【日ノ丸事変】クリアホワイト
【日ノ丸事変】クリアホワイト



 拘束され、同じ場所につまれ、瀕死の状態の能力者を嘲笑い。
 彼等の命を一瞬で吹き飛ばせる悪魔を設置する――ヒノマルの軍。
「これで全員一緒にあの世にいけるぜ、良かったな!」
 そして。

「お前が逢魔ヶ時紫雨が殺せと言ってる、子竜かい?」

 馬鹿力により上から頭を押さえつけられ、硬く冷たい地面の感触がよく分る。
 遠くでは、爆発音や建築物が崩れる戦争の音が聞こえる。
 何処かで何かが燃えているのだろう、鼻をつく煙の香りに混じって叫び声が聞こえる、嗚呼、嗚呼嫌だ、身を切られる思いだ。
「その尻尾、焼いたら美味しそうだねえ」
 竜の、真っ白い尻尾をびちびちと動かしても抜け出せるはずは無く。
「もっと逃げる事にやる気をお出しよ、これじゃつまらないじゃないかい」
「どうせ僕、死ぬし……皆僕を殺しに来てる、最悪な世界。助けてって、言ってみたけど、どうせ来てくれないだろうし」
「ああ、そうだ。今からお前は死ぬ」
 胴も両腕も両足も馬鹿太い男は詭弁に女口調で語る。
 けれど世界は捨てたものでは無い。捨てる神あらば拾う神はいつだってそこに居た。それを忘れていたのは、何故であろう。そう、正義のヒーローは現れる。
「やめぇや!!」
 学ラン姿の少年が金属バッドで男の後頭部を殴った。
「今お前が足蹴にしてる馬鹿はなぁ! こんなよわっこい見た目で、ちょっと気が触れてて、臆病で、いつでも全身マナーモードで絶賛死にたがりやがなァ……俺の大事なダチなんやァ!! だぁら助けるんよ!! 俺は馬鹿ほど力持ってへんが、こんなん『夢で視て』からに、見逃せる程できた人間でもないわ!!」
「うざったいねえ」
 小さな正義はすぐに潰される。
 太い腕が横に振られれば鈍い音と一緒に、学ランの少年が壁にめり込んだ。ずるりと落ちた身体、頭から下に真っ赤な血が流れていく。
「……あか、つきぃ……ぉ俺、が、京から、出したるさかい……!! だから諦めんなや……俺の夢はよぉ、当たるんやで。だい、じょうぶや、もうちょっとで助け、くるからな?
 『お前』は助かる……助ける!!」
 瞳に燃える炎を宿す学ラン少年は再び男へと飛びかかり、噛みつく。されど鈍い音が響いた、骨が折れる音が響いた、血が広がっていく――。

 泣き声が響いた。


「京都に、向かってくれ!」
 久方・相馬(nCL2000004)は血相を変えていた。七星剣が大規模な動きを見せた、逢魔ヶ時紫雨よりも先にヒノマル陸軍が仕掛けて来たのだ。
 彼等は『覚者組織黎明』を狙い、無差別に戦争を起こし始めたのだ。黎明の拠点は京都であった為か、今や京の街は起こるべくして大災害を起こしかねない。
「黎明の事も考えないとな」
 彼等をFiVEに招けば少年『暁』から血雨の情報が手に入れられる。だが彼等を護りきれるかも怪しければ、彼等の存在自体も怪しい。

 敵はビルひとつを占拠している。
 黎明拠点のひとつであったようだが、既に黎明の連中は全員拘束され転がされている。序にという事か、拘束されている一般人も混ざっている様だ。
 この後、大規模に爆破して、ビルごと亡きものにする予定である。付近には一般人も逃げている為、ここが落ちると被害の規模は計り知れない。
 一階から六階まで全ての階に敵は居り、爆弾を仕掛けている最中だ。三階には暁と、もう一人瀕死の少年がおり、ヒノマル陸軍の男がいる。
「この男は、ビルを占拠したヒノマル陸軍の班長だ。見た目からしてそうだが、強いから気を付けるんだぜ!! ただ、この班長が爆弾を止められる鍵を持ってる。 爆弾は10分でドカーン!するから、その前に止めるか、避難させるか、頼んだ。 無事帰って来いよな! いってらっしゃい」


■シナリオ詳細
種別:通常(EX)
難易度:普通
担当ST:工藤狂斎
■成功条件
1.被害を最小限に抑える
2.爆弾を止めない場合、移動を含めて10分以内に上記を終わらせる
3.なし
 全体ですね、宜しくです
 やる事は多いですが、やる事が多いだけで難易度相当です
 気軽に参加してください

●状況
 ヒノマル陸軍が戦争を仕掛けて来た。黎明組織を狙って京都で大規模に動き始めたのだ。
 暁少年が捕らわれ、黎明と一般人が拘束され、ビルの中でまばらに転がされている。
 どうやら爆弾を仕掛けて、派手に命ごと吹き飛ばすようだ。ビルの外には半ばパニックで逃げている一般人も多い。ここが爆破されると被害が大きすぎるだろう。その前に被害を抑える。

 FiVEの覚者は、OPの状況になる少し前に到着する。

●ヒノマル陸軍×六人
 ヒノマル陸軍は、一階を除いて各階に一人ずつ配置され、三階のみ赤井+一人がいる
 基本的にヒノマルの敵NPCはFIVEPCより強いです

・班長:赤井・殺斗(アカイ・サット)
 精霊顕現×土行
 今回の敵のリーダー格。オネエ口調だがゴリマッチョのパワーファイター
 武器はバズーカ。遠距離も可能だが、主に近距離で物理してくる

・二階 氷室(ヒムロ) 暦×水 使用武器はグレネードランチャー
 三階 殺斗 + 東(アズマ) 械×炎 使用武器は大斧
 四階 葛原(カハラ) 彩×土 使用武器は二丁拳銃
 五階 拝原(ハイバラ) 翼×木 使用武器は鉈
 六階 嘉山(カヤマ) 暦×土 使用武器は大剣

●黎明
 各階に2~4名ずつ拘束されて放置されています。瀕死の状態ですが、回復されれば戦えます

・暁 獣憑×? 使用武器:清光 三階にいます、主に下記の少年を庇うようです
・少年 ?×? 瀕死の状態、放っておくと死亡します

●一般人
 各階に5~6人程度ずつ転がされています。

●爆弾
 手動で切り替えが可能な爆弾です。今はONになり、おおよそ10分で爆発します
 2~6階まで設置されており、キーを入れてOFFへ回さない限り必ず爆発します
 ひとつの爆弾を解除できれば、連動している爆弾全てが解除されます

●建物
 6階建て、窓あります
 1階から侵入も可能ですが、隣ビルから乗り移って屋上から侵入も可能。屋上から侵入するのに、初動の時間的ロスは一切ありません
 エレベーターは使えないため、階段を使用すること
 1フロアは広いため、戦闘に支障はありません

●投票
 この依頼では新興組織『黎明』を仲間に招くか招かないかの投票を行います。
 EXプレイングにて、『はい』か『いいえ』でお答え下さい。結果は告知されますが投票したPC名が出る事はございません。
 何も書かれていない場合は無効と見なします。

 ご縁がございましたら、宜しくお願い致します
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
150LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2015年10月30日

■メイン参加者 10人■



 耳に劈く泣き声が響く摩天楼へ侵入し、上階を目指していく。
 二階へ連なる最後の階段を『狂気の憤怒を制圧せし者』鳴海 蕾花(CL2001006) が登り終えた瞬間、『独善者』月歌 浅葱(CL2000915) の脳天の毛が何かを察知して震えた。
「衝撃に備え!! ですっ」
 不意打ちに真右隣の壁が轟音と共に弾けながら砕け、爆風が襲う。
 蕾花が小脇に『女子高生訓練中』神城 アニス(CL2000023) を抱え、木端で弾丸のように飛んでくる破片を片腕で振り切る。
 三島 椿(CL2000061)は一周だけ見回し、仲間に被害が無いかを確認。浅葱が片手をサムズアップして、無事のお知らせ。彼女のお蔭で誰も怪我はしていないようだ。
 ゆらり揺れる砂煙の奥から、段々を黒い影がこちらに進んで来ている。
「ゆっくりして逝けよオラァ!!」
 影から、遂に人の姿を色濃く出る――『氷室』として捉えられたとき、グレネードランチャーの黒ずんだ口はこちらを向いて煙を上げていた。スタートダッシュを決めていた蕾花を追う形で、『正位置の愚者』トール・T・シュミット(CL2000025) が右腕を大きく振り上げ波動を起こす。
 蕾花の初撃がグレネードランチャーを盾にされ終わり、続いた二撃目が僅かにも氷室の頬を掠っただけであった。が、彼女の攻撃の意は囮、本命は後ろからやってくる鎌鼬。バク宙で飛んだ蕾花は鮮やかにトールの波動を避け、その波動は氷室に直撃したのだ。
 『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)刀の背で肩を叩きながら、のったりのったり前へと進む。
 波動の衝撃に砂煙が上がった一帯。眉間が切れ、流れた血を舐め取った氷室がニィィイと笑いながら顔を出したのだ。
「蚊でも止まった程度だぜ……猫ちゃんたちぃぃ」
「痩せ我慢すんな。正直に泣いていいぜ、痛かったってなァ!!」
 一足一刀の間合いに先に入った方が好機を制す。右足で地面が凹む程に蹴りながら、一秒よりも少ない時間で相手の脇腹を切り裂く。
 正面を向いたグレネードランチャーの、吐き出された弾は、真っすぐに椿を狙っていた。彼女は今、詠唱に手を裂いている為防御の体勢は取り辛い。
 神秘のスキルに物言わせ、規格外の速さで弾丸と並走する八百万 円(CL2000681)。椿の正面で、なまくらと呼ばれた刀を横に振るう。弾丸は真っ二つに割れてから、左右の壁にぶつかり爆炎を上げた。
「ありがとう、ございます」
「うんー。あんまりーこんなところでー体力消費したくなくなくなくー回復ちょーだい」
 円は弾丸と交差した時にできた肩の傷を指差して、椿はそれに応える。椿としては、助けてと言われて、助けられないような自分では、自分を嫌いになってしまいそう。例えそれが黎明だろうと暁だろうと、請われれば助けるのだ。
 周囲の水気に呼びかける椿。身体の中の水分さえ制圧し、高出力の癒しを与えるのだ。円だけでは無く、周囲の黎明にも。
 覚醒というエンジンをかけた浅葱。塵と埃を吹き飛ばしながら、淡い青色を華麗に纏い変化する。何時の間にか氷室の背面を取り、右手から左手へと拳をかました。
「皆様大丈夫ですか!? 暁さんの事は心配しないでください。無理せずに退避をしてください」
 黎明の舞台に呼びかけながら、一般人には避難の方向を指示するアニス。パニックにもならず、冷静に話しを聞いてくれた一般人には感謝の気持ちさえ覚える程だ。黎明は居残って、一緒に戦ってくれるようだが傷は深い。癒しを乞い、彼等に戦う力を与えんと。祈るアニスは聖女のようだ。
「この氷室様を小ボス扱いたぁぁぁ全員ぶちころすうううう!!!」
 ランチャーで殴打せんと物理的に一回転させ、前衛陣は一斉に後退した。
「ねー、何秒くらいで終るとー思うー?」
 円が耳の後ろあたりを掻きながら、全員へと問う。蕾花が首の骨をごきりと鳴らしてから、もう一度構えた。
「ここの階の、黎明の回復が終わるくらいじゃないの?」
「それって何秒ですかァ……氷室ちゃんにわかりやすく教えてやれよ、なあ?」
 刀嗣が後方の、トール、アニス、椿に目線を送った。
 三人は声を揃えて言う。

 二十秒。


「大きな音。戦闘開始の合図だよ」
 強風が吹き荒れる隣ビルから、件のビルへ乗り移った三人。こちらは摩天楼を上から下に降りていく班だ。
 六階へと降り、一歩部屋に入ればこびり付いた血臭と、足下のタイルを汚す鮮血が目に入った。
「んー?」
 三白眼の瞳が三人を捕えた。手に持つ大剣から、赤い雫が垂れている。
「派手に、やりましたね」
「だぁぁってむこうからきたしぃぃせーとーぼーえー」
 『教授』新田・成(CL2000538) は愛刀を手に帯刀してから、周囲の状況を分析していく。
 一般人は無事。
 ただ、黎明の覚醒者を思われる人が数人蹂躙されてしまっていたか。ヒノマルの男、嘉山の言動を信じるならば、交戦したものの逆に討たれてしまったというところであろう。
 到達する前に、この状況だ。元から救えない人間の数である。気にすべきところではない。他の黎明は、束になって転がされていた。一人が顔を上げ、こちらを見た。
「我々は貴方達を助けるために来たのです。三階でも我々の仲間が戦っています。上層階の敵の撃退にご助力願えますか?」
「回復と、拘束を解いていただけたら……がんばります」
「承りましょう」
 雰囲気を読んで、待っていてくれる嘉山でも無い。大剣を引きずりこちらに迫る。和泉・鷲哉(CL2001115) が前へ出ながら、すれ違い様に成へ言う。
「経験ほぼないんで指示くれたらやれる範囲でやりますんで、もしあれば言ってください」
「では早速。あれを抑えられますか?」
 あれとは、嘉山の事である。
「が、頑張ります!」
 大上段から落とされてきた大剣を、片手のシールドだけで抑えた。鷲哉の腕骨が悲鳴をあげたのは、嘉山の威力に脅威が混ざっているからであろう。抑え続ければ、骨ごと叩き潰されるのは見えている。
 押し返す、だが押し返すだけでも腕の筋に痛みが走っていく。痙攣しかける腕とは別の、もう一つの手に苦無を持ち、嘉山の肩に突き刺した。
 完全に目がぐるぐる状態でイっている嘉山の瞳が、至近距離の特等席で見える。鷲哉は背筋に寒気を感じながら、苦無を取り、一旦『願望器』ファル・ラリス(CL2000151) のいる後方まで下がった。ファルは伝えるように囁いた。
「彼等は、戦闘狂だから。何言っても、無駄だよ。今この状況であれ、彼等の望みは満たされている。満たされ過ぎている」
 首をごきんと鳴らした嘉山が更に前進してきた。大剣を振り被り、落される前に鷲哉は彼の腕を抑え込んで攻撃を止めよう抗う。
 横から成が仕込み刀を居合如く、瞬時に抜き、波動を起こす。地面を抉り、軌跡をつけながら嘉山を切り裂き鮮血を飛ばした。
 その間に、ファルは黎明の一人の拘束を解き、言う。
「さあ望みを言って。それをわたしは許すよ」
「望みか……」
「あなた達の望みは肯定されるよ。仲間を助け、危険から逃れる望みを持つ人は逃げて。そしてあなた達を助けに来た者達を助けたいのならば、立ち上がって」
 鷲哉は歯を食いしばる。腹部に貫通した、大剣を抑え、嘉山の腕ごと抑え込んだのだ。
「ぬけなーい」
 嘉山の動きの停止が、好機を産む。
 鷲哉にあてないのは当然の事。斜めの位置に立位置を取り、再びの波動を力任せに解き放つ。吹き飛んだ嘉山の身体は、大剣を置き去りに壁に衝突して落ちる。壁には真っ赤な絵の具をぶちまけたようなアートを残しながら。
 剣を腹から抜いて、鷲祐は剣を放り投げた。よろける足下を見てから、黎明へと向く。
「俺達はこれから……なんつたっけ……ヒノマル陸軍のやつらぶちのめしつつ一般人の避難とか、色々やんなきゃなんだけど」
「え、えぇ」
「よかったら協力してくれないか? 俺、こんなんだし……でも、戦闘が難しいなら、ここにいる一般人の避難の手助けでもいい。手を、貸して……欲、しい」
 黎明がファルへ向き直った。どうするの? と言う少女の目線が純粋無垢に色輝く。答えが来るまでファルは問いを続けるのだろう。
「わかったわ、私達で良ければ」
 起き上った嘉山が大声を張り上げ言う。壁に寄りかかりながらの彼に、成は刃を喉元にあててひとつの提案を出した。
「黎明組織は三人、私達を加えて六人。貴方が相手できる人数ですか?」
「そのきになればねえ」
「では、その気になりますか?」
「あんたらといっしょにしんじゅうは、かんべんだから。ここらでてったいするよーだめ?」
「……その言葉に信用度がどれ程ありますでしょうか」
「おれよわいのをふみつけるのすきだけど、つらいのと、いたいのはきらいだよ」
「左様ですか、では」
 刃を仕舞い、成は数歩下がった。
「へへードウモ、じゃあね」

●諏訪刀嗣の回想
「おい、あの暁ってのは拾い子か何かか?」
「いんや? 何いってん、あいつは俺の友達やで」
「あー、そうかい。そりゃ愉快なこって」
「おう! 見目相応に不幸なやつでのお、暁の姉ちゃんは行方不明、妹は一般人なんに俺達能力者に武器むけてくるんよ」


 小さな暁に重なった巨体は笑った。他者の人生など、奴等にとって足蹴にするもの以外では無い事は明白であった。今この場でも、バズーカを振り上げ命を奪う事に躊躇いの一文字も無く。
 そして、振り落された。

「――暁さん!!」
「助けに来たわ」
「竜っ子! もう少しだけ耐えろ!」

 声が響いた時、白いマフラーがふわりと舞う。
 殺斗の攻撃は浅葱が身代わりとなっていた。機械化した片腕だけでランチャーを掴み、笑う。押されながらも押し返して負けず、高らかに宣言をするのだ。
「天が知る地が知る人知れずっ! 暴漢退治のお時間ですっ」
 正義の味方とは、何時でも何処でも気まぐれに現れるもの。敵の武器を弾いて、二歩程後退。間合いを取り、ナックルを構える。
「出たわね、本当は貴方達が目的なのよん♪」
「お前らたちこそなんだー。でんでん丸はボクが拾ったんだぞー」
 殺斗が忌々し気に目線を横に移動させた。円が暁を引っ張り、蕾花が少年を抱えていた。
 暁は円の首に両腕を回して抱き付いた。
「来てくれたあああ!!! あれこれ夢かな、夢だよね、終った僕人生終った!」
「うん、来たー、確認させてあげるー」
 円は彼の頬を引っ張り。暁は「現実だ!」と叫んだ。
「お前しっかりしろ!」
 対して蕾花の抱える少年からは応答が一切無く、意識不明の重体という言葉が非常にお似合いだ。それを後衛陣の所へ持っていきつつ。椿に渡して、回復を頼む。
「いつまで和んでるつもりよ」
 束の間の雰囲気に放置されていた殺斗がランチャーを振り上げた。正面に立つ、刀嗣が切っ先をあわせる。
「オイ、不細工ゴリラ。臭い息吐くんじゃねえよキメェ」
「あ? 女性に対して口の利き方がなってないわね」
「哀れんでもう一度言ってやる。不細工ゴリラ。因みに雄のゴリラだ、覚えておけ」
「ああ゛!!?」
 殺斗が右足で地団太。コンクリートが削れ、破片が飛び、衝撃にビル全体が揺れた。ついでの咆哮に、空気が揺れる。
「聞き捨てならないわ! 教育が必要そうね!! 東ァァ!!」
 浅葱にタックルをかました東。片腕が変化、巨大な斧になった男が割って入り斬りつける。懐から斜めに傷が入った刀嗣だが、日々、両腕を飛ばされたり腕を飛ばされたりしている彼に、今更その程度の傷で痛いと思う事は無い。
 すぐさま、椿が詠唱を行った。片手では絶えず血を流す少年を持っていたが、器用にも、もう片手で術符を並べた。
「僕が護るから、遠慮無く、回復してね、お姉さん」
「ええ、お願いね……絶対に、治して見せるから」
 にこ、と笑った暁に、椿はこくりと頷いて答えた。回復の、冷たくても清涼された霧がその場全員の傷を少しずつ埋めていく。
 トールが回復の詠唱を唱え始めつつ、
「必要以上に煽ってどーする!」
「ケッ! 知らねーよ。合わせろ」
「仕方ねえなぁ!」
 回復の祝詞を打ち止め、今、東を殺斗は一直線になっている好機を見逃す訳にはいかなかった。
「餓鬼が増えた所で、なんだっていうのよ。その顔面、オブジェみたくぐっちゃぐちゃにしてやるから覚えてなさい!」
 トールは術符を指に挟み、振り上げる。空中を裂く刃が弧を描いて飛び、刀嗣のが横に刃を振れば十字となった鎌鼬が東と殺斗を轢いていく。
 トールは今度は術符を並べながら、今度こそ回復の詠唱へと入る。十字を破りながら、憤激する殺斗へ更なるガソリンを注ぐのはトールの役目だ。
「オレらじゃ楽しめないか? 『オッサン』よ」
「極刑ィィ極刑だてめえらクソガキどもぉぉ!!」

「暁さん! お助けに参りました!! 無事でしょうか!?」
 アニスの両手が、血塗れた暁の手を握った。瞬きしてから彼の頬が朱の色を魅せたのは一瞬。
 チラと見た先には少年が居た。椿が今、周囲の水気に呼びかけて彼を治している最中。落ち込みを現すように尻尾が地面にへたりこんだ。それを察してか、アニスはいくらかどう話しかけていいか迷いながら、
「彼も助けますので……でも、よかった……間に合って……よかったです」
 安堵して欲しいのだ。その一心で、笑顔を向けた。

●鳴海蕾花の回想1
「暁、この少年とは友達なの? 何時から知り合った仲間だい?」
「うん、友達。何時からって……結構小さいときからかな」


 六階の避難を一般人と黎明一人に任せ、五階へと降りる。
 フロアに入る前に、壁に背をつけ中を恐る恐る見れば、爆弾に夢中になっている男と、壁にまばらに転がされている一般人と黎明と思われる人々。
 三人は顔を見合わせてから、一度頷く。ファルが抜き足差し足でフロアに侵入しつつ、一般人や黎明にしー……と人差し指を立てた。
「やっぱり爆弾っていいっすよねえ、なんてたって手っ取り早いし派手っすから!」
 愛いものを愛でるような手つきで爆弾を撫でる男の、遠距離位置まで距離を縮めた時。ファルは空気中の水分を圧縮した弾丸を撃つ。
 五階のヒノマル陸軍――拝原は、突如背中に激痛が走った事に叫び声をあげつつ地面を転がった。
「え!? 何、一体なんなんすか!! って侵入者!?」
 すぐに体勢を立て直した拝原だが、成と鷲哉が同時に突っ込み――右と左から刀と苦無で挟み込む。鉈を器用に回転させ、苦無と刀を弾いて攻撃を回避した拝原は空中に飛び三人から距離を取った。
 後衛で構えていた六階の黎明二人の武器は弓と拳銃。矢と弾丸を鉈の横を使って盾として防ぐ。
 仕込み刀を鞘に戻し、杖をついた成。一般人が多く寝ているほうに少しずつ歩きながら、拝原を刺激しないように声を柔らかくする。
「鉈……を持っているにしては、俊敏な動きですね」
「お誉めにあずかり光栄!」
 ファルは黎明に駆け寄り、癒しを請う。そして再び問うのだ、「どうしたい?」と。ここのフロアの黎明は二名、両人とも男である。
「うう、俺等は巻き込まれただけなんだ……」
「暁は、大丈夫!?」
「その少年は大丈夫だよ。もう一人のほうも、仲間がきっと助けているよ。さあ、貴方達はどうしたい――?」
 残るか、逃げるか。どちらを選ぶにしろ、彼等の選択は彼等の意思だ。ファルはそれを否定しない、肯定する。他人のために戦える彼等はなんと輝かしいものか。結果的に今の行動で仲間が増え、三階の少年の手助けになるのならそれで良い。友達のために無力なりの矛を取るそれに、手を差し伸べない訳には。願望機としては、動かずにはいられないのだ。
 果たして、決断は。
「お、俺は、一般人だけど京に住んでいる妹が心配だ! すまないこんなところで時間を喰うわけには!!」
「僕も、恋人が!! 別のヒノマルに襲われているかもしれないから、……ごめん!」
「でも幼女ちゃん。君の、いや! 君達の恩は忘れない」
 二人の黎明男子は、回復され拘束を解かれた瞬間、ファルを一度抱きしめて、撫でてから思い思いに走っていく。
「その理由なら、仕方ないよね。その選択を尊重するよ。例えその先に何があったとしても。妹さんも、恋人さんも、無事だといいね」
 後姿を見送るファル。
 彼等の言動に一切の嘘は無かったと断言が出来る。黎明が、隙をつかれて戦争を仕掛けられたのだから、理由が各々違うのは当然の結果であった。
 遺憾甚だしいと、拝原は鉈で鷲哉の身体に傷を刻む。
「折角捕まえたのに! ……そんな逃がされたら、俺、赤井さんに怒られるじゃないっすか!」
「そんなの、知るかっての!!」
 ぼろぼろの服、合間から見れる数多くの傷。鷲哉を支えるファルではあるが、積み重なるダメージが修正が効かないところまでに達していた。
 命を燃やして立ち上がる。痛みに全身が叫び声をあげていたが、一度自分を殴ってから奮い立たせる。足下から燃え広がる炎が、彼を護るようにして渦を巻いた。
「そうこなくっちゃ!」
「戦争が好きならとことん付き合ってやる。だが周囲に被害は出さないで欲しいもんだ」
「難しい案件だねえ」
 炎を纏う拳で、鷲哉は拝原を殴った。首が真横まで曲がった拝原だが、すぐにゴキンと首を戻し狂人的なまでに笑った。
「楽しいよ、そういうのすーごい楽しい!」
 蔵王を纏い、成は拝原後方を位置取った。鷲哉に気を使った形ではあるが、前衛へと成を押し出し前後を固める。
 抜刀、切り刻む――拝原の左側の翼が、一枚一枚の羽になって舞った。片翼を失くした事に拝原は右眉をぴくぴくさせて猛抗議したのだが、怯まない。
 ファルの詠唱が歌となり、癒しとなる。術符が彼女を囲んで、淡く光り出した。降り注ぐ水行のあたたかい雨。
 されどその時には、成は気づいていた。聴覚に響く、何かが駆け上がってくる音。下階は何故だか、静かだ。それの答えはたったひとつ。
「後ろです!!」
 吼え、ファルへ向かおうとした成だが、拝原が右足を切断した為に地面に倒れ込む。

 ――刹那、銃声が響き、ファルが膝をついて倒れた。

「煩いって思ったらこれだ。拝原、新興組織だなこれらは」
 四階に居たヒノマル――葛原であった。


 ゴリラくらいには大きい殺斗の手が円の角を掴み、地面にぶつける。穴が空く程の威力で落とされた。
 真っ赤に染まった顔面を上げ、血を啜り、元から赤い戦闘服が更に赤で染まる事も気にせず。円は二刀の得物で、まず右を横に振り、左で縦に切り裂き傷を与える。
 殺斗の右を取った刀嗣。だが間に割り込んで来た東が斧で刀を受け止め、攻撃は失敗に終わる。
「さっきから俺様にふっついてんじゃねーよ、クソッタレが!!」
「そっちこそ、殺斗様にふっついてんじゃねえよ!!」
「ああ? てめーゴリラ……このクソブタゴリラが好きなのか?」
「はい!! あ、あの、君も、そのっ」
 ぞわっと。刀嗣の全身に寒気が走ったという。なんでだろうか、東が刀嗣を視る目線も何か別の意味が込められている気がする。
 跳躍した蕾花が両足を揃えて東の顔面を地面に叩きつけた。念入りに地面に頭を押し付けつつ、殺斗のランチャーがぶん廻されてきたのを、再び跳躍して回避。
「あんたら……始末するのはあたしらだけで十分なはずだ、どうして一般人まで巻き込む」
 蕾花の片手が拳に握られる、強く、強く。
「うふふ、そうねえ。強いて言えば、戦争が好きだからよ。究極の娯楽。最高のスリル」
 握られた拳に血が流れた。鋭い猫の爪は、今や自分の拳を傷つけ、それさえ気づけない憤怒に染まる。今や、蕾花が嫌う憤怒者よりも殺戮対象だ、今、この時だけ。
「理解されようと思ってないわ。でもね」

 ――戦う為にここに存在するのは一緒よね。

 ゲラゲラ笑うヒノマル陸軍。
 空気中を裂く。高速で運ばれてきた水弾――トールが放ち、それは殺斗の頬を掠って空気中で分解していく。
「うるせえ、俺達は今戦争を止めに来た、それだけだ!」
 小さな身体で迫力ある物言いに、東が目をぱちくりさせた。殺斗は、震えながら頬へ手を伸ばし、傷の箇所を撫でる。血が出ている。顔に傷が残る。
 馬鹿でかい咆哮が空気を振動させた。殺斗はランチャーを構え、迷わず撃つ何度も何度も何度も。トールは彼女、いや彼を怒らせた。連なる弾丸がトールを目指し、両腕で防御の姿勢を取り目を瞑る。
 暁がトールを守った。全て斬りさき、弾丸は空中で分解していく。
 両腕が刺青のような赤い線が入り、爪は恐ろしく長い。暁のフードが落ちた。強烈なまでに耳にピアスを入れ込み、べろっと出した舌にもタンピアスがうたれていた。
「君、さっきから鍵の在処探してくれてるんでしょ? もう少しだから頑張ってよお!」
 暁は滝のように目から水を流して、トールを揺さぶる。
「そうだな、竜っ子がそんなに身体張ってんだ。オレたちがそれに応えなくてどうするよ!」

「う……」
「大丈夫ですか?」
「なんやアホみたく騒音で起きたわ……姉ちゃん誰やねん!」
「ええっと」
 少年が起きる。椿の懸命な治療もさることながら、周囲の黎明も武器を取り奮い立った。
 殺斗の矛先は今、トールに向いている。回復を一点に厚く起き、そして、鍵を奪い取るチャンスを探すのだ。
 浅葱の片手が殺斗の頬を穿つ。指折り鳴らして、二撃目は左手。小さな身体にどこまで力があるのだろうか、腹部にめり込むまでに殴った事で殺斗は低い声を出しながら宙に浮かんだ。
 だがしかし、浅葱の攻撃はフェイクである。
「ふっ、二連の一撃本命はどちらか分かりますかっ」
 身をひるがえし、宙へ飛んだ浅葱の後方。
「正解は……仲間の攻撃ですよっ」
 術符を並べ、それらが多彩な色に輝きを乗せた時。殺斗の身体が神秘の水に射抜かれた。
 どれだけ殺斗が言葉を並べようが、アニスの心が絶望に染まる事は無い。歯噛みしようが、後退しようが、吐こうが、この場から逃げぬ選択だけはしないアニスには、諦めという言葉は辞書にない。
「私は貴方達をお止めする為に戦います……! ここに助けられる命があるのであれば私は諦めません!」
 アニスの呼び声に目を覚ました黎明の後方部隊三名が、全員同時に銃を構え、アニスを中心に置いて立った。銃声銃声銃声、重なる轟音の数だけ殺斗に穴があいていく。
「殺斗様!!」
「どこまで私を、怒らす気ぃぃ!!」
「て~や~」
 本気の本気。口ではゆるふわな円ではあるが、両手に持つ刃は彼等を潰す心算なのである。一撃は無慈悲にして、容赦無し。ランチャーを持つ左腕を胴体から切り離し、殺斗の体勢を崩したのだ。
 トールは直観に思わせて思考する。鍵があるなら、何かしらポケットが膨らんでいてもいい。だがそれらしいものは見当たらない。軍服の後ろか、いや、こいつはもっと周到なはず。
「鍵は、どこなんですか!!」
 椿は叫んだ。わざと、探していると魅せる事により相手の隙を伺う為に。
「わからないでしょ? ふふ、見つけられる訳が―――」
「お前、飲んでるな?」
「な、な、ななななななな!!!?」
 それが分れば上出来だ。
「浅葱」
「はいはいっ、言いたい事は大体わかってますよぅ!」
 蕾花と浅葱が並ぶ。拳を突き出し、足に力を込めて『期』を伺うのだ。
 トールの詠唱が水槍を形成――撃ちこみ、狙うは東の方だ。彼が械として体力が高い。同時にそれは、殺斗を庇う可能性が高いという事だ。
「先におねんねしてなァ!!」
「ボク、ちょっとおこなんだからね~」
 刀嗣と円。東の左右から挟み、彼を翻弄した。どちらから来るか、右か、左か、それとも同時か。
 東なりの計算の中では、斧を一周振り回してしまえば、どちらが突っ込んで来ようとカウンターが可能であると考えた。体力的な計算としても、彼等があと一撃を受ければ倒れるであろうものだ。
 だがひとつ、計算外であったのは、暁が背中で隠していたトールの存在だ。丁度、東の位置からでは彼は小さくて見えない。
「あたれええええええええええええええええええ!!」
 トールは叫んだ。そこから飛んできた水槍が斧を弾く。
(う そ だ ろ ?)
 東は、正直にそう思った。
「命乞いの時間ははなからねェよ!! 冷たい獄中で臭いメシでも食って懺悔しな!!」
「げきおこーぷんぷんーまるだぞー」
 長さの違う両刃が、同じ右手同士で振られ、斬られ。回転しながら鮮血を飛ばした東は、当戦場では二度と起き上る事は無い。
「あ……あず、ま?」
 額から汗が流れた殺斗。その時、蕾花と浅葱は瞬発、殺斗の懐に入り込む。
 足に力を籠め地面が抉れた。衝撃を味方につけて、足から発生する威力を拳に伝える。腰を回し、威力を底上げした蕾花と浅葱の右ストレートが、
「ぐっ、ぶっぼええぇ!!」
 馬鹿硬い腹筋の中に突っ込まれた。胃液を吐き出しながら、巨体が宙に浮く。
 椿は翼をはためかせ、前へと飛んだ。キラリ、光るのは鍵であろう。正直、あまり触りたくないものだが、命のやりとりをしている戦闘でそうも言ってられない。
 空中でキャッチした椿は、滑り込むようにそのまま爆弾へと飛んでいく。小さな鍵穴、未だ時間は三分はあるのだが、急げば急ぐほど、鍵穴に鍵が入らない。
「お願い、入って……」
 ガチャ。
 手首を捻り、回転させる。無機質な音が流れたあとで、小さくなっていく数字が止まった。
「やったわ!」
 これで、連動する爆弾は全て止められたはずだ。

●蕾花の回想2
「以前、血雨になった村で暁と会ったんだけど……暁が一人で村にいたのは何かの命令だったワケ?」
「ああ、彼の自己判断ですよ。夢見が村にいるから、黎明の組織に入って貰って助けて欲しいから会いに行ったのだけど……ね」
「あんたらの所、夢見はいないの?」
「いるよ、少数ね。でも夢見が都合よく私達を護れるような夢を視るとは限らないわ」


 ファルの背中が朱に染まる。ワインでも零したような、綺麗な色が広がっていく。
 葛原がファルを足蹴にする前に、黎明の女はファルを抱えて下がった。だが下がった先には拝原が居る。
「階段降りる奴はスルーしたがなあ、他にもねずみは居たんだなあ」
 ヒゲを擦りながら、葛原は拳銃をぴたりとあてた。双子の拳銃が仲良く轟音を広げ、成の脇腹を穿つ。
 自由に動ける鷲哉が葛原へ向かい、されど、向かい際、背中に刻まれた赤い線から血がどっと溢れだした。体力も少なく、既に命数は飛ばしている。次倒れたら、駒数は減るのだ。
「ここに来て、新キャラとはなあ」
「すまんな、これも戦争なものでな」
 苦笑いをする鷲哉。状況は至極深刻である。ちょっと傷をつけただけで撤退した嘉山が可愛く見えて来た程だ。
 苦無を突き出し、喉元を切り裂く。対して葛原は至近距離から鷲哉を撃った。腰に貫通していく弾丸。
「望みを肯定したから、倒れる訳にはいかないよ」
 しかしファルが鷲哉も成も護った。正にこの班での重要な要である。上からの班は、人数的に圧倒的不利である。確かに黎明の兵もいるのだが、主力は黎明では無い。
 回復が無ければ、ファルがいなければこの班は崩壊が早かったであろう。願望機は、仲間の意思を繋ぐ願望機としても役割を果たしていると言えよう。
 今も、癒しが降り注ぎ成は動け、鷲哉は最後まで立っていられるのだ。
「諦めないって超美学っすね! いいっすよ、何処までも続けようじゃないっすか。楽しい戦争、潰されるまで終了しないっすよ」
「確かに我々は貴方方を倒せないのかもしれません。ですが、持久力と粘りだけはあります。だから、負ける気は致しませんね」
「おじいちゃん怖いっすね。誉めてるんすよ?」
 成の刃と、拝原の鉈が交差した。相手は右肩が斬れ、成るは左肩から右腹部にかけて多大な傷を残す。お互いの得物が赤に塗れ、次撃を打たんと舞った。
「そちらが退こうが留まろうが、我々の利益になるのですよ」
 再び、刃散らすクロスカウンターを剥き出した……所で。

 ――無機質な音が響く。

 ぴたりと攻撃が止まった。成が見た拝原の顔が段々と青白く染まっていく。
「……どうやら、勝敗が決したようですね」
 成は刃を収め、杖へと戻す。成と葛原の顔を交互に見ていく拝原。
「拝原、撤退だ」
「作戦失敗っすか!? 俺等しばかれる!!? そんなあ! 楽な戦争なハズだったじゃないっすか!」
「殺斗様が倒れたという事だ。乱暴様に申し訳が立たんな。我等が負けだ、ここは制圧不可能だ」
 溜めこんだ空気を吐き出した鷲哉。
「お、終りかあ。あいつら上手くやったのかな」
「おかげでこっちは大変だったよ」
 ファルが唇を尖らせながら、詠唱を行った。
「新興組織の諸君。次なる戦いはもっと楽しくなる事を願うよ」
「出来る限りお断りしたいです」
 鷲哉は首を横に振った。


被害は零と言っても過言ではない。優秀な十人である、すべてを守り通したのだから。
 殺斗が東を抱え、撤退した後。静けさの増した屋内。今更であれど、暁は椿と向き合いながら呟いた。
「どうして、来たの? 来なければ、良かったのに」
「助けてと言われたわ。だから、助けに来た」

「前にどっかで見たことあるような気がするっつってたな? 思い出せるようによーく教えてやる」
 刀嗣は暁の喉を切り裂き断首する勢いで、刃を首にあてた。
「櫻火真陰流、諏訪刀嗣だ。二度と忘れるんじゃねえぞ」
「……やだなあ、刀嗣くん。ハジメマシテ、だよ? 道端の虫踏んだって覚えてる訳ないでしょ」
 辛辣な雰囲気に、トールが咳払いした。
「お前の望みは何だ」
「僕の望み……? 仲良くしたいだけだよ。僕は君達に危害は加えない、約束する」
「さぁ、参りましょう? 私は貴方を助けにきたのですから」
 アニスの細く長い指を開き、暁へと手を差し出した。
 この手を取るのは始まりに過ぎないであろう。血塗れて赤い爪が鋭く伸びた悪魔の如き手の平が、何度か彼女の手を取るのを躊躇ったが。
「……もっと早く出会えていたら良かったのに」
 暁はアニスの手を取った。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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