【Pixie】火影の遺跡とテーブルパーティ
●火影の遺跡
澄香、理央、ミュエル、ラーラ、御菓子、樹香、ゲイル、結唯。そしてピクシー。
光る穴を抜けた仲間たちは、白い地面へと落下した。
飛行できる澄香やバランスのとれるミュエルたちはなんとか着地したものの、うまく空中でバランスのとれなかった御菓子はそのままどすんといった。
「いたた……落ちるならそう言ってくれればいいのに……」
「だいじょーぶ?」
ピクシーがふよふよと寄ってくる。御菓子はピクシーを肩に乗せて立ち上がった。
立ち上がって辺りを見回してから、ぱちぱちと瞬きを三回。
「頭、強く打っちゃったみたい。ティーカップがひどく大きく見えてるの」
「いえ、その感覚……正常だと思いますよ」
頭上高くを飛んでいた澄香が、御菓子たちを見下ろしていた。
現状を正確に言い表わすなら……そう。
テーブルの上の親指人形だ。
結唯は自分の背丈より高いティーカップやワイングラスをノックして、小さく首を振った。
お皿の上で理央が振り返る。
「大樹のエレベーター、イルカの街、次は巨人のテーブルかな?」
「アタシたち……食べられちゃう、の?」
抱え上げるのに苦労しそうな銀のフォークを撫でながら、ミュエルが言った。
その時である。
「いえいえ滅相もございません。皆様は大事なお客様です。ご満足頂けるサービスを――」
どこからか声がした。
ラーラがきょろきょろと見回してみたが、自分たち以外に人の姿はない。
「えっと、どなたでしょうか」
「おっとこれは失礼」
くるりとテーブルキャンドルが振り返った。炎の部分に人の顔が浮かび上がり、人の良さそうな笑顔を作っている。
相手が大きいのかこちらが小さいのか、それは分からないが、手燭サイズのキャンドルがこんなにも巨大に見えたのは初めてである。
それが喋ったのだから、驚かないほうがおかしいだろう。
とはいえここまで大樹やイルカと会話してきた彼らである。
ゲイルも気を取り直してテーブルキャンドルに歩み寄った。
「お前も、遺跡の人工精霊なのか?」
「ご明察。ハハッ、やはり二つの遺跡をクリアしただけのことはある。賢明で、洞察に優れる。そして恐らく……心優しい」
テーブルキャンドルはうっとりと瞑目した。
「わたくしもこの遺跡を任されて数百年。この瞬間を心待ちにしておりました。感激のあまり皆さんを無条件でパスしてしまいたい気持ちでいっぱいですが……申し訳ございません。ここで一つ、クイズです」
「クイズ……だと?」
キャンドルの炎がゆっくりと大きくなる。
「もし皆さんに非情な決断が迫られたなら、どんなあなたになるでしょうか」
炎がテーブルキャンドルを包み込む。
そしてテーブルクロスを少しも焦がすこと無く炎が消え去り、キャンドルの代わりに八人の男女が現われた。
澄香、理央、ミュエル、ラーラ、美香子、樹香、ゲイル、結唯……の、八人である。
彼らは口々に心の内を述べた。
「本当にそっくりなんですね。思考も姿も、能力もでしょう?」
「あれが俺たちか。分かっていてもやりづらいな」
「妖精さんを倒さなくちゃならないなんて。でもやらなきゃいけないんだよね」
「相手は、アタシたちと、同じ人……油断したら、きっと負ける」
「迷惑だな。さっさと終わらせるか」
「作戦を確認するよ。あの八人を倒して、妖精を殺害する。……以上っ」
「さて。始めてよいかの……お前様方」
覚醒し、襲いかかってくる八人の『自分たち』。
かくして仲間たちは、己の役目を確信した。
そうだ。
『自分たち』から、ピクシーを守らなければならない。
どう対応するか迷った彼らに、キャンドルの声がどこからか聞こえてきた。
『おっと失礼! しばらく時間をとめておきますので、一度帰ってお化粧を直していただいても構いませんよ。戻ってきたら、再開しましょう』
背後のティーポットに扉が現われ、外に続く道になる。
あなたは……。
澄香、理央、ミュエル、ラーラ、御菓子、樹香、ゲイル、結唯。そしてピクシー。
光る穴を抜けた仲間たちは、白い地面へと落下した。
飛行できる澄香やバランスのとれるミュエルたちはなんとか着地したものの、うまく空中でバランスのとれなかった御菓子はそのままどすんといった。
「いたた……落ちるならそう言ってくれればいいのに……」
「だいじょーぶ?」
ピクシーがふよふよと寄ってくる。御菓子はピクシーを肩に乗せて立ち上がった。
立ち上がって辺りを見回してから、ぱちぱちと瞬きを三回。
「頭、強く打っちゃったみたい。ティーカップがひどく大きく見えてるの」
「いえ、その感覚……正常だと思いますよ」
頭上高くを飛んでいた澄香が、御菓子たちを見下ろしていた。
現状を正確に言い表わすなら……そう。
テーブルの上の親指人形だ。
結唯は自分の背丈より高いティーカップやワイングラスをノックして、小さく首を振った。
お皿の上で理央が振り返る。
「大樹のエレベーター、イルカの街、次は巨人のテーブルかな?」
「アタシたち……食べられちゃう、の?」
抱え上げるのに苦労しそうな銀のフォークを撫でながら、ミュエルが言った。
その時である。
「いえいえ滅相もございません。皆様は大事なお客様です。ご満足頂けるサービスを――」
どこからか声がした。
ラーラがきょろきょろと見回してみたが、自分たち以外に人の姿はない。
「えっと、どなたでしょうか」
「おっとこれは失礼」
くるりとテーブルキャンドルが振り返った。炎の部分に人の顔が浮かび上がり、人の良さそうな笑顔を作っている。
相手が大きいのかこちらが小さいのか、それは分からないが、手燭サイズのキャンドルがこんなにも巨大に見えたのは初めてである。
それが喋ったのだから、驚かないほうがおかしいだろう。
とはいえここまで大樹やイルカと会話してきた彼らである。
ゲイルも気を取り直してテーブルキャンドルに歩み寄った。
「お前も、遺跡の人工精霊なのか?」
「ご明察。ハハッ、やはり二つの遺跡をクリアしただけのことはある。賢明で、洞察に優れる。そして恐らく……心優しい」
テーブルキャンドルはうっとりと瞑目した。
「わたくしもこの遺跡を任されて数百年。この瞬間を心待ちにしておりました。感激のあまり皆さんを無条件でパスしてしまいたい気持ちでいっぱいですが……申し訳ございません。ここで一つ、クイズです」
「クイズ……だと?」
キャンドルの炎がゆっくりと大きくなる。
「もし皆さんに非情な決断が迫られたなら、どんなあなたになるでしょうか」
炎がテーブルキャンドルを包み込む。
そしてテーブルクロスを少しも焦がすこと無く炎が消え去り、キャンドルの代わりに八人の男女が現われた。
澄香、理央、ミュエル、ラーラ、美香子、樹香、ゲイル、結唯……の、八人である。
彼らは口々に心の内を述べた。
「本当にそっくりなんですね。思考も姿も、能力もでしょう?」
「あれが俺たちか。分かっていてもやりづらいな」
「妖精さんを倒さなくちゃならないなんて。でもやらなきゃいけないんだよね」
「相手は、アタシたちと、同じ人……油断したら、きっと負ける」
「迷惑だな。さっさと終わらせるか」
「作戦を確認するよ。あの八人を倒して、妖精を殺害する。……以上っ」
「さて。始めてよいかの……お前様方」
覚醒し、襲いかかってくる八人の『自分たち』。
かくして仲間たちは、己の役目を確信した。
そうだ。
『自分たち』から、ピクシーを守らなければならない。
どう対応するか迷った彼らに、キャンドルの声がどこからか聞こえてきた。
『おっと失礼! しばらく時間をとめておきますので、一度帰ってお化粧を直していただいても構いませんよ。戻ってきたら、再開しましょう』
背後のティーポットに扉が現われ、外に続く道になる。
あなたは……。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『自分たち』を倒す
2.ピクシーの生存
3.なし
2.ピクシーの生存
3.なし
ここでは『ピクシーを殺害する任務を帯びたあなた』が敵として挑みかかってきます。
相手は皆さんと同じ能力。皆さんと同じレベル。皆さんと同じプレイングセンス。皆さんと同じ思考。皆さんと同じ幸運を持ち合わせています。
(※参加メンバーが替わった場合、そのメンバーにあわせて出現する敵も変わります)
つまり、勝負の行方は皆さんの人間性にかかっています。
皆さんが考えるような『○○から順に倒していって……』といった作戦は向こうも当然考えます。そして大体皆さんと同じような行動パターンで『皆さんを倒す』『ピクシーを殺害する』という任務を全力で全うしようとするでしょう。
ピクシーは皆さんの服や鞄に隠れるので、必然的に『殲滅戦に負けたら失敗』ということになります。
●プレイングのお勧め
裏の読み合いになると必ずプレイングが混濁するので、真正直にいつもの戦闘プレイングを書くことをお勧めします。
今回はプレイングにおける心情面を判定の補正値としてプラスしますので、そちらに力を入れてください。
また、作戦の性質上全員戦闘不能にならずに勝利することは不可能です。最後の一人になって殴り合うくらいの状態は想定していて下さい。
また、展開によっては重軽傷を負う場合もあります。
補足その2
今回は『相手がこちらの隙を突く度合い』が高くなっています。
前衛スイッチで前~後衛間の移動に1ターンかかるとか、声をかけあってタイミングを合わせるとたまにバレるとか、『もし~なら』のプレイングでそれにかからなかった部分は空振り扱いになるとかそういった色々がダイレクトにマイナス判定になります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年08月14日
2016年08月14日
■メイン参加者 8人■

●自分との戦い
虚空に黒い光が弧を描き、一拍遅れて地面が吹き飛んだ。
長い黒髪を靡かせて一転する『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)。
次なる斬撃を繰りださんとしたその寸前、足払いをかける緒形 逝(CL2000156)。
その後ろから飛び出した『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)が施術した種子をポーチごと投擲。
頭上で一旦はじけたポーチの中から大量の種が散乱し、その全てが次々に炸裂し始めた。
目を鋭く光らせる『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)。
楽器の弦に弓をあてたまま、紙一重で飛来したトゲを回避する。
(やっぱり、そうなるよね)
まず警戒すべきは集中攻撃。確実に狙われるであろう御菓子からだ。
ピッタリと同じように、相手もこちらも御菓子の殲滅から始まっていた。
これがただの集中攻撃ならヘイト操作とカウンターヒールで永遠に押さえ込めるところだが、相手は他ならぬ自分たちだ。効率的なこともすれば、感情で非効率に走ることもある。往々にして非効率的な感情爆発は大きな効果を生むものだ。
己の感情を読めなければ、足下をすくわれる。
「けれど絶対に負けられません。コクリコちゃんが――いますから!」
御菓子は楽器演奏によってカウンターヒールを展開。
ダメージ比率が列攻撃と単体攻撃の比率はおよそ8対6。回復効率と展開を考えれば癒やしの雨を連発するしかないが、棘散舞の集中砲火を一度でも受ければ痺れを警戒しなければならない。カウンターヒールでのリカバリー率がおよそ五割前後なので一回でも行動不能に陥ったら終わりだ。御菓子の戦闘不能が相手側より4ターン早かったらもう取り返しがつかなくなる。
その選択を御菓子は、あえてしなかった。
「とにかく今は、全力を出しますよ!」
集中したら他のことが目に入らなくなるのが御菓子という女である。
それは相手もまた同じ。
御菓子は炎と水の術が入り乱れる中をタラサを演奏しながら駆け回る。
(来る――!)
水流と大気延焼の音に混じって小さな種子の飛来する音を聞きつけ、ティーカップの影に滑り込む。
炸裂した毒性のトゲがカップに当たって跳ね返っていく。毒性の弱い部分だけをあえて受け、致命傷を逃れるというギリギリの作戦だ。
こうしていれば少なからずお互いが消耗する。
消耗すれば選択肢が減り、選択肢が減ればより精神性の勝負に持ち込める。
そして精神性という意味では、御菓子はほぼ無敵だ。
継続を力とする、御菓子ならではの戦術思考である。
だがそれは相手もまた同じこと、滑り込んだペッパーミルの上を飛翔して越えた『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)がタロットカードを投擲。刺さったテーブルクロスから無数の種が吹き上がり、その全てが炸裂した。
「うっ……!」
痛みに身体が反応し、一瞬だけ弦をひき違えた。
回復空間が消失。
その隙を狙うかのように、ペッパーミルもろとも大量の炎が御菓子を焼き払った。
他ならぬ『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)の炎である。
魔導書は既に開封状態。自身を中心に大量の魔方陣が常に明滅を続け、バルカン砲のごとく炎の弾を撃ち込んでいく。
一度くじいてしまえば雪崩のごとく。完全に火力で押し切ったラーラは、粉砕したカップ越しに自らと目を合わせた。
意志の強い目。突き進む炎の目。
全力を出しても、おそらくははねのけるであろう目である。
「なら――!」
ラーラは周囲の魔方陣を全て複合・連想して巨大な魔方陣を生成。最大出力で炎の弾を解き放った。
ラーラめがけて飛ぶ巨大な炎――に、正面から突っ込む澄香。
「絶対に、守って見せます!」
二つの爆発が起きた。
翼を焼かれ、大皿の上に転がる澄香と澄香。
二人は強くにらみ合った。
「妖精さんを殺すって――」
「ひどいことだって分かってます。けど、やらなきゃいけないんです!」
次に違いがやるべきことは分かっていた。
すれ違い、ラーラめがけて突撃をしかける。
攻撃ではない。斜角の全てを自分で埋めるためだ。
「――!」
かかる火の粉は炎で払う。ラーラの習性にして強さである。
魔力噴射でバックスウェーをかけながら、細かくジグザグに軌道を変えつつ相手側のラーラへの斜角へ頻繁に割り込む澄香を見て、すぐざま澄香への攻撃にシフトした。
魔方陣を縦に長く重ね、狙撃モードへチェンジ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……」
ロックオン。
出力最大。
「「イオ・ブルチャーレ!」」
澄香を炎が包み込むのと、自らを水気の激流が飲み込むのはほぼ同時だった。
まるで滝壺へとたたき落とされたかのような激流に身を躍らせ、テーブルの向こうへと落ちていくラーラ。
「ラーラッ!」
振り返るが駆け寄らない。『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は複数の思考を同時に走らせることのできるマルチタスクを得意としている。
心配と効率化は彼女にとって両立しえる感情だった。
大量の札を抜き、束のまま放つ。
水気が形を無し、八つ首の竜となって相手の理央へと襲いかかる。
相手の理央はラーラが追撃されていると認識するや否や、即座に次の札を抜いて頭上へ放った。
スプリンクラーのようにまき散らされた治癒術の水が水龍牙へのカウンターヒールとなって広がっていく。
もちろんそれはこちらの理央も同じである。
澄香に抱えられ飛行補助によって無理矢理に復帰してきたラーラがもう一人の自分越しに見えた瞬間、振り返って叫んだ。
「よけて!」
「無駄ですよ!」
復帰直後のラーラには確信があった。
絶対に外さない。
絶対に撃ち抜ける。
そしてそれは、きっと相手も同じこと。
「「イオ・ブルチャーレ!!」」
理央たちの頭上を激しい炎の群れが行き交った。カッとテーブルじゅうが茜色に光に染まり、空中で激しい黒煙爆発が起きた。
復帰直後の澄香とラーラがそれぞれ力尽き、テーブルの向こうへと落ちていく光景だ。
理央の次の選択は、既に決まっている。
「ゲイル、粘って!」
「……よし!」
『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)が水龍牙を発動。
と同時に理央は範囲回復術式を発動させた。
ほぼ予想通りに叩き込まれる水龍牙。
勢いに押し切られないようにティーポットの持ち手につかまる理央。
が、その眼前にいがぐりのような物体が突如発生した。
ミュエルの放った種子がゲイルの水流に紛れてやってきたのだ。
(しまっ――!)
直撃をうけないように両腕で顔や胸を庇うも、それによって水流によって飛ばされる。
流れから逃れ、滞空した時間はわずか三秒。
その間に狙い澄ましたようにゲイルが眼前へ接近していた。
利き腕を半身ごと露出させたゲイルは気糸を展開。
理央の身体の各所に接触させると、エネルギー伝達によって次々に蒸気爆発を起こさせた。
理央を吹き飛ばし、着地するゲイル。
と同時に振り返り、儀式刀を逆手に持って身を翻した。
背後からゲイルによる斬撃。
いや、至近距離から水礫を叩き込むつもりだろう。
(ありえた自分、か。もしピクシーが危険な存在だと知らされれば、俺も同じ決断をしただろう。だが……!)
気糸を腕に巻き付けあい、ゲイルは互いの胸に刀を突き立てた。
「守る覚悟と殺す覚悟……俺は、どちらが上だ!」
「……!?」
相手側のゲイルが強く歯を食いしばった。
同時に蒸気爆発を起こす。
糸が切れ、吹き飛ばされるゲイル。
クロスを転がり、スープ皿にぶつかって止まった。
「やはり甘いな、俺は」
苦笑し、心臓からわずかにずれた傷口に手を当てた。
そんな彼の足下に転がってくる香水瓶。
見つけた瞬間、ゲイルは咄嗟に自らを庇うが瓶がひとりでに破裂するほうが早かった。
広がった毒性ガスに意識を飛ばし、崩れ落ちるゲイル。
それを確認して、ミュエルは肩で大きく息をした。
ポケットに手を入れ、手を広げる。
種も氣力もあと僅かだ。
「こっちも……いくよ……!」
相手めがけて走り出す。
対するミュエルも走り出し、小瓶を投擲してきた。
「これ以上、だれも……やらせない……!」
飛来した瓶が頭に当たってはじけるも、ミュエルは避けることなく更に加速。
ヒールホイールを回転させ、まっすぐ相手に突っ込んだ。
加速しながら種子を発射。
杖を斜めにかまえた防御姿勢で炸裂する種子をよけもせずに突っ込んでくるミュエル。
ミュエルとミュエルは杖を防御姿勢で構えたまま正面から激突。
「仲間を庇っても変わらぬ。まとめて薙ぎ払うだけじゃ」
薙刀を手に飛び込んでくる樹香。
そんな樹香の間合いより内側へと潜り込む逝。
「よくできたニセモンじゃないの」
逝は樹香の手首と肩をそれぞれ掴むと、足を払ってぐるんと身体を上下反転させた。
そのまま手を離し、コーヒーカップへと放り投げる。
カップを粉砕し、破片の上を転がる樹香。
立ち上がろうとして、腕の骨がやられたことに気づいた。
「これは、いかん」
多彩な木行術式で敵を弱体化しつつ自慢の薙刀術で触れるものをみな薙ぎ払うというのが樹香のサイクルである。そのサイクルを崩されるという意味で、体術を封じられるのが一番キツイ。
「一丁上がり。どんどん投げてくぞう」
次にミュエルの襟首へ手をかけたその途端、逝の背後に逝が現われた。
素早く振り向き手刀を繰り出す逝――の手首と腕を掴んで一本背負いをかける逝。
ヘルメットがかち割れるかと思うほどの衝撃に、平衡感覚を著しく失う逝。
圧投に圧投を返されるというのは、ファイヴで戦っていて希有な現象である。が、それで混乱するほど逝はマトモな性格をしていなかった。
そのばからごろごろと転がり、防御を固めながら逃げにかかる。
体術メインの逝にとって体術つぶしは特攻スキル。
「どうするかねえ。対策を考えてなかったけど……ま、どうにかなるわな」
起き上がった樹香が棘散舞を投擲。
ぶつかり合っていたミュエルが同時に飛び出し、空中で種子をたたき落とした。
「ほう……」
樹香は美しい黒髪のような薙刀を構え、大きく息を吐いた。
背中合わせになったミュエルを挟んで対峙する格好だ。
ミュエルは普段の臆病さとは打って変わって、スイッチが入ると両腕ちょん切られてでも突っ込んでくる極端さがある。
一方の樹香は脅しや煽りを無視できるほど自我の強さがあり、たとえ相手がどんなにクレイジーでも自らのスタイルを崩さないストイックさも持ち合わせていた。
「ぴくしーを、やらせはせぬ」
「ならば打ち払うのみじゃ、お前様よ」
相手側は地烈でミュエルもろとも切り裂く算段。こちらは仕方なく棘散舞を乱射する。効率は劣るが――しかし。
「痛っ……!」
ミュエルが顔をしかめた。身体がしびれ、樹香を守る体勢が崩れたのだ。
そのチャンスを逃さず走る逝。
刀でもっておもむろに樹香の身体を貫くと、無感情に投げ捨てた。
さすがに顔をしかめる樹香。
この男、たとえ味方であっても同じように殺しにかかりそうなのだ。今回は明確な敵だから容赦しないのだと思いたい。
が、こんな男にも弱点はある。
ある意味他人の気持ちが分からない彼は、相手に合わせた戦術というものが本人が思っているより不得手なのだ。
無敵の精神は時として弱点になりえる。
相手の逝がミュエルを掴んで投げ飛ばしたのがまさにその現われであった。
ミュエルは空中で体勢を整え、ギリギリのところで致命打を回避。
一方の逝は刀でもっておもむろにミュエルに殴りかかり、結果として命中精度の差が生まれた。
ミュエルの頭を砕いて殺すのでは無いかというほどの衝撃で殴りつけ、吹き飛ばす逝。
「解けた」
咄嗟に防御を固めようとする樹香と逝たちへと飛び込む樹香。
薙刀が怪しくそして美しく輝き、虚空に黒い軌跡を描いた。
相手の樹香と逝を切り裂き、くるりと身を翻す樹香。
逝はその様子を見て、ただ一言。
「勝った」
決着はギリギリなものだった。
最後まで意地の悪い抵抗を続ける逝を三人がかりでタコ殴りにするというのは、思った以上に面倒な作業だったからだ。
が、そこを語ると長くなるので省いておこう。
とにかく。
「コングラッチレイショーン! 素晴らしい! さすが、ここまでの遺跡を突破してきただけのことはある!」
テーブルキャンドルがぱちぱちと手を叩いていた。手というか、キャンドルなのだが。
それまでお皿やカップの影に隠れていたピクシーがひょっこりと顔を出す。
「終わった? 大丈夫? 私殺されない?」
「怖がらせてごめんね、もう大丈夫よ!」
急に元気になってピクシーを抱え上げる御菓子。
澄香や理央、ラーラやゲイルたちも体力を取り戻し、どこかよろよろとしてはいたが集まってきた。
「皆さんおそろいのようですね」
テーブルキャンドルは満足げに頷くと、カップを使って自らの火を消した。
途端に視界が暗闇に包まれる。
「皆さんは自らを力によって打ち払いました。しかしそれは決定的な意味での勝利とは言えないでしょう。なぜなら、互いにまだ納得できていないのですから」
「納得? それは一体……」
「ご説明しましょう!」
ぱかん、と周囲の箱が開いた。
いや、あたかも自分が先程まで3メートル立方の箱に入っていたかのように、周囲の壁や天井が開いて消えたのだ。
そして今自分がどこにいるかといえば……。
●天雲遺跡とあなたの気持ち
その場にあったものを端的に説明しよう。
雲の絨毯。
無限の青空。
白いテーブルが一つと、椅子が二つ。
あなたは椅子を引いてみて、それが現実の光景であることを知った。
テーブルの上に置いてあったテーブルキャンドルがくるりと振り返り、あなたに笑いかける。
見上げるほどの大きさだったキャンドルは、今や手に取れるほどの大きさだ。
「ご気分はいかがですか? おおっとお返事は結構、わかりますよ。驚かれて当然ですとも」
あなたの気持ちを無視して、キャンドルは喋り続けた。
「あなたの肩に乗っている『それ』は、かつて遠き土地から日本へ流れ着いてきた妖精一族の末裔でございます。日本の民は彼らを恐れ、そして遠ざけました。なぜだからわかりますか?」
あなたの答えに、キャンドルは感慨深そうに頷いた。
「ええそうでしょうとも。ここを造られた方も同じようにお考えでした。ですから、おこりうる全ての危険をこの遺跡の中に封じ込めることにしたのです。ご覧ください」
雲のはるか下には、無限樹がそびえたっていた。
その真上には巨大な球状物体が浮かび、イルカたちの街が透けて見えている。
これまで通ってきた遺跡たちだ。
「ピクシー。彼らがかつて持っていたいくつかの力は、この遺跡の中に封じられています。例えば疲れを忘れて踊り続ける『ピクシーダンス』。無関係の人々を自らの領域から遠ざける『妖精結界』。ある場所とある場所を一時的に繋ぐ『ポータル(泉の魔法)』に、夢をもった人に空を飛ぶ力を与える『ピクシーウィング(夢の粉)』。そして今まで皆さんが見てきた無限樹のゴーレムやイルカ住民、そして私やもうひとりのあなたたちのように仮想生命を生み出す力……などなど」
確かに、ここまでの出来事は不思議だらけだ。
だが同時に、これらの力をファイヴが獲得すれば様々な有用性が生まれるとも、思えてくる。
「お客様、もしや『使えるな』と思いましたか? そうです。これらが人類に広まれば、必ずや争いを生むでしょう。当然何百年も力を守り続けてきた無限樹やイルカ住民たちは驚異に晒されるでしょうし、力の源を失えば消滅する危険もある。もうひとりのあなた方が抱えていた問題というのは、そういったものでした」
あなたはそこで、はたと気づく。
「そうです。あなた方の連れているピクシーは、争いと悲しみの種となりうるのです。あなたはそれに、納得することができるでしょうか」
向かいの椅子に、『あなた』が現われる。
「これが、最後の試練でございます」
テーブルキャンドルは消え、その場にはあなたとあなた……そしてピクシーだけが残された。
虚空に黒い光が弧を描き、一拍遅れて地面が吹き飛んだ。
長い黒髪を靡かせて一転する『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)。
次なる斬撃を繰りださんとしたその寸前、足払いをかける緒形 逝(CL2000156)。
その後ろから飛び出した『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)が施術した種子をポーチごと投擲。
頭上で一旦はじけたポーチの中から大量の種が散乱し、その全てが次々に炸裂し始めた。
目を鋭く光らせる『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)。
楽器の弦に弓をあてたまま、紙一重で飛来したトゲを回避する。
(やっぱり、そうなるよね)
まず警戒すべきは集中攻撃。確実に狙われるであろう御菓子からだ。
ピッタリと同じように、相手もこちらも御菓子の殲滅から始まっていた。
これがただの集中攻撃ならヘイト操作とカウンターヒールで永遠に押さえ込めるところだが、相手は他ならぬ自分たちだ。効率的なこともすれば、感情で非効率に走ることもある。往々にして非効率的な感情爆発は大きな効果を生むものだ。
己の感情を読めなければ、足下をすくわれる。
「けれど絶対に負けられません。コクリコちゃんが――いますから!」
御菓子は楽器演奏によってカウンターヒールを展開。
ダメージ比率が列攻撃と単体攻撃の比率はおよそ8対6。回復効率と展開を考えれば癒やしの雨を連発するしかないが、棘散舞の集中砲火を一度でも受ければ痺れを警戒しなければならない。カウンターヒールでのリカバリー率がおよそ五割前後なので一回でも行動不能に陥ったら終わりだ。御菓子の戦闘不能が相手側より4ターン早かったらもう取り返しがつかなくなる。
その選択を御菓子は、あえてしなかった。
「とにかく今は、全力を出しますよ!」
集中したら他のことが目に入らなくなるのが御菓子という女である。
それは相手もまた同じ。
御菓子は炎と水の術が入り乱れる中をタラサを演奏しながら駆け回る。
(来る――!)
水流と大気延焼の音に混じって小さな種子の飛来する音を聞きつけ、ティーカップの影に滑り込む。
炸裂した毒性のトゲがカップに当たって跳ね返っていく。毒性の弱い部分だけをあえて受け、致命傷を逃れるというギリギリの作戦だ。
こうしていれば少なからずお互いが消耗する。
消耗すれば選択肢が減り、選択肢が減ればより精神性の勝負に持ち込める。
そして精神性という意味では、御菓子はほぼ無敵だ。
継続を力とする、御菓子ならではの戦術思考である。
だがそれは相手もまた同じこと、滑り込んだペッパーミルの上を飛翔して越えた『願いの翼』天野 澄香(CL2000194)がタロットカードを投擲。刺さったテーブルクロスから無数の種が吹き上がり、その全てが炸裂した。
「うっ……!」
痛みに身体が反応し、一瞬だけ弦をひき違えた。
回復空間が消失。
その隙を狙うかのように、ペッパーミルもろとも大量の炎が御菓子を焼き払った。
他ならぬ『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)の炎である。
魔導書は既に開封状態。自身を中心に大量の魔方陣が常に明滅を続け、バルカン砲のごとく炎の弾を撃ち込んでいく。
一度くじいてしまえば雪崩のごとく。完全に火力で押し切ったラーラは、粉砕したカップ越しに自らと目を合わせた。
意志の強い目。突き進む炎の目。
全力を出しても、おそらくははねのけるであろう目である。
「なら――!」
ラーラは周囲の魔方陣を全て複合・連想して巨大な魔方陣を生成。最大出力で炎の弾を解き放った。
ラーラめがけて飛ぶ巨大な炎――に、正面から突っ込む澄香。
「絶対に、守って見せます!」
二つの爆発が起きた。
翼を焼かれ、大皿の上に転がる澄香と澄香。
二人は強くにらみ合った。
「妖精さんを殺すって――」
「ひどいことだって分かってます。けど、やらなきゃいけないんです!」
次に違いがやるべきことは分かっていた。
すれ違い、ラーラめがけて突撃をしかける。
攻撃ではない。斜角の全てを自分で埋めるためだ。
「――!」
かかる火の粉は炎で払う。ラーラの習性にして強さである。
魔力噴射でバックスウェーをかけながら、細かくジグザグに軌道を変えつつ相手側のラーラへの斜角へ頻繁に割り込む澄香を見て、すぐざま澄香への攻撃にシフトした。
魔方陣を縦に長く重ね、狙撃モードへチェンジ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……」
ロックオン。
出力最大。
「「イオ・ブルチャーレ!」」
澄香を炎が包み込むのと、自らを水気の激流が飲み込むのはほぼ同時だった。
まるで滝壺へとたたき落とされたかのような激流に身を躍らせ、テーブルの向こうへと落ちていくラーラ。
「ラーラッ!」
振り返るが駆け寄らない。『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は複数の思考を同時に走らせることのできるマルチタスクを得意としている。
心配と効率化は彼女にとって両立しえる感情だった。
大量の札を抜き、束のまま放つ。
水気が形を無し、八つ首の竜となって相手の理央へと襲いかかる。
相手の理央はラーラが追撃されていると認識するや否や、即座に次の札を抜いて頭上へ放った。
スプリンクラーのようにまき散らされた治癒術の水が水龍牙へのカウンターヒールとなって広がっていく。
もちろんそれはこちらの理央も同じである。
澄香に抱えられ飛行補助によって無理矢理に復帰してきたラーラがもう一人の自分越しに見えた瞬間、振り返って叫んだ。
「よけて!」
「無駄ですよ!」
復帰直後のラーラには確信があった。
絶対に外さない。
絶対に撃ち抜ける。
そしてそれは、きっと相手も同じこと。
「「イオ・ブルチャーレ!!」」
理央たちの頭上を激しい炎の群れが行き交った。カッとテーブルじゅうが茜色に光に染まり、空中で激しい黒煙爆発が起きた。
復帰直後の澄香とラーラがそれぞれ力尽き、テーブルの向こうへと落ちていく光景だ。
理央の次の選択は、既に決まっている。
「ゲイル、粘って!」
「……よし!」
『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)が水龍牙を発動。
と同時に理央は範囲回復術式を発動させた。
ほぼ予想通りに叩き込まれる水龍牙。
勢いに押し切られないようにティーポットの持ち手につかまる理央。
が、その眼前にいがぐりのような物体が突如発生した。
ミュエルの放った種子がゲイルの水流に紛れてやってきたのだ。
(しまっ――!)
直撃をうけないように両腕で顔や胸を庇うも、それによって水流によって飛ばされる。
流れから逃れ、滞空した時間はわずか三秒。
その間に狙い澄ましたようにゲイルが眼前へ接近していた。
利き腕を半身ごと露出させたゲイルは気糸を展開。
理央の身体の各所に接触させると、エネルギー伝達によって次々に蒸気爆発を起こさせた。
理央を吹き飛ばし、着地するゲイル。
と同時に振り返り、儀式刀を逆手に持って身を翻した。
背後からゲイルによる斬撃。
いや、至近距離から水礫を叩き込むつもりだろう。
(ありえた自分、か。もしピクシーが危険な存在だと知らされれば、俺も同じ決断をしただろう。だが……!)
気糸を腕に巻き付けあい、ゲイルは互いの胸に刀を突き立てた。
「守る覚悟と殺す覚悟……俺は、どちらが上だ!」
「……!?」
相手側のゲイルが強く歯を食いしばった。
同時に蒸気爆発を起こす。
糸が切れ、吹き飛ばされるゲイル。
クロスを転がり、スープ皿にぶつかって止まった。
「やはり甘いな、俺は」
苦笑し、心臓からわずかにずれた傷口に手を当てた。
そんな彼の足下に転がってくる香水瓶。
見つけた瞬間、ゲイルは咄嗟に自らを庇うが瓶がひとりでに破裂するほうが早かった。
広がった毒性ガスに意識を飛ばし、崩れ落ちるゲイル。
それを確認して、ミュエルは肩で大きく息をした。
ポケットに手を入れ、手を広げる。
種も氣力もあと僅かだ。
「こっちも……いくよ……!」
相手めがけて走り出す。
対するミュエルも走り出し、小瓶を投擲してきた。
「これ以上、だれも……やらせない……!」
飛来した瓶が頭に当たってはじけるも、ミュエルは避けることなく更に加速。
ヒールホイールを回転させ、まっすぐ相手に突っ込んだ。
加速しながら種子を発射。
杖を斜めにかまえた防御姿勢で炸裂する種子をよけもせずに突っ込んでくるミュエル。
ミュエルとミュエルは杖を防御姿勢で構えたまま正面から激突。
「仲間を庇っても変わらぬ。まとめて薙ぎ払うだけじゃ」
薙刀を手に飛び込んでくる樹香。
そんな樹香の間合いより内側へと潜り込む逝。
「よくできたニセモンじゃないの」
逝は樹香の手首と肩をそれぞれ掴むと、足を払ってぐるんと身体を上下反転させた。
そのまま手を離し、コーヒーカップへと放り投げる。
カップを粉砕し、破片の上を転がる樹香。
立ち上がろうとして、腕の骨がやられたことに気づいた。
「これは、いかん」
多彩な木行術式で敵を弱体化しつつ自慢の薙刀術で触れるものをみな薙ぎ払うというのが樹香のサイクルである。そのサイクルを崩されるという意味で、体術を封じられるのが一番キツイ。
「一丁上がり。どんどん投げてくぞう」
次にミュエルの襟首へ手をかけたその途端、逝の背後に逝が現われた。
素早く振り向き手刀を繰り出す逝――の手首と腕を掴んで一本背負いをかける逝。
ヘルメットがかち割れるかと思うほどの衝撃に、平衡感覚を著しく失う逝。
圧投に圧投を返されるというのは、ファイヴで戦っていて希有な現象である。が、それで混乱するほど逝はマトモな性格をしていなかった。
そのばからごろごろと転がり、防御を固めながら逃げにかかる。
体術メインの逝にとって体術つぶしは特攻スキル。
「どうするかねえ。対策を考えてなかったけど……ま、どうにかなるわな」
起き上がった樹香が棘散舞を投擲。
ぶつかり合っていたミュエルが同時に飛び出し、空中で種子をたたき落とした。
「ほう……」
樹香は美しい黒髪のような薙刀を構え、大きく息を吐いた。
背中合わせになったミュエルを挟んで対峙する格好だ。
ミュエルは普段の臆病さとは打って変わって、スイッチが入ると両腕ちょん切られてでも突っ込んでくる極端さがある。
一方の樹香は脅しや煽りを無視できるほど自我の強さがあり、たとえ相手がどんなにクレイジーでも自らのスタイルを崩さないストイックさも持ち合わせていた。
「ぴくしーを、やらせはせぬ」
「ならば打ち払うのみじゃ、お前様よ」
相手側は地烈でミュエルもろとも切り裂く算段。こちらは仕方なく棘散舞を乱射する。効率は劣るが――しかし。
「痛っ……!」
ミュエルが顔をしかめた。身体がしびれ、樹香を守る体勢が崩れたのだ。
そのチャンスを逃さず走る逝。
刀でもっておもむろに樹香の身体を貫くと、無感情に投げ捨てた。
さすがに顔をしかめる樹香。
この男、たとえ味方であっても同じように殺しにかかりそうなのだ。今回は明確な敵だから容赦しないのだと思いたい。
が、こんな男にも弱点はある。
ある意味他人の気持ちが分からない彼は、相手に合わせた戦術というものが本人が思っているより不得手なのだ。
無敵の精神は時として弱点になりえる。
相手の逝がミュエルを掴んで投げ飛ばしたのがまさにその現われであった。
ミュエルは空中で体勢を整え、ギリギリのところで致命打を回避。
一方の逝は刀でもっておもむろにミュエルに殴りかかり、結果として命中精度の差が生まれた。
ミュエルの頭を砕いて殺すのでは無いかというほどの衝撃で殴りつけ、吹き飛ばす逝。
「解けた」
咄嗟に防御を固めようとする樹香と逝たちへと飛び込む樹香。
薙刀が怪しくそして美しく輝き、虚空に黒い軌跡を描いた。
相手の樹香と逝を切り裂き、くるりと身を翻す樹香。
逝はその様子を見て、ただ一言。
「勝った」
決着はギリギリなものだった。
最後まで意地の悪い抵抗を続ける逝を三人がかりでタコ殴りにするというのは、思った以上に面倒な作業だったからだ。
が、そこを語ると長くなるので省いておこう。
とにかく。
「コングラッチレイショーン! 素晴らしい! さすが、ここまでの遺跡を突破してきただけのことはある!」
テーブルキャンドルがぱちぱちと手を叩いていた。手というか、キャンドルなのだが。
それまでお皿やカップの影に隠れていたピクシーがひょっこりと顔を出す。
「終わった? 大丈夫? 私殺されない?」
「怖がらせてごめんね、もう大丈夫よ!」
急に元気になってピクシーを抱え上げる御菓子。
澄香や理央、ラーラやゲイルたちも体力を取り戻し、どこかよろよろとしてはいたが集まってきた。
「皆さんおそろいのようですね」
テーブルキャンドルは満足げに頷くと、カップを使って自らの火を消した。
途端に視界が暗闇に包まれる。
「皆さんは自らを力によって打ち払いました。しかしそれは決定的な意味での勝利とは言えないでしょう。なぜなら、互いにまだ納得できていないのですから」
「納得? それは一体……」
「ご説明しましょう!」
ぱかん、と周囲の箱が開いた。
いや、あたかも自分が先程まで3メートル立方の箱に入っていたかのように、周囲の壁や天井が開いて消えたのだ。
そして今自分がどこにいるかといえば……。
●天雲遺跡とあなたの気持ち
その場にあったものを端的に説明しよう。
雲の絨毯。
無限の青空。
白いテーブルが一つと、椅子が二つ。
あなたは椅子を引いてみて、それが現実の光景であることを知った。
テーブルの上に置いてあったテーブルキャンドルがくるりと振り返り、あなたに笑いかける。
見上げるほどの大きさだったキャンドルは、今や手に取れるほどの大きさだ。
「ご気分はいかがですか? おおっとお返事は結構、わかりますよ。驚かれて当然ですとも」
あなたの気持ちを無視して、キャンドルは喋り続けた。
「あなたの肩に乗っている『それ』は、かつて遠き土地から日本へ流れ着いてきた妖精一族の末裔でございます。日本の民は彼らを恐れ、そして遠ざけました。なぜだからわかりますか?」
あなたの答えに、キャンドルは感慨深そうに頷いた。
「ええそうでしょうとも。ここを造られた方も同じようにお考えでした。ですから、おこりうる全ての危険をこの遺跡の中に封じ込めることにしたのです。ご覧ください」
雲のはるか下には、無限樹がそびえたっていた。
その真上には巨大な球状物体が浮かび、イルカたちの街が透けて見えている。
これまで通ってきた遺跡たちだ。
「ピクシー。彼らがかつて持っていたいくつかの力は、この遺跡の中に封じられています。例えば疲れを忘れて踊り続ける『ピクシーダンス』。無関係の人々を自らの領域から遠ざける『妖精結界』。ある場所とある場所を一時的に繋ぐ『ポータル(泉の魔法)』に、夢をもった人に空を飛ぶ力を与える『ピクシーウィング(夢の粉)』。そして今まで皆さんが見てきた無限樹のゴーレムやイルカ住民、そして私やもうひとりのあなたたちのように仮想生命を生み出す力……などなど」
確かに、ここまでの出来事は不思議だらけだ。
だが同時に、これらの力をファイヴが獲得すれば様々な有用性が生まれるとも、思えてくる。
「お客様、もしや『使えるな』と思いましたか? そうです。これらが人類に広まれば、必ずや争いを生むでしょう。当然何百年も力を守り続けてきた無限樹やイルカ住民たちは驚異に晒されるでしょうし、力の源を失えば消滅する危険もある。もうひとりのあなた方が抱えていた問題というのは、そういったものでした」
あなたはそこで、はたと気づく。
「そうです。あなた方の連れているピクシーは、争いと悲しみの種となりうるのです。あなたはそれに、納得することができるでしょうか」
向かいの椅子に、『あなた』が現われる。
「これが、最後の試練でございます」
テーブルキャンドルは消え、その場にはあなたとあなた……そしてピクシーだけが残された。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
お疲れ様でした。
皆さんのピクシーを守りたいという強い意志と力によって、新たな力がピクシーから伝授されました。
皆さんのピクシーを守りたいという強い意志と力によって、新たな力がピクシーから伝授されました。
