<ヒノマル戦争>鞍馬山キャンプ制圧作戦
●鞍馬のヒノマル天狗
「ヒノマル陸軍との戦争状態が続いている。これはFH協定に基づきチーム戦で拠点制圧の是非を決め、最後の決戦にて勝敗を定めるというものだ。
今回は皆から提案のあった鞍馬山を捜索した所、重要な敵拠点を発見したので制圧作戦を実行することになった」
ファイヴ会議室。
中 恭介(nCL2000002)は皆を集めて説明を続けていた。
「鞍馬山鞍馬寺を中心にしたエリアに訓練キャンプが建設されている。これは軍事的なゲリラキャンプと同じもので、素人を短期間でプロの兵隊へと仕立て上げる施設だ。だがただのキャンプではないことは、土地の名前から察しているかもしれないな……」
「鞍馬山を拠点としているのは『ヒノマル天狗』というチームだ。
ヒノマル陸軍に所属し、第二次世界大戦でも戦ったという古妖らしいが、公式資料には残っていない。まあ、当然だな。事実だとしても残すわけが無い。
重要なのはこの施設のことだ。
ヒノマル天狗はいわゆる鞍馬天狗の一派で、鞍馬天狗は牛若丸に剣術を教えたことでも有名だ。
彼らは古妖従軍計画によって集めた古妖を訓練し、決戦の時に備えている。
施設を制圧すれば敵の兵力増強を押さえることができるだろう」
●風車
ヒノマル陸軍『古妖隊隊長』風車。彼はかつてファイブと戦った経験を持つヒノマル天狗のリーダーである。
彼の管理する訓練キャンプでは今も無数の妖怪や幻想種のたぐいが兵隊としての訓練を受け、めきめきと戦闘力をつけていた。
「風車殿。今日の成果でございます」
「ご苦労……」
部下のヒノマル天狗が持ってきたタブレットPCを受け取り、データを読んで指示を加える。
「牛若丸伝説から数百年。兵の鍛え方も随分と変わったものだ」
「古いものが良いものではありません。現に、新しい種類の現代妖怪の実力には目を見張るものがございます」
「ふむ、『都市伝説』か……」
戦後、高度経済成長期の日本に生まれた古妖は、その平和な背景にありながら凶悪な性質をもつものも少なくない。
「ところで、ファイヴがこの拠点を見つけ制圧作戦を申請してきた模様。いかがでしょう、彼ら都市伝説チームを実戦に出してみては」
「…………そうだな」
振り返る。
そこは鞍馬寺の境内だった。見晴らしの良い山の風景と、大地を撫でる風のにおい。
風車は瞑目し、深く頷いた。
「よかろう。リストにある4名の実戦投入を許可する」
「ヒノマル陸軍との戦争状態が続いている。これはFH協定に基づきチーム戦で拠点制圧の是非を決め、最後の決戦にて勝敗を定めるというものだ。
今回は皆から提案のあった鞍馬山を捜索した所、重要な敵拠点を発見したので制圧作戦を実行することになった」
ファイヴ会議室。
中 恭介(nCL2000002)は皆を集めて説明を続けていた。
「鞍馬山鞍馬寺を中心にしたエリアに訓練キャンプが建設されている。これは軍事的なゲリラキャンプと同じもので、素人を短期間でプロの兵隊へと仕立て上げる施設だ。だがただのキャンプではないことは、土地の名前から察しているかもしれないな……」
「鞍馬山を拠点としているのは『ヒノマル天狗』というチームだ。
ヒノマル陸軍に所属し、第二次世界大戦でも戦ったという古妖らしいが、公式資料には残っていない。まあ、当然だな。事実だとしても残すわけが無い。
重要なのはこの施設のことだ。
ヒノマル天狗はいわゆる鞍馬天狗の一派で、鞍馬天狗は牛若丸に剣術を教えたことでも有名だ。
彼らは古妖従軍計画によって集めた古妖を訓練し、決戦の時に備えている。
施設を制圧すれば敵の兵力増強を押さえることができるだろう」
●風車
ヒノマル陸軍『古妖隊隊長』風車。彼はかつてファイブと戦った経験を持つヒノマル天狗のリーダーである。
彼の管理する訓練キャンプでは今も無数の妖怪や幻想種のたぐいが兵隊としての訓練を受け、めきめきと戦闘力をつけていた。
「風車殿。今日の成果でございます」
「ご苦労……」
部下のヒノマル天狗が持ってきたタブレットPCを受け取り、データを読んで指示を加える。
「牛若丸伝説から数百年。兵の鍛え方も随分と変わったものだ」
「古いものが良いものではありません。現に、新しい種類の現代妖怪の実力には目を見張るものがございます」
「ふむ、『都市伝説』か……」
戦後、高度経済成長期の日本に生まれた古妖は、その平和な背景にありながら凶悪な性質をもつものも少なくない。
「ところで、ファイヴがこの拠点を見つけ制圧作戦を申請してきた模様。いかがでしょう、彼ら都市伝説チームを実戦に出してみては」
「…………そうだな」
振り返る。
そこは鞍馬寺の境内だった。見晴らしの良い山の風景と、大地を撫でる風のにおい。
風車は瞑目し、深く頷いた。
「よかろう。リストにある4名の実戦投入を許可する」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.戦闘の勝利
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
戦闘の勝敗に応じて拠点制圧の是非が決まります。
相手も全力で来るため、敗北(依頼失敗)の可能性は充分にあります。
●シチュエーションデータ
戦闘フィールドは鞍馬寺境内。
人払いは済ませてあります。
●エネミーデータ
・『古妖隊隊長』風車:古妖・ヒノマル天狗(鞍馬天狗)
→飛行能力を持ち、刀で武装している。スペックはバランス型。
・口裂け女:古妖・都市伝説。詳細不明
・スレンダーマン:古妖、都市伝説。詳細不明。
・ベッドの下の斧男:古妖、都市伝説。詳細不明。
・歩く人体模型:古妖、都市伝説。詳細不明。
リーダーの風車を覗き四人とも戦闘力の詳細が不明ですが、比較的メジャーな都市伝説存在なためスペック予想が容易です。
また、全員古妖なため命数復活はしませんが、それをふまえてこの戦力をぶつけてきているということを踏まえて置いてください。
==============================
・補足ルール1
EXプレイングにてこちらからの攻撃アクションを投票できます。
ヒノマル陸軍のもっている施設や侵攻に必要なルートの中で、『攻撃したい場所を一つだけ』EXプレイングに書いて送ってください。
対象は『現在判明しているが制圧できていない拠点』か『まだ見つけていない捜索中の拠点』となります。捜索中の拠点を指定した場合、発見し次第攻撃可能となります。
『3票以上』ある対象を票が多い順に中恭介が採用していきます。
票が固まらなかった場合全て無効扱いとなり、中恭介が適当に選びます。
投票は本戦争期間中ずっと有効です。
また、対象拠点はシナリオの成果に応じて発見できることがあります。
・補足ルール2
ヒノマル陸軍に所属する主要覚者の能力は殆どが未解明です。
しかし戦闘の中で能力を探り出すことで今後の依頼にその情報を反映することができます。
・補足ルール3
性質上『FH協定』をこちらから一方的に破棄することが可能です。
ただしそのためには『依頼参加者全員』の承認を必要とします。
協定を破棄した場合、互いに無秩序状態になり、捕虜の獲得や兵器の鹵獲、リンチによる完全殺害が可能になる反面、民間人や協力団体にも多大な被害が出ます。
※エネミースキャンについての追加ルール(当依頼限定)
ターンを消費してスキャンに集中したり、敵の能力を深く推察したり、調査する部分を限定したり、数人で分担したりといったプレイングがあるとスキャンの判定にボーナスをかけます。
・FH協定
ファイヴとヒノマル陸軍の間に交わされた戦争上の協定です。
戦闘に関係の無い民間人に被害を出したくないファイヴ。
兵器製造など戦争の準備を邪魔されたくないヒノマル陸軍。
双方の条件を満たすものとして、戦争におけるルール、つまり協定を結んでいます。
双方『ほぼ同格』の総合戦闘力を持ったチームを編成し、民間人に直接的被害の出ない場所で戦闘を行なうこと。
またファイヴが所属覚者を長期拘束できないため、ヒノマル側・ファイヴ側双方どちらが敗北した場合でも捕虜獲得や兵器鹵獲をせず、撤退を許すこと。
こうしたチーム戦で互いに要所を制圧・もしくは奪還し、来たるべき決戦の日に両者同時に拠点を襲撃・及び防衛し合うものである。
互いにルールの曲解や、逆手に取った悪用はしないことで合意しています。
==============================
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年12月01日
2016年12月01日
■メイン参加者 6人■

●鞍馬山キャンプ
京都府京都市左京区鞍馬本町、鞍馬寺。
幾何学模様の石タイルが美しい境内に、ファイヴのチームが集まっていた。
対するはヒノマル天狗チームあらため古妖隊。
恐らく教官を務めていたと思しき天狗『風車』と、四人の『都市伝説』古妖である。
わざわざこの場所で出してきたということは、キャンプで戦闘訓練を受けた古妖なのだろう。
鞍馬寺といえば源氏物語でいう北山寺。幼名牛若丸こと源義経が修行した地として有名である。
歴史的実績をもつゲリラキャンプ、と言ったところだろうか。
「……」
相手の古妖たちを観察する『狗吠』時任・千陽(CL2000014)。
口割け女、ベッドの下の斧男、人体模型、スレンダーマン。
四人とも風車同様ヒノマル陸軍の軍服を着用していた。
遠目に見ればそこいらの覚者と見分けが付かないような存在感である。
とはいえ口割け女は鉄のマスクを着用しているし、人体模型は顔だけの露出とはいえ右半身がグロテスクな内部組織が見えている。スレンダーマンに至っては軍服の丈を特別に伸ばし、顔を布で覆っていた。近づいてみればその異様さがはっきりと分かる古妖たちである。
人間社会に紛れた決定的な異常。都市伝説の特徴のひとつだ。
千陽は改めて風車に視線を送った。
「今回はクレタ人の嘘は必要ですか?」
「間違えるな、あれは自己言及のパラドクス。貴様の隙を引き出すためのデタラメだ。逆さ言葉ですらない。二度と敵に質問ごっこをしないことだな。冥土の土産に教えてくれるとでも思ったか」
不快感に目を細める千陽。
一方で『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は露骨に敵意をむき出しにした。
「やっぱりこいつ嫌いです! スネカ天狗を襲ったこと、僕は許してないからな」
「フン……」
風車は無表情に鼻を鳴らしている。そんな様子から、『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は今回の戦争に投入された覚醒隊長との違いに気がついた。
(こいつもしかして……煽られたらムキになるタイプかも)
少なくとも一覚隊の忍日とは真逆の、直情的で生真面目なタイプと見える。
(ときちかと似てるって言ったら、怒るかな……)
「うひい、こわいこわい。ぬりかべとか一反木綿なら和むけど、現代的な妖怪はガチの怖さやわ。モノホンのオバケやき。大丈夫? 恐くない?」
場をとりなすくらいのつもりで『戦場を舞う猫』鳴海 蕾花(CL2001006)に振ったが、すぐに目をそらした。
蕾花は腕を組んでひたすらイライラしているようだった。
こっちはこっちで少し前の千陽そっくりだった。
ヒノマル陸軍を暴走族か何かだと思ってこのやりとりを煩わしく思っているクチである。触れるとややこしくなるので、別の人に降ったことにして振り返る。
振り返られて、かくんと首を傾げる『猪突猛進』葛城 舞子(CL2001275)。
「え、私っすか? 大丈夫ッス! 現代妖怪はマジ苦手ッス! ちょっと手ぇ握ってていいッスか!」
「全然大丈夫じゃない!」
「ふー、とにかく!」
舞子はびしっと風車に二本指をつきつけた。
「ここであったが百年目! 葛城舞子ただいま参上ッス!」
いい具合に仕切りがついた。
舞子たちが覚醒状態になり、都市伝説たちもそれぞれの武装をアタッシュケースから取り出す。
そんな中、『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)は状況をはるか大局から俯瞰していた。
(こちらは暴力坂さえ倒せば七星剣幹部の討伐実績を得られる。戦争という形式を取っている以上、相手の大半はそれで降伏するでしょう。命数や魂の豊富さから考えて、こちらは死亡者が数人出れば多すぎるほどです。けれどヒノマル陸軍側は……? どの程度の被害で、何を得ると?)
誡女は腕を翳し、その手を特殊武装へと瞬間換装した。
「では、始めましょうか」
●都市伝説部隊
敵を観察する上で最初に分かったのは敵の隊列である。それだけではエネミースキャンと関係ないが、前衛を人体模型と斧男、中衛を口裂け女と風車、後衛をスレンダーマンで固めた突破陣形をとってきた。
このことから人体模型と斧男が他と比べて防御や体力に自信があり、スレンダーマンが注意すべき敵であることをなんとなく察することができる。
誡女は武装義腕の側面から術式チャフを散布。すぐさまもう一本の義腕から術式性精神安定ガスを散布していく。
「予想では口割け女はスピードタイプ。出血を警戒して下さい。斧男はパワータイプ。重力系、もしくは致命スキルに警戒を。スレンダーマンは混乱や毒を警戒してください!」
誡女の呼びかけはスキャン結果によるものではないが、完璧以上の予測だった。あとは他のメンバーがその事前予測をどれだけアテにしてくれるかなのだが……。
「こいつは僕にまかせて!」
小唄は守護使役から飛び出したガントレットを両腕に装着。徒手空拳でタックルを仕掛けてくる人体模型と組み合った。
「このくらい……負けるもんか!」
相手の身体に拳を押しつけ、衝撃チップを発射。と同時に衝撃を周囲に拡散させ、人体模型を吹き飛ばす。
衝撃の波を強引に駆け抜け、斧男が大上段から斧を叩き込んでくる。
蕾花はその脇の下をくぐり抜けるようにしてクナイを叩き込む。
反転して二撃目を突き立てる……が、斧男は身をひねって蕾花の腕を斧で打った。
咄嗟にクナイを手放して飛んだので切断こそされなかったものの、骨が完全にへし折れた。
これでは体術が使えない。
「負荷効果がありそうなら早く言ってよ!」
「ある程度までは自然治癒に任せて、術式攻撃に切り替えてください」
「チッ……!」
とはいえ、『ベッドの下の斧男』はベッドから出てしまえばただの斧を持った男である。戦闘訓練を受けて多少は技術や耐久力を備えたようだが正面からぶつかって勝てないとは思えない。
むしろあの都市伝説には、斧男が返り討ちに遭う発展系も多いくらいなのだから。
「二人がブロックしているうちに我々は集中攻撃に移りましょう」
銃を抜き、風車たちに照準を合わせる千陽。
「風車、貴様も途は違えど護国の志は同じくするのだろう。だが国の礎たる方を蔑ろにするやり方は気に食わない。かのお方は平和を望んだ。ならばその望みを叶える。時任千陽特務少尉です。貴様らを俺の信念でもって、食い止める」
トリガーを引こうとした途端、背後にスレンダーマンの気配を感じた。
気配である。
気配。
息づかいや物音や事前情報とは全く異なる、気配としか言いようのない本能的な感覚である。
「ぐっ……!」
振り向き、銃を乱射する千陽。
スレンダーマンはそれを横っ飛びに回避――したかと思ったらそれは舞子だった。
「なにするんスか!」
「す、すみませ――」
舞子は千陽を『敵を見るような目』で見ると、ボウガンの矢を放った。
狙いは大きくブレていて、矢は明後日の方向へと飛んでいく。
「ってうあ! 千陽さん! なんで私千景さん撃ってるんスか!」
「これは混乱BS……しっかりと予想できていたのに!」
対策を全く考えていなかった。混乱BSだと確定していたわけではないので無理からぬが、それ以前にBS全般への対策がかなりおろそかになっていたのは否めない。
もしこの勝負に敗北し、そこに敗因があっとしたら、こうした分かっていたが見過ごした要素の積み重ねに他ならないだろう。
更に言えば……。
「攻撃目標、スレンダーマン! 集中砲火!」
「うぃッス!」
千陽がスレンダーマンに烈空波を放ち、舞子もそれに続いて破眼光を照射。
しかし蕾花や小唄たちは敵後衛への攻撃方法を持っていないので集中攻撃対象が大きくバラけるという、今回の作戦においてかなりマイナスな事態に陥っていた。
たとえば小唄は数の有利を活かして敵の頭数を素早く減らし、押しつぶすようにして圧倒していくプランを考えていた。今回のケース(敵味方の顔ぶれを総合してのケース)ではとても有効な手段である。
舞子も一人一人がなにかしら面倒くさそうな敵だから集中攻撃で確実に倒していこうとしていて、非常に当を得たプランだ。
誡女が事前に立てた敵能力の予想は完璧以上のものだったので、エネミースキャンはかなりの効率で進んでいる。
個人個人はかなり優秀なプランを立てているが、実際的な行動が噛み合っていなかったり各個人の動き方が微妙にバラけていたりといったマイナスポイントが、序盤の戦況を苦しいものにしていた。
「ううっ、よく考えたらこの辺古妖沢山おるやん! だよなー古妖の訓練キャンプだもんなー」
潜伏している古妖がいないか疑っていたジャックだが、こうなってくるとこの古妖の気配がなんなのか疑ってしまって余計に恐い。まあ協定があるので戦闘に加わってくることはないだろうが……。
千陽と打ち合う風車に呼びかけてみる。
「風車、弓はどうしたん? 出し惜しみすんなよ、全部出せ」
「知ったことか!」
ムキになって言い返してくる辺り今回はスロットしていないと見るべきか。
直情的だが生真面目という性格からして、煽られたからといって技を出し惜しみしたり無駄な攻撃を挟んだり、まして協定違反を犯したりはしないだろう。
乱暴な言い方だが、挑発して敵の伏せ札を開かせるというのは相手が馬鹿でないと成立しない技法である。例えば冥土の土産とかいって裏の事情を全部敵に喋るタイプである。味方のメインチームには絶対いてほしくないタイプだ。それはヒノマルも同じだろう。
「とりま、敵に回復担当がいるかどうかだけみとくか!」
魔導書のページから炎のボールを抜き出すと、上空に投げるジャック。
「全員ぶっとべ!」
上空で爆発した炎が波となり、敵全体を覆っていく。
全体攻撃を何発か当ててみればある程度のことは分かってくるものだが、(その間にサクッと死ぬ可能性を覗けば)回復を担当しているメンバーや味方ガードのみを担当しているメンバーがわかる。ちなみに味方がピンチにならないとガードしない相手に関してはちょっとわからない。
とりあえず……。
「対抗して回復する奴はナシ」
「人体模型は回復担当かと思いましたが、どうやらそんなこともなさそうですね……」
誡女は内蔵パーツを用いた回復でもするのかと考えたのだが、よく考えたら『心臓が潰れたから僕の心臓あげるね』みたいな回復もないだろう。
となると彼は、ただ動くだけの人型硬質合成樹脂ということになる。
「前衛に出てきていますから、比較的耐久力の高いユニットということでしょう。しかし……」
組み立てるべきはここからの戦術である。
今のところ斧男の負荷攻撃、口割け女のスピード、人体模型の耐久力、そしてスレンダーマンの混乱攻撃に警戒する必要がある。風車は良くも悪くもスペック的な特出がないので警戒対象から外していいだろう。
「今から俺ら、ちょっと不利なカンジになるよな」
●社会恐怖から生まれた古妖
スレンダーマン。口割け女。ベッドの下の斧男。
この三人の古妖にはある共通点がある。
口割け女は特定の質問をして、逃げても猛スピードで追いかけて殺すという怪談。
斧男は自宅のベッドの下に見知らぬ男が斧を持って潜んでいるという怪談。
スレンダーマンは誰かが子供を浚ったりあとをつけ回したりするという怪談。
社会がある程度平和になり、飢餓や貧困が国を覆わなくなり、精神的余裕が生まれた結果犯罪が陰湿化し、ストーカー被害や子供を狙った犯罪が蔓延した時期に広まった都市伝説だ。
中でも最も広く、そして大きな混乱を招いたのはスレンダーマンである。
そんな彼が古妖としてハッキリと顕現し、訓練を受けた末に獲得したのが敵に強い疑心暗鬼や錯覚を起こさせるというものである。
ジャックは混乱状態をなんとか自力で振り払い、スレンダーマンめがけて破眼光を発射した。
「『ゆらぎ』があるから仲間を殴り倒しちゃう心配薄いんやけど、こうも頻繁に混乱するのは……!」
癒力活性を展開して少しでもBSのリカバリーをはかろうとする誡女。かすれ声で仲間へ呼びかけた。
「味方にダメージを与えて解除を狙いますか?」
「ダメっすよ、装備とかの準備なしにやったら流石にやりすぎちゃいッスから」
舞子はどこからか取り出したバケツに術式性の神秘水を溜めると、混乱している小唄に頭からぶっかけた。なんでかって、彼の通常攻撃が一番痛くて恐いからである。
「わっぷ!」
頭をぷるぷるとやって水を払う小唄。
「ふう、深想水もってきてて助かったッス!」
「これ以上やられてたまるか」
ジャックは氷のスティックを魔導書から引っ張り出すと、宙に放り投げて巨大な三叉槍へと成長させた。
キャッチアンドスロー。
「テレポートとかしてよけるなや!?」
「――!?」
スレンダーマンの胴体を貫いていく槍。スレンダーマンは最初から居なかったかのようにかき消え、戦場から離脱した。
額の汗をぬぐうジャック。
「まずひとり……」
スレンダーマンを集中攻撃で倒した彼らだが、それまでにかかった時間が長かったことでかなりの不利に追い込まれていた。
数的有利も今は無くなっている。
「どっかへ帰れ、斧男!」
蕾花は斧男の腹にクナイを突っ込み、複雑に切り裂いていく。
対抗して振り込んできた斧が肩にざっくりと食い込むが、蕾花はぎりぎりでこらえた。
「そこです」
ナイフを逆手に構えた千陽が飛び込み、足の筋を切断。
更に相手の腕を掴んで足を引っかけると、顔面を地面の石畳に叩き付けた。
地響きともとれるような衝撃をおこし、ついにがっくりと脱力する斧男。
「これで、次は――」
攻撃優先順位を全員で共有していたが『BS系敵→(いれば)回復手→アタッカー→天狗』と途中からかなりざっくりしていたせいでスレンダーマン移行は流れで攻撃することになっていた。
結果、人体模型・斧男・風車の前中衛スイッチングにかなりネバられてしまった。
千陽たちの体力もそろそろ限界だ。
「口割け女、人体模型、下がれ。あとは私がカタをつける」
飛行を解き、地面に立って刀を構える風車。
「ナメるな、軍隊の皮を被った蛮族風情が。いつまでも戦争ごっこなんかしてるつもりはないんだよ」
「……」
体力的には限界だったが、今は回復できる仲間もいない。蕾花と千陽はそれぞれクナイやナイフを構えて突撃。
対する風車は刀を超高速で閃かせることで見えない斬撃を打ち込み、二人の間をすり抜けるように高速移動した。
刀をフェンシングの剣のように突き出すように抜く姿勢で停止すると、千陽と蕾花は激しく出血。膝を突いた。
「千陽先輩! 蕾花先輩!」
小唄の呼びかけに応え、千陽は僅かに顔を上げた。
「きわめて高い命中補正をもつ近接攻撃です。出血系のBSもついています。気をつけ、て……」
小唄は千景から視線をきり、風車をにらみ付けた。
「風車。奏空君のことを子供の理屈と切って捨てるようなお前なんかに、成長し続ける僕たちが負けるもんか!」
「フン、子供の理屈だからそう述べたまでだ。嫌なら大人になるんだな」
「それの考え方が――!」
小唄は全力でダッシュをかけた。
同じく走り込む風車。
小唄のパンチと相手の刀がぶつかって交差。高速クイックターンで繰り出した後ろ回し蹴りを刀の柄で払う風車――に対して。
「全力でぶつかる! 勝って、進むんだ!」
小唄は拳を地面に叩き付け、衝撃チップを発射。
自らをわざと飛ばすと、風車の顔面めがけて踵蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ……!?」
吹き飛ばされ、地面を転がる風車。
口裂け女たちが悲鳴に近い声をあげた。
「アアッ! キョウカン! シナナイデ!」
「おしまいだわ、風車さんが死んだら私はおしまいだわ! あああああああ!」
「ええい、うろたえるな!」
むくりと起き上がり、咳き込みながら叫ぶ風車。
どうやら人体模型は知能が、口割け女はメンタルが弱点のようだ。
「我々は撤退する。拠点を引き払うぞ」
「エッ? アッハイ、キョウカン!」
倒れた斧男を担いで撤退を始める人体模型。
口裂け女たちもすぐに撤退を始めた。
残された小唄は……。
「まだだ、まだまだ……これから……」
疲労のあまり、ぐったりとその場にうずくまった。
――拠点『鞍馬山キャンプ』の制圧に成功しました。
京都府京都市左京区鞍馬本町、鞍馬寺。
幾何学模様の石タイルが美しい境内に、ファイヴのチームが集まっていた。
対するはヒノマル天狗チームあらため古妖隊。
恐らく教官を務めていたと思しき天狗『風車』と、四人の『都市伝説』古妖である。
わざわざこの場所で出してきたということは、キャンプで戦闘訓練を受けた古妖なのだろう。
鞍馬寺といえば源氏物語でいう北山寺。幼名牛若丸こと源義経が修行した地として有名である。
歴史的実績をもつゲリラキャンプ、と言ったところだろうか。
「……」
相手の古妖たちを観察する『狗吠』時任・千陽(CL2000014)。
口割け女、ベッドの下の斧男、人体模型、スレンダーマン。
四人とも風車同様ヒノマル陸軍の軍服を着用していた。
遠目に見ればそこいらの覚者と見分けが付かないような存在感である。
とはいえ口割け女は鉄のマスクを着用しているし、人体模型は顔だけの露出とはいえ右半身がグロテスクな内部組織が見えている。スレンダーマンに至っては軍服の丈を特別に伸ばし、顔を布で覆っていた。近づいてみればその異様さがはっきりと分かる古妖たちである。
人間社会に紛れた決定的な異常。都市伝説の特徴のひとつだ。
千陽は改めて風車に視線を送った。
「今回はクレタ人の嘘は必要ですか?」
「間違えるな、あれは自己言及のパラドクス。貴様の隙を引き出すためのデタラメだ。逆さ言葉ですらない。二度と敵に質問ごっこをしないことだな。冥土の土産に教えてくれるとでも思ったか」
不快感に目を細める千陽。
一方で『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は露骨に敵意をむき出しにした。
「やっぱりこいつ嫌いです! スネカ天狗を襲ったこと、僕は許してないからな」
「フン……」
風車は無表情に鼻を鳴らしている。そんな様子から、『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は今回の戦争に投入された覚醒隊長との違いに気がついた。
(こいつもしかして……煽られたらムキになるタイプかも)
少なくとも一覚隊の忍日とは真逆の、直情的で生真面目なタイプと見える。
(ときちかと似てるって言ったら、怒るかな……)
「うひい、こわいこわい。ぬりかべとか一反木綿なら和むけど、現代的な妖怪はガチの怖さやわ。モノホンのオバケやき。大丈夫? 恐くない?」
場をとりなすくらいのつもりで『戦場を舞う猫』鳴海 蕾花(CL2001006)に振ったが、すぐに目をそらした。
蕾花は腕を組んでひたすらイライラしているようだった。
こっちはこっちで少し前の千陽そっくりだった。
ヒノマル陸軍を暴走族か何かだと思ってこのやりとりを煩わしく思っているクチである。触れるとややこしくなるので、別の人に降ったことにして振り返る。
振り返られて、かくんと首を傾げる『猪突猛進』葛城 舞子(CL2001275)。
「え、私っすか? 大丈夫ッス! 現代妖怪はマジ苦手ッス! ちょっと手ぇ握ってていいッスか!」
「全然大丈夫じゃない!」
「ふー、とにかく!」
舞子はびしっと風車に二本指をつきつけた。
「ここであったが百年目! 葛城舞子ただいま参上ッス!」
いい具合に仕切りがついた。
舞子たちが覚醒状態になり、都市伝説たちもそれぞれの武装をアタッシュケースから取り出す。
そんな中、『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)は状況をはるか大局から俯瞰していた。
(こちらは暴力坂さえ倒せば七星剣幹部の討伐実績を得られる。戦争という形式を取っている以上、相手の大半はそれで降伏するでしょう。命数や魂の豊富さから考えて、こちらは死亡者が数人出れば多すぎるほどです。けれどヒノマル陸軍側は……? どの程度の被害で、何を得ると?)
誡女は腕を翳し、その手を特殊武装へと瞬間換装した。
「では、始めましょうか」
●都市伝説部隊
敵を観察する上で最初に分かったのは敵の隊列である。それだけではエネミースキャンと関係ないが、前衛を人体模型と斧男、中衛を口裂け女と風車、後衛をスレンダーマンで固めた突破陣形をとってきた。
このことから人体模型と斧男が他と比べて防御や体力に自信があり、スレンダーマンが注意すべき敵であることをなんとなく察することができる。
誡女は武装義腕の側面から術式チャフを散布。すぐさまもう一本の義腕から術式性精神安定ガスを散布していく。
「予想では口割け女はスピードタイプ。出血を警戒して下さい。斧男はパワータイプ。重力系、もしくは致命スキルに警戒を。スレンダーマンは混乱や毒を警戒してください!」
誡女の呼びかけはスキャン結果によるものではないが、完璧以上の予測だった。あとは他のメンバーがその事前予測をどれだけアテにしてくれるかなのだが……。
「こいつは僕にまかせて!」
小唄は守護使役から飛び出したガントレットを両腕に装着。徒手空拳でタックルを仕掛けてくる人体模型と組み合った。
「このくらい……負けるもんか!」
相手の身体に拳を押しつけ、衝撃チップを発射。と同時に衝撃を周囲に拡散させ、人体模型を吹き飛ばす。
衝撃の波を強引に駆け抜け、斧男が大上段から斧を叩き込んでくる。
蕾花はその脇の下をくぐり抜けるようにしてクナイを叩き込む。
反転して二撃目を突き立てる……が、斧男は身をひねって蕾花の腕を斧で打った。
咄嗟にクナイを手放して飛んだので切断こそされなかったものの、骨が完全にへし折れた。
これでは体術が使えない。
「負荷効果がありそうなら早く言ってよ!」
「ある程度までは自然治癒に任せて、術式攻撃に切り替えてください」
「チッ……!」
とはいえ、『ベッドの下の斧男』はベッドから出てしまえばただの斧を持った男である。戦闘訓練を受けて多少は技術や耐久力を備えたようだが正面からぶつかって勝てないとは思えない。
むしろあの都市伝説には、斧男が返り討ちに遭う発展系も多いくらいなのだから。
「二人がブロックしているうちに我々は集中攻撃に移りましょう」
銃を抜き、風車たちに照準を合わせる千陽。
「風車、貴様も途は違えど護国の志は同じくするのだろう。だが国の礎たる方を蔑ろにするやり方は気に食わない。かのお方は平和を望んだ。ならばその望みを叶える。時任千陽特務少尉です。貴様らを俺の信念でもって、食い止める」
トリガーを引こうとした途端、背後にスレンダーマンの気配を感じた。
気配である。
気配。
息づかいや物音や事前情報とは全く異なる、気配としか言いようのない本能的な感覚である。
「ぐっ……!」
振り向き、銃を乱射する千陽。
スレンダーマンはそれを横っ飛びに回避――したかと思ったらそれは舞子だった。
「なにするんスか!」
「す、すみませ――」
舞子は千陽を『敵を見るような目』で見ると、ボウガンの矢を放った。
狙いは大きくブレていて、矢は明後日の方向へと飛んでいく。
「ってうあ! 千陽さん! なんで私千景さん撃ってるんスか!」
「これは混乱BS……しっかりと予想できていたのに!」
対策を全く考えていなかった。混乱BSだと確定していたわけではないので無理からぬが、それ以前にBS全般への対策がかなりおろそかになっていたのは否めない。
もしこの勝負に敗北し、そこに敗因があっとしたら、こうした分かっていたが見過ごした要素の積み重ねに他ならないだろう。
更に言えば……。
「攻撃目標、スレンダーマン! 集中砲火!」
「うぃッス!」
千陽がスレンダーマンに烈空波を放ち、舞子もそれに続いて破眼光を照射。
しかし蕾花や小唄たちは敵後衛への攻撃方法を持っていないので集中攻撃対象が大きくバラけるという、今回の作戦においてかなりマイナスな事態に陥っていた。
たとえば小唄は数の有利を活かして敵の頭数を素早く減らし、押しつぶすようにして圧倒していくプランを考えていた。今回のケース(敵味方の顔ぶれを総合してのケース)ではとても有効な手段である。
舞子も一人一人がなにかしら面倒くさそうな敵だから集中攻撃で確実に倒していこうとしていて、非常に当を得たプランだ。
誡女が事前に立てた敵能力の予想は完璧以上のものだったので、エネミースキャンはかなりの効率で進んでいる。
個人個人はかなり優秀なプランを立てているが、実際的な行動が噛み合っていなかったり各個人の動き方が微妙にバラけていたりといったマイナスポイントが、序盤の戦況を苦しいものにしていた。
「ううっ、よく考えたらこの辺古妖沢山おるやん! だよなー古妖の訓練キャンプだもんなー」
潜伏している古妖がいないか疑っていたジャックだが、こうなってくるとこの古妖の気配がなんなのか疑ってしまって余計に恐い。まあ協定があるので戦闘に加わってくることはないだろうが……。
千陽と打ち合う風車に呼びかけてみる。
「風車、弓はどうしたん? 出し惜しみすんなよ、全部出せ」
「知ったことか!」
ムキになって言い返してくる辺り今回はスロットしていないと見るべきか。
直情的だが生真面目という性格からして、煽られたからといって技を出し惜しみしたり無駄な攻撃を挟んだり、まして協定違反を犯したりはしないだろう。
乱暴な言い方だが、挑発して敵の伏せ札を開かせるというのは相手が馬鹿でないと成立しない技法である。例えば冥土の土産とかいって裏の事情を全部敵に喋るタイプである。味方のメインチームには絶対いてほしくないタイプだ。それはヒノマルも同じだろう。
「とりま、敵に回復担当がいるかどうかだけみとくか!」
魔導書のページから炎のボールを抜き出すと、上空に投げるジャック。
「全員ぶっとべ!」
上空で爆発した炎が波となり、敵全体を覆っていく。
全体攻撃を何発か当ててみればある程度のことは分かってくるものだが、(その間にサクッと死ぬ可能性を覗けば)回復を担当しているメンバーや味方ガードのみを担当しているメンバーがわかる。ちなみに味方がピンチにならないとガードしない相手に関してはちょっとわからない。
とりあえず……。
「対抗して回復する奴はナシ」
「人体模型は回復担当かと思いましたが、どうやらそんなこともなさそうですね……」
誡女は内蔵パーツを用いた回復でもするのかと考えたのだが、よく考えたら『心臓が潰れたから僕の心臓あげるね』みたいな回復もないだろう。
となると彼は、ただ動くだけの人型硬質合成樹脂ということになる。
「前衛に出てきていますから、比較的耐久力の高いユニットということでしょう。しかし……」
組み立てるべきはここからの戦術である。
今のところ斧男の負荷攻撃、口割け女のスピード、人体模型の耐久力、そしてスレンダーマンの混乱攻撃に警戒する必要がある。風車は良くも悪くもスペック的な特出がないので警戒対象から外していいだろう。
「今から俺ら、ちょっと不利なカンジになるよな」
●社会恐怖から生まれた古妖
スレンダーマン。口割け女。ベッドの下の斧男。
この三人の古妖にはある共通点がある。
口割け女は特定の質問をして、逃げても猛スピードで追いかけて殺すという怪談。
斧男は自宅のベッドの下に見知らぬ男が斧を持って潜んでいるという怪談。
スレンダーマンは誰かが子供を浚ったりあとをつけ回したりするという怪談。
社会がある程度平和になり、飢餓や貧困が国を覆わなくなり、精神的余裕が生まれた結果犯罪が陰湿化し、ストーカー被害や子供を狙った犯罪が蔓延した時期に広まった都市伝説だ。
中でも最も広く、そして大きな混乱を招いたのはスレンダーマンである。
そんな彼が古妖としてハッキリと顕現し、訓練を受けた末に獲得したのが敵に強い疑心暗鬼や錯覚を起こさせるというものである。
ジャックは混乱状態をなんとか自力で振り払い、スレンダーマンめがけて破眼光を発射した。
「『ゆらぎ』があるから仲間を殴り倒しちゃう心配薄いんやけど、こうも頻繁に混乱するのは……!」
癒力活性を展開して少しでもBSのリカバリーをはかろうとする誡女。かすれ声で仲間へ呼びかけた。
「味方にダメージを与えて解除を狙いますか?」
「ダメっすよ、装備とかの準備なしにやったら流石にやりすぎちゃいッスから」
舞子はどこからか取り出したバケツに術式性の神秘水を溜めると、混乱している小唄に頭からぶっかけた。なんでかって、彼の通常攻撃が一番痛くて恐いからである。
「わっぷ!」
頭をぷるぷるとやって水を払う小唄。
「ふう、深想水もってきてて助かったッス!」
「これ以上やられてたまるか」
ジャックは氷のスティックを魔導書から引っ張り出すと、宙に放り投げて巨大な三叉槍へと成長させた。
キャッチアンドスロー。
「テレポートとかしてよけるなや!?」
「――!?」
スレンダーマンの胴体を貫いていく槍。スレンダーマンは最初から居なかったかのようにかき消え、戦場から離脱した。
額の汗をぬぐうジャック。
「まずひとり……」
スレンダーマンを集中攻撃で倒した彼らだが、それまでにかかった時間が長かったことでかなりの不利に追い込まれていた。
数的有利も今は無くなっている。
「どっかへ帰れ、斧男!」
蕾花は斧男の腹にクナイを突っ込み、複雑に切り裂いていく。
対抗して振り込んできた斧が肩にざっくりと食い込むが、蕾花はぎりぎりでこらえた。
「そこです」
ナイフを逆手に構えた千陽が飛び込み、足の筋を切断。
更に相手の腕を掴んで足を引っかけると、顔面を地面の石畳に叩き付けた。
地響きともとれるような衝撃をおこし、ついにがっくりと脱力する斧男。
「これで、次は――」
攻撃優先順位を全員で共有していたが『BS系敵→(いれば)回復手→アタッカー→天狗』と途中からかなりざっくりしていたせいでスレンダーマン移行は流れで攻撃することになっていた。
結果、人体模型・斧男・風車の前中衛スイッチングにかなりネバられてしまった。
千陽たちの体力もそろそろ限界だ。
「口割け女、人体模型、下がれ。あとは私がカタをつける」
飛行を解き、地面に立って刀を構える風車。
「ナメるな、軍隊の皮を被った蛮族風情が。いつまでも戦争ごっこなんかしてるつもりはないんだよ」
「……」
体力的には限界だったが、今は回復できる仲間もいない。蕾花と千陽はそれぞれクナイやナイフを構えて突撃。
対する風車は刀を超高速で閃かせることで見えない斬撃を打ち込み、二人の間をすり抜けるように高速移動した。
刀をフェンシングの剣のように突き出すように抜く姿勢で停止すると、千陽と蕾花は激しく出血。膝を突いた。
「千陽先輩! 蕾花先輩!」
小唄の呼びかけに応え、千陽は僅かに顔を上げた。
「きわめて高い命中補正をもつ近接攻撃です。出血系のBSもついています。気をつけ、て……」
小唄は千景から視線をきり、風車をにらみ付けた。
「風車。奏空君のことを子供の理屈と切って捨てるようなお前なんかに、成長し続ける僕たちが負けるもんか!」
「フン、子供の理屈だからそう述べたまでだ。嫌なら大人になるんだな」
「それの考え方が――!」
小唄は全力でダッシュをかけた。
同じく走り込む風車。
小唄のパンチと相手の刀がぶつかって交差。高速クイックターンで繰り出した後ろ回し蹴りを刀の柄で払う風車――に対して。
「全力でぶつかる! 勝って、進むんだ!」
小唄は拳を地面に叩き付け、衝撃チップを発射。
自らをわざと飛ばすと、風車の顔面めがけて踵蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ……!?」
吹き飛ばされ、地面を転がる風車。
口裂け女たちが悲鳴に近い声をあげた。
「アアッ! キョウカン! シナナイデ!」
「おしまいだわ、風車さんが死んだら私はおしまいだわ! あああああああ!」
「ええい、うろたえるな!」
むくりと起き上がり、咳き込みながら叫ぶ風車。
どうやら人体模型は知能が、口割け女はメンタルが弱点のようだ。
「我々は撤退する。拠点を引き払うぞ」
「エッ? アッハイ、キョウカン!」
倒れた斧男を担いで撤退を始める人体模型。
口裂け女たちもすぐに撤退を始めた。
残された小唄は……。
「まだだ、まだまだ……これから……」
疲労のあまり、ぐったりとその場にうずくまった。
――拠点『鞍馬山キャンプ』の制圧に成功しました。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
