≪初夢語≫竜宮城の灯台~幸福の光~
●
「???」
確かこたつで、あるいはホットカーペットの上で、うたた寝をしていたはず……。
気がつくと、貴方はほかの覚者たちと一緒に、竜宮城の屋根を足の遥か下に眺めていた。
え、竜宮城!?
「ムフフ~ン。明けましておめでとう。ボクは古妖・獏。いきなりだが、キミたちは共通の初夢の中にいる」
突如、目の前に現れた古妖に慌てる貴方たち。
獏(バク)と名乗った古妖は、落ち着いて、と静かに語りかける。
「海の中だけど息はできるだろ? 夢だからさ」
貴方が頷くと、獏はムフフ~ン、と笑った。
「よしよし。では本題だ。いま下に見えているのがかの有名な竜宮城。だけど、キミたちに注目してもらいたいのは――あっち」
獏はすっと短い腕を振った。
●
竜宮城の門を出て少し。瑠璃色の海流が心地よく流れる珊瑚の丘に、真っ白な『海の灯台』が建っていた。
城に出入りする魚や海亀、海豚に鯨はもちろんのこと、古妖も含めて海に住まう者たちが安全に航海できるように海中を休みなく照らし続けるのだが……。
その建物は灯台とは名ばかり。海中に投げかける光は弱々しく、いまにも消えてしまいそうだった。
このままでは、新年早々、海難事故が起こりかねない。
「今年の『灯台ふく』が逃げ出して、去年の『灯台ふく』がまだ頑張ってくれているけど、もってあと一日だね。そこでキミたちの出番だ」
初夢効果で人語を話せる守護使役と一緒に、『灯台ふく』を探して灯台に連れもどしてほしい、と獏は言った。
「ムフフ~ン。頼めば人の姿になってくれるかも。まあ、無理強いはしないでね」
ちなみに、『灯台あんこう』は夢や希望、愛などの強く温かい感情が大好物。守護使役と一緒に、今年一年の抱負や叶えたい夢を語りながら、灯台の中や周辺を探してみるといい。好きな人がいれば守護使役相手に恋バナもいいだろう。
お腹がいっぱいになれば、まん丸い『灯台ふく』の体はぴかぴか光りだす。
「じゃあ、頼んだね」
「???」
確かこたつで、あるいはホットカーペットの上で、うたた寝をしていたはず……。
気がつくと、貴方はほかの覚者たちと一緒に、竜宮城の屋根を足の遥か下に眺めていた。
え、竜宮城!?
「ムフフ~ン。明けましておめでとう。ボクは古妖・獏。いきなりだが、キミたちは共通の初夢の中にいる」
突如、目の前に現れた古妖に慌てる貴方たち。
獏(バク)と名乗った古妖は、落ち着いて、と静かに語りかける。
「海の中だけど息はできるだろ? 夢だからさ」
貴方が頷くと、獏はムフフ~ン、と笑った。
「よしよし。では本題だ。いま下に見えているのがかの有名な竜宮城。だけど、キミたちに注目してもらいたいのは――あっち」
獏はすっと短い腕を振った。
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竜宮城の門を出て少し。瑠璃色の海流が心地よく流れる珊瑚の丘に、真っ白な『海の灯台』が建っていた。
城に出入りする魚や海亀、海豚に鯨はもちろんのこと、古妖も含めて海に住まう者たちが安全に航海できるように海中を休みなく照らし続けるのだが……。
その建物は灯台とは名ばかり。海中に投げかける光は弱々しく、いまにも消えてしまいそうだった。
このままでは、新年早々、海難事故が起こりかねない。
「今年の『灯台ふく』が逃げ出して、去年の『灯台ふく』がまだ頑張ってくれているけど、もってあと一日だね。そこでキミたちの出番だ」
初夢効果で人語を話せる守護使役と一緒に、『灯台ふく』を探して灯台に連れもどしてほしい、と獏は言った。
「ムフフ~ン。頼めば人の姿になってくれるかも。まあ、無理強いはしないでね」
ちなみに、『灯台あんこう』は夢や希望、愛などの強く温かい感情が大好物。守護使役と一緒に、今年一年の抱負や叶えたい夢を語りながら、灯台の中や周辺を探してみるといい。好きな人がいれば守護使役相手に恋バナもいいだろう。
お腹がいっぱいになれば、まん丸い『灯台ふく』の体はぴかぴか光りだす。
「じゃあ、頼んだね」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.今年の夢、抱負などなど、擬人化した守護使役に語る
2.元日中に今年の『灯台ふく』を灯台に連れもどす
3.戦闘はしない
2.元日中に今年の『灯台ふく』を灯台に連れもどす
3.戦闘はしない
この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性が
ありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。
※要約すると一夜限りの夢の出来事なので思いっきり楽しんじゃえ!です。
●制限時間
元旦中に灯台の座へ『灯台ふく』を連れ戻してください。
まずはいろんな場所で、夢や希望を振りまいて『灯台ふく』のお腹を一杯にしてあげるのがいいでしょう。
見つけやすくなります。
なお、鍋の話は厳禁です。逃げていきます。
●探索場所
・灯台の中
一階に灯台守のための休憩室があります。
灯台守はタコとかイカとか……交代制のようです。
らせん状の階段を上がると灯台座がででーんとあります。
去年の『灯台ふく』はかなり疲れていて、ほとんど光をだしていません。
※魚系の守護使役以外は、『灯台ふく』を含めて海の生き物たちと会話できません。
・灯台の回り
珊瑚の森が広がっています。
・灯台前の海溝縁
真っ暗な底へ向かってゆっくりと落ちていく海の雪が見られます。
のぞきこむと、何か光るものが……。
・竜宮城
大宴会場に、大調理室、食糧庫、宝物庫、客間などなど。広いです。
どこでも自由に出入りできますが、残念ながら乙姫さまには会えません。
●特殊ルール
初夢効果で普段は話せない守護使役と会話ができます。
プレイングに必ず以下の一行を書き入れてください。
【守護使役の名前】…(性別・年/一人称と貴方の呼び方、口調)
守護使役を擬人化させる場合は、次の行に擬人化時の外見と服装を。
書かれていない場合は擬人化できません。
なお、以前にそうすけの『≪嘘夢語≫守護使役が働くお店 ~精霊の花茶碗~(ID:529)』にご参加いただいていた場合は、守護使役の外見特徴を省くことができます。
【前回参加】とだけご記入ください。
●特殊ルール2
夢のかなでもスキルは自由に使えますが、戦闘行為は厳禁です。
他の仲間との連絡は送受心で取りあってください。
夢の中なので、通心距離が無制限になっています。やったね。
擬人化しても守護使役の能力はそのまま使えます。
ただし、魚系の守護使役のみ【せんすい】のかわりに【海の生物と会話】に変更。
●『灯台ふく』
光っていない『灯台ふく』はただのメタボな『河豚(ふく)』……ですがご安心を。
今年の『灯台ふく』は額に 酉 の字が!!
ちなみに体から出る光が棘のように見えますが、触っても痛くありません。
夢や希望、愛などの強く温かい感情が大好物です。
お腹いっぱいになるとピカピカ光って動きも鈍ります。
●STより
アナザー依頼で擬人化した守護使役の姿が頼めますよ~いかがですか~(宣伝)。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年01月18日
2017年01月18日
■メイン参加者 6人■

●
『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は海底に目を向けた。ゆったりと手で水をかき着地する。
顔を上げると、それぞれの場所へ泳いで向かう仲間たちの姿が見えた。
(「……人が……増えてる?」)
――と、その時、頬を何かが撫でた。
目の端を金髪の房がかすめる。
「ヤッホー、ミュエル♪」
すぐ横に知らない女の子が立っていた。
(「新人さんかな?」)
それにしても、なんだろう。このデジャ・ヴは……。
「初めまして、じゃない!? もしかして……レンゲさん!」
「もしかしなくてもレンゲだよ。あ、でも、この人の姿で会うのは初めてだね。では、あらためて……レンゲです。これからもよろしくね」
レンゲが、両ひざに手をあてて頭を下げる。
ミュエルもあわてて頭を下げた。
「こちらこそ。ミュエルです、これからもよろしくお願いします」
静寂。
二人同時にゆっくり頭を上げて、顔を見合わせる。
先に吹きだしたのはミュエルだったか、それともレンゲのほうだったか。ひとしきり笑いあうと、二人はしっかりと抱き合った。
「あたしね、ずっとずっと、こんなふうにミュエルと話がしたかったんだ。でもね……」
獅子舞の恰好をして出てこようか、魔女の帽子とハロウィンの箒を手に出てこようか。判ってもらえなかったらどうしょう、とレンゲは悩んだらしい。
バカね、とミュエル。
「すぐ気づいたでしょ、レンゲさんだって」
「えへへ。だね♪ じゃあ、灯台ふくさんを探しに行こうか。それで、どこを探す?」
ミュエルは灯台前の海溝縁に行こうと言った。
「あ、見て、ミュエル!」
海溝縁まで来ると、蒼く裂けて落ちる溝を背景に、白い雪のようなのがゆっくりゆらゆら、落ちていくのが見えた。
しんしんと降りゆく雪に、二人で綺麗とつぶやきを漏らす。
「あの人とも、見たかったなぁ……」
「んん~? 聞き捨てならないぞ、その呟き。あの人ってだ~れ? いってごらん、ほら、レンゲさんにいってごらん」
レンゲはミュエルの肩に腕を乗せると、顔を近づけた。赤くなったほっぺたを指でつんつん突く。
「あ、あの人と言ったら……あの人よ。いつも一生懸命で、優しくて、勇気をくれるあの人……」
照れて目をそらす。
レンゲはにんまりして、もっと詳しく聞かせてとせがんだ。
「誰だって逃げたくなっちゃうような状況でも、勇気を振り絞って前を見て……誰よりも誠実な気持ちで、困っている人に向き合う……。そんな、あの人を守れるように……ちゃんと支えられるように……アタシも恐れずに、色々挑戦していきたいな」
「うん、あたしも頑張ってミュエルをサポートする。だから――」
その先を言わせまいと、ミュエルは慌てて海溝を指さした。
「海の底のほうに、何か光るものが……」
行ってみましょう、と泳ぎ出したミュエルを、レンゲは笑顔で追いかけた。
●
「――聞いていますか? 俺の話を」
緒形 逝(CL2000156)は腕ですいっと水をかいた。灯台の天辺より放たれる弱々しい光を横切って、海溝に向かう。
「アリョーシャ!」
水流れに阻まれ動きが鈍る。
体を起こすと、後ろから泳いで来た男が背にぶつかった。
振り返ると自分と同じ顔、いや、男のほうがほんの少し輪郭が柔らかいように思う。他に違うところと言えば、シャツの色ぐらいか。それとフルフェイスのヘルメットをかぶっていない事――。
擬人化した守護使役は『あの事件』が起こる前の逝とそっくりだ。
「ちょっとみずたま。死んだ人の略称で呼ばないでおくれ。それに、さっきから何かね? 今年の灯台ふくは額に「酉」が書いてあるんだろう?」
まったく手がかりがないわけでなし。皆で探せば必ず見つけられるはずだ。
「ええ、それは解っています。いや、そうではなくて……」
この際だからきちんと苦言を呈しておきたい、とみずたまは言った。
「アレクセイ」
「せめて番号か緒形さんに貰った名前で呼んでくれないかね」
「どちらも嫌です」
「……嫌か。で、何かね?」
みずたまはいきなり腕を逝の頭に伸ばすとフルフェイスを持ち上げた。
すぐに取り戻してかぶり直す。
「命を大切にしてください。貴方が護らなくてはならないもののために」
なんだ、と呟いて逝は力を抜いた。水流に運ばれるがままになる。
「そうそう、夢語りね。おっさんね。この国を護るのが夢なのよ、第2の故郷みたいな物だからね。妖の跋扈する日本もまた、我が故郷なれば……ってな感じさな。そうして人民に裏切られるまで、ずっと脅威と戦うのよ。楽しいね」
みずたまは逝の腕を掴むと、水の流れの中から引っ張り出した。
「巧みに話題をすり替えたつもりでしょうが、そうはいきませんよ。俺の話を聞けないというなら仕方ありません。特別処置です。悪食、君も友の向こう見ずには思うところがあるだろう。言ってやりなさい」
みずたまの手に悪食が握られていた。鍔が持ち上がり、鞘から除いた直刀に灯台の光が当たってきらりと光る。
「逝! もっと美味いものを食わせろ。この前のロシアのは不――」
「はい、そこまで。ありがとう悪食」
みずたまは柄頭を手で押し、刃を無理やり鞘に納めた。
しばしの沈黙。
先に口を開いたのはみずたまだった。
「あの子が編んでくれたそのミサンガにかけて、これからは命を大事にすると誓ってください。あの子を、瑛――あっ! アリョーシャ!」
逝は逃げた。
否。
灯台ふくらしき光を雪が降るような海溝の底に見つけて向かったのだ。たぶん。
●
「ふぁ!?」
『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)はワカメを口から零しそうになった。
「飛鳥ちゃん、どうしたの?」
飛鳥の隣で海藻サラダを食べていた守護使役のころんが、サンゴのボウルから顔もあげずに尋ねる。
「逝おじさんとミュエルお姉さんから、『灯台ふく』がこっちに向かったって連絡があったのよ」
飛鳥は急いでボウルの中身を空にすると立ち上がった。
ころんさんも早く、と急き立てる。
「ちょっと待ってね。それにしても……ううん、なんでもない」
首を振ったころんのしぐさが愛らしくて、飛鳥は彼の柔らかい砂色の髪を指でくしゃくしゃにした。
「やめて~」
「ごめんなさいなのよ。なんとなく言いたいことがわかっちゃって、つい……」
竜宮城というのは本来、海の中ではなく、仙人界みたいなところにあるのではないだろうか。そこで何か食べるとすれば、それは神の世界の食べ物に違いない。ふだん、自分たちが食べているようなものではないのだろう。
実際に、夢の中で実際にというのは変だが、ここ竜宮城で見つけた馴染みのある食べ物といえば海藻類だけだった。
「浦島太郎さんはベジタリアンだったのよ、きっと」
「お神酒を飲んでいたんじゃないかな。僕たち未成年は飲ませてもらえないけどね」
ころんは帯を少し緩めて立ち上がった。海藻サラダしかない、とぼやくわりには腹が大きく膨れるまで食べたらしい。
飛鳥はタスキかけを解いて振り袖を降ろした。
二人とも着物、正月に相応しい盛装だ。
「食糧庫へ行ってみよう。飛鳥ちゃん、歩きながら新年の抱負と夢を聞かせて」
「むむむ。改めて聞かれると難しいのよ。灯台ふくさんの心を満たす希望とか夢って、あすかには何かわからないのよ。ころんさんはわかる?」
難しく考えなくてもいいよ、ところん。
「じゃあ……みなさんが安心して暮らせるように、妖討伐を頑張るのよ。それからファゴットを吹けるようになりたいのよ。あと、跳び箱15段にチャレンジします」
ころんは飛鳥と並んで巨大な棚の間を歩きつつ、にこにこしながら宣言を聞いた。
「そうだ。跳び箱といえば、ころんさんは何段跳べますか?」
「へ? 何、急に……」
「だって、人の姿の時じゃないと分らないでしょ? ちょっとあの箱、飛んでみてくださいなのよ」
「それもそうだね。じゃあ、ちょっと飛んでみようかな」
飛鳥が指さした先に、跳び箱15段以上の高さに積み上げられた重箱があった。
その陰に身を隠していた灯台ふくは、危険を感じてさっと逃げ出した。
わずか数秒後。
竜宮城全域に響き渡るほどの崩落音が食糧庫でなった。
●
「これが、せせりさん……! なんだか、思ってたのと違うッス……」
「いい男を前にして、第一声が『思ってたのと違う』だと?!」
『餓えた狼』葛城 舞子(CL2001275)の守護使役、せせりは手刀を舞子の頭に落とした。
長めの髪をセットして、ちょっと胸元の開いたTシャツにハードなアクセサリー。そのTシャツも、一色の単純なものではなく、銃創のようなかたちで血のりが塗られている。下は黒のフェイクレザーパンツにスタッズの効いたウォレットチェーンを巻き、エンジニアブーツだ。
まるで売れないヴィジュアル系バンドのような外見。そこに夢見ていた可愛らしさはひとかけらもない。
「やめるッスよ。せせりさんはもっと……可愛い感じかと思ってたッス、残念ッス」
舞子は頭の上の手刀を払いのけた。
「とりあえず、今後せせりさんを食べたいって思うのは止めにするッス。だって美味しくなさそ……いっだ!! なんで殴るッスか?! 暴力反対ッス!」
「舞子、お前が時々、俺に向けるあの熱い視線は……食欲でぎらついた目だったのかよ!」
逃げる舞子を追いかけて捕まえると、せせりはヘッドロックを決めて拳骨を見舞った。
「と、とりあえず竜宮城を探索するッス! 夢とはいえ、なかなか来れる場所じゃないッス! それはもう色々覗いていきたいッス!!」
「それもそうだな」
二人は竜宮の中に入ると、朱塗りに金箔飾りの大柱が林立する宴の間を見学した。立派な卓の上には海藻サラダのボールがずらりと並べられていたが……残念なことに、鯛やヒラメの踊りは公演中止らしい。灯台ふくの逃亡が原因だ。
「せせりさん……大変ッス! 大変なことに気がついてしまったッス。ここ、鶏肉が全くないッス!!」
「そりゃ……ここは海の中だし、魚は鳥を食べないからじゃないか」
「肉がなかったら、どうやって焼き鳥を作るッスか?! 私、竜宮城では生きていけないッス……」
せせりは両手で舞子の頬を挟んだ。ぎゅむっと圧縮する。
「それ以前に住めねぇよ! もういいから、さっさと今年の抱負を言え。灯台ふくがいなくてもかまわねえ、俺が聞いてやる」
せせりが手を放すと、舞子はぶはっ、と息を吐いた。
「今年の抱負は古妖探しももちろん続けたいッスし、最近色んな古妖が出て来たッスから研究ノートも纏めなおしたいッスが……」
「何だよ?」
「ここはやっぱり舞子特製オリジナル焼き鳥タレの開発ッスかね!」
思わず脱力するせせり。
「何で溜息つくッスか?! 美味しい物は世界を救うッスよ! 色気より食い気の何が悪いッスか?!」
舞子に自分のようないい男が現れるのは、まだ当分先の話になりそうだ。
「私の夢は世界中……竜宮城の皆にも食べてもらえて幸せになる焼き鳥を作るッス! その為にも海の安全が保たれてないと困るッス!」
守護使役の心、舞子知らず。
「私も地上で頑張るッスから、灯台ふくにも頑張ってもらいたいッス! というか、そもそも何で逃げ出しちゃったんスかね?」
「どんなに頑張っても誰も見てくれない、褒めてくれないって思ったんじゃないかな。ま、いま舞子がエールを送ったから、少しは励みになったようだぜ。ほら――」
せせりが指さす先に、淡く光る玉がふよふよと逃げていくのが見えた。
●
「夢や希望だって、雪ちゃん」
『聖夜のパティシエール』新堂・明日香(CL2001534)は、守護使役の雪を腕に抱き抱えた。
「夢、夢か~」
目の前には極彩色の珊瑚でつくられた森。寒帯、温帯と違う独特の美しい魚たちが、枝の間を飛ぶようにして泳いでいる。
雪とともに、頭の中で語る夢の内容をまとめながら珊瑚の森を歩いていると、飛鳥から連絡が入った。舞子が、竜宮城からサンゴの森方面に向かう姿を見たという。
「じゃあ、はじめまようか。まず、お母さんに不自由ない生活させてあげたいな。今まで苦労させちゃってたから」
それから、と足を止めて腕の中を見下ろす。
「FiVEに来てから出会った人達。大事な友達の皆と、もっと色んな場所に行きたい! それこそ、海の中の珊瑚の森を歩いたよー、なんてお話したら、みんなびっくりするかな? えへへ、楽しみだねえ、雪ちゃん?」
笑いかけると、雪もまた青い目を細めた。
「雪ちゃんはいつもみたく、黙ってあたしの話を聞いてくれる?」
明日香は見つけたピンク色のテーブルサンゴに近づくと、雪を海藻のクッションがある小岩に下ろした。自分もすぐ隣の小岩に腰かける。
「神社で発現した時から……ううん、それよりずっと前、あたしが生まれた時からだよね。お話できる此処(ゆめのなか)でだから、改めて言うね」
深呼吸して、雪と目を合わせて――。
「今までありがとう。それから、これからもよろしくね。楽しいことも辛いこともあるけど、少しでも素敵にしたいから、ねっ!」
雪が尻尾を振る。
「あ、あと、ちょっと人の姿になってもらっても良いかな? やっぱり、なれるって聞いたら見てみたいものだから……」
<「いいよ」>
心の中に凛とした声が響いた。灯台の光が珊瑚の森を鮮やかに浮かび上がらせ、黄色と青の熱帯魚の群が、明日香と雪の間を横切る。
熱帯魚の最後の一匹が、明日香から目隠しをとるように泳ぎ去っていくと、目の前に神主服姿の少年が座っていた。
「雪ちゃんって男の子だったの!?」
神秘的な面立ち、銀色の前髮がやわらかく額にかかり、その下に透け見える麿まゆは明るい。青い瞳が対面の嬉しさでいきいきと輝いている。肌は透き通る様に白い。とてもきれいだ。
「あ、でも人の格好でも可愛い……」
明日香は照れながらつけ加えた。
「明日香、ボクからもお願いするよ。これからもよろしく。ずっと一緒にいよう。僕は明日香の守護使役であることに、なによりも幸せを感じているんだ。ほんとうに……」
雪は明日香の膝の上から手をとると、両手で包み込んだ。青い瞳をまっすぐ向けて――。
「大好きだよ」
「――と。灯台ふくさんもちゃんと探すよ!」
明日香は立ち上がると、雪の手を握ったまま、灯台へ向かって歩き始めた。
二人の後を、ぴかぴかに光る丸いものがつけているとも知らずに。
●
「夢の中とはいえ、新年早々に事故を起こさせるわけには行きません。私の技が少しでも力になればいいのですが」
『希望を照らす灯』七海 灯は体の内側から淡い光を発した。
「大丈夫。お姉ならブラジルの海岸にまで光を届かせることができるよ。イブが保証する!」
灯は擬人化した守護使役イブキに微笑を向けた。灯台座の横に腰掛けると、自分の目がイブキの翠色の目と同じ高さになる。人にすると八歳ぐらいだろうか。青地に赤いフリルがついたワンピース姿のイブキは、うんと年下の女の子だった。
ツーサイドアップにした青い髪は先に行くほど赤くなり、白くふっくらとした頬の横で揺れる様は北海の夜空を彩るオーロラのようだ。猫目――魚系の守護使役に猫目の例えは皮肉だが――少しつり上がったアーモンド形の目は、くりくりとして愛らしい。
「ふふ、ブラジルまで届きますか」
「ブラジルだけじゃないよ。世界中の、ううん、宇宙にまでお姉の強い希望の光は届くよ」
そういわれて悪い気はしない。
灯は、がんばります、とイブキに答え、新年とともにお役御免となるはずだった猿年の灯台ふくに腕をまわした。もう片方の手でイブキの手を取る。
「みなさんが酉の灯台ふくさんを探して連れてきてくださいます。それまで頑張りましょう。イブキ、灯台の中の皆さんに、灯台のお手伝いをしに来ましたと伝えてもらえますか?」
「いいよ。待ってて、すぐみんなと戻ってくるね」
イブキは本当にすぐ戻って来た。
灯台から発せられる光が急に輝きを取り戻したので、みんな興味津々で上がってきていたらしい。
灯はイブキに通訳を頼み、猿の灯台ふくや灯台守のタコ、イカたちと話をした。
ここに座っているべき今年の灯台ふくは、一体どこに行ってしまったのか。みなで話し合う。
わかったことを送受心で仲間たちに伝える一方で、目撃情報も次々と寄せられてきた。
気がつけば、灯台の外がほんのりと明るくなっていた。
「近くまで来ているようですね」
灯台守たちの間で安堵の溜息が流される。猿の灯台ふくもほっとした顔を見せた。
灯はイブキを手招きすると、抱き上げて膝の上に座らせた。
「最後に少しお話しをしましょう。聞いてくれる?」
頷いた拍子に額に落ちた髪の毛を指で上げてやると、イブキはくすぐったそうに肩をすぼめた。小さな体を胸に寄せて、頬を肩に預けてくる。
灯も頬をイブキの頭に寄せた。
「去年は色々ありましたね、私なりに頑張ってきましたけど少しは成長できたでしょうか。誰かの光に、希望になりたいだなんて図々しい事を言うつもりはありません。でも……」
柱の陰にちらりと酉と書かれた額を見つけて、手招く。
「おかえりない。さあ、こちらへ」
イブキを抱えたまま立ちあがと、光を消した猿の灯台ふくも座から浮かび上がった。
ゆっくりゆらゆらと、ぴかぴかに光った酉の灯台ふくが台座に上がる。
「皆が、希望を持って日々をキラキラと過ごせる世界になるよう頑張ります。だから、灯台ふくさんも頑張って」
――そして。
「イブキは、私の誓いのお手伝いをしてくれますか?」
「もちろん!」
海の灯台に明るい光と、楽し気な笑い声が戻った。
『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は海底に目を向けた。ゆったりと手で水をかき着地する。
顔を上げると、それぞれの場所へ泳いで向かう仲間たちの姿が見えた。
(「……人が……増えてる?」)
――と、その時、頬を何かが撫でた。
目の端を金髪の房がかすめる。
「ヤッホー、ミュエル♪」
すぐ横に知らない女の子が立っていた。
(「新人さんかな?」)
それにしても、なんだろう。このデジャ・ヴは……。
「初めまして、じゃない!? もしかして……レンゲさん!」
「もしかしなくてもレンゲだよ。あ、でも、この人の姿で会うのは初めてだね。では、あらためて……レンゲです。これからもよろしくね」
レンゲが、両ひざに手をあてて頭を下げる。
ミュエルもあわてて頭を下げた。
「こちらこそ。ミュエルです、これからもよろしくお願いします」
静寂。
二人同時にゆっくり頭を上げて、顔を見合わせる。
先に吹きだしたのはミュエルだったか、それともレンゲのほうだったか。ひとしきり笑いあうと、二人はしっかりと抱き合った。
「あたしね、ずっとずっと、こんなふうにミュエルと話がしたかったんだ。でもね……」
獅子舞の恰好をして出てこようか、魔女の帽子とハロウィンの箒を手に出てこようか。判ってもらえなかったらどうしょう、とレンゲは悩んだらしい。
バカね、とミュエル。
「すぐ気づいたでしょ、レンゲさんだって」
「えへへ。だね♪ じゃあ、灯台ふくさんを探しに行こうか。それで、どこを探す?」
ミュエルは灯台前の海溝縁に行こうと言った。
「あ、見て、ミュエル!」
海溝縁まで来ると、蒼く裂けて落ちる溝を背景に、白い雪のようなのがゆっくりゆらゆら、落ちていくのが見えた。
しんしんと降りゆく雪に、二人で綺麗とつぶやきを漏らす。
「あの人とも、見たかったなぁ……」
「んん~? 聞き捨てならないぞ、その呟き。あの人ってだ~れ? いってごらん、ほら、レンゲさんにいってごらん」
レンゲはミュエルの肩に腕を乗せると、顔を近づけた。赤くなったほっぺたを指でつんつん突く。
「あ、あの人と言ったら……あの人よ。いつも一生懸命で、優しくて、勇気をくれるあの人……」
照れて目をそらす。
レンゲはにんまりして、もっと詳しく聞かせてとせがんだ。
「誰だって逃げたくなっちゃうような状況でも、勇気を振り絞って前を見て……誰よりも誠実な気持ちで、困っている人に向き合う……。そんな、あの人を守れるように……ちゃんと支えられるように……アタシも恐れずに、色々挑戦していきたいな」
「うん、あたしも頑張ってミュエルをサポートする。だから――」
その先を言わせまいと、ミュエルは慌てて海溝を指さした。
「海の底のほうに、何か光るものが……」
行ってみましょう、と泳ぎ出したミュエルを、レンゲは笑顔で追いかけた。
●
「――聞いていますか? 俺の話を」
緒形 逝(CL2000156)は腕ですいっと水をかいた。灯台の天辺より放たれる弱々しい光を横切って、海溝に向かう。
「アリョーシャ!」
水流れに阻まれ動きが鈍る。
体を起こすと、後ろから泳いで来た男が背にぶつかった。
振り返ると自分と同じ顔、いや、男のほうがほんの少し輪郭が柔らかいように思う。他に違うところと言えば、シャツの色ぐらいか。それとフルフェイスのヘルメットをかぶっていない事――。
擬人化した守護使役は『あの事件』が起こる前の逝とそっくりだ。
「ちょっとみずたま。死んだ人の略称で呼ばないでおくれ。それに、さっきから何かね? 今年の灯台ふくは額に「酉」が書いてあるんだろう?」
まったく手がかりがないわけでなし。皆で探せば必ず見つけられるはずだ。
「ええ、それは解っています。いや、そうではなくて……」
この際だからきちんと苦言を呈しておきたい、とみずたまは言った。
「アレクセイ」
「せめて番号か緒形さんに貰った名前で呼んでくれないかね」
「どちらも嫌です」
「……嫌か。で、何かね?」
みずたまはいきなり腕を逝の頭に伸ばすとフルフェイスを持ち上げた。
すぐに取り戻してかぶり直す。
「命を大切にしてください。貴方が護らなくてはならないもののために」
なんだ、と呟いて逝は力を抜いた。水流に運ばれるがままになる。
「そうそう、夢語りね。おっさんね。この国を護るのが夢なのよ、第2の故郷みたいな物だからね。妖の跋扈する日本もまた、我が故郷なれば……ってな感じさな。そうして人民に裏切られるまで、ずっと脅威と戦うのよ。楽しいね」
みずたまは逝の腕を掴むと、水の流れの中から引っ張り出した。
「巧みに話題をすり替えたつもりでしょうが、そうはいきませんよ。俺の話を聞けないというなら仕方ありません。特別処置です。悪食、君も友の向こう見ずには思うところがあるだろう。言ってやりなさい」
みずたまの手に悪食が握られていた。鍔が持ち上がり、鞘から除いた直刀に灯台の光が当たってきらりと光る。
「逝! もっと美味いものを食わせろ。この前のロシアのは不――」
「はい、そこまで。ありがとう悪食」
みずたまは柄頭を手で押し、刃を無理やり鞘に納めた。
しばしの沈黙。
先に口を開いたのはみずたまだった。
「あの子が編んでくれたそのミサンガにかけて、これからは命を大事にすると誓ってください。あの子を、瑛――あっ! アリョーシャ!」
逝は逃げた。
否。
灯台ふくらしき光を雪が降るような海溝の底に見つけて向かったのだ。たぶん。
●
「ふぁ!?」
『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)はワカメを口から零しそうになった。
「飛鳥ちゃん、どうしたの?」
飛鳥の隣で海藻サラダを食べていた守護使役のころんが、サンゴのボウルから顔もあげずに尋ねる。
「逝おじさんとミュエルお姉さんから、『灯台ふく』がこっちに向かったって連絡があったのよ」
飛鳥は急いでボウルの中身を空にすると立ち上がった。
ころんさんも早く、と急き立てる。
「ちょっと待ってね。それにしても……ううん、なんでもない」
首を振ったころんのしぐさが愛らしくて、飛鳥は彼の柔らかい砂色の髪を指でくしゃくしゃにした。
「やめて~」
「ごめんなさいなのよ。なんとなく言いたいことがわかっちゃって、つい……」
竜宮城というのは本来、海の中ではなく、仙人界みたいなところにあるのではないだろうか。そこで何か食べるとすれば、それは神の世界の食べ物に違いない。ふだん、自分たちが食べているようなものではないのだろう。
実際に、夢の中で実際にというのは変だが、ここ竜宮城で見つけた馴染みのある食べ物といえば海藻類だけだった。
「浦島太郎さんはベジタリアンだったのよ、きっと」
「お神酒を飲んでいたんじゃないかな。僕たち未成年は飲ませてもらえないけどね」
ころんは帯を少し緩めて立ち上がった。海藻サラダしかない、とぼやくわりには腹が大きく膨れるまで食べたらしい。
飛鳥はタスキかけを解いて振り袖を降ろした。
二人とも着物、正月に相応しい盛装だ。
「食糧庫へ行ってみよう。飛鳥ちゃん、歩きながら新年の抱負と夢を聞かせて」
「むむむ。改めて聞かれると難しいのよ。灯台ふくさんの心を満たす希望とか夢って、あすかには何かわからないのよ。ころんさんはわかる?」
難しく考えなくてもいいよ、ところん。
「じゃあ……みなさんが安心して暮らせるように、妖討伐を頑張るのよ。それからファゴットを吹けるようになりたいのよ。あと、跳び箱15段にチャレンジします」
ころんは飛鳥と並んで巨大な棚の間を歩きつつ、にこにこしながら宣言を聞いた。
「そうだ。跳び箱といえば、ころんさんは何段跳べますか?」
「へ? 何、急に……」
「だって、人の姿の時じゃないと分らないでしょ? ちょっとあの箱、飛んでみてくださいなのよ」
「それもそうだね。じゃあ、ちょっと飛んでみようかな」
飛鳥が指さした先に、跳び箱15段以上の高さに積み上げられた重箱があった。
その陰に身を隠していた灯台ふくは、危険を感じてさっと逃げ出した。
わずか数秒後。
竜宮城全域に響き渡るほどの崩落音が食糧庫でなった。
●
「これが、せせりさん……! なんだか、思ってたのと違うッス……」
「いい男を前にして、第一声が『思ってたのと違う』だと?!」
『餓えた狼』葛城 舞子(CL2001275)の守護使役、せせりは手刀を舞子の頭に落とした。
長めの髪をセットして、ちょっと胸元の開いたTシャツにハードなアクセサリー。そのTシャツも、一色の単純なものではなく、銃創のようなかたちで血のりが塗られている。下は黒のフェイクレザーパンツにスタッズの効いたウォレットチェーンを巻き、エンジニアブーツだ。
まるで売れないヴィジュアル系バンドのような外見。そこに夢見ていた可愛らしさはひとかけらもない。
「やめるッスよ。せせりさんはもっと……可愛い感じかと思ってたッス、残念ッス」
舞子は頭の上の手刀を払いのけた。
「とりあえず、今後せせりさんを食べたいって思うのは止めにするッス。だって美味しくなさそ……いっだ!! なんで殴るッスか?! 暴力反対ッス!」
「舞子、お前が時々、俺に向けるあの熱い視線は……食欲でぎらついた目だったのかよ!」
逃げる舞子を追いかけて捕まえると、せせりはヘッドロックを決めて拳骨を見舞った。
「と、とりあえず竜宮城を探索するッス! 夢とはいえ、なかなか来れる場所じゃないッス! それはもう色々覗いていきたいッス!!」
「それもそうだな」
二人は竜宮の中に入ると、朱塗りに金箔飾りの大柱が林立する宴の間を見学した。立派な卓の上には海藻サラダのボールがずらりと並べられていたが……残念なことに、鯛やヒラメの踊りは公演中止らしい。灯台ふくの逃亡が原因だ。
「せせりさん……大変ッス! 大変なことに気がついてしまったッス。ここ、鶏肉が全くないッス!!」
「そりゃ……ここは海の中だし、魚は鳥を食べないからじゃないか」
「肉がなかったら、どうやって焼き鳥を作るッスか?! 私、竜宮城では生きていけないッス……」
せせりは両手で舞子の頬を挟んだ。ぎゅむっと圧縮する。
「それ以前に住めねぇよ! もういいから、さっさと今年の抱負を言え。灯台ふくがいなくてもかまわねえ、俺が聞いてやる」
せせりが手を放すと、舞子はぶはっ、と息を吐いた。
「今年の抱負は古妖探しももちろん続けたいッスし、最近色んな古妖が出て来たッスから研究ノートも纏めなおしたいッスが……」
「何だよ?」
「ここはやっぱり舞子特製オリジナル焼き鳥タレの開発ッスかね!」
思わず脱力するせせり。
「何で溜息つくッスか?! 美味しい物は世界を救うッスよ! 色気より食い気の何が悪いッスか?!」
舞子に自分のようないい男が現れるのは、まだ当分先の話になりそうだ。
「私の夢は世界中……竜宮城の皆にも食べてもらえて幸せになる焼き鳥を作るッス! その為にも海の安全が保たれてないと困るッス!」
守護使役の心、舞子知らず。
「私も地上で頑張るッスから、灯台ふくにも頑張ってもらいたいッス! というか、そもそも何で逃げ出しちゃったんスかね?」
「どんなに頑張っても誰も見てくれない、褒めてくれないって思ったんじゃないかな。ま、いま舞子がエールを送ったから、少しは励みになったようだぜ。ほら――」
せせりが指さす先に、淡く光る玉がふよふよと逃げていくのが見えた。
●
「夢や希望だって、雪ちゃん」
『聖夜のパティシエール』新堂・明日香(CL2001534)は、守護使役の雪を腕に抱き抱えた。
「夢、夢か~」
目の前には極彩色の珊瑚でつくられた森。寒帯、温帯と違う独特の美しい魚たちが、枝の間を飛ぶようにして泳いでいる。
雪とともに、頭の中で語る夢の内容をまとめながら珊瑚の森を歩いていると、飛鳥から連絡が入った。舞子が、竜宮城からサンゴの森方面に向かう姿を見たという。
「じゃあ、はじめまようか。まず、お母さんに不自由ない生活させてあげたいな。今まで苦労させちゃってたから」
それから、と足を止めて腕の中を見下ろす。
「FiVEに来てから出会った人達。大事な友達の皆と、もっと色んな場所に行きたい! それこそ、海の中の珊瑚の森を歩いたよー、なんてお話したら、みんなびっくりするかな? えへへ、楽しみだねえ、雪ちゃん?」
笑いかけると、雪もまた青い目を細めた。
「雪ちゃんはいつもみたく、黙ってあたしの話を聞いてくれる?」
明日香は見つけたピンク色のテーブルサンゴに近づくと、雪を海藻のクッションがある小岩に下ろした。自分もすぐ隣の小岩に腰かける。
「神社で発現した時から……ううん、それよりずっと前、あたしが生まれた時からだよね。お話できる此処(ゆめのなか)でだから、改めて言うね」
深呼吸して、雪と目を合わせて――。
「今までありがとう。それから、これからもよろしくね。楽しいことも辛いこともあるけど、少しでも素敵にしたいから、ねっ!」
雪が尻尾を振る。
「あ、あと、ちょっと人の姿になってもらっても良いかな? やっぱり、なれるって聞いたら見てみたいものだから……」
<「いいよ」>
心の中に凛とした声が響いた。灯台の光が珊瑚の森を鮮やかに浮かび上がらせ、黄色と青の熱帯魚の群が、明日香と雪の間を横切る。
熱帯魚の最後の一匹が、明日香から目隠しをとるように泳ぎ去っていくと、目の前に神主服姿の少年が座っていた。
「雪ちゃんって男の子だったの!?」
神秘的な面立ち、銀色の前髮がやわらかく額にかかり、その下に透け見える麿まゆは明るい。青い瞳が対面の嬉しさでいきいきと輝いている。肌は透き通る様に白い。とてもきれいだ。
「あ、でも人の格好でも可愛い……」
明日香は照れながらつけ加えた。
「明日香、ボクからもお願いするよ。これからもよろしく。ずっと一緒にいよう。僕は明日香の守護使役であることに、なによりも幸せを感じているんだ。ほんとうに……」
雪は明日香の膝の上から手をとると、両手で包み込んだ。青い瞳をまっすぐ向けて――。
「大好きだよ」
「――と。灯台ふくさんもちゃんと探すよ!」
明日香は立ち上がると、雪の手を握ったまま、灯台へ向かって歩き始めた。
二人の後を、ぴかぴかに光る丸いものがつけているとも知らずに。
●
「夢の中とはいえ、新年早々に事故を起こさせるわけには行きません。私の技が少しでも力になればいいのですが」
『希望を照らす灯』七海 灯は体の内側から淡い光を発した。
「大丈夫。お姉ならブラジルの海岸にまで光を届かせることができるよ。イブが保証する!」
灯は擬人化した守護使役イブキに微笑を向けた。灯台座の横に腰掛けると、自分の目がイブキの翠色の目と同じ高さになる。人にすると八歳ぐらいだろうか。青地に赤いフリルがついたワンピース姿のイブキは、うんと年下の女の子だった。
ツーサイドアップにした青い髪は先に行くほど赤くなり、白くふっくらとした頬の横で揺れる様は北海の夜空を彩るオーロラのようだ。猫目――魚系の守護使役に猫目の例えは皮肉だが――少しつり上がったアーモンド形の目は、くりくりとして愛らしい。
「ふふ、ブラジルまで届きますか」
「ブラジルだけじゃないよ。世界中の、ううん、宇宙にまでお姉の強い希望の光は届くよ」
そういわれて悪い気はしない。
灯は、がんばります、とイブキに答え、新年とともにお役御免となるはずだった猿年の灯台ふくに腕をまわした。もう片方の手でイブキの手を取る。
「みなさんが酉の灯台ふくさんを探して連れてきてくださいます。それまで頑張りましょう。イブキ、灯台の中の皆さんに、灯台のお手伝いをしに来ましたと伝えてもらえますか?」
「いいよ。待ってて、すぐみんなと戻ってくるね」
イブキは本当にすぐ戻って来た。
灯台から発せられる光が急に輝きを取り戻したので、みんな興味津々で上がってきていたらしい。
灯はイブキに通訳を頼み、猿の灯台ふくや灯台守のタコ、イカたちと話をした。
ここに座っているべき今年の灯台ふくは、一体どこに行ってしまったのか。みなで話し合う。
わかったことを送受心で仲間たちに伝える一方で、目撃情報も次々と寄せられてきた。
気がつけば、灯台の外がほんのりと明るくなっていた。
「近くまで来ているようですね」
灯台守たちの間で安堵の溜息が流される。猿の灯台ふくもほっとした顔を見せた。
灯はイブキを手招きすると、抱き上げて膝の上に座らせた。
「最後に少しお話しをしましょう。聞いてくれる?」
頷いた拍子に額に落ちた髪の毛を指で上げてやると、イブキはくすぐったそうに肩をすぼめた。小さな体を胸に寄せて、頬を肩に預けてくる。
灯も頬をイブキの頭に寄せた。
「去年は色々ありましたね、私なりに頑張ってきましたけど少しは成長できたでしょうか。誰かの光に、希望になりたいだなんて図々しい事を言うつもりはありません。でも……」
柱の陰にちらりと酉と書かれた額を見つけて、手招く。
「おかえりない。さあ、こちらへ」
イブキを抱えたまま立ちあがと、光を消した猿の灯台ふくも座から浮かび上がった。
ゆっくりゆらゆらと、ぴかぴかに光った酉の灯台ふくが台座に上がる。
「皆が、希望を持って日々をキラキラと過ごせる世界になるよう頑張ります。だから、灯台ふくさんも頑張って」
――そして。
「イブキは、私の誓いのお手伝いをしてくれますか?」
「もちろん!」
海の灯台に明るい光と、楽し気な笑い声が戻った。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
