<ヒノマル戦争>淡路島水芭サークル制圧作戦
●淡路島
クナイをジャグリングするように操る蛸壺。
「っしゃ、行くぜ相棒!」
「うっす!」
マンホールのような鉄板を掴んで突撃する鋸鮫。二人ともいい年頃の男子高校生である。
飛来するクナイを払うと、強引に鉄板を叩き込む。
バックジャンプからの連続ロンダートで回避する蛸壺――の側面から飛魚が強烈な跳び蹴りを入れてきた。ブーツからナイフが露出したレッグブレードが装備されている。その素顔は茶色いショートカットの女子高生だった。
「ほらほらっ、隙だらけだよ!」
元々飛行した彼女は回し蹴りからの踵落としから更に蹴るという無茶な連続技を繰り出してくる。
「やべ――っ!」
直撃をうけそうになった蛸壺をフォローするように飛来する扇子。鉄製の扇子である。
飛魚の蹴りを打ち払い、回転しながら持ち主のもとへと戻った。
キャッチし、空気をかき混ぜるように舞う海猫。こちらは長い黒髪の女子高生だ。
「続いて、参ります!」
連続で鉄扇を放つが、間に飛び込んだずんぐりした着ぐるみがそれを丸ごと阻んだ。車鯛である。
ダブルバイセップスポーズだが、丸みを帯びたフォルムのせいで力強さは感じない。その分攻撃は傾斜装甲によって効率的に弾かれるという寸法だ。
そこへ、日本刀を携えた水芭ハヤテがやってきた。
「訓練だというのに真剣になりすぎだ。命が削れるぞ」
「そお?」
着ぐるみを脱ぐ車鯛。中から小柄な美少年が現われた。
「前にファイヴに負けちゃったのは、僕たちがまだ弱かったからでしょ? だったらもっともっともーっと強くならなきゃ。技を教えてくれたハヤテセンセーにもーしわけないぞ」
「そうだぜハヤテ。ファイヴに勝ちたいのはお前だけじゃねーっての」
「そうっす! もっと鍛えてください!」
蛸壺と鋸鮫が軽く肩を組んでいる。
ハヤテは苦笑だけを返した。
「助かる。だが鍛錬は一旦中止だ。本番が来る」
「……出撃要請?」
「いいえ、防衛です」
新しい声に、海猫が緊張を顔に出した。
彼らの拠点であるこの場所が発見され、襲撃を受けるということだからだ。
磯貝。腰に拳銃を携えた、中性的な少女である。
「今回はボクも出ます。皆さんも最強装備で挑んでください。技術も力も、なにもかも」
「……朧暁、か」
蛸壺がぎゅっと拳を握る。
「今度はうまく成功させてみせるぜ。けど磯貝はいいのか? まだこの技覚えてないんだろ?」
「この場所を失うかもしれないんです。ボクだって戦いますよ。戦力バランス的にも、今回は問題ないはずです」
磯貝の言葉に、鋸鮫が強く頷いた。
「俺もッス! ただのヤンキーだった俺をここまで鍛えてくれたんス! 命張りますよ!」
「…………」
ハヤテは首にかけていたゴーグルを装着して、きびすを返した。
皆が一点を見上げている。古びた高校の校舎。
そこは、学校のグラウンドだった。
「ありがとう」
●
ここはファイヴ会議室。中 恭介(nCL2000002)が覚者たちを集めている。
現在ファイヴはヒノマル陸軍との戦争状態にある。FH協定によって一般人に被害がでないかわりに、チーム戦の勝敗によって拠点制圧の是非が決まるのだ。
「今回制圧するのは『淡路島水芭サークル』だ。皆の提案によって捜索した結果、発見した敵拠点だ。説明を頼む」
「ん」
資料を受け取って、姫神 桃(CL2001376)が皆へと振り返った。
「以前水芭忍軍と戦ったのは覚えてるわよね? 彼らの拠点が今までの動きからして淡路島近辺にあるんじゃ無いかって踏んでいたの。予想はピッタリ。けど意外なことに……」
資料にある写真は学生証の証明写真だった。
七人の高校生。淡路の高等学校にかようごく普通の高校生たちだった。とはいえ風変わりなはぐれ者ばかりで、周囲のクラスメイトたちからは浮いた存在だったようだが……。
「この拠点が、彼らの心のよりどころになってるみたい。この場所で戦って勝つことで、決定的な敗北を刻むことが出来るわ」
それは、水芭忍軍の大きな損失を意味している。
だが同時に、彼らはその場所を守るために重い傷をおうこともいとわず挑んでくるということだ。
「厳しい戦いになるわ。けど、一つでも多くの拠点を落として決戦を有利に進めたいわね」
クナイをジャグリングするように操る蛸壺。
「っしゃ、行くぜ相棒!」
「うっす!」
マンホールのような鉄板を掴んで突撃する鋸鮫。二人ともいい年頃の男子高校生である。
飛来するクナイを払うと、強引に鉄板を叩き込む。
バックジャンプからの連続ロンダートで回避する蛸壺――の側面から飛魚が強烈な跳び蹴りを入れてきた。ブーツからナイフが露出したレッグブレードが装備されている。その素顔は茶色いショートカットの女子高生だった。
「ほらほらっ、隙だらけだよ!」
元々飛行した彼女は回し蹴りからの踵落としから更に蹴るという無茶な連続技を繰り出してくる。
「やべ――っ!」
直撃をうけそうになった蛸壺をフォローするように飛来する扇子。鉄製の扇子である。
飛魚の蹴りを打ち払い、回転しながら持ち主のもとへと戻った。
キャッチし、空気をかき混ぜるように舞う海猫。こちらは長い黒髪の女子高生だ。
「続いて、参ります!」
連続で鉄扇を放つが、間に飛び込んだずんぐりした着ぐるみがそれを丸ごと阻んだ。車鯛である。
ダブルバイセップスポーズだが、丸みを帯びたフォルムのせいで力強さは感じない。その分攻撃は傾斜装甲によって効率的に弾かれるという寸法だ。
そこへ、日本刀を携えた水芭ハヤテがやってきた。
「訓練だというのに真剣になりすぎだ。命が削れるぞ」
「そお?」
着ぐるみを脱ぐ車鯛。中から小柄な美少年が現われた。
「前にファイヴに負けちゃったのは、僕たちがまだ弱かったからでしょ? だったらもっともっともーっと強くならなきゃ。技を教えてくれたハヤテセンセーにもーしわけないぞ」
「そうだぜハヤテ。ファイヴに勝ちたいのはお前だけじゃねーっての」
「そうっす! もっと鍛えてください!」
蛸壺と鋸鮫が軽く肩を組んでいる。
ハヤテは苦笑だけを返した。
「助かる。だが鍛錬は一旦中止だ。本番が来る」
「……出撃要請?」
「いいえ、防衛です」
新しい声に、海猫が緊張を顔に出した。
彼らの拠点であるこの場所が発見され、襲撃を受けるということだからだ。
磯貝。腰に拳銃を携えた、中性的な少女である。
「今回はボクも出ます。皆さんも最強装備で挑んでください。技術も力も、なにもかも」
「……朧暁、か」
蛸壺がぎゅっと拳を握る。
「今度はうまく成功させてみせるぜ。けど磯貝はいいのか? まだこの技覚えてないんだろ?」
「この場所を失うかもしれないんです。ボクだって戦いますよ。戦力バランス的にも、今回は問題ないはずです」
磯貝の言葉に、鋸鮫が強く頷いた。
「俺もッス! ただのヤンキーだった俺をここまで鍛えてくれたんス! 命張りますよ!」
「…………」
ハヤテは首にかけていたゴーグルを装着して、きびすを返した。
皆が一点を見上げている。古びた高校の校舎。
そこは、学校のグラウンドだった。
「ありがとう」
●
ここはファイヴ会議室。中 恭介(nCL2000002)が覚者たちを集めている。
現在ファイヴはヒノマル陸軍との戦争状態にある。FH協定によって一般人に被害がでないかわりに、チーム戦の勝敗によって拠点制圧の是非が決まるのだ。
「今回制圧するのは『淡路島水芭サークル』だ。皆の提案によって捜索した結果、発見した敵拠点だ。説明を頼む」
「ん」
資料を受け取って、姫神 桃(CL2001376)が皆へと振り返った。
「以前水芭忍軍と戦ったのは覚えてるわよね? 彼らの拠点が今までの動きからして淡路島近辺にあるんじゃ無いかって踏んでいたの。予想はピッタリ。けど意外なことに……」
資料にある写真は学生証の証明写真だった。
七人の高校生。淡路の高等学校にかようごく普通の高校生たちだった。とはいえ風変わりなはぐれ者ばかりで、周囲のクラスメイトたちからは浮いた存在だったようだが……。
「この拠点が、彼らの心のよりどころになってるみたい。この場所で戦って勝つことで、決定的な敗北を刻むことが出来るわ」
それは、水芭忍軍の大きな損失を意味している。
だが同時に、彼らはその場所を守るために重い傷をおうこともいとわず挑んでくるということだ。
「厳しい戦いになるわ。けど、一つでも多くの拠点を落として決戦を有利に進めたいわね」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.戦闘に勝利する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
戦闘の勝敗によって拠点制圧の是非が決まります。
●シチュエーションデータ
学校のグラウンドを使います。
人払いを済ませ、生徒たちは登校していません。
●エネミーデータ
過去にスキャンしたデータと使用されたスキル、及び予備情報からの推測を交えた敵チームのデータです。
・『水芭忍軍首領』水芭ハヤテ:水行暦、体術と術式の混合、スピードタイプ。刀装備。
→霞舞、正鍛拳、飛燕、火柱、氷巖華、朧暁【未解】
・『水芭忍軍』鋸鮫:攻撃高め。鉄板装備
→癒しの霧、氷巖華、活殺打、朧暁【未解】
・『水芭忍軍』蛸壺:ゆらぎ低め。クナイ二刀流
→癒しの霧、氷巖華、地烈、白夜、朧暁【未解】
・『水芭忍軍』車鯛:自然治癒高め。ガントレット装備
→癒しの霧、霞舞、海衣、超純水、朧暁【未解】
・『水芭忍軍』飛魚:翼人、レッグブレード装備。
→雷獣、迷霧、演舞・舞音、填気、朧暁【未解】
・『水芭忍軍』海猫:翼人、鉄扇装備
→雷獣、演舞・清爽、演舞・舞音、填気、朧暁【未解】
・『水芭忍軍』磯貝:翼現、拳銃装備
→射撃系の水行術式および体術で固めていると推測。朧暁は習得していない模様。
【朧暁(未開)】
→使用条件HP20%以下。命中補正高、物防無視、必殺、コストHP大
スキルの都合上、一人ずつ集中攻撃して倒すのが一番楽ですが、その場合こちらも一人ずつ倒されることになるでしょう。中でも全体にまんべんなく攻撃するのはほどほどにしておかないと急速に戦況をひっくり返されます。
突破法としては行動不能にして一気に戦闘不能にする、または攻撃はあえて受けて味方への集中回復でリカバリーを狙うというものです。
今回は今までと違って陸上での戦いになりますが、相手は陸上でもかなりの俊敏さを発揮します。
連携の崩し方、予測される戦法へのカウンター、そして肝心な『撤退条件の設定』に気を配るとよいでしょう。
協定内で戦う限り死亡や捕縛がないので、最後の一人になるまで殴り合うのは命数をいたずらに削ることになります。
==============================
・補足ルール1
EXプレイングにてこちらからの攻撃アクションを投票できます。
ヒノマル陸軍のもっている施設や侵攻に必要なルートの中で、『攻撃したい場所を一つだけ』EXプレイングに書いて送ってください。
対象は『現在判明しているが制圧できていない拠点』か『まだ見つけていない捜索中の拠点』となります。捜索中の拠点を指定した場合、発見し次第攻撃可能となります。
『3票以上』ある対象を票が多い順に中恭介が採用していきます。
票が固まらなかった場合全て無効扱いとなり、中恭介が適当に選びます。
投票は本戦争期間中ずっと有効です。
また、対象拠点はシナリオの成果に応じて発見できることがあります。
・補足ルール2
以前の依頼で判明した主要敵の能力が事前情報に反映されています。
・補足ルール3
性質上『FH協定』をこちらから一方的に破棄することが可能です。
ただしそのためには『依頼参加者全員』の承認を必要とします。
協定を破棄した場合、互いに無秩序状態になり、捕虜の獲得や兵器の鹵獲、リンチによる完全殺害が可能になる反面、民間人や協力団体にも多大な被害が出ます。
※エネミースキャンについての追加ルール(当依頼限定)
ターンを消費してスキャンに集中したり、敵の能力を深く推察したり、調査する部分を限定したり、数人で分担したりといったプレイングがあるとスキャンの判定にボーナスをかけます。
・FH協定
ファイヴとヒノマル陸軍の間に交わされた戦争上の協定です。
戦闘に関係の無い民間人に被害を出したくないファイヴ。
兵器製造など戦争の準備を邪魔されたくないヒノマル陸軍。
双方の条件を満たすものとして、戦争におけるルール、つまり協定を結んでいます。
双方『ほぼ同格』の総合戦闘力を持ったチームを編成し、民間人に直接的被害の出ない場所で戦闘を行なうこと。
またファイヴが所属覚者を長期拘束できないため、ヒノマル側・ファイヴ側双方どちらが敗北した場合でも捕虜獲得や兵器鹵獲をせず、撤退を許すこと。
こうしたチーム戦で互いに要所を制圧・もしくは奪還し、来たるべき決戦の日に両者同時に拠点を襲撃・及び防衛し合うものである。
互いにルールの曲解や、逆手に取った悪用はしないことで合意しています。
==============================
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年12月12日
2016年12月12日
■メイン参加者 8人■

●サイドF
高校のグラウンド。サッカーのゴールネットに腰掛けるようにして待つ水芭忍軍たち。
彼らに対して反対側のゴールネット前に並ぶファイヴ陣営。
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は準備運動をする『狂華』犬山・鏡香(CL2000478)に目配せをした。
「准尉、いつも通りやればいい。油断せず冷静に、確実に勝つ」
「ン? ダイジョーブ、アイツラはボクたちと同じだからな! 油断なんてしないゾ」
「……ああ、同じだ」
二人の会話には二人にしか分からない何かがあったが、知らぬ『慧眼の癒し手』香月 凜音(CL2000495)にも分からない話ではなかった。
自分に語るように呟く。
「心のよりどころに踏み込むんだ。手荒い歓迎を受けるのは承知の上。けどこっちも遊びに来たわけじゃ無い。悪いな」
「然り」
『教授』新田・成(CL2000538)はついた杖から刀を抜いた。
「私の剣は、気迫だけでは破れない。九鬼君、名乗りをどうぞ」
「では、僭越ながら」
マントを翻し、『菊花羅刹』九鬼 菊(CL2000999)は帽子を上げた。
「十天、九鬼菊。貴様らの悪だ」
腕を組み、並ぶ三人の少女。
姫神 桃(CL2001376)、『淡雪の歌姫』鈴駆・ありす(CL2001269)、『希望峰』七海 灯(CL2000579)。
水芭忍軍とも浅からぬ因縁を持つ彼女たちの胸中には、飲み込みがたい感情が渦巻いていた。
「憎みきれないって、嫌なものね。守りたいものが同じだなんて」
「それでもやることは一緒よ。ついに追い詰めた。力の差を見せつけて、ヒノマルについたことを後悔させるわ!」
「その通りです。私たちは、私たちの信じる人たちのために勝たなければなりません。たとえ彼らのよりどころを奪うことになっても!」
ざん、と一斉に足を踏み出すファイヴ陣営。
同じく足を踏み出す水芭忍軍。
戦いの火ぶたは、切って落とされた。
●サイドH
あって当たり前の場所だった。
だから、失うことを考えたことも無かった。
●
刹那、という言葉がある。
きわめて短い時間をさす仏教のインド由来の言葉で、指を弾く間が65刹那という。
灯とハヤテがコート両端から走って激突するまでに1刹那。
鎌を刀で受けるまで1刹那。
鎖を放つまで1刹那。
刀に巻き付いた鎖を引いて灯の顎に掌底を入れるまで1刹那。
更に肘、裏拳、手刀、膝、踵まで叩き込むまで5刹那。
それらの攻撃を腕と鎖で弾きつつ灯が鎌で空に卍を描くまで5刹那。
つまり、菊が瞬きするその間に灯とハヤテはお互いに何十発もの打撃を交わしていたのである。
「そこだ」
「――!」
灯の心臓部に刀を突き込むそのタイミングで、菊は灯を飛び蹴りでもって突き飛ばして割り込んだ。
刀が菊の腹を切り裂いていく。グランドを転がりつつ、鎌を地面に突き立てて強制ブレーキをかける。
「強くなりたい志、敵ながらあっぱれです。砕き合いましょう、粉々になるまで。貴方達がダイヤモンドの原石であるというのならいつかファイヴを超えるでしょう。ですがそれは今ではありません」
放たれた氷巖華を鎌で切り裂くが、空圧による炸裂で更に吹き飛ばされる。
とん、と背を押さえて受け止める凜音。
「スキャンの調子はいかがですか」
「まだできてない。体力の削れ具合に絞ってるから早いと思う」
「できるだけ早めにお願いします」
再び走り出す菊。
菊の担当は的のHPの管理である。今のところ最も警戒しているのが未開スキルの朧暁。HP20%以下の状態で使用するという特性から、『大体20%前くらいまで削ってから総攻撃をかけて倒す』というシンプルだが地味に難しい手段での突破を考えていた。
なので、スキャン要員を可能な限り増やしていた。
千景がよくHPのモニタリングという言葉を使うが、エネミースキャンは判定に成功すれば敵の能力や状況を解析できるというスキルである。逆に言うと判定の確率を上げるためにはラインを増やすのが最も確実なのだ。
つまんない話をあえてすると、朧暁のラーニングを皆わりと狙っていてできればこの場で打ち返したいくらいに思っているのだが(依頼中に敵の未開スキルを習得して使用できるとミスリードするとなんか色々な所に迷惑がかかるので)今回はできないものと思って頂きたい。更に言うと、敵のスキル使用機会を潰しまくればその分盗む機会も減るので、封殺がうまくいくかラーニングができるかのどっちかだと思って欲しい。あとこういう細かい人力判定は状況によるので今回を判例としてよそに持ち出さないほうに気をつけて欲しい。つまんない話は以上である。
「もういいわね! 行くわよゆる、開眼!」
ありすは指を鳴らすと召炎波を発動。地を覆うように巨大な炎の翼が広がったかと思うと、コート全体を撫でるように包み込んでいった。
「二度あることは三度あるのよ。ここで負ける運命にあるのよ、あんたち!」
「三度目の正直って言葉をお返しするわ!」
鉄扇を広げた海猫が空に暗雲を生み出した。同じく飛魚が靴を高く振り上げて雷を纏い始める。
鉄扇と靴を同時に振り下ろし、ありすたちへと強烈な雷撃を浴びせてきた。
「アンタたちの雷に、アタシの炎は絶対負けない! 全員まとめて焼き尽くしてあげるわ!」
空が炎と雷雲が埋める中、桃は優先攻撃目標の蛸壺めがけて走っていた。
間に割り込むように立ち塞がる車鯛。
「みんなに手を出すなら、ボクを倒していけ!」
拳をがつんと打ち合わせ、殴りかかってくる車鯛。
桃は相手のパンチを両手を重ねるようにして受けると、一旦距離を取って両腰から抜刀。くるりと反転させて斬りかかる。
拳と刀が打ち合い、弾きあう。
「そういえば私、あなたたちに名乗ったかしら」
「いまさらだぞ!」
桃の鋭い突きを受けつつも、腕を掴んで振り上げ、地面に叩き付ける。
仲間が随分と足止めされているようだが、それはそれで構わない。
千陽は鏡香に目配せをすると、蛸壺めがけて突撃した。
プレッシャーを込めたナイフを繰り出し蛸壺のクナイと弾きあうと、ガンナイフを滑り込ませて手首を鋭く切りつけた。
「これで得意の白夜は使えないはず」
「対策どーも!」
手を翳し、氷巖華を放つ蛸壺。
背後から飛びかかった鏡香にクナイを放ち牽制。
弾かれた鏡香は転がるように距離をとると、栗の実を投擲蛸壺の前で炸裂させる。
素早く飛び退く蛸壺。
「俺狙いかよ。俺ってそんなに驚異的?」
「遊んでる場合ですか」
磯貝が鏡香めがけて銃撃を加えてきた。
ランスでガードしながら脚部キャタピラを動かして全速バック。
「最も想定火力の高いあなたから倒すのは妥当な判断といっていいでしょう」
成は刀を高速で六度振って真空を生み出し、蛸壺めがけて連射。
それを、鋸鮫が鉄板を翳すことでガードした。
「おっと、あんたの相手は俺だ! 俺らの必殺技を潰そうたってそうはいかねえ!」
突撃し、鉄板を丸ごと叩き付けてくる鋸鮫。
成はそれを刀で受けると、ぐっと体勢を傾けた。
鋸鮫がバランスを崩した所で素早くバックスウェーをかける成。
「さて、どうしましょうか。ブロックを優先して個別に対応するか、集中攻撃を優先して後衛を危険にさらすか……とにかく私は、前者に集中するとしましょう」
氷のクナイを生み出して放つ蛸壺。
灯と桃はそれぞれ刀と鎖でクナイを弾くと、至近距離まで割り込んで交差斬撃を繰り出した。
桃の刀と灯の鎌がそれぞれ蛸壺を切り裂いていく。
「や、やべ……っ」
麻痺や呪いによってがくりと膝を突く蛸壺。
「タコー!」
車鯛が間に割り込んで盾になろうとするが、不意を打つように千陽が地面を殴りつけた。
「――今です!」
「悪いけど奥義は使わせないゾ!」
毒の塗られた槍を構え、ブーストダッシュによって突撃する鏡香。
後ろに回り込んだ菊が大きな鎌を振んで挟み込む。
そこへ。
「炎の恐怖、その身にしみこませてあげる!」
ありすが両手に炎を溜め、同時に凜音が水礫を手の上に固まらせる。
「悪いな」
彼らの集中攻撃に晒され蛸壺は力尽きた。
この要領で、彼らは蛸壺と鋸鮫を撃破していった。
途中で作戦に気づいた水芭忍軍が海猫と飛魚の演舞・舞音によるBS回復をかけた車鯛が回復に勤しんだりと調整が大きく狂い、うまく封殺するバランスを取るのに苦労したが……なんとか海猫や飛魚たち倒し、磯貝とハヤテだけの状態にまで持ち込んだ。
当然ファイヴ側も相当な損害を受けることになったが、まだ半数は戦闘可能な状態だ。
「そろそろやめね? いたずらに傷付けたくねー」
最初に降伏を求めたのは凜音だった。
グラウンドの端から歩いてきて、かりかりと頭をかく。
「まだだ。俺は戦える。負けていない!」
刀を高速で繰り出し、打ち付けてくる。
それを腕に巻き付けた鎖で受け止めて、灯はぐっと歯を食いしばった。
「戦え! お前たちが仕掛けた戦いだろうが! 戦え! 俺は……俺は死ぬまで戦うぞ!」
「また、そんなことを……!」
鎌を肩に突き刺し、膝蹴りでもって距離をとる灯。
「…………」
至近距離で放った氷巖華を、成が刀で切り裂いていく。
まるで成を中心に分裂していったかの如く氷の槍がわかれ、それぞれグランドの土に突き刺さる。
成は細い目をぎらりと開き、自分から相手への距離を詰めた。
刀と刀がぶつかり合い、火花が飛び散る。
あまりの攻防に周囲は割り込むことすらできなかった。
鏡香が横から呼びかける。
「今ここで無理するのは諦めるのと同じだゾ! まだ終わりじゃ無いんだから、次のために帰った方がいいぞ!」
「帰るだと? そう言われて帰れるか! のこのこと!」
「……ショーイ」
千陽はコホンと咳払いをした。
「あなたたちの寄る辺を奪う俺たちが言えたことではありませんが、これ以上やりあってもいたずらに命を削るだけでしょう。リベンジはお受けしますが、それも戦える身体があってのことです」
「……くそ! くそおおおおおおお!」
ハヤテは成を蹴り飛ばし、刀を地面に叩き付けた。
「なぜだ! なぜ勝てない! 貴様らと俺で何が違う! 何が違うんだ! ずるいぞ、貴様らばかり……お前らばかり……!」
「……アンタ」
腕組みをしたありすが、目をそらして言った。
「正直、今のアンタたちは嫌いじゃないわ。でも、だからヒノマルについたことが許せない。支配するためじゃなく護るために使うものよ」
「勝手なことを言うな! 貴様だって俺たちを支配するつもりだろうが!」
「本当にそう思ってるの!? アンタは今、何をかけて戦ったっていうのよ!」
ハヤテは拳を血が滴るほどに握りしめ、膝を突いて大地を殴った。
血や涙が校庭の土にしみていく。
「クソッ、クソが……!」
目を細める桃。
思えば、水芭ハヤテの第一印象は最悪だった。
他人を見下しクソ呼ばわりり、偶然手に入れた力を遊びで振り回す男だった。
それが復讐に燃えて力をつけ、仲間の信頼や大切な場所を手に入れ強敵として立ち塞がった。
そして今、大切な場所をかけて自分たちに挑みかかってきたのだ。
「協定があったからいいものの、なかったら誰か死んでたかもしれないのよ。そんなやり方、リーダーが教えてんじゃないわよ」
背を向け、立ち去ろうとする桃。
「制圧はするけど、ここでの学業は続けて貰うわよ。拠点として機能しなければいいんだから。そうよね?」
千陽に話を振ると、困ったように首を傾げた。
「……どうでしょう。この場所を失うことで彼らの戦力が低下すると……あ、いえ、わかりました。自分からも進言しましょう」
後ろから鏡香につつかれて背筋を伸ばす千陽。
立ち去る彼らに、ハヤテは手を突いたまま吠えた。
「次だ! 次は必ず勝つぞ! 貴様に……貴様らに! 必ず!」
去り際、磯貝が小さく頭を下げた。
視線を合わせる菊。
「暴力坂乱暴殿にお伝えください」
手紙を磯貝に渡すと、菊は帽子を被り尚した。
「ところで、『十天』をご存じでしたか」
「はあ、まあ……噂程度には」
磯貝は菊と似たような帽子を被り直して難しい顔をした。
「なんでも、十人いないとか」
「その噂は忘れてください。では」
マントを翻し、去って行く菊。
磯貝は手紙をちらりと見ると、ポケットへとしまった。
高校のグラウンド。サッカーのゴールネットに腰掛けるようにして待つ水芭忍軍たち。
彼らに対して反対側のゴールネット前に並ぶファイヴ陣営。
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は準備運動をする『狂華』犬山・鏡香(CL2000478)に目配せをした。
「准尉、いつも通りやればいい。油断せず冷静に、確実に勝つ」
「ン? ダイジョーブ、アイツラはボクたちと同じだからな! 油断なんてしないゾ」
「……ああ、同じだ」
二人の会話には二人にしか分からない何かがあったが、知らぬ『慧眼の癒し手』香月 凜音(CL2000495)にも分からない話ではなかった。
自分に語るように呟く。
「心のよりどころに踏み込むんだ。手荒い歓迎を受けるのは承知の上。けどこっちも遊びに来たわけじゃ無い。悪いな」
「然り」
『教授』新田・成(CL2000538)はついた杖から刀を抜いた。
「私の剣は、気迫だけでは破れない。九鬼君、名乗りをどうぞ」
「では、僭越ながら」
マントを翻し、『菊花羅刹』九鬼 菊(CL2000999)は帽子を上げた。
「十天、九鬼菊。貴様らの悪だ」
腕を組み、並ぶ三人の少女。
姫神 桃(CL2001376)、『淡雪の歌姫』鈴駆・ありす(CL2001269)、『希望峰』七海 灯(CL2000579)。
水芭忍軍とも浅からぬ因縁を持つ彼女たちの胸中には、飲み込みがたい感情が渦巻いていた。
「憎みきれないって、嫌なものね。守りたいものが同じだなんて」
「それでもやることは一緒よ。ついに追い詰めた。力の差を見せつけて、ヒノマルについたことを後悔させるわ!」
「その通りです。私たちは、私たちの信じる人たちのために勝たなければなりません。たとえ彼らのよりどころを奪うことになっても!」
ざん、と一斉に足を踏み出すファイヴ陣営。
同じく足を踏み出す水芭忍軍。
戦いの火ぶたは、切って落とされた。
●サイドH
あって当たり前の場所だった。
だから、失うことを考えたことも無かった。
●
刹那、という言葉がある。
きわめて短い時間をさす仏教のインド由来の言葉で、指を弾く間が65刹那という。
灯とハヤテがコート両端から走って激突するまでに1刹那。
鎌を刀で受けるまで1刹那。
鎖を放つまで1刹那。
刀に巻き付いた鎖を引いて灯の顎に掌底を入れるまで1刹那。
更に肘、裏拳、手刀、膝、踵まで叩き込むまで5刹那。
それらの攻撃を腕と鎖で弾きつつ灯が鎌で空に卍を描くまで5刹那。
つまり、菊が瞬きするその間に灯とハヤテはお互いに何十発もの打撃を交わしていたのである。
「そこだ」
「――!」
灯の心臓部に刀を突き込むそのタイミングで、菊は灯を飛び蹴りでもって突き飛ばして割り込んだ。
刀が菊の腹を切り裂いていく。グランドを転がりつつ、鎌を地面に突き立てて強制ブレーキをかける。
「強くなりたい志、敵ながらあっぱれです。砕き合いましょう、粉々になるまで。貴方達がダイヤモンドの原石であるというのならいつかファイヴを超えるでしょう。ですがそれは今ではありません」
放たれた氷巖華を鎌で切り裂くが、空圧による炸裂で更に吹き飛ばされる。
とん、と背を押さえて受け止める凜音。
「スキャンの調子はいかがですか」
「まだできてない。体力の削れ具合に絞ってるから早いと思う」
「できるだけ早めにお願いします」
再び走り出す菊。
菊の担当は的のHPの管理である。今のところ最も警戒しているのが未開スキルの朧暁。HP20%以下の状態で使用するという特性から、『大体20%前くらいまで削ってから総攻撃をかけて倒す』というシンプルだが地味に難しい手段での突破を考えていた。
なので、スキャン要員を可能な限り増やしていた。
千景がよくHPのモニタリングという言葉を使うが、エネミースキャンは判定に成功すれば敵の能力や状況を解析できるというスキルである。逆に言うと判定の確率を上げるためにはラインを増やすのが最も確実なのだ。
つまんない話をあえてすると、朧暁のラーニングを皆わりと狙っていてできればこの場で打ち返したいくらいに思っているのだが(依頼中に敵の未開スキルを習得して使用できるとミスリードするとなんか色々な所に迷惑がかかるので)今回はできないものと思って頂きたい。更に言うと、敵のスキル使用機会を潰しまくればその分盗む機会も減るので、封殺がうまくいくかラーニングができるかのどっちかだと思って欲しい。あとこういう細かい人力判定は状況によるので今回を判例としてよそに持ち出さないほうに気をつけて欲しい。つまんない話は以上である。
「もういいわね! 行くわよゆる、開眼!」
ありすは指を鳴らすと召炎波を発動。地を覆うように巨大な炎の翼が広がったかと思うと、コート全体を撫でるように包み込んでいった。
「二度あることは三度あるのよ。ここで負ける運命にあるのよ、あんたち!」
「三度目の正直って言葉をお返しするわ!」
鉄扇を広げた海猫が空に暗雲を生み出した。同じく飛魚が靴を高く振り上げて雷を纏い始める。
鉄扇と靴を同時に振り下ろし、ありすたちへと強烈な雷撃を浴びせてきた。
「アンタたちの雷に、アタシの炎は絶対負けない! 全員まとめて焼き尽くしてあげるわ!」
空が炎と雷雲が埋める中、桃は優先攻撃目標の蛸壺めがけて走っていた。
間に割り込むように立ち塞がる車鯛。
「みんなに手を出すなら、ボクを倒していけ!」
拳をがつんと打ち合わせ、殴りかかってくる車鯛。
桃は相手のパンチを両手を重ねるようにして受けると、一旦距離を取って両腰から抜刀。くるりと反転させて斬りかかる。
拳と刀が打ち合い、弾きあう。
「そういえば私、あなたたちに名乗ったかしら」
「いまさらだぞ!」
桃の鋭い突きを受けつつも、腕を掴んで振り上げ、地面に叩き付ける。
仲間が随分と足止めされているようだが、それはそれで構わない。
千陽は鏡香に目配せをすると、蛸壺めがけて突撃した。
プレッシャーを込めたナイフを繰り出し蛸壺のクナイと弾きあうと、ガンナイフを滑り込ませて手首を鋭く切りつけた。
「これで得意の白夜は使えないはず」
「対策どーも!」
手を翳し、氷巖華を放つ蛸壺。
背後から飛びかかった鏡香にクナイを放ち牽制。
弾かれた鏡香は転がるように距離をとると、栗の実を投擲蛸壺の前で炸裂させる。
素早く飛び退く蛸壺。
「俺狙いかよ。俺ってそんなに驚異的?」
「遊んでる場合ですか」
磯貝が鏡香めがけて銃撃を加えてきた。
ランスでガードしながら脚部キャタピラを動かして全速バック。
「最も想定火力の高いあなたから倒すのは妥当な判断といっていいでしょう」
成は刀を高速で六度振って真空を生み出し、蛸壺めがけて連射。
それを、鋸鮫が鉄板を翳すことでガードした。
「おっと、あんたの相手は俺だ! 俺らの必殺技を潰そうたってそうはいかねえ!」
突撃し、鉄板を丸ごと叩き付けてくる鋸鮫。
成はそれを刀で受けると、ぐっと体勢を傾けた。
鋸鮫がバランスを崩した所で素早くバックスウェーをかける成。
「さて、どうしましょうか。ブロックを優先して個別に対応するか、集中攻撃を優先して後衛を危険にさらすか……とにかく私は、前者に集中するとしましょう」
氷のクナイを生み出して放つ蛸壺。
灯と桃はそれぞれ刀と鎖でクナイを弾くと、至近距離まで割り込んで交差斬撃を繰り出した。
桃の刀と灯の鎌がそれぞれ蛸壺を切り裂いていく。
「や、やべ……っ」
麻痺や呪いによってがくりと膝を突く蛸壺。
「タコー!」
車鯛が間に割り込んで盾になろうとするが、不意を打つように千陽が地面を殴りつけた。
「――今です!」
「悪いけど奥義は使わせないゾ!」
毒の塗られた槍を構え、ブーストダッシュによって突撃する鏡香。
後ろに回り込んだ菊が大きな鎌を振んで挟み込む。
そこへ。
「炎の恐怖、その身にしみこませてあげる!」
ありすが両手に炎を溜め、同時に凜音が水礫を手の上に固まらせる。
「悪いな」
彼らの集中攻撃に晒され蛸壺は力尽きた。
この要領で、彼らは蛸壺と鋸鮫を撃破していった。
途中で作戦に気づいた水芭忍軍が海猫と飛魚の演舞・舞音によるBS回復をかけた車鯛が回復に勤しんだりと調整が大きく狂い、うまく封殺するバランスを取るのに苦労したが……なんとか海猫や飛魚たち倒し、磯貝とハヤテだけの状態にまで持ち込んだ。
当然ファイヴ側も相当な損害を受けることになったが、まだ半数は戦闘可能な状態だ。
「そろそろやめね? いたずらに傷付けたくねー」
最初に降伏を求めたのは凜音だった。
グラウンドの端から歩いてきて、かりかりと頭をかく。
「まだだ。俺は戦える。負けていない!」
刀を高速で繰り出し、打ち付けてくる。
それを腕に巻き付けた鎖で受け止めて、灯はぐっと歯を食いしばった。
「戦え! お前たちが仕掛けた戦いだろうが! 戦え! 俺は……俺は死ぬまで戦うぞ!」
「また、そんなことを……!」
鎌を肩に突き刺し、膝蹴りでもって距離をとる灯。
「…………」
至近距離で放った氷巖華を、成が刀で切り裂いていく。
まるで成を中心に分裂していったかの如く氷の槍がわかれ、それぞれグランドの土に突き刺さる。
成は細い目をぎらりと開き、自分から相手への距離を詰めた。
刀と刀がぶつかり合い、火花が飛び散る。
あまりの攻防に周囲は割り込むことすらできなかった。
鏡香が横から呼びかける。
「今ここで無理するのは諦めるのと同じだゾ! まだ終わりじゃ無いんだから、次のために帰った方がいいぞ!」
「帰るだと? そう言われて帰れるか! のこのこと!」
「……ショーイ」
千陽はコホンと咳払いをした。
「あなたたちの寄る辺を奪う俺たちが言えたことではありませんが、これ以上やりあってもいたずらに命を削るだけでしょう。リベンジはお受けしますが、それも戦える身体があってのことです」
「……くそ! くそおおおおおおお!」
ハヤテは成を蹴り飛ばし、刀を地面に叩き付けた。
「なぜだ! なぜ勝てない! 貴様らと俺で何が違う! 何が違うんだ! ずるいぞ、貴様らばかり……お前らばかり……!」
「……アンタ」
腕組みをしたありすが、目をそらして言った。
「正直、今のアンタたちは嫌いじゃないわ。でも、だからヒノマルについたことが許せない。支配するためじゃなく護るために使うものよ」
「勝手なことを言うな! 貴様だって俺たちを支配するつもりだろうが!」
「本当にそう思ってるの!? アンタは今、何をかけて戦ったっていうのよ!」
ハヤテは拳を血が滴るほどに握りしめ、膝を突いて大地を殴った。
血や涙が校庭の土にしみていく。
「クソッ、クソが……!」
目を細める桃。
思えば、水芭ハヤテの第一印象は最悪だった。
他人を見下しクソ呼ばわりり、偶然手に入れた力を遊びで振り回す男だった。
それが復讐に燃えて力をつけ、仲間の信頼や大切な場所を手に入れ強敵として立ち塞がった。
そして今、大切な場所をかけて自分たちに挑みかかってきたのだ。
「協定があったからいいものの、なかったら誰か死んでたかもしれないのよ。そんなやり方、リーダーが教えてんじゃないわよ」
背を向け、立ち去ろうとする桃。
「制圧はするけど、ここでの学業は続けて貰うわよ。拠点として機能しなければいいんだから。そうよね?」
千陽に話を振ると、困ったように首を傾げた。
「……どうでしょう。この場所を失うことで彼らの戦力が低下すると……あ、いえ、わかりました。自分からも進言しましょう」
後ろから鏡香につつかれて背筋を伸ばす千陽。
立ち去る彼らに、ハヤテは手を突いたまま吠えた。
「次だ! 次は必ず勝つぞ! 貴様に……貴様らに! 必ず!」
去り際、磯貝が小さく頭を下げた。
視線を合わせる菊。
「暴力坂乱暴殿にお伝えください」
手紙を磯貝に渡すと、菊は帽子を被り尚した。
「ところで、『十天』をご存じでしたか」
「はあ、まあ……噂程度には」
磯貝は菊と似たような帽子を被り直して難しい顔をした。
「なんでも、十人いないとか」
「その噂は忘れてください。では」
マントを翻し、去って行く菊。
磯貝は手紙をちらりと見ると、ポケットへとしまった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
