悪夢夜行
●『別の世界などあるわけがない。あるわけがないのだ』
あなたは病院の個室ベッドで目を覚ました。
白で統一された三畳ほどの部屋にはパイプベッドとパイプ椅子、便器とクリアプラスチック製の棚が設置され、はめごろし窓から日光が差し込んでいる。
出入り口のドアはスチール製で、同じくはめごろしにした窓から廊下と向かい部屋らしきドアが見えた。
あなたが自分の手を見ると、布ベルト式の拘束服を着ていることに気づくだろう。それを気に入ってもいいし、おぞましく思ってもいい。
だが同時に、自分におかれた三つのことがらについて気づく筈だ。
第一に、ここが夢の中であること。
第二に、覚醒やアテンドの存在などあらゆる特殊技能が使えないこと。
第三に、あなたはこの世界において重度の精神疾患を抱えていることだ。
第三の気づきについて詳しく話そう。
名を『コズミックトラベラー症候群(CTS)』といい、自分を別の世界からやってきた人間だと根拠無く主張するものである。
これだけならばただの虚言癖だが、世界移動者であることを否定されると極度のパニック症状を起こし、『発作』と呼ばれる多動性および凶暴性を発するようになる。
あなたは幾度も発作を起こし、ここへ移送されたのだ。
この状況をどう受け取るかはあなた次第だ。
しかし部屋の中を調べているうちに、ドアの下からメッセージカードが差し込まれていることに気づくだろう。
内容はこうだ。
『あなたを元の世界に返す方法が見つかった。この病院を生きて脱出せよ。ドアの鍵は開けておいた』
試しにドアノブを回してみると、それは抵抗なく開いた。
廊下へ出ると、奥の方から見知らぬ人間が歩いてくるのが分かった。
自分と同じ拘束服を着ている。
しかし全身の皮膚がはがれ落ち、淀んだピンク色の手足を晒していた。
何より頭部から眼球を含むあらゆる器官が消失し、かわりにどこまでも続くような黒いホールが空いている。
そいつは手に何かを持っていた。
人間の足だ。
足から先もちゃんと存在しているが、腕をばたつかせて地面をひっかいている。
あなたを見つけ、彼は叫んだ。
「助けてくれ! ころされ――アアアッ!」
彼の全身の皮膚がはがれ落ち、顔面がねじれるようにくぼみ、黒いホールへ変わった。
二人に増えた『なにか』は、あなたへ向けて走り出す。
相手から感じる圧倒的なほどの殺意に、あなたは――。
あなたは病院の個室ベッドで目を覚ました。
白で統一された三畳ほどの部屋にはパイプベッドとパイプ椅子、便器とクリアプラスチック製の棚が設置され、はめごろし窓から日光が差し込んでいる。
出入り口のドアはスチール製で、同じくはめごろしにした窓から廊下と向かい部屋らしきドアが見えた。
あなたが自分の手を見ると、布ベルト式の拘束服を着ていることに気づくだろう。それを気に入ってもいいし、おぞましく思ってもいい。
だが同時に、自分におかれた三つのことがらについて気づく筈だ。
第一に、ここが夢の中であること。
第二に、覚醒やアテンドの存在などあらゆる特殊技能が使えないこと。
第三に、あなたはこの世界において重度の精神疾患を抱えていることだ。
第三の気づきについて詳しく話そう。
名を『コズミックトラベラー症候群(CTS)』といい、自分を別の世界からやってきた人間だと根拠無く主張するものである。
これだけならばただの虚言癖だが、世界移動者であることを否定されると極度のパニック症状を起こし、『発作』と呼ばれる多動性および凶暴性を発するようになる。
あなたは幾度も発作を起こし、ここへ移送されたのだ。
この状況をどう受け取るかはあなた次第だ。
しかし部屋の中を調べているうちに、ドアの下からメッセージカードが差し込まれていることに気づくだろう。
内容はこうだ。
『あなたを元の世界に返す方法が見つかった。この病院を生きて脱出せよ。ドアの鍵は開けておいた』
試しにドアノブを回してみると、それは抵抗なく開いた。
廊下へ出ると、奥の方から見知らぬ人間が歩いてくるのが分かった。
自分と同じ拘束服を着ている。
しかし全身の皮膚がはがれ落ち、淀んだピンク色の手足を晒していた。
何より頭部から眼球を含むあらゆる器官が消失し、かわりにどこまでも続くような黒いホールが空いている。
そいつは手に何かを持っていた。
人間の足だ。
足から先もちゃんと存在しているが、腕をばたつかせて地面をひっかいている。
あなたを見つけ、彼は叫んだ。
「助けてくれ! ころされ――アアアッ!」
彼の全身の皮膚がはがれ落ち、顔面がねじれるようにくぼみ、黒いホールへ変わった。
二人に増えた『なにか』は、あなたへ向けて走り出す。
相手から感じる圧倒的なほどの殺意に、あなたは――。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.一人でも病院からの脱出すること
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
このシナリオは夢見の予知を介していません。
以下の情報はプレイング作成のために補足されるものであり、PCが知らない情報です。
気をつけて扱ってください。
●病院の構造など
ここはある世界の精神病院です。
リアル世界(便宜上こう呼ぶ)の病院と異なり、作りは古いようです。そもそも収容施設の体を成しているため、一般的に想像するようなメスや外科手術台などの医療機材はありません。仮にあったとしても厳重に保管されているため手に入らないでしょう。
最初に手に入るであろう『振り回せるもの』は部屋にあったパイプ椅子です。
病院は三階建てで、あなたはその三階にいます。
非常扉前や屋上エリアなど、安全そうな通路はおおかた『なにか』がうろついています。
階段を下ったり、廊下や部屋をジグザグに移動して『なにか』の目を盗み外を目指してください。
時には誰かを囮に、ないしは犠牲にする必要が生じるでしょう。
また、院内では不可解な現象がたびたび起こります。
扉が急に壁に変わっている。同行していた人物とはぐれる。人数が変わっている。などです。そしてその原因を知ることはできません。
●プレイングにあたって
脱出中はあらゆる行動が死につながる隙になります。
例えば『病院の案内図を確認する』『事務室の資料を閲覧する』『武器を作成する』『なにかを捕獲する』『なにかを次々と倒す』などのプレイングは相応のリスクを犯します。
参加者たちの部屋はある程度集中しています。リプレイ開始時には全員そろった状態でいられるでしょう。
また、この世界では覚者ですらないため、一部のイベントシナリオ等と同様に命数復活や魂使用のコールは無効化されます。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年06月12日
2016年06月12日
■メイン参加者 6人■

●これまでの悪夢夜行
『なにか』に遭遇した『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)は隣部屋だったと納屋 タヱ子(CL2000019)共に反対側の廊下を逃げていた。
時を同じくして『なにか』にパイプ椅子を投げつけて逃げる『罪なき人々の盾』鐡之蔵 禊(CL2000029)は人の良さそうな青年、緒形 逝(CL2000156)に出会う。
彼ら四人はほどなくして『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)と葉柳・白露(CL2001329)が隠れる病室へと到達する。そこへ『なにか』から逃げてきたという女、雛代・供犠(nCL2000137)が駆け込んできた。
恐怖に耐えながらも両親のことを思うきせきとタヱ子。
逝と供犠に直感的な危険を感じる誘輔。
皆を率先して元気づけようとする禊。そしてどこか超然とした雰囲気をもつ白露。
彼ら七人には奇妙な協力関係が生まれていた。
目的はただ一つ。この病院から生きて脱出し、『元の世界』に帰ることである。
●「私には別の両親がいたんです。今の両親は偽物です。いくら言っても信じてくれなくて……だから……私は偽物の母に、焼けたフライパンを……」
タヱ子は廊下の様子をうかがってから、できるだけ足音を殺すように歩き出した。
目指すは事務室。建物内の案内図のようなものを探すのだ。
外は夕暮れ前だ。自然光が各部屋の窓から漏れている以外、廊下も部屋も照明器具はついていない。
パイプ椅子を持ったきせきと手を繋ぎ、そばには禊と供犠が二人を守るようについている。
並ぶ扉。通りがかった途端にドンと扉が叩かれ、鉄格子窓のむこうで『なにか』が扉を叩いてこちらをにらんでいるのが分かった。
思わず身構えるきせきたちだが、供犠がそっと手で庇うように前へ出る。
「大丈夫。扉が開かないみたいよ。危険はないわ」
「でも……きょうぎさん、『なにか』は部屋を出ていましたよね」
「あたしたちみたいにドアの鍵を開けられた人たちがいるってことだよね」
「それが『なにか』になったのかな……」
自分たちは重度の精神疾患を抱えた人間。つまりどれだけ善良であっても他者へ危害を加えかねない人間である。拘束具や施錠部屋はお互いのために存在していて、それは最も重要な安全策だと言えた。無論、半狂乱になってドアを殴りつけたところで鍵が開いくなんてことはない。
それが安易に開放されることなど、あるのだろうか。
「考えるのは後にしましょう。まずは脱出です。早くお父さんとお母さんに会いたいです……」
きせきが笑顔でタヱ子の手を握りなおした。
「うん。会って、帰る前にごめんねって言わないとだよね。自分の子供が異世界に行っちゃうなんて、きっと悲しくてつらいから」
「…………うん、そう、ですね」
ぎこちなく頷くタヱ子。
病室が並ぶ廊下は透明なドアによって遮られていた。ドアは開放されていたが、恐らく入院患者の脱走を防ぐためのものだったのだろう。
ドアをくぐると、すぐそばに階段。階段の脇に備え付けるようにして院内の案内板があった。
院内は建物内端から端まで迂回するように移動する以外に脱出方法がなく、その間にいくつものフロアを抜ける必要がありそうだった。
「出口が分かればこっちのものだね」
地図を指でなぞる禊。
しかし不安要素が一つ。
事務室と書かれた部屋は、三階の奥に存在している。出口とは完全に逆方向なのだ。
地図の内容を記憶した。さあ先を急ごう。
そう考えた途端、ガチャンと鍵の開く音がした。
それも一斉にである。
振り向くと、施錠ドアで閉じ込められていた『なにか』が部屋から外へ出て、こちらを一斉に振り向いたではないか。
「――!!」
衝動的に前へ出ようとするきせきを暴力的なほどの力で押しのけ、禊は飛び出した。
「先に行って!」
「でも……」
「早く!」
供犠は頷いて、タヱ子ときせきの手を引いて走った。
禊はきせきの置いていったパイプ椅子を手に取ると、『なにか』の集団へと駆けだしていく。
●「俺の任務? それは言えない……言えないが……変なんだ。どっちが本当の任務なんだ? 俺はどちらに従えばいい。誰も教えてはくれなかった。だから俺はハンナを……ナイフで……」
通路の床に耳を当て、白露は慎重に周囲を探る。
後続の仲間にハンドジェスチャーをしながら、通路の端から端へと移動していく。
部屋に滑り込み、身を隠し、滑り込み、身を隠しの連続だ。
通路を徘徊している『なにか』の動きさえわかれば、難しいことではなかった。
やがて誘輔と逝、そして白露の三人は三階の奥へと到達。上への階段を見つけた。
「この建物、三階建てだったよな」
「屋上……かな。非常階段から外に出られるってこともある。見てみるかい?」
「引き返すよりは生産的だ。先へ急ごう」
階段を上っていく。
先にあったのはスチール扉だった。
鍵はかかっていない。
開いて中へ入ったところ、そこは事務室だった。スチールデスクが二つと、ファイリングされた資料が棚へ無数に詰まっている。
その多くが患者の記録や入出金に関する資料だったが、その中にCTSに関する資料を発見した。
「こいつだ。記者魂が騒ぎやがる」
資料を手に取る誘輔。
その間、白露と逝は『なにか』が駆け込んできてもいいようにデスクや棚を動かして扉にバリケードをこさえていた。
「しかし、リスキーな道を選んだね」
「あれがどんな存在かは、気になるだろう?」
「まあ、ね」
バリケードをこしらえてから、白露は他に使えるものがないか調べ始めた。
部屋からベッドシーツを畳んで持ってきたが、できればもっと使えるものがいい。
ちらりと見ると、誘輔がファイルを手早くめくっている。速読術でも用いているのかこちらからは内容が全く分からない。
逝はと言えば、壁に背をつけてくつろいでいる。
暫くすると、誘輔はファイルを閉じて脇へ置いた。
「まずいな、時間をかけすぎたかもしれねえ」
●「なあ、俺一番のネタを聞いてくれよ。長崎サリン事件の実行犯をカメラに納めた瞬間さ。……は? 何言ってんだよ、ほんとなんだよ、ほんとにあの事件は起きたんだよ! なんで信じて、くっ――あああああああああああああああああああ!」
誘輔は部屋の奥にあるファイルをめちゃくちゃに放り出し、棚を強引に引き倒した。
突然の奇行に白露たちは首を傾げたが、理由はすぐにわかった。
棚の奥に古い扉があったからだ。
ドアノブに手をかけ、回す。
鍵はかかっていない。
誘輔は息を呑み、扉の奥へと進んだ。
目を細める白露。
「塔と……棺?」
●「これは夢なの。はやく覚めないかな。どうしたら覚めると思う? ねえ、違うでしょ? 夢だって……ねえ、違うって言ってよ、言ってよ! 言ってよ! 言ってよ! 言ってよおおお!」
禊は仲間たちと外の世界を目指していた。
「あのバケモノを全部倒したら、元の世界に帰れるんだよね。大丈夫、私こういうの慣れてるから!」
禊はパイプ椅子をまるで紙細工のようにねじ曲げると、パイプの槍を作り出した。
近藤さんや佐伯さんと名乗る仲間たちを引き連れ、病院内を走る。
階段を下りて暫く行った所にバケモノはいた。全身ピンク色の肉を晒し顔がホールと化したバケモノだ。
バケモノはこちらを見ると走り出した。小柄なバケモノだけがこちらに叫びかけ、そして別方向に逃げ出した。
鮫島さんが少ない方を狙おうと言う。
「そうだね、倒しやすい方から各個撃破。定石だよね!」
小柄なバケモノの逃げた先は行き止まりらしい。虎岩さんの言った通り、バケモノは袋小路だ。
「あいつを倒して、皆で元の世界に帰ろう!」
禊はパイプの槍をバケモノの胸に突き立てた。
●「ボクの一族は古くからの教えがあってね。そのために鍛えてるんだ。でも最近不思議なことがあって……。ボクの一族はもう滅んでいる気がしてならないんだよ。両親も兄弟も、みんな死んでいる気がするんだ。そんな記憶が頭のココにこびりついている」
白露たちが見たのは、巨大な八角形の塔と酸素カプセルのような棺の列である。
そしてあろうことか、棺の中には葉柳白露……つまり自分が眠っていた。
「説明、できるんだよね?」
「手短かにだけどな」
誘輔は事務室から拝借してきたらしい煙草をふかして言った。
「今から三年前に、タイムマシンが開発された」
「……」
逝はぴくりとこめかみを動かした。
「つっても机の引き出しから恐竜時代に行けるヤツじゃねえ。記憶だけを1990年とリンクさせるというモンだ。これを開発者は『精神的時間旅行』と呼んでいる」
「ふうん? つまり、未来予知は情報の時間移動であると考えたわけだ。でも20年も先のことが分かってどうするの?」
カプセル内の自分を見つめ、白露は言った。
「仮に自分が入院すると分かったら、それを避けるくらいはするだろうけど……おっと、そうか」
「知的タイムパラドックスだ」
逝が何かを背中に隠したまま歩き出した。
「未来を知った人間はその時間から可能性が無限に分岐する。しかしその分岐はある未来時間における自身の行動をトリガーとしたため、特定の分岐線のみが強制的に固定され……結果、永久にループする……と、言われている」
カプセルが突然開き、眠っていた方の白露が目を開いた。
途端、顔が歪んで『なにか』へと変貌する。
咄嗟に身をひこうとする白露を掴み、カプセルの側面に叩き付け始める。
「おい、離れ――!」
「いいよ」
白露は誘輔を追い払う仕草をした。周囲のカプセルから起き上がった『なにか』が白露を取り囲もうとしている。
「ほら、急いだ急いだ」
●「あのね、変な夢を見たんだ。ぼくがゾンビになっちゃうの。それでね、博士が……えっと、ぼくの話、つまんないかな。聞いてくれないなら、もう一本刺すよ?」
きせきはタヱ子たちを逃がすために走っていた。
「みんなー、こっちだよ! 鬼ごっこしようよ!」
きせきの狙い通り、無数の『なにか』が追いかけてくる。中にはパイプ椅子をねじ曲げたもので武装したタイプまでいる。元が人間なのだ、このくらいはするだろう。
案内図によれば、この先には広いホールがあったはずだ。身体を動かすための場所で、きせきもそこに何度か行ったことがあった。
広い場所で動き回って時間を稼ごう。
そう考えていたきせきは、壁にぶち当たった。文字通りに、物理的にである。
「そんな……うそでしょ? この先は……」
振り返る。
パイプを捻って槍のようにした『なにか』が突撃の姿勢で駆け寄り、きせきの胸を槍が貫いた。
「あ……れ……?」
走馬燈がよぎる。
生まれてからあったいろんなこと。
両親。通った小学校。入学式。卒業式。なぜか沢山あった。一度しかやったことのない卒業式の挨拶を、きせきは沢山経験していた。
その中で、ひとつだけ。
卒業式をしていない自分がいた。
自分は博士と呼ばれる人に嬉しそうに人殺しについて話すのだ。
日本刀を振り回して。
腕から奇妙なツタを出して。
「ぼくって、誰、だっけ」
気づいたときには、禊が手をさしのべていた。
しりもちをついた自分を引き起こしてくれる。
「もう大丈夫だよ。バケモノを全部やっつけて、一緒にファイヴに帰ろ!」
「……うん!」
きせきの目は赤く輝いていた。
●「所長さんによれば、この世界は壊れているそうです。テレビやラジオのチャンネルが混ざってノイズが走るように、おかしなものが流れ込んでいるそうです。けれど、だからなんだというのでしょうか」
事務室へ転がり込み、棚を戻してバリケードにする。
誘輔と逝は息を荒げて背中を壁につけた。
「なあおっさん、あんた博識だな」
「どうした、急に」
「資料を見もしてないくせに、随分詳しかったじゃねえか」
「誰でも一つくらい詳しいものがあるだろう」
「『気づかれないように機械を動かす方法』とかか?」
「……」
ス、と逝が壁から身体を離す。
その途端に誘輔は逝に殴りかかっていた。
壁に頭を叩き付け、そのまま襟首を掴み上げる。
「変だと思ってたんだよ。あんたの冷静さは不自然だ! 俺たちに混じってきた流れもな! だからあんたは出口には行かせねえ。ガキどもとは行かせねえよ!」
「おいおい、考えすぎじゃないか――ね!」
逝は誘輔を一瞬で投げ飛ばした。投げる仕草など全く無いというのにだ。
頭を地面に打ち付ける誘輔。
胸を足で踏みつけ、逝は息を吐く。
「仲間割れをしてる場合じゃないと思うが?」
「それはあんたのことだろおっさん。『ハンナさん』が泣いてるぜ」
誘輔は袖の下からメモを滑り出して翳した。
「あんたはこの装置の奪取もしくは破壊を命じられた! 目撃者は全員抹殺する命令を受けていた! そうだな!」
「……だとしても、知った頃にはあんたも死んでる頃さね」
逝は口調を変え、拳を握りしめる。
その途端、バリケードにしていた筈の棚が倒れ、ドアが開いた。
踏みつけていた足をホールドする誘輔。
「お前もな」
●知的パラドックスの起きない世界
「抜け道があるわ」
供犠がそう言って、タヱ子の腕を強く引く。
タヱ子は腕が千切れそうなほどに痛かったが、それ以上にこの場から逃げたい気持ちでいっぱいだった。
受付のような場所に鏡や懐中電灯が置いてあったが、取っている時間はおそらくない。
後ろから武装した『なにか』が追いかけてきているからだ。
走りながら供犠が問いかけてくる。
「タヱ子さん」
「は、はい!」
「犠牲になる気はありますか?」
「……それは」
自分を囮にして供犠を逃がすと言うことだろうか。
できることならそうしたい。
もし自分に頑丈な身体や、もしくは強固な盾でもあれば、誰かを守って戦えるだろう。
そう考えた所で、タヱ子は反射的に首を横に振った。
否定の意味だと受け取ったのか供犠は頷き、タヱ子を抱え上げる。
「では、犠牲になるのは私ですね」
腰の高さまである鉄柵が渡されている。身長の低いタヱ子には登りづらい高さだ。
それを供犠は投げるようにして乗り越えさせた。
振り返るタヱ子。
「お先にどうぞ」
「……!」
なんとも言えなかった。
皆はどうしたのかとか。
合流はできるのかとか。
あなたはどうするんですかとか。
タヱ子は唇を噛んで、出口へ向けて走った。
夕暮れ時。茜色の光が出口からさしている。
光は近づき、大きくなり、タヱ子は――。
●「ループした対象者は他者から正常に認識されなくなる。そして彼らがループを脱する唯一の方法は を殺すことだ」
F.i.V.Eの医療ベッドでタヱ子は目を覚ました。
かたわらにはアテンドのノトが心配そうに自分を見つめている。
周りには禊やきせきたちがベッドで眠っているようだ。
彼女たちもやがて目を覚まし、不思議な夢を見たと話すようになる。
そして八人が同じ夢を見ていたことに、すぐ気づくだろう。
「それは恐らく、夢に介入するタイプの古妖が関係しているのでしょうね。以前遭遇した古妖『バク』以外にも、そうした古妖は複数確認されていますから」
正体の分からないこの古妖のことを、F.i.V.Eは一応『アウトサイダー』と名付けることにした。情報不足で名前すら定まらず、異世界めいた夢を見せるからだ。
「そっか……」
研究員の話を聞いて、彼女たちは一応のところ納得した。
おかしな夢を見せられたものだ。
そして、ふと思う。
「あのう……雛代供犠さんという女性は、F.i.V.Eにいますか?」
研究員は首を傾げ、名簿を検索してから振り返った。
「いませんよ、そんな人は」
『なにか』に遭遇した『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)は隣部屋だったと納屋 タヱ子(CL2000019)共に反対側の廊下を逃げていた。
時を同じくして『なにか』にパイプ椅子を投げつけて逃げる『罪なき人々の盾』鐡之蔵 禊(CL2000029)は人の良さそうな青年、緒形 逝(CL2000156)に出会う。
彼ら四人はほどなくして『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)と葉柳・白露(CL2001329)が隠れる病室へと到達する。そこへ『なにか』から逃げてきたという女、雛代・供犠(nCL2000137)が駆け込んできた。
恐怖に耐えながらも両親のことを思うきせきとタヱ子。
逝と供犠に直感的な危険を感じる誘輔。
皆を率先して元気づけようとする禊。そしてどこか超然とした雰囲気をもつ白露。
彼ら七人には奇妙な協力関係が生まれていた。
目的はただ一つ。この病院から生きて脱出し、『元の世界』に帰ることである。
●「私には別の両親がいたんです。今の両親は偽物です。いくら言っても信じてくれなくて……だから……私は偽物の母に、焼けたフライパンを……」
タヱ子は廊下の様子をうかがってから、できるだけ足音を殺すように歩き出した。
目指すは事務室。建物内の案内図のようなものを探すのだ。
外は夕暮れ前だ。自然光が各部屋の窓から漏れている以外、廊下も部屋も照明器具はついていない。
パイプ椅子を持ったきせきと手を繋ぎ、そばには禊と供犠が二人を守るようについている。
並ぶ扉。通りがかった途端にドンと扉が叩かれ、鉄格子窓のむこうで『なにか』が扉を叩いてこちらをにらんでいるのが分かった。
思わず身構えるきせきたちだが、供犠がそっと手で庇うように前へ出る。
「大丈夫。扉が開かないみたいよ。危険はないわ」
「でも……きょうぎさん、『なにか』は部屋を出ていましたよね」
「あたしたちみたいにドアの鍵を開けられた人たちがいるってことだよね」
「それが『なにか』になったのかな……」
自分たちは重度の精神疾患を抱えた人間。つまりどれだけ善良であっても他者へ危害を加えかねない人間である。拘束具や施錠部屋はお互いのために存在していて、それは最も重要な安全策だと言えた。無論、半狂乱になってドアを殴りつけたところで鍵が開いくなんてことはない。
それが安易に開放されることなど、あるのだろうか。
「考えるのは後にしましょう。まずは脱出です。早くお父さんとお母さんに会いたいです……」
きせきが笑顔でタヱ子の手を握りなおした。
「うん。会って、帰る前にごめんねって言わないとだよね。自分の子供が異世界に行っちゃうなんて、きっと悲しくてつらいから」
「…………うん、そう、ですね」
ぎこちなく頷くタヱ子。
病室が並ぶ廊下は透明なドアによって遮られていた。ドアは開放されていたが、恐らく入院患者の脱走を防ぐためのものだったのだろう。
ドアをくぐると、すぐそばに階段。階段の脇に備え付けるようにして院内の案内板があった。
院内は建物内端から端まで迂回するように移動する以外に脱出方法がなく、その間にいくつものフロアを抜ける必要がありそうだった。
「出口が分かればこっちのものだね」
地図を指でなぞる禊。
しかし不安要素が一つ。
事務室と書かれた部屋は、三階の奥に存在している。出口とは完全に逆方向なのだ。
地図の内容を記憶した。さあ先を急ごう。
そう考えた途端、ガチャンと鍵の開く音がした。
それも一斉にである。
振り向くと、施錠ドアで閉じ込められていた『なにか』が部屋から外へ出て、こちらを一斉に振り向いたではないか。
「――!!」
衝動的に前へ出ようとするきせきを暴力的なほどの力で押しのけ、禊は飛び出した。
「先に行って!」
「でも……」
「早く!」
供犠は頷いて、タヱ子ときせきの手を引いて走った。
禊はきせきの置いていったパイプ椅子を手に取ると、『なにか』の集団へと駆けだしていく。
●「俺の任務? それは言えない……言えないが……変なんだ。どっちが本当の任務なんだ? 俺はどちらに従えばいい。誰も教えてはくれなかった。だから俺はハンナを……ナイフで……」
通路の床に耳を当て、白露は慎重に周囲を探る。
後続の仲間にハンドジェスチャーをしながら、通路の端から端へと移動していく。
部屋に滑り込み、身を隠し、滑り込み、身を隠しの連続だ。
通路を徘徊している『なにか』の動きさえわかれば、難しいことではなかった。
やがて誘輔と逝、そして白露の三人は三階の奥へと到達。上への階段を見つけた。
「この建物、三階建てだったよな」
「屋上……かな。非常階段から外に出られるってこともある。見てみるかい?」
「引き返すよりは生産的だ。先へ急ごう」
階段を上っていく。
先にあったのはスチール扉だった。
鍵はかかっていない。
開いて中へ入ったところ、そこは事務室だった。スチールデスクが二つと、ファイリングされた資料が棚へ無数に詰まっている。
その多くが患者の記録や入出金に関する資料だったが、その中にCTSに関する資料を発見した。
「こいつだ。記者魂が騒ぎやがる」
資料を手に取る誘輔。
その間、白露と逝は『なにか』が駆け込んできてもいいようにデスクや棚を動かして扉にバリケードをこさえていた。
「しかし、リスキーな道を選んだね」
「あれがどんな存在かは、気になるだろう?」
「まあ、ね」
バリケードをこしらえてから、白露は他に使えるものがないか調べ始めた。
部屋からベッドシーツを畳んで持ってきたが、できればもっと使えるものがいい。
ちらりと見ると、誘輔がファイルを手早くめくっている。速読術でも用いているのかこちらからは内容が全く分からない。
逝はと言えば、壁に背をつけてくつろいでいる。
暫くすると、誘輔はファイルを閉じて脇へ置いた。
「まずいな、時間をかけすぎたかもしれねえ」
●「なあ、俺一番のネタを聞いてくれよ。長崎サリン事件の実行犯をカメラに納めた瞬間さ。……は? 何言ってんだよ、ほんとなんだよ、ほんとにあの事件は起きたんだよ! なんで信じて、くっ――あああああああああああああああああああ!」
誘輔は部屋の奥にあるファイルをめちゃくちゃに放り出し、棚を強引に引き倒した。
突然の奇行に白露たちは首を傾げたが、理由はすぐにわかった。
棚の奥に古い扉があったからだ。
ドアノブに手をかけ、回す。
鍵はかかっていない。
誘輔は息を呑み、扉の奥へと進んだ。
目を細める白露。
「塔と……棺?」
●「これは夢なの。はやく覚めないかな。どうしたら覚めると思う? ねえ、違うでしょ? 夢だって……ねえ、違うって言ってよ、言ってよ! 言ってよ! 言ってよ! 言ってよおおお!」
禊は仲間たちと外の世界を目指していた。
「あのバケモノを全部倒したら、元の世界に帰れるんだよね。大丈夫、私こういうの慣れてるから!」
禊はパイプ椅子をまるで紙細工のようにねじ曲げると、パイプの槍を作り出した。
近藤さんや佐伯さんと名乗る仲間たちを引き連れ、病院内を走る。
階段を下りて暫く行った所にバケモノはいた。全身ピンク色の肉を晒し顔がホールと化したバケモノだ。
バケモノはこちらを見ると走り出した。小柄なバケモノだけがこちらに叫びかけ、そして別方向に逃げ出した。
鮫島さんが少ない方を狙おうと言う。
「そうだね、倒しやすい方から各個撃破。定石だよね!」
小柄なバケモノの逃げた先は行き止まりらしい。虎岩さんの言った通り、バケモノは袋小路だ。
「あいつを倒して、皆で元の世界に帰ろう!」
禊はパイプの槍をバケモノの胸に突き立てた。
●「ボクの一族は古くからの教えがあってね。そのために鍛えてるんだ。でも最近不思議なことがあって……。ボクの一族はもう滅んでいる気がしてならないんだよ。両親も兄弟も、みんな死んでいる気がするんだ。そんな記憶が頭のココにこびりついている」
白露たちが見たのは、巨大な八角形の塔と酸素カプセルのような棺の列である。
そしてあろうことか、棺の中には葉柳白露……つまり自分が眠っていた。
「説明、できるんだよね?」
「手短かにだけどな」
誘輔は事務室から拝借してきたらしい煙草をふかして言った。
「今から三年前に、タイムマシンが開発された」
「……」
逝はぴくりとこめかみを動かした。
「つっても机の引き出しから恐竜時代に行けるヤツじゃねえ。記憶だけを1990年とリンクさせるというモンだ。これを開発者は『精神的時間旅行』と呼んでいる」
「ふうん? つまり、未来予知は情報の時間移動であると考えたわけだ。でも20年も先のことが分かってどうするの?」
カプセル内の自分を見つめ、白露は言った。
「仮に自分が入院すると分かったら、それを避けるくらいはするだろうけど……おっと、そうか」
「知的タイムパラドックスだ」
逝が何かを背中に隠したまま歩き出した。
「未来を知った人間はその時間から可能性が無限に分岐する。しかしその分岐はある未来時間における自身の行動をトリガーとしたため、特定の分岐線のみが強制的に固定され……結果、永久にループする……と、言われている」
カプセルが突然開き、眠っていた方の白露が目を開いた。
途端、顔が歪んで『なにか』へと変貌する。
咄嗟に身をひこうとする白露を掴み、カプセルの側面に叩き付け始める。
「おい、離れ――!」
「いいよ」
白露は誘輔を追い払う仕草をした。周囲のカプセルから起き上がった『なにか』が白露を取り囲もうとしている。
「ほら、急いだ急いだ」
●「あのね、変な夢を見たんだ。ぼくがゾンビになっちゃうの。それでね、博士が……えっと、ぼくの話、つまんないかな。聞いてくれないなら、もう一本刺すよ?」
きせきはタヱ子たちを逃がすために走っていた。
「みんなー、こっちだよ! 鬼ごっこしようよ!」
きせきの狙い通り、無数の『なにか』が追いかけてくる。中にはパイプ椅子をねじ曲げたもので武装したタイプまでいる。元が人間なのだ、このくらいはするだろう。
案内図によれば、この先には広いホールがあったはずだ。身体を動かすための場所で、きせきもそこに何度か行ったことがあった。
広い場所で動き回って時間を稼ごう。
そう考えていたきせきは、壁にぶち当たった。文字通りに、物理的にである。
「そんな……うそでしょ? この先は……」
振り返る。
パイプを捻って槍のようにした『なにか』が突撃の姿勢で駆け寄り、きせきの胸を槍が貫いた。
「あ……れ……?」
走馬燈がよぎる。
生まれてからあったいろんなこと。
両親。通った小学校。入学式。卒業式。なぜか沢山あった。一度しかやったことのない卒業式の挨拶を、きせきは沢山経験していた。
その中で、ひとつだけ。
卒業式をしていない自分がいた。
自分は博士と呼ばれる人に嬉しそうに人殺しについて話すのだ。
日本刀を振り回して。
腕から奇妙なツタを出して。
「ぼくって、誰、だっけ」
気づいたときには、禊が手をさしのべていた。
しりもちをついた自分を引き起こしてくれる。
「もう大丈夫だよ。バケモノを全部やっつけて、一緒にファイヴに帰ろ!」
「……うん!」
きせきの目は赤く輝いていた。
●「所長さんによれば、この世界は壊れているそうです。テレビやラジオのチャンネルが混ざってノイズが走るように、おかしなものが流れ込んでいるそうです。けれど、だからなんだというのでしょうか」
事務室へ転がり込み、棚を戻してバリケードにする。
誘輔と逝は息を荒げて背中を壁につけた。
「なあおっさん、あんた博識だな」
「どうした、急に」
「資料を見もしてないくせに、随分詳しかったじゃねえか」
「誰でも一つくらい詳しいものがあるだろう」
「『気づかれないように機械を動かす方法』とかか?」
「……」
ス、と逝が壁から身体を離す。
その途端に誘輔は逝に殴りかかっていた。
壁に頭を叩き付け、そのまま襟首を掴み上げる。
「変だと思ってたんだよ。あんたの冷静さは不自然だ! 俺たちに混じってきた流れもな! だからあんたは出口には行かせねえ。ガキどもとは行かせねえよ!」
「おいおい、考えすぎじゃないか――ね!」
逝は誘輔を一瞬で投げ飛ばした。投げる仕草など全く無いというのにだ。
頭を地面に打ち付ける誘輔。
胸を足で踏みつけ、逝は息を吐く。
「仲間割れをしてる場合じゃないと思うが?」
「それはあんたのことだろおっさん。『ハンナさん』が泣いてるぜ」
誘輔は袖の下からメモを滑り出して翳した。
「あんたはこの装置の奪取もしくは破壊を命じられた! 目撃者は全員抹殺する命令を受けていた! そうだな!」
「……だとしても、知った頃にはあんたも死んでる頃さね」
逝は口調を変え、拳を握りしめる。
その途端、バリケードにしていた筈の棚が倒れ、ドアが開いた。
踏みつけていた足をホールドする誘輔。
「お前もな」
●知的パラドックスの起きない世界
「抜け道があるわ」
供犠がそう言って、タヱ子の腕を強く引く。
タヱ子は腕が千切れそうなほどに痛かったが、それ以上にこの場から逃げたい気持ちでいっぱいだった。
受付のような場所に鏡や懐中電灯が置いてあったが、取っている時間はおそらくない。
後ろから武装した『なにか』が追いかけてきているからだ。
走りながら供犠が問いかけてくる。
「タヱ子さん」
「は、はい!」
「犠牲になる気はありますか?」
「……それは」
自分を囮にして供犠を逃がすと言うことだろうか。
できることならそうしたい。
もし自分に頑丈な身体や、もしくは強固な盾でもあれば、誰かを守って戦えるだろう。
そう考えた所で、タヱ子は反射的に首を横に振った。
否定の意味だと受け取ったのか供犠は頷き、タヱ子を抱え上げる。
「では、犠牲になるのは私ですね」
腰の高さまである鉄柵が渡されている。身長の低いタヱ子には登りづらい高さだ。
それを供犠は投げるようにして乗り越えさせた。
振り返るタヱ子。
「お先にどうぞ」
「……!」
なんとも言えなかった。
皆はどうしたのかとか。
合流はできるのかとか。
あなたはどうするんですかとか。
タヱ子は唇を噛んで、出口へ向けて走った。
夕暮れ時。茜色の光が出口からさしている。
光は近づき、大きくなり、タヱ子は――。
●「ループした対象者は他者から正常に認識されなくなる。そして彼らがループを脱する唯一の方法は を殺すことだ」
F.i.V.Eの医療ベッドでタヱ子は目を覚ました。
かたわらにはアテンドのノトが心配そうに自分を見つめている。
周りには禊やきせきたちがベッドで眠っているようだ。
彼女たちもやがて目を覚まし、不思議な夢を見たと話すようになる。
そして八人が同じ夢を見ていたことに、すぐ気づくだろう。
「それは恐らく、夢に介入するタイプの古妖が関係しているのでしょうね。以前遭遇した古妖『バク』以外にも、そうした古妖は複数確認されていますから」
正体の分からないこの古妖のことを、F.i.V.Eは一応『アウトサイダー』と名付けることにした。情報不足で名前すら定まらず、異世界めいた夢を見せるからだ。
「そっか……」
研究員の話を聞いて、彼女たちは一応のところ納得した。
おかしな夢を見せられたものだ。
そして、ふと思う。
「あのう……雛代供犠さんという女性は、F.i.V.Eにいますか?」
研究員は首を傾げ、名簿を検索してから振り返った。
「いませんよ、そんな人は」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
