【紳士怪盗】カジノ・ナイト・フィーバー
●カジノ『マザー・カムストック』
空間が輝きでできていた。
豪奢なシャンデリア。赤と金でしつらえた壁紙と高い天井。
踏むだけで心地よい絨毯の床を進めば、職人の手によって作られたさわり心地の良いバカラ台がある。
ディーラーは八重霞 頼蔵(CL2000693) だ。新品の封をきると、美しい手際でカードを配っていく。
「さあ、どうぞ」
二階のパーカウンターではクー・ルルーヴ(CL2000403) がトリックカクテルを披露している。
ジャグリングのように瓶を投げては、一杯で近隣の労働者一日分の賃金が吹き飛ぶようなカクテルを作っていくのだ。
身体のラインが出るような、美しくも格式高い衣装を纏った天堂・フィオナ(CL2001421) が銀のトレーで客へカクテルを運べば、客はチップを彼女に渡してスロットを回す。
シガーボックスを持って歩くエルフィリア・ハイランド(CL2000613) 。
ルーレットに勝った男が、彼女から葉巻きを買った。一ランク高い葉巻きを手渡す彼女に、倍近いチップを握らせる。
彼女とすれ違うように、真っ赤な制服をきた警備員の田場 義高(CL2001151) が歩いて行く。
彼は従業員用のICカードを使って裏口の扉を潜り、まるで迷宮のように均一に入り組んだ真っ白い通路を進む。
手のひらを二回握ってから開くと、圧力で浮き出たインクが手のひらに現われる。
「右右左、右まっすぐ右まっすぐ……よし」
到達した部屋の扉に、従業員パスを翳す。
電子音と共に重いロックが外れ、義高はサーバールームへと入った。
手のひらサイズの電子機器を手早く取り付け、すぐに外へ出る。
来た道を戻りつつ、近くの電話機をとった。
「VIPルームのお客様がシャンパンをご所望だ。『77番の瓶』を開けるように」
貯蔵庫の扉が従業員によって開かれる。
まるで小柄な人間がひとりは入れそうなカートをとると、従業員は急ぎ足で通路を進んでいく。
入った部屋はカジノクラブの中でもひときわ豪華な部屋だ。野球のボールを適当に投げただけで損害額が一億を超えそうな、そんな部屋である。
足を組んで手招きをする男。カートから瓶を出してグラスに注ぐ従業員。男は頷いて、カートに自らが持ってきたアタッシュケースを乗せた。
「くれぐれも頼むぞ」
ずっしりとしたケースだ。
アタッシュケースを乗せたカートは従業員によって運ばれ、途中で三度の交代を経て巨大な金庫へと入っていく。
金庫の中で、内側から鍵が解かれ、ぱかんと開くアタッシュケース。
中から身を屈めた『怪盗ラビットナイト』稲葉 アリス(CL2000100) が顔を覗かせる。
「潜入成功ぴょん」
ラビットナイトは天井に飛びついて張り付くと、そのままはって壁際に並べられた宝石類の入ったボックスを片っ端から掴んでアタッシュケースに滑り込ませていく。
最後にしっかりと鍵を閉め、自分は通気口の蓋を開いて脱出。
腕時計の針が約束の時間を刻んだことを確認して、ラビットナイトは頷いた。壁に接着しながら通気口を登っていく。
やがてケースは運び出され、警備員の義高の手によって途中ですり替えられてホテル客用の荷物へ。
そして荷物はワゴン車に積み込まれ、ハンドルを握った義高は虚空にウィンクをして車を走らせる。
盗難に気づいたホテルが車を飛ばし、警備員がワゴンを取り囲む。
いざ突入――となったその時、運転席には誰も居ない。
宝石類は全部無事だ。
一安心だと思ったその時、ホテルの最上階にある隠し金庫がラ頼蔵によって開かれていた。
支配人の女は彼に恋をしたような目で振り返るが、なにくわぬ顔で宝石をポケットに隠し、彼女に応える。
途端、カジノで爆発が発生。
エルフィリアが配っていた葉巻きが突如として爆発したのだ。
黒煙を上げるカジノ。慌てて逃げ出す客たち。
どさくさの中で重役パスをスリとったクーがフィオナをつれて最上階へ直行。
頼蔵は約束の時間になった途端窓を突き破って屋外にダイブ。
一瞬遅れて階下の窓を突き破ってでてきたクーとフィオナが彼をキャッチ。伸ばしたワイヤーを屋上の手すりにひっかけて減速降下。
ホテルの裏手に止めた車に飛び乗ると、わめく支配人を置いて走り出す。
――これが、カジノ『マザー・カムストック』に眠るお宝『幸運の宝石』を盗み出すまでの手口なのだが……。
決行の直前になって電話ボックスから出てきたフィオナがこんなことを言った。
「ファイヴの夢見がいくつかのトラブルを予知したんだ。聞いてくれ、すぐに対応しなくちゃまずいぞ」
空間が輝きでできていた。
豪奢なシャンデリア。赤と金でしつらえた壁紙と高い天井。
踏むだけで心地よい絨毯の床を進めば、職人の手によって作られたさわり心地の良いバカラ台がある。
ディーラーは八重霞 頼蔵(CL2000693) だ。新品の封をきると、美しい手際でカードを配っていく。
「さあ、どうぞ」
二階のパーカウンターではクー・ルルーヴ(CL2000403) がトリックカクテルを披露している。
ジャグリングのように瓶を投げては、一杯で近隣の労働者一日分の賃金が吹き飛ぶようなカクテルを作っていくのだ。
身体のラインが出るような、美しくも格式高い衣装を纏った天堂・フィオナ(CL2001421) が銀のトレーで客へカクテルを運べば、客はチップを彼女に渡してスロットを回す。
シガーボックスを持って歩くエルフィリア・ハイランド(CL2000613) 。
ルーレットに勝った男が、彼女から葉巻きを買った。一ランク高い葉巻きを手渡す彼女に、倍近いチップを握らせる。
彼女とすれ違うように、真っ赤な制服をきた警備員の田場 義高(CL2001151) が歩いて行く。
彼は従業員用のICカードを使って裏口の扉を潜り、まるで迷宮のように均一に入り組んだ真っ白い通路を進む。
手のひらを二回握ってから開くと、圧力で浮き出たインクが手のひらに現われる。
「右右左、右まっすぐ右まっすぐ……よし」
到達した部屋の扉に、従業員パスを翳す。
電子音と共に重いロックが外れ、義高はサーバールームへと入った。
手のひらサイズの電子機器を手早く取り付け、すぐに外へ出る。
来た道を戻りつつ、近くの電話機をとった。
「VIPルームのお客様がシャンパンをご所望だ。『77番の瓶』を開けるように」
貯蔵庫の扉が従業員によって開かれる。
まるで小柄な人間がひとりは入れそうなカートをとると、従業員は急ぎ足で通路を進んでいく。
入った部屋はカジノクラブの中でもひときわ豪華な部屋だ。野球のボールを適当に投げただけで損害額が一億を超えそうな、そんな部屋である。
足を組んで手招きをする男。カートから瓶を出してグラスに注ぐ従業員。男は頷いて、カートに自らが持ってきたアタッシュケースを乗せた。
「くれぐれも頼むぞ」
ずっしりとしたケースだ。
アタッシュケースを乗せたカートは従業員によって運ばれ、途中で三度の交代を経て巨大な金庫へと入っていく。
金庫の中で、内側から鍵が解かれ、ぱかんと開くアタッシュケース。
中から身を屈めた『怪盗ラビットナイト』稲葉 アリス(CL2000100) が顔を覗かせる。
「潜入成功ぴょん」
ラビットナイトは天井に飛びついて張り付くと、そのままはって壁際に並べられた宝石類の入ったボックスを片っ端から掴んでアタッシュケースに滑り込ませていく。
最後にしっかりと鍵を閉め、自分は通気口の蓋を開いて脱出。
腕時計の針が約束の時間を刻んだことを確認して、ラビットナイトは頷いた。壁に接着しながら通気口を登っていく。
やがてケースは運び出され、警備員の義高の手によって途中ですり替えられてホテル客用の荷物へ。
そして荷物はワゴン車に積み込まれ、ハンドルを握った義高は虚空にウィンクをして車を走らせる。
盗難に気づいたホテルが車を飛ばし、警備員がワゴンを取り囲む。
いざ突入――となったその時、運転席には誰も居ない。
宝石類は全部無事だ。
一安心だと思ったその時、ホテルの最上階にある隠し金庫がラ頼蔵によって開かれていた。
支配人の女は彼に恋をしたような目で振り返るが、なにくわぬ顔で宝石をポケットに隠し、彼女に応える。
途端、カジノで爆発が発生。
エルフィリアが配っていた葉巻きが突如として爆発したのだ。
黒煙を上げるカジノ。慌てて逃げ出す客たち。
どさくさの中で重役パスをスリとったクーがフィオナをつれて最上階へ直行。
頼蔵は約束の時間になった途端窓を突き破って屋外にダイブ。
一瞬遅れて階下の窓を突き破ってでてきたクーとフィオナが彼をキャッチ。伸ばしたワイヤーを屋上の手すりにひっかけて減速降下。
ホテルの裏手に止めた車に飛び乗ると、わめく支配人を置いて走り出す。
――これが、カジノ『マザー・カムストック』に眠るお宝『幸運の宝石』を盗み出すまでの手口なのだが……。
決行の直前になって電話ボックスから出てきたフィオナがこんなことを言った。
「ファイヴの夢見がいくつかのトラブルを予知したんだ。聞いてくれ、すぐに対応しなくちゃまずいぞ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.トラブルを解決し、『幸運の宝石』を奪取する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
目的は老怪盗スミスの依頼で『幸運の宝石』を計画通りに奪取することですが、決行の直前になって夢見がトラブルを予知・報告してきました。
皆さんはこのトラブルを回避もしくは解決し、計画を遂行させてください。
OPの内容はあくまでシミュレーション映像なので、メンバーの入れ替えや交代は自由です。
●当初の計画
一週間かけて従業員として潜入した六人は、それぞれのもつスペシャルな技能をかけあわせて『幸運の宝石』を奪取します。
内容はOPの通りですが、キャラを伏せて役割だけざっくりと解説します。
・ディーラー役:手先の器用さと訓練でディーラーを演じます。カジノの中央にテーブルがあるので、途中までの監視役としても機能します。
この後カジノホテルの支配人を魔眼で虜にしてたらし込み、部屋へと案内させます。スリとっておいた鍵で隠し金庫を開き、『幸運の宝石』を手に入れます。
・バー役:バーカウンターとフロアで店員を演じます。『幸運の宝石』を手に入れたディーラー約の脱出を支援する役割を負っています。
・警備員役:警備員を演じます。事前に記録した道順にそってサーバールームへ潜入し、一時的に金庫に偽装映像を流すプログラムを仕込みます。プログラムや機材の作成は依頼人のスミスが済ませています。(専門技術すぎるのでPCにはできません)
・シガーガール約:カジノ内で葉巻きの売り子をします。女装可。脱出を助けるべく葉巻きに仕込んだ黒色火薬の爆弾を使い場を混乱させます。
・マウス役:スミス演じるVIPの持ち込んだアタッシュケースに隠れ、金庫に入って金目の物を盗みます。勿論これは警備員を引きつけるための偽装です。警備員に囲まれた段階で物質透過などを使いマンホールの下などに逃れて消えます。
●おこるトラブル
この依頼は『どれだけトラブルを解決できたか』で成功判定が行なわれます。
物理的科学的にどうかというより、プレイングに説得力があればあるほど成功しやすくなります。
スキルは絶好のカードになりますが、ただ使うよりどう使うかを記述したほうがより強いカードになるでしょう。
夢見が予知したトラブルは以下の三つです。
・ナナハン刑事がかぎつける:カジノに犯罪のにおいをかぎつけてナナハン刑事が現われます。メンバーはみな変装しているのですぐには気づかれませんが、注意深く観察されるとアウトです。
彼を暫く引きつける担当が必要になるでしょう。その分誰かが役割を重複させる必要が出てきます。また混乱時には確実に障害になります。
・XIV(イクシヴ)が漁夫の利を狙う:どこからか犯罪計画をかぎつけたXIVの四人がそれぞれの利益を奪います。
クライブとアハトは自動車でかけつけ(偽装用の)宝石群を逃走時に、カイトとニーサムは『幸運の宝石』を脱出中に奪い取るつもりです。前者はともかく後者は絶対に防がねばなりません。
・支配人が発現する:タイミングの悪いことに支配人が発現していました。魔眼が通じず、自力で口説き落とすしかありません。どんなセキュリティを用意しているかわからないので、危害を加えるのはアウトでしょう。
●ナナハン刑事、XIV、スミス、支配人について
詳しく解説したいところですが文字数が限界ですので、どうか過去のシナリオ群を参考にしてください。
支配人はメタな話、誰がメンバーになってもいいように性別は定めていません。担当者にとっての異性になります。
●幸運の宝石
宝石の姿をした古妖で、持ち主を大金持ちにする代わりに周囲の人物から運を吸い取ります。
●補足の補足
プレイングが相当複雑になることが予想されるためいくつかの補助を設けます。
『やっていて当たり前のこと』『計画にあたって知っていて当然の知識』はプレイングに書き込む必要はありません。訓練をする所とか、知識を語る所とかです。アドリブ補助を行なうので台詞もオミットして頂いて構いません。
また、他メンバーの行動や計画内容まで記述している必要はありません。これもやって当たり前のこととして判定します。
相談がちょっぴり複雑化する依頼ですが、
『自分がどの役割について』『どんな行動を起こして』『どうトラブルに対応するのか』がプレイングのキモになります。
では、良い怪盗を。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
8日
8日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年01月02日
2017年01月02日
■メイン参加者 6人■

●カジノ『マザー・カムストック』
国内の一流ホテルに併設された巨大なカジノルーム。それがマザー・カムストックである。
勿論日本有史以来カジノ経営が法的に認められたことなどないのでなかなか闇の深い施設だが、売り上げの半分を国に寄付するという取り決めによって黙認されているともいう。
それが巡り巡って福祉や治安やインフラに回ることを考えれば、市民の銃刀法違反を黙認するのと同じことなのかもしれない。まあパチスロ店と似たような抜け道である。
さておき。
カジノといういかにもお金儲けに人が現われそうな施設である。豪奢なシャンデリアや高級なカーペットに囲まれ、金色の縁がついたテーブルでルーレットが回る。
『ゴシップ探偵』風祭・誘輔(CL2001092)はバカラの台でトランプカードの封切りをしてから、美しい手さばきでカードを配っていく。
過去の経験もさることながら、ジョン仕込みの訓練を経て身につけたカードさばきはプロそのものだ。といっても(イカサマ対策として)カードをシャッフルするのは機械に任せねばならないし、身につけるべきことはカード裁きより立ち振る舞いなのだが、誘輔は見事にカジノディーラー役を演じて見せていた。
カードに大勝ちした男にそっと近づき、『葉巻きはいかがですか?』と声をかける『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)。
彼女の幼くもどこか扇情的な立ち振る舞いと、差し出した葉巻きのうっとりとするような香りに思わず大金をつぎ込む客。シガーガールは勝ち金を持ち出させない大事な役回りであると同時に、客の動きを細かく観察できる重要な立ち位置なのだ。
ふと視線を二回のバーへ向ける。
吹き抜け構造になった二階にはスロットマシンエリアが並び、かつて日本に並んでいたパチスロコーナーが何だったのかと思うほどに高レートできらびやかなマシンが並び、そのそばにはバーカウンターが設置されている。
八重霞 頼蔵(CL2000693)がアクロバティックに瓶をふるっては、マティーニをグラスに注いでいく。
短期間とはいえ入念に訓練した彼の動きは限定的ながらも洗練され、酒に酔った客たちをうっとりと見ほれさせている。
「フィー君、三番のお客様へ」
「おう……じゃなかった、はい!」
『刃に炎を、高貴に責務を』天堂・フィオナ(CL2001421)は銀のトレーで頼蔵からグラスを受け取って、スロット脇のテーブルへと運んでいく。
勿論フィーというのは偽名である。本名で活動するわけにはいかないので仕方ないとはいえ、なんだかファーストネームを愛称で呼ばれているようでフィオナはちょっぴりこそばゆかった。
送受心で連絡を入れる頼蔵。
相手は、警備員の格好をして会場をゆっくりと歩いて回る『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)だ。
以前から正規の警備員として偽名で雇われ、偽の保証書までつけて会場に潜入していたのだ。今は台の配置から人の流れまで細かく記憶できている。
『今、イクシヴらしい人影を探してる。ぱっと見わからんが、変装してても観察すれば気づくはずだ』
『もし見つけても……』
『分かってる。ギリギリまで手出しはしない。そのかわり違反者の疑いありとして他の警備員たちに警戒させておく』
イクシヴはできるだけ人を傷付けずにお宝を盗んできた怪盗団『三月兎』とは異なる、力任せ感の強い窃盗団だ。邪魔が入ればすぐ強盗にシフトする。それだけに場に溶け込む必要性が薄く、カモフラージュも薄いものだと踏んだのだ。
『そろそろ時間だ。もしイクシヴを見つけたら連絡をくれ』
義高は従業員用のカードキーを翳して扉をあけ、スタッフエリアへと入っていった。
●ナナハン刑事
隔者や憤怒者の台頭によって無能と揶揄されがちな日本警察だが、彼らは決して無能ではない。現に日本国民は普通にサラリーマンをし、キッチンの蛇口をひねれば飲めるほどの水が流れ、子供は家でテレビゲームで遊べる。ここまで高水準で豊かな生活が送れるのは、個々人が意識できないくらいのハイレベルで市民の治安が守られているからだ。
……などという話をしたのは、今から現われる人間がそんな優秀な警察官の一人であることから由来する。
元警察官。現ICPO、ナナハン刑事である。地元の警察官の協力を得て彼はカジノ『マザー・カムストック』へ訪れていた。
「むう、犯罪の臭いがする」
「そりゃあそうでしょう。カジノなんて犯罪スレスレなんですから」
日頃から手一杯の日本警察からはのんびりとした無能な警察官をあてられている。よくあることだが、ナナハンは気にしない。能など後からつく。生まれながらに有能な者などいないのだ。
彼は目を光らせて会場のスタッフや客の動きを観察しはじめた。
「バーカウンターがあやしいな。少し見てみるか」
「そんなこといって呑みたいだけでしょう?」
「ならお前が行け。店員を観察するんだぞ。ワシはそうだな、バカラ台を見ておくか」
ずんずんと台へ進む。
もしナナハン刑事のもつ『刑事のカン』にひっかかり誘輔がマークされれば計画は頓挫してしまう。
心臓のたかなりを隠しながら振る舞う誘輔。
むらがる客たちの肩を掴んでディーラーの顔を覗き込もうとするナナハン刑事――の背後で、クーがそっと呟いた。
「わかばはいかが?」
ぴたりとナナハン刑事の手が止まった。
振り向く。
クーが煙草をケースごと差し出しながら立っていた。
「なぜワシの煙草が分かった」
「そんな香りがしたものですから」
「そうか。鼻がいいんだな。もらおうか」
クーから煙草を買って、その場を立ち去るナナハン刑事。
しかし彼の目は、獲物を追うタカのようにクーの後ろ姿を凝視していた。
一方その頃、義高は覚えた道順を物質透過で素早くショートカットしながらサーバールームへ到着していた。
擬装用の映像を監視カメラに流す端末を接続し、素早く部屋を出る。
サーバールームへのキーを必要としないぶん、手際は最高にいい。
適当な個室に入って受話器を手にとった。
「VIPルームのお客様がシャンパンをご所望だ。『77番の瓶』を開けるように。それと……」
送受心の内容を受けて、小声で付け加える。
「カジノに刑事が入り込んでいる。注意しておいたほうがいい」
ここで刑事の動きを抑制するようなことを言えば上から疑われるのは自分だ。促せるのは注意までだろう。
やがて、なんやかんやでジョン・スミス扮するVIPルームの客が『怪盗ラビットナイト』稲葉 アリス(CL2000100)の入った大きなケースを従業員に預けて言葉巧みに保管庫へ入れさせるのだが、こちらのルートは今回省くことにしよう。
それよりも先に、誘輔の方に触れねばなるまい。
●イクシヴ
従業員と交代して休憩に入った誘輔は、支配人からの呼び出しというテイでホテルの最上階へとやってきた。
ここは支配人が寝泊まりする別荘のような部屋だ。
このホテルとカジノが個人の欲望を満足させるための踏み台であることがよくわかるような、それはそれは豪華な部屋である。
支配人の女が足を組んでワインを傾けている。
「よく来たわね」
「昇進の話ですか? そうだと嬉しいんですけど」
カジノの従業員として潜入する間に、支配人が純朴で真面目な男を好むことをなんとなく察してた誘輔は、そう振る舞うように日頃から努力していた。
逆に言うと、多少のグッドルッキングガイでは部屋どころかそばに立つことすらままならないような相手らしく、誘輔は内心で悪態をつきながらも彼女の望む人格と容姿を精一杯作ってきたのである。
「あなた、そんなにお金が欲しいの?」
「そりゃあ、欲しいですよ。身体の弱い弟を養っていける。俺が万一倒れても、沢山金があれば安心でしょう」
「相変わらず真面目なんだから。ほら、いらっしゃい」
言われるまま、まるで年上女性にどぎまぎする可愛らしい三十路男性を演じながら、彼女の横に座った。
「あなたの反応次第よ。そうねえ、月収が今の倍になるって言ったら、どうするかしら」
「な、なんでもします!」
頬をわざと赤らめる誘輔の顎を、支配人は中指で撫でた。
顎から首ねなぞるように指をはわせ、ネクタイをゆるめて行く。
ボタンが順に外されていく。
「かわいい」
誘輔は、あとでこいつぶっ飛ばそうと思った。
宝石が盗まれ、途中で謎の二人組に奪われたという報告が来る頃だったが、部屋の電話機はしっかりと線を抜かれていた。
やがて爆発がおこる。
クーはシガーボックスの中から特殊な爆薬が仕込まれた葉巻きを取り出した。
これをくしゃりと握りつぶして三秒待てば学校教室を大掃除できそうな爆発を起こすという。
安全な場所での訓練は済ませてある。あとは予定通りに握って投げればいいだけだ。クシャリと握っ――た所で後ろから手首を掴まれた。
「その煙草をどうするつもりだ?」
ナナハン刑事だ。
「貴様。どこかで見たことがあるなあ。さては」
「手、危ないですよ」
クーは爆弾を『持ったまま』爆発させた。
思わず吹き飛ぶナナハン刑事。
クーは命数を犠牲にして転がると、修復した手をボックスの奥に突っ込んで天井へと放り投げる。
立て続けにおこる爆発に混乱する人々。
イクシヴのカイトとニーサムが動き出したのはまさにそのタイミングだった。
「なるほど、僕にうってつけの状況だ。まるで宝石を盗んでくれと言ってるようなものだね」
「そのようだ。屋上へ急ごうか」
不自然すぎる笑顔で立ち上がるニーサム。
そんな彼を、警備員たちがぐるりと取り囲んだ。
「なんだい? 爆発が起きたから外に逃げるだけなんだが」
「お前が動き出したら足止めするように言われてる」
「一体誰の命令で……おや?」
警備員たちの様子がおかしい。
「なるほど、魔眼か」
「操り人形か。とても賢いやり方だね、だが無意味だ」
ニーサムは笑顔でそう言うと、警備員たちの首をまとめて切断し――ようとした所でフィオナが飛びかかった。
「やめろ! 警備員さんたちをころすな!」
「おや? 君は僕らを邪魔した子だね。他人の命をかばうとはとても勇敢だね、だが無意味だ」
歪んだ笑顔で剣を繰り出してくるニーサム。
フィオナはそれを、歯を食いしばって受け止めた。
「悪いが、僕だけ先に行かせて貰うよ」
カイトが銃を抜いて走り出す。
「お客様、困りますよ。避難誘導には従って頂きませんと」
割り込んだ頼蔵が、いかにも都合が悪そうに通路の前に立つが、カイトは彼を突き飛ばして通路の奥へと走った。
無力に突き飛ばされるふりをしてから、ちらりとフィオナに目配せをする頼蔵。
フィオナは強く頷いて、ニーサムを蹴りつけた。
いかに電話機が鳴らないと言っても、爆発がおこれば気づかない筈が無い。
裸体にシーツを羽織った支配人が、電話機の線を繋ぎ直して耳にあてていた。
「一体どういうことなの。あなた、すぐに現場に……」
誘輔へ振り返る。
彼は『幸運の宝石』を手に、窓際に立っていた。
「あなた、最初からそれが狙いで」
「悪いなオバサン、あんたの身体にゃ価値を見いだせなかったよ」
血相を変えて掴みかかってくる支配人。
女といえど因子発現している人間だ。何をしでかすか分からない。
が、誘輔は迷わず背後のガラスを破壊した。
見晴らしのよい部屋で助かった。などと思いながら外へとダイブ。
「ここで俺を回収してくれるクーが待って……待って……あれ、いねえ!」
誘輔は高層ビルの最上階から地面めがけて自由落下を始めた。
最低でも一度は死ぬ高さである。
一方そのころクーは。
「やはり貴様か、『三月兎』! 宝石泥棒は囮というわけだな!」
ナナハン刑事が手錠をヌンチャクのごとく巧みに繰り出してくる。クーはそれをギリギリでかわしていた。
やはり手強い相手だ。一人ではキツい。
しかし自分がつかまっていては、誘輔の未来はトマトケチャップである。
なんとかここを抜け出す手立ては……。
そう思った矢先。
「やっと出番がきたぴょん!」
頭上のシャンデリアごと落ちてきたラビットナイトが、クーとナナハン刑事の間に現われた。
「今ぴょん!」
「助かります!」
クーは素早く土蜘蛛の糸を発射。
向かいのビルへ接着した糸の上を駆け抜け、落ちてくる誘輔を横からダイビングキャッチ。
ゴミ捨て場に一度突っ込んだ所で、走ってきた車に駆け込んだ。
運転席には義高だ。
加えて、ビルの中から銃撃でニーサムを牽制しながら頼蔵が出てくる。小脇にはフィオナを抱えていた。
「さ、とっととずらかるぴょん!」
車の上にぺちんと自らを接着したラビットナイトがが唱えるやいなや、義高はアクセルを思い切り踏み込んだ。
「よし、つかまってろ!」
車は豪快に大通りを抜け、そして人知れずどこかへと消えていった。
●『三月兎』のゆくえ
暫く国内を探索し続けたが、三月兎の足取りがつかめぬまま捜査は打ち切りとなりナナハン刑事は別の事件を担当するため国外へと渡った。
イクシヴは漁夫の利を得て獲得したダイヤを持ったまま姿を消し、今もどこかで盗みの機会をうかがっている。
そして『三月兎』一行は……。
「閉店? そんなばかな!」
アジトにしていたカフェはもぬけの殻となっていた。
扉をこじあけて中に入ったフィオナやアリスたちは、急いでいつかの『セーフハウス』へと駆け込んだ。
照明のスイッチをオンにする誘輔。
「……こりゃあ」
部屋には、皆が作戦会議をしていた頃の状態がそのまま残されていた。
ゆっくりと部屋を見回すクーと義高。
「ジョン・スミスはどこへ行っちまったんだ?」
「恐らく、役目を終えて消えたということでしょう」
テーブルの上に大きな茶封筒と便せんがひとつ。
クーが便せんを開くと、そこには一枚の写真が入っていた。
目を細めるクー。
頼蔵が、封筒の中から土地の権利書やブックカフェの帳簿や、従業員や客になりすましてカフェ全体をカモフラージュし続けていたスタッフのリストが入っていた。
更には、『災いを呼ぶお宝』のリストが詳細な資料つきで入っていた。
「後は頼む、ということかな」
「そのようですね」
クーは写真を皆に見せた。
ジョン・スミスとホテルの女支配人……のマスクを脱いで翳した二人の女性が写っている。
裏側には、二つのキスマーク。
――『シンフォニーダイア』『恋人の像』『幸運の宝石』はいま、ファイヴへ厳重に保管されている。もうこのアイテムが災いを呼ぶことは、ないだろう。
国内の一流ホテルに併設された巨大なカジノルーム。それがマザー・カムストックである。
勿論日本有史以来カジノ経営が法的に認められたことなどないのでなかなか闇の深い施設だが、売り上げの半分を国に寄付するという取り決めによって黙認されているともいう。
それが巡り巡って福祉や治安やインフラに回ることを考えれば、市民の銃刀法違反を黙認するのと同じことなのかもしれない。まあパチスロ店と似たような抜け道である。
さておき。
カジノといういかにもお金儲けに人が現われそうな施設である。豪奢なシャンデリアや高級なカーペットに囲まれ、金色の縁がついたテーブルでルーレットが回る。
『ゴシップ探偵』風祭・誘輔(CL2001092)はバカラの台でトランプカードの封切りをしてから、美しい手さばきでカードを配っていく。
過去の経験もさることながら、ジョン仕込みの訓練を経て身につけたカードさばきはプロそのものだ。といっても(イカサマ対策として)カードをシャッフルするのは機械に任せねばならないし、身につけるべきことはカード裁きより立ち振る舞いなのだが、誘輔は見事にカジノディーラー役を演じて見せていた。
カードに大勝ちした男にそっと近づき、『葉巻きはいかがですか?』と声をかける『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)。
彼女の幼くもどこか扇情的な立ち振る舞いと、差し出した葉巻きのうっとりとするような香りに思わず大金をつぎ込む客。シガーガールは勝ち金を持ち出させない大事な役回りであると同時に、客の動きを細かく観察できる重要な立ち位置なのだ。
ふと視線を二回のバーへ向ける。
吹き抜け構造になった二階にはスロットマシンエリアが並び、かつて日本に並んでいたパチスロコーナーが何だったのかと思うほどに高レートできらびやかなマシンが並び、そのそばにはバーカウンターが設置されている。
八重霞 頼蔵(CL2000693)がアクロバティックに瓶をふるっては、マティーニをグラスに注いでいく。
短期間とはいえ入念に訓練した彼の動きは限定的ながらも洗練され、酒に酔った客たちをうっとりと見ほれさせている。
「フィー君、三番のお客様へ」
「おう……じゃなかった、はい!」
『刃に炎を、高貴に責務を』天堂・フィオナ(CL2001421)は銀のトレーで頼蔵からグラスを受け取って、スロット脇のテーブルへと運んでいく。
勿論フィーというのは偽名である。本名で活動するわけにはいかないので仕方ないとはいえ、なんだかファーストネームを愛称で呼ばれているようでフィオナはちょっぴりこそばゆかった。
送受心で連絡を入れる頼蔵。
相手は、警備員の格好をして会場をゆっくりと歩いて回る『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)だ。
以前から正規の警備員として偽名で雇われ、偽の保証書までつけて会場に潜入していたのだ。今は台の配置から人の流れまで細かく記憶できている。
『今、イクシヴらしい人影を探してる。ぱっと見わからんが、変装してても観察すれば気づくはずだ』
『もし見つけても……』
『分かってる。ギリギリまで手出しはしない。そのかわり違反者の疑いありとして他の警備員たちに警戒させておく』
イクシヴはできるだけ人を傷付けずにお宝を盗んできた怪盗団『三月兎』とは異なる、力任せ感の強い窃盗団だ。邪魔が入ればすぐ強盗にシフトする。それだけに場に溶け込む必要性が薄く、カモフラージュも薄いものだと踏んだのだ。
『そろそろ時間だ。もしイクシヴを見つけたら連絡をくれ』
義高は従業員用のカードキーを翳して扉をあけ、スタッフエリアへと入っていった。
●ナナハン刑事
隔者や憤怒者の台頭によって無能と揶揄されがちな日本警察だが、彼らは決して無能ではない。現に日本国民は普通にサラリーマンをし、キッチンの蛇口をひねれば飲めるほどの水が流れ、子供は家でテレビゲームで遊べる。ここまで高水準で豊かな生活が送れるのは、個々人が意識できないくらいのハイレベルで市民の治安が守られているからだ。
……などという話をしたのは、今から現われる人間がそんな優秀な警察官の一人であることから由来する。
元警察官。現ICPO、ナナハン刑事である。地元の警察官の協力を得て彼はカジノ『マザー・カムストック』へ訪れていた。
「むう、犯罪の臭いがする」
「そりゃあそうでしょう。カジノなんて犯罪スレスレなんですから」
日頃から手一杯の日本警察からはのんびりとした無能な警察官をあてられている。よくあることだが、ナナハンは気にしない。能など後からつく。生まれながらに有能な者などいないのだ。
彼は目を光らせて会場のスタッフや客の動きを観察しはじめた。
「バーカウンターがあやしいな。少し見てみるか」
「そんなこといって呑みたいだけでしょう?」
「ならお前が行け。店員を観察するんだぞ。ワシはそうだな、バカラ台を見ておくか」
ずんずんと台へ進む。
もしナナハン刑事のもつ『刑事のカン』にひっかかり誘輔がマークされれば計画は頓挫してしまう。
心臓のたかなりを隠しながら振る舞う誘輔。
むらがる客たちの肩を掴んでディーラーの顔を覗き込もうとするナナハン刑事――の背後で、クーがそっと呟いた。
「わかばはいかが?」
ぴたりとナナハン刑事の手が止まった。
振り向く。
クーが煙草をケースごと差し出しながら立っていた。
「なぜワシの煙草が分かった」
「そんな香りがしたものですから」
「そうか。鼻がいいんだな。もらおうか」
クーから煙草を買って、その場を立ち去るナナハン刑事。
しかし彼の目は、獲物を追うタカのようにクーの後ろ姿を凝視していた。
一方その頃、義高は覚えた道順を物質透過で素早くショートカットしながらサーバールームへ到着していた。
擬装用の映像を監視カメラに流す端末を接続し、素早く部屋を出る。
サーバールームへのキーを必要としないぶん、手際は最高にいい。
適当な個室に入って受話器を手にとった。
「VIPルームのお客様がシャンパンをご所望だ。『77番の瓶』を開けるように。それと……」
送受心の内容を受けて、小声で付け加える。
「カジノに刑事が入り込んでいる。注意しておいたほうがいい」
ここで刑事の動きを抑制するようなことを言えば上から疑われるのは自分だ。促せるのは注意までだろう。
やがて、なんやかんやでジョン・スミス扮するVIPルームの客が『怪盗ラビットナイト』稲葉 アリス(CL2000100)の入った大きなケースを従業員に預けて言葉巧みに保管庫へ入れさせるのだが、こちらのルートは今回省くことにしよう。
それよりも先に、誘輔の方に触れねばなるまい。
●イクシヴ
従業員と交代して休憩に入った誘輔は、支配人からの呼び出しというテイでホテルの最上階へとやってきた。
ここは支配人が寝泊まりする別荘のような部屋だ。
このホテルとカジノが個人の欲望を満足させるための踏み台であることがよくわかるような、それはそれは豪華な部屋である。
支配人の女が足を組んでワインを傾けている。
「よく来たわね」
「昇進の話ですか? そうだと嬉しいんですけど」
カジノの従業員として潜入する間に、支配人が純朴で真面目な男を好むことをなんとなく察してた誘輔は、そう振る舞うように日頃から努力していた。
逆に言うと、多少のグッドルッキングガイでは部屋どころかそばに立つことすらままならないような相手らしく、誘輔は内心で悪態をつきながらも彼女の望む人格と容姿を精一杯作ってきたのである。
「あなた、そんなにお金が欲しいの?」
「そりゃあ、欲しいですよ。身体の弱い弟を養っていける。俺が万一倒れても、沢山金があれば安心でしょう」
「相変わらず真面目なんだから。ほら、いらっしゃい」
言われるまま、まるで年上女性にどぎまぎする可愛らしい三十路男性を演じながら、彼女の横に座った。
「あなたの反応次第よ。そうねえ、月収が今の倍になるって言ったら、どうするかしら」
「な、なんでもします!」
頬をわざと赤らめる誘輔の顎を、支配人は中指で撫でた。
顎から首ねなぞるように指をはわせ、ネクタイをゆるめて行く。
ボタンが順に外されていく。
「かわいい」
誘輔は、あとでこいつぶっ飛ばそうと思った。
宝石が盗まれ、途中で謎の二人組に奪われたという報告が来る頃だったが、部屋の電話機はしっかりと線を抜かれていた。
やがて爆発がおこる。
クーはシガーボックスの中から特殊な爆薬が仕込まれた葉巻きを取り出した。
これをくしゃりと握りつぶして三秒待てば学校教室を大掃除できそうな爆発を起こすという。
安全な場所での訓練は済ませてある。あとは予定通りに握って投げればいいだけだ。クシャリと握っ――た所で後ろから手首を掴まれた。
「その煙草をどうするつもりだ?」
ナナハン刑事だ。
「貴様。どこかで見たことがあるなあ。さては」
「手、危ないですよ」
クーは爆弾を『持ったまま』爆発させた。
思わず吹き飛ぶナナハン刑事。
クーは命数を犠牲にして転がると、修復した手をボックスの奥に突っ込んで天井へと放り投げる。
立て続けにおこる爆発に混乱する人々。
イクシヴのカイトとニーサムが動き出したのはまさにそのタイミングだった。
「なるほど、僕にうってつけの状況だ。まるで宝石を盗んでくれと言ってるようなものだね」
「そのようだ。屋上へ急ごうか」
不自然すぎる笑顔で立ち上がるニーサム。
そんな彼を、警備員たちがぐるりと取り囲んだ。
「なんだい? 爆発が起きたから外に逃げるだけなんだが」
「お前が動き出したら足止めするように言われてる」
「一体誰の命令で……おや?」
警備員たちの様子がおかしい。
「なるほど、魔眼か」
「操り人形か。とても賢いやり方だね、だが無意味だ」
ニーサムは笑顔でそう言うと、警備員たちの首をまとめて切断し――ようとした所でフィオナが飛びかかった。
「やめろ! 警備員さんたちをころすな!」
「おや? 君は僕らを邪魔した子だね。他人の命をかばうとはとても勇敢だね、だが無意味だ」
歪んだ笑顔で剣を繰り出してくるニーサム。
フィオナはそれを、歯を食いしばって受け止めた。
「悪いが、僕だけ先に行かせて貰うよ」
カイトが銃を抜いて走り出す。
「お客様、困りますよ。避難誘導には従って頂きませんと」
割り込んだ頼蔵が、いかにも都合が悪そうに通路の前に立つが、カイトは彼を突き飛ばして通路の奥へと走った。
無力に突き飛ばされるふりをしてから、ちらりとフィオナに目配せをする頼蔵。
フィオナは強く頷いて、ニーサムを蹴りつけた。
いかに電話機が鳴らないと言っても、爆発がおこれば気づかない筈が無い。
裸体にシーツを羽織った支配人が、電話機の線を繋ぎ直して耳にあてていた。
「一体どういうことなの。あなた、すぐに現場に……」
誘輔へ振り返る。
彼は『幸運の宝石』を手に、窓際に立っていた。
「あなた、最初からそれが狙いで」
「悪いなオバサン、あんたの身体にゃ価値を見いだせなかったよ」
血相を変えて掴みかかってくる支配人。
女といえど因子発現している人間だ。何をしでかすか分からない。
が、誘輔は迷わず背後のガラスを破壊した。
見晴らしのよい部屋で助かった。などと思いながら外へとダイブ。
「ここで俺を回収してくれるクーが待って……待って……あれ、いねえ!」
誘輔は高層ビルの最上階から地面めがけて自由落下を始めた。
最低でも一度は死ぬ高さである。
一方そのころクーは。
「やはり貴様か、『三月兎』! 宝石泥棒は囮というわけだな!」
ナナハン刑事が手錠をヌンチャクのごとく巧みに繰り出してくる。クーはそれをギリギリでかわしていた。
やはり手強い相手だ。一人ではキツい。
しかし自分がつかまっていては、誘輔の未来はトマトケチャップである。
なんとかここを抜け出す手立ては……。
そう思った矢先。
「やっと出番がきたぴょん!」
頭上のシャンデリアごと落ちてきたラビットナイトが、クーとナナハン刑事の間に現われた。
「今ぴょん!」
「助かります!」
クーは素早く土蜘蛛の糸を発射。
向かいのビルへ接着した糸の上を駆け抜け、落ちてくる誘輔を横からダイビングキャッチ。
ゴミ捨て場に一度突っ込んだ所で、走ってきた車に駆け込んだ。
運転席には義高だ。
加えて、ビルの中から銃撃でニーサムを牽制しながら頼蔵が出てくる。小脇にはフィオナを抱えていた。
「さ、とっととずらかるぴょん!」
車の上にぺちんと自らを接着したラビットナイトがが唱えるやいなや、義高はアクセルを思い切り踏み込んだ。
「よし、つかまってろ!」
車は豪快に大通りを抜け、そして人知れずどこかへと消えていった。
●『三月兎』のゆくえ
暫く国内を探索し続けたが、三月兎の足取りがつかめぬまま捜査は打ち切りとなりナナハン刑事は別の事件を担当するため国外へと渡った。
イクシヴは漁夫の利を得て獲得したダイヤを持ったまま姿を消し、今もどこかで盗みの機会をうかがっている。
そして『三月兎』一行は……。
「閉店? そんなばかな!」
アジトにしていたカフェはもぬけの殻となっていた。
扉をこじあけて中に入ったフィオナやアリスたちは、急いでいつかの『セーフハウス』へと駆け込んだ。
照明のスイッチをオンにする誘輔。
「……こりゃあ」
部屋には、皆が作戦会議をしていた頃の状態がそのまま残されていた。
ゆっくりと部屋を見回すクーと義高。
「ジョン・スミスはどこへ行っちまったんだ?」
「恐らく、役目を終えて消えたということでしょう」
テーブルの上に大きな茶封筒と便せんがひとつ。
クーが便せんを開くと、そこには一枚の写真が入っていた。
目を細めるクー。
頼蔵が、封筒の中から土地の権利書やブックカフェの帳簿や、従業員や客になりすましてカフェ全体をカモフラージュし続けていたスタッフのリストが入っていた。
更には、『災いを呼ぶお宝』のリストが詳細な資料つきで入っていた。
「後は頼む、ということかな」
「そのようですね」
クーは写真を皆に見せた。
ジョン・スミスとホテルの女支配人……のマスクを脱いで翳した二人の女性が写っている。
裏側には、二つのキスマーク。
――『シンフォニーダイア』『恋人の像』『幸運の宝石』はいま、ファイヴへ厳重に保管されている。もうこのアイテムが災いを呼ぶことは、ないだろう。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
お疲れ様でした
これにて【紳士怪盗】シリーズは完結となります。
ここで手に入れたお宝リストや『三月兎』のセーフハウスを巡ったお話が巻き起こるかもしれませんが、それはまた、別の機会といたしましょう。
これにて【紳士怪盗】シリーズは完結となります。
ここで手に入れたお宝リストや『三月兎』のセーフハウスを巡ったお話が巻き起こるかもしれませんが、それはまた、別の機会といたしましょう。
