が馴染みがあるし、何より焼ける楽しみがあるのよね」
「色々焼けそうですねっ。何焼いちゃいますか?」
「浅葱は何焼きたいのよ?」
桃の問いに浅葱は用意されたマシュマロと餅を両方見てから。
「折角だから先にお餅を焼きましょうかっ。可愛いですしっ」
「可愛い……?」
桃が首を傾げる傍らで、火鉢で焼かれた餅が熱で生き物のように動いて、ぷっくりと。それを見て浅葱は桃の頬を指でつついた。
「ホラ。まるで拗ねてる桃さんのほっぺみたいですよっ」
「私そんなに拗ねてないし膨らませてないわよ!」
そんな二人のやり取りを見ているように、餅は更に膨らんで。今度は桃からのお返しで浅葱の頬をつんつんと。
「モチモチ具合は浅葱みたいね」
そんな合間にマシュマロも餅も焼けてきて、いい匂いが漂ってきた。浅葱がマシュマロを一個渡して
「桃さんあーんっ」
桃がそれを一口。焼けたばっかりで熱いが美味しい。思わず顔が綻ぶ。
「ふふふ」
その浅葱の笑みに、桃はしばし沈黙。
……恥ずかしい、筈なのだが。
慣れは恐ろしい。いや、更に言うと慣れている自分が恐ろしい。
「もっと沢山ありますからどうぞっ。バレンタインのお返し的にっ」
「バ、バレンタインとか……!」
「ふふっ。桃さん可愛いですよっ」
「べ、別に、可愛くないから……!」
どうしようもなくなって、桃はそっぽを向くしかなかった。
こちらは椿 那由多(CL2001442)と十夜 八重(CL2000122)とクー・ルルーヴ(CL2000403)の三人で火鉢を囲んで餅を焼く。
「炭もええかんじになってきましたね」
そう言いつつ那由多がうちわであおいだ瞬間、煤の反乱に遭って彼女は鼻の頭を黒くした。クーはクスリと笑う。
「すみません。可愛らしくて思わず」
「可愛いお顔が黒くなってますよ?」
八重もつられて笑い、那由多の鼻の頭を拭った。
とはいえ、餅は順調に焼けて、スミクイも熱につられて寄って来る。
「あ。こんな所にも。可愛らし」
「焼けるまでモフモフさせてもらいましょうか」
クーは小さなスミクイを膝の上に乗せ、撫でた。傍らで餅がぷーっと膨らむのを見て、八重はふふっと笑う。
「この瞬間がとても可愛いですね」
那由多が持ってきた団子にタレを付けた所で、香ばしくあまじょっぱい匂いが漂う。それに、クーのお腹が、小さく。今度は那由多がクスリと笑った。つられてクーも微笑む。
「お腹が鳴ってしまうのも仕方ありません」
餅と団子が焼きあがった所で網から取り上げて、3人で熱々を頂く。八重はお気に入りのきな粉砂糖の餅から食べていた。
「火傷せんように気ぃ付けて……どうでしょ?」
「きな粉砂糖は甘さ控えめで美味しいですし、お団子もいいお味です」
「美味しくて、もう一つ頂きたいぐらいです」
八重とクーの言葉に那由多は微笑んだ。
「一つと言わんでどんどん召し上がってええんですよ」
ちょっとお腹が落ち着いた所で、寄って来たモフモフを撫でる八重とクー。那由多はお茶の用意をしてくれている。
八重は何の気なしに黒い毛玉の中に、何だか細長いものを掴んだ。何だかとっても毛並みがいい。
「こっちの方が好みの感触ですけど……」
横を向いてみれば、那由多と目が合った。
「八重さん、それうちの! モフモフやったら……」
そこで掴んだのは、何だかスミクイにしては白い。クーの尻尾だと気づいて那由多はパッと放したが、クーは気にしていない。むしろ何だか嬉しそうだ。
「そのままモフモフしても平気ですよ」
「ふふ、なんだか繋がってもふもふしあってるみたいで楽しいですね」
嬉しくてクーの尻尾がぱたぱた振れる。もふもふも温もりもいっぱい。お腹もいっぱいで幸せだ。
「まあ、本当に素敵な手触りですね」
スミクイをふかふかと撫でて、上月・里桜(CL2001274)は微笑んだ。何だかちょっとひんやりしているので近くにあった火鉢に古妖を置く。火鉢と言えば餅だが……冬も終わりだ。ぜんざいを作ってもいいだろう。
小豆を煮ていると、もう一匹古妖が寄って来た。彼女はクスリと笑う。
「あなたたちには炭をあげますからね」
出来上がった所で、里桜は近くにいた覚者達にぜんざいを振舞うことに。途中、通りかかった旦太にも手渡した。
「よろしければいかがですか?」
「ん? ありがとうございます!」
旦太はぺこぺこと頭を下げて、両手で受け取る。彼は喜んでぜんざいに口をつけた。
「そう言えば……初めましてですね。どうぞよろしく」
「こちらこそ。……というかご馳走様です。温まりました」
「うん。壮観だ」
見渡す限りスミクイ。如月・蒼羽(CL2001575)はしみじみと呟いた。何だか女の子のきゃーという声も聞こえて、自身の妹を思い浮かべるが
「ないね」
と即答。遠方を見つめるしかない。とりあえず近くにいた一匹を拾い上げる。ふわふわだ。
「ああよしよし。お前たちもおいで」
その言葉に反応してか、スミクイがぞろぞろ集まって。彼はいつの間にかスミクイに埋もれていた。
一方。
「空野くーん!」
「新堂!」
旦太に手を振って新堂・明日香(CL2001534)がやって来た。
「どうしたんだよ汗かいて」
明日香が得意げに笑んで、ばっとコートの前を開けると。いくつものカイロが。
「どうだ!」
意図は分かった。だが。
「風邪、ひくぞ?」
思わずポツリ。
「細かい事いいの! この子達ぬくぬくにしてあげるんだから!」
「細かい……?」
コートを脱いでそれを向けると、明日香もあっという間に埋もれた。何だかとっても幸せそうだ。
「ほらほら、おいでよー」
「ちょ!?」
手を引っ張られ、旦太まで古妖に埋もれる。
「ほら、ふかふかー」
「それ俺の羽!」
なんてやり取りをしている間に、明日香はリラックスしてきたのか。古妖の中でうとうと。しばらくすると寝息を立てて寝始めた。
そんな時のこと。古妖に埋もれた蒼羽と目があった。
「ああ! 如月彩吹の兄の蒼羽です」
「あ、お世話になってます」
「こちらこそ妹が。迷惑掛けるかもし……」
そこまで言って、彼は寝ている明日香に目をやり、また旦太を見て。無言。そして妹そっくりの笑顔を浮かべた。
「え? 何すか!?」
足元にいた一匹を拾い上げ、環 大和(CL2000477)は挨拶をした。
「こんにちわ、スミクイさん。温かい毛皮堪能させてね?」
そっと抱きしめると温かい。何匹もやってきたので埋もれてみると、羽毛布団に包まれた気分だ。
「明日香もどう? 気持ちいいかしら?」
一緒にスミクイに埋もれた守護使役の明日香に声を掛けると、何だかとっても気持ちよさそうだ。一緒にうとうととし始めて……。
ハッとする。
「いけないわ、目的を果たすのを忘れていたわね」
そう言って彼女が差し出したのはカイロ。
「これもお食事のひとつになるかしら?」
その言葉にスミクイはぴょんと跳ねた。大和も微笑みを返す。
「喜んでもらえたのなら嬉しいわ」
そろそろ皆お腹いっぱいになって、帰る時間だ。大和は名残を惜しむ様に、スミクイを優しくもふもふと撫でた。
学生課の事務員である田中 倖(CL2001407)が真顔でそう言い放った。
事務員って何だっけ。そんな疑問はさておきスイーツともふもふを心から愛する彼は考えた。
全身に熱を纏えば古妖の方からくるのでは、と。そして大量のカイロを貼り付けたのだが、大正解だった。あっという間にぞろぞろと周りにスミクイがやってくる。
「遠慮せずお食べ」
彼も遠慮せずスミクイに埋まってその身体を撫でる。だが、そこである事実に気付いた。
寒い。古妖が熱を食べているせいだ。とはいえこの幸せからは離れられない。
「……っくしゅん!」
寒さに震えつつも、撫でる手は止まらなかった。
野武 七雅(CL2001141)はその黒い古妖を見て思い出した。金曜の夜放送されるアレを。だがそれ以上にふかふかは魅力的である。
熱が好物と聞いてはいたが、生憎彼女は水行だ。氷や冷気の方が得意である。
「ごめんなさいなの」
と言いつつ巨大なスミクイを撫でてみる。ふかふかで触った感じも気持ちいい。
「なつねの体温でよければあげるから、ごろんごろんさせてほしいの!」
彼女は黒い毛の中に埋まり、丸まった。
体温は僅かに取られるが、しかし毛が温かいので平気だ。これはある種の永久機関だろうか。いやそんな考えよりも。
「はわわ~……しあわせなの~」
彼女は毛の中に埋まる幸福をいっぱい噛みしめた。
「暖かいのが好きな古妖さんですか……」
グラウンドに集まった黒い毛玉を見ながら、ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)はそう呟いた。
火の源素の力を用いてみる。予想以上にごうと音がして炎が大きく燃えた瞬間、スミクイが炎の方に寄って来た。
「可愛いですね。……癒されます」
スミクイばかり見ていたせいか、彼女がペスカをちらりと見ると。何だかそっぽを向いてしまって。妬いたのだろか。
ラーラはクスリと笑ってペスカを手招きすると、一緒に毛玉に触れることにしたが……予想以上に集まって来た気がする。でも可愛いので幸せだ。
「おうちはどこなんでしょうね?」
時折人里にやって来るとは聞いたが、来年もまた来るのだろうか? スミクイは黙って、じっと彼女を見るばかりだ。
同じように火の源素を使ってスミクイの気を惹いてみようと思う覚者はいた。
「ふわもこきた!」
と堅物気味の外見にはそぐわず(?)喜ぶ四条・理央(CL2000070)もその一人である。最強の古妖の魔性にやられたようだ。何匹でも全力でもふもふするという意気込みで黒い毛玉に向かった彼女が放ったのは火焔連弾。集中して維持したつもりがやはり攻撃用の術式なのでごうと燃え上がる。だがスミクイは大はしゃぎだ。ぽふんぽふんと音を立てて跳ね上がる。
「か、かわっ……!」
もう寒くなってもいい。理央はスミクイの密集した場所に思いっきりダイブし、思う存分もしゃもしゃとその黒い毛を撫でた。
「ど、どうしよう……! かわいすぎる!」
鐡之蔵 禊(CL2000029)も心の声がだだ漏れだった一人である。かわいいのが大きいのから小さいのまでよりどりみどり。素敵すぎる。
「よーしみんなこーい!」
早速覚醒。そして火の力を自分の身体能力に転化。その時の動きに熱を感知したのか、数匹がころころと禊に寄って来る。
「お?」
更に蹴りの動きをした所でスミクイ達は大盛り上がり。わさわさと寄って来た。
「おお!?」
思わず全力のハグ! 骨抜きだ。というより、最初見た時から既にKOである。あとはお互いにもっふもふともふるだけ。
「蘇我島さん。本当にもふもふした物体がいます」
周囲をきょろきょろと見回しながら、柳 燐花(CL2000695)が言う一方、
「本当にもふもふだねぇ……」
その名を呼ばれた蘇我島 恭司(CL2001015)もしみじみと。手のひらサイズと思っていたがそれ以上に大きいのがいっぱいいる。
そんな傍ら燐花は巨大スミクイによじ登って、ごろんと。
「こうすればお互い幸せじゃないでしょうか」
「あー……良いねぇそれ」
身体がふかふかに沈む。もっふもふの毛に包まれて、燐花は幸せそうだ。
「ちょっと僕も真似しようかな?」
恭司もよじ登って燐花の隣に。重かったら言ってねとスミクイに気を遣ったが、まあ口も無いので何も言わないし、嫌がっては居なさそうだ。准教授もやってたから大丈夫だと……思う。
そんな彼の横で燐花は幸せそう。
「この子、連れて帰れたらいいのに……」
「この子達にも家があるみたいだからねぇ……仕方ないねぇ……」
彼はちょっと残念そうな彼女に声を掛け……。
…………。
スミクイが体温を奪ってしまったせいだろう。寒さに震えて何かに燐花はしがみつき、恭司は何かふかふかした温かい物を抱きしめた……つもりだったのだが。
しばらくして目が覚めた燐花はパニックに陥ることになった。
何せ、何せ。彼女は恭司の腕の中にいたのだから。幸い恭司はまだ眠りの中。すーすーと寝息に包まれている。いや、全然幸いじゃない。温かいだけに、もう、何ていうか。もう。
「ぁぁぁぁぁ……」
魂全部使い切って、命数0になっても駄目です……。
小さな声を上げて身体を折り曲げる燐花であった。
「ものすごくふかふかした無数の黒い毛玉とか、放っておくわけないだろうこの俺が」
そう断言したのはゲイル・レオンハート(CL2000415)だ。……まあ、『ファイヴ村管理人ふわもこ担当』なんて称号ついてりゃ、そりゃ、ねぇ。
眼前に火鉢を置き、どっしりと胡坐をかく。
一つ。スミクイ達が喜ぶ様を眺める。ころころと寄って来る様はいとをかし。
一つ。寄ってきたスミクイに指を埋めさせる。堪能するために全神経をその指先に集中させる。
一つ。触れたら後はうずもれるだけ。これぞ癒し。
ふかふかならナハトたんや桜たん、そして小梅たんの大切な癒しもある。しかし、未知のふわもこを探求せずにはいられないのだ。
そこには、桃源郷があった。
沈黙。そしてスミクイの毛を引っ張ってポツリ。
「寒いのは、これの、せい、な、の?」
桂木・日那乃(CL2000941)は小首を傾げた。古妖は何も言わない。お腹が空いているとは聞いているが、生憎自分は火を出すことができない。そして火鉢も使ったことがない。なのでハロゲンヒーターを小さな身体で引きずって、円形に置く。熱を感じたスミクイ達が引き寄せられて、彼女の周囲に集まって来た。小さな身体が黒い毛で埋もれそうだ。
小さな手で古妖を触って、彼等を抱き寄せる。
「マリンも、来る?」
その声に守護使役もそっとスミクイに近寄って、ぬくぬくと温まる。ほんわかと心地よい感覚に、日那乃はこっくり、こっくりと。周囲のスミクイも眠たそうだ。
「焼き芋ー!」
成瀬 翔(CL2000063)が叫ぶ。サツマイモは寺に住む工藤・奏空(CL2000955)が檀家の方々から頂いたものを用意し、火鉢も彼が持ってきてくれた。
「焼き芋会、とっても楽しみです」
奏空と一緒にやって来た賀茂 たまき(CL2000994)も焼くものを持参してきた。
「よっ」
そんな彼等に挨拶したのは三島 柾(CL2001148)だ。火行ということで彼に火付けを頼んだのだが、最初に出てきたのは巨大な炎。スミクイがわらわらと寄って来た。たまきがしゃがんで古妖を撫で、翔が転がるそれを追いかける。
「……コントロールが難しいな」
奏空が柾に手渡した炭に火がついて、サツマイモの調理開始だ。
「へー……こうやって焼くのか」
灰の中に芋を入れると知って翔は興味津々。
「焼き芋なら任せてよ!」
焼き芋に一家言ある焼き芋奉行・奏空が胸を張る。湿らせた新聞紙を巻いた上からアルミホイルを巻き、切れ目から蜜が出てき字数の為以下割愛。
「詳しいな」
「ふふ。奏空さん、いきいきしてますね」
柾が僅かに驚く傍ら、たまきは小さく笑いつつ火鉢の周りに串に刺したマシュマロとトウモロコシを置いていく。
そんな様子に、食いしん坊な翔が我慢できず灰の中から芋を取り出そうとして……。
奏空が翔の手をひっぱたいた。
「ってー!」
「翔! 我慢!」
「ははは。待つのも食事の内だ」
柾は笑いながら翔の頭をぽふぽふと。更に翔がいじけたのを見て、たまきが笑いながら焼けたマシュマロをひっくり返す。
「しりとりしましょうか? 負けた人は熱々のマシュマロをあーんです」
その言葉に奏空が反応した。
「たまきちゃんにあーん……」
「しりとりの必要がないな」
言いつつも柾は寄って来た古妖を撫でて、もう一度炎を出す。熱を感知して毛玉が寄って来る。
「見せるだけだ。危ないぞ」
「ちょっと、ガッカリしているようにも見えますね」
でも可愛いと思いつつ、たまきは古妖をぎゅーっと抱きしめた。
待つ我慢の限界を迎えた翔が近くにいた従姉から餅とチーズを貰って火鉢の周りは更に豪華に。熱に集まるようにスミクイ達もわらわらとやってきた。
そして、ようやく焼けた所で灰から芋を取り出す。割った所から湯気が上がる様は見ているだけで美味しい。
翔が口の中を火傷しそうになるのを見ながら、柾もしみじみと言う。
「自分達で焼くとまた格別だな」
「俺の焼き方が上手いからね」
「オレこれ貰いっ!」
「あ、翔! それ俺のだったのにー!」
「ふふふ。皆さん楽しそうです」
翔と奏空の食べ物争奪戦を、たまきがにこにこしつつ見る。
約束通りたまきが熱々のマシュマロを奏空にあーんしたりしつつ。
沢山あった芋やトウモロコシも、あっという間に皆のお腹の中に。スミクイ達も熱を貰ってお腹いっぱいだ。
翔は近くにいた一匹を撫でつつ、地面に座った。舟を漕ぎ、今にも夢の中に落ちそうだ。
で、彼に餅とチーズをくれた姉ちゃんこと天野 澄香(CL2000194)の方はと言えば。成瀬 舞(CL2001517)達と麻弓 紡(CL2000623)が持ってきた特大七輪を囲んでいた。
とはいえ舞はスミクイを抱きかかえたまま目を丸くし、紡は子牛が連れられていく某イディッシュ民謡の歌詞ような顔をしている。何故なら如月・彩吹(CL2001525)の放った炎が予想以上に燃え盛り、マシュマロが溶けたせいである。
スミクイが熱を食べた為火は収まったが、マシュマロは溶けたまま。
「ましまろ……」
生八つ橋も干し芋も干しリンゴもあるし、他の材料もまだまだあるのだがそれでもガッカリする。
「しつけが必要だね」
ちょこんと膝に乗ったスミクイを両側から抑えながら、彩吹が言う。
「いぶちゃん、そっち……?」
「お願いしますね彩吹ちゃん。焼き物の極意は弱火の遠火なんですから」
「澄ちゃんまで?」
ボンヤリしがちな舞が二人のツッコミ役に転じるという謎の現象が発生。
「何かおかしな事言いました?」
首を傾げる澄香に
「熱源が炎である以上焦がさずに熱を内部にまで伝えるには適度な距離がある方がいいと思うからおかしくはないと……」
と科学的観点から述べるに留めた舞であった。
そんなハプニングに見舞われたとはいえ、七輪に火が点き澄香の適切な調理法もあって彼女達が用意した材料はおいしく焼けていく。
彩吹がマシュマロを取った所でその熱に誘われてスミクイが寄って来た。
「これはダメ。お前達はこっち」
と彩吹が言った途端、掌からまた炎がごうっと。その一方で澄香は焼けたジャガイモを小さく切ってスミクイに与えてみる。
「あーん……」
とは言ったものの口は見当たらない。思わず澄香は首を傾げるが、熱々だったジャガイモが一気に冷めた。
「口はどこなんでしょう?」
「熱を食べるっていうから口は要らないのかも……?」
なんて澄香と舞が会話をしている傍ら、紡は巨大スミクイに寄りかかって焼けたおやつをもごもご。低体温気味なのでコートにカイロを貼って完全装備。大好きな抹茶味の生八つ橋もあぶって食べて至福のひと時だ。
「みんなで食べればどれだっておいしいけどね」
紡はにへっと笑って更に幸せ。
……とはいえ。舞が大きなスミクイを抱きしめているのがこのメンバーの中で一番小柄な紡としては羨ましい。いいなーなんてごちていると、一番背の高い彩吹が紡に抱き着いた。それを見て澄香と舞もぎゅむぎゅむ。
「ほら、お前達もおいで」
その言葉が分かったのか、スミクイ達も彼女達にぞろぞろ寄ってきておしくらまんじゅうに。
「ボクはちょっと苦しいかも……」
そんなことを言いながらも、温かくてみんな幸せだ。その後澄香が写真を撮って、女子4人全員でそのふわふわの毛を触り心地を家族や友人に自慢したとか。
一旦所変わってこちら室内グラウンド外。
何でか季節外れのキャンプファイヤー、蜘蛛の巣の火型である。……小型でも結構でかいやつだこれ。
で、何でこんなものがグラウンドの外にあるかと言えば。現在火の点いていないキャンプファイヤーの傍で座っている田場 義高(CL2001151)がよく知っている。
「季節外れだけど、キャンプファイヤーなんてスミクイに喜ばれそうだと思うのよね」
向日葵 御菓子(CL2000429)のそんな言葉が発端であった。
「まぁ、そうだな」
「でも、女だけじゃ作るの大変じゃない?」
御菓子の姪である菊坂 結鹿(CL2000432)もその場にいたのだが、二人に任せるのは少々……。
「まぁ、先生は潰されそうだ。それに結鹿にも危険だな」
「だから、男手が必要なの」
――その理屈までは、分かった。そこまで、は。
だが何故自分にだけ材木を運ばせる!? しかしそれでもやってしまうのが彼のサガ。一方、結鹿はそんな義高を尊敬の目で見つめていた。
何せ、結鹿が手伝おうとした所彼は危ないから御菓子の手伝いをしろ、俺が後はやるからと言ったのだ。
なので土をならしたり枝を持ってきたりして手伝いをすることに。
(わたしも大人になったらああなれるかなぁ……?)
と、結鹿は心の底から思った。
かく言う経緯があって出来上がったキャンプファイヤー。
「喜んでくれるといいなぁ……」
そう言いながら御菓子が火をつけると、どこからともなくスミクイがぞろぞろと集まって来た。
あまりの火の大きさに古妖達は皆ハイテンションである。その内の一匹が義高の手に飛び込んできてぽふりと収まった。
「これが報酬って所だな……」
そんな言葉を吐く一方で、御菓子はやって来たスミクイを抱きかかえつつ。
「バーベキューやってもいいかもね」
とポツリ。結鹿はそわそわし出した。
「魚……ドネルケバブ……焼きマシュマロにバウムクーヘン……」
どれもこれも魅力的である。
次の瞬間、結鹿はその健脚を生かして材料を買いに駆け出した。
ご機嫌でハミング一つ。皐月 奈南(CL2001483)は屋外プールの上に置いたポンポン船の上に小さなスミクイを乗せ、ろうそくに火をつけた。
ぽこぽこぽこぽこと音を立てて水面をすーっと進むのを見て、更にご機嫌だ。炭で動くSLも用意したし、スミクイたちも喜ぶはず。炭は要らない枝をバーベキューセットで作ればいい。
「せっかくだからバーベキューをするのだ! スミクイちゃんと一緒にお腹いっぱい食べてあったまるのだ!」
その言葉にスミクイが跳ねた。早速串に野菜や肉を刺して、大好きな餅も焼くことに……したのだが。火に興奮して次から次へとスミクイがやってきて、火力を弱めてしまう羽目に。
「スミクイちゃん! まだダメなのだ! SLもバーベキューも出来なくなっちゃう!」
奈南は思わず叫んだ。
場所を戻して。
「わー、ふわもこの毛玉さんがいっぱいいるー!」
御影・きせき(CL2001110)はグラウンドいっぱいのスミクイに歓喜の声を上げた。
ころころと転がる古妖を駆けまわって追いかけて抱っこするきせきを見て、同行していた片桐・戒都(CL2001498)も嬉しそう。一匹を戒都の膝の上に乗せるが、スミクイは大人しく彼の上でちょこんと座っている。走って体温が上がったせいかきせきの周りには更に古妖達が。
「わー、見て見て! すごい懐いてくれるよ!」
折角ここまで懐いてくれたので、一緒におやつを食べようという話になった。戒都が用意したのはマシュマロと金串だ。近くにあった火鉢を借りて、戒都が金串にマシュマロを刺して二人で炙る。
「こうやって、くるくる回すんだよ」
「へー」
火で炙られてとろりと溶けていく様を二人で眺め、戒都が出来上がった所で息を吹きかけて、にっこりと微笑んだ。
「はい。きせきくん」
「え? 僕に?」
「出来たては作った人の特権だからね?」
きせきは焼きマシュマロを食べるのは初めてだ。あーんと口の中に入れてもらって、彼は満面の笑みを浮かべた。
「おいしいっ!」
「ふふ。やっぱり自分で作ると違うよね。
次はお利口に待っててくれたもふもふ君たちにご馳走しようか」
戒都は足元の古妖をふかふかと撫でつつそう言った。
「古妖さん達も気に入ってくれるかな?」
ここにも火鉢を用意した覚者が。月歌 浅葱(CL2000915)と姫神 桃(CL2001376)の二人だ。
「ヒーターより火鉢の方が馴染みがあるし、何より焼ける楽しみがあるのよね」
「色々焼けそうですねっ。何焼いちゃいますか?」
「浅葱は何焼きたいのよ?」
桃の問いに浅葱は用意されたマシュマロと餅を両方見てから。
「折角だから先にお餅を焼きましょうかっ。可愛いですしっ」
「可愛い……?」
桃が首を傾げる傍らで、火鉢で焼かれた餅が熱で生き物のように動いて、ぷっくりと。それを見て浅葱は桃の頬を指でつついた。
「ホラ。まるで拗ねてる桃さんのほっぺみたいですよっ」
「私そんなに拗ねてないし膨らませてないわよ!」
そんな二人のやり取りを見ているように、餅は更に膨らんで。今度は桃からのお返しで浅葱の頬をつんつんと。
「モチモチ具合は浅葱みたいね」
そんな合間にマシュマロも餅も焼けてきて、いい匂いが漂ってきた。浅葱がマシュマロを一個渡して
「桃さんあーんっ」
桃がそれを一口。焼けたばっかりで熱いが美味しい。思わず顔が綻ぶ。
「ふふふ」
その浅葱の笑みに、桃はしばし沈黙。
……恥ずかしい、筈なのだが。
慣れは恐ろしい。いや、更に言うと慣れている自分が恐ろしい。
「もっと沢山ありますからどうぞっ。バレンタインのお返し的にっ」
「バ、バレンタインとか……!」
「ふふっ。桃さん可愛いですよっ」
「べ、別に、可愛くないから……!」
どうしようもなくなって、桃はそっぽを向くしかなかった。
こちらは椿 那由多(CL2001442)と十夜 八重(CL2000122)とクー・ルルーヴ(CL2000403)の三人で火鉢を囲んで餅を焼く。
「炭もええかんじになってきましたね」
そう言いつつ那由多がうちわであおいだ瞬間、煤の反乱に遭って彼女は鼻の頭を黒くした。クーはクスリと笑う。
「すみません。可愛らしくて思わず」
「可愛いお顔が黒くなってますよ?」
八重もつられて笑い、那由多の鼻の頭を拭った。
とはいえ、餅は順調に焼けて、スミクイも熱につられて寄って来る。
「あ。こんな所にも。可愛らし」
「焼けるまでモフモフさせてもらいましょうか」
クーは小さなスミクイを膝の上に乗せ、撫でた。傍らで餅がぷーっと膨らむのを見て、八重はふふっと笑う。
「この瞬間がとても可愛いですね」
那由多が持ってきた団子にタレを付けた所で、香ばしくあまじょっぱい匂いが漂う。それに、クーのお腹が、小さく。今度は那由多がクスリと笑った。つられてクーも微笑む。
「お腹が鳴ってしまうのも仕方ありません」
餅と団子が焼きあがった所で網から取り上げて、3人で熱々を頂く。八重はお気に入りのきな粉砂糖の餅から食べていた。
「火傷せんように気ぃ付けて……どうでしょ?」
「きな粉砂糖は甘さ控えめで美味しいですし、お団子もいいお味です」
「美味しくて、もう一つ頂きたいぐらいです」
八重とクーの言葉に那由多は微笑んだ。
「一つと言わんでどんどん召し上がってええんですよ」
ちょっとお腹が落ち着いた所で、寄って来たモフモフを撫でる八重とクー。那由多はお茶の用意をしてくれている。
八重は何の気なしに黒い毛玉の中に、何だか細長いものを掴んだ。何だかとっても毛並みがいい。
「こっちの方が好みの感触ですけど……」
横を向いてみれば、那由多と目が合った。
「八重さん、それうちの! モフモフやったら……」
そこで掴んだのは、何だかスミクイにしては白い。クーの尻尾だと気づいて那由多はパッと放したが、クーは気にしていない。むしろ何だか嬉しそうだ。
「そのままモフモフしても平気ですよ」
「ふふ、なんだか繋がってもふもふしあってるみたいで楽しいですね」
嬉しくてクーの尻尾がぱたぱた振れる。もふもふも温もりもいっぱい。お腹もいっぱいで幸せだ。
「まあ、本当に素敵な手触りですね」
スミクイをふかふかと撫でて、上月・里桜(CL2001274)は微笑んだ。何だかちょっとひんやりしているので近くにあった火鉢に古妖を置く。火鉢と言えば餅だが……冬も終わりだ。ぜんざいを作ってもいいだろう。
小豆を煮ていると、もう一匹古妖が寄って来た。彼女はクスリと笑う。
「あなたたちには炭をあげますからね」
出来上がった所で、里桜は近くにいた覚者達にぜんざいを振舞うことに。途中、通りかかった旦太にも手渡した。
「よろしければいかがですか?」
「ん? ありがとうございます!」
旦太はぺこぺこと頭を下げて、両手で受け取る。彼は喜んでぜんざいに口をつけた。
「そう言えば……初めましてですね。どうぞよろしく」
「こちらこそ。……というかご馳走様です。温まりました」
「うん。壮観だ」
見渡す限りスミクイ。如月・蒼羽(CL2001575)はしみじみと呟いた。何だか女の子のきゃーという声も聞こえて、自身の妹を思い浮かべるが
「ないね」
と即答。遠方を見つめるしかない。とりあえず近くにいた一匹を拾い上げる。ふわふわだ。
「ああよしよし。お前たちもおいで」
その言葉に反応してか、スミクイがぞろぞろ集まって。彼はいつの間にかスミクイに埋もれていた。
一方。
「空野くーん!」
「新堂!」
旦太に手を振って新堂・明日香(CL2001534)がやって来た。
「どうしたんだよ汗かいて」
明日香が得意げに笑んで、ばっとコートの前を開けると。いくつものカイロが。
「どうだ!」
意図は分かった。だが。
「風邪、ひくぞ?」
思わずポツリ。
「細かい事いいの! この子達ぬくぬくにしてあげるんだから!」
「細かい……?」
コートを脱いでそれを向けると、明日香もあっという間に埋もれた。何だかとっても幸せそうだ。
「ほらほら、おいでよー」
「ちょ!?」
手を引っ張られ、旦太まで古妖に埋もれる。
「ほら、ふかふかー」
「それ俺の羽!」
なんてやり取りをしている間に、明日香はリラックスしてきたのか。古妖の中でうとうと。しばらくすると寝息を立てて寝始めた。
そんな時のこと。古妖に埋もれた蒼羽と目があった。
「ああ! 如月彩吹の兄の蒼羽です」
「あ、お世話になってます」
「こちらこそ妹が。迷惑掛けるかもし……」
そこまで言って、彼は寝ている明日香に目をやり、また旦太を見て。無言。そして妹そっくりの笑顔を浮かべた。
「え? 何すか!?」
足元にいた一匹を拾い上げ、環 大和(CL2000477)は挨拶をした。
「こんにちわ、スミクイさん。温かい毛皮堪能させてね?」
そっと抱きしめると温かい。何匹もやってきたので埋もれてみると、羽毛布団に包まれた気分だ。
「明日香もどう? 気持ちいいかしら?」
一緒にスミクイに埋もれた守護使役の明日香に声を掛けると、何だかとっても気持ちよさそうだ。一緒にうとうととし始めて……。
ハッとする。
「いけないわ、目的を果たすのを忘れていたわね」
そう言って彼女が差し出したのはカイロ。
「これもお食事のひとつになるかしら?」
その言葉にスミクイはぴょんと跳ねた。大和も微笑みを返す。
「喜んでもらえたのなら嬉しいわ」
そろそろ皆お腹いっぱいになって、帰る時間だ。大和は名残を惜しむ様に、スミクイを優しくもふもふと撫でた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『黒い毛玉』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

■あとがき■
翌日、グラウンドの中心に一枚の古ぼけた紙が置かれていた。
ミミズの這ったような文字で何か書かれている。
『ご りん か くしゃ みん な いい ひと
ありが と。 おれ い けだま い つは い なで て』
ミミズの這ったような文字で何か書かれている。
『ご りん か くしゃ みん な いい ひと
ありが と。 おれ い けだま い つは い なで て』
