≪百・獣・進・撃≫線路のそばにオークが現れるなんて
≪百・獣・進・撃≫線路のそばにオークが現れるなんて


●豚野郎には鉛弾がお似合い
 奈良県、某鉄道沿線。
 夜半頃、人気の少なくなる区間に現れるのは豚が人の身体を得たような醜悪な妖の集団。
 妖は棒や石を持ち、線路に近づくと遠くから来る光へと視線を向ける。その光――列車の放つライトへと一歩一歩と近づいてくる妖共、彼等の狙いは列車とその乗員であった。
「悪いがな……」
 エンジン音を震わせ、巨大なタイヤからスキール音を鳴らして装甲に覆われた軽装甲妖鎮圧車(通称LAV)の車上で男が呟き、同時に照明が妖を照らす。
「今日の晩飯はメニューはハンバーグだ、昼もだったがな」
 銃座に取り付けられた機関銃が火を噴き、次々と豚の怪物を穴だらけにする。
「それを言うならハンバーガー昼はな。ってところじゃないですか?」
 ハンドルを握る部下が軽口とともにギアを変え、加速していく。
「副長、映画は見るほうか?」
「映画からこの仕事に転がったもので……隊長、対ショック体勢に入ってください」
「おう、やれ!」
 上司の一言を聞き運転手を務める副長はアクセルを踏む。LAVは加速して妖の群れに飛び込むと次々と妖共を轢いていく。鋼鉄の塊を叩きつけられた怪物は吹き飛び、倒れるが、死には至らず再び立ち上がる。だが機関銃の照準はすでに豚の顔に向けられていた。
 妖は全てが死に至るまで、銃弾を浴び続けることになった。

「……副長、LAVの状況は?」
 隊長格の男が機関銃弾を再装填しながら部下に問う。彼らの仕事はまだ終わりではないのだ。
「フロントが少々へこみましたね。整備班が泣きますよこれ」
「ならいい。人が死なないだけ十分だ――何か来る、避けろ!」
 上司の叫びに部下はアクセルを踏み、ハンドルを回す。LAVの左側面を削り取るように何かが通り過ぎ、衝撃でガラスが割れる。
「隊長、涼しくなりましたね。なんですか、あれ?」
「ああ、足元がスース―するよ。そして多分あいつが投げた」
 照明が新たに出現した妖へと向ける。
「――丸太だ」
 彼の視線に移るのは一回り大きい豚の妖が丸太を担いでいるのと、それに従う10体の妖の集団であった。

●線路のそばにオークが現れた
「奈良県の鉄道沿線にて動物系の妖の出現が頻発しているのはご存知でしょうか? 今回見た夢見もそれに関連するものです」
 久方 真由美(nCL2000003)は奈良県の鉄道沿線の地図を出しながら説明を開始する。
「時間は夜半ごろ、豚の頭に人の身体を持った妖、ファンタジー小説とかのオークみたいなものですね。それがAAAと交戦する内容でした。一度は勝利するのですが。次に現れる本隊との遭遇でAAAは敗戦してしまいます。皆さんにはそれを防いでもらいます」
 説明を続けながら次に出すのは敵とAAAのデータ。
「AAAは軽装甲妖鎮圧車という装甲車両一台、武装は機関銃のみとなっています。対する豚の妖――便宜上オークと呼称します、の方はランク1は10体、ランク2が一体となります。ランク1は棒や石を持って、ランク2は丸太を持って襲い掛かります」
 全てを説明すると、真由美は視線を皆に向ける。
「以上になります、皆さんよろしくお願いします」


■シナリオ詳細
種別:通常(EX)
難易度:普通
担当ST:塩見 純
■成功条件
1.豚の動物系妖(通称オーク)の全滅
2.なし
3.なし
豚の動物系妖って書くと長いし、読みにくいので今回はオークで統一します。

どうも塩見です。

最近、奈良の鉄道沿線で頻発する動物系妖の対処を今回はお願いします。
詳細は以下の通りです。

●時間
夜半過ぎ
旅客最終列車や貨物列車の動く時間です。

●場所
人里から離れた線路沿いの広い場所。
光源は無いので確保するかAAAの人に照らしてもらってください。

●AAA
軽装甲妖鎮圧車(LAV)1台と乗員4名
パトロールが中心の為、少人数で機動性のある車両で動いてました。

・装備
機関銃
轢殺用強化バンパー
照明(戦場一帯を照らせるくらいです)

・人員(全員一般人)
基本的に経験値は高く少人数でしたらOPの通りくらいにはやれますが、続いてくる敵には荷が重すぎます。
事前にAAAから要請していることや今回の任務はパトロールなので避難には応じてくれますが、妖とやりあってならした彼らの前でピンチになったら美味しいところを持って行こうする気概は持っています。


●妖
オーク
・ランク1、10体(FiVE覚者以下)
・棒もしくは石で殴る:物近単
・投石:物遠単

オークリーダー
・ランク2(強め)
・丸太で殴る:物近単
・丸太を振り回す:物近列【負荷】
・丸太で突く:物近単[貫2][貫:100%,50%]

以上になります。

因みに妖なので、エルフとか女騎士を集中的に狙ったりはしません。アラタナルですし。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
150LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年06月07日

■メイン参加者 8人■

『戦場を舞う猫』
鳴海 蕾花(CL2001006)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『むっつり彼女』
嵐山 絢音(CL2001409)
『ブラッドオレンジ』
渡慶次・駆(CL2000350)

●覚獣激突
 人気のない闇の夜。場に響くのは装甲車両のアイドリング音と豚の顔をした醜悪な妖の唸り声。
「潮時か?」
「全員に武器は持たせました」
 車の中で男達の息遣いが聞こえる。
「さて、照明弾を上げたらあとは……」
 隊長格の男が何かを言おうとしたとき、八人の影が車と妖の前に割って入った。
「その必要はないようですね」
 運転席から部下がのんきに呟いた。
(豚の化け物。特別知能が高い様には見受けられぬが、はて。鉄道を狙ったのは単に人が居たからか、インフラ其の物の破壊が目的か・・・)
 暗闇から現れるのは八重霞 頼蔵(CL2000693)がその姿を見せ思考する。
(何かの思惑が働いているとすれば、如何にも面し・・・きな臭いな、はっはっは)
「という訳で私が来た」
「いや、それじゃわからんから」
 頼蔵の言葉はAAAの隊員が突っ込む。直後彼の頭に伝わるのは妖の武装と伝言。
「オーケー。副長バックしろ、そして照明であいつらを照らしてやれ」
「主役が来たのでうちらは裏方ってことですね、了解」
 ギアをはめ込む音、直後後退を始めるLAV。
(AAAにはあんな武器も持ってるんだ? ウチらにも一台くらいよこしてくれたってたっていいのに、猫に小判とはこのことだよ)
 下がっていく車を横目に『戦場を舞う猫』鳴海 蕾花(CL2001006)は思考する。FiVEのやり方やAAAに不信感を持つ少女にとっては鉄の塊は不信の象徴に見えたのだろう。だが光が照らされた先に居るモノへと視線を移し思考を切り替える。
(やれやれ、妖と言うよりかはこれじゃモンスターだ)
 目の前にいるのは文字通り妖と言うよりはファンタジーにおけるオークに近い、夢見すら便宜上呼称するのも理解できる。その横では『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)が状況に対して驚きを隠せないでいる。
(何でこんな急に動物妖が……? しかもみんなが一斉に電車を狙うなんて明らかに普通の妖の動きじゃない! また何か始まるのか……いや、今はそんな事より目の前の敵!)
 だが、すぐに彼も思考を切り替え。妖の後ろに立つ大きな豚の妖――便宜上オークリーダーへ視線を向ける。
「さて、AAAのお手並みでも拝見しようじゃない。もちろん向こうに見せ場取られないようにしないとね!」
「よーし、いっくよー!みんなも気をつけてね!」
 蕾花が細胞を活性化させ、天駆ける力を身に着ければ、小唄は清爽なる演舞でさらに力を引き出していく。
「目にするのも厭になる粗暴で醜い豚どもね」
 守護使役アスカのていさつで周囲の状況を把握した嵐山 絢音(CL2001409)が体内に宿る炎を活性化させれば。
「気を付けろ、奴らは丸太の他に投石でも攻撃してくるぞ!」
 長刀クリカを振り回す『フローズン大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)が土を鎧として身にまといAAAに警告する。
(今回も線路……なにがあるんだろう。これ、きっと対処してるだけだと後手になってダメなやつじゃないかな?)
 後衛で演舞・舞衣を行いBSへの備えを行いながら宮神 羽琉(CL2001381)が考える。
「僕のレベルであれこれ言えるものでもないけどさ……」
 呟き、奥に居る敵から視線をそらそうとする。例え覚者といえど恐怖心が無いわけでは無かったのだから。
 だが、戦いはそんな事を無視して始まろうとする。
 妖と覚者、人と獣の激突が。

●対峙
「天が知る」
 覚ッ
「地が知る」
 醒ッ
「人も知るっ!」
 爆光ッ!
「豚さん退治のお時間ですねっ!」
『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)が鉄板のような胸を張り正義を成す。
「ふっ、行きましょうか桃さんっっ」
 と敵陣に進めば。
「助太刀するわ!」
 と姫神 桃(CL2001376)が続く。
(オークね。ファンタジーみたい。目の前に居るのはれっきとした現実だけど、こうも数が多いと、ちょっと不気味だわ)
 浅葱と背中合わせになりながら敵を見つつ、桃が清廉たる香で場を満たせば、マフラーの少女が舞い飛翔する燕のような動きで拳をオークに叩きつける。神具として作られたナックルが豚顔にめり込み、転がっていくオーク、だが妖はすぐに体勢を立て直すと持っていた石を構えた。
 咆哮が響いた、後ろに居たオークリーダーだ。妖の首領格は下顎から伸びる牙を持った口蓋から人の心に響くような重低音の唸り声を上げると次々とオーク達が動く、目の前に対峙するものは武器を持ち、それ以外は無差別に石を投げる。
 ダビデがゴリアテを倒した古代より投石は武器として使われてきた、原始的な攻撃故に人の身体を得た妖もそれを武器とし、そして人外の力を以って放たれる石は覚者を傷つけるには充分。それが中衛、後衛へと降り注いでいく。
「そもそもこういう荒事は得意ではないんだがな」
 皮肉と共に頼蔵が石を避けるが肩口に一つ受けてしまう。前衛を抜けて襲ってくると思いきやの投石。次の行動を見据えてハンドガンのスライドを引いた。
「まずはランク1のオークを優先ね」
 肩と膝に石を受け、膝を着きながらも絢音が呟く、それは全員の共通認識でもあったが、今の攻撃でそれが必須と自覚する。
 そこへオークリーダーが丸太を振り回した。風が唸る音が耳朶を打ち、木材とは思えない威力が臓腑に響く。避けることは能わず、前に出た五名全てがその一撃に巻き込まれた。
 立ち上がる覚者達、そこへ襲い掛かるオーク五体。一撃にて負った負荷は身体の動きを妨げると思いきや桃と羽琉、二人が行なった五行の癒しがそれを消し去っていく。
 覚者達は流れるような動きで、攻撃を避け、受け止め、自分の攻撃へと備える。
 そして反撃の時間が始まった。

●数を以って物量に抗する
 まず動いたのは駆。
 彼が攻撃の選択として選んだのは長刀による通常攻撃。スキルに比べれば破壊力は劣るが安定したダメージを選んでの結果。
 振るわれた刃が次々とオークを切り裂いていく。続けて蕾花が一対の苦無を以って飛燕を振るう、一太刀目が深く傷を負ったオークを切り裂き、そのまま疾風斬りへとつなげようとして筋肉が悲鳴を上げ、攻撃が空を切る。
 それは認識の違いが起こした事故であった。
 飛燕とは一人の相手に対し目にもとまらぬスピードで放つ二連撃の体術による攻撃法。だが蕾花は二回行動できる移動法と認識を誤ってしまい、更なる体術を乗せようとした。故に身体に負荷が生じて、技を成すことが出来なくなってしまったのだ。因みに二連撃による隊列の技は別個存在する、それは……。
「これならどうかなっ!」
 小唄の跳ね上がるようなアッパーカットからの蹴り上げ、その反動を利用して次の相手の前に着地、膝で衝撃を吸収すると再度地面から跳ね上がる連撃を放っていく。隊列に対しての連撃技、それを地烈という。
 そしてこの隙を逃すオークリーダーではなかった。
 自然界において豚やイノシシの身体能力は高く、平地において時速45キロで走ることが出来るという。妖となったソレに全ての物理法則が適用されるわけではないが、それでも突進は速くそして繰り出される丸太は苦無を空振りした蕾花の脇腹を突く、それだけなら飽き足らず、更に腕を伸ばし、身体を捻ることで女の身を吹き飛ばし、攻撃に移ろうとした絢音へと衝撃を叩きつけた。
「その程度で倒れるとは思わないことですねっ!」
 浅葱が気の流れを操作し、癒力を活性化させることで皆の傷を癒していく。しかし内心では冷汗をかいていた。自分より速く敵が動けるという事は次に負荷を伴った攻撃を受ければ回復は出来ないという事になり、消耗戦が予想されるからだ。
「体術封じの相手に体術。その気概は好きだけど、準備はしっかりしなさいよ」
 背中ごしに桃が声をかける、その言葉と背後の気配が浅葱の心から不安を取り去っていく。その桃はというと、念を込めた指をまた別のオークへと捻りこみ。
「水芭忍軍の時も思ったけど、そんなに強いのに、浅葱は私より小さいのね」
 呟きながら背中を守る少女の頼もしさを感じていた。だが、頼ってばっかりは居られない。先輩として、生徒会長として、実力は追いつかなくても食らいついていかないと。
 流れるように体勢を立て直した絢音が疾風のように走り次々とオークを斬る。羽琉も雷を落とし、それを支援していくと頼蔵が飛び出し、サーベルによる二連撃を叩き込んで深手を負った妖へ止めを刺した。
 けれど妖達の進軍もそれで止まるわけでは無い。頼蔵が飛び出したのを見て、オーク達もそれを真似し、突進を開始した。それは前衛や中衛が受けきれる数ではなく、後衛まで全ての覚者が攻撃に晒される結果となった。次々と攻撃を受けていく覚者。中でも蕾花の負傷が大きい。次に一撃が来れば膝を着くのは確実だろう。
 そしてそれは現実となった、先手を奪ったオークリーダーの丸太が猛威を振るう竜巻のように前衛陣の体力を奪っていったのだ。

●消耗
 丸太を振り回す、単純かつ強力な暴力に次々と傷を負い、蕾花は膝を着……かなかった。
 ――天駆。
 火行がもたらす細胞活性は動きの速さだけでなく、体力の回復スピードも活性化させていく。それが戦闘中であっても。
 故にわずかだが灯は残り、歩む力は衰えない。もし目の前に丸太を持った妖が居れば、それに立ち向かっていただろう、だが彼女の前には八体のオークが壁となって遮っている。幸いにも負荷はかかっていない。疾風を以って切り裂く以外に手は無かった。だが、それは諸刃の剣。一撃でも攻撃を受ければ今度こそ倒れ、命を削らなければならない。
 それが分かっているからこそ、仲間達は動いていく。
「何で線路や電車を狙う!」
 オーク達に拳を叩き込みながら、小唄がオークリーダーへと問いかける。
「オウ……? ク?」
 妖は狐憑の少年の言葉に反応を見せるが、すぐに首をかしげる? 小唄本人も分かってはいたことだが、やはり言葉は通じない。
「悪いがこの国では、人間様に逆らう奴を生かしておけないんだ。
本当に申し訳ないけどなあ」
 その隙を逃さずに駆が再度曲がりくねった刃を持つ長刀を振り回し、浅葱と羽琉の召雷がそれに続く。少しでもダメージを積み重ねて、後半への優位を確保するために。
(浅葱は放っておけないわね。ちょっと心配になる真っ直ぐさだわ)
 浅葱の真っ直ぐさに桃は不安を隠せない。だからこそ、彼女は傍から離れずに苦無を振るう。忍びの一門の出である自称生徒会長の刃が妖を傷つけるとすかさず絢音の炎を纏った一撃が止めを刺し。そして前衛を抜けて攻撃してきたオークへ頼蔵が火柱を放ち、焼くことで牽制する。
「暗がりを利用したいところだがな」
 炎の熱気に頬を当てられながら私立探偵は呟く。暗がりや影があればそこから攻め込みたいところ、だがAAAの照らす照明は戦場から闇を駆逐し、隠れる影もない。それが故に戦うのに支障はないのだが、絡め手も使いにくいのは事実であった。
 妖達が動き始める。炎による牽制が効果を奏したのか後衛まで回って襲い掛かっては来ないが、今度は数を活かして前衛を攻め立てる。それも消耗が激しい蕾花へと一斉に。強化に補助を上乗せされた身で女が避ける。だが、たった一撃の棒での殴打が消耗した身体を打ち据えて、意識を断った。
 一瞬暗くなる視野、すぐに命を削りそれを灯に変え目の前の暗がりを振り払う。同時に細胞の活性も落ち着いたことを悟る。
 そこへオークリーダーが丸太を振り上げた。強化も補助もない今の彼女にはそれ避けることも耐える力も残っていなかった。

●夜行
 真横で倒れていく蕾花が視界に入り小唄が歯噛みする。抑え込んでた負荷から解放された身体は猟犬や狼のように地を這い、獲物となる妖の脚をすくい、鼻っ柱を叩き伏せる。それでも倒すべきモノへはまだ届かない。
(とにかく耐えて耐えて耐え凌ぐしかない!)
 右腕で汗を拭き荒くなった呼吸を整えながら少年は前を向く。妖はオークリーダーを含めて九体、まだこちらより数が多い。
 そこへ、警笛が鳴った。
「貨物列車だ、あともう少しで来るよ!」
 事前に鉄道会社へと問い合わせをしていた羽琉が警告の声を上げた。
 時間が無く、正確な情報を得ることは出来なかったが貨物列車が戦闘時間中に通ることは確実だという事は分かっていた。だからこそ、声を上げることが出来たのだろう。
 警笛はトンネルに入る前に鳴らしたもの、そしてトンネルを抜けた列車はもうすぐ近づいてくる。妖達の一部もそれに反応して線路へと近づき始めた。
 すぐに羽琉が雷を落とし、牽制する。他の者も阻もうと動いていたが前衛に居たものは目の前の敵に動きを食い止められて、行動が制限されていた。だが――。
「神秘界隈は神秘らしく世間の裏に引き篭っていればいいのよ」
 黒が舞った。
 絢音の疾風がオーク達を切り裂き、そして動きを止めた。
「表の世界を荒らさないでほしいわ」
 刀を振り払うと紅が大地に飛び散る。遠くより光が見え、そして鋼鉄の塊が迫りくる。線路を走り、車体が揺れる音が辺りに響き渡る。そして列車が通り過ぎた時。妖の一体が背中を撃ち抜かれ、後ろを向く。頼蔵の左手に握られたハンドガンからは硝煙が昇っていた。
「浅葱! 行くわよ!」
「ふっ、行きましょうか桃さんっっ!」
 二人の少女が動く、浅葱の拳がオークの動きを止め、繋ぎの一撃に桃の指突が合わさっていく。急所を穿かれ、拳のめり込んだ妖は棒立ちになると仰向けに倒れていった。
 他の妖が動こうとするがそこは駆がカバー、長刀が怪物達の足を止める。だが、オーク達も黙ってはいない、線路への攻撃を阻んだ絢音に三体、頼蔵に一体が迫り、残りの三体が前衛に迫っていく。次々と迫る攻撃に絢音の身体に傷がつく、数の差がダメージを重ねていく。その間にオークリーダーが迫っていく、目標は三体の相手をしている黒服の女、彼女へ向かって丸太での刺突を試みようとするが、そこに影が躍り込んだ。
「何か、強い意志みたいなのも感じられるけど……」
 彼を突き抜けて受ける衝撃にバランスを崩す絢音、目の前に居るのは自分より小さな少年。
「こいつらはキッチリ倒しきるし、この後に控えているであろうでっかいやつだって負けない!」
 敵が分かれたことで行動の自由を得た小唄が口元の血をぬぐいながら、オークリーダーに向かって叫ぶのだった。

●崩れる均衡。
 中衛で下がっていた妖との接触、敵の分散。ここが好機であった。20秒の間にかかっていた負荷は既に消え、全員が体術を使うことが出来る。まずは浅葱が癒力活性により、全員を回復させる。迫る敵は桃が食い止め、隙を逃さずに駆の長刀がオークを薙ぎ倒し羽琉が追い打ちの雷を落とす。
 すかさず桃の指捻撃が妖の喉笛を貫き、また一体息の根を止めた。
 一方、頼蔵は線路際の三体の妖に迫ると火柱を放ちオーク達を炎に包み込む。そこへ疾風のような斬撃が走る。その速さに炎が消え、絢音が振り向くと妖が一体、また倒れていった。
 その間に少年は妖へと立ち向かう。体躯を活かして懐に潜り込むと連撃を繰り出していく。
 妖も負けじと丸太を振り下ろし、小唄を地に伏せさせる。息が止まり膝から力が抜ける、だがまだ倒れる訳にはいかない。
「まだまだ、こんなもんじゃ僕は負けない!」
 一回倒れるくらいでは少年はあきらめない、AAAの人間も含めて誰も死なせたくないと思うから。
「守るべき人たちが居るんだ!」
 立ち上がる小唄の周りではオーク達が覚者に立ち向かう。けれど数々の攻撃を受け続けた妖の攻撃は鈍く、次々と避けられていく。
「絶対に負けるもんか!!」
 少年の叫びがさらなる反撃の始まりとなる。駆が長刀の一撃を積み重ね、羽琉は自らの精神力を増幅し転化することで術を放つ気力を回復させ、次の攻撃へと備える。
 光の鳥が飛んだ。
 浅葱が自らの生命力を濃縮させ光の鳥して放ったのだ、その対象は小唄。光に包まれた少年に与えられた生命力は身体を巡り、そして余剰した生命力は雷のようにスパークし、その身を包んだ。
 体力と引き換えに回復を担う浅葱、消耗した彼女を狙うオークは桃の放った種から発芽する棘により傷を負い、また倒れていく。
 一方で絢音と頼蔵、二人の黒が前後から刀とサーベルを振るう。照明に照らされた二つの白刃はツバメのようにまた一体切り裂いていった。
 そして飛び掛かる少年。妖の太い腕をかいくぐり放った連打はオークリーダーを宙に浮かせ尻もちを付かせる。
 その様子を見てオーク達は動きを止める。
 そこへ羽琉が雷を落とし、駆が妖の首を刎ねた。直後、浅葱と桃は線路に向かっていた二体へと飛び掛かり一撃、そして絢音と頼蔵がそれに合わせる様に止めを刺していった。
 下僕を失い自らの姿に激昂し咆哮を上げる妖。再度振り下ろされた丸太を少年はそれを真っ向から受け止め、さらに一撃を与えていく。
 妖はオークリーダーと呼ばれる個体一体のみ、覚者達は小唄を庇う様に隣に並ぶとそれぞれの武器を構えていった。

●豚の王に覚者は挑む
「浅葱、まだまだ行けるわよね?」
 桃が隣の少女へと目くばせをする。
「ふっ、余裕ですねっ。桃さん抱えて走り回れるくらい元気ですよっ!」
 浅葱が応えると同時に二人は駆けだす。まず飛び込むのは浅葱、白いマフラーをたなびかせて懐に一撃、二撃。その死角からは桃の第三の眼が開き閃光を放つ。
 同時に羽琉が召雷を持ってダメージを与え、駆が振るう斬・二の構えが妖に出血を強いる。
 直後、彼らの間を飛び出した絢音と頼蔵が日本刀と騎兵刀を振るい一太刀、二太刀と浴びせていく。
 妖が再び吠える。それは怒りの咆哮か、それとも痛みへの悲鳴か?
 唸り声とともに持っていた丸太を振り回し、次々と覚者達を巻き込む。その一撃は再び彼らの力を封じ、深い傷を負わせる。だが、全員が全ての力を封じられたわけでは無いのだ、中衛に下がっていた頼蔵と絢音が再び飛燕を振るうと。
「さあっ、どかんと盛大に落としましょうかっ!」
 浅葱と羽琉の召雷二重奏から桃の破眼光が光を貫くようにオークリーダーへと突き刺さる。体術を封じられた駆は後ろに下がりながら真言を唱える。
「ナウマクサンマンダ・バサラダン・カン!」
 放たれるはB.O.T.現が作り出す波動の一撃は妖を貫き、背後に砂塵を舞い上がらせる。
 その中から飛び出してくるのは小唄、発条を効かせて放つ拳が妖の顔を捉え、たたらを踏ませる。
 けれどオークリーダーもひるまない。すぐに体勢を立て直すとその巨躯を活かして丸太を突き刺す、狙うは桃。
 強烈な衝撃が肺から全ての空気を追い出し呼吸を止める。貫いた衝撃は頼蔵にも届き、靴底が大地を削る。
「ふっ、まだまだですよっ!」
 負荷から立ち直った浅葱より桃へと光の翼が飛ぶ。引き換えに浅葱の膝から力が抜け体力の減少を感じるが、まだ倒れるわけには行かない。
 回復の要を握っているのは浅葱。だがそれと引き換えに体力を大きく消耗していく。
 それが分かってるからこそ皆が動く。
 再び前に出た駆が妖の腹を裂き、小唄が相手の膝を踏み台にして顎を蹴り上げてから延髄へと攻撃を叩き込み、引き続き翼人の少年が雷を落とす。桃が咳き込みながら立ち上がり、三度目の破眼を撃つ。頼蔵も体勢を立て直し、重い足取りを引きずりながらサーベルを振るい、絢音もそれに続く。
 だが、彼らの努力は無情にも粉砕される。再度の丸太による突きが浅葱と頼蔵を捉え、その膝を着かせたのだ。
 命を削り立ち上がる二人、癒力活性で全員を回復させる浅葱。回復量は少ないが頼蔵も負傷している現状、放っておくわけにもいかない。負荷がかかった時に重要な戦力でもある。故に彼女が選んだのは全体回復。
 力を取り戻した私立探偵は再び飛び出して黒い服の少女と共に飛燕を放つ。駆が斬撃を繰り返し、小唄が跳び、羽琉が雷を落とす。そして桃は再び破眼の光を放つ……機が来るまで。
 オークリーダーが反撃の丸太を振り上げる。だが、その腕は振り下ろされることは無かった。
 破眼光の呪い。それが妖の行動を縛ったのだ。

 ――機が来た。

●覚獣終焉
 人にオークリーダーと呼ばれていた妖は戸惑っていた。
 何故、自分より小さな人間が何度も立ち上がれるのか?
 何故、自分の身体に血の止まらない傷をつけ縛るのか?
 何故、こうまでも立ち向かうのか?
 妖は知らない、彼等こそ覚者。妖に立ち向かうもの。
 彼等こそFiVE。神秘を追求しそして人々を守る者。

 翼が羽ばたく音がした、羽ばたきに乗せた浄化物質。羽琉の演舞・舞衣が再び状態異常からの回復を促す。
 狐憑の少年の耳が立ち、加速する。相手の懐に潜り込んだ小唄が地を這うようなアッパーを腹に一撃、さらに踏み込んで跳び上がるように拳を突き上げて妖の顎をカチ上げる。
 仰け反ったオークリーダー、すかさず駆の斬・二の構えから繰り出される長刀の一撃が腹を裂き、返り血がその腕を紅に染める。
 下がる不動に走る影が二つ、絢音と頼蔵が妖の横をすれ違う。燕が舞った。二人の放つ飛燕の連撃が豚顔の妖の両手足を切り、持っていた丸太を落とさせる。
「桃さん、いきますよっ!」
「ええ、浅葱」
 お互いを確認した少女二人は走り出す。前に出た浅葱が飛び出す様に顔面に拳を叩き込んだ後、身体を回転させて体重を乗せた飛び蹴りを打つ。まるで鳥が舞う様に。
 二歩、三歩と下がるオークリーダー、そこへ桃が飛び込み小さな体をぶつける様に切り裂かれた傷へ指を刺し、臓腑に捻じ込む。
 絶叫が辺りに木霊した。それは断末魔の叫び。
 桃が腕を引き抜いたと同時に妖は腹から大量を赤を吐き出し、そして仰向けに倒れる。
 その巨体が大地を揺らす頃、振り向いた桃へ浅葱が手を挙げて待っていた。
 二人の手が合わさり、そして妖は死んだ。

●死して獣は何を残す
「どうしてまた線路の近くに沸いたの? 別働隊も確か線路沿い防衛と列車型の妖退治なんでしょ? もしかして敵の狙いは線路の防衛? 違うか……痛っ」
 意識を取り戻した蕾花がAAAの隊員に詰め寄る。
「お嬢ちゃん無理すんな、いくら覚者でもすぐに怪我が治るわけじゃないんだからさ。まあ座んな」
 隊長格の男が少女を宥め、近くの石に座るように促す。本来なら立っていたいところだが、身体がいう事を効かない。不承不承従うことにした。
「ともかく情報が欲しい。また後手に回って人が死なれたらたまったもんじゃないからね」
「同感だ、お嬢ちゃん」
「妖の大量発生の時期と今までの発見例をまとめたマップとかはあるの?」
「ああ、俺達は哨戒警備だから詳しいのは持っていないが大まかなものはあるぜ。副長!」
 AAAの隊員が防水シートでパッキングしたマップを持ってくる。
「情報は常時FiVEにも渡している、そっちの方とも照会するといい。それと……」
 AAAの隊長は彼女に向き直り。
「君達のおかげで俺達は死なないで済んだ、ありがとう感謝する」
 敬礼を以て、感謝の意を示した。

「ね、浅葱。友達になってくれないかしら?」
 桃が自分より小さな少女へと告げる。それはこれからも縁を繋ぎたいと思うがゆえ。少女の言葉に浅葱は鉄板のような胸を張り、
「ふっ、何をいまさら、既に友達ですよっ! 改めてよろしくお願いしますねっ」
 手を差し出す。その言葉に桃はそっと手を伸ばしそして握る。
「自然につながる縁を大事にするのが桃さんの美徳ですねっ」
「改めてそう言われると、こう、無性に照れるわね」
 はにかみながら答える桃。どちらからともなく吹き出すと二人の少女は笑いながらお互いの友情を確かめた。

「そっちは見つかったか?」
「何もねえ、棒っ切れと石ころぐらいなもんだ。探偵さんはどうだい?」
 駆と頼蔵がただの豚となった死体を調べながら、会話する駆の言葉に私立探偵は肩をすくめるだけだった。
「それにしても、このオークはどこから来たんだろう。奈良の山奥、なんてオチは無いと思うけど」
 その様子をしゃがみながら見ていた小唄が呟くように言う。
「オークだけにか」
 その言葉に駆は苦笑いを見せ。
「座布団は上げられないな」
 頼蔵は厳しく審議した。

「オークたちがやってきた方角を調べてみない?」
 提案するのは羽琉。彼が指さすのは妖が現れた場所、その方角を進んでいけば何か手掛かりが得られると考えての事だった。
「目の前でいきなり発生するわけはないし、元いた場所があるはず。原因に繋がるもの、少しでも見つけたいでしょ?」
「それはAAAの面々に任せたほうはいいと思うわ」
 翼人の少年の提案に絢音が意見を出す。
「神秘研究のはずがどういうわけか治安維持や組織間の抗争にも狩り出されている門外漢の私たちよりは本来のプロである彼らのほうがこういう事案は適任でしょうしね」
 言葉の端にはFiVEの今の活動に対する皮肉が混ざっていた。神秘研究を旨とするはずが武装し疲弊したAAAの代わりに戦っているという現状に少女は納得がいかない。だからこそ、積極的な行動には懸念を示すのであった。
「まあ、とりあえずは情報を持ち帰って改めて行くってことで提案なりを上にしてみてはどうですか? 我々も宮仕事ですし夜のハイキングは趣味ではないので」
 二人をとりなす様にAAAの副長が軽口を叩く。だが、それは絢音ににらまれるだけであった。

「さぁ、帰るぞ。出してくれ」
 豚の死体を調べ終わった頼蔵が丸太で涼しくなったLAVの座席に乗って尊大にふるまう。
 AAAの隊員はお互いに顔を見合わせると。
「乗せてもいいけど、これから仲間呼んで事後処理だから帰りは夜明けだぞ。どうする、待てる?」
 隊長が悪戯っぽい笑みを浮かべながら問いかける。
「因みに半分壊れてるからとても涼しいと思いますが、それでも乗りますか?」
 副長もそれに続く。
「…………いや、やっぱりやめる」
 頼蔵は席から降りると他の仲間たちの方へ歩いて行く。その姿にAAA達は笑いを隠せなかった。

 ――獣の進撃は止まった。だが百獣の進撃はまだ終わらない。
 
 
 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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