春のかっぱ合宿~なんだ、かっぱか
●かっぱ会議進行中
「かっぱー……」
ある山奥の温泉にぷかぷかと浮かびながら、ふぁんしーな古妖――温泉かっぱの面々は(恐らくは)真剣な顔をして顔を突きつけ合っていた。
「かぱ、かぱかぱ!」
――五麟市でのひと時はとっても楽しかったなあ、またF.i.V.E.のみんなと一緒に過ごしたいなあ。そんな思いでもじもじしつつ、でも桜の見頃も終わってしまったし――こんな辺鄙な山の温泉にみんなが遊びにきてくれるにも、素敵なおもてなしも出来ないしなあ。
「かっぱ? かっぱ?」
と、其処で温泉かっぱの一匹が、ちっちゃい手を懸命に挙げて仲間に提案した。ならばみんなの役に立てるように、自分たちがお手伝いをするのはどうか。
「……かぱ!」
そうだ――そう言えば学園で過ごしていた時、自分たちが普通に過ごしていたことに驚いていたひとも居た筈。ならば、この極意を伝授すると言うのはどうだろう――!
●モブ合宿参加のおさそい
「そんな訳で今回、温泉かっぱさんからのお誘いがあったんだけど……」
F.i.V.E.の司令室に顔を出した『月茨』浮森 瞑夜(nCL2000119)は、差し入れのきゅうりを机に置きつつ話を切り出した。
街に降りて来た沢山のかっぱさんと市内を巡り、彼らとお別れしてから暫く経ったのだが――今回自分たちの持つ技能を伝授したいと、かっぱ達から申し出があったようなのだ。
「えっと、場所はかっぱさんの棲む山奥の温泉で、春の日帰り合宿をしましょうと言うことみたい」
もしかしたら、覚えているものも居るかもしれない。彼ら温泉かっぱは、不思議な力を持っていたようで――気付かぬ内に学園に馴染み、そのまるっこいペンギンみたいな姿を目にしても「なんだ、かっぱか」と何でもないことのように思われていたのだ。
「こんな風に、ごくごく自然に背景に馴染むような……いわゆる群衆のひとり、モブみたいな存在感になれる技能を取得するのが目的だね」
――とは言え、かっぱ達とゆったり過ごし、大自然と一体化するような大らかな気持ちで一日過ごせば、自然と身に着くだろうとのこと。取り敢えず合宿のスケジュールは、最初に廃寺で『モブっぽくなれそうな修行』を個人で考えて行い、その後はモブの力を実践すべく、野性動物が浸かる温泉で一緒に過ごして彼らを怯えさせなければクリアーとなる。
「モブっぽくなれそうな修行は……その、かっぱさんも考えたみたいなんだけど、いいアイディアが浮かばなかったみたいなの。だから、これぞと言うすごい修行法を考えたひとには、かっぱさんが表彰するみたい」
まあ、考えるんじゃない、感じろの精神で色々やってみるのも良いかもしれない。ポイントは大自然と一体化することで、特に思いつかなければ座禅を組んでも良いし、チャレンジャーな方は首だけ出して土に埋まるとか荒行をやっても大丈夫だ。
「後半の温泉は、モブの心で不必要に目立たないよう、動物さん達に自然に紛れこむ感じで挑めばいいのかな」
野生動物と言うとウサギや鹿、あとカピバラさんなんかも温泉に来るようだ。ちなみにレアケースとして、ここら辺の森の主であるゴリラもお出ましになるとか。
「……こんな感じの合宿だけど、ちょっぴり羽を伸ばす感じで、かっぱさん達と触れ合いながら楽しんできてね」
一体、モブの極意とはどんなものなのだろうか――瞑夜はちょっとどきどきしつつ、頑張ってとエールを送りながら仲間たちを見送ったのだった。
「かっぱー……」
ある山奥の温泉にぷかぷかと浮かびながら、ふぁんしーな古妖――温泉かっぱの面々は(恐らくは)真剣な顔をして顔を突きつけ合っていた。
「かぱ、かぱかぱ!」
――五麟市でのひと時はとっても楽しかったなあ、またF.i.V.E.のみんなと一緒に過ごしたいなあ。そんな思いでもじもじしつつ、でも桜の見頃も終わってしまったし――こんな辺鄙な山の温泉にみんなが遊びにきてくれるにも、素敵なおもてなしも出来ないしなあ。
「かっぱ? かっぱ?」
と、其処で温泉かっぱの一匹が、ちっちゃい手を懸命に挙げて仲間に提案した。ならばみんなの役に立てるように、自分たちがお手伝いをするのはどうか。
「……かぱ!」
そうだ――そう言えば学園で過ごしていた時、自分たちが普通に過ごしていたことに驚いていたひとも居た筈。ならば、この極意を伝授すると言うのはどうだろう――!
●モブ合宿参加のおさそい
「そんな訳で今回、温泉かっぱさんからのお誘いがあったんだけど……」
F.i.V.E.の司令室に顔を出した『月茨』浮森 瞑夜(nCL2000119)は、差し入れのきゅうりを机に置きつつ話を切り出した。
街に降りて来た沢山のかっぱさんと市内を巡り、彼らとお別れしてから暫く経ったのだが――今回自分たちの持つ技能を伝授したいと、かっぱ達から申し出があったようなのだ。
「えっと、場所はかっぱさんの棲む山奥の温泉で、春の日帰り合宿をしましょうと言うことみたい」
もしかしたら、覚えているものも居るかもしれない。彼ら温泉かっぱは、不思議な力を持っていたようで――気付かぬ内に学園に馴染み、そのまるっこいペンギンみたいな姿を目にしても「なんだ、かっぱか」と何でもないことのように思われていたのだ。
「こんな風に、ごくごく自然に背景に馴染むような……いわゆる群衆のひとり、モブみたいな存在感になれる技能を取得するのが目的だね」
――とは言え、かっぱ達とゆったり過ごし、大自然と一体化するような大らかな気持ちで一日過ごせば、自然と身に着くだろうとのこと。取り敢えず合宿のスケジュールは、最初に廃寺で『モブっぽくなれそうな修行』を個人で考えて行い、その後はモブの力を実践すべく、野性動物が浸かる温泉で一緒に過ごして彼らを怯えさせなければクリアーとなる。
「モブっぽくなれそうな修行は……その、かっぱさんも考えたみたいなんだけど、いいアイディアが浮かばなかったみたいなの。だから、これぞと言うすごい修行法を考えたひとには、かっぱさんが表彰するみたい」
まあ、考えるんじゃない、感じろの精神で色々やってみるのも良いかもしれない。ポイントは大自然と一体化することで、特に思いつかなければ座禅を組んでも良いし、チャレンジャーな方は首だけ出して土に埋まるとか荒行をやっても大丈夫だ。
「後半の温泉は、モブの心で不必要に目立たないよう、動物さん達に自然に紛れこむ感じで挑めばいいのかな」
野生動物と言うとウサギや鹿、あとカピバラさんなんかも温泉に来るようだ。ちなみにレアケースとして、ここら辺の森の主であるゴリラもお出ましになるとか。
「……こんな感じの合宿だけど、ちょっぴり羽を伸ばす感じで、かっぱさん達と触れ合いながら楽しんできてね」
一体、モブの極意とはどんなものなのだろうか――瞑夜はちょっとどきどきしつつ、頑張ってとエールを送りながら仲間たちを見送ったのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.かっぱ合宿をこなし、モブの技能を習得する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●モブの技能とは
古妖・温泉かっぱが何となく持つ能力で、目立った行動を取らずに自然にしていると、その場所に溶け込んで一般人から注意を払われなくなります(見えているけど「なんだかっぱか」と何でもないことのように思わせます)。
一時期学園に大勢のかっぱが住み着いていたようですが、その際もかっぱが出たと大騒ぎになることも無く、ごくごく自然な感じで学園に馴染んでいたみたいです。
●合宿のしおり
(前半)廃寺周辺で各自『モブっぽくなれそうな修行』を考案し、実践する。
・とりあえず大自然と一体化する感じで頑張れば、何となくコツが掴めてきます。
・ユニークな修行法を編み出した方は、かっぱから表彰されます。
(後半)実技として野生動物と一緒に温泉に浸かり、彼らに自然に溶け込む。
・モブの精神で、目立たない様に自然に振舞うのがコツです。まったりのんびりしていれば、何となく成功します。
・動物は色々やって来ます。モブっぷりが素晴らしいとレアな動物(ゴリラとか)も姿を見せるようです。
※合宿は日帰りです。おやつなどの持ち込みは自由です。かっぱ達とも遊んであげると喜びます。
難易度は簡単ですので、イベシナのように積極的に楽しむ姿勢で挑めば、問題なく技能を習得出来ます。合宿と言いつつゆるーいノリですので、日帰り温泉旅行を楽しむ感じで挑戦してみて下さい。それではよろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年05月17日
2016年05月17日
■メイン参加者 8人■

●かっぱ合宿開始!
ぽかぽか春の陽気に包まれながら、鳥たちの囀りが響く中――F.i.V.E.の覚者たちは、深緑の眩しい山をのんびりと歩いていた。目指す場所は山の奥深く、其処には知る人ぞ知る秘湯と、其処を住処とする愛らしい古妖――温泉かっぱ達が待っているのだ。
「ふむ……モブの技能とは、果たして」
山登り中でも涼しげな表情を崩さない『陽を求め歩む者』天原・晃(CL2000389)がぽつりと呟くと――荷物を持ってくれる彼を眩しそうに見上げる『凛の雫花』宇賀神・慈雨(CL2000259)は、ゆっくりと相槌を打つ。
「モブになる技能……かっぱさんから学ぶのは、もっとこう水に関するものだと思っていたの」
今回彼らは、温泉かっぱ達から技能を伝授して貰うべく、日帰り合宿を行うことになっていた。それは群衆のひとりの如き存在感になれる、モブの技能と言うことなのだが――のんびりと温泉や山の自然を楽しみつつ習得出来ると言う話だったので、ちょっとした旅行気分だなと慈雨は思う。
(楽しみながら技能も会得できるなんて素敵な機会、満喫しなきゃね)
静かに深呼吸をすれば、爽やかな緑の香りが心を落ち着かせてくれる――そっと慈雨が瞳を細める中、『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は転ばないように足元に気を付けつつ、目深にかかる髪をさらさらと揺らしていた。
「目立たない、といえば、私ですよね」
――ならば自然体でいれば、おのずと技能が身に着きそうだ。モブの極意に至る大自然と一体化する心は、もしかすると神道の教えにも通じるものがあるかもしれない。そんな風にちょっぴり敬虔な気持ちになる祇澄に対し、世俗のあれやこれやを捨てきれないのは『調停者』九段 笹雪(CL2000517)だ。
「……遊びに来てもらう前に、自分から来てしまった」
うん、これは仕事だと言うのは分かっている。分かっているのだが――でもこんなゆるーい合宿ならば、温泉旅行気分になってしまうのは仕方のないことなのだ。
「だって行楽シーズンだよ!」
ふにゃりとした表情ながらも、ぐっと拳を握りしめる笹雪に、天野 澄香(CL2000194)はそうですねとにこにこと微笑んでいた。澄香としても、学園に住み着いていたと言うかぱちゃんには一度会ってみたかったのだが、案外実は会っていたのかもしれないとも思ってみる。
「見てても、気にしてなかったのかもしれませんね」
だとするならば、モブになる技能――侮りがたし。そんな感じで合宿への期待を抱きつつ、やがて一行はかっぱ達の暮らす温泉へと到着した。
「かっぱー!」
早速皆の姿を目にした温泉かっぱ達は、ようこそと言うように両手を広げて、てぽてぽと此方へ飛び込んでくる。あら、と『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)は引き結んでいた唇をそっと和らげて、自分へ向かってダイビングしてきたかっぱを確りと抱きしめた。
「玉子みたいね? よく見るとみんな個性的だわ」
「そうか? オレにはかっぱの見分けが付きづらいんだけど……」
かっぱのしっとりした抱き心地を堪能するありすは、何だか楽しそうに見えて――『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)は良かったと思いつつ、ちょっとかっぱが羨ましくもなったけれど。彼の隣では『月々紅花』環 大和(CL2000477)が、優しい手つきでちまっこいかっぱを撫でていた。
「かぱちゃん、会いたかったわ」
「かぱ!」
ちょっぴりもじもじしつつ、そのかっぱ――何度も皆に助けられたかぱちゃんは大和にひしと抱きつき、いつぞやの贈り物の感謝を改めて伝えている様子。すんなりかっぱとコミュニケーションを取っている彼女の姿に、ヤマトは凄いなあと言うように溜息を零した。
「雰囲気で何となく見分けよう、とは思ったんだけど……そんなにすぐに分かるもんか?」
「同じように見えても、ひとりひとり表情が違うもの。見分けくらいつくわ」
そんな大和の助言に従いかっぱの集団を見渡してみると、みんなつぶらな瞳をしているけれど、その表情は微妙に違う――ような気がする。でもまぁとりあえず、右上の方で目を細めて「むふふ」と呟いていそうなかっぱは、直ぐに区別がついた。
(かぱちゃん達が山へ戻ってから、まだ一か月程しか経っていないのだけれど……一年くらい離れていた気分だわ)
だから思っていたよりも早く再会できて、とても嬉しいと大和は微笑む。このままかぱちゃん達とゆっくり戯れたいところだが、今回は目的があっての来訪だ――先ずは、技能を習得すると言う目的を果たさなければならないだろう。
「かっぱ、かっぱ!」
――本音を言うとかっぱ達も遊びたくてうずうずしているようだが、ちゃんと合宿を行おうと言い聞かせている様子。そんな訳で彼らは早速、山中の廃寺へと覚者の皆を案内したのだった。
●大自然とひとつに
(廃寺……仏教ですか)
ひとが住まなくなってどれくらい経ったのか、目的地の廃寺はかろうじて雨露が凌げるといった感じで、本尊も撤去されていた。祇澄にとってはあまり馴染みが無いのだが、郷に入っては郷に従えということで、彼女は本尊のあったと思われる方角へ手を合わせて一礼する。
「本日一日、よろしく、お願いします」
――かっぱ達も祇澄に習ってぺこりと一礼、その前にはお供えものらしききゅうりが置かれていた。が、お盆の頃によく見るきゅうりの馬だったので、かっぱ達はよく分かっていないと思われる。
「と、挨拶も終わったことだし、各自修行かな?」
取り敢えずきゅうりの馬は見なかったことにして、気を取り直した笹雪が皆を促した。修行自体は真面目にやると意気込んでいた彼女は、先ずモブになるには見た目からと、前髪で目元を隠そうとしたのだが――。
「……神室ちゃんとキャラ被るね。はい没」
――3秒くらいであっさりと没になった。皆がそれぞれに修行法を考え散開した後も、笹雪はひとり廃寺でモブらしさについて考え込む。
(モブとは群衆、背景となる人々……つまり人はそもそもがモブ?)
生きとし生けるものは皆モブ、すなわちモブこそが自然の摂理――だから自然と一体化することが大事だったのか、と笹雪は真理に到達しつつあった。そしてこの廃寺周辺における大自然とは、山野とお寺とかっぱと覚者であるならば。
「ここに溶け込み、自然と一体になるなら……やはり座禅か」
そんな訳で笹雪は早速足を組んで、その上にかぱちゃんを乗せ、目を閉じ静かに――そして穏やかに座禅を開始する。ぴんと張り詰めた空気にかぱちゃんも神妙な顔をしておすわり、その後ろでは他のかっぱが座禅でばしんと叩く棒(警策と言うらしい)を持って、うろちょろしていた。
(……例え目の前に何があろうと、何が起ころうとあたしは座禅を組み続ける)
醸し出すのは人畜無害オーラ、周囲を和ませるマイナスイオンだ。ツッコミもボケもしない――警策を持ったかっぱが、ずべしゃあと前のめりに転んだとしても。
(ああでも、何かいい匂いが楽しげな声が……)
――一方その頃、祇澄はかっぱ達と一緒に森を歩き回り、自然の空気を目一杯堪能していた。やはり自然と一体になるには自然の中で過ごすのが一番――普段は人工物に囲まれて暮らしている為、こういう機会でもないと自然を満喫するのはなかなか難しい。
「ん~……っ。良いですね、自然は。特に、ここはほとんど、手が入っていませんし」
大きく伸びをする祇澄の視線の先には、自然のままの木々が――そしてかっぱ達が自給自足生活を始めようとしているのか、ちっちゃなきゅうり畑が広がっている。
「かっぱさんなら、動物が多くいるところも知ってそうですね」
居るかどうかも定かではないし、残念ながら土地神様にお目にかかることは出来なかったけれど。いい場所があるかと言う祇澄の問いに、かっぱ達が向かった先では猪の親子連れがのそのそと歩いていた。
「かぱ!」
「ぶもー」
――何やらコミュニケーションが成立しているのが凄い。これもモブの力だろうかと祇澄が興味深そうに見守る中、その視界の隅では謎の黒い影がのっしのっしと歩いていたのだった。
「森の散策……? まあ、いいわ。自然に馴染む方がいいでしょうし」
「だよな、森もいいよなー。こういうとこで昼寝したら気持ちよさそう!」
そしてありすとヤマトのふたりも、連れ立って森を歩いていた。淡い木漏れ日が射し込むも、日陰となっている場所はやっぱりひんやりして――寒い場所が苦手なありすは、微かに己の身体を抱きしめる。
「まあ、自然は嫌いじゃないけど。お昼寝するなら日の当たる所がいいわ」
とは言え、先ずはモブの修行だ。しかし、自分たちは割と派手じゃないかとありすは心配になるのだが、ヤマトはと言えば、丁度良さそうな葉っぱを見つけてそれを唇に押し当てていた。
「……何?」
「いや、修行っていうか遊びだけど、かっぱがモブの技能を教えてくれるなら、オレは音楽伝えれたらなって」
そう言ってヤマトは、草笛を吹いたことがあるかとありすに尋ねる。彼女が無言で首を振ると、ヤマトは唇に押し当てた葉を震わせて簡単に音を鳴らしてみせた。
「へぇ……器用なものね。でも、何だか間の抜けた音ね」
「これで一曲吹けたら楽しそうだし、みんなでやってみようって」
音楽が得意なヤマトに感心しつつ、ありすも見よう見まねで草笛を鳴らそうとしてみるのだが――息が漏れるだけで一向に音は鳴らない。むう、と顔をしかめて四苦八苦し、ようやく音が鳴った時には葉っぱを何枚か破いてしまっていた。
「そうそう。そんな感じ! 上手上手」
「って、ちょ、何で撫でるのよ。アタシは子供じゃないわよ」
ありすの頭を撫でたヤマトは、いつの間にか草笛をマスターしていたかっぱ達もなでなでして。みんなで音を合わせて音楽を楽しんだ後は、のんびりお昼寝でもしようということになる。
「全く、もう……何だか疲れたわ。一休みしましょ?」
「おう、こういうのも自然と一体化の修行だよな。ありすもこっちでのんびりしようぜ!」
――モブっぽくなれる修行と大和はひとり、大自然の中で思索に耽っていた。普段から目立つ方ではないと思っているけれど、この技能があれば近所の野良猫とも逃げずに触れ合えるだろうか――いやいや、煩悩は捨てておこう。
(……月並みだけれども)
すぅっと深呼吸をしてから、大和は流れる風に逆らわずに呼吸を合わせた。その場の空気に溶け込むように、まるでそこに居るのが当たり前のように――。
(もっとユニークな方法もあるのかもしれないけれど、これがわたしにとって一番馴染みやすそうよ)
そう、大和の姿は水の流れに逆らわず、ゆらゆらと水底を漂う藻の姿を思わせた。藻が舞う様――まさかこれが藻舞(モブ)の極意なのだろうか。
「でも、かわいいかぱちゃん達を前に冷静でいられるかしら」
何かを掴みかけた大和だったが、動物たちと触れ合う温泉での実技を思い出し、ちょっぴり心配になったのだった。
「自然との一体化なら、日光浴なんて如何かしら」
そう晃に提案した慈雨は、ふたりのんびり日向ぼっこをしつつ、自然の音や気配に意識を傾けることにしたようだ。普段はこうして自然の匂いを嗅いだり、鳥の囀りを聞いたり、風の音に耳を澄ませる時間もそうそうないから――けれど穏やか過ぎてとろりと瞼が落ちて来た慈雨は、そっと隣の晃へと凭れかかっていった。
「眠たくなったか? 構わないぞ、このままでも」
さらさらと陽に透ける慈雨の髪を漉くように、晃は彼女の頭を撫でて――今日みたいな穏やかな太陽と、心地良い風ならば無理もないとそっと微笑む。
「この身体に掛かる重さが心地良い事もある。大切な者なら、なおさらな」
「……うん、そうね」
――大切な人だからこそ、こんな無防備な姿でも安心して預けられる。触れた先から伝わる鼓動とぬくもりに安らぎを覚えて、静かに自然を堪能するふたりを「むふふ」とかっぱの一匹が幸せそうに眺めていた。
(周りに溶け込むのでしたら、自然の中でお昼寝なんてどうでしょうか)
そして此処にも、心を無にしようと意気込む少女がひとり。お昼寝状態なら殺気も煩悩も消えるし、頭もからっぽになる――澄香はうんうんと頷き、けれどただ寝るだけでは芸が無いと、大きな木の枝のひとつによいしょと手を伸ばす。
「この枝の上で寝てみましょうか。自然と、この木と一体化できれば落ちたりしないはずですよね!」
私は木、私は木ですよーと言い聞かせながら、澄香は太めの枝に横になるのだが、こんな風に意識するとなかなか眠れないもの。
(が、頑張ってお昼寝しなくてはっ!)
――趣旨がズレていっていることにも気づかずに必死で瞳を閉じつつ、こうしてモブ修行はのんびりと進んでいったのだった。
●どきどき混浴温泉
――さて。モブの心を掴んだのなら、あとは実践である。かっぱ温泉に癒しを求めて集う動物たちと、ごくごく自然に、まるで彼らのモブのように振舞うのだ。
「温泉はいいわね、温かいから好きよ」
ほかほかと湯気を立てる適温の温泉に浸かりつつ、ありすは頭にかっぱを乗せて動物たちの中に自然に紛れ込んでいた。アンタ達も温泉を楽しみに来てるのねと視線を向ければ、其処に居るのはうさぎや鹿、りすなんかも居る。
「ふぅ……こんなにのんびりしたのも久しぶりね」
と、ありすはリラックスタイムを満喫しているようなのだが、一緒に温泉に入るヤマトは早くも逆上せそうになっていた。水着着用とは言え、温泉は混浴で――隣には、珠のような肌を晒すありすが居るのだから。
(ど、動物は気にしないで、普段通り仲間と居る感じで接する! でも水着のありすが……あああ)
「自然の動物とふれあう為には、自分も自然に溶け込む……こう考えれば落ち着いて湯に浸かれそうね」
一方でモブの境地に辿り着きつつある大和は、平常心でさり気なく温泉を堪能し、珍しい動物――ヤマネやオコジョとも触れ合っている。久しぶりに森を歩き回った祇澄も、目立つ目立たないを意識せずに自然に温泉を楽しんでいると、湯気の向こうでのそりと影が動いた。
「んっ、ふぅ……疲れが取れますね……あ、どうも」
「ウッホ」
――にこっと会釈した相手は、何と森の主であるゴリラ。彼は王者の貫禄に相応しく胸を叩くと、お近づきの印に祇澄へバナナを差し出す。
「うん、何か凄い動物来ちゃっても心に波は立てず、全てを受け入れるべしだねぇ」
そして笹雪は心の平静を乱さずに、ありのままの情景を受け入れ、澄香と一緒にかぱちゃんの背中を流していた。
(ああ、段々技能の事とかどうでもよくなってくるよ。無欲になれるね)
――しかし、動物さんのもふもふな光景に癒されつつも、慈雨はこの温泉が混浴であったことに気が気でない様子。恥ずかしかったので距離を取ってしまっていたが、近くには水着姿の晃がいるのだと思えばやっぱり落ち着かない。
「へ、平常心だよ慈雨。般若心経でも唱えて落ち着くのよ……!」
そんな慈雨の反対側では、もふもふのカピバラさんに囲まれて晃が温泉に浸かっていた。自分たちは突然の来訪者であるのだから、彼らを脅かさないようにただ静かに時間を過ごすだけ――のつもりだったのだが、何やら聞き覚えのある声でぶつぶつとお経が聞こえてきたので、反射的に身構えてしまう。
(何だ、悪霊でも出たのか……まさか、な)
●モブの手応え
動物たちとも温泉で触れ合い、確かな手応えを感じた一行。そうして最後にかっぱ達と遊んで帰ろうと、慈雨は鬼ごっこをする彼らに混ぜて貰うことに。
「……地獄の鬼も真っ青と言われた追い込みテクニックを披露する時が来たの。ふふふふふ」
「危ない所にはいかないようにな」
気合十分で鬼役となる慈雨へ、冷静に声をかけるのは晃で。一通り彼らとも遊んだ後は、おやつタイムでクールダウンだ。
「……そう言えば、食事、していませんね」
「なら、慈雨の作る和菓子はどうだ。なかなか美味しいぞ」
ちょっぴり寂しくなったお腹をさする祇澄へ、晃が和菓子と一緒にお茶を差し入れる。ふふ、と慈雨は少し照れくさそうにしつつ、晃と手分けしてかっぱ達へもお菓子を配っていった。
「柏餅を作ってみたから、皆いっぱい食べてね」
「茶は熱いから、ちゃんと冷ますんだぞ」
かっぱー、とあちこちから聞こえてくる声に頷き、大和と澄香も手作りのおやつを振舞っておもてなしする。大和はきゅうり尽くしのお弁当にきゅうりチップス、澄香はきゅうりのゼリーにきゅうりの水饅頭と見た目にも涼しげだ。
「澄香さんのきゅうりゼリー、爽やかでとても美味しいわ。温泉で火照った身体に染み入りそうね」
「ふふ、ありがとうございます。大和ちゃんのお料理のレシピも気になります」
和気藹々と料理を交換しながら、澄香はかぱちゃんをなでなで――ゼリーを美味しそうに食べている彼をぎゅっとして、ほんのり幸せ気分に浸る。
こうして滞りなく合宿は終了し、かっぱ達と自然で過ごした一行は、モブの何たるかを無事に掴んだようだ。最後に皆で記念撮影をした後、名残惜しくも彼らは別れを告げる。
(……こういうのも悪くないわね)
――きっとまた遊べると、ありすはヤマトにちいさく頷いて、かっぱ達の棲む山に手を振ったのだった。
ぽかぽか春の陽気に包まれながら、鳥たちの囀りが響く中――F.i.V.E.の覚者たちは、深緑の眩しい山をのんびりと歩いていた。目指す場所は山の奥深く、其処には知る人ぞ知る秘湯と、其処を住処とする愛らしい古妖――温泉かっぱ達が待っているのだ。
「ふむ……モブの技能とは、果たして」
山登り中でも涼しげな表情を崩さない『陽を求め歩む者』天原・晃(CL2000389)がぽつりと呟くと――荷物を持ってくれる彼を眩しそうに見上げる『凛の雫花』宇賀神・慈雨(CL2000259)は、ゆっくりと相槌を打つ。
「モブになる技能……かっぱさんから学ぶのは、もっとこう水に関するものだと思っていたの」
今回彼らは、温泉かっぱ達から技能を伝授して貰うべく、日帰り合宿を行うことになっていた。それは群衆のひとりの如き存在感になれる、モブの技能と言うことなのだが――のんびりと温泉や山の自然を楽しみつつ習得出来ると言う話だったので、ちょっとした旅行気分だなと慈雨は思う。
(楽しみながら技能も会得できるなんて素敵な機会、満喫しなきゃね)
静かに深呼吸をすれば、爽やかな緑の香りが心を落ち着かせてくれる――そっと慈雨が瞳を細める中、『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は転ばないように足元に気を付けつつ、目深にかかる髪をさらさらと揺らしていた。
「目立たない、といえば、私ですよね」
――ならば自然体でいれば、おのずと技能が身に着きそうだ。モブの極意に至る大自然と一体化する心は、もしかすると神道の教えにも通じるものがあるかもしれない。そんな風にちょっぴり敬虔な気持ちになる祇澄に対し、世俗のあれやこれやを捨てきれないのは『調停者』九段 笹雪(CL2000517)だ。
「……遊びに来てもらう前に、自分から来てしまった」
うん、これは仕事だと言うのは分かっている。分かっているのだが――でもこんなゆるーい合宿ならば、温泉旅行気分になってしまうのは仕方のないことなのだ。
「だって行楽シーズンだよ!」
ふにゃりとした表情ながらも、ぐっと拳を握りしめる笹雪に、天野 澄香(CL2000194)はそうですねとにこにこと微笑んでいた。澄香としても、学園に住み着いていたと言うかぱちゃんには一度会ってみたかったのだが、案外実は会っていたのかもしれないとも思ってみる。
「見てても、気にしてなかったのかもしれませんね」
だとするならば、モブになる技能――侮りがたし。そんな感じで合宿への期待を抱きつつ、やがて一行はかっぱ達の暮らす温泉へと到着した。
「かっぱー!」
早速皆の姿を目にした温泉かっぱ達は、ようこそと言うように両手を広げて、てぽてぽと此方へ飛び込んでくる。あら、と『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)は引き結んでいた唇をそっと和らげて、自分へ向かってダイビングしてきたかっぱを確りと抱きしめた。
「玉子みたいね? よく見るとみんな個性的だわ」
「そうか? オレにはかっぱの見分けが付きづらいんだけど……」
かっぱのしっとりした抱き心地を堪能するありすは、何だか楽しそうに見えて――『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)は良かったと思いつつ、ちょっとかっぱが羨ましくもなったけれど。彼の隣では『月々紅花』環 大和(CL2000477)が、優しい手つきでちまっこいかっぱを撫でていた。
「かぱちゃん、会いたかったわ」
「かぱ!」
ちょっぴりもじもじしつつ、そのかっぱ――何度も皆に助けられたかぱちゃんは大和にひしと抱きつき、いつぞやの贈り物の感謝を改めて伝えている様子。すんなりかっぱとコミュニケーションを取っている彼女の姿に、ヤマトは凄いなあと言うように溜息を零した。
「雰囲気で何となく見分けよう、とは思ったんだけど……そんなにすぐに分かるもんか?」
「同じように見えても、ひとりひとり表情が違うもの。見分けくらいつくわ」
そんな大和の助言に従いかっぱの集団を見渡してみると、みんなつぶらな瞳をしているけれど、その表情は微妙に違う――ような気がする。でもまぁとりあえず、右上の方で目を細めて「むふふ」と呟いていそうなかっぱは、直ぐに区別がついた。
(かぱちゃん達が山へ戻ってから、まだ一か月程しか経っていないのだけれど……一年くらい離れていた気分だわ)
だから思っていたよりも早く再会できて、とても嬉しいと大和は微笑む。このままかぱちゃん達とゆっくり戯れたいところだが、今回は目的があっての来訪だ――先ずは、技能を習得すると言う目的を果たさなければならないだろう。
「かっぱ、かっぱ!」
――本音を言うとかっぱ達も遊びたくてうずうずしているようだが、ちゃんと合宿を行おうと言い聞かせている様子。そんな訳で彼らは早速、山中の廃寺へと覚者の皆を案内したのだった。
●大自然とひとつに
(廃寺……仏教ですか)
ひとが住まなくなってどれくらい経ったのか、目的地の廃寺はかろうじて雨露が凌げるといった感じで、本尊も撤去されていた。祇澄にとってはあまり馴染みが無いのだが、郷に入っては郷に従えということで、彼女は本尊のあったと思われる方角へ手を合わせて一礼する。
「本日一日、よろしく、お願いします」
――かっぱ達も祇澄に習ってぺこりと一礼、その前にはお供えものらしききゅうりが置かれていた。が、お盆の頃によく見るきゅうりの馬だったので、かっぱ達はよく分かっていないと思われる。
「と、挨拶も終わったことだし、各自修行かな?」
取り敢えずきゅうりの馬は見なかったことにして、気を取り直した笹雪が皆を促した。修行自体は真面目にやると意気込んでいた彼女は、先ずモブになるには見た目からと、前髪で目元を隠そうとしたのだが――。
「……神室ちゃんとキャラ被るね。はい没」
――3秒くらいであっさりと没になった。皆がそれぞれに修行法を考え散開した後も、笹雪はひとり廃寺でモブらしさについて考え込む。
(モブとは群衆、背景となる人々……つまり人はそもそもがモブ?)
生きとし生けるものは皆モブ、すなわちモブこそが自然の摂理――だから自然と一体化することが大事だったのか、と笹雪は真理に到達しつつあった。そしてこの廃寺周辺における大自然とは、山野とお寺とかっぱと覚者であるならば。
「ここに溶け込み、自然と一体になるなら……やはり座禅か」
そんな訳で笹雪は早速足を組んで、その上にかぱちゃんを乗せ、目を閉じ静かに――そして穏やかに座禅を開始する。ぴんと張り詰めた空気にかぱちゃんも神妙な顔をしておすわり、その後ろでは他のかっぱが座禅でばしんと叩く棒(警策と言うらしい)を持って、うろちょろしていた。
(……例え目の前に何があろうと、何が起ころうとあたしは座禅を組み続ける)
醸し出すのは人畜無害オーラ、周囲を和ませるマイナスイオンだ。ツッコミもボケもしない――警策を持ったかっぱが、ずべしゃあと前のめりに転んだとしても。
(ああでも、何かいい匂いが楽しげな声が……)
――一方その頃、祇澄はかっぱ達と一緒に森を歩き回り、自然の空気を目一杯堪能していた。やはり自然と一体になるには自然の中で過ごすのが一番――普段は人工物に囲まれて暮らしている為、こういう機会でもないと自然を満喫するのはなかなか難しい。
「ん~……っ。良いですね、自然は。特に、ここはほとんど、手が入っていませんし」
大きく伸びをする祇澄の視線の先には、自然のままの木々が――そしてかっぱ達が自給自足生活を始めようとしているのか、ちっちゃなきゅうり畑が広がっている。
「かっぱさんなら、動物が多くいるところも知ってそうですね」
居るかどうかも定かではないし、残念ながら土地神様にお目にかかることは出来なかったけれど。いい場所があるかと言う祇澄の問いに、かっぱ達が向かった先では猪の親子連れがのそのそと歩いていた。
「かぱ!」
「ぶもー」
――何やらコミュニケーションが成立しているのが凄い。これもモブの力だろうかと祇澄が興味深そうに見守る中、その視界の隅では謎の黒い影がのっしのっしと歩いていたのだった。
「森の散策……? まあ、いいわ。自然に馴染む方がいいでしょうし」
「だよな、森もいいよなー。こういうとこで昼寝したら気持ちよさそう!」
そしてありすとヤマトのふたりも、連れ立って森を歩いていた。淡い木漏れ日が射し込むも、日陰となっている場所はやっぱりひんやりして――寒い場所が苦手なありすは、微かに己の身体を抱きしめる。
「まあ、自然は嫌いじゃないけど。お昼寝するなら日の当たる所がいいわ」
とは言え、先ずはモブの修行だ。しかし、自分たちは割と派手じゃないかとありすは心配になるのだが、ヤマトはと言えば、丁度良さそうな葉っぱを見つけてそれを唇に押し当てていた。
「……何?」
「いや、修行っていうか遊びだけど、かっぱがモブの技能を教えてくれるなら、オレは音楽伝えれたらなって」
そう言ってヤマトは、草笛を吹いたことがあるかとありすに尋ねる。彼女が無言で首を振ると、ヤマトは唇に押し当てた葉を震わせて簡単に音を鳴らしてみせた。
「へぇ……器用なものね。でも、何だか間の抜けた音ね」
「これで一曲吹けたら楽しそうだし、みんなでやってみようって」
音楽が得意なヤマトに感心しつつ、ありすも見よう見まねで草笛を鳴らそうとしてみるのだが――息が漏れるだけで一向に音は鳴らない。むう、と顔をしかめて四苦八苦し、ようやく音が鳴った時には葉っぱを何枚か破いてしまっていた。
「そうそう。そんな感じ! 上手上手」
「って、ちょ、何で撫でるのよ。アタシは子供じゃないわよ」
ありすの頭を撫でたヤマトは、いつの間にか草笛をマスターしていたかっぱ達もなでなでして。みんなで音を合わせて音楽を楽しんだ後は、のんびりお昼寝でもしようということになる。
「全く、もう……何だか疲れたわ。一休みしましょ?」
「おう、こういうのも自然と一体化の修行だよな。ありすもこっちでのんびりしようぜ!」
――モブっぽくなれる修行と大和はひとり、大自然の中で思索に耽っていた。普段から目立つ方ではないと思っているけれど、この技能があれば近所の野良猫とも逃げずに触れ合えるだろうか――いやいや、煩悩は捨てておこう。
(……月並みだけれども)
すぅっと深呼吸をしてから、大和は流れる風に逆らわずに呼吸を合わせた。その場の空気に溶け込むように、まるでそこに居るのが当たり前のように――。
(もっとユニークな方法もあるのかもしれないけれど、これがわたしにとって一番馴染みやすそうよ)
そう、大和の姿は水の流れに逆らわず、ゆらゆらと水底を漂う藻の姿を思わせた。藻が舞う様――まさかこれが藻舞(モブ)の極意なのだろうか。
「でも、かわいいかぱちゃん達を前に冷静でいられるかしら」
何かを掴みかけた大和だったが、動物たちと触れ合う温泉での実技を思い出し、ちょっぴり心配になったのだった。
「自然との一体化なら、日光浴なんて如何かしら」
そう晃に提案した慈雨は、ふたりのんびり日向ぼっこをしつつ、自然の音や気配に意識を傾けることにしたようだ。普段はこうして自然の匂いを嗅いだり、鳥の囀りを聞いたり、風の音に耳を澄ませる時間もそうそうないから――けれど穏やか過ぎてとろりと瞼が落ちて来た慈雨は、そっと隣の晃へと凭れかかっていった。
「眠たくなったか? 構わないぞ、このままでも」
さらさらと陽に透ける慈雨の髪を漉くように、晃は彼女の頭を撫でて――今日みたいな穏やかな太陽と、心地良い風ならば無理もないとそっと微笑む。
「この身体に掛かる重さが心地良い事もある。大切な者なら、なおさらな」
「……うん、そうね」
――大切な人だからこそ、こんな無防備な姿でも安心して預けられる。触れた先から伝わる鼓動とぬくもりに安らぎを覚えて、静かに自然を堪能するふたりを「むふふ」とかっぱの一匹が幸せそうに眺めていた。
(周りに溶け込むのでしたら、自然の中でお昼寝なんてどうでしょうか)
そして此処にも、心を無にしようと意気込む少女がひとり。お昼寝状態なら殺気も煩悩も消えるし、頭もからっぽになる――澄香はうんうんと頷き、けれどただ寝るだけでは芸が無いと、大きな木の枝のひとつによいしょと手を伸ばす。
「この枝の上で寝てみましょうか。自然と、この木と一体化できれば落ちたりしないはずですよね!」
私は木、私は木ですよーと言い聞かせながら、澄香は太めの枝に横になるのだが、こんな風に意識するとなかなか眠れないもの。
(が、頑張ってお昼寝しなくてはっ!)
――趣旨がズレていっていることにも気づかずに必死で瞳を閉じつつ、こうしてモブ修行はのんびりと進んでいったのだった。
●どきどき混浴温泉
――さて。モブの心を掴んだのなら、あとは実践である。かっぱ温泉に癒しを求めて集う動物たちと、ごくごく自然に、まるで彼らのモブのように振舞うのだ。
「温泉はいいわね、温かいから好きよ」
ほかほかと湯気を立てる適温の温泉に浸かりつつ、ありすは頭にかっぱを乗せて動物たちの中に自然に紛れ込んでいた。アンタ達も温泉を楽しみに来てるのねと視線を向ければ、其処に居るのはうさぎや鹿、りすなんかも居る。
「ふぅ……こんなにのんびりしたのも久しぶりね」
と、ありすはリラックスタイムを満喫しているようなのだが、一緒に温泉に入るヤマトは早くも逆上せそうになっていた。水着着用とは言え、温泉は混浴で――隣には、珠のような肌を晒すありすが居るのだから。
(ど、動物は気にしないで、普段通り仲間と居る感じで接する! でも水着のありすが……あああ)
「自然の動物とふれあう為には、自分も自然に溶け込む……こう考えれば落ち着いて湯に浸かれそうね」
一方でモブの境地に辿り着きつつある大和は、平常心でさり気なく温泉を堪能し、珍しい動物――ヤマネやオコジョとも触れ合っている。久しぶりに森を歩き回った祇澄も、目立つ目立たないを意識せずに自然に温泉を楽しんでいると、湯気の向こうでのそりと影が動いた。
「んっ、ふぅ……疲れが取れますね……あ、どうも」
「ウッホ」
――にこっと会釈した相手は、何と森の主であるゴリラ。彼は王者の貫禄に相応しく胸を叩くと、お近づきの印に祇澄へバナナを差し出す。
「うん、何か凄い動物来ちゃっても心に波は立てず、全てを受け入れるべしだねぇ」
そして笹雪は心の平静を乱さずに、ありのままの情景を受け入れ、澄香と一緒にかぱちゃんの背中を流していた。
(ああ、段々技能の事とかどうでもよくなってくるよ。無欲になれるね)
――しかし、動物さんのもふもふな光景に癒されつつも、慈雨はこの温泉が混浴であったことに気が気でない様子。恥ずかしかったので距離を取ってしまっていたが、近くには水着姿の晃がいるのだと思えばやっぱり落ち着かない。
「へ、平常心だよ慈雨。般若心経でも唱えて落ち着くのよ……!」
そんな慈雨の反対側では、もふもふのカピバラさんに囲まれて晃が温泉に浸かっていた。自分たちは突然の来訪者であるのだから、彼らを脅かさないようにただ静かに時間を過ごすだけ――のつもりだったのだが、何やら聞き覚えのある声でぶつぶつとお経が聞こえてきたので、反射的に身構えてしまう。
(何だ、悪霊でも出たのか……まさか、な)
●モブの手応え
動物たちとも温泉で触れ合い、確かな手応えを感じた一行。そうして最後にかっぱ達と遊んで帰ろうと、慈雨は鬼ごっこをする彼らに混ぜて貰うことに。
「……地獄の鬼も真っ青と言われた追い込みテクニックを披露する時が来たの。ふふふふふ」
「危ない所にはいかないようにな」
気合十分で鬼役となる慈雨へ、冷静に声をかけるのは晃で。一通り彼らとも遊んだ後は、おやつタイムでクールダウンだ。
「……そう言えば、食事、していませんね」
「なら、慈雨の作る和菓子はどうだ。なかなか美味しいぞ」
ちょっぴり寂しくなったお腹をさする祇澄へ、晃が和菓子と一緒にお茶を差し入れる。ふふ、と慈雨は少し照れくさそうにしつつ、晃と手分けしてかっぱ達へもお菓子を配っていった。
「柏餅を作ってみたから、皆いっぱい食べてね」
「茶は熱いから、ちゃんと冷ますんだぞ」
かっぱー、とあちこちから聞こえてくる声に頷き、大和と澄香も手作りのおやつを振舞っておもてなしする。大和はきゅうり尽くしのお弁当にきゅうりチップス、澄香はきゅうりのゼリーにきゅうりの水饅頭と見た目にも涼しげだ。
「澄香さんのきゅうりゼリー、爽やかでとても美味しいわ。温泉で火照った身体に染み入りそうね」
「ふふ、ありがとうございます。大和ちゃんのお料理のレシピも気になります」
和気藹々と料理を交換しながら、澄香はかぱちゃんをなでなで――ゼリーを美味しそうに食べている彼をぎゅっとして、ほんのり幸せ気分に浸る。
こうして滞りなく合宿は終了し、かっぱ達と自然で過ごした一行は、モブの何たるかを無事に掴んだようだ。最後に皆で記念撮影をした後、名残惜しくも彼らは別れを告げる。
(……こういうのも悪くないわね)
――きっとまた遊べると、ありすはヤマトにちいさく頷いて、かっぱ達の棲む山に手を振ったのだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『かっぱメダル』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鈴駆・ありす(CL2001269)
『かっぱメダル』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:黒崎 ヤマト(CL2001083)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鈴駆・ありす(CL2001269)
『かっぱメダル』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:黒崎 ヤマト(CL2001083)
