人間狩り
人間狩り


●人という獣
「どうも皆さま、あらゆる方面でのご活躍でお忙しい中にもかかわらずようこそおいで下さいました」
 シルクハットに仮面、そしてタキシード姿とまるで仮装パーティからそのまま抜け出してきたような男が大仰に腰を曲げ、まるでお姫様に挨拶をするように礼をする。
 しかし男が傅くのはきらびやかな衣装で着飾った淑女や杖のついた紳士などではなく、まるで軍人を思わせる迷彩服に目出し帽といった銀行強盗でもするかのような集団だった。
 猟銃やライフルといった重火器はもちろん、斧や鉈といった物々しい武器を持った者までいる。
 彼らは身分を隠して集まった集団だった、マスクの下は大企業の社長やその息子、芸能人、果ては大物議員といったいわゆる大金持ちや高い社会的地位を持つと言って差し支えのない者たちばかりだ。
 なぜこんな人里はずれたところに集まったのか、まるで何かから隠れるように。
 人に悟られてはならないことをするからに他ならない。
 
「さて、今宵も皆様に癒しとスリルをお届けするべくこのような場を設けさせていただきました。いずれも生きのいい獲物でございます。後ろにあります建物で不安に胸が押し潰されそうになっていることでしょう。自分を殺しに来るのを今か今かと怯えている哀れな子羊を血祭りにあげるのは皆様オオカミです。どうぞ存分に狩猟の腕を競い合ってくださいませ」

 月明かりの中不気味にたたずむのは大きな廃校舎。人気がないはずのそこには狩られるためだけに老若男女十数人が放たれているという話である。
 もし生き残ることができれば釈放されると教えられているらしいが、それが真実であるとは誰も保証はしない。
 淡い期待にすがる子羊をおいしくするためのスパイスに過ぎないのだ。
「さて、この巨大な狩場で何も手がかりなしというのはさすがに酷でございます。そこで皆様には腕輪を一つ進呈することにいたしました。これはいわばレーダーなっております。赤のランプは獲物が近くにいると光りチャンスであることを教えてくれます。緑のランプはいわば同士討ち防止でございますね、ハンター同士が近づくと光り、誤って攻撃してしまうのを防ぐ目的がございます。二つのヒントを頼りに狩りをお楽しみくださいませ」
 ざわざわと腕輪を受け取っていくハンターの一人がシルクハットの男に質問をした。
 
 おい、めんどくさいことをせずに獲物がどこにいるか場所を知らせてくれればいいじゃないか。

 的の外れた男の質問に、シルクハットはくっくっく、とどこか嘲りを含んだ声音で笑った。
「お客様、今宵の催し物は狩りでございます。糸を垂らせば必ず成果があるものではないのです。まさにハンターと獲物の知恵比べ、命がけの真剣勝負なのですよ? 必ず捕まえられる催しがお好きならば釣り堀にでもお行きになればよろしいではないですか」
 くすくす、くすくす
 辺りからも笑い声が漏れる、質問した男の顔色はマスクのために顔色はわからないが真っ赤になっていることだろう。

「さて、そろそろ頃合いです。どうぞ、日頃のストレスを思う存分晴らしてくださいませ。坊主で終わってストレスを溜めるのもご愛敬。皆様の幸運を心よりお祈り申し上げております」

 
●ハンターを追い詰めろ!
「昼寝してたらとんでもねーのを見ちまった、人が人を狩るっていう許しがたい凶行だ。急ぎで集めちまって悪いがあんなことを許すことはできない、なるべく急いでくれ!」
 ガタガタと揺れる道を覚者を詰め込んだワンボックスカーが爆走する。
 積み込まれた液晶ディスプレイに久方 相馬(nCL2000004)がややノイジーに映されていた。
「この悪趣味な催し物の参加者はどいつもこいつも大金持ちの連中らしい。人間金を持ちすぎたり権力を掴むとおかしくなっちまうのかもな。そいつに目を付けた隔者組織が資金集めにやっているらしい。一方は大金を提供しもう一方はスリルと快感を提供するっていうギブアンドテイクな関係で変にバランスが取れちまってる」
 その組織は非常に小さく目立たないものらしいが、だからと言って見過ごせるようなものではない。
「走り書きで悪いけど資料に目を通しておいてくれ、それと学校の見取り図も一緒に入れておくから参考にしてもらえると助かる」

 よほど急いで書いたのだろう、なかなかに個性的な字がコピー用紙の上に踊っているが、読むのに支障はなさそうだ。
 揺れる車内で文字を読むのは少々つらいがそうも言っていられない。
 そろそろ現場かといったそのとき、 狩りを告げる銃声が響いてきた。
 
 覚者が到着するまで、あと少し。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:ほし
■成功条件
1.一般人半数以上の生存、ただしハンター側の一般人は数に含めない
2.なし
3.なし
 ほしです、オープニングをご覧いただきありがとうございます。
 私自身は狩りも釣りもやりません、釣りはちょっと興味あります。
 道具に凝り始めると際限がないみたいですね。
 では以下詳細です。

■ロケーション
 ある山中に建設された6階建てプラス屋上がある廃学校、敷地、建物ともにかなりの大きさを誇ります。
 校舎内は暗く、所々に非常灯がついているだけの状態です。
 1階には体育館、職員室や保健室、理科室等の実習教室、放送室などの多目的教室があります。
 2階から6階までは教室が一階につき6つ、一本の廊下でつながれており両端には階段が設置されてあります。
 入口は正門が1つ、窓やほかの出入り口はすべて獲物が逃げないように鉄板で封鎖され強力に溶接されてます。
 屋上には扉があり出られるようになており、この扉は溶接はされておらず内側から普通のカギがかけられています。
 これは追い詰められた獲物が飛び降りるのを見るのを楽しむためだと思われます。
 すべての教室には机等があり隠れる場所は至る所にあります。
 
■エネミーデータ
・イベント仮面 能力なし
 本イベントの主催者、政界や財界にある程度のコネを持つために一般人でありながら隔者組織に重用されています、本人も金が儲かれば細かいことは気にしません。
 金に汚く強欲な一面がありますが、危険が迫れば躊躇なく逃げる小心者でもあります。
 ハンターに配られている腕輪を一つ所持しています。
 
・用心棒
 隔者 伊藤 土行 精霊顕現 猟銃所持 
 隔者 佐藤 火行 精霊顕現 猟銃所持
 
 イベント仮面の護衛と不慮のに訪れる不審者を実力で排する実行部隊です。
 双方ともスキルは初期スキルのみ使用できる程度実力です。
 正門に扉を守る警備員のように並んでいます。
 
・ハンター 一般人 15人
 人間狩りを楽しみにやってきた能力を持たない人たちです。
 いずれも社会的地位や資産に恵まれ、通常の娯楽ではもはや満足できなくなってしまった者達の集まりです。
 各々猟銃を持ち、人によってはナイフなど近接武器で人を仕留めるのに快楽を覚えてしまった者もいます。
 何人か暗視ゴーグルを持ち込んでいる者もいるようです。
 全員腕輪を装着しており、獲物とハンターのおおよそ位置がわかるようになっています。
 
●ハンターの装備している腕輪について

 同階層20メートル以内に獲物が存在すれば赤く光り、同階層20メートル以内にハンターがいれば緑色に光ります。
 存在の確認は獲物につけられている指輪、ハンターの存在は腕輪で行われています。
 詳細な場所がわかるわけではないので光ったら即発見というわけではありません。
 
■獲物の一般人
 老若男女問わず20人がばらばらに校舎内に逃げ込んでいます。
 捕獲された際に指輪をつけられ、これによりハンター側の腕輪に居場所を知らせるようになっています。
 校舎に連れ込まれた際、指輪をつけたまま最後まで逃げ切れることができたら命は助けるが、外すと逃げ切っても殺すと脅されているようです。
 ハンターの人数や服装を知らされていません。

■その他
 獲物はハンター突入10分前に校舎に入れられており、ばらばらに逃げ回っています。
 覚者が学校に着くのはハンターが校舎突入2分後になります。
 事前付与等は車中で1回のみ可能です。

 それでは、命を弄ぶ者達から哀れな羊たちを救い出してください。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
 
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年12月11日

■メイン参加者 8人■

『追跡の羽音』
風祭・誘輔(CL2001092)
『感情探究の道化師』
葛野 泰葉(CL2001242)
『RISE AGAIN』
美錠 紅(CL2000176)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)


 走る、走る、走る。
 赤坂・仁(CL2000426)の運転するワンボックスが夜の車道を爆走する。
 乗り物の操作技術に長けた彼の運転はデコボコ道も何のその、スピードを落とさずに校門から車体を滑り込ませる。
「わりぃ、もうちっと静かに運転してくれ、酔う」
 薄暗い車内で紙に学校の見取り図を念写していた『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)は思わず正直な欲求を口にした。
 三半規管を揺さぶられながらの念写はなかなか酷だが、今後のことを考えれば泣き言を言っていられない。
 砂埃を上げながら横Gが覚者の体に降りかかる、校門にぶつかることなくぎりぎりで曲がったワンボックスは速度を落とさずに入口めがけて突っ込んでいく。
「あ、なんだぁ!?」
 入口に並んで立っていた人影は突然の来訪者に度肝を抜かれた。まさか暴走族じゃあるまいなと緊張感のない視線を向けるが、出てきたのは暴走族より質の悪いものだった。
「やぁ、いい夜だね。こんなに月がきれいだから、きっと素敵な狩りにはぴったりだなんて思っているのかな?」
 勢いよく開かれたドアから『裏切者』鳴神 零(CL2000669)が飛び出した。
 狩るのは自分だよねと言わんばかりの一撃が隔者の体を貫く、あぁ、これで憂さが晴らせればいいのにと思いながら。
 零を皮切りに『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)、『RISE AGAIN』美錠 紅(CL2000176)、納屋 タヱ子(CL2000019)、赤坂・仁(CL2000426)と息つく間もなく覚者が飛び出してくる。
「時間をかけてはいられないからな、悪いがさっさと退場してもらう」
「こんな奴らじゃ記事にもならないからな」
 ぎらりと光る仁のサングラス越しの眼光、どこか人を食ったような笑みの誘輔といきなりの襲撃で準備もままらない隔者相手への猛攻。
 隔者の二人は混乱する、なぜ自分たちは襲われているんだ?。
 「あは、どうしたの?ねぇ、何か嫌なことが起こっちゃった?教えてよ」
 嫌なことを起こしているのが自分立ちなのは重々承知しているのに『感情探究の道化師』葛野 泰葉(CL2001242)は意地悪く言った。
 突然の不幸に感情を揺らめかせる隔者は泰葉にとっておいしいごちそうだ。
 しかしその感情も爆裂拳によって無に帰す、そうなればもはや泰葉の興味対象ではない。
 なんだこれは、どうしたことだ、今日は立っていればいい楽な仕事だったじゃないか。
 その視線は隔者が乗ってきたミニバスの中にいる仮面へと注がれる。
「いました、逃がしませんよ!」
 殴り倒した人物は二人、車の中でモニターを見ている仮面を見つけた人物がタヱ子は逃がす暇を与えない。
 人命救助が最優先とはいえやれることはやっておくに越したことはない。
 仮面の男は逃げる機会を逸していた。。
 小心者なのであろう、突然の来訪者に仮面をつけていても怯えているのは明白。
 ミニバスに乗り込んだ誘輔が仮面の胸ぐらをつかんで言葉をかける。
「ようイベント屋、分かっているとは思うが逃げようなんて思わないこった。どんな答えをすればアンタにとって一番いいかよーく考えるんだ、頭のいい回答を期待してるぜ?」
 誘輔が凄むと仮面はペラペラと内情をしゃべり始める。もともと本当に小さな隔者組織に便利に使われていただけであってそこに義理も何もない。
 本当に数名の覚者で構成された組織で脅されたんだ、果ては自分のパイプを狙われて俺は被害者なんだという始末。
「だからと言ってこのような催し物をするなど言語道断です! なんて男!」
 タヱ子は憤慨する、よっぽど自分で裁いてやろうとさえ思ったがそれは法の仕事だし、今はほかにやるべきことがある。
 それでも腹に据えかねたのかタヱ子がボコッと仮面の頭を殴ると逃げられないように縛り付けた。
 さぁ、あとは校舎内の掃除だ、一行次々に突入した。
 

 いきなりの銃声。
「わぁお!夜の校舎ってドキドキじゃん? でももっとドキドキしちゃったぞ!」
「問答無用か、本気で狩りだと思っているんだろうな」
 獲物にとって絶望を与える鉄板で封鎖された扉も不死川 苦役(CL2000720)と『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)の前には無力、何事もないように通り過ぎたその先に、あまりにわかりやすい銃を持った人影と鉢合わせしてしまった。
 突然のことで気が動転したのだろう、仲間ハンターと確認することもなく銃を撃ってきた弾丸は苦役の顔面横を通り過ぎていったのだ。
「おおお、怪談話の主役になるところだったぞ! いきなりモンスターとエンカウントたぁクソゲーだぁ!」
 亮平は口では文句を言いつつも喜々として棄灰之刑を振るう姿に、どっちがモンスターなのかわかったもんじゃないなと思いつつ、自らも銃を抜いた。
 手心を加える必要はないだろう、なにせ相手はやる気に満ちている、どちらが狩人か教えてやらねばなるまい。
 お互いを認識してしまえば覚者と一般人、不幸になるのはどっちなのか考えるまでもない。
 マスク男と化した苦役にハンターはあっという間殴り倒されてしまった。
「お、コイツ暗視ゴーグル持ってるぜ、しかも腕輪も見つけちまったぞ。RPGで言えば『くえき は 魔法の腕輪 を 手に入れた』ってやつかぁ? いきなり強くなっちまったぞ俺」
「そうですね、なんかこう、見た瞬間誰でも逃げ出したくなりそうなくらい強い見た目になってますよ」
「マジで? 俺超オシャンティーじゃね?」
「一発で相手をノックアウトできるくらいオシャンティーですよ」
 目が泳いでいる。
 満足した苦役は物言わなくなったハンターの帽子を取ってみると、テレビで見たことがある顔がそこにはあった。
「おいおいどうするよ、お茶の間のアイドルが一人減っちまったんじゃねこれ」
「まぁ自業自得でしょう、それよりどうです? 腕輪に反応はありますか?」
「バッチシ、ほれ、赤いのがピカピカしてるじゃん」
「ならばそっちにまず行きましょう、ついでに指輪ももらえれば有利になりますからね」
「おっけー、たぶんあそこだな、プレートに保健室って書いてる」
 今の戦いで獲物の心は縮こまっていることだろう、そんなところに暗視ゴーグルと覆面の男が入ってくればどうなるか。
 絹を切り裂くようなおばちゃんの悲鳴が校内に響いた。
 
騒々しい足音とともに悲鳴が聞こえた、ついで狂ったように喜々として笑う声。
「なんか楽しそうな声が聞こえるよ」
「ったく、金も暇も持て余した連中は何を考えているんだか」
 しらみつぶしに教室や設備を探していた誘輔と紅は聞こえてきた声の方へと駆け出した。
 並ぶ教室、よく見ればそのうちの扉が一つ空いている。
 気づかれないように中を見ると、マスクに迷彩服の人物がうろうろしていた。
 それよりも……?
「まじか、ハイになって頭おかしいんじゃないかあいつ」
 手当たり次第に机や椅子を斧を振り回して破壊していた、おら! 隠れてないで出てこい! と叫びながら。
 そこに人間らしさはない。
「見ていられないよ、楽しいから人間や物に手をかける。これじゃあ憤怒者の方がよっぽどまともに見えちゃう」
「だな」
 この手の輩には遠慮はいらない、暴れたいのであれば存分に相手をしてやるまでだ。
 誘輔はわざと声を上げてハンターの注意をこちらに向けつつ襲い掛かる。
 ハンターは腕輪を確認する、ランプには赤の反応。
 なんだ、こいつらは、恐怖で気が狂ったのか?
 時間にして数秒、しかし手練れ二人に見せた隙としては致命的過だ。
 紅の棘一閃がハンターの左半身を引き裂き、一般人であるハンターは悲鳴を上げながら崩れ落ちた。
 うぅ、と呻く男の帽子を誘輔は遠慮なく剥ぐと、誰もが一度は目にしたことがあるであろう政治家の顔が。
「……アンタさぁ、何やってんの。俺でも知ってるぜあんたの事、まあテレビでだがね。バッシングどころじゃ済まねーんじゃねーの?」
 ただの汚職とはわけが違いすぎる、国民を導くための議員が国民を襲っているのだから。
 フラッシュを焚かれ顔を覆い隠している男の腕をはぎとり、誘輔は男に顔を近づける。
「どうよ、どうすればいいか考えたか? こういう時に保身に走るの得意なんだろ? 何か知ってることあればそれで何とかなるかもよ? そのまま泥舟と一緒に沈みたきゃそれでも構わねー、メシの種は十分だしな」
 なにせごろごろあるのだ、新聞の一面を飾れそうなネタは。
 誘輔の口元は皮肉交じりの笑いを見せているが眼鏡の奥の目は笑っていなかった。
 その頃紅は腕輪に出た獲物の反応の確認をする、教壇の下に隠れいていたようだ、まさに危機一髪。
(助けに来たよ、夢見ってわかる?)
 涙目になった女性が震えながら急に頭に飛び込んできた問いかけに混乱する、もしかして恐怖でどうにかなってしまったのかもしれないと思い。
 しかし、目の前にいる女性は優しそうで、歳も近いからだろうか、救われたことも相まって強い親近感を覚えた。
(うーん分からないかぁ、でも落ち着いて。あたしたちはあなたに危害を加えないっていうのはわかるよね)
 斧を持った男から助けられたのは事実が紅の言葉に説得力を持たせていたのだろう、うんうんと首を大きく振る。
(大丈夫、怖くないから。うーん、どう? 歩けそう?)
 女性は頭を横に振る、恐ろしい体験をして腰が抜けてしまっているらしい。
 ならばと紅は懐中電灯と地図を手渡す。
(これ渡しておくから、動けそうなら体育館を目指してみて、でも無理はしなくていいからね。明かりをつけて見つかる可能性もあるし……どうするかは自分で判断して)
「おい、そろそろ次に行かないとやばいぞ」
「あ、うん。じゃあ、きっと助かるから、頑張って。あ、これだけ頂戴、持っていると危ないからね」
 紅は女性から指輪を受け取った、特に外したからと言って危険はなさそうだ。
 二人はまだまだ夜の校舎を駆ける。


「どうか信じてください、私たちはあなたを助けに来たんです。もしそうでなければ、とっくにあなたたちを狩っています」
 武器のつもりだろうか、椅子を持って子供をかばう男に向かってタヱ子は懸命に声をかけた。
 きっと親子なのだろう、自分はどうなっても子供は助けるという決意の光が男性からひしひしと感じる。
 だからこそ、助けたい。
「仲間が不審人物を掃除して回ってるんだよ、私達もその仲間ってわけ。大丈夫、きっと助ける☆」
 零は努めて明るく諭す、若干無理をしているとも言えなくないが、それが零だ。
「指輪をしていますね、それは自分達の居場所を知らせる罠の道具なんです。だからそれをしていてはいけない、私達に下さいませんか? そうすれば悪い者達の目を私たちに向けられます」
 信じて、いいのか?
 男は逡巡する、見た目はただの女の子なのに銃を持った凶悪な男たちを倒すという。
 本当に可能なのか、もしかしたらこれも罠ではないのか?
「お願いです、あなたも子供を助けたいでしょう?」
 タヱ子と男の視線が交差する、なぜだか、彼女の言葉は信じてもいいような気がした。
「私らの事ただの女の子だって思ってる? じゃーん、これでぼっこぼこだよ」
 ダメ押しとばかりに零が大太刀鬼桜を見てぎょっとするやら頼もしいやら。
 結果二人は指輪を譲ることに了承する。
「いやぁ、結婚指輪にしても趣味が悪いよぉ☆」
「その時は素敵な指輪をつけられますよ」
「そんな、鳴神なんてそんなことしてもらえそうにないし指輪なんて良いもの分が過ぎるし何よりこんな……」
 どんどん小さくなる零にあたふたとタヱ子が先を急ぎましょうと気を紛らわすように促す。
「さて、これで私たちを見つけてくれるでしょうか。いえ、見て受けてもらわないと」
 持ってきた懐中電灯点火、わざと見つかるように足音を立てる。
 自分たちは餌だ、さぁて、何人かかってきてくれることやら。
 ドゥン!
 廊下に出た途端銃声が聞こえた、見ると2人ほど武装した人影がこちらに向かってくるのが見える。
「間一髪ってところか、私らが指輪もらってないと危なかったね」
「そうですね、さぁ逃げましょう」
 二人は屋上へと走り始める、おいで、おいで、と。
 その時に教えてやろう、どちらがハンターなのかと。
 
 悲鳴とともに目出し帽の男が崩れ落ちる、そののど元に突き刺さっているのは泰葉の飛苦無。
 致命傷だ。
「生かしておいてもまた同じことするのは目に見える、ここで潰しておくのが得策だ」
 仲間は皆殺しにいい顔はしなかったが、泰葉はハンターを殺すことに微塵の戸惑いもない。
 考えるまでもない屑、下手に権力を持つと人間勘違いするらしい。
 自分は悪役でいい、仲間の綺麗な感情を感じることができて満足感は得たし、それは持つ感情は泰葉にとって大切にしたいものだからだ。
 さぁ腕輪も手に入れた、これでクズどもを探すのが楽になる、どんどん行こう餌食にしてやる。
 「ハンターだったと思ったら自分が獲物だったなんて知ったらどんな感情を見せてくれるのかな?」
 泰葉にとってまだまだ好奇心を満たしてくれるものはいそうだった、味方も含めて。
 汚い、綺麗、どれも、好きだ。

「ふえ、たすけて、たすけて!」
 悲痛な少女の叫び、腕や足に多数の切り傷と血がにじみ非常に痛々しい。
 少女の前にいるのは痩せた男、珍しい形状のナイフを手に少女を好き放題するのに夢中になっている。
 見た瞬間、仁は思わず反吐が出そうになった。
 手にしたライフルに力がこもる、力無き者が嬲り者にされる、弱者の気持ちを教えてやらねばなるまい。
「ひひっお譲ちゃん、次はどこを切ってもらいたい、ふひっ」
「黙れ、糞が」
 人はライフルの柄で思いっきり男を殴った、本来なら問答無用にライフルをぶち込んでやりたいところだが少女の前で血花は避けたい。
 情けない声を上げて男が地面を転がる、更にみぞおちへ一発。
 それで完全に沈黙した。
「すまない、もう少し早く来ていれば」
 あちこち傷つけられた様子の少女を見て仁の表情が歪む、感情の起伏があまり無い仁だが今回ばかりは別だ。
 自分が目の前の男に助けられたことを知ると少女の大きい目に涙があふれる、ぎゅっとじんに抱きついた。
「怖かった、痛かったよう」
「もう大丈夫だ、動けるか? 無理ならここでおとなしくしているんだ、後できっと助けに来る」
「うん、ありがとうおじさん!」
 暗い教室内において花の咲くような笑顔。
 子供故に素直で疑うことを知らない、ヒーローが現れくれたのだ、その信頼は全幅。
 けれど、仁はちょっぴりダメージ。
 そしてそれを悪を打つ力に変えて、仁は走り出す。


 あちこち撃たれて血がにじむ零とタヱ子は特設ステージにいる仮面を確認した。後からさらにドヤドヤとハンターがなだれ込んでくる。
 屋上という特設ステージ、もはや逃げ場のない袋小路未追い詰めらた子猫ちゃんたちにもはや助かる道はなく、と思っているのはハンターだけだろう。
「思ったより釣れたかな、まったく、物好きねぇ」
 零の持つ常人とちょっと違うオーラはオーラは男を惑わせるのか、変態の集まりなのか。
 女性二人を血祭りにあげて狩りを盛り上げようとするそのゲスの考えがタヱ子の怒りに火を注ぐ。
「ここからは反省のお時間ですよ」
 ただの少女なのに何だこのプレッシャーは。
 素人は素人なりに只者ではないと感じ取ったのかハンターたちの足並みが乱れる、零はその様子を楽しげにみて。
「おや? 獲物を前にどうしたのかな? 立派な狩人なんだよね?」
 さて、追い詰められているのはどっちか。
 考える暇ものなく開け放された扉から次々と現れる覚者。
 もしかして? と思うものも出てくだろう。
「いるわいるわ、飯の種がわんさかと」
 こいつら全員カメラに納めればどれだけボーナスがもらえるかと誘輔は維持の悪い笑みを浮かべる。
「数はどうだ」
「ん、こいつらで全員みたい」
 仁と紅が倒してきたハンターの数を数え共有する、どうやらおとり以外は無力化できたようだ。
「これからが本当の狩りの時間じゃん?」
 ホッケーマスクに暗視ゴーグルおまけに棄灰之刑ともはやどこからどう見ても処刑者な苦役にハンターたちは恐怖した。
 狩られる、自分たちが。
 感情の急転直下に泰葉が喜びの声を上げる。
「あはっ、すごい!さっきとは真逆な感情! いやぁ、あんたたち権力者なんでしょ? 何とかしてみなよ」
 もっと感じたい、泰葉は飛苦無をてに襲い掛かろうとする、が。
「ストップ、お灸をすえるのはいいけどそれ以上はだめだぞ」
「零の言うとおりだ、こいつらはもう何にもできんさ。しかるべき場所に突き出してやれば死ぬ以上に苦しむだろう」
「ふーん、ま、それでもいいけど」
 零と亮平に諭され泰葉はあっさりと手を止める、これだけ感情が楽しめれば泰葉にとって悪くはなかった。
「どうせこいつらは縛ってここにおいておけば何もできないよ、それよりも不安にしてるみんなを助けに行かなきゃ」
 紅の言う通りまだ校舎の中には恐怖に心を縛られている羊が何人もいる、早く安心させなければならない。
 隔者は武装を解除し校内に散っていった、哀れな獲物を開放するために。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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