【Pixie】天雲遺跡とあなたの気持ち
●自分を説き伏せよ
その場にいるのは、自分と自分。
そして自分の肩にのったピクシーだけだった。
もうひとりのあなたは椅子に座り、あなたを見ている。
ピクシーのもつ力は強力すぎるが故に、数百年にわたって封印されていた。
もしこれが世に解き放たれれば、必ずや争いの種となるだろう。
それだけではない。これまで巡ってきた遺跡の無限樹やイルカたちも危険にさらされ、場合によっては消滅してしまうかもしれない。
その封印の鍵となるのが、今あなたのつれているピクシーだ。
その事実を知り、話し合った上で『二度と封印がやぶられぬよう、最後のピクシーを消滅させるしかない』と決断した彼らは、あなたに戦いを挑んだのだ。
そして今、あなたの目の前に居る。
あなたはあなたを説得し、ピクシーの殺害を諦めさせなくてはならない。
ただ大きな問題は……。
あなたは、なんと言われれば納得するのだろうか……ということである。
その場にいるのは、自分と自分。
そして自分の肩にのったピクシーだけだった。
もうひとりのあなたは椅子に座り、あなたを見ている。
ピクシーのもつ力は強力すぎるが故に、数百年にわたって封印されていた。
もしこれが世に解き放たれれば、必ずや争いの種となるだろう。
それだけではない。これまで巡ってきた遺跡の無限樹やイルカたちも危険にさらされ、場合によっては消滅してしまうかもしれない。
その封印の鍵となるのが、今あなたのつれているピクシーだ。
その事実を知り、話し合った上で『二度と封印がやぶられぬよう、最後のピクシーを消滅させるしかない』と決断した彼らは、あなたに戦いを挑んだのだ。
そして今、あなたの目の前に居る。
あなたはあなたを説得し、ピクシーの殺害を諦めさせなくてはならない。
ただ大きな問題は……。
あなたは、なんと言われれば納得するのだろうか……ということである。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.もう一人のあなたを納得させる(これを八人中四人以上達成する)
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
最後の敵はあなた自身です。
皆で話し合って『ピクシーを消し去るしかない』と決断したあなたを、あなたの力で諦めさせなくてはなりません。
重要なのは、あなたならどう接すれば納得するか、です。
これに最適解はありません。
なぜなら答えは、あなたが知っているからです。
●あなたが知らない補足事項
これはあなた(PC)は知らないことですが、状況的な矛盾を説明するための補足です。
ピクシーは生殖を行ないません。数百年前から自分の老朽化した精神を分裂させ、若い精神体を生み出すことで自らを保存してきました。
ピクシー(ふわりんやコクリコちゃんと呼ばれる個体)がじーちゃんと呼んでいるのは老朽化した方で、もうじき消えて無くなる運命にあります。そしてそれを悲しいとか虚しいとは考えていません。
氷が溶けるように、雲がかすむように、自らもまた消えるものだと本能的に知っているのです。
そんなピクシーは今だけ、八つに分裂しています。
この分裂したピクシーは今まであなたが呼んでいた個体名そのものであり、あなたの中に形成されたピクシー像が独立したものです。
余談ですが。
話し合いで解決でいそうにない相手の場合、いっそ戦って決着をつけるのもアリですし、急に踊り出したり自分自身にしか理解できないようなコミュニケーション方法に出てもいいでしょう。
重要なのは、あなたならどう接すれば納得するか、です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年09月13日
2016年09月13日
■メイン参加者 8人■

●対話、『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)
促されるように席に着くゲイル。
まず何から話すべきか、咳払いをして考えた。
「まるで鏡に話しかけている気分だが……ここはゲイルと呼ばせて貰おう。いいな?」
「ああ」
頷く相手に安堵と緊張がそれぞれわき上がる。
ゲイルの肩にはピコが腰掛けていた。
「まずは俺の考えからだ。ピク……コホン、ピコを殺すという選択肢は、できれば俺もとりたくない。しかし力を手に入れ、暴走した人々を止めるすべも無い。危険人物は山ほど思いつくが、その全てから守り切る保証をピコたちにはできないんだ」
「……」
ゲイルは薄く笑って、手元のグラスを取った。
「言葉が浮ついているな。俺らしくも無い」
「……そう、見えるか」
「自分のことだからな。まるで、雨の日に拾ってきた猫を『飼えないから捨てなさい』と言われた時のような顔をしていた」
これには、ゲイルも目を覆った。
「考えが間違っていると思うか?」
「いや、理屈の通った考えだと思う。お前がピコ自体を危険視していなくて安心しているくらいだ。だが……」
ゲイルはグラスの水に口をつけた。
「割り切れるほど、俺はできた人間じゃない」
「全くだ……」
拾ってきた動物を片っ端から飼うものだから、部屋は狭くなり放題。食費はかかり放題だ。
察するに、近所に迷惑をかけてしまったことも一度や二度ではないだろう。
「それでも」
「構わない」
ゲイルは弱ったように笑った。
「誰かを犠牲に生きたって、もふもふを心から堪能できないだろう?」
●対話、『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)
出されたクランベリーパイに手をつけること無く、ミュエルは目の前のミュエルを見た。
数秒して、目をそらす。
「ヒナちゃんと、約束したの……。もう、誰も悲しませないから、って……」
握ったフォークを、さらに強く握った。
反らしていた視線を、ヒナへと強く定めた。
「イルカさんと、約束したの……世界樹さんと、約束したの……みんな、もう悲しまないようにするには、他に方法が、ないでしょ……?」
べきり、とフォークがへし折れた。
「アタシだけ、悪者になれば……」
ミュエルの目つきが鋭くなったことで、ヒナはミュエルの髪にしがみついた。
なだめるようにそっと手を添える。
「ヒナちゃんとあなた、友達だよね?」
「……」
「争いの元になるからって、友達を殺せる?」
「……」
「同じように言われて、後輩や、友達や、大切な人を裏切れる……?」
折れたフォークを握るミュエルの手から血が流れ、テーブルの上を広がっていく。
「誰の犠牲も出さずに」
「犠牲は、出るの……!」
椅子を蹴って立ち上がるミュエル。
だがミュエルはヒナを手で庇ったまま、椅子に座り続けた。
「でも、心のどこかで思ってるよね。もし力を解放しても、ヒナちゃんも、皆も、傷つかずに――」
ミュエルは握った手を開いて、ミュエルの頬を思い切り叩いた。
べったりとついた血が、ミュエルの頬を流れ落ちていく。
「力なんていらない! アタシは、ただ、皆が幸せに暮らせれば、それで……っ!」
「それで、いいよね」
頬をぬぐって、ミュエルは首を傾げた。
「アタシたちはただ、ヒナちゃんを助けたかっただけだもんね……」
●対話、緒形 逝(CL2000156)
「おや、まだいたのかね」
「それはこっちの台詞さね」
逝たちは深くため息をついて、同時に椅子に腰掛けた。
足を組み、背もたれによりかかり、互いを眺めること数十秒。
「確認」
「処分1、保護2」
両手の指をそれぞれの本数ずつ立てる逝。
逝はテーブルの上にやる気なさそうに寝転がるピクシーを見て、まあそんなもんだろうと頷いた。
「殺す気がないと分かって、なぜ『そっち側』にいるのかね」
「そりゃあ、興味がわいたからに決まってるさね。別にピクシーでなくとも、殺す必要があるならちゃっちゃと殺すわよ」
「まあ……」
うっかり同意しそうになって、ヘルメットの口元をポンと叩いた。
そういう作戦内容なのであれば、恐らく逝は迷わずピクシーを殺しただろう。焼いて喰えと言われれば御免被りたい所だが、自分に害が無い以上他人の判断に任せてもよい。
何か他に理由がないものか。
考えを巡らせたところで、勾玉の存在に思い至った。
「あの勾玉が消えることは考えられないか」
「やってみないとなんとも。惜しいは惜しいがね」
「と、言うことは」
「そうなるさね」
逝たちは足を組み替えて、ため息をつくように仰向いた。
「「保留」」
●対決、『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)
澄香には意地があった。
古代ピクシーの力があれば、色んな欲望が叶えられる。それを求めて起こる暴虐に、きっと遺跡のみんなは耐えられない。
悪用する人々に言い聞かせて、分かって貰って、ヒナポポちゃんを皆の手から守ることは、できなかった。
「私だって、こんなことはしたくないんです。でもこれ以上誰かが傷つく所を見たくない……。だからそこをどいてください。せめて選んだ責任として、ヒナポポちゃんは私の手で――」
「ストップ!」
立ち上がる澄香たち。
「その結論をかけて、対決しましょう! そちらの私!」
がらがらとひとりでに運ばれてくるワゴン。
そこにはリンゴとパイ生地。バターに砂糖に道具一式が乗っていた。
「お料理対決ですよ」
「私は本気で言ってるんです!」
「私だって」
包丁を手にとって、澄香は片眉を上げた。
「本気なんですよ」
秒針の回る時計を眺め、テーブルをころころと転がるヒナポポちゃん。
はたと身体を起こし、漂ってくる香りにうっとりとした。
鳴り響く時計のベル。
耳を塞ぐヒナポポちゃんにかわって、澄香はベルを止めた。
ほほえみかけてから、できあがった料理をテーブルに置いた。
古典的なアップルパイが、二つ。
「……ずるいですよ」
澄香が呟いたのを、澄香は聞かなかったことにした。
「食べて貰いましょう。さ、どうぞヒナポポちゃん」
パイを切り分けて、食べるところを二人して眺めた。
「ねえ、『私』。この子を守ってあげたいと、思いませんか?」
「それが出来なかったとき、本当に後悔しませんか?」
向き合って、澄香は苦笑した。
「それでも」
「選べません、よね」
●対峙、『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)
湯飲みにお茶がなみなみと注がれている。
樹香はそれを手にとって、一口すすった。
「今まで、色んなものを守ってきたつもりじゃ。守り切ったもの、守り切れなかったもの、沢山あったが……それでも戦い続けてこれたのは、ばあさまと同じこの力で、せめて手の届く範囲だけでも守りたいと思ったからじゃ」
対して、樹香は優しげに頷いた。
手元のぴくしーをひと撫でしてやる。
「わかるよ」
「なら……協力せよとは言わぬ。目を背けたままでもいい。せめて苦しまぬように終わらせるから、その手をどけてはくれんか」
「……」
「ぴくしーを大事に思う気持ちは分かる。そのために力を尽くそうと考えておることも、のぅ」
湯飲みを置いて、樹香は首を振った。
「ワシらとぴくしーは、ここまでともに歩んできた仲間じゃ。ぴくしーを、死なせたくない」
「わかるよ」
樹香もまた湯飲みを置き、そして二人同時に立ち上がった。
「守ることが、存在証明なのじゃ」
「それはワシも同じこと」
「納得はできんか」
「できても、せんよ」
虚空から現われた薙刀を手に取った。
どちらも艶めいた黒塗りの、美しい刃をしている。
「戦っても、決着はつかぬかもしれんぞ」
「けれど退けぬのは」
「……ああ、わかるよ」
樹香たちは、同時に大地を蹴った。
●拒絶、『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)
「コクリコちゃんを、殺したくない!」
「コク――ん?」
否定意見から入ろうとした御菓子は、まさかの自己矛盾に首を傾げた。
「コクリコちゃんを殺そうと思ったのよね?」
「それは、ええと……皆でそういう話になってしまって……」
ティーカップを握って、弱ったように首を傾げる御菓子。
「どうにかならない?」
「それを言われるとは……」
「全体の方針に反すると思うし、皆と戦うことになるかもしれない。コクリコちゃんは大事よ? けど皆のことも同じくらい大事だし……」
ぐっとティーカップの中身を飲み干す御菓子。
「つまり、迷ってるのね」
「うん……」
「なら簡単じゃ無いの」
カップをテーブルに叩き付け、御菓子は立ち上がった。
「自分が求める音楽に出会いたくて教師になったわたしじゃないの! 他人を犠牲にした成功が嫌でこっちに来たんじゃないの! コクリコちゃんがどんなものだったとしてもいい。出会って、ふれあって、一緒に歌って踊ったのよ。それができてしまったのよ。もう――」
胸いっぱいに息を吸い込んで、叩き付けるように言った。
「迷うことなんてないじゃない! もしここで引き下がったら、わたしはただの演奏好きな合法ロリよ!」
「ごうほ……」
「ゴーホーロリってなあに?」
クッキーをさくさく食べてるコクリコちゃんに『知らなくていいのよー?』とほほえみかけてから、再び御菓子に向き直った。
「わたしの根本を変えてまで安寧を求めようとは思わない。『逃げてもいい』って言葉を、わたしは生半可な気持ちで言ったりしない。本当に逃げるってことは、そういうことでしょ。捨て去るのよ、全部」
コクリコちゃんがおかわりと言っていれてくれたお茶を一気に飲み干して、御菓子は口元をぬぐった。
「他人を犠牲にして栄えるくらいなら、限りある時間でともに笑って生きて死ぬ。それがわたし」
●対話、『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
ふわりんをひたすら抱っこしているのが気にくわない。
まるで『こうするのが当たり前でしょう』とでも言わんばかりに、ラーラは仲良しっぷりを見せつけてくる。
けれどそれが、ラーラにとってひどく悲しく、残酷にすら映った。
「ラーラさん、でいいですよね?」
「なんだか変な気分ですね。ね、ふわりん」
『ねー』と言いながら首を傾げ合うラーラ。
なんとかこらえて、ラーラは深呼吸した。
「さっきの戦いではっきり分かりました。あなたが私なんだってこと。だから、話し合いましょう」
「私もそのつもりです。これ以上戦うつもりなんて、ないですよね?」
「一対一ならなおさらです」
やがて一人でにカップやポットが動き出し、ラーラの前にココアが出された。
手をつけずに話を始める。
「先に断わっておきますが、私はふわりんを殺したいなんて思っていません。殺さずに、被害だけを押さえる方法を今でも模索しています」
「……」
話の進展に、ラーラは僅かに瞠目する。
「けれど時間が無いというのも事実なんです。こうしている間にも、ふわりんの力は脅かされ始めているんです。誰もがふわりんを大事に思ってくれて、その力を優しいことにだけ使ってくれればいいと私も思います。けれど、控えめに言ってもそれは……」
頭の中で指折りして考えた。
敵味方総じて、ふわりんの力で偏った使い方をしそうな人物には山ほど心当たりがあった。
ココアを飲んでから、小さく頷くラーラ。
「お話は分かりました。けれど、世界の平和とふわりんのいる未来。どちらもあなたが望むものなんじゃないんですか?」
「どちらかを選ばなくてはならないとしても?」
「両方を選ぶことができないとでも?」
ふわりんにほおずりをして、ラーラは悪戯をするように笑った。
「欲張りになりましょう、ラーラ・ビスコッティ。仲直りするなら今ですよ」
●対話、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)
「過ぎた力は災いの元。その理屈は納得できるよね。けど、コクリコちゃんを殺すことには納得できないんだよね?」
「うん。強力な力を捨て去っても、災いが無くなるわけじゃ無い。むしろ、あらがう力として必要になるかもしれない。自らを律して、力を災いに変えないように努めていくべきだと思う」
「それもわかるよ。納得も出来るしね」
キャンディをなめるコクリコちゃんを挟んで、理央たちはまっすぐに向き合っていた。
「核が抑止力になるように、ってことだよね。けれど、誰かが同じものを生み出そうとすれば、当然同じもので対抗しなくちゃいけなくなる。この力を争いに使わなくちゃならなくなるってことだよ。何より、誰かの『知りたい』って感情までは抑えられない。ボクだって、それがあってここに居るんだし」
お互い、譲る気はなさそうだ。
議題を変えるべきかもしれない。
「ボクは、遺跡を作ってピクシーの力を封じたのは、争いの種にしないのもあるけれど、後世に残そうとしたからだと思うんだ。力は使う人次第だから……それを昔の人は知っていたから、力を『封印』したんだと思う。消すんじゃなく」
「解決できないから先送りにしたとは、考えない?」
「今までの道のりは、力を得る可能性のあるボクたちを試そうとするものばかりだった。一緒に歌って踊ったり、初めて出会った知らない生き物と仲良くしたり、自分自身と戦ったり……それは、力を得る人がどう使うか……ううん、現代の人々がどうとらえるか、試していたんじゃないかな」
「……」
黙った理央を一瞥してから、コクリコちゃんは理央の手元へとやってきた。
指を出して、手を繋ぐように握る。
「ボクたちはコクリコちゃんと共に歩むことにしたよ。その結果、災いが生まれるなら責任をもってそれを止める」
「……わかった。最後に、一つだけいいかな」
理央は椅子から立ち上がり、背を向けて言った。
「選んだなら、もう絶対に手放さないでね」
●フェアリーポータル
突然テーブルと椅子が消えた。
足下の雲も消え、自由落下を始める。
きづけばもう一人の自分も消えていた。
ドーナツ状に開いたイルカの街を抜け、台の開いた世界樹エレベーターを抜け、更にいくつものいくつもの不思議な空間を抜け、八人はやがて無限の大空の中に落ちた。
上下左右全てが空の、いつまでも続く自由落下。
そんな彼女たちを見下ろすように、巨大なピクシーが現われた。
彼女たちが共に遺跡を冒険したピクシーを大人にしたような姿に、思わずそれぞれの名前を呼ぶ。
『おめでとう。あなたがたは、かつて創造主が作った全ての試練に合格しました。遺跡は現代の人々は私たちと解り合うことができると判断して、日本中に存在する全ての力ある遺跡を開放します。そして、日本へと残したもうひとりの私。お疲れ様でした。お帰りなさい』
「……ママ」
何人かは、その言葉で全てを察した。
『我々ピクシーは精神を無数に分裂させながら、長い時代の波に溶け込んできました。現代のピクシーは、あなたたちととても仲良くして、大事にされたようですね。もしよかったら、他のみんなとも仲良くしてあげてください。その第一歩として、私の翼を差し上げましょう』
皆の身体に煌めく粉ようなものが纏わり、身体を宙へと浮かせた。
「これは、簡易飛行能力……」
『きっと沢山の私が迷惑をかけてしまうと思います。けれど、どうか、争いの種となりませんように。さあ、お行きなさい』
天空に湖面が生まれ、その先には森が見える。
八人はふわふわと飛び、森を目指した。
それはピクシーと最初に出会った森。
『隠されし妖精の森』へ。
促されるように席に着くゲイル。
まず何から話すべきか、咳払いをして考えた。
「まるで鏡に話しかけている気分だが……ここはゲイルと呼ばせて貰おう。いいな?」
「ああ」
頷く相手に安堵と緊張がそれぞれわき上がる。
ゲイルの肩にはピコが腰掛けていた。
「まずは俺の考えからだ。ピク……コホン、ピコを殺すという選択肢は、できれば俺もとりたくない。しかし力を手に入れ、暴走した人々を止めるすべも無い。危険人物は山ほど思いつくが、その全てから守り切る保証をピコたちにはできないんだ」
「……」
ゲイルは薄く笑って、手元のグラスを取った。
「言葉が浮ついているな。俺らしくも無い」
「……そう、見えるか」
「自分のことだからな。まるで、雨の日に拾ってきた猫を『飼えないから捨てなさい』と言われた時のような顔をしていた」
これには、ゲイルも目を覆った。
「考えが間違っていると思うか?」
「いや、理屈の通った考えだと思う。お前がピコ自体を危険視していなくて安心しているくらいだ。だが……」
ゲイルはグラスの水に口をつけた。
「割り切れるほど、俺はできた人間じゃない」
「全くだ……」
拾ってきた動物を片っ端から飼うものだから、部屋は狭くなり放題。食費はかかり放題だ。
察するに、近所に迷惑をかけてしまったことも一度や二度ではないだろう。
「それでも」
「構わない」
ゲイルは弱ったように笑った。
「誰かを犠牲に生きたって、もふもふを心から堪能できないだろう?」
●対話、『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)
出されたクランベリーパイに手をつけること無く、ミュエルは目の前のミュエルを見た。
数秒して、目をそらす。
「ヒナちゃんと、約束したの……。もう、誰も悲しませないから、って……」
握ったフォークを、さらに強く握った。
反らしていた視線を、ヒナへと強く定めた。
「イルカさんと、約束したの……世界樹さんと、約束したの……みんな、もう悲しまないようにするには、他に方法が、ないでしょ……?」
べきり、とフォークがへし折れた。
「アタシだけ、悪者になれば……」
ミュエルの目つきが鋭くなったことで、ヒナはミュエルの髪にしがみついた。
なだめるようにそっと手を添える。
「ヒナちゃんとあなた、友達だよね?」
「……」
「争いの元になるからって、友達を殺せる?」
「……」
「同じように言われて、後輩や、友達や、大切な人を裏切れる……?」
折れたフォークを握るミュエルの手から血が流れ、テーブルの上を広がっていく。
「誰の犠牲も出さずに」
「犠牲は、出るの……!」
椅子を蹴って立ち上がるミュエル。
だがミュエルはヒナを手で庇ったまま、椅子に座り続けた。
「でも、心のどこかで思ってるよね。もし力を解放しても、ヒナちゃんも、皆も、傷つかずに――」
ミュエルは握った手を開いて、ミュエルの頬を思い切り叩いた。
べったりとついた血が、ミュエルの頬を流れ落ちていく。
「力なんていらない! アタシは、ただ、皆が幸せに暮らせれば、それで……っ!」
「それで、いいよね」
頬をぬぐって、ミュエルは首を傾げた。
「アタシたちはただ、ヒナちゃんを助けたかっただけだもんね……」
●対話、緒形 逝(CL2000156)
「おや、まだいたのかね」
「それはこっちの台詞さね」
逝たちは深くため息をついて、同時に椅子に腰掛けた。
足を組み、背もたれによりかかり、互いを眺めること数十秒。
「確認」
「処分1、保護2」
両手の指をそれぞれの本数ずつ立てる逝。
逝はテーブルの上にやる気なさそうに寝転がるピクシーを見て、まあそんなもんだろうと頷いた。
「殺す気がないと分かって、なぜ『そっち側』にいるのかね」
「そりゃあ、興味がわいたからに決まってるさね。別にピクシーでなくとも、殺す必要があるならちゃっちゃと殺すわよ」
「まあ……」
うっかり同意しそうになって、ヘルメットの口元をポンと叩いた。
そういう作戦内容なのであれば、恐らく逝は迷わずピクシーを殺しただろう。焼いて喰えと言われれば御免被りたい所だが、自分に害が無い以上他人の判断に任せてもよい。
何か他に理由がないものか。
考えを巡らせたところで、勾玉の存在に思い至った。
「あの勾玉が消えることは考えられないか」
「やってみないとなんとも。惜しいは惜しいがね」
「と、言うことは」
「そうなるさね」
逝たちは足を組み替えて、ため息をつくように仰向いた。
「「保留」」
●対決、『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)
澄香には意地があった。
古代ピクシーの力があれば、色んな欲望が叶えられる。それを求めて起こる暴虐に、きっと遺跡のみんなは耐えられない。
悪用する人々に言い聞かせて、分かって貰って、ヒナポポちゃんを皆の手から守ることは、できなかった。
「私だって、こんなことはしたくないんです。でもこれ以上誰かが傷つく所を見たくない……。だからそこをどいてください。せめて選んだ責任として、ヒナポポちゃんは私の手で――」
「ストップ!」
立ち上がる澄香たち。
「その結論をかけて、対決しましょう! そちらの私!」
がらがらとひとりでに運ばれてくるワゴン。
そこにはリンゴとパイ生地。バターに砂糖に道具一式が乗っていた。
「お料理対決ですよ」
「私は本気で言ってるんです!」
「私だって」
包丁を手にとって、澄香は片眉を上げた。
「本気なんですよ」
秒針の回る時計を眺め、テーブルをころころと転がるヒナポポちゃん。
はたと身体を起こし、漂ってくる香りにうっとりとした。
鳴り響く時計のベル。
耳を塞ぐヒナポポちゃんにかわって、澄香はベルを止めた。
ほほえみかけてから、できあがった料理をテーブルに置いた。
古典的なアップルパイが、二つ。
「……ずるいですよ」
澄香が呟いたのを、澄香は聞かなかったことにした。
「食べて貰いましょう。さ、どうぞヒナポポちゃん」
パイを切り分けて、食べるところを二人して眺めた。
「ねえ、『私』。この子を守ってあげたいと、思いませんか?」
「それが出来なかったとき、本当に後悔しませんか?」
向き合って、澄香は苦笑した。
「それでも」
「選べません、よね」
●対峙、『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)
湯飲みにお茶がなみなみと注がれている。
樹香はそれを手にとって、一口すすった。
「今まで、色んなものを守ってきたつもりじゃ。守り切ったもの、守り切れなかったもの、沢山あったが……それでも戦い続けてこれたのは、ばあさまと同じこの力で、せめて手の届く範囲だけでも守りたいと思ったからじゃ」
対して、樹香は優しげに頷いた。
手元のぴくしーをひと撫でしてやる。
「わかるよ」
「なら……協力せよとは言わぬ。目を背けたままでもいい。せめて苦しまぬように終わらせるから、その手をどけてはくれんか」
「……」
「ぴくしーを大事に思う気持ちは分かる。そのために力を尽くそうと考えておることも、のぅ」
湯飲みを置いて、樹香は首を振った。
「ワシらとぴくしーは、ここまでともに歩んできた仲間じゃ。ぴくしーを、死なせたくない」
「わかるよ」
樹香もまた湯飲みを置き、そして二人同時に立ち上がった。
「守ることが、存在証明なのじゃ」
「それはワシも同じこと」
「納得はできんか」
「できても、せんよ」
虚空から現われた薙刀を手に取った。
どちらも艶めいた黒塗りの、美しい刃をしている。
「戦っても、決着はつかぬかもしれんぞ」
「けれど退けぬのは」
「……ああ、わかるよ」
樹香たちは、同時に大地を蹴った。
●拒絶、『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)
「コクリコちゃんを、殺したくない!」
「コク――ん?」
否定意見から入ろうとした御菓子は、まさかの自己矛盾に首を傾げた。
「コクリコちゃんを殺そうと思ったのよね?」
「それは、ええと……皆でそういう話になってしまって……」
ティーカップを握って、弱ったように首を傾げる御菓子。
「どうにかならない?」
「それを言われるとは……」
「全体の方針に反すると思うし、皆と戦うことになるかもしれない。コクリコちゃんは大事よ? けど皆のことも同じくらい大事だし……」
ぐっとティーカップの中身を飲み干す御菓子。
「つまり、迷ってるのね」
「うん……」
「なら簡単じゃ無いの」
カップをテーブルに叩き付け、御菓子は立ち上がった。
「自分が求める音楽に出会いたくて教師になったわたしじゃないの! 他人を犠牲にした成功が嫌でこっちに来たんじゃないの! コクリコちゃんがどんなものだったとしてもいい。出会って、ふれあって、一緒に歌って踊ったのよ。それができてしまったのよ。もう――」
胸いっぱいに息を吸い込んで、叩き付けるように言った。
「迷うことなんてないじゃない! もしここで引き下がったら、わたしはただの演奏好きな合法ロリよ!」
「ごうほ……」
「ゴーホーロリってなあに?」
クッキーをさくさく食べてるコクリコちゃんに『知らなくていいのよー?』とほほえみかけてから、再び御菓子に向き直った。
「わたしの根本を変えてまで安寧を求めようとは思わない。『逃げてもいい』って言葉を、わたしは生半可な気持ちで言ったりしない。本当に逃げるってことは、そういうことでしょ。捨て去るのよ、全部」
コクリコちゃんがおかわりと言っていれてくれたお茶を一気に飲み干して、御菓子は口元をぬぐった。
「他人を犠牲にして栄えるくらいなら、限りある時間でともに笑って生きて死ぬ。それがわたし」
●対話、『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
ふわりんをひたすら抱っこしているのが気にくわない。
まるで『こうするのが当たり前でしょう』とでも言わんばかりに、ラーラは仲良しっぷりを見せつけてくる。
けれどそれが、ラーラにとってひどく悲しく、残酷にすら映った。
「ラーラさん、でいいですよね?」
「なんだか変な気分ですね。ね、ふわりん」
『ねー』と言いながら首を傾げ合うラーラ。
なんとかこらえて、ラーラは深呼吸した。
「さっきの戦いではっきり分かりました。あなたが私なんだってこと。だから、話し合いましょう」
「私もそのつもりです。これ以上戦うつもりなんて、ないですよね?」
「一対一ならなおさらです」
やがて一人でにカップやポットが動き出し、ラーラの前にココアが出された。
手をつけずに話を始める。
「先に断わっておきますが、私はふわりんを殺したいなんて思っていません。殺さずに、被害だけを押さえる方法を今でも模索しています」
「……」
話の進展に、ラーラは僅かに瞠目する。
「けれど時間が無いというのも事実なんです。こうしている間にも、ふわりんの力は脅かされ始めているんです。誰もがふわりんを大事に思ってくれて、その力を優しいことにだけ使ってくれればいいと私も思います。けれど、控えめに言ってもそれは……」
頭の中で指折りして考えた。
敵味方総じて、ふわりんの力で偏った使い方をしそうな人物には山ほど心当たりがあった。
ココアを飲んでから、小さく頷くラーラ。
「お話は分かりました。けれど、世界の平和とふわりんのいる未来。どちらもあなたが望むものなんじゃないんですか?」
「どちらかを選ばなくてはならないとしても?」
「両方を選ぶことができないとでも?」
ふわりんにほおずりをして、ラーラは悪戯をするように笑った。
「欲張りになりましょう、ラーラ・ビスコッティ。仲直りするなら今ですよ」
●対話、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)
「過ぎた力は災いの元。その理屈は納得できるよね。けど、コクリコちゃんを殺すことには納得できないんだよね?」
「うん。強力な力を捨て去っても、災いが無くなるわけじゃ無い。むしろ、あらがう力として必要になるかもしれない。自らを律して、力を災いに変えないように努めていくべきだと思う」
「それもわかるよ。納得も出来るしね」
キャンディをなめるコクリコちゃんを挟んで、理央たちはまっすぐに向き合っていた。
「核が抑止力になるように、ってことだよね。けれど、誰かが同じものを生み出そうとすれば、当然同じもので対抗しなくちゃいけなくなる。この力を争いに使わなくちゃならなくなるってことだよ。何より、誰かの『知りたい』って感情までは抑えられない。ボクだって、それがあってここに居るんだし」
お互い、譲る気はなさそうだ。
議題を変えるべきかもしれない。
「ボクは、遺跡を作ってピクシーの力を封じたのは、争いの種にしないのもあるけれど、後世に残そうとしたからだと思うんだ。力は使う人次第だから……それを昔の人は知っていたから、力を『封印』したんだと思う。消すんじゃなく」
「解決できないから先送りにしたとは、考えない?」
「今までの道のりは、力を得る可能性のあるボクたちを試そうとするものばかりだった。一緒に歌って踊ったり、初めて出会った知らない生き物と仲良くしたり、自分自身と戦ったり……それは、力を得る人がどう使うか……ううん、現代の人々がどうとらえるか、試していたんじゃないかな」
「……」
黙った理央を一瞥してから、コクリコちゃんは理央の手元へとやってきた。
指を出して、手を繋ぐように握る。
「ボクたちはコクリコちゃんと共に歩むことにしたよ。その結果、災いが生まれるなら責任をもってそれを止める」
「……わかった。最後に、一つだけいいかな」
理央は椅子から立ち上がり、背を向けて言った。
「選んだなら、もう絶対に手放さないでね」
●フェアリーポータル
突然テーブルと椅子が消えた。
足下の雲も消え、自由落下を始める。
きづけばもう一人の自分も消えていた。
ドーナツ状に開いたイルカの街を抜け、台の開いた世界樹エレベーターを抜け、更にいくつものいくつもの不思議な空間を抜け、八人はやがて無限の大空の中に落ちた。
上下左右全てが空の、いつまでも続く自由落下。
そんな彼女たちを見下ろすように、巨大なピクシーが現われた。
彼女たちが共に遺跡を冒険したピクシーを大人にしたような姿に、思わずそれぞれの名前を呼ぶ。
『おめでとう。あなたがたは、かつて創造主が作った全ての試練に合格しました。遺跡は現代の人々は私たちと解り合うことができると判断して、日本中に存在する全ての力ある遺跡を開放します。そして、日本へと残したもうひとりの私。お疲れ様でした。お帰りなさい』
「……ママ」
何人かは、その言葉で全てを察した。
『我々ピクシーは精神を無数に分裂させながら、長い時代の波に溶け込んできました。現代のピクシーは、あなたたちととても仲良くして、大事にされたようですね。もしよかったら、他のみんなとも仲良くしてあげてください。その第一歩として、私の翼を差し上げましょう』
皆の身体に煌めく粉ようなものが纏わり、身体を宙へと浮かせた。
「これは、簡易飛行能力……」
『きっと沢山の私が迷惑をかけてしまうと思います。けれど、どうか、争いの種となりませんように。さあ、お行きなさい』
天空に湖面が生まれ、その先には森が見える。
八人はふわふわと飛び、森を目指した。
それはピクシーと最初に出会った森。
『隠されし妖精の森』へ。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
皆さんお疲れ様でした。
ピクシーと巡る古代遺跡シリーズはこれにてひとまず終了となります。
これをきっかけにして、どこかで起こるトラブルを解決したり妖精の森へ遊びに行ったりすることもあるでしょう。
その時はまた、遊びに来てくださいね。
ピクシーと巡る古代遺跡シリーズはこれにてひとまず終了となります。
これをきっかけにして、どこかで起こるトラブルを解決したり妖精の森へ遊びに行ったりすることもあるでしょう。
その時はまた、遊びに来てくださいね。
