水芭忍軍、水上大活劇!
水芭忍軍、水上大活劇!


●水芭(みずば)忍軍
 四国と本州を繋ぐ海域を、隊列を組んで進む集団がある。
 全員一様にダイバースーツとマスクゴーグルを着用しているが、一人として水に浸ってはいない。
 水の上を、足場があるかのように走っているのだ。
 読者諸兄に覚者技能に詳しい方がおられようか。
 もし詳しいならば、この時点で彼らが水上歩行を活性した覚者であることがわかるだろう。
 だがしかし、おお、なんということか。
 彼らの速度は通常走行の約三倍。モーターボート並の速度で走っているのだ。
 先頭の男が片手を上げる。『止まれ』のハンドサインだ。
 すると、おお。
 彼らは水上であるというのに素早くブレーキをかけ、そしてぴたりと水上に制止してみせたではないか。
 通常の水上歩行では不可能な水上停止。ならびに韋駄天足並のスピード。彼らのもつ技術は、水上歩行のそれをはるかに上回るのだ。
 しかして。
 そんな彼らがなぜ水上で止まったのか。
 答えを示すように、水面を破って一匹の竜が飛び出した。
 大蛇にエラをつけたような、それは見事で巨大な竜である。
 竜はあろうことか、大気をふるわせて人語を発した。
『何用か、人間よ。この水域を犯さぬことこそ人と我のとりきめであると知っての通行か』
「……」
 再びハンドサインを出す先頭の男。
 するとダイバースーツの集団は一様に神具を取り出し、戦闘の構えをとった。
『武器をおさめよ。我は先年の約束にて人を傷付けぬこととした竜の末裔。しかし襲い来る者は例外となるぞ』
「けっ、ファッキンドラゴンが」
 そこで初めて先頭の男が口を開いた。
 彼の後ろから、竜をあざけり笑う声が漏れた。
「いつまで超越者ぶってるつもりだ、ア? 先年の約束だぁ? そいつは人間様が空も飛べなかった頃の話だろうが。今のてめぇはただの邪魔者。俺らの領域に巣くう害虫なんだよ」
 水面を蹴って飛び上がる。白鞘の刀を抜く。
 や、いなや。
 後ろの忍者たちは飛びクナイを放ち、鎖鎌と放ち、手斧を持って斬りかかり、棍棒をもって殴りかかり、最後に先頭にいた男が刀を一閃。
「害虫は駆除しねえとなあ!」
『何――ッ!?』
 竜の首は一瞬にして切断され、首も身体も水の底へと沈んでいったではないか。
 男は水面に『着水』。
「てめぇらの時代は終わったんだよ。ゴミムシが」
 男は親指を下に向けて地獄へ落ちろのジェスチャーをした。


「……以上が、俺のみた予知夢だ」
 久方 相馬(nCL2000004)が語ったのは、未来に起こる出来事である。
「調査の結果、このエリアは人に友好的な古妖『水竜』がすむ海だったんだが、それを犯して殺害するという事件だとわかった」
 資料を並べる相馬。
「この連中は水芭忍軍といって、忍者の末裔を中心とした覚者組織だ。末裔といってもリーダーの男だけが血統を持っていて、その技術を部下に分け与えているという具合らしいが……覚者の力を使って暴力による集団支配をもくろむ連中のようだ」
 覚者社会が生まれて20年強。こうしたやからは後を絶たない。
 銃社会のそれのように、暴力が人を凶事にかりたてることがある。
「この海域に乱入し、罪の無い古妖を助けることが目的だ。皆、力を貸してくれ」
 相馬は一度話を区切ると、細かい説明へと移った。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.水芭忍軍の撃退
2.水竜の生存
3.なし
●敵の戦闘力
・水芭忍軍
 全員が暦の因子・水行。武器は多種多様。
 体術と術式の混合で戦力バランスをとっている模様。
 数は7人。
 冒頭で『集団』と表現しているのはこの人数で充分な集団戦闘力があるがゆえです。
 特殊な技能スキルとして『水上歩行・改』を全員が備えています。
 これは戦闘中によく観察する、ないしは積極的に水上戦闘で渡り合うなどするとラーニングが可能になります。

●保護対象
・水竜
 長きにわたって争いごとを避けていたこともあって、戦闘ができません。
 一応戦力スペックとしては覚者三人分程度はありますが、銃を持ったことの無い者が急に銃を撃てないように、戦闘をこなせません。
 一応特殊な能力として、周囲の水質やプランクトンの養分を良好にする力があります。いわゆる『みずのかみさま』です。

●水上戦闘について
 水上歩行をアクティブにしている、または飛行している場合は通常通りに戦闘をこなせます。
 ただしどちらも持っていない場合、モーター動力によるボートで移動しつつ戦うことになり、足場ペナルティとして命中と回避が2割減少します。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
公開日
2016年05月13日

■メイン参加者 9人■

『ヒカリの導き手』
神祈 天光(CL2001118)
『名も無きエキストラ』
エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)
『独善者』
月歌 浅葱(CL2000915)
『白い人』
由比 久永(CL2000540)
『優麗なる乙女』
西荻 つばめ(CL2001243)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)

●水竜と水芭忍軍
 モーターボートが海を進む。
 目的地は水竜の領域。
 ボートの先頭では『名も無きエキストラ』エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)が世にも怪しい笑みを浮かべて立っている。
 後ろで戦支度をしている『ヒカリの導き手』神祈 天光(CL2001118)には彼の考えていることが透けるように分かるが、口に出したら誰かが怒りそうだと黙秘した。代わりに自分の考えを述べることにする。
「水芭忍軍といったか、罪なき水竜を殺害するなどあってはならぬでござる。暴力からは何も生まないと昔からいうでござろうに」
「まこと……」
 揺れるボートの上だというのに平静に正座する『白い人』由比 久永(CL2000540)。
「神に不敬な奴らよ。永く守られた領域を踏み荒らそうなどと」
「わたくしとしても、許せませんわ」
 『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243)は同じく正座していたが、揺れや酔いは力業で押さえ込んでいるようだ。
「己が力を誇示せんがために、いにしえの縁を破るなど」
「えっと……皆さんが言ってるのは、無抵抗な竜さんをいじめるなんて許せないってこと、ですよね!」
 さっきから難しい空気だったので入りづらかったが、『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は勇気を出して踏み込んだ。どうやら大丈夫そうである。
「今こそ『誰かを護るため』に、託された力を使わせて頂きます!」
 ちなみにボートは二隻ある。ボートを必要とするメンバーが三人ほどいるからだ。
 一応アテンドスキルの≪ふわふわ≫もあるが、海上で低速浮遊していたらいいマトになってしまう。いざというときの保険にとっておくのだ。
 ということで、『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)はボートのハンドルを強く握っていた。
「水芭って、水芭蕉からきてるのかしら。あれって陸生のうえに毒草なのよね」
「それに服装がダイバースーツなのは、現代の忍び装束ということなのかしら」
 腕組みして腰掛ける姫神 桃(CL2001376)。一本だけ立った毛髪が風に揺れた。
「それでヤンチャだなんて、威勢のいい子たちね。でも……」
 やがて目的地だ。
 エルフィリア・ハイランド(CL2000613)はゆっくりと上着を脱ぎ捨てた。
「その威勢も人に仇なす存在に向けていなきゃ、ハリボテじゃないかしら。ねえ?」


 時系列は水竜殺害直前。
「今のてめぇはただの邪魔者。俺らの領域に巣くう害虫なんだよ」
 水芭忍軍が舌打ちと共に武器を取り出したその時。ボートの轟音と共に光り輝く物体が飛び込んできた。
「天が知る地が知る人知れずっ」
 光から現われたのは、覚醒状態の『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)である。
 割り込むように水面を転がった後、水芭忍軍へ拳を構えた。
「狼藉者退治のお時間ですっ」
「ファック! 邪魔するんじゃねえ。誰に喧嘩売ってんのかわかってんのかァ!?」
 水芭忍軍が抜刀。と同時に浅葱は踏み込み、拳を刀に叩き付けた。
「わかってますよ。わかっている。いつも私はわかっている!」
 ナックルガードが刃を受け止め、ぎぃんという音が水面に波紋を広げた。広がった波紋は波となり、激しく沸いて吹き上がる。
 そうしている間に久永たちも展開を開始。
 空中に飛行した久永は水竜を庇う位置をとると、きらびやかな羽扇を広げた。
「下がっていろ。余は『ふぁっきんどらごん』の意味を知らぬが、彼らが不敬な輩だということはわかる」
『危険ぞ。彼らは人を殺す目をしている』
「知っている」
 久永が天空に扇を掲げた途端、空に無数の光が生まれた。
 光が水芭忍軍たちへ雨の如く降り、大量の水柱をあげていく。
「それをはねのける力も、持っている」
『そのようだ……任せてよいか、人の子よ』
「当然よ、水竜サン。アタシたちが守ってあげる!」
 ボートのスピードを上げ、水柱にかすむ水芭忍軍たちに突っ込むありす。
「ゆる、開眼!」
 覚醒と同時にエネルギーを燃え上がらせる。捨て身の突撃だ。
 水柱へ飛び込んだ途端、水芭忍軍に囲まれていた。
「そんなクソ船で俺らを跳ねられるかよ!」
「はねたりしないわよ。こっちはよい子の中学生よ。でも――」
 水しぶきの激しい場でありながら、ありすのフィンガースナップは火花を散らし、火花は膨らみ激しい炎へ変わっていく。
「アンタたちは気に入らない。焼き払ってあげる!」
 空を薙ぐように腕を振る。炎は螺旋状に広がり、水芭忍軍たちを巻き込んでいく。
「炎使いかよ、でも一人くらいなら――」
「一人きりなものですか!」
 側面から回り込むように、ありすとすれ違うように場へ飛び込んだラーラ。
 魔導書に鍵を差し込み、シールを解除した。
 最初から本気なのだ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を!」
 炎の渦……を更に囲むように大量の炎の柱が立ち上がる。
「イオ・ブルチャーレ!」
「なっ、くそお!」
 重なった炎の波が水芭忍軍たちを飲み込んでいく。
 その様を、エヌは含み笑いで眺めていた。
「ああ、愉快ですねえ。人が炎の飲み込まれる時のあの……音すら燃やされた灰のような悲鳴。僕らはここから高みの見物……いや、高見の観察といきましょうか」
 エヌは水平に翳した杖から≪迷霧≫を放ち、戦場を覆うようにボートを周回させている。
「私にそういうつもりは、とくにないのですけれど……」
 ちりめんの匂袋を高く掲げ、霧に紛れるように≪清廉香≫を散布していくつばめ。
 つばめは戦場をよく観察した。
 初撃はうまくはまったようだが、しかし……。
「そろそろ、彼らも反撃に出る頃合いですわ」
 つばめの予想通り、水芭忍軍はそれぞれに体勢を立て直し、個別に散開を始めた。
「チョーシこいてんじゃねえぞクソども!」
 手斧を握り飛びかかってくる。狙いは天光だ。
 天光は水気のベールを展開し、刀を水平に翳してガードする。
 金属同士の衝突音と共に、逃げた衝撃で天光の背後にある水面が激しく吹き上がった。
「くらえやぁ!」
 斧を使っているというのに素早いみこなしで連続攻撃を繰り出してくる。
 天光はそれを刀を素早く操ることでギリギリ受け流していた。
「なぜこのような狼藉をはかるのでござる」
「てめぇが知ったことかよ! 目障りだからぶっ殺すんだよ! てめぇもな!」
「なんと――ならばこの神祈天光、全力で戦わせてもらうでござるよ!」
 ワンステップで後退。相手を刀の間合いに入れ、高速で斬撃を放つ。
 胸を切り裂かれ、飛ばされる水芭忍。とその瞬間、天光の両サイドから棍棒を持った水芭忍が挟み撃ちを仕掛けてきた。
 かわせるタイミングではない。
 歯噛みする天光。
 だが同時に、不思議な香りが水芭忍たちの鼻をついた。
 蜜のような香りだが、それが毒性のものだと気づいたときには遅い。頭上を飛ぶエルフィリアの散布する≪香仇花≫だ。
「上もちゃんとみないとダメよ?」
 エルフィリアは鞭を放ち、水芭忍の首へと巻き付ける。
 鞭から浸透した≪非薬・紅椿≫に、顔が青ざめていく。
 そんなエルフィリアめがけて放たれる飛びクナイ。水気を纏ったクナイは弾丸波の速度で迫った……が、しかし。
「はんっ、忍が暴力支配だなんて笑っちゃうわね」
 別方向から飛来したクナイがそれを迎撃。
 間へ滑り込んだしのび装束の桃が、指を額当へ押し込んだ。
 開放された第三の目から破眼光が連射。
 その中を、水芭忍はジグザク走行で駆け抜けてくる。
「そんな飛び道具が当たるかよ!」
 対して桃はあえて飛び込み、数十センチの距離から再び射撃。
「当てるわよ」
 すれ違いざまに破眼光を直撃させ、袖下から植物のツルを開放。たくみに振り回し、叩き付けにかかる。
 そうしている間にも水芭忍は高速で桃の周囲をぐるぐると周り、小刻みに斬撃を入れてくる。
 ガードで受けながら、桃は彼我の違いを観察した。
 通常の水上歩行がエネルギーを常に流動させて起こすスケート靴とするなら、水芭忍軍の技術はエネルギーをより精密に下方放出し続けるホバークラフトだ。
 うまく使えるなら水上で停止できるし、フルで一方向に放出すれば高速移動ができる。欠点は戦闘中に高速移動を持ち込むと制御不能からの自滅の危険があることか。
 だがその欠点を補って、ボートなどの『壊れたら終わり』の機材を使わずに精密かつ高速な水上移動が可能になるというのが大きい。高速移動しながらの水上戦闘で随分有利になるだろう。
「けどなにより今は、こいつらを追い払っちゃうのが先、よね」

 より危険度の高い目標が現われれば攻撃の優先順位が繰り上がる、というのが戦場の常識である。
 しかしこの水芭忍軍。内数人が『ムカつくから』という理由で最も脆弱そうな水竜へと襲いかかっていた。
 忍軍と名乗っておきながら統率がとれておらず、忍者とは名ばかりの愚かで低俗な集団であることの証明でもあった。
「まずはテメェから死ねや!」
 水礫を練り、水竜めがけて発射する水芭忍。
 それを阻むように割り込み、久永は手を翳した。
 指輪が輝き、エネルギーのフィールドが生まれる。
 押さえきれなかった衝撃が久永の肩に命中し血を吹くが、水竜には水滴ひとつ当てはしない。
「よもやここまでとはな」
 久永は扇を空に向かってひとあおぎした。すると途端に暗雲が生まれ、激しい雷が水芭忍軍へと降り注ぐ。
 次々に打ち払われていく水芭忍軍。そんな中で、雷撃を突っ切って飛び込む者があった。
 小太刀を両手に構えた水芭忍だ。
 そんな彼めがけ、ボートが高速で突っ込んでいく。
 エヌの乗ったボートだ。
 彼は腕組みをして、嗜虐的な笑みを浮かべている。
 ちなみに操作しているのはつばめだ。『まだ歩行術が把握でいないから遠くで見ていたい』と言ってるエヌを振り切ってボートを強制的に(思い切って足で)操作しているのだ。
「させません」
「邪魔だ殺すぞメスゥ!」
 飛びかかる水芭忍。
 ボートから飛ぶつばめ。
 一瞬『えっ』という顔をするエヌ。
「心も強く――」
 つばめ抜刀。
「しなやかで――」
 相手の小太刀を打ち払いつつ、強引に切りつける。
 刀から手を離し、逆側にさげていた『二振目』を抜刀。
「――優しくあれ」
 水芭忍の腹を激しく切断。
「修行不足でしてよ」
 つばめはそのまま、海へと落ちた。
 さあここで大変なのはエヌである。遠くで見ていたかったのに気づけば敵陣まっただ中。
「エヌ殿! やはり居ても立ってもいられずに!」
 なんか勘違いした天光がそばを走り、斬りかかってくる水芭忍たちから庇うように立ち塞がり、斬って斬られて通る水面を赤く染めていた。
「おや神折君。痛そうですねえ。痛いでしょう? さあ悲鳴をあげましょう、僕のために、僕に捧げる悲鳴を! スクリーム!」
「いや、エヌ殿のためには……ぬっ!」
 水芭忍が棍で足を殴りに来る。
 それをジャンプでよけ、次に顔面へ繰り出された棍を屈みスライドでかわす。
 かわしつつ、自身を≪癒しの滴≫で回復した。
「悲鳴をあげないんですか?」
「あげないでござる」
「どうしても?」
「どうしてもでござる」
「仕方ありませんねえ、その辺で調達しますか」
 エヌはいまだ止まらぬボートの上で、杖を翳して空を混ぜた。
 エヌの周囲で大量の『架空の悲鳴』が沸きだし、それらが痛みの光となって周囲一帯へと解き放たれる。
「そこです――!」
 (偶然とはいえ)このタイミングを待っていたといわんばかりに、ラーラは魔導書を翳した。おまじないを唱え、中空に無数の燃焼石炭を出現させる。
「イオ・ブルチャーレ!」
「「ぐあっ!?」」
 エヌの攻撃をうけた直後である。ラーラの雷撃は水芭忍軍へ直撃し、彼らは次々に水面下へ沈んでいった。
 残る兵力は僅かだ。
 ありすはフィンガースナップで火種をおこし、両手の中で炎を膨らませた。
「まったく不愉快ね。忍者の末裔だか知らないけど、力で屈服させようなんて傲慢がすぎるわ!」
「うるせえ……!」
 ありすの解き放った炎と水芭忍の繰り出した水礫が衝突。しかし残ったのは炎の方だった。
 たちまち炎に呑まれる水芭忍。その横を飛んで通り過ぎようとするエルフィリアへ鎖鎌を繰り出し、腕へと巻き付ける。
「せめて道連れにして――」
「あら」
 エルフィリアは指を唇に当てて笑った。
 抵抗をあえてせず、素早く引き寄せられる。
 思わぬ反応に対処が遅れる水芭忍。そんな彼の首元を掴むと、エルフィリアはくるりと回転して相手を水面に叩き付けた。
「ごめんなさいね、そういうのシュミじゃないのよ」
「さて、残るは一人……アンタだけよ!」
 ありすは再び炎をおこし、水芭忍へと向いた。
 最後の水芭忍は黙って水面に直立不動の姿勢をとっている。
 火柱を発射。更にエルフィリアが鞭を放つ。
 それだけではない。エヌや久永やラーラたちの雷撃や、水竜によって水上復帰したつばめや天光による斬撃が一斉に繰り出される。
 とった、と誰もが思った。
 思ったがしかし――インパクトの瞬間に水芭忍の姿はそこに無かった。
「何ッ――!?」
 目を見開く天光。
「上だ!」
 そう唱えたのは久永であった。
 咄嗟に見上げる彼らの頭上には太陽。それに重なるように水芭忍。彼は抜刀し、見えない斬撃が天光たちを一斉に切り裂いていった。
 思わず水上歩行を忘れ、水没していく天光たち。
 その中央に、水芭忍はぴちゃんと着水した。
「水芭奥義、朧暁(おぼろあかつき)。水面の揺れと光の反射、そして精神のリズムに割り込むように不意を突く水芭の水上歩行術あってのコンボ技……テメェらカスどもには一生使えねえスーパー必殺技なんだよ!」
 中指を立ててマスクゴーグルを外す。中から金髪の青年が顔を出した。
「テメェらが沈めたのは俺のクソ舎弟どもだ。忍者の末裔でもなんでもねーカスどもだよ。正当な末裔は俺だけだ。俺だけにした。クソ親父をぶっ殺してな!」
「よく喋りますね、あなたはっ」
 浅葱がふらふらとした状態で水上をゆらめく。
 反対側では桃がクナイを構えてゆらめいている。
「足下がおぼついてねえぜ。しゃんと立てよ、一生無理だろうけどなァ!」
「それがどうしましたっ!」
 突撃する浅葱。
 水芭の繰り出す刀をスライディングでかわすと、相手の腹と胸を壁にして駆け上がる。
 バク転をかけながらも浅葱は空中で強制的に身を捻って顔面を蹴りつけた。
「私にだって、このくらいできるんですよっ」
「それがどうしたよぉ!」
 再び斬撃が繰り出される。スライディング回避からの再びの駆け上がり。
 相手の腹と胸を踏みつけて飛び、宙返り――の瞬間に水芭は刀を返し、浅葱の足を切りつけた。
「っ――!」
 短い悲鳴と共にバランスを崩し、水没する浅葱。
「浅葱さん!」
 桃が深緑鞭を放つも、高速スウェーで回避する水芭。
 だがこれは牽制だ。桃は浅葱のもとまで駆けつけ、腕を引いて水上へ引っ張り出した。
「大丈夫?」
「平気……ですっ」
 構える浅葱。
 中指と舌を出す水芭。
「何度やっても同じだよクソが。一生ゆらゆらしてやがれ! ほらもう一度やってみろよ!」
「いいでしょう……」
 浅葱の口調がワントーン下がった。ぽん、と桃の肩を叩いてから走る。
 水芭によるみたびの斬撃。滑り込み回避。駆け上がって飛ぶ浅葱。
 刀を返す水芭――の腕を懐へ飛び込んだ桃の深緑鞭が打った。
 機動の変わる刀。
 今だ。
 浅葱は渾身の力を込めたパンチを叩き込――もうとした寸前、脇腹に水芭の膝蹴りが叩き込まれた。
「裏の裏くらいお見通しなんだよ! 二人まとめて沈みやがれ!」
 浅葱を掴んで桃へ叩き付けてやろう。そう考えて頭を掴んで下を見て、ぎょっとした。
 そこに居たはずの桃がいない。
 水面は赤く染まり、まぶしいほどに煌めいて、影も形も――。
「まさか――ァ!?」
 ハッとして見上げると、桃は彼の更に頭上にいた。
 水芭の水上歩行術を密かに盗み、浅葱と無言のうちに連携し、打ち合わせたより更に上の連携に昇華したのだ。
「あなたには一生できないでしょうね」
 桃の指捻撃と浅葱の拳が同時にめりこみ、水芭はきりもみしながら水面下へと突き落とされた。
 照れつつハイタッチする桃と浅葱。
 一方水芭は水を大量に飲みながら思った。
 クソなのは、俺の方だったのか。


 ラーラや天光や桃が水没した水芭忍軍を一通り引き上げ、ボートへ積む。
 エルフィリアが楽しげに縛り、エヌが楽しげに踏みつける。
 そんな場面である。
『助かった。礼を言おう、人の子よ』
「いや、先に謝らせてくれ。人がそなたの信頼を裏切るようなことをした」
「あのようなやからばかりだとは、思わないでくださいまし」
 頭を下げる久永とつばめ。
 水竜は『よい』と首を振った。
『久方ぶりによいものに逢った』
 浅葱と桃を見て言う。
 ありすは名残惜しくも、ボートのエンジンをかけなおした。
「こっちこそ。これからもステキな海を守ってね、水竜サン。さようなら」
『いずれまた、遊びに来い』
 ボートは走り出し、水竜も水に潜って見えなくなる。
 手を振っていた浅葱はふと、桃の顔を見た。
「……『遊びに来い』?」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

ラーニング成功!!

取得者:姫神 桃(CL2001376)
取得技:水上歩行・改




 
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