<南瓜夜行>吸血鬼のハロウィン
●
ハロウィン。
本来は秋の収穫を祝い悪霊を追い出すケルトの祭りだが、巡り巡って今では仮装行列のようになっている。
悪霊に見つからないようにするための仮装なのだが、別に悪霊を倒してしまっても構わないのだろう? とばかりにヒーローヒロインの仮装も多い。
さて、そんな仮装の中に古妖が混じっていることもある。人に似た古妖は、この時期人間の仮装を装って――変な言葉だがそれはともかく――町に交じっている。本番前の練習と言ってしまえば、多少奇異な目で見られるが素通りされるらしい。
問題は、古妖の中には人にいたずらするものもいるわけで……。
●
「ベルド! 今年のハロウィンこそ、決着をつけますわ!!」
「ふっ、ロゼッタ! それはコッチの台詞だよ!!」
ハロウィンということで、カボチャのお化けやランタンなどで飾り立てられた街並み。
その広場は、騒然となっていた。空間を埋め尽くす大勢の人間が、殴り合い蹴り合い戦い合い押し合いへし合う。
その中心にいる世にも見目麗しい美男美女……ベルドとロゼッタはそんな群衆を指揮してぶつけ合った。
「押せ押せ! 我が従僕となった者達よっ」
「お行きなさい、私の可愛い奴隷さんたちっ」
二人の声に呼応するように。
暴動は留まることを知らず、お化けの姿に仮装した人々が激しく争う。そして奇妙なことにその誰も彼もが目の焦点が全く合っていなかった。
「ふふっ、この勝負っ」
「ええ! どちらかが倒れるまで止まらんな!」
笑い合う、ベルドとロゼッタ。
その口元からは鋭く尖った歯が、ちらりと姿を見せ……よくよく観察すれば、人々の首元などには噛まれたような傷跡がそこかしこに見られた。
「せっかくの祭だ! 我々の因縁の勝負も存分に盛り上げていこうではないか!!」
「ええ! 血と血で美しく華やかに飾りたてましょう!」
絶世の美男子と、絶世の美女。
……二人のヴァンパイアは、まるで優雅に舞うように人々を踊らせ続けた。
●
「ヴァンパイアの古妖が二名、ハロウィンに現れました」
久方 真由美(nCL2000003)が、皆に依頼内容を説明していく。
二人のヴァンパイアの名前はベルドとロゼッタという男女。この両名は、自身の古妖の力で人間を操り戦い合わせて互いの優劣を競い出すのだという。
「どうやら、顔見知りでライバル関係にある古妖のようですね」
戦いはベルドかロゼッタのどちらかが撃退されるまで終わらない。
それまでに、操られた人間達のなかにどれだけの怪我人が出るか分からない。現場となる広場には、ハロウィンだということで仮装した多くの人々が集まっているのだ。
その中には、幼い子供達だっている。
「騒ぎをおさめるためには、この二人の古妖のどちらか、あるいは両方を撃退するしかありません」
どちらか一方だけでも撃退することができれば、勝負ありということで戦いは終わるだろう。その後は、操られた人々も用無しということになり古妖の支配から解放される。
「ただ、古妖を倒そうとすれば操られた一般人が邪魔をしてくるでしょう。それに対して、あまり手荒な真似をするわけにはいきません」
一般人に対しては、覚者の攻撃は強力過ぎる。
いわば人の盾相手に、どう対応するか。
「もう一つ。ヴァンパイア両方を撃退しようとした場合は、当然ながら双方を相手どらなくていけません」
片方だけに集中するなら、もう片方からの攻撃はとりあえずないはずだが。
双方を相手にする場合は、二人のヴァンパイアが結託して、まずはこちらを潰しに来る可能性もある。
「ちなみにベルド側で操られているのは主に女性、ロゼッタ側に操られているのは主に男性となります。吸血鬼二人の実力はほぼ同じのようですね」
どう動いて、どう吸血鬼を止めるか。
それは覚者達に託される。真由美は皆の顔を見て頷いた。
「吸血鬼側からすると、そう悪気はないのかもしれませんが。皆さん、取り返しがつかなくなる前によろしくお願いしますね」
ハロウィン。
本来は秋の収穫を祝い悪霊を追い出すケルトの祭りだが、巡り巡って今では仮装行列のようになっている。
悪霊に見つからないようにするための仮装なのだが、別に悪霊を倒してしまっても構わないのだろう? とばかりにヒーローヒロインの仮装も多い。
さて、そんな仮装の中に古妖が混じっていることもある。人に似た古妖は、この時期人間の仮装を装って――変な言葉だがそれはともかく――町に交じっている。本番前の練習と言ってしまえば、多少奇異な目で見られるが素通りされるらしい。
問題は、古妖の中には人にいたずらするものもいるわけで……。
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「ベルド! 今年のハロウィンこそ、決着をつけますわ!!」
「ふっ、ロゼッタ! それはコッチの台詞だよ!!」
ハロウィンということで、カボチャのお化けやランタンなどで飾り立てられた街並み。
その広場は、騒然となっていた。空間を埋め尽くす大勢の人間が、殴り合い蹴り合い戦い合い押し合いへし合う。
その中心にいる世にも見目麗しい美男美女……ベルドとロゼッタはそんな群衆を指揮してぶつけ合った。
「押せ押せ! 我が従僕となった者達よっ」
「お行きなさい、私の可愛い奴隷さんたちっ」
二人の声に呼応するように。
暴動は留まることを知らず、お化けの姿に仮装した人々が激しく争う。そして奇妙なことにその誰も彼もが目の焦点が全く合っていなかった。
「ふふっ、この勝負っ」
「ええ! どちらかが倒れるまで止まらんな!」
笑い合う、ベルドとロゼッタ。
その口元からは鋭く尖った歯が、ちらりと姿を見せ……よくよく観察すれば、人々の首元などには噛まれたような傷跡がそこかしこに見られた。
「せっかくの祭だ! 我々の因縁の勝負も存分に盛り上げていこうではないか!!」
「ええ! 血と血で美しく華やかに飾りたてましょう!」
絶世の美男子と、絶世の美女。
……二人のヴァンパイアは、まるで優雅に舞うように人々を踊らせ続けた。
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「ヴァンパイアの古妖が二名、ハロウィンに現れました」
久方 真由美(nCL2000003)が、皆に依頼内容を説明していく。
二人のヴァンパイアの名前はベルドとロゼッタという男女。この両名は、自身の古妖の力で人間を操り戦い合わせて互いの優劣を競い出すのだという。
「どうやら、顔見知りでライバル関係にある古妖のようですね」
戦いはベルドかロゼッタのどちらかが撃退されるまで終わらない。
それまでに、操られた人間達のなかにどれだけの怪我人が出るか分からない。現場となる広場には、ハロウィンだということで仮装した多くの人々が集まっているのだ。
その中には、幼い子供達だっている。
「騒ぎをおさめるためには、この二人の古妖のどちらか、あるいは両方を撃退するしかありません」
どちらか一方だけでも撃退することができれば、勝負ありということで戦いは終わるだろう。その後は、操られた人々も用無しということになり古妖の支配から解放される。
「ただ、古妖を倒そうとすれば操られた一般人が邪魔をしてくるでしょう。それに対して、あまり手荒な真似をするわけにはいきません」
一般人に対しては、覚者の攻撃は強力過ぎる。
いわば人の盾相手に、どう対応するか。
「もう一つ。ヴァンパイア両方を撃退しようとした場合は、当然ながら双方を相手どらなくていけません」
片方だけに集中するなら、もう片方からの攻撃はとりあえずないはずだが。
双方を相手にする場合は、二人のヴァンパイアが結託して、まずはこちらを潰しに来る可能性もある。
「ちなみにベルド側で操られているのは主に女性、ロゼッタ側に操られているのは主に男性となります。吸血鬼二人の実力はほぼ同じのようですね」
どう動いて、どう吸血鬼を止めるか。
それは覚者達に託される。真由美は皆の顔を見て頷いた。
「吸血鬼側からすると、そう悪気はないのかもしれませんが。皆さん、取り返しがつかなくなる前によろしくお願いしますね」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ベルドかロゼッタ、あるいは両方の撃退
2.一般人をこちらから傷つけないこと
3.なし
2.一般人をこちらから傷つけないこと
3.なし
●ベルド
美男子の吸血鬼の古妖。
ロゼッタとは何やら因縁があり、ハロウィン会場で人間達を操って勝負を行っている。主に操っているのは女性。
(主な攻撃手段)
[攻撃1] A:特遠単 【出血】
[攻撃2] A:特近列 【弱体】
[回復] A:特近列
●ロゼッタ
美少女の吸血鬼の古妖。
同じくベルドとは何やら因縁があり、ハロウィン会場で人間達を操って勝負を行っている。主に操っているのは男性。
(主な攻撃手段)
[攻撃1] A:特遠敵全 【ダメ0】【弱体】
[攻撃2] A:特遠単 【出血】
[攻撃3] A:特遠列 【痺れ】
●現場
ハロウィンで賑わう街の広場。大勢の操られた人々がそこで、争っています。ベルドとロゼッタは互いが操った一般人達を従えて、指揮官としてそれぞれ一番後方にいます。どちらか一方を攻撃する分には、片方のみから攻撃を受けるだけで基本的には済みますが、双方を相手にする場合は古妖達が結託してまずこちらを片付けようとする可能性があります。
どちらか一方だけでも撃退できれば戦い自体は終わります。
●操られた一般人
ハロウィンということで、仮装をしたまま操られた人多数。
操られた人々を、こちらから直接攻撃することはできません。
ただし、何も手を打たない場合は一般人達が人の盾となり邪魔をしてきます。結果、ペナルティとして各能力値や結果判定にマイナスという扱いを受けます。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
10/10
公開日
2016年11月13日
2016年11月13日
■メイン参加者 10人■

●
広場は暴動の極致にある。
『介錯人』鳴神 零(CL2000669)、『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)、『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)、『深緑』十夜 八重(CL2000122)は、ベルド班。
ロゼッタ班は、香月 凜音(CL2000495)、鹿ノ島・遥(CL2000227)、『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)、緒形 逝(CL2000156)、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)だ。
「零のベルド班と、どっちが早く倒せるか競争するぜ! 零、負けねえからな! 坂上さん、先日のバトロワで1位2位だったオレらの力、見せてやろうぜ!」
「悪い子にはお仕置きしないと、ネッ! 鹿ノ島くんと競争だ! どっちが早く倒せるか!」
遥と零が意気込む。
吸血鬼のライバルといえばコレということで、遥の仮装は狼男。零はちょっとお尻が気になるサキュバス衣装姿。二組は群衆の中に紛れ、それぞれ後ろをとるべく別行動を始める。
「うわ。ほんと、すごい人の数。でも、これだけごちゃごちゃしてれば上手く潜入しながら目的地まで辿り着けるかも」
顔の隠れる大きな魔女帽子で、仮装しているのは渚だ。首筋に噛まれたような跡をメイクで描き、操られた振りをする。
「よくわかんねぇが雑魚に手ぇ出さねえであの不細工2人をぶちのめしゃ良いんだな? おい、鳴神。お前あの一般人ども眠らせろ。出来なかったら」
刀嗣はキュウビの狐に仮装をして、手をわきわきと嫌らしく動かしてみせた。
思わず零は、後ずさる。
「……ちょっ、ちょっと刀嗣くん!? なにその手つき、怖いよ!?」
「お・仕・置・き・だ」
「ちゃ、ちゃんとやるわよ! やりゃあいいんでしょ脅さないで!」
背後からの奇襲。
零は艶舞・寂夜で眠りを誘う空気感を演出、一般人を上手く眠らせていく。
「曲者か! 全軍、背後からの強襲に備えろ!!」
異変に気付いたベルドは号令を下す。
群衆がわらわらと覚者の方へと集まってくる。
「手荒な真似はしたくないですし、大人しくしててくださいね? あんまり邪魔だと怖い人達が暴れちゃいますしね」
八重は捕縛蔓で、足元より蔓を伸ばしていく。
一般人達を次々と縛り、がんじがらめにして動きを止める。ジャックはその横で仕掛けるタイミングを計っていた。
「おおう、こんな楽しいときに物騒なことやってんな!? 喧嘩はあかんえ、お前等仲良くし……いやあああ、あれーー!? 仲間もやる気満々!!!? ええい、わかった!! 付き合ってやるわ!! さっさと終わらせて、楽しいハロウィンを取り戻してやろうぜ!!」
●
「去年やったデュラハンの仮装をするさね、頭が離れてる? それは仕込み、タネは有るけど教えんよ。ところで……普段から仮装してるだろうって、思う子は素直に手を挙げてごらん? 怒りやせんぞう」
何もしないとは言ってない。
ともあれ、逝のロゼッタ班も自然に背後に回る。
「自分達の因縁に関係のない他の人を巻き込むなんて迷惑だなぁ」
首に跡をつけ忍者の仮装をした奏空は、艶舞・寂夜を行う。ちょっとごめんね、と眠り漏らした者には軽く手刀で気絶させた。
「本来謂れある祭りの筈が、この国ではただのコスプレパーティーだよな。いろんな恰好の奴がいるのは楽しいし、ねーちゃんが可愛い恰好してるなら目の保養だし。けど、こんな時にまで揉め事起こすなよな……」
凜音は思う……ああ多分、俺の前世が指揮官系統だったんだろうなと。
同族嫌悪とまでは言わねーが。不必要に人心を操る系統は虫唾が走る。一般人への対策は仲間に任せて、錬覇法で力を溜めた。
「ケンカなら自分の拳でやりやがれ! 他人に代わりさせてんじゃねえ!!! ……と、思ったわけではあるが、それはそれとして、吸血鬼とのバトルというのは純粋に燃えるシチュでもあるわけだ」
防御に専念していた遥は……吸血鬼が射程に入ったところで、間髪入れず念弾を打ち放った。練り上げた気が女吸血鬼へと一直線へと飛び。
「まあそんなわけで! 他人様のケンカに割って入るのは無粋じゃあるが、そのケンカ祭り、飛び入り参加させてもらうぜ!!」
「何かしら……あれは狼男に、忍者に、デュラハン、あとはファラオ?」
ロゼッタは、念弾を振り払い。
覚者達の方を注視する。注目されたファラオな仮装をした懐良は、これを契機に語りかける。
「一つお二人に提案をしよう」
「人間が私達に提案?」
「我々は二班に分かれ、それぞれお二人に当たる。故に、先に我々を打倒した方が今回の勝者とする、と。戦いとは互いに戦意があってこそ盛り上がるもの。無気力な人形遊びではそうは行くまい?」
これは言わば、結託させないようにそれとなく促すための挑発だった。
「無論、自信がなければ断ってくれてもかまわないけどな」
わざとらしく、引いてみせる。
それに対し、絶世の美女たる吸血鬼は……華やかに笑ってみせた。
「ふふ、安い挑発ね。でも、良いでしょう! まずは、あなた達から血祭りにするとしましょうか!!」
●
「ロゼッタの方も騒がしいな……こちらと合流する気はないようだが」
ベルドは、ライバルの方を注意深く眺め。
視線を目の前の覚者達の方に向けて……嘆息した。
「しっかり! 正気になって! 声が聞こえるなら、今すぐ落ち着いて逃げて!」
「おーおー、頑張ってるじゃねえか。なでなでしてやるよ」
「んぃぃお尻がああっ。こらぁ! 誰が悪戯していいつったぁ!! お触り厳禁よぉ、馬鹿馬鹿ばーか!」
ワーズ・ワースで呼びかける零。人の波は確実に減る。そんな奮闘する彼女の尻を、刀嗣は褒める態で撫で。狐にちょっかいをかけられたサキュバスがぴょんと飛び上がる。
「あー、そこの狐の扮装の少年よ。あまり女性に、恥をかかすものではないと思うのだがね」
「オイコラ不細工1号。雑魚に戦わせといて何いい気になってやがる」
呆れるベルドに。
向き直った刀嗣は、刀を抜いて突きつける。
「不細工で雑魚の上、セコイとくりゃ救いようがねぇな」
英霊の力を引き出し。
零達が作った道を征き、対象へと目にも止まらぬ三連撃。白夜を、吸血鬼は正面から受け止める。
「ほう、なかなか……名を聞いておこうか」
「テメェラ相手にゃもったいねぇが教えてやる。櫻火真陰流、諏訪刀嗣様だ。覚えて死ね」
覚者達は、真っ直ぐに対峙する。
ブロックで隔てるようにして、渚は注射器を投擲。ジャックは破眼光の狙いを定めた。
「トリック・オア・トリートだよ♪ 吸血鬼さん」
「これは可愛らしい魔女のお嬢さん」
「ハロウィンを楽しむために集まった人達を奴隷呼ばわりしたり、傷つけ合わせるなんて許さないよ」
「吸血鬼にイタズラされる程度は覚悟しておくものさ」
「度の過ぎたイタズラはだめなんだぜ!! お菓子やるから、悪戯はここらへんで終わりにするんやで!!」
今回は他に回復できる人も多い。渚は久しぶりに体動かしてみるつもりだ。
ジャックの方は、戦いながら説得を続ける。
「落ち着いて慌てずに行きましょうね?」
八重は清廉珀香で自然治癒を上げておく。
一般人対応に最も追われていた零も、本格的に戦闘に参加を始める。
「第3勢力、ファイヴ! お菓子は不要だから悪戯しにきました! その勝負、このファイヴが勝ぁつ!! 勝手に介入!! 無理矢理介入!! にひひ! 久々の戦闘だあ!」
●
「吸血鬼の技っていったら、噛み付いて血を吸ったり、コウモリや狼になったり、目からビーム出したりするんだよな? 見せてくれよ、お前の力! 吸血鬼の力を!」
「……目からビーム?」
「お礼にこっちは、鍛えた空手の技をご馳走するぜ! 銀の武器や白木の杭より効くかな? 楽しみだ!」
遥は勢い勇んで、女吸血鬼へと接近。
霞舞でカウンターを合わせつつ、正鍛拳を叩き込む。ロゼッタも負けじと、蝙蝠や狼達を呼び寄せ、出血や痺れを強いてくる。
「皆がハロウィンを楽しくお祝いしているのに、そんな勝手な都合で台無しになんてさせないよ! 双方きっちりお仕置きさせてもらうよ!」
奏空は雷獣と飛燕を、ロゼッタへと。
守護使役を空に飛ばしておいて、古妖の動きを見ておくのも忘れない。
「乙女の柔肌を攻撃するのは本意では無いが、これは、運命。出会いが違えばラブラブになれただろうに……」
懐良も飛燕の連撃で攻め立てた。
「お仕置きも、ラブラブも遠慮させてもらいましょうか。あなた達を片付けた後は、ベルドとの戦いが待っているのですから」
「古妖の連中、どんぐりの背比べなんて無駄をやらずに自分を磨けばいい物を……欠伸がでるわよ」
逝は蔵王・戒で防御を固めて、古妖の攻撃を凌ぐ。
次に蒼炎の導を凜音に使った。
「喧嘩だの決闘だのやるなら、お前たちだけでやれよ。他人を巻き込むな」
後ろから支援がんばるわー、と。
凜音は、回復メインで参加していた。面倒くさがってはいるが、きっちり味方の回復をこなして戦線を維持する。潤しの滴、潤しの雨、あるいは演舞・舞衣。元々参謀系のためか、技の判断は的確だ。
「これは……思ったより」
二人の古妖との戦いは、二つの戦場に分断され。今のところ、合流を防ぐことにも成功していた。そして、戦いが進むにつれてこの吸血鬼の男女はお互いの戦況を気にし始める。
「……」
「……」
ちらちらと。
距離を挟んだ同胞に気が向いて、目の前の敵に注意が散漫となる。
「ちょいと説教(物理)をしてやろう。この悪食に齧られれば如何な悪戯っ子も大人しくなるさね。では、トリックオアキルと行こうかね。アハハ!」
そこを突くように。
逝の四方投げが炸裂する。一瞬の隙を狙われたロゼッタは、会心の一撃を見事に喰らい。地面に投げ出されて、咳き込んだ。
●
「ロゼッタ!」
女吸血鬼の姿に、ベルドが思わず身を乗り出す。
そのあまりにも無防備な姿に、八重は躊躇なく追撃を加えた。
「ふふ、喧嘩するほど仲がいいとは言いますが。人を巻き込んじゃったら駄目ですよ。ふふ、聞き分けのない子さん達にはめっですよ?」
のんびりしつつ傷はしっかりと抉る。
慈悲はない。
「一途に見ることは良いことですが、ちゃんと周りも見えないと駄目ですよ?」
棘一閃で覆った蔦の間から、正確無比に棘を浴びせた。
……怖くないですよ?
「悪戯もやりすぎたら怒られちゃうんだからねっ。人間も妖怪も、仲良くしていこう!! 今日は、ハロウィンだしね! だーかーらー、お祭り騒ぎで派手にやろう!!」
これを好機と零が激鱗の三連打。
圧倒的なスピードで、怯んだベルドを斬り裂く。自身にも大きな負担をかかるが、そんなことは気にもせず。そのあとも活殺打で押していく。
「なかなか……過激なお嬢さん方だ」
「二人にどんな因縁があるのかは知らないけどさ。関係ない人を巻き込んじゃだめだと思うな、私は」
普段は回復役が多い渚も、積極的に飛燕の殴打で攻撃する。
攻撃優先。命力翼賛を使用するときも、あくまでも回復の追いついていない仲間がいる場合のみ。
「こちらも急を要するようでね……一気に決めさせてもらう」
ベルドは、未だにロゼッタの方を気にしていた。自身の回復も後回しにして、右腕を狼へと変身させて鋭い爪を振るう。
「!」
ジャックが狙われるのを察知した八重は、すぐさま味方ガードに入る。無事を確認しようと顔を向けると、助けられた本人は不満な表情をみせて拗ねていた。
「なんだか不満そうですが、そういう顔も可愛いですよ?」
「いや、だってほら、男として……女に庇われるのは……!」
「ふふ、冗談です。ムスッとするよりキリッとしたお顔のほうがカッコイイですよ?」
相手を少し愛でたあと、八重は再び戦闘に集中する。
一方、ジャックは心の中で。
(くそっ! 全く、俺は非力な男だ!!)
と、八重が倒れそうになったら支えることを強く決意していた。
何にしても戦意高揚の効果があったのは間違いない。攻撃はもちろん、回復にも最優先で動いて、攻守にわたって奮戦する。
「っ!」
やがて、敵の焦りは致命的なミスにつながり。
刀嗣の刀が、ベルドの横腹を深く薙ぐ。零達の攻撃がそれに続き。
「みんなにハロウィン楽しんで欲しいからさ、そろそろ帰ってね。吸血鬼さん」
最後には渚の一撃が決め手となり。
ベルドは、ゆっくりと地面に倒れた……離れて戦うロゼッタの方へと。
●
「ああ、ベルド!」
ロゼッタの慌てようは、さながら悲劇を演じる舞台女優顔負けで。美しい眉目が歪み、流れるような長い金髪が逆立つ。今にも、ベルドの方へと駆けていかんばかりだが、それは覚者達が許さない。
「どきなさいっ! この子が、どうなっても良いのかしら!?」
逆上した女吸血鬼は、手近にいた人間の子供に手を伸ばす。
併せて、眠らせていた一般人達が立ちあがり、覚者達へと再び押し寄せてくる。ロゼッタの姿は、人の盾に阻まれてすぐさま見えなくなった。
「同じ程度だから人間チェス紛いでもしているのかね、迷惑だが」
仕方なく逝は、一般人を気絶させて広場の端へと移動させる。
人波に押されつつ。懐良は魔眼で、一般人にロゼッタの居場所をそれとなく知らせるように暗示かけた。彼らが差し示す方を、あとは超直観で良く見て――
「あそこだ」
仲間に、敵の居所を報せる。
一番に反応したのは奏空だった。
「こらー! 古妖のあんた達はすぐに治るのかもしれないけど、人間の怪我は簡単には治らないんだぞ! そしてめっちゃ痛い! その痛み、自分の身を持って知るといいよ!」
「くっ、しつこいわね!」
破れかぶれに奏空が飛びこんで、ロゼッタから人質となっていた子供を見事に奪い取る。
更に、凜音が的へと水礫を飛ばした。
「傍迷惑な事するんじゃねーよ。さっさとここから立ち去ってくれないか?」
こういう手合いは苛々すると、凜音の顔には書いてあった。
遥は人の盾のため攻撃の中断を余儀なくされ、機会があれば念弾を叩き込む方針に転換する。
「なかなか、近付けないぜ!」
「範囲外のときはこれさね」
逝が刀の瘴気から放たれる念弾を撃つ。
だが、問題は操られた人の壁だ。障害物になるのはもちろん、しつこくまとわりついてきてこちらの行動の精度はがくんと落ちる。
「さあ、可愛い奴隷さん達! 存分に働きなさいっ、私のために!!」
更に、今までどこか注意散漫だったロゼッタがなりふり構わず。弱体化を促す霧を発生させ、覚者達の追跡を振り払おうとする。
次第に、覚者達の負担は大きくなり。
そして、それは起こった。
「ま、雑魚にしてはそれなりだったが相手が悪かったな。世界最強になる上に、超イケメンの俺様が相手だったんだからな」
刀嗣の一刀が、ロゼッタの背後から一閃する。
ベルド側にいたメンバーが、攻撃の援護、一般人の無力化のために急行してきたのだ。
「な、なんですって……べ、ベルドは……」
女吸血鬼が痛みに身をよじらせる。
そこに、懐良が活殺打を合わせた。
「勿論、殺しなどはしない。だが、男には、退けぬ許せぬものがあるのだ」
妙な迫力がある一撃が、戦況を一気に傾ける。
戦力は倍増し。奏空は演舞・舞音と癒しの滴で回復しては、雷獣を射ちならし。逝は近付いて、地烈で削る。
「競争では負けたけど、ここは決めるぜ!」
遥の磨き抜かれた正鍛拳が唸りをあげ。
女吸血鬼の悲鳴がハロウィンの街に響き渡る……幕引きの確かな証だった。
●
「ほら、吸血鬼ども謝りなさいっ」
「……どうも」
「……迷惑をかけた」
零に促されて、吸血鬼二人が頭を下げる。
一般人は、全員が気を失って倒れていて。操られていた記憶は失ったまま、やがて眼を覚ますだろうということだった。
「争っている理由は、何なんですか?」
八重が尋ねると、吸血鬼達はぶつぶつと口を尖らせる。
つまり、要約すると。
「……それは、ベルドが人間の女にだらしないから」
「……いや、ロゼッタが人間の男に入れ込むから」
吸血鬼の言い分に、八重はめっの仕草をしてみせた。
ジャックも二人の治療しつつ、とりなす。
「反省してたら罰は終わりですし。喧嘩が済んだら仲直りして普通にハロウィンを楽しんでくださいね?」
「大丈夫か? 駄目だぜ、人間を人形みたいに使ったら。俺たちだってさ、ほら、生きているし、人間は二人より脆いからさ! できれば人間たちのこと大事にしてやってほしいな、駄目かな? ほらトリックオアトリート! ハロウィンで一緒に遊んで、友達になろうぜ! 」
吸血鬼達が顔を見合わせ。
何か言おうとしたところで。
「トリックアンドトリート!」
懐良がロゼッタへと詰め寄る。
即座にお菓子を差し出さないようなら、イタズラしよう!
お菓子出してもイタズラしよう。だって、アンドだし。
「怒られない程度にいろいろイタズラしちゃうぞー! げへへ!」
「な、なに? ちょっとベルド、助け……っ」
「決着つけるならチェスとかですれば? 反省してくれるなら……今度は皆で楽しく遊ぶ為においでよ」
「チェスか、ふむ」
ロゼッタは必死に救助を求めるが、ベルドは奏空の提案を真剣に思案し始める。
そんな光景を尻目に、凜音は眠っている一般人達の治癒を行っていた。
「折角の祭りで、怪我して思い出が台無しになるのは、な。しかも理由が理由だし」
……全部終わったら仮装でも眺めて帰りますかね。
家でゆっくりしてたいんだが、出てきたついでにな。と、凜音は予定を現実にするために、少しだけ手を急がせた。
広場は暴動の極致にある。
『介錯人』鳴神 零(CL2000669)、『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)、『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)、『深緑』十夜 八重(CL2000122)は、ベルド班。
ロゼッタ班は、香月 凜音(CL2000495)、鹿ノ島・遥(CL2000227)、『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)、緒形 逝(CL2000156)、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)だ。
「零のベルド班と、どっちが早く倒せるか競争するぜ! 零、負けねえからな! 坂上さん、先日のバトロワで1位2位だったオレらの力、見せてやろうぜ!」
「悪い子にはお仕置きしないと、ネッ! 鹿ノ島くんと競争だ! どっちが早く倒せるか!」
遥と零が意気込む。
吸血鬼のライバルといえばコレということで、遥の仮装は狼男。零はちょっとお尻が気になるサキュバス衣装姿。二組は群衆の中に紛れ、それぞれ後ろをとるべく別行動を始める。
「うわ。ほんと、すごい人の数。でも、これだけごちゃごちゃしてれば上手く潜入しながら目的地まで辿り着けるかも」
顔の隠れる大きな魔女帽子で、仮装しているのは渚だ。首筋に噛まれたような跡をメイクで描き、操られた振りをする。
「よくわかんねぇが雑魚に手ぇ出さねえであの不細工2人をぶちのめしゃ良いんだな? おい、鳴神。お前あの一般人ども眠らせろ。出来なかったら」
刀嗣はキュウビの狐に仮装をして、手をわきわきと嫌らしく動かしてみせた。
思わず零は、後ずさる。
「……ちょっ、ちょっと刀嗣くん!? なにその手つき、怖いよ!?」
「お・仕・置・き・だ」
「ちゃ、ちゃんとやるわよ! やりゃあいいんでしょ脅さないで!」
背後からの奇襲。
零は艶舞・寂夜で眠りを誘う空気感を演出、一般人を上手く眠らせていく。
「曲者か! 全軍、背後からの強襲に備えろ!!」
異変に気付いたベルドは号令を下す。
群衆がわらわらと覚者の方へと集まってくる。
「手荒な真似はしたくないですし、大人しくしててくださいね? あんまり邪魔だと怖い人達が暴れちゃいますしね」
八重は捕縛蔓で、足元より蔓を伸ばしていく。
一般人達を次々と縛り、がんじがらめにして動きを止める。ジャックはその横で仕掛けるタイミングを計っていた。
「おおう、こんな楽しいときに物騒なことやってんな!? 喧嘩はあかんえ、お前等仲良くし……いやあああ、あれーー!? 仲間もやる気満々!!!? ええい、わかった!! 付き合ってやるわ!! さっさと終わらせて、楽しいハロウィンを取り戻してやろうぜ!!」
●
「去年やったデュラハンの仮装をするさね、頭が離れてる? それは仕込み、タネは有るけど教えんよ。ところで……普段から仮装してるだろうって、思う子は素直に手を挙げてごらん? 怒りやせんぞう」
何もしないとは言ってない。
ともあれ、逝のロゼッタ班も自然に背後に回る。
「自分達の因縁に関係のない他の人を巻き込むなんて迷惑だなぁ」
首に跡をつけ忍者の仮装をした奏空は、艶舞・寂夜を行う。ちょっとごめんね、と眠り漏らした者には軽く手刀で気絶させた。
「本来謂れある祭りの筈が、この国ではただのコスプレパーティーだよな。いろんな恰好の奴がいるのは楽しいし、ねーちゃんが可愛い恰好してるなら目の保養だし。けど、こんな時にまで揉め事起こすなよな……」
凜音は思う……ああ多分、俺の前世が指揮官系統だったんだろうなと。
同族嫌悪とまでは言わねーが。不必要に人心を操る系統は虫唾が走る。一般人への対策は仲間に任せて、錬覇法で力を溜めた。
「ケンカなら自分の拳でやりやがれ! 他人に代わりさせてんじゃねえ!!! ……と、思ったわけではあるが、それはそれとして、吸血鬼とのバトルというのは純粋に燃えるシチュでもあるわけだ」
防御に専念していた遥は……吸血鬼が射程に入ったところで、間髪入れず念弾を打ち放った。練り上げた気が女吸血鬼へと一直線へと飛び。
「まあそんなわけで! 他人様のケンカに割って入るのは無粋じゃあるが、そのケンカ祭り、飛び入り参加させてもらうぜ!!」
「何かしら……あれは狼男に、忍者に、デュラハン、あとはファラオ?」
ロゼッタは、念弾を振り払い。
覚者達の方を注視する。注目されたファラオな仮装をした懐良は、これを契機に語りかける。
「一つお二人に提案をしよう」
「人間が私達に提案?」
「我々は二班に分かれ、それぞれお二人に当たる。故に、先に我々を打倒した方が今回の勝者とする、と。戦いとは互いに戦意があってこそ盛り上がるもの。無気力な人形遊びではそうは行くまい?」
これは言わば、結託させないようにそれとなく促すための挑発だった。
「無論、自信がなければ断ってくれてもかまわないけどな」
わざとらしく、引いてみせる。
それに対し、絶世の美女たる吸血鬼は……華やかに笑ってみせた。
「ふふ、安い挑発ね。でも、良いでしょう! まずは、あなた達から血祭りにするとしましょうか!!」
●
「ロゼッタの方も騒がしいな……こちらと合流する気はないようだが」
ベルドは、ライバルの方を注意深く眺め。
視線を目の前の覚者達の方に向けて……嘆息した。
「しっかり! 正気になって! 声が聞こえるなら、今すぐ落ち着いて逃げて!」
「おーおー、頑張ってるじゃねえか。なでなでしてやるよ」
「んぃぃお尻がああっ。こらぁ! 誰が悪戯していいつったぁ!! お触り厳禁よぉ、馬鹿馬鹿ばーか!」
ワーズ・ワースで呼びかける零。人の波は確実に減る。そんな奮闘する彼女の尻を、刀嗣は褒める態で撫で。狐にちょっかいをかけられたサキュバスがぴょんと飛び上がる。
「あー、そこの狐の扮装の少年よ。あまり女性に、恥をかかすものではないと思うのだがね」
「オイコラ不細工1号。雑魚に戦わせといて何いい気になってやがる」
呆れるベルドに。
向き直った刀嗣は、刀を抜いて突きつける。
「不細工で雑魚の上、セコイとくりゃ救いようがねぇな」
英霊の力を引き出し。
零達が作った道を征き、対象へと目にも止まらぬ三連撃。白夜を、吸血鬼は正面から受け止める。
「ほう、なかなか……名を聞いておこうか」
「テメェラ相手にゃもったいねぇが教えてやる。櫻火真陰流、諏訪刀嗣様だ。覚えて死ね」
覚者達は、真っ直ぐに対峙する。
ブロックで隔てるようにして、渚は注射器を投擲。ジャックは破眼光の狙いを定めた。
「トリック・オア・トリートだよ♪ 吸血鬼さん」
「これは可愛らしい魔女のお嬢さん」
「ハロウィンを楽しむために集まった人達を奴隷呼ばわりしたり、傷つけ合わせるなんて許さないよ」
「吸血鬼にイタズラされる程度は覚悟しておくものさ」
「度の過ぎたイタズラはだめなんだぜ!! お菓子やるから、悪戯はここらへんで終わりにするんやで!!」
今回は他に回復できる人も多い。渚は久しぶりに体動かしてみるつもりだ。
ジャックの方は、戦いながら説得を続ける。
「落ち着いて慌てずに行きましょうね?」
八重は清廉珀香で自然治癒を上げておく。
一般人対応に最も追われていた零も、本格的に戦闘に参加を始める。
「第3勢力、ファイヴ! お菓子は不要だから悪戯しにきました! その勝負、このファイヴが勝ぁつ!! 勝手に介入!! 無理矢理介入!! にひひ! 久々の戦闘だあ!」
●
「吸血鬼の技っていったら、噛み付いて血を吸ったり、コウモリや狼になったり、目からビーム出したりするんだよな? 見せてくれよ、お前の力! 吸血鬼の力を!」
「……目からビーム?」
「お礼にこっちは、鍛えた空手の技をご馳走するぜ! 銀の武器や白木の杭より効くかな? 楽しみだ!」
遥は勢い勇んで、女吸血鬼へと接近。
霞舞でカウンターを合わせつつ、正鍛拳を叩き込む。ロゼッタも負けじと、蝙蝠や狼達を呼び寄せ、出血や痺れを強いてくる。
「皆がハロウィンを楽しくお祝いしているのに、そんな勝手な都合で台無しになんてさせないよ! 双方きっちりお仕置きさせてもらうよ!」
奏空は雷獣と飛燕を、ロゼッタへと。
守護使役を空に飛ばしておいて、古妖の動きを見ておくのも忘れない。
「乙女の柔肌を攻撃するのは本意では無いが、これは、運命。出会いが違えばラブラブになれただろうに……」
懐良も飛燕の連撃で攻め立てた。
「お仕置きも、ラブラブも遠慮させてもらいましょうか。あなた達を片付けた後は、ベルドとの戦いが待っているのですから」
「古妖の連中、どんぐりの背比べなんて無駄をやらずに自分を磨けばいい物を……欠伸がでるわよ」
逝は蔵王・戒で防御を固めて、古妖の攻撃を凌ぐ。
次に蒼炎の導を凜音に使った。
「喧嘩だの決闘だのやるなら、お前たちだけでやれよ。他人を巻き込むな」
後ろから支援がんばるわー、と。
凜音は、回復メインで参加していた。面倒くさがってはいるが、きっちり味方の回復をこなして戦線を維持する。潤しの滴、潤しの雨、あるいは演舞・舞衣。元々参謀系のためか、技の判断は的確だ。
「これは……思ったより」
二人の古妖との戦いは、二つの戦場に分断され。今のところ、合流を防ぐことにも成功していた。そして、戦いが進むにつれてこの吸血鬼の男女はお互いの戦況を気にし始める。
「……」
「……」
ちらちらと。
距離を挟んだ同胞に気が向いて、目の前の敵に注意が散漫となる。
「ちょいと説教(物理)をしてやろう。この悪食に齧られれば如何な悪戯っ子も大人しくなるさね。では、トリックオアキルと行こうかね。アハハ!」
そこを突くように。
逝の四方投げが炸裂する。一瞬の隙を狙われたロゼッタは、会心の一撃を見事に喰らい。地面に投げ出されて、咳き込んだ。
●
「ロゼッタ!」
女吸血鬼の姿に、ベルドが思わず身を乗り出す。
そのあまりにも無防備な姿に、八重は躊躇なく追撃を加えた。
「ふふ、喧嘩するほど仲がいいとは言いますが。人を巻き込んじゃったら駄目ですよ。ふふ、聞き分けのない子さん達にはめっですよ?」
のんびりしつつ傷はしっかりと抉る。
慈悲はない。
「一途に見ることは良いことですが、ちゃんと周りも見えないと駄目ですよ?」
棘一閃で覆った蔦の間から、正確無比に棘を浴びせた。
……怖くないですよ?
「悪戯もやりすぎたら怒られちゃうんだからねっ。人間も妖怪も、仲良くしていこう!! 今日は、ハロウィンだしね! だーかーらー、お祭り騒ぎで派手にやろう!!」
これを好機と零が激鱗の三連打。
圧倒的なスピードで、怯んだベルドを斬り裂く。自身にも大きな負担をかかるが、そんなことは気にもせず。そのあとも活殺打で押していく。
「なかなか……過激なお嬢さん方だ」
「二人にどんな因縁があるのかは知らないけどさ。関係ない人を巻き込んじゃだめだと思うな、私は」
普段は回復役が多い渚も、積極的に飛燕の殴打で攻撃する。
攻撃優先。命力翼賛を使用するときも、あくまでも回復の追いついていない仲間がいる場合のみ。
「こちらも急を要するようでね……一気に決めさせてもらう」
ベルドは、未だにロゼッタの方を気にしていた。自身の回復も後回しにして、右腕を狼へと変身させて鋭い爪を振るう。
「!」
ジャックが狙われるのを察知した八重は、すぐさま味方ガードに入る。無事を確認しようと顔を向けると、助けられた本人は不満な表情をみせて拗ねていた。
「なんだか不満そうですが、そういう顔も可愛いですよ?」
「いや、だってほら、男として……女に庇われるのは……!」
「ふふ、冗談です。ムスッとするよりキリッとしたお顔のほうがカッコイイですよ?」
相手を少し愛でたあと、八重は再び戦闘に集中する。
一方、ジャックは心の中で。
(くそっ! 全く、俺は非力な男だ!!)
と、八重が倒れそうになったら支えることを強く決意していた。
何にしても戦意高揚の効果があったのは間違いない。攻撃はもちろん、回復にも最優先で動いて、攻守にわたって奮戦する。
「っ!」
やがて、敵の焦りは致命的なミスにつながり。
刀嗣の刀が、ベルドの横腹を深く薙ぐ。零達の攻撃がそれに続き。
「みんなにハロウィン楽しんで欲しいからさ、そろそろ帰ってね。吸血鬼さん」
最後には渚の一撃が決め手となり。
ベルドは、ゆっくりと地面に倒れた……離れて戦うロゼッタの方へと。
●
「ああ、ベルド!」
ロゼッタの慌てようは、さながら悲劇を演じる舞台女優顔負けで。美しい眉目が歪み、流れるような長い金髪が逆立つ。今にも、ベルドの方へと駆けていかんばかりだが、それは覚者達が許さない。
「どきなさいっ! この子が、どうなっても良いのかしら!?」
逆上した女吸血鬼は、手近にいた人間の子供に手を伸ばす。
併せて、眠らせていた一般人達が立ちあがり、覚者達へと再び押し寄せてくる。ロゼッタの姿は、人の盾に阻まれてすぐさま見えなくなった。
「同じ程度だから人間チェス紛いでもしているのかね、迷惑だが」
仕方なく逝は、一般人を気絶させて広場の端へと移動させる。
人波に押されつつ。懐良は魔眼で、一般人にロゼッタの居場所をそれとなく知らせるように暗示かけた。彼らが差し示す方を、あとは超直観で良く見て――
「あそこだ」
仲間に、敵の居所を報せる。
一番に反応したのは奏空だった。
「こらー! 古妖のあんた達はすぐに治るのかもしれないけど、人間の怪我は簡単には治らないんだぞ! そしてめっちゃ痛い! その痛み、自分の身を持って知るといいよ!」
「くっ、しつこいわね!」
破れかぶれに奏空が飛びこんで、ロゼッタから人質となっていた子供を見事に奪い取る。
更に、凜音が的へと水礫を飛ばした。
「傍迷惑な事するんじゃねーよ。さっさとここから立ち去ってくれないか?」
こういう手合いは苛々すると、凜音の顔には書いてあった。
遥は人の盾のため攻撃の中断を余儀なくされ、機会があれば念弾を叩き込む方針に転換する。
「なかなか、近付けないぜ!」
「範囲外のときはこれさね」
逝が刀の瘴気から放たれる念弾を撃つ。
だが、問題は操られた人の壁だ。障害物になるのはもちろん、しつこくまとわりついてきてこちらの行動の精度はがくんと落ちる。
「さあ、可愛い奴隷さん達! 存分に働きなさいっ、私のために!!」
更に、今までどこか注意散漫だったロゼッタがなりふり構わず。弱体化を促す霧を発生させ、覚者達の追跡を振り払おうとする。
次第に、覚者達の負担は大きくなり。
そして、それは起こった。
「ま、雑魚にしてはそれなりだったが相手が悪かったな。世界最強になる上に、超イケメンの俺様が相手だったんだからな」
刀嗣の一刀が、ロゼッタの背後から一閃する。
ベルド側にいたメンバーが、攻撃の援護、一般人の無力化のために急行してきたのだ。
「な、なんですって……べ、ベルドは……」
女吸血鬼が痛みに身をよじらせる。
そこに、懐良が活殺打を合わせた。
「勿論、殺しなどはしない。だが、男には、退けぬ許せぬものがあるのだ」
妙な迫力がある一撃が、戦況を一気に傾ける。
戦力は倍増し。奏空は演舞・舞音と癒しの滴で回復しては、雷獣を射ちならし。逝は近付いて、地烈で削る。
「競争では負けたけど、ここは決めるぜ!」
遥の磨き抜かれた正鍛拳が唸りをあげ。
女吸血鬼の悲鳴がハロウィンの街に響き渡る……幕引きの確かな証だった。
●
「ほら、吸血鬼ども謝りなさいっ」
「……どうも」
「……迷惑をかけた」
零に促されて、吸血鬼二人が頭を下げる。
一般人は、全員が気を失って倒れていて。操られていた記憶は失ったまま、やがて眼を覚ますだろうということだった。
「争っている理由は、何なんですか?」
八重が尋ねると、吸血鬼達はぶつぶつと口を尖らせる。
つまり、要約すると。
「……それは、ベルドが人間の女にだらしないから」
「……いや、ロゼッタが人間の男に入れ込むから」
吸血鬼の言い分に、八重はめっの仕草をしてみせた。
ジャックも二人の治療しつつ、とりなす。
「反省してたら罰は終わりですし。喧嘩が済んだら仲直りして普通にハロウィンを楽しんでくださいね?」
「大丈夫か? 駄目だぜ、人間を人形みたいに使ったら。俺たちだってさ、ほら、生きているし、人間は二人より脆いからさ! できれば人間たちのこと大事にしてやってほしいな、駄目かな? ほらトリックオアトリート! ハロウィンで一緒に遊んで、友達になろうぜ! 」
吸血鬼達が顔を見合わせ。
何か言おうとしたところで。
「トリックアンドトリート!」
懐良がロゼッタへと詰め寄る。
即座にお菓子を差し出さないようなら、イタズラしよう!
お菓子出してもイタズラしよう。だって、アンドだし。
「怒られない程度にいろいろイタズラしちゃうぞー! げへへ!」
「な、なに? ちょっとベルド、助け……っ」
「決着つけるならチェスとかですれば? 反省してくれるなら……今度は皆で楽しく遊ぶ為においでよ」
「チェスか、ふむ」
ロゼッタは必死に救助を求めるが、ベルドは奏空の提案を真剣に思案し始める。
そんな光景を尻目に、凜音は眠っている一般人達の治癒を行っていた。
「折角の祭りで、怪我して思い出が台無しになるのは、な。しかも理由が理由だし」
……全部終わったら仮装でも眺めて帰りますかね。
家でゆっくりしてたいんだが、出てきたついでにな。と、凜音は予定を現実にするために、少しだけ手を急がせた。

■あとがき■
結果はベルドの次にロゼッタを撃破という流れになりました。参加者の皆さんも、仮装したり。男女の困ったやりとりがあったり。吸血鬼に迫ったりと。興味深いプレイングでした。男女関係でごたつくのは、覚者も古妖も同じなのかも。
それでは、ご参加ありがとうございます。
それでは、ご参加ありがとうございます。
