≪悪・獣・跋・扈≫貉襲来。拠点を防衛せよ!
●
奈良県で起きた妖の急増、それに伴う事件の多発。
AAAからの救援要請を受けたF.i.V.Eは奈良県で頻発する事件の解決に奔走し、多くの成果を上げて被害は最小限に留まった。
その最中、鳴海 蕾花(CL2001006)の調査がきっかけとなり奈良盆地山中に妖の一大コミュニティ『群狼』 が発見された。
『群狼』には牙王をはじめとして、ミカゲや紫鼠といった強力な個体が確認されている。
このコミュニティを撃破すべく、F.i.V.EはAAAの協力のもと大規模な妖掃討作戦を打ち立てる。
「これよりF.i.V.EはAAAと協力し、妖掃討作戦を決行します。山中への突入、補給地点防衛など、班ごとに役割は違いますが、皆さんの頑張りがこの作戦全体の結果に関わってくるでしょう」
関係資料で分厚くなったファイルを抱えた桧倉 愛深(nCL2000130)の表情は、大規模作戦と言う緊張で硬くなっている
「皆さんが担当するのは繋この場所です」
スクリーンに表示されたなだらかな山裾は背の高い木もあまりなく、足場と視界は良好である。
それは妖側からも発見しやすく戦いやすい場所でもあった。
「ここは山中に展開する皆さんに物資を補給し、負傷者の応急処置などを行うための橋頭堡になります。前線になると思われる地点に近く危険もあります」
AAAも拠点防衛を行うが、防衛の要はF.i.V.Eの覚者だ。
「皆さんはこの拠点の防衛にあたってもらう事になります。場所の確保は勿論、補給品も破壊されないように守らなければいけません」
拠点は足場も視界も良好。その分全方位のどこからでも襲撃が可能だ。
四角い拠点の出入り口は上り坂の下り坂を繋ぐ一本道。堅牢な柵と盾を繋いであるが、何度か攻撃を受ければ破壊されるだろう。
補給品が入っているコンテナはAAAも守っているが、治療や物資の運搬のためにいる非戦闘員もいる。集中攻撃を受ければAAAもコンテナも被害を受けるだろう。
「山中でも戦闘が始まるのでここに来る妖はそれほど強力ではありませんが、数はけして少なくありません。皆さんで協力して防衛にあたって下さい」
奈良県で起きた妖の急増、それに伴う事件の多発。
AAAからの救援要請を受けたF.i.V.Eは奈良県で頻発する事件の解決に奔走し、多くの成果を上げて被害は最小限に留まった。
その最中、鳴海 蕾花(CL2001006)の調査がきっかけとなり奈良盆地山中に妖の一大コミュニティ『群狼』 が発見された。
『群狼』には牙王をはじめとして、ミカゲや紫鼠といった強力な個体が確認されている。
このコミュニティを撃破すべく、F.i.V.EはAAAの協力のもと大規模な妖掃討作戦を打ち立てる。
「これよりF.i.V.EはAAAと協力し、妖掃討作戦を決行します。山中への突入、補給地点防衛など、班ごとに役割は違いますが、皆さんの頑張りがこの作戦全体の結果に関わってくるでしょう」
関係資料で分厚くなったファイルを抱えた桧倉 愛深(nCL2000130)の表情は、大規模作戦と言う緊張で硬くなっている
「皆さんが担当するのは繋この場所です」
スクリーンに表示されたなだらかな山裾は背の高い木もあまりなく、足場と視界は良好である。
それは妖側からも発見しやすく戦いやすい場所でもあった。
「ここは山中に展開する皆さんに物資を補給し、負傷者の応急処置などを行うための橋頭堡になります。前線になると思われる地点に近く危険もあります」
AAAも拠点防衛を行うが、防衛の要はF.i.V.Eの覚者だ。
「皆さんはこの拠点の防衛にあたってもらう事になります。場所の確保は勿論、補給品も破壊されないように守らなければいけません」
拠点は足場も視界も良好。その分全方位のどこからでも襲撃が可能だ。
四角い拠点の出入り口は上り坂の下り坂を繋ぐ一本道。堅牢な柵と盾を繋いであるが、何度か攻撃を受ければ破壊されるだろう。
補給品が入っているコンテナはAAAも守っているが、治療や物資の運搬のためにいる非戦闘員もいる。集中攻撃を受ければAAAもコンテナも被害を受けるだろう。
「山中でも戦闘が始まるのでここに来る妖はそれほど強力ではありませんが、数はけして少なくありません。皆さんで協力して防衛にあたって下さい」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.迫り来る妖を撃破、または撃退
2.コンテナの破壊を五個以下に抑える
3.なし
2.コンテナの破壊を五個以下に抑える
3.なし
今回の戦闘は妖を倒すだけでなく補給物資も守らなければなりません。
息切れに気を付けて戦って下さい。
●重要
≪悪・獣・跋・扈≫のシナリオ成否状況により、奈良盆地の状況が決定します。
これ等の判定は基本的に『難易度が高いシナリオの成否程』重視されますが、『成否に関わらず戦況も加味して』判定されます。
総合的な判定となります。予め御了承下さい。
●場所
山中の前線近くに設営された拠点。
周辺は木が少なく足をとられるような藪もなく、斜面は戦闘に支障がでない程度の傾斜しかありません。
・拠点
柵と盾を繋いだバリケードに囲まれた四角形。
一辺は約8メートルの正方形です。
出入り口は上り坂のA地点と下り坂側のB地点の繋ぐと一本道になる二ヵ所のみ。
バリケードは妖に攻撃されると10ターン程で壊れて浸入されます。襲ってくる妖は跳躍が苦手なので跳び越えられる心配はありません。
補給品が入ったコンテナは主に拠点の側面両側に集まっており、数はそれぞれ12個。大きさは1メートル四方の四角形です。
配置を変える事はできますが、他の拠点に移したり拠点の外に放り出したりは出来ません。
●味方
・AAA/一般人×10名
6名が戦闘員。2人が医師、2人が運搬担当者
戦闘員の6名は基本的にコンテナと非戦闘員の医師二人を守りつつ遠距離攻撃で援護します。
近距離攻撃を使う状況になると犠牲者が出る可能性が高くなります。
運搬担当の二人は戦闘力は低めで妖の足止めは難しいでしょう。医師二人は戦えません。
なお、AAA職員の生死は依頼の成否に関わりません。
・スキル
アサルトライフル(遠単/物理ダメージ)
電磁警棒(近単/物理ダメージ+痺れ)
●敵
・イッカク/前衛/妖(動物系ランク2)×4
猪くらいある大きな貉。
額がせり出し鋭い角が生えています。
物理攻撃と反射速度が高い分特殊系の能力は低め。
知能が低く目立つ物を狙う傾向があります。
スキル
猛撃(近単/物理ダメージ)
刺突(近単/物理ダメージ+出血)
・シャカク/後衛/妖(動物系ランク1)×2
イッカクより一回り小さな貉。
鋭い角はなく攻撃力も落ちますが、体力があり特種特殊系の遠距離攻撃を行います。
体力が半減すると撤退する傾向があります。
スキル
ヘドロ飛ばし(遠単/特攻ダメージ+毒)
気砲(遠単/特攻ダメージ)
情報は以上となります
皆様のご参加お待ちしております
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年07月16日
2016年07月16日
■メイン参加者 8人■

●
奈良盆地山中に妖の一大コミュニティ『群狼』が存在する事を知ったF.i.V.E.はAAAの協力の元大規模な掃討作戦を開始した。
山の麓にはAAAが包囲網を築き、F.i.V.Eを中心とした突入班が山中に展開。早くも妖に遭遇し戦いが始まっている場所もある。
戦闘音は山びこのように響き渡り、山中を駆け回っているだろう妖の気配も感じられる中腹。
ここには補給物資や応急処置が行える器具と人員が配備された拠点があった。
「物資運ぶってのは分かったケドさー……なんかコレってあれっぽい。昔のゲームにこんなのあった」
染めた金髪に浅黒い肌も露わな衣服と言う、山中で見るには場違いな黒ギャル国生 かりん(CL2001391)は、これまたその服装には不釣り合いな武骨なコンテナをずりずりと押していた。
「これこのまま押してっていいの? 配置失敗したら詰むんじゃね?」
「大丈夫ですよっ。まっすぐ行ってくださいっ」
妙に力の入った答えは白い髪と白いマフラーをはためかせ、自身もせっせとコンテナを運んでいる月歌 浅葱(CL2000915)から。
彼女の発案で拠点にあるコンテナの配置を変えているのだが、数が数なので拠点に詰めていたAAA職員も加わって行っている。
「あ、そこはもうちょっと開けてくださいねっ。運搬役と医者の方はそこで隠れてもらいますっ」
「わかりました。これくらいあれば大丈夫ですね」
別の場所からコンテナを運んで来た上月・里桜(CL2001274)は浅葱の指差す通りに間を開ける。
「……まだ妖は来ていませんね」
ふと顔を上げた里桜の『目』には上空から眺める拠点と周辺の景色が映っていた。
守護使役である朧の『ていさつ』はまだ妖の姿を捉えていない。
「補給物資を狙うっていう辺り、動物系とはいえ妖なんだなぁって思うよねぇ……」
因子による変化の力でどことなく草臥れた風情のあご髭姿からがらりと印象の変わる全盛期の姿になった蘇我島 恭司(CL2001015)が、並べられていくコンテナを眺める。
「物資は士気にかかわる大事なものですから、壊されないようにしないと」
AAA職員にコンテナの中身を確認していた柳 燐花(CL2000695)が恭司の所に戻ってきた。
コンテナが壊れると中身もほぼ壊滅状態になると言う答えだったらしく、拠点防衛の責任を感じてか頭から生えた黒猫の耳がピンと張っている。
「襲い来る敵を叩いて拠点を守る。解りやすくてええな。コンテナも医者の先生もバッチリ守り切るで!」
焔陰 凛(CL2000119)の気合いの入った声は燃えるような赤い髪と瞳に変化した彼女の容姿も相まっていつもより熱く感じられる。
AAA職員の中にも熱血タイプの者がいたようで、彼女の言葉に力強く頷いている。
「AAAの皆さんも協力よろしゅうな!」
その反応に凛がぐっと親指を立てたサインを送り、AAA職員も同じサインで返してきた。
前線にほど近い場所に設営された拠点なのだ。ここに配備されたAAA職員は全員妖の襲撃を覚悟して来ている。
戦闘員として配備された六名は勿論、妖が闊歩する山中で運搬役を担う二名、危険を承知で志願した医師二名も同じだ。
「ふっ、妖は私達に任せてくださいねっ。運搬役と医者の方はコンテナのところで縮こまって隠れてもらいますっ」
ばさあっと白いマフラーをたなびかせて浅葱が胸を張った。
コンテナの配置は終わったらしく、小柄な体がコンテナに隠れては格好がつかないのか上に乗っている。
「周囲が騒がしくなってきた。そろそろ来るかもしれないぞ」
胸を張る浅葱の背中側から声をかけたのは坂上 懐良(CL2000523)だった。
双眼鏡を使って周囲の観察を続けていたのだ。
「そういえば燐ちゃん、今回は貉が来るって話だけど、どんな貉が来るんだろうねぇ」
コンテナの移動を済ませた恭司が急にそんな話題を出して来た。
「貉と言う動物ではないのですか?」
ぴんと耳を立たせて硬くなっていた肩から力を抜き、燐花が聞き返す。
恭司はどこかほっとしたように目尻を下げたがいやいやと首を振った。
「実は貉ってタヌキやアナグマ、ハクビシンなんかの別名みたいなものなんだけど、当のタヌキとは別の生物みたいに扱われることも……」
不意に恭司が言葉を切った。
耳を澄ませてみれば周囲に響く音に混じって、それほど遠くない場所から何か聞こえて来る。
今は離れているのと音が反響するせいではっきりとなんの音かは分からないが、全員に緊張が走った。
「……あぁ、話の途中でごめんね? そろそろお仕事開始かな」
恭司が周囲を見回す。
「対処が後手に回ると厄介かもしれん。配置につくぞ」
懐良の言葉に頷き、各自がそれぞれの配置に移動する。
F.i.V.Eの覚者達は拠点の四方に、AAA職員はコンテナの間にもうけられた空間に入ったが、戦闘員の六名はコンテナの上に乗って銃を構える。
「……皆さん、妖が来ます!」
コンテナの上に乗って偵察を続けていた里桜の送受心が全員に届く。
拠点が設置された場所は周辺にも木々が少なく、その姿はすぐに覚者達の前に現れる。
「来た来た。妖のお出ましだ!」
切裂 ジャック(CL2001403)が眼帯に隠れていないほうの目を大きく見開く。
「さーて、一気にお物語の終わりにむかっていこうじゃないか! 終わりの始まり! 始まり!」
ジャックの芝居がかった声が終わるとほぼ同時に拠点の周囲を妖が取り囲んだ。
●
ずんぐりとした体型に太い尾。イッカクと言うその妖は、せり出した額にある角と猪ほどもある大きさを覗けばアナグマに酷似していた。
もう一方はほっそりとした体に長細い尾を持つシャカク。その姿はハクビシンに似ている。
「ふっ、妖にも妖の想いがあるのでしょうが力で来るなら語る言語は一つ、拳で語り合いですねっ」
浅葱が白いマフラーをばさっと宙に広げ集中すると、体が光が溢れ始めた。
「目立つものを狙うと言う話でしたねっ」
「確かにスッゲー目立ってるけど、それやる意味あんの?」
かりんはそう言いつつもばっとポージングをする。
それはただのピースではない。三本指を立てたギャルピース。
負けじと浅葱がびしっと腕を突き出してポーズを取る。
「天が知る地が知る人知れずっ!」
「やる意味あんのかわかんないけど、爆破一発キメてやんよ!」
「妖退治の始まりです!」
かっと二人から光が溢れ爆発する!
「……で、ホントこれやる意味あったの?」
「当然ですっ」
光の爆発が終わると、拠点の周辺を囲んでいた妖の中からイッカクが進路を変えて浅葱とかりんの元に走って来た。
かかってきなさいと浅葱が拳を振るってイッカクに飛び込み、かりんの火炎弾が撃ち込まれる。
「どうですかっ、こんなに釣れましたよ!」
「釣れすぎっしょ」
集まったイッカクは三匹。
これは面倒な事になりそうだとかりんはひっそり溜息をつく。
「大丈夫です。事が終わるまで、じっとしていてください」
光の爆発を見て思わず立ち上がった医者にコンテナを盾に隠れるように言う。
「どうやらこちらには妖が来なかったようです」
燐花と恭司が守る方面に妖が来る気配はない。
別の所ではイッカク一匹とシャカク二匹を相手に懐良と里桜が対抗していた。
「ともしびでも気を引くには充分だったようだな」
「他の妖もコンテナより私達の方に気をとられているようです」
守りを固めた里桜は他の方面にいる仲間達の様子を偵察能力で観察していた。
イッカクは近くにいる懐良にまっすぐ突撃し、シャカクはそれに追撃してくる。
イッカクの角とシャカクの妙な色のヘドロがじくじくと体を蝕む。
「敵は三体。他はどうだ?」
足元のイッカクに抜き放った国包みの一閃、いや二閃を見舞って跳ね除け、里桜に状況を聞く。
「月歌さんと国生さんの方にもイッカクが三体行っています。残り二組の方に救援に来てもらいましょう」
里桜は送受心を使って別方面にいる凛とジャック、恭司と燐花の二組に連絡を入れた。
「今丁度向かっとるとこやで!」
凛とジャックが配置についた所にも妖は来ておらず、二人は里桜の連絡を受けてすぐさま移動していた。
韋駄天足で疾走する凜は駆け付け様朱焔を抜き放つ。
「助太刀にきたでー!」
凛は駆け付けざまに浅葱と対峙していたイッカクに圧撃を叩き込む。
地面に爪を立てながらも後方に吹き飛ばされたイッカクを避けて別のイッカクが凛を狙う。
「ふっ、余所見の余裕は与えませんよっ」
浅葱の両腕が二連撃を繰り出し、イッカクが怯む。
(ごめんな、ここは守らせてもらうぜ)
凛の後を追って来たジャックが心の中だけで呟く。
表に出ている表情は物騒な笑みすら浮かべて言い放つ。
「さあ、死にたいやつからかかってきな!」
水礫に横っ腹を叩かれたイッカクが慌ててその場から離れ、飛んで来た火炎弾にまともに焼かれて鋭い声を上げた。
「これって後ろから撃ち放題じゃね?」
かりんの火炎弾はそのイッカクを焼くも、残り二匹一角が飛び出して凛を襲う。
角が深い傷を残し、偶然なのか狙ったのかその傷にもう一匹の強烈な一撃が重なった。
「ぐっ……!」
歯を食いしばって痛みを堪え、浅葱と二人がかりの飛燕で深手を負わせる。
本能的に危険を察したか身を翻そうとするイッカクを浅葱が追った。
「ふっ、拠点も人員も全て守りますよっ!」
突き出す拳は的確にイッカクを捉え、めり込んだ拳に打ち砕かれたイッカクは地に落ちた。
咆哮が上がり、仲間がやられた事を察した二匹のイッカクが一人突出した浅葱に襲い掛かる。
「撃てー!」
後方からのAAA職員による一斉掃射が二匹を牽制した。
妖であるシャカクにとって痛打とは言えないものの、気を削がれるには十分な攻撃だ。
銃撃を掻い潜ろうとするが、かりんとジャックが狙い撃って退ける。
「凛! 後ろは任せてな、やばいときはやばいって言ってな、ちゃんと守るでー」
「なんか口調うつってるんですけど」
つっこみを入れつつもかりんが火炎弾で攻撃を、ジャックは水礫と癒しの滴を状況に応じて使い分け、前衛の二人を援護する。
後方の憂いなく戦える状況に前衛の二人の動きは本人たちの性質も手伝ってかますます勢いづく。
「あたしの攻撃とあんたの反応速度、どっちが早いが勝負やで!」
地を蹴って踏み出した凛に対し、イッカクも鋭い角を突き出して駆け出す。
低い位置を狙ったイッカクの角が凛の足を削るが、その代償は高くついた。
必殺の一撃が背中から地面を縫い付けるような衝撃をもって叩き込まれた。
「残念、アンタのぼうけんはこれでおわってしまった! ってね」
残ったイッカクの耳にかりんの面白がるような台詞はどう聞こえただろうか。
かりんの火炎弾の後には三人分の集中砲火が待っていた。
●
イッカク一匹とシャカク二匹を相手に戦うのは懐良と里桜、二人に合流した燐花と恭司の四人だ。
「シャカクが二匹……」
手にした苦無で額の角を振りかざすイッカクと斬り結びながら、燐花は毒を含むヘドロと気砲で攻撃して来るシャカクを意識する。
(この状況、蘇我島さんを庇い辛い)
「燐ちゃん、無理は禁物だよ!」
恭司の呼びかけに燐花は頷きつつも、内心は恭司と同じ言葉を返していた。
(蘇我島さんに無理はしてほしくないです……)
放つ飛燕に力が籠る。
「突破はさせん」
燐花の飛燕に続き懐良の国包が閃いてイッカクを切り裂いた。
こちらにもAAA職員からの援護攻撃がありイッカクの方は十分対処できているが、シャカクが曲者であった。
里桜と恭司にも攻撃が飛び、後方のAAA職員も狙われた。
「遠距離型と言うのも厄介だな」
打ち出された気砲が後方のコンテナを穿つ。
裏には医者と運搬役の職員が隠れていたが、コンテナがしっかり盾の役目を果たしていた。
「コンテナに被害が出てますね」
里桜が盾代わりになって歪んだコンテナを横目で見る。コンテナはそれなりに頑丈ではあるが、妖の攻撃を耐え続けるのは無理だ。
シャカクの攻撃が当たり続けたコンテナには大穴が空いている。中身も相当やられただろう。
「連中、後方に狙いを絞ってきたかな」
恭司は癒しの雫を使いながら状況を見る。
二匹のシャカクは後ろから攻撃をしてくる里桜と恭司、そして援護射撃を行うAAA職員に狙いを移している。
「皆さん、妖が狙っています。気を付けて下さい!」
里桜の忠告の直後、シャカクの攻撃が銃を構えたAAAの戦闘員を撃つ。
乗っていたコンテナから転がり落ちたのを見た恭司が癒しの霧を飛ばす。
「シャカクがこっちを狙い始めてる。危ない時はすぐに下がるんだ!」
転がり落ちた職員が手を振って無事と指示に対する了解を返した事に胸を撫で下ろす恭司。
「確かにイッカクより頭が働いてそうだな」
懐良はひたすら突撃してくるイッカクを刀で捌く。
「イッカクの足止めは私達が、蘇我島さんはシャカクの方をお願いします」
イッカクの方は問題なく倒せるだろうが、その間に後方の被害が増えるかも知れない。
案じた燐花に恭司は雷雲を呼び寄せる事で答えた。
雷雲から生まれ出た雷獣が二匹のシャカクを蹴散らし、眩い雷光とシャカクの苦痛の声にイッカクが反応する。
「突破はさせんと言っただろう」
「私達が相手です」
懐良と燐花の飛燕がイッカクの足を止めた。
一瞬の硬直の後、湿った音を立てて鋭い角を持った頭部が地面に落ちる。
「よし、あとはシャカク……」
快哉を口にしようとした恭司のうなじの毛が逆立つ。
ほとんど無意識に身構えた体を二度の衝撃が襲った。
「蘇我島さん!」
燐花の叫びが聞こえて漸く、シャカク二匹の気砲に撃たれた事を把握する。
「これは……いいのをもらっちゃったね……」
笑みを作った口元が苦痛に歪む。
「私が癒します。お二人はシャカクを!」
癒しの霧を使う里桜に頷き、燐花と懐良がシャカクに向かう。
「やってくれましたね……!」
燐花の黒い猫の尾は怒りのあまり膨らみ、普段から感情が読み難い顔の中で目が爛々と光っていた。
天駆で活性化させた細胞が怒りに寄って更に騒ぐのか、二振りの苦無が乱舞する。
「喰らえ!」
激しい攻撃に怯むシャカク二匹を懐良の地列が捉え、纏めて打ち倒した。
二匹は起き上がるも、そこに雷獣が襲い掛かり蹂躙する。
「やられっぱなしだと流石に格好がつかないからね」
さっきのお返しだと若返った分鋭さを取り戻した恭司の目がシャカクを見下ろす。
かなりのダメージを受けたシャカク二匹は怯んだかと思うと脱兎の如く逃げ出した。
「待って下さい。追う必要はないでしょう」
咄嗟に駆け出そうとした燐花を里桜が止める。
「目的は達成した。深追いする事はない」
懐良が同意し、顎で周囲を示す。
「ふっ、どうやらそちらも終わったようですねっ」
援護に来たらしい浅葱がばさっと白いマフラーを翻し、かりんとジャック、凛が手を振っている。
拠点から逃げ出したシャカクは戻って来る事もなく、拠点防衛は覚者達の勝利に終わった。
●
「蘇我島さんの怪我は大丈夫ですか?」
「燐花ちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
戦闘が終わった拠点の一角で、恭司が燐花に付き添われて医者の診察を受けていた。
傷そのものは癒しの滴などの回復能力で治したのだが、戦闘不能にこそならなかったものの深いダメージを負った恭司を心配し、燐花が念の為だと言って医者の所に連れて来たのだ。
「まあ流石にちょっと疲れたねえ。帰ったらゆっくり休みたいよ」
「はい。終わったらお風呂準備しますね。疲れを取って早く休みましょう」
そう言いながらも燐花は恭司が深い傷を負った事に悔し気にしている。
恭司は燐ちゃんが無事でよかったよと言ってもこじれるだろうなあと苦笑するしかない。
「少し被害は出てしまいましたけど、職員の皆さんはご無事なようですね」
里桜が周囲を確認してほっと息をつく。
AAA職員にも負傷者はいたが、そちらも医者の手当を受けており任務は続行するそうだ。
「ありがとうございました。おかげでコンテナの被害は軽微で済みました」
胸をなでおろした里桜にAAA職員が感謝を述べた。
覚者達が最初から妖の注意を引く事に成功していたため、コンテナの破損も戦闘の余波を受けた二つ程度で済んだ。
中身の方も今他の職員が点検し、使える物がないか確認している。
「うおーこれ地味にメッチャキツいんですけど!」
かりんは配置換えをしたコンテナをまた元通りにするため移動させていたが、戦闘直後の体には少々辛かったようだ。
「ふっ、片付ける事はちょっと考えてませんでしたねっ」
浅葱もそう言いながらコンテナを移動させている。
「ここんとこどうやって固定してたん? ああ、器具がいるんやな」
凛はコンテナと同じように戦いの余波を受けたバリケードの補修を志願してAAA職員と共に奮闘している。
「拠点襲撃はしばらく警戒しなくてよさそうだな」
そんな彼女らを尻目に双眼鏡をのぞく懐良。
山中の各所で起きている戦闘の音は響いているが、拠点周辺は静まり返っていた。
「いつかお前等、妖と分かち合えるようになりたいんだがな……」
守り切った安堵に包まれる拠点の片隅で、ジャックは一人妖の亡骸があった場所を見下ろしている。
妖は人を襲う。人を守るためには妖と争う事は避けられないかったが、やりきれない気持ちがあった。
「今日も命が消えて行く―――」
奈良盆地山中の戦いはまだ終わらない。
奈良盆地山中に妖の一大コミュニティ『群狼』が存在する事を知ったF.i.V.E.はAAAの協力の元大規模な掃討作戦を開始した。
山の麓にはAAAが包囲網を築き、F.i.V.Eを中心とした突入班が山中に展開。早くも妖に遭遇し戦いが始まっている場所もある。
戦闘音は山びこのように響き渡り、山中を駆け回っているだろう妖の気配も感じられる中腹。
ここには補給物資や応急処置が行える器具と人員が配備された拠点があった。
「物資運ぶってのは分かったケドさー……なんかコレってあれっぽい。昔のゲームにこんなのあった」
染めた金髪に浅黒い肌も露わな衣服と言う、山中で見るには場違いな黒ギャル国生 かりん(CL2001391)は、これまたその服装には不釣り合いな武骨なコンテナをずりずりと押していた。
「これこのまま押してっていいの? 配置失敗したら詰むんじゃね?」
「大丈夫ですよっ。まっすぐ行ってくださいっ」
妙に力の入った答えは白い髪と白いマフラーをはためかせ、自身もせっせとコンテナを運んでいる月歌 浅葱(CL2000915)から。
彼女の発案で拠点にあるコンテナの配置を変えているのだが、数が数なので拠点に詰めていたAAA職員も加わって行っている。
「あ、そこはもうちょっと開けてくださいねっ。運搬役と医者の方はそこで隠れてもらいますっ」
「わかりました。これくらいあれば大丈夫ですね」
別の場所からコンテナを運んで来た上月・里桜(CL2001274)は浅葱の指差す通りに間を開ける。
「……まだ妖は来ていませんね」
ふと顔を上げた里桜の『目』には上空から眺める拠点と周辺の景色が映っていた。
守護使役である朧の『ていさつ』はまだ妖の姿を捉えていない。
「補給物資を狙うっていう辺り、動物系とはいえ妖なんだなぁって思うよねぇ……」
因子による変化の力でどことなく草臥れた風情のあご髭姿からがらりと印象の変わる全盛期の姿になった蘇我島 恭司(CL2001015)が、並べられていくコンテナを眺める。
「物資は士気にかかわる大事なものですから、壊されないようにしないと」
AAA職員にコンテナの中身を確認していた柳 燐花(CL2000695)が恭司の所に戻ってきた。
コンテナが壊れると中身もほぼ壊滅状態になると言う答えだったらしく、拠点防衛の責任を感じてか頭から生えた黒猫の耳がピンと張っている。
「襲い来る敵を叩いて拠点を守る。解りやすくてええな。コンテナも医者の先生もバッチリ守り切るで!」
焔陰 凛(CL2000119)の気合いの入った声は燃えるような赤い髪と瞳に変化した彼女の容姿も相まっていつもより熱く感じられる。
AAA職員の中にも熱血タイプの者がいたようで、彼女の言葉に力強く頷いている。
「AAAの皆さんも協力よろしゅうな!」
その反応に凛がぐっと親指を立てたサインを送り、AAA職員も同じサインで返してきた。
前線にほど近い場所に設営された拠点なのだ。ここに配備されたAAA職員は全員妖の襲撃を覚悟して来ている。
戦闘員として配備された六名は勿論、妖が闊歩する山中で運搬役を担う二名、危険を承知で志願した医師二名も同じだ。
「ふっ、妖は私達に任せてくださいねっ。運搬役と医者の方はコンテナのところで縮こまって隠れてもらいますっ」
ばさあっと白いマフラーをたなびかせて浅葱が胸を張った。
コンテナの配置は終わったらしく、小柄な体がコンテナに隠れては格好がつかないのか上に乗っている。
「周囲が騒がしくなってきた。そろそろ来るかもしれないぞ」
胸を張る浅葱の背中側から声をかけたのは坂上 懐良(CL2000523)だった。
双眼鏡を使って周囲の観察を続けていたのだ。
「そういえば燐ちゃん、今回は貉が来るって話だけど、どんな貉が来るんだろうねぇ」
コンテナの移動を済ませた恭司が急にそんな話題を出して来た。
「貉と言う動物ではないのですか?」
ぴんと耳を立たせて硬くなっていた肩から力を抜き、燐花が聞き返す。
恭司はどこかほっとしたように目尻を下げたがいやいやと首を振った。
「実は貉ってタヌキやアナグマ、ハクビシンなんかの別名みたいなものなんだけど、当のタヌキとは別の生物みたいに扱われることも……」
不意に恭司が言葉を切った。
耳を澄ませてみれば周囲に響く音に混じって、それほど遠くない場所から何か聞こえて来る。
今は離れているのと音が反響するせいではっきりとなんの音かは分からないが、全員に緊張が走った。
「……あぁ、話の途中でごめんね? そろそろお仕事開始かな」
恭司が周囲を見回す。
「対処が後手に回ると厄介かもしれん。配置につくぞ」
懐良の言葉に頷き、各自がそれぞれの配置に移動する。
F.i.V.Eの覚者達は拠点の四方に、AAA職員はコンテナの間にもうけられた空間に入ったが、戦闘員の六名はコンテナの上に乗って銃を構える。
「……皆さん、妖が来ます!」
コンテナの上に乗って偵察を続けていた里桜の送受心が全員に届く。
拠点が設置された場所は周辺にも木々が少なく、その姿はすぐに覚者達の前に現れる。
「来た来た。妖のお出ましだ!」
切裂 ジャック(CL2001403)が眼帯に隠れていないほうの目を大きく見開く。
「さーて、一気にお物語の終わりにむかっていこうじゃないか! 終わりの始まり! 始まり!」
ジャックの芝居がかった声が終わるとほぼ同時に拠点の周囲を妖が取り囲んだ。
●
ずんぐりとした体型に太い尾。イッカクと言うその妖は、せり出した額にある角と猪ほどもある大きさを覗けばアナグマに酷似していた。
もう一方はほっそりとした体に長細い尾を持つシャカク。その姿はハクビシンに似ている。
「ふっ、妖にも妖の想いがあるのでしょうが力で来るなら語る言語は一つ、拳で語り合いですねっ」
浅葱が白いマフラーをばさっと宙に広げ集中すると、体が光が溢れ始めた。
「目立つものを狙うと言う話でしたねっ」
「確かにスッゲー目立ってるけど、それやる意味あんの?」
かりんはそう言いつつもばっとポージングをする。
それはただのピースではない。三本指を立てたギャルピース。
負けじと浅葱がびしっと腕を突き出してポーズを取る。
「天が知る地が知る人知れずっ!」
「やる意味あんのかわかんないけど、爆破一発キメてやんよ!」
「妖退治の始まりです!」
かっと二人から光が溢れ爆発する!
「……で、ホントこれやる意味あったの?」
「当然ですっ」
光の爆発が終わると、拠点の周辺を囲んでいた妖の中からイッカクが進路を変えて浅葱とかりんの元に走って来た。
かかってきなさいと浅葱が拳を振るってイッカクに飛び込み、かりんの火炎弾が撃ち込まれる。
「どうですかっ、こんなに釣れましたよ!」
「釣れすぎっしょ」
集まったイッカクは三匹。
これは面倒な事になりそうだとかりんはひっそり溜息をつく。
「大丈夫です。事が終わるまで、じっとしていてください」
光の爆発を見て思わず立ち上がった医者にコンテナを盾に隠れるように言う。
「どうやらこちらには妖が来なかったようです」
燐花と恭司が守る方面に妖が来る気配はない。
別の所ではイッカク一匹とシャカク二匹を相手に懐良と里桜が対抗していた。
「ともしびでも気を引くには充分だったようだな」
「他の妖もコンテナより私達の方に気をとられているようです」
守りを固めた里桜は他の方面にいる仲間達の様子を偵察能力で観察していた。
イッカクは近くにいる懐良にまっすぐ突撃し、シャカクはそれに追撃してくる。
イッカクの角とシャカクの妙な色のヘドロがじくじくと体を蝕む。
「敵は三体。他はどうだ?」
足元のイッカクに抜き放った国包みの一閃、いや二閃を見舞って跳ね除け、里桜に状況を聞く。
「月歌さんと国生さんの方にもイッカクが三体行っています。残り二組の方に救援に来てもらいましょう」
里桜は送受心を使って別方面にいる凛とジャック、恭司と燐花の二組に連絡を入れた。
「今丁度向かっとるとこやで!」
凛とジャックが配置についた所にも妖は来ておらず、二人は里桜の連絡を受けてすぐさま移動していた。
韋駄天足で疾走する凜は駆け付け様朱焔を抜き放つ。
「助太刀にきたでー!」
凛は駆け付けざまに浅葱と対峙していたイッカクに圧撃を叩き込む。
地面に爪を立てながらも後方に吹き飛ばされたイッカクを避けて別のイッカクが凛を狙う。
「ふっ、余所見の余裕は与えませんよっ」
浅葱の両腕が二連撃を繰り出し、イッカクが怯む。
(ごめんな、ここは守らせてもらうぜ)
凛の後を追って来たジャックが心の中だけで呟く。
表に出ている表情は物騒な笑みすら浮かべて言い放つ。
「さあ、死にたいやつからかかってきな!」
水礫に横っ腹を叩かれたイッカクが慌ててその場から離れ、飛んで来た火炎弾にまともに焼かれて鋭い声を上げた。
「これって後ろから撃ち放題じゃね?」
かりんの火炎弾はそのイッカクを焼くも、残り二匹一角が飛び出して凛を襲う。
角が深い傷を残し、偶然なのか狙ったのかその傷にもう一匹の強烈な一撃が重なった。
「ぐっ……!」
歯を食いしばって痛みを堪え、浅葱と二人がかりの飛燕で深手を負わせる。
本能的に危険を察したか身を翻そうとするイッカクを浅葱が追った。
「ふっ、拠点も人員も全て守りますよっ!」
突き出す拳は的確にイッカクを捉え、めり込んだ拳に打ち砕かれたイッカクは地に落ちた。
咆哮が上がり、仲間がやられた事を察した二匹のイッカクが一人突出した浅葱に襲い掛かる。
「撃てー!」
後方からのAAA職員による一斉掃射が二匹を牽制した。
妖であるシャカクにとって痛打とは言えないものの、気を削がれるには十分な攻撃だ。
銃撃を掻い潜ろうとするが、かりんとジャックが狙い撃って退ける。
「凛! 後ろは任せてな、やばいときはやばいって言ってな、ちゃんと守るでー」
「なんか口調うつってるんですけど」
つっこみを入れつつもかりんが火炎弾で攻撃を、ジャックは水礫と癒しの滴を状況に応じて使い分け、前衛の二人を援護する。
後方の憂いなく戦える状況に前衛の二人の動きは本人たちの性質も手伝ってかますます勢いづく。
「あたしの攻撃とあんたの反応速度、どっちが早いが勝負やで!」
地を蹴って踏み出した凛に対し、イッカクも鋭い角を突き出して駆け出す。
低い位置を狙ったイッカクの角が凛の足を削るが、その代償は高くついた。
必殺の一撃が背中から地面を縫い付けるような衝撃をもって叩き込まれた。
「残念、アンタのぼうけんはこれでおわってしまった! ってね」
残ったイッカクの耳にかりんの面白がるような台詞はどう聞こえただろうか。
かりんの火炎弾の後には三人分の集中砲火が待っていた。
●
イッカク一匹とシャカク二匹を相手に戦うのは懐良と里桜、二人に合流した燐花と恭司の四人だ。
「シャカクが二匹……」
手にした苦無で額の角を振りかざすイッカクと斬り結びながら、燐花は毒を含むヘドロと気砲で攻撃して来るシャカクを意識する。
(この状況、蘇我島さんを庇い辛い)
「燐ちゃん、無理は禁物だよ!」
恭司の呼びかけに燐花は頷きつつも、内心は恭司と同じ言葉を返していた。
(蘇我島さんに無理はしてほしくないです……)
放つ飛燕に力が籠る。
「突破はさせん」
燐花の飛燕に続き懐良の国包が閃いてイッカクを切り裂いた。
こちらにもAAA職員からの援護攻撃がありイッカクの方は十分対処できているが、シャカクが曲者であった。
里桜と恭司にも攻撃が飛び、後方のAAA職員も狙われた。
「遠距離型と言うのも厄介だな」
打ち出された気砲が後方のコンテナを穿つ。
裏には医者と運搬役の職員が隠れていたが、コンテナがしっかり盾の役目を果たしていた。
「コンテナに被害が出てますね」
里桜が盾代わりになって歪んだコンテナを横目で見る。コンテナはそれなりに頑丈ではあるが、妖の攻撃を耐え続けるのは無理だ。
シャカクの攻撃が当たり続けたコンテナには大穴が空いている。中身も相当やられただろう。
「連中、後方に狙いを絞ってきたかな」
恭司は癒しの雫を使いながら状況を見る。
二匹のシャカクは後ろから攻撃をしてくる里桜と恭司、そして援護射撃を行うAAA職員に狙いを移している。
「皆さん、妖が狙っています。気を付けて下さい!」
里桜の忠告の直後、シャカクの攻撃が銃を構えたAAAの戦闘員を撃つ。
乗っていたコンテナから転がり落ちたのを見た恭司が癒しの霧を飛ばす。
「シャカクがこっちを狙い始めてる。危ない時はすぐに下がるんだ!」
転がり落ちた職員が手を振って無事と指示に対する了解を返した事に胸を撫で下ろす恭司。
「確かにイッカクより頭が働いてそうだな」
懐良はひたすら突撃してくるイッカクを刀で捌く。
「イッカクの足止めは私達が、蘇我島さんはシャカクの方をお願いします」
イッカクの方は問題なく倒せるだろうが、その間に後方の被害が増えるかも知れない。
案じた燐花に恭司は雷雲を呼び寄せる事で答えた。
雷雲から生まれ出た雷獣が二匹のシャカクを蹴散らし、眩い雷光とシャカクの苦痛の声にイッカクが反応する。
「突破はさせんと言っただろう」
「私達が相手です」
懐良と燐花の飛燕がイッカクの足を止めた。
一瞬の硬直の後、湿った音を立てて鋭い角を持った頭部が地面に落ちる。
「よし、あとはシャカク……」
快哉を口にしようとした恭司のうなじの毛が逆立つ。
ほとんど無意識に身構えた体を二度の衝撃が襲った。
「蘇我島さん!」
燐花の叫びが聞こえて漸く、シャカク二匹の気砲に撃たれた事を把握する。
「これは……いいのをもらっちゃったね……」
笑みを作った口元が苦痛に歪む。
「私が癒します。お二人はシャカクを!」
癒しの霧を使う里桜に頷き、燐花と懐良がシャカクに向かう。
「やってくれましたね……!」
燐花の黒い猫の尾は怒りのあまり膨らみ、普段から感情が読み難い顔の中で目が爛々と光っていた。
天駆で活性化させた細胞が怒りに寄って更に騒ぐのか、二振りの苦無が乱舞する。
「喰らえ!」
激しい攻撃に怯むシャカク二匹を懐良の地列が捉え、纏めて打ち倒した。
二匹は起き上がるも、そこに雷獣が襲い掛かり蹂躙する。
「やられっぱなしだと流石に格好がつかないからね」
さっきのお返しだと若返った分鋭さを取り戻した恭司の目がシャカクを見下ろす。
かなりのダメージを受けたシャカク二匹は怯んだかと思うと脱兎の如く逃げ出した。
「待って下さい。追う必要はないでしょう」
咄嗟に駆け出そうとした燐花を里桜が止める。
「目的は達成した。深追いする事はない」
懐良が同意し、顎で周囲を示す。
「ふっ、どうやらそちらも終わったようですねっ」
援護に来たらしい浅葱がばさっと白いマフラーを翻し、かりんとジャック、凛が手を振っている。
拠点から逃げ出したシャカクは戻って来る事もなく、拠点防衛は覚者達の勝利に終わった。
●
「蘇我島さんの怪我は大丈夫ですか?」
「燐花ちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
戦闘が終わった拠点の一角で、恭司が燐花に付き添われて医者の診察を受けていた。
傷そのものは癒しの滴などの回復能力で治したのだが、戦闘不能にこそならなかったものの深いダメージを負った恭司を心配し、燐花が念の為だと言って医者の所に連れて来たのだ。
「まあ流石にちょっと疲れたねえ。帰ったらゆっくり休みたいよ」
「はい。終わったらお風呂準備しますね。疲れを取って早く休みましょう」
そう言いながらも燐花は恭司が深い傷を負った事に悔し気にしている。
恭司は燐ちゃんが無事でよかったよと言ってもこじれるだろうなあと苦笑するしかない。
「少し被害は出てしまいましたけど、職員の皆さんはご無事なようですね」
里桜が周囲を確認してほっと息をつく。
AAA職員にも負傷者はいたが、そちらも医者の手当を受けており任務は続行するそうだ。
「ありがとうございました。おかげでコンテナの被害は軽微で済みました」
胸をなでおろした里桜にAAA職員が感謝を述べた。
覚者達が最初から妖の注意を引く事に成功していたため、コンテナの破損も戦闘の余波を受けた二つ程度で済んだ。
中身の方も今他の職員が点検し、使える物がないか確認している。
「うおーこれ地味にメッチャキツいんですけど!」
かりんは配置換えをしたコンテナをまた元通りにするため移動させていたが、戦闘直後の体には少々辛かったようだ。
「ふっ、片付ける事はちょっと考えてませんでしたねっ」
浅葱もそう言いながらコンテナを移動させている。
「ここんとこどうやって固定してたん? ああ、器具がいるんやな」
凛はコンテナと同じように戦いの余波を受けたバリケードの補修を志願してAAA職員と共に奮闘している。
「拠点襲撃はしばらく警戒しなくてよさそうだな」
そんな彼女らを尻目に双眼鏡をのぞく懐良。
山中の各所で起きている戦闘の音は響いているが、拠点周辺は静まり返っていた。
「いつかお前等、妖と分かち合えるようになりたいんだがな……」
守り切った安堵に包まれる拠点の片隅で、ジャックは一人妖の亡骸があった場所を見下ろしている。
妖は人を襲う。人を守るためには妖と争う事は避けられないかったが、やりきれない気持ちがあった。
「今日も命が消えて行く―――」
奈良盆地山中の戦いはまだ終わらない。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
