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<福利厚生>夏とか島とか水着とか!

●やっと来ました!
 それは何と甘美な響きだろうか。
 子供の頃は誰でも持っていて、大人になると同時に失われていく夢のようなもの。
 それは何と得難い時間だっただろうか。
 誰しもが待ち望み、訪れを喜ぶもの。
 余りに素晴らしい、輝く日々は忘れ得ぬ夏の宝物。

 ――嗚呼、夏休み。お前はどうしてそんなに愛しいのか――

「……ま、そういう訳でな。お前等をこの辺で一つ労ってやろうって訳だ」
 ブリーフィングでリベリスタを出迎えた『戦略司令室長』時村沙織 (nBNE000500)はリベリスタの顔を見回すとたっぷりの勿体を付けた後に切り出した。
「南の島で福利厚生だ。いい所だぜ、なかなか」
 彼の言うのは前々から職員の噂にのぼっていた南の島でのバカンスである。
 時村家の所有する島――プライベートビーチで過ごすバカンスは、豪華客船で行く三泊四日の旅である。
「金ってのはある所にはあるんだなぁ」
「まぁね」
 苦笑混じりのリベリスタの言葉に悪びれずに沙織は笑った。
 やる事なす事無闇にスケールが大きいのは毎度の話である。今回の場合はリベリスタ達にとっても悪い話ではないのだが。
「アーク所属のリベリスタなら参加は自由。
 リベリスタ以外も幾らかは同行するけどね。俺とか、親父とか、智親とかね」
「大丈夫なのか? アークの機能」
「まさか三千人参加する訳じゃないだろう?」
「確かに」
 三高平には多数のリベリスタが存在している。大丈夫という判断はその辺りによるものか。何れにせよこの『福利厚生』がアーク本部を挙げての一大イベントである事には疑う余地が無い。元総理の参戦は予想外と言えば予想外だが……
「何が何でも水着の審査員をしたいんだと」
 親あっての子、血は争えないという事か沙織がそう言えば納得のいく所である。
「ま、そんな訳だ。参加は強制しないし自由だから気が向いたら参加するといい」
 沙織は『南の島のしおり』なる小冊子をリベリスタに手渡してそう言った。
 冊子の表紙にはへたくそなうさぎの絵が描かれている。誰の手によるものかは明白だ。
「んじゃま、そういう訳で参加を期待してますって事で――」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年09月07日(水)21:49
 YAMIDEITEIです。
 イベントシナリオ(β)という事で夏のバカンスをお届けします。
 以下詳細。

●任務達成条件
 ・皆で仲良く夏のバカンスを楽しむ。

●客船
 時村グループの所有する超豪華客船です。
 船内にはシアター、プール、カジノにダンスホール、バー、レストランetc船旅を快適に過ごす為の総ゆる設備が完備されており死角はありません。まともにお金を払って船室を取ろうと思ったら目ン玉飛び出るような請求が来るのは言うまでも無いでしょう。
 南の島に到着するのは一日後、島に二日間滞在し、その後帰還します。
 南の島の滞在中は船室で過ごすか島でキャンプをするか自由です。
 又、相部屋一人部屋、相テント等も任意で決めてOKです。

●南の島
 非常に風光明媚な無人島。
 全周は数キロ程で船着場以外の場所には白い砂浜が広がります。
 海はまさにエメラルド・グリーン。潜れば美しい魚や珊瑚礁を見る事も出来るでしょう。
 島の中央部付近には緑豊かな森が広がっており、食べられる植物も沢山あります。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間と参加者制限数はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。
・獲得リソースは難易度Very Easy相当(Normalの獲得ベース経験値・GPの25%)です。

●備考
 このシナリオに参加に際して下記を参考にするようにして下さい。

・公式NPCは全員参加します。蝮原もこっそり居ます。
・水着コンテストについてのプレイングはかけないで下さい。(当日やります)
・多人数の為、内容を絞ったプレイングをかける事をお勧めします。
・特定の誰かと絡みたい場合は『時村沙織 (nBNE000500)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合(絡みたい場合)は参加者全員【グループ名】というタグをプレイングに用意するようにして下さい。(このタグでくくっている場合は個別のフルネームをIDつきで書く必要はありません)
・NPCを構いたい場合も同じですが、IDとフルネームは必要ありません。名前でOKです。


 以上、宜しければご参加下さいませ。
参加NPC
 


■メイン参加者 0人■
■サポート参加者 217人■
プロアデプト
歪 ぐるぐ(BNE000001)
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
デュランダル
霧島・神那(BNE000009)
ナイトクリーク
ウーニャ・タランテラ(BNE000010)
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
ホーリーメイガス
ナハト・オルクス(BNE000031)
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
デュランダル
神楽坂・斬乃(BNE000072)
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
クロスイージス
深町・由利子(BNE000103)
マグメイガス
アレクサンドル・ヴェルバ(BNE000125)
マグメイガス
アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128)
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
クロスイージス
ミルフィ・リア・ラヴィット(BNE000132)
クロスイージス
鈴懸 躑躅子(BNE000133)
デュランダル
宮部乃宮 朱子(BNE000136)
ソードミラージュ
カルナス・レインフォード(BNE000181)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
マグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
ナイトクリーク
八咫羽 とこ(BNE000306)
インヤンマスター
アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ソードミラージュ
坂本 ミカサ(BNE000314)
ソードミラージュ
ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
マグメイガス
ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
スターサジタリー
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
クロスイージス
英 正宗(BNE000423)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
プロアデプト
氷雨・那雪(BNE000463)
ソードミラージュ
天月・光(BNE000490)
マグメイガス
アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)
デュランダル
雪村・有紗(BNE000537)
インヤンマスター
雷鳥・タヴリチェスキー(BNE000552)
スターサジタリー
ウィリアム・ヘンリー・ボニー(BNE000556)
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
マグメイガス
雲野 杏(BNE000582)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
ナイトクリーク
アリシア・ガーランド(BNE000595)
ソードミラージュ
早瀬 莉那(BNE000598)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)

絢堂・霧香(BNE000618)
覇界闘士
関 喜琳(BNE000619)
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
プロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
プロアデプト
エレーナ・エドラー・シュシュニック(BNE000654)

鈴宮・慧架(BNE000666)
クロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
クロスイージス
白石 明奈(BNE000717)
インヤンマスター
依代 椿(BNE000728)
デュランダル
マリアム・アリー・ウルジュワーン(BNE000735)
プロアデプト
リスキー・ブラウン(BNE000746)
ナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
ソードミラージュ
鳳 天斗【監視】(BNE000789)
クロスイージス
春津見・小梢(BNE000805)
ナイトクリーク
マーシャ・ヘールズ(BNE000817)
デュランダル
一条・永(BNE000821)
スターサジタリー
東雲 聖(BNE000826)
ナイトクリーク
金原・文(BNE000833)
プロアデプト
星雲 亜鈴(BNE000864)
デュランダル
鯨塚 モヨタ(BNE000872)
プロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
ソードミラージュ
ツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)
デュランダル
桜小路・静(BNE000915)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)

仁科 孝平(BNE000933)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
ソードミラージュ
上沢 翔太(BNE000943)
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
ナイトクリーク
五十嵐 真独楽(BNE000967)
覇界闘士
宮藤・玲(BNE001008)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
インヤンマスター
門真 螢衣(BNE001036)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
覇界闘士
レイ・マクガイア(BNE001078)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
クロスイージス
三上 伸之(BNE001089)
プロアデプト
ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)
スターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
プロアデプト
阿野 弐升(BNE001158)
クロスイージス
中村 夢乃(BNE001189)
プロアデプト
イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)
スターサジタリー
桐月院・七海(BNE001250)
ホーリーメイガス
ニニギア・ドオレ(BNE001291)
ホーリーメイガス
枕部・悠里(BNE001293)
スターサジタリー
マリル・フロート(BNE001309)
覇界闘士
陽渡・守夜(BNE001348)
ホーリーメイガス
臼間井 美月(BNE001362)
ソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
ナイトクリーク
アルカナ・ネーティア(BNE001393)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
デュランダル
歪崎 行方(BNE001422)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
デュランダル
蘭・羽音(BNE001477)
プロアデプト
ハルカナ・ネーティア(BNE001482)
スターサジタリー
八文字・スケキヨ(BNE001515)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
クロスイージス
レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)
覇界闘士
衛守 凪沙(BNE001545)
ホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
クロスイージス
内薙・智夫(BNE001581)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ホーリーメイガス
ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)
クロスイージス
ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)
クロスイージス
ステイシィ・M・ステイシス(BNE001651)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
覇界闘士
付喪 モノマ(BNE001658)
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
クロスイージス
ステイシー・スペイシー(BNE001776)
ホーリーメイガス
アンナ・クロストン(BNE001816)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ナイトクリーク
大吟醸 鬼崩(BNE001865)
覇界闘士
龍音寺・陽子(BNE001870)
ナイトクリーク
クリス・ハーシェル(BNE001882)
インヤンマスター
東雲・まこと(BNE001895)
ソードミラージュ
蘇芳 菊之助(BNE001941)
デュランダル
緋袴 雅(BNE001966)
覇界闘士
恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)
スターサジタリー
襲・ハル(BNE001977)
ソードミラージュ
斑鳩・洋子(BNE001987)
マグメイガス
未姫・ラートリィ(BNE001993)
マグメイガス
イーゼリット・イシュター(BNE001996)
マグメイガス
アーゼルハイド・R・ウラジミア(BNE002018)
ナイトクリーク
黒部 幸成(BNE002032)
デュランダル
イーリス・イシュター(BNE002051)
クロスイージス
カイ・ル・リース(BNE002059)
ホーリーメイガス
クロリス・フーベルタ(BNE002092)
デュランダル
降魔 刃紅郎(BNE002093)
ソードミラージュ
桜田 国子(BNE002102)
覇界闘士
阿部・高和(BNE002103)
ソードミラージュ
レイライン・エレアニック(BNE002137)
デュランダル
イーシェ・ルー(BNE002142)
デュランダル
神狩・陣兵衛(BNE002153)
プロアデプト
讀鳴・凛麗(BNE002155)
ホーリーメイガス
翡翠 あひる(BNE002166)
覇界闘士
風祭 爽太郎(BNE002187)
ナイトクリーク
レン・カークランド(BNE002194)
ソードミラージュ
エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)
スターサジタリー
立花・英美(BNE002207)
ソードミラージュ
立花・花子(BNE002215)
スターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)

雑賀 木蓮(BNE002229)
ナイトクリーク
瀬川 和希(BNE002243)
プロアデプト
アルトゥール・サダルスード・ラスカリス(BNE002247)
クロスイージス
セリオ・ヴァイスハイト(BNE002266)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
ホーリーメイガス
月杜・とら(BNE002285)
ナイトクリーク
一堂 愛華(BNE002290)
ナイトクリーク
譲葉 桜(BNE002312)
クロスイージス
キャプテン・ガガーリン(BNE002315)
デュランダル
虎 牙緑(BNE002333)
スターサジタリー
坂東・仁太(BNE002354)
プロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
スターサジタリー
望月 嵐子(BNE002377)

エリス・トワイニング(BNE002382)
プロアデプト
八雲 蒼夜(BNE002384)
ホーリーメイガス
今尾 依季瑠(BNE002391)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
ホーリーメイガス
レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)
デュランダル
ジース・ホワイト(BNE002417)
ホーリーメイガス
ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
プロアデプト
ロッテ・バックハウス(BNE002454)
覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
ソードミラージュ
武蔵・吾郎(BNE002461)

劉・星龍(BNE002481)
ソードミラージュ
ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)
デュランダル
神守 零六(BNE002500)
ソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
インヤンマスター
一任 想重(BNE002516)
デュランダル
マリー・ゴールド(BNE002518)
クロスイージス
ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)
ナイトクリーク
ダグラス・スタンフォード(BNE002520)
デュランダル
真雁 光(BNE002532)
スターサジタリー
ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)
ナイトクリーク
マーガレット・カミラ・ウェルズ(BNE002553)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
ソードミラージュ
リ ザー ドマン(BNE002584)
マグメイガス
来栖 奏音(BNE002598)

ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)

小鳥遊・茉莉(BNE002647)

村上 真琴(BNE002654)

浅倉 貴志(BNE002656)

三島・五月(BNE002662)
ソードミラージュ
イセリア・イシュター(BNE002683)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
クロスイージス
ヘクス・ピヨン(BNE002689)
スターサジタリー
堂前 弓弦(BNE002725)
クリミナルスタア
古賀・源一郎(BNE002735)
クリミナルスタア
オー ク(BNE002740)
クリミナルスタア
坂本 瀬恋(BNE002749)
スターサジタリー
那須野・与市(BNE002759)
クリミナルスタア
関 狄龍(BNE002760)
ホーリーメイガス
モニカ・グラスパー(BNE002769)
覇界闘士
李 腕鍛(BNE002775)
マグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
クロスイージス
ミミ・レリエン(BNE002800)
スターサジタリー
アシュリー・アディ(BNE002834)

ジョン・ドー(BNE002836)
マグメイガス
染井 吉野(BNE002845)
ホーリーメイガス
澄芳 真理亜(BNE002863)
デュランダル
結城・宗一(BNE002873)
マグメイガス
クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)
   

●船の時間I
「全く……ヤポーネの夏は暑過ぎるんだよ!
 はいィ? 更に南へだってェ!? 一体どんな酔狂だ!」
 雷鳥の声は彼女が生まれたお国柄を考えれば余りにも納得過ぎる。
 日本人は働き過ぎる――
 最初に言われ始めたのが何時なのか最早分からない位に浸透した国民評である。
 世界中見回しても圧倒的に勤勉な人間が多いとされるこの国は実に忙しないタイムスケジュールで動いている。
 何十年前かの手痛い戦争から不死鳥の如く復活を遂げたのも偏にその国民の底力が故に、と言えるのだろうが。いい加減長く平和と発展を謳歌すれば、美しき勤勉なる美徳も感性の問題に摩り替わるモノなのだ。
 日本人はランチ・タイムに二時間をかける事もしなければ、サッカーで仕事を休む事もしない。
 否。決してそれを公然と口にして面白おかしく日々を過ごしたがるカルチョの国を真似すればいいというものではないのだが――
「うむ。三高平港に釣に行くと何故か豪華客船の中に居た。
 何を言ってるのか分からないかも知れませんが、実は私にも良く分からない」
 白く巨大な客船のデッキからぼんやりと海を眺め、そんな風に呟いたのはアラストールだった。
 潮の匂いの混ざった海風が彼女の長い髪を時折巻き上げて揺らしていた。
「……南の島ならアコウだとか美味な魚が釣れるやも。良い魚が釣れたらここのコックにでも料理して頂こう」
 気を取り直したアラストールが取り敢えず結論を食欲に落ち着けたのは当然として。
 彼女が口にした『気がついたら豪華客船の中に居た』はワーカー・ホリックと揶揄されて久しい『世間の常識』に敢然と立ち向かう、まさに『時村の矢』であった。
「ホント、金ってのはある所にはあるんすねぇ。
 福利厚生・慰安の一環なんスから、ドタバタしないでだらーっと。
 お言葉に甘えて、ウマイもん食ってデッキチェアにでも座って海眺めながらゆっくりさせて貰おうってもんすけどね」
「なんだっけ、金は寂しがりだから群れたがるとか何とか。
 まあ、常日頃からその恩恵に預かってる身としてはどうでもいいですけどねー。
 今回も、自腹じゃ一生乗れないような豪華客船に乗れるわけですし、アーク様々です」
「まさかこんなものまで持ち出すとはね……まぁ折角だし楽しませてもらおうかしら……」
 伸之、弐升、エレーナの言葉は三者三様だったが、半ば呆れが混ざっていた。
 大きい事は良い事だ、大は小を兼ねる……とは言うが、客船を借り切って旅行する機会なんてものは中々少ない――と言うより普通は無い。
「こんなに豪華な旅行なんて生まれて初めてだぜ……夏休みのラスト、めいっぱい楽しんでやる!」
「豪華客船っつっても、特にやりたい事とかねぇしなぁ……っと、あったじゃねぇか」
 愛用の携帯ゲーム機を片手に広い船内をはしゃいで回るモヨタに、丁度すれ違った真理亜が応える。
 こんな時でもゲームを手放さないのは今時の何とやらと言えるだろうか。偶然同じゲームで同じように通信対戦を望んだ二人は周囲そっちのけで熱戦を開始した。
「……いざ、考えてみると。バカンスどころか休暇というもの自体が生まれて始めてね」
 休暇とは何ぞや、バカンスとは何ぞや。ふとエナーシアが呟いた。
 仕事=趣味の美学主義者はそんな所はやけに質実剛健と必要性を感じなかったからと問われれば公言して憚らない。
「そうだ。まずは文献を紐解いて休暇時の作法を……」
 カメラを片手にはしゃいだ空気を撮って回る彼女が何を考えているかはさて置いて。
 三百六十五日年中無休の正義の味方。此の世の裏側で暗躍する神秘を打倒せし者、救いの箱舟その名はアークである。
 ……明らかに我が身を削り、滅私のもとに成り立つかような組織が三泊四日南の島で完全にサボる為の『福利厚生』を敢行したのは特筆に値するだろう。
「シトリィン伯様もいらっしゃったら良かったのに……」
「まぁ、お嬢様! お嬢様のような可憐な方にそう想われてお気に召さない方はいらっしゃいません!
 何時かお会いする機会もありますよ、きっとですよ!」
 母より何度も話を聞かされた憧れのその人は多忙なるリベリスタ界隈の重鎮である。
 柳眉を少しだけ下がらせて可愛らしい唇から残念そうな言葉を漏らしたアリスを即座にミルフィがフォローする。
 ドイツのオルクス・パラストも、バチカンの教皇庁もゾロゾロと主力を引き連れて完全なオフを決め込む事はすまい。
「お嬢様のバカンスは不肖このミルフィめが、完璧なものにしてみせますわ――!」
 ……内心ではむしろガッツポーズか。何としても(どういう意味かは知らないが)この旅行で『お嬢様との仲を進展させる』と意気込む彼女にはめらめらと炎が燃えていた。小首を傾げて「え、ええ……」と頷くアリスの方が分かっているようには見えないが。
「こんなすごい船に乗れるとか、思わなかった。いい思い出にしたいな♪」
 一杯の日差しを浴びて目を細め、大きく伸びをするのはレイチェル・スノウフィールド。
「……一生に一度あるかないか、って思ったけど来年もあるのかな?」
「なんだか圧倒されてしまいます、アークって凄い組織だったんですね」
 小首を傾げた彼女に相槌を打つのもレイチェル――レイチェル・ガーネットである。周りから白レイ、黒レイと呼ばれる事もある二人のレイチェルは客船の上部デッキから下を見下ろし、動き回る人々を眺めていた。
「あの人好みかも。あの子かわいい~」
「あちらの彼もカッコいいですね、あの子は五年後に期待かな。
 ……意外ですか? 私だって年頃の女の子ですから」
 気の早い水着の上からパーカーを羽織って品定め……もとい歓談に花を咲かせる二人は仲睦まじい。
「あたしは年上が好きだな。あ、もちろんレイも好きだよっ♪」
「……はいはい」
 抱きつくレイチェルにレイチェルが何だか微妙に照れている。
 仲が睦ましいと言えば、此方の二人も同じだった。
「折角の超豪華客船ってことだから、な」
「あひるも、一緒に行く行く!」
「オウ」と応えたフツは最初からその心算だったのか極自然な所作であひるの手を取る。
 当の彼女はと言えば一瞬「くわ!」と硬直しかかるも、それでも幾らか慣れたのか、
「……フツ、エスコートお願いしても、いいかしら……?」
 上目遣いでお願いする。二人は船内を見て回る予定で居た。
「あひる、ダンスは得意なのよ」
「おお、失敗しないようにしないとな」
 悪戯っぽい微笑が互いの間で弾ける。
 あひるの言葉はこの後の予定――ダンスホールでの一時にも掛かっていた。
 滅多にお目にかかる事のない超豪華客船の中は好奇心を満たすのにも、時間を潰すのにも最適だ。
 充実した船内設備は多種多様なニーズに応えられるだけの陣容を持っている。
「先日はどうも」
「公正な目で酔い潰れているのかどうか、審査してくれる人が必要なの。騒がしいのはお嫌いかしら?」
 目玉の飛び出る位の高級バーで浴びるように呑むのはある意味でのんべえの本懐である。
「いえ、自分で騒ぐ心算はありませんが――誰かの楽しそうな姿を見るのは嫌いではありませんよ」
 会釈したヴィンセントと飲み比べの開催を決めたエレオノーラの誘いに狩羽はたゆたうような曖昧な笑みを浮かべ事の他あっさりと首肯した。
「ここ何年かはそんなに深酒をした事は無いんだけど……」
 彩歌に言わせれば良い酒を湯水のように飲むのは勿体無い。
「なにやらバーで酒を頂くそうだな。
 アークに来てからと言うもの、よくよく思い返してみれば酒を一緒に飲めるような気の知れた友人等は居なかった訳であり……
 信頼できる同僚こそ出来はしたが……ううむ。
 動物達との触れ合いに不満があるわけでも無いので良いのだが、うむ。
 まあ。この機会に……何、友人と言う関係性を今まで要求された事が無く……ボッチとは何だ?」
「僕は常識の範囲内の酒飲みなので人外な人達にはついていけませんけどね」
「夏も終りとは言えまだまだ暑い!
 そんな時はモヒートだ! あの清涼感は素晴らしい! ふっ、私のようなカクテルだな!」
 雷慈慟、ヴィンセント、工業用エタノールのようなイセリアが笑う。
「お酒の強さにそんなに自信があるわけじゃないけれど、折角の機会だし。交流にも丁度いいかな?」
「なるほど……面白い余興だな。飲料はなんだ? 日本酒かウイスキーか……
 それともビールとかいろいろ分かれるところだが。個人的にはビルク推奨だが」
 レナーテに達哉も顔を見せている。
「……盛況なようですね。私もご相伴に預かりましょうか」
「勿論、歓迎よ。ゆっくりでもたっぷりでも」
 ふ、と息を吐き出した狩生にエレオノーラが緩い穏やかな笑みを浮かべていた。
 楽しみ方は人それぞれ、休暇も旅行も酒も――である。
「見よ、一発芸『船首像』!」
 シーツを纏い船の先端に降り立ちポーズを決めるとら然り、
「気をつけてな。落ちないようにしてくれよ……」
 そんなとらに付き合う面倒見の良いダグラス然り、
「ふむ……」
 デッキチェアに腰掛けながら紅茶のカップを片手にそんな周囲の様子を観察するアルトゥール然り、
「アーク総出での海上演習か……やり甲斐がありそうだ……」
「と、言いますかこの人……今回の事を海上演習だと思い込んでるんです……
 幾ら説明しても全然信じませんし……」
「……い、いいや、オレは間違ってない!
 これは海上演習なんだ! 皆があくまで遊ぶというのなら、オレだけでも訓練をする!」
「……は? 素振りする? 貴方本物のあほですか!?
 現実を認めなさいってば! ちょ、待ちなさい! こらー!?」
 眼光鋭く勘違い発言をぶっ飛ばす風斗然り、それを軌道修正しようと試みながらもどうも芳しくないうさぎ然り。
「高級エステで身も心もリフレッシュだよぉ~。
 ……これで若い子の血が吸えれば言うことないんだけどねぇ?」
 何処まで本気か口元から白い牙を覗かせる花子然り、
「えっと、一人で動きまわるのも寂しいですし……」
 きょろきょろと顔見知りを探して辺りをふらつく三千、
(豪華客船……南の島……それらも勿論楽しみじゃが……
 何より一番楽しみなのは……初めてので、で、でぇとなのじゃ……!)
 設楽悠里との約束、過ごす時間を思い描き不安と期待に緊張するレイライン、
「外は暑いので一日中船室内でごろごろしていますよ。
 外に出るのは必要最低限だけ、必要が無ければ一切出ません。
 あとは一日中ごろごろだらだら、だらけていますよ。
 クーラーの効いた船室とか天国じゃないですか。冷蔵庫には飲み物いっぱい入ってますし」
 全力でダラける黒ナースの悠里然りである。何に価値を見出すかはあくまでその人次第、ビーチでリア充しようと船室で漫画読んでいようと骨休めになるならそれで良いというものだ。
「よーし、(エア)彼女とバカンス楽しむぞ~!
(エア)彼女と一緒に南の島へ豪華客船で向かうわけです!
(エア)彼女と二人で、日没まで色々と言葉を交わしましょう。
(エア)彼女とタイタニックごっこです! ふんぐるい むぐるうなふ? いあ いあ はすたあ! てけりり!」
 ……えーと。
(一人、かなあ……声、掛けてもいいかなあ。あれ、でも誰かと会話して……る?)
 盛り上がる智夫と物陰から彼を見つめ、それでも言葉をかける度胸は無いアリシアである。
「てけりり!」
(だ、駄目かなぁ……うう、でもお話したいなあ……)
 ハッキリ指差して笑いたくなるようなすれ違いも、
「結構凄いなあ。あ、客室の方も見て回ろうか」
「はいっ、楽しみですねぇ」
「楽しみと言えば――」
「……?」
「愛華ちゃんの水着も楽しみかな」
 順当極まりない疾風に愛華のカップルもありである。
 時間はあくまでゆったりと流れ、何時もより緩慢な面々は思い思いに華やいだ空気を楽しんでいるのだ。
「も、も ダメです……」
 ……揺れる床に鬼崩がコケた。

●船の時間II
「スイーツ食べ放題会場はここだよね。
 七夕で祈った甲斐があるってもんだね。
 久々のアークの大盤振る舞い、この波に乗らない手は無いよ!」
 瞳には炎。その手にはケーキを突き刺した銀のフォーク。
「大丈夫、食べても太らない体質だし。最悪胸にいくと思うから問題なしだよ!」
 ウェスティアの覚悟は澱みない。
「高級な料理が食べ放題。こんな素晴らしいことはないよね、うん。
 びっくりするような金額のものがサービス全開で食べられる。それって幸せなことだよね。
 食べられない人も多い中、食べられることの幸せをかみ締めるのです。
 つまり、レストランでひたすら食べますよ、私は。又お前か、二度と来んなって言われても。ええ、食べるのです」
 最初から食べる事にしか興味の無いのは有紗。
「傷心旅行です……はぁ……とりあえず、贅沢は滅多にできませんし食べます。やけ食いです。色々食べまくります。
 お土産にタッパーにも入れてもらいます。牛飲馬食の如く、唯貪り尽くします」
 只管食べるに明け暮れるへクスに一体何があったのかは分からないが、何はともあれ船内の人気スポットの一つがレストランである。
「福利厚生の名の元に好き勝手遊べるなんて最高だわ!
 社長さんや会社(コーポ)の皆と遊べる機会なんて滅多に無いから本気出しちゃう!」
 飲み食いも自由、遊びも自由が気に入ったのか友人達と卓を囲う神那のテンションは中々高い。
「考えてみれば、こうして皆様と休息を共に出来る機会も今までにありませんでしたからね」
 大御堂重工の社長令嬢――彩花の言葉に親友のミュゼーヌが頷いた。
「こんな風にしていると実際、皆イメージが違うわね」
 僅かに微笑を含んだミュゼーヌも今日は完全なオフを決め込む私服である。
 青く美しい大海原を駆ける船の上ではやはり開放感も違うのか日頃凛とした彼女の表情も何時に無い軽やかさを覗かせていた。
「ん……おいし。お料理も絶品だわ」
 人種の坩堝であるリベリスタ達は中々細かい注文を出す事も多かったのだが、かの戦略司令室長がその辺りをぬかる筈も無く。こうした高級客船のレストランスタッフがマイノリティの好みを満たさない筈も無く。バイキング形式でロシアの郷土料理から上品なフランス料理まで、和洋中それ以外も含めた細心の心配りで参加者の胃袋を強力に満たす素晴らしい場所である事に間違いは無い。
「この料理、名前なげー!」
 とらの声が響くその一方で、
「モニカ、たまにはメイドらしく働きなさいっ!」
 普段、止め処なく自由なのだから却ってこんな時は……という事なのか。
(一応)主人から命令を受けたモニカは表情一つ変えずに「畏まりました、お嬢様」等と慇懃無礼な礼をした。
 元より彼女は変な所で律儀なメイドである。(一応)御主人様やその御友人の方々と席を共にする気は無い。彩花が(一応)主人である以上はそこに線を引くのが彼女の流儀であった。一応ね。
「お嬢様には豪華なピーマン料理を沢山持って行きましょう。我ながらメイドの鑑ですね」
 そこに他意があるのか無いのかは想像にお任せするとして、今日も今日とてモニカは実にモニカである。
「あの……大丈夫ですか?」
 そしてもう一人。大御堂重工ご一行としては今日も変わらない彼女が居る。
「相変わらず律儀な人ね」
 船窓から覗く夏の風景を眺め、紅茶を口にしながらミュゼーヌ。
 彼女が言うのは旅先に出てもやはり救護要員のような真似をしているシエルの事だった。
「う……ごめんね、私は船室に戻るから……正宗は船内施設楽しんできて?」
「ばーか、お前と一緒にいないと意味無いだろ」
 船酔いの所為か酷くしおらしい事を言う聖に正宗が容赦ないデコピンを喰らわせた。
「遊ぶのは船酔い収まったらでいい、今は寝とけ。変な心配すると、治るものも治らん」
 弱ると可愛いんだがなぁ、と内心で呟く彼に、その弱った彼女はぎゅうと抱きついて細く言うのだ。
「……私も正宗が傍にいてくれたら、やっぱ嬉しい」
 ……聞く人が聞いたら阿鼻叫喚が起きそうな位の二人の世界オーラは正宗・聖の特有か。
「……そんな訳なんで大丈夫だ。邪魔してすまない」
 苦笑い交じりに応える正宗にシエルも察して「お大事に」と船酔いの薬だけを渡した。
 船旅の後に彼が――弱っていたら可愛い彼女にめたくそに振り回されて壮絶に疲労する事になるのは今は必要ない余談である。

 楽しみの多い船内で賑わっているのはレストランばかりでは無い。
 日頃直接付き合う機会の少ない仲間との時間はやはり得難いという事なのだろう。
「済まぬ。蝮の時は屋敷へ駆けつけられなんだ」
「いや、こうして無事なのも皆のお陰という訳よ」
 談笑をする鬼子と貴樹の元に偶に二人が訪れた。
「何時かお伺いせねばならないと思っておりました。
 私、神秘探求同盟のイスカリオテ・ディ・カリオストロと申します。以後お見知り置きを」
「一条永でございます。時村司令、お茶をご一緒させていただきたいのですが、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
 その盆にお茶を載せた永に小さく会釈の仕草をして、生来のものか剣呑な雰囲気を漂わせるイスカリオテに向き直る。
「何を語りたい訳でもなく、何を伺いたい訳でもなく。
 ただ、興味が湧いたのでございます。史上最年少で総理大臣の座に上り詰め、また、アークの設立に尽力した傑物はどんなお方なのかと」
「老人で済む用ならば幾らでも付き合うとも」
 永の言葉に応えた貴樹の一言は鋭敏にして賢明なイスカリオテの出鼻を幾らか挫いた。
 彼が思い描いた問いはこの場に相応しいものとは言えない。老人はそれを察して牽制を投げたのだ。
「言葉遊びは嫌いではありませんよ、御老人。確かに夏の青空の下、歪夜に昇る黒陽は無粋、過ぎますか」
「あら。神父サマ、悪いカオ。くすくす、やっぱり、神父サマって面白い」
 気付けば顔を出していたイーゼリットが含み笑う。

 歓談の輪は幾つも出来ている。
「さて。記事にするネタは尽きないだろうから、お仕事がんばりますかね。
 えっと、特集『南の島バカンス~アークの福利厚生に迫る~』とかか?
 記事のメインはアークの誇るクールビューティーにお願いする事にしましょうか」
「はあ……私ですか」
 一応それらしく体裁を整え取材の風を取ったリスキーに玲香が生返事を返している。
 どうしてそうなったかは知らないが結論としてそうなった『玲香さん親衛隊』は三名を数えている。
「口八丁手八丁で丸め込むんで、取り敢えずドレス着てくれ。後、海ではビキニでも」
 悪乗りの発起人は皆のメンナクさん・手も足も速いぞ、司馬鷲祐。
「面白そうな事をやってるって聞いてね。
 俺が役に立てるのは似合いそうな水着やドレスを選ぶ位だけれど――」
 些か二人とは距離を置いて、ある意味で意外な参戦となったのはミカサである。
 何やら色々と考えていそうな彼なのだが、実は面白ければ何でもいい――程度なのかも知れない。
 しかし、先鋭的なスタイリッシュさを身に纏う彼のファッションチェック的には、
「うーん、バカンスだし、少しはハメを外さないとね。折角美人でグラマーなのに勿体無いよ」
 普段着と殆ど変わらない玲香の衣装は不満足だったらしい。
「ドレスならショート丈の白いシフォンドレスが良い。眩しい白は鮮烈な印象を与えると思うよ。
 衣装はきっと借りられる筈だし、いいのを見に行こうか――」
『ホスト並に世話を焼く』彼の馬力はこの場では中々大したものである。

「少しだけでもお話出来れば……と思いまして……」
 持ち前の孤独癖を発揮して一人静かに、遠い水平線を見つめていた霧也に声を掛けたのはカルナだった。
「本部で御見掛けした程度なので……すみません」
「ん?」と視線を向けた霧也にカルナは罰が悪そうに小さく頭を下げた。
 彼女が霧也に声を掛けたのには明確な理由が無い。
 言ってしまえば――直感。唯、気になってしまって……話しかけたくなってしまっただけ。
「いや、別に構わない。座るか?」
 傍らの椅子を引いて霧也はカルナの顔を見た。
 感情の表に出難い彼が何を考えているかは彼女にも分からなかったが――少なくとも邪魔にはされなかった事に安堵する。
「はい。その……ありがとうございます」
 カルナは微笑を浮かべて不器用な少年の顔を見た。
「俺を構うなんて変なヤツだな、お前」
「そんな事……」
 カルナは少し胸が一杯になった。
(他意はございません。ございませんってば)

 この機会を生かしているのは彼等ばかりでは無い。
「先日ぶりじゃのぅ、お嬢。壮健そうで何よりじゃ」
 笑みを浮かべたゼルマが何時に無く気安くデッキで一時を過ごす一団に声を掛けた。
「ようやくあの時のお礼が言えるね。助けに行ったはずが、雪花さんに助けられた。ありがとう。
 それから改めて――ようこそアークへ」
 快が口にしたのは運命と運命を交わらせたあの熱い砂の物語である。
「ああ、皆さん!」
「暇だな、お前等も。まぁ、お嬢も喜ぶか」
 雪花の表情が華やぐ。傍らの咬兵も面々には幾らか気心が知れているのか迎える言葉は皮肉っぽくも如才ない。
 今回の福利厚生に敢えて招待された仁蝮組の面々を訪ねたのは二人に加え、夏栖斗、朱子、マリーといった事件に関わりのあった面々だった。
「……あの時は庇いきれなくてごめんね。……痛かったでしょ。
 えっと…あの時は悪を全部滅ぼすとか……かなり物騒な事を言った、けど……別に仁蝮組の事を言ったわけじゃ……ないし……」
 混乱の中では中々その機会も無かったが、どうしても言っておきたかった事だったのか朱子はやり難そうにしながらも雪花を見ながらそんな風に呟いた。一方の雪花はそんな朱子をにこにこと笑ったまま見ている。
「私は、雪花さんが嫌いなわけじゃなくて……
 できれば……その、……そう。そういうの抜きで、普通に友達になりたいなって思うんだけど……」
「ええ、勿論!」
 言葉の終わりまで待たないでしっかと手を取る雪花に朱子は驚いた顔をする。
「……俺みたいな捻くれじゃあるまいし。お前、まだ『友達』じゃねぇ心算だったのか。
 ……何時も『お友達』の事を聞かされる俺の身にもなって欲しいと思うんだがな」
 やれやれと言わんばかりの咬兵に朱子は「う……」と短く唸る。
 彼は彼で言葉程それを嫌がっている訳では無いだろう。どちらかと言えば罰の悪い雰囲気を笑い飛ばしてやろう、といった風かも知れない。
「ほら、マリーも……」
「ム……」
 背中を押す快にマリーはぶっきらぼうな調子で口を開く。
「助けてもらった借りは、その内返す」
 それしか言えない少女がそんな事を言う。
「これからはヌシも共に戦う仲間よ。何ぞあれば気兼ねなく言うが良い。妾らもヌシに頼らせて貰うぞ」
 そんな少女の不器用さをゼルマがくつくつと笑っている。
 その場を通りがかった虎鐵、陣兵衛、天斗がこの集まりに顔を出した。
「おー、咬兵居たでござる! どうでござるか? 一杯」
「またお前かよ」
「そう言うなでござる。拙者、雷音の自主性を尊重するでござるよ。雷音が(女)友達と遊びたいというのだからここはぐっと我慢でござる」
 要するに娘にふられて寂しいから付き合って欲しいという事である。
「うむ。このような場は苦手と思ったが、相良のお嬢様の御付ならば、な。
 それはそうと、御付に御守も十分じゃろう。折角じゃから儂と一杯付き合ってはどうじゃ?」
 バーに置いてある酒は酒飲み垂涎の一級品揃いである。
 口の端を歪めた陣兵衛は咬兵(さけのみ)の好みを良く知っていた。
「鳳 天斗だ。俺にも付き合って貰おうか。聞きたい話があるんでな――」
 咬兵は溜息を一つ吐き出して雪花と面々の顔を見回しそれから「仕方ねぇ」と苦笑いする。
「良かったら、これから一緒に遊びませんか――?」
 雪花の声に面々は顔を見合わせる。
「咬兵さんばかり、ずるいじゃないですか」
 言葉は少女らしい瑞々しさに満ちていた。

 船内の施設で人気を博しているもう一つの場所がカジノだった。
 何だかんだと言いながらこういう場所はやはり格別に射幸心を煽るものである。
「掛け金、いくらからOKなんだっけ?」
 ブラックジャックで一勝負――仲間内で話を纏めてこの場所にやって来たのは翔太、ツァイン、影継、七海等である。
 負けた人間がこの後のバーで奢る事になっているのだから勝負には自ずと熱が入る。
(狙いは18辺りでしょうか――)
 21を目指すブラックジャックで十八を狙う所に七海の性格が現れていると言えるだろうか。
 とは言え翔太も、
(意外とチキンだって? ほっとけよ!)
 16を越えたら引く気は無い――ツァインも。同じく大きな勝負をしないで上手くやり過ごそうとしている辺り考える事は似たり寄ったりといった所か。
 そんな中で三人とは一線を画す男がシャドーブレイダーこと斜堂影継その人である。
 何処からどう見ても十代中盤には見えないその風格。某庭球漫画も真っ青な少年は日頃手にする鉄槌に恥じず今日も一発ギガクラッシュだった。
 とは言え、影継はカードを弄びながらも専らその場に居た鉄平の方を弄っている。
「八月二十八日は福利厚生初日ですが、それだけではありません。この日は焔藤鉄平の誕生日です。焔藤鉄平の誕生日です」
 大事な事なので二回言いました。
「ハッピーバースデー! おめでとう! 梅桃に出番取られたけどな!
 所詮、男は告知だけ……けど、それでいいじゃねぇか。縁の下の力持ちが居てこそだぜ」
「影継ぅ」と声を漏らす鉄平の肩をバンバンと叩きながら影継はフォローだか何だか分からない事をする。
 正直を言えばこの俺すら忘れていた焔藤鉄平の誕生日。気付いた彼はとても優しい。
 カジノで楽しんでいる顔は彼等ばかりでは無い。
「ん? なんじゃ、トランプかぇ? わし、運からっきしじゃし……やっても負けるだけな気がするがの……
 えっと、21に近づければいいんかぇ?
 ……の、のぉ。スペードのAが2枚来たんじゃが大丈夫かの? そ、そう言うゲームなのかぇ? え? 確率があがるのかえ?
 よぉわからんが……勝てる可能性があがるならやるのじゃ……スペードのジャックが2枚……ど、どうしたんじゃ?な、泣くでない。よくわからんが泣くでない。わしすごく困るのじゃが……!」
 見事なまでのビギナーズラックで場を荒らすのは与市である。
「私のワンペアは……二度刺す……っ!」
「でもツーペアには勝てない」
「ぎゃー!」
 あまりと言えばあんまりな現実主義に打ちのめされた神那が叫び声を上げている。
「狂気の沙汰ほど面白い、なんてのはフィクションだからです。堅実に、勝てる時に勝てばいいんですよ」
 弐升の言葉は実に正鵠を射抜いている。
「命を賭けないギャンブルも久方ぶり、ってね」
 何処と無くハードボイルドに呟いて鉄火場での時間を手慣れた風に過ごすのはウィリアム。
「カジノって、セイソウしてかなきゃいけないんだよねっ」
 何を勘違いしてか三高平学園付属中学校の制服でこの場に現れたのは文である。
「わぁ、ルーレットだぁ。わたしこれなら知ってる! えーとえーと、じゃあ、赤にチップを一枚!」
 その賭け方が清水の舞台から飛び降りた心算でもチップ二枚なのは――文という少女の御愛嬌。
「ご覧下さい。ここがカジノです。ルーレットをやっている方がいますわね。唄う放送局の取材です。調子はどうですの?」
「はーい、ボクもリポーターとして積極的に取材しまくるよ♪ そこんとこどうですか♪」
「え、あ、は、はいっ!?」
 未姫、陽子にカメラを構えた雅――『唄う放送局』がピンポイントで取材等すれば尚の事、混乱するばかりである。
「二人共おんなじ額を賭けて5回勝負、獲得額が多かったほうが勝ちぜよ」
「負けたら勝った方の言う事一つ聞く……忘れんなよ♪」
 仁太と吾郎は良くあると言えば良くある勝負に出たようだ。
「流石ギャンブラー、乗ってきたな、こいつは楽しみだ♪」
 仁太は堅く、吾郎は一点買いである。
「負けたらメシの奢りか、何でも食え食え!
勝ったら仁太に何させるって? それは秘密だ♪」
「負けたら……え? ちょ……アッー!」
 ……? (´・ω・`)
 ルーレットと言えばもう一人。
「……オッドです」
 最初は気楽に――
「ルージュの9です……さぁ、わたしの豪運に平伏しなさい!」
 ――テンションが上がれば俄然強気に。日頃のクールさも何処へやら、螢衣の今日は好調であった。
(……これならば、後でシャークさんを誘っても上手くいくでしょう)
 それはそれ、これはこれ。しかしあれもこれ。
「これ、記念にプレゼントな」
「わあ、嬉しい!」
 碌に勝てないカジノ遊びも二人には関係無いのだろう。
 記念にチップを一枚貰ったフツがそれをあひるに手渡して笑っている。

 船旅とは元々時間を潤沢に使う――ある意味至上の贅沢である。
 本番の南の島に到着するまででも幾らでもドラマの種になりそうな状況は訪れるものだ。
「NO SMOKING! どこも禁煙、禁煙ってね……」
 溜息半分諦め半分にデッキに出てきたアシュリーの目に同じように紫煙をくゆらせる沙織の姿が飛び込んできた。
「室長は気を抜きすぎなんです。どれだけ大事な方か分かって……」
 それから、その彼に張り付くようにしながら可愛らしい唇を尖らせる恵梨香の姿も。
「変な話ね。主催者が追われる口なのは」
「良くある事さ。大人は我慢するもんだ」
 短い軽口にハトの鳴くような笑い声。「成る程」と頷いたアシュリーは彼にならって一服する。
「彼女は?」
「ボディーガード」
 頭に手を置きわしわしと髪を乱す沙織を恵梨香が恨めしそうに見上げた。
 その態度程にどうも嫌がっている節も無いのは気のせいなのか何なのか。
「それにね」
「……?」
「開放的な場所に出た方がバカンスの格好はつく」
 言葉は恐らく理解を求めてのものではないのだろう。やや独白めいた沙織にアシュリーは小さく首を傾げた。
「気分かそれとも運命の量――そういう問題かしら?」
 代わって彼に言葉を投げたのは『運命狂』の名に相応しく謎めいた氷璃だった。
「相変わらず涼しそうだな。お前は。楽しめてる?」
「お陰様で。何もしない贅沢を堪能しているわ」
 黒い日傘を差した氷璃の肌は抜けるように白い。こんな時の軽装で無ければ――それを目にする機会もあるまいが。
「とても魅力的な催しだけど、この国の人達は本当に忙しないのね。たった三泊四日でバカンスだなんて。
 ああ、それで……謎かけの答えは?」
「ご名答。有史以来幾多の実例が証明する通り、夏の海には魔力があるのさ」
「成る程。そういう意味ね……」
 沙織の言葉にアシュリーは合点した。
 要するに遊び人が言いたいのは出会いと確率の問題であるらしい。
「それじゃあ、沙織。私、退屈しているのだけれど……?」
 彼の言う夏の海の一般論はこの場でも少なからぬ効果があったらしく続いた氷璃の言葉は少し予想外のものになった。
「自惚れた方が良い所? それとも、額面通りに受け取った方が?」
「どう取ってくれても構わないわ。エスコートして頂戴」
「じゃあ、自惚れておこうかな」
 気まぐれな一服が別の時間に摩り替わったらしい。ハッキリ言えばバカンスに来てまで働く気の無い沙織である。
 氷璃の気まぐれな要求は渡りに船だったらしく二つ返事で承諾を返す。
「まったく……」
 三高平市だろうと南の島へ向かう船内だろうとまるで変わらない上司の態度に恵梨香の柳眉が顰められた。
「そうだな。どう取ってくれても構わない、を自惚れて頂戴にすれば俺の勝ち?」
「余り思わせ振りな事を言うと本気にするわよ? ふふっ」
 どうあれ、人を食ったような男と、見た目程は青くない『少女』のやり取りは瀟洒である。
 彼の言う勝敗がどうなるか、気を揉む少女が、からかいからかわれを楽しむ『少女』がどうなるかはまぁ――別のお話。

●島の時間I
「南の島! 白い砂浜!
 思う存分遊ぶぜー! はしゃぐぜー! ヒャッホーイ!」
 力一杯搾り出した明奈の声はピーカン日和に負けない位に晴れ渡る。
「いいか皆ワタシについてこーい!
 こいつが、夏の、海の、楽しみ方って奴だああああ!
 うおおおおおおおおおおおおおお!」
 嗚呼、見上げれば青い空、白い雲。目前には青い海、そして砂浜――それから叫ぶミサイルさん。
「うは、きれいな海! さっそく泳ぐぜ!」
「うおー、海だー! 飛び込めー!」
 モヨタに斬乃。ざっぱんざっぱんと水飛沫が立つ。斬乃のおっきな、おっきな、おっきな、おっきなおっぱいが揺れている。
「どうしてそこまで強調するの!?」
 赤と白のストライプが入った新しいビキニは彼女のテリブルなツインキャノンを実に見事に演出している。
「おお……」
「夏じゃ! 海じゃ! 水着じゃ! さて、眼福に与るとするかのぅ♪」
「うお、すげぇ! やった、来て良かった!」
 オープニング一発目として見惚れる守夜、楽しそうな瑠琵、その網膜に光景を焼き付けた和希、
「ふ、砂浜。波は静か。偉大な自然の秩序を感じる。そうまるで厳しい徴兵制のイタリア軍のような……」
 よう分からん論評を述べるツヴァイフロント等に素晴らしい好評を博している。
 長いようで短い船旅を終えたアーク一行は漸く南の島へと到着していた。
 島で過ごす時間――海遊びは今回のイベントのメインであるとも言える。
「お嬢様、ご覧下さいまし、綺麗な碧い海ですわ♪」
「わぁ……!」
 ミルフィとアリス、
「ワンダフルな島だ。ここはきっと良い宇宙への橋頭堡となるだろう」
 孤島を愛する宇宙親父・ガガーリン、
「そうだな、南の島というのは開放的になるものだ。
 皆が好き放題、骨休めの名目の元欲望を丸出しにする時だ。
 ならば俺もそれに従っても良いだろう?」
 お前が何時自由で無かった事があった――聞きたくなるようなアーゼルハイド(釣り竿装備)も楽しそう。
「山で育ってきたので……海を見るのは初めてです。
 話には聞いていましたけど、凄い……です、ね。見た事が無い物ばかりです」
 海を目にしたミミの言葉には感動さえ篭っている。
「ひゃっほーい! 海だぜ海!
 そんなわけで今回は愛しのプラムちゃんの水着姿をゲットだ!」
「おのれ、不埒な! プラム嬢の水着は俺が守るッ!」
「あらあらまあまあ」←桃
「もっとやれなのだわ!」←梅
「流石プラムちゃん! ビーチで一番輝いてるね、記念に写真を撮らせてよ!」
「不埒な輩は成敗しなければならないッ!」
 ……早速本懐へ一直線するカルナスと些か血の気の多すぎる梅桃付き人(自称)セリオの死闘はほっといて。
「エインズワーズのお二人は姉妹仲が良くてうらやましいのだ。
 ボクはちょっと兄がとられたようで寂しく思っているのだ」
「三高平一の最強ビスハ(ねずみ限定)のマリルなのですぅ。覚悟するといいのですぅ!」
 死闘にエールを送る梅桃に言葉をかけた雷音の背後からマリル(笑)が桃子を挑発するようなシャドー・ボクシングを展開する。
「あ、あたしは別に桃子なんか――」
「――大好きですよね?」
「……うん。だいすき……」
 こめかみをぐりぐりとやられ「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ……!」と声を上げるマリルの様を見て蒼褪めた梅子はコクコクと頷いた。
「うん、私は桃子さん以外の金髪少女を探す事にしましょう」
 酷い光景に己が信念を確信したナハトさんである。
「ハシャぎ過ぎて倒れる子とかいそうだったからついてきたけど、なんというか予想通り仕事ありそうね。
 日陰準備、救急セット、氷沢山、ついでにかき氷器とシロップ。よし救護準備万端。
 但し私テントから出ないから要救護者はこっちまで運んできてねー」
 やる気があるんだか無いんだかあるんだか。
 今日も今日とて委員長然とした(但し大分やる気が無い)アンナが拡声器で声を張る。

 全く一も二も無く飛び出した人間は少なくは無く、砂浜には既に多くのリベリスタ達の姿があった。
 その中には当然と言えば当然か、男女の組み合わせもある。
「……まあ何だ。絢堂も結構大胆な水着着るんだな?
 あまりこういうのは慣れなくてな……なんだ、その……似合ってるぞ、うん」
 霧香から少し視線を逸らしてそっぽを向いて気恥ずかしそうに言うのは宗一。
「あ、あたしは脚が鷲だから……その……カナヅチで……」
「羽音! ちょっと沖までいこーぜ! 俺に任せな!
 だって、こんな人の多いところじゃイチャイチャできないだろ?
 リア撲とか蔓延ってる中でとか、あぶねーじゃんし!」
 デリカシーの残念な声に目をやれば腰の引けた羽音を俊介が何時もの強引さで誘っている。
「引っ張ってってくれる?」
「おう!」
 上目遣いに応える俊介もここぞとばかりに胸を張る。
「じゃ、行く……♪」
 大好きな人と一緒に過ごす南の島のバカンス……
 少女にとってこれはやはりかけがえが無い。
 他愛も無いお喋りも、じゃれ合いも、全部特別。

 ――ん、しょっぱい? 俊介、海の味がする……

 不意打ちのキスは沖に出てから。

「葛木! 俺と戦え!」
「あばよ、ほむっつぁ~ん!」
 名物カップルの甘いやり取りの一方で騒がしい連中は騒がしい。
 仲が良いのか悪いのか砂浜では猛を優希が追い掛け回し、
「まこにゃんと旅行……今ならあんな事やこんな事を……いいえ、まだ早いわ!」
「……?」
「何でもないのよ、まこにゃん。ただまこにゃんが好き過ぎるだけ!」
「えへへ、仕方ないなぁ、きっちり杏の面倒見てあげるね」
 微妙に噛み合わないようなそうでもないような杏と真独楽が何時もの通りにじゃれている。
「海だー。海なの」
 二つの人格も完全一致。浮き輪をつけたとこが海へと向かい、
「テトラちゃん、一緒にお魚を獲りに行かない?」
「おーけーなのだー! 魚をいっぱいとるのだ!」
「む、魚! 食す魚ですか!」
 潜れば幾らでも魚が居る――そんな海なのだから嵐子の誘いにテトラは是非も無く拳を突き上げた。騎士子さんも反応した。

 酷い光景は相変わらず今日も酷い。
「もっと虐めてくださいませ! ぶひいいい!
 海に放り込まれても砂に埋められてもオールオッケーでございます!」
「ほほう。ご主人様募集中とな。クククク……ゲェーハッハッハー!」
 ハムの方のモニカさんとその御主人様候補(?)の狄龍が戯れている。
「よろしい、ならば調教だ!
 壱、戦慄! 凍結放置!
 体感温度を下げた上で放置してやるぜー!
 ちべたい飲み物攻勢で腹を壊すがいいわー!
 ついでに俺の分も持ってきたぜー!
 弐、恐怖! 灼熱放置!
 日に肌を焼かせながら放置してやるぜー!
 あとで皮が剥けまくって面白くなるがいいわー!
 オイルはあるけど敢えて放置だぜー!
 参、鉄板! 熱砂放置!
 〆は砂浜に全身を埋めて放置してやるぜー!
 面白い形に砂山を作ってほのぼのとした笑いを取るがいいわー!」
「ああ、その容赦無さが素敵ですぅっ!」
 ……お幸せに。
「フォーチュナへの労いは必要だよね!
 ひたすら構い倒すぜ! ぺろぺろ!
 泳ぎたい? いいよ! 一緒に泳ごう!
 スイカ割りたい? いいよ! 用意するよ!
 休みたい? いいよ! パラソルにシート用意するよ!?
 日焼けイヤ? いいよ! オイルとか日焼け止めとか塗るよ!
 お腹すいた? いいよ! ラーメン、ヤキソバ、カレーにチャーハン! 好きなの作るよ!
 水着が無いって? いいよ! 俺がイヴたん用の水着用意したよ!」
「竜一、怖い……」
 何処までも激しいテンションで付きまとう竜一にイヴがドン引きしたような表情を浮かべている。
「お兄ちゃんってば。お兄ちゃんってば。お兄ちゃんってば」
 そんな兄に射殺さんばかりの視線を注いでいるのは言わずと知れた虎美である。
「……うん。お仕置きはたっぷりと、だね」
 尚怖いその呟きがイヴに夢中な竜一に届いていないのは幸せなのか不幸せなのか。
「依頼では何時もお世話になってます、ささやかですがどうぞ召し上がっていって下さいね」
「戦うばかりでなく、偶には穏かな時を過ごすのも良いものですからね」
「……ん!」
「お腹空いたら『あかつき』さんでロコモコいただこうかな」
 浜辺に珈琲館『あかつき』の出張バージョン――要するに海の家を出したカイ、手伝いの凛麗の言葉に応えてイヴはとてとてと走り出す。
 時間も丁度良いから此方は早速好評でクロリスも小さな鼻を可愛く鳴らす。
「ああ、イヴたんっ! でも水着の上からエプロンって何かいいなあ!」
「お兄ちゃん……」
「と、虎美……!?」
 えーと、こいつ等からはカメラを切って。

「『VTS』の試用の時には冬の海で溺れてしまったからねえ。
 まるで僕が泳げないかのような誤解を防ぐ意味も含めて……夏の海を満喫しようじゃないか!」
 駆け出した美月がヒトデを踏んですっ転げ、
「ギャー!? ガベバ!? ガバボガババ……!」
 海面にダイヴしたかと思えば綺麗に引き潮に流されていく。
「おお、部長!」
「ゲホガホッ、あ、有難う白石部員、助かっギャー!?」
 偶然、明奈がこれを助けるがすぐさま海へ放り込む。
「習うより、慣れろ! あの地平線の向こうまでレッツスイム!」
 えーと、こいつ等からもカメラを切って。
「海ー! 正宗、タコー! うるわああああ!」
「馬鹿か、お前は!」
 ……えーと。

 兎に角、島に降り立ったリベリスタ達はおもいおもいに自由で楽しい時間を過ごし始めていた。
「どこか騒がしい気がするのは気のせいか?」
 サメのビーストハーフのまことである。背びれだけ出して泳いでいて自覚が無いのは大概酷い。
「大丈夫。怖くないよ……ほら、おいで」
 波打ち際で躊躇う吉野にジースが優しく呼びかけた。
 抱きしめれば折れてしまいそうな程――繊細な彼女の身体をそっと抱き上げ、彼は海へと入った。
「海の色も空の色もすっげぇ綺麗だろう?」
 長い睫を伏せて少し怖々と、しかし興味津々といった風に海を知る吉野にジースは優しく微笑みかける。
「すごい。海ってすごい……」
 吉野の瞳がきらきらと輝いていた。
「海と水はちがう? なにがちがう?
 変なにおいもする。何のにおい?
 不思議がいっぱいある。どれもこれも不思議で、どれもこれも楽しそう。
 吉野の目には、この世界がぜんぶとっても、とーっても、きれいに見える……
 ありがとうジース。ジースの見せてくれる世界は、とってもきれい――」

 美しい珊瑚礁が、色とりどりの魚達が掴める位の距離に居た。
(うーみー……じゃ……)
 炎の魔術師が海に潜っている。
 アレクサンドルがマリアムと共に潜っている。
 何たって夏。海。大手を振って歩ける幸せ。後ろ指も指されないし襲われないし、独りじゃない。
 何より――大事に思う女もいる。
 得難い時間に彼の尊大な空気は少しだけ薄れていた。安堵と安らぎに薄れていた。
(……ときどきヘンテコなこと言ったりすっごくエラそうだけれど……まぁ、良い子よね。
 サーシャちゃん、ときどき犬っぽいし。ちょっぴり可愛いと思う時もあるわね)
 傍らを共に行くアレクサンドルをちらりと見てマリアムは内心だけで小さく笑った。
 特別な誰かと過ごす時間はどうしたって特別である。
 それが恋人であろうと、大事な友達であろうとも。
 しかし、マリアムは思うのだ。アレクサンドルの視線の中に『特別』を感じる程に。
 彼の気持ちが――彼女の想像している通りだとしたならば考えざるを得ないのだ。
(サーシャちゃんは私に好意を持ってくれている。
 ……私の思い上がりかもしれないけれど、もしそれが事実だとするなら……
 私はその好意を受け取ってあげる事が出来るのかしら?
 今でも愛している人が居る。もう二度と会えないと知っていても、それでも愛している人が居る。
 そんな私が、サーシャちゃんの気持ちに応えてあげる事が出来るのかしら――)
 揺れる想いが波間に揺れる。ゆらゆら揺れてぼやけて滲む。

 ――海に潜ろ。ハイテレパスで海の中でもお話できるよ――

『あざちゃんと一緒に海の探検! 何かお宝見つからないかなー?』
『ふふ』
 ぐるぐの誘いに応じた糾華は圧倒的に澄み渡る水の中を彼女と二人で眺め回していた。
『あ、みてあざちゃんあの魚あざちゃんっぽい!』
『うん、あの魚綺麗だけれど、私の方がもっと可愛いわ!』
『うん!』
 ぐるぐは笑顔。糾華も笑顔。
 手を繋いで海の中を魚のようにふわふわひらひら。蝶のように海を泳いで遊んで……
(……一緒のこの時間の方が宝物かもしれないわね)
 糾華はそこまで考えて、顔をぱっと赤らめた。
『あ、今の、心読んじゃダメよ? 絶対にダメよ?』
 水中遊泳を楽しむのは桐と光も同じである。
(うーん、綺麗ですね)
(うん、来て良かったね!)
 会話は出来ずとも雰囲気で分かり合う、それはほとんど以心伝心。
 少し本格的にシュノーケリングの装備を身につけた二人は海中の散歩を楽しんでいる。

 一方沖合い、その面々の頭上――水上では。
「寝ちゃってる……」
 膨らませたゴムのイルカに跨ってボートを覗き込めばそこには気持ちの良い風につい眠り込んでしまった爽太郎の姿。
 彼の巨体を十分カバーする大きなボートをじぃと眺めたアリステアは暫し考えた結果、
「とつげーき!」
 あろう事か彼の腹の上にジャンプして飛び込んだ。
「がふっ!?」
 その身体、鍛えに鍛えたレスラーでも寝込みの襲撃はかなり効く。
「こらこらアリステア、沈む沈むって!」
 賢明にも比較的素早く状況を把握した爽太郎だったが、じゃれるアリステアは構わない。
 絵面的にかなり危険な有様だが構わない。この幼女、何はなくとも年上好き。
「南の島とかウキウキなのダ!」
 嗚呼。バナナボートからカイ・ル・リースがしぽーんッと吹っ飛んでいき、
「うほっ、九条、久しぶりだな。良かったのかい? ホイホイ水の上までやってきて。俺は水上歩行で船に追いついた男なんだぜ♂」
「良くねぇから逃げてんだろうが!」
 水の上を走る阿部さんから九条がジェットスキーで逃げ回っている。

 浜辺では――
「でっかい砂の城……いや、要塞を作るぞ! おりゃああああっっ!」
 気合抜群に砂をかき集めるラヴィアンを他所に、
「キーボードの洋子さん、ギターの国子さんと三人で、バンドやります! いえーい、わたしヴォーカル!」
 開催前の水着コンテスト用特設ステージで舞姫がマイクを片手に叫んでいる。
「ちょっと恥ずかしいですけどがんばります~」
「作曲は私、作詞は姫ちん。曲は『渚のラブ☆ガールズ』沙織さんの力でCD化して下さい!」
 衣装はコンテスト用の水着をそのまま流用。
 少しだけ気恥ずかしそうに気合を入れた洋子に続いて冗談を言った国子に、眺めていた沙織がぐっと親指を立てる。
「冗談です、公開処刑はやめて下さい」
「デストローーーーーーーーーーイッッ!!!」
 開放的な夏のバカンスにエア彼氏の悲しみを歌う舞姫がシャウトしている。
 最早モップでキュートが何処へやら、地獄の釜の蓋が開く。デスメタル的意味で。
「うーん、楽しそうね。私も混ぜて貰おうかしら」
 アイドルの卵の血が騒ぐのか何故だかハルが釣れていた。

 浜辺の定番と言えばビーチバレー等、鉄板だ。その辺はリベリスタでも変わらないらしい。
「ビーチボール……? なのかしら。これ……」
 ……由利子が些か自信なさそうに小首を傾げている。
 何せ『浜辺競技』に戯れるこの一団の有様と来たら……
「滾れ太陽! 吹けよ熱砂! ……謎の覆面美威致慕宇羅(ビーチボウラー)推参!」
 覆面と黒スーツで夏の太陽に喧嘩を売る怪しいの――喜平とか、
「美威致刃麗に美威血符羅愚、誰が相手であろうとあらゆる忍術・スキルを駆使して勝利を目指すで御座る……!」
 何か真夏の太陽の下、露骨な違和感を感じるグラサンニンジャ――幸成とか、
「我が降魔家に伝わる、スキル使用可の無差別複合競技……
 美威致刃麗(びいちばれえ)、美威血符羅愚(びいちふらっぐ)の開催をここに宣言しようではないか!」
 まず、主催者の王様――刃紅郎とか。何とも言えぬ『アレ』な雰囲気が漂っているのは間違いが無い。
「わたしに勝とうとは、どえらいご身分なのですぅ!
 王様が相手でも手加減はしませぇん! 行きまぁす! プリンセス・スマァァッシュ!」
「おお、良くぞ吠えた。掟破りの先制攻撃よ、面白い!」
 刃紅郎を一撃するロッテやら、
「えーい、必殺ジャステイスシュート!(不殺)」
「何の! 奥義『天空大瀑布』!!」←飛行による高度十メートルからの何とかかんとか。
 意外と順応性の高い由利子さんやら、クリスやら。砂浜の戦いは怪異な盛り上がりを見せていた。

 一方で似たような……似てないような時間を楽しむのは『境界最終防衛機構-Borderline-』の面々である。
「暇だろ、付き合えよ。ビーチバレーしようぜ」
「……俺の伝説に新たなページを加えたいって?」
「……フォーチュナはデスクワークだし、たまには太陽の下で体を動かすといい」
「フフ、失神するなよ。子猫ちゃん達」
 アウラールの誘いに南国にテンションが更におかしくなった伸暁が応える。
 此方は名前は平和なビーチバレーである。
「修行と戦いに明け暮れる我が青春。じゃが、やはりこーゆー日が在ってもよい筈じゃ! 若いんじゃから!」
 想重の言葉は切実だ。
「ここより先は一兵たりと通さぬのであります!
 本格的にやるのでありますよ!団結力なのであります、おー!」
 こんな時まで生真面目に表情を引き締めて胸を張るイージスの盾――ラインハルト、
「日本の夏、暑いです……この島は更に。でも頑張ります」
「アタシの相手はイーリスさんッスか! 相手に不足は無しッス!
 ビーチバレーと言えども勝負に手加減は不要! しっかり倒してやるッスよ!」
 リセリア、イーシェが俄然気合を入れる。
 砂浜にネットをセットしての本格的(?)なものである。
「く……ついに俺の本気を出す時が来たようだな! 覚悟しろ! おりゃああああ!」
 来たモン返せばいいんだろ、とばかりに力一杯腕を振るレン、
「相棒の力を引き出すのも勇者であるボクの務めですね。
 全力であたーっくってやればいいはずです。敵にぶつければきっと勝ちですよね!」
 ペアの光もルールを知らないのだから酷いペアである。
「砂浜って凄いですね!」
 山育ちの弓弦にとって海は発見の連続である。
 勿論ビーチバレーも初めて。執念でボールを追いかける彼女の顔にボールが当たる。
「痛っ……でも、とっても楽しいですね!」
 一方で激しい戦いを繰り広げているのはラインハルト・リセリアペアとアウラール・牙緑ペアである。
「正義は勝つのです!」
「甘いっ! 俺には通用しないぜ!」
 英美が見ているから――ここはいい所を見せたい牙緑がラインハルトの一撃に超反射神経で反応し、ハイバランサーでボールを拾う。
(皆で一つの物事に打ち込むのも初めて。勝ち負け……というか、参加自体を楽しみます――!)
 鋭い呼気と共に跳び上がったリセリアの空中殺法に牙緑が反応する。やられてたまるかと彼女の影を見据えた彼の耳に、
「アウラさん……じゃない、皆頑張れー!」
 応援に回った英美の痛恨の一撃が突き刺さる。
 気合が空回り、砂を巻き上げ転んだ虎にアウラールが「気にするな。勝つぞ」と声を掛ける。
「アウラさん……優しい、素敵……
 おおらかさで……やっぱ右側ですかね。
 となると、牙×アウ? うーんしっくりきませんね~。
 牙緑は勢いはあるんですが頼りないですし、リードされる必要が……アウ×牙…うん、こうですね!」
 熱砂にミスパーフェクト(笑)のピュア(爆笑)が迸り、
「いくですよ! いーーりすさーーーぶっ!」
「守護者の剣は簡単に折れぬ! 屈せずッス!」
「えい! やあ!! たあああああああああ!!!
 必殺! ぎが!いーりすぱいく! なのです!
 わがひおうぎ! うけてみよ!! どーん! ばーん!!」
「こっちこそ! 喰らうがイイッス! 今必殺の! イーシェスマッシュ! ッス!」
 ……イーリスとイーシェ、子供が二人でやり合っている。
 やがて彼等はメインイベントへ趣くのだ。隣の王様一行を横目に捉え、
「今こそ討ち入りであります」
 とか言い出すラインハルトに従って。
「御用改めであります!」
 ああ、どうしても戦いたいらしい。
「あー、あたしもちょっと参戦してみたいなっ!」
 是非、ほんと、マジで、超、今すぐ、本気でお願いします、おっぱいさん!1!

 喧騒から離れて時間を過ごす者も居る。
「海がきらきら星を撒いたみたいですから、海面銀河の如し……もっと推敲して……」
 実に風情たっぷりに海を眺めて詩を思い浮かべるのは躑躅子である。

 太陽がみどりの島を焼いてしまいそう
 海面がきらめいて天の川みたい
 おとなしく涼しい夜を待ちましょう
 バロックナイトはまだ来ないから

 口ずさむのは漢詩。詠むのは現在(いま)。

「何か下見に来たのがつい最近に思えるな♪」
 岩場に二人して腰掛け、手を握って。
(ぅゎぁ……思い出しただけで照れてくる……あの時に告白されて付き合う事になって……)
 恋人と過ごす『思い出の場所』での時間は格別で――知らず知らずの内に喜琳の頬は紅潮した。
「……あえてここで……もう一回ウォーアイニーって言っておこうかなでござる」
「! 腕鍛さんっ!?」
 水着を見たがるような所も、オイルを塗りたがるような所も。
 痘痕も笑窪、命短し恋せよ乙女か。好きなものは仕方ない。
 勇気を出して腕鍛の頬に軽く口付けた喜琳は、両手を自分の頬に当てていやいやをするように頭を振った。
(あー、アカン。もー、ウチこんなキャラちゃうねんけどなぁ。爆発しそうやわー……)
 ご馳走様ぁ。

 涼しい木陰の下。
「南の島……ここで、お昼寝、したら……干乾びるかしら?」
 茫洋と呟いて小さく頭を振るのは那雪だった。
 どうしても今日会いたい人が居た。何となくそんな気がして探していた。
「あ……」
 彼女の考えは正しく目当ての彼は木陰に座り、片手で本を開いていた。
「これ……好きって、聞いたの……前、お世話になった……お礼……」
 那雪が手にするのは冷たいアールグレイ。狩生の好きなアールグレイだ。
「……ああ、ありがとうございます。丁度、飲みたかった頃だ」
 那雪の覗き込んだ彼の本は海の詩集。
「こんな所だからこそ、一層実感を覚えるというものですよ」
 淡く微笑む狩生に那雪の頭がふらりと揺れた。
「ちょっと、限界……眠い、かも――」
 それは目的を果たした安堵故か、それとも海風が優しく頬を撫でるからなのか。
 木陰に逆さに寝転がるもう一人、傾く所か逆になる――歪崎行方が呟いた。
「ああ面倒くさい。南の島のバカンス、結構デス。
 日常や凄惨な日々を忘れてゆっくりと羽根を伸ばすのは良いことデス」
 ……どうやら、一応干からびないらしかった。
「ボクは眩しいの苦手なのデスヨ。日焼けも嫌いデス。痛いデスシ」
 ごろごろぐだぐだ。少女性は干からびてる、渚のヒロイン優勝者。←未来
「ええ、態々こんな所まで来て陽射しの下に出て行く理由も無いでしょう。
 誰かが来ても動かないわ、絶対に、決して、断固として。
 私を外に出そうと言うなら死ぬ気でいらっしゃい!」
 日傘の下、涼やかなるトロピカルドリンクを片手に断固主張。
 行方といい、クリスティーナといい……君達は!

●島の時間II
「将門さん将門さん、お時間あったら桜ちゃんと一夏の思い出とか作りませんか?」
「一夏のアバンチュール、それはロマンス。俺は君の期待を裏切るような男じゃないぜ、子猫ちゃん」
 手を取り甲にキスをした伸暁に桜が満更でもなさそうな顔をする。
「エスコートしてくれます?」
「勿論。何処にでも、プリンセス?」
(うーん、これならいいかもですね)
 何処を見てもカップルに当たる光景もこの場の相手が出来れば余裕に見えるという事か。
「いらっしゃいませ~」
「い、いらっしゃいませ。美味しいですよ」
 自然な笑顔で接客するのはハルカナ、少しぎこちない調子なのはアンジェリカである。
「はしゃぎ疲れた人はそこの海の家で休むといいのじゃ。今なら空席ありじゃぞー」
 良く冷えた麦茶を配りながらアルカナが声を張る。
 確かに彼女の言う通り、盛況である。
 アンジェリカ、アルカナ、ハルカナ、凪沙。『かしけん』の面々による甘味専門の海の家は中々の好評を博していた。
「甘くて冷たいものがいっぱいですよ~」
 慣れた調子で声を出す凪沙が調理担当で奮闘している。
 和風パフェ、クリームあんみつにカットフルーツ、ところてんに抹茶アイス。
 基本的に和テイストで纏めたスイーツは多くが彼女の発案である。やはり暑い南国だから冷たいものは格別で、
「わぁー、おいしそう! パフェもいいけどあんみつもいいな……
 ええと、こっちの端から順に持ってきて欲しいのです!」
 甘いモノが大好きな大食淑女ニニギアさんは勿論の事、あかつきの二人も休憩にこの場を訪れていた。
「何時も僕の事を気遣ってくれてありがとう……とても嬉しいです」
「いえ、お手伝い出来て……私も幸せですから」
 カイと凛麗も何処と無くいい雰囲気である。
「いやぁ、眼福眼福……ま、ままま蝮の旦那ァ!」
 何かこう覗きとか何かとかに余念が無かったオークが偶に足を運んだ咬兵(と雪花)にキョドり、
「……あの……これ、よかったら……」
 頬を少し赤らめたアンジェリカが『何処か神父様に雰囲気の似た』咬兵にマクワウリを差出し、そそくさと退散したのは余談。
「あぁ――俺はこういう方がいい」
「よかった……」
 余談。

 島での時間は海遊びばかりでは無い。
 魅力的なバカンスの過ごし方は実に多岐に渡る。
 予め沙織が言っていた通り――この島はキャンプを楽しむにも適していた。
 その言葉を容れて本格的なキャンプを実行しようと考えたのは『なのはな荘』の面々である。
「キャンプのお約束だし。カレー作るよー」
 普段のだらだらが嘘のようにカレーに素晴らしい情熱を燃やすのは小梢だった。
 何故かと問うは愚問である。そりゃあだってカレーだもん。そこにカレーがある限り食べるんだもん。
「え、えーと、お料理、手伝おうか?」
「ん? ルメが手伝い? 普段やらないのだから遠慮する。ボクはキワモノは食べたくないのだ」
 飯盒炊飯は家庭で料理をするよりも難しい。ましてや普段の経験が無いならば尚の事である。
 恐る恐る申し出るルーメリアにキッパリと断りを入れたのは亜鈴だった。
 些か厳しすぎるように見えるかも知れないがそこはそれ、ルーメリアを良く知る亜鈴が故にである。
「……やっぱり暇! 見てるだけじゃ何もやってないのと同じなの!」
 事実、暇を持て余したルーメリアはこの後……
「フハハハ、燃えろ燃えろぉおー!」
 大火力で飯盒炊飯を試みて見事な大失敗を果たすのだ……
「だから言ったのだ……続きはメグに任せるとしよう。宜しく頼む」
 食事と共にキャンプで大事なのは寝床の確保である。
「……テントとか、立てるの、初めて、なんですけどね。
 これを、こうして……こう? あれ、違う……
 わかった……こう、したら……あれ、出口が、ない……」
 こっそりこっそりと悪戦苦闘しながら手伝うのはリンシード。
「手伝い? 慣れてるから平気、一人で大丈夫。
 ……というかいらない、邪魔」
 一方でやはり暇を持て余したのか手を出そうとするルーメリアを冷たくあしらってマーガレットが見事な手さばきでテントを建てていく。
 ルーメリアの扱いは此方も慣れたものである。

 無人島と聞いた人間にある種の童心が沸き起こるのは当然と言うべき心の作用だろう。
「無人島散策とは浪漫だ! 夢だ! 未知との遭遇だッ! お宝探しにィィ……行きたいかァーッ!」
 案外世俗的なヴァルテッラが「……という番組をこないだ見たのだね」と言葉を結ぶ。
「無人島。冒険心を擽られる言葉ですね。
 隠された遺跡や洞窟、財宝を乗せた難破船が存在するかもしれません。
 ここに『南の島探検隊』を結成することを宣言します!」
 依季瑠の言葉にぱちぱちと拍手が起きる。
 無人島を探索しようと思い立ったパーティはアンデッタ、ヴァルテッラ、ニニギア、依季瑠、
「ギャー ギャーギャギャ ギャーギャ」
 訳:折角孤島に行かれると言う事で、我輩、珍妙な生物の頭蓋骨を持って帰りたいわけですよ。
 ……だそうなリザードマンの合わせて五人。
「森の奥の山とかいかにもって感じですよね。
 お約束として滝の裏に洞窟があったりしても良いと思います。
 島外周の崖にも海と繋がった洞窟とかありそうですね」
「取り敢えず海岸線沿いを移動して地下墓地への入口とか入江洞穴に難破した幽霊船とか目指して……」
 想像力豊かな依季瑠にアンデッタである。
「人工的な壁があったり誰か流れついたりしてないかな?
 何も無ければ何となく髑髏に見える気がする石とかに無理矢理な解釈を持たせて怪奇伝承をでっちあげるって事で!」
「金銀財宝などなくても古代遺跡等が発見できれば十分です。
 研究対象が見つかれば私はそれで幸せなのです!」
「ギャー ギャギャー ギャー」
 ぐぐっと依季瑠が拳を握り、リザードマンが何やらぎゃーすか喚いている。
 実際問題何かがあるかどうかは大きな問題では無い。実に盛り上がるパーティはわいわいと談笑しながら島の秘密を探りに出発したのだった!
「……むぐもぐ」
「ニニギア嬢、まだ食べてるのだね……」

 頭上から降り注ぐ木漏れ日に目を細めて森の空気を胸一杯に吸い込む。
 喧騒から完全に離れ静かな時間を満喫するのは大和と蒼夜だった。
「聞こえるのは俺達の声と森の息吹位か」
 ふと呟いた蒼夜に「ええ」と大和が応えた。
 彼が彼女に視線をやれば彼女は日頃見られない植物、動物達に思わず目を見張り、写真をパシャリパシャリと撮っている。
「ふむ……」
 やはり人間の手の入っていない場所は森閑と美しい。
 蒼夜は木の根に腰を下ろすと『森と戯れる』少女の様子をスケッチしていく。
 そんなに得意な訳では無い、とは彼自身の弁だが中々どうして。彼の筆は大和のあるままの魅力を良く描き出していた。
(さて、蒼夜さんは何を描いているのでしょう……?)
 一生懸命な顔でスケッチブックに向き合う彼を密かに見つめ、大和はふと考えた。
 絵の少女が微笑(わら)い、現実の少女が悪戯な光をその目に宿している――

「うーん、野生の食べられる植物。すごいですね。
 ……意外と美味しいですね。この実、何でしょう」
 性格通り実にアバウトにむしゃむしゃと果実を齧りながらマーシャが島の外縁部に戻ってきた。
 森の中で食べられる木の実や果物を集め籠に入れて戻ってきた彼女はそのお裾分けをしようと人だかりに近付いていく。
「これは何の集まりでしょうか」
 ひょいと背伸びをしてギャラリーの向こうに彼女が視線をやればそこには、
「どうしてこんな事になったのでしょうな」
「……さぁな」
 困り顔のセバスチャンと咬兵が居る。
「セバスチャン等に挑戦する者が居るようだぞ。折角だ、見物でもしてみたらどうか?」
「ほー」
「あ、すまんな」
 しゃくしゃくと果物を齧りながら相槌を打つマーシャに勧められユーヌもしゃくしゃくとそれに倣う。
「バカンスなのにしょうがない人達だなあ」
「遊びに来て何をしてるんだか……という気もしないではないですが~」
 相模の蝮事件で関わった面々のその後を尋ねに来たウーニャや傍観気味の奏音の言う通りである。言う通りではあるが……
「よう、マムシのオッサン。ちっとばかし遊んじゃくれないかね?」
「初に目にかかる。此度は『相模の蝮』と名高い蝮原に会いに来た。
 名を古賀源一郎。一手で良い、手合せを願いたく存じ上げる」
 瀬恋、源一郎等にとっては念願だ。
 そしてそれは、
「七夕の時……欧州、に誘ってもらったけど、向こうの敵が、どんなものか、知りたいし……」
「アンタが強いって話は方々から聞いてる。こんな時に挑むのも無粋の極みだって事も承知の上だ。
 まぁ、しかし――アンタも忙しそうな人だからな。申し訳ねぇが決闘を受けて貰えるかい? 生憎左手の手袋は無ぇんだがよ」
 天乃やランディも変わらないらしい。
「むむむむ、せっかくの機会ですからねい! 私は済んだらアームレスリング勝負でお願いしますよう!」
「セバスチャンの、カッコイイとこ見てみたいーっ! ラウンジで一緒に遊びましょぉ?」
 ステイシィ・M・ステイシス、ステイシー・スペイシー、木蓮の姿もある。
「ステイシー繋がりでお近付きになりたいですねい」とはステイシィの方の言。
「レディのお誘い断れるかしらぁん?」
「やれやれ……そう言われてお断りするのも難しい」
 念願叶ってか一応面識がある程度だった二人は偶に似たような事を思い付き、絶対執事を押し切った。
「大変ですね」
「……む?」
「こんにちは、セバスチャン様。アーデルハイト・フォン・シュピーゲルと申します」
 どうも話を避け得ないと判断し苦笑いを浮かべたセバスチャンに言葉をかけたのはアーデルハイトだった。
「セバスチャン・アトキンスと申します」の一礼で応えた彼に彼女は微かな笑みを浮かべて言う。
「私の一族は独逸を拠点にしておりまして……極東の国にて縁が繋がるのも運命でしょうか」
 方舟は、信念も矜持も思想も思惑も乗せて大海を征く。
 乗る者同士が意思を交わす事を忘れたら、船は容易く沈んでしまう――
 だからこそ彼女には聞いてみたかった話があった。所属を別にする彼に、何処か近しさを感じる彼に。
「……ふむ、『後で』お話をしてみるのも良いかも知れませんな」
 セバスチャンは『後で』にアクセントを置いて言った。
 若者の血の気は多く、嘆息した咬兵共々相手をしてやらねば収まりがつかないと言った風。
「折角なので観客集めて胴元でもやりましょうかね~」
「うむ。悪くないアイデアだ」
 マーシャとユーヌの冗談(?)がその背を押している。
 これ以上の大事は敵わん、と目と目で通じ合った咬兵とセバスチャンはお互いに一つ小さく頷いた。
「では、話が纏まった所で――不肖、汐崎沙希。これよりこの闘いの立会人をさせて頂きます」
 バカンスには些か全然ちっとも似つかわしくは無い緊迫した空気が辺りを包んだ。
(あなたまでの距離はどれ位なのか――)
 天乃の胸が騒ぐ。
「有難うよ!」
 ランディの瞳がぎらぎら輝き、殺気が沸き立つ。
「……では……始め!」
 沙希の珍しい――凛とした宣告が幕を上げるベルになる!
「このばかもの! 夏休みぐらい回復役にも楽をさせろまったくもう!?」
 全くだ、アンナさん。

●夜の時間Ⅰ
 ――俺の側を離れないでな……最愛の、ミメイ。

 ――離れてって言ったって、離れないから。

 海に夕日が沈んでいく。
 茜色の世界は息を呑む程に美しかった。
「……三高平じゃ、見れないね」
「ああ」
 短いやり取りが夕陽に滲む。
 人気が無いから――人の目が無い事が未明を少しだけ大胆にさせていた。
「ねぇ」
「ああ」
「キス、してもいいかな」
 二人のシルエットが砂浜に長く長く伸びていた。
 影法師が描くのは熱い砂の上、深く重なるロマンスか――

 そして、夜――
「お酒が呑めなくても、雰囲気で酔えるって本当ですわね」
「似合わない事言ってますね、面白キャラが」
「誰が面白……バカモニカッ!」
「捻りが無いカウンターです。正直言いまして35点」
 馬脚の現れやすい二人の方は置いといて。
 夕刻を過ぎた頃、船内のバーでは面々がゆっくりとした時間を過ごしていた。
「美味しいです……」
 大勢が遊びに出れば救護要員の出番は多い。席には漸く人心地ついたシエルも居る。
 霜が張るほどよく冷えたウィスキーグラスが二つ。カランカランと乾いた氷の音が転がっていた。
「……ああ、美味い」
「ええ。美味しいですね」
 喉を滑り落ちる熱い琥珀色の液体にウラミジールと玲香は表情を緩ませた。
 夏の暑さとはまるで違う熱は、格別な香りは臓腑を至福の色で満たすのだ。
「イケる口か」
「幾らかは。まぁ――『軍人』の嗜みですか」
 ウラミジールの短い言葉に珍しく玲香は洒落っ気を滲ませてそう答えた。
 瀟洒なバーの雰囲気は夏の海とも又違う特別な魔力を持っているのかも知れなかった。
「キー!」
「本当に扱いやすい人ですね。お嬢様は」
 ……面白共(十把一絡)は別にして。
「僕は、こう見えても君より年上だぜ?」
「……ほんっと見た目ってあてにならねぇよなぁ」
 阿部さんから辛うじて逃げ延びた徹がりりすを相手に呑んでいる。
「僕は酒にゃ弱いけどな。
 正直、フィクサードだとか、リベリスタだとか如何でも良いし。お互い全力で殴りあって、最後に笑い合えれば、もうダチだろって話だよ」
「おーおー。シンプルでいいねぇ」
 バーの中にはブラックジャックの勝負の結果が出た翔太達の姿もある。
 奢らされているのは勿論、僕等の影継さん。しかし彼は「俺なんてよ……どうせよ……」と悲しい酒になっている鉄平を慰める方に忙しそう。
「ザルが何人いるんだよ!」
 ツァインが笑う。
「あまり飲む方ではありませんが何だか……格別に……」
 場には静かに酒を飲む七海の姿も、ちびりちびりとブランデーを舐めるヴァニテッラの姿もある。
「そう! これだ! ドイツビール! これぞ至宝よ! だありゃあああ!」
 イセリア、うるせー!
「うーん、皆結構強いわね。
 でも、三高平の居酒屋から出禁くらってるあたしに勝てる人はいるのかしら」
 穏やかなペースの酒飲み達の一方で例の飲み比べの面々のピッチは早く、中でも顔色一つ変えないエレオノーラはその美少女然とした様子と相俟って見事な違和感を醸し出していた。
 何せこの女……じゃなかった爺さん、元ロシアのスパイだかKGB局員だか何だかでウォッカが水って人間である。
「かつて裏社会に身を置いた人間からしても、ここには不思議な居心地の良さを感じるのじゃ」
 咬兵と席を並べて杯を傾け、そんな風に話し始めたのは陣兵衛だった。
「ひょっとしたら仁蝮組以上に曲者……というかクセの強い者も多いかも知れんが……
 お主の選択は決して間違ってはおらぬと思うぞ。難しい事は無く、な。
『お互いの』新たな人生に乾杯、といこうかのう」
「ふ」と短く笑った咬兵、虎鐵の反応も何処か似ていた。
 脛に傷を持つ――言ってしまえば簡単だが彼等には彼等の流儀があった。
 彼等には彼等でなければ分からない事もある――
「もぅ! どこにいたですか! すっごく探したのです!」
 ――一方で怒ったような拗ねたような声を上げたのはたっぷり一日目当ての沙織とすれ違い続けたそあらである。
 彼女程分かり易いのも早々は居ないだろう。
 例えば、尻尾を全力で振りたくり主人の後を追うわんこの如く。
 例えば、貴方の為なら例え火の中水の中。一途盲目なる少女マンガの主人公の如く。
 ……題材がラブコメなのは些か本人としては不本意かも知れないが。
 兎も角まぁ、全開で好意を表現『出来る』彼女は今日も今日とて必死のアタックを続けていた。
「さおりんと一緒に夏のバカンスをいっぱい楽しむ筈だったのに……」
 上目遣いで漸く捕まえた隣の沙織の袖を掴み、唇を尖らせた彼女は成る程、今日の為にしつらえたであろう白いサマードレスを着ている。
 何時もに比べれば随分と大人びて見える雰囲気のそあらである。彼女なりにこの日に賭けていたのは間違い無いのだろう。
「残り時間がだいぶ少なくなったのです……責任取るといいのです……ばかぁ……」
 普段はへこたれない彼女の軽い涙目に沙織は小さく嘆息した。
 スツールを半身回転させ、マホガニー材のカウンターについていた肘を持ち上げる。
「じゃあ、今日は大人扱いしてやろうか」
「え……」
 予想外の切り返しにそあらは思わず沙織の顔を見る。
「お前の好きな苺にシャンパンを合わせて――映画みたいだな。ホワイトラムも良く合うよ」
 バーテンダーに目だけで合図した沙織はそあらの髪の毛の先をくるくると弄び、何時もと同じように少し意地悪な笑みを浮かべた。
 シェーカーが軽快な音を立てるバーのワンシーン。吸い込まれるように目の前の瞳を見つめるそあらには他所を構っている余裕は無い。
「例えば、こんな風に?」
 頤を持ち上げ、唇に触れ。顔をぐっと引き寄せて……
(ら、ラブロマンスなのです……!)
 望外の展開に咄嗟に目を閉じたそあらの頬がぐにっと歪む。
「バーカ。お前って、本当に面白いのな」
 目を開ければ手を離した沙織がグラスを片手にくっくっと笑っている。
「う、ぁ……」
 何とも言えない表情をしたそあらの唇が微かに戦慄いた。
「――おばかぁ!」

 夜の上部デッキに他の人影は無かった。
 日中は暑かったがこの時間にもなれば空気がそう遠くは無い夏の終わりを教えてくれる。
 船室で話していたこじりの手を取って、星空の下に連れ出す――
 唯それだけの事で心臓はばくばくと早鐘を打ち、かかなくてもいい汗が肌を濡らした。
 繋ぐ手と手、熱が、柔らかい感触が何処までも『覚悟を決めた』夏栖斗を笑って追い詰めていた。
「出したなぞなぞは――解けたのかしら」
 夏祭りの日、耳元で囁いた言葉。照れてまともに言えなかった『暗号』はこじりの精一杯だった。
 携帯電話に慣れた今時の若者ならば誰にでも解ける――簡単なサイン。気付いて欲しいから、簡単なサイン。
(独りに慣れて居たのに。慣れた心算になれていたのに――)
 頬を染め、息を呑んだ少年に――年下の夏栖斗の顔にこじりの胸が騒ぎ出す。
 言葉に出来ない、感覚。大凡、他に知らなかった――有り触れた熱病は少女の芯を震わせた。
 分かっていた。手を引かれた時、少し震えていたから。
 分かっている。聞きたい気持ちと、聞きたくない気持ちで、ハッキリ『怖い』。
「これ以上待ってくれって言うなら、幻滅するわよ」
 怖いからこそ、こじりはそんな風に呟いた。
 吐息交じりに、精一杯搾り出すように。一生懸命『何時もの源兵島こじり』のフリをして。
「僕の……」
 夏栖斗が口を開いたのは刹那のような永きのような、少しの時間を置いた後だった。
「……僕の、恋人になって欲しい。
 絶対に守るとか、幸せにするとか。無責任な事は言えない。
 僕は子供だし迷惑とかかけるかもだけど――でも!」
 不器用な言葉が夜に踊る。
 浮かんでは消え、消えては浮かぶ。それは想いの波のよう。
「でも――愛してる、こじりさん。ずっと一緒にいて欲しい」
 言い終えた夏栖斗はこじりの手を強く握った。
 ずっと大切にして来た言葉、これだけは気楽に言うなんて出来はしない。
 汗ばむ手の感触は『一般に』不快な感触を二人に与えていたけれど、こじりはそれにも構わない。
 長い黒髪を宵の潮風に揺らして、目を細めて空を見上げていた。
「御厨くん」
 丁度、雲が掛かって見えない月の方を眺めたまま。
「何時からか、ずっと。嫌に成る程、『月が綺麗』よ。だから……」
 少女は握った手の力を強くした。

 ――だから、今日はもう少し。このままで居ましょう。ずっと、手でも握ってさ――

 空は何時だって繋がっている。
 頭上には満天の星。星屑が零れ落ちてきそうな程の空の下。
 夜の砂浜をゆっくりと散歩しているのは拓真と悠月の二人だった。
「悠月、少し話があるんだ。……聞いてくれるか」
「はい?」と小首を傾げる悠月に拓真は軽く息を吐き出した。
 過去の自分を見つめ直した今だからこそ言える言葉がある。今、言わなければいけない言葉があった。
 伝える事はあるまいと思っていた。
 自身は正しく世界を守る剣で在れば良い。戦場で朽ちる一本の剣で在れば良いとそう思っていた。
 けれど、今は──
「君の事が好きだ」
「――っ」
 ――後悔の無い道を行きたい、万感が唯の一言に束ねられた。
 何処までもシンプルで、何処までも純粋な言葉は『エゴイズム』でも語れない別の何か。
「……俺に、ついて来てくれるか?」
 問いかける拓真の顔を見つめる、少女の美貌には月に掛かる幽かな影のような戸惑いが浮かんでいた。
「私の目指す道は、あなたのそれと決して違えないとは……言えません」
 風宮悠月としての想い、魔術師としての自分。ここへやって来た理由、戦う理由(わけ)。
 思い返すは何処までも様々で見ようによってはどんな風にも姿を変える、それはあの万華鏡のようで。
「私の道が如何なるものかは、まだ見えません。けれど――」
 悠月は一瞬だけ逡巡して、しかし次の瞬間には拓真を真っ直ぐに見つめ、緩く淡く微笑んだ。
 今度は頭上で二人を照らす、あの月光のように。
「――けれど、そんな私であっても貴方が望んで下さるのなら。
 あなたと共に居たい。――私も、あなたが好きです。拓真さん」

 好きな人と過ごす南国の一日は駆け足に過ぎていた。
 今は静かに。テントの脇の草むらに寝転がって空を眺める。
 椿と菊之助はゆっくりと静かな時間を過ごしていた。
「みてみてー! 夏の大三角だよ! すごいね、きれいだねえ!」
 零れ落ちそうな星にはしゃいで瞳を輝かせる菊之助をこっそりと横目で見やって椿は思う。
(……菊之助さん、こないだ依頼で過去を見てきたらしいけど……やっぱり亡くなった奥さんと会ってきたんやろか?)
 何とも複雑な乙女心はその感情に名前を付ける事を許さない。
 嫉妬とも寂寥とも違う何とも言えないむず痒さ。
「あっちはね、えっとね、いるか座なんだよ!」
 元気良く声を上げる菊之助に椿は小さく笑みを零した。
 考えても詮無い事。答えを急かすには――時間は短すぎる。第一……
(待ちに徹するんは性に合ってへんけど、ええ女は待てるもんや)
「綺麗やなぁ……乙女座はどこやろか?」
 性には合っていないけれど、それでも。大好きな相手を幸せにするのが女の幸せと言えばその通り。
(演歌や、うち)
 何となくおかしくなって椿は笑った。
「お願いしよか、星に」
「うん。椿ちゃんが健康で居られますようにー!」
「菊之助さんも健康で居られますように!」

 至近で感じる吐息は熱く。
 考える程に何も考えられなくなる時間はルアが他に知らない『特別』だった。
「まるで、違う世界に来たみたい……」
 頬は紅潮。はにかんだ声は自分のものではないみたい。
 口付けという――有史以来最も簡単で特別な魔法はルアとスケキヨの時間を世界から切り取ってしまったかのようだった。
「ルア君は本当に素敵な子だよ。
 一緒にいればいる程、話せば話す程、新しい魅力を見つけられるんだ」
 抱き寄せた肩と肩が触れる。指先は砂の上で絡み合い、互いの体温と鼓動を伝え合う。
「もっともっと、ルア君を知りたいな」
 スケキヨはルアの顔を覗き込む。
「スケキヨさんが大好き」
 髪を撫でる指先が好き。熱く触れ合う唇が好き。
「これからも、ずっとずっと一緒にいようね」
「……フフフ、ボクも。大好きだよ。
 秋も冬も春も、来年の夏もまた、こうして一緒にいたいね――」
 飽きる事無く唇が重なった。何度も、何度も。月しか見ては居ないから――

「まさに満天の星って奴だな。手を伸ばせば届きそうな位に」
 木の上に二人で居る。
 膝の上に壱也を乗せるようにしながらモノマはそんな風に声を漏らした。
 溜息を吐きたくなる位の圧倒的な光景は大切な誰かと眺めれば一層強い思い出になる。
「うわぁ! すごい星ですね! 三高平では見れないです……カメラ持って来れば良かったなぁ」
 落ちないようにモノマに強めに抱きついて、壱也はそんな風に言う。
 海は青く澄み渡り、森は青々とした緑に満ちていた。
 さらさらの白い砂浜に、美味しい御飯。後はふかふかのベッドで眠るだけ――
 夢のようなバカンスの時間を思い出せば壱也の頬は自然に緩んだ。
 いや、バカンスが楽しかったのは確かなのだ。
 確かなのだが彼女は『一番』に気付いたから笑ったのだ。
(最近で一番、楽しかったです。モノマ先輩と一緒だったから、かな……?)
 落ちないように、落ちないように。
 免罪符を頼りにぎゅっと抱きつけば体温と鼓動が近い。
「あぁ、悪くねぇ。バカンス楽しかったな。また、二人で星空でも眺めような」
 少しぶっきらぼうなモノマの声。そんな言葉が今の壱也にはたまらない位に心地良い。
 暗闇が赤くなった顔を隠してくれるから。彼女は素直に「はい」と頷くだけで、それでいいのだ。

「実はねーちょんはお化けが怖い。アンダテ家のものとして情けないの」
「お化けなんてなーいさっ! お化けなんてうーそさっ!」
 肝試しの真似事――夜の森の散策でぽつりと呟いたルカルカの言葉をノアノアの大声が遮った。
「なるほど、確かに情けない魔王だ。ま、弱ってる所を仕留めるのは主人公らしくないし、やめておくぜ」
 魔王と主人公略してまおしゅ。
 肝心の魔王(ノアノア)は主人公こと零六の手をしっかと握って離さない。
「いや、いやいや。ビビってる訳じゃないよ? 私は、ただ、お化けが嫌いなだけだ!」
 何がどう違うのか実にアレで微妙な光景。
 今までのしっとりとした空気は何処へやら、全く色気の無い取り合わせである。
「馬鹿な! 私のこの胸が見えないのか!」
 いや、御立派ですけどねェ……
「ねーちょん、それうでじゃなくてルカのおっぱい」
「いや、びびってないよ。迷子にならないように掴んでただけだよ」
「おっぱい」
「お前は何がしたいんだ! くっそ、完全にツッコミ役だ、これ! どうしてこうなった!」
 俺が聞きたいよ!

●夢の篝火
「燃料にマッチでほれ大火だー! 寄って来いリベリスタ!
 踊ったりする奴が居るって事でラジカセも用意した! 準備は万端完璧だ!」
 火車の景気の良い呼びかけに歓声が上がる。
「紳士淑女のみなさま!今宵の目玉イベント!
 キャンプファイアーの時間ですよ!
 熱く真っ赤に燃える炎を囲みカップルで語り合うもよし! 友情を深めるもよし! 新しい出会いを求めるも良し!
 飲み食いして日々の疲れをいやすも良し! 一人寂しく線香花火するも良し!
 度が過ぎたいちゃいちゃ行為はアークが許しても先生が許しません。
 つーか殺す。船室に戻ってやりやがれ!
 バカンスなのに! 私は一人なのよ! このクソがっ!」
 私情の混ざりまくったソラちゃん先生の諸注意と演説を誰も彼もが聞き流す。
 夜空を夢の篝火が赤く赤く染めていた。
 ぱちぱちと火花が弾けている。
 火を囲う仲間達の顔には少しの疲れが見えていたが、それでも皆楽しそうだった。
「玲とここに来ることができて良かった。今日は飛び切り可愛いぜ。オレのお姫様」
「うん、静さん大好き!」
 篝火の周りをくるくると回るように踊る。
 玲は弾ける笑顔で次々と友人達の手を取った。
「ナハトさん!一緒に踊ろう!
 幸成さんも、由利子さんも。火車さんも夢乃さんも、さあ!花子さんもソラ先生も踊ろうよ!」
 火を見ればテンションも自ずと上がるもの。
 一日を締めるキャンプファイアーは面々に負けじと赤々と燃え上がっている。
「あたし等にゃ明日の保証はないんだ。今のうちに浮かれておこうじゃないか!」
「うん、こういう火に照らされると自分がゾンビとかそういうのじみてるの改めて感じるよね」
「にゃはは、幸せじゃわい♪」
 雷鳥、ナハト、そしてレイライン。
「へっへっへ、御呼ばれに上がりましたぜ」
 豚(オーク)が笑う。丸焼きか。
「サマーバケーション・イズ・デェェェッド!」
「いいのダ。その調子なのダ!」
 篝火に花火を投げ込む暴挙に出たのはレイ、合いの手を入れるのは鳥……じゃなくてカイである。※良い子は真似してはいけません
「いい男を探しましょう。王子様は待っていても来ないことを最近学びました。
 ですが、カップルのいるところには独り身の方はなかなかいないでしょう。放浪して探しましょう!」
 暑さにやられていた夢乃がいきなりがばっと起き上がり辺りをきょろきょろと見回している。
「……風が気持ちいいな……」
 騒がしさよりこの時間を楽しむように莉那が静かに目を閉じる。
「いつか汚れた手で会いに行く。あなたは笑って抱きしめてくれるでしょ?」
 誰に言うともなしに小さな声で呟いて花子も何処かに思いを馳せる。
 笑ってしまいたくなる位に馬鹿馬鹿しい。
 くだらないからこそ愛おしい、意味の無い時間は日々戦いに身を置くリベリスタにとってある意味で一番大切なモノなのかも知れなかった。
「こういう機会がいつかまたあれば、よ。オレは何時だってこうして……皆で馬鹿みたいに笑ってたいんだ」
 火車の言葉に異論がある者は無い。
 何時も、こうして。何時か、こうして――

●暑中お見舞い申し上げます。
 友達に、知り合いに。
 恩人に、家族に。
 場合によっては敵にだって――届く範囲で、届けられる範囲で或る絵葉書が日本中を駆けたのはそれから暫くしての事だった。

 ――それでは日本の夏の作法の通り。
 風物詩、旅先からのマストアイテムを――

『暑中お見舞い申し上げます』。
 エナーシアの届けた少しズレた贈り物はあの夏の日の光景を今も鮮やかに切り取っていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIです。
 以下、今回のあらすじ。


1、初イベシナだ。ひゃっほい!

2、「イベシナだから全員の描写はしません」と。これでよし

3、でも描写されなかったらお客様凹むよね。きっと。

4、それに大規模イベシナって行殺基本で出番も一回。それじゃ満足し難いよね。

5、※いいや全員出そう!←一つ目の間違い

6、いや、全員出した上で複数回描写もしよう。描写も増やそう!←二つ目の間違い

7、ねむい。減らない。辛い。かゆうま。

8、YAMIDEITEIの愛がBNEを救うと信じて! 福利厚生の次回作にご期待下さい!←今ここ


 ……まぁ、34340字程です。
 結局、白紙とキャラ選択ミスの誤送信プレ以外は『全員』描写しました。
 可能な限りは頑張りました。
 プレイングの差や書き易さで出番等には多寡ありますが、これで精一杯です。全力です。
 数え間違いが無ければ207/217位描写している筈です。
 白紙も白紙じゃない人が連携プレイングかけている場合は描写しました。
 何度か確認しましたので抜けていないと思います。
 万が一抜けてたらご連絡下さい。宜しくお願いします。


※次回以降はやるとは限りませんので悪しからずご了承下さい!


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レアドロップ:「渚のラブ☆ガールズ」
カテゴリ:アクセサリー
取得者:戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫 (BNE000932)
斑鳩・洋子 (BNE001987)
桜田 国子 (BNE002102)