<雷獣結界>老雄の危機~ぎっくり腰には気を付けて~
●
黄色い毛皮を持つ獣、センメイは眼下に散開する醜い猿どもを睨み、唸り声をあげた。
怒りのあまりか、周囲に電光が瞬く。
センメイは雷獣――古妖の一族の戦士だ。老いたとはいえその高い実力から妖を封印する結界の構築に抜擢された。
しかし、20年以上の結界の維持は予想以上の負担であった。
「まったく……調子に乗りおって。醜いエテ公どもが」
自分も衰えたものだ、とセンメイは思う。よもや体が弱った時に封じていた妖達を蘇らせてしまうとは。
目の前にいるのは猿のような姿をした妖達。1匹1匹は大したことはないが、群れを成すと十分な脅威を誇る連中だ。
だが、慌てることはない。所詮は一度封じた相手、封じなおすことはそう難しいことではない。それから他の雷獣達に連絡を取り、事態の収拾を図る。
牙で歯ぎしりをしたセンメイは再び妖を捕らえるべく念を込めた。すると、電撃が走った。
センメイの腰に。
雷獣の電撃とは違う、雷のような痛みが。
「ウォォォォォォォォォ!? こ、腰がぁぁぁぁぁっ!?」
さしもの老雄も、時間の流れには敵わなかった。腰の痛みに耐えかねてその場でうずくまってしまうセンメイ。
その時、妖達の口はいやらしく笑ったように見えた。
●
「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)は集まった覚者達へ元気に挨拶をする。人が集まったことを確認すると、発生した事件の説明を始めた。
「うん、今回は妖の退治をお願いしたいの。みんなの力を貸して!」
麦の渡してきた資料には、小柄な醜い猿の姿が描かれていた。今回の相手はどうやらこいつのようだ。
「雷獣さんの話は聞いてる? 日本の電波障害にこの古妖の人たちが関わっていたんだって」
四半世紀の間日本を覆っていた電波障害。それは全国に存在する雷獣という古妖の仕業だった。
彼らは妖を封じるために電磁波を出して自らの結界を生み出していた。それが結果として電波障害を生んでいたのだ。
ある事件に向かった覚者達はその事実を突き止める。しかも、結界を維持していた雷獣も疲弊し、結界の維持は限界が近いことも明らかになった。
雷獣の結界がなくなれば、そこに封じられた妖が世に出てしまう。そうなれば混乱は必至だ。そして、FIVEは大々的に覚者を派遣することを決定したのだった。
「そこでみんなに向かってもらいたいんだけど……向かう先の雷獣さんが大変なことになる夢を見たの」
先に話した通り、雷獣の結界は限界だ。その中でちょうどとある雷獣の結界が破れ、封じられた妖が姿を現したのだという。当然雷獣も再封印を試みようとしたが、その際に力を入れすぎて腰を壊してしまったらしい。
古妖にもぎっくり腰はあるようだ。まぁ、冬場だし。
冗談のような状況だが、笑い話で済みそうにない。このままでは雷獣が妖に嬲り殺されることは明らかだ。
そこで雷獣を助けるため。電波障害を解決するため。妖を滅し、平和を保つため。
覚者たちは現場へと向かうこととなったのだ。
そして麦は元気を振り絞って、覚者達を送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」
黄色い毛皮を持つ獣、センメイは眼下に散開する醜い猿どもを睨み、唸り声をあげた。
怒りのあまりか、周囲に電光が瞬く。
センメイは雷獣――古妖の一族の戦士だ。老いたとはいえその高い実力から妖を封印する結界の構築に抜擢された。
しかし、20年以上の結界の維持は予想以上の負担であった。
「まったく……調子に乗りおって。醜いエテ公どもが」
自分も衰えたものだ、とセンメイは思う。よもや体が弱った時に封じていた妖達を蘇らせてしまうとは。
目の前にいるのは猿のような姿をした妖達。1匹1匹は大したことはないが、群れを成すと十分な脅威を誇る連中だ。
だが、慌てることはない。所詮は一度封じた相手、封じなおすことはそう難しいことではない。それから他の雷獣達に連絡を取り、事態の収拾を図る。
牙で歯ぎしりをしたセンメイは再び妖を捕らえるべく念を込めた。すると、電撃が走った。
センメイの腰に。
雷獣の電撃とは違う、雷のような痛みが。
「ウォォォォォォォォォ!? こ、腰がぁぁぁぁぁっ!?」
さしもの老雄も、時間の流れには敵わなかった。腰の痛みに耐えかねてその場でうずくまってしまうセンメイ。
その時、妖達の口はいやらしく笑ったように見えた。
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「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)は集まった覚者達へ元気に挨拶をする。人が集まったことを確認すると、発生した事件の説明を始めた。
「うん、今回は妖の退治をお願いしたいの。みんなの力を貸して!」
麦の渡してきた資料には、小柄な醜い猿の姿が描かれていた。今回の相手はどうやらこいつのようだ。
「雷獣さんの話は聞いてる? 日本の電波障害にこの古妖の人たちが関わっていたんだって」
四半世紀の間日本を覆っていた電波障害。それは全国に存在する雷獣という古妖の仕業だった。
彼らは妖を封じるために電磁波を出して自らの結界を生み出していた。それが結果として電波障害を生んでいたのだ。
ある事件に向かった覚者達はその事実を突き止める。しかも、結界を維持していた雷獣も疲弊し、結界の維持は限界が近いことも明らかになった。
雷獣の結界がなくなれば、そこに封じられた妖が世に出てしまう。そうなれば混乱は必至だ。そして、FIVEは大々的に覚者を派遣することを決定したのだった。
「そこでみんなに向かってもらいたいんだけど……向かう先の雷獣さんが大変なことになる夢を見たの」
先に話した通り、雷獣の結界は限界だ。その中でちょうどとある雷獣の結界が破れ、封じられた妖が姿を現したのだという。当然雷獣も再封印を試みようとしたが、その際に力を入れすぎて腰を壊してしまったらしい。
古妖にもぎっくり腰はあるようだ。まぁ、冬場だし。
冗談のような状況だが、笑い話で済みそうにない。このままでは雷獣が妖に嬲り殺されることは明らかだ。
そこで雷獣を助けるため。電波障害を解決するため。妖を滅し、平和を保つため。
覚者たちは現場へと向かうこととなったのだ。
そして麦は元気を振り絞って、覚者達を送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の討伐
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
冬場の体に気を付ける、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は封印から解放された妖と戦っていただきます。
アラタナル世界的にも大きな変化になるはずです。
●戦場
三重県のとある山中。
到着時刻は夕刻過ぎになります。
既に空は暗くなっていますが、明かりがあるので戦闘に支障はありません。
ところどころ足場が悪く、そういった場所では回避にペナルティがあります。
●妖
・猩々
動物系の妖でランクは1。元は猿だったようです。
前衛6体、中衛6体、後衛8体の計20体います。
能力は下記。
1.噛み付き 物近単 毒
2.投石 物遠単
●古妖
・センメイ
黄色の毛皮を持つ犬のような姿をした古妖。
老齢の雷獣で実力は高い……が、寄る年波には勝てず腰痛持ち。
再封印のため力みすぎた結果、現在戦闘できなくなっています。
覚者達が窮地に陥った場合、改めて妖の再封印を行います
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年12月10日
2016年12月10日
■メイン参加者 8人■

●
因果というものは複雑怪奇に出来ているものだ。もし、運命というものがあるとするのなら、それを作るのにはどれほどの計算を要するのだろう。
この日、人のあずかり知らぬところで日本にあった結界は崩れようとしていた。それも、封印を行おうとしていた雷獣が斃れるという、人間たちにとって最悪の形でだ。
しかし、それが現実になることは、すんでのところで食い止められた。
「センメイの爺ちゃん、無事か!?」
燃え盛る炎のような刃が、雷獣に迫る妖を薙ぐ。
現れたのは、『緋焔姫』焔陰・凛(CL2000119)をはじめとした覚者達だ。
もし覚者が夢見を助けなければ、覚者と古妖が出会わなけれれば。そして、覚者達が戦うことを選ばなければ、雷獣の命は無かったであろう。
「おぬしらは……?」
「あらあら、センメイ様は腰を痛めてしまわれたのですね。ふふふ。微力ながらセンメイ様の手足となるべく、わたくしもお手伝い致します。」
雷獣の問いに『優麗なる乙女』西荻・つばめ(CL2001243)が答える。紅と群青の鞘から刃を抜き放つと、前方の憂いを断つべく妖の前に立ち塞がった。
つばめの凛々しくも勇ましい姿に、雷獣は覚者達が味方であることを悟る。千の言葉よりも一の行動は雄弁に語るものだ。
「クソ猿ぶっ飛ばすまでちょい我慢しててや。焔陰流21代目(予定)焔陰凛、推して参る!」
凛はにぃっと口元に笑みを浮かべると、緋袴の胴着姿で妖へと切り込んでいく。
凛のテンションはいつにもまして高い。
当然だ。
なにせ、この件さえ解決すれば日本の電波障害が解消されるかもしれないのだから。それはつまり、自分の歌を電波に乗せて日本中へ届けることができるようになるということ。想像するだけでも、豊かな胸が熱くなる。
そのためにも、目の前の妖をどうにかしなくてはいけない。
「さて、今回の戦いは、日本にとって重要な一戦となるの」
『樹の娘』檜山・樹香(CL2000141)は、乙女の黒髪の如く美しい刀身をもつ薙刀を油断なく構える。
もちろん、理屈の上では現状を放置すれば目覚めた妖の手によって三重県の結界を構築した雷獣は死ぬだろう。しかし、自由になった妖が暴力を振りまくのは知れたこと。それは避けたい事態ではあるし、知っていて助けなかったとあれば古妖達との信頼関係にも関わる。
それに何より、樹香としては雷獣達を自由にしてやりたいという思いもある。封印を行っていたのが彼らの意志だったは言え、それが如何に辛いことだったかは想像に難くない。
「電波障害の解消がどんな未来に繋がるかは分らんが……さあ、始めようかのお前様方」
「よぉし!! 勝負た、かーかってこいボケェ!!!」
テンション高く叫びながら、『介錯人』鳴神・零(CL2000669)は文字通り敵陣へと躍り込んでいく。覚者達の戦い方自体も今回はかなり前のめりなものだ。その中でも彼女の戦い方は一種異様なものだ。戦いを楽しんでいるというよりも、危険そのものを楽しんでいるようにすら見える。
生憎と仮面に隠されて、零がどんな表情で戦っているのかをうかがい知ることはできないが。
「さーこい、猩々!! そっちが数ならこっちは質じゃい!!
敵の数は倍では効かず、後ろには戦うことが出来ない古妖がいる。状況は不利であり、一見すれば零の動きは蛮勇にしか見えない。
しかし、それも零が自分の役割を分かっていればこその戦い方だ。本人の自覚無自覚はこの際置いておく。
詰まる所、この場に戦場の不利で臆するような覚者はいないということだ。
「根きりぞ、撫で斬りぞ」
『侵掠如火』坂上・懐良(CL2000523)は地を這うような姿勢から、跳ね上がるような軌跡をで攻撃を仕掛ける。古めかしい太刀が振り抜かれると、纏めて妖の首が2つ宙に舞う。
懐良は正式に兵法を学んだ少年だ。普段であれば策に策を重ねて策を練ることを良しとする。それが本来の軍略家としての在り方なのだから。
だが、今日覗かせているのは武人としての顔。
これもまた、兵法家の側面だ。まさしく、「侵掠如火」である。
「猿たちよ。降るか首となるか、好きな方を選ぶがいいさ」
叶うことなら殲滅戦などという非効率的なことはしたくないというのが懐良の本音だ。相手から降ってくれるならそれに越したことはない。
しかし生憎、懐良の願いと裏腹に、妖達は叫びをあげて襲い掛かってくる。
その姿に懐良はため息をつき、徹底的に敵として相対することを決める。
その一方で、プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は鎧姿で大はしゃぎだ。
「ワオ、並んで走って殴るとかドワーフみたいだね!」
言われてみればたしかに、妖達の姿はファンタジーのゲームに登場するドワーフかゴブリンを連想させる姿をしている。この手のものはゲームだと弱いと相場が決まっているが、数が多い分厄介なことに違いはない。
そこで油断なく素早く外骨格を展開させ、周囲の地形に適応させる。
「もちろ……タンマタンマ!?」
あまりにも展開が早すぎたため、プリンス自身が外骨格に挟まり悲鳴を上げる。その時に妖達が呆れたように見えたのはさすがに気のせいだと思う。
脱出し、一息ついて、改めてプリンスはハンマーを構えなおす。
そして、用意していたセリフとともに突撃を開始した。
「勿論ハンマー持っている王子がドワーフNo.1!!」
覚者と妖の群れは激しくぶつかり合う。
量は集めれば質へと変わるもの。決して覚者達にとっても楽な戦いとは言えない。そんな戦いを『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)は1人後ろから眺めていた。
やる気がないわけではない。むしろ普段よりもやる気に満ち溢れているくらいだ。
この場に槐が残っているのは、あくまでも雷獣を守るため。この場の妖が弱いことは十分分かっている。だからこそ、弱者の戦術を識る彼女はここに在るのだ。
「では、猿軍団には速やかに反省してもらうと致しませうか」
そして、槐はひそかに周囲の空気を、眠りをもたらすそれへと変えていく。真っ向から切り結ぶ戦いなら他の面子に任せればいい。これが彼女の戦い方だ。
動きを止める妖達に向けて、『教授』新田・成(CL2000538)は仕込み杖を抜き放つ。すると、抜剣の際に生まれた衝撃破が戦場を貫いていった。
(電波障害が消えれば、我が国の情報産業が次の段階に進みますね)
冷静に敵の動きを見据えながら、成はふとそんなことを思う。今、確実にこの国には大きな変革がもたらされようとしている。
その未来に大きく命数を削っている自分の姿はあるのだろうか? それにこたえられるものはいないだろう。
だが、その未来に影を落とさぬため、この戦い負けるわけにはいかないのだ。
●
戦いが続く中で、妖達の様子に変化が見られた。動きから明らかに覚者達への怯えが見て取れるようになった。
数に勝る敵が相手だったのだ。覚者達に消耗がないわけではない。
だが、一気呵成にと攻め立てる覚者達によって、妖達の数はおよそ半減していた。別に競っているわけでもないが、倒した敵の数は懐良・凛・樹香・零で横並びといったところか。
そして、数の差が縮まったということは覚者の側が圧倒的に有利になったということだ。
「これってモグラ叩きってことで良いのかな? なんでもいいけど!」
プリンスのハンマーが機械的に振るわれると、また哀れな妖の頭がスイカのように割れる。FIVEの作戦にふと疑問を抱く日もあるが、戦いの上でやることは至ってシンプルだ。
重たい得物で敵を叩き潰す。それだけのこと。
まぁ、厳密にはプリンスが使っているのは武器ではなく、大槌型の造幣器であるわけだが。
実際のところ、この場にいるのはランク1の妖のみだ。もし、狡猾に立ち回ることを知った上位の妖が指揮をしていれば、覚者達の苦戦は今の比ではなかったろう。だが、十二分に警戒を重ねた覚者達にしてみると、数だけに任せて攻めてくる妖は御しやすい相手と言えた。
そして、一番状況的に困る事態だった雷獣への攻撃であったが、それすらもつばめが止めてしまう。
「どんなに強い古妖であっても歳は取るものなのですね。新しい発見ですわ。ふふふ。ほらほら、センメイ様、頑張って下さいまし」
「う、うむ」
雷獣の元へと向かおうとした妖を刀でいなしながら、つばめは愛らしく笑う。ただただ雷獣にだけ楽をさせるつもりはない。元が強い古妖なわけである以上、年を取ったとはいえ覚者が大半の敵を抑えているなら身を守る程度のことは出来る。
どうやら古妖の年の取り方は、種族差がかなりあるようだ。
「センメイ様が頑張った分は、わたくしもお返しをしますから」
そう言ってつばめは、周囲に治癒力を高める香りを散布する。妖の攻撃の中で比較的脅威である毒に対処するためだ。この程度の攻撃で倒れる仲間とも思っていないが、備えあれば憂いなしというものだ。
「腰は本当に怖いですからね。私も年ですから、気をつけたいものです」
柔和な表情で成も雷獣に微笑みかける。
成だって覚者であるものの、いい歳だ。雷獣の身に起きた不幸は決して他人事ではない。肉体的な負担に決して強くないことは自身が一番よく知っている。
しかし、現の因子を覚醒させた姿は一番能力を発揮できる姿だと言われている。姿が変わらないということは、まぎれもなく彼にとって今が最盛期ということだ。
その証拠に、成の眼差しは鋭く妖の中でも弱っているものを見抜き、刃は的確に切り裂いていく。
覚者達にとって大きく幸いしたのは、相手が本能のままに動くことしか知らないランク1だったということだ。数の有利を徹底的に生かそうとする憤怒者や、賢い妖がいたら負けないまでも今以上の苦戦を強いられていたことは想像に難くない。
そして、戦況を有利に進められているのは、槐が後ろから嫌がらせともいえる支援を行っているからだ。
「今回は少々は真面目に守りに行かせてもらうのです」
普段の槐は名声と裏腹に熱心に活動を行う覚者とは言えない。FIVEに対しても求めているのは「ある程度の衣食住サポート」だけであり、それへの対価以上の働きをするつもりもない。
ただ、今回はちと事情が違う。
雷獣は今までの仕事で見かける「被害者」と大きく違う点があった。
この場の妖達は槐の癇に障ることをしていた。
「歩けないというのがどういうことかだいぶ良く知っているのですよ」
それは天邪鬼な槐の見せる、珍しく正直な気持ちなのかもしれなかった。敵に回してしまった妖達は不幸であったと言える。
「ワシと共に踊れ、濡烏よ。今日も力を貸してもらうぞ」
そして、妖達を襲う不幸はこれで終わらない。
踊るような動きで樹香が薙刀を振るうと、漆黒の刃は夕闇ごと妖を切り裂く。妖薙・濡烏はかつての戦いで彼女が手に入れた逸品だ。使い手に制約を求めるが、その威力は十分なもの。一気に攻めたいこの戦場にはふさわしいものだ。
とにかく、覚者達の戦いは前のめりなものだった。それは上手くはまれば、最も手っ取り早く敵を倒す戦い方になりうる。
普通なら動けない護衛対象がいるのなら、守ることに戦力を割くべきなのかもしれない。だが、今回は敵を一刻も早く減らしていくことこそが、雷獣を守る術だ。
保険を考えていなかったわけではないが、今はこれでいい。
実際、妖達は確実に数を減らしていった。
ここまでくると、妖達に覚者を止める術はなかった。周囲の地形が妖達に利することがあるかと思われたが、懐良の炎のような侵略は止められない。安全地帯に固まる妖達の元へと強引に切り込んでいく。
「刃に刻まれた焔の煌めき拝ませたる!」
止まらないのは凛も同じだ。
妖達に余裕を与えまいと、徹底的に攻撃を行う。愚かな妖であっても余裕があれば、弱いものを徹底的に狙っていたかもしれない。だが、ここまで攻め立てられては、そのような行動に出る暇も与えられなかった。
気が付けば、凛は歌を口ずさんでいた。気分が乗ってきたからだろうか。あるいは、電波障害が消えた後のこの国で、自由に歌を伝えることが出来るようになった自分を夢想しているのかもしれない。
次第に落ち着いてきた戦場の様子を見て、懐良は心の中でほっと安堵のため息を漏らす。
元がじいちゃん子なので、それなりにこの場にいる雷獣のことを気にはしていたのだ。その一方で、気にしすぎるのも嫌がられそうなので、実のところ対応を悩んでいた。
(このじーちゃんも、生涯現役を謳うジジイだろうしな)
懐良は改めて柄を握り直し、刃を思い切り振り抜く。すると、妖の首がまとめて3つ吹き飛んだ。
そして、最後に生き残った妖の前に仮面をつけた死神――零が立ち塞がった。
「さあ終わらせようか! この日本の不幸をひとつ、消しましょう!」
生き残った妖が抗おうとしたのか、逃げ出そうとしたのか、それは永遠に分からない。圧倒的な速さをもって、零の攻撃が放たれたからだ。
「ああこれが紫雨ってこのわざだっけ? うっひょーたのしいね!!」「
速さを力に変えて敵を切り裂く圧倒的な攻撃。
「どーん!! がーん!! ばこーんと粉砕!!」
己の体すらも傷つけるその攻撃は、過剰なほどの威力でこの日最も不幸な妖に襲い掛かる。
「その身体、五体満足で帰れると思わないでよね☆」
そして、全身を朱に染めた零が刃を納刀する後ろで、宣言通り寸刻みとなった妖が哀れな躯を晒すことになるのだった。
●
戦いが終わる頃にはとっぷりと日も暮れて、空はすっかり暗くなってしまった。そして、零の守護し液が周囲を照らす中、覚者達は雷獣を囲む。
「やあオジイチャン、大変だったね。温泉行く?」
「これで少しはましになるやろか?」
「むぅ、この恰好……どうにかならんもんかのう」
雷獣は苦笑交じりに呻く。
手当を受けられたのは良いが、腰の毛をプリンスにそられ、凛には褌を巻かれた。少々不格好な感になっていることは否めない。
ただ、懐良は雷獣が言葉とは別に、それほど嫌がっていないことを感じていた。
「センメイ様が頑張った分は、わたくしもお返しをしなければいけませんわね。丁度御歳暮の時節柄。入浴剤セットが宜しいかしら?」
つばめの前には長年生きた雷獣も形無しだ。
樹香も今までの苦労を労わろうと、雷獣の腰のあたりを軽くもんでやる。
「獣にもマッサージとか、効果あるのかのぅ?」
存外、雷獣の気分は良さそうだ。まぁ、ぎっくり腰になるくらいだから、マッサージも効果はあるのだろう。この様子だと温泉も悪くはなさそうだし、実際に入浴剤セットも悪くない贈り物なのかもしれない。
懐良はそんな様子を見て、マッサージにかこつけて毛皮の感触楽しめないかなと考えていた。
「雷獣ちゃんよくがんばったね! 雷獣ちゃんは解放されたらまずなにをしたい? 鳴神は自由が好きだからね。あとご褒美みたいな意味でもね。何かしてあげられたらなって思うんだ!」
「ふ、ふむ、そうさのう」
マシンガンのようにまくしたてる零に雷獣はふと首をひねる。
そこで成はにこりと笑って、1本の瓶を取り出した。
「センメイ殿、腰の病に効く妙薬がありましてね。一献いかがですか?」
「なるほど、それは悪くない」
成の取り出した『百薬の長』に雷獣も相好を崩す。古妖の立場を考えれば、お供え物の一種といったところか。
しかし、ここで成はぴしゃりと自分の額を打つ。
「これはしまった、肴がない」
どうやら、雷獣が解放されて最初にするべきことは、酒のあてを手に入れることになりそうだ。
こうして、一つの戦いが終わった。この日もたらされた転機がどのような未来に繋がっていくのか。それはまた、別の話だ。
因果というものは複雑怪奇に出来ているものだ。もし、運命というものがあるとするのなら、それを作るのにはどれほどの計算を要するのだろう。
この日、人のあずかり知らぬところで日本にあった結界は崩れようとしていた。それも、封印を行おうとしていた雷獣が斃れるという、人間たちにとって最悪の形でだ。
しかし、それが現実になることは、すんでのところで食い止められた。
「センメイの爺ちゃん、無事か!?」
燃え盛る炎のような刃が、雷獣に迫る妖を薙ぐ。
現れたのは、『緋焔姫』焔陰・凛(CL2000119)をはじめとした覚者達だ。
もし覚者が夢見を助けなければ、覚者と古妖が出会わなけれれば。そして、覚者達が戦うことを選ばなければ、雷獣の命は無かったであろう。
「おぬしらは……?」
「あらあら、センメイ様は腰を痛めてしまわれたのですね。ふふふ。微力ながらセンメイ様の手足となるべく、わたくしもお手伝い致します。」
雷獣の問いに『優麗なる乙女』西荻・つばめ(CL2001243)が答える。紅と群青の鞘から刃を抜き放つと、前方の憂いを断つべく妖の前に立ち塞がった。
つばめの凛々しくも勇ましい姿に、雷獣は覚者達が味方であることを悟る。千の言葉よりも一の行動は雄弁に語るものだ。
「クソ猿ぶっ飛ばすまでちょい我慢しててや。焔陰流21代目(予定)焔陰凛、推して参る!」
凛はにぃっと口元に笑みを浮かべると、緋袴の胴着姿で妖へと切り込んでいく。
凛のテンションはいつにもまして高い。
当然だ。
なにせ、この件さえ解決すれば日本の電波障害が解消されるかもしれないのだから。それはつまり、自分の歌を電波に乗せて日本中へ届けることができるようになるということ。想像するだけでも、豊かな胸が熱くなる。
そのためにも、目の前の妖をどうにかしなくてはいけない。
「さて、今回の戦いは、日本にとって重要な一戦となるの」
『樹の娘』檜山・樹香(CL2000141)は、乙女の黒髪の如く美しい刀身をもつ薙刀を油断なく構える。
もちろん、理屈の上では現状を放置すれば目覚めた妖の手によって三重県の結界を構築した雷獣は死ぬだろう。しかし、自由になった妖が暴力を振りまくのは知れたこと。それは避けたい事態ではあるし、知っていて助けなかったとあれば古妖達との信頼関係にも関わる。
それに何より、樹香としては雷獣達を自由にしてやりたいという思いもある。封印を行っていたのが彼らの意志だったは言え、それが如何に辛いことだったかは想像に難くない。
「電波障害の解消がどんな未来に繋がるかは分らんが……さあ、始めようかのお前様方」
「よぉし!! 勝負た、かーかってこいボケェ!!!」
テンション高く叫びながら、『介錯人』鳴神・零(CL2000669)は文字通り敵陣へと躍り込んでいく。覚者達の戦い方自体も今回はかなり前のめりなものだ。その中でも彼女の戦い方は一種異様なものだ。戦いを楽しんでいるというよりも、危険そのものを楽しんでいるようにすら見える。
生憎と仮面に隠されて、零がどんな表情で戦っているのかをうかがい知ることはできないが。
「さーこい、猩々!! そっちが数ならこっちは質じゃい!!
敵の数は倍では効かず、後ろには戦うことが出来ない古妖がいる。状況は不利であり、一見すれば零の動きは蛮勇にしか見えない。
しかし、それも零が自分の役割を分かっていればこその戦い方だ。本人の自覚無自覚はこの際置いておく。
詰まる所、この場に戦場の不利で臆するような覚者はいないということだ。
「根きりぞ、撫で斬りぞ」
『侵掠如火』坂上・懐良(CL2000523)は地を這うような姿勢から、跳ね上がるような軌跡をで攻撃を仕掛ける。古めかしい太刀が振り抜かれると、纏めて妖の首が2つ宙に舞う。
懐良は正式に兵法を学んだ少年だ。普段であれば策に策を重ねて策を練ることを良しとする。それが本来の軍略家としての在り方なのだから。
だが、今日覗かせているのは武人としての顔。
これもまた、兵法家の側面だ。まさしく、「侵掠如火」である。
「猿たちよ。降るか首となるか、好きな方を選ぶがいいさ」
叶うことなら殲滅戦などという非効率的なことはしたくないというのが懐良の本音だ。相手から降ってくれるならそれに越したことはない。
しかし生憎、懐良の願いと裏腹に、妖達は叫びをあげて襲い掛かってくる。
その姿に懐良はため息をつき、徹底的に敵として相対することを決める。
その一方で、プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は鎧姿で大はしゃぎだ。
「ワオ、並んで走って殴るとかドワーフみたいだね!」
言われてみればたしかに、妖達の姿はファンタジーのゲームに登場するドワーフかゴブリンを連想させる姿をしている。この手のものはゲームだと弱いと相場が決まっているが、数が多い分厄介なことに違いはない。
そこで油断なく素早く外骨格を展開させ、周囲の地形に適応させる。
「もちろ……タンマタンマ!?」
あまりにも展開が早すぎたため、プリンス自身が外骨格に挟まり悲鳴を上げる。その時に妖達が呆れたように見えたのはさすがに気のせいだと思う。
脱出し、一息ついて、改めてプリンスはハンマーを構えなおす。
そして、用意していたセリフとともに突撃を開始した。
「勿論ハンマー持っている王子がドワーフNo.1!!」
覚者と妖の群れは激しくぶつかり合う。
量は集めれば質へと変わるもの。決して覚者達にとっても楽な戦いとは言えない。そんな戦いを『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)は1人後ろから眺めていた。
やる気がないわけではない。むしろ普段よりもやる気に満ち溢れているくらいだ。
この場に槐が残っているのは、あくまでも雷獣を守るため。この場の妖が弱いことは十分分かっている。だからこそ、弱者の戦術を識る彼女はここに在るのだ。
「では、猿軍団には速やかに反省してもらうと致しませうか」
そして、槐はひそかに周囲の空気を、眠りをもたらすそれへと変えていく。真っ向から切り結ぶ戦いなら他の面子に任せればいい。これが彼女の戦い方だ。
動きを止める妖達に向けて、『教授』新田・成(CL2000538)は仕込み杖を抜き放つ。すると、抜剣の際に生まれた衝撃破が戦場を貫いていった。
(電波障害が消えれば、我が国の情報産業が次の段階に進みますね)
冷静に敵の動きを見据えながら、成はふとそんなことを思う。今、確実にこの国には大きな変革がもたらされようとしている。
その未来に大きく命数を削っている自分の姿はあるのだろうか? それにこたえられるものはいないだろう。
だが、その未来に影を落とさぬため、この戦い負けるわけにはいかないのだ。
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戦いが続く中で、妖達の様子に変化が見られた。動きから明らかに覚者達への怯えが見て取れるようになった。
数に勝る敵が相手だったのだ。覚者達に消耗がないわけではない。
だが、一気呵成にと攻め立てる覚者達によって、妖達の数はおよそ半減していた。別に競っているわけでもないが、倒した敵の数は懐良・凛・樹香・零で横並びといったところか。
そして、数の差が縮まったということは覚者の側が圧倒的に有利になったということだ。
「これってモグラ叩きってことで良いのかな? なんでもいいけど!」
プリンスのハンマーが機械的に振るわれると、また哀れな妖の頭がスイカのように割れる。FIVEの作戦にふと疑問を抱く日もあるが、戦いの上でやることは至ってシンプルだ。
重たい得物で敵を叩き潰す。それだけのこと。
まぁ、厳密にはプリンスが使っているのは武器ではなく、大槌型の造幣器であるわけだが。
実際のところ、この場にいるのはランク1の妖のみだ。もし、狡猾に立ち回ることを知った上位の妖が指揮をしていれば、覚者達の苦戦は今の比ではなかったろう。だが、十二分に警戒を重ねた覚者達にしてみると、数だけに任せて攻めてくる妖は御しやすい相手と言えた。
そして、一番状況的に困る事態だった雷獣への攻撃であったが、それすらもつばめが止めてしまう。
「どんなに強い古妖であっても歳は取るものなのですね。新しい発見ですわ。ふふふ。ほらほら、センメイ様、頑張って下さいまし」
「う、うむ」
雷獣の元へと向かおうとした妖を刀でいなしながら、つばめは愛らしく笑う。ただただ雷獣にだけ楽をさせるつもりはない。元が強い古妖なわけである以上、年を取ったとはいえ覚者が大半の敵を抑えているなら身を守る程度のことは出来る。
どうやら古妖の年の取り方は、種族差がかなりあるようだ。
「センメイ様が頑張った分は、わたくしもお返しをしますから」
そう言ってつばめは、周囲に治癒力を高める香りを散布する。妖の攻撃の中で比較的脅威である毒に対処するためだ。この程度の攻撃で倒れる仲間とも思っていないが、備えあれば憂いなしというものだ。
「腰は本当に怖いですからね。私も年ですから、気をつけたいものです」
柔和な表情で成も雷獣に微笑みかける。
成だって覚者であるものの、いい歳だ。雷獣の身に起きた不幸は決して他人事ではない。肉体的な負担に決して強くないことは自身が一番よく知っている。
しかし、現の因子を覚醒させた姿は一番能力を発揮できる姿だと言われている。姿が変わらないということは、まぎれもなく彼にとって今が最盛期ということだ。
その証拠に、成の眼差しは鋭く妖の中でも弱っているものを見抜き、刃は的確に切り裂いていく。
覚者達にとって大きく幸いしたのは、相手が本能のままに動くことしか知らないランク1だったということだ。数の有利を徹底的に生かそうとする憤怒者や、賢い妖がいたら負けないまでも今以上の苦戦を強いられていたことは想像に難くない。
そして、戦況を有利に進められているのは、槐が後ろから嫌がらせともいえる支援を行っているからだ。
「今回は少々は真面目に守りに行かせてもらうのです」
普段の槐は名声と裏腹に熱心に活動を行う覚者とは言えない。FIVEに対しても求めているのは「ある程度の衣食住サポート」だけであり、それへの対価以上の働きをするつもりもない。
ただ、今回はちと事情が違う。
雷獣は今までの仕事で見かける「被害者」と大きく違う点があった。
この場の妖達は槐の癇に障ることをしていた。
「歩けないというのがどういうことかだいぶ良く知っているのですよ」
それは天邪鬼な槐の見せる、珍しく正直な気持ちなのかもしれなかった。敵に回してしまった妖達は不幸であったと言える。
「ワシと共に踊れ、濡烏よ。今日も力を貸してもらうぞ」
そして、妖達を襲う不幸はこれで終わらない。
踊るような動きで樹香が薙刀を振るうと、漆黒の刃は夕闇ごと妖を切り裂く。妖薙・濡烏はかつての戦いで彼女が手に入れた逸品だ。使い手に制約を求めるが、その威力は十分なもの。一気に攻めたいこの戦場にはふさわしいものだ。
とにかく、覚者達の戦いは前のめりなものだった。それは上手くはまれば、最も手っ取り早く敵を倒す戦い方になりうる。
普通なら動けない護衛対象がいるのなら、守ることに戦力を割くべきなのかもしれない。だが、今回は敵を一刻も早く減らしていくことこそが、雷獣を守る術だ。
保険を考えていなかったわけではないが、今はこれでいい。
実際、妖達は確実に数を減らしていった。
ここまでくると、妖達に覚者を止める術はなかった。周囲の地形が妖達に利することがあるかと思われたが、懐良の炎のような侵略は止められない。安全地帯に固まる妖達の元へと強引に切り込んでいく。
「刃に刻まれた焔の煌めき拝ませたる!」
止まらないのは凛も同じだ。
妖達に余裕を与えまいと、徹底的に攻撃を行う。愚かな妖であっても余裕があれば、弱いものを徹底的に狙っていたかもしれない。だが、ここまで攻め立てられては、そのような行動に出る暇も与えられなかった。
気が付けば、凛は歌を口ずさんでいた。気分が乗ってきたからだろうか。あるいは、電波障害が消えた後のこの国で、自由に歌を伝えることが出来るようになった自分を夢想しているのかもしれない。
次第に落ち着いてきた戦場の様子を見て、懐良は心の中でほっと安堵のため息を漏らす。
元がじいちゃん子なので、それなりにこの場にいる雷獣のことを気にはしていたのだ。その一方で、気にしすぎるのも嫌がられそうなので、実のところ対応を悩んでいた。
(このじーちゃんも、生涯現役を謳うジジイだろうしな)
懐良は改めて柄を握り直し、刃を思い切り振り抜く。すると、妖の首がまとめて3つ吹き飛んだ。
そして、最後に生き残った妖の前に仮面をつけた死神――零が立ち塞がった。
「さあ終わらせようか! この日本の不幸をひとつ、消しましょう!」
生き残った妖が抗おうとしたのか、逃げ出そうとしたのか、それは永遠に分からない。圧倒的な速さをもって、零の攻撃が放たれたからだ。
「ああこれが紫雨ってこのわざだっけ? うっひょーたのしいね!!」「
速さを力に変えて敵を切り裂く圧倒的な攻撃。
「どーん!! がーん!! ばこーんと粉砕!!」
己の体すらも傷つけるその攻撃は、過剰なほどの威力でこの日最も不幸な妖に襲い掛かる。
「その身体、五体満足で帰れると思わないでよね☆」
そして、全身を朱に染めた零が刃を納刀する後ろで、宣言通り寸刻みとなった妖が哀れな躯を晒すことになるのだった。
●
戦いが終わる頃にはとっぷりと日も暮れて、空はすっかり暗くなってしまった。そして、零の守護し液が周囲を照らす中、覚者達は雷獣を囲む。
「やあオジイチャン、大変だったね。温泉行く?」
「これで少しはましになるやろか?」
「むぅ、この恰好……どうにかならんもんかのう」
雷獣は苦笑交じりに呻く。
手当を受けられたのは良いが、腰の毛をプリンスにそられ、凛には褌を巻かれた。少々不格好な感になっていることは否めない。
ただ、懐良は雷獣が言葉とは別に、それほど嫌がっていないことを感じていた。
「センメイ様が頑張った分は、わたくしもお返しをしなければいけませんわね。丁度御歳暮の時節柄。入浴剤セットが宜しいかしら?」
つばめの前には長年生きた雷獣も形無しだ。
樹香も今までの苦労を労わろうと、雷獣の腰のあたりを軽くもんでやる。
「獣にもマッサージとか、効果あるのかのぅ?」
存外、雷獣の気分は良さそうだ。まぁ、ぎっくり腰になるくらいだから、マッサージも効果はあるのだろう。この様子だと温泉も悪くはなさそうだし、実際に入浴剤セットも悪くない贈り物なのかもしれない。
懐良はそんな様子を見て、マッサージにかこつけて毛皮の感触楽しめないかなと考えていた。
「雷獣ちゃんよくがんばったね! 雷獣ちゃんは解放されたらまずなにをしたい? 鳴神は自由が好きだからね。あとご褒美みたいな意味でもね。何かしてあげられたらなって思うんだ!」
「ふ、ふむ、そうさのう」
マシンガンのようにまくしたてる零に雷獣はふと首をひねる。
そこで成はにこりと笑って、1本の瓶を取り出した。
「センメイ殿、腰の病に効く妙薬がありましてね。一献いかがですか?」
「なるほど、それは悪くない」
成の取り出した『百薬の長』に雷獣も相好を崩す。古妖の立場を考えれば、お供え物の一種といったところか。
しかし、ここで成はぴしゃりと自分の額を打つ。
「これはしまった、肴がない」
どうやら、雷獣が解放されて最初にするべきことは、酒のあてを手に入れることになりそうだ。
こうして、一つの戦いが終わった。この日もたらされた転機がどのような未来に繋がっていくのか。それはまた、別の話だ。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
