絶望の淵、救いの御手は何処に
●孤独の三人
夜の街、見向きもされないような裏路地で火柱が巻き上がる。
ほんの一瞬の煌きは人の目に触れることなくそのまま消失する。
火柱に焼かれた男は炭化する間もなく灰化する。
男を燃やしたのは中学生程の背丈をした赤い髪をした少年だ。煤けた頬を汚れたジャンパーの袖で拭うもその身についた長年の汚れは落ちることはない
「そらみろ、仲間にすると言いながら狙いは俺たちの力だ」
少年の背後から二人の男女が現れる。高校生程の背丈でボロボロの服を着た女性と、つば付のニット帽を目深に被っている青年の二人だ。青年は冷たい目で灰化した存在を見下す。その額には第三の目がついている。
「紫苑さぁー、こんなに燃やしちゃって。金目のもの持ってたかもしれないのに」
女は灰化したそれを背中の翼を羽ばたかせて吹き飛ばしてしまう。
「で、でも、だって百合姉ちゃん、椚兄さん……。僕達のことを助けてくれるって」
少年は男を殺したことではなく、騙されたことを悲しみ泣いているようだ。その手に煌々と輝いてい炎は既に消沈し、紋章へと変化している。
「忘れたのかい? アタシ達は、親を殺しちまったんだよ。それに、この力で世間からは後ろ指」
「ついでにこの妙な力を使うバケモノ共にも近い体に変じたんだ。人間社会にはもう戻れねぇんだよ」
そう言うと青年は自分の三つ目の目を、女性は自分の羽を指さして自嘲を込めたかのように小さく笑う。
少年はその手に刻まれた紋章と灰化した男がいた場所を交互に眺める。
●迷い人
「キミたちの事を保護したい。我々と同じ力を持つ君たちは同志だ。互いに支え合えるパートナーだ」
そう言いながら近づいてきた男はやがてその口調を威圧的なものへと変化させ、従わせるための物言いへと変わっていった。男は自分の事を『七星剣』のメンバーと名乗り、組織に従わないのならばと襲いかかって来たのだ。
少年が応戦したところ力の加減ができず燃やし尽くしてしまったのだ。
「じゃあ、僕達はどこに行けばいいの?」
少年の痛切な問いに答える声はない。師走の風は孤独感を助長させるかのように路地裏を吹き抜ける。彼の兄姉は俯き黙するのみだ。
「今考えて答えの出る問題じゃないよ。アタシたちは答えを探さなきゃいけないんだ。アタシらが無事生きていくためにね。さっ、お腹空いたろ。帰ろう」
服という体裁をギリギリで保っている服を着た女性は弟の手を引きその場を立ち去る。
(そうさ、俺達を理解する存在なんてこの世に存在してやいない。口車に乗せようとするか、一方的に排斥しようとしてくる連中だけだ……)
青年は星空を見上げる。星の瞬く静かな夜。しかし、青年の目には冷酷に映る。世界に自分たちの理解者はいない、孤独な存在だと信じている。そんな目で世界を睨みつける。
●救いとは
「皆さん。今日は集まってくれてありがとうございます。お茶でもどうぞ~」
久方 真由美(nCL2000003)は覚者達にお茶を出しながら今回の夢と場所の説明を始める。
「彼らは発現した力を用いて窃盗や強盗を主に活動しているようです。『七星剣』のエージェントを倒すほどの能力を持っていながら、その力は上手にコントロールできているわけではないようです。十分に気をつけてください」
そう言う真由美は新聞を一部引っ張り出してくる。数年前の記事だ。そこに掲載されていたのは一軒家の全焼事件だ。父母は亡くなったのだが、焼死でなく他殺の後家屋が炎上したのだという話が載せられている。不可思議な点として火元と思われる場所に火気はなく突如発火したようなのだ。また、家に居たはずの子供たちは行方不明となっている。
「もしやと思い調べたのですが、夢に出てきた名前と行方不明の子供の名前が一致しました。何かのきっかけで発現し、その時のはずみで家を燃やしてしまったんだとおもいます。」
真由美の顔は物憂げだ。彼女もまた両親を失っているが、人生の迷い人となり、自らを追い込んでいる彼らの状態は辛いものがあるのだろう。手を胸の中心で組み覚者達に頼むよう話す。
「何が彼らの救いとなるかはわかりません。でも、このままでは彼らはいつしか力を暴走させ破綻者となるとおもいます。少なくとも彼らが安心して生きていける場所であるはずのココに連れて帰ってきてください。大変な任務と思いますが、よろしくお願いしますね」
夜の街、見向きもされないような裏路地で火柱が巻き上がる。
ほんの一瞬の煌きは人の目に触れることなくそのまま消失する。
火柱に焼かれた男は炭化する間もなく灰化する。
男を燃やしたのは中学生程の背丈をした赤い髪をした少年だ。煤けた頬を汚れたジャンパーの袖で拭うもその身についた長年の汚れは落ちることはない
「そらみろ、仲間にすると言いながら狙いは俺たちの力だ」
少年の背後から二人の男女が現れる。高校生程の背丈でボロボロの服を着た女性と、つば付のニット帽を目深に被っている青年の二人だ。青年は冷たい目で灰化した存在を見下す。その額には第三の目がついている。
「紫苑さぁー、こんなに燃やしちゃって。金目のもの持ってたかもしれないのに」
女は灰化したそれを背中の翼を羽ばたかせて吹き飛ばしてしまう。
「で、でも、だって百合姉ちゃん、椚兄さん……。僕達のことを助けてくれるって」
少年は男を殺したことではなく、騙されたことを悲しみ泣いているようだ。その手に煌々と輝いてい炎は既に消沈し、紋章へと変化している。
「忘れたのかい? アタシ達は、親を殺しちまったんだよ。それに、この力で世間からは後ろ指」
「ついでにこの妙な力を使うバケモノ共にも近い体に変じたんだ。人間社会にはもう戻れねぇんだよ」
そう言うと青年は自分の三つ目の目を、女性は自分の羽を指さして自嘲を込めたかのように小さく笑う。
少年はその手に刻まれた紋章と灰化した男がいた場所を交互に眺める。
●迷い人
「キミたちの事を保護したい。我々と同じ力を持つ君たちは同志だ。互いに支え合えるパートナーだ」
そう言いながら近づいてきた男はやがてその口調を威圧的なものへと変化させ、従わせるための物言いへと変わっていった。男は自分の事を『七星剣』のメンバーと名乗り、組織に従わないのならばと襲いかかって来たのだ。
少年が応戦したところ力の加減ができず燃やし尽くしてしまったのだ。
「じゃあ、僕達はどこに行けばいいの?」
少年の痛切な問いに答える声はない。師走の風は孤独感を助長させるかのように路地裏を吹き抜ける。彼の兄姉は俯き黙するのみだ。
「今考えて答えの出る問題じゃないよ。アタシたちは答えを探さなきゃいけないんだ。アタシらが無事生きていくためにね。さっ、お腹空いたろ。帰ろう」
服という体裁をギリギリで保っている服を着た女性は弟の手を引きその場を立ち去る。
(そうさ、俺達を理解する存在なんてこの世に存在してやいない。口車に乗せようとするか、一方的に排斥しようとしてくる連中だけだ……)
青年は星空を見上げる。星の瞬く静かな夜。しかし、青年の目には冷酷に映る。世界に自分たちの理解者はいない、孤独な存在だと信じている。そんな目で世界を睨みつける。
●救いとは
「皆さん。今日は集まってくれてありがとうございます。お茶でもどうぞ~」
久方 真由美(nCL2000003)は覚者達にお茶を出しながら今回の夢と場所の説明を始める。
「彼らは発現した力を用いて窃盗や強盗を主に活動しているようです。『七星剣』のエージェントを倒すほどの能力を持っていながら、その力は上手にコントロールできているわけではないようです。十分に気をつけてください」
そう言う真由美は新聞を一部引っ張り出してくる。数年前の記事だ。そこに掲載されていたのは一軒家の全焼事件だ。父母は亡くなったのだが、焼死でなく他殺の後家屋が炎上したのだという話が載せられている。不可思議な点として火元と思われる場所に火気はなく突如発火したようなのだ。また、家に居たはずの子供たちは行方不明となっている。
「もしやと思い調べたのですが、夢に出てきた名前と行方不明の子供の名前が一致しました。何かのきっかけで発現し、その時のはずみで家を燃やしてしまったんだとおもいます。」
真由美の顔は物憂げだ。彼女もまた両親を失っているが、人生の迷い人となり、自らを追い込んでいる彼らの状態は辛いものがあるのだろう。手を胸の中心で組み覚者達に頼むよう話す。
「何が彼らの救いとなるかはわかりません。でも、このままでは彼らはいつしか力を暴走させ破綻者となるとおもいます。少なくとも彼らが安心して生きていける場所であるはずのココに連れて帰ってきてください。大変な任務と思いますが、よろしくお願いしますね」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.三人の無力化
2.三人の説得
3.なし
2.三人の説得
3.なし
今回は野良能力者をどうするかが争点のシナリオです。
寄る辺を失くした三兄弟を説得し、FiVEに連れて帰ることが最終目標ですね。
三人はともに最初は説得に応じることはありませんが
回数を重ねたり、屈服させることができればやがて心を開いてくれるかもしれません。
こればかりは皆さんのプレイング次第ですね!
●場所
三人は廃ビルに潜んでいます。
私生活もそこでしているらしく、ボロボロの捨てられていた家具が置かれています。
生活に必要な物を盗ってくる時以外はこの場所に留まっているようで
皆さんが到着するときもこの場所での遭遇になります。
時刻は昼頃で、明りなどの心配もないものと考えてください。
周囲も人の気配はなく、暴れても問題はない場所です。
●三人
【紫苑】彩の因子を発現し、火を操ることを得意とする中学生程の背格好の少年です。
右手に紋章を宿し、上着としてきているジャンパーの右腕部分は肘から先がありません。
五織の彩、醒の炎、炎撃、炎柱を繰り出して来ます。
【百合】翼の因子を発現し、天術を操ることを得意とした高校生程の背格好の女性です。
服はところどころ破れたりほつれたりと、ダメージパンクな衣装を着た女性。肩甲骨から伸びた翼は服を突き破って伸びています。
エアブリット、演舞・清風、雷獣、演舞・舞音を繰り出します。
【椚】怪の因子発現し、水術と共に体術にも優れた最年長の男性。20代前半に見える。
つば付のニット帽を目深に被り、その冷たい表情と三白眼には絶望の色が強い。
破眼光、水龍牙、薄氷、正鍛拳、飛燕を繰り出します。
三者三様の能力ですが基礎性能は年齢が上がるほど高くなります。
以上です。
皆さんのプレイングを楽しみにお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
6/8
公開日
2017年01月11日
2017年01月11日
■メイン参加者 6人■

●すれ違いの心
出発前、桂木・日那乃(CL2000941)は新聞を精査していた。そこに載っているはずの彼らの両親の死因を探っていたのだ。原因不明の発火による全焼事件。しかし、両親の死因は二つあり、焼死というのもあったが骨が砕かれたような跡が確認されていたということだ。
「やっぱり……」
原因は彼らにあるのは夢見の話と照らし合わせても確かなことなのだろう。それぞれがそれぞれの持つ因子固有の力で行えそうなことだ。しかし、椚の能力への記述が見当たらなかった。
そして、今目の前には彼らがいる。その力を発現させ覚者達の眼前に立っている。
「俺たちはFiVEだ。むやみに殴りあうために来たんじゃねーよ。お前さんたちが生きていくための一つの提案をしに来ただけだ」
「FiVE……ね。そういう団体の話は聞いたことはある。が、提案だ? そんなのが見え透いた嘘だってのは分かってんだよ。下手な芝居すんじゃねぇ」
『慧眼の癒し手』香月 凜音(CL2000495)の言葉に目深につば付きの帽子をかぶった青年が荒い口調で返す。まるで話を聞く気がない、そういう姿勢だ。
椚という名の青年はニット帽を少しだけ上にあげ額に宿る第三の瞳から怪光線を放つ。覚者達の足元に一本のラインを引き「それ以上喋るようなら、次は当てる」そう吐き捨てるように言う。
その線を踏み越え、『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)は一歩前へ出る。それと同時に身体は成人女性のそれへと変ずる。
「異形の力で周囲と分かり合えない? ……そうだね、そういう思いはどうしても持っちゃうよね。僕も家族から徹底的に無視されたから……君達の気持ち、少しはわかるつもりなんだ」
「わかった風な口を!」
玲の言葉に反抗心を剥き出しにした百合は戦闘態勢に入る。最も幼い紫苑は姉の服を掴み、その陰に隠れるようにする。まるで、現実から目を背けるように。
「ベラベラ喋ってこっちの気を削ごうって魂胆かよ、ふざけんなよ!」
弟妹の士気が下がりそうだと考えたのか、玲へと椚が単身飛びかかる。その顔は自責の念とも悲嘆とも取れない顔があった。
●力、その在り方
玲を庇うように緒形 逝(CL2000156)が両者の間に割って入る。戦闘機の主翼のような人間らしからぬ手でその拳を受け止める。
「血気盛んだね……って、お宅らこの手足が気になるかね? 不便だけど都合の良い主翼と尾翼が」
攻撃を防がれた以上にその手足に驚いた椚は大きく距離を取る。自分たちはまだ人の形を比較的保っていた。しかし、逝の手足は人のそれとは大きく異なり、身に着けたフルフェイスのお蔭でその異様さはさらに引き立っていた。
「お前っ!? 人間じゃないのか!?」
「フン、同じ人間さ」
椚の戸惑いの声には『隔者狩りの復讐鬼』飛騨・沙織(CL2001262)が答える。沙織は地面から蔦を幾つも伸ばし椚を拘束するかのように手を伸ばす。
「だが、貴様らのように制御できてない未熟者とは違う。そんな生活をいつまでも続けたいなら好きにするがいい。いつか暴走しその身を滅ぼすことになる。その時は私が殺すがな……。素直に耳を傾けたほうがいいと思うけど」
沙織の蔦に足を絡め捕られた椚だがその後方に位置していた百合がその羽を大きくはばたかせて空気砲を放つ。高圧縮された空気は見えない弾丸となり、沙織に襲い掛かる。その一撃を受け沙織は一メートル程吹き飛ばされる。
「そうして攻撃してくるアンタ達から身を守るためにアタシらは闘ってんだ!」
「気に食わないんだよ……そうして自分たちが一番不幸だって顔して他人に危害を加えてさ。その結果は自分の首を絞めるだけ」
二人の間には視線だけの火花が散る。直感的な嫌悪感、拒絶それが両者の間に渦巻いていた。
そんな中に『教授』新田・成(CL2000538)が始まってしまった戦いに悲しそうな顔をしながら割って入る。手にした杖で地面を二、三度叩く。その刃はいまだ抜かれることはない。
「勘違いをまず是正しなくてはなりません。我々は貴方がたの起こした『事件』について咎めに来たわけではありません。我々は覚者の組織であり、警察ではない」
「だったら引っ込んでろよ!」吼えた椚が彼の前面に水分を凝縮させ次の攻撃の構えを取る。
「ですが……」
成は仕込み杖を一瞬の構えと共に目にもとまらぬ抜刀術で衝撃波を起こす。椚が構えた水は衝撃波に掻き消え、彼の体を吹き飛ばす。
「ですが、『力』を無軌道に振るうならば、我々は貴方がたを誅伐せねばならない」
●溢れ出す感情
「ここまでが前提です」
そういうと刃を収め成は話をする姿勢に戻る。その顔には怒りも、憎しみもなく、ただただ教え諭そうする教師のそれであった。
「兄さん、姉ちゃん、ね、この人達の話、聞いた方が……」
「そうやって前も襲われたんだろ! こいつらだって!」
紫苑は説得しようと話してくる覚者達との会話を望もうとするものの、兄姉はそれに応じようとはしない。百合もその羽を羽ばたかせたかと思うと彼女の周囲に電流と共に強い光が渦巻いていく。やがてそれは一筋の電撃へと変わり覚者達に放たれる。
「致し方ありません。教育指導と参りましょうか」
成は諦め、再び杖から刃を解き放つ。電撃を辛うじてかわしながら攻撃へと転じる。
その様子を見て紫苑は確信する。彼らも激しく攻撃しようとするものは少ないものの、このまま戦闘が続けば自分の家族が傷つく、と。
「う、う……も、もう、もうやめてよ……。こんなの……! こんなのぉ!」
どうすればいいかわからないという気持ちが力を溢れさせる。ただ、家族が傷ついてほしくない、戦いをやめてほしい。その一心で放った火炎は最前線で戦っていた者たち全てを巻き込んでいく。
もちろん、それには椚も含まれていた。
その感情の爆発のように吐き出された火炎は、紫苑の肘まで残っていたジャンパーの袖を肩まで焼き尽くしていく。
「ぐっ、おっさんの腕を焼くか。だが、コントロールは不十分、か……」
逝は自身の左腕を焼き焦がした炎を振り払いながら紫苑の強い感情をフルフェイス越しにひしひしと感じる。戦闘を止めたい、話し合いで解決をしたい、家族を傷つけてほしくない、そんな感情が入り混じりしかし吐きだせなかったのが爆発したのだろう。
「おい、青年よ、紫苑ちゃんはもうこんな戦い止めてほしいみたいだ。攻撃をやめればおっさんたちは手出しをな――」
「うるさい! うるさいうるさい! 貴様らに、何がわかる!」
逝の説得に耳を貸さず、自分の服を焼いた炎を消すこともせず、目の前の敵を倒す獣のように椚は襲い掛かってくる。それを剣を振るわずあえて拳で応じる逝。殴られ殴り返す、そんな格闘戦が起きる。
紫苑は最大の力を持って力を放ったつもりだった。それでも戦いが終わらないのを知ると、その場に崩れ落ち泣き始めた。
●日向
泣きじゃくる紫苑にはもう戦闘の音も風景も意識の中には入ってこなかった。誰にも理解されない、そんな思いだけが彼の心の中を支配していった。何も、見えなかった。
「紫苑さん……わかるよ、あなたの、気持ち」
(だれ……?)
そんな中、彼の心に日那乃の声が響く。
「『ふつうのひと』、どう思うか、知ってる。化物って、思ってる。私も、みんなも、知ってる。経験、したから」
(じゃあどうして僕達をほっといてくれないの!? 僕達はどうすればいいの!?)
少年は自分の殻に閉じこもったように両膝を抱え、縮こまってしまう。震える肩を支える手も今はない。
「わからない。でも、このままだと、力が、暴走する。だから、止めに来たの」
紫苑は自分の右手の袖が肩までなくなっていることにそこで初めて気づく。力が暴走する。その言葉は妙に生々しく彼の耳に響いてきた。先ほどのやり過ぎといえるまでの炎。制御を離れた力は兄、椚をも巻き込んでいたはず。
ハッとしたように顔をあげ、戦場を見る紫苑。兄である椚は先ほどの炎によってできた火傷は残っている。
声の主が視界に入る。自分よりもさらに低い年齢のように見える少女は幼くも、しかしその力を制御して使えていた。
「わたし達は、FiVE。知りもしない、あなた達を助ける組織。信じて。わたし達のこと、知ってから、どうするか、決めて」
その言葉と共に日那乃は傷ついた味方を回復させていく。自分にはない、姉が使うそれよりも強力な回復術。自分よりも、幼い少女が平然とそれを行使する姿は何よりも紫苑の心に響いていた。
●牙折り
「でっらぁあ!」
椚の放った水流が意思を持ったかのようにうねり、中列に襲い掛かる。椚の鬼気迫る表情と共に放たれた水流は凜音と沙織を押し流し彼らを壁に叩きつける。
叩きつけられた衝撃で意識が飛びそうになる沙織だが、その痛みが突如引いていく。襲いかかってきた水が今度は体を癒やすかのように優しく包み込んでくれる。凜音がすぐさま回復術を行使したのだ
「大丈夫か?」
沙織がその言葉に反応を返したのを凜音が確認すると、術を止め暴走しつつある椚を見据える。既に戦闘が長引いたために肩で息をし、目は血走っている。最早自分の傷も顧みない所から察するに破綻が始まったのかもしれない。
「おい! もう一回言うぞ。俺達は話し合いをしに来たんだ。俺達を信用できない、ってのは当然だ。『信用しろ』って言われてハイそうですかって答えるアホがいるか。でもな、そんな危ない状態のお前さん達を放っておけないから俺達は来たんだ!」
再三投げられた言葉。戦闘中何度もそういう声が飛んでいた。そのことについに百合も構えを解く。
「こんだけ闘ってて、まだそんな世迷言を言うのは、アンタらが初めて……」
「そうだよ、姉ちゃん。ね、話、聞こうよ。ね、兄さんも――」
構えを解いた百合に抱き着く形で紫苑が叩くのを止めるように懇願する。その声と百合が戦いをやめそうなのをみて凜音はホッと息をつく。彼らからはもう戦う意思は消えた様に思えた。
しかし、紫苑の声は兄に届くことはなかった。
唯一彼らの中で、最も力があったことが不幸だったのかもしれない。椚は最初ほどの洗練されてこそいないが加減ができていた力を暴走させ気味に使う。それはもう破綻者のそれと同様と言えるだろう。
「こいつ等を守るのは、俺だ! 親殺しの業を背負わせちまった俺の責任なんだよ!」
その手に水を纏わせ、椚が襲い掛かる。成は彼を傷つけなくともしかし無力化させようと応じるものの、抵抗が激しい。
「お前さんだけが背負わなきゃいけない業じゃないさね! 三人で向き合うべき問題だろう!」
逝が間に割って入り、その攻撃を機械化した足で受け止める。激しい金属音が響く。逝は椚が暴走しかかっているのをその攻撃、顔から感じ取る。強い後悔と自責の念。
それは、『弟妹に両親を殺させた』事に対する感情のようだった。
「だが、もう過去の俺じゃない! この力で貴様らは俺が叩き潰す! もう、去年までの無力な俺じゃないんだ!」
その激しい感情の奔流に流されることなく逝は気付いた。彼はただ一人能力の発現が遅れたこと、両親殺しには彼は加担していなかったこと。弟妹の心が壊れないよう彼は力無くとも必死に二人を導いていたことを。
そして、力無かったことを後悔し、その分得た力に固執にしている彼の現状も感じ取ってしまったのだ。
「だとしたら止まりなさいな! 行き過ぎた力は家族をも傷つけることを知ってるだろう!」
「ガァァアアアアアアア!!」
逝の声は最早届かなくなりつつあった。
傷の癒えた沙織はその手に携えた二振りの剣に自分の力を込める。その刃は白色に彩られていく。目の前にいるのは最早人ならざる者。ならばこそ自分の手で斬ってやるのがココにいる者たちのため、そう考えたのだ。
歩を進めようとする彼女の手を玲が止める。
「殺しちゃ、ダメだよ。彼は僕と同じ。だから助けてあげなきゃ。昔、沙織さんが僕にしてくれたように」
「…………わかった」
「ありがとう、沙織さん」
溜息交じりに答えた沙織に玲は微笑で返す。玲の術と優しい気持ちが沙織の体を包み、刃と体、そして心を強くする。殺すつもりだったが、頼まれては仕方ない。加減は難しいが、迷いはなかった。
逝の一撃を受け、大きく怯んだ椚の懐に沙織は飛び込むと二人分の想いを乗せた斬撃を椚へと叩き込む。
「ァア……ぁ……」
彼の被っていたニット帽がパサリと地面に落ちた。
●新しい仲間
椚が再び目を醒ましたときにはもうすっかり夜になっていた。
彼が目を醒ますと彼の弟妹は彼の顔を心配そうにのぞきこみ、うれし涙と共に抱き着いてくる。
場所は、先ほどまでと同じ場所、体から痛みはそれほどもなく、傷は適切に処置がされていた。
「お前ら……」
覚者達をポカンと眺める椚。
「このまま家族をこんな劣悪な環境で過ごさせるより勇気を出してこちらに歩み寄る勇気をみせな……そうしたら私達は貴様等を全力で助ける。約束するよ」
そうぶっきら棒に言い捨てると沙織は外の空気を吸うといって立ち去って行ってしまう。
ほら、と声をかけ凜音は椚へ帽子を返しながら手を差し伸べる。「話し合いに来たって言ったろ?」そう言う凜音の手を椚は気まずそうに取り、立ち上がる。
「ま、新田さんの話を聞いてから色々決めるこった。ここにいる奴も、組織も、誰も強制しねーよ」
そう言うと凜音は成に話をするように促す。成は再び丁寧に、しかし相手に伝わる様に覚者のこと、FiVEのこと、自分たちの事、そしてこれからどうするべきかの話を始める。
「さて、最後に今後の貴方がたの生き方について話をしましょう。今まで通りという自由ももちろんありますが、有り体に言えば五麟市に住まい、我々F.i.V.E.に加わる事をおすすめします。我々の力に理解ある土地柄、安定した生活がある程度約束されます。何より経歴・過去不問です」
「僕も両親を……意図したわけではないけど、君みたいに暴走して殺したんだ。行き場を失くしそうだった。でも、FiVEは僕を、そんな僕を優しく迎えてくれたよ」
成の言葉に玲も発言する。その内容に椚は驚きを隠せないでいた。自分が暴走した事、幼い見た目の彼が両親を殺したこと、そして何より自分たちにそれを言ってきたことに。
「ここからが重要です。最低限の暮らしがあればこそ人は思考ができる。貴方がたの罪は誰も罰しない。ですから、向かい合って生きなさい。過去を忘れず生き続ける事が、貴方がたに必要な罰だと、私は思います。」
そういって成は椚の方にそっと手を置く。そこには初めて会った時と同じ教師としての顔をした成の姿があった。
それでは、と成が告げると覚者達はその場を立ち去るべく踵を返していく。
――誰も強制しない。
言葉通り、道を示しこそすれど、誰も連れて行こうとはしなかった。
その様子をただ見送ることは出来ず百合と紫苑が不安そうに椚の顔を見る。彼らの顔には既にFiVEへ行ってみたい、そういう思いが出ていた。そこに安住の地があるのかはわからない、でも、あるかもしれない。そういう希望が瞳には宿っていた。
だからと言って家族をバラバラにはしたくない。だから言い出せないでいた。ニット帽を目深に被った椚に百合が声をかけようとした時だった。椚はニット帽を額にある第三の目が完全に見えるほどに上げると声高に叫んだ。
「俺も! 俺達も、連れて行ってくれ!」
出発前、桂木・日那乃(CL2000941)は新聞を精査していた。そこに載っているはずの彼らの両親の死因を探っていたのだ。原因不明の発火による全焼事件。しかし、両親の死因は二つあり、焼死というのもあったが骨が砕かれたような跡が確認されていたということだ。
「やっぱり……」
原因は彼らにあるのは夢見の話と照らし合わせても確かなことなのだろう。それぞれがそれぞれの持つ因子固有の力で行えそうなことだ。しかし、椚の能力への記述が見当たらなかった。
そして、今目の前には彼らがいる。その力を発現させ覚者達の眼前に立っている。
「俺たちはFiVEだ。むやみに殴りあうために来たんじゃねーよ。お前さんたちが生きていくための一つの提案をしに来ただけだ」
「FiVE……ね。そういう団体の話は聞いたことはある。が、提案だ? そんなのが見え透いた嘘だってのは分かってんだよ。下手な芝居すんじゃねぇ」
『慧眼の癒し手』香月 凜音(CL2000495)の言葉に目深につば付きの帽子をかぶった青年が荒い口調で返す。まるで話を聞く気がない、そういう姿勢だ。
椚という名の青年はニット帽を少しだけ上にあげ額に宿る第三の瞳から怪光線を放つ。覚者達の足元に一本のラインを引き「それ以上喋るようなら、次は当てる」そう吐き捨てるように言う。
その線を踏み越え、『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)は一歩前へ出る。それと同時に身体は成人女性のそれへと変ずる。
「異形の力で周囲と分かり合えない? ……そうだね、そういう思いはどうしても持っちゃうよね。僕も家族から徹底的に無視されたから……君達の気持ち、少しはわかるつもりなんだ」
「わかった風な口を!」
玲の言葉に反抗心を剥き出しにした百合は戦闘態勢に入る。最も幼い紫苑は姉の服を掴み、その陰に隠れるようにする。まるで、現実から目を背けるように。
「ベラベラ喋ってこっちの気を削ごうって魂胆かよ、ふざけんなよ!」
弟妹の士気が下がりそうだと考えたのか、玲へと椚が単身飛びかかる。その顔は自責の念とも悲嘆とも取れない顔があった。
●力、その在り方
玲を庇うように緒形 逝(CL2000156)が両者の間に割って入る。戦闘機の主翼のような人間らしからぬ手でその拳を受け止める。
「血気盛んだね……って、お宅らこの手足が気になるかね? 不便だけど都合の良い主翼と尾翼が」
攻撃を防がれた以上にその手足に驚いた椚は大きく距離を取る。自分たちはまだ人の形を比較的保っていた。しかし、逝の手足は人のそれとは大きく異なり、身に着けたフルフェイスのお蔭でその異様さはさらに引き立っていた。
「お前っ!? 人間じゃないのか!?」
「フン、同じ人間さ」
椚の戸惑いの声には『隔者狩りの復讐鬼』飛騨・沙織(CL2001262)が答える。沙織は地面から蔦を幾つも伸ばし椚を拘束するかのように手を伸ばす。
「だが、貴様らのように制御できてない未熟者とは違う。そんな生活をいつまでも続けたいなら好きにするがいい。いつか暴走しその身を滅ぼすことになる。その時は私が殺すがな……。素直に耳を傾けたほうがいいと思うけど」
沙織の蔦に足を絡め捕られた椚だがその後方に位置していた百合がその羽を大きくはばたかせて空気砲を放つ。高圧縮された空気は見えない弾丸となり、沙織に襲い掛かる。その一撃を受け沙織は一メートル程吹き飛ばされる。
「そうして攻撃してくるアンタ達から身を守るためにアタシらは闘ってんだ!」
「気に食わないんだよ……そうして自分たちが一番不幸だって顔して他人に危害を加えてさ。その結果は自分の首を絞めるだけ」
二人の間には視線だけの火花が散る。直感的な嫌悪感、拒絶それが両者の間に渦巻いていた。
そんな中に『教授』新田・成(CL2000538)が始まってしまった戦いに悲しそうな顔をしながら割って入る。手にした杖で地面を二、三度叩く。その刃はいまだ抜かれることはない。
「勘違いをまず是正しなくてはなりません。我々は貴方がたの起こした『事件』について咎めに来たわけではありません。我々は覚者の組織であり、警察ではない」
「だったら引っ込んでろよ!」吼えた椚が彼の前面に水分を凝縮させ次の攻撃の構えを取る。
「ですが……」
成は仕込み杖を一瞬の構えと共に目にもとまらぬ抜刀術で衝撃波を起こす。椚が構えた水は衝撃波に掻き消え、彼の体を吹き飛ばす。
「ですが、『力』を無軌道に振るうならば、我々は貴方がたを誅伐せねばならない」
●溢れ出す感情
「ここまでが前提です」
そういうと刃を収め成は話をする姿勢に戻る。その顔には怒りも、憎しみもなく、ただただ教え諭そうする教師のそれであった。
「兄さん、姉ちゃん、ね、この人達の話、聞いた方が……」
「そうやって前も襲われたんだろ! こいつらだって!」
紫苑は説得しようと話してくる覚者達との会話を望もうとするものの、兄姉はそれに応じようとはしない。百合もその羽を羽ばたかせたかと思うと彼女の周囲に電流と共に強い光が渦巻いていく。やがてそれは一筋の電撃へと変わり覚者達に放たれる。
「致し方ありません。教育指導と参りましょうか」
成は諦め、再び杖から刃を解き放つ。電撃を辛うじてかわしながら攻撃へと転じる。
その様子を見て紫苑は確信する。彼らも激しく攻撃しようとするものは少ないものの、このまま戦闘が続けば自分の家族が傷つく、と。
「う、う……も、もう、もうやめてよ……。こんなの……! こんなのぉ!」
どうすればいいかわからないという気持ちが力を溢れさせる。ただ、家族が傷ついてほしくない、戦いをやめてほしい。その一心で放った火炎は最前線で戦っていた者たち全てを巻き込んでいく。
もちろん、それには椚も含まれていた。
その感情の爆発のように吐き出された火炎は、紫苑の肘まで残っていたジャンパーの袖を肩まで焼き尽くしていく。
「ぐっ、おっさんの腕を焼くか。だが、コントロールは不十分、か……」
逝は自身の左腕を焼き焦がした炎を振り払いながら紫苑の強い感情をフルフェイス越しにひしひしと感じる。戦闘を止めたい、話し合いで解決をしたい、家族を傷つけてほしくない、そんな感情が入り混じりしかし吐きだせなかったのが爆発したのだろう。
「おい、青年よ、紫苑ちゃんはもうこんな戦い止めてほしいみたいだ。攻撃をやめればおっさんたちは手出しをな――」
「うるさい! うるさいうるさい! 貴様らに、何がわかる!」
逝の説得に耳を貸さず、自分の服を焼いた炎を消すこともせず、目の前の敵を倒す獣のように椚は襲い掛かってくる。それを剣を振るわずあえて拳で応じる逝。殴られ殴り返す、そんな格闘戦が起きる。
紫苑は最大の力を持って力を放ったつもりだった。それでも戦いが終わらないのを知ると、その場に崩れ落ち泣き始めた。
●日向
泣きじゃくる紫苑にはもう戦闘の音も風景も意識の中には入ってこなかった。誰にも理解されない、そんな思いだけが彼の心の中を支配していった。何も、見えなかった。
「紫苑さん……わかるよ、あなたの、気持ち」
(だれ……?)
そんな中、彼の心に日那乃の声が響く。
「『ふつうのひと』、どう思うか、知ってる。化物って、思ってる。私も、みんなも、知ってる。経験、したから」
(じゃあどうして僕達をほっといてくれないの!? 僕達はどうすればいいの!?)
少年は自分の殻に閉じこもったように両膝を抱え、縮こまってしまう。震える肩を支える手も今はない。
「わからない。でも、このままだと、力が、暴走する。だから、止めに来たの」
紫苑は自分の右手の袖が肩までなくなっていることにそこで初めて気づく。力が暴走する。その言葉は妙に生々しく彼の耳に響いてきた。先ほどのやり過ぎといえるまでの炎。制御を離れた力は兄、椚をも巻き込んでいたはず。
ハッとしたように顔をあげ、戦場を見る紫苑。兄である椚は先ほどの炎によってできた火傷は残っている。
声の主が視界に入る。自分よりもさらに低い年齢のように見える少女は幼くも、しかしその力を制御して使えていた。
「わたし達は、FiVE。知りもしない、あなた達を助ける組織。信じて。わたし達のこと、知ってから、どうするか、決めて」
その言葉と共に日那乃は傷ついた味方を回復させていく。自分にはない、姉が使うそれよりも強力な回復術。自分よりも、幼い少女が平然とそれを行使する姿は何よりも紫苑の心に響いていた。
●牙折り
「でっらぁあ!」
椚の放った水流が意思を持ったかのようにうねり、中列に襲い掛かる。椚の鬼気迫る表情と共に放たれた水流は凜音と沙織を押し流し彼らを壁に叩きつける。
叩きつけられた衝撃で意識が飛びそうになる沙織だが、その痛みが突如引いていく。襲いかかってきた水が今度は体を癒やすかのように優しく包み込んでくれる。凜音がすぐさま回復術を行使したのだ
「大丈夫か?」
沙織がその言葉に反応を返したのを凜音が確認すると、術を止め暴走しつつある椚を見据える。既に戦闘が長引いたために肩で息をし、目は血走っている。最早自分の傷も顧みない所から察するに破綻が始まったのかもしれない。
「おい! もう一回言うぞ。俺達は話し合いをしに来たんだ。俺達を信用できない、ってのは当然だ。『信用しろ』って言われてハイそうですかって答えるアホがいるか。でもな、そんな危ない状態のお前さん達を放っておけないから俺達は来たんだ!」
再三投げられた言葉。戦闘中何度もそういう声が飛んでいた。そのことについに百合も構えを解く。
「こんだけ闘ってて、まだそんな世迷言を言うのは、アンタらが初めて……」
「そうだよ、姉ちゃん。ね、話、聞こうよ。ね、兄さんも――」
構えを解いた百合に抱き着く形で紫苑が叩くのを止めるように懇願する。その声と百合が戦いをやめそうなのをみて凜音はホッと息をつく。彼らからはもう戦う意思は消えた様に思えた。
しかし、紫苑の声は兄に届くことはなかった。
唯一彼らの中で、最も力があったことが不幸だったのかもしれない。椚は最初ほどの洗練されてこそいないが加減ができていた力を暴走させ気味に使う。それはもう破綻者のそれと同様と言えるだろう。
「こいつ等を守るのは、俺だ! 親殺しの業を背負わせちまった俺の責任なんだよ!」
その手に水を纏わせ、椚が襲い掛かる。成は彼を傷つけなくともしかし無力化させようと応じるものの、抵抗が激しい。
「お前さんだけが背負わなきゃいけない業じゃないさね! 三人で向き合うべき問題だろう!」
逝が間に割って入り、その攻撃を機械化した足で受け止める。激しい金属音が響く。逝は椚が暴走しかかっているのをその攻撃、顔から感じ取る。強い後悔と自責の念。
それは、『弟妹に両親を殺させた』事に対する感情のようだった。
「だが、もう過去の俺じゃない! この力で貴様らは俺が叩き潰す! もう、去年までの無力な俺じゃないんだ!」
その激しい感情の奔流に流されることなく逝は気付いた。彼はただ一人能力の発現が遅れたこと、両親殺しには彼は加担していなかったこと。弟妹の心が壊れないよう彼は力無くとも必死に二人を導いていたことを。
そして、力無かったことを後悔し、その分得た力に固執にしている彼の現状も感じ取ってしまったのだ。
「だとしたら止まりなさいな! 行き過ぎた力は家族をも傷つけることを知ってるだろう!」
「ガァァアアアアアアア!!」
逝の声は最早届かなくなりつつあった。
傷の癒えた沙織はその手に携えた二振りの剣に自分の力を込める。その刃は白色に彩られていく。目の前にいるのは最早人ならざる者。ならばこそ自分の手で斬ってやるのがココにいる者たちのため、そう考えたのだ。
歩を進めようとする彼女の手を玲が止める。
「殺しちゃ、ダメだよ。彼は僕と同じ。だから助けてあげなきゃ。昔、沙織さんが僕にしてくれたように」
「…………わかった」
「ありがとう、沙織さん」
溜息交じりに答えた沙織に玲は微笑で返す。玲の術と優しい気持ちが沙織の体を包み、刃と体、そして心を強くする。殺すつもりだったが、頼まれては仕方ない。加減は難しいが、迷いはなかった。
逝の一撃を受け、大きく怯んだ椚の懐に沙織は飛び込むと二人分の想いを乗せた斬撃を椚へと叩き込む。
「ァア……ぁ……」
彼の被っていたニット帽がパサリと地面に落ちた。
●新しい仲間
椚が再び目を醒ましたときにはもうすっかり夜になっていた。
彼が目を醒ますと彼の弟妹は彼の顔を心配そうにのぞきこみ、うれし涙と共に抱き着いてくる。
場所は、先ほどまでと同じ場所、体から痛みはそれほどもなく、傷は適切に処置がされていた。
「お前ら……」
覚者達をポカンと眺める椚。
「このまま家族をこんな劣悪な環境で過ごさせるより勇気を出してこちらに歩み寄る勇気をみせな……そうしたら私達は貴様等を全力で助ける。約束するよ」
そうぶっきら棒に言い捨てると沙織は外の空気を吸うといって立ち去って行ってしまう。
ほら、と声をかけ凜音は椚へ帽子を返しながら手を差し伸べる。「話し合いに来たって言ったろ?」そう言う凜音の手を椚は気まずそうに取り、立ち上がる。
「ま、新田さんの話を聞いてから色々決めるこった。ここにいる奴も、組織も、誰も強制しねーよ」
そう言うと凜音は成に話をするように促す。成は再び丁寧に、しかし相手に伝わる様に覚者のこと、FiVEのこと、自分たちの事、そしてこれからどうするべきかの話を始める。
「さて、最後に今後の貴方がたの生き方について話をしましょう。今まで通りという自由ももちろんありますが、有り体に言えば五麟市に住まい、我々F.i.V.E.に加わる事をおすすめします。我々の力に理解ある土地柄、安定した生活がある程度約束されます。何より経歴・過去不問です」
「僕も両親を……意図したわけではないけど、君みたいに暴走して殺したんだ。行き場を失くしそうだった。でも、FiVEは僕を、そんな僕を優しく迎えてくれたよ」
成の言葉に玲も発言する。その内容に椚は驚きを隠せないでいた。自分が暴走した事、幼い見た目の彼が両親を殺したこと、そして何より自分たちにそれを言ってきたことに。
「ここからが重要です。最低限の暮らしがあればこそ人は思考ができる。貴方がたの罪は誰も罰しない。ですから、向かい合って生きなさい。過去を忘れず生き続ける事が、貴方がたに必要な罰だと、私は思います。」
そういって成は椚の方にそっと手を置く。そこには初めて会った時と同じ教師としての顔をした成の姿があった。
それでは、と成が告げると覚者達はその場を立ち去るべく踵を返していく。
――誰も強制しない。
言葉通り、道を示しこそすれど、誰も連れて行こうとはしなかった。
その様子をただ見送ることは出来ず百合と紫苑が不安そうに椚の顔を見る。彼らの顔には既にFiVEへ行ってみたい、そういう思いが出ていた。そこに安住の地があるのかはわからない、でも、あるかもしれない。そういう希望が瞳には宿っていた。
だからと言って家族をバラバラにはしたくない。だから言い出せないでいた。ニット帽を目深に被った椚に百合が声をかけようとした時だった。椚はニット帽を額にある第三の目が完全に見えるほどに上げると声高に叫んだ。
「俺も! 俺達も、連れて行ってくれ!」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
皆様大変お待たせしました。
皆さんのプレイングは読んでいて非常に楽しくあり
それでいて様々な説得の仕方があるのだと思わせられました。
またご一緒できればと思います。
それでは、またの機会に。
皆さんのプレイングは読んでいて非常に楽しくあり
それでいて様々な説得の仕方があるのだと思わせられました。
またご一緒できればと思います。
それでは、またの機会に。
