アタック・オブ・ザ・キラーサツマイモ
アタック・オブ・ザ・キラーサツマイモ



「えらいこっちゃあ……」
 農家のナカジマは、畑のあぜ道に鎌を取り落とし、呆然と呟いた。
 彼は今、サツマイモ――12月を旬の走りとする、東日本産――の収穫に来ていた。
 ナカジマのイモは、彼が長年の研究改良を重ねて完成させた理想の品種だ。
 焼いて良し、蒸かして良し、煮ても揚げても良し。秘伝の麹で仕込んだ単式蒸留の芋焼酎にいたっては、言葉を失う美味さ。あらゆる調理法、あらゆる食材に合う、彼の最高傑作なのだ。
 あとは収穫を終え、妻と経営する料理店で、温かいイモ料理にして出すだけ――
 だったのだが。
「ワシの可愛いイモたちがああああああ!!」
「「イモオオオオオオーーッ!!」」
 何ということだろう。
 彼のイモたちは一晩にして妖と化し、おぞましい殺人イモへと変貌を遂げていたのだ!
「しまっ……」
「「イモォッ!?」」
 悲嘆のあまり声を漏らしてしまったナカジマに、イモ妖が一斉に振り向いた。
 ナカジマは思わず口を押さえたが、時すでに遅し。
 イモ妖の群れが、蔓でできた手足を振り回しながら、雪崩をうって迫ってきた。
「「イモオオオオオオーーーーーーッ!!」」
「助けてくれえ!」
 悲鳴をあげ、逃げるナガジマ。
 無論逃げ切れるはずもなく、妖の蔓に雁字がらめにされて彼は死んだ。


「……という夢を見た」
 久方 相馬(nCL2000004)はいつになくまじめな表情で、参加者たちを見た。
「このままでは妖と化したサツマイモがナカジマさんを殺害し、収穫を控えた他所のイモ畑を滅茶苦茶にしてしまう。そうなる前に彼らを撃破して、元のイモに戻してやってほしい」
 イモの妖は計6匹。いずれも生物系で、ランク1とランク2の混成部隊だ。長くて頑丈な芋蔓を人の手足のように動かしながら、移動・攻撃を行ってくる。注意を要する能力などは有していないが、群れての行動を許すと、撃破に少し手間取るかもしれない。
 戦いは、ナカジマが妖を畑で目撃した時点からスタート。ナカジマは妖との戦闘が始まれば自分で逃げるので、特段フォローの必要はない。10秒も猶予があれば十分だろう。戦場となる畑は、妖化したイモ以外は収穫を終えているので、派手に暴れても問題ないとのことだ。
 なお、妖化が解けて元に戻ったサツマイモは、ナカジマさんの店で料理として振舞ってくれる。焼き芋、スイートポテト、大学芋、芋焼酎……未成年の飲酒はNGだが、リクエストすれば大抵のものは作ってくれるそうだ。
「妖を討伐した後は、イモ料理で一服して戻ってくるといいだろう。ナカジマさんのため、人々の焼きイモのため、頑張ってくれ!」
 そう言って、相馬は話を終えた。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:坂本ピエロギ
■成功条件
1.妖の撃破
2.サツマイモ料理を楽しむ
3.ナカジマの生存
ピエロギです。
この依頼は、戦闘パートと食事パートの2つで構成されます。
活躍したいパートの指定があれば、そちらを重点的に描写させていただきます。

●ロケーション
40×40メートルの畑(耕作地)が舞台となります。時刻は早朝、晴天です。
妖は畑の中央辺り、ナカジマは妖から20メートルほど離れたあぜ道にいます。
戦場となる畑は無人の休耕地ですので、派手に暴れても問題ありません。

戦いが終わった後は、ナカジマが店でイモ料理を振舞ってくれます。
リクエストの料理があれば、プレイングにお書き下さい。
※未成年の飲酒喫煙はNGです

●敵
キラーサツマイモ × 6
種類:いずれも生物系
ランク1:5匹
ランク2:1匹

イモ農家のナカジマが育てたサツマイモが妖化したもの。
人間の手足を模した蔓草を動かし、遠近織り交ぜたスタイルで戦います。
特筆する能力などは有していませんが、そこそこ頭数が揃っていますので、
油断していると討伐に手間取る恐れがあります。

・攻撃
ランク1
投石:物遠単
薙ぎ払い:物近列

ランク2
投石:物遠単
締め付け:物近単(鈍化)
突き刺し:物近貫2(100%・50%・―)
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
公開日
2016年12月28日

■メイン参加者 7人■

『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『雷麒麟』
天明 両慈(CL2000603)
『願いの花』
田中 倖(CL2001407)
『突撃爆走ガール』
葛城 舞子(CL2001275)
『Overdrive』
片桐・美久(CL2001026)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)


「危なかったですね。怪我はありませんか?」
「だ……大丈夫だ。ありがとう」
 朝日が照る畑のあぜ道で、黒髪の少女『中学生』菊坂 結鹿(CL2000603)は、息を切らすナカジマの肩をぽんと叩いた。結鹿とその仲間達の助けで、彼は死を逃れることが出来たのだった。
「後はわたし達FiVEに任せてください。妖はきっちり倒しますから!」
 胸を張ってナカジマを勇気づける結鹿に、
「菊坂さーん! 加勢を頼みます!」
 『スーパー事務員』田中 倖(CL2001407)が畑で呼ぶのが聞こえる。結鹿たちの仕事は、ここからが本番だ。
「くらえ!!」
 ズシイィィン
「イモオォォォ!!」
 畑からは轟音と共に火柱が立ち昇り、妖が煙を上げて吹き飛んでいる。
 『スポーティー探偵』華神 悠乃(CL2000231)の炎柱による攻撃だ。
「ナカジマさん。安全になるまで、ここを動かないで下さいね」
 結鹿はそう言い残すと、銀色に変じた髪をなびかせ、畑へと駆けて行った。


 改めて、戦況を解説しておこう。
 覚者とイモ妖、彼我の数差は7対6。頭数はほぼ拮抗した状態といえる。
 隊形は、覚者側が前衛4、中衛2、後衛1。対する妖は6匹全て前衛だ。
『敗北の可能性は皆無。ただし殲滅には手間取る恐れあり』
 それが、出発前にFiVEが弾き出した予想だった。
 しかし――
「おいしい食事はひとを幸せにするッ!」
 突き刺すような悠乃の豪炎撃が、
「良質な食材を提供する方は、人類の宝! にもかかわらず、丹精込めて育てられた恩を忘れるかのような妖化ッッッ!!」
 イモ妖の腕といわず胴といわず、
「こいつはメチャゆるさんよなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 あらゆる部位を打ち砕いて――
「イ……イモオオオーッ!」
 早くも1匹を消滅させる。
 さらに続いて、
「美味しく食べてあげるから、観念するッス!」
 『猪突猛進』葛城 舞子(CL2001275)の破眼光が空気を切り裂き、妖を蜂の巣にした。
 あえて食事を抜いて戦いに臨んだ故か、その迫力は鬼気迫るものがある。
「わざわざ固まってくれるとは有難い。始末の手間が省ける」
 そこへ、『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)の雷獣が敵の前列を薙ぎ払う。
 雷撃で吹き上がる土煙に巻き込まれ、妖たちが悲鳴を上げて宙を踊った。
「念を込めて殺ってやるぜー! おいしくなーれ!」
 さらに新咎 罪次(CL2001224)の隆神槍と、
「さあ、美味しい焼き芋のための礎になってください!」
 『Overdrive』片桐・美久(CL2001026)が、両刃剣KIMIHIKOを手に、妖を地烈で切り裂く。
「イモォ!」「イモォ!」「イモォ!」
 焼かれ、貫かれ、打たれ、突かれ、斬られ……
 およそ反撃らしい反撃も出来ぬまま、妖たちは瞬く間に窮地に追い込まれた。
「どうやら、完全に僕たちのペースですね」
 鋭刃脚で妖を切り裂きながら、倖が呟く。
(嬉しい誤算でした。皆さん、ここまでやる気とは)
 倖の誤算。それは仲間の戦意が――食い物の恨みは何とやら――尋常でなく高かったことだ。
 能面のごとき表情で、一切容赦せずに妖を攻めている悠乃。
 眉ひとつ動かさず、捕縛蔓で捕えた妖をなます切りにする美久。
 舞子に至っては、妖を見つめる目つきが、完全に飢えた獣のそれだ。
 対する妖は気迫に呑まれ、完全に浮足立っている。
「いけそうです。押し込みますか?」
 頃合いと見た倖が、エネミースキャンの結果を仲間達に告げる。
 足並みを乱した敵陣へ、火力全開での力押し。
 スマートなやり方とは言い難いが、今の状況ならこれが一番確実だろう。
「腹へったッス……もう飢え死にしそうッス……」
「なんでもいいぜー! ウマいなら!!」
「わたし、沢山お料理したいです。レモン煮に羊羹、グラタンに大学芋に、それから」
「……愚問だったようですね」
 かぶりを振る倖の横から、結鹿が敵陣へ切り込んだ。
「美味しいお料理になってもらいます!」
 結鹿の蒼龍が、瀕死の妖を重突で薙ぎ払い、イモ妖はリーダー格の1匹を残して消滅。
 寸暇をおかず、最後の1匹めがけて覚者の攻撃が殺到した。
「イ……イモオオォォォォ!!」
 美久の斬・一の構えがトドメとなり、断末魔の叫びと共に妖は消滅。
 妖の群れが食材の芋へと戻るのに、40秒とかからなかった。
「うぅ、いっぱい動いたらお腹が空きました」
 腹をさする美久の足下には、6本の芋がもの言わぬ姿で転がっていた。


 助けてくれたお礼にと案内されたナカジマの料理屋は、小さいながらもこざっぱりとした店だった。
「両慈さん! お芋料理、すっごく楽しみですね!」
「……ああ、そうだな」
 上背のある悠乃に手を引かれながら、両慈は店へと入った。
(悠乃の笑顔につられて、まさか食事まで……! 俺もまだまだ甘いな)
 とはいえ、恋人の笑顔の前では後悔などあるはずもない。
 残る面子も、各々が案内された席に着いて、ほっとくつろぎの息をつく。
「どうぞ、おしぼりです」
「どうもッス! ……あれ?」
 舞子は店員から受け取ったおしぼりを配ろうとして、ふと数が合わないことに気がついた。
「菊坂さん、どこに行ったッスか?」
「彼女なら、厨房だと思いますよ」
 辺りを見回す舞子に、美久がメニューから顔を上げて答えた。何でも結鹿は、戦いが終わって店に向かう途中、店の厨房で料理をしたいと言ったらしい。
『このお芋で何か作りたいんです。厚かましいのは承知ですが、お願いします!』
 料理人が無関係の人間に厨房を貸すことは、普通ない。
 だが結鹿は、洋菓子店のカフェ手伝い。どうしても料理人の血が騒いでしまう。
 ナカジマもそんな彼女の熱意に押されたのか、
「いいよ、恩人の頼みだ。休業日で人もいないし、遠慮なく使ってくれ」
 そう言って快く応じてくれたという。
「そうだったんスか。何が出てくるか楽しみッス」
「失礼します。ご注文はお決まりですか?」
 噂をすれば何とやら、ナカジマが注文を取りに来た。
 純白のコックコートに着替えた彼は、態度も店の主人のそれに切り替わっている。
「はーい! 私、さつまいものバター焼きとさつまいもドリンクがいいッス!」
 目を輝かせて言う舞子に続いて、他の面子も思い思いの品を注文する。
「私と両慈さんは、芋焼酎の辛口とおつまみ。それと――」
 最後に、悠乃がそっと言い添えた。
「芋の天ぷら……円柱みたいな大きいやつなんですけど、できますか? 銀座の……」
「ははあ、『あれ』ですか。分かりました、やってみましょう」
「やった! お願いします! あっ、それとナカジマさん!」
 悠乃の声に、ナカジマが振り返る。
「私のお好みで終わるわけにはいかないのです。あなたの最も推す料理をいただきませんと!」
「やれやれ……悠乃は相当気に入ったようだな。俺からも頼む、出来るか?」
「かしこまりました。では、後ほどお持ちいたします」
 ナカジマは一礼して、カウンター奥の厨房へと下がっていった。


 それから程なくして――
「いただきまーす」
 一同は、運ばれてきた料理に手を合わせた。
「バター焼きとさつまいもドリンク! 待ってましたー、ッス!」
 舞子が頼んだのは、サツマイモのバター焼き。
 一口サイズにカットした芋をバターで焼き、砂糖をさっと絡めたおやつで、シンプルながら一度食べ始めると手が止まらない、病み付きになる美味さだ。
「いやー、空きっ腹には応える味ッスねえ!」
 舞子はバター焼きをつまんで口に放り込み、さつまいもドリンクで喉を潤した。こちらは芋と甘酒をミキサーで混合し、暖めた飲み物だ。砂糖などは一切使っていないが、その味は煮詰めた飴のようにねっとりと濃厚で、甘い。
(いいッスねえ……まさに極楽、パラダイスってやつッスねえ……)
 舞子が満悦の溜息をついたところへ、結鹿が料理を運んで戻ってきた。
「お待たせしました。皆さんのお口に合うと嬉しいのですが……」
 結鹿が作ったのは、さつまいもを使った餅とチーズケーキ。
 焦げた表面がぷくーっと膨らむ餅は、芋とチーズを練りこんで焼いてある。
 黄金色が艶かしいチーズケーキは、スイートポテトにスライスチーズを加えて作ったものだ。
 どれどれと手を伸ばす仲間と一緒に、結鹿も料理を皿に取り、
(うん。自分で作って言うのも何ですけど、すごく美味しいです!)
 一口食べて満面の笑みを浮かべる。
 一方、悠乃と両慈のふたりはといえば、
「一献どうぞ、両慈さん」
「ん、酌をしてくれるのか? 悠乃」
 悠乃がにっこりと微笑み、首肯する。
「そうか。では、甘えさせてもらおう」
「はい、どうぞ」
 悠乃は、両慈の掲げるぐい飲みに、そっと焼酎を注いだ。
「……美味い」
 つまみに頼んだ薩摩揚げの炙りを突きつつ、ぐい飲みを煽る両慈。
 固い氷が溶けるような両慈の笑みに、思わず悠乃の胸が熱くなった。
 酒を飲む姿が、実に様になっている。
「いい酒だ。悠乃と飲むともっと美味い」
「ふふ……」
 幸せのあまり、杯を交わす悠乃の口から声が漏れる。
 ゆっくり流れる恋人との時間を、心から楽しんでいるようだ。
 そんな彼女の隣では、罪次がふかし芋に舌鼓を打っている。
「うめー……マジうめー」
 普段は笑顔を絶やさない罪次だが、今は真剣そのものの表情だ。一口一口を噛み締めるように食べながら、味の感想を述べてゆく。
「程よく甘くて食べやすくてでも無個性ってわけじゃねえ。長年の研究と品種改良の成果が感じられる、奥行きのある自然な甘みで……」
 一呼吸おいて、
「コレがナカジマさんのたどり着いた答え……めちゃおいしー!」
 ぱっ、と罪次の顔に笑みが咲く。弱い内臓に負担をかけぬよう、ふかし芋の塩を天ぷらにまぶして齧りつつ、向かいの美久に目をやると――
(ありゃ? 片桐がいねーぞ?)
 先ほどまでいたはずの、美久の姿がなかった。
 どこに行ったかと見回せば、カウンター越しに、ナカジマの料理姿をじっと見ている。
(油いっぱい使う料理はまだ上手に出来ないから、コツがあれば覚えて帰りたいな)
 美久は、自分が注文したコロッケが出来るところを、一から見たかったのだ。
 技は見て盗むもの。美久はナカジマの許可を得て、彼の一連の動きを真剣に観察する。
「油の温度は、あまり高くしないんですね」
「天ぷらと違って、コロッケはタネに火を通してから揚げるからね。サッと揚げてお終いなんだ」
 料理をジャマしないよう質問する美久に、ナカジマはぽつぽつと答えを返す。
 作業に集中しているからか、口調は普段のものに戻っていた。
「コツは、成形の段階でタネをしっかり圧着することかな。こうやって……」
 サツマイモで作った黄色いタネを手に乗せて、ナカジマは成形の手順を実演する。
「なるほど。形を整えるというより、潰す要領ですね」
「ああ。これをしないと、油の熱で中の空気が膨張して、コロッケが破裂するんだ」
 俵型のタネを油で揚げながら、ナカジマはコツをあれこれと伝えていった。
 天ぷらとフライでは油の用途が違うこと、油温の測り方と目安、一度に入れる具材の量……
 だが無情にも、話はこれからという時にコロッケが揚がってしまった。
(うう……もう少し話を聞きたかったのに)
 落胆に肩を落とす美久。
「はい出来たよ、お待ちどう!」
「ありがとうございます。……あれ?」
 ナカジマから膳を受け取ると、端に小さなメモ帳が乗っている。
 表題は「サツマイモ、油料理のコツ」。ナカジマが綴ったものらしい。
「覚者さんの料理、いつかご馳走してくれよ! 楽しみにしてるぞ!」
「あ……ありがとうございます!」
 席に戻った美久は、均整の取れたコロッケを眺め、ぱくりと口に入れた。
「さくさくのふわふわです……おじさん、とっても美味しいです!」
 美久の顔から、笑みがこぼれる。出来立ての熱々を頬張る幸せは、何者にも変え難い。
 そんな美久の隣では、倖が料理に舌鼓を打っていた。
 注文したのはシンプルなスイートポテトパイ。こんがり焼けたきつね色の生地が食欲をそそる。
「うん、期待通り……いえ、期待以上です」
 掴んだパイをハグリと噛んで、倖は頷く。
「最低限の混ぜ物でこれだけのコク、パイ生地と一緒に味わっても損なわれないしっとり感、餡のような甘味……素晴らしいです」
 倖は芋天に手を伸ばした。天ぷらが盛られた皿の横には、飴色のラム酒が瓶に入って添えられている。
 まずは、そのまま一切れ。
「パイの中身とは違って、ホクホクした食感が嬉しいですね。熟成した芋の持ち味を、損なうことなく引き出している」
 お次はラムをそっと振りかけ、食べてみる。
「あまりお酒は強くないのですが……どんな味なのでしょう」
 恐る恐る口に入れた途端、倖はその味わいに言葉を失った。
 刺々しさの抜けた芳醇なラムの香りを、芋の濃厚な甘さがそっと追いかけてくる。
「これは良い。幾つでも手が出てしまいそうです」
 思いもしない組み合わせに、倖の頬が思わず緩んだ。
「ああ、いけない。どうやら少し酔いが……」
 軽く額を押さえる倖を、両慈が心配そうに覗き込む。
「大丈夫か? ラムは強いからな」
「何とか。それにしても、天明さんはお酒に強いですね」
「ラムより度が低いからな、こいつは」
「いいなーお酒。おいしそー。オレも早く飲めるようになりてーなー」
 酒談義に華を咲かせる倖と両慈を、罪次が羨ましそうに眺めていた。


 宴もたけなわになった頃、ナカジマが悠乃の天ぷらを運んできた。
「お待たせしました。どうぞ」
「わあっ。これです、これ!」
 メインディッシュの到着に、悠乃は目を輝かせた。
 物珍しい料理に、周りの視線も集まってくる。
「へえ~、面白い形ッスね。ドラム缶を丸ごと揚げたみたいッス」
 デンッと鎮座する芋の柱に、舞子は首を傾げた。
「どうやって食べるんスか、コレ? 丸かじり……じゃ、ないッスよね?」
「それはですねー」
 悠乃はナイフで柱を縦に割り、片割れをごろんと皿に転がした。
 断面の黄金色から湯気が立ち昇り、おおっという声が周りから上がる。
「田中さん、ラム酒を少し貰えますか?」
「どうぞ。かけすぎには注意ですよ」
 断面にラムを振りかけると、甘い香りの混じった湯気が、悠乃の鼻をくすぐった。
「うん……美味しい。もうね、ほんと幸せです」
 一口食べて、陶然とした表情で微笑む悠乃。
 その斜向かいでは、美久がラムの匂いに目を白黒させていた。
 注文したモンブランをスプーンで掬いつつ、目は悠乃の天ぷらに奪われている。
「何と言うか……凄いですね。香りだけで酔いそうです」
 ラムはスイーツで活躍することの多い蒸留酒だ。モンブランの中にもラムを用いたものは多い。
「スイートポテトのサツマイモアイスがけ! これならいっぱい楽しめて迷わないー!」
 そんな美久の向かいでは、ほくほく顔の罪次がアイスをスイートポテトにかけて食べていた。
 溶けたアイスがちょうど良い水気となって、ぽくぽくした芋を喉に流し込んでくれる。
「えへ。ありがとナカジマさん!」
 罪次はすっかり満腹したようだ。
 一方、悠乃と両慈は――
「両慈さんもどうぞ。はい、あーん」
「なんだ悠乃、もう酔ったのか? まったく……」
 言葉とは裏腹に、悪くなさそうな表情で芋天を頬張る両慈。
「なるほど、これはいいな。甘いものが苦手な俺でも……ん?」
 両慈はふと、悠乃の物欲しそうな視線を感じた。
「やれやれ。交代でだぞ」
「うふふ。『あーん』ですよ、『あーん』」
「なにっ……」
 気がつけば、周囲の注目を浴びていることに気づき、両慈の顔も赤くなる。
(悠乃のやつ、まさか酔ったのか? 皆の前だというのに、随分と大胆だな)
 面食らった両慈だったが、悠乃にまっすぐ見つめられ、覚悟を決めた。
「……悠乃、あーん」
「はーい、あーん♪」
 幸せの極まった顔で、悠乃は両慈の差し出す天ぷらを食べた。
「ふふふ。両慈さん、私幸せです」
「そうか。俺も、お前の笑顔が見られて幸せだ」
「両慈さん……」
「悠乃……」
「あのー、華神さん。お待ちかねのアレが出来たみたいッスよ」
 舞子の声が、悠乃と両慈を現実に引き戻す。
「あっ、ほ、ほんと?」
 アレといえば、悠乃が天ぷらと一緒に頼んだ「ナカジマいち推しの料理」だ。
「お待たせしました」
 盆に載ってやってきた、いち推しの料理。
 それはなんと――ソフトクリームだった。
 薄黄色の冷えたクリームからは、花のような匂いがうっすら漂っている。
「これが……」
「はい。どうぞ召し上がってみて下さい」
 悠乃はそっとコーンを掴み、表面を軽く舐めてみると――
 その味は、芋であって芋ではなかった。芋が持つ、独特の土臭さが全くない。
 清楚な香りが心地よい余韻となり、酒の入った頭が冴え渡るのがはっきりと分かった。
 目が覚めたような悠乃の表情を見て、両慈はふっと微笑する。
「なるほどな」
 恐らくナカジマは、悠乃が酒を飲み慣れていないことに気付いたのだろう。
 そこで、酔い気味になった悠乃のために、この料理を作ったのだ。
(ありがとう。締めに相応しい料理だった)
 両慈はナカジマにそっと感謝を捧げた。


「ごちそうさまでした!」
 程なくして食事を終えた一行は、簡単な後片付けを手伝い、店を後にした。
 妖を倒し、ナカジマは生還。芋料理も思う存分堪能した。文句なしの成功だ。
「いやー美味しかったッスねえ」
「暴れた! ウマかった! 楽しかった!」
「帰ったら早速、思いついたレシピをメモしておかなくちゃ」
 思い思いの言葉を口にしつつ、帰路を行く覚者たち。
 こうして7人は、無事FiVEへと帰還したのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『餓えた狼』
取得者:葛城 舞子(CL2001275)
特殊成果
『サツマイモ、油料理のコツ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:片桐・美久(CL2001026)



■あとがき■

 皆様の活躍で、依頼は無事完了しました。
 プレイングはいずれも食事メインでしたので、戦闘パートはサクッと終了しております。
 リプレイ参加、お疲れ様でした。

 以下余談。
 プレイングに記載のあった「芋天のラム酒がけ」「さつまいもドリンク」ですが、
 私、恥ずかしながらこれらの料理を知らず、執筆にあたり実際に作って試食しました。
 どちらも非常に美味しかったです。面白い料理を教えて下さり、ありがとうございました。




 
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