≪嘘夢語≫。或いは、クラリモンド・ゾンビパニック。
●クラリモンド・ゾンビパニック
『あぁ……。ここには“終り”が満ちている』
白い髪に、白い肌、紫色の唇をした美しい女性が立っていた。瞳は白く淀んでいて、その身は既に死体なのだと、一目で分かる容姿をしている。
足元には、山と積み重なった死体の山。腐敗し、部分的に骨すら剥き出しにしたそれらは、もぞもぞと蠢き、1体、また1体と女性の足元から這い出していく。
彼女の名前は(クラリモンド)。
ゾンビの軍勢を束ねる、不死の女王だ。
荒廃した街、荒廃した建物。既に終ってしまった世界が、クラリモンドの眼前には広がっている。
ゾンビの群れが、緩慢な動作で歩き回る荒廃した街を、クラリモンドはどこか恍惚とした表情で眺めていた。
『おや……? 誰かが街に入り込んだみたいね? まぁ、いいでしょう。すぐに、お前達の仲間になるわよね?』
なんて、どうでもよさげにそう呟いて、クラリモンドは足元で蠢いていた死体を、靴の爪先でつまらなそうに蹴飛ばした。
クラリモンドは退屈していたのだ。彼女が街を支配し、ゾンビ達の女王として君臨しはじめてから暫く。初めのうちこそ、生き残りの人間達が抵抗を続けていたものの、今ではそれもなくなった。
街に生者は1人もいない。
願わくば……。
新たに街へと踏み込んだ、ほんの数名の生者たちが、せめて少しは楽しませてくれればいい。
『あぁ、退屈』
そう呟いて。
ゾンビの支配者、不死の女王は、深い深い溜め息を零す。
●ある生存者の日記
『街にゾンビの群れが溢れかえってから、数週間が経過した。初めのうちこそ、生存者達と遭遇することも少なくなかったが、今ではどこに行ってもゾンビとしか出会わない。
ゾンビ達の動作は緩慢だが、数が多すぎる。だが、私もただ逃げ回っていただけではない。生きのびるために、ゾンビ達の弱点を探し、そしてそれを見つけ出すことに成功した。
ゾンビ達の弱点は、頭部だ。頭部に強い衝撃を与えれば、その機能を停止させることができる。
ゾンビ達は音に敏感なので、出来るだけ大きな音を出さないように、頭部を破壊する。そして、すぐにその場を立ち去る。それが私の見つけ出した、生き残るための最善策だ。
また、ゾンビ達はショッピングモールや、クラブ、ライブハウス、学校などに集まる傾向にあるようだ。もしかすると、それらの場所には以前は生存者達がいたのかもしれない。
無論、今ではその生存者達も、ゾンビの仲間入りを果たしているだろうが……。
また、ゾンビ達はあ1人の女性に率いられているという話も聞く。死体のような白い肌に、白い髪、黒いドレスを身に纏った美しい女性だそうだ。
もしかすると、その女性がゾンビ達を操っているのかもしれない。
どうやらその女性は、大通りをまっすぐ進んだ先にある教会を根城としているらしい。
大通りにはショッピングモールがある。当然、ゾンビも多い。今の私には、ゾンビの群れを突っ切って、その女性の元まで向かうことは出来ないだろう。
だが、武器があればどうだろう。
学校の校庭には、軍が運んできた大量の武器があると聞く。
このままでは、私もそう遠くない未来、ゾンビ達の仲間入りとなるだろう。
その前に、一か八か、武器を手に、その女性の元へと向かってみようかと考えている。
このまま、ゾンビの恐怖に怯えながら生きていても、意味はない。この街は既に終っていて、まるで地獄のようだ。
日記はここに残していく。
もし生存者の誰かがこの日記を見つける時が来たならば、是非、この世界を生き抜くために役立ててほしい……』
『あぁ……。ここには“終り”が満ちている』
白い髪に、白い肌、紫色の唇をした美しい女性が立っていた。瞳は白く淀んでいて、その身は既に死体なのだと、一目で分かる容姿をしている。
足元には、山と積み重なった死体の山。腐敗し、部分的に骨すら剥き出しにしたそれらは、もぞもぞと蠢き、1体、また1体と女性の足元から這い出していく。
彼女の名前は(クラリモンド)。
ゾンビの軍勢を束ねる、不死の女王だ。
荒廃した街、荒廃した建物。既に終ってしまった世界が、クラリモンドの眼前には広がっている。
ゾンビの群れが、緩慢な動作で歩き回る荒廃した街を、クラリモンドはどこか恍惚とした表情で眺めていた。
『おや……? 誰かが街に入り込んだみたいね? まぁ、いいでしょう。すぐに、お前達の仲間になるわよね?』
なんて、どうでもよさげにそう呟いて、クラリモンドは足元で蠢いていた死体を、靴の爪先でつまらなそうに蹴飛ばした。
クラリモンドは退屈していたのだ。彼女が街を支配し、ゾンビ達の女王として君臨しはじめてから暫く。初めのうちこそ、生き残りの人間達が抵抗を続けていたものの、今ではそれもなくなった。
街に生者は1人もいない。
願わくば……。
新たに街へと踏み込んだ、ほんの数名の生者たちが、せめて少しは楽しませてくれればいい。
『あぁ、退屈』
そう呟いて。
ゾンビの支配者、不死の女王は、深い深い溜め息を零す。
●ある生存者の日記
『街にゾンビの群れが溢れかえってから、数週間が経過した。初めのうちこそ、生存者達と遭遇することも少なくなかったが、今ではどこに行ってもゾンビとしか出会わない。
ゾンビ達の動作は緩慢だが、数が多すぎる。だが、私もただ逃げ回っていただけではない。生きのびるために、ゾンビ達の弱点を探し、そしてそれを見つけ出すことに成功した。
ゾンビ達の弱点は、頭部だ。頭部に強い衝撃を与えれば、その機能を停止させることができる。
ゾンビ達は音に敏感なので、出来るだけ大きな音を出さないように、頭部を破壊する。そして、すぐにその場を立ち去る。それが私の見つけ出した、生き残るための最善策だ。
また、ゾンビ達はショッピングモールや、クラブ、ライブハウス、学校などに集まる傾向にあるようだ。もしかすると、それらの場所には以前は生存者達がいたのかもしれない。
無論、今ではその生存者達も、ゾンビの仲間入りを果たしているだろうが……。
また、ゾンビ達はあ1人の女性に率いられているという話も聞く。死体のような白い肌に、白い髪、黒いドレスを身に纏った美しい女性だそうだ。
もしかすると、その女性がゾンビ達を操っているのかもしれない。
どうやらその女性は、大通りをまっすぐ進んだ先にある教会を根城としているらしい。
大通りにはショッピングモールがある。当然、ゾンビも多い。今の私には、ゾンビの群れを突っ切って、その女性の元まで向かうことは出来ないだろう。
だが、武器があればどうだろう。
学校の校庭には、軍が運んできた大量の武器があると聞く。
このままでは、私もそう遠くない未来、ゾンビ達の仲間入りとなるだろう。
その前に、一か八か、武器を手に、その女性の元へと向かってみようかと考えている。
このまま、ゾンビの恐怖に怯えながら生きていても、意味はない。この街は既に終っていて、まるで地獄のようだ。
日記はここに残していく。
もし生存者の誰かがこの日記を見つける時が来たならば、是非、この世界を生き抜くために役立ててほしい……』

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ゾンビパニックを生き抜く。
2.クラリモンドの撃破。
3.なし
2.クラリモンドの撃破。
3.なし
この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性が
ありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。
※要約すると夢の世界で盛大な嘘を思いっきり楽しんじゃえ!です。
こんばんは、病み月です。
今回の任務は、夢の中でゾンビパニック。
生きのびること。そして、ラスボス(クラリモンド)を撃破し、夢から覚めて、元の生活へ戻ることが成功条件となります。
以下、詳細。
●場所
ゾンビの群れに支配された、荒廃した街。
スタート地点は商店街の入口。商店街の裏手にはクラブハウスやライブハウスがあります。
商店街を突き抜けると、大通りへ出ます。
大通りを直進すると、途中に学校やショッピングセンターがあります。学校の校庭には、トラックや軍用車が停まっていて、武器を確保できます。
大通りを抜けた先にある入り組んだ道の区画に、教会があります。
クラリモンドを撃破し、彼女の背後にある懺悔室まで到達すると任務達成となります。
●ターゲット
(不死の女王・クラリモンド)
白い髪に、白い肌、紫色の唇をした美しい女性。
街外れの教会を根城にしています。
享楽的な性格をしていて、遊ぶことを何よりも大事にしているようだ。
ゾンビの群れを操り、生存者の邪魔をしてくる。
【血の弾丸】→特遠列[麻痺][毒]
血液を弾丸に変えて、高速で射出します。
(ゾンビ)
街の至る所にいる動く死体。
動作は鈍いが、頭部を破壊されない限り機能が停止することはない。人を見ると襲ってくる。
一撃一撃が強力です。
武器による攻撃以外では、ダメージが通りにくいという特性を持つ(例:エアブリットや召雷では大きなダメージは見込めない)
また、ゾンビに噛みつかれると数ターンのうちにゾンビへと変わり、人を襲い始めます。戦闘不能ではありませんので、命数による復活はできません。
※学校で手に入る武器
・手榴弾
→複数のゾンビを纏めて吹き飛ばします。爆音が鳴り響きます。
・消音ライフル
→遠距離からの狙撃に特化しています。リロードに時間がかかります。音はほぼなし。
・マシンガン
→近くにいるゾンビ複数に弾丸の雨を浴びせます。弾切れが速いです。また音も大きいです。
・ハンドガン
→携帯に便利です。連射が効きますが、射程は短いです。数が多く、予備弾奏も豊富。
・ロケットランチャー
→トラックの中に1つだけあります。弾丸も3発しか残っていないようです。射程は長く、攻撃範囲
が広いですが、爆音が鳴り響きます。
・ガトリング砲
→非常に重たく、持ち運びに不便です。威力の高い弾丸を連射できます。大きな音が響きます。
以上になります。
それでは、皆さんのご参加お待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年04月18日
2016年04月18日
■メイン参加者 8人■

●ミッション1・作戦を立てろ
息をひそめて、通りを見やる。街を彷徨う腐った死体、所謂ゾンビの姿が見える。商店街のバーの一階。薄暗く、アルコールの臭いが漂うその場所に8名の男女が集う。
「あ、先生だ! 誘輔さんもいる! そしてあれは……俺の天敵輪廻さん! ある意味ゾンビよりも怖い!」
仲間を見渡して『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は叫ぶ。
「あら、そんな騒ぐと見つかってしまうわよ。ゾンビと言えば噛まれたらやっぱりアウトよねん」
奏空と視線が合うなり、『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)は、その頭を自身の胸に抱きよせた。
「やめてここでむぎゅむぎゅしないでー!」
ジタバタともがく奏空を一瞥し、『相棒模索中』瑛月・秋葉(CL2000181)は窓から通りへ視線を向けた。
「しかし、噛まれたらゾンビ化とか映画の世界に入ったようやなぁ」
「ゾンビパニックなのぉ。こういう時、早い段階でゾンビになっちゃった方が怖くなくていいかもって思うの」
野武 七雅(CL2001141)は青ざめた顔で深呼吸。埃とアルコール、僅かに漂う腐臭と血の臭いを胸一杯に吸い込んで、くらりとよろけた。
「おっと、大丈夫か? ゆっくり休ませてやりたいが、あんまりじっとしてられそうもない、とりあえずこれからどうするか相談しよう」
「この状況、エイプリルフールの嘘にしちゃどぎついぜ。まぁ、見知った顔ばかりだな。それにとにかくまずは武器の確保か?」
七雅を支える『たぶん探偵』三上・千常(CL2000688)の眼前に、『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)がノートを差し出す。先ほど、バーのカウンターの上で見つけたものだ。どうやら、生存者の書き記した日記のようだ。
中には街の地図と、学校のグラウンドに軍の残した武器があること、またゾンビ達への対策手段が書き込まれていた。
「ではまずはそこを目指すとしようか。ゾンビが何処にいるかわからんが、高い所にいれば見つけやすいだろう。なに、建物の中を移動しなくとも面接着がある」
守護使役の能力で足音を消し、『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)は歩くようにバーの壁を垂直に登って行く。天窓を開けて、そのまま建物の外へと身を乗り出した。
「死してなお彷徨わねばならない因果、断ち切って差し上げられるようまどかは頑張ります……!」
小太刀の柄へ手を伸ばし、遊部・まどか(CL2001370)はそう呟いた。
行くぞ、とそう言ったのは結唯だ。それを合図に8人はバーを後にした。
●ミッション2・武器を調達せよ
「これ、僕達ゾンビハンターってやつやんなぁ?」
足音もなく、ゾンビへ近寄りその首をブレードで叩き落した秋葉は、仲間達を振り返りそう言った。バーを出て数分。結唯のナビゲートを頼りに、地上の敵は、足音を消して先行する秋葉が殲滅することで、大きな騒ぎもなく進行している。
もしそうでなければ、狭い商店街の通路で無数のゾンビと一戦交えることになっていたかもしれない。
だが人が動けば、音が鳴る。
その僅かな物音を聞きつけ、少しずつだが建物の影から姿を現すゾンビの数が増えていた。
「学校まで、100メートル程度か。走ればすぐだな。ゾンビが割と多いが……さて」
屋根の上から、街を睥睨し結唯はそう呟いた。彼女の傍を舞っていた2匹の守護使役がそれぞれ奏空と七雅のもとへと降りていく。
「走れば学校まですぐだって! でも、途中にゾンビが沢山いるみたいだね」
結唯と守護使役から得た情報を仲間達へと伝達し、奏空は通りを見やる。通りの先からゾンビがぞろぞろと集まって来ていた。
「どうにかして、道をつくっちゃえばいけると思うの」
と、そう提案したのは七雅である。
僅かに思案し、千常は頭上を見上げた。屋根の上に立つ結唯と視線が交差。結唯は小さく頷いてみせた。
「決まりだな。では行くか」
「おう。ゾンビ如きに負けやしねーよ」
「ほんま口が減らんやっちゃなぁ……。まぁ、ええか」
誘輔が差し出した煙草の箱から、千常と秋葉は煙草を抜きだし、3人揃って火を着けた。立ち昇る紫煙を肺一杯に吸い込んで、煙を吐き出す。
小さく拳を打ち合せ、3人の男は一斉に通りへと駆け出した。
ゾンビ達は、動きは鈍いが数が多い。常人よりも遥かに力も強い。頭部を破壊せねば、少々のダメージでは足止め程度にしかならない。
「修行には丁度いいですね!」
ゾンビの足を小太刀で切り裂き、まどか学校の敷地内へと転がりこんだ。腐敗した血肉を撒き散らしながら、ゾンビは転倒する。
全員が校内へと到着したのを確認し、秋葉と誘輔が校門を閉めた。
「グラウンドは……あっちねん!」
輪廻に先導されるように、千常、秋葉、誘輔が続く。校門に群がるゾンビを一瞥し、残る3人は建物の影へと身を隠した。
千常はグラウンドの端に停められていたトラックへと駆け寄り、運転席のドアを開く。
ドアを開けると同時に、運転席からゾンビが飛び出して来た。土の鎧を纏った千常の肩にゾンビが喰らい付く。
「うおっと、あぶねぇな!」
「はいはい、ちょっと離れてねん」
輪廻の拳が、ゾンビを殴り地面へと叩きつけた。その隙に千常は運転席へと乗り込み、ハンドルへ細工を施す。
直後、けたたましいクラクションの音が、周囲一帯に鳴り響いた。
校内や、周辺をうろついていたゾンビ達が、グラウンドへ集まってくる。
「よし、必要な武器は調達したで!」
トラックの荷台から、大量の武器を抱えた秋葉と誘輔が降りる。追いついた結唯が、荷台からライフルを取り上げ、建物の影に隠れた仲間達へと相図を送った。
目指す先は、千常が細工を施したトラックから僅かに離れた位置に停められている軍用ジープ。
「これは持ち運べないわね」
荷台へ跳び乗り、ガトリング砲を持ち上げた輪廻は、その銃口を迫ってくるゾンビ達へと向けた。
せーのっ! と掛け声1つ。轟音と共に無数の弾丸がばら撒かれる。
周囲のゾンビ達が次々となぎ倒され、無残な肉塊へとその姿を変えていった。数十秒。セットされていた弾丸を全て撃ち尽くし、輪廻は「ふぅ」と額を拭う。
「おー、怖い……」
ロケットランチャーを担いだ誘輔が、軍用ジープの助手席へと乗り込んだ。
隠れていた奏空、七雅、まどかが荷台へ乗ったのを確認し、結唯はジープの屋根へと跳び乗る。
ゾンビの大半は、クラクションの音に誘われ、トラックの傍へと集まっていた。土を撒き散らしながら、タイヤが回転する。運転手は千常だ。
ジープの頑丈な装甲を活かし、傍にいるゾンビへと突撃。8人の乗るジープはグラウンドから走り去っていく。
「いいか飛ばせ! 標識なんて無視しろ!」
運転席を叩きながら、誘輔が叫ぶ。ショッピングモールの周辺は、流石にゾンビが多かったが、窓から腕を出した輪廻と秋葉がマシンガンを掃射し、道を切り開いた。
「ふっふっふ……2丁拳銃って前から憧れてたんだ」
荷台に積まれた武器の山から、ハンドガンを拾い上げ、奏空は妖しい笑みを零した。
一方まどかは、銃火器の類に慣れていないのか興味津津といった様子で、武器の山を漁っている。
「回収してくださった武器はまどかには見た事もない武器ばかりで……っ。 あっ、この丸いものは可愛いですね!」
「それは手榴弾なの。ピンを外して投げたら、爆発するの」
「そ、そんな恐ろしいものなんですか……。っで、では七雅さんや奏空さんと同じこの武器を……」
慌てて手榴弾を山へ戻すと、ハンドガンを取り上げて、しげしげと眺める。ハンドガンとはいえ、軍で使用されていた代物だ。1挺だけでも、両手で握らないと扱えない。
「それな、安全装置を外して、引き金に指を乗せて、狙って撃つ! 簡単だろ?」
誘輔にハンドガンの扱い方を教わっているうちに、目的地の教会が近づいて来た。
「さぁ、目的地だ。誘輔! 吹き飛ばせ!」
アクセルを力一杯踏み込みながら、千常は叫ぶ。
窓から半身を乗り出した誘輔は、ロケットランチャーを肩へ担いで、教会の門へと狙いを付けた。
トリガーを引くと共に、爆音が鳴り響く。発射されたロケット弾は、まっすぐ教会の門へと命中。爆音、爆風、瓦礫が飛び散る。
「突っ込むぞ、捕まってろ!」
ジープが教会の門へと突っ込む瞬間、結唯は宙へと身を躍らせた。
●ミッション2・クラリモンドを撃破しろ
ジープは粉塵を突き抜け、教会の中へ。エンジンが煙を上げて停止する。爆発に巻き込まれたのか、辺りには動かなくなったゾンビの残骸が散乱していた。
ジープへ向けて、教会内部や外にいたゾンビ達が殺到してきた。
ジープの正面、無数のゾンビの山の上に1人の女性が腰かけている。
『ようこそ私のお城へ……。と、言いたい所だけど随分と物騒なご挨拶ね? でも、歓迎してあげる』
血の気の失せた顔に、不吉な笑みを貼り付けた彼女の名前は(クラリモンド)。ゾンビを統べる不死の女王だ。
クラリモンドの言葉に従い、ゾンビ達はジープへと距離を詰めてくる。
「貴女が不死の女王ですか。さぁ、遊びましょう。まずは貴方達に子守唄を……」
ジープのドアを開け、まどかが車を降りる。手にした両手で握ったハンドガンの銃口を、ゾンビの頭部へと向け、引き金を引いた。
断続的に鳴り響く銃声。
1発につき1体のゾンビを正確に撃ち抜いていく。
先ほどまでより冷静な印象を受ける。覚醒すると、少々性格の変わる性質であるようだ。
まどかに次いで、奏空と七雅が車を降りた。
「さて、やりますか!」
「ラスボスとの対決……ドキドキするの!」
2人の髪が、熱気に煽られるように逆立った。髪の色が金へと変色。金に輝く頭髪を振り乱し、2人は同時に駆け出した。
両手を真っすぐ左右に伸ばし、奏空は踊る。ゾンビ達の群れの中、迫るそれらを撃ち抜いていく。奏空の撃ち漏らしたゾンビは、七雅が射撃し、互いに互いを援護しながらゾンビを掃討。
「なつねが雑魚を抑えるから女王をたのむの!」
弾の切れたハンドガンを投げ捨てながら、七雅が叫ぶ。太ももに取り付けた予備のハンドガンを引き抜き、クイックショットで足元を這うゾンビの額に穴を穿つ。
「さて、通じるかな?」
教会の天窓から、教会内部へと侵入した結唯は、両手の平をクラリモンドへと向け波動弾を放つ。空気を揺らしながら、波動弾がクラリモンドの身体を射抜く。
『あら? そこにも居たの?』
なんて、視線を上げてクラリモンドは自分の身体に手を置いた。ダメージこそあるようだが、やはり実弾でないと致命傷は与えられないようだ。それならば、とライフルを構えた結唯の足首を、何かが掴む。
「ちっ……」
舌打ちを零し、足首を掴む何かを蹴り飛ばす。視線を背後へと向ければ、そこには積み重なるようにして自分へと迫る無数のゾンビ。教会のゾンビ達はある程度の連携ならとれるらしい。
「遊びは終いにせぇへん、女王様? ゾンビ退治も飽きてきたし、直々にアソんでもらいたいなぁ」
「背中は任せたぜ瑛月」
ゾンビの群れに周囲を囲まれた状態にも関わらず、秋葉と誘輔は笑っていた。背中合わせになった2人は、同時にマシンガンの引き金へと指をかける。
火薬の爆ぜる小気味の良い音と、マズルフラッシュ。硝煙の臭いが辺りに満ちた。
鼻を摘まんだ輪廻が、傍らの千常を見上げる。
「やっぱりクラリモンドにも、スキルの効きが薄いわねん」
「あぁ、だが、不死ってのが本当か試してやる……」
ジープを降りた2人が駆け出す。全員がジープから離れたのを確認し、千常はピンを抜いた手榴弾をジープの真下、燃料タンク付近へと投げ込む。
直後、手榴弾が爆発。燃料に引火し、ジープ周辺のゾンビへと炎の波が襲い掛かった。
足元に積み上がったゾンビの山を見降ろして、結唯は、構えていたハンドガンを守護使役へと投げ渡す。代わりに再び拾い上げたスナイパーライフルで、教会前の道路を狙う。
「さっきの爆発……。皆も交戦中か。余裕はないのだろうな。だったら」
皆の負担を、僅かなりとも軽くする。その為には、狭い教会内にこれ以上ゾンビの侵入を許すわけにはいかない。
敷地内へ踏み込んだゾンビの額に狙いを付け、引き金を引く。音も無く射出された弾丸が、ゾンビの頭部を破壊しその機能を停止させた。
素早く薬莢を排出し、新たな弾丸を込め、射撃。倒れるゾンビがもう1体。
1体ずつ、確実に……。冷静かつ、淡々と、まるでそういう作業のように、結唯はゾンビを撃ち抜いていった。
「二丁拳銃を舐めるなよっ! 両手が塞がっていたって、マガジンの交換はできるんだ」
奏空は、空になったマガジンを排出する。ハンドガンを持った両手を左右へ広げ、射撃の体勢は崩さない。奏空のポケットから、テレキネシスで操作された新しいマガジンが浮き上がり、そのままガチンとハンドガンへセット。リロードを完了させると同時に、奏空は引き金を引いた。
落ちる撃鉄。爆ぜる火薬。飛び出した鉛弾は、ゾンビの額を撃ち抜いた。
奏空が仕留めきれなかったゾンビは、七雅がトドメをさす。
『あぁ、生き足掻くなんて見苦しい』
そう呟いて、クラリモンドは片手を上げる。その腕から、血液で形成された無数の弾丸が放たれた。
放たれた弾丸は、ゾンビ諸共、誘輔の足を撃ち抜く。
短い悲鳴をあげ、誘輔は床へと倒れた。
「ぐぉっ……。くっ、俺がゾンビになったら……一思いに殺してくれよ」
倒れた誘輔へと群がるゾンビ達。倒れた姿勢のまま、マシンガンで応戦するが限界はすぐに訪れた。伸ばした片腕に、1体のゾンビが喰らい付いたのだ。
「あほぬかせ! 噛まれたって、隔離すれば大丈夫やろ。最後までやれ!」
秋葉が叫ぶ。彼が地面に手を当てると、床がひび割れ土の槍が飛び出した。土槍に貫かれたゾンビが、誘輔の身体から引き剥がされる。
自由になった右の手で、誘輔は落ちていたロケットランチャーを拾い上げる。
「そりゃそうか。あばよクラリモンド。気が強い女は嫌いじゃねーが……アンタちょっと臭えしな。肉片になりな」
誘輔の位置から、クラリモンドは狙えない。
誘輔はロケットランチャーのトリガーを引いて、砲弾を発射。轟音と共に、空気が震える。視界を埋め尽くすゾンビの群れを木端微塵に吹き飛ばしながら砲弾は壁に激突。分厚い壁が、ボロボロと崩れて粉塵を巻き上げる。
轟音に誘われ、ゾンビの群れが誘輔と秋葉の周囲へと集まってくる。ゾンビに噛まれた以上、誘輔が理性を保っていられるのも、残り数十秒ほどだろうか。
だが、それで十分だ。
クラリモンドの周囲から、ゾンビの数が減れば、それでいい。
「あんなべっぴんさんの顔を蜂の巣にするのは気が引けるんやけどね」
そう呟いた秋葉の視界に映っていたのは、クラリモンドの背後へと回り込んだ、輪廻の姿だった。
守護使役の能力で、足音を消して駆け抜けた。クラリモンドの背後に回り込み、輪廻はマシンガンの引き金を引く。無数の弾丸が、クラリモンドの全身を撃ち抜いた。
ドレスが破れ、肉が千切れて、骨が砕ける。飛び散った血液と、細切れの肉片。全身を撃ち抜かれながらも、クラリモンドは笑っていた。
「が、頑丈だこと……」
輪廻の頬が引きつった。飛び散った血液は、空中で凝固し弾丸を形成。見えない糸に引かれるように、血の弾丸が輪廻の全身へ浴びせかけられる。
体中を撃ち抜かれながら、輪廻はマシンガンのトリガーを引き続けた。
鉛の弾丸と、血の弾丸が2人の身体を削って行く。
「くぅ……」
最初に倒れたのは、輪廻であった。床に膝をついた輪廻を見降ろし、クラリモンドは半壊した顔で笑っている。じくじくと、傷口が蠢くようにして再生していく。
『なかなか勇敢ね』
でも、無駄。
と、そう囁いたその瞬間。
「無駄じゃあないさ」
クラリモンドの肩口に、小ぶりな斧が突き刺さった。土の鎧を纏った千常が、クラリモンドの背後に立っていた。
力任せに振り下ろした斧の一撃が、クラリモンドの肩から脇腹にかけてを切り裂いて、切断する。宙へ舞うクラリモンドの上半身と、千常の視線が交差した。
飛び散った血液は、弾丸と化し千常の身体を撃ち抜いた。土の鎧が音をたてて砕け散る。
『いいえ、無駄よ……。こうなっても、私の身体は再生するもの』
床に転がったクラリモンドの上半身から、血管と肉で形成された糸が伸びる。糸はクラリモンドの下半身へと接合され、ゆっくりと、傷口を修復していくのが見て取れた。
糸に引っ張られたクラリモンドの上半身が、床を滑る。
弾丸に撃たれた千常は、体が麻痺して思うように動けないでいた。
そんなクラリモンドを見下ろす、小さな人影が1つ。
「死人の街で君臨する王座はさぞかし退屈で寂しいでしょう。貴女の敗因は、仲間がいなかったこと。貴女に子守唄を……」
ハンドガンの銃口、クラリモンドの額へ押しつけまどかは引き金を引いた。
乾いた銃声が1つ。
至近距離からとはいえ、銃弾の一撃はクラリモンドの頭部を半分ほど吹き飛ばす。
『あ……がっ!』
短い悲鳴が1つ。
いかに不死の女王とはいえ、ここまで痛めつけられては再生はできないようだ。
「おおっ! 先にいかせてもらうで! 誘輔がそろそろ限界やっ!」
白目を向いて、ぐるると唸る誘輔を引き摺って、秋葉は懺悔室へと駆け込んだ。
それに続き、他の仲間達も懺悔室へと足を向ける。
これで、終わり。
4月の夢の終幕だった。
息をひそめて、通りを見やる。街を彷徨う腐った死体、所謂ゾンビの姿が見える。商店街のバーの一階。薄暗く、アルコールの臭いが漂うその場所に8名の男女が集う。
「あ、先生だ! 誘輔さんもいる! そしてあれは……俺の天敵輪廻さん! ある意味ゾンビよりも怖い!」
仲間を見渡して『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は叫ぶ。
「あら、そんな騒ぐと見つかってしまうわよ。ゾンビと言えば噛まれたらやっぱりアウトよねん」
奏空と視線が合うなり、『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)は、その頭を自身の胸に抱きよせた。
「やめてここでむぎゅむぎゅしないでー!」
ジタバタともがく奏空を一瞥し、『相棒模索中』瑛月・秋葉(CL2000181)は窓から通りへ視線を向けた。
「しかし、噛まれたらゾンビ化とか映画の世界に入ったようやなぁ」
「ゾンビパニックなのぉ。こういう時、早い段階でゾンビになっちゃった方が怖くなくていいかもって思うの」
野武 七雅(CL2001141)は青ざめた顔で深呼吸。埃とアルコール、僅かに漂う腐臭と血の臭いを胸一杯に吸い込んで、くらりとよろけた。
「おっと、大丈夫か? ゆっくり休ませてやりたいが、あんまりじっとしてられそうもない、とりあえずこれからどうするか相談しよう」
「この状況、エイプリルフールの嘘にしちゃどぎついぜ。まぁ、見知った顔ばかりだな。それにとにかくまずは武器の確保か?」
七雅を支える『たぶん探偵』三上・千常(CL2000688)の眼前に、『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)がノートを差し出す。先ほど、バーのカウンターの上で見つけたものだ。どうやら、生存者の書き記した日記のようだ。
中には街の地図と、学校のグラウンドに軍の残した武器があること、またゾンビ達への対策手段が書き込まれていた。
「ではまずはそこを目指すとしようか。ゾンビが何処にいるかわからんが、高い所にいれば見つけやすいだろう。なに、建物の中を移動しなくとも面接着がある」
守護使役の能力で足音を消し、『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)は歩くようにバーの壁を垂直に登って行く。天窓を開けて、そのまま建物の外へと身を乗り出した。
「死してなお彷徨わねばならない因果、断ち切って差し上げられるようまどかは頑張ります……!」
小太刀の柄へ手を伸ばし、遊部・まどか(CL2001370)はそう呟いた。
行くぞ、とそう言ったのは結唯だ。それを合図に8人はバーを後にした。
●ミッション2・武器を調達せよ
「これ、僕達ゾンビハンターってやつやんなぁ?」
足音もなく、ゾンビへ近寄りその首をブレードで叩き落した秋葉は、仲間達を振り返りそう言った。バーを出て数分。結唯のナビゲートを頼りに、地上の敵は、足音を消して先行する秋葉が殲滅することで、大きな騒ぎもなく進行している。
もしそうでなければ、狭い商店街の通路で無数のゾンビと一戦交えることになっていたかもしれない。
だが人が動けば、音が鳴る。
その僅かな物音を聞きつけ、少しずつだが建物の影から姿を現すゾンビの数が増えていた。
「学校まで、100メートル程度か。走ればすぐだな。ゾンビが割と多いが……さて」
屋根の上から、街を睥睨し結唯はそう呟いた。彼女の傍を舞っていた2匹の守護使役がそれぞれ奏空と七雅のもとへと降りていく。
「走れば学校まですぐだって! でも、途中にゾンビが沢山いるみたいだね」
結唯と守護使役から得た情報を仲間達へと伝達し、奏空は通りを見やる。通りの先からゾンビがぞろぞろと集まって来ていた。
「どうにかして、道をつくっちゃえばいけると思うの」
と、そう提案したのは七雅である。
僅かに思案し、千常は頭上を見上げた。屋根の上に立つ結唯と視線が交差。結唯は小さく頷いてみせた。
「決まりだな。では行くか」
「おう。ゾンビ如きに負けやしねーよ」
「ほんま口が減らんやっちゃなぁ……。まぁ、ええか」
誘輔が差し出した煙草の箱から、千常と秋葉は煙草を抜きだし、3人揃って火を着けた。立ち昇る紫煙を肺一杯に吸い込んで、煙を吐き出す。
小さく拳を打ち合せ、3人の男は一斉に通りへと駆け出した。
ゾンビ達は、動きは鈍いが数が多い。常人よりも遥かに力も強い。頭部を破壊せねば、少々のダメージでは足止め程度にしかならない。
「修行には丁度いいですね!」
ゾンビの足を小太刀で切り裂き、まどか学校の敷地内へと転がりこんだ。腐敗した血肉を撒き散らしながら、ゾンビは転倒する。
全員が校内へと到着したのを確認し、秋葉と誘輔が校門を閉めた。
「グラウンドは……あっちねん!」
輪廻に先導されるように、千常、秋葉、誘輔が続く。校門に群がるゾンビを一瞥し、残る3人は建物の影へと身を隠した。
千常はグラウンドの端に停められていたトラックへと駆け寄り、運転席のドアを開く。
ドアを開けると同時に、運転席からゾンビが飛び出して来た。土の鎧を纏った千常の肩にゾンビが喰らい付く。
「うおっと、あぶねぇな!」
「はいはい、ちょっと離れてねん」
輪廻の拳が、ゾンビを殴り地面へと叩きつけた。その隙に千常は運転席へと乗り込み、ハンドルへ細工を施す。
直後、けたたましいクラクションの音が、周囲一帯に鳴り響いた。
校内や、周辺をうろついていたゾンビ達が、グラウンドへ集まってくる。
「よし、必要な武器は調達したで!」
トラックの荷台から、大量の武器を抱えた秋葉と誘輔が降りる。追いついた結唯が、荷台からライフルを取り上げ、建物の影に隠れた仲間達へと相図を送った。
目指す先は、千常が細工を施したトラックから僅かに離れた位置に停められている軍用ジープ。
「これは持ち運べないわね」
荷台へ跳び乗り、ガトリング砲を持ち上げた輪廻は、その銃口を迫ってくるゾンビ達へと向けた。
せーのっ! と掛け声1つ。轟音と共に無数の弾丸がばら撒かれる。
周囲のゾンビ達が次々となぎ倒され、無残な肉塊へとその姿を変えていった。数十秒。セットされていた弾丸を全て撃ち尽くし、輪廻は「ふぅ」と額を拭う。
「おー、怖い……」
ロケットランチャーを担いだ誘輔が、軍用ジープの助手席へと乗り込んだ。
隠れていた奏空、七雅、まどかが荷台へ乗ったのを確認し、結唯はジープの屋根へと跳び乗る。
ゾンビの大半は、クラクションの音に誘われ、トラックの傍へと集まっていた。土を撒き散らしながら、タイヤが回転する。運転手は千常だ。
ジープの頑丈な装甲を活かし、傍にいるゾンビへと突撃。8人の乗るジープはグラウンドから走り去っていく。
「いいか飛ばせ! 標識なんて無視しろ!」
運転席を叩きながら、誘輔が叫ぶ。ショッピングモールの周辺は、流石にゾンビが多かったが、窓から腕を出した輪廻と秋葉がマシンガンを掃射し、道を切り開いた。
「ふっふっふ……2丁拳銃って前から憧れてたんだ」
荷台に積まれた武器の山から、ハンドガンを拾い上げ、奏空は妖しい笑みを零した。
一方まどかは、銃火器の類に慣れていないのか興味津津といった様子で、武器の山を漁っている。
「回収してくださった武器はまどかには見た事もない武器ばかりで……っ。 あっ、この丸いものは可愛いですね!」
「それは手榴弾なの。ピンを外して投げたら、爆発するの」
「そ、そんな恐ろしいものなんですか……。っで、では七雅さんや奏空さんと同じこの武器を……」
慌てて手榴弾を山へ戻すと、ハンドガンを取り上げて、しげしげと眺める。ハンドガンとはいえ、軍で使用されていた代物だ。1挺だけでも、両手で握らないと扱えない。
「それな、安全装置を外して、引き金に指を乗せて、狙って撃つ! 簡単だろ?」
誘輔にハンドガンの扱い方を教わっているうちに、目的地の教会が近づいて来た。
「さぁ、目的地だ。誘輔! 吹き飛ばせ!」
アクセルを力一杯踏み込みながら、千常は叫ぶ。
窓から半身を乗り出した誘輔は、ロケットランチャーを肩へ担いで、教会の門へと狙いを付けた。
トリガーを引くと共に、爆音が鳴り響く。発射されたロケット弾は、まっすぐ教会の門へと命中。爆音、爆風、瓦礫が飛び散る。
「突っ込むぞ、捕まってろ!」
ジープが教会の門へと突っ込む瞬間、結唯は宙へと身を躍らせた。
●ミッション2・クラリモンドを撃破しろ
ジープは粉塵を突き抜け、教会の中へ。エンジンが煙を上げて停止する。爆発に巻き込まれたのか、辺りには動かなくなったゾンビの残骸が散乱していた。
ジープへ向けて、教会内部や外にいたゾンビ達が殺到してきた。
ジープの正面、無数のゾンビの山の上に1人の女性が腰かけている。
『ようこそ私のお城へ……。と、言いたい所だけど随分と物騒なご挨拶ね? でも、歓迎してあげる』
血の気の失せた顔に、不吉な笑みを貼り付けた彼女の名前は(クラリモンド)。ゾンビを統べる不死の女王だ。
クラリモンドの言葉に従い、ゾンビ達はジープへと距離を詰めてくる。
「貴女が不死の女王ですか。さぁ、遊びましょう。まずは貴方達に子守唄を……」
ジープのドアを開け、まどかが車を降りる。手にした両手で握ったハンドガンの銃口を、ゾンビの頭部へと向け、引き金を引いた。
断続的に鳴り響く銃声。
1発につき1体のゾンビを正確に撃ち抜いていく。
先ほどまでより冷静な印象を受ける。覚醒すると、少々性格の変わる性質であるようだ。
まどかに次いで、奏空と七雅が車を降りた。
「さて、やりますか!」
「ラスボスとの対決……ドキドキするの!」
2人の髪が、熱気に煽られるように逆立った。髪の色が金へと変色。金に輝く頭髪を振り乱し、2人は同時に駆け出した。
両手を真っすぐ左右に伸ばし、奏空は踊る。ゾンビ達の群れの中、迫るそれらを撃ち抜いていく。奏空の撃ち漏らしたゾンビは、七雅が射撃し、互いに互いを援護しながらゾンビを掃討。
「なつねが雑魚を抑えるから女王をたのむの!」
弾の切れたハンドガンを投げ捨てながら、七雅が叫ぶ。太ももに取り付けた予備のハンドガンを引き抜き、クイックショットで足元を這うゾンビの額に穴を穿つ。
「さて、通じるかな?」
教会の天窓から、教会内部へと侵入した結唯は、両手の平をクラリモンドへと向け波動弾を放つ。空気を揺らしながら、波動弾がクラリモンドの身体を射抜く。
『あら? そこにも居たの?』
なんて、視線を上げてクラリモンドは自分の身体に手を置いた。ダメージこそあるようだが、やはり実弾でないと致命傷は与えられないようだ。それならば、とライフルを構えた結唯の足首を、何かが掴む。
「ちっ……」
舌打ちを零し、足首を掴む何かを蹴り飛ばす。視線を背後へと向ければ、そこには積み重なるようにして自分へと迫る無数のゾンビ。教会のゾンビ達はある程度の連携ならとれるらしい。
「遊びは終いにせぇへん、女王様? ゾンビ退治も飽きてきたし、直々にアソんでもらいたいなぁ」
「背中は任せたぜ瑛月」
ゾンビの群れに周囲を囲まれた状態にも関わらず、秋葉と誘輔は笑っていた。背中合わせになった2人は、同時にマシンガンの引き金へと指をかける。
火薬の爆ぜる小気味の良い音と、マズルフラッシュ。硝煙の臭いが辺りに満ちた。
鼻を摘まんだ輪廻が、傍らの千常を見上げる。
「やっぱりクラリモンドにも、スキルの効きが薄いわねん」
「あぁ、だが、不死ってのが本当か試してやる……」
ジープを降りた2人が駆け出す。全員がジープから離れたのを確認し、千常はピンを抜いた手榴弾をジープの真下、燃料タンク付近へと投げ込む。
直後、手榴弾が爆発。燃料に引火し、ジープ周辺のゾンビへと炎の波が襲い掛かった。
足元に積み上がったゾンビの山を見降ろして、結唯は、構えていたハンドガンを守護使役へと投げ渡す。代わりに再び拾い上げたスナイパーライフルで、教会前の道路を狙う。
「さっきの爆発……。皆も交戦中か。余裕はないのだろうな。だったら」
皆の負担を、僅かなりとも軽くする。その為には、狭い教会内にこれ以上ゾンビの侵入を許すわけにはいかない。
敷地内へ踏み込んだゾンビの額に狙いを付け、引き金を引く。音も無く射出された弾丸が、ゾンビの頭部を破壊しその機能を停止させた。
素早く薬莢を排出し、新たな弾丸を込め、射撃。倒れるゾンビがもう1体。
1体ずつ、確実に……。冷静かつ、淡々と、まるでそういう作業のように、結唯はゾンビを撃ち抜いていった。
「二丁拳銃を舐めるなよっ! 両手が塞がっていたって、マガジンの交換はできるんだ」
奏空は、空になったマガジンを排出する。ハンドガンを持った両手を左右へ広げ、射撃の体勢は崩さない。奏空のポケットから、テレキネシスで操作された新しいマガジンが浮き上がり、そのままガチンとハンドガンへセット。リロードを完了させると同時に、奏空は引き金を引いた。
落ちる撃鉄。爆ぜる火薬。飛び出した鉛弾は、ゾンビの額を撃ち抜いた。
奏空が仕留めきれなかったゾンビは、七雅がトドメをさす。
『あぁ、生き足掻くなんて見苦しい』
そう呟いて、クラリモンドは片手を上げる。その腕から、血液で形成された無数の弾丸が放たれた。
放たれた弾丸は、ゾンビ諸共、誘輔の足を撃ち抜く。
短い悲鳴をあげ、誘輔は床へと倒れた。
「ぐぉっ……。くっ、俺がゾンビになったら……一思いに殺してくれよ」
倒れた誘輔へと群がるゾンビ達。倒れた姿勢のまま、マシンガンで応戦するが限界はすぐに訪れた。伸ばした片腕に、1体のゾンビが喰らい付いたのだ。
「あほぬかせ! 噛まれたって、隔離すれば大丈夫やろ。最後までやれ!」
秋葉が叫ぶ。彼が地面に手を当てると、床がひび割れ土の槍が飛び出した。土槍に貫かれたゾンビが、誘輔の身体から引き剥がされる。
自由になった右の手で、誘輔は落ちていたロケットランチャーを拾い上げる。
「そりゃそうか。あばよクラリモンド。気が強い女は嫌いじゃねーが……アンタちょっと臭えしな。肉片になりな」
誘輔の位置から、クラリモンドは狙えない。
誘輔はロケットランチャーのトリガーを引いて、砲弾を発射。轟音と共に、空気が震える。視界を埋め尽くすゾンビの群れを木端微塵に吹き飛ばしながら砲弾は壁に激突。分厚い壁が、ボロボロと崩れて粉塵を巻き上げる。
轟音に誘われ、ゾンビの群れが誘輔と秋葉の周囲へと集まってくる。ゾンビに噛まれた以上、誘輔が理性を保っていられるのも、残り数十秒ほどだろうか。
だが、それで十分だ。
クラリモンドの周囲から、ゾンビの数が減れば、それでいい。
「あんなべっぴんさんの顔を蜂の巣にするのは気が引けるんやけどね」
そう呟いた秋葉の視界に映っていたのは、クラリモンドの背後へと回り込んだ、輪廻の姿だった。
守護使役の能力で、足音を消して駆け抜けた。クラリモンドの背後に回り込み、輪廻はマシンガンの引き金を引く。無数の弾丸が、クラリモンドの全身を撃ち抜いた。
ドレスが破れ、肉が千切れて、骨が砕ける。飛び散った血液と、細切れの肉片。全身を撃ち抜かれながらも、クラリモンドは笑っていた。
「が、頑丈だこと……」
輪廻の頬が引きつった。飛び散った血液は、空中で凝固し弾丸を形成。見えない糸に引かれるように、血の弾丸が輪廻の全身へ浴びせかけられる。
体中を撃ち抜かれながら、輪廻はマシンガンのトリガーを引き続けた。
鉛の弾丸と、血の弾丸が2人の身体を削って行く。
「くぅ……」
最初に倒れたのは、輪廻であった。床に膝をついた輪廻を見降ろし、クラリモンドは半壊した顔で笑っている。じくじくと、傷口が蠢くようにして再生していく。
『なかなか勇敢ね』
でも、無駄。
と、そう囁いたその瞬間。
「無駄じゃあないさ」
クラリモンドの肩口に、小ぶりな斧が突き刺さった。土の鎧を纏った千常が、クラリモンドの背後に立っていた。
力任せに振り下ろした斧の一撃が、クラリモンドの肩から脇腹にかけてを切り裂いて、切断する。宙へ舞うクラリモンドの上半身と、千常の視線が交差した。
飛び散った血液は、弾丸と化し千常の身体を撃ち抜いた。土の鎧が音をたてて砕け散る。
『いいえ、無駄よ……。こうなっても、私の身体は再生するもの』
床に転がったクラリモンドの上半身から、血管と肉で形成された糸が伸びる。糸はクラリモンドの下半身へと接合され、ゆっくりと、傷口を修復していくのが見て取れた。
糸に引っ張られたクラリモンドの上半身が、床を滑る。
弾丸に撃たれた千常は、体が麻痺して思うように動けないでいた。
そんなクラリモンドを見下ろす、小さな人影が1つ。
「死人の街で君臨する王座はさぞかし退屈で寂しいでしょう。貴女の敗因は、仲間がいなかったこと。貴女に子守唄を……」
ハンドガンの銃口、クラリモンドの額へ押しつけまどかは引き金を引いた。
乾いた銃声が1つ。
至近距離からとはいえ、銃弾の一撃はクラリモンドの頭部を半分ほど吹き飛ばす。
『あ……がっ!』
短い悲鳴が1つ。
いかに不死の女王とはいえ、ここまで痛めつけられては再生はできないようだ。
「おおっ! 先にいかせてもらうで! 誘輔がそろそろ限界やっ!」
白目を向いて、ぐるると唸る誘輔を引き摺って、秋葉は懺悔室へと駆け込んだ。
それに続き、他の仲間達も懺悔室へと足を向ける。
これで、終わり。
4月の夢の終幕だった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
