<大妖一夜>鬼の首が取られる前に……
●動き出した大妖
大妖、AAA襲撃。
10数年前に『紅蜘蛛』継美を倒したAAAに興味を持ち、大妖の三体が動き出す。
『斬鉄』大河原 鉄平は暇つぶしに。
『新月の咆哮』ヨルナキは狩りの続きのために。
『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号は付き添いで。
そして、『後ろに立つ少女』辻森 綾香は中立の立場をとる。
気まぐれともいえる大妖の動き。それに伴い動き出す妖達。
後に、<大妖一夜>と呼ばれる一夜限りの襲撃の始まりである。
●鬼が追われる鬼ごっこ
ある日の夜、AAA京都支部内――。
「馬鹿……な」
廊下を走る鬼頭三等は、身体の所々を負傷していた。
その日、彼は取り調べの資料を作成していたのだが、そんな中で大妖の襲撃があった。
妖に襲われ、同僚が、部下が殺されていく。自衛用の拳銃だけを手にした彼は脱出経路を探しながら、生き残りを探す。
だが、そんな彼の前には、有象無象の妖の姿。ただ、よくよく見れば、それらは人型と四足の獣型とがいることが分かる。
「チッ……!」
手にする銃の引き金を引く鬼頭。それは妖の頭を砕き、数発弾丸を浴びせれば消えうせる。
ただ、拳銃も妖にも一定の効果はあれど、弾丸には限りがある。果たしてどこまで持つかと、鬼頭は考えを巡らせながら注意深く周囲を見回す。
経路を探すうち、妖によって追い込まれた彼は3階へと登って行く。
「鬼頭三等!」
そこで声を上げる職員を発見した鬼頭はそちらへと走り、その部屋へと転がるようにして入った。
そこは給湯室。彼は5人の生存者を発見し、そこで立てこもることとなる。
「三等、一体何が」
「全体の状況まで把握はできておらん。ただ、妖の軍勢が襲ってくるとなると……」
間違いなく、何らかの指揮の下、確実にAAAの息の根を止めようとしている輩がいる。
しかし、今の鬼頭の状況では、把握ができない。隊員達も、まだ携帯電話などの通信機器に慣れておらず、この場で情報を仕入れる手段を持ってはいないようだ。
この給湯室にいるのは、性別はもちろん、所属もバラバラの者達。共通しているのは、全員は鬼頭より若い非覚者だということくらいか。
彼らはここに駆けつける間に銃弾の類は使い果たしてしまっていた。この場で武器として使えるのは、鬼頭の銃弾一丁のみ。
(ここまでなのか……?)
自身を頼りにしているであろう職員の手前、ネガティブな感情を口にはしなかったが、冷や汗を垂らす鬼頭はこの絶望的な状況から脱する為の策を脳内で巡らすのである……。
●AAA職員の救出を……!
その光景は、あまりにも皮肉的なものに見えた。
「ひどい有様になっておるのう……」
『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)は妖がAAAを襲撃している映像を見ながら、覚者達へと説明する。
すぐにでもAAA職員を助けてやりたいところだが、けいは少し待って欲しいと着席を促す。
「皆には、まだ生存しておる鬼頭三等を助けてあげて欲しいのじゃ」
鬼頭・雄司三等。彼はこれまで、F.i.V.E.の行う作戦においても力を貸してくれた男だ。かなり階級の高い位置にいながらも、人員不足もあってか、現場での士気も取る優秀な人材である。
それだけに、この場で妖の餌食にされるのは惜しいという要望が、F.i.V.E.で指揮を執っている中・恭介(nCL2000002)からもあがっていたそうだ。
「うちもそれに応えて、なんとか夢見の力で見ようとしたのじゃが……」
けいが視たのは、支部の3階にある給湯室に立てこもったまま、職員と共に妖の餌食となる鬼頭の姿だったという。
その場に現れる妖について、けいは資料を手渡していたが、種類もそれなりにいる為、対処に追われることとなりそうだ。
「鬼頭達が立てこもる給湯室までは行けると思うのじゃが、そこからがちと骨じゃのう……」
避難対象は6人。彼らを如何にして、妖の溢れる建物内から外へと連れ出すかが問題だ。
「直接突入して連れ出すか、いっそ外から翼人の力を借りるか、梯子やロープで連れ出すかじゃと思うがの」
いずれにせよ、救出の間、妖を抑える必要がある。とりわけ、外からの救出は、直接救出対象を攻撃される可能性すらある為、慎重に当たりたい。
「説明は以上じゃ、よろしく頼むのじゃ」
けいの言葉を聞き終えた覚者達は、この場を飛び出すようにして出て行ったのだ。
大妖、AAA襲撃。
10数年前に『紅蜘蛛』継美を倒したAAAに興味を持ち、大妖の三体が動き出す。
『斬鉄』大河原 鉄平は暇つぶしに。
『新月の咆哮』ヨルナキは狩りの続きのために。
『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号は付き添いで。
そして、『後ろに立つ少女』辻森 綾香は中立の立場をとる。
気まぐれともいえる大妖の動き。それに伴い動き出す妖達。
後に、<大妖一夜>と呼ばれる一夜限りの襲撃の始まりである。
●鬼が追われる鬼ごっこ
ある日の夜、AAA京都支部内――。
「馬鹿……な」
廊下を走る鬼頭三等は、身体の所々を負傷していた。
その日、彼は取り調べの資料を作成していたのだが、そんな中で大妖の襲撃があった。
妖に襲われ、同僚が、部下が殺されていく。自衛用の拳銃だけを手にした彼は脱出経路を探しながら、生き残りを探す。
だが、そんな彼の前には、有象無象の妖の姿。ただ、よくよく見れば、それらは人型と四足の獣型とがいることが分かる。
「チッ……!」
手にする銃の引き金を引く鬼頭。それは妖の頭を砕き、数発弾丸を浴びせれば消えうせる。
ただ、拳銃も妖にも一定の効果はあれど、弾丸には限りがある。果たしてどこまで持つかと、鬼頭は考えを巡らせながら注意深く周囲を見回す。
経路を探すうち、妖によって追い込まれた彼は3階へと登って行く。
「鬼頭三等!」
そこで声を上げる職員を発見した鬼頭はそちらへと走り、その部屋へと転がるようにして入った。
そこは給湯室。彼は5人の生存者を発見し、そこで立てこもることとなる。
「三等、一体何が」
「全体の状況まで把握はできておらん。ただ、妖の軍勢が襲ってくるとなると……」
間違いなく、何らかの指揮の下、確実にAAAの息の根を止めようとしている輩がいる。
しかし、今の鬼頭の状況では、把握ができない。隊員達も、まだ携帯電話などの通信機器に慣れておらず、この場で情報を仕入れる手段を持ってはいないようだ。
この給湯室にいるのは、性別はもちろん、所属もバラバラの者達。共通しているのは、全員は鬼頭より若い非覚者だということくらいか。
彼らはここに駆けつける間に銃弾の類は使い果たしてしまっていた。この場で武器として使えるのは、鬼頭の銃弾一丁のみ。
(ここまでなのか……?)
自身を頼りにしているであろう職員の手前、ネガティブな感情を口にはしなかったが、冷や汗を垂らす鬼頭はこの絶望的な状況から脱する為の策を脳内で巡らすのである……。
●AAA職員の救出を……!
その光景は、あまりにも皮肉的なものに見えた。
「ひどい有様になっておるのう……」
『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)は妖がAAAを襲撃している映像を見ながら、覚者達へと説明する。
すぐにでもAAA職員を助けてやりたいところだが、けいは少し待って欲しいと着席を促す。
「皆には、まだ生存しておる鬼頭三等を助けてあげて欲しいのじゃ」
鬼頭・雄司三等。彼はこれまで、F.i.V.E.の行う作戦においても力を貸してくれた男だ。かなり階級の高い位置にいながらも、人員不足もあってか、現場での士気も取る優秀な人材である。
それだけに、この場で妖の餌食にされるのは惜しいという要望が、F.i.V.E.で指揮を執っている中・恭介(nCL2000002)からもあがっていたそうだ。
「うちもそれに応えて、なんとか夢見の力で見ようとしたのじゃが……」
けいが視たのは、支部の3階にある給湯室に立てこもったまま、職員と共に妖の餌食となる鬼頭の姿だったという。
その場に現れる妖について、けいは資料を手渡していたが、種類もそれなりにいる為、対処に追われることとなりそうだ。
「鬼頭達が立てこもる給湯室までは行けると思うのじゃが、そこからがちと骨じゃのう……」
避難対象は6人。彼らを如何にして、妖の溢れる建物内から外へと連れ出すかが問題だ。
「直接突入して連れ出すか、いっそ外から翼人の力を借りるか、梯子やロープで連れ出すかじゃと思うがの」
いずれにせよ、救出の間、妖を抑える必要がある。とりわけ、外からの救出は、直接救出対象を攻撃される可能性すらある為、慎重に当たりたい。
「説明は以上じゃ、よろしく頼むのじゃ」
けいの言葉を聞き終えた覚者達は、この場を飛び出すようにして出て行ったのだ。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.鬼頭三等、及び職員5名の生存
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
AAA支部の建物内に取り残される形となった
鬼頭三等他、生存している数人の隊員の救出を願います。
●状況
現場突入から、鬼頭らの潜伏場所までは、
妖と戦いながらでも移動できるものとします。
支部建物3階の給湯室に
鬼頭三等以下、職員5名、計6名が立てこもっています。
鬼頭の弾丸は、覚者の皆様が駆けつけるまでは持ちそうです。
脱出に関しては、
建物内からであれば、彼らを上手く誘導しながら戦う必要があるでしょう。
窓を割り、外からの救出も可能ですが、
こちらの場合は戦場に現れる敵の最大数が増える為、
妖への対処は内部以上に行う必要があります。
●妖
基本的に、敵はランク1~2がほぼランダムに現れる形です。
(大体、4体に1体がランク2といった割合です)
人型、獣型は共闘こそしませんが、
生あるAAA職員や覚者達を執拗に狙ってきます。
数はほぼ無制限に現れますが、
建物内であれば、戦場のスペースの都合上、一度に現れる敵は4~6体。
3ターン(30秒)経過、ターン終了時に増援判定。
4体に満たない場合のみ、
6体になるように後述の妖がランダムで出現します。
外は8~10体。増援判定のタイミングは同じ。
8体未満の場合に10体になるよう敵が現れます。
○人型……生物系、物質系、心霊系の3種
『斬鉄』の手勢です。
人型ではありますが、知性はほぼ皆無で連携もせず、
ただ暴れる為に参加している傾向があります。
類人猿の生物系、マネキンやロボットの物質系、
幽霊、怨霊といった心霊系の3種が混じっていて、
対処がかなり面倒です。
基本銃、ダーツなどの遠距離攻撃可能武器や、
火炎、水礫、電撃、蔓触手、土槍といった術式で
遠距離攻撃をメインに攻撃してきます。
○獣型……生物系のみ
『新月の咆哮』の手勢です。
ヨルナキの指示もあり、獣型だけで連携を取ることがあります。
基本は喰らい付き、体当たりなどの近距離攻撃がメイン。
その場に獣型が3体以上いる場合は、協力な連携攻撃を行います。
●NPC
AAAの職員達。全員、非発現者です。
○鬼頭・雄司(きとう・ゆうじ)……AAAの三等。小隊を率いています。
幾度かF.i.V.E.に助力を求めてきたことがあり、
F.i.V.E.メンバーに対しても寛容な態度を取る男です。
30代で三等となった手腕を持ちますが、
AAAの人員不足もあって、現場にもちょくちょく顔を出しております。
鬼頭自身は拳銃のみ所持しております。
○職員5名……いずれもAAAの職員、初級から上級の若い者達。
残念ながら、全員武器を所持しておりませんが、実戦経験はあります。
●重要な備考
<大妖一夜>タグがついたシナリオは依頼成功数が、同タグ決戦シナリオに影響します。
具体的には成功数に応じて救出したAAAが援護を行い、重傷率の下降と情報収集の成功率が上昇します。
それでは、
よろしくお願いいたします!
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/7
7/7
公開日
2017年05月12日
2017年05月12日
■メイン参加者 7人■

●妖の群がるAAA支部
動き出した大妖。
彼らは数え切れぬ妖の軍勢を率いて、AAA支部を襲撃し始めている。
個々の力もそうだが、それはもはや数の暴力。F.i.V.E.の覚者達はその光景に唖然としてしまう。
「ひどい……」
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429) は目の前の惨状に血の気が引いてしまう。
すでに建物には無数の妖が取り付いており、そいつらの足元には数え切れない職員が地を這っている。そのほとんどがもうもう生きていないだろう。
「大量の妖の襲撃……。一体何が起きてるのでしょうか」
「数というものは容易に覆すことのできない力の一つではありますが、まさかここまで一方的とは」
『世界樹の癒し』天野 澄香(CL2000194)も『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)も、妖の行為に戦慄する。軍勢で襲い掛かる妖の集団は、いくら覚者であっても抗いきれるはずもない。
「一刻も早く、鬼頭様と職員の方を救出しないといけませんわね」
――覚者としての力は、救いを求める誰かの為にある。
そう考える『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268) はペンダントを握りしめ、亡き両親へと誓う。
「なるほど、ただの一般人を助け出すのとは訳が違うようだ」
特に、鬼頭と呼ばれる人には生存してもらわねば。水蓮寺 静護(CL2000471) は悠長にしている時間はないと、一歩踏み出す。
「一刻も早く助けなければ」
「僅かでも助けられる人がいるなら、何とかしたい所です」
静護に続き、有為もまた妖の屯す敷地内に入っていく。
「助けられる可能性があるのなら、急ぎましょう」
覚醒した澄香は大きく広げた黒い翼を羽ばたかせ、1人上空へと飛び出したのだった。
●目指せ給湯室
地上から直接建物内へと入るメンバーを見下ろしつつ、空を飛ぶ澄香は建物の構造把握に努める。
(せめて、給湯室がどの方向にあるかだけでも判ればいいのですが)
とりあえずは3階の高さにまで飛び、徐々に集まり出す妖を気にかけつつ澄香は超直感を働かせてその場所を探す。
多数の妖どもをやり過ごしながら、正面から支部の建物内へ入る覚者達。
「やれやれ、すごい数だわね」
両腕を戦闘機の主翼のように、そして、両脚がカナードとなったフルフェイスの男。『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156) は救出対象を捜索すべく、感情探査を繰り返す。
覚醒したいのりは女子高生の姿へと変わり、母の遺品を装着して依頼に臨む。彼女は有為と共に早速建物の見取り図を発見し、部屋の配置を確認していた。
「チッ、こいつあぁ詰んでんな……」
刺青を赤く輝かせる『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151) は改めて、建物内を見回して呟く。床に転がるAAA職員の体。血だまりが生々しく、徐々にその身体は冷たくなってきている。
「……よくこれで、生存者がいましたね……」
御菓子が悲壮な顔で言葉を漏らす。覚醒しても中学生のような容姿の彼女だが、今回ばかりはちっちゃいからと冗談を言ってもいられない。
――もし、この妖の群れが京都の街を狙っていたなら。
「ぞっとするな……。守りきれる気がしない」
それでも、今回は救助対象がいるだけでマシかもしれない。そう前向きに捉えることにした義高は、この任務を失敗することは出来ないとその身に喝を入れる。
「ん、やっぱり上だわ」
逝が職員らしき強い感情を感じ、送受心を使って仲間達へと伝える。
元々、3階だという情報は夢見からももたらされている。だからこそ、静護もまず、階段を目指していた。
「最悪3階まで駆け上がってしまえば、探すだけだから問題はないだろう」
自身の役目は可能な限り妖を排除し、道を作ることと考える静護。救出までは最低限の消費に留めるよう心がけ、水礫を飛ばして心霊系の人型を撃ち抜く。
進むに当たっては、有為が先ほどの見取り図を参考にして進む。ちなみに、一見すれば覚醒前と変わらぬ彼女だが、両膝から下は械の因子がしっかりと露わとなっている。
また、有為は透視を使うことで、可能な限り妖の少ない通路を選択して進む。透視は便利な反面、それほど効力は長くない。曲がり角で手鏡を使うなどしてそのデメリットを補いつつ、有為は敵の早期発見を心がけていた。
それでも、妖がうろつく建物内。進むだけなら障害は少ないものの、一度覚者の姿を発見すれば、一直線に襲い掛かってくる。
妖の前に率先して立つのは、逝、義高だ。
「死にたくないやつぁ前に立つなよ。手加減はできる余裕はないからな」
屈強なる肉体を自ら盾とする義高。いちいち全ての妖を倒す必要もなければ、余裕もない。彼はギュスターブを振るって敵を牽制しつつ、先へと進む。
出来るだけ固まる形でメンバー達は進む。逝も仲間に位置を伝えながらも、地を這う軌跡を直刀・悪食で描きながら、獣型の妖に刃を叩き込んでいく。
静護も負けてはいない。左頬の刺青を青く輝かせ、水行の力を伴った刀「絶海」で襲い来る人型の妖を切り捨てていく。
女性陣も守られてばかりではない。いのりは自分達の邪魔をする妖に光の粒を降り注がせていた。
また、後方の御菓子は、戦闘力として自身の能力を信用していないと自嘲すらしていたが。
「ただ、回復手として、わたしの前では誰一人死なせはしませんよ」
傷つく仲間に癒しの滴を落とし、彼女は戦線の維持に努めていた。
有為はというと、自身の細胞を活性化させる。反応速度を高めることで行動の手数を増やす。
「近いですよ」
階段を登り、3階にたどり着いた覚者一行。有為はすでに、救出すべきAAA職員達の姿を透視でしっかりと捉えていた。
●職員との接触
その数分前。
1人、空を舞っていた澄香。中から突入した仲間に気を取られる妖も多いようだったが、それでも心霊系の妖1体が彼女を執拗に狙ってくる。
澄香はそいつに向けて植物の種を投げ飛ばし、急成長させてその身体に絡みつかせる。動けなくなる敵を放置した彼女は超直感を駆使し、外から給湯室を探し当てていた。
コンコン、コンコン。
外から窓をノックする音に、中にいた職員達は警戒を強める。
「助けに来ました、F.i.V.E.です」
「F.i.V.E.……か」
澄香の呼びかけに、鬼頭が構える銃を降ろす。
職員達は妖の接近に十分に注意し、窓の外から澄香を給湯室に引き入れて堅く窓を閉じる。
「中からも、仲間が向かってきます。それまでは……」
澄香がもたらした情報に、職員達の表情に光が差す。
「……まずは、それまで耐えねばな」
鬼頭は気を緩めることなく、再び拳銃を両手に持つ。
通路側からは妖がドアを叩く音が聞こえる。現状、入ってくる様子はないが、それも時間の問題だろう。
それに備え、澄香が大樹の生命力を凝縮させた雫を職員達に振り撒く。
「大丈夫です。きっと助けますから」
この場の職員を安心させようと澄香は精一杯の笑顔を見せた。
そして、澄香は仲間の送受心で連絡を取る。
メンバーはもう3階に到達しており、程なくこの場へとやってくるとのこと。
この場を繋ぐべく、一度ドアを開いた鬼頭はドアに取り付く妖を撃ち抜き、澄香もエアブリットを妖へと撃ちこむ。
それを、後ろの職員達が歯痒い表情で見つめている。
「せめて、武器があれば……」
職員達も妖との戦闘経験がある。武器があれば、覚者や三等を援護できるのにと、悔しさを滲ませていたようだ。
そこで、逆側から妖の体を断ち切る覚者の姿に、鬼頭が目を見張る。
「きーとーうちゃーん、覚えてるかね? お迎えに上がったぞう」
現れたのは、フルフェイスの逝だ。さすがにこの異様な姿の覚者を、鬼頭は忘れようはずもない。その節は世話になったと、飛行機の翼となった腕と握手を交わす。
一方で、覚者全員が給湯室に入ったことを確認した義高は扉を閉めテその身で塞ぎ、敵の突入に備える。
「いのり達が来たからには、もう安心ですわ」
そんな職員に、いのりは威風を伴い言葉をかける。ボンデージ衣装の彼女は、職員達の視線に顔を赤くしてしまう。対して、職員達は覚者の助けに安堵していた。
「お疲れ様です。すぐに傷を治しますね」
御菓子が敬礼しつつ職員達に駆け寄る。先に合流していた澄香が癒しを振り撒いていたこともあり、大きな手当てを施す必要はなかったようだ。
「お疲れ様でしたわ」
いのりは先に駆けつけた澄香にも、そんな気遣いを見せる。
入り口付近では、逝が鬼頭へと簡単に事情を説明していた。
「テレビで特番見たk……冗談。優秀な人材の回収に手が回って無いようだから、ファイヴがやる事にしたらしい」
鬼頭と面識があったこともあり、逝は名乗りを上げたとのことだ。
「そんじゃ、傷が治ったらとっとと脱出するぜ」
「ああ、敵に囲まれた状況は変わらん」
とりあえずは、職員達の不安が幾分か払拭されたところで。義高がこの場の全員に呼びかける。鬼頭もまた、緩みかけた気を引き締め直す。
「『おうち』に帰るまでがお仕事よ。仲良く並んで、多少の痛みは堪えておくれ」
お土産は命だと逝は告げる。大事に持ち帰りたいものだと、AAA職員達は考えてしまうのだった。
●脱出!
「ちっ……」
義高が舌打ちする。給湯室のドアはもう限界だった。
ドアを破壊した妖。獣2体と人型1体が室内へとなだれ込んでくる。義高は一旦身を引き、迎撃態勢を取る。
「鬼頭ちゃん、庇いはするけど慢心は禁物よ」
「ああ、頼りにしているが、自衛は行う」
類人猿を抑える逝は身構え、鬼頭を庇う。
敵に攻撃の暇など与えない。飛び込む有為が横一列に並ぶ敵に向かって駆け抜け、オルペウス改で切りかかる。
「ランク2がいますね……」
有為は攻撃を仕掛けながらも、仲間に示すように呟く。
手前の獣型1体がランク2。また、人型は物理の通りが悪い心霊系のようだ。
「外に、獣が1体、あと……類人猿とマネキンでしょうか」
また、御菓子が通路にいる妖の種類を、鋭聴力で聞き分けてみせる。
「獣系が3体いると危険ですね……」
事前の話によると、獣型は3体で連携攻撃を行うことがあるという。それを懸念する澄香が最後尾から敵へと種を投げつけ、妖の体を縛り付けていく。
その手前の静護が自身の内なる炎を燃え上がらせ、神秘の力を込めた放つ水竜で敵陣を飲み込んでいく。
……しばしの交戦。ただ、勢いは覚者にあった。
「おらっ!」
義高が牽制がてらにギュスターブへと振るうが、それが丁度仲間達が攻撃を集中させていた獣型の身体を砕いていく。
「邪魔する奴ぁ、手加減できねぇ。覚悟できてんな」
義高が前に立ち、さらに妖を威嚇する。
この場に残る妖は、ランク1のみになっていた。鬼頭の弾丸を浴びた獣型がいのりの降らせる光の粒によって力尽き、扉外を塞ぐ類人猿へと攻め入る有為が斬り伏せてしまう。
そうして給湯室に取り付く妖を倒したメンバーは、並んで給湯室から出ることになる。
集まっていた妖を倒した直後だ。次に妖が集まるまで、覚者達はできるだけ入り口を目指して進む。
「こちらですわ!」
いのりは来た道とは別方向を指し示す。そちらは、非常階段のある場所。扉でシャットアウトされていたこともあり、妖の数は少ないと踏んだのだ。
「誰も傷ついてない? 無理しないで早めに声かけてね」
御菓子は攻撃には参加せず、回復役に徹する。覚者とて連戦が続けば疲弊もする上、守らねばならぬ職員の数も多い。御菓子は仲間に海のベールを纏わせるなど、支援も合わせて立ち振る舞う。
とはいえ、敵に囲まれれば、全員を守るのが難しい場合もある。数で攻めくる妖が時に回りこんでくれば、職員への怪我は避けられない。
(実戦経験があるとはいえ、メンタルは大丈夫でしょうか)
有為とて不安がないわけではないが、それを表に出して職員達の不安を煽るわけには行かない。
(せめて、一撃で首をすぱーん位できれば、良かったのだけれど)
その分、鬼頭三等に期待したいと、有為は彼の方を振り返る。
「覚者がこれだけ戦っている。お前らが消沈していては始まらんぞ」
銃を発射し、援護を行う鬼頭の言葉はこの上なく職員達を鼓舞していた。さすが、三等の肩書きは伊達ではなさそうだ。
「大丈夫、きっと脱出できますわ」
時に回りこんでくる敵を布陣左手側で抑えるいのりもまた、職員達に声をかけ続ける。
だが、見知った同僚らしき遺体を目にすれば……。
「ちくしょう、畜生……!!」
「せめて武器があれば、一矢報いてやるのに……」
上司や覚者の手前もあるのか、大きな動揺こそ見せぬものの、職員達は涙を流して悔しがる。
そんな彼らが感情を抑えてくれている間に、メンバーは鍵のかかった扉を壊して非常階段へと出ていた。
階段にも妖はいるが、通路ほどではない。ただ、ぼやぼやしていると、妖が集まってきてしまう。
(敵に数の優位を活かさせないようしないと)
外に出れば、中よりも多くの敵に絡まれる危険がある。急いで階段をおり、敷地から出ねばならない。
彼女は己の脚を砲身として、圧縮した空気を撃ち出す。零距離でそれを浴びた人型は階段から外れて落下していく。地面に叩きつけられたそいつはかなりのダメージを受けていたようだ。
非常階段だと、職員達を囲むのは難しい。覚者が前後で職員を挟んで降りていく形だが、厄介なのは心霊系の妖だ。そいつらは宙を浮遊し、真横から襲撃してくる。
(あまり体は頑丈ではないんだがな)
とはいえ、そうも言ってはおれぬと静護がカバーに入る。物理が効きづらい敵。彼の水竜が敵の体へと食らいついていく。澄香は後方から妖の方向に特殊な花の香りを振り撒き、弱らせた敵を消滅させていた。
非常階段を下りて地上にたどり着くと、階段を囲むように妖が取り囲む。
メンバー達はここでも、獣型の存在を危険視していた。まして、外では敵は建物内よりも多く集まり、その連携を嫌でも受けてしまうこととなる。
(なるべく五体満足で帰したいからね)
土の鎧をその身に纏った逝は連携する獣の三連撃を受け止めるが、それでも彼は体力を大きく削ってしまう。さらに、術式や射撃、投擲と遠距離攻撃を行う人型も傷つく逝を狙ってくる。
「いい? 我慢して、傷を押して進んで倒れたら自分だけでなく、他の仲間も危険に陥れちゃいますからね」
そんな逝や義高ら、前に立つメンバーを御菓子が先生らしく嗜め、癒しをもたらす。彼女が手にするビオラ「タラサ」を奏でることで起こる音の雨によって、戦う覚者達を支えていた。
「またも、ランク2……」
有為が敵の姿を見て一際大きな妖の姿を目にし、再び仲間とそいつへと集中攻撃を仕掛けるべく、オルペウス改を振り下ろす。
逝もすかさず近づき、金属のように化した腕で妖の体に切りかかっていく。
とにかく妖の数は多いが、ここが正念場。澄香も圧縮した空気を撃ち放ち、いのりは敵陣に輝く光の粒を降らせていった。
御菓子は仲間の攻撃を信じ、前線メンバーに癒しの滴を落とす。
もはや消耗戦。徐々に体力を削られながらも、メンバーは妖を1体、また1体と叩き、その数を減らす。
ただ、覚者達の目的はそれらの全滅ではない。敵の数が減ったところで、メンバー達は裏口を目指して駆け始める。
「すまんが、喧嘩はここまでだ。今日はここで退散させてもらうぜ」
義高は一言そう言い残し、仲間と共に京都支部を後にしていくのだった。
●やられてばかりはいられない
なんとか、妖の蔓延る京都支部から脱出した一行。
いのりが仲間とAAA職員の状態を確認する。皆、多少の怪我は負っていたものの、それほど深い傷ではない。
一息ついたいのりは、改めて鬼頭へと微笑みかける。
「カーヴァ研究所ではお世話になりました。間に合ってよかったですわ」
「ああ、貴公らがいなかったらと思うと、ゾッとする……。申し訳ない」
鬼頭は覚者達へと頭を下げる。彼が生きていたことで、職員達もやや士気を高めていたようだ。
「恩にきる必要も感謝も要らんよ」
ただ、逝は頭を振る。今成すべきことは頭を下げることではないと。
「さあ、決戦の場へ向かいましょう」
澄香がそこで、仲間や職員達へと促す。反撃の狼煙を上げ、メンバー達は大妖に牙を剥くべく決戦に向かう……。
動き出した大妖。
彼らは数え切れぬ妖の軍勢を率いて、AAA支部を襲撃し始めている。
個々の力もそうだが、それはもはや数の暴力。F.i.V.E.の覚者達はその光景に唖然としてしまう。
「ひどい……」
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429) は目の前の惨状に血の気が引いてしまう。
すでに建物には無数の妖が取り付いており、そいつらの足元には数え切れない職員が地を這っている。そのほとんどがもうもう生きていないだろう。
「大量の妖の襲撃……。一体何が起きてるのでしょうか」
「数というものは容易に覆すことのできない力の一つではありますが、まさかここまで一方的とは」
『世界樹の癒し』天野 澄香(CL2000194)も『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)も、妖の行為に戦慄する。軍勢で襲い掛かる妖の集団は、いくら覚者であっても抗いきれるはずもない。
「一刻も早く、鬼頭様と職員の方を救出しないといけませんわね」
――覚者としての力は、救いを求める誰かの為にある。
そう考える『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268) はペンダントを握りしめ、亡き両親へと誓う。
「なるほど、ただの一般人を助け出すのとは訳が違うようだ」
特に、鬼頭と呼ばれる人には生存してもらわねば。水蓮寺 静護(CL2000471) は悠長にしている時間はないと、一歩踏み出す。
「一刻も早く助けなければ」
「僅かでも助けられる人がいるなら、何とかしたい所です」
静護に続き、有為もまた妖の屯す敷地内に入っていく。
「助けられる可能性があるのなら、急ぎましょう」
覚醒した澄香は大きく広げた黒い翼を羽ばたかせ、1人上空へと飛び出したのだった。
●目指せ給湯室
地上から直接建物内へと入るメンバーを見下ろしつつ、空を飛ぶ澄香は建物の構造把握に努める。
(せめて、給湯室がどの方向にあるかだけでも判ればいいのですが)
とりあえずは3階の高さにまで飛び、徐々に集まり出す妖を気にかけつつ澄香は超直感を働かせてその場所を探す。
多数の妖どもをやり過ごしながら、正面から支部の建物内へ入る覚者達。
「やれやれ、すごい数だわね」
両腕を戦闘機の主翼のように、そして、両脚がカナードとなったフルフェイスの男。『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156) は救出対象を捜索すべく、感情探査を繰り返す。
覚醒したいのりは女子高生の姿へと変わり、母の遺品を装着して依頼に臨む。彼女は有為と共に早速建物の見取り図を発見し、部屋の配置を確認していた。
「チッ、こいつあぁ詰んでんな……」
刺青を赤く輝かせる『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151) は改めて、建物内を見回して呟く。床に転がるAAA職員の体。血だまりが生々しく、徐々にその身体は冷たくなってきている。
「……よくこれで、生存者がいましたね……」
御菓子が悲壮な顔で言葉を漏らす。覚醒しても中学生のような容姿の彼女だが、今回ばかりはちっちゃいからと冗談を言ってもいられない。
――もし、この妖の群れが京都の街を狙っていたなら。
「ぞっとするな……。守りきれる気がしない」
それでも、今回は救助対象がいるだけでマシかもしれない。そう前向きに捉えることにした義高は、この任務を失敗することは出来ないとその身に喝を入れる。
「ん、やっぱり上だわ」
逝が職員らしき強い感情を感じ、送受心を使って仲間達へと伝える。
元々、3階だという情報は夢見からももたらされている。だからこそ、静護もまず、階段を目指していた。
「最悪3階まで駆け上がってしまえば、探すだけだから問題はないだろう」
自身の役目は可能な限り妖を排除し、道を作ることと考える静護。救出までは最低限の消費に留めるよう心がけ、水礫を飛ばして心霊系の人型を撃ち抜く。
進むに当たっては、有為が先ほどの見取り図を参考にして進む。ちなみに、一見すれば覚醒前と変わらぬ彼女だが、両膝から下は械の因子がしっかりと露わとなっている。
また、有為は透視を使うことで、可能な限り妖の少ない通路を選択して進む。透視は便利な反面、それほど効力は長くない。曲がり角で手鏡を使うなどしてそのデメリットを補いつつ、有為は敵の早期発見を心がけていた。
それでも、妖がうろつく建物内。進むだけなら障害は少ないものの、一度覚者の姿を発見すれば、一直線に襲い掛かってくる。
妖の前に率先して立つのは、逝、義高だ。
「死にたくないやつぁ前に立つなよ。手加減はできる余裕はないからな」
屈強なる肉体を自ら盾とする義高。いちいち全ての妖を倒す必要もなければ、余裕もない。彼はギュスターブを振るって敵を牽制しつつ、先へと進む。
出来るだけ固まる形でメンバー達は進む。逝も仲間に位置を伝えながらも、地を這う軌跡を直刀・悪食で描きながら、獣型の妖に刃を叩き込んでいく。
静護も負けてはいない。左頬の刺青を青く輝かせ、水行の力を伴った刀「絶海」で襲い来る人型の妖を切り捨てていく。
女性陣も守られてばかりではない。いのりは自分達の邪魔をする妖に光の粒を降り注がせていた。
また、後方の御菓子は、戦闘力として自身の能力を信用していないと自嘲すらしていたが。
「ただ、回復手として、わたしの前では誰一人死なせはしませんよ」
傷つく仲間に癒しの滴を落とし、彼女は戦線の維持に努めていた。
有為はというと、自身の細胞を活性化させる。反応速度を高めることで行動の手数を増やす。
「近いですよ」
階段を登り、3階にたどり着いた覚者一行。有為はすでに、救出すべきAAA職員達の姿を透視でしっかりと捉えていた。
●職員との接触
その数分前。
1人、空を舞っていた澄香。中から突入した仲間に気を取られる妖も多いようだったが、それでも心霊系の妖1体が彼女を執拗に狙ってくる。
澄香はそいつに向けて植物の種を投げ飛ばし、急成長させてその身体に絡みつかせる。動けなくなる敵を放置した彼女は超直感を駆使し、外から給湯室を探し当てていた。
コンコン、コンコン。
外から窓をノックする音に、中にいた職員達は警戒を強める。
「助けに来ました、F.i.V.E.です」
「F.i.V.E.……か」
澄香の呼びかけに、鬼頭が構える銃を降ろす。
職員達は妖の接近に十分に注意し、窓の外から澄香を給湯室に引き入れて堅く窓を閉じる。
「中からも、仲間が向かってきます。それまでは……」
澄香がもたらした情報に、職員達の表情に光が差す。
「……まずは、それまで耐えねばな」
鬼頭は気を緩めることなく、再び拳銃を両手に持つ。
通路側からは妖がドアを叩く音が聞こえる。現状、入ってくる様子はないが、それも時間の問題だろう。
それに備え、澄香が大樹の生命力を凝縮させた雫を職員達に振り撒く。
「大丈夫です。きっと助けますから」
この場の職員を安心させようと澄香は精一杯の笑顔を見せた。
そして、澄香は仲間の送受心で連絡を取る。
メンバーはもう3階に到達しており、程なくこの場へとやってくるとのこと。
この場を繋ぐべく、一度ドアを開いた鬼頭はドアに取り付く妖を撃ち抜き、澄香もエアブリットを妖へと撃ちこむ。
それを、後ろの職員達が歯痒い表情で見つめている。
「せめて、武器があれば……」
職員達も妖との戦闘経験がある。武器があれば、覚者や三等を援護できるのにと、悔しさを滲ませていたようだ。
そこで、逆側から妖の体を断ち切る覚者の姿に、鬼頭が目を見張る。
「きーとーうちゃーん、覚えてるかね? お迎えに上がったぞう」
現れたのは、フルフェイスの逝だ。さすがにこの異様な姿の覚者を、鬼頭は忘れようはずもない。その節は世話になったと、飛行機の翼となった腕と握手を交わす。
一方で、覚者全員が給湯室に入ったことを確認した義高は扉を閉めテその身で塞ぎ、敵の突入に備える。
「いのり達が来たからには、もう安心ですわ」
そんな職員に、いのりは威風を伴い言葉をかける。ボンデージ衣装の彼女は、職員達の視線に顔を赤くしてしまう。対して、職員達は覚者の助けに安堵していた。
「お疲れ様です。すぐに傷を治しますね」
御菓子が敬礼しつつ職員達に駆け寄る。先に合流していた澄香が癒しを振り撒いていたこともあり、大きな手当てを施す必要はなかったようだ。
「お疲れ様でしたわ」
いのりは先に駆けつけた澄香にも、そんな気遣いを見せる。
入り口付近では、逝が鬼頭へと簡単に事情を説明していた。
「テレビで特番見たk……冗談。優秀な人材の回収に手が回って無いようだから、ファイヴがやる事にしたらしい」
鬼頭と面識があったこともあり、逝は名乗りを上げたとのことだ。
「そんじゃ、傷が治ったらとっとと脱出するぜ」
「ああ、敵に囲まれた状況は変わらん」
とりあえずは、職員達の不安が幾分か払拭されたところで。義高がこの場の全員に呼びかける。鬼頭もまた、緩みかけた気を引き締め直す。
「『おうち』に帰るまでがお仕事よ。仲良く並んで、多少の痛みは堪えておくれ」
お土産は命だと逝は告げる。大事に持ち帰りたいものだと、AAA職員達は考えてしまうのだった。
●脱出!
「ちっ……」
義高が舌打ちする。給湯室のドアはもう限界だった。
ドアを破壊した妖。獣2体と人型1体が室内へとなだれ込んでくる。義高は一旦身を引き、迎撃態勢を取る。
「鬼頭ちゃん、庇いはするけど慢心は禁物よ」
「ああ、頼りにしているが、自衛は行う」
類人猿を抑える逝は身構え、鬼頭を庇う。
敵に攻撃の暇など与えない。飛び込む有為が横一列に並ぶ敵に向かって駆け抜け、オルペウス改で切りかかる。
「ランク2がいますね……」
有為は攻撃を仕掛けながらも、仲間に示すように呟く。
手前の獣型1体がランク2。また、人型は物理の通りが悪い心霊系のようだ。
「外に、獣が1体、あと……類人猿とマネキンでしょうか」
また、御菓子が通路にいる妖の種類を、鋭聴力で聞き分けてみせる。
「獣系が3体いると危険ですね……」
事前の話によると、獣型は3体で連携攻撃を行うことがあるという。それを懸念する澄香が最後尾から敵へと種を投げつけ、妖の体を縛り付けていく。
その手前の静護が自身の内なる炎を燃え上がらせ、神秘の力を込めた放つ水竜で敵陣を飲み込んでいく。
……しばしの交戦。ただ、勢いは覚者にあった。
「おらっ!」
義高が牽制がてらにギュスターブへと振るうが、それが丁度仲間達が攻撃を集中させていた獣型の身体を砕いていく。
「邪魔する奴ぁ、手加減できねぇ。覚悟できてんな」
義高が前に立ち、さらに妖を威嚇する。
この場に残る妖は、ランク1のみになっていた。鬼頭の弾丸を浴びた獣型がいのりの降らせる光の粒によって力尽き、扉外を塞ぐ類人猿へと攻め入る有為が斬り伏せてしまう。
そうして給湯室に取り付く妖を倒したメンバーは、並んで給湯室から出ることになる。
集まっていた妖を倒した直後だ。次に妖が集まるまで、覚者達はできるだけ入り口を目指して進む。
「こちらですわ!」
いのりは来た道とは別方向を指し示す。そちらは、非常階段のある場所。扉でシャットアウトされていたこともあり、妖の数は少ないと踏んだのだ。
「誰も傷ついてない? 無理しないで早めに声かけてね」
御菓子は攻撃には参加せず、回復役に徹する。覚者とて連戦が続けば疲弊もする上、守らねばならぬ職員の数も多い。御菓子は仲間に海のベールを纏わせるなど、支援も合わせて立ち振る舞う。
とはいえ、敵に囲まれれば、全員を守るのが難しい場合もある。数で攻めくる妖が時に回りこんでくれば、職員への怪我は避けられない。
(実戦経験があるとはいえ、メンタルは大丈夫でしょうか)
有為とて不安がないわけではないが、それを表に出して職員達の不安を煽るわけには行かない。
(せめて、一撃で首をすぱーん位できれば、良かったのだけれど)
その分、鬼頭三等に期待したいと、有為は彼の方を振り返る。
「覚者がこれだけ戦っている。お前らが消沈していては始まらんぞ」
銃を発射し、援護を行う鬼頭の言葉はこの上なく職員達を鼓舞していた。さすが、三等の肩書きは伊達ではなさそうだ。
「大丈夫、きっと脱出できますわ」
時に回りこんでくる敵を布陣左手側で抑えるいのりもまた、職員達に声をかけ続ける。
だが、見知った同僚らしき遺体を目にすれば……。
「ちくしょう、畜生……!!」
「せめて武器があれば、一矢報いてやるのに……」
上司や覚者の手前もあるのか、大きな動揺こそ見せぬものの、職員達は涙を流して悔しがる。
そんな彼らが感情を抑えてくれている間に、メンバーは鍵のかかった扉を壊して非常階段へと出ていた。
階段にも妖はいるが、通路ほどではない。ただ、ぼやぼやしていると、妖が集まってきてしまう。
(敵に数の優位を活かさせないようしないと)
外に出れば、中よりも多くの敵に絡まれる危険がある。急いで階段をおり、敷地から出ねばならない。
彼女は己の脚を砲身として、圧縮した空気を撃ち出す。零距離でそれを浴びた人型は階段から外れて落下していく。地面に叩きつけられたそいつはかなりのダメージを受けていたようだ。
非常階段だと、職員達を囲むのは難しい。覚者が前後で職員を挟んで降りていく形だが、厄介なのは心霊系の妖だ。そいつらは宙を浮遊し、真横から襲撃してくる。
(あまり体は頑丈ではないんだがな)
とはいえ、そうも言ってはおれぬと静護がカバーに入る。物理が効きづらい敵。彼の水竜が敵の体へと食らいついていく。澄香は後方から妖の方向に特殊な花の香りを振り撒き、弱らせた敵を消滅させていた。
非常階段を下りて地上にたどり着くと、階段を囲むように妖が取り囲む。
メンバー達はここでも、獣型の存在を危険視していた。まして、外では敵は建物内よりも多く集まり、その連携を嫌でも受けてしまうこととなる。
(なるべく五体満足で帰したいからね)
土の鎧をその身に纏った逝は連携する獣の三連撃を受け止めるが、それでも彼は体力を大きく削ってしまう。さらに、術式や射撃、投擲と遠距離攻撃を行う人型も傷つく逝を狙ってくる。
「いい? 我慢して、傷を押して進んで倒れたら自分だけでなく、他の仲間も危険に陥れちゃいますからね」
そんな逝や義高ら、前に立つメンバーを御菓子が先生らしく嗜め、癒しをもたらす。彼女が手にするビオラ「タラサ」を奏でることで起こる音の雨によって、戦う覚者達を支えていた。
「またも、ランク2……」
有為が敵の姿を見て一際大きな妖の姿を目にし、再び仲間とそいつへと集中攻撃を仕掛けるべく、オルペウス改を振り下ろす。
逝もすかさず近づき、金属のように化した腕で妖の体に切りかかっていく。
とにかく妖の数は多いが、ここが正念場。澄香も圧縮した空気を撃ち放ち、いのりは敵陣に輝く光の粒を降らせていった。
御菓子は仲間の攻撃を信じ、前線メンバーに癒しの滴を落とす。
もはや消耗戦。徐々に体力を削られながらも、メンバーは妖を1体、また1体と叩き、その数を減らす。
ただ、覚者達の目的はそれらの全滅ではない。敵の数が減ったところで、メンバー達は裏口を目指して駆け始める。
「すまんが、喧嘩はここまでだ。今日はここで退散させてもらうぜ」
義高は一言そう言い残し、仲間と共に京都支部を後にしていくのだった。
●やられてばかりはいられない
なんとか、妖の蔓延る京都支部から脱出した一行。
いのりが仲間とAAA職員の状態を確認する。皆、多少の怪我は負っていたものの、それほど深い傷ではない。
一息ついたいのりは、改めて鬼頭へと微笑みかける。
「カーヴァ研究所ではお世話になりました。間に合ってよかったですわ」
「ああ、貴公らがいなかったらと思うと、ゾッとする……。申し訳ない」
鬼頭は覚者達へと頭を下げる。彼が生きていたことで、職員達もやや士気を高めていたようだ。
「恩にきる必要も感謝も要らんよ」
ただ、逝は頭を振る。今成すべきことは頭を下げることではないと。
「さあ、決戦の場へ向かいましょう」
澄香がそこで、仲間や職員達へと促す。反撃の狼煙を上げ、メンバー達は大妖に牙を剥くべく決戦に向かう……。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
