<ヒノマル戦争>天吹組制圧 偽カカシキ最後の一刀
<ヒノマル戦争>天吹組制圧 偽カカシキ最後の一刀



 無数のピンと赤糸によるラインがひかれた日本地図。
 それを背景にして、中 恭介(nCL2000002)はコーヒーカップをデスクへ置いた。
「みんな、いよいよヒノマル陸軍との戦争状態も終盤を迎えつつある。協定にそった戦いによって拠点制圧を続けてきた我々だが、この制圧作戦は決戦の戦況を大きく左右しかねない重要なものだ。皆、気を引き締めてかかってくれ」

 今回の制圧目標は『天吹組事務所』。
 元は明石組というヤクザ組織の事務所だったこの場所は、カカシキ妖刀という特別な神具をめぐる大きな戦いの舞台となっていた。
 この場所を再利用して自らの部隊を組織した『天吹アマネ』もまた、偽カカシキ妖刀という特別な神具によって強化された隔者である。
「しかしこの天吹は妖刀の悪影響を受けすぎてしまい、破綻者寸前の状態まで追い詰められている。事務所に軟禁され、決戦時には彼女自身をファイヴ本拠地に直接投下することで爆撃するという形で運用される。
 今のうちに倒せれば破綻者爆撃のリスクをなくすことができる」

 決戦にはファイヴの覚者だけでなく協力団体やAAAなども駆けつける大きな戦いとなる。そんな場面に破綻者爆撃を起こされれば味方にも大きな被害が生まれるだろう。
「この作戦を成功させることで、その被害を防ぐことにもつながる。皆、頼んだぞ!」


 天吹アマネ。
 地面につきたった道路標識を刀で切断し、スクラップ自動車を切断し、コンテナハウスの壁すらジグザグに切断し、炎をまき散らして事務所周辺のヤードを焼き尽くしている。
「あの人は! あの人はどこ! どこよ! あの人に会わせて! 会わせてよお!」
 炎に巻かれながら暴れ回る天吹アマネ。
 彼女を遠巻きに観察しながら、金色のロール髪をした女がため息をついた。
 九条蓮華。ファイヴに協力する刀鍛冶である。そのかたわらには同じく協力する事務員の絹笠がいた。
「あれはもうダメね。精神が壊れきってる。刀の代償に最愛の思い人を消費させられたんだもの。当然といえば当然よね……好きな人にいつまでも会えないって、普通に地獄だもの」
「経験がおありで?」
「黙ってないと口を縫い合わすわよ」
「とにかく……あれはもはや生きた爆弾のようなもの。ファイヴの拠点である五麟大学に投下されれば甚大な被害が出るでしょう。この場で潰しておくのはリスク回避の観点から見ても妥当かと」
「そんなハナシじゃないでしょ」
 蓮華は刀の柄を握って、目を細めた。
「恋い焦がれて狂うくらいなら、死んだ方がマシなのよ」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.天吹アマネを倒す
2.なし
3.なし
 これはシーズンシナリオ<ヒノマル戦争>のひとつです。チーム戦の勝敗によって拠点制圧の是非が決まります。
 ヒノマル・ファイヴ双方がFH協定によって守られているため、互いの拘束や故意の殺害、非戦闘員への攻撃が禁止されています。

●シチュエーションデータ
 事務所前のスクラップ車や道路標識といった廃棄物が大量に放置されたエリアでの戦闘になります。
 何かと物が多いですが覚者戦闘における障害物になるような要素はありません。
 対戦相手は『天吹アマネ』ひとりのみです。
 組員や協力するヒノマル兵は含まれていません。

●エネミーデータ
・天吹アマネ
 ※絹笠による資料提供と前回の戦闘によりスペックの大半が把握できています
 →スキル構成は主に錬覇法、豪炎撃、双撃、火焔連弾。攻撃特化型前衛アタッカー。
 この時点で既にそれなりに強い天吹アマネですが、大きく精神的均衡を崩しており、戦闘中に破綻者化が始まると思われます。
 以降は戦闘によって更に破綻者化が進行していきます。
 あくまで予測ですが、訴えかけや説得によって破綻者化の進行を弱められるのではと言われています。

●味方の協力団体
・『カカシキ刀鍛冶』九条蓮華:水行暦
 →体術専門のアタッカー。回復は苦手。被害担当。
・『リスクマネジメント』絹笠サチオ:天行械
 →スペックバランスのいいサポーター。バフ・デバフが得意。


●破綻者化に関して
 ファイヴはこの一年ちょっとの間に破綻者に関する経験を積んできており、いくつかのことがわかってきています。
 進行の低い破綻者であれば戦闘不能にしたうえでファイヴで適切な処置を施せば元の状態まで戻せるという結果が出ていますが、これ自体が『戦闘員の拘束』にあたり協定違反となるため、実質的には破綻者から元に戻すことはできないと考えてください。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年01月17日

■メイン参加者 6人■

『白焔凶刃』
諏訪 刀嗣(CL2000002)
『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)

●天吹アマネという人間について
 ここで唐突ながら、暴力坂乱暴の人格についてふれてみる。
 上京した貧乏大学のようなアパートに住む百歳の老人がヒノマル陸軍総帥に据えられている最大の理由は、彼の行動手段の全てが『戦争』でできていることにある。それ以外はすべて、平和や友好でさえもが戦争の内側に内包されているのだ。
 そこへきて天吹アマネ個人だけで成立していたような天吹組を協力組織としてヒノマル陸軍が合意した理由もまた、天吹アマネの行動手段が『片恋慕』でできていることにあった。
 全ての行動が恋でできていて、それ以外は全て恋に内包されている。
 有史以来そういう人間は、恐ろしく強いとされている。
「さて、今日はそんな……偽カカシキを所有し、破綻者化寸前の女を倒すことがお役目じゃ」
 アテンドに合図を出すと、空中へ一本の薙刀が舞った。
 『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)の黒髪にならぶほど美しい刃の色は、薙刀そのものの名と同じ濡烏。
 自らの周囲に球形の結界を生むかのように六度振ると、樹香はこじりを地に打ち当てた。
「もしこのまま破綻者になっていたら、破綻者爆撃を受けることになるんだよね。そんなことになったら、五麟市はただじゃすまないよ。絶対止めなきゃ……」
 メタルケースを強く握りしめる『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)。
 妖器インブレスと名付けられたそのケースには、彼女の強さと堅さが詰まっていた。
 彼女たちをぼーっと眺める九条蓮華。一応おさらいしておくと樹香や渚の持つ本家カカシキ妖刀を鍛造した女である。
「カカシキ使いがこうも沢山いるとキモいわね。やっぱり何本かへし折ろうかしら」
「い、今更そんなこと言われても……」
 自分で預けるっていったじゃん、と小さく震える渚。
「で、そっちは? ある意味自分が折れたってわけ?」
「知るかよ、ンなこと」
 柄だけの刀を握る『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)。
 炎の刀身が伸び、心臓の鼓動のようにどくどくと波打つ。
 その鼓動は恋の鼓動であり、彼の鼓動である。
「全然わかんねえんだよ……」
 炎が惑うようにゆらめく。
「天吹のことだ。あいつは想い人を奪われて、会えねえどころかわかんなくなっちまってよ……そんな女にどんな声をかけりゃいいんだ。生きてれば次の恋が見つかるとか、好きな相手が喜ばねえとかかよ。言えねえよ、そんなことは。忘れちまったのに忘れられずに、捨てたくねえって探し回ってるやつを、俺は救えねえ」
「あら珍しい。『面倒くせえからぶった切る』じゃあないのね。アンタって馬鹿だからそういう機微のあること言えないと思ってたわ」
「喧嘩売ってんのかてめえ」
「見直したって言ってんのよ」
 額をぶつけてにらみ合う蓮華と刀嗣……を完全にスルーして、緒形 逝(CL2000156)は刀を乱暴にぶんぶんと振っていた。
「天吹ねえ、どこにもないものを探し続けるなんてタフな子だなあ。けど、そいつを使うにはもう視野が狭いさね」
 などと言いながら、ふと『教授』新田・成(CL2000538)のほうを見た。
「人には忘れるという力があります。喪失を古傷へ変え、思い出にする。それができぬとあらば……」
 薄目をわずかに開くと、殺意のある目が覗いた。
「生かすも救済なら、殺すも救済。ともに慈悲。私は後者を満たして万全を期すことにしましょう」
 一方。
 赤くなった額をさすりながらプリンスのそばに大股でやってくる蓮華。
 プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)はへらへらと笑って手を振った。
「婚姻届にサインしなさいよ。ちんこもぐわよ」
「余、日本人じゃないからこれ無効だよ?」
「じゃああんたの国の婚姻届を出しなさいよ。ちくびえぐるわよ」
「やめて、余が全年齢対象フィギュアになっちゃう」
 プリンスは、目だけを真剣なものにした。
「あとで、ちょっと天吹おいたするけど、許して貰える」
「許さないしケツの穴増やすわ」
「やめて」
「けど、死んだら泣くから」
「……うん」
 彼らは足を止め、制圧目標拠点の前に立った。
 天吹組事務所。その名とは裏腹に、廃材やゴミが大量に積み上がったヤードの片隅に置かれたコンテナハウスがあるだけである。
 しかも壁に書かれた明石という名の部分を削り取って、上から紙で天吹と貼り付けただけのものだ。
 そんなコンテナハウスの扉が、内側から吹き飛ばされた。
 髪をぐちゃぐちゃに乱し、目の下に恐ろしくクマをためた天吹アマネがゆっくりと歩み出る。
「なによ。あのひとの帰る場所を奪いに来たのね。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやる!」
 目を見開き、なんの合図もなしに天吹は襲いかかってきた。

●狂人
 強烈な刺突。
 プリンスはそれを強化骨格の膝運動によって回避すると、返す刀で繰り出された斬り上げをハンマーの柄でもってガードした。
「こんにちは! ねえちょっとお話しようよ。そうね、カレシの話とかどう?」
「声があのひとに似てる――死ねええええええええ!」
 腹に前蹴りを受け、よろめいた所で袈裟斬りにされた。
 腕でガードするが、腕の強化外骨格が切断されて火花を散らす。
「何悠長にお喋りしてんのよ、死ぬわよ!」
「お下がりください」
 蓮華が天吹に斬りかかり、軽く存在感を消していた絹笠がここぞとばかりに電撃のメタルカードを乱射した。
 牽制を受けて引き下がる天吹。
 そこへ刀嗣が追撃のために詰め寄る。
「破綻でもなんでも勝手にしやがれ。思い切り啼いて叫んで暴れまくればちったあスッキリすんだろ! 俺はそんなお前を正面からぶっ飛ばす!」
 炎の刃が首を狙い、天吹の刀が対抗してぶつかる。熱を帯びた刀がかちかちと震え、刀嗣の刀身をもざわつかせる。
 弾かれても強引に軌道を戻し、連撃を叩き込む刀嗣。
 天吹はそれを恐ろしいまでの手際ではじき返していく。
 彼女から発せられた熱が風までもをおこし、刀嗣を吹き払わんと渦巻いていく。
「戦いながら力が増してやがる。なりふり構わねえってか……!」
「破綻者化が始まっているのでしょう」
 後方へ回り込み、小石による指弾を放つ成。
 天吹はそれを振り向いただけで焼き尽くし、小石が纏っていた空圧を強制的にねじ曲げた。
 弾は流れ、事務所(コンテナハウス)の壁を貫いていく。
「雑兵とヒノマル兵抜きで前回と同じ人数が動員されたということは、この破綻者の戦闘力が我々の総合力に匹敵するということ。あるいは決戦への参加を阻止するのにそれだけの戦力を注ぐ必要があるということです」
「んなこたぁ分かってる! 要はぶっ飛ばせばいいんだろ!」
「それが可能なうちに、ということですよ。彼女は永久にできないことを永遠にやろうとしている。際限なく力を高め、やがて力そのものと化すでしょう。そうなればチームオペレーションでは手に負えません」
 目を細め、天吹の様子を観察する成。
 つい先程までなんとなく分かっていた彼女のスペックが、ついに全く分からなくなった。強さの膨らみがこちらが把握する能力を上回ったということかもしれない。
 腕が切断され、ごろごろと転がる刀嗣。
「大丈夫!?」
「腕くらいいつでも取れてる。なんてことねえ」
 駆け寄った渚が、メタルケースを開いた。
 癒やしの力が光となり、ヒヨドリの形をもって飛び立った。
 刀嗣の周囲をくるくるとまわり、落ちてきた腕をくっつけて修復していく。
 その様子を観察しながら、渚は天吹をキッとにらんだ。
「しっかりしてよ。破綻者になっちゃったら、もうその人を思い出すことだってできなくなっちゃうんだよ! それは、会えないことよりもっと辛いんじゃないの!?」
「うるさいわね、その声が、あのひとに似て……あ、あああああああっ!」
 頭を抱え、唸る天吹。
 逝はその隙を逃さずに急接近、スライディングのような蹴りで足を払うと、素早く相手の足を掴んで放る。
 上下反転され、事務所の壁に激突する天吹。
 そこへ樹香が滑るように接近した。
「濡烏。これはワシが心と向き合ったゆえの形じゃ。お主の心は、ここで討つ」
 一文字を描くように振ったのみと見えて、一拍遅れて無数の斬撃が天吹や周囲の壁を切り裂いていった。
 薄っぺらいコンテナハウスなど障子紙同然である。
 ばらばらと崩れた壁の向こうに天吹は転がった。
 露わになった部屋の内装、もはや狂気としか言いようが無い。
 壁一面に写真が貼り付けられているのだが、様々な人間の顔写真をめちゃくちゃにミックスした不細工なモンタージュが大量に貼られているのだ。
 そんな部屋を見ても、樹香は表情を変えなかった。
 彼女の横を抜けて走った逝が、もう一方の壁ごと切り裂いて破壊。
 廃材の山へと天吹を放り出した。

 スクラップ車が宙を舞っていた。
 道路標識が、自転車が、冷蔵庫が、洗濯機が、洋服箪笥が、ガードレールが、ひしゃげてこげて、宙を舞っている。
 その中心では、天吹が血の涙をながしていた。
「……随分、深度が進んだように思いますが」
 成がゆらりと立ち上がる。
 想定深度が第二段階を超えた所で、彼らの目的は完全な殲滅へと移りつつあった。
「けど、もし本当に深度3だったら殺しちゃう以外に倒す方法はなかったよね。本当にいいの?」
 ためらいを見せる渚に対して、刀嗣は血を吐き捨てて立ち上がった。
「泣いてる女は見捨てられねえ。そのためなら、約束事なんて知ったことじゃねえ」
 刀を担ぎ、食らいつくように襲いかかる。
「死ななきゃ救われねえなら、俺がやる! 後で好きなように好きな豚箱にぶち込みやがれ!」
 強引に斬りかかった刀嗣の刀を、天吹は素手で握りしめた。炎の刀身にもかかわらずである。
 見開いた目が真っ赤に光っている。だというのに、どこも見てはいなかった。
「――――――!」
 獣のような声をあげる。あのひとはどこ、と叫ぶように。獣が家族を呼ぶように吠えている。
 刀嗣は自らの肉体を犠牲にして、天吹を殴りつけた。
「ワシらもいくぞ」
「最初っからそのつもりだぞう」
 左右に分かれ、囲い込むように同時に攻め込む樹香と逝。
 逝は天吹を流れるように投げ落とし、樹香はその胸に薙刀を突き立てる……が、天吹はまるで止まらなかった。
 地面を殴りつけて地面ごと逝たちを浮き上がらせると、樹香と逝の首を掴んで放り投げた。
「みんな、下がって!」
 渚がメタルケースから注射器を大量に抜くと、光のヒヨドリに乗せて一斉に飛ばした。
 逝たちの回復のためだが、自らを盾にして仲間を下がらせるためでもある。
 頭に激突する電子レンジ。流れる血をそのままに、渚はぐっとその場に留まった。
「どんなに焦がれても会えないのは辛いよね。けど忘れたいわけじゃないよね。あなたは会えないつらさに耐えて、自分を支えてきたはずだよ。なによりあなたが壊れちゃったら、誰がその人のことを覚えていてあげられるの。あなた以上に、その人を想っているひとは居ないのに!」
 目を見開き、掴みかかる天吹。
 成は飛び込むように渚を押し倒し、顔面を狙った斬撃をよけさせた。
 指弾で牽制しながら渚を抱えて走る。
「待って、まだあの人は……!」
「いいえ。これ以上の問いかけは無意味でしょう。ファイヴの歴史上、深度3のラインを超えた破綻者が呼びかけに応じた例はありません。上層部には『やむを得ず殺害した』と報告しましょう。破綻も『自殺行為』や『魂使用による自死』と同等に扱えるでしょうしね」
「まってよ、それじゃああの人はどうなるの。望んでこんな風になったわけないのに!」
「誰でも、望んで不幸になりはしません」
 渚を放り出し、刀を握り込む成。
 その横を、蓮華と絹笠が固めた。
「ぶっ殺すんでしょ。手伝うわよ」
「私もご一緒します。しかし憎まれ役とは、ご苦労をお察ししますよ」
「こういうときに、ネガティブな現実を語るのが老人の役目なのでしょう」
 構える成たち――の、前に。
「やあ、余だよ」
 いつものテンションでプリンスがスライドインした。
「もうちょっと話しかけてみていい?」
「深度3以上でもですか」
「計測したわけじゃないんでしょ? ちょっとだけだから、先っぽだけだから」
 外骨格は火花を散らし、既に動いていない。
 プリンスはそれを脱ぎ捨てると、両手を広げて歩き出した。
「待ちなさい。自殺行為は――」
「だってさ。さっきから誰もあの民助けないじゃない」
 外骨格からハンマーを抜いて、重そうに担ぎ上げる。
「余はね、助けを求める民が最後に掴む手でいたいんだよ」
「でもそれ、あんたの国の民じゃあないわよ」
「民は民でしょ」
 ハンマーを方に担ぎ、へやーとか言いながら殴りかかる。
 一瞬でハンマーが弾かれ、柄の部分からへし折れた。
 ついでにプリンスの腕もへし折れ、腹に刀が突き刺さる。
「ねえ、貴公のカレシの話しようよ。もし残念なことになるかもしれないけどさ、貴公の愛は貴公だけのものでしょ? 愛は、オモチャにされちゃダメだよ」
「……」
 こふりと血を吐いて、プリンスはへらへらと笑った。
「うちにおいでよ。そのカレシ、探さない? 見つからないかもだけど、探すことが、貴公の愛なんじゃないの?」
「…………」
 がらがらと崩れていく廃材やがれき。
 成はその様子に目を見張った。
「破綻者が……動きを止めた?」
「愛、ね」
 腕組みをした蓮華が、顎でプリンスの尻ポケットを示した。
「ダーリン、『アレ』の出番よ」
 瞬間、プリンスの尻が輝いた。と言うか、ポケットの中に入れていたアイテムが輝いた。
 光は形を変え、巨大なハンマーを形成していく。
「アイラブニポン……遅かったじゃない」
 それをがしりと掴んだ途端、プリンスの身体に力が漲った。
 天吹を強引にはねのけると、ハンマーのフルスイングを叩き込む。
 彼の身体から抜け、宙を舞う妖刀片恋慕。
 逝と樹香、そして刀嗣はそれをめざとく見つけると、同時攻撃によってばらばらに破壊した。
 落ちてきた天吹を力強くキャッチするプリンス。
 駆け寄った渚が脈をとって……。
「生きてる」
 と、呟いた。

●協定解釈
「見事」
 よく響く声がした。
 次の瞬間、恐ろしく音のしないヘリが頭上に現われ、その中から人間が飛び出してきた。
 相当な高度だというのに、まるで当たり前のようにずどんと着地する老人。
 その名を、暴力坂乱暴。
 彼は手に持っていた金属筒を開くと、中から一枚の書類を取りだした。
「ヒノマル陸軍総帥・暴力坂乱暴の権限により天吹組との協力関係を破棄する。ファイヴには治療施設があるんだろ? とっとと担ぎ込んでやれ」
「……いいの?」
 不安そうに問いかける渚に、暴力坂は首をこきりと鳴らしながら唸った。
「あー。天吹がこのザマじゃあ決戦に出てこれねえしな。つうか、正直このまま死ぬと思ってたから、本来この書類はいらなくなる筈だったんだよ」
「…………」
 『いらなくなるであろう書類』を先に完成させておく上司というのは、なかなかに油断できない存在である。政治的に隙が無いということだからだ。
「ああ、でも気をつけろよ。天吹組の部下連中は健御がスカウトしてまるごと吸収しちまった。今は四覚隊だ。天吹は部下も組織も失ったフリーってことになるから、何しでかすかわからんぞ」
「いいよ。ありがと」
 プリンスはそう言うと、覚醒状態を解いた。解いた途端天吹の重さに耐えきれずにプルプルしはじめた。

 ――敵拠点『天吹組事務所』の制圧に成功しました!

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

レアドロップ
取得キャラクター:プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)
取得アイテム:妖槌・アイラブニポン




 
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