おいでよ、かっぱの湯
おいでよ、かっぱの湯


●愛しい黄緑色のあなた
 緑溢れる深き山の森の奥に、知られざる秘湯があった。その静かで長閑な場所を訪れるものは、山に棲む獣たちのみ――かと思われたが、どうやらそれだけではないらしい。
「かぱ?」
 ゆらりと漂う湯煙の向こう、湯に浮かぶのはまあるいお皿、のようなもの。と、それがざばぁと飛沫を立てて浮かび上がり、その下からはずんぐりとしたちまっこい物体が現れる。
「かっぱ!」
 黄緑色をしたその物体は背中に甲羅を背負い、ちいさな手足をぱたぱたさせてお湯の中を泳いでいった。ぷかりと浮かぶ顔には、平べったいくちばしにつぶらな瞳。
「かーっぱ、かぱ!」
 ふぁんしーさ極まるその生き物の鳴き声から分かる通り、彼はどうやらかっぱらしかった。しかし妖怪図鑑に描かれるリアルなものではなく、ぬいぐるみのような――例えるならそう、丸っこいペンギンが近い。
「かぱー、かぱー」
 ぷかり、ぷかりと次々にかっぱさんはお湯から顔を出して、誰か遊びに来ないかなあと言うように、切なそうに「かっぱ、かっぱ」と鳴き続けていたのだった。

●かっぱの湯へようこそ
「みんな聞いて! かっぱさんの温泉があるの!」
 ときめきに胸をきゅんとさせながら、久方 万里(nCL2000005)は集まってくれたF.i.V.E.の皆にそう切り出した。とは言え、これは依頼と言う訳ではなく、日頃の疲れを癒して欲しいと言う純粋なお出かけのお誘いらしい。
「とある山奥の森に、ひっそりと温泉があってね。なんとそこは、かっぱさんの住処になっているのです!」
 河童と言えば有名な古妖であるが、温泉を住処にする河童とは珍しい。それだけでなく、その姿もとっても愛らしいのだと万里は瞳を輝かせる。
「あのね、かっぱさんはリアルではなくてふぁんしー! ぬいぐるみみたいにちまっとしてて可愛いの! 河童と言うよりは生まれたてのペンギンの方が近いっていうか……」
 そんなかっぱさんの鳴き声は『かっぱ』。ひとの言うことは理解出来るものの、かっぱとしか喋れないので必死に身振り手振りで意思疎通を図るらしい。一般的な河童とはちょっぴり趣が違うので、温泉かっぱと名付けることにする。
「そんなかっぱさんが、つぶらな瞳をうるうるさせて一緒に遊んで欲しいようにしているの! これはもう行くしかないよね!」
 そんな訳で、皆でかっぱの棲む秘湯へ遊びに行こう、と言うのが万里のお誘いのようだった。温泉は十分な広さがあるし、自然も豊かで思う存分寛げるだろう。かっぱさんと戯れるのも良いし、大切な誰かとのんびり過ごすのも自由だ。
 ちなみに河童の例に漏れず、温泉かっぱもきゅうりが大好物なので、差し入れをすれば喜ばれる筈。料理にこだわりがある者は、きゅうりを使った創作料理を振舞ったりすればもっともっと喜ばれるだろう。
「残念ながら万里ちゃんは留守番なのですが……っ、みんなのお土産話を楽しみにしてるからね!」
 いっぱいいっぱい楽しんで来てね、とにこやかに手を振る万里。そんな訳で――秋の訪れを感じながら、可愛らしいかっぱと一緒に温泉を楽しむのも良いかもしれない。


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:柚烏
■成功条件
1.かっぱの秘湯を楽しむ
2.なし
3.なし
 柚烏と申します。そろそろ温泉の季節と言うことでひとつ……! ふぁんしーな古妖さんと戯れるのもよし、自然を満喫するのもよし、山の秘湯へのんびりしに行きましょう。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。

●こんな事ができます
・ゆっくり温泉を堪能/折角なので森を散策
・かっぱさんと戯れる/友達や大切な方とじっくり
・きゅうり料理を振舞う/お茶会とか

●温泉かっぱ
秘湯に棲む、友好的な古妖のかっぱさん。ふぁんしーなぬいぐるみっぽい外見をしており、ペンギンの赤ちゃんをイメージして頂けると大体そんな感じです。鳴き声は「かっぱ」、ひとの言葉は分かりますが、意思疎通は必死にジェスチャーを使います。誰かと遊びたがっている様子で、きゅうりが大好きです。

●秘湯
ある山奥の森にひっそりとある温泉です。動物とかっぱくらいしか知らないような場所なので、のんびりするには丁度良いです。公序良俗に反しないよう、入浴の際は水着着用と言うことになります(かっぱさんも恥ずかしがります)。

●お願い事
・未成年の飲酒・喫煙禁止。
・かっぱをいじめたりしない。

 のんびり、ほのぼのとした休日を過ごせますよう、思いっきり楽しんでください。それではよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
50LP
参加人数
30/30
公開日
2015年09月22日

■メイン参加者 30人■

『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『追跡の羽音』
風祭・誘輔(CL2001092)
『スピード狂』
風祭・雷鳥(CL2000909)
『相棒・恋人募集中!』
星野 宇宙人(CL2000772)
『身体には自信があります』
明智 珠輝(CL2000634)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)
『黒い靄を一部解析せし者』
梶浦 恵(CL2000944)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『月々紅花』
環 大和(CL2000477)
『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)
『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『行く先知らず』
酒々井・千歳(CL2000407)

●かっぱと温泉~ときめき女子会
 のどかな山の森の奥、ちちちと鳥の声が訪れるものを出迎えた。秋の訪れを感じさせる季節の中、鳥たちの声に混じって、何処からか「かっぱ、かっぱ」と愛らしい声が聞こえてくる。
 その声が導くのは、山の中にある秘密の温泉で。其処には、つぶらな瞳をしたちまっこい温泉かっぱ達が、客人の訪れを今か今かと待っているのだ。
「河童と一緒に温泉なんて、なかなか出来るものではないわよね」
 楽しみ、と呟いて椿はこれから出会うかっぱへと思いを馳せていた。彼らはどんな容貌をしているのだろう、自分が想像している感じだろうか――そうして森の中にある温泉へ辿り着いたとき、たまきが「わぁ」と歓声をあげる。
「「「かぱー!」」」
「可愛いですね! この子たちなら私でも怖がらずに仲良くなれそうです」
 いらっしゃい、と言うように温泉から飛び出したかっぱ達は、ちいさな手を懸命に振って皆を歓迎した。早速握手を交わした大和は、共に休日を過ごす仲間たちへ「ありがとう」と囁く。
(……かわいい!)
 きゅん、と密かなときめきを覚えた椿も挨拶をして、大和やミュエルと一緒にお土産にと持ってきたきゅうりを渡す。一方の樹香は一工夫加えて、浅漬けにしたきゅうりの差し入れだ。
「食べ切れなかったら、お土産で持って帰ってちょうだい」
 早速きゅうりをしゃりしゃりと食べ始めるかっぱを、大和は微笑ましく見守って――必死に身振り手振りで感謝を伝える姿に、思わずその相貌が和らぐ。椿からそっと背中の甲羅を撫でられたかっぱは「かっぱ!」と叫んで彼女にひしっと抱き着いてきた。
(可愛い……すごく可愛いわ)
 そうして、彼女ら女子会一行は水着に着替えて温泉に浸かり、かっぱも交えてゆっくりと寛ぐ。裸の付き合いだと言う樹香は、早速かっぱを撫で回してご満悦だ。
「みんなは、古妖さんに会うお仕事……行ったこと、ある……? アタシ、こないだのお仕事で、古妖さんと、仲良くできたのが、嬉しくて……」
 ちゃぷん、と湯をすくいながらミュエルが問えば、わたしもと大和が頷いた。彼女の長い黒髪は束ねてアップにしており、覗くうなじがとってもセクシーだ。
「古妖には会った事があるわ。白くて丸くてふわふわしたケサランパサランね。一緒にパーティをしたのよ」
 今度依頼で古妖に会いに行くと言う椿は、ふたりの話を興味深く聞いていた。古妖に会えるかわからないけど、会えたら素敵――彼女はそう言って、腕の中で寛いでいるかっぱを見下ろす。
「この子も勿論だけど、古妖と仲良くなったなんてすごいわ」
「あ、そうです……泳ぎの達人と噂されるかっぱさん達に、上手な泳ぎ方を教えて頂きたいですね!」
 と、真剣な表情でたまきが、じっとかっぱに向き直って頭を下げた。恥ずかしながら、泳ぎ出そうとしてもプールで沈んでしまう位の力量なので――そんなたまきに同意して、ミュエルも顔を赤らめて告げる。
「あ、えっと……アタシも、実は、泳げなくて……泳ぎ方、教えてもらえたら……嬉しい、かも……」
 そんなふたりにお願いされたかっぱ達は、ぽんと手で胸を叩いたものの、強く叩きすぎたせいか「ごふごふ」と咳き込み始めた。その様子を見守る大和は、仲間たちの上達を願いながら微笑む。
「そのジェスチャーは『どーんと任せておけ』かしら? 張り切っている姿も可愛らしいわね」
 そんな訳で、早速かっぱ達による泳ぎ方のレッスンが始まった。その様子を横目で見ながら、日頃の疲れを癒そうとゆっくり温泉に浸かるのは樹香だ。
「こうして温泉に浸かるというのもいいものじゃのぅ。それが秘湯で、しかもかっぱが見られるとは、良いではないか」
 椿も微笑ましげに皆を見守っているが――先ほどたまきがぽつりと零した、『身長と胸を大きくする秘訣』については上手く答えられなかった、と思う。そんなたまきは優しくも厳しいかっぱの指導を受けながら、何とか泳ぎのコツを掴もうと奮闘していた。
 ――万里や真由美、相馬たちに沢山のお土産話が出来るといい、そう思いながら。

●かっぱの湯に癒されて
「戦士たるもの休息も大事! ゆっくり癒して、次の戦いに備えよう!」
 さて、一方で湯治と洒落こむのは遥たちだ。たまにはゆっくりと、時間を忘れて湯に浸かりたいと静護が呟く中――零は早速甘めの日本酒を開け、ほろ酔い気分で自然の声に耳を傾けている。
 ――そんな彼らの話すことと言えば、この三人で共通の話題で、かつ和気藹々と出来るもの。
「そう、戦闘に関することだね! いやあ、ガチの殺し合いはやっぱり道場の組手とは違うよな」
 はははーと爽やかに笑う遥は、手首の傷跡をふたりに見せて、ものすごく楽しそうにその時のことについて語り出す。
「オレ、この間の戦いで拳粉々にされちまってさー! 手首から先がぺっちゃんこになってんの! ほらほら、ここんとこ!」
「……ん? 戦いについての話か。ケガを負ったどうこうよりは、やはり一番残っているのが認識の違い、と言うべきか」
 淡々と告げる静護は、妖によって両断出来ると思ったものが出来なかったり、その逆もあったりとズレを感じているとのことで――少し情けないな、と吐息を零した。
「あ、あと刃物で内臓えぐられる感触! 胃に穴が開くってよく言うけど、リアルに穴開くとは思わなかったぜ! あははは!」
「鹿ノ島君の話を聞く限りじゃ、随分と過激な勝負をしてきたのか。……だが、そうやってピンピンしてるなら、今後も特に心配はなさそうだな」
 とてつもなく物騒な発言をさらりと行える遥もすごいが、微塵も動揺せずに会話を続ける静護もすごい。零はと言えば、ふむふむとお酒を傾けながら相槌を打っていた。
「そっか、みんな大変だったのね。鳴神は……今んとこなんもなく平和かなぁ。でもどきどきしそう、窮地に立たされるからこそ込みあがる快感☆」
 ほわ、と次第に零の瞳が潤み、その肌にはうっすらと汗が滲んでいく。なんか暑いなぁと呟く彼女の、その胸元に目が行った遥は、たらりと鼻血を垂らして――そして、いきなり零にちゅーをされた。
「って、だーきーつーくーなー! この酔っ払い!」
「んひひ、男の子、かわいいよな」
 続けて静護にもちゅーをしようとした零だが、迫る彼女に静護はアイアンクローを決行。きっと、酔っぱらった零はこの事を覚えていないのだろう――だが、これだけは言わせて欲しい。
「……水蓮寺静護はゆっくりと風呂に入りたい」
 そんな中、茨田・凜はかっぱを抱っこしてじっくり温泉を堪能していた。かっぱさんと遊びつつ、一緒に来た皆とも打ち解けてわいわい楽しめるのは、とても素敵な体験だと思う。
「かっちゃん、って呼んでもいいかな?」
「かぱ!」
 凛の問いかけに、元気よく頷くかっぱ。と、そんな微笑ましい彼女たちの姿を、温泉の中でガン見している存在があった。まさか、ここに居る温泉かっぱを古妖と聞いて退治しにやってきたのだろうか――その男、超越の目は捕食者のそれだ。ああ、かっぱよ、きゅうりとか食べている場合ではない、逃げてー!
「ん? 凛たちに何か用?」
 ――と、視線に気付いて振り向いた凛に声を掛けられた超越は、いきなり挙動不審になって逃げだした。どうやら彼が見ていたのは凛の方だったようなのだが、肉食系女子オーラを放つ彼女に圧倒されたらしい。ちょっぴり前かがみだったと思うのは、きっと気のせいだろう。
「温泉は……好きだ」
 ほぅ、とのんびり足湯を堪能しているのは久永。木々に遮られ、陽光も幾分柔らかいものの――やはり日傘は手放せなかった。そんな彼の足元ではすいすいと、温泉かっぱが泳いでいる。
「しかし河童と言えば川……水に棲む古妖だが、湯でも平気なのか」
 その時、久永の脳裏に浮かんだのは、茹でタコならぬ茹でかっぱ。食えるのかとぽつりと零すも、彼は直ぐに冗談だと首を振る。
「温泉でお酒……身体に悪いのはわかってるけど、だからこそかな。さいっこうに気持ち良いんだよねぇ」
 一方、まことは景色を楽しみつつ、タライに乗せたお酒とつまみを楽しんでいた。お邪魔してるよ、とかっぱ達にお辞儀したまことは、かっぱが此方をじーっと見つめているのに気付いて得心する。
「……これ、気になるの? 胡瓜のおつまみ。いいよいいよー、口あけてー、あーん」
 かぱーと餌付けされる様子は、正にペンギンみたいで。お酒と聞いて宴に混ざった久永が、早速まことに『かっぱ割り』を所望した。
「縁のある名だろう? せっかくだから共に一献傾けてみたいなぁ」
「古妖だし、未成年って事はないだろうけど。まずはちょっとだけ、ね」
 そうして久永とまこと、それにかっぱ達は杯を掲げて乾杯――一緒にかっぱ割りを飲んで、大自然の中でのんびりリフレッシュをするのだった。

●戯れかっぱ、夢心地
 かっぱと言えば、テレビのCMを思い浮かべる焔陰凛であったが――目の前の温泉かっぱを見つめて、いきなりメロメロになった。
「何やのこれ可愛すぎるやろ♪ お持ち帰りしたいわ」
 そんな訳で早速遊ぶことにした凛は、かっぱ達に『だるまさんが転んだ』を教えて自身が鬼になる。掛け声をかけて振り向くと、色んなポーズでかっぱはぴたっと静止するのだが――無理のある姿勢になった子が、ぷるぷると震えていた。
(あかん、萌える)
 けれど勝負の世界は厳しい。べしゃっと地面につっぷしたかっぱを、凛は容赦なく指摘する。それでもかっぱは必死に凛の元へ向かい、気付けばずらずらと凛に繋がって行列が出来ていた。
「これはこれでええなー。ほな、めいっぱい遊んだら、皆で温泉で汗を流そうか」
「かっぱかっぱかっぱさーん。いっしょにあーそーびましょー」
 きゅうりを手土産にした千晶が叫べば、森のあちこちから「かぱ!」という声が返ってくる。思っていたよりもいっぱいやって来たので、かくれんぼをしようと千晶は提案――自分が鬼になってかっぱを探すことにした。
「きゅー、じゅうー、もういいかーい」
 あんまり遠くに行っちゃだめだよと教えていたが、どじっこなかっぱさんが多かったのか、特に苦戦することなく発見することが出来た。葉っぱでカモフラージュしようとして、お皿が隠れてない子もいたし、中には木に登ったのはいいけれど降りられなくなってる子もいた。
「さて、じゃあ持ってきたきゅうりを一緒に食べようか」
 遊んだあとの千晶の提案に、かっぱ達は一斉に「かっぱ!」と答えたのだった。
「はっじめまして~♪」
 かっぱの温泉へ向かう為、森を散策していた宇宙人は、早速かっぱと遭遇し友好的に挨拶を交わす。
(昔読んだ漫画によると、しりこだま? っていうのを抜いてくるらしいけど……多分、大丈夫……だよな……?)
 一抹の不安を抱きながらも、宇宙人はジェスチャーを交えてかっぱと語り合う事にした。最近の妖事情とかも知りたいし、もし大変な動きがあったら噂だけでも流れているかもしれないと思ったのだが――どうやらかっぱ達は詳しい事情は知らない様子。まぁ、場所も人里離れた山奥だし、のほほんと暮らしているのならそれで良いかと宇宙人は思ったのだった。
 一方、かっぱの生態調査を行うのは恵。何故かっぱと言えばきゅうりなのかと思うが、彼女の持ってきた野菜は非常に喜ばれたようだ。彩りがサラダのようになったトマトやレタス、人参と言った野菜も、かっぱはもしゃもしゃと食べている。
(それから、古妖はどうやって個体数を増やしていくのかも気になる所です)
 と、恵の視線に気付いたかっぱ達が、ひしと抱き合って彼女を見つめてきた。……これはもしや、『らぶ』であると伝えたいのだろうか。
(……きゅうりの花からかっぱが生まれてくる、と言われたら、信じてしまいそうな空気です)
「温泉でかっぱと遊べるなんて最高じゃね?」
 そう言った翔はお土産にきゅうりの漬け物を持参し、早速かっぱ達と打ち解けていた。一緒に泳がねーか、と誘う彼にかっぱは頷き、寛ぐ皆の邪魔にならない場所で水遊びを開始する。
「ちょっと競争してみてーな……よし、潜りっこならどうだ!」
「かぱ!」
 ざぶん、とお湯に潜った翔が息を吐き出しながらかっぱを見遣ると、彼はじーっと温泉の底に座ったまま微動だにしていなかった。何となくその様子がシュールで、息が上がった翔はぷはっと顔を出して大声で笑う。
「……かっぱにかなうわけなかったなー、あはははっ」
 そして――いそいそと水着に着替えて温泉に浸かるのは、ゲイルと珠輝だ。ゲイルは黒のビキニパンツで、普通のだと言う珠輝の水着はTバック。ちなみに色は赤でラメ入りのやつだ。
「ペンギンの赤ちゃんみたいな、ぬいぐるみっぽい外見のかっぱ……」
「ふ、ふふ……! なんてファンシーなんでしょう、あぁ愛らしい……! 安心してください、悪戯なぞしません、ただ愛でさせていただければ私は十分に幸せです、ふふ……!」
 差し入れのきゅうりを美味しそうに食べるかっぱを見守った後、ゲイルはお待ちかねの戯れタイムへと突入した。撫でたり、抱き締めたり、手足をパタパタさせながら温泉を泳ぐのを見守ったり――もふもふじゃなくても、やはり可愛いものは可愛いのだ。
「温泉に入れるだけでも幸運なのに、可愛いかっぱと戯れられるなんて贅沢だなぁ」
 しっとりとしたかっぱの触り心地をゲイルが堪能する傍ら、珠輝はアヒルちゃん人形で腹話術を行っている。
「大丈夫です、怖くないですよー、たまちゃんはかっぱたんと仲良くなりたいだけですよー。かっぱー! かっぱっぱー!」
 と、彼の必死の努力が伝わったのか、アヒルたんに誘われるようにかっぱがやって来た。
「ふ、ふふ……なでなでしてもいいですか?」
 こくり、と頷くかっぱを優しく撫でる珠輝は幸せいっぱいだ。だが、ピュアな男性陣が愛らしいかっぱを愛でる一方で、邪な思いを抱く乙女もまた居たのだった。
(こういったシチュエーションでの定番イベントは、フィクションでは覗き、盗撮と決まってるです)
 乙女――槐は、リボンの中に隠した防水デジカメを使い、湯中の被写体を激写しようと活動を開始する。
(ふむ、なかなかのプリ尻……しかもラメのTバックとはなかなかマニアックな……こっちはビキニって、え……ちょっと待っ)
 ――が、其処で彼女は、被写体が男衆二人組だと言うことに気付いた。ちなみに水着の主は、言うまでもなくゲイルと珠輝である。
「かっぱ可愛いのですー!!」
 ざっぱーんとお湯から姿を現して槐は絶叫――誤魔化す為の台詞だったそれは、図らずしも彼女の心からの叫びとなったのだった。

●ふたりで過ごすひとときを
「かっぱは、ふぁんしーでぬいぐるみみたいにちまっとして可愛いのか。それは見たい」
 鋭い目つきと対照的に可愛いものに弱い亮平は、かっぱを見るべく温泉へと浸かった。つぶらな瞳をうるうるさせて「かっぱ」とか言ってるのを見てみたくて――そんな友人の想いは露知らず、行成はと言えばピアスとメガネを外して温泉の効能を考察中だ。
(効能は……怪我に効きそうか。擦り傷とか打ち身とか)
 湯は無色透明っぽいが、ほんのりと緑がかっているような気がする。においも少し感じるが――強いて言えば『かっぱっぽい』ような不思議な香りだ。
「ええっと……かっぱ、かっぱ……」
 と、かっぱを探す亮平は、湯煙の向こうに大きな影を見た。あれは行成だと気付いて声を掛けようとした亮平だが、彼の尋常ではない様子にその手が止まる。
「志賀君も温泉に入りに来たんだな……って、な……何だかすごく目つきが悪いな」
 行成はものすごいしかめっ面をしていたが、近づいて来たのが亮平だと声で分かったらしい。ああ、と頷き何度も瞬きをした。
「ど、どうした? 湯煙でかっぱが見えにくくて怒ってるのか? ……あ、眼鏡がないからか」
「不機嫌なわけではないんだが……そんなに怖い顔しているだろうか?」
 亮平に言われて初めて、行成は自分が怖い顔で睨んでいるようだと気付いたらしい。無自覚の間、温泉かっぱさんを怖がらせてしまっただろうか、とうなだれる。
「……かっぱ、かっぱはどこだ?」
 と、我に返った亮平は、かっぱを探して辺りをきょろきょろと見渡した。彼の背中に、ひしっとかっぱがくっついているのを知るのは――もう少し後のこと。
「河童かあ……あまり妖怪のことは詳しく知らない俺でも知ってるメジャーな妖怪だね」
「ええ、昔から人間社会とは馴染みのある種ですね。今でも有名ですし」
 千歳の言葉に冬佳が頷きつつ、ふたりは近寄って来たかっぱをしげしげと見つめていた。人なつっこい、と微笑む千歳は、きゅうりを差し出してかっぱと触れ合う。
「慌てなくても、別に何処もいかないからね。ゆっくりお食べ」
 嬉しそうにきゅうりを頬張るかっぱ達の頭を撫でて、千歳はよしよしと頷いて。まだきゅうりはあるし、他の子も欲しそうに見ているからと、彼は冬佳の背中を押した。
「冬佳さんもやってみるかい?」
「ありがとうございます、酒々井君」
 千歳から分けて貰ったきゅうりをかっぱにあげながら、冬佳はそっと、かっぱの頭を撫でてみる。
「あ、可愛い……」
 かっぱ、と鳴く声に冬佳は顔を綻ばせ――こういう出会い方が出来たのは運が良かった、と千歳は呟いた。
「ペンギンの古妖とかは聞かないから、その親戚なのかな。君達は」
 海外にはそれっぽいのが居るかも知れないし、河童にも色々と居るのだろうけど。
「親しみ易さは、確かにあるのかもしれませんね」
 ――言葉は通じなくとも、コミュニケーションは取れるものだと御菓子は言った。まして、かっぱさんはジェスチャーをしてくれているのだし。これに表情や鳴き声の響きがあれば、ほぼその意図を汲むことが出来る。
(なんとなく起きたいたずら心だったの。こっちも言葉なくても通じるんじゃないかなって)
 故に、きゅうりいりますかと普通に話しかけた後は、御菓子も独自のコミュニケーションを取った。
「あぅん、きゃうんきゃんきゃん!」
 ――具体的には、相手の表情や仕草を見ながら犬語で。
「いきなりコミュニケーションとらないで下さいッ!」
 そんな御菓子にツッコミを入れたのは、彼女の姪である結鹿だ。だが、御菓子の犬語にかっぱは頷き、こちらも「かっぱ、かーっぱ!」と叫んでひしと抱き着いている。
「……なぜ犬語? ていうか、なんだかコミュニケーション成立してる!?」
(まぁ、やっぱり通じるもんだね)
 大袈裟に驚く結鹿が面白かったから、御菓子はにやりとかっぱと顔を見合わせた。このままかっぱさんとじゃれついちゃえ――そう意志を伝えた御菓子に、かっぱは任せておけと胸を叩く。
「にゃあ♪」
 ぴょーんと勢いよく飛び込んでくるふたりに、結鹿は混乱してすっかり涙目だった。
「なんで猫語!? じゃなくって、ふたりでじゃれつかないでくださ~いっ!」
 温泉に入ってかっぱと遊ぼうと奏空は思っていたものの、姉の飛海のことが心配で仕方がない。具体的に言えば、可愛いもの好きでちょっと変わったちゅーにな姉が、かっぱに何かするのではということが。
「可愛いかっぱが居ると聞いて、大人しくしてられない俺、参上!!!」
 ――で、やっぱり姉は姉だった。パッドを仕込んだ水着姿で謎のキメポーズをし、お持ち帰りしたい気持ちをぐっと堪えてかっぱと友好を深めている。具体的には撫で回したり、好物のきゅうりを渡すなどして。
「ちょっとねーちゃん! かっぱ侍らす気でしょ! ダメだよ!」
「なんだよー。かっぱさん達も楽しそうにしてるじゃんかー」
 奏空の言葉にぶーぶー言いつつも、飛海はどこか楽しそうだ。実際かっぱ達は飛海のキメポーズにときめき、もっとやってと言うようにせがんでいる。
「……ったく……いつもこうやって、ねーちゃんのフォローする俺の身にもなってよ~」
 小さいころからこうして飛海には色々やられっぱなしで、何かと苦労が絶えないのが奏空だ。でも、うどん屋の切り盛りで忙しい両親に代わって、自分の面倒をみてくれていたのは姉で――その事は奏空もよく分かっている。
「いやー、でもこうやって昔みたいに遊ぶのも久しぶりだなー」
 だから面と向かっては言えないけれど、こうやってのほほんとしている飛海には感謝しているし、大好きで。本当は一緒に来れて楽しいし、嬉しいのだ。
(素直に言えないけど……大好きだよ、ねーちゃん)
 そして、此処にもきょうだいで湯を楽しむもの達が居た。一緒に風呂なんて何年ぶりだろーねぇ、と雷鳥が呟けば、兄の誘輔は「はぁ」と溜息を零す。
「何が哀しくて妹と温泉入らなきゃなんねーんだか……」
 そう言いつつも誘輔は雷鳥の水着の露出度が高い、とぼやいたり、彼女は彼女でそんな兄を「親父みたい」と一刀両断したり。
「ちょっと耳触っていいか?」
「耳? いいよ、へるもんじゃなし。ただし簡単には触らせねーぜ、いやんエッチー」
 雷鳥の獣化した耳を触ろうとして、ちょっぴり誤解されそうな会話を楽しんだり――そうして一息ついたふたりは、ふと真面目な顔になって顔を見合わせた。
「……で、相変わらず手がかりなしか。俺もツテを頼ってネタを集めちゃいるんだが」
「まぁ、2年探して見つからなかったんだし、すぐ見つかるとは思ってないけど……」
 話すのは、生き別れた雷鳥の娘のこと。血は繋がっていないらしいのだが、そんなことを関係なしに雷鳥は娘を案じている。
「……あの子、今頃どうしてるんだろ。私がそんなこという資格なんてないんだけどさ」
 そんな彼女の姿は、妹の世話に追われていた昔の自分とかぶって――誘輔はくしゃりとその頭を撫でた。
「あー……弱音位吐けよ。今更言えた義理じゃねえけど、さ。一応兄貴なんだし」
 ん、と雷鳥は頷き、そっと誘輔の耳元で囁く。
「……じゃあさ、今日は好きなだけ付き合ってよ。今はそれだけでいいからさ」

 ――やがて、楽しい時間はあっという間に終わりを告げて。皆は名残惜しく、かっぱ達とお別れをする。
「ありがとう、すごく素敵な時間を過ごせたよ。また遊びに来るから、かっぱさんも元気でいてねー」
「また遊んでくださいね。かっぱっぱ!」
 まことと珠輝が笑顔で手を振って、最後に翔がぎゅっとかっぱと握手を交わした。
「また遊びにくるからな! 約束だ!」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『かっぱの保湿くりーむ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員




 
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