魔人形学園
魔人形学園


 魔法少女クリティカル・ミナが、魔法のステッキを振るった。
 元々が可動フィギュアではないから、四肢の関節はボロボロに砕けている。砕けた状態で、しかし繋がっているのだ。
 そんなボロボロの細腕で振り回されたステッキが、戸塚の頭を粉砕した。
 加藤が悲鳴を上げ、腰を抜かして座り込む。
 そこへ孤高のダークヒーロー『マスクド・レイダー龍牙』が襲いかかる。
 こちらは元々、可動を売りにしたアクションフィギュアであるから、動きは滑らかなものである。
 滑らかに繰り出された必殺ドラゴン・スライド・キックが、加藤の首を刎ねた。
 教室の出入り口付近では、廊下へ逃げ出そうとした仲根が『駆動戦士フリーガン』の樹脂製ビームサーベルで斬り刻まれている。
 窓辺では小川と石出教諭が、すでに原形を失っていた。
 主だった5名は、これで始末した事になる。
 血生臭さの立ち込める教室の中央で、しかし少年は満足していなかった。
 もはや肉体はない。声を発する事は出来ない。言語で思考を行う事もだ。
 出来るのは、こうして怨念を燃えたぎらせる事だけ。
 燃えたぎる怨念が、少年の宝物たちを、こうして強力な殺戮者に変えている。
 これからだ。この学校の連中は、皆殺しにせねばならない。
 自分を死なせた、助けてくれなかった連中。1匹も、生かしてはおけない。


 久方万里(nCL2000005)が、慌てふためいている。
「大変大変! 妖のせいで人死にが出ちゃったよー!
 あのね、おとなり滋賀県の中学校なんだけど。簡単に言うとね、いじめられて自殺した男の子が、心霊系の妖になって大復讐! いじめた連中を皆殺しにしちゃったわけ。それだけなら単なる飯旨ニュースなんだけど。同じ学校のね、いじめとは全然関係ない先生や生徒さんまで襲われちゃってるからさあ大変。何かもう憎しみが止まんなくなっちゃってる感じ?
 ランクは2。念動力で机とか飛ばしてくるんだけど、それより厄介なのは取り巻きかな。
 彼ねえ、プラモとかフィギュア集めが趣味で。樹脂で出来た美少女とかロボットくらいしか友達がいない子で。その友達がね、物質系の妖になって、男の子の命令通りに動いてるみたい。動く人間大フィギュアだね。
 確認されてるのはランク1が3体。魔法少女と特撮ヒーローとロボットなんだけど、基本みんな能力は同じだから。攻撃方法は、近付いて殴ったり蹴ったりするだけ。別にマジカルブラスターやビームライフルをぶっ放してくるわけじゃないから安心してね。まあでも人を殺せるくらいの馬鹿力はあるから、それだけは要注意。
 広い学校の中で戦う事になるわけだけど、大ボスの心霊系は第2校舎3階の2年D組から動いてないみたいだね。そこから物質系3体を操って、逃げ遅れた生徒さんを狩り出したりしているみたい。
 そう、避難はあらかた済んでるんだけど逃げ遅れちゃった人がいるみたいなんだよねー。
 妖の撃破と、逃げ遅れた人の救助……どっちを優先するかは、まあ臨機応変って事で。
 最終目的はもちろん妖の全滅、人助けは余裕があったら、って感じになると思うよ。まずは自分の命を大切にね!」 


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:小湊拓也
■成功条件
1.妖の全滅
2.なし
3.なし
 初めまして、小湊拓也と申します。

 敵は、ポルターガイスト的に物を飛ばして全体攻撃をしてくる心霊系が1体と、単体近接攻撃のみの物質系が3体であります。時間帯は夜間。定番は定番ですが、深夜の学校での戦闘となります。

 ボスの心霊系は基本、2年D組の教室から動く事はありません。
 物質系3体は校舎内を徘徊していますが、主である心霊系に危機が迫れば、それを察知して2年D組に集まって来るでしょう。そうなる前に各個撃破を行うか、集めてまとめて片付けるか、という事になると思います。

 それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年01月04日

■メイン参加者 6人■

『幻想下限』
六道 瑠璃(CL2000092)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)


 深夜である。
 第1校舎の、2階の隅。窓に一瞬、悲鳴を上げている人の顔が浮かび上がった、ように見えた。
 倒さねばならない妖が陣取っているのは、その隣の第2校舎3階である。
 気のせいとしか思えないものなど無視して、皆と共にそちらへ向かうべきなのかも知れない。
 だが6人のうち『暗視』と『鷹の目』を併用出来るのは、自分『笑顔の約束』六道瑠璃(CL2000092)だけだ。見えてしまったものを、無視する事は出来ない。
「六道さん? どうしたんだよ」
 『小さなヒーロー』成瀬翔(CL2000063)が、声をかけてきた。
 6名の中では最年少12歳。身体は小さい。
 対照的に、身体の大きな女子大生もいる。『スポーティ探偵』華神悠乃(CL2000231)だ。
「早く行こうよ。韋駄天持ちの2人は、もう行っちゃったよ? 迅速な突入は、あの人たちに任せて……私たちは着実な歩みで、ね。ええと、2年D組ってどこだっけ?」
「第2校舎の3階だけど、ちょっと待ってくれ」
 標的の居場所とは異なる、第1校舎の2階の隅を見据えたまま、瑠璃は言った。
「逃げ遅れた人がいて、しかも妖の手下に襲われているかも知れないって話だったよな……今、それらしいものが見えた」
「何だって、じゃ助けねえと……」
 翔の言葉を遮るように、三島椿(CL2000061)が声を発した。
「……来るわ、こっちにも」
 瑠璃と同じく17歳。6名の中に2人いる現役女子高生の、片方である。
 その凛とした瞳が、眼前にそびえ立つ第2校舎を見上げている。
 校舎4階で、ガラス窓が1つ、砕け散った。
 4階から人が1人、放り捨てられていた。
 悠乃が、跳躍しつつ『覚醒』する。竜の尻尾が、うねり舞う。
 強靭な細腕が、大型爬虫類の剛力を獲得し、血まみれの人体を空中で受け止めた。
 人間1人を抱き止めたまま、悠乃が鮮やかに着地する。
「キミ、しっかり……」
「……た……すけて……」
 悠乃の腕の中で、その男子生徒は死にかけていた。
 4階から彼を放り捨てた何者かが、続いて飛び降りて来た。
 軽やかに着地を決めた、その姿を目の当たりにして、翔が呆然と呟く。
「マスクド・レイダー……龍牙……」
 等身大に巨大異形化した可動フィギュア。全身、返り血まみれである。
「龍牙が……人、傷つけてる……」
「ちょっと翔くん、しっかりなさい」
 悠乃が、血まみれの男子生徒をそっと横たえて足元に庇い、身構える。
 龍牙は、すでに踏み込んで来ていた。蹴りが、翔に向かって一閃する。
 悠乃が飛び込み、翔の小さな身体を抱きすくめ、もろとも地面に転がり込む。ひとかたまりになった2人を、龍牙の蹴りがかすめる。
 ふんわりとした気配を、瑠璃は傍に感じた。
 椿が、悠乃に続いて『覚醒』を完了していた。たおやかな肩口から、青色の翼が広がっている。
 悠乃の足元で死にかけている男子生徒の身体に、『潤しの滴』が染み込んでゆく。
 一命を取り留めた男子生徒が、そのまま意識を失ってくれた。
 翔を小脇に抱えたまま、悠乃が言った。
「行って三島さん、それに六道くん。同じような目に遭ってる人、見つけたんでしょ?」
 言いつつ、龍牙と対峙する。
「ここは、私と翔くんに任せて早く」
「だ、だけど……」
 翔は大丈夫なのか、と言いかけた瑠璃の身体が突然、宙に浮いた。
 椿に、後ろから抱かれていた。天使のような翼が、人間2人分の体重に負ける事なく羽ばたいている。
「行くわよ、瑠璃さん。場所はどこ?」
「……第1校舎の、2階の隅だ」
 有翼の少女に抱き運ばれながら、瑠璃は微笑んだ。
「椿は、力持ちだな……」
「……瑠璃さんが軽過ぎるのよ。ご飯食べてないでしょう? 相変わらず」
「食べ過ぎて太るより、ましだと思ってくれ」
 運ばれている間に瑠璃は『覚醒』を済ませておく事にした。



 死屍累々、と言うべき有り様である。
 いじめの主犯格である数名だけではない。校内あちこちから生徒や教師が狩り集められ、切り刻まれたのだろう。
「や、こりゃまた派手に殺したもんさね。まるで共産圏みたいだぞう」
 2年D組の教室内を見渡しながら緒形逝(CL2000156)が、続いて『ほむほむ』阿久津ほのか(CL2001276)が、暢気な声を発した。
「こんなの……瑠璃さんが見たら、またご飯食べられなくなっちゃいます」
「そうさねえ。じゃ、あの子らが来る前に頑張って片付けちまう?」
「はあ。それが出来たら、格好いいですねえ」
 韋駄天足を用いて、2年D組に到着したところである。到着するなり、こんな光景を目の当たりにする事となったのだ。
 ほのかは軽く左手を掲げた。手の甲に、第三の目が開く。
 覚醒を完了させながら、状況を確認してみる。
 血まみれの樹脂製ビームサーベルを携えた人間大可動プラモデルが、こちらに歩み迫って来る。
 駆動戦士フリーガン。殺戮を実行したのは、彼であろう。
 殺戮を命じた者が、教室の中央に浮かんでいる。
 闇が、固まりながら蠢き、うねり、醜悪な人面を形成しながら燃え盛っていた。
 そんなものに、逝が語りかける。
「復讐完了、世間の連中も大喝采だ。もう思い残す事なかろ? このへんで大人しく成仏しときなさい」
 語りかけながら『覚醒』してゆく。
 逝の両足にカナードが生じ、両腕は航空機の主翼の如く伸び広がった。
「残念なお知らせ。こんな格好になっても、別に空を飛べるわけじゃあないぞう」
「椿さんと瑠璃さんは今頃、仲良くお空飛んでる頃でしょうか……いいなぁ、お空のデート」
 ほのかは呟いたが、そんな場合ではなかった。
 フリーガンが、猛然と斬りかかって来る。
「死んでから、オトモダチに人殺しをさせる……くらいなら!」
 蔵王・戒で土行の防護をまといながら、逝が応戦した。
 一瞬の激突の後、フリーガンが宙を舞い、床に叩きつけられる。逝の、四方投げであった。
「生きてる間に、殴り返しても良かったんじゃないのかね?」
 フリーガンが激しくひび割れ、動かなくなった。
 人面を成す闇が、怒り狂ったかの如く、燃え上がる。
 念動力。血まみれの机や椅子が、宙に舞い上がった。
 フリーガンが念動力で引きずり起こされ、また動き出す。
「……もう、お友達じゃなくて道具になっちゃってるんですね」
 言葉と共に、ほのかは踏み込んで行った。
「そこまで強い憎しみ、私にはわかりません……だけどっ!」
 踏み込みに合わせて『気』のプレッシャーが生じ、迸った。無頼漢。
 フリーガンがよろめき、闇の人面が苦しげに揺らぐ。
 だが同時に、敵の念動力も迸っていた。
 机が、椅子が、ガラスの破片が、逝とほのかに向かって激しく降り注ぐ。
 土行の護りをまとう逝が、さりげなく動いてほのかを庇い、机や椅子の直撃を喰らい、よろめく。
 ガラスの破片が、ほのかの白い肌を何箇所か切り裂いた。鮮血の飛沫が、微かに舞った。
「あ、阿久津ちゃん! 無事か!」
「……平気です。緒形さんも、無茶しないでっ」
 ほのかは、さらに踏み込んで行った。
「人の憎しみ苦しみなんて、そう簡単にわかりません。わかり合うために、踏み込む……悠乃さんからの、受け売りですけどねっ!」
 フリーガンが、闇の人面を守るように立ちはだかっている。
 そこへ、ほのかは『鉄甲掌・還』を叩き込んだ。
 衝撃が、半壊状態のフリーガンを完全に粉砕しつつ、闇の人面を直撃する。
 悲鳴が聞こえた、とほのかは感じた。肉声を発する事の出来なくなった少年が今、確かに悲鳴を上げたのだ。
 念動力の嵐が吹き荒れ、机や椅子やロッカーが激しく渦を巻いて襲い来る。
 瑠璃たちが来る前に片付ける事など、出来そうになかった。



 瑠璃を、後ろから抱いて運んでいる。まるで荷物のようにだ。
 いささか色気に乏しい抱き方ではあるが、椿の胸は高鳴っていた。
(ドキドキが……瑠璃さんに、伝わってしまう……)
「椿、そこだ」
 椿の戸惑いを、瑠璃は無視した。
 第1校舎、2階の隅。瑠璃を抱き運びながらの飛行が、そこに達していた。
「窓は破壊するしかない。頼めるか?」
「ま、任せて。エアブリット!」
 椿の羽ばたきが、竜巻のような空気の弾丸を作り出す。
 それが、ガラス窓を粉砕した。
 瑠璃を抱いたまま、椿は校舎外から突入した。
 そこは教室だった。
 樹脂で出来た美少女が、ゆらりと振り向いてくる。
 魔法少女クリティカル・ミナ。
 その足元では、教師らしき1人の男性が倒れていた。首から上が、原型をとどめていない。
「この人だ……」
 椿の抱擁から抜け出し、床に着地しながら、瑠璃が言った。
「さっきオレが見たのは、この人の顔だ。やっぱり助けを求めていたんだな……遅かったけど」
 覚醒によって青く変色した瞳が、魔法少女の人間大フィギュアを睨み据える。
「お前の主に、同情はする……だけど許しはしない」
 その青い瞳が、夜闇の中で輝きを増した。練覇法の輝きだった。
 クリティカル・ミナが動いた。魔法のステッキで、殴りかかって行く。瑠璃に……ではなく、遺体の傍で抱き合い震えている2人の女子生徒に。
 自身への攻撃を想定していたのであろう瑠璃の、動きが遅れた。
 だから椿が動いた。
 駆けながら羽ばたき、女子生徒2人の眼前に飛び込んで防御の構えを取る。
 彼女らを狙っていた魔法のステッキが、翼に包まった椿の細身を直撃した。
「うっ……く……」
 翼の上からの衝撃を、椿は悲鳴と一緒に噛み殺した。微かな吐血が、唇を汚す。
「椿!」
 瑠璃が、踏み込んで来る。クレセントフェイトが、超高速で一閃する。
 斬・二の構え。
 ほとんど真っ二つになったクリティカル・ミナが、最後の力で魔法のステッキを振り回した。
 その一撃が、瑠璃の細い身体を粉砕する……寸前で、椿は傷付いた翼を無理矢理に羽ばたかせていた。
 エアブリットが、半ば真っ二つになった魔法少女の身体を撃ち砕いた。
「……もう、大丈夫よ」
 泣きじゃくっている女子生徒2人に、椿は微笑みかけた。
「うざバカ木村が……」
 1人が、しゃくり上げながら言った。死んだ教師の事らしい。
「ただの、うざいバカのくせに……あたしたちの事、守ってくれて……」
「すまない、本当に」
 瑠璃が片膝をつき、少女たちと目の高さを合わせた。
「オレたちが、もう少し早ければ……本当に、すまない」
 泣いていた少女2人が、呆然と頬を赤らめてゆく。
 椿は無理矢理、瑠璃を掴んで立たせた。
「……行くわよ、瑠璃さん。先行組の2人、きっと苦戦しているから」
「ま、待て椿。怪我したんじゃないのか」
「平気」
 有無を言わせず椿は、瑠璃の細身を後ろから抱いた。
「椿に抱えてもらうのは……なんか、すごい安心する」
「……瑠璃さんは、ずるいわ」
 椿は羽ばたいた。
 翼が痛い。が、飛べないほどではなかった。



 マスクド・レイダー龍牙の拳が、蹴りが、立て続けに襲いかかって来る。
 悠乃が、抱えていた翔の身体を放り捨て、両腕で防御・応戦した。
 翔は、地面に激突した。
「あ……ご、ごめん翔くん! 大丈夫?」
「平気……おかげで、目ぇ覚めたぜ」
 翔はむくりと起き上がり、頭をさすった。たんこぶが出来ている。
「……止めてやるぜ。ヒーローが、これ以上堕ちる前に!」
 覚醒が、起こった。
 小さな少年の身体は消え失せ、白い和装をまとう青年の長身が現れる。
 龍牙の蹴りを双牙スコヴヌングで受け流しながら、悠乃が笑った。
「願望入ってるねえ、相変わらず」
「う、うるせえやい! それより今から雷獣ぶちかますから気を付けてくれよ」
 大人の姿に変わっても、頭ではたんこぶが膨らんだままだ。
「翔くん、1発当てたら先行っていいよー。すぐ追いつくから」
「……いや。こうなっちまったら、ここで確実に仕留めといた方がいいと思う!」
 翔は、中指と人差し指を立てた。
 電光が、龍牙を直撃する。
 感電・痙攣している人間大可動フィギュアに、
「それもそっか。ここで片付きそうだもんね……というわけで豪炎撃!」
 悠乃が、炎の拳を叩き込んだ。
 鉤爪を備えた拳に炎をまとい、大型爬虫類の尻尾をなびかせて戦う悠乃。
 まるで怪人だ、と翔は思わない事もなかった。
 電光と豪炎を連続で食らった龍牙が、灼け砕けて樹脂の残骸と化した。
「ごめんね。同じヒーローでも、スケールが違い過ぎた」
「ヒーローって言うより華神さん……龍牙の8話に出て来た、コモドドラゴン女みてえ」
「もう1つ2つ、たんこぶ作ってみる? 身長伸びるよ」
「いや、それ身長って言わねえから……」
 愚かな会話をしつつ、翔は気付いた。
 残骸と化した龍牙が、樹脂の焼ける悪臭を発しながら、這いずっている。眼前の、第2校舎へと向かって。
「……緒形さん阿久津さん、頑張ってるみたいだね」
 悠乃が呟いた。
「2年D組にいる、自分の御主人様を……助けに、行こうとしてる」
「そっか……こいつは、こいつなりにヒーローの務めってやつを……」
 翔は、中指と人差し指を立てた。
 電光が、龍牙にとどめを刺した。
 ごめんな、という言葉を翔は呑み込んだ。



 念動力で破壊された窓から、青い鳥が入って来た。ほのかには、そう見えた。幸せを運ぶ、青い鳥。
 だが、この青い鳥が運んで来たのは、幸せと言うか瑠璃である。
「る、瑠璃さん……周り見ちゃ駄目です! ご飯食べられなく」
「……食われた死体じゃなきゃ大丈夫さ。いやまあ、大丈夫ってわけでもないが」
 軽やかに着地した瑠璃が、荒れ狂う闇の人面を睨み据える。
「お前の大切な玩具、ぶっ壊しちまったよ……なあ、あの玩具は友達なんじゃないのか。遊んでいて楽しかったんじゃないのか? 辛い時も寂しい時も、あいつらはお前を笑顔にさせてくれたんじゃないのか! そんな友達を人殺しの道具にして、胸が痛まないのかよ!」
「……痛まないんだろうねえ、もう」
 逝が、椅子と机とロッカーに埋もれたまま声を発する。
「それが憎しみってもんさね。友達だろうが家族だろうが、憎しみを晴らすための道具になっちまう……戦争と、同じよ」
「戦争なら、早急に終わらせるしかないわね」
 青い鳥、ではなく椿が、両の細腕と翼を広げた。
 潤しの雨が、ほのかに、逝に、椿自身に、降り注ぐ。
「や……助かったぞう三島ちゃん。ちょうど死にかけてたところよ!」
 机と椅子とロッカーを弾き飛ばしながら、逝が立ち上がる。
 それと同時に、床が隆起した。逝の放った土の力が槍状に噴出し、闇の人面を刺し貫く。隆槍。
 またしても、声にならない悲鳴が響き渡った、とほのかは感じた。
「……おっちゃんは、おっちゃんでアレだなー」
 そんな事を言いながら、翔が教室に入って来た。
「龍牙に出て来た、マシン怪人ミグ21男みてえ」
「まあ、械の因子持ちなんて改造人間みたいなもんさね。それより、そっちは片付いたんかね?」
「当然。手を貸してあげるよ、怪人さん」
 言葉と共に、もう1人の怪人、ではなく悠乃が入って来た。そして闇の人面に向かって言い放つ。
「祈りは……済んだかな?」
 返答は、念動力の嵐だった。
 机と椅子が、ロッカーが、ガラスの破片が無数、宙に浮かんで激しく渦を巻く。そして6人を襲う……寸前、翔が叫んだ。
「なあ、お前さ! 自分が大好きだったヒーローに何させてんだよ!? ヒーローも魔法少女も正義のロボットも絶対やらねーような事させやがって! 悪い奴をやっつける姿が格好良くて好きだったんじゃないのかああッ!」
 叫びに合わせ、脣星落霜が迸る。浮揚し渦を巻くものが、全て砕け散った。
「そんな気持ち全部忘れて、ヒーローを悪の化身みてーにするんなら! これ以上、罪のない人まで巻き込むって言うんならオレが!」
「……引導、渡してあげる」
 翔の台詞を横取りしながら、悠乃が踏み込んだ。
 豪炎撃が、闇の人面を激しく圧し歪める。
「光は、お前を傷付ける……闇に抱かれて、眠るがいい」
「えっと悠乃さん。それって、誰かの決め台詞ですか?」
 問いかけながら、ほのかも踏み込み、闇の人面に鉄甲掌を叩き込んだ。
「マスクド・レイダー龍牙のね」
 双方向からの攻撃で、闇の人面が激しく歪み潰れ、薄れてゆく。
 悠乃は、それをじっと見つめていた。
「わかり合うために戦ってる、つもりだったけど……彼の事は、わかってあげられなかった。だからせめて、好きなヒーローの言葉でね」
 いじめ、というものを全く理解出来ないのが悠乃なのだろう。
 椅子や机の残骸が、カタカタと動いている。
 消えゆく闇の人面が、最後の力を振り絞っているようだ。
 瑠璃が、パチッと指を鳴らした。
「オレは不登校だったからな……いじめられてすらいない」
 召雷。小規模な落雷が、カタカタ微動する残骸を、そして闇の人面を、打ち砕いた。
「仮に学校へ行っていたとしても、お前みたいな奴を助けてやれたかどうかはわからない。オレは……お前が手にかけたがっている奴らと、同じだ」
 応える者は、いない。
「オレ……お前が死んじまう前に、会ってみたかったな」
 もはや応える事のない相手に、翔が語りかけていた。
「友達に、なれたんじゃねえかな。ヒーローやロボット、オレも好きなんだぜ? 魔法少女だけは、ちょっとよくわかんねーけどな。あはは……おっちゃんは、どうよ」
「ノーコメントだぞう。あはは」
 逝が、乾いた笑い声を発している。 
 ほのかは手を合わせ、鎮魂を祈る事しか出来なかった。
「貴方の大切なお友達……壊してしまって、ごめんなさい」
 もちろん応えはない。
 構わず、ほのかは語りかけていた。
「そうです、みんな……貴方の、道具なんかじゃありません。お友達だったんですよ……?」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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