妖オブ照り焼きチキン
妖オブ照り焼きチキン



 鉄板の上でじゅうじゅうと鳴る肉。
 ほんのりと丸い鶏肉は今きつね色となり、注ぎかけた砂糖醤油ベースによってまろやかなブラウンへと変化していく。
 鉄板の上をはねる醤油が香り立ち、泡立つ。
 だがまだすくい上げるには早い。まず裏返し、そしてまた裏返し、肉汁と油と混ざることで完成した照り焼きソースへじゅうぶんに絡めなくてはならない。
 ソースが絡まり、そしてやや焦げ付いた肉を更にうつす。ナイフとフォークを使うのが礼儀らしいが、知ったことでは無い。日本人なら箸だ。まず掴み、そして口元へと運ぶ。
 この時点で湯気が顔に触れ、やや熱い。だがそれ以上に鶏肉とソースの香りが鼻孔をくすぐる。思い切って囓れば鶏肉の繊維が歯で千切れ、もきゅりと口内に転がり落ちるのを感じることが出来るだろう。
 当然のように熱いがそれ以上に肉の脂が放つ甘みと重みが全身を支配する。
 飲み込む。
 胸元を通り過ぎる感覚。
 だがこれで終わりでは無い。目の前にはまだ大きな照り焼きチキンが――!

「うわああああああああああああああ! てりやきちきんうわあああああああああああ!」
 文鳥 つらら(nCL2000051)がタイルの床をごろんごろんしていた。氷でできた冷たくない杖を抱えてごろんごろんしていた。
 机の脚に頭をぶつけてうにょーんとか言って悶絶すると、我に返って顔をあげる。
「……はっ! すみません、取り乱しました。続けてください」
「あ、うん。えっとね」
 ここはファイヴの会議室。夢見から妖討伐案件の説明を受けている所である。
「とある河原で大量の照り焼きチキンが空を飛んでる現象が観測されたの。どう考えても妖案件なんだけど、付近の人を襲ったっていう報告は聞かないから、まだランクの低い妖なんだと思うのね」
 久方さんちの万里ちゃんが言うには、この『妖オブ照り焼きチキン』は一体の妖が群体化したことで知能を大幅に失い、浮遊するだけの存在になりはてたものであるそうな。
「当然妖だから覚者パワーで倒せるんだけど、あんまりに数が多いんだよね。だから、プランBを教えておくね」
 万里ちゃんの語るプランB。
 それはつまり。
「食べるんですね!?」
「……うん」
 食欲のおにと化したつららに、万里は軽く引いた。

 妖オブ照り焼きチキンは謎の衛生バリアによって落ちても汚れが付かない安心設計になっている。しかし食べて消化することによって妖は自己消滅をおこし、ある程度の数を食べきると群体ごと消滅するそうだ。
「ちきん!」
 つららはがばっと立ち上がり、明日にむかって杖を掲げた。
「さあみなさんいきましょう! 人類の未来のために! あとご飯のために!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.照り焼きチキン群体を消滅させる
2.なし
3.なし
「俺もう……真面目でいることに疲れた……」
「えっ」
「ベニっちまってもいいか?」
「だっダメだよ。ここはゲーム序盤なんだよっ。そんなことしたらみーんなネタ依頼だらけになっちゃうじゃないっっ」
「お前ってホント心配性だな……。いつも俺は、ベニってるだろ?」

 シャオラー! 八重紅友禅のお兄さんだよ!
 スーパーで国産鶏もも肉が安売りしているたびに買ってきて照り焼きチキンにする日々、マーベラス!
 週一で食べても飽きないチキン、デリシャス!
 プレイングスマート化のためにいくつか補足しますが、まずこれは言っておきましょう。
 ――もういい子ちゃんはやめだ!

●妖オブ照り焼きチキン
 物質系ランク1。
 群体化した妖で、戦闘するとなるとまあそこそこなので難易度は普通設定となっております。
 ただし食うとなると別次元の難易度となるのでご注意ください、もしくはご賞味ください。
 注意点は以下の三つ。
・空中をふわふわ浮いていますが、軽くつついたりキャッチしたりすることで確保できます。確保したチキンは『食べていーよモード』になり、好きなように食べることができます。これは妖オブ照り焼きチキン固有の特性です。
・お持ち帰りはできません。消えます。どれだけ食べても照り焼きチキン一人前を食べ終わった程度の満腹感として残ります。これも固有特性です。
・こっちからガチの戦闘意識を向けないかぎりは攻撃してきません。これも固有以下略。

●プレイングについて
 道具は持ち寄りとなりますが、いたずらにプレイングを圧迫しないために、必要そうなものは大体持参しているものとして判定します。現場にはチキンしかないので、ビールとか欲しいひとは持って行きましょう。
 適切な人払い。組織の隠蔽。その他雑多なことは既に終えているものとして判定します。その他愉快でない不都合は起きないものとします。
 常識? そんなもんは三角コーナーにでも捨ちまえ!

●同行NPC
 このシナリオには文鳥つららが普通の依頼参加者として同行します。
 つららは食べる係です。日頃つららを舐めて生きているだけあって本件に熱心です。うめえうめえとか言って食べます。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
公開日
2015年09月24日

■メイン参加者 9人■

『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『研究所職員』
紅崎・誡女(CL2000750)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『未知なる食材への探究者』
佐々山・深雪(CL2000667)
『月下の黒』
黒桐 夕樹(CL2000163)

●食事を抜くと胃が縮まって逆に食べれなくなるらしいので
「照り焼きチキン……妖が、照り焼きチキン……」
 水蓮寺 静護(CL2000471)は電車の中で頭を抱えていた。膝の上に開かれた駅弁はこれでもかと焼き鳥弁当。砂糖醤油であまからく仕上げた鶏もも肉が二口ほどのサイズに切られ、炊き込みご飯の上に乗っている。ご飯はご飯で鶏ガラと椎茸によるダシで炊き込んだもので、当然のごとく冷めても美味しい。いや、この場合は冷めたから美味しいのだ。
 寺育ちの繊細な味覚でもその良さが分かる。刺激物だらけの現代においてかような憩いがあろうとは。
 ……って違う。うっかり脱線しかけた。
「妖を食べて解決するなどと、僕の認識がおかしいのか? それとも今回が特殊なだけか……?」
「本当に、大丈夫かな。毒とか、ないかな」
 『Mignon d’or』明石 ミュエル(CL2000172)はサンドイッチをぱくつきながらおそるおそる尋ねてきた。キュウリと卵とマヨネーズというオーソドックスなサンドイッチだが、ほんの僅かに和辛子と山椒が仕込まれ食べるたびにそのアクセントが響いてくる。余韻の深いサンドイッチだ。
 あっいけないまた脱線した。
「妖、だから……お腹痛くなったら、言ってね?」
「あ、ああ」
 専門家の間ではもはや常識ではあるが、妖は本能的に人類を敵視している。いかに無害そうな外見であったとて、最終的にはデストロイオブヒューマンに行き着くのだ。
「なんでもありなのか? 妖って」
 カメラを手に呟く黒桐 夕樹(CL2000163)。
 みかんを剥いていた『未知なる食材への探究者』佐々山・深雪(CL2000667)が、一個分丸ごと頬張って飲み込んだ。
「さーねー。空腹感を刺激すれば人間が飢え死にするって思ったんじゃない? 実際一般市民は怖がって手をつけてないし、見るたびにお腹すくだろうし、ある意味一番ダメージ入ってるんじゃない?」
 ボク的には最高だけどねと付け加えて、みかんをもう一個いった。
 虚空を見上げる『猪突妄信』キリエ・E・トロープス(CL2000372)。
「オー、サンクスベギニングデイ。ニホンだと、感謝祭の日!」
「感謝って、何に?」
「お肉にです」
「ああ謝肉祭。もっと先だよね」
「イエスイエス」
 ひたすらいい加減に相づちを打って、キリエは虚空に視線を戻した。
「空飛ぶチキン! これもまたカミサマからのギフトなのですね」
「どんな茶目っ気のある神様だ、それは」
 座席に身体を沈めて仮眠の姿勢に入っていた阿久津 亮平(CL2000328)がうっすらと目を開ける。
「しかし現実に空飛ぶチキンをとって食べる日が来るとは」
「そうですね!」
「何が起こるかわからん世の中になったな」
「そうですね!」
「……文鳥」
「そうですね!」
 恐らく日本で最もいい加減な相づちをうちながら、文鳥 つらら(nCL2000051)は具の無いおにぎりをかっくらっていた。静護の持ち込みめしである。
「うめえっ……うめえっ……」
 しかも涙目でかっくらっていた。
 普段何喰って生きてるんだろうと、亮平はふと思った。
 その向かい側では華神 悠乃(CL2000231)がハンバーガーをかっくらっている。
「うめえうめ――はっ! いけないいけない、野生の本能が照り焼きチキンを食い尽くせと私に叫んでいる。腹が減ってるのか、私は」
「現在進行形で喰ってるけどな」
「照り焼きチキン沢山。ご飯沢山。食べ放題、万歳」
 無表情でぐっと拳を握る岩倉・盾護(CL2000549)。
 もはやこの二人に関しては食べ放題ツアーの道中である。そして実際になにも間違っていない。
「なんとも……」
 『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)はこめかみに指を当てて唸っていた。
 なんか日頃から因子の研究なぞしている人らしいので、喰うと消える妖という変化球に戸惑っているのか。
 と思いきや、はっとして顔を上げた。
「つららちゃん、お茶飲みますか」
「そうですね!」
 つららは貰ったペットボトルのお茶をがぶ飲みすると、再びおにぎりをかっくらい始めた。
 その様子を満足げに観察したあと、誡女はうんうんと頷いた。
「妖の考察なんて後です、後」

●照り焼きチキンをいかに食べるかのお話
 夕樹はカメラを取り出すと、ぱしゃりとシャッターをきった。
 すごく余談になるが、デジタルカメラの画像記録スイッチを押すことをシャッターを切ると表現するのはなんだか語学的かつ歴史的な深さがある。
 さておき。夕樹は画像をディスプレイしてみた。照り焼きチキンが群れを成してぶんわか浮いている光景である。
「うん、いい感じだな」
 実際の光景を見ると、画像そのまま。とはいえ鶏肉特有の控えめな肉の香りと醤油の香りが混ざり合った空気も相まって、写真では伝わらない感動があった。というか食欲があった。
 網を取り出す亮平。夕樹もそれを受け取ると、二人してこっくりと頷き会った。
「さ、行こう」
「うん」
 照り焼きチキンの群れへと飛び込み、右へ左へ網を振り回す。キャッチしては投げキャッチしては投げである。
 投げた先ではつららがポートボールのゴール役みたくお皿を掲げて待っていて、そこへジャストミートで盛られていく仕組みである。
 帽子のつばをつまむ亮平。
「戦闘行動ほど集中力を使わないな。これなら『ていさつ』も平行できる。ぴよーて」
 亮平が命じると、ぴよーて3世(鳥系アテンド)が空へと飛び上がった。
 視線を右へ左へジグザグへ走らせてロックオン。それに応じて亮平はジグザグに駆け回り、照り焼きチキンをゲットしていく。
 一方夕樹はしばらく網を振り回し……ていたが、高いところのチキンに届かない。
 こほんと咳払いしてから覚醒。大人フォームでチキンをすぱすぱキャッチした。
「あんまりに妖が弱すぎて、覚醒するのを忘れてたんだ」
 ぴょこんと後ろから顔を出す悠乃。
「なんで説明したの? ムキになったの?」
「なってない」
 夕樹はそう言い捨てると、網でとったチキンをスローイングした。

 さて、こうして収穫(?)したチキンをまんま食べまくるのかと言えばそうではない。
 こんだけ沢山あるんだから一工夫しようじゃねえかとなるのが人心ってえもんだ。
「ここにチキンがあるじゃろ。そしておっきいパンズがあるじゃろ」
 これを。
 こうして。
 こうじゃ!
 の要領で悠乃はチキンをパンズで挟んだ。軽くレタスやトマトを挟み込むのも忘れていない。
 当然作ったその場で喰っちゃうのも忘れない。
 チキンという油ものを食べていると炭水化物が欲しくなるもの。それを同時に喰っちまおうというアメリカンな考えは、やっぱり全人類共通の快楽である。
 が、一個食べてみた所で悠乃は物足りなさを感じた。
 そう、焼き目である。
「んー……せいっ」
 しばし集中しつつ、手のひらの上にやんわーりした火を発生させた。そこへパンズを近づけてかるーく炙る。
 戦闘中にこういうことをすると怒られるっていうか、大抵そんな余裕はないのだが、集中すると火加減の調節なんてこともできたりする。火加減をダイヤルで調節できるカセットコンロをもってこいよという話かもしれないが、そこは利便性と携帯性とあとロマンの勝利である。
 パンズのついでにチキンも軽く炙って、はさみなおす。
 でもって、かじる。
 このおいしさを表現しきる文章力が足りないことが悔やまれるが、できる限りお伝えしよう。
 まず香りの時点ですでに肉と小麦の香りが鼻を通り過ぎてため息として漏れ出してくる。ため息のゆえは肉への欲求。そしてパンへの欲求である。あらがうことなく囓ってみれば、まずはパンの柔らかさ。そしてスポンジ状のパンから漏れる暖かさ。
 次にしゃきりというレタスの歯ごたえとチキンの弾力。
 一回で噛み千切るにはやや力がいる。それだけ総量が分厚いのだ。だが途中で諦めれば肉だけ全部引っ張り出すことにもなりかねない。少し頑張って食いちぎる。
 するとするりと滑り込んでくる熱。熱だ。味では無い。口の中で熱を持て余し、ほふほふと、しかし口いっぱいに頬張っているせいで逃げ場がなく、パンをクッションにしてなんとかおさえる。そして、咀嚼。飲み込み。そこでやっと肉の感覚と照り焼きソースの感覚が戻ってくる。
 それらは鼻から満足感として抜け出て行くのだ。
「ハンバーガーおいしいです! ハンバーガーおいしいです!」
 つららも必死になって食べていた。
「……」
 そんなに急いで食べなくても、と思いつつ盾護はキャンプテーブルを広げ、クロスと花を飾り付けた。
 お皿や箸もきっちりと並べていく。キリエも一緒になってセッティングしているが、彼女の持ってきた銀のフォークはマイフォークである。これ大事。
「ぶどうジュースボトルで持ってきてますです!」
 キリエはそう言うと、人数分のコップにぶどうのジュースを注いでいった。
 彼女のいうブドウジュースというのはワイン用のぶどう果汁を発酵させずに冷蔵保管したもので、甘みがとんでもなく高い。あと果汁の成分がまんま入っているので放っておくと口の中がしゃばっしゃばになる。その分パンや肉が欠かせない。
 そこへ深雪が保温ポットを持ってきた。
「ボクからはね、コンソメスープだよ。あとお味噌汁」
 紙食器にスープを注いで人数分に配っていく。この辺はリクエスト制だが、パンにはコンソメ、ご飯にはお味噌汁といった具合のシンプルチョイスだ。
 ご飯はどこから出てくるのかと言えば、静護からである。具体的には静護が小脇に抱えてきた炊飯ジャーからである。
 コンセントどっから引いたんだと思ったひとは、実際に田舎を炊飯ジャーだけ持って歩いてみよう。謎が解けるぞ☆
 静護は刀にアメリカンバーベキューかってくらい大量のチキンを串刺しにすると、それらを大皿の上にあけた。刀ってそうやって使うもんじゃねえと思うかも知れないが、覚者生活を長く送っているとその辺の常識がズレてくる。覚者あるあるである。
「文鳥ちゃん、どうだ」
「おいしいです!」
 一方、つららはそういう鳴き声の生物なんじゃないかってくらいおいしいですを連呼しながらチキンとご飯を交互に頬張っていた。
 鶏肉とお米の相性を今更語るもおこがましいが、あえて語るなら丼飯である。
 まずほかほかのご飯の上に照り焼きソースのチキンが切られもせずにまんま乗っている。それだけで既に神様ありがとう状態なのだが、そこへ箸を差し込み、肉を一切れ囓る。このとき零れる肉汁と照り焼きソース、つまり醤油と砂糖がご飯の中に混じり合いながらしみていくのだ。
 口の中に鶏肉の感覚が残ったまま、そんなご飯を頬張ったならば、さらさりとなめらかな食感と共に僅かなしょっぱさ、あまさ、そして肉の重み。それらを担ぎ上げるご飯の深み。
 一通り満足した所で、お味噌汁をすする幸福である。
「こめ! うめえ!」
「うめえ!」
 悠乃とつららは日本人ありがとうとばかりにがつがつご飯をかっこんでいた。
 一方で、盾護も深雪も、そうしてお味噌汁をすすったあとでぱはーとため息をつく。
 なかなかのリラックス顔である。ミュエルは一連の様子を見て(この期に及んで)警戒していた照り焼きチキントラップ説を一旦取り下げ、ナイフとフォークでチキンを切り分ける作業に入ってみた。
 そこは普通だ。異常な弾力だとか、通常の三倍の肉汁だとか、そんな突拍子も無いことはおこらない。
 お皿の上でもにゅもにゅと切り分けられた鶏もも肉。皮の部分の柔らかさもまた普通。
 横に置かれたパンも。その反対側に置かれたブドウジュースもである。
 だがこれらが組み合わさったときどうなるか、ミュエルは知っている。
「やっぱり、炭水化物、ほしくなるよね……」
 まずはパンをひとくち千切って食べてから、チキン。
 口の中に染み渡るような、広がるような味わい。やはりいい。
 が、そこで目に付くのがブドウジュースである。米食の多い日本人にとって食事中の果物ジュースはなじみが浅いし、それがぶどうとなればかなり抵抗がある。
 が、ここでのブドウジュースは良い。
 なぜならば、口の中がパンとチキンでややこってりしている所にブドウという甘さと爽やかさのあるものが洗い流していくからだ。
 一旦リセットされる。しかし甘みだけは残っている。そんな状態でパンを口に含めば、それがより一層口の中で膨らんでいく。
 パンとジュースだけでもいけるな。そんな風に想いながら何気なくチキンを頬張れば、その存在価値に気づくだろう。ブドウジュースの存在感が口を支配している中にどっぷりと放り込まれたチキンはその脂と弾力、そして何より肉の線維一本一本からあふれ出すアミノ酸の力強さが先刻以上に際立つのだ。
 ミュエルは瞑目し、その味わいに酔った。
 そうこうしていると、誡女が沢山のお皿を持ってきた。
「ご飯やパンで満足していてはだめですよ。まだまだメニューはありますからね」
 お皿に並んでいるのはタルタルソースかけのチキンとチリソースがけのチキンである。
 既に照り焼きソースがかかっているのになぜ上乗せをと思うかもしれないが、よく考えて欲しい。醤油と砂糖という組み合わせはそれで完成形、ではない。まだ加えられる要素がある。タルタルソース、つまりクラッシュした卵とマヨネーズという、洋風親子丼みたいな組み合わせが正当なものとして存在しているのだ。
 勿論それは唐辛子とトマトという組み合わせでも成立する。この掛け合わせには、料理の写真をぱしゃぱしゃとっていた夕樹も手を止めて味わうほどの魅力があった。
 が、そこで満足しないのが誡女である。
 チキンを一口サイズに切り分け、予め刻んでゆでたタマネギとジャガイモ、そして粉チーズを耐熱皿に混ぜ込み蓋をして高温で加熱。
 開いてみれば、それはドリアである。厳密にはやや異なるが、ンな細かいことは根菜と鶏肉の組み合わせを前にすれば些細なことである。
 只管黙って食べ続けていた亮平も、これには軽く唸った。
 ちなみにドリアをイタリアっぽくするにはキュウリを入れるといいらしいが、これには入っていない。何に入っているのかといえば、ライスペーパーに包まれる水菜や刻みパプリカと一緒に入っている。当然細長く千切ったチキンと一緒にだ。ここまで来るともう照り焼きチキンの原型もないが、しゃきしゃきとした野菜ともきゅもきゅしたチキンの食感が合わさったならばもうそんなのどうでもいいよ。もっとくれよ。
 などと、テンション上がりまくりの一時間強を過ごした一同だったが、チキンとて無限ではない。やがて終わりがやってきた。
「皆、満足するまで食べた?」
 盾護が口をぬぐいながら言った。
 色々食材が加わって満腹になるっちゃあなるが、チキンに関しては満腹感は一人分である。
 顔を見合わせる一同。
 そんな中で、亮平がこほんと咳払いをした。
「俺のバーで打ち上げをするか」
「しましょう!」
 彼らは立ち上がり、ぱちんと手を合わせた。
 その後、一行は夜のバーでパスタだフライドポテトだサラダだプリンだと食の豪遊をかましたあと、クッキーをお土産に貰って帰った。普通に食べ放題ツアーだった。あと妖は消えた。
 めでたしめでたしの、ごちそうさまである。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『BCM店長』
取得者:阿久津 亮平(CL2000328)
特殊成果
なし




 
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