覚者の日常:休日編
●彼女の休日
神林 瑛莉(nCL2000072)はけたたましい音を立てる目覚まし時計を、うんざりとした顔でオフにしながら、大きくあくびをした。
目をこすりながらベッドから起き上がる。
着ている寝間着は、普段の彼女の着衣からは考えられないほどファンシーなモノであったが、これは友人と買い物に行った際に、色々と勧められて購入したものの一つだ。
学生寮の私室から出て、共用の洗面所で、洗顔と髪を整えるのを兼ねて思いっきり水をかぶった。
まだ二月、水は冷たい。お湯にしておけばよかった、と思ったが後の祭りである。
とは言え、冷たい水のおかげでぼんやりとした頭が徐々に覚醒してくる。
――そういえば。今日は完全に休みの日だったか。
学業面も、F.i.V.E.の仕事も、何もない、完全に自由な日。
どっか遊びに行こうかなー、と、瑛莉は考える。
――誰かに連絡してみてもいいし……いや、急には相手も困るか。ま、一人で街をぶらつくのもいいか……。
歯を磨きつつ、今日の予定を考える。まぁ、いずれにしても。
――とりあえず着替えて朝飯食うか……。
瑛莉よりも少し早く、速水 結那(nCL2000114)は起床していた。
学生寮の私室、テーブルの前にちょこんと座り、卓上の鏡を前に、丁寧に髪をくしで整えつつ、ぼんやりと休日の予定を考える。
休日の予定、とは言え、彼女は夢見である。
夢見に、ほぼ自由はない。夢見が稀少であるので確保しておきたいという面も確かにあるのだが、仮に彼女が夢見であるという事が発覚した場合、他の隔者・憤怒者組織によって良くて拉致、悪くて殺害されてしまうという事も有る。
もちろん、覚者を護衛につけての外出は出来るのだが、あまりに護衛護衛した人間をつけてもあまりにも怪しいし、F.i.V.E.もその辺を考慮してか、似たような年代のエージェントをつけてくれたりするのではあるが。
が。やっぱり息苦しい。
うまい具合に友人が外出に付き合ってくれれば……とは思ったが、まぁ、急には予定も合わないだろうし、なんだか利用してるようで、それはそれで心苦しい。
まぁ、一人でいるのも慣れたものだ。学園内での行動は制限されていないし、今日も学園内を散歩するのもいいだろう。
――いつも通り、学内のスケッチでもしようかな。あ、でも絵の具とかそろそろなくなりそうやったなぁ……。
ぼんやりと、今日の予定を考える。
●あなたの休日
さて、あなたは休日、何処で何をしているのだろう?
誰かを誘って遊びに出かける?
1人で買い物?
いやいや、休日なんてなくて、今日も地道に働いているかもしれない。
これは、そんなあなたの「ある休日」のお話。
神林 瑛莉(nCL2000072)はけたたましい音を立てる目覚まし時計を、うんざりとした顔でオフにしながら、大きくあくびをした。
目をこすりながらベッドから起き上がる。
着ている寝間着は、普段の彼女の着衣からは考えられないほどファンシーなモノであったが、これは友人と買い物に行った際に、色々と勧められて購入したものの一つだ。
学生寮の私室から出て、共用の洗面所で、洗顔と髪を整えるのを兼ねて思いっきり水をかぶった。
まだ二月、水は冷たい。お湯にしておけばよかった、と思ったが後の祭りである。
とは言え、冷たい水のおかげでぼんやりとした頭が徐々に覚醒してくる。
――そういえば。今日は完全に休みの日だったか。
学業面も、F.i.V.E.の仕事も、何もない、完全に自由な日。
どっか遊びに行こうかなー、と、瑛莉は考える。
――誰かに連絡してみてもいいし……いや、急には相手も困るか。ま、一人で街をぶらつくのもいいか……。
歯を磨きつつ、今日の予定を考える。まぁ、いずれにしても。
――とりあえず着替えて朝飯食うか……。
瑛莉よりも少し早く、速水 結那(nCL2000114)は起床していた。
学生寮の私室、テーブルの前にちょこんと座り、卓上の鏡を前に、丁寧に髪をくしで整えつつ、ぼんやりと休日の予定を考える。
休日の予定、とは言え、彼女は夢見である。
夢見に、ほぼ自由はない。夢見が稀少であるので確保しておきたいという面も確かにあるのだが、仮に彼女が夢見であるという事が発覚した場合、他の隔者・憤怒者組織によって良くて拉致、悪くて殺害されてしまうという事も有る。
もちろん、覚者を護衛につけての外出は出来るのだが、あまりに護衛護衛した人間をつけてもあまりにも怪しいし、F.i.V.E.もその辺を考慮してか、似たような年代のエージェントをつけてくれたりするのではあるが。
が。やっぱり息苦しい。
うまい具合に友人が外出に付き合ってくれれば……とは思ったが、まぁ、急には予定も合わないだろうし、なんだか利用してるようで、それはそれで心苦しい。
まぁ、一人でいるのも慣れたものだ。学園内での行動は制限されていないし、今日も学園内を散歩するのもいいだろう。
――いつも通り、学内のスケッチでもしようかな。あ、でも絵の具とかそろそろなくなりそうやったなぁ……。
ぼんやりと、今日の予定を考える。
●あなたの休日
さて、あなたは休日、何処で何をしているのだろう?
誰かを誘って遊びに出かける?
1人で買い物?
いやいや、休日なんてなくて、今日も地道に働いているかもしれない。
これは、そんなあなたの「ある休日」のお話。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.休日を満喫する。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
あなたは休日にどんなことをしますか?
そんな感じのイベシナとなっております。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
38/∞
38/∞
公開日
2017年03月07日
2017年03月07日
■メイン参加者 38人■

●皆の日常:休日編
F.i.V.E.所属覚者の日常は過酷である。
依頼で全国各地へ飛び回る事も有る。怪我も絶えない。ああ、もちろん本業もおろそかには出来ない。
とは言え、F.i.V.E.も鬼ではないので、きちんと休日は存在する。
今日はオフの日。休みの日。覚者の皆は、どんな一日を過ごすのだろう?
今回は、そんな皆の休日を、少しだけのぞかせてもらおう。
田場 義高(CL2001151)の乗ったバイクが、公道の風を切る。二人乗り(タンデム)するのは1人の女性。義高の、最愛の妻だ。
久しぶりの妻とのデートに、義高は高揚していた。愛娘は、友人に預けてある。久しぶりの、二人きりの時間だ。
デートの誘いをかけた時のことを思い出す。誘いに驚きながらも、嬉しそうに頷く妻の姿は、あまりにも可愛らしかった。改めて惚れ直すというものだ。たまらず抱きしめてしまったのを、娘に見られたのは不覚であったか。
さて、2人は妻の希望もあって、水族館へと入館した。少々の些細なトラブルはあったものの――仔細は伏せておこう。ちなみに、彼は妻との初デートの際、その強面が原因で、誘拐犯と勘違いされたらしい――妻は終始笑顔で、デートを楽しんだようだ。
水族館を出た後は、近くの広場で、弁当を広げ、昼食をとる。食休みは、妻の膝枕で。
久しぶりのデートは、二人の仲をさらに深めたようだ。その絆は、さらに深まっていくことだろう。
もしかしたら、家族が増える……かもしれない。
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、自室で一人、大きなクッションに身をうずめ、読書に没頭していた。
本業である学業や、F.i.V.E.の仕事の相談などで時間をとられ、読みたい本を読まずに積んでしまう事の多いラーラは、休日には、こうして一人、大好きな本を楽しむことも多い。
読書の場所は、お気に入りのカフェであったり、色々とあるのだが、今日は自室でゆっくりと、という気分であったようだ。
一人で、と言ったが、訂正しよう。ラーラの傍には、いつでも守護使役のペスカがいる。ペスカはとても甘えん坊な性格らしくて、ラーラが本を読んでいる時には、ぴったり傍にくっついて眠ったり、顔を覗き込んで嬉しそうにしていたり。
今日もラーラの傍で、くっついて眠っている。
丁度集中が途切れたのか、ラーラが本から視線を上げ、隣で眠るペスカに目をやる。ラーラは、くすりと笑うと、ペスカから離れ、別の場所へ移動する。悪戯心からくる、とっとした意地悪だ。
するとペスカは慌てて起き上がり、いそいそとラーラを追いかけ、またぴったりとくっつき眠りだす。
そんな可愛い相棒の姿を見て、ラーラはまた、くすりと笑うのだった。
「むむ、おいしい。どうやって作るんだろう、これ」
目の前に広げられた幾つかの洋菓子。その中から一つを口に運び、鐡之蔵 禊(CL2000029)は唸った。
禊は、美味しいと評判の菓子店に居る。評判のお菓子の作り方や味を確かめ、自分の作るお菓子の参考にしたいと思ったのだ。
「確かに美味い……けど、オレには作り方は分からないなぁ……」
と、禊の食べているお菓子を半分ほど頂戴しながら、頼りなさげに言うのは神林 瑛莉(nCL2000072)である。
商店街をぶらついていた瑛莉を発見した禊は、複数のお菓子を食べるためのパートナーとして瑛莉をスカウト。一緒に入店し、シェアしつつ多くのお菓子を食べるという作戦を実行したのだ。
「簡単には分からないようにしてるのかな……うーん、厨房覗ければ……」
とは言いつつ、禊は味の感想や、見た目などを細かにメモしていく。
「スゲェな、プロ顔負けって奴か?」
メモを覗きながら、瑛莉。禊は苦笑交じりに、
「そこまでじゃないよ。でも、うん、再現出来たらうれしいな」
「なるほどね。次は如何する? 鐡之蔵が満足するまで付き合うよ」
そう言うと、瑛莉はメニューを差し出す。禊はそれを眺めながら、次のお菓子を品定めする。
「よぉし、一杯食べて、研究して……家で作れるように特訓だ! やるぞー!」
意気込みひとつ、手を挙げて店員を呼び、次のお菓子を注文したのだった。
蘇我島 恭司(CL2001015)と柳 燐花(CL2000695)は、休日を2人で気ままに散歩する事に決めたようだった。のんびりと街を散策する。今日は天気も良く、絶好の散歩日和と言えた。
とある小さな神社に立ち寄った時。恭司は境内に咲く梅の花を見つけた。
「燐ちゃん、梅が咲いてるよ! まだまだ寒いけど春は近付いてるんだねぇ」
思わず、声をあげた。境内に咲く梅の花は、どこか神秘的な雰囲気もあって、一層、美しく見えた。
「白梅も紅梅も綺麗です。春はもう近くまで来ているのですね。……もう少し近くで眺めてもいいですか?」
と、燐花。繋いだ手をすこし引っ張って……それは、彼女の精一杯のおねだりであったのかもしれない。
「そうだね、もうちょっと近くで見ようか」
恭司は頷いて、燐花に引かれるがまま、梅の木へと歩み寄る。
楽し気に梅の花を見つめる燐花の姿は、とても絵になる。カメラを持っていれば、その風景を写真に閉じ込めておきたくなったかもしれない。
「春の到来を告げる花と言えば桜のイメージが強いけれど、梅は冬の終わりを告げる花とも言えるかな?」
と、少しばかり冷たい風が吹いた。梅の花が揺れる。
「まだまだ寒さは残ってるけどねぇ」
苦笑しつつ、恭司はつないだ手を優しく握りしめた。燐花の手を温めるように。
「春の花が咲き乱れる光景も好きですが、まだ冷たい風が吹く中で咲き始める梅は、
別の美しさがありますね」
言いながら、燐花もきゅっ、と手を握り返す。
2人はお互いの熱を感じながら、しばし、梅の花に見入った。
2人の関係は恋愛関係、と言ったわけではない。ただ、お互いを大切に思っていることだけは確かだった。春でもなく、冬でもないそんな季節に咲く梅の花の様な、曖昧であっても、心地よく、美しい関係。
「折角だから、この季節に美味しいものを食べたいね……燐ちゃんは、何か食べたい物とかあるかな?」
恭司の言葉に、燐花は少し、悩んだ後、
「お夕飯にはまだ少し早いですから、お抹茶系の甘いものと、何か温かい飲み物……では如何でしょう?」
「それなら、近くに良い喫茶店があったはずだから、そこへ行ってみようか」
燐花は頷く。ただ、もう少し、一緒に梅を眺めていたかった。
何気ない日常に咲く一コマ、それをいつか、思い出として笑い合えるように。
2人はまだしばらく、梅の花を眺めながら、佇んでいた。
今日の切裂 ジャック(CL2001403)は女の子だった。何を言っているのかわからないと思うので、これより説明させていただく。
「切裂、お前女の振りしたら安くなるんじゃね?」
と、映画館のチケット販売所で、案内板の『カップル割引』という言葉を指さしながら言ったのは、香月 凜音(CL2000495)である。
2人は休日と言う事で映画館に繰り出したわけだが、意外と馬鹿にならないのが映画の代金。結構高いんだなぁ、と思った凜音の口から飛び出したのが、先ほどの言葉である。
「えっ、カップル割のが安……バッ……馬鹿野郎!! 俺が女でお前とカップルでっ、そんっ、なっ、あほかっ!」
なんか一瞬納得しかけたジャックだが、すぐさま正気に戻って、大慌てで否定する。
とは言え、ジャックも貧乏学生。割引するなら使いたい。というか、この割引率は結構お得。プライドと実利が脳内でぐーるぐる。くううっ、と唸りつつ、じっくり悩んで出した結論が、
「今日だけだぞ! 一夜限りの過ちみたいやな!!」
なんと同意であった。わぁお。
「…ておま。ほんとにやるのかよ。俺男の彼女作る趣味ねーぞ?」
いや、男の彼女って何なんだよ、とセルフツッコミを入れつつ凜音。
「男の彼女言うなや! 俺だって男はお断りだわ!」
とはいうものの、背に腹は代えられない。ジャックは髪を下して、凜音にしがみつくように腕を絡ませた。
俯いた顔は真っ赤である。恥ずかしさはもちろん、バレたら死ぬ、という事も有る。
はたから見れば見事にカップルである。残念なことに、両方とも男なのだが。
「あーあー……。この割引、使える?」
凜音はそんなジャックを伴いながら、チケット販売所の係員に問いかける。答えはOk。通っちゃったよ!
チケット購入後も、怪しまれないように、ジャックは凜音にぴったりとしがみついていた。はたから見ればいちゃつくバカップルである。残念なことに、両方とも男なのだが。
「あ」
と、凜音が声をあげた。その視線の先には先ほどの案内板。
「わりーわりー、友達割もあったな。今気づいたわ」
その言葉に、思わず、ぽかんと口を開けてしまうジャック。
「いやー、でも可愛い……違う、面白かったから許せ、な?」
と、悪びれもせず凜音に、
「可愛くねぇわ!」
と、言い返すジャックであった。というか、ツッコむところそこなんだ!
「少し、遅い……ですね?」
天野 澄香(CL2000194)は、エプロンを外しながら一人ごちた。
リビングのテーブルの上には、澄香の作った料理が並ぶ。
今日は、成瀬 翔(CL2000063)と麻弓 紡(CL2000623)が遊びに来る予定だった。その為、腕によりをかけて料理を作って待っているのだが、少しばかり到着が遅い。
翔に道案内を頼んでいたのだが、迎えに行くべきだっただろうか?
そんな事を思いながら、2人の到着を待つ。
一方そのころ。
「曲がる道一本間違えたかな……」
と、住宅街の小道で呟くのは翔だ。そのすぐ後ろで、翔のコートの裾を握りながらついてくるのは紡である。
一度遊びに行ったことがる、と道案内を買って出た翔だったが、どうやら道を間違えてしまったようだ。少々自信なさげな表情であったが、紡の前で弱気な姿は見せられない。
「あ、大丈夫大丈夫! もうすぐ着くから!」
と、精一杯のごまかし。
紡は、なんとなく、雰囲気を感じ取ってはいたのだが、あえて気づかないフリをしている。無闇に相棒を追い詰める必要もないし……まぁ、ちょっと散歩したものと思えばいいだろう。
ほどなくして、翔が一軒の家を指さしながら、声をあげた。
「あ、ほら! あそこだ! 着いたぜ!」
どうやら無事に到着したようである。内心、良かったー、などとほっとした様子の翔。そんな翔に気付かれないよう、少しだけ微笑む、紡。
さて、2人がチャイムを鳴らすと、すぐに澄香が現れた。嬉しそうな、でも少しだけ心配げな表情で、
「良かった、いらっしゃい、です。もしかして、迷いました?」
「え、ま、迷ってないし! ちょっと一本早く曲がっただけだし!」
早口でまくし立てる翔。その後小声で、
「ちょ、ちょっとだけ遠回りになったかもだけど……」
と呟いたのだが、澄香も紡も、聞こえないフリをした。
「ええと……それじゃ、歩いて疲れたでしょう? 早速ご飯にしましょうね」
と、澄香は2人を迎え入れる。手を洗ってきてくださいね、という言葉に従い、バタバタと洗面所へと向かう翔を視線で追いながら、微笑む2人。
「今日は、ありがと。お呼ばれ、すごく嬉しい……」
はにかみながら、紡は澄香に言った。
さて、テーブルについた3人の前には、翔のリクエストのオムライス、紡の好物のオニオングラタンスープ。そして、サラダとローズアップルパイが、美味しそうな匂いを漂わせている。
料理に目を輝かせる翔と、思わず微笑む紡。
「狐神様のお墨付きですよ、ふふ」
と、澄香。いただきます、と3人は声を合わせ、食事が始まった。
「オレ、こんなの初めて見た! パンだよな、これ?」
と、オニオングラタンスープについて尋ねる翔。
「うん。ボクの好きな物なんだ」
と、紡。へー、と感心しつつ、オニオングラタンスープを一口。次の瞬間、翔が目を丸くした。
「すげー! 美味しいー!」
と、声を上げる。実際に、澄香の料理は美味しい。まさにプロの味、という奴だ。
「うん、凄く美味しいよね……お店で食べるのより、好きかも」
紡も感想を述べる。そんな2人を見ながら、心から嬉しそうに、
「ありがとうございます」
と澄香は微笑んだ。
食事は賑やかに進んだ。食事中、翔のほっぺたについたご飯粒を、紡がとってそのまま自分の口に運び、翔が顔を真っ赤にしたり。澄香は、そんな二人の様子を、とても愛おし気に眺めていた。
食後は、食休みも兼ねて、雑談に花を咲かせる。やがて、話題は澄香の卒業についての事になった。
「休日は減るでしょうけれど、また遊びに来て下さいね、二人とも」
少しだけ寂しそうに、澄香が言った。卒業すれば、学園で会う事も少なくなるだろう。
「仕事の邪魔にならないんだったら、絶対にまた来るぜ!」
元気づけるように、翔が言う。
「学園で会えなくたって……いつだって遊びにくるよ」
澄ちゃん、大好き。そう言いながら、紡が澄香を抱きしめた。
3人の絆は、卒業という現実程度では決して断ち切れない。これからも、ずっと続いていくのだと、確信させられる。そんな休日だった。
宮神 羽琉(CL2001381)と明石 ミュエル(CL2000172)が居るのは、可愛らしい雰囲気のカフェだ。このカフェは、ミュエルが五麟市に来た時からのお気に入りであるという。
ふわー、すごー……と呟きながら、羽琉が店内を見まわす。
――僕も、こういう所をもっとしておくと、生徒会の子たちを喜ばせてあげられるのかな……。
「羽琉くんは、何頼む……?」
ミュエルの言葉で、羽琉は現実に引き戻された。目の前には、ミュエルがメニューを指さしながら、微笑んでいる。
羽琉は、カフェの雰囲気に浮かれていた自分を、少し恥じた。今は、目の前にいる女性の事を考えるべきだろう。他人の事を考えるなど、失礼だ。
「えっと、注文、ですね」
気を取り直して、紅茶とスイーツを注文する。
羽琉が頼んだものは、ディンブラの紅茶、季節ものであるイチゴのタルトだ。
ほどなくして、席に注文の品がやってくる。
紅茶も、スイーツも、絶品であった。確かに、ミュエルがお気に入りだというのも頷ける。
思わず羽琉の頬が緩むのを、ミュエルは楽し気に見つめていた。
「このカフェに羽琉くんを連れて来たかった理由、雰囲気やメニューだけじゃなくて……」
そう言うと、ミュエルが、羽琉の注文したカップを指さす。カップには、青い鳥が描かれていて、
「こないだ来た時、この鳥の柄のカップが出てきて……羽琉くんっぽいなぁって思って、一緒に来たいなぁ……って」
少し恥ずかし気に、ミュエルが言う。その言葉に、少しだけ頬を赤らめながら、
「えと……ちょっと照れますけど、なんか、嬉しいです。誰かの日常のなかで、僕の存在を思い浮かべてもらえるって……」
――危ない時に頼れるとかの方が、きっとカッコイイんでしょうけど。
その言葉は飲み込んだ。それはきっと、これからの自分次第のはずだ。
2人とも照れてしまって、なんだか気恥ずかしくなったミュエルは、自分の注文した飲み物を一口。
それからは、他愛のない話をしながら、のんびりとした、穏やかな時間が流れた。
「最近、色々あって慌ただしかったから……」
世間話のさなかに、ミュエルが言う。
「何も考えずにのんびりできる日って、久しぶりな気がする……。羽琉くん、一緒に来てくれて、ありがと……」
穏やかに微笑んで、ミュエルが礼を言った。
「のんびりしたいときのお供は、いつでも喜んで、ですよ。そういう方なら、自信あります!」
羽琉が本当に自信ありげにいうものだから、なんだかおかしくなって、ミュエルはくすくすと笑ってしまった。羽琉も、つられて、あはは、と笑い声をあげるのだった。
鈴駆・ありす(CL2001269)は、黒崎 ヤマト(CL2001083)の部屋で、部屋主を待っていた。
なんでも、ホットケーキの焼き方を覚えたから、ありすに振舞いたい、というのがヤマトの言だ。
ありすは知らない事なのだが、ヤマトはバレンタインにチョコケーキ風のホットケーキを作ってプレゼントしようと思っていたのだがどうも上手くいかなかったため、今回はそのリベンジを兼ねたホットケーキ会であるらしい。
そんなわけで、今はホットケーキ作りの準備をしているヤマトをまっているありすなのだが、どうにも手持無沙汰だ。
なので、少し部屋の片づけをする事にした。もちろん、部屋が汚れているわけではないので、少し、テーブルの上や、床に置いてあるものを整えるだけ。
そんな事をしていると、ホットケーキの具材を手にしたヤマトが現れた。
「あれ、片付けしてくれたのか?」
「……お邪魔してるんだから、この位はするわよ。い、一応、その……彼女、なんだし……ね?」
ヤマトの問いに、視線をそらしながら、答えるありす。その頬は、少し赤くなっている。彼女、という自分の言葉に、改めて二人の関係性を自覚してしまって、なんだか気になってしまった。
それは、ヤマトも同じだった。親密な関係であるが故の遠慮のなさ、それが、なんだかいいな、と、ついニヤケそうになってしまうのをぐっとこらえた。
さて、ヤマトの腕前を披露する時間が来た。
ホットプレートに投下されたホットケーキミックス。焼けるのをじっと待つ。
真剣に、丁寧にホットケーキを焼き上げようとするその一挙手一投足を、ありすがじっと見つめていた。それを自覚すると、ヤマトはなんだか緊張してしまう。とは言え、失敗は出来ない。気合を入れつつ、一枚、綺麗にホットケーキを焼き上げた。美味しそうな、プレーンのホットケーキだ。
お皿に移して、ありすの前に。
――ありすが美味しいって思ってくれたらうれしいな。
そう思いながら、ありすがホットケーキを食べるのを待つ。
「……へぇ、うん。意外とちゃんと出来てるわね」
感想をこぼす。嬉しそうにニヤけるヤマトの顔を見て、ありすは慌てて、
「ま、あくまでも基本は、だけど。言っとくけど、アタシは結構ホットケーキにはうるさいのよ? 色んなコツとか隠し味とか叩き込んであげるから、覚悟しなさい」
と、照れ隠しに、一息にまくしたてる。
「それって、作り方教えてくれるって事?」
ヤマトの言葉に、ありすは視線をそらしつつ、頬を染めながら頷いた。
初々しい恋人たちの料理教室は、今日だけならず、まだまだ続く。
片科 狭霧(CL2001504)、新堂・明日香(CL2001534)、丹羽 志穂(CL2001533)、神野 美咲(CL2001379)。年頃もバラバラの4人だが、不思議と気が合う4人組だ。
さて、4人は休日のショッピングモールで、買い物に興じていた。女性が集まれば、咲くのは当然オシャレの花。そんなわけで、足は自然と洋服屋へと向かう。
「もうすぐ冬物も終わりだけど、こういう時だから色々見つかったりするんだよね」
志穂が冬物のコーナーを眺めながら、言った。
確かに、商品の主戦場は、春先の物へと切り替わる時期である。だが、逆にこういう時期だからこそ掘り出し物が見つかる、らしい。
「ほら、この猫のニット。可愛い」
可愛らしいニットを、美咲の体に当ててみる。
「あら、よく似合うじゃない」
狭霧が楽しげに笑う。美咲はムムム、と唸ると
「ま、まぁ、偶には可愛い服を着るのも良い物だな!」
と、まんざらでもない表情で言う。普段は子供っぽく見られないようにスタイリッシュな服を着ている美咲であったが、本来は可愛いものにも興味があるのだ。
「あはは、いいね、それ。あたしも、余裕ある今なら可愛いのとか着てみても良いかな……でも似合うかなあ」
明日香の言葉に、志穂と狭霧は、
「新堂に似合うかわいい服か……任せてよ」
「ふふ、そうね。これなんかどうかしら?」
と、とっかえひっかえ、可愛らしい服を見つけては、体に当ててみる。
「ちょ、ちょっと! さ、流石にこれはフリフリすぎない……?」
顔を真っ赤にして恥ずかしがる明日香に、
「あら、よく似合ってるわよ。ねぇ?」
「うん、新堂は、普段は動きやすい格好してるから、こういう格好も新鮮だね」
2人でとっかえひっかえ、次々と服を当てては、コーディネートを確かめる。
と、そんな3人に、美咲が声をかけた。
「な、なぁ! これはどうだ? 試着してみたのだが……カワイイ……というか、せくしー? だろう!」
得意げに言う美咲。彼女が試着していたのは、背中から腰のあたり、そしてサイドにかけて大きく穴の開いたセーターだ。独特なその形状は、その下に何かを着て、上から着る事でコーデを合わせるタイプの服なのだろう。
問題は。
美咲は、素肌にスカート、という格好でそのセーターを着てしまった、という事だ。
つまり、サイドから背中、腰のきわどいラインあたりまで、綺麗な素肌が完全に見えてしまっているのである!
「えっ」
「あら」
「おやおや」
その姿に、思わず声を上げる3人。それを感嘆の声と受け取ったのか、美咲は得意げに胸を張る。
「ちょっと寒いけれど、我輩に掛かればこんな服でも……」
「これは、中にシャツか何かを着こむタイプのものじゃないの?」
狭霧の冷静なツッコミがさえる。
「……これは危険だね」
何やらもっともらしげな表情で、うんうんと頷く明日香。
「ね。ちょっとだけ、背中。つつーって、なぞってもいい?」
と、何やら楽し気に志穂。
3人の反応を見て、自分が何をやらかしたのかを一気に悟ったらしい。ぼん、という音でも聞こえそうな勢いで顔を真っ赤にした美咲は、
「や、ちょ、見ないでくださ……あ、いや、見るな!」
と、思わずうずくまってしまう。
「あら、ダメよ。屈んだら胸が綺麗に見えちゃうわ」
狭霧の至極当然な指摘に、慌てて立ち上がる美咲。だが、立ったら立ったで背中とサイドが余計に気になる。結局、顔を真っ赤にしながら、う~~、と唸り始めてしまった。
「ほら、神野ちゃん。ボクもお揃いだから、大丈夫だよ?」
と、そんなを美咲を、背中から優しく抱き留めながら、志穂が声をかける。なんと、志穂もまた、素肌に件のセーターを着ているのである。フラットな体系の美咲に比べ、メリハリのあるボディの志穂の姿は、さらに危険度が増している。
「何でだ!? なんで着たんだ!?」
思わず声を上げる美咲。
「んー、なんとなく? でも、流石のボクも、この格好は落ち着かなくて、そわそわするね」
と、少々頬を赤らめながら答える。その表情が、インモラルな雰囲気を醸し出している。
「せっかくだし、あたしも試着してみようかな」
何が折角なのかはわからないが、恐らく場の雰囲気に流されたのだろう、明日香が試着室へ向かう。向かった。戻ってきた。
「……に、似合う?」
恥ずかしさにもじもじとしながら、明日香もまた、スタイル抜群である。胸の頂点からおへそにかけて、生地が浮いて隙間が見えている。危険度が凄い。
このエリアが女性服の販売エリアでよかった。ここに男性が紛れ込んでいたら、それこそとんでもないことになっていたであろう事は、想像するに難くはない。
「むー……所で、狭霧は着ないのか?」
美咲の問いに、私? と狭霧は言って、
「私が着たら、殿方の目の毒すぎるでしょう? ふふふ。こういうのは、可愛らしいお嬢さんがたが着てこそ、似合うものだと思うわよ」
そう言って、くすりと笑う。
狭霧がこの後、このセーターを着たかどうかは分からないが、彼女たちのショッピングは、まだまだ続くのであった。
とあるホテルのフロアを貸しきってのパーティ会場の一角で、ドレスに身を包みながら、秋津洲 いのり(CL2000268)は一つ、ため息をついた。
せっかくの休日だったが、祖父に、祖父の友人の社長主催のパーティに連れ出されてしまったのだ。
会場では、色々な人物が、いのりへと話しかけてくる。彼らの内心に、祖父の後継者へ顔を覚えさせたいという欲望がある事は感じ取っていた。作り笑顔で応対していたものの、流石に疲れ、会場の隅で、こうして休憩しているのだ。
――今頃、F.i.V.E.の皆さまは何をされているのでしょう?
大切な仲間たちの事を考える。年の離れた友人は、また何か、ドジを踏んだりしていないだろうか……仲間たちの事を思うと、自然に笑みが浮かんでくる。
F.i.V.E.に所属してから、いのりの生活は変わった。それまでの生活では知らなかったもの、出会う事はなかった人々との交流を通じ、自分は成長できたと実感する。
――でも、F.i.V.E.の生活が全てではない。今日のこれだって、いのりの大切な生活の一部ですのね。
よし、と彼女は頷いて、再びパーティ会場へと歩み始めた。
祖父の為にも最後まで、立派に勤め上げよう。彼女の忙しい休日は、まだ始まったばかりだ。
「ふんふん~ふふん~♪」
鼻歌などを歌いながら、向日葵 御菓子(CL2000429)は自室で、所蔵の楽器を広げていた。
休日の彼女の楽しみ。それは、楽器のメンテナンスだ。御菓子にとって、楽器とは愛する我が子と同等の存在だ。メンテナンスも、徹底的に愛情をこめて行う。子供にそうする様に、時に話しかけながら、二人だけの時間を楽しむのだ。
……この姿を教え子に見られると、引かれるらしい。本人にとっては当たり前のことなので、何故教え子に引かれるのか、理解できないようだ。
まぁ、形はどうあれ、道具に愛情を注ぐことは決して悪くない。器物百年たてばなんとやら。古妖・付喪神ではないが、愛情を注いだ分だけ、道具だって、しっかりとこたえを返してくれる。
「ふぅ……完璧。綺麗になりましたね……」
たっぷり時間をかけてメンテナンスを終えた楽器を眺めながら、恍惚の表情で、御菓子が言う。試しに演奏してみると、楽器は鮮やか音色で、メンテナンスへの返礼をする。
御菓子曰く、ご飯三杯はいける至福の瞬間の到来であった。
ふと、窓を見ると丁度日の暮れる時間帯だ。妹の、夕食が出来上がったとの声が聞こえる。
楽器と同じ、いやそれ以上に愛する妹の夕食を楽しみにしながら、音楽教師の休日は終わりを告げるのだった。
菊坂 結鹿(CL2000432)は朝から悩んでいた。
最愛の姉を、驚かすような料理を出してみたいと。
結鹿の姉は、結鹿が作ったものは何でもおいしい、と喜んで食べてくれるという。
もちろん、それはうれしい。うれしいのだが――たまには、違った評価が聞いてみたい。
それが我がままだと、贅沢だと、結鹿自身は思っていた。
とは言え、大好きな人の、もっと喜ぶ顔が見たいというそれは、誰もが抱く純粋な欲求なのではないだろうか。
さておき、結鹿は何か料理のヒントを求め、冷蔵庫を開いた。開いてすぐ、ある食材が、結鹿の目に止まる。
――これだっ!
昨日見た、テレビ番組で紹介していた料理が、結鹿の脳裏に浮かんだ――。
その夜。
「お姉ちゃん、今日は担々麺だよ」
と、食卓に並んだのは担々麺だ。
しかし、これは結鹿がひと手間加えた、特別な担々麺だ。
その正体は、なんとチョコレート。スープにチョコレートが溶かしてあるのだ。
チョコの風味の中に、ピリッとした刺激が楽しめる。
結鹿の姉は、驚きながらも、美味しい、と料理を褒めてくれた。
結鹿の休日は、喜びに満ちた終わりとなりそうだ。
休日の黒猫庵、日当たりの良い縁側で。
椿 那由多(CL2001442)と十夜 八重(CL2000122)は、2人、日向ぼっこを楽しんでいた。
那由多は縁側に腰かけて、鼻歌交じりに足をぶらぶら。八重はその後ろに座り、那由多の髪を、優しく、くしで梳いている。
髪を梳いてもらうのが心地よくて、那由多は至福の表情だ。
「人に髪の毛を触って貰うのって、気持ちええですね」
目を細めながら、那由多が言う。
「八重さんやから、かもしれやんけど……お母さんに、してもらってるみたいで安心します」
「ふふ、気持ちよさそうな那由多さん見てると、楽しくなっちゃいますし……きっとお母さんも、那由多さんを見て楽しくなってたから……ですよ」
言いながら、八重は、那由多の黒くて長い髪の毛を弄ぶ。
「あ、三つ編みも似合いそうですね?」
なんて言いながら、那由多の髪を、三つ編みに編んでいく。那由多は気持ちよさそうに、されるがまま。ほどなくして、三つ編みが完成する。八重は、
「似合ってますよ? あ、でもなんだか猫さんの尻尾みたいにも見えますね?」
なんて言いながら、那由多の顔の横で、三つ編みの先をフリフリ、頬を撫でたりするものだから、
「って、くすぐったい! 八重さん……!」
と、笑いながらじゃれ合う。
その後は、しばらく日向ぼっこを続けた。休日の午後の日差しは暖かく、昼寝には最適の環境だ。那由多はなんだかうとうととしてきてしまった。
「あ……あの、そ、その、陽当たりよおて眠たくなってきてしもた」
ふわぁ、とあくび一つ。恥ずかし気に、
「このまま、昼寝してもええやろか?」
那由多が言う。
「ふふ、いいですよ?」
言うや、八重は那由多を後ろから、優しく抱きしめるようにして、こてん、と自身の膝の上に転がした。膝枕の体勢だ。
「ゆっくりおやすみなさい」
「えっ!? ……は、はい、ほな失礼します」
戸惑いつつも、柔らかな膝の誘惑には勝てなかったのか、そのまま子猫のように丸くなり、瞳を閉じる。
すぐに寝息を立てはじめ、黒猫は夢の中へ。
八重はそんな様子を優しげに見守りながら、眠気が移ったのか、ふわぁ、とあくびを一つ。そのままうとうととし始めた。
心地よい日差しの縁側で、二匹の子猫のお昼寝の時間。春はすぐそこまで来ていた。
酒々井・千歳(CL2000407)の自宅、その和室にて。
千歳は水瀬 冬佳(CL2000762)と、のんびり休日を過ごしていた。
「映画ですか……」
テーブルの上に並べられたDVDのパッケージを見ながら、冬佳が言う。
「ちらほら話題に出るのは聞くんだけど、実際に映画を見に行くのってあんまりなくてね」
そこで、せっかくの機会、この休日に見てみようかと、いくつかレンタルしてきたのだという。
「冬佳さんが興味ありそうなのはどれだろうねえ、時代劇物とか?」
「……私も、映画はあまり馴染みが無いのですよね。そもそも見る習慣が全く無かったといいますか……とはいえ、全く興味が無い訳でも無くて」
なるほど、と、千歳は頷いて、
「そうだね……『我の名は。』とか面白いらしいよ。傲岸不遜な王様が、やがては賢王と呼ばれる様になるまでの半生を映画化してみたんだとか」
評判になった映画のタイトルと、簡単な内容を告げる。
「『我の名は。』……これですか?」
冬佳が、DVDを手に取り、首をかしげる。千歳が頷いたのを見て、
「じゃあ、まずはこれにしてみますか。酒々井君の聞いた評価、確かめてみましょう」
そんなこんなで、いくつかの映画を視聴して、数時間。気が付けば日も暮れている。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろ夕飯の準備しなくちゃ」
立ち上がり、千歳が尋ねる。
「鍋の予定なんだけど大丈夫かい?」
「お鍋は好きです。それに……夜はまだ冷えてますし、温かくて良いですね」
微笑みながら、手伝います、と、冬佳が立ち上がる。
これから、一緒に夕食の用意をして……食事をとりながら、映画の感想をゆっくりと語り合おう。
それからは……まだ、やりたい事、話したい事がたくさんある。
2人の休日はまだまだこれからだ。
五麟市から少し外れた所にある水蓮寺。その住居にて、水蓮寺 静護(CL2000471)今日という日をどう過ごそうか考えていた。
――さて、今日はどうしようか。たまには自宅でゆっくり過ごすのも悪くな
「やっほー! どーせセーゴの事だから家から出ないと思ってたらやっぱり居た! 暇だし暇そうだから遊びに来たよー!」
と、静護の思考を中断させた声。その主は、静護の友人である、天城 聖(CL2001170)だ。
――こうなってはゆっくり過ごせそうもないな。まぁ、良いが。
胸中で呟きつつ、聖を招き入れる。
「やっほ、で、何して遊ぶ? と言っても将棋とかトランプしかないんでしょ?」
「まぁ、そうだな。将棋やトランプしかない」
「いいよー、やろうよ」
と、言う事になった。
種目は将棋に決まったようだ。この2人、よくトランプや将棋で対戦しているようだが、今の所、その勝率は静護に大きく偏っている。というか、聖が勝つことの方が稀らしい。
現に今回も、盤面は聖が大幅に負けている。
「そういえば昨日、親戚からサバの切り身をいただいた。今晩の夕飯にでもしてもらうつもりだ」
ふと、静護が世間話を切り出した。パチン。将棋の駒を動かす。聖も話題に食いつく。
「サバもらったんだ、いいなー。今度私の家でもサバ出してもらうようにお願いしよっかな」
パチン。将棋の駒を動かす。と。
「やはりサバは塩焼きが一番だろう」
「やっぱサバと言ったら味噌煮が一番だよね!」
同時に。
二人が口を開いた。
全く異なる内容を、全く同時に語りはじめる二人。
「塩が魚本来の旨みを引き出し、焼くことにより締まった身の食感が……」
「味噌と調味料で煮込んだあの独特の香りと、食べた時の程よく甘くてしょっぱい味わいが……」
と、ここまで語って、うん? と唸り、お互いがお互いの目を見た。
視線が絡み合う。それは、将棋の対戦時よりも、よっぽど本気の目。
「聖、その目はなんだ」
「ってセーゴ? その目はなに?」
再び。
同時に、二人がまくしたて始める。
「何を言おうと僕は塩焼きが一番なのは譲らん。味噌煮など二の次だ」
「まさか塩焼きごときが味噌煮に勝ってると言いたいの? いや、そんなはずはないし絶対認めない!!」
ばん! と、聖が将棋盤を叩き、立ち上がる。
「こうなれば徹底的に口論も辞さないよ!!」
ばん! と、静護が将棋盤を叩き、立ち上がる。
駒はバラバラになり、対局はうやむやになった。
「良いだろう! お前が納得するまで徹底的に口論だ!!」
かくして、2人はサバの調理方法について、延々と、本気で口論を始めたのだった。
2人の口論は、結局夕食時まで続いたとか、続かなかったとか――。
外回りするのに気が乗らなかった。
そんな理由で、事務所で雑事をこなしていた探偵、八重霞 頼蔵(CL2000693)の事務所に現れたのは、よくある浮気調査の依頼者――ではなく、そう言った依頼者とは正反対の雰囲気をまとった天堂・フィオナ(CL2001421)だ。
「頼蔵、手伝いに来たぞ!」
フィオナは日ごろ世話になっている例も兼ねて、と、手伝いにやってきたらしい。
「……何も面白い事など無いのに、奇特な事だね」
ふむ、と唸る。フィオナは目を輝かせて、指示を待っているようだ。なるほど、フィオナの決意も堅いらしい。
せっかくなので、頼蔵は、目に触れても問題ないような書類の整理や、掃除などを依頼する。
フィオナは嬉しそうに頷くと、いそいそと作業に取り掛かった。
個人事務所とは言え、整理すべき書類の量はそれなりに多く、些かサボり気味だったせいで事務所も多少、汚れている。
結果、フィオナに与えられた仕事も、結構な作業となる。
「凄いな、いつも一人で、全部やってるのか……?」
目の前に詰まれた書類の束を眺めながら、フィオナが嘆息する。
「当然だろう、私しか居ないからな」
自身も書類のチェックをこなしながら、こともなげに答えた。
フィオナは、そんな彼を尊敬のまなざしで見つめている。
――さて、そんな目で見られるような身分ではないのだが。
胸中で呟く。
フィオナが書類の整理と掃除を済ませても、頼蔵の仕事は終わらない。
「凄いな……一体いつ休んでるんだ……」
頼蔵の仕事ぶりを見つつ、フィオナが呟いた。将来は探偵になりたい、と憧れるフィオナだったが、中々のハードワークのようだ。
割り振られた作業を終えたフィオナは、持参した茶葉と茶器で、丁寧にお茶を入れ始めた。お茶の良い香りが事務所内に清涼な空気を漂わせる。
「そのくらいで休憩にして……一杯どうぞだ!」
頼蔵のデスクの邪魔にならない所に、カップを置く。
報告書の作成をしていた頼蔵は、
「有難う。君も適当にくつろいでいてくれ」
自身は休憩するつもりはないらしい。その後黙々と、報告書に筆を走らせる。
フィオナは言葉に甘え、事務所の来客用のソファに腰を下ろした。
しばし、ペンの音だけが事務所を支配する。
「……今日は助かったよ」
不意に。
頼蔵が口を開いた。
「感謝する」
作業の手は止めなかったが、確かな感謝の言葉だ。
その言葉に、フィオナは満面の笑顔を浮かべたのだった。
学校も休み! 依頼も休み! そんな日は――。
「うちの寺の雑用じゃーーーい!!!」
寺の敷地の真ん中で、工藤・奏空(CL2000955)が叫んだ。
お寺は奏空の叔父の持ち物なのだが、当の叔父は出て行ってしまったらしく、その留守を奏空が預かっている。
当然、放っておけば荒れ放題になるわけで、お寺の保守点検はしなければならない。
さて、何処から取り掛かろう。建物内はもちろん、境内の掃除もしなくてはいけない。
「っていうか広いんだよ!」
奏空は頭を抱えた。正直、一人では今日一日で終わるかどうか。
と、その時。
救いの手は差し伸べられた。
「そーらー!! オレだーー!!」
「奏空くーん!」
境内に響くは鹿ノ島・遥(CL2000227)と御影・きせき(CL2001110)の声。
捨てる神あれば拾う神あり。そう、2人は奏空を手伝いに
「遊びにきたぜーー!!」
「あそぼー!」
来たわけじゃなかった。
「って、遊びに来たんかーーーーい!!」
なんか妙にテンションが上がってきたのか、叫び声をあげる奏空。
「って、何してんだ?」
尋ねる遥に、奏空が答える。かくかくしかじか。
「へー、寺の雑用?」
「え、家の掃除とかしなきゃいけないの? ここ全部ひとりで!?」
目を真ん丸に見開いて驚くきせき。そうだ、と、ぽん、と手を叩いて、
「僕たちも手伝うよ。ね、遥くん?」
その言葉に、遥も頷く。
「オレらが手伝ってやるよ! そしたら早く終わるだろ? そしたら早く遊びに行けるよな!!」
「3人で手早く終わらせて、残った時間で遊ぼうよ!!」
「うう……ありがとう……じゃあ、まずこれ持って」
礼を言いつつ、やる事はスピーディに。奏空だって遊びたいのである。
奏空が2人に手渡したのは、雑巾とバケツだ。そのまま、寺の廊下へと案内する。
「さぁ、雑巾レースの始まりだー!!!」
奏空が高らかにレースの開催を宣言する。コースは直線十数メートル、埃と汚れはレースにどう影響するのか!
「雑巾がけか! 任せろ! 道場ではいつもやってることだ!」
「受けて立つよー! 僕だって学校の大掃除では廊下の雑巾がけ頑張ったんだもん!」
よーいドン、という遥の合図とともに、3人が一斉にコースへ飛び出す。どたどたと大きな足音を立てながら、長い廊下を一気に駆け巡る。
「うおおおおおアクセルフルスロットル!! よっしゃ! オレの勝ち!」
「うう、負けちゃった……」
勝ち誇る遥と、ちょっとしょんぼりなきせき。負けはしたが笑顔の奏空。
「よーし、次はこれ!」
奏空は、境内に2人を連れだす。竹ぼうきを手渡して、
「落ち葉のカーリングだーー!!」
ばっさばっさと地面を掃きだす。
「任せろ! オレの棒さばきを見せてやるぜ! 箒大回転!!!」
ぐるんぐるんと箒を振り回し、見事に落ち葉を掃き散らす遥。
「落ち葉集めだって、負けないよー!」
こちらもかなりの早業で、バサバサと落ち葉をかき集めていく。
とは言え、3人の動きは掃除と言うより、遊びそのもの。動きは激しく、効率はあまりよろしくない。
「わーっはっは! ……って! ちょっと待って!? もうちょっと丁寧にやって!? 寺壊れちゃう!!!」
ふと素面に戻った奏空が叫ぶ。
「って、確かにこんな乱暴なやり方だとお寺壊れちゃうよね。ごめんなさーい!」
「あはは、悪い悪い! で、ソラ! 次はなんだ! 何すればいい!」
謝りつつも、3人の顔に浮かぶのは笑顔だ。退屈な掃除も、仲良し三人組の手にかかれば、立派な遊びに変わってしまう。
この3人にかかれば、すぐに寺中が綺麗になる事だろう。
……まぁ、確かにもうちょっと、丁寧にやった方がいいかもしれないけれど。
「んー……」
夕暮れの市街地、あるビルから出てきて、軽く伸び。
風織 紡(CL2000764)は、ふぅ、と一息つくと、今日学んだことについて、頭の中で反芻しつつ歩き始めた。今日は、バリスタの勉強の日だ。
働き始めて、早一年。最初半年くらいは休日は普通に休んでいたのだが、最近はこうして、様々な勉強の時間に費やしている。
何故なら、紡には一つ、夢が出来たのだ。
鞄からスケジュール表を取り出し、今後の予定をチェック。次の休日には料理教室の予定が入っている。ああ、そうだ。帰りに書店によって、経営関係の本も買っておこう。
紡の夢。それは、カフェを開業する事だ。
今の仕事をしながら、こうして少しずつ、開業に向けて勉強と準備をしている。
昔の自分からは考えられない事だろうな、とは、自分自身、思っている。
それでも、今の生活の方がずっとやりがいがあって、楽しい。
目標に向かって進んでいく。今は、全てにおいてまだまだだけど、ちょっとずつ前進していくのがとても楽しい。
いつか、オシャレなカフェを開いて……欲を言えば、弟にも一緒に働いてほしい。
そんな事を思いながら、夢見る紡は、自らの道を進んでいくのだ。
栗落花 渚(CL2001360)は、公園のベンチで、アイスクリームを一口。口中に心地の良い甘さが広がり、思わず笑顔になる。
ジャージ姿の渚は、休日の日課であるランニングを終えた所だ。しっかり運動したので、ご褒美に、と、軽く甘いものを食べている。
渚がこうして、休日に運動をしているのは、夢の為だ。
看護師になりたい。そして、その夢を与えてくれた人が言った、『看護師は体力勝負』という言葉が、渚を突き動かしている。
しっかりアイスクリームを味わうと、次はどうしようか、と悩む。
またちょっと走ってもいいし、ストレッチや筋トレをするのもいい。
いや、運動は切り上げて、勉強の方をやった方がいいかな。
勉強、と頭に浮かんだ途端、うう、と思わず呻いてしまう。渚ははっきりと言えば、勉強はあまり好きではない。ついつい逃げ出してしまいたくなりがちだし、キャラじゃない、と自分では思う。
でも、逃げてばかりでは夢に近づけない。だから、苦手でも、キャラじゃなくても、精一杯頑張る。そう決めたのだ。
「よし、今日もやるぞー!」
気合を入れ、立ち上がる。
彼女の進む道の先に、花開いた夢がありますよう。
今日は、三島 椿(CL2000061)の家でお泊り会。
参加者は、椿と三峯・由愛(CL2000629)、七海 灯(CL2000579)に守衛野 鈴鳴(CL2000222)の4人だ。
椿の家に集まった4人、まずはお風呂に入ることになった。一番年下の鈴鳴は、年上の皆と一緒にお風呂に入ることがなんだか気恥ずかしく、同時に自身と比べてしまう。いつか、憧れのお姉さんである、3人のようになれたらいいな、と思う。
それぞれパジャマに着替え、髪を乾かしたら、いよいよ本番。
各自が持ち寄ったお菓子を食べながら、4人の話に花が咲く。
「やっぱり、皆さんの恋愛事情が話題の定番だと思うんです」
青と白のグラデーションのキャミソールに、黒系のショートパンツのパジャマを着た灯が言う。言う通り、この手の話題として定番なのは、やはり恋の話だろう。
「あっ、なるほど……確かに私も皆さんの恋愛事情はとっても気になります」
こくこくと頷きながら、由愛が納得する。
「そういえば、三島さんが殿方とお付き合いを始めたという噂を聞いたんですが……!」
由愛が言った。その通り、この4人の中で恋人が居るのは、椿だけ。恋愛関係の話題となれば、その中心となるのは、椿の話題となるのは仕方がないだろう。
話題を振られて、ついびくっ、となる椿。
「え、ええ……つ、付き合っている人はいるわ……」
染まった頬は、風呂上り故のものだけではないだろう。3人は、興味津々、といった表情だ。
「どんな、方なのでしょう?」
ふわふわもこもこのルームウェアを着た鈴鳴が、恋人について尋ねると、椿の頬はますます紅潮する。
「ええと、その優しくて頼りになる……かっこいい人」
消え入りそうな声で答えた椿の頬は、もう真っ赤。残りの3人は、思わず、きゃーっ、と歓声をあげそうな位のテンションだ。
「お付き合いしてからどんなことをしてきたのですかっ!?」
由愛がテンション高めに尋ねる。
「そ、それは、その……それより、み、皆はど、どう? こ、好みのタイプとか!!」
このままでは質問攻めにされてしまう。そう思った椿が、自身から話題をそらそうと、逆に尋ねかえす。3人はうーん、と悩みながら、
「私の好みのタイプですか……」
灯が答えた。
「そうですね、行動力があって、ひたむきで、つい応援したくなるような、そんな人が好みかも知れません……」
言いながら、少し恥ずかしくなってきたのだろう。少し頬に赤みがさす。
「……もしお付き合いするなら、リードしてくれる人がいいですね」
由愛が答える。
「自分で引っ張るタイプではないので……」
苦笑しつつ、言った。
「まだ、私自身は恋ってよく分かってないんです」
鈴鳴が答える。
「でも、一緒にいてほっと安心できるような人……そんな人と巡り逢えたら、いいなぁって……」
鈴鳴の頬も赤く染まる。
「でも、私……誰かと付き合える日なんて来るのかな……」
由愛がぼそっ、と呟く。
「大丈夫です、由愛さんならきっと、すぐにいい人が見つかります!」
灯が言った。
「そうですよ……それに、恋愛のアドバイスなら、先輩がいますから」
鈴鳴の言葉に、再び椿がビクリ、と肩を震わせる。話題が自分に戻ってきそうな空気に気付いたようだ。
「え、ええと、その、ほら、皆は、えーと……」
何とか話題をそらそうと、必死に別の話題を探す椿だが、少々混乱してしまってすぐに話題が出てこない。
「そうです! 椿さんは、告白はどうしたんですか? どこで? 自分からしたんですか? それとも、相手からされたんですか?」
灯が身を乗りだし、興味津々、といった表情で聞いてくる。
「あ、私も気になります……というか、さっきはぐらかされてしまいましたけど、お付き合いしてからどんなことをしてるのか、教えてくださいっ」
由愛も瞳を輝かせながら、尋ねる。
「え、えーと、その……く、クリスマスの時に告白されて……もう、私ばっかり質問攻めしないで!」
顔を真っ赤にしながら、椿が言った。
とは言え、乙女たちの興味が尽きる事はない。
恋人生活を根掘り葉掘りと尋ねられ、椿はもう、耳まで真っ赤だ。
もちろん、恋愛関係ばかりが話題と言うわけではない。
彼女たちの長い長い夜はまだ始まったばかり。
乙女たちのパジャマパーティは、まだまだ続く。
三者三様、十人十色の覚者達の休日は、こうして過ぎて行くのだった。
F.i.V.E.所属覚者の日常は過酷である。
依頼で全国各地へ飛び回る事も有る。怪我も絶えない。ああ、もちろん本業もおろそかには出来ない。
とは言え、F.i.V.E.も鬼ではないので、きちんと休日は存在する。
今日はオフの日。休みの日。覚者の皆は、どんな一日を過ごすのだろう?
今回は、そんな皆の休日を、少しだけのぞかせてもらおう。
田場 義高(CL2001151)の乗ったバイクが、公道の風を切る。二人乗り(タンデム)するのは1人の女性。義高の、最愛の妻だ。
久しぶりの妻とのデートに、義高は高揚していた。愛娘は、友人に預けてある。久しぶりの、二人きりの時間だ。
デートの誘いをかけた時のことを思い出す。誘いに驚きながらも、嬉しそうに頷く妻の姿は、あまりにも可愛らしかった。改めて惚れ直すというものだ。たまらず抱きしめてしまったのを、娘に見られたのは不覚であったか。
さて、2人は妻の希望もあって、水族館へと入館した。少々の些細なトラブルはあったものの――仔細は伏せておこう。ちなみに、彼は妻との初デートの際、その強面が原因で、誘拐犯と勘違いされたらしい――妻は終始笑顔で、デートを楽しんだようだ。
水族館を出た後は、近くの広場で、弁当を広げ、昼食をとる。食休みは、妻の膝枕で。
久しぶりのデートは、二人の仲をさらに深めたようだ。その絆は、さらに深まっていくことだろう。
もしかしたら、家族が増える……かもしれない。
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、自室で一人、大きなクッションに身をうずめ、読書に没頭していた。
本業である学業や、F.i.V.E.の仕事の相談などで時間をとられ、読みたい本を読まずに積んでしまう事の多いラーラは、休日には、こうして一人、大好きな本を楽しむことも多い。
読書の場所は、お気に入りのカフェであったり、色々とあるのだが、今日は自室でゆっくりと、という気分であったようだ。
一人で、と言ったが、訂正しよう。ラーラの傍には、いつでも守護使役のペスカがいる。ペスカはとても甘えん坊な性格らしくて、ラーラが本を読んでいる時には、ぴったり傍にくっついて眠ったり、顔を覗き込んで嬉しそうにしていたり。
今日もラーラの傍で、くっついて眠っている。
丁度集中が途切れたのか、ラーラが本から視線を上げ、隣で眠るペスカに目をやる。ラーラは、くすりと笑うと、ペスカから離れ、別の場所へ移動する。悪戯心からくる、とっとした意地悪だ。
するとペスカは慌てて起き上がり、いそいそとラーラを追いかけ、またぴったりとくっつき眠りだす。
そんな可愛い相棒の姿を見て、ラーラはまた、くすりと笑うのだった。
「むむ、おいしい。どうやって作るんだろう、これ」
目の前に広げられた幾つかの洋菓子。その中から一つを口に運び、鐡之蔵 禊(CL2000029)は唸った。
禊は、美味しいと評判の菓子店に居る。評判のお菓子の作り方や味を確かめ、自分の作るお菓子の参考にしたいと思ったのだ。
「確かに美味い……けど、オレには作り方は分からないなぁ……」
と、禊の食べているお菓子を半分ほど頂戴しながら、頼りなさげに言うのは神林 瑛莉(nCL2000072)である。
商店街をぶらついていた瑛莉を発見した禊は、複数のお菓子を食べるためのパートナーとして瑛莉をスカウト。一緒に入店し、シェアしつつ多くのお菓子を食べるという作戦を実行したのだ。
「簡単には分からないようにしてるのかな……うーん、厨房覗ければ……」
とは言いつつ、禊は味の感想や、見た目などを細かにメモしていく。
「スゲェな、プロ顔負けって奴か?」
メモを覗きながら、瑛莉。禊は苦笑交じりに、
「そこまでじゃないよ。でも、うん、再現出来たらうれしいな」
「なるほどね。次は如何する? 鐡之蔵が満足するまで付き合うよ」
そう言うと、瑛莉はメニューを差し出す。禊はそれを眺めながら、次のお菓子を品定めする。
「よぉし、一杯食べて、研究して……家で作れるように特訓だ! やるぞー!」
意気込みひとつ、手を挙げて店員を呼び、次のお菓子を注文したのだった。
蘇我島 恭司(CL2001015)と柳 燐花(CL2000695)は、休日を2人で気ままに散歩する事に決めたようだった。のんびりと街を散策する。今日は天気も良く、絶好の散歩日和と言えた。
とある小さな神社に立ち寄った時。恭司は境内に咲く梅の花を見つけた。
「燐ちゃん、梅が咲いてるよ! まだまだ寒いけど春は近付いてるんだねぇ」
思わず、声をあげた。境内に咲く梅の花は、どこか神秘的な雰囲気もあって、一層、美しく見えた。
「白梅も紅梅も綺麗です。春はもう近くまで来ているのですね。……もう少し近くで眺めてもいいですか?」
と、燐花。繋いだ手をすこし引っ張って……それは、彼女の精一杯のおねだりであったのかもしれない。
「そうだね、もうちょっと近くで見ようか」
恭司は頷いて、燐花に引かれるがまま、梅の木へと歩み寄る。
楽し気に梅の花を見つめる燐花の姿は、とても絵になる。カメラを持っていれば、その風景を写真に閉じ込めておきたくなったかもしれない。
「春の到来を告げる花と言えば桜のイメージが強いけれど、梅は冬の終わりを告げる花とも言えるかな?」
と、少しばかり冷たい風が吹いた。梅の花が揺れる。
「まだまだ寒さは残ってるけどねぇ」
苦笑しつつ、恭司はつないだ手を優しく握りしめた。燐花の手を温めるように。
「春の花が咲き乱れる光景も好きですが、まだ冷たい風が吹く中で咲き始める梅は、
別の美しさがありますね」
言いながら、燐花もきゅっ、と手を握り返す。
2人はお互いの熱を感じながら、しばし、梅の花に見入った。
2人の関係は恋愛関係、と言ったわけではない。ただ、お互いを大切に思っていることだけは確かだった。春でもなく、冬でもないそんな季節に咲く梅の花の様な、曖昧であっても、心地よく、美しい関係。
「折角だから、この季節に美味しいものを食べたいね……燐ちゃんは、何か食べたい物とかあるかな?」
恭司の言葉に、燐花は少し、悩んだ後、
「お夕飯にはまだ少し早いですから、お抹茶系の甘いものと、何か温かい飲み物……では如何でしょう?」
「それなら、近くに良い喫茶店があったはずだから、そこへ行ってみようか」
燐花は頷く。ただ、もう少し、一緒に梅を眺めていたかった。
何気ない日常に咲く一コマ、それをいつか、思い出として笑い合えるように。
2人はまだしばらく、梅の花を眺めながら、佇んでいた。
今日の切裂 ジャック(CL2001403)は女の子だった。何を言っているのかわからないと思うので、これより説明させていただく。
「切裂、お前女の振りしたら安くなるんじゃね?」
と、映画館のチケット販売所で、案内板の『カップル割引』という言葉を指さしながら言ったのは、香月 凜音(CL2000495)である。
2人は休日と言う事で映画館に繰り出したわけだが、意外と馬鹿にならないのが映画の代金。結構高いんだなぁ、と思った凜音の口から飛び出したのが、先ほどの言葉である。
「えっ、カップル割のが安……バッ……馬鹿野郎!! 俺が女でお前とカップルでっ、そんっ、なっ、あほかっ!」
なんか一瞬納得しかけたジャックだが、すぐさま正気に戻って、大慌てで否定する。
とは言え、ジャックも貧乏学生。割引するなら使いたい。というか、この割引率は結構お得。プライドと実利が脳内でぐーるぐる。くううっ、と唸りつつ、じっくり悩んで出した結論が、
「今日だけだぞ! 一夜限りの過ちみたいやな!!」
なんと同意であった。わぁお。
「…ておま。ほんとにやるのかよ。俺男の彼女作る趣味ねーぞ?」
いや、男の彼女って何なんだよ、とセルフツッコミを入れつつ凜音。
「男の彼女言うなや! 俺だって男はお断りだわ!」
とはいうものの、背に腹は代えられない。ジャックは髪を下して、凜音にしがみつくように腕を絡ませた。
俯いた顔は真っ赤である。恥ずかしさはもちろん、バレたら死ぬ、という事も有る。
はたから見れば見事にカップルである。残念なことに、両方とも男なのだが。
「あーあー……。この割引、使える?」
凜音はそんなジャックを伴いながら、チケット販売所の係員に問いかける。答えはOk。通っちゃったよ!
チケット購入後も、怪しまれないように、ジャックは凜音にぴったりとしがみついていた。はたから見ればいちゃつくバカップルである。残念なことに、両方とも男なのだが。
「あ」
と、凜音が声をあげた。その視線の先には先ほどの案内板。
「わりーわりー、友達割もあったな。今気づいたわ」
その言葉に、思わず、ぽかんと口を開けてしまうジャック。
「いやー、でも可愛い……違う、面白かったから許せ、な?」
と、悪びれもせず凜音に、
「可愛くねぇわ!」
と、言い返すジャックであった。というか、ツッコむところそこなんだ!
「少し、遅い……ですね?」
天野 澄香(CL2000194)は、エプロンを外しながら一人ごちた。
リビングのテーブルの上には、澄香の作った料理が並ぶ。
今日は、成瀬 翔(CL2000063)と麻弓 紡(CL2000623)が遊びに来る予定だった。その為、腕によりをかけて料理を作って待っているのだが、少しばかり到着が遅い。
翔に道案内を頼んでいたのだが、迎えに行くべきだっただろうか?
そんな事を思いながら、2人の到着を待つ。
一方そのころ。
「曲がる道一本間違えたかな……」
と、住宅街の小道で呟くのは翔だ。そのすぐ後ろで、翔のコートの裾を握りながらついてくるのは紡である。
一度遊びに行ったことがる、と道案内を買って出た翔だったが、どうやら道を間違えてしまったようだ。少々自信なさげな表情であったが、紡の前で弱気な姿は見せられない。
「あ、大丈夫大丈夫! もうすぐ着くから!」
と、精一杯のごまかし。
紡は、なんとなく、雰囲気を感じ取ってはいたのだが、あえて気づかないフリをしている。無闇に相棒を追い詰める必要もないし……まぁ、ちょっと散歩したものと思えばいいだろう。
ほどなくして、翔が一軒の家を指さしながら、声をあげた。
「あ、ほら! あそこだ! 着いたぜ!」
どうやら無事に到着したようである。内心、良かったー、などとほっとした様子の翔。そんな翔に気付かれないよう、少しだけ微笑む、紡。
さて、2人がチャイムを鳴らすと、すぐに澄香が現れた。嬉しそうな、でも少しだけ心配げな表情で、
「良かった、いらっしゃい、です。もしかして、迷いました?」
「え、ま、迷ってないし! ちょっと一本早く曲がっただけだし!」
早口でまくし立てる翔。その後小声で、
「ちょ、ちょっとだけ遠回りになったかもだけど……」
と呟いたのだが、澄香も紡も、聞こえないフリをした。
「ええと……それじゃ、歩いて疲れたでしょう? 早速ご飯にしましょうね」
と、澄香は2人を迎え入れる。手を洗ってきてくださいね、という言葉に従い、バタバタと洗面所へと向かう翔を視線で追いながら、微笑む2人。
「今日は、ありがと。お呼ばれ、すごく嬉しい……」
はにかみながら、紡は澄香に言った。
さて、テーブルについた3人の前には、翔のリクエストのオムライス、紡の好物のオニオングラタンスープ。そして、サラダとローズアップルパイが、美味しそうな匂いを漂わせている。
料理に目を輝かせる翔と、思わず微笑む紡。
「狐神様のお墨付きですよ、ふふ」
と、澄香。いただきます、と3人は声を合わせ、食事が始まった。
「オレ、こんなの初めて見た! パンだよな、これ?」
と、オニオングラタンスープについて尋ねる翔。
「うん。ボクの好きな物なんだ」
と、紡。へー、と感心しつつ、オニオングラタンスープを一口。次の瞬間、翔が目を丸くした。
「すげー! 美味しいー!」
と、声を上げる。実際に、澄香の料理は美味しい。まさにプロの味、という奴だ。
「うん、凄く美味しいよね……お店で食べるのより、好きかも」
紡も感想を述べる。そんな2人を見ながら、心から嬉しそうに、
「ありがとうございます」
と澄香は微笑んだ。
食事は賑やかに進んだ。食事中、翔のほっぺたについたご飯粒を、紡がとってそのまま自分の口に運び、翔が顔を真っ赤にしたり。澄香は、そんな二人の様子を、とても愛おし気に眺めていた。
食後は、食休みも兼ねて、雑談に花を咲かせる。やがて、話題は澄香の卒業についての事になった。
「休日は減るでしょうけれど、また遊びに来て下さいね、二人とも」
少しだけ寂しそうに、澄香が言った。卒業すれば、学園で会う事も少なくなるだろう。
「仕事の邪魔にならないんだったら、絶対にまた来るぜ!」
元気づけるように、翔が言う。
「学園で会えなくたって……いつだって遊びにくるよ」
澄ちゃん、大好き。そう言いながら、紡が澄香を抱きしめた。
3人の絆は、卒業という現実程度では決して断ち切れない。これからも、ずっと続いていくのだと、確信させられる。そんな休日だった。
宮神 羽琉(CL2001381)と明石 ミュエル(CL2000172)が居るのは、可愛らしい雰囲気のカフェだ。このカフェは、ミュエルが五麟市に来た時からのお気に入りであるという。
ふわー、すごー……と呟きながら、羽琉が店内を見まわす。
――僕も、こういう所をもっとしておくと、生徒会の子たちを喜ばせてあげられるのかな……。
「羽琉くんは、何頼む……?」
ミュエルの言葉で、羽琉は現実に引き戻された。目の前には、ミュエルがメニューを指さしながら、微笑んでいる。
羽琉は、カフェの雰囲気に浮かれていた自分を、少し恥じた。今は、目の前にいる女性の事を考えるべきだろう。他人の事を考えるなど、失礼だ。
「えっと、注文、ですね」
気を取り直して、紅茶とスイーツを注文する。
羽琉が頼んだものは、ディンブラの紅茶、季節ものであるイチゴのタルトだ。
ほどなくして、席に注文の品がやってくる。
紅茶も、スイーツも、絶品であった。確かに、ミュエルがお気に入りだというのも頷ける。
思わず羽琉の頬が緩むのを、ミュエルは楽し気に見つめていた。
「このカフェに羽琉くんを連れて来たかった理由、雰囲気やメニューだけじゃなくて……」
そう言うと、ミュエルが、羽琉の注文したカップを指さす。カップには、青い鳥が描かれていて、
「こないだ来た時、この鳥の柄のカップが出てきて……羽琉くんっぽいなぁって思って、一緒に来たいなぁ……って」
少し恥ずかし気に、ミュエルが言う。その言葉に、少しだけ頬を赤らめながら、
「えと……ちょっと照れますけど、なんか、嬉しいです。誰かの日常のなかで、僕の存在を思い浮かべてもらえるって……」
――危ない時に頼れるとかの方が、きっとカッコイイんでしょうけど。
その言葉は飲み込んだ。それはきっと、これからの自分次第のはずだ。
2人とも照れてしまって、なんだか気恥ずかしくなったミュエルは、自分の注文した飲み物を一口。
それからは、他愛のない話をしながら、のんびりとした、穏やかな時間が流れた。
「最近、色々あって慌ただしかったから……」
世間話のさなかに、ミュエルが言う。
「何も考えずにのんびりできる日って、久しぶりな気がする……。羽琉くん、一緒に来てくれて、ありがと……」
穏やかに微笑んで、ミュエルが礼を言った。
「のんびりしたいときのお供は、いつでも喜んで、ですよ。そういう方なら、自信あります!」
羽琉が本当に自信ありげにいうものだから、なんだかおかしくなって、ミュエルはくすくすと笑ってしまった。羽琉も、つられて、あはは、と笑い声をあげるのだった。
鈴駆・ありす(CL2001269)は、黒崎 ヤマト(CL2001083)の部屋で、部屋主を待っていた。
なんでも、ホットケーキの焼き方を覚えたから、ありすに振舞いたい、というのがヤマトの言だ。
ありすは知らない事なのだが、ヤマトはバレンタインにチョコケーキ風のホットケーキを作ってプレゼントしようと思っていたのだがどうも上手くいかなかったため、今回はそのリベンジを兼ねたホットケーキ会であるらしい。
そんなわけで、今はホットケーキ作りの準備をしているヤマトをまっているありすなのだが、どうにも手持無沙汰だ。
なので、少し部屋の片づけをする事にした。もちろん、部屋が汚れているわけではないので、少し、テーブルの上や、床に置いてあるものを整えるだけ。
そんな事をしていると、ホットケーキの具材を手にしたヤマトが現れた。
「あれ、片付けしてくれたのか?」
「……お邪魔してるんだから、この位はするわよ。い、一応、その……彼女、なんだし……ね?」
ヤマトの問いに、視線をそらしながら、答えるありす。その頬は、少し赤くなっている。彼女、という自分の言葉に、改めて二人の関係性を自覚してしまって、なんだか気になってしまった。
それは、ヤマトも同じだった。親密な関係であるが故の遠慮のなさ、それが、なんだかいいな、と、ついニヤケそうになってしまうのをぐっとこらえた。
さて、ヤマトの腕前を披露する時間が来た。
ホットプレートに投下されたホットケーキミックス。焼けるのをじっと待つ。
真剣に、丁寧にホットケーキを焼き上げようとするその一挙手一投足を、ありすがじっと見つめていた。それを自覚すると、ヤマトはなんだか緊張してしまう。とは言え、失敗は出来ない。気合を入れつつ、一枚、綺麗にホットケーキを焼き上げた。美味しそうな、プレーンのホットケーキだ。
お皿に移して、ありすの前に。
――ありすが美味しいって思ってくれたらうれしいな。
そう思いながら、ありすがホットケーキを食べるのを待つ。
「……へぇ、うん。意外とちゃんと出来てるわね」
感想をこぼす。嬉しそうにニヤけるヤマトの顔を見て、ありすは慌てて、
「ま、あくまでも基本は、だけど。言っとくけど、アタシは結構ホットケーキにはうるさいのよ? 色んなコツとか隠し味とか叩き込んであげるから、覚悟しなさい」
と、照れ隠しに、一息にまくしたてる。
「それって、作り方教えてくれるって事?」
ヤマトの言葉に、ありすは視線をそらしつつ、頬を染めながら頷いた。
初々しい恋人たちの料理教室は、今日だけならず、まだまだ続く。
片科 狭霧(CL2001504)、新堂・明日香(CL2001534)、丹羽 志穂(CL2001533)、神野 美咲(CL2001379)。年頃もバラバラの4人だが、不思議と気が合う4人組だ。
さて、4人は休日のショッピングモールで、買い物に興じていた。女性が集まれば、咲くのは当然オシャレの花。そんなわけで、足は自然と洋服屋へと向かう。
「もうすぐ冬物も終わりだけど、こういう時だから色々見つかったりするんだよね」
志穂が冬物のコーナーを眺めながら、言った。
確かに、商品の主戦場は、春先の物へと切り替わる時期である。だが、逆にこういう時期だからこそ掘り出し物が見つかる、らしい。
「ほら、この猫のニット。可愛い」
可愛らしいニットを、美咲の体に当ててみる。
「あら、よく似合うじゃない」
狭霧が楽しげに笑う。美咲はムムム、と唸ると
「ま、まぁ、偶には可愛い服を着るのも良い物だな!」
と、まんざらでもない表情で言う。普段は子供っぽく見られないようにスタイリッシュな服を着ている美咲であったが、本来は可愛いものにも興味があるのだ。
「あはは、いいね、それ。あたしも、余裕ある今なら可愛いのとか着てみても良いかな……でも似合うかなあ」
明日香の言葉に、志穂と狭霧は、
「新堂に似合うかわいい服か……任せてよ」
「ふふ、そうね。これなんかどうかしら?」
と、とっかえひっかえ、可愛らしい服を見つけては、体に当ててみる。
「ちょ、ちょっと! さ、流石にこれはフリフリすぎない……?」
顔を真っ赤にして恥ずかしがる明日香に、
「あら、よく似合ってるわよ。ねぇ?」
「うん、新堂は、普段は動きやすい格好してるから、こういう格好も新鮮だね」
2人でとっかえひっかえ、次々と服を当てては、コーディネートを確かめる。
と、そんな3人に、美咲が声をかけた。
「な、なぁ! これはどうだ? 試着してみたのだが……カワイイ……というか、せくしー? だろう!」
得意げに言う美咲。彼女が試着していたのは、背中から腰のあたり、そしてサイドにかけて大きく穴の開いたセーターだ。独特なその形状は、その下に何かを着て、上から着る事でコーデを合わせるタイプの服なのだろう。
問題は。
美咲は、素肌にスカート、という格好でそのセーターを着てしまった、という事だ。
つまり、サイドから背中、腰のきわどいラインあたりまで、綺麗な素肌が完全に見えてしまっているのである!
「えっ」
「あら」
「おやおや」
その姿に、思わず声を上げる3人。それを感嘆の声と受け取ったのか、美咲は得意げに胸を張る。
「ちょっと寒いけれど、我輩に掛かればこんな服でも……」
「これは、中にシャツか何かを着こむタイプのものじゃないの?」
狭霧の冷静なツッコミがさえる。
「……これは危険だね」
何やらもっともらしげな表情で、うんうんと頷く明日香。
「ね。ちょっとだけ、背中。つつーって、なぞってもいい?」
と、何やら楽し気に志穂。
3人の反応を見て、自分が何をやらかしたのかを一気に悟ったらしい。ぼん、という音でも聞こえそうな勢いで顔を真っ赤にした美咲は、
「や、ちょ、見ないでくださ……あ、いや、見るな!」
と、思わずうずくまってしまう。
「あら、ダメよ。屈んだら胸が綺麗に見えちゃうわ」
狭霧の至極当然な指摘に、慌てて立ち上がる美咲。だが、立ったら立ったで背中とサイドが余計に気になる。結局、顔を真っ赤にしながら、う~~、と唸り始めてしまった。
「ほら、神野ちゃん。ボクもお揃いだから、大丈夫だよ?」
と、そんなを美咲を、背中から優しく抱き留めながら、志穂が声をかける。なんと、志穂もまた、素肌に件のセーターを着ているのである。フラットな体系の美咲に比べ、メリハリのあるボディの志穂の姿は、さらに危険度が増している。
「何でだ!? なんで着たんだ!?」
思わず声を上げる美咲。
「んー、なんとなく? でも、流石のボクも、この格好は落ち着かなくて、そわそわするね」
と、少々頬を赤らめながら答える。その表情が、インモラルな雰囲気を醸し出している。
「せっかくだし、あたしも試着してみようかな」
何が折角なのかはわからないが、恐らく場の雰囲気に流されたのだろう、明日香が試着室へ向かう。向かった。戻ってきた。
「……に、似合う?」
恥ずかしさにもじもじとしながら、明日香もまた、スタイル抜群である。胸の頂点からおへそにかけて、生地が浮いて隙間が見えている。危険度が凄い。
このエリアが女性服の販売エリアでよかった。ここに男性が紛れ込んでいたら、それこそとんでもないことになっていたであろう事は、想像するに難くはない。
「むー……所で、狭霧は着ないのか?」
美咲の問いに、私? と狭霧は言って、
「私が着たら、殿方の目の毒すぎるでしょう? ふふふ。こういうのは、可愛らしいお嬢さんがたが着てこそ、似合うものだと思うわよ」
そう言って、くすりと笑う。
狭霧がこの後、このセーターを着たかどうかは分からないが、彼女たちのショッピングは、まだまだ続くのであった。
とあるホテルのフロアを貸しきってのパーティ会場の一角で、ドレスに身を包みながら、秋津洲 いのり(CL2000268)は一つ、ため息をついた。
せっかくの休日だったが、祖父に、祖父の友人の社長主催のパーティに連れ出されてしまったのだ。
会場では、色々な人物が、いのりへと話しかけてくる。彼らの内心に、祖父の後継者へ顔を覚えさせたいという欲望がある事は感じ取っていた。作り笑顔で応対していたものの、流石に疲れ、会場の隅で、こうして休憩しているのだ。
――今頃、F.i.V.E.の皆さまは何をされているのでしょう?
大切な仲間たちの事を考える。年の離れた友人は、また何か、ドジを踏んだりしていないだろうか……仲間たちの事を思うと、自然に笑みが浮かんでくる。
F.i.V.E.に所属してから、いのりの生活は変わった。それまでの生活では知らなかったもの、出会う事はなかった人々との交流を通じ、自分は成長できたと実感する。
――でも、F.i.V.E.の生活が全てではない。今日のこれだって、いのりの大切な生活の一部ですのね。
よし、と彼女は頷いて、再びパーティ会場へと歩み始めた。
祖父の為にも最後まで、立派に勤め上げよう。彼女の忙しい休日は、まだ始まったばかりだ。
「ふんふん~ふふん~♪」
鼻歌などを歌いながら、向日葵 御菓子(CL2000429)は自室で、所蔵の楽器を広げていた。
休日の彼女の楽しみ。それは、楽器のメンテナンスだ。御菓子にとって、楽器とは愛する我が子と同等の存在だ。メンテナンスも、徹底的に愛情をこめて行う。子供にそうする様に、時に話しかけながら、二人だけの時間を楽しむのだ。
……この姿を教え子に見られると、引かれるらしい。本人にとっては当たり前のことなので、何故教え子に引かれるのか、理解できないようだ。
まぁ、形はどうあれ、道具に愛情を注ぐことは決して悪くない。器物百年たてばなんとやら。古妖・付喪神ではないが、愛情を注いだ分だけ、道具だって、しっかりとこたえを返してくれる。
「ふぅ……完璧。綺麗になりましたね……」
たっぷり時間をかけてメンテナンスを終えた楽器を眺めながら、恍惚の表情で、御菓子が言う。試しに演奏してみると、楽器は鮮やか音色で、メンテナンスへの返礼をする。
御菓子曰く、ご飯三杯はいける至福の瞬間の到来であった。
ふと、窓を見ると丁度日の暮れる時間帯だ。妹の、夕食が出来上がったとの声が聞こえる。
楽器と同じ、いやそれ以上に愛する妹の夕食を楽しみにしながら、音楽教師の休日は終わりを告げるのだった。
菊坂 結鹿(CL2000432)は朝から悩んでいた。
最愛の姉を、驚かすような料理を出してみたいと。
結鹿の姉は、結鹿が作ったものは何でもおいしい、と喜んで食べてくれるという。
もちろん、それはうれしい。うれしいのだが――たまには、違った評価が聞いてみたい。
それが我がままだと、贅沢だと、結鹿自身は思っていた。
とは言え、大好きな人の、もっと喜ぶ顔が見たいというそれは、誰もが抱く純粋な欲求なのではないだろうか。
さておき、結鹿は何か料理のヒントを求め、冷蔵庫を開いた。開いてすぐ、ある食材が、結鹿の目に止まる。
――これだっ!
昨日見た、テレビ番組で紹介していた料理が、結鹿の脳裏に浮かんだ――。
その夜。
「お姉ちゃん、今日は担々麺だよ」
と、食卓に並んだのは担々麺だ。
しかし、これは結鹿がひと手間加えた、特別な担々麺だ。
その正体は、なんとチョコレート。スープにチョコレートが溶かしてあるのだ。
チョコの風味の中に、ピリッとした刺激が楽しめる。
結鹿の姉は、驚きながらも、美味しい、と料理を褒めてくれた。
結鹿の休日は、喜びに満ちた終わりとなりそうだ。
休日の黒猫庵、日当たりの良い縁側で。
椿 那由多(CL2001442)と十夜 八重(CL2000122)は、2人、日向ぼっこを楽しんでいた。
那由多は縁側に腰かけて、鼻歌交じりに足をぶらぶら。八重はその後ろに座り、那由多の髪を、優しく、くしで梳いている。
髪を梳いてもらうのが心地よくて、那由多は至福の表情だ。
「人に髪の毛を触って貰うのって、気持ちええですね」
目を細めながら、那由多が言う。
「八重さんやから、かもしれやんけど……お母さんに、してもらってるみたいで安心します」
「ふふ、気持ちよさそうな那由多さん見てると、楽しくなっちゃいますし……きっとお母さんも、那由多さんを見て楽しくなってたから……ですよ」
言いながら、八重は、那由多の黒くて長い髪の毛を弄ぶ。
「あ、三つ編みも似合いそうですね?」
なんて言いながら、那由多の髪を、三つ編みに編んでいく。那由多は気持ちよさそうに、されるがまま。ほどなくして、三つ編みが完成する。八重は、
「似合ってますよ? あ、でもなんだか猫さんの尻尾みたいにも見えますね?」
なんて言いながら、那由多の顔の横で、三つ編みの先をフリフリ、頬を撫でたりするものだから、
「って、くすぐったい! 八重さん……!」
と、笑いながらじゃれ合う。
その後は、しばらく日向ぼっこを続けた。休日の午後の日差しは暖かく、昼寝には最適の環境だ。那由多はなんだかうとうととしてきてしまった。
「あ……あの、そ、その、陽当たりよおて眠たくなってきてしもた」
ふわぁ、とあくび一つ。恥ずかし気に、
「このまま、昼寝してもええやろか?」
那由多が言う。
「ふふ、いいですよ?」
言うや、八重は那由多を後ろから、優しく抱きしめるようにして、こてん、と自身の膝の上に転がした。膝枕の体勢だ。
「ゆっくりおやすみなさい」
「えっ!? ……は、はい、ほな失礼します」
戸惑いつつも、柔らかな膝の誘惑には勝てなかったのか、そのまま子猫のように丸くなり、瞳を閉じる。
すぐに寝息を立てはじめ、黒猫は夢の中へ。
八重はそんな様子を優しげに見守りながら、眠気が移ったのか、ふわぁ、とあくびを一つ。そのままうとうととし始めた。
心地よい日差しの縁側で、二匹の子猫のお昼寝の時間。春はすぐそこまで来ていた。
酒々井・千歳(CL2000407)の自宅、その和室にて。
千歳は水瀬 冬佳(CL2000762)と、のんびり休日を過ごしていた。
「映画ですか……」
テーブルの上に並べられたDVDのパッケージを見ながら、冬佳が言う。
「ちらほら話題に出るのは聞くんだけど、実際に映画を見に行くのってあんまりなくてね」
そこで、せっかくの機会、この休日に見てみようかと、いくつかレンタルしてきたのだという。
「冬佳さんが興味ありそうなのはどれだろうねえ、時代劇物とか?」
「……私も、映画はあまり馴染みが無いのですよね。そもそも見る習慣が全く無かったといいますか……とはいえ、全く興味が無い訳でも無くて」
なるほど、と、千歳は頷いて、
「そうだね……『我の名は。』とか面白いらしいよ。傲岸不遜な王様が、やがては賢王と呼ばれる様になるまでの半生を映画化してみたんだとか」
評判になった映画のタイトルと、簡単な内容を告げる。
「『我の名は。』……これですか?」
冬佳が、DVDを手に取り、首をかしげる。千歳が頷いたのを見て、
「じゃあ、まずはこれにしてみますか。酒々井君の聞いた評価、確かめてみましょう」
そんなこんなで、いくつかの映画を視聴して、数時間。気が付けば日も暮れている。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろ夕飯の準備しなくちゃ」
立ち上がり、千歳が尋ねる。
「鍋の予定なんだけど大丈夫かい?」
「お鍋は好きです。それに……夜はまだ冷えてますし、温かくて良いですね」
微笑みながら、手伝います、と、冬佳が立ち上がる。
これから、一緒に夕食の用意をして……食事をとりながら、映画の感想をゆっくりと語り合おう。
それからは……まだ、やりたい事、話したい事がたくさんある。
2人の休日はまだまだこれからだ。
五麟市から少し外れた所にある水蓮寺。その住居にて、水蓮寺 静護(CL2000471)今日という日をどう過ごそうか考えていた。
――さて、今日はどうしようか。たまには自宅でゆっくり過ごすのも悪くな
「やっほー! どーせセーゴの事だから家から出ないと思ってたらやっぱり居た! 暇だし暇そうだから遊びに来たよー!」
と、静護の思考を中断させた声。その主は、静護の友人である、天城 聖(CL2001170)だ。
――こうなってはゆっくり過ごせそうもないな。まぁ、良いが。
胸中で呟きつつ、聖を招き入れる。
「やっほ、で、何して遊ぶ? と言っても将棋とかトランプしかないんでしょ?」
「まぁ、そうだな。将棋やトランプしかない」
「いいよー、やろうよ」
と、言う事になった。
種目は将棋に決まったようだ。この2人、よくトランプや将棋で対戦しているようだが、今の所、その勝率は静護に大きく偏っている。というか、聖が勝つことの方が稀らしい。
現に今回も、盤面は聖が大幅に負けている。
「そういえば昨日、親戚からサバの切り身をいただいた。今晩の夕飯にでもしてもらうつもりだ」
ふと、静護が世間話を切り出した。パチン。将棋の駒を動かす。聖も話題に食いつく。
「サバもらったんだ、いいなー。今度私の家でもサバ出してもらうようにお願いしよっかな」
パチン。将棋の駒を動かす。と。
「やはりサバは塩焼きが一番だろう」
「やっぱサバと言ったら味噌煮が一番だよね!」
同時に。
二人が口を開いた。
全く異なる内容を、全く同時に語りはじめる二人。
「塩が魚本来の旨みを引き出し、焼くことにより締まった身の食感が……」
「味噌と調味料で煮込んだあの独特の香りと、食べた時の程よく甘くてしょっぱい味わいが……」
と、ここまで語って、うん? と唸り、お互いがお互いの目を見た。
視線が絡み合う。それは、将棋の対戦時よりも、よっぽど本気の目。
「聖、その目はなんだ」
「ってセーゴ? その目はなに?」
再び。
同時に、二人がまくしたて始める。
「何を言おうと僕は塩焼きが一番なのは譲らん。味噌煮など二の次だ」
「まさか塩焼きごときが味噌煮に勝ってると言いたいの? いや、そんなはずはないし絶対認めない!!」
ばん! と、聖が将棋盤を叩き、立ち上がる。
「こうなれば徹底的に口論も辞さないよ!!」
ばん! と、静護が将棋盤を叩き、立ち上がる。
駒はバラバラになり、対局はうやむやになった。
「良いだろう! お前が納得するまで徹底的に口論だ!!」
かくして、2人はサバの調理方法について、延々と、本気で口論を始めたのだった。
2人の口論は、結局夕食時まで続いたとか、続かなかったとか――。
外回りするのに気が乗らなかった。
そんな理由で、事務所で雑事をこなしていた探偵、八重霞 頼蔵(CL2000693)の事務所に現れたのは、よくある浮気調査の依頼者――ではなく、そう言った依頼者とは正反対の雰囲気をまとった天堂・フィオナ(CL2001421)だ。
「頼蔵、手伝いに来たぞ!」
フィオナは日ごろ世話になっている例も兼ねて、と、手伝いにやってきたらしい。
「……何も面白い事など無いのに、奇特な事だね」
ふむ、と唸る。フィオナは目を輝かせて、指示を待っているようだ。なるほど、フィオナの決意も堅いらしい。
せっかくなので、頼蔵は、目に触れても問題ないような書類の整理や、掃除などを依頼する。
フィオナは嬉しそうに頷くと、いそいそと作業に取り掛かった。
個人事務所とは言え、整理すべき書類の量はそれなりに多く、些かサボり気味だったせいで事務所も多少、汚れている。
結果、フィオナに与えられた仕事も、結構な作業となる。
「凄いな、いつも一人で、全部やってるのか……?」
目の前に詰まれた書類の束を眺めながら、フィオナが嘆息する。
「当然だろう、私しか居ないからな」
自身も書類のチェックをこなしながら、こともなげに答えた。
フィオナは、そんな彼を尊敬のまなざしで見つめている。
――さて、そんな目で見られるような身分ではないのだが。
胸中で呟く。
フィオナが書類の整理と掃除を済ませても、頼蔵の仕事は終わらない。
「凄いな……一体いつ休んでるんだ……」
頼蔵の仕事ぶりを見つつ、フィオナが呟いた。将来は探偵になりたい、と憧れるフィオナだったが、中々のハードワークのようだ。
割り振られた作業を終えたフィオナは、持参した茶葉と茶器で、丁寧にお茶を入れ始めた。お茶の良い香りが事務所内に清涼な空気を漂わせる。
「そのくらいで休憩にして……一杯どうぞだ!」
頼蔵のデスクの邪魔にならない所に、カップを置く。
報告書の作成をしていた頼蔵は、
「有難う。君も適当にくつろいでいてくれ」
自身は休憩するつもりはないらしい。その後黙々と、報告書に筆を走らせる。
フィオナは言葉に甘え、事務所の来客用のソファに腰を下ろした。
しばし、ペンの音だけが事務所を支配する。
「……今日は助かったよ」
不意に。
頼蔵が口を開いた。
「感謝する」
作業の手は止めなかったが、確かな感謝の言葉だ。
その言葉に、フィオナは満面の笑顔を浮かべたのだった。
学校も休み! 依頼も休み! そんな日は――。
「うちの寺の雑用じゃーーーい!!!」
寺の敷地の真ん中で、工藤・奏空(CL2000955)が叫んだ。
お寺は奏空の叔父の持ち物なのだが、当の叔父は出て行ってしまったらしく、その留守を奏空が預かっている。
当然、放っておけば荒れ放題になるわけで、お寺の保守点検はしなければならない。
さて、何処から取り掛かろう。建物内はもちろん、境内の掃除もしなくてはいけない。
「っていうか広いんだよ!」
奏空は頭を抱えた。正直、一人では今日一日で終わるかどうか。
と、その時。
救いの手は差し伸べられた。
「そーらー!! オレだーー!!」
「奏空くーん!」
境内に響くは鹿ノ島・遥(CL2000227)と御影・きせき(CL2001110)の声。
捨てる神あれば拾う神あり。そう、2人は奏空を手伝いに
「遊びにきたぜーー!!」
「あそぼー!」
来たわけじゃなかった。
「って、遊びに来たんかーーーーい!!」
なんか妙にテンションが上がってきたのか、叫び声をあげる奏空。
「って、何してんだ?」
尋ねる遥に、奏空が答える。かくかくしかじか。
「へー、寺の雑用?」
「え、家の掃除とかしなきゃいけないの? ここ全部ひとりで!?」
目を真ん丸に見開いて驚くきせき。そうだ、と、ぽん、と手を叩いて、
「僕たちも手伝うよ。ね、遥くん?」
その言葉に、遥も頷く。
「オレらが手伝ってやるよ! そしたら早く終わるだろ? そしたら早く遊びに行けるよな!!」
「3人で手早く終わらせて、残った時間で遊ぼうよ!!」
「うう……ありがとう……じゃあ、まずこれ持って」
礼を言いつつ、やる事はスピーディに。奏空だって遊びたいのである。
奏空が2人に手渡したのは、雑巾とバケツだ。そのまま、寺の廊下へと案内する。
「さぁ、雑巾レースの始まりだー!!!」
奏空が高らかにレースの開催を宣言する。コースは直線十数メートル、埃と汚れはレースにどう影響するのか!
「雑巾がけか! 任せろ! 道場ではいつもやってることだ!」
「受けて立つよー! 僕だって学校の大掃除では廊下の雑巾がけ頑張ったんだもん!」
よーいドン、という遥の合図とともに、3人が一斉にコースへ飛び出す。どたどたと大きな足音を立てながら、長い廊下を一気に駆け巡る。
「うおおおおおアクセルフルスロットル!! よっしゃ! オレの勝ち!」
「うう、負けちゃった……」
勝ち誇る遥と、ちょっとしょんぼりなきせき。負けはしたが笑顔の奏空。
「よーし、次はこれ!」
奏空は、境内に2人を連れだす。竹ぼうきを手渡して、
「落ち葉のカーリングだーー!!」
ばっさばっさと地面を掃きだす。
「任せろ! オレの棒さばきを見せてやるぜ! 箒大回転!!!」
ぐるんぐるんと箒を振り回し、見事に落ち葉を掃き散らす遥。
「落ち葉集めだって、負けないよー!」
こちらもかなりの早業で、バサバサと落ち葉をかき集めていく。
とは言え、3人の動きは掃除と言うより、遊びそのもの。動きは激しく、効率はあまりよろしくない。
「わーっはっは! ……って! ちょっと待って!? もうちょっと丁寧にやって!? 寺壊れちゃう!!!」
ふと素面に戻った奏空が叫ぶ。
「って、確かにこんな乱暴なやり方だとお寺壊れちゃうよね。ごめんなさーい!」
「あはは、悪い悪い! で、ソラ! 次はなんだ! 何すればいい!」
謝りつつも、3人の顔に浮かぶのは笑顔だ。退屈な掃除も、仲良し三人組の手にかかれば、立派な遊びに変わってしまう。
この3人にかかれば、すぐに寺中が綺麗になる事だろう。
……まぁ、確かにもうちょっと、丁寧にやった方がいいかもしれないけれど。
「んー……」
夕暮れの市街地、あるビルから出てきて、軽く伸び。
風織 紡(CL2000764)は、ふぅ、と一息つくと、今日学んだことについて、頭の中で反芻しつつ歩き始めた。今日は、バリスタの勉強の日だ。
働き始めて、早一年。最初半年くらいは休日は普通に休んでいたのだが、最近はこうして、様々な勉強の時間に費やしている。
何故なら、紡には一つ、夢が出来たのだ。
鞄からスケジュール表を取り出し、今後の予定をチェック。次の休日には料理教室の予定が入っている。ああ、そうだ。帰りに書店によって、経営関係の本も買っておこう。
紡の夢。それは、カフェを開業する事だ。
今の仕事をしながら、こうして少しずつ、開業に向けて勉強と準備をしている。
昔の自分からは考えられない事だろうな、とは、自分自身、思っている。
それでも、今の生活の方がずっとやりがいがあって、楽しい。
目標に向かって進んでいく。今は、全てにおいてまだまだだけど、ちょっとずつ前進していくのがとても楽しい。
いつか、オシャレなカフェを開いて……欲を言えば、弟にも一緒に働いてほしい。
そんな事を思いながら、夢見る紡は、自らの道を進んでいくのだ。
栗落花 渚(CL2001360)は、公園のベンチで、アイスクリームを一口。口中に心地の良い甘さが広がり、思わず笑顔になる。
ジャージ姿の渚は、休日の日課であるランニングを終えた所だ。しっかり運動したので、ご褒美に、と、軽く甘いものを食べている。
渚がこうして、休日に運動をしているのは、夢の為だ。
看護師になりたい。そして、その夢を与えてくれた人が言った、『看護師は体力勝負』という言葉が、渚を突き動かしている。
しっかりアイスクリームを味わうと、次はどうしようか、と悩む。
またちょっと走ってもいいし、ストレッチや筋トレをするのもいい。
いや、運動は切り上げて、勉強の方をやった方がいいかな。
勉強、と頭に浮かんだ途端、うう、と思わず呻いてしまう。渚ははっきりと言えば、勉強はあまり好きではない。ついつい逃げ出してしまいたくなりがちだし、キャラじゃない、と自分では思う。
でも、逃げてばかりでは夢に近づけない。だから、苦手でも、キャラじゃなくても、精一杯頑張る。そう決めたのだ。
「よし、今日もやるぞー!」
気合を入れ、立ち上がる。
彼女の進む道の先に、花開いた夢がありますよう。
今日は、三島 椿(CL2000061)の家でお泊り会。
参加者は、椿と三峯・由愛(CL2000629)、七海 灯(CL2000579)に守衛野 鈴鳴(CL2000222)の4人だ。
椿の家に集まった4人、まずはお風呂に入ることになった。一番年下の鈴鳴は、年上の皆と一緒にお風呂に入ることがなんだか気恥ずかしく、同時に自身と比べてしまう。いつか、憧れのお姉さんである、3人のようになれたらいいな、と思う。
それぞれパジャマに着替え、髪を乾かしたら、いよいよ本番。
各自が持ち寄ったお菓子を食べながら、4人の話に花が咲く。
「やっぱり、皆さんの恋愛事情が話題の定番だと思うんです」
青と白のグラデーションのキャミソールに、黒系のショートパンツのパジャマを着た灯が言う。言う通り、この手の話題として定番なのは、やはり恋の話だろう。
「あっ、なるほど……確かに私も皆さんの恋愛事情はとっても気になります」
こくこくと頷きながら、由愛が納得する。
「そういえば、三島さんが殿方とお付き合いを始めたという噂を聞いたんですが……!」
由愛が言った。その通り、この4人の中で恋人が居るのは、椿だけ。恋愛関係の話題となれば、その中心となるのは、椿の話題となるのは仕方がないだろう。
話題を振られて、ついびくっ、となる椿。
「え、ええ……つ、付き合っている人はいるわ……」
染まった頬は、風呂上り故のものだけではないだろう。3人は、興味津々、といった表情だ。
「どんな、方なのでしょう?」
ふわふわもこもこのルームウェアを着た鈴鳴が、恋人について尋ねると、椿の頬はますます紅潮する。
「ええと、その優しくて頼りになる……かっこいい人」
消え入りそうな声で答えた椿の頬は、もう真っ赤。残りの3人は、思わず、きゃーっ、と歓声をあげそうな位のテンションだ。
「お付き合いしてからどんなことをしてきたのですかっ!?」
由愛がテンション高めに尋ねる。
「そ、それは、その……それより、み、皆はど、どう? こ、好みのタイプとか!!」
このままでは質問攻めにされてしまう。そう思った椿が、自身から話題をそらそうと、逆に尋ねかえす。3人はうーん、と悩みながら、
「私の好みのタイプですか……」
灯が答えた。
「そうですね、行動力があって、ひたむきで、つい応援したくなるような、そんな人が好みかも知れません……」
言いながら、少し恥ずかしくなってきたのだろう。少し頬に赤みがさす。
「……もしお付き合いするなら、リードしてくれる人がいいですね」
由愛が答える。
「自分で引っ張るタイプではないので……」
苦笑しつつ、言った。
「まだ、私自身は恋ってよく分かってないんです」
鈴鳴が答える。
「でも、一緒にいてほっと安心できるような人……そんな人と巡り逢えたら、いいなぁって……」
鈴鳴の頬も赤く染まる。
「でも、私……誰かと付き合える日なんて来るのかな……」
由愛がぼそっ、と呟く。
「大丈夫です、由愛さんならきっと、すぐにいい人が見つかります!」
灯が言った。
「そうですよ……それに、恋愛のアドバイスなら、先輩がいますから」
鈴鳴の言葉に、再び椿がビクリ、と肩を震わせる。話題が自分に戻ってきそうな空気に気付いたようだ。
「え、ええと、その、ほら、皆は、えーと……」
何とか話題をそらそうと、必死に別の話題を探す椿だが、少々混乱してしまってすぐに話題が出てこない。
「そうです! 椿さんは、告白はどうしたんですか? どこで? 自分からしたんですか? それとも、相手からされたんですか?」
灯が身を乗りだし、興味津々、といった表情で聞いてくる。
「あ、私も気になります……というか、さっきはぐらかされてしまいましたけど、お付き合いしてからどんなことをしてるのか、教えてくださいっ」
由愛も瞳を輝かせながら、尋ねる。
「え、えーと、その……く、クリスマスの時に告白されて……もう、私ばっかり質問攻めしないで!」
顔を真っ赤にしながら、椿が言った。
とは言え、乙女たちの興味が尽きる事はない。
恋人生活を根掘り葉掘りと尋ねられ、椿はもう、耳まで真っ赤だ。
もちろん、恋愛関係ばかりが話題と言うわけではない。
彼女たちの長い長い夜はまだ始まったばかり。
乙女たちのパジャマパーティは、まだまだ続く。
三者三様、十人十色の覚者達の休日は、こうして過ぎて行くのだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
