中秋の月夜を皆で眺めよう
中秋の月夜を皆で眺めよう


●十五夜お月様……ではないけれど
 中秋の名月。
『秋の真ん中頃に見ることができる満月』の意味を持つ言葉だが、言葉に反して必ずしも満月とは限らない。今年の名月は、少し欠けた名月という事になる。
 満月より二夜前とはいえ空に浮かぶ月は真円に近く、見る物を魅了する。天候にも恵まれ、雲一つない夜空に月が浮かぶのが見える。
「――と言うわけで、月見と行こうではないか」
 どういうわけだ、と聞くのは野暮な空気を作って、榊原・源蔵(nCL2000050)が月見に誘ったのは今から数時間前。
 近くの神社で月見を行うという事で、FiVEの覚者に声をかけていた。月見団子などはすべて神社が用意してくれるそうだ。
「偶には月を見て夜を過ごすのもいいもんじゃよ」
 カラカラと笑いながら去っていく源蔵。月見に来てもいいし断ってもいい。気軽に歩く背中がそう語っていた。

 満月より二夜前とはいえ空に浮かぶ月は真円に近く、見る物を魅了する。
 嗚呼、今夜はこんなにも、月が奇麗だ――


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:どくどく
■成功条件
1.月見を楽しむ
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 欠けた月の出る夜宴を。

●場所情報
 五麟市にある神社。その境内と社務所を月見の為に解放しています。
 天候は晴れ。雲一つありません。足元を照らす程度にライトがあります。
 境内にはいくつか座る場所があり、座って月を鑑賞できます。また、社務所には月見団子が用意されており、そこで食べることができます。もちろんどこかに持って行っても構いません。
 宴はむしろ歓迎です。ただし一般の神社なので、過度の騒乱はご法度。お酒はOKです。
 未成年者(実年齢。見た目の年齢や変身後の年齢は関係ありません)の飲酒喫煙はマスタリングの対象になりますのでご注意ください。
 
 行動は主に三種類(それ以外の行動があれば【4】でお願いします)です。プレイングの冒頭か、EXプレイング内に番号を明記してください。
【1】月を見る:夜空に浮かぶ月を見ます。一人でも、複数でも。
【2】団子を食う:宴関係はこちら。皆で騒いだり、遊んだり。
【3】お手伝い:神社のお手伝いをします。団子を作ったり、場を盛り上げたり。

●NPC 
『気炎万丈』榊原・源蔵(nCL2000050)
 じーさんです。【2】で酒を飲んでます。

『安土村の蜘蛛少年』安土・八起(nCL2000134)
 少年です。【3】で団子をせっせと作っています。

 NPCは絡まれなければ基本空気です。また呼ばれればどこにでも行きます。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
 
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
50LP
参加人数
32/∞
公開日
2016年09月29日

■メイン参加者 32人■

『ちみっこ』
皐月 奈南(CL2001483)
『ファイブブラック』
天乃 カナタ(CL2001451)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『花屋の装甲擲弾兵』
田場 義高(CL2001151)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『想い重ねて』
蘇我島 恭司(CL2001015)
『見守り続ける者』
魂行 輪廻(CL2000534)
『囁くように唄う』
藤 壱縷(CL2001386)
『Overdrive』
片桐・美久(CL2001026)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『天衣無縫』
神楽坂 椿花(CL2000059)
『月下の白』
白枝 遥(CL2000500)
『もう一人の自分を支えるために』
藤 零士(CL2001445)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『花守人』
三島 柾(CL2001148)
『赤ずきん』
坂上・御羽(CL2001318)
『白焔凶刃』
諏訪 刀嗣(CL2000002)
『Mr.ライトニング』
水部 稜(CL2001272)
『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)


 空に浮かぶ月は白く、真円とは言えずとも見る者を魅了する何かがある。
「中秋の名月ですね!」
 美久はそんな月を見ながら一つ頷いた。神社には月を見るためにFiVEの覚者が集まり、用意された月見団子を手に歓談している。
 そして美久はその団子を作っていた。ただ作るのでは面白くない、とばかりに南瓜を使った団子を作り出す。
「あ、安土さん手伝ってもらえますか?」
「いいですよ。何をすればいいんです?」
「先ずは南瓜に火を通して――」
 八起に説明しながら手を動かす美久。片栗粉と豆腐を混ぜ、こね始める。
「このままお湯で茹でたら完成ですね。このままでもいいですし、みたらしをかけてもおいしいですよ」
「南瓜の団子ですか。凄いですね、片桐さん」
「味見は作った人の特権ですよ。どうです?」
 言って完成品を八起に差し出す美久。八起はそれを口にして、顔をほころばせた。

「お供え用のは普通のでしょうけど。お月見する方たちが食べる分は、ちょっと工夫しましょうか」
 という事で里桜の前に並んだのは、粒あん、胡麻あん、カボチャあんの団子である。餡子は家で作ってきたのか、結構な大きさのタッパーが並んでいた。手際よく団子をこねながら、みたらしはどうしようかしら? と首をかしげる里桜。
「あら安土さん、お団子作るの上手ですね」
「はい。村ではよく作ってましたから」
 里桜は器用に団子を作る八起に話しかける。お互いが作った団子を交換し、舌堤をうつ。
「もしかして安土村でもお月見とかしてたのですか?」
「はい。この時期には矢代様と一緒に神社でお月見をしていました」
「矢代様にもお団子を差し上げられたら良かったですね」
 窓から見える月を見ながら、里桜は村に住む土蜘蛛の事を思い出していた。

「ちょっと黙々とやり過ぎたか……」
 気が付くと大量の月見団子を作っていた稜。冷凍庫に入れれば多少は日持ちするだろうが、それでも作りすぎたのは失敗かと頭を抱える。
「でも皆さん食べてくれそうですよ」
 澄香は遠くで宴に興じている覚者達を見て、そんな言葉を返す。結構なペースで団子を食べている為、その気になれば全部食べてくれそうだ。
 澄香は稜が作った団子の一つをつまみ、少し形が歪んでいるのを見つける。
「これ形曲がっってますね。少し直しましょうか?」
「あ、澄香! いびつなのはそのままでいい。いや、実はな……」
 稜は咳ばらいを一つし、視線を逸らしながら言葉を続ける。
「因子発現してからなんだが、球体を見るとむずかゆくなるんだ。こう、嫌な所くすぐられてる感じがしてな。
 立体の球が苦手でな……真球に近ければ近い程嫌で、真珠のネックレスとか見るともう……って本当の話だぞ」
「ふふっ、水部さんにも苦手な物があったんですね」
 意外な事を聞いて笑みを浮かべる澄香。自分を世話してくれた親ともいえる稜の一面を見ての喜びか、はたまた厳格な存在の弱点に対する笑みか。その微笑みから、稜は判断がつかなかった。
「そうですね、それじゃこのお団子兎さんにしましょうか」
「確かにウサギなら丸くないし、白で可愛らしいな。どうやって作るか教えてくれないか?」
「ええとですね――」
 澄香の説明を腕を組んで聞く稜。
 窓からは白い月が二人を照らしていた。


 空に名月。手元に酒。
「秋っていやぁこの酒だな」
 義高は酒に月を映しながら、御猪口を回転させる。この時期に出荷される秋の酒。まさに旬の酒と言えるそれを一気にあおる。口の中に広がる甘みと旨み。それを嚥下した時の胃の奥に広がる熱い感覚。それが夜の寒さを吹き飛ばしてくれる。
「『白玉の 歯にしみとほる 秋の夜の 酒はしづかに 飲むべかりけり』……牧水だったな」
 義高が口にしたのは、戯曲などにも使われる有名な短歌である。秋の夜長に一人酒を飲み、静かに人生を考える。自然を愛し、酒を愛した歌人。できるなら一献交わしたかったな、と思いまた酒を飲む。
「月は見頃、酒は飲み頃って、日本人に生まれた幸せの最たるもんだな」

「飲みたいなら一人で飲んで行き倒れてろよ」
「折角の月、引きこもってるとかねーわ! 感謝してよ」
 維摩と四月二日は月を見ながら酒を酌み交わしていた。
「さすがの赤祢くんも、キレイな月見りゃなんか感じるモノあんだろ?」
「ふん、癪だが自然の美しさは認めよう。視界に酔っ払いが映らなければだがな」
 酒のついでに毒舌も交わしていた。これが日常である二人は、特に不快感を感じることもなく酒を飲んでいる。四月二日は用意してあったつまみを維摩に差し出す。
「はい。つまみは焼き立ての海鮮。エビにホタテに牡蠣だよ」
「態々マメだな。精々兎並みに焼けんよう気をつけろ。どうせ煮ても焼いても食えんだろう?」
「失礼な、結構ウマいかもしんねーだろうが」
 悪態をつきながらもつまみを口にする維摩。そんな態度を気にすることなく四月二日は新たな海鮮を焼いていた。
「海に落ちて海鮮に目覚めたか? 転職するなら良い鵜飼いを紹介してやろう」
「よく言うー。俺をオトした張本人のくせにー!」
 ケラケラと笑う。ちなみにオトしたのは海に、である。
 互いに罵り愚痴を言いあいながら、なんだかんだで斬れぬ縁持つ二人であった。

「お前甘いもんは好きなのか?」
「愚問です! 聞くまでもありません。雌が甘い物嫌いなのであればそれは雌の皮をかぶったおっさんです!」
 月見団子を手にしながら尋ねる刀嗣の問いに、力いっぱい返答する御羽。
「トージも甘い物食べるのですね!」
「体動かした後にはな。お前はガキなんだからなんでも食って成長しろ」
「餓鬼だとあまりナメて貰っては困るのですもぐもぐ。これはみうの外面的な成長が遅れているだけでありもぐもぐ、内面はいついかなる時でもレディなのですもぐもぐ」
 団子をもぐもぐ食べながら答える御羽に、ため息をつく刀嗣。何処からどう見てもお子様な御羽。レディへの道は遠そうだ。
「おい、お前口の回りにアンコべたべたくっついてるぞ」
「え!? どこですか、見えないので取ってください! さあ、取りなさい! ボーナスタイムですよ! 残念、タイムアウトですふきふき!」
 ほぼノータイムで刀嗣の服を掴み、口を拭こうとする御羽。
「俺の服で拭こうとするな! また関節キメられてぇのかテメェ!」
「これは一か月早いトリックオアトリートの、悪戯のほうなのです!」
「ほー、そうかい。ハロウィンか。ならたっぷりお菓子やらねえとな。来月なんてケチくせぇ事言わねえ。たらふく食えよおら!」
「むぐむぐむぐー!」
 刀嗣に口の中に団子を詰め込まれ、苦しむ御羽。レディへの道は遠そうである。

「凜音ちゃん、お月見にいこう!」
「……お前と一緒にいる限りは無理だよな。分かってた」
 元気よく手をあげる椿花を見て、凜音は諦めたようにため息をついた。静かに月を愛でようと思っていた凜音だが、椿花がこれを聞いて黙っているはずもない。二人神社に赴き、月見団子を貰う。
「凜音ちゃん! お月見団子貰ったんだぞ!」
「良かったな。月見には団子が必須アイテムだものな」
「お月見団子、こう、椿花が知ってるのとはちょっと違う形だけど……」
 丸い団子を手に首をかしげる椿花。ああ、と頷く凜音。
(すっかり忘れてたが、こいついいとこのお嬢さんだっけ)
「椿花のうちだと、棒? 細長い? 形のお団子に、餡子がぐるって巻いてあるんだぞ」
 一般的に月見団子は丸いものだが、地方によっては細長かったり窪みが入った物もある。旧家ではその伝統を受け継いでいることも多く、椿花の家もその類なのだろう。
「じゃあ、今度一緒に椿花のうちで作ってるお月見団子作ろう!」
「俺が、お前の家に?」
 突然の提案に面食らう凜音。だがそれを意に介さず椿花は続ける。
「いつもと違って、今度は椿花が凜音ちゃんにお料理教えるんだぞ!」
「はー……。まあいいや。それ食ったら月もちゃんと眺めような?」
 この元気の良さも椿花らしい、とため息をついて受け入れる。凜音はそのまま月を見ながら、言葉を続けた。
「ちゃ、ちゃんとお月見もするんだぞ! た、食べてばかりじゃないもん!」
  椿花の言葉を聞きながら、はいはいと頷く凜音であった。

「くやしー!」
 月見団子を食べながら翔が悔しそうに地団太を踏んでいた。
「確かに。色々出来たかもしれないな」
 柾がそれに頷きながら、ビールを口にする。苦い味が口の中に広がった。
「……ああ、そうだな」
 心ここにあらず、と言う風体で行成が頷いた。団子も酒も手についていない。
「いろいろ大変だったみたいだね」
 亮平がねぎらいの言葉を三人に返す。作ってきたイカと里芋の煮物を出しながら、大人達用のお酒を用意する。
【モルト】の四名は月見の話を聞いて、境内で月を鑑賞していた。未成年の翔はジュースを、他の三人はお酒を飲みながら歓談に興じていた。
 そして話題は翔と柾と行成が最近戦った妖戦の話になる。果敢に挑むが一歩及ばず敗退することになった戦い。苦い思いが三人の胸に蘇る。それを見ている亮平は、どう声をかけたものかと考えていたが、
「この苦い思いは忘れない。だけど引き摺る事もしない! そのために食べまくるんだぜ!」
「そうだな。引きずっていても仕方ない」
「私も酒を一杯もらえるだろうか、あとつまみも頼む」
 翔の一言で空気が変わる。失敗を受け入れ、その上で前に進む方向に。口の中で団子をかみ砕き、飲み込むように。
「次は大丈夫だよ」
 良かった、と言う顔をする亮平。持ってきた煮物を三人と、彼らの守護使役に差し出す。絶望を跳ね返す一言などない。必要のは培った信頼と手を差し出す行動。それだけで、彼らは立ち上がってくれる。
「今日は折角のお月見だ。月見酒とはなかなか風情があって良い」
「ああ。こうしているだけで心が落ち着くようだ」
「オレも早くお酒が飲めるようになりたいなー」
「あと八年は我慢しないとね」
 そしていつもの【モルト】に戻る。月の下、酒と食べ物と仲間達が繰り広げるいつもの空間に。
 またいつか、厳しい戦いを前に膝を折ることがあるだろう。辛い現実を前に前を見ることができなくなることがあるだろう。
 だけど今日のように誰かが隣に居るのなら、前は見れずとも横に居る仲間を見ることができる。
 それだけで何かが変わるかもしれない。


「お手伝いをしようかと思ったけれど、たまにはゆっくり月を愛でるのも良いかな……」
 遥は一人静かに月を見ていた。雲一つない月は真円ではないが綺麗な円を描き、まるで引きずり込まれそうな錯覚を生む。
 満月なら望。雲がかかれば叢雲。雨なら雨月。雲一つない月だけが月見ではない。様々な月を愛でる事こそが月見なのだ。
(ふふ、昔の人はどんな天気でも楽しんでたんだろうね)
 静かにほほ笑み遥は貰った団子を手にする。月にこれを捧げるのは昔からの風習だ。これもまた、月見の楽しみの一つなのだろう。
「今見える月は昔とどう変わったんだろう? 古妖達だったら分かるのかな?」
 今度古妖に会ったら聞いてみようかな。そんな事を遥はぼんやりと考えていた。

「うひゃー。この時期になると、夜は少し肌寒いな……」
 カナタは体を温めるように自分を抱いて震える。残暑も通過し、秋になる時期。この服装では寒かったか、と少し反省していた。それ以上に、この場所が問題なのか。
 カナタは神社の木の上に昇り、月を見ていた。貰った月見団子を手にしながら地上よりも少し高い場所で月を見る。秋風が吹き、葉っぱを揺らす。かさかさと言う音を耳にしながら、空に浮かぶ月を見ていた。
(あれか……月光浴ってやつ?)
 月の光に魔力があるという。その魔力を受け取ることで、運気をあげることができるという。勿論眉唾だ。だが、それを信じさせる何かが月にはあった。
「ってうわあぶねっ!」
 などと考えていたら、木から落ちかけた。肝を冷やしながら、カナタは木にしがみつくのであった。

「こうして月をゆっくり眺めるのはいつ以来になるのでしょうか」
 静かな神社の境内で壱縷はゆっくりと月を眺めていた。孤児として生活し、歌手として生計を立てている壱縷。ゆっくりとした時間を過ごすのは難しかったのだろう。それを感じさせる微笑みだ。
「月なんてこんなにゆっくり見た事あったでしょうか……」
 その微笑みを見た後で、零士は月を見上げる。特殊な事情で最近ようやく出会えた血の繋がらない義姉。その姉とゆっくりとした時間を過ごすのも、思えば初めてではないだろうか。
「零士様はお月見、した事あります?」
「月見と言うものは初めてになりますね。いつも勉強ばかりでしたから……」
「そうでしたか。ここの皆様は素敵な方ばかりいらっしゃいますから、きっと良い思い出になるでしょう」
「はい! 僕ももっと沢山の方とお話ししたいですね!」
 未来の出会いに明るい顔をする零士。自分がそうであったように、彼にも良き出会いがあるようにと壱縷は願う。
「でも、僕はいま姉様と話ができることがいい思い出です。だって、尊敬してた姉様がこんなに近くにいるんですよ」
「私を尊敬……? ふふ、嬉しいですね」
 壱縷に対して純粋な憧れの感情を表に出して話す零士。たおやかにほほ笑みながら、壱縷は心の怯えが薄れていくのを感じていた。
(……嫌われてるとすら覚悟していたのに)
 かつて自分を勘当した家の義弟。その事情から悪意をもたれていると思っていたのに。
 月は優しく、義姉妹を照らしていた。

「そろそろ秋やし、その恰好は寒ないか?」
「あら……ふふ、切裂君からなんて明日は雨かしらん?」
 ジャックは気にもたれかかり酒を飲む輪廻を見つけ、上着をかける。その行動に輪廻は微笑みながら言葉を返した。そのまま二人は月を見ながら言葉なく時間を過ごす。
「人って温かいんやけどな」
 沈黙を破ったのはジャックだった。輪廻は盃に写る月を見ながら耳を傾ける。
「この世界はどうも、辛いものばかりやわ」
「そうね」
「こんな月はキレイやんに、人同士が争っているんが辛いんよ。
 できれば殺したくないし、傷つけるもの嫌やわ。でもそれが無理なんも知ってる」
「ええ」
 ジャックの語りを促すように、輪廻は相づちを打っていた。聞いていないわけではない。むしろ聞くことに集中するために言葉を挟まないでいた。
「なあ、輪廻。こんな辛いんなら逃げた方が、楽やろか?」
「ええ、楽ね」
 ジャックより一回り年上の輪廻は、その経験からそれを断言する。
「拳は振り下ろされる側も、振り下ろす側も痛いわ。だから何もしない方が楽なのは確かよ。逃げることが悪いとは言わないわ。むしろ自分を守る手法だもの。
 ジャック、その答えは自分で見つけるのよ」
「自分で?」
「絶対の『正解』なんてないわ。戦ってもいい。逃げてもいい。間違ってもいい。自分で選んで、自分で進みなさい。
 疲れたらまた戻って来なさい。貴方一人くらいが休める場所なら、ちゃーんとここに用意していつでも待ってるから、ねん?」
 言って輪廻はジャックを胸に抱きよせる。
(この柔らかい物体はもしや…っていうか息ができん! 息ができんけど幸せだ!)
 柔らかい何かで、窒息しそうになるジャックであった。

「月にウサギがいる理由ですけど、『私を食べてください』って身を捧げたからだそうですよ」
「お月さんに、うさぎさんがおるんは、そんなお話があったんですね」
 八重と那由多は月を見ながら談笑していた。帝釈天と三匹の獣の話である。
「それにちなんで、私(の御団子)を召し上がれ」
「そんな八重さんの分まで、頂いてしもたら、だめですよ」
 那由多の少なくなったお皿に、八重は月見団子を乗せる。遠慮しながらも笑顔に押し切られる形で那由多は団子を受け取った。そのまま手を止めて、柔らかくほほ笑み口を開く那由多。
「もし八重さんが、私を食べてください、ってうさぎさんみたいな事になってしもて。
 その時は何か出来るかもしれやんから、何でも言うて下さいね?」
『誰かを助ける』という言葉を自然な笑顔で。それが那由多と言う人間だった。言った後で寂し気な表情になり、
「って、うちじゃ、頼りないやろか」
「そんなことありませんよ。そういう時は頼りにさせてもらいますね。那由多さんも、何かあったら、相談ですよ?」
 落ち込む那由多に笑みを返す八重。ああでも、とイタズラをするように口調を変える。
「那由多さん可愛いですから。その前に狼さんにぺろりとされちゃわないように守らなきゃですね。可愛い隙がいっぱいですもの」
「そ、そないなこと……はむ」
 予想外の言葉に慌てる那由多。その口に団子を押し当てる八重。
 二人はまたくすくすと微笑んだ。

「たまちゃん、お月さまには何がいると思う?」
「お月様と言うと、兎さんの、お餅つきですよね」
 紡の問いに、たまちゃんことたまきはお茶をカップに入れながら答えた。ウサギのついた餅は美味しいのかなぁ、と思いながらお茶を紡に差し出す。
「でも他の国だと、蟹とか蠍、ライオン……なんかに見えるんだって」
 大判ストールを鞄から出しながら紡は月を指差す。満月ではない月に浮かぶ模様。それは国によって何に見えるかが違っていた。それぞれの国の文化が伺える。
「他の国の方も、お月様には、色々な想いを抱くんですねぇ……」
 たまきは紡の話をニコニコしながら聞いていた。日本ではない遠い国。だが空に浮かぶ月に何かを思うというのは変わらない。それは千差万別だが、共通の何かを想うという事はどこか繋がっている気がして、うれしくもあった。
(可愛いなぁ……)
 そんな様子を見ながら紡はストールをたまきにかける。寒くなった秋空から身を守るための防寒具だ。二人、ストールに包まれて体が火照ってくる。
「これはお月見誘ってくれたお礼、ね」
「はわわ……!」
 言うと同時に紡は家で作ってきたウサギを模した月見饅頭を、たまきの頬にくっつけた。ひんやりとした団子の感触に驚きの表情をあげるたまきだが、すぐに嬉しそうな笑顔に変わる。
 そんな笑顔に釣られるように、紡も笑顔を浮かべていた。

「星座早見盤と惑星運行表を用意したから、今日は星や惑星の話をしようかな」
 折角夜空を見上げるんだからね、と御菓子は円盤のような器具と惑星や星座のマークが書かれた表を広げる。
「水星はギリシア神話の『ヘルメス』、ローマ神話の『メリクリウス』ね。生まれて二日目で牛を盗み、怒った太陽神を亀の竪琴で宥めたという逸話があるわ」
 御菓子は惑星の名称の元となった神を説明し、それぞれの神話の話をする。その深い含蓄にはー、と感嘆の声をあげる結鹿。
「お姉ちゃん、すごく詳しいんだね」
 結鹿もある程度の知識はあったが、御菓子の知識はそれ以上だった。
「音楽をする上で無駄な知識はないのよ」
 夜空と星座早見盤を使いながらその惑星がどこにあるかを指差しながら説明を続ける御菓子。ずっと上を見ていたからか、首を押さえながら肩を揺らした。
「暗くて誰にも見られないだろうから、ちょっと横になって空を見ようか」
「え? 浴衣だからちょっとはしたない……まあいっか」
 御菓子の言葉に少しためらい、そして地面に転がる結鹿。二人並んで神社の草に横たわり、夜空を見上げていた。草と土の匂いが鼻をくすぐる。目の前に広がる夜空は壮大で、このまま空に落ちていきそうな錯覚すら覚える。
「金星は――」
 星空を見ながらの御菓子の話は続く。結鹿はそんな姉の話を聞き、星々の美しさを更に深めていった。

「綺麗に晴れて、月が良く見えますね」
「天候の不規則な時期だから、これだけ晴れてるのは有り難いよねぇ」
 燐花と恭司は二人並んで月夜を見上げていた。
「街の賑やかさには少し慣れましたが、こんな風に静かな方がほっとします……」
 人が少ない田舎から五麟市にやってきた燐花は、こういった落ち着いた雰囲気に懐かしさを感じていた。FiVEで多くの覚者に囲まれるのも悪くはないが、静かな境内でゆっくりする方が心落ち着く。隣に居る後見人の方をちらりと見る。
「うん。こうやって綺麗な景色を前にしてるんだし、静かな方が落ち着いて良いよねぇ」
 月見団子を食べながら頷く恭司。カメラマンの職業病なのか、この光景をどう撮ればいいか考えてしまう。月夜。境内。そして少しずつ美人になってくる同居人。FiVEでの一年は、この同居人と過ごす一年でもあった。
(最近、人に『柔らかくなった』言われます。きっとそれは……この方に頂いた沢山の見えないものが、私を変えて下さったのでしょう)
 自分の変化は燐花も理解していた。それは多くの人との係わりから生まれた物だ。そしてその大半は、共に過ごす恭司の影響なのは確かだ。
(私はこの方に、何かをお返しできているでしょうか……)
 答えはない。それはこれから築き上げていく事だ。
 空には雲もなく、月の姿を遮る物はない。煌々とした月明かりが二人を照らしていた。

「月がきれいですね……」
 灯は月を見上げて、感嘆の声をあげていた。
「家が灯台なので光が無い場所で月を見上げるのは初めてかもしれません。光がないからこそ綺麗に見える物もあるのですね……」
「そうね。光がないからこそ、今日の月はこんなに綺麗なのよね」
 灯の隣に座っている椿が同意するように声をあげる。空に浮かぶ月を遮る明かりはない。闇の中だからこそ、見える光はあるのだ。
「でも、真っ暗な海に灯台の光が差し込む夜空も綺麗なんですよ。よかったら今度家に見にいらっしゃいませんか?」
「灯の家は灯台なのね。いつか見てみたいわ」
 灯の言葉に、笑みと同時に言葉を返す椿。灯は花が咲いたように微笑んだ。
「小さい頃、あまりにも月が綺麗で欲しくて手を伸ばしたの」
 椿は月に手を伸ばしながら静かに語り始める。手を広げ、何かを掴むように。
「勿論、いくら頑張っても届かなくて、そのうち苦しくなって諦めたけど――
 私は今もきっと届かないものに手を伸ばしている」
「椿さん……」
 椿の脳裏に写るのは、一人の少年。灯はその真剣な声になんと声をかけていいか迷っていた。
「いえ、届かないとは思っていない。私はこの手が届くと信じる」
 月を掴むように手のひらを握り、椿は言い放つ。
 奇跡を掴む者は、神に愛されるものではない。行動を積み重ねる者だ。手を伸ばし続ければ、あるいは――


 そして夜も更け、家路につく者も増えてくる。
「ぶいーん」
 両手を広げて奈南は家への道を進む。空に浮かぶ月は神社で見た時と変わらず、奈南を煌々と照らしていた。
 いつも家族で見ている月だが、今日はFiVEの皆と一緒に見ていた。丸い月、半月、三日月、そして新月。それぞれに趣があり、そして一緒にいる人との話が進む。機能も、今日も、そして明日も。月が空に浮かぶなら、奈南は見るだろう。
「今日も楽しい一日だったよ! ナナンのお土産、お父さんとお母さん喜んでくれるかな!」
 手には神社からもらった月見団子。家族の顔を思い浮かべながら、月明かりに照らされて奈南は走っていた。

 雲一つない夜。浮かぶ月は白く、見る人を魅了する。
 生まれた時より傍にある地球の衛星。ただそれだけの物に、人は多くの物語を生み出していく。神話、宴、出会い、そして恋。
 物語は月が空にある限り、これからも生まれていく――
 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『月見団子』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員



■あとがき■

つきがきれいですね




 
ここはミラーサイトです