一日で炎を絶って見せてみよ
【天狗伝説】一日で炎を絶って見せてみよ


●今までの経緯!
 小規模な覚者組織の一人、山田勝家の情報により愛宕山に住む天狗の試練の事を聞いたFiVEの覚者。
 だが天狗に面通りするには、古妖との戦いを乗り越えなければならなかった。
 見事な連携により古妖を退けたFiVEの覚者達は、愛宕山の天狗と出会う。
 今、天狗の試練が幕を開けるのであった――

●天狗の試練。
「私から一本とってみよ」
 天狗の試練は、その一言から始まった。
「今からこの寺に二十四時間入居することを許そう。誰でもいい。その間に私から一本取ればば試練は終わりだ。武器、術、徒手空拳、何でもいい。一本取った、という事実があればいい」
 どこかの剣術家を思わせる試練だが、問題はそれが容易ではないことだ。
 真正面から挑んでも隙はなく、不意を突こうにもその気配を察される。純粋な力押しでは勝てない相手なのだ。数で攻めてもあっさりいなされる。古妖の中でもかなりの力を持った存在であることは、数度刃を重ねただけで理解できる。
 ならばどうするか?
 悩む覚者に、天狗は一言告げる。
「炎を絶ってみよ」
 謎かけに似た天狗の言葉に、覚者達は首をひねるのであった。

●炎を絶つ
 炎。
 科学的には『熱』『燃える物質』『酸素』をもって生まれる化学反応。
 刀で炎を斬ることはできない。何故なら炎を構成する三要素を絶っていないからだ。それは炎という事象の本質をつかんでいないが故。それを知るならば、水をかけるなり密閉するなりして、炎は絶てる。
 炎を絶つという言葉の本質は、『目的の為に何が必要か、探って感じ取ってみよ』という事だ。つぶさに観察を怠らず、時期を待ち、そして準備を怠らずに挑め。という事だ。
 二十四時間という時間は覚者に与えられた資源。その間に何を為すかは、覚者次第だ。
 何をもって天狗から『一本』を取るのだろうか?


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.次の一八時までに、天狗から『一本』とる。
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 たまには奇策で。どくどく的にはこちらの方が王道なのですが。

●説明!
 天狗から一本取ってください。ただしまともに挑んでは勝ち目がありません。『発明王』も同じことをしています。
 天狗と共に過ごし、観察し、話し、天狗に『認められ』てください。この人物なら、教えを伝えるに値するという人間になら、天狗は見事と一本取られて、その教えを伝えるでしょう。
 天狗がどのような人間を認めるか、という推測して演技をすれば、見抜かれます(演技か否かは、ステータスシートなどから判断します)。下手に格式ばらずに、天狗と過ごしてください。そして何をもって『天狗の教えを得たいか』を行動や言葉で示してください。
 あるいは研鑽や機智を尽くして『本当に』一本取ろうとしても構いません。それもまた一つの解決策です。天狗と言えど完璧ではありません。隙を生み出すことができれば、可能性はあります。

●敵情報(?)
・天狗
 愛宕山に住む赤肌の古妖です。永くを生き、文武に長けます。日本八大天狗の一人とも言われていますが、詳細は不明です。
 性格は厳格。修験者として長くを生き、山と共に生きる生活をもって、修行としています。日本の異変には気づいていますが、我関せずを貫いています。思想の根幹が神教と仏教の為、肉や酒などは食べず、生物の殺傷を避けます。
 いつ話かけても、いやな顔一つせずに反応します。それこそ寝ている時でも。

 天狗のスケジュール
十八時:夜食。山の古妖を含めて料理をふるまってくれます。野菜を煮込んだ鍋。
十九時:後片付けや掃除、風呂焚きなどの家事。
二十時:書室で巻物に書記。
二十二時:就寝。
四時:起床。水汲みや食材探しを含めて、山の散歩。
五時:朝食。山菜や穀物が中心の料理。
六時:清掃。山門の前から家の中まで。
七時:棒術の修行。型から入って、素振りや打ち込みなど。
九時:滝修行。滝に打たれ、自らを清めると同時に自然と一体化しています。
一二時:昼食。朝食と同じく、山菜や穀物が中心の料理。
一三時:山の巡回。山に住む古妖と話したり、迷って来た人間を麓に降ろしたり。
一四時:薪割などの力作業。
一五時:山頂で座禅。自然の風を感じながら、世の事を思う。
一七時:自由時間。覚者との会話に割いてくれます。

●NPC
『発明王の生まれ変わり』山田・勝家
 一度試験を受けているため、寺にはいません。山中でキャンプしています。その為リプレイには存在しません。有益な情報は持っていないため、話しかけるだけ無駄です。
 
●場所情報
 天狗の住む寺。十人ぐらいは泊まれる母屋と、道場があります。庭は広め。山自体はそこそこきついですが、歩けないことはない程度に道はあります。少なくとも日が出ていれば、麓までは一時間程度で歩いて帰れます。
 電気水道などは全くなく、完全な自給自足。水源は少し(徒歩一〇分ほど)離れた場所にある川。風呂は薪を焚いて温める形式。食事は肉が全くない精進料理。
 移動の際、天狗は覚者のペースに合わせて行動してくれます。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年07月09日

■メイン参加者 8人■


●始まり
「天狗の試練がこんな形とはね。……一本、ね。ふふ」
 天狗の試練を聞いて『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は静かにほほ笑んだ。一本という言葉に含まれた意味は大きい。
「一本、一本な」
 唸るように『星狩り』一色・満月(CL2000044)が腕を組んだ。様々な方法を頭の中で想像し、それを行うための手法を考える。それができるか否か。そこまで考えて唸った。
「特に『何でも良いから』の部分が考えさせられます」
 言って思案する望月・夢(CL2001307)。炎を絶てという天狗からのアドバイス。如何にして『一本』を得るか、そこが重要なのだ。ではどうやって?
「炎を絶て、か」
 天狗の告げた言葉。それを反芻する『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。天狗の体術にも興味はあったが、今はその立ち様を見てみよう。そうすることで得る物があるかもしれない。
「頑張って……修行を体験してみる……つもり……」
 天狗から告げられた一日の内容を聞いて『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)は拳を握る。少し大変だと思うが、力を合わせれば何とかなりそうだ。
(人にも伝授が出来るというのなら、生来のものでなく研鑽の果てに見出したものなのであろうか?)
 八重霞 頼蔵(CL2000693)は天狗の教えの事を考えていた。永き時を生きる天狗。その教えとはどのようなものであろうか。興味は尽きない。
「古妖の日常に踏み入るなんて、深山幽谷ここに極まれりですね」
 古びた寺の様子を見ながら『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)が笑みを浮かべて頷いた。五麟の街よりもなじんだ生活風景。その空気に肩の力が抜ける。
「那須川夏実って言います。この度はよろしくお願いします。お名前を聞いても良いかしら?」
 一礼して自己紹介を行う『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)。その表情には、天狗に対する興味と敬意が浮かんでいた。貴重な体験だ、と気合を入れる。
「天狗で構わん。そうだな……『嶺渡(ねわた)』と名乗っておこう」
 嶺渡。高嶺から高嶺へと渡る風の事。それを名乗り、天狗は覚者に向き直る。
「さて、どうする客人よ?」

●夕食
 覚者達は天狗の生活に付き添うことにした。無理に一本を取りに行ってもいいが、その前にお腹を満たしておきたいという気持ちもある。
「えらい小さい包丁やなぁ」
「長年使って研磨した結果だ」
 調理を手伝おうとした凛は、まずその包丁の短さに驚いた。天狗の人差し指程度の長さしかない。砥石で研磨し続けた結果、そこまで短くなったのだ。
「見事な包丁使いやなぁ」
「道具の手入れをし、基本に忠実に行う。それだけだ」
 なるほど、と凛は納得する。それは剣術にも通じることだ。
「天狗さんのお料理、新鮮な手順が多くて……勉強に、なります……」
「大事なのは順番だ。どのような物でも順序が違うだけで結果は異なる。それは戦いでも同じこと」
 鍋に火を通しながらミュエルが感心したように告げる。その言葉に天狗が答えた。予想外の反応に、ミュエルが目を丸くする。
「外の闘いを見ていた。相手を弱らせる術を使うなら、相手が行動する前に放つのが吉だ。そうすることで効率のいい戦いができる」
「陰湿とか……思わない……?」
「獅子に挑む毒蜂を卑怯と罵るのは、不自然だ。それも戦いなのだから」
 そんな話をしながら、鍋は完成する。少し前に戦った古妖達も、それに惹かれるようにやってくる。
「慕われているのか、力で支配しているのか……何て、疑うまでもないわよね」
 エメレンツィアは集まった古妖を前に、そんなことを口にする。力で従えているとは思えない絵買いがそこにあった。
「ただいまー」
「あらナツミ、どうしたの?」
 門をくぐった夏実の声に、何かあったのかと問いかけるエメレンツィア。
「勝家のとこに様子見ついでにサシイレに」
「ああ、何してたの『発明王』」
「青鷺火と『どっちが眩しく光るか対決!』してた。覚醒爆光で」
 何をやっているんだ。そんな声が漏れたか漏れなかったか。その青鷺火もしばらくして食事の為にやってくる。

 食事の後片付けも終わり、後片付けや掃除を手伝う覚者達。
「イッシュクのオンギは返さなきゃだしね」
「目的はどうあれ、お邪魔させていただいている訳ですから」
 とは夏実や冬佳の言葉。溜めていた水を使って鍋を洗ったりするのは、現代社会ではあまりない経験だが、新鮮ではあった。
 その後、天狗は書室にこもり、巻物に書していた。内容はというと日々のとりとめのない内容だ。だがそれは、
「天狗様、これは?」
「昼頃に麓で降った雨のことだ。風と水の動きが渦巻きを草花が捕らえた様子だ。結果、瞬間的な豪雨を生んだ経緯だ」
 夢の問いかけに答える天狗。現在の知識に直せば、草木の動きからゲリラ豪雨を予測した、という事なのだろう。
「博識なのですね」
「自然と共に生きるという事はそういう事だ。逆に私は人間の『文明』を知らぬ。一長一短だ」
 知識を持つことに奢ることはない。生きていること自体が修行であり勉学。天狗の態度がそう告げていた。
 他の覚者も興味津々である。天狗の邪魔にならないように書物を見て、時に問いかけていた。意味を知れば納得できる。それは分かりやすいという事もあるが、現代の科学出会証明されている事柄でもあった。

●挑む者
 就寝前、頼蔵が天狗を呼び出す。
「勝負を挑む」
 頼蔵は他の仲間に告げず、天狗を呼び出す。手には一枚のコイン。
「方法は一度硬貨を放り、地面に落ちる間に、表裏を予想する。負ければ下山する」
「良かろう。これで負けてもそれは天運」
 断られるかと思ったが、存外あっさりと受け入れられた。
(真正面から挑めば勝率は一割以下。だがこれなら五割で勝利)
 頼蔵は天狗に臆さぬとばかりに自信ありげに立ち振る舞う。だがそれは天狗を勝負に誘うための演技。
(勝負が始まれば後は、運だけ。ならば勝つ)
 コインは弾かれた。運の良さには自信がある。
「表か裏か、だったな。――だ」
 天狗が告げる選択。コインはゆっくりと地面に落ちた。結果は――

「早起きだな」
 日も昇らぬ内に目覚めた天狗が見たのは、それよりも早く起きていた覚者だった。
「なあ、俺と勝負をしてくれ」
 満月は木刀を手に、真正面から天狗に勝負を挑んだ。
(まともにやってのでは一本はとれぬ)
 満月は天狗の実力を見て、必死に考察した。寝込みを襲う。排せつしてるときを狙う。飯を食うときを襲う。その全てを考え、そしてやめた。
(だが俺はあえてまともにやる。曲がったことなどしたくない)
 自分にはこれしかない、とばかりに刀を構える。天狗はそれを否定することなく、ただ立っていた。いつ始めても良いという意味と、このままで十分避けられるという意味を含めて。
「ひとつ、願いを聞いてくれ。手加減などするな、俺を殺す気で来てくれ」
「何故だ?」
「強くならねばならん」
 満月が戦う理由は『復讐』である。それを果たした先に在るのが空しいだけだと知っている。それでも止まれはしない。
「俺には止まれない理由がある。そこだけは、それだけは、アンタに認めてもらいたい!」
 それと同時に守りたい絆がある。復讐という黒い道の先を歩みながら、絆を守るには今以上に強くなるしかない。
「分かった」
 首肯し、天狗が棒を構える。
 この身が尽きるまで何度でも。満月は刀を構え、天狗に踏み込んだ。

●朝
「起きたか」
 四時。外に出ようとした天狗は、門で待っていた覚者達を見つける。
「おはようございます」
「水汲みに散歩……お付き合い……します」
 元気に起きる者、無理やり体を起こす者、様々だ。天狗の生活に合わせて何かを得ようという気概は伝わったのか。断られることはなかった。
「山の中の空気の良い場所やと最高に気持ちええな!」
 大きく深呼吸をする凛。そのまま準備運動とばかりに体を動かし始める。剣術を嗜むこともあって、早起きに慣れているのだろう。
「……普段、運動とか避けてるから、すぐ疲れちゃうかもだけど……体力の限界まで、頑張るよ……」
「ええ、朝早いのね……大丈夫、やるわ……」
 逆にミュエルやエメレンツィアは、慣れていないこともあってまだ気だるさが抜けていないようだ。天狗は特に気にすることなく、覚者のペースに合わせて山を歩く。川まで降りて水を汲んで寺に戻る。水を入れる桶の中に水を入れてまだ川まで下る。予想してはいたが、かなりの重労働だ。
「……覚醒は、なんかズルしてる気分になるから……しない……」
 ミュエルは息絶え絶えになりながら、それでも懸命に水汲みを続けた。

 自分達の採った山菜で朝食を作り、それを食べる。取れたての食材がこんなにおいしいと言うのは、新たな発見であった。
 後片付け後に寺の清掃を行い、その後天狗は棒術の修行に入る。
「あたしは剣の素振りさせてもらうわ」
 凛は木刀を手にして、素振りを始める。時々天狗の動きを見て、その動きに追随するように体を動かす。ああ攻められたら、こう返す。でもそう返されるから、次はこう足を動かして……見て体を動かすだけでもかなりためになる。
「…………」
 夢は天狗の邪魔にならない場所で、舞の練習をしていた。近くに天狗がいることで新たな刺激となっていた。だがそれでも冷静を保つ。武と舞は共通するところがある。それは天狗の動きを見ても理解できた。
「その技……始まりは、誰かに学んだ物なのでしょうか。それとも、自ら編み出し昇華なさった?」
「師は確かにいる。その教えを守り、己の動きを加え、今に至る」
 棒術の動きを見て気になった冬佳が天狗に問いかける。天狗の答えは『守破離』の思想に乗っ取ったものだった。武術に限らず、あらゆる文化が進化して発展していく過程の下地。教えられた型を『守り』、よりよい形にするために型を『破り』、型の上に立脚した上で『離れ』る。
「いまだに道は極まらん。武の道は長きことよ」
 確かに、と冬佳は首肯する。天狗と言えども生まれ持っての能力で強いわけではない。永きを生きた修行の成果。それが強さなのだ。天狗が武神として祀られるのは、その在り方が由来なのだろう。

●修行
 滝行。白装束に着替え、自然と向き合い一体化する修行である。
「慣れ親しんだ修行です」
 着替えから入水までを慣れた動きで済ませる冬佳。そのまま天狗の邪魔にならない場所で滝に打たれ始める。最初は冷たさと痛みが体を襲うが、その内苦しさも抜けて水に討たれる感覚だけが残る。
「これは家ではでけんからな」
 滝には慣れていないが、興味津々という顔で凛は滝に打たれる。水の冷たさに身を縮ませながら、天狗の動きをまねるように足を進める。どちらかというと勢いのままに滝に入る。
「身を清め引き締めましょう」
 夢も慣れてはいないが、滝行を経験することにした。自然との一体化。それは一朝一夕にはできないことだ。だが、それに近づけるように心を静めてみる。凪の湖面をイメージし、その穏やかさを保つように。
 そして昼食後、山の散策の後に頂上に赴く。眼下に広がる雄大な光景。その光景の中で、天狗は座禅を組む。自我を極力排し、その上で全ての感覚を研ぎ澄ますことで『無の極地』と呼ばれる状態に持っていくという。
(……未だ『三昧』の境地には達せんなぁ)
 実家で座禅を行っていた凛。三昧とは深まった精神集中により、心を一つの対象に集中して動揺しないでいる状態の事である。剣禅一如を目指す凛の流派は、肉体的な修行と精神的な修行を同格と見ている。この禅もまた、剣の修行なのだ。
(これが『山と共に生きる生活をもって、修行としている』という事なのね)
 夏実は天狗と同行して一日を過ごし、その在り方を見てそう判断する。朝起きることも、料理を作ることも、掃除をする事も、滝に打たれることも、座禅を行うことも、すべて同じこと。一つ一つがではなく、この生活そのものが修行なのだ。
 
 空が茜色に染まる。刻限まで、あと一時間。
 覚者の心の中に、一つの答えが生まれつつあった。

●問答
「一日中見て分かったわ。付け入る隙は見当たらないわね」
 エメレンツィアは一日中観察した結果を端的に告げた。それは覚者全員の共通認識だ。天狗に向き直り、真正面から質問をぶつけた。
「貴方は、人間に何を望むの? 共生? 無関係? それとも、破滅?」
「私から見た人間は、草木や風と同じだ。同じ自然の中にある者。そういう意味では『共生』だ」
 人間もまた自然の一部。故に自然と等しく扱う。それが天狗の答えだった。
「天狗さんは……どういう気持ちで、日々の修行に臨んでるの……?」
「深いことは考えていない。私にとって生活そのものが修行だからな」
 ミュエルの問いに、少し考えた後に答える天狗。特別なことはしているつもりはない、という事らしい。
「今の日本の問題、覚者と妖の発生についてどう思われますか? 『これ』は永くを生きてきた天狗の目から見ても『異変』なのかどうか」
「人は鉄を精製し、高き塔を作るに至った。此度のもまた、人の『変化』だ。強いて言えば、その変化に世がついていけぬことこそが『異変』か」
 真剣な瞳で問いかける冬佳に、天狗は目を逸らすことなく答える。その『力』ではなく、『力』そのものに振り回される心こそが問題なのだ、と。
 そして攻守交替。今度は天狗から問いかけられた。
「ではこちらから問おう。何ゆえに私の知識を求める?」
「私の場合はそこに学びを得る機会があるから。故に少しでも成長しようと学び、動いているのです」
 夢が静かに天狗の教えを受ける理由を口にする。口数は少なく感情を表に出すことのない夢だが、決して消極的なのではない。学ぶべき機会があるなら学びたい。
「時と共に在るべくして移ろってきた人と古妖の世界が急速に壊れ始めている今、その世界に生きる者の手で対応していかねばいけません。
 その為にも、私達は正しく対するべく覚者や妖の力と存在について理解を一層深める必要がある……教えを請いたい理由としては、私はこんな所でしょうか」
 冬佳の答えは、この日本を憂いての言葉だった。
「あのね」
 一泊置いて、夏実が語りだす。。
「ワタシはこの二十四時間ジタイ、アナタの『教え』だったと思ってるの。
 だってアナタは『山と共に生きる生活をもって、修行としてい』る。それはホラ、ワタシ達が付き合ってモラったこの一日そのモノだわ」
 この一日自体が『天狗の教え』。山と共に生きること自体が、教えであり答えなのだ。
「でも、じゃあもう満足かって言えばそうじゃない。だってワタシはワタシだもの。
 望みや欲を消す気はないの、それはワタシだから。でも、望みや欲にのみこまれるのはイヤ……ゼッタイに、イヤ。だからワタシは強さが欲しい」
「せやな。あたしもおとんに勝ちたい! それを捨てたらあたしがあたしで無くなるから、あたしはおとんに勝つ事を目指し続ける! それが大事なんや!」
 夏実の言葉に反応するように、凛も自分の剣を握る理由を口にする。無我の極地とは正反対の自我まみれな意見だが、我欲だけは捨てられない。
「自然と一体化して、その上で世の中の事を思えるアナタの様なでも揺らがない。カッコたる己、心の強さ。ワタシが教わりたいのは、それ」
「人が人たるはその欲。それは目的の為に邁進できる強い力、という事か」
 天狗は唸り、立ち上がる。
「良かろう。その『己』が人の学ぶ原動力というのなら、その果てに何を為すかも自然の流れ。
 永きをもって見続けた自然の記録、一時汝らに受け渡そう。『科学』とは別側面から見た世界の姿、その視点は汝らの知識を補強することになるだろう」
 書室を開け、部屋に積まれた巻物を示す。古妖の中でも長生きと言われる天狗が記録した『世界』の記録。
 あらゆる物質や現象は、観察面が変われば大きくその在り方を変える。『人間』という生物も、化学面で言えばタンパク質と水でしかなく、物理学から見れば重量数十キロの存在だ。文学面から見れば数多の感情を含んだ鬼でもあり神でもあり、自然人類学から見れば発生して数万年程度のチンパンジーの亜種だ。
 その観測面に『天狗の見識』が加わる。これにより、一つの物質や現象から更なる見解が生まれ、知識が補強される。これにより、より専門的な思考が可能となるだろう。

●下山。新たな知識と共に
「ありがとうございました!」
 一礼し、覚者達は下山する。山で戦った古妖に見送られ、大量の巻物を担ぎながら歩き出す。
 天狗の知識を得て、FiVEは更なる機知を手にいれたことになる。これにより、更なる活動が可能となるだろう。
 だが、知るがいい。知識とは力。それにより幸福をもたらすこともあるが、不幸をもたらすこともある。それは歴史が証明している。天狗がそうと知って知識を預けたのは、覚者に対する信頼からだ。
 その信頼に応えるべく、身を引き締める覚者達であった。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 一日修験者体験シナリオ、お疲れ様です(違う)。

 MVPはこの修行の本質を語ってくれた那須川様に。
 他の方も薄々とは気づいているプレイングでしたが、一番形になっているという事で。
 そしてあとがきで語ることがなくなったぜひゃっほー。

 ともあれお疲れ様です。天狗の教えをどうするかは、皆様次第です。
 それでは五麟市で。




 
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