<雷獣結界>スピードバトル!逃さず倒せ!!
<雷獣結界>スピードバトル!逃さず倒せ!!


●雷風結界
 平原の小道にぽつりと小さな社があった。そこは古くに暴れていた嵐の霊獣が住んでいたとされた場所であった。しかし、いつしか人に鎮められたそれは雷の守護獣としてこの平原に住みついていた。その住処として人々はこの社を建てたのだという。
 覚者達が社に近づいていくと徐々に体に電気が帯び始めるのがわかる。髪がハネ始め、影響はないが指先が自然に震えはじめる。
 しかし、一陣の風が吹くとそれらはすべて収まる。
 風が止むと共に目の前にはつむじ風、小さな竜巻のような姿の雷獣がいつの間にか現れていた。
 覚者達が近づいていくと竜巻の一側面に人の顔を模した裂け目が浮かび上がる。目と口くらいしか見えないが、その表情はしかめっ面をしているように見えた。
「ようこそ、覚者たちよ。風の噂で他の同胞が諸君に協力をすると聞いた。なんでも、我々が封じているものを滅してくれるとか」
 それに頷く覚者達。それを見て目の前の小さな竜巻に浮かんだ顔が明るくなる。
「では噂は真であったか」
 目の前の竜巻がやや勢いを強め、しかしそれでいて再び渋い顔に戻る。
「喜ばしい話だが、ここの敵はちとやっかいぞ」
 雷獣の話では、この平原に封印されている大量の妖は生物系で埋められているという。大小はともかくとしても、各個の戦闘能力自体は大したことはないとは言うが、その数が多すぎるのと同時にもう一点困ったことがあると雷獣はいう。
「彼奴等は非常に素早い。我が結界に押し込むときにもひどく手を焼いた。今なお結界の中で出る時を虎視眈々と狙っておる。一度解き放たれればすぐさま逃げ出すであろう」
 雷獣は覚者達に再度告げる。本当に結界を解いてもよいかと。
 覚者は答える。必ず殲滅しきる、と。
 その答えを聞いた小さな旋風がうむ、と頷いて見せる。
 覚者達が戦闘準備を整えたことを雷獣に告げると彼は結界を解き始める。
 平原の中心に向かって風が収束していき、周囲にバチバチと電流が奔ると空間が揺らめく。平原の中心から獣たちが空間を食い破る様にして溢れだしてくる。
 何匹いるかはわからない。だが、約束通り全て滅するのみだ!


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:鹿之助
■成功条件
1.妖の全滅
2.一匹たりとも逃さない事
3.なし
始めましての方、初めまして。
そうでない方、お久しぶりです。鹿之助です。

今回はスピードバトルになります。
より早く、より多く、より正確に敵を殲滅していくシナリオになります。
雑魚がわらわらしているシナリオですね。

●状況
舞台となるのは日中の草原です。
周囲に人影などはないので戦いに巻き込まれることはありません。
しかし雷獣が解いた結界からどんどん妖が湧きだすように出てきます。
雷獣は皆さんが失敗した時に備え、結界を再展開する力を残すため戦闘には参加しません。

●戦闘
妖は毎ラウンド開始時に一点から四方向へそれぞれ2体ずつ出現します。合計8体です。
これは3ターン目まで続きます。
出現した妖はその後四方へ走り去ろうとします。
皆さんはその四方へ逃がさないように囲んでいるものと思ってください。
(もちろんプレイングで他の戦闘方法を選んだ場合はそれでもOKです)
その関係で北側のメンバーから東側、西側のメンバーの距離は20m離れているものとお考えください。
また、北側から南側は40m離れているものとします。
もし、この包囲戦線をより狭めるのであれば、より乱戦になり敵は皆さんの横を突破していきやすくなるでしょう。
それでも味方の支援を受けやすくなるので一長一短でしょうか。

●敵の逃走
また、敵の逃亡に関しては、
敵がある側面の味方側の遠まで到達した場合逃走に成功したことになります。

●敵
今回の敵は生物系の妖ランク1
狼の姿をした妖の群れになります。

・猛突進
[攻撃] A:物近単+ノックB
・突撃体制
[強化] A:自
物防、速度、命中上昇+次ターンのノックB発動率を100%変更
このノックBを受けた対象が元々いた地点へ自身が移動する

敵は無理やり包囲網を突破しようと試みます。

連絡は以上です。

それほど強くはないけどやたら数が多い包囲戦です。
一匹でも逃せばこの雷獣からの信頼は勝ち取れないでしょう。
皆さんの瞬間的な殲滅力が大事! いざ、スピードバトル!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
公開日
2016年12月10日

■メイン参加者 6人■


●妖狼氾濫!
 平原に吹く風は一点へと集約するかのように不可思議な軌道を草地に描きだす。
 雷獣が結界を解こうとする前に四月一日 四月二日(CL2000588)が雷獣へと声をかける。
「あぁ、雷獣くん、結界を解く前に少し時間をくれないかな? こっちもちょっとばかし準備がしたいんだ」
「よかろう。しかし、そう長いことは待てぬぞ」
 雷獣の返答に頷き返し、配置へと移動しながら四月二日は呼吸を整え英霊の力を引きだしていく。彼が他の皆さんもどうぞ、とアイコンタクトを送ると他の者も準備を万全に整えていく。
「ふん。馬鹿にしては気が利くな」
 横を通りながら悪態をつく赤祢 維摩(CL2000884)にも慣れたもので四月二日ははいはいと苦笑気味に答える。
「キミが手間取って抜かれたりしたら笑いものだからね。嫌だろ?」

 一見口喧嘩に見える彼らのやり取りを見ながら北側に配置された『スーパー事務員』田中 倖(CL2001407) と『スピード狂』風祭・雷鳥(CL2000909) の二人はお互いのポジションにつく。
表面上、口喧嘩をしている彼らを見て雷鳥は彼らの呼吸が合っていることに気付く。
「田中さんさ、悪いけどわたし、他人に合わせるの苦手なんだけど平気?」
 雷鳥が槍を携えその両足が蹄に変わるころ、同じ方角を守る倖へと目線を向ける。身長差、口調のストイックさが合わさり、やや威圧的にも聞こえるその言葉に倖は柔らかい笑みで答える。
「えぇ、問題ありません。むしろ、僕の分まで暴れてください。こちらが全て合わせますよ」
 ホッとしたのか雷鳥が一息を付いたかと思うとすぐさま彼女の眼はぎらぎらと燃え始める。今から目の前に出てくるという敵たちを誰よりも早く、多く片づけるということへ思考がシフトしたのだ。

「やれやれ、血の気の多い連中だのー」
 そう愚痴るのは華神 刹那(CL2001250)だ。
「まぁ、そうはいっても拙も大差ないか。ところではるよ、上空からの支援よろしく頼むぞ」
 言われた宮神 羽琉(CL2001381)は既に上空へと飛ぼうとしているところだ。他の者と違い、戦いに前向きではない彼へと刹那はエールを送る。
「相手の方が多いんです……華神さんも、お気をつけて!」
 そういって空色の翼が天へと舞う。その様子を見て刹那は口角を上げる。
(気弱と聞いていたが、むしろ今回の件で肝が据わったか。ならば、心配することもあるまいて)

 覚者達が準備を終えたであろう様子を見て雷獣が声を発する。
「準備はできたようだな。期待しておるぞ、覚者達よ」
 その声と共に空間に亀裂が走り、周囲を吹く風は強くなり、電流が迸る。口を開いた亀裂の中からは狼のような姿をした妖たちが漏れ出してくる。
飛び出すと共に妖狼たちは一気に駆け出してくる。枷を外された猛獣の如く、敵は自由を求め覚者へと襲いかかる。

●スピードバトル開幕!
「ナリの割にはトロイじゃない」
 北側に飛び出してきた狼達の機先を制するように雷鳥はその顔前に猛進する。暴れ牛の速度をそのまま乗せた連打が、狼たちの爪牙が彼女に届くより先に彼らを抉る。そのまま返す刃で今度は薙ぎ払いを敵へと見舞う。連撃に次ぐ連撃をもらった狼たちの勢いは一気に衰える。

「雷獣の気、実験する価値があるな」
 維摩の金色の瞳が煌いたかと思うと、彼は周囲に満ちた風、雷のエネルギーを上空へと集約させ南側に現れた狼たちに激しい雷を見舞う。状況をうまく利用しての攻撃は普段以上の力を発揮させたのだろうか、苛烈な電流は獰猛な獣たちを一瞬のうちに灰燼へと化させてしまう。
 思った以上の成果に余裕の笑みを浮かべる維摩だが、結界の裂け目を見定めそこからあふれ出る殺気に油断はしない。そこにいる者たちは自分の隙を狙っていることを忘れたりはしないからだ。
 だが上手くいったのは二人だけであった。

 西側の平原に金属音が木霊し、狼の牙を刹那の刃が受け止める。その背後で突撃体制をとっている狼の姿を見やると、彼女は纏わりつく一匹を押し返しまとめて斬撃を浴びせるべく大きく踏み込む。
 しかし、先ほどの防御の時体制を崩したのか、手ごたえの感じにくい一撃となる。
「断脚!」
 裂帛の気合と共に放たれた返し刃は獣の脚へと迫る。
 一匹の前足に確かな傷をつけるものの、頭を下げ、踏ん張るもう片方にはその効果は薄い。

 東側もまた苦戦を強いられていた。飛び出してきた勢いそのままのタックルをその身に受け、大きく吹っ飛ばされた四月二日はすぐさま体制を立て直すものの、戦線を下げらされていた。
(犬畜生如きにナメられてたら、恰好つかないじゃん。それに……)
 周囲を見て見れば維摩の方は一撃で敵を薙ぎ払ったようだ。これでは最初に言った手前本当に格好がつかなくなってしまう。とはいえ、苦戦しているのは自分だけではないことも見ると、全体を狙うことへと頭を切り替える。
「宮神くん、ちょっと合わせてもらえるかな。一斉掃射といこう」
「わ、わかりました!」
 上空から数多の光弾が降り注ぎ、飛び出している獣たちの体に幾重もの傷を刻み込んでいく。
 しかし、目の前の獣たちはそれでもなお、向かって来る。
「あちゃあ。ダメだったかぁ。今度はもっと強めに……おわっ」
 再び跳びかかろうとする一頭の牙を避けようとする四月二日。しかし跳びかかってきた獣の体は飛んできた雷に貫かれ、その場に倒れ伏す。

●優雅なる反撃
 倒れた獣からは煙が立ち上り、こんがり焼けている。
(ぅわぁ。これって……)
 そう思った矢先、四月二日の心に維摩の声が響く。
「そら、抜かれそうだったぞ? 目の前も見えてない節穴か?」
「……離れてまでそんなラブコールくれるとか、ストーカーかキミは。……でも、今のは助かった」
 ふん、と維摩が小さく鼻を鳴らすと彼からの通信が消える。目の前を見て見れば、再び獣たちが次元の狭間から湧き出してくる。これからが仕切り直しと考え、眼鏡をかける。

 一方そのころ、雷鳥は追加で出てきた獲物を含め槍の乱撃で敵を蹴散らしていく。
 先ほど痛めつけた二頭は既に息絶え地に伏しているが、新手を倒すには至っていなかった。だが、唯一二名で戦線を維持しているこのポジションは他よりも余裕がある。
「どう、他は平気そう?」
「えぇ、ここほど楽には闘ってないみたいですけどねっと!」
 ドスン。と鈍い音が地に叩きつけられた妖狼達から響く。
 倖はほとんど力を入れてもないはずなのにも関わらず、彼に跳びかかった狼の体を勢いそのまま地面へと叩きつける。既に雷鳥の連撃により傷を負っていた敵たちはそのまま動かなくなっていく。
「マズそうなら、この風祭雷鳥さんが他もまとめてぶっ飛ばしちゃおうか?」
「それも考えに入れておきましょう。ですが、次、来ましたよ」
 裂け目から再びわらわらと敵が這い出してくる。しかし、その奥にはもう気配はなくこれで最後であることが予想できた。
「さぁて、雷鳥さんを超えられるかな! いくよ!!」

 雷鳥の声が響くのと同じ頃、刹那の刀は血をしたたらせていた。
 先んじて出てきた者たちは光弾に貫かれ息絶えていたが、新手の登場に手こずっていた。
 自分の刀の事を考えると気分が減退していく。しかし、抜かれぬためには殲滅しなくてはならない。一対多の戦いはそもそも自分の戦闘スタイルにも、刀にも適しておらず……などと夢想剣を目指す彼女の心にも嫌気がさしてきていた。
(色々と気に入らぬのよ。故に……ざばっと斬られよ!)
 わざと一方向を空け、敵を誘導する。まんまと策にかかる敵へと一駆けで追いつき攻撃を仕掛ける。
「登牙臥龍衝!」
 刹那が狼達を蹴り上げると腰を深く落とし刀を上段に構える。叫び声と共に放たれた斬撃は竜の如き衝撃波と共に降下する獣たちに襲いかかる。一頭の首はその衝撃波にへし斬られそのまま吹き飛ばされていった。

●仲間
(ッチ……馬鹿の手助けをしたのが響いたか)
 四月二日への支援を行ったまではよかったものの、維摩は自分の持ち場から意識を外した隙を狙われた。
 その結果、一匹に食いつかれ、もう一匹はこちらを吹き飛ばそうと構えを取っている。
「忌々しい雑魚共が!」
 纏わりつく獣を振り払おうとしたとき、その狼が光の筋に焼かれ飛び退いていく。
 周囲は光の弾丸が天より雨のように降り注いでいる。
 これは先ほど四月二日と羽琉が降り注がせたのと同じものだ。
 視線に気づき、そちらの方を眼だけで確認する。四月二日が手を振っている。
「余計なことを……」
 へらっとした笑みを浮かべる四月二日へ念話で返す。
「キミを介抱するとか絶ッ対ゴメンなんで、倒れねえように頑張れよな!」
「馬鹿は自分の前だけ見ていろ」
「これで借りはかえ――」
 何かを返して来そうなところで一方的に通信を切る。
 目の前の獣たちが再び戦意を剥き出しにしているからだ。
「観察終了だ。同じ轍は二度と踏まん。貴様らにもう用はない」
 再び維摩に作られた雷雲が轟きはじめる。彼の瞳にはもはや狼たちの動きは見て取れるようになっていた。

 一人上空に座す羽琉は周囲を見渡し的確なサポートを行おうとしている。北側は二人構成ということで心配はないのだが、他三方面がやはり苦戦を強いられている。
 四月二日と維摩はお互いのフォローをしてカバーするも、そのフォローでは目の前をなかなか倒しきれない。
 刹那もまた単独ということもあり押され気味だ。
 何より、眼下の次元の裂け目から再び敵が漏れ出てきそうなのを予感する。
(今飛び出されると、皆が危ない――)
 空色の翼を羽ばたかせいっそう高く飛びあがり、周囲一帯を一目で見える位置まで飛び上がる。
(今皆を助けられるのは、僕しかいないんだ!)
 羽琉が手をかざすと光の矢と弓が形作られる。
 集中し、全体を見通し敵全体の中心点へと狙いを定め、弓を引く
「貫けええええ!」
 放たれた矢は空中で四方へと拡散し敵を射抜いていった。

●追撃
 残った敵を含め、新手がまた現れる。
 しかし、封印は消失し、もう追加されることがないことを覚者達は一様に理解する。
「おらおらおらおらー! アンタらスロウリィなのよ!」
 最初から今まで暴れっぱなしの風祭だが、その速度はいまだ衰えずむしろ加速しているようにさえ感じる。最早猛牛は手に負えないほどに暴れまわっていた。
(風祭さんがこれだけ暴れてくれると、やりやすいですね)
 雷鳥の攻撃を耐えきった狼が猛突進を仕掛けてくるも、投げ技の使い手である倖はそのまま相手を投げ飛ばす。
「風祭さん、ここはもう僕だけでも十分です。華神さんの支援をお願いできますか?」
「了解! じゃ、任せたわよ!」
 そういうと風祭は颯爽と駆けて行く。まさしく韋駄天といえるだろう。
 残った一匹の獣が倖を睨みつけ唸り声を上げる。
「怖いですね。でも、そのまま来ても投げ飛ばされるだけですよ」
 その表情は穏やかな微笑を湛えたままだが油断なく相手を捉えていた。

 最も残った敵が多かったのは四月二日守る東側だ。合わせて四頭もの数が押し寄せていた。一体の体当たりを受け怯んだ隙に二体が横を駆け抜けていく。
「この、逃がすかっての!」
 放たれた雷撃が逃げ去る狼達を貫き絶命させる。
 しかし、目の前の一体の一体に阻まれ、さらにもう一匹が横を駆け抜けていく。
「宮神くん! カバーお願い!」
「は、はい!」
 助けを呼ぶ四月二日に上空を飛んでいた羽琉が気づくとすぐさま応じる。
 逃げ去ろうとする一匹目掛けて雷撃が放たれ敵の体を貫く。電撃によって麻痺したのか駆けるはずの脚はもつれている。
「そこの残りはお前達で処理しろ。他はどうにかなりそうだ。」
 そう告げてくるのは維摩だ。
「で、ですが、赤祢さんのところにも三匹もの――」
 羽琉が心配する声を上げようとしたところを四月二日が制する。
「いや、大丈夫。あぁ言った時のあいつには狙いがあるんだ。大丈夫さ」
 そう言った四月二日は安心させるように笑って見せる。
(あの程度の駄犬に出しぬかれるほど甘い男じゃない。そうだろ?)

 維摩の眼前では残った狼の背後に新たな敵が並ぶ。しかし、先ほどの他の者の光に焼かれた前の敵は既に手負い。もう一度羽琉の攻撃が当たれば十分倒れそうな状態だ。
 しかし、ここで維摩は攻勢に転じることなく一度敵の動向を待つ。
 手負いの妖が彼を突き飛ばし、他の狼達も追撃をしようと前に出てくる。
「予想通りだ」
 そう呟き、横並びになった狼達を見据える維摩の口は嘲笑を浮かべている。その場でゆらりと立ち上がり雷雲へとサーベルを振り上げる。
「予想通り貴様ら単細胞は前に出てきてくれたな。一掃してくれる」
 サーベルを振り下ろすと共に轟音と閃光が妖たちへと降り注ぐ。
 吹き飛ばされたことなど些末なこと。問題はどれだけ多くの敵に的確な一撃が与えられるか、それを突き詰めた結果の勝利だった。

●残党狩
 場面変わって西側は数的不利こそあるものの刹那は一人敵を抑えていた。
 既に出現していた手負いが前に立ち、その後ろに二匹の狼がちょうど一直線になる様に陣形を組んでいる。
 刹那はその場で集中し、地に刀を勢いよく刺し込む。
「隆」
 周囲を冷気が包み、刀に触れた地から氷結しはじめ、凍気が獣たちに襲い掛かる。縦列に並ぶ狼達の足元から氷柱が突きあがり、その体を貫いていく。
 手負いの狼は倒れるも新手の二匹が突進してくる。一匹の突進を腹部にくらい、たまらず片膝をつく刹那。その隙を逃すまいともう一匹がその脇を通り抜けようとした時だった。
「させないよ!」
 威勢のいい声と共に駆け抜けようとした狼の鼻先に雷鳥が現れる。
 先に進めなくなった狼は雷鳥に噛り付こうとするも、槍によって押し返される。
「加勢しにきたよ! 大丈夫かい?」
「礼」
 あまりにも短い返事に呆気にとられるも、そういう人間なのだということを思い出す。二人が目線だけ合わせ言葉を交わすとさっと敵の方へ向き直り、構え直す。
「つーことで、これで二対二だ。いくよ!」
 雷鳥が突進と共に放った渾身の突きは周囲を吹く風に穴を穿つような衝撃波を放つ。衝撃波を耐えた狼へと、大きく跳躍した刹那が断頭台の如く刃を振り下ろす。
 即席メンバーとは思えない、見事なコンビネーションだった。

 逃げ去ろうとする一匹と足止めできている一匹。
 四月二日が二匹を同時に倒す手立ては何も術だけではない。その手に構えたやや黒ずんだ銀の刃を水平に構える。
「こっちの方が得意なんだよね。宮神くん、逃げてく一匹よろしく」
 呼吸を止めた四月二日は空色の瞳が鋭くさせ、大きな踏込みともに愛剣『ダーク・レディ』を突きだす。その突きは足止めしていた一匹を仕留め、勢いは衝撃波へと変わり、麻痺しているもう一頭へと襲いかかる。
 続けざまに羽琉の繰り出した高密度の雷撃が迸り、逃げ延びようとした狼はもう動くことはなくなった。

●敢闘の最期に
 ドシャァ――
 倖は狼を掴むとそのまま地面に叩きつける。
 その様は余りにも軽い。彼がまるで力を入れてないかのように見えるにも関わらず、狼の体は宙を舞い、頭から地面へと投げ飛ばされる。
「ふぅ、これで最後だったみたいですね」
 ぱんぱんと手を打ち倖が周囲を見渡す。
 周囲を吹いていた奇妙な風も、周囲に満ちていた電流もすっかりなくなっている。
 集まってくる他の覚者達と互いの無事を確認し合っていると雷獣が姿を現す。その姿は封印を維持していた時よりも大きい竜巻へと変貌しているようにも見える。
「よくぞ成し遂げた覚者諸君。信じて正解であったな」
「二十五年もの歳月、封印に御力を注いできたあなたの苦労に比べればなんてことはありません」
 倖の労いの言葉に感動したのか竜巻に浮かぶ顔がくしゃりと笑う。
「ハハハ! まさかそのようなことを人の子に言われるとは思わなんだ。我々は最早忘れられた存在と思っていたからの」
「まぁ、今まではそうであったかもしれんが、拙らと触れあってそうでもなくなったのだ。これからは協力し合っていけるといいのう」

 仲間たちが雷獣と談笑する中、維摩は一人踵を返して帰っていく。
「あれ、赤祢さん、先に帰ってしまうんですか?」
 そう羽琉の声に振り向くこともせず「実験の続きがある」と言って立ち去って行ってしまう。
「あぅ……」
 残念そうな顔をしながらもそれ以上の声をかけられない羽琉に四月二日は優しく声をかける。
「まぁ、ああいう奴だから。気にしないでね。無愛想な研究馬鹿なだけだから」
 わざと大きい声で言う四月二日の言葉に一度足を止めるも再び歩きはじめる維摩。
 羽琉は何か声をかけるべきではないかと考え口を開こうとしたところで大きな笑い声が平原に響く。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『スウィフトランナー』
取得者:風祭・雷鳥(CL2000909)
特殊成果
なし



■あとがき■

皆様、ご参加ありがとうございます。
キャラクターも、プレイングも、大変素敵でした!

MVPは飛行して戦闘という妙案を思いついた宮神羽琉くんへ贈呈します。

毎度毎度キャラクターとプレイングを読むのを楽しんでしまい、遅筆になってしまうのを直さねばなりませんね。

それでは、またお会いできればと思います。




 
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