武を求め二匹の鬼が仁王立つ
【夜行武闘会】武を求め二匹の鬼が仁王立つ


●前回までのあらすじ
 夜行武闘会――
 六十年に一度行われる古妖の武闘大会である。ルールは殺し禁止の勝ち抜け戦。武器や術式の使用も可能ななんでもありな戦いである。
 だが大会の敗者が忽然と姿を消した。彼らは戦闘不能になったところを大会主催者の妖狐に拉致されたという。
 妖狐の目的は『武神の衣』を用いて武闘家たちの技を奪おうとするものだった。世を騒がす大妖を討つべく力を求める妖狐。その目的を知った覚者達はどう動くのか。
 そして決勝戦で待つのは二匹の鬼。『努力する天才』ともいえる鬼の武闘家との戦いに勝ち抜くことが出来るのだろうか!

●決勝戦
「夜行武闘会、決勝戦! その武舞台は何と雲の上だ!」
 武舞台に立った覚者達は雲の上に立っていることに気づく。白い雲は地面と変わらぬ感触だ。その雲が地平線ならざる雲平線の彼方まで続いている。幻想的ともいえるが、これも妖狐が敗者を攫うためのカモフラージュなのだからいい気分にはなれない。
「成程。決勝は余計な邪魔はせぬという事か」
 赤鬼がぼそりと呟く。準決勝までは様々な幻術で足止めや傷を受ける事があった。だが今回はそれはない。互いの実力の身で勝敗を決めろ、という事だ。
「敢えて棄権し、安全を図るという選択もあったのだが……それが人間の選択か」
 青鬼は覚者達に向けて静かに告げる。妖狐の企みを考えれば、ここで棄権して別の機会に妖狐に挑むという選択肢もある。敢えて『武神の衣』に吸収される危険に身を晒すことはない。
 だがここに立つ者達にはそれよりも重要な何かがあった。その何かにかけて、退くつもりはなかった。
 戦う意思を見せた覚者達に鬼はゆっくりと構えを取る。無手の拳法。それを鬼が構えればこうなるのか。
「それでは決勝戦……初め!」
 開始の合図とともに、歓声が沸き上がる。どうやら幻術の外からは、こちらの闘いが見えているようだ。
 古妖達の歓声に背中を押されるように、覚者達は天空の武舞台で舞う!



■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.鬼に勝利する
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 難易度が難になっています。参加の際はご注意を。

●敵情報
 鬼(×2)
 頭に角を生やした男性型の古妖です。様々な民話に書かれている古妖で、物語によっては悪の象徴であったり、神格を得ていたりします。
 ここにいるのは武の修行のためにさすらう赤鬼と青鬼です。特定の地方に根付いている存在ではありません。赤鬼が一芸を極めるタイプで、青鬼が手広く技を学ぶタイプです。

攻撃方法
・赤鬼
二段突き 物近単 テンポよく突き出される拳。【二連】
鉄菱   物近単 拳を特殊な形にして突き出し、強い衝撃を与えます。【解除】
鬼面   特遠全 怒りの気迫をぶつけ、行動を制限します。【ダメージ0】【混乱】
不屈の志  P  追い込まれた時こそ冴える心。『発動しているBS×50』点物攻上昇。
鬼神乱舞 物近列 敵陣に踏み込み、手足を荒々しく突き出します。【消耗HP100】【三連】【未解】【格闘】

・青鬼
針山地獄 物近貫3 鋭い突きが衝撃波となって貫きます、(100%、50%、25%)
火炎地獄 特近単  地獄の炎を拳に纏わせ、殴り掛かってきます。【火傷】【不安】
天鬼の相 自付   鬼の構えの一つ。【強反射】
地鬼の相 自付   鬼の構えの一つ。【強カウンター】
三歩破軍 物近単  三歩あれば倒せる。拳法の理念を昇華した技。【溜3】【必殺】【未解】【格闘】

●戦闘後
 妖狐に会いに行くことが出来ます。
 激戦の後なので戦闘行為は難しいと思ってください。

●場所情報
 無限に雲が広がる空。そんな幻術に彩られた武舞台です。特殊なギミックはありません。足場、明るさ、広さなど戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『赤鬼』『青鬼』がいます。戦闘開始時の覚者との距離は一〇メートルとします。
 一礼して戦闘開始のため、事前付与は不可とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年12月15日

■メイン参加者 6人■



「巖心流、獅子王飛馬。行くぞ」
『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は二本の太刀を持ち、鬼に向き直る。防御に秀でた飛馬の流派。祖父は覚醒した者相手に挑み、凌ぐことに成功した。それよりも強い鬼が相手だ。今まで培ってきたもの全てをぶつけ、勝利しなくては。
「あいつらを倒した奴やからな。気合入れていかな飲まれるわ!」
『仮面の雷使い』の顔を思い出しながら『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が笑みを浮かべる。何度かしのぎを削りあってきた相手。それを倒したのだからその実力は推して知るべし。鬼と呼ばれる古妖の強さに武者震いを感じていた。
「相手にとって不足なし。僕達が受ける私情も、与える私情も今は一切無しだ」
 水蓮寺 静護(CL2000471)は鬼達を見て静かに告げる。武舞台に立った以上、一切の情は不要。勝つか負けるか。そのどちらかだ。相手のことを慮って負けることなど、剣の道を歩むのならありえない。
「小細工が通用しない程に一芸を極めた鬼と、手広く技を学んで様々な状況に対応できる鬼か……」
 鷲の形をしている依代を飛ばし、『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は思考する。単体でも強いであろう鬼。それぞれがそれぞれの鍛え方で武術を学んでいるのだ。生半可な攻めでは打ち崩せないだろう。どう攻めるか。それを考えていた。
「ここまで来たからには必ず優勝して……そして」
 三島 椿(CL2000061)は頬を叩き、活を入れる。考えていたのは少し前の事。だけど今は余計なことを考えている余裕はない。何をするにせよ、ここで勝たなければ次がないのだ。今は目の前の闘いに集中するぞと息を吐いた。
「鬼さんたち、待たせたな! オレは待ってたぜ、あんたたちと戦えるのを!」
 空手の構えを取り、『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は戦意を露わにする。夜行武闘会の陰謀や妖狐の企みなど思う所は色々あるが、遥がこの大会に参加したのは強い相手と戦うのが目的だ。そして今、その頂上対決。否応なしに心躍ってくる。
「来るがいい。我が武、我が道、全てをもって応えよう」
「示すがいい。汝らの武を」
 赤鬼と青鬼もどこか重々しい声で覚者達に応える。その声に奢りなく、その声に猛りなく。日々修練を積むが如く、戦いに挑む。目の前の相手が龍であっても童子であってもその声は変わらない。武をもって挑むなら、武を持って返す。それだけだ。
「決勝戦、初め!」
 視界の声が響く。天空の武舞台の上で、鬼と人がぶつかり合う。


 覚者達は鬼二体を弾き飛ばし、それぞれ別れて戦おうとする。
 だが鬼のバランスを崩すことはできるが、そこから弾き飛ばすとなると容易ではない。
「あかんわ! これ以上試す余裕ないで!」
 弾き飛ばそうとした凛が無理を悟って皆に告げる。覚者達も無理だった時のことを想定していたのか、停滞することなく作戦を変更する。
「よろしくお願いしますっ!」
 挨拶の後に遥が構えを取る。拳の大きさ、腕の長さ、踏み込みの強さ。どれをとっても人間と鬼では比べようもない。だからこそ、と言わんばかりに笑みを浮かべる。自分より強い相手に挑む。それが武術の起こりだ。
 鬼よりも体躯に劣る遥は、しかし臆することなく鬼の懐に踏み込む。相手よりも小さいがゆえにできる戦術。踏み込んでしまえばあとは空手の間合。重心を落とし、正中線を強く意識する。幾度となく繰り返された蹴りが鬼達に放たれる。
「オレの全てを見せてやる!」
「ならばこちらもそれに答えるのみ。鬼の拳を受けるがいい」
「こっちも忘れてもらったら困るで!」
 滑るように踏み込む凛。その目で鬼の動きを追いながら、それを追うように足を動かす。足運びは武術の基本。鬼の円を描くような足の動きに舌を巻きながら、それを顔に出さずにさらに踏み込む。
 様子見や出し惜しみをする余裕はない。自分が持つ最大の技を出し、鬼を責め続ける凛。意識するのは一秒後の自分。体を動かしている間にさらにその次の動きをイメージする。思うと同時に動く。剣心一如の現れ。
「人と鬼と、何が違うか見極めさせてもらうで」
「幾多の鬼を圧倒した人の剣術。その神髄を見させてもらおう」
「なるほど、金棒を使うだけが鬼ではないという事か」
 鬼の拳をガードした静護は痺れと共にその強さを痛感する。金棒を使う鬼。その痛々しく見える外見と重さに目を盗られがちだが、鬼自身も金棒に負けぬほどに強い。それが徒手空拳を学んだのだ。その結果を噛みしめ、柄を握る。
 心を鎮め、構えを取る。鯉口に指をあて、柄を強く握って抜刀した。先ずは横に一閃。手首を捻り鬼の足元を切るように刀を振るう。まだ止まらぬと刀は跳ね上がるように下から肩に跳ね上がるように振るわれ、最後に首を刎ねんと煌めいた。
「『四の刃・閃』――!」
「見事。この目をもってしても残像しか捉え得ぬ」
「あの大きさであの動き。成程、武の動きだ」
 青鬼の回避を見ながら、ゲイルは冷や汗を流していた。体重の大きな生き物は急な方向転換ができない。背骨を幹とした体の動き。それが巨躯ともいえる鬼が、体重に振り回されない動きができる秘訣だ。それは構えの基本。それ故に最も重要な事項だ。
 仲間達の状況を見ながら、数秒先の未来を見据える。闘志を滾らせながら、頭は冷静に。数防御に想像される惨事を回避すべく、ゲイルは水の源素を練り上げる。回復の力を源素に込めて、霧状にして仲間に解き放った。
「気の遠くなる鍛錬の成果だな」
「愚直に続けた結果だ。滴が岩を穿ったにすぎぬ」
「それは愚直じゃないわ。努力というのよ」
 鬼の言葉に静かに椿が言葉を返した。安寧の日々や享楽を捨てて一つの事に邁進する。それは傍目に見れば幸せを捨てているようにも見えるだろう。だがそれで得られる物もある。それを愚とは言わせない。
 相手のことを尊敬し、その上で挑む。それが敬意とばかりに弓を引く椿。足を肩幅まで広げ、全身で弦を弾く。射法八節に沿った体の動き。放たれた矢は鬼の肩に突き刺さった。それを確認するよりも早く、次の矢を番えている。
「勝たせてもらうわ。貴方達の強さに」
「乗り越えよう。決勝の地に立つ覇者に」
「あんたらみたいに強そうな奴らと戦えるのは光栄ってもんだぜ」
 顔に笑みを浮かべる飛馬。背筋が震えるのは武者震いだ。身体能力的に強い相手とは、何度も戦ってきた。だけどこれは強さの意味が違う。飛馬と同じ『武の頂を目指す』相手との戦いだ。それが心奮えぬわけがない。
 飛馬は攻めることなく防御に徹する。それは勝負を諦めたのではない。巖心流の進化は防御にある。鬼の武技を受けて倒れぬこと。それが飛馬にとっての勝負。勝負に勝つために味方の盾となるのだ。二本の太刀は八重の垣根。剛腕を止める銀の防壁。
「巌心流、本気の守りを見せてやるぜ」
「うむ、まさに銅牆鉄壁。噂に違わぬ守りか」
「それを打ち砕く事もまた、武勇なり」
 覚者が強ければ強いほど、鬼はそれを乗り越えようと剛腕を振るう。
「流石やな。でもまだ負けへんで!」
「これでこそ倒しがいがあるというものだ」
 凛と静護が鬼の技の前に膝をつく。命数を削って何とか起き上がる。かぶせるように治癒の術が飛ぶが、完治とまではいかない。
 鬼にもダメージは与えているが、怯む様子はない。まさに鬼のごとき強さ。覚者達はそれを肌で感じていた。だがそれで心が折れる者は武舞台にはいない。
 戦意は更に燃え上がり、その熱意を神具に乗せて覚者達は鬼に挑む。


 一撃一撃を正確に打ち込んでくる赤鬼。
 状況に合わせて構えを変える青鬼。
 単純な肉体の差もさることながら、その技量は並の格闘家を大きく上回っていた。仮に体躯が人同然であったとしても、相応の敵にはなっていただろう。
「いってー! 流石にきついぜ!」
 青鬼からの交差の一撃で、遥が崩れ落ちた。命数を燃やして活力と化し、何とか起き上がる。
「まだ倒れねーぞ!」
 鬼の矢面に立ち、攻撃を受け続けていた飛馬も命数を削られる。肩で息をしながら、太刀を杖に立ち上がる。
「まさに鬼の形相。対策がなければ危なかったかもしれないわね」
 椿は赤鬼の気迫を受けながら、冷静に言葉を紡ぐ。他の人が心を揺さぶられている中、涼風を受けているかのごとく平然としていた。途切れることのない回復の水。それが覚者達を支えていた。
「折れず、挫けず、諦めず。巖心流の名を背負っているんだ。簡単に倒れはしないぜ」
 体中を走る激しい痛み。鬼の一撃を受けるたびに増えていく激痛の中、飛馬は言葉を放つ。体を動かすたびに痛みが意識を奪っていきそうになる。それでも体は動いてくれた。繰り返された鍛錬が自然と体を動かしていく。
「それでこそ戦い甲斐、倒し甲斐があるものだ」
 まだ倒れる様子のない鬼達を前に、静護は感服していた。並の隔者ならもう倒れている。妖でもここまで戦えるものは稀だ。その心技体に驚きながら、同時に尊敬する。だからこそと想いながら刃を向けた。だからこそ、打ち倒したい。
「焔陰流――煌焔!」
 体を休めることなく刀を振るい続ける凛。鬼に傷つけられた体は痛々しく、息も乱れている。それでも衰えぬ闘気。それは研磨された石の如く。削られたことで輝く凛の姿。鞘走る一閃は焔を想起させる。三連戦の炎が鬼に襲い掛かった。
「舞え、『嵐の騎士』!」
 ゲイルの手から鷲の依り代が飛ぶ。真っ直ぐに青鬼に飛来し、視界を一瞬遮った。一瞬止まる鬼の動き。しかしこの状況において、一瞬さえも貴重な時間。千金ともいえる機会を生み出し、仲間につなげる。
「全部全部出し切るぜ!」
 同じ徒手空拳の使い手として遥は学ぶことが多かった。空手に似た一打。異なる一打。鬼ならではの動き。人に沿った動き。自分に似ているのに新鮮な感覚だ。自然と表情が笑みに変わり、負けじとばかりにこちらも空手の技を叩き込む。
「頃合いか。行くぞ青の」
「応よ、赤の」
 赤鬼が今まで以上に体を沈め、青鬼がガードを解くように手を下す。勝負を諦めた――わけがない。あれは、
『鬼神乱舞』――赤鬼の爆発的な乱打。
『三歩破軍』――青鬼の必殺の一打。
「畳みかけてくる気か!」
 互いの疲弊を考え、ここで勝負を決めに来たようだ。赤の鬼が体を沈めたまま突撃してくる。
「三連撃には三連撃や!」
 凛は迫る赤鬼にあえて攻めの構えを取る。踊るように繰り出される拳の応酬。それに合わせるように刀を振るっていく。
(こいつは――格闘のリズムや。刀で合わせても身につくもんちゃう!?)
 その動きを見極めようとする凛だが、無手独特のテンポに合わせることが出来ずにいた。格闘系の武具で挑んでいれば、あるいはリズムを合わせることが出来たかもしれないが。
「あかん、これまでか」
「後は……任せた、ぜ」
 無酸素状態で矢次に拳を突き出す赤鬼。その乱打が終わり、足元に凛と飛馬が倒れ伏していた。そして、
「参――」
 青鬼が歩を進める。
「弐――」
 数多の技を見て、その概念を昇華させた一打。三歩あれば敵は崩せる。
「壱――」
 音はしなかった。近づいて、拳を当てる。まるで友人の肩を叩くように拳を当て、インパクトを与えた。派手な音はいらない。大仰なアクションはいらない。敵を倒す。ただそれだけを突き詰めた最小限の技。
 それを受けた静護はぐらり、と揺れる。
「……流石、だ」
 そのまま意識を飛ばして崩れ落ちた。
「……!」
 ゲイルは息をのんだ。踏み込み、関節の移動、インパクト。それら全ての動きが小さすぎる。これは確かに気が遠くなるほどの鍛錬の果て。多くを学んだ青鬼の技全てを昇華させた一打だ。
「はっ! いいもん見せてもらったぜ! ならこっちも返礼しなきゃなあっ!」
 遥は高揚した表情で体内の気を爆発的に活性化させる。今まで戦った隔者の中で、五指に入る男の戦闘スタイル。一瞬に全てをかけた戦気法。
 二匹の鬼は無言で構えを取る。先ほどと同じ、必殺の構えを。
「もう一度喰らえば此方は瓦解する。一気に決めるぞ!」
 疲弊した覚者の体力では、再度同じ攻撃を受ければ陣形は保てない。何よりも、遥一人では二匹の鬼を止めきれずに後衛まで打撃が届いてしまう。
「させっかぁ!」
 口火を切ったのは気力を爆発させた遥。赤鬼の乱打に合わせるように渾身の一打を放つ。その一撃に赤鬼の表情が驚愕に変わり、そしてすぐに笑みに変わった。そのまま打ち合う人と鬼。退くことのない剛拳の打ち合い。嵐のような応酬の後、遥と赤鬼は同時に崩れ落ちた。
 やるなぁ、あんた。互いにそう言いたげな表情のまま、両者は気を失う。
「……っ! ここまで、ね」
 青鬼の一撃を受けて、手にしていた弓を下す椿。自己の回復よりも仲間全体を癒すことを優先していたため、自分が先に倒れる結果となった。しかしそれに悔いはない。
 残るはゲイルと青鬼。そして――最後の拳が動いた。
「参――」
 三歩破軍。それは青鬼の武技。武を学び、身に着け、その理念を形にした一打。
「弐――」
 ゆえに動きだけを見て学べる技ではない。ただ動きだけを真似て同じ動きをしても、青鬼でない者にはその一打は出せない。
「壱――」
 拳が当てられる。まるで友人の肩を叩くように、その胸に。
 青鬼の胸に、ゲイルの拳が当てられた。
 ゲイルは鬼達のことを観察していた。予選から決勝戦までの間、彼らの所作や精神性の全てを。ゆえに――理解できた。
 最小限の動きで、音もなく。必殺の一打が放たれる。
「誇るがいい。それが汝の人生の一打」
 ぐもったような青鬼の声。そのまま糸が切れたかのように、青鬼の身体が崩れ落ちた。


「…………ギリギリだな」
 試合終了後、ゲイルは脱力と同時に座り込む。自分以外の仲間が倒れ、最後の一打もうまくいかなければ鬼に勝負を決められていただろう。再度戦って勝てるかどうか。
 そして天空の武舞台が晴れ、夜の景色が戻ってくる。幻覚が消えると同時、鬼達も姿を消していた。

「優勝おめでとう。ゆるり傷を癒してくれたまえ。怪我人と戦っても白けるだけだからね」
 妖狐の元に向かった覚者は、労いの言葉をかけられる。
 勿論覚者達も妖狐との戦いに備えて休むつもりだが、その前に聞くべきことがあった。
「武神の衣に取り込まれた連中を元に戻す事は出来るんか?」
「可能だ。ここにある『武神の冠』を被り命じれば、取り込まれた者を排出することが出来る」
 凛の質問に被っている冠を指差して答える妖狐。
「『武神の衣』は武術家を取り込み、着る者に技を伝える。『冠』は衣へ命令する為に必要な、いわば制御装置だ。無尽蔵に取り込めばその辺りで喧嘩しているものまで取り込んでしまい、大惨事になりかねない」
 なるほど、と静護は頷く。決勝戦で戦闘不能になった自分達が吸い込まれなかったのは、そういう制御がかかっていたからのようだ。
 優勝者には武神の衣と冠が与えられる。衣に記録された技をどうするかは、この後の闘いに勝利した者に決定権がある。それさえわかれば十分だ、と覚者は頷いた。
「貴方は『新月の咆哮』についての有力な情報を持っているのかしら?」
 椿の問いに妖狐は眉をはね上げた。傷に触れられた、という表情だ。
「貴方は一度、戦ったといったわ。彼の情報について私達は得たい」
「君達もあれと一度相対した、と聞いたことがある。情報に差異があるかはわからないが、良かろう。
 私に勝てればその時の話をしよう。君達が負ければ――衣の中だ。それ以上奪うつもりはない」
 そう、と椿は言って背を向ける。そのまま妖狐に声をかけた。
「大妖を倒したい。そう思うのは貴方だけじゃないわ」
「理解しているよ。だが手を組むつもりはない。あれは私が倒す」
 その声に含まれていたのは復讐の念。敗北し、奪われた者の音。
 それ以上の言葉を交わすことなく、覚者は妖狐の部屋を出た。

 八強の頂上に立った覚者達。
 夜行武闘会はこれにて終了。あとは武神の武具をかけた主催者との戦い。
 その効果を知らぬものからすれば、武神の衣は飾り程度でしかない。しかしその中には武術家の結晶ともいえる技を内包しているのだ。
 傷を癒した覚者達は夜行武闘会最後の戦いに挑む。
 最後の銅鑼が、鳴る――


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

ラーニング成功!
取得キャラクター:ゲイル・レオンハート(CL2000415)
取得スキル:三歩破軍




 
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