<雷獣邂逅>一つ目が審議の為に瞳向く
<雷獣邂逅>一つ目が審議の為に瞳向く


●雷獣と一つ目小僧
 兵庫県北部。そこにそびえたつとある山は、山登り仲間の中でも敬遠される山だ。
 道行自体は装備を整えれば踏破可能なのだが、天候の変化が激しく山頂に近づく物を拒むと言う。警報では皆無の天候なのに山を登るにつれて暴風や雷雨が登山者を襲うのだ。
 いつしかその山は呪われていると言われているが、山を知る古妖達はその理由を知っていた。
 件の山には雷獣が住むという。それが近づく者を拒んでいるのだ。
 雷獣は元々気性の荒い古妖だが、だからと言って迷惑な存在ではない。稲妻は暴虐の象徴でもあるが、植物を育てる豊潤の力を持っている。その荒々しさの中にある優しさ。雷雨で登山者を拒むのも、何かの理由があるのだと古妖達は思っていた。
 その雷獣は覚者や妖登場が登場した四半世紀前頃から山にこもり、姿を見せることなく過ごしてきた。山に住む古妖達すらその姿を見ることがなかったのだが……。
「天麟様が助けを求めている……」
 座禅を組んでいた一つ目小僧が瞳を開け、立ち上がる。
 天鱗。それはこの山に住む雷獣。この一つ目小僧はそれを奉じる僧でもあった。
「我一人では手に負えぬ。人の手を借りるとしよう。……確か彼らの名は――FiVEと言ったか?」
 一年前、『古妖狩人』なる存在から多くの古妖を救った存在。目まぐるしい成長と活躍を重ねる組織。その名前は古妖の間にも広がっていた。
「土蜘蛛の村の子に伝手を取れ。火急の事態なるぞ!」

●FiVE
「その一つ目小僧さんと戦ってもらえますか?」
『安土村の蜘蛛少年』安土・八起(nCL2000134)は集まった覚者の前でそんなことを言った。一つ目小僧からの依頼と言う話を聞いていた覚者達の顔に、疑問の表情が浮かぶ。
「あ、すみません。順を追って説明しますね。
 兵庫県に住む一つ目小僧さん。FiVEに依頼をしたのはこの古妖です。なんでも『雷獣に会ってくれ』と」
 雷獣。
 日本全国に存在する雷を司る古妖である。その姿は千差万別で、猫のようであったり狼のようでもあったり猿のようでもあったりする。『平家物語』に出てくる『鵺』もまた雷獣と言われている。
 それなりにポピュラーな古妖だが、その発見例は皆無と言ってもいい。
「会ってくれ?」
「はい。なんでも山に住む雷獣が困っているようなのですが、雷獣自身は動くことが出来ないようです。なので会って直接話を聞いてくれ、と」
「で、一つ目小僧と戦わないといけない理由は何だ?」
「一つ目小僧さんは雷獣の状況を知っているようなのですが……『我を程度の実力なら、残念だが役に立たぬ。これも審議と思ってくれ』とのことです」
 八起の言葉に肩をすくめる覚者達。助けを求めておきながら、審議をするとは。面倒な相手だ。
 逆に言えば、それだけ実力者を求めているという事になる。その白羽の矢がFiVEに真っ先に来たというのは今までの積み重ねの結果だろうか。
「行くのでしたら一応僕も同行しますけど、どうされます?」
 八起の問いかけに、貴方は――


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.『一つ目小僧』の撃破
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 主の為に身を張って実力を測る……萌えキャラですね(違う

●敵情報
・一つ目小僧(×1)
 古妖。名前は『一律』。身長2メートルほどの人型です。外見的特徴は顔の真ん中にある大きな瞳でしょう。ボロボロの袈裟を着た僧のような格好をしています。
 雷獣の『天鱗』を奉じる僧侶です。人間を襲うにしても、音や幻影で脅かして山頂に近づけさせない程度の『中立』な古妖です。
 実力を測る、という事なので戦闘不能者には攻撃をしません。降伏もいつでも受け入れます。

 攻撃方法
 錫杖  物近列  錫杖を振り回します。
 喝弾  物遠単  気合と主に拳を突き出し、衝撃波を放ちます。
 幻惑  特遠全  一つ目による幻惑。[ダメージ0]〔混乱〕
 怪光  特近貫3 一つ目から光線を放ちます。(100%、50%、25%)

●NPC
『安土村の蜘蛛少年』安土・八起(nCL2000134)
 古妖とFiVEの仲介人と言う立場で同行します。山登りの装備などは彼が用意するため不要です。
 中立の立場をとるため、戦闘には参加しません。

●場所情報
 山の中腹にある寺。その庭。時刻は昼。足場や広さや明るさなどは戦闘に支障なし。戦闘開始時の互いの距離は十メートルとします。
 事前付与は不可。一礼してから試合開始の形式です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年11月21日

■メイン参加者 8人■

『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)
『黒い靄を一部解析せし者』
梶浦 恵(CL2000944)
『独善者』
月歌 浅葱(CL2000915)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『スピード狂』
風祭・雷鳥(CL2000909)
『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)


「雷獣ってなんかいい響きだねぇ。すっげー速そうな響き!」
 うんうんと頷いて『スピード狂』風祭・雷鳥(CL2000909)はランスを構える。早さを求める雷鳥は、自分よりも速そうな相手に強い興味を持っていた。もちろん仕事を忘れているわけではない。やらなければならないことは分かっている。
「雷獣ですか。かなり強い古妖とのイメージがあるのですが」
『希望峰』七海 灯(CL2000579)は言葉を選ぶように考える。荒々しさと同時に豊潤を与える雷。それを意のままに操る天候の獣。その古妖が困っているというのは、どういうことなのだろうか。
「ええ。それほどの力有る存在が困っている……とは、また」
 灯の言葉を継ぐように『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)が頷いた。神職である冬佳は雷獣の伝承にも詳しい。少なくとも、人に寄り添い助けを求める存在ではないはずだ。それほどまでの状況が起きている、という事だろうか。
「ふっ、助けを求めるなら応えるまでですっ」
 腰に手を当てて『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)は答える。助けを求められればたとえ山だろうが海だろうが突き進んでみせる。それが浅葱の正義だから。一つ目小僧を前に臆することなく立ち尽くし、いつでもこいと胸を張る。
「試合形式とは言え、戦闘で推し量るって事は頼み事には荒事がつきものって事だよね」
 荒事は苦手なんだけどな、と肩をすくめる『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)。だがこの戦いの結果で電波障害のことが何か分かるのなら、それに勝る報酬はない。神秘を探求する者として、ここで退くことはできない。
(杞憂……なのでしょうか?)
 梶浦 恵(CL2000944)は周囲を見まわたし、自分達以外の存在を探っていた。自分達がここで戦っている間に雷獣に向かう者がいないかと思っていたが……この山は不審者を悪天候で阻む雷獣の山。今の天候が杞憂の証だ。
「実力、というのは純粋に力のぶつけ合いということだろうか。それとも、対策含めた戦闘全体のことだろうか」
 戦う前に確認を取る『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)。一つ目坊主は思案し、後者だと告げる。求められるのは戦闘力。どういう形であれ、相手を打ち負かす能力を求めているという。その答えに行成は納得したと頷いた。
「こっちの準備は問題ないよ」
 柔軟体操を終えた東雲 梛(CL2001410)が第三の目を額に顕現させる。何かが起こっている。その流れを梛は感じ取っていた。FiVEの活躍故に頼られた結果なのか、あるいは嫉妬された結果なのか。その両方なのか。
「汝らが信頼に値するかどうか。不遜ではあるが試させてもらおう」
 不遜。思いあがった態度。自らそれを口にする。それは覚者に対する一定の信頼がある証。彼らのことは知っているが、雷獣の危機を救うに値するか試さねばならない。
 逆に言えば、それだけ切迫している状況なのだ。誰でもいいというわけでもない。実力を兼ね備えた者を求めているのだと。
「よろしくお願いします」
 一礼の後に、覚者と古妖は踏み出した。


「全力で行きます!」
 初手を取ったのは灯だ。灯の家は灯台守。電波障害において灯台の需要は高い。電波障害かが解決すればその必要性は減るだろうが、船舶の安全が増すなら本懐だ。その為に力を注ぐことを惜しまない。
 鎖鎌を手に灯が古妖に迫る。分銅部分を回転させながら投擲し、相手の腕に絡ませる。絡み武器の真価は相手の動きを大きく制限できること。絡ませて、鎌で斬る。基本に忠実な鎖鎌の攻め。毎日の鍛錬により無駄なくそれが行われる。
「FiVEに依頼をしたのは間違いではなかったと、そう思って頂けるように頑張ります!」
「信じておるよ。だがこちらも手は抜かぬ」
「シンプルな見た目だけどだからこそ強そうだよねぇ」
 雷鳥はそのスピードを生かして、一つ目小僧の死角に回るようにステップを踏んでいた。だが、それが容易ではないことに気づく。死角に回ったと思っても、確実に相手の動きがこちらを捕らえているのだ。容易に隙を見せてくれない。
 僅かな隙を見出し、ランスを構えて突撃する。速度と重量。ランスの先端にかかるエネルギーは、その二つが重要になる。速く、より速く。求めるは速度。身をかがめ、全ての体重を乗せて雷鳥は一つ目小僧にランスを突きつける。
「やっぱり決定的な隙は見せてくれそうにないね」
「そうでもない。今の隙を逃さぬとは見事」
「人間に……私達に接触を図ってきたのは、貴方一人の手には負えない事態、と」
 刀を手に問いかける冬佳。古妖の言葉から推測できることは幾つかある。一つ目小僧とて弱くはない。だが、それでも解決できないモノがいるということだ。しかも審議せねばならないという事は、誰でもいいというわけではない。信頼できる戦力を求めているのだ。
 冬佳は刀を正眼に構え、そのつま先を古妖に向ける。わずか一瞬の集中。呼吸すら止めるほど深く集中し、呼気と共に冬佳はすり足で古妖に迫る。滑るような動きは、最小限の重心移動。それによりぶれることなく刀は動き、鋭い三連撃を放つ。
「動けない……と言ってましたね」
「うむ。天麟様を始めとした雷獣は動けずにいる。二十五年程ではあるが」
「二十五年は長い月日だと思うのですがっ」
 古妖と人間の時間間隔の差に驚く浅葱。浅葱の年齢のほぼ二倍である。二十五年の間、動かずに何かを行っていた。それも一つの『正義』なのだろうと浅葱は納得する。それが助けを求めるのなら、断る道理はなかった。
 左右からの一撃――に見せかけて相手の袈裟を掴む浅葱。おそらく二度は通じないだろうフェイント。その好機を逃すことなく袈裟を引き、相手の体重を揺らす。相手が体勢を戻そうとする力に合わせて押し、足を引っかけて投げ飛ばす。
「ふっ、これでどうですかっ」
「童にしては見事な体捌き。感服した」
「成程。これは――」
 行成は一つ目小僧の動きを観察し、単純な単眼巨躯の存在ではないと気付く。複数で攻める覚者の動きに対応し、しっかり反撃をする。将棋の棋士に似た思考。次の動きを予測し、その一手先を前もって潰す。目潰しをしてもその影響は小さいだろう。
 だからこそ、とばかりに行成は薙刀を使って土砂を古妖に向かって飛ばす。視界を奪ってその隙に攻撃する――と古妖に予測させて、その裏をかくように攻撃のテンポを崩す。行成の攻撃を予測していた古妖の攻撃は空振りし、その隙をつくように薙刀が振るわれた。
「そちらが主のために全力であるのなら、こちらも全力で挑む」
「当然の戦略だ。だが次は通じぬと知るがいい」
「体力の回復は任せます」
 仲間の回復術を信じて、恵は古妖のバッドステータス対策に回る。覚者の戦い方は役割分担。個としての強さは古妖に劣るが、連携だっての強さは単純な八人分の戦力以上になる。それぞれがそれぞれの役割を。
 一つ目小僧の目が光る。神経を震わせる幻覚の光。その光に負けないように意識を強く保ち、恵は術式を展開する。待機に含まれる浄化物質を手のひらに集め、凝縮する。それを風に乗せて仲間たちに振りまいた。光にやられた神経が、涼風で癒される。
「私自身が混乱を受けない様に気をつけなくてはいけませんね」
「助かったよ。回復は任せて」
 混乱から回復した理央が礼を言う。バッドステータス対策を任せることで、理央は回復に専念できる。もちろん、不測の事態に備えてバッドステータス対策を用意してある。いかなる状況にも対応できるよう努める。それが自分の役割だ。
 懐から取り出した符を指先でなぞる理央。朱で描かれた文字にそって指が動き、それを追うように源素が流れる。符は水に変化し霧雨となり、仲間たちに降り注ぐ。水の源素を含んだ雨が覚者達の傷を癒していく。
「術式型水行使いの本領発揮、かな?」
「恵みの雨か。良き癒しだ」
「あの一つ目の光、覚えられるといいんだけどな」
 梛は一つ目小僧の使う幻惑の光を使える様にならないかと考えていたが、簡単にはいかないかと諦める。あの古妖も長い鍛錬の末に会得した術なのだろう。それだけの時間をかければ可能かもしれないが、戦闘中には難しそうだ。
 一つ目小僧から距離を取り、龍の図柄が彫り込まれている銀製の棍を手にする梛。棍を横なぎに振るい、木の源素を展開する。棍の軌跡を追うように棘の鞭が振るわれた。袈裟を赤く染める一撃。棍を回転させ、笑みを浮かべて問いかける。
「君の目に適ってるかな?」
「無論。だが審議は審議。まだ終わりはしない」
 ファイブの覚者の実力を認める一つ目小僧。噂は確かであったか、と驚く声の中には確かに称賛の音が含まれていた。
 同時に覚者達も古妖の強さを感じていた。山にこもり、雷獣を奉じてきた僧。その実力は単体とはいえ侮れない。
 審議という名の戦いは加速していく。


 覚者達はダメージを受けた前衛を下がらせて回復させることでダメージを分散して誰一人倒れないように戦っていた。だがそれは『もう少しで倒れそうだ』と相手に示唆するも同然である。遠距離攻撃を用いて追撃すれば、その者は倒れてしまうだろう。
 だがそれは一つ目小僧にそのつもりがあれば、だ。
 戦闘目的が覚者達の審議であり覚者を葬る必要がない以上、追撃は不要と下がったモノを追うことはしなかった。むしろ覚者全員の実力を見るために新たな参入者と相対する。
「成程。あくまでボクらの実力を測りたいという事か」
 回復を担う理央は真っ先に古妖の意図に気づく。体力に気力にと様々な回復を行う理央。もし本気で攻められれば、何名かは手が回らず倒れていただろう。だからと言って手を抜ける状況ではない。回復を止めれば仲間が一気に大怪我を負うことになる。
「ならば見せよう。これが私の気合だ」
 一つ目小僧の意図を察し、行成は強く薙刀を握りしめる。全身の筋肉を引き絞り、その力が薙刀に向かうように構える。全身全霊。打ちだされた一撃はまさに行成の心と体を乗せた攻撃。刃が古妖の体力を大きく削っていく。
「はい。力を示しましょう」
 呼吸を整え、意識を集中する冬佳。銀の髪が山風に吹かれて僅かに薙いだ。構え、踏み込み、斬撃。幾度となく繰り返してきた剣術。自らの持ちうる剣筋の全てを見せるように、多方向から攻める冬佳。出し惜しみはしない。彼らの信頼に応えるために。
「いろいろ気になることは多いけど……」
 地を蹴りながら雷鳥が口を開く。雷獣が頼みたいこと。電波障害。気になることは多いけど、今はこの一つ目小僧の目にかなう戦いをするのみ。足を止めずに戦場を駆け回り、稲妻のように踏み込みランスを穿つ。そのまま速度を殺さず離脱し、また駆ける。
「……っ! なんとか避けれました」
 天の術式で動きを増した灯が、一つ目小僧の錫杖をなんとか避ける。古妖は見た目通りのパワーファイターだ。その一撃を受ければ一気に体力が削られてしまう。冷や汗をかきながら神具を振るう灯。
「奉じる信念はいいものですっ。応える礼儀は全力手加減抜きですっ」
 浅葱は幻覚対策で目を閉じたりしていたが、効果は薄いと判断して途中でやめる。逆に相手を真っ向から見て、全力で挑んでいた。錫杖をナックルで受け止め、神具ごしにその瞳を見る。強い気迫で相手を睨み、そのまま錫杖を押していく。
(山に異変はない……。大丈夫のようですね)
 恵は戦いの最中も天候を気にしていた。雷獣を狙うものがいるかもしれない。考え過ぎなのかもしれないが、可能性だけは考慮しなくては。仲間が受けた幻惑を解除しながら、同時に危機管理を行う。思考することが恵の最大の武器だから。
「そろそろ幻惑攻撃が来るか……?」
 梛は一つ目小僧の意幻惑攻撃から回復役の理央を守るために構えていた。だが相手の攻撃に合わせて動くのは難しい。こちらが守っているのが分かれば、古妖はそれに合わせて攻撃方法を変えるからだ。
 一進一退の攻防は、少しずつ変化していく。覚者の攻めが一つ目小僧を押していく。流動的に責める覚者の攻撃を攻めきれず、一つ目小僧の呼吸が少しずつ乱れてくる。それでも戦うことをやめないのは、雷獣に対する忠義だろうか。
「これで終わりです」
 言葉と共に踏み込む冬佳。その動きは舞うように美しく、僅か一拍子で自らの間合に相手を捕らえていた。自らの筋肉を酷使して放たれる三連撃。
「一つ――」
 一撃目で錫杖を弾き、
「二つ――」
 二撃目で足を傷つけて動きを止める。そして三撃目で――
「三つ――!」
 横なぎに振るわれる刀の一閃。それが古妖の胸を裂く。
 一つ目小僧は口元に笑みを浮かべ、そのまま地面に倒れ伏した。


「見事であった。噂通りであったと改めて認識させてもらった」
 理央に傷を癒してもらいながら、一つ目小僧がFiVEの戦闘力を称賛する。あれだけ斬りつけても後に残るダメージがないというのは、かなりのタフネスである。
「私、空を飛んで周囲を調べてみます。気になることがあるので」
「あいや待たれい。この山でうかつに空を飛ぶと天麟様の結界に触れる可能性がある」
 空を飛んで不審者を探そうとした恵を征する一つ目小僧。その言葉に動きを止める恵。
「この山に踏み入る者は稲妻により追い返される。それは天麟様が張った<雷獣結界>によるものだ。
 そして貴方達の力を借りたいというのはその結界の事だ」
 一つ目小僧の言葉に、覚者達が注目する。自分達が雷獣に呼ばれた理由。
「二十五年前に妖なる存在が湧き出た。古妖とは違い、人間を襲う凶悪な存在だ」
 だが最初の一言は、覚者なら周知の事実であった。
「ええ。その時に人間にも源素を操るものが出始めたと」
「人間にもそういった力を持つ者が現れたことは知っている。だが当時の人間の持つ力程度では対抗しきれぬ力を持つ妖がこの山に現れたのだ。
 それを封じるために天麟様はこの山に結界を張ったのだ」
「それが<雷獣結界>。……雷獣が動けないというのは、その結界を維持しているからですか?」
 冬佳の言葉に頷く一つ目小僧。
「この山を中心にして広域に小規模の稲妻を発し、多重の結界を張ったのだ。そうすることで暴れる妖により結界が破られても、即座に対応できる。また外部からの侵入者を察し、誰も近寄らせぬようにするために。
 他の土地に住む雷獣様も人里に出してはならぬ妖どもを封じておられると聞く。結界の形式に多少の差異はあろうが、その中に危険な妖を閉じ込めてそこに近づけさせぬようにしているのは共通しておる」
「広域に稲妻の結界を……成程、それが電波障害の原因なのでしょう」
「つまり二十五年前に電波が突然通じなくなったのは、雷獣が妖を封じたため?」
「間接的とはいえ、妖発生が発端だったわけか」
 灯、梛、行成が頷きあう。二十五年前、まだ源素に目覚めたばかりの覚者。その力はまだ弱く、高ランクの妖には対抗しきれなかっただろう。そんな妖が街に入ればそこに住む人は蹂躙され、生活範囲は大きく狭められていたに違いない。
「そしてここからが本題なのだが、各地の雷獣様達が展開している結界に限界が来ている。まだ余力はあるが、このままでは疲弊して結界の維持が難しくなる。
 そうなる前に、妖に対抗しうる戦力を求めておるのだ。残念だが古妖では足並みがそろわなすぎる」
 純粋な戦闘力として古妖は強い。だが、その強さ故に一致団結して一つの敵に挑もうという者は少ない。また高い戦闘力を持つ古妖は人間と不干渉もしくは憎む古妖も少なくなく、そういった輩は妖の跳梁跋扈を止める理由はない。
「過酷な事を頼むことは承知しておる。どうかその妖を退治してくれぬか?」
 一つ目小僧が言っているのは、雷獣が封じている妖を倒してくれ、という事だ。それは決して容易な戦いではないだろう。だが、
「お任せくださいっ。その妖、FiVEが退治して見せましょうっ」
 浅葱は迷うことなく胸を叩いて快諾する。他の覚者も同じ意見だった。
「それで、もし妖を倒せればその結界は解除して頂けるのでしょうか?」
「無論。妖が存在しない以上、<雷獣結界>を維持する必要はあるまい。汝らが言う障害が結界が原因だというのなら、むしろ迷惑をかけた詫びをせねばならぬ」
 謝罪する一つ目小僧。だが雷獣達の機転がなければ、妖に蹂躙されて今の社会はないのかもしれない。最低でも、近隣の多くの命が失われていたのだ。
「近く討伐チームを編成します」
「すまぬ。こちらも天鱗様に報告し、他の地の雷獣達に通達しよう」
 ――やることは決まった。そうなれば後は急ぎ準備をするまでだ。山を下りた覚者達は五麟市に戻り、妖討伐隊を編成するのであった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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