<ヒノマル戦争>若狭湾防衛戦・第二区
●若狭湾攻防戦
11月某日。中 恭介(nCL2000002)が、ファイヴ会議室に覚者たちを集めていた。
「皆、早速ヒノマル陸軍が戦闘を挑んできた。場所は若狭湾。
ここでの戦闘に敗北すると湾の海路や港を彼らに押さえられることになる。
京都への、ひいては五麟市への侵略が容易なものとなってしまうだろう。
そんな事態をさけるため、皆にはこの勝負に勝って貰いたい」
『FH協定』
戦闘に関係の無い民間人に被害を出したくないファイヴ。
兵器製造など戦争の準備を邪魔されたくないヒノマル陸軍。
双方の条件を満たすものとして、戦争におけるルール、つまり協定を結んでいる。
双方『ほぼ同格』の総合戦闘力を持ったチームを編成し、民間人に直接的被害の出ない場所で戦闘を行なうこと。
またファイヴが所属覚者を長期拘束できないため、ヒノマル側・ファイヴ側双方どちらが敗北した場合でも捕虜獲得や兵器鹵獲をせず、撤退を許すこと。
こうしたチーム戦で互いに要所を制圧・もしくは奪還し、来たるべき決戦の日に両者同時に拠点を襲撃・及び防衛し合うものである。
互いにルールの曲解や、逆手に取った悪用はしないことで合意している。
「秩序ある戦争を望むとのことだが、それはこちらも望むところだ。皆、頼んだぞ!」
●水芭忍軍、再来
海面を走るダイバースーツの男たち。
その速度は驚くほど早く、美しく整った陣形を維持していた。
彼らは水芭忍軍。一度は廃れた忍者の末裔と、その部下たちである。
独特なフォルムのゴーグルをした先頭の男『水芭忍軍首領』水芭 ハヤテ。彼はまだ見ぬ敵の姿を幻視していた。
「ファイヴ。ファイヴ。俺は帰ってきたぞ。もう俺は、油断しない。慢心しない。見くびらない。切り捨てない。俺は貴様らを倒し、自分自身を取り戻す」
「首領(リーダー)! 彼らのことを考えるんスか。大丈夫ッスよ、俺たちこんなに強くなったンすか――」
へらへらと笑う後続の部下を、ハヤテは後ろ回し蹴りを食らわせた。
水面を回転しながらはねとんでいく部下。
「奴らを侮辱するな。奴らに負けた俺への侮辱になる。いいな」
「ハ、ハイ……」
水面から沈むこと無く、器用に身体を起こす部下。
「俺は、奴らに勝つ。必ず勝つ。なんとしても勝つ。そのために鍛える。たとえ負けても、更に鍛えて、必ず勝つ……! そのためには、お前らも気を引き締めろ!」
「「応ッ!」」
かつて古妖を虐げ、いたずらに力を振り回していた水芭忍軍はもう居ない。
リベンジに燃え、牙を研ぎ澄ます獣だけがここにいる。
11月某日。中 恭介(nCL2000002)が、ファイヴ会議室に覚者たちを集めていた。
「皆、早速ヒノマル陸軍が戦闘を挑んできた。場所は若狭湾。
ここでの戦闘に敗北すると湾の海路や港を彼らに押さえられることになる。
京都への、ひいては五麟市への侵略が容易なものとなってしまうだろう。
そんな事態をさけるため、皆にはこの勝負に勝って貰いたい」
『FH協定』
戦闘に関係の無い民間人に被害を出したくないファイヴ。
兵器製造など戦争の準備を邪魔されたくないヒノマル陸軍。
双方の条件を満たすものとして、戦争におけるルール、つまり協定を結んでいる。
双方『ほぼ同格』の総合戦闘力を持ったチームを編成し、民間人に直接的被害の出ない場所で戦闘を行なうこと。
またファイヴが所属覚者を長期拘束できないため、ヒノマル側・ファイヴ側双方どちらが敗北した場合でも捕虜獲得や兵器鹵獲をせず、撤退を許すこと。
こうしたチーム戦で互いに要所を制圧・もしくは奪還し、来たるべき決戦の日に両者同時に拠点を襲撃・及び防衛し合うものである。
互いにルールの曲解や、逆手に取った悪用はしないことで合意している。
「秩序ある戦争を望むとのことだが、それはこちらも望むところだ。皆、頼んだぞ!」
●水芭忍軍、再来
海面を走るダイバースーツの男たち。
その速度は驚くほど早く、美しく整った陣形を維持していた。
彼らは水芭忍軍。一度は廃れた忍者の末裔と、その部下たちである。
独特なフォルムのゴーグルをした先頭の男『水芭忍軍首領』水芭 ハヤテ。彼はまだ見ぬ敵の姿を幻視していた。
「ファイヴ。ファイヴ。俺は帰ってきたぞ。もう俺は、油断しない。慢心しない。見くびらない。切り捨てない。俺は貴様らを倒し、自分自身を取り戻す」
「首領(リーダー)! 彼らのことを考えるんスか。大丈夫ッスよ、俺たちこんなに強くなったンすか――」
へらへらと笑う後続の部下を、ハヤテは後ろ回し蹴りを食らわせた。
水面を回転しながらはねとんでいく部下。
「奴らを侮辱するな。奴らに負けた俺への侮辱になる。いいな」
「ハ、ハイ……」
水面から沈むこと無く、器用に身体を起こす部下。
「俺は、奴らに勝つ。必ず勝つ。なんとしても勝つ。そのために鍛える。たとえ負けても、更に鍛えて、必ず勝つ……! そのためには、お前らも気を引き締めろ!」
「「応ッ!」」
かつて古妖を虐げ、いたずらに力を振り回していた水芭忍軍はもう居ない。
リベンジに燃え、牙を研ぎ澄ます獣だけがここにいる。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.戦闘に勝利する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
現場は海面。特に波が強い場所で、水上歩行だけでもぐらつく場合がある。
水上歩行系、飛行系、バランス系の技能スキルがあると戦闘がしやすくなるだろう。
戦闘にあたってボートを人数分まで使用することができるので、技能がなくても戦闘は可能だ。
敵のメイン戦力はヒノマル陸軍協力団体『水芭忍軍』です。
メンバーは以下の通り
・『水芭忍軍首領』水芭ハヤテ:水行暦、体術と術式の混合、スピードタイプ。取得データが古いため現在の戦闘力は不明。ハイバランサー持ち。
・『水芭忍軍』鋸鮫:詳細不明
・『水芭忍軍』蛸壺:詳細不明
・『水芭忍軍』車鯛:詳細不明
・『水芭忍軍』飛魚:翼人、詳細不明
・『水芭忍軍』海猫:翼人、詳細不明
※全員水上歩行上位版完備
==============================
・補足ルール1
EXプレイングにてこちらからの攻撃アクションを投票できます。
ヒノマル陸軍のもっている施設や侵攻に必要なルートの中で、『攻撃したい場所』をEXプレイングに書いて送ってください。
『3票以上』ある選択肢を票が多い順に中恭介が採用していきます。
票が固まらなかった場合全て無効扱いとなり、中恭介が適当に選びます。
投票は本戦争期間中ずっと有効です。
・補足ルール2
ヒノマル陸軍に所属する主要覚者の能力は殆どが未解明です。
しかし戦闘の中で能力を探り出すことで今後の依頼にその情報を反映することができます。
・補足ルール3
性質上『FH協定』をこちらから一方的に破棄することが可能です。
ただしそのためには『依頼参加者全員』の承認を必要とします。
協定を破棄した場合、互いに無秩序状態になり、捕虜の獲得や兵器の鹵獲、リンチによる完全殺害が可能になる反面、民間人や協力団体にも多大な被害が出ます。
※エネミースキャンについての追加ルール(当依頼限定)
ターンを消費してスキャンに集中したり、敵の能力を深く推察したり、調査する部分を限定したり、数人で分担したりといったプレイングがあるとスキャンの判定にボーナスをかけます。
==============================
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年11月17日
2016年11月17日
■メイン参加者 6人■

●獣の咆哮
鳥のなかない海の音と、ゆれるボートの最先端。
腕組みする姫神 桃(CL2001376)の視線は水面に並ぶ鏃陣形に注がれていた。
相手もまた、こちらを見つめている。
「こういうのを、ライバルっていうのかしら」
口の端を僅かに釣り上げた。
「燃えるわね」
「そう? 私はむしろ冷めたわ。ヒノマルなんかと手を組んでしまうなんて」
ボートのシートでほおづえをつく『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)。
「わかり合うこともないでしょう。徹底的に焼き滅ぼしてあげるわ」
「若い娘は気分がよくうつるなあ」
『白い人』由比 久永(CL2000540)はばさりと翼を広げ、羽扇を手に取った。
「とはいえ、根性をいれて立ち向かってくる姿は好ましいぞ。ならばせめて、正々堂々迎え撃とう」
久永は空中へと浮き上がり、桃は海へと『着地』する。
「あえて言おう」
ゴーグルの縁をなで、水芭ハヤテは呟いた。
「ここで会ったが、百年目」
一方で、ボートの操縦ハンドルを握った『教授』新田・成(CL2000538)が穏やかな顔で語っていた。
「ここで会ったが百年目とは、人の寿命は多くても百年とされていることから『運のつきだ』という意味を持ちます。他にも百年は日本語的に一生の代名詞としても使われますね。百年の恋だとか――」
暫く話を真面目に聞いていた『狗吠』時任・千陽(CL2000014)が、これはもしや今と関係ない話題なのではと思い始めた頃、『希望峰』七海 灯(CL2000579)が咳払いをした。
「この戦いに負ければ湾を占領されてしまいます。そんなこと、させるわけにはいきませんね。私としても」
「灯台守の御家、でしたか」
話に乗っかる千陽。
「対して相手は忍者の末裔。互いに負けられない事情があるわけですが……」
ちらりと成を見ると、解説を一通り終えて話に加わってきた。
「これは統制された戦争。なればこそ、剣を交えるに値する。そうですね?」
「はい。ともあれ、こちらが勝てばいい」
千陽は腰の銃に手をかけた。
●新生・水芭忍軍
戦闘開始の合図はない。強いて言うなら、戦いはずっと昔に始まっていたのやもしれぬ。
灯は鎖鎌を手に取ると、船から跳躍。
水面を走って敵の一団めがけて鎌を放った。
彼女の攻撃を積極的に受けに行く車鯛。まるで着ぐるみのような丸っこい鎧を纏った男性である。
彼は自らの腕に鎖を巻き付けると、強引に引き寄せてボディータックルを叩き込んできた。
激しいカウンターアタック。霞舞だ。
一方で桃が水草を大量にまき散らし、ツルに変えて水芭忍軍へと襲いかからせる。
飛行を始めた敵後衛の女。恐らく海猫が空をぐるりと回ることで演舞を開始。
「天行術式……?」
「なりふり構わないということでしょう。無論、こちらも」
千陽は船から車鯛たちに銃撃を浴びせにかかる。
無頼漢による近接プレッシャー射撃である。
彼らの体術を封じにかかる作戦だ。
同時にありすが灼熱化をかけて手のひらに炎を宿した。
「いくわよ、ゆる。開眼!」
フィンガースナップで炎を膨らませると、敵全体を巻き込むように発射。
どうやらかわされはしないようだ。どの程度当たっているかは肉眼で確認しづらいが。
「アメンボ二八」
「「五三!」」
不思議な号令が成されている。
炎に一度は包まれた水芭忍軍だが、すぐさまボートを囲むように散開していく。
張り付かれたら厄介だ。
桃は水面をアイススケートの要領で滑るとハヤテに張り付き鉄指穿を繰り出す。
彼女の手刀とハヤテの拳が正面からぶつかり合い、互いの身体を衝撃が駆け抜けていく。
手応えから分かる。ハヤテはファイブのトップチームと張り合う程度の力がありそうだ。問題は残りの五人だろう。
かつての水芭ハヤテなら自分を最強にしたピラミッド構造を作っていそうだが、今はどうか……。
「ナマズ三二」
「「三八!」」
ハヤテの号令に応じて車鯛が癒しの霧を展開。
前衛の被害担当が回復役? 奇妙な行動だが、狙わない手はない。
成はボートを走らせながら片手で空圧弾を生成、指弾によって車鯛を攻撃し始める。
かと思えば。
船の上に回り込んできた二人の翼人。飛魚と海猫が二人がかりで光の円環を描き激しい雷を落としてきた。
「うっ……!」
久永を含んだ成たちに直撃する雷撃。体感した様々な要素から雷獣と分かるが、積極的に後衛から攻撃し始めるとは。一体どういう戦略なのか。
「久永さん、回復を」
「ん」
珍しく自分より年上な久永に小さく頭を下げた成。
対して久永は癒やしの霧を展開していく。
しつつ……久永は水芭忍軍の陣形を確認した。
ハヤテ、鋸鮫、車鯛を前衛。蛸壺を中衛。飛魚と海猫を後衛とした陣形だ。
つまり車鯛とハヤテでブロック対抗が起きた分、鋸鮫と蛸壺が船に接近しうるということだ。
「少々まずいかな? さて――」
水面をアイススケートの要領でカーブし、スピンジャンプによって鎖鎌を豪快に放つ灯。
そんな彼女をジグザグな機動で追いかけながら氷のクナイを乱射してくるハヤテ。
船を中心にそこら中で攻撃がぶつかり合い、時折クナイが船へと浴びせられていた。
「早いな。まるで別人だ」
「そちらこそ」
メインの術式攻撃は氷巖華。だ。前衛アタッカーのスキル選択としては珍しいが、どういう考え方なのだろう。
「だが、勝つ!」
「いいえ、負けません!」
小太刀と鎌がぶつかり合う。
一方で、車鯛のショルダータックルを桃がムーンサルトジャンプで回避していた。
水面を蹴ってジグザグにステップ。背後から手刀を叩き込むが、車鯛は180度反転によってそれをガード。
「いたくないぞ! いたくもかゆくもない! さあ、もっと打ってこい!」
腕からだくだくと流れた血が見えないかのように、車鯛は更にタックルを仕掛けてくる。
恐ろしいのは、これが攻撃ではなくただの防御手段だということだ。突破は難しくないが、全体的に隙の無い壁。車鯛はそんな印象だった。
「苦手なタイプね……」
そのまた一方。船に飛び乗った鋸鮫が蛸壺と組んでコンビネーションアタックを仕掛けていた。
「サメ、わかってんよな!」
「当然ス! ぶっ壊してやんよオラア!」
クナイ二刀流の蛸壺と、マンホールのような円形の鉄板を軽々振り回す鋸鮫。
彼らと対抗するのは千陽である。
蛸壺の連撃をナイフでなんとかしのぎながら、鋸鮫に銃撃を浴びせて牽制していく。
とはいえ一人ではキツすぎる相手だ。
「由比氏――!」
久永に合図を送ると、久永は扇を降って風を起こし、治癒空間を広げていく。
そんな彼を狙うように背後へ回り込む海猫。
鉄扇をびらりと広げると、雷を纏い始める。
「おっと、いかん」
咄嗟に身をひく久永に代わり、ありすが両手を空に突きだした。
「打ち払え、雷獣!」
「焼き払え、召炎波!」
雷と炎が交差、爆発する。
ありすは爆風から顔を庇うように腕を翳す。そんな彼女の眼前に飛び込んでくる飛魚。
足に装備したレッグブレードに雷を纏わせ、回し蹴りを繰り出してくる。
「もらい!」
「――!」
横合いから飛び込み、仕込み刀で受け止める成。
余った雷撃が成たちに浴びせられるが、こらえるほか無い。
片目を薄く開け、成は彼女たちを観察した。
長い黒髪。鉄扇を装備した海猫。
短い茶髪。レッグブレードを装備した飛魚。
この二人でもってバフデバフ、敵後衛への攻撃、気力の回復を担当しているようだ。
「互いにバランスを取り合っている。チームで一個体になることを意識して鍛錬を重ねたのですね……」
成はほんの僅かに笑った。
●
戦闘の展開は思った以上に難航した。
被害担当かつ回復担当と思われた車鯛だけで無く、鋸鮫と蛸壺がローテーションで癒しの霧を発動してダメージをカバーしていく。
車鯛は霞舞、海衣、超純水といった幅広い防御スキルで味方の壁となり総合ダメージを軽減。桃の致命効果もたちまちに治癒してしまうのであまり効果が見込めなかった。
どうやら車鯛は超純水の効果のみならず、元々自然治癒の高い装備を施しているようだ。
一方で鋸鮫は単発火力に優れたアタッカー。活殺打や氷巖華といったスキルを使いこなす。
蛸壺は地烈や白夜を得意とするアタッカー。特に白夜の威力が凄まじく。ゆらぎを小さくする装備を施していると思われた。
最も着目すべきは、メンバーの六人がほぼ同じ程度の戦闘練度を持っていたことだった。
ハヤテは部下を徹底的に鍛えることで自らと同等の力を持たせたのである。
過去の彼からは考えられないような大胆さである。
更に、車鯛たちは命数復活をしてでも食らいつこうという強烈な意志でもって戦っていた。
「ということは……」
成と千陽は互いの頭に浮かんだ可能性に頷きあった。
奥義すら、共有している可能性がある。
水芭忍軍の集中攻撃先は後衛チーム。その中でも回復担当と思しき久永からだ。
「覚悟はしているが、老い先短い爺をあまり苛めてくれるなよ」
「心配いりません。ここは自分が」
途中から千陽が久永のガードに移り、結果として千陽への集中攻撃がなされることになった。
「ヒノマル陸軍の兵はバラエティに富んでいるな。古妖に魔剣に忍者か。他にどんな者がいるのだろうな」
攻撃に耐えながら比較的口の軽そうな鋸鮫に呼びかけてみる千景。
鋸鮫は調子良さそうに千陽の背後を指さした。
「いるぜ、そこに伏兵が一人よぉ!」
「――!」
まさかヒノマル陸軍が協定違反を?
などと背後に意識を向けた瞬間、千陽の腹を鋸鮫の刃が貫いた。
表面がジグザグに加工され、相手を刺して引っかけるような形状をした氷の刃である。
「嘘だ。騙してわりぃけど、できればもっと騙されてくれよな。俺たちを侮って、馬鹿にしてくれ。その隙を俺たちは逃さず突く!」
千陽を放り投げる鋸鮫。千陽は咄嗟に空中で体勢を整え、鋸鮫に銃を連射。
胸を打たれて甲板から落ちていく鋸鮫。
一方で千景はタイミング良く飛び込む海猫と飛魚にかっ攫われた。
しまった。そう思ったときには激しい電撃が彼を襲う。船の甲板に落下する千陽。
「皆さん、気をつけて……由比氏の、守りを……!」
何とか起き上がろうとする千陽を庇うように立つありす。
「しつこいのよ。燃え尽きなさい」
飛び込んできた車鯛めがけて火焔連弾を発射。
炎に包まれて水没する車鯛――の影から現われた蛸壺が久永へ襲いかかった。
咄嗟に飛び退こうとする久永だが、足を掴まれて凄まじい連打に晒された。
なんとか回復でねばる久永だが、流石に集中砲火には耐えがたい。
戦闘不能になった久永を引き下げ、刀を抜く成。
「鈴駆君」
「わかってるわ!」
蛸壺の頭を両手で掴んで全力の炎を発生させるありす。
全身が焼けただれた蛸壺の正面に回り、成は空圧を込めた斬撃を繰り出した。
直後に明後日の方向から浴びせられる雷撃。
ありすはついに膝を突いた。防御を削った火力特化タイプである。むしろよく耐えた方だろう。
「油断はしてないつもりなのに……」
「私の目から見ても、あなたに油断はありませんでした。当然私にも、皆にも。相手の気迫が強すぎるのです」
「当然だ。勝つつもりで鍛えてきた。勝つつもりで生きてきた。死ぬまで続く、戦いだ」
刀を水平に構えるハヤテ。
「奥義――!」
来るべきものがようやく来た。そう思った成は仲間たちに合図を送り、しっかりとハヤテに注目した。
そんな彼の背後で、それぞれの武器を構える海猫と飛魚。
ハッとして振り返った成が見たものは。
無限に広い地平線。
ゆっくりと沈む茜色の太陽。
太陽はいくつもあった。周囲を見回せば、地平線は全ての方向に、どこまでもどこまでも存在し。無数の太陽がすべての方向に沈んでいた。
沈み行く太陽が一層輝く。
「真なる、『朧暁』」
気付いたときには、成は同時に切り裂かれた後だった。
「時間感覚や方向感覚すら狂わせる、強制幻覚……!」
膝を突き、大量の血を吐き出す成。
その一方で、海猫と飛魚の身体は激しく焼けただれていた。
それ以上の戦闘ができないようで、水面へと着地する。
「これは」
灯の中で合点がいったのだろう。唇を強く噛む。
放つタイミング。その反動。
強力な技でありながら、使えるタイミングは限定されていて、尚且つ体力コストが極めて高い。ある種の自爆攻撃に近いのだ。
かつて彼の放った朧暁を大きく超える、しかし危険な技だった。
「お前たちに勝つためになら、この身体すら犠牲にできる」
顔の半分が焼けただれたハヤテが刀を再び水平に構えた。
「最後だ。来い。そして必ず、俺たちが勝つ!」
「……」
桃と灯は互いに頷き会った。
「すごいわ、あなた。素直にそう思う」
「いざ、尋常に」
灯は鎌と鎖を分断し、分銅側を発射。
刀で打ち払いながら突撃するハヤテに、桃が手刀を繰り出した。
攻撃をまともに食らいつつ、拳を叩き込むハヤテ。
手刀は首に、拳は顔にそれぞれめり込み違いをのけぞらせる。
間にねじ込むように灯が鎌を繰り出し、ハヤテの首筋を切断。
すれ違い、振りきりの姿勢――を即座に解いて反転。
血まみれのハヤテが拳を振り込んできた。
飛び膝蹴りによって相殺するが、膝がへし折れた。
仰向けに倒れ、沈んでいく桃を視界の端にとらえながら、灯は手元に戻ってきた鎖と鎌をフル活用して連撃を浴びせにかかる。
その全てをカウンターではじき返し、顔面に拳を叩き込んできた。
あまりの衝撃に吹き飛ばされ、水面をはねる灯。
水没しないように両手両足でなんとか耐える――が、一方のハヤテはファイティングポーズのまま停止していた。
近づいてみると、目の焦点があっていない。
「……勝った、んですね」
灯は深く深く息を吐き、仰向けに倒れた。
●
ボートの中で、桃や千陽たちは傷の応急手当をしていた。
「恐ろしいまでの、勝利への渇望。ヒノマル陸軍が求めていたのは、それだったのでしょうね」
久永も灯も、成も。みな満身創痍だ。
何か一つでも掛け違いが起きていたら自分たちは負けていただろう。
水を一気のみして口元をぬぐうありす。
「捕虜はとれないの」
「決戦時を覗いて拘束や殺害は禁止されています。仮に私たちが負けても、彼らはそのままにして撤退したでしょう」
「そう……」
FH協定。一般市民に危害を加えないように行なわれるスポーツのような戦争。
「忌々しいけど、すごく好都合な戦争だわ。けど、こいつらに振り回されるわけにはいかない」
「そのためには、勝つしかありません。この次も、その次も」
空になったペットボトルが、千陽の手から落ちた。
鳥のなかない海の音と、ゆれるボートの最先端。
腕組みする姫神 桃(CL2001376)の視線は水面に並ぶ鏃陣形に注がれていた。
相手もまた、こちらを見つめている。
「こういうのを、ライバルっていうのかしら」
口の端を僅かに釣り上げた。
「燃えるわね」
「そう? 私はむしろ冷めたわ。ヒノマルなんかと手を組んでしまうなんて」
ボートのシートでほおづえをつく『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)。
「わかり合うこともないでしょう。徹底的に焼き滅ぼしてあげるわ」
「若い娘は気分がよくうつるなあ」
『白い人』由比 久永(CL2000540)はばさりと翼を広げ、羽扇を手に取った。
「とはいえ、根性をいれて立ち向かってくる姿は好ましいぞ。ならばせめて、正々堂々迎え撃とう」
久永は空中へと浮き上がり、桃は海へと『着地』する。
「あえて言おう」
ゴーグルの縁をなで、水芭ハヤテは呟いた。
「ここで会ったが、百年目」
一方で、ボートの操縦ハンドルを握った『教授』新田・成(CL2000538)が穏やかな顔で語っていた。
「ここで会ったが百年目とは、人の寿命は多くても百年とされていることから『運のつきだ』という意味を持ちます。他にも百年は日本語的に一生の代名詞としても使われますね。百年の恋だとか――」
暫く話を真面目に聞いていた『狗吠』時任・千陽(CL2000014)が、これはもしや今と関係ない話題なのではと思い始めた頃、『希望峰』七海 灯(CL2000579)が咳払いをした。
「この戦いに負ければ湾を占領されてしまいます。そんなこと、させるわけにはいきませんね。私としても」
「灯台守の御家、でしたか」
話に乗っかる千陽。
「対して相手は忍者の末裔。互いに負けられない事情があるわけですが……」
ちらりと成を見ると、解説を一通り終えて話に加わってきた。
「これは統制された戦争。なればこそ、剣を交えるに値する。そうですね?」
「はい。ともあれ、こちらが勝てばいい」
千陽は腰の銃に手をかけた。
●新生・水芭忍軍
戦闘開始の合図はない。強いて言うなら、戦いはずっと昔に始まっていたのやもしれぬ。
灯は鎖鎌を手に取ると、船から跳躍。
水面を走って敵の一団めがけて鎌を放った。
彼女の攻撃を積極的に受けに行く車鯛。まるで着ぐるみのような丸っこい鎧を纏った男性である。
彼は自らの腕に鎖を巻き付けると、強引に引き寄せてボディータックルを叩き込んできた。
激しいカウンターアタック。霞舞だ。
一方で桃が水草を大量にまき散らし、ツルに変えて水芭忍軍へと襲いかからせる。
飛行を始めた敵後衛の女。恐らく海猫が空をぐるりと回ることで演舞を開始。
「天行術式……?」
「なりふり構わないということでしょう。無論、こちらも」
千陽は船から車鯛たちに銃撃を浴びせにかかる。
無頼漢による近接プレッシャー射撃である。
彼らの体術を封じにかかる作戦だ。
同時にありすが灼熱化をかけて手のひらに炎を宿した。
「いくわよ、ゆる。開眼!」
フィンガースナップで炎を膨らませると、敵全体を巻き込むように発射。
どうやらかわされはしないようだ。どの程度当たっているかは肉眼で確認しづらいが。
「アメンボ二八」
「「五三!」」
不思議な号令が成されている。
炎に一度は包まれた水芭忍軍だが、すぐさまボートを囲むように散開していく。
張り付かれたら厄介だ。
桃は水面をアイススケートの要領で滑るとハヤテに張り付き鉄指穿を繰り出す。
彼女の手刀とハヤテの拳が正面からぶつかり合い、互いの身体を衝撃が駆け抜けていく。
手応えから分かる。ハヤテはファイブのトップチームと張り合う程度の力がありそうだ。問題は残りの五人だろう。
かつての水芭ハヤテなら自分を最強にしたピラミッド構造を作っていそうだが、今はどうか……。
「ナマズ三二」
「「三八!」」
ハヤテの号令に応じて車鯛が癒しの霧を展開。
前衛の被害担当が回復役? 奇妙な行動だが、狙わない手はない。
成はボートを走らせながら片手で空圧弾を生成、指弾によって車鯛を攻撃し始める。
かと思えば。
船の上に回り込んできた二人の翼人。飛魚と海猫が二人がかりで光の円環を描き激しい雷を落としてきた。
「うっ……!」
久永を含んだ成たちに直撃する雷撃。体感した様々な要素から雷獣と分かるが、積極的に後衛から攻撃し始めるとは。一体どういう戦略なのか。
「久永さん、回復を」
「ん」
珍しく自分より年上な久永に小さく頭を下げた成。
対して久永は癒やしの霧を展開していく。
しつつ……久永は水芭忍軍の陣形を確認した。
ハヤテ、鋸鮫、車鯛を前衛。蛸壺を中衛。飛魚と海猫を後衛とした陣形だ。
つまり車鯛とハヤテでブロック対抗が起きた分、鋸鮫と蛸壺が船に接近しうるということだ。
「少々まずいかな? さて――」
水面をアイススケートの要領でカーブし、スピンジャンプによって鎖鎌を豪快に放つ灯。
そんな彼女をジグザグな機動で追いかけながら氷のクナイを乱射してくるハヤテ。
船を中心にそこら中で攻撃がぶつかり合い、時折クナイが船へと浴びせられていた。
「早いな。まるで別人だ」
「そちらこそ」
メインの術式攻撃は氷巖華。だ。前衛アタッカーのスキル選択としては珍しいが、どういう考え方なのだろう。
「だが、勝つ!」
「いいえ、負けません!」
小太刀と鎌がぶつかり合う。
一方で、車鯛のショルダータックルを桃がムーンサルトジャンプで回避していた。
水面を蹴ってジグザグにステップ。背後から手刀を叩き込むが、車鯛は180度反転によってそれをガード。
「いたくないぞ! いたくもかゆくもない! さあ、もっと打ってこい!」
腕からだくだくと流れた血が見えないかのように、車鯛は更にタックルを仕掛けてくる。
恐ろしいのは、これが攻撃ではなくただの防御手段だということだ。突破は難しくないが、全体的に隙の無い壁。車鯛はそんな印象だった。
「苦手なタイプね……」
そのまた一方。船に飛び乗った鋸鮫が蛸壺と組んでコンビネーションアタックを仕掛けていた。
「サメ、わかってんよな!」
「当然ス! ぶっ壊してやんよオラア!」
クナイ二刀流の蛸壺と、マンホールのような円形の鉄板を軽々振り回す鋸鮫。
彼らと対抗するのは千陽である。
蛸壺の連撃をナイフでなんとかしのぎながら、鋸鮫に銃撃を浴びせて牽制していく。
とはいえ一人ではキツすぎる相手だ。
「由比氏――!」
久永に合図を送ると、久永は扇を降って風を起こし、治癒空間を広げていく。
そんな彼を狙うように背後へ回り込む海猫。
鉄扇をびらりと広げると、雷を纏い始める。
「おっと、いかん」
咄嗟に身をひく久永に代わり、ありすが両手を空に突きだした。
「打ち払え、雷獣!」
「焼き払え、召炎波!」
雷と炎が交差、爆発する。
ありすは爆風から顔を庇うように腕を翳す。そんな彼女の眼前に飛び込んでくる飛魚。
足に装備したレッグブレードに雷を纏わせ、回し蹴りを繰り出してくる。
「もらい!」
「――!」
横合いから飛び込み、仕込み刀で受け止める成。
余った雷撃が成たちに浴びせられるが、こらえるほか無い。
片目を薄く開け、成は彼女たちを観察した。
長い黒髪。鉄扇を装備した海猫。
短い茶髪。レッグブレードを装備した飛魚。
この二人でもってバフデバフ、敵後衛への攻撃、気力の回復を担当しているようだ。
「互いにバランスを取り合っている。チームで一個体になることを意識して鍛錬を重ねたのですね……」
成はほんの僅かに笑った。
●
戦闘の展開は思った以上に難航した。
被害担当かつ回復担当と思われた車鯛だけで無く、鋸鮫と蛸壺がローテーションで癒しの霧を発動してダメージをカバーしていく。
車鯛は霞舞、海衣、超純水といった幅広い防御スキルで味方の壁となり総合ダメージを軽減。桃の致命効果もたちまちに治癒してしまうのであまり効果が見込めなかった。
どうやら車鯛は超純水の効果のみならず、元々自然治癒の高い装備を施しているようだ。
一方で鋸鮫は単発火力に優れたアタッカー。活殺打や氷巖華といったスキルを使いこなす。
蛸壺は地烈や白夜を得意とするアタッカー。特に白夜の威力が凄まじく。ゆらぎを小さくする装備を施していると思われた。
最も着目すべきは、メンバーの六人がほぼ同じ程度の戦闘練度を持っていたことだった。
ハヤテは部下を徹底的に鍛えることで自らと同等の力を持たせたのである。
過去の彼からは考えられないような大胆さである。
更に、車鯛たちは命数復活をしてでも食らいつこうという強烈な意志でもって戦っていた。
「ということは……」
成と千陽は互いの頭に浮かんだ可能性に頷きあった。
奥義すら、共有している可能性がある。
水芭忍軍の集中攻撃先は後衛チーム。その中でも回復担当と思しき久永からだ。
「覚悟はしているが、老い先短い爺をあまり苛めてくれるなよ」
「心配いりません。ここは自分が」
途中から千陽が久永のガードに移り、結果として千陽への集中攻撃がなされることになった。
「ヒノマル陸軍の兵はバラエティに富んでいるな。古妖に魔剣に忍者か。他にどんな者がいるのだろうな」
攻撃に耐えながら比較的口の軽そうな鋸鮫に呼びかけてみる千景。
鋸鮫は調子良さそうに千陽の背後を指さした。
「いるぜ、そこに伏兵が一人よぉ!」
「――!」
まさかヒノマル陸軍が協定違反を?
などと背後に意識を向けた瞬間、千陽の腹を鋸鮫の刃が貫いた。
表面がジグザグに加工され、相手を刺して引っかけるような形状をした氷の刃である。
「嘘だ。騙してわりぃけど、できればもっと騙されてくれよな。俺たちを侮って、馬鹿にしてくれ。その隙を俺たちは逃さず突く!」
千陽を放り投げる鋸鮫。千陽は咄嗟に空中で体勢を整え、鋸鮫に銃を連射。
胸を打たれて甲板から落ちていく鋸鮫。
一方で千景はタイミング良く飛び込む海猫と飛魚にかっ攫われた。
しまった。そう思ったときには激しい電撃が彼を襲う。船の甲板に落下する千陽。
「皆さん、気をつけて……由比氏の、守りを……!」
何とか起き上がろうとする千陽を庇うように立つありす。
「しつこいのよ。燃え尽きなさい」
飛び込んできた車鯛めがけて火焔連弾を発射。
炎に包まれて水没する車鯛――の影から現われた蛸壺が久永へ襲いかかった。
咄嗟に飛び退こうとする久永だが、足を掴まれて凄まじい連打に晒された。
なんとか回復でねばる久永だが、流石に集中砲火には耐えがたい。
戦闘不能になった久永を引き下げ、刀を抜く成。
「鈴駆君」
「わかってるわ!」
蛸壺の頭を両手で掴んで全力の炎を発生させるありす。
全身が焼けただれた蛸壺の正面に回り、成は空圧を込めた斬撃を繰り出した。
直後に明後日の方向から浴びせられる雷撃。
ありすはついに膝を突いた。防御を削った火力特化タイプである。むしろよく耐えた方だろう。
「油断はしてないつもりなのに……」
「私の目から見ても、あなたに油断はありませんでした。当然私にも、皆にも。相手の気迫が強すぎるのです」
「当然だ。勝つつもりで鍛えてきた。勝つつもりで生きてきた。死ぬまで続く、戦いだ」
刀を水平に構えるハヤテ。
「奥義――!」
来るべきものがようやく来た。そう思った成は仲間たちに合図を送り、しっかりとハヤテに注目した。
そんな彼の背後で、それぞれの武器を構える海猫と飛魚。
ハッとして振り返った成が見たものは。
無限に広い地平線。
ゆっくりと沈む茜色の太陽。
太陽はいくつもあった。周囲を見回せば、地平線は全ての方向に、どこまでもどこまでも存在し。無数の太陽がすべての方向に沈んでいた。
沈み行く太陽が一層輝く。
「真なる、『朧暁』」
気付いたときには、成は同時に切り裂かれた後だった。
「時間感覚や方向感覚すら狂わせる、強制幻覚……!」
膝を突き、大量の血を吐き出す成。
その一方で、海猫と飛魚の身体は激しく焼けただれていた。
それ以上の戦闘ができないようで、水面へと着地する。
「これは」
灯の中で合点がいったのだろう。唇を強く噛む。
放つタイミング。その反動。
強力な技でありながら、使えるタイミングは限定されていて、尚且つ体力コストが極めて高い。ある種の自爆攻撃に近いのだ。
かつて彼の放った朧暁を大きく超える、しかし危険な技だった。
「お前たちに勝つためになら、この身体すら犠牲にできる」
顔の半分が焼けただれたハヤテが刀を再び水平に構えた。
「最後だ。来い。そして必ず、俺たちが勝つ!」
「……」
桃と灯は互いに頷き会った。
「すごいわ、あなた。素直にそう思う」
「いざ、尋常に」
灯は鎌と鎖を分断し、分銅側を発射。
刀で打ち払いながら突撃するハヤテに、桃が手刀を繰り出した。
攻撃をまともに食らいつつ、拳を叩き込むハヤテ。
手刀は首に、拳は顔にそれぞれめり込み違いをのけぞらせる。
間にねじ込むように灯が鎌を繰り出し、ハヤテの首筋を切断。
すれ違い、振りきりの姿勢――を即座に解いて反転。
血まみれのハヤテが拳を振り込んできた。
飛び膝蹴りによって相殺するが、膝がへし折れた。
仰向けに倒れ、沈んでいく桃を視界の端にとらえながら、灯は手元に戻ってきた鎖と鎌をフル活用して連撃を浴びせにかかる。
その全てをカウンターではじき返し、顔面に拳を叩き込んできた。
あまりの衝撃に吹き飛ばされ、水面をはねる灯。
水没しないように両手両足でなんとか耐える――が、一方のハヤテはファイティングポーズのまま停止していた。
近づいてみると、目の焦点があっていない。
「……勝った、んですね」
灯は深く深く息を吐き、仰向けに倒れた。
●
ボートの中で、桃や千陽たちは傷の応急手当をしていた。
「恐ろしいまでの、勝利への渇望。ヒノマル陸軍が求めていたのは、それだったのでしょうね」
久永も灯も、成も。みな満身創痍だ。
何か一つでも掛け違いが起きていたら自分たちは負けていただろう。
水を一気のみして口元をぬぐうありす。
「捕虜はとれないの」
「決戦時を覗いて拘束や殺害は禁止されています。仮に私たちが負けても、彼らはそのままにして撤退したでしょう」
「そう……」
FH協定。一般市民に危害を加えないように行なわれるスポーツのような戦争。
「忌々しいけど、すごく好都合な戦争だわ。けど、こいつらに振り回されるわけにはいかない」
「そのためには、勝つしかありません。この次も、その次も」
空になったペットボトルが、千陽の手から落ちた。
