暗殺の阻止を!
【攫ワレ】暗殺の阻止を!


●副所長だった男の目的
 静永・高明。
 彼はカーヴァ生体工学研究所において、副所長をしていた男だ。
「全く、手間をかけさせてくれますね……」
 静永は小さく頭を振って嘆息する。
 それもこれも、F.i.V.E.という組織によるもの。表の活動拠点を潰され、面目丸潰れの静永だ。
 彼の裏の顔。それは、七星剣、霧山・譲の有する『黒霧』の一員。また、霧山のお目付け役でもある。
 その力を使い、彼は人身売買の提案などを行った。だが、それによってF.i.V.E.に足元をすくわれる形となり、自身も指名手配の身だ。
 もちろん、そのおかげで進んだ研究もある。それを売ることで資金調達を行うことはできた。それに……研究によって得られたものもある。
「折角ですから……、彼らを使うとしましょうか」
 静永の背後には、7人の覚者の子供達が黒霧メンバーに連れられていた。首には強力な電流の流れる首輪。そして、それぞれの体には何やら半球状の装置が装着されている。
 その子供達は機器のテストの為に利用された、いわば人体実験の被験者達だ。
「さあ、行きましょう。……標的は、コーディ・カーヴァです」
 電流のスイッチを手にした静永の声に応え、子供達は抵抗すら出来ずに頷くのである……。

●哀れなる研究者の末路
「ガッデム、ガッデム……!!」
 ボロボロになった白衣。木陰に潜み、体を震わせていたのは、『カーヴァ生体工学研究所』の所長、コーディ・カーヴァだ。
 雨に打たれ、風に晒されようとも、彼に逃げ場など無い。森から出れば、すぐにAAAに捕まってしまうことだろう。
 もう、研究などできようはずも無いと、彼は絶望していた。かと言って、死ぬ気にもならない。自身の研究を是が非でも進めたいと考えていたからだ。
「セメテ、国に帰レバ……」
 覚者としての力はなくなれども、研究は続けられるだろう。
 だが、状況はさらに彼を苛むこととなる。
 草を踏み締める音が聞こえる。相手は敢えて足音を鳴らし、接近を教えているらしい。「黒霧」ならば、そんなことせずとも、あっさりと自身の首を掻っ切ってしまいそうだが……。
「ヒ、ヒイイッ」
 カーヴァはただ逃げるしかない。どこへなんて考える余裕はない。ただ、生きる為に。彼は地面を這って、この場から離れていくのである……。


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:難
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.カーヴァの確保
2.カーヴァの生存
3.なし
お世話になります。なちゅいです。
逃げるカーヴァ生体工学副所長カーヴァの拘束を願います。
副所長、静永が本性を露わにして、
カーヴァの暗殺に動いておりますので、
その阻止も合わせて願います。

●隔者
○静永・高明(しずなが・たかあき)……29歳。日本人。
 カーヴァ生体工学副所長であり、
 黒霧の一員、霧山・譲のお目付け役でもあります。
 暦×土。ナックルをメインに攻撃してきます。
 スキルは、第六感、超直感、他、土行スキル、
 以下のスキルを使用します。
 ・鉄甲掌・還……特近単[貫2・50・100%]
 ・十六夜……物近烈[二連]
 ・岩盤烈破……特遠列・重圧
 相手に叩きつけた岩によって、動きを封じる技です。

 覚者の皆様より格上の相手ですので、くれぐれもご注意を。

○コーディ・カーヴァ……55歳。アメリカ人。
 『カーヴァ生体工学研究所』の所長、指名手配犯です。
 やや日本語に不慣れな部分があり、片言で喋ることがあります。
 現×天。雷獣を中心としたスキルの他、
 魔導書を使った魔力での特殊攻撃をメインに行います。

●捕らわれの覚者の子供達
○覚者……7人。いずれも7~15歳くらいの子供達。
 少年(暦×水、彩×土、獣(丑)×天、械×火)
 少女(獣(猫)×土、翼×水、械×火)

 元は力の弱い覚者の子供達ですが、
 因子の発言場所に装着された拳大、半球状の機器によって
 因子の力を強く解放されております。

 場所は以下の通り。
 暦……頭(右のこめかみ)
 彩……左肩の刺青の上
 獣……頭(右のこめかみ)
 翼……背中、一対の羽の間
 械……男子は機銃となる右腕の肩、
     女子は右のこめかみ。ツインテールの髪を刃として使用

 ただ、いずれもその力は皆様には劣るもの
 (レベル10程度、体術は初級、術式は壱式のみ使用可能)です。
 
 全員の首に、強力な電流を発する首輪が装着されており、
 その起動スイッチを持つと思われる静永・高明の意のままに動き、
 カーヴァの殺害の優先して動きます。

●状況
夜、見通しの悪い森の中に潜む
コーディ・カーヴァを発見した静永が覚者の子供達と共に、
カーヴァの殺害を目論んでおります。
静永は事前に霧山から助言を受け、
F.i.V.E.の出現を警戒しております。
この為、敢えてカーヴァに自らの接近を示し、
F.i.V.E.メンバーの出現タイミングを探っているようです。
状況次第ですが、
保護できなかった子供達と静永は、
この場から撤退してしまうようです。

●注意!
同タイミングの作戦である為、
現在同時に出ている【攫ワレ】シナリオの両方に
参加することはできません。
どちらか一方のみの参加となります。
重複して参加した場合は、両方の依頼の参加を剥奪し、
LP返却は行われませんので注意して下さい。

また、状況によっては、
2シナリオが互いに影響を及ぼす可能性があります。
こちらのシナリオでの戦闘ターンが
あちらの戦闘時間に影響を及ぼし、
こちらが敵を逃がすと、
あちらに援軍として覚者の子供達、静永が現れる可能性があります。

その結果、片方のみ失敗、両方失敗という結果もありえますので、
予めご了承くださいませ。

以上です。
それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
公開日
2017年02月27日

■メイン参加者 7人■

『星唄う魔女』
秋津洲 いのり(CL2000268)
『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)

●静永という男
 夜、しかも鬱蒼と茂る森の中ということもあって、森の中は暗い。
 後方から仲間を追う形の『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466) が守護使役の龍丸のともしびで、照明を確保する。
 逆に、暗視を働かせて前を行く『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)は同時に送受心を使うこともあり、F.i.V.E.の覚者達は互いに意志の疎通をしながら、固まって先へと進む。
「まったく、カーヴァはアホかよ! あん時逃げるからこんな事になるんだろうが」
 こちらは、守護使役空丸に周囲を偵察させていた『白き光のヒーロー』成瀬 翔(CL2000063)。彼は物陰に目的の人物……カーヴァが潜んでいないかと透視しつつ、そいつに対して、感情をむき出しにしている。
 F.i.V.E.メンバーの主目的は、カーヴァ生体工学研究所所長、コーディ・カーヴァの身柄の確保だ。
 ただ、そのカーヴァは今、部下だった男……副所長、静永・高明から用済みと切り捨てられ、命を狙われている。
「以前、霧山に研究所について尋ねた時はとぼけていましたが、やはり繋がっていたのですね」
 守護使役ガルムの力を借り、『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)は嗅覚で敵の発見に努める。彼女は七星剣霧山とこの一件に繋がりを感じていたが、静永という男は霧山の腹心とも言える存在らしい。
 こちらも暗視を使う緒形 逝(CL2000156)は、感情探査で目的となる人物の感情を探る。
「あらまあ、静永ちゃんは正に無能の上司を据えて居たわけか……優秀だこと」
「やっぱり、所長よりも静永のほうが悪者やったんやね」
「本当に優秀な部下は、無能な上司を欲しがると言うものな」
 懐中電灯で足元を照らし、木の根などに足をすくわれぬよう気遣う『マジシャンガール』茨田・凜(CL2000438) の言葉に逝が頷く。
「何れにせよ、使い捨てのようにも見えるさね」
 カーヴァの研究は因子の影響に関わるものに違いないだろう。もっとも、今回現れる覚者の子供達の状況から、研究が実ったかと言われると微妙なようだが。
 探す相手はカーヴァだけではない。『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)も暗視を使うが、同時に鋭聴力を行使して自分達を同じく集団で動くはずの静永、それに覚者の子供達の位置を探索する。
 子供達は皆、奏空と同年代かそれ以下とのこと。強力な電流を発する首輪で脅される彼らは覚者の力をブーストさせる器具をつけられ、力ずくで従わされているらしい。
「子供を物のように扱うこいつら……。例えどんな理由があったとしてもこんな非人道的な行為、許せる訳ないだろ!」
「かわいい子供達にひどいことするなんて、絶対許されないんよ」
 怒りに体を震わせ、奏空が叫び、凜も大きく首肯する。
「ああ、こいつらは紛れもなく、倒すべき悪だ!」
 奏空が言うように、静永が倒すべき相手なのはもちろんのことだが。今は……。
「今度こそ、カーヴァを逃がさねーし殺させもしねー!」
「静永の思い通りにはさせない。カーヴァには生きて罪を償ってもらいますわ」
 翔、いのりは敵の思惑通りにはさせないと、強く決意を漲らせる。
「子供達を全員救出できるように全力を尽くすんよ」
 凜もそれを強調し、飛馬、いのりが同意した。
 やるべきことは多い。メンバー達は子供達の安否を気遣いつつも、まずは逃げるカーヴァを追いかけるのである。

●カーヴァの拘束……の最中に
 覚者達はカーヴァの発見に全力を尽くす。何としても、相手に先んじて発見し、確保を目指したい。
 空へと飛ばす空丸に、森の中に何か動く物、光るものはないかと翔は注意をさせる。
 逝も感情探査を続けていた。怯えに恐怖、それらはカーヴァも、子供達も抱いているはず。
「単独であっち、それに複数が近づいてるわね」
 敵もすでにカーヴァを捕捉しているらしい。逝は知覚した場所を仲間全員に送受心で伝え、全員でそちらへ急行する。

 カーヴァも接近する集団に気づいていた。
 感情探査でバレているならば、体力を温存して抵抗する方がプラスと判断した彼は動きを止めて息を潜める。
 先にこの場へ駆けつけたのは……F.i.V.E.だった。
「死にたくなければ大人しくしていなさい! 秋津洲いのりの名にかけて貴方を殺させはしません」
「オレらに捕まるのと静永に殺されるの、どっちがいい?」
 いのりが威風を伴い、草むらへと潜むカーヴァに呼びかける。後方で静永の到着を警戒しながらも、翔が続いて問いかけた。
 どのみち、静永……黒霧は利用価値のなくなった自分を始末する気だ。
 ただ、延命したところで、F.i.V.E.でも研究など望めようはずもない。
「信用、出来マセンネ……!」
 カーヴァとて、闇の世界に足を踏み入れかけた男だ。裏切りには何度もあっているのだろう。甘い話に乗ることなく、覚者達に雷獣を放ってきた。
 抵抗するならば、無力化するしかない。覚醒したメンバーは素早く動き、奏空が2本の刀で切りかかっていく。
「しょーがねーな……」
 翔も呆れながらカクセイパッドから霊刀を現し、カーヴァに刃を叩き込んだ。逝も同様に直刀・悪食に呪いの力を纏わせてから斬りかかる。
 しかしながら、カーヴァもそれなりの力を持つ相手。易々と動きを止めてはくれない。
 いのり、凜、飛馬とカーヴァに攻撃を行うが、亮平だけは別の方向を向いていた。
「ここまで手をわずらせてくれるとは……、F.i.V.E.……!」
 闇の中から現れた男……静永は微笑を浮かべ、従える子供達を前へ並ばせた。
 それを確認し、亮平は静永の前へと立ち塞がる。先にカーヴァの無力化をと当たっていたメンバーもそのまま続けられぬと判断し、こちらへと駆け寄ってきた。
「行かせねーぜ」
 翔がそう告げ、飛馬が刀を構える。
「さあ、いいデータを出してくださいよ」
 ニヤリと笑う静永に、7人の子供達はびくりと身を硬直させながらも、その命に逆らうことが出来ずにF.i.V.E.メンバーへと向かってくるのだった。

●両者の対処を
 迫り来る静永と子供達、それに抵抗を続けるカーヴァの対処へと、F.i.V.E.の覚者達は同時に迫られることとなる。
 まず、カーヴァ拘束を邪魔されないことが第一。メンバー達は静永と子供達の侵攻を止めようと身を張る。
(見たことない機械も付いてるけど、とりあえず首輪が先だ)
 その首には強力な電流を発する首輪がはめられており、子供達はそれに怯えて静永へと強制的に従わされているのは明らかだ。
 翔は透視と暗視で静永の体を見回す。首輪の起動スイッチを、静永が持っているはずなのだ。
「ここを通してもらいますよ」
 その静永自身も攻撃に打って出る。両手にナックルを装着した彼は、科学者とは思えぬ速さの拳を繰り出してきた。
 その拳を2本の刀で受け止める飛馬は己の体に岩の鎧を纏い、戦巫女の恩恵と、海を見守る古妖と巫女の加護をその身に受け、更なる攻撃に備える。
(操られてる子達に痛い思いをさせるのは嫌だけど……)
 亮平は、翔がスイッチを発見するのを待って援護の構えだ。それまでは眠りに誘う空気を発する。
 それぞれの子供達の力は、体に取り付けられた半球状の装置によって高められていた。2人が眠ったが、5人はそれぞれの因子と術式の力を行使してくる。
 子供達を保護したいのは山々だが、その保護を優先しすぎれば、後方のカーヴァは彼らに命を奪われてしまうだろう。
(……ごめん)
 子供達は戦闘不能に至らしめるしかない。奏空は両手の刃を眼前に迫ってきていた猫の獣憑の少女に叩きつける。
 凜も子供達を無力化させる為、高密度の霧を発していく。相手は、静永を恐れ、全力で攻撃を仕掛けてきていた。それによって大怪我するのは避けたい。
(生まれたばかりの赤ちゃんを残して、入院とかイヤだし)
 子供を出産して間もない凜は決意を胸に、仲間の援護を行う。
 そこからやや後方で、カーヴァを抑えるメンバー達。
 想像以上に抵抗する相手に、いのりは対策が不十分だったと後悔する。序盤に仲間が攻撃して相手を弱めてくれはしたものの。思った以上に抵抗をしていたのだ。
 いのりはカーヴァが放つ魔力の一撃をまともに食らってしまう。彼女は命の力を削り、杖をついて倒れかけた体を支える。
「もっとも、あえて死にたいというなら止めませんが、生きていればいつか研究を行う機会もあるかもしれませんわ」
 カーヴァへの呼びかけを続けるいのり。傍で逝が抵抗する相手の体を思いっきり投げ飛ばす。
「オ……ゥ……」
 地面に打ちつけられ、カーヴァが意識を失って倒れる。
(その前に、きちんと罪を償っていただきますけど)
 小さく息をついたいのりは心の中で、彼へと告げた。

 その後、F.i.V.E.メンバー達は倒れるカーヴァを守りながら戦う事となる。
 凜の発する霧によって弱体化した子供達へ、亮平、奏空が主立って子供達と対する。いのりもそのサポートへと加わっていた。
 その間、翔は何度か透視を使ってカーヴァの体を見回していた。
「あれか……!」
 静永の着る白衣の左ポケットに小さな箱状のスイッチらしきものが入っている。子供達の首輪の起動スイッチに違いない。
 亮平、奏空がそれを察し、スイッチを破壊しようとする翔のサポートをすべく静永の気を引く。
 静永が拳に力を込め、大きく振り抜くタイミング。亮平が敵を押さえ、その後ろの奏空が敵の豪腕の威力を受け止める。
 亮平は翔の考えを送受心で受け、敵の両腕を掴む。こうすれば、静永は胸元がお留守となるはずだ。奏空も子供達の相手を一時止め、静永へと両手の刀で二連撃を食らわせ、怯ませる。
「いくぜ!」
 この一撃を外すわけには行かない。翔は狙いを定めて波動弾を発射した。
 ……弾丸は静永の白衣を確かに貫いた。そこから穴の穿たれたスイッチが宙を舞い、地面を転がる。
 しかし、静永は二イッと口元を吊り上げた。
「残念ですが、スイッチは1つではないのですよ」
 静永は口の中からも、小指ほどの大きさのスイッチを取り出してみせ、蓋を開けてボタンに指をかける。子供達はすぐに怯えて身を竦ませた。
 起動スイッチは一つだけではないと言うことか。F.i.V.E.メンバーはそれに苦い表情をする。
「ほら、もっと試作機の機能を見せてくださいよ」
 静永はスイッチを破壊させぬ為に一度後方へと飛びのく。子供達は電流の恐怖を思い出して叫び、あるいは泣きじゃくって覚者へと襲ってきた。
 その声で、カーヴァは目を覚ます。しかし、深手を負う彼は覚醒すらできず、木の幹に背中を預けて蹲る。
 カーヴァを子供達から守る役は、飛馬が引き継いでいた。基本的には仲間が子供達を抑えてくれている為、時折飛んで来る術式を受け止める程度で済んではいたが……。
「カーヴァ、後でぜってー罪は償わせる。……ただ、今だけは命を守ってやる。逃げんじゃねーぞ」
 凄みを利かせて飛馬がカーヴァへと告げる。動けぬ彼はもはや、抵抗すらしない。カーヴァの命はF.i.V.E.が握るも同然となっていた。
「正直、確保ターゲットさえ離脱出来るようにすれば、『御の字』って奴でしょ」
 最近覚えた言葉を使う奏空の思惑に反し、スイッチを再び口の中にしまった静永が再び、カーヴァの消去を目指して前に出てくる。
「随分と水面下でやってきたようだけど、足が付いたら手を引くべきだったねえ」
 岩の鎧を纏った逝も一緒になって抑え、カーヴァの守りに入っていた。
 その間に、手前の獣憑の少女へと亮平が地を這う連撃を叩き付け、昏倒させた。彼は少女を気遣いつつ、抵抗を続ける子供達の対処を続ける。
「カーヴァのやったことは到底許されることじゃねー。ただな、静永、あんたの思い通りにしてやるほど俺も寛容じゃねーんだ」
 飛馬は静永が飛ばす岩盤を受け止める。その身に落ちていた重い岩が、彼の体へとのしかかった。
「あなた達の感情など、知ったことではありませんよ」
 瞳の奥に狂気の光を見せながら、静永は冷淡に言い放った。

 覚者の子供達は6人が今なお、カーヴァの殺害を狙う。
 子供達の力はF.i.V.E.メンバーに劣る。倒すだけならば問題ない相手だが、相手は覚者の力を持つ為、下手に手加減して相手すればこちらが深手を負いかねない。
 奏空は心の中で謝罪を繰り返しながら、子供達へと連続して二連撃を叩き込み、無力化を図る。
「なあ、お前達! 首輪はすぐに外してやる! だからもう戦わねーでいいんだぜ!」
 スイッチ奪取は叶わなかったが、翔は諦めずに呼びかける。しかし、電流にトラウマすら植え込まれた子供達を説得するには至らない。
(ごめんな、後で回復して貰うからな……!)
 彼は断腸の思いで雷を子供達へと叩き落とす。
 覚者の力を強められたということは、攻撃に対する抵抗力も上がっているということ。されど、幾度か食らえば体力が持たなくなったのか、獣憑の少年が倒れてしまった。
 交戦が長引いてくれば、F.i.V.E.メンバーの傷も深まる。凜はほぼ回復支援に動き、戦うメンバーを水の力を纏わせる。
 いのりも回復メインに動いて仲間の傷を癒していたが、時に彼女は機会を見つけて攻撃も行う。狙うは、子供覚者に付けられた半球状の機器だ。
 発した波動弾は、ツインテールの少女のこめかみに付けられた機器を撃ち抜く。それにより、少女は無力化して膝を折っていた。
「スキルで壊せるな、あれ」
 翔が仲間達へと呼びかけるのと同時に、静永が苦い顔をする。
「テスト中の商品は、最後まで出すべきでは無いと思うわよ?」
 逝は好機と別の子供に装着された機器を狙い、刀の瘴気を飛ばす。だが、それを静永が受け止めて見せた。
 静永の前には、スキルと術式で身を固める飛馬とカーヴァについて庇う態勢と攻撃を繰り返す逝がいる。
 カーヴァを守るメンバーを攻めあぐねる静永だが、その拳の一撃は強烈だ。抑える2人もいつまで持つかは分からない。
(一矢報いたいよね……俺の今の出せる力を……)
 静永を倒せるかと言われると苦しいが、せめて。
「雷帝顕現……! もう、自分がぶっ壊れてもいい!」
 奏空は子供達の怒りを乗せ、その身に雷神・帝釈天の力を降ろす。制限時間はわずか30秒ほど。その間に、今持てる力の全てを、彼はぶつける。
「もう、どうにでもなれ……」
 雷のような熾烈な攻撃を、奏空は静永へとぶつけていった。彼の体から噴き出す鮮血。その傷は決して浅くはない。
「頭に乗るな……」
 刹那、自身の闇を垣間見せた静永は奏空へと攻め入り、ナックルでの連撃を叩きつける。
 双方、殴り合いの様相となる戦い。しかし、奏空が先に背中を地面につけることとなる。
「これ以上は不利ですか、まあいいでしょう」
 奏空を倒したにも関わらず、彼は撤退の構えを見せる。奏空の与えた一撃が深くその体に食い込んでおり、致命傷となっていたのは間違いない。
 亮平は最悪、カーヴァを連れて逃げるよう仲間に指示も考えたが、敵の撃退を察し、いかようにも動けるよう警戒を崩さない。
「逃すかよ!」
 静永を逃がさじと翔と凜が動くものの。そいつは足元に煙玉を叩きつけた。濃い霧を発した彼は動ける子供を連れ去り、あっさりとこの場から撤退して見せたのだ。
「助け……られなかったんよ……」
 魂すら投げ出すことも厭わないと凜は考えていた。
 だが、きっかけをつかめず、子供達も全員救うことができなくて。彼女は悔しそうな表情を見せていたのだった。

●一難去れど……
 戦いが終わって――。
 この場には、ボロボロの覚者達。満身創痍のカーヴァ。それに、戦闘不能に陥った覚者の子供3人。
 静永の言う試作機を破壊された械の少女は、凜に泣きついていた。凜がお菓子を差し出しつつ、その破壊された試作機を守護使役のばくちゃんに食べさせる。首輪に関してはこの場での処置は難しいと判断され、F.i.V.E.本部に帰った後、以前、研究所から回収した機器で外すこととなった。
 戦闘不能となって意識がなかった2人も、程なく目を覚ます。彼らの傷は、いのりが癒しの霧を発して塞いでいた。
「お腹がすいたでしょう?」
 さらに、いのりは持ち寄ったお弁当も振舞う。子供達は最初、戸惑いを見せていたが、お腹がすいていたのか、バクバクと食べ始めていたようだ。
 凜は子供達の身元を気にしており、身寄りがないのならば引き取ろうかなとも呟いていたが。しばらく、身元の調査を行うこととなるだろう。
 そして、捕らえたカーヴァ。さすがに、子供達と同じ対処と言うわけには行かない。今度こそ、しっかりと縄が外れないように縛りつける。
「発現の研究……か。覚者を人為的に増やそうとしていたのか?」
「…………」
 カーヴァは答えない。ただ、直に駆けつけるAAAから長い聴取を受けることになるだろうが……。
「カーヴァは、『臭い飯』で我慢なさいませ」
 子供達から空になった弁当箱を回収したいのりがそっけなく告げると、カーヴァは面白くなさそうにそっぽを向いていた。
「そーいや、黒霧はどーなったかな」
 この森で繰り広げられるはずの別チームの戦いを、翔は気にかける。
 ただ、保護した子供達とカーヴァの確保を考えれば、動くのは難しい。覚者達は別チームの勝利を信じ、AAAの到着を待つのである。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
死亡
なし
称号付与
『もう、どうにでもなれ……』
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
特殊成果
なし



■あとがき■

連れ去られた子供達の安否も気になりますが、
カーヴァの拘束が出来て何よりです。
後は、彼の供述を待ちましょう。

ともあれ、お疲れ様でした。
ごゆっくりとお休みくださいませ。




 
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