<南瓜夜行>大煙管 祭りに不幸を呼びましょう
●トリックオアトリート!
ハロウィン。
本来は秋の収穫を祝い悪霊を追い出すケルトの祭りだが、巡り巡って今では仮装行列のようになっている。
悪霊に見つからないようにするための仮装なのだが、別に悪霊を倒してしまっても構わないのだろう? とばかりにヒーローヒロインの仮装も多い。
さて、そんな仮装の中に古妖が混じっていることもある。人に似た古妖は、この時期人間の仮装を装って――変な言葉だがそれはともかく――町に交じっている。本番前の練習と言ってしまえば、多少奇異な目で見られるが素通りされるらしい。
問題は、古妖の中には人にいたずらするものもいるわけで……。
●残念だがトリックのみだ!
自分の体程の大きさを持つ煙管をふかし、一人の男がハロウィンの街中で何かを待つように立っていた。サングラスにスーツを着たどこか悪徳めいた雰囲気をだしている。ただ頭の耳と腰から生えた尻尾が全てを台無しにしていた。獣憑なのだろうが、見たことのない尻尾だ。そう考えると仮装なのだろうか?
男は辺りを見回し、目標を見つけたとばかりに昼休みにコンビニで休憩しているサラリーマンに近づいていく。
「よぉ、兄ちゃん。煙草くれねぇか?」
男は言って大きな煙管を見せつけるように煙草をねだる。怪訝に思いながらもサラリーマンは煙草を一本差し出すが、
「ああ、それじゃあ足りねぇ。この煙管一杯に欲しいんだ」
「え? いやいや、そりゃ大きすぎるだろう」
巨大な煙管を埋めるには、煙草の箱一つじゃ足りないだろう。サラリーマンたちはこぞって拒否すると、男は笑みを浮かべて脅迫するように告げる。
「いいのかい? このままだと『水難』が訪れるぜ?」
は? 何のことかわからないとサラリーマンたちが首をひねりながら、離れていく。――その数秒後、突如破裂した水道管の水がサラリーマンたちを襲い、彼らは水浸しになった。
「災難だね。煙管を詰めてくれれば助かったのに」
煙管をふかしながら、男は尻尾を揺らして歩いていく。
動物学を齧った人間ならすぐにわかるだろう。その耳と尻尾は、狸の物だと。
●そんなハロウィンは認めない
「ハロウィンに紛れ込んだ狸さんを捕まえてきてね!」
久方 万里(nCL2000005)は集まった覚者達を前に説明を開始する。
「狸は『大煙管』っていう古妖で、煙管一杯に煙草を詰めないと災難を与えるみたい」
煙管は一キロ半ほど煙草を用意しないと全部詰まらないほど巨大な煙管である。それを詰めるというアイデアは、却下した方がよさそうだ。となると、直接捕まえてお仕置きした方がいい。
「災難と言っても基本的には大したことはないけど、戦闘になるとその能力を使って戦ってくるから気を付けてね。あとは煙を使ったり、煙管で殴ってきたりするみたい」
そこそこ面倒な相手だが、そういう相手だとわかれば対策もとれる。
「楽しいハロウィンを守るために、頑張ってね!」
元気のいい万里の声に送り出されて、覚者達は会議室を出た。
ハロウィン。
本来は秋の収穫を祝い悪霊を追い出すケルトの祭りだが、巡り巡って今では仮装行列のようになっている。
悪霊に見つからないようにするための仮装なのだが、別に悪霊を倒してしまっても構わないのだろう? とばかりにヒーローヒロインの仮装も多い。
さて、そんな仮装の中に古妖が混じっていることもある。人に似た古妖は、この時期人間の仮装を装って――変な言葉だがそれはともかく――町に交じっている。本番前の練習と言ってしまえば、多少奇異な目で見られるが素通りされるらしい。
問題は、古妖の中には人にいたずらするものもいるわけで……。
●残念だがトリックのみだ!
自分の体程の大きさを持つ煙管をふかし、一人の男がハロウィンの街中で何かを待つように立っていた。サングラスにスーツを着たどこか悪徳めいた雰囲気をだしている。ただ頭の耳と腰から生えた尻尾が全てを台無しにしていた。獣憑なのだろうが、見たことのない尻尾だ。そう考えると仮装なのだろうか?
男は辺りを見回し、目標を見つけたとばかりに昼休みにコンビニで休憩しているサラリーマンに近づいていく。
「よぉ、兄ちゃん。煙草くれねぇか?」
男は言って大きな煙管を見せつけるように煙草をねだる。怪訝に思いながらもサラリーマンは煙草を一本差し出すが、
「ああ、それじゃあ足りねぇ。この煙管一杯に欲しいんだ」
「え? いやいや、そりゃ大きすぎるだろう」
巨大な煙管を埋めるには、煙草の箱一つじゃ足りないだろう。サラリーマンたちはこぞって拒否すると、男は笑みを浮かべて脅迫するように告げる。
「いいのかい? このままだと『水難』が訪れるぜ?」
は? 何のことかわからないとサラリーマンたちが首をひねりながら、離れていく。――その数秒後、突如破裂した水道管の水がサラリーマンたちを襲い、彼らは水浸しになった。
「災難だね。煙管を詰めてくれれば助かったのに」
煙管をふかしながら、男は尻尾を揺らして歩いていく。
動物学を齧った人間ならすぐにわかるだろう。その耳と尻尾は、狸の物だと。
●そんなハロウィンは認めない
「ハロウィンに紛れ込んだ狸さんを捕まえてきてね!」
久方 万里(nCL2000005)は集まった覚者達を前に説明を開始する。
「狸は『大煙管』っていう古妖で、煙管一杯に煙草を詰めないと災難を与えるみたい」
煙管は一キロ半ほど煙草を用意しないと全部詰まらないほど巨大な煙管である。それを詰めるというアイデアは、却下した方がよさそうだ。となると、直接捕まえてお仕置きした方がいい。
「災難と言っても基本的には大したことはないけど、戦闘になるとその能力を使って戦ってくるから気を付けてね。あとは煙を使ったり、煙管で殴ってきたりするみたい」
そこそこ面倒な相手だが、そういう相手だとわかれば対策もとれる。
「楽しいハロウィンを守るために、頑張ってね!」
元気のいい万里の声に送り出されて、覚者達は会議室を出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『大煙管』の打破。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
ハロウィンの町に訪れた愛煙家。迷惑な古妖なのですが。
●敵情報
・大煙管(×1)
古妖。人間に化けていますが、正体は大人男性ほどの身長を持つ大狸です。
常に巨大な煙管を持ち、それがいっぱいになるまで煙草を詰めないと災難を与えるという存在です。ハロウィンの熱気にひかれて人間の町にやってきました。本番では正体を明かして派手にやろうかと考えています。そうなれば、ハロウィンの祭は『災難』で台無しになるでしょう。
煙管一杯に煙草を詰めても、満足するだけで吸い終わったら次の目標を探します。なので一度痛い目に合わせるのが良作です。
攻撃方法
煙管で殴打 物近単 煙管の頭で叩きます。熱い所を押し付けるように。〔火傷〕
煙管大回転 物近列 煙管を振り回し、近くにいる人間を打ち据えます。
ここで一服 特遠単 煙管を吸い、煙を吐いて気勢を削ぎます。〔解除〕
難が来るぜ 特遠全 ツキの流れを変化させて、不幸を呼びます。〔不運〕〔ダメージ0〕
煙幕大結界 P 煙で戦場を包みます。戦場の全キャラクターに影響。移動の際に運判定を行い、失敗すると移動がキャンセルされます。
●場所情報
京都の町中。大通りと大通りの間にある路地。時刻は昼。人通りはまばらですが、戦闘が始まれば自然と離れていきます。明るさや広さなどは十分なものとします。
戦闘開始時の互いの距離は一〇メートル。事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年11月07日
2016年11月07日
■メイン参加者 8人■

●
「共に楽しみたいというのであれば古妖であろうと歓迎するのだが、いかんせん悪戯が過ぎるのは考えものだなぁ」
うむうむと首を縦に振りながら日光避けのフードを被った『白い人』由比 久永(CL2000540)が大煙管の前に姿を現す。悪戯かお菓子かを選ぶハロウィンだが、些か悪戯が過ぎる。そういう古妖だと知ってはいるが、お灸をすえねばなるまい。
「過ぎる悪戯は、折角の夜に似つかわしくはないな。日本らしく風流に……まぁ、ハロウィンだが、いこうぜ」
鬼の仮面を後頭部につけ、フランケンシュタインの怪物の格好をした『花守人』三島 柾(CL2001148)。揺れる狸の尻尾を見て、触りたい衝動を押さえながら神具を構える。もふもふした物は嫌いではないが、それはそれだ。
「悪戯は程度を弁えないとただの迷惑行為ですよ」
猫耳キャスケットと縞々マフラー姿。チェシャ猫を思わせる仮装の『彼誰行灯』麻弓 紡(CL2000623)だ。棒付きの飴ちゃんを舐めながら、チェシャ猫を思わせる不敵な笑みを浮かべていた。悪戯し返してやる。そんな表情で。
「1キロ半の煙草ってどんだけの量だよ。そんなの詰めないと災難に遭わせるって酷すぎるだろ」
猫耳姿の『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)は大煙管の要求に不満を告げた。年齢の関係もあってタバコが吸えない翔だが、それが無茶な要求だという事は分かる。ちなみに煙草一箱二十五グラム。単純計算で六十箱程だ。
「タバコは成長によくないって聞いたことがありますが、狸さんには違ったんでしょうか?」
大煙管の背の高さを見ながら『Overdrive』片桐・美久(CL2001026)は唸りをあげた。美久の仮装は狼耳だ。もふもふした狼の耳を揺らしながら、まだ吸うことが出来ないタバコの事を想像する。あれが大人の魅力なのだろうか?
「これからちょっと騒がしくなる。怪我したくなければしばらく離れててくれるか?」
狼の耳と尻尾の仮装で、周りの人たちに注意喚起する『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)。その言葉に一定の距離を置く仮装した人達。出来れば完全に離れてほしいが、あの距離なら巻き込まれることはないだろう。そう思い、古妖に向き直る。
「とりっくおあとりーと? お菓子くれないと思うから、いたずら」
返事を聞くまでもなく悪戯する気の桂木・日那乃(CL2000941)。人が死ぬわけではないこともあり、いつもの冷めた判断はなりを潜めている。黒いワンピースに三角帽子。本を手にした魔女風の格好で大煙管の前に立つ。
「さて狸の古妖よ、人間をもてあそぶつもりならば、ワシ等が相手じゃよ」
狐の仮面をかぶった『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)が薙刀を構えて大煙管に向けた。トリックオアトリート。ある程度の悪戯が容認されるハロウィンだが、古妖の力を使って暴れるのはやり過ぎだ。ここで止めて、楽しいハロウィンを迎えるのだ。
「殺気だってるねぇ。ま、これも祭りの華ってやつだな」
煙管を吸い、紫煙を吐く大煙管。煙が晴れれば変化を解いた大きな狸がそこにいた。煙管を肩に担ぎ、戦いの構えを取る。
古妖の行き過ぎた悪戯からハロウィンの祭を守るための闘いが、ここに切って落とされた。
●
「行け、雷獣! 痺れさせちまえ!」
一番槍を取ったのは翔だった。覚醒して大人の姿になった翔が神具の『スマートフォン』を操作する。周りの人間が巻き込まれないことを確認した後に、術式を展開するために源素を活性化させる。防御は仲間に任せ、攻撃に徹すると心に決めて。
稲妻が翔の指先に集い、稲妻の獣と化す。それは翔の意のままに動き、雄たけびを上げるように古妖に襲い掛かった。煙管を狙って落としたかったのだが、それでも煙管を落とさないのは古妖の煙草愛ゆえか。
「大人ってなんで煙草なんか吸うのかなー。煙いだけじゃん、あれ」
「こいつは大人の味さ。据えて初めて一人前よ」
「吸えない大人もいるのだがな」
肩をすくめて柾が大煙管に言葉を返す。大人の全員がタバコを吸えるわけではない。そもそも大人の魅力はタバコが吸えるだけではない。少なくとも、煙草を貰えないからと言って悪戯する古妖には言われたくはない。
両手に装着したショットガントレットを合わせ、最前線で古妖と相対する。全身の細胞を源素の炎で活性化し、柾はその拳を振り上げる。ジャブからのワンツー。ボクシングの基本動作。ジャブが相手の防御の隙を生み、そこに叩き込まれる炎の拳。
「炎が欲しいのか? ならやるよ」
「あちあち! 火力強すぎだぜ、兄ちゃん」
「ならばワシの薙刀で火種を切ってやろうか?」
『妖薙濡烏』を手に樹香が見栄を切る。戦いの前に切りそろえられた髪が、そよ風に吹かれて揺れる。その風が収まると同時に大煙管に向かい神具を振り下ろす。古妖の持つ煙管と打ち合い、金属音が響き渡った。
樹香は神具に力を込めながら、心の中は静かに思考していた。思うより早く体が動く。薙刀を押して相手のバランスを崩し、そのまま振るわれる二連撃。盾に横に振るわれる攻撃に古妖は翻弄され、体の傷は増えていく。
「人に悪さをする化け狸。いざ、退治してみせようぞ」
「そいつは御免だ。狸らしく煙に巻いて逃げてやろうか」
「徳島の化け狸とは思えぬ言葉じゃな。どっしり構えて煙管を吸わんか」
久永の言葉ににやりと笑う古妖。久永はこの化け狸の事を知っていた。川に顕れて船を沈める化け狸。それなりに有名な古妖がこの程度で尻尾を巻いて逃げる等ありえない。大煙管の笑みは、その挑発に乗った笑みだ。
霧を放って古妖の視界を奪った後に、久永は眠りの雲を生み出す。体内で活性化させた天の源素。眠りに誘う微粒子を生み、手にした扇で風を生んでその微粒子を飛ばす。それを吸い込んだ大煙管は倒れ込み、いびきをかいた。それを見て久永は呟く。
「うむ。見事な『狸寝入り』だな」
「ち。バレたか」
「少しだけ、寝てた、よ」
頭をかく大煙管の嘘を見破る日那乃。呆然としているように見えて、見る所は見ている。顔を逸らす古妖を含めて、しっかりと戦場を見回す。傷ついている人間を見定め、誰を回復すべきかを吟味していた。
日那乃は古妖から十分に距離を取り、書物を手にする。体の中を清らかな水が流れ、湖に注がれるイメージを描く。そのイメージを維持したまま術式を展開し、恵みの雨を戦場に降り注がせる。水は傷口を冷やし、そして癒していく。
「深想水いるなら、言って。移動する」
「バッドステータスはボクの方でやるよ」
日那乃の言葉に応える紡。だらけている様に見えるが、やるべきことはやる。棒付キャンディを舐めながら、青色の羽を広げる。大煙管の悪戯は不運を告げると言う。だがその不運を取り払えば、怖くはないのだ。
天の源素を振りまきながら舞う紡。その後に、大煙管に不運を告げられた者達を癒すべく別の舞を踊る。仲間を支援しながら、回復も行う。仲間を支えること。それが紡の戦い。仲間に対する強い信頼が根底にあった。
「悪戯は程度を弁えないとただの迷惑行為ですよ」
「そういう祭りなんだろ? 多少の行き過ぎは目ぇつぶってくれよ」
「お祭り騒ぎに浮かれる気持ちはわかりますが、はしゃぎ過ぎたらお祭りが台無しになってしまいますよ?」
鞘に山吹の装飾が施された打刀を手に美久が古妖を嗜める。ハロウィンが祭りとして受け入れられるのも、その悪戯が笑って許されるからだ。行き過ぎた享楽は祭りの妨げになる。祭りを楽しむためにも、行き過ぎた悪戯を止めなくては。
痛覚を意図的にオフにして、僅かに距離を置いて古妖と相対する美久。打刀で空中に文字を描くように振るいながら、体内の源素を練り上げる。古妖の足元から生まれた植物が大煙管の足に絡まり、その動きを封じていく。
「捕まえました、狸さん!」
「おおっと、だがまだまだ戦えるぜ」
「なら俺が相手だ」
両手に日本刀を一本ずつ持った飛馬が第煙管の前に立ちふさがる。祖父と父の名を冠する日本刀。己の家族と共に戦うという意志がそこに備わっていた。その意思を瞳に乗せて、真っ直ぐに古妖を見ながら戦いに挑む。
仲間に振り下ろされた一撃を、飛馬の刀が塞ぐ。第煙管の重量をそのまま受け止めるのではなく、刀の歪曲部分を使って器用に逸らす。最小限の力と動きで防御する。これが祖父の教え。その技術は心と共に飛馬に伝えられていた。
「なかなかつえーなお前。気に入ったぞ」
「そりゃどうも。できれば気にったまま見逃してくれると嬉しいね」
大煙管の軽口に、いいよと答える者はいない。そこに反省の色は見えないからだ。
古妖と覚者。南瓜夜行の闘いは、時ともに加速していく。
●
大煙管の紫煙で包まれた戦場のなか、覚者達は連携だって戦う。
前衛に柾と樹香を置き、中衛に翔と美久と飛馬が、そして後衛に久永と紡と日那乃を敷いた陣形で古妖を攻める。
「なかなかやるのぅ」
「まだ負けてねーぞ!」
大煙管が翻り、樹香と柾を庇っていた飛馬が命数を削るほどの傷を負うも、足を止めることなく覚者は古妖に攻撃を加えていく。
「大狸よ、観念せい」
膝をつくほどの傷を受けても引くことなく樹香は薙刀を振るう。力無き者から身を張って戦うのが覚者の努め。祖母の教えは樹香の心の中で正しく継承されていた。たとえ傷ついても、平和なハロウィンを守るために薙刀を振るう。
「回復、いる人言って?」
自分の目で確認しながら、念のために尋ねる日那乃。施される癒しが大煙管からの与えられる傷を癒していく。どこか一線を引いた表情をしながら、しかし最も仲間の傷を癒すために尽力する。それが日那乃と言う覚者だ。
「タバコよりも甘いチョコの方がずっと美味しいですよ!」
神具を振るいながら美久が言葉を放つ。煙草の煙はまだ未成年の美久にはきつすぎる。それよりもチョコの方が心地良い。街はハロウィン。煙草よりもお菓子の方が喜ばれる祭りなのだ。
「翔、不幸を祓ってあげる」
相棒の翔にかけられたバッドステータスを解除しながら、紡がその肩を叩く。隙あらば大煙管に攻撃を仕掛けようと思っていたが、そんな余裕はなさそうだ。だが負けるとは思っていない。相棒を含め、信頼できる仲間がいるのだから。
「一気に攻めるぜ!」
相棒に肩を叩かれ、指先で印を切りながら翔が術を放つ。稲妻が戦場を走り、古妖を打ち据える。ハロウィンに災難を運ぶ大煙管。トリックオアトリートを言えるのは子供だけなのだ。タバコが吸える大人がやっていいモノではない。
「こちらの方が効率が良いか?」
久永は赤色の翼を羽ばたかせ、風の弾丸を大煙管に叩き込む。稲妻による痺れで大煙管が動けないなら、気力消費を考えて翼人の技を使った。鋭い風の矢が大煙管に叩き込まれる。コミカルに痛がる大煙管を見ながら、あとひと息かと目算した。
「これ以上仲間に傷つけさせねーぞ!」
古妖の攻撃を受け流しながら飛馬は吼える。大煙管の攻撃範囲は体で覚えた。体幹、足の向き、腕の位置、それらから次の攻撃を予測し、攻撃を止める。将棋の如く相手の次の手を予測し、それに合わせて刀を構える。
「さすがというべきなのかな」
柾は大煙管の動きを見ながら、称賛を送る。本来武器ではない物を振るい、覚者とやりあっているのだ。元々の運動神経もあるが、それだけあの煙管が手になじんでいるという事なのだろう。だがその動きも、ある程度は見切った。
回復を重ねながら、堅実な攻めで大煙管を追い詰める覚者達。その終局が見えてきた。
「たはぁ……煙草吸ってないから眩暈がしてきたぜ」
「タバコの吸い過ぎで運動不足になってるんじゃないですか?」
目に見えて大煙管の動きが鈍ってきている。そのふらつきは演技ではないだろう。
「ならばこれで決めさせてもらおう!」
柾が拳を構えて大煙管の前に立つ。その構えは非業の死を遂げたとあるプロボクサーの構え。気力を振り絞って放つ渾身のストレート。弦を引き絞るように全身の筋肉を引き絞り、弓が矢を放つがごとく真っ直ぐに放たれる拳。
「不幸を運ぶのはここまでだ、大煙管!」
狸の腹に叩き込まれるストレート。その一撃を受けて、目を回して古妖は倒れ込んだ。
●
「あー。きつかった」
しばらくして目を覚ました大煙管。命に別状はなさそうだった。
「煙草詰めてやったぜー」
起き上がった大煙管に、翔は煙管を渡す。そこにはいろいろと詰め込まれていた。火をつけてそれを吸う大煙管だが、一服吸った後に咳き込んだ。
「うえっほ! なんじゃこりゃ!? おい坊主ども、煙管に何詰めやがった!」
「オレは栗入り枯葉!」
「とうがらし、一瓶」
「ああ、俺もだ」
「黒胡椒白胡椒をえいっと入れてみました」
翔、日那乃、柾、美久が順に白状する。その後に、
「トリックオアトリート!」
ハロウィン恒例のセリフで、悪戯行為を締めくくった。その言葉に大煙管は一度は肩をすくめるが、すぐに笑いだす。
「がっはっは。まあ仕方ないか。お菓子持ってないからな」
「案外殊勝だな。煙草に悪戯されて怒ると思ったのに」
「難が来るのは人間だけじゃない。俺も災難に会うものさ」
刀を納めた飛馬の言葉に額を叩いて仕方ないと認める大煙管。
「人に不幸を運ぶのはこれくらいで我慢しとこうよ。そしたら分けてもらえるよ……こんな風にね?」
紡は大煙管に近づき、刻み煙草を渡す。煙管を満たすには程遠いが仕方ないとそれを受け取り、懐から出した小さな煙管に詰めて吸い始める。
「ま、負けちまったから仕方ねぇか。要望通り、引っ込むぜ」
「いや、それには及ばぬ。大煙管よ。お主も共に、楽しまぬかの?」
腰を上げて去ろうとする大煙管に声をかける樹香。悪戯が過剰じゃなければ、ハロウィンの参加は構わない。この格好も仮装に一種とみられるだろう。
「遠路はるばる町中までやってきたのだ。共に祭りを楽しみたいなら歓迎しよう」
大季節の傷を癒しながら久永が言葉を重ねる。わざわざこちらまでやってきたのだ。それを無下にする気はない。ハロウィン用のお菓子を渡し、祭りに誘う。
他の覚者達からの反論はなかった。元々懲らしめる程度の闘いだ。不幸を祭に運ばなければ、大きな問題はない。
「おう。そいつはありがたいね。それじゃ、言葉に甘えて楽しませてもらうぜ」
「じゃあ行きましょう。あ、僕のお気に入りのチョコをあげます!」
「よし! 菓子貰いに行こうぜ!」
「とりっくおあとりーとー」
「そう言えば、さっきの煙管の味はどうだった?」
「酷い悪戯だ! とどめの一撃並に聞いたぜ!」
「ところで余にも煙草をくれないか?」
わいのわいのと言いながら表通りに向かう覚者達。そこにはハロウィンの行列が待っていた。
ハロウィン。
本来は秋の収穫を祝い悪霊を追い出すケルトの祭りだが、巡り巡って今では仮装行列のようになっている。
祭は時代によって変化する。
悪霊を追い出す祭の中に、妖魅が混じっていることも。
その妖魅と人間が仲良く楽しんでいることも。
仮装行列の宴は、今年も幸福な笑い声に包まれていた。
ハッピーハロウィン!
「共に楽しみたいというのであれば古妖であろうと歓迎するのだが、いかんせん悪戯が過ぎるのは考えものだなぁ」
うむうむと首を縦に振りながら日光避けのフードを被った『白い人』由比 久永(CL2000540)が大煙管の前に姿を現す。悪戯かお菓子かを選ぶハロウィンだが、些か悪戯が過ぎる。そういう古妖だと知ってはいるが、お灸をすえねばなるまい。
「過ぎる悪戯は、折角の夜に似つかわしくはないな。日本らしく風流に……まぁ、ハロウィンだが、いこうぜ」
鬼の仮面を後頭部につけ、フランケンシュタインの怪物の格好をした『花守人』三島 柾(CL2001148)。揺れる狸の尻尾を見て、触りたい衝動を押さえながら神具を構える。もふもふした物は嫌いではないが、それはそれだ。
「悪戯は程度を弁えないとただの迷惑行為ですよ」
猫耳キャスケットと縞々マフラー姿。チェシャ猫を思わせる仮装の『彼誰行灯』麻弓 紡(CL2000623)だ。棒付きの飴ちゃんを舐めながら、チェシャ猫を思わせる不敵な笑みを浮かべていた。悪戯し返してやる。そんな表情で。
「1キロ半の煙草ってどんだけの量だよ。そんなの詰めないと災難に遭わせるって酷すぎるだろ」
猫耳姿の『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)は大煙管の要求に不満を告げた。年齢の関係もあってタバコが吸えない翔だが、それが無茶な要求だという事は分かる。ちなみに煙草一箱二十五グラム。単純計算で六十箱程だ。
「タバコは成長によくないって聞いたことがありますが、狸さんには違ったんでしょうか?」
大煙管の背の高さを見ながら『Overdrive』片桐・美久(CL2001026)は唸りをあげた。美久の仮装は狼耳だ。もふもふした狼の耳を揺らしながら、まだ吸うことが出来ないタバコの事を想像する。あれが大人の魅力なのだろうか?
「これからちょっと騒がしくなる。怪我したくなければしばらく離れててくれるか?」
狼の耳と尻尾の仮装で、周りの人たちに注意喚起する『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)。その言葉に一定の距離を置く仮装した人達。出来れば完全に離れてほしいが、あの距離なら巻き込まれることはないだろう。そう思い、古妖に向き直る。
「とりっくおあとりーと? お菓子くれないと思うから、いたずら」
返事を聞くまでもなく悪戯する気の桂木・日那乃(CL2000941)。人が死ぬわけではないこともあり、いつもの冷めた判断はなりを潜めている。黒いワンピースに三角帽子。本を手にした魔女風の格好で大煙管の前に立つ。
「さて狸の古妖よ、人間をもてあそぶつもりならば、ワシ等が相手じゃよ」
狐の仮面をかぶった『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)が薙刀を構えて大煙管に向けた。トリックオアトリート。ある程度の悪戯が容認されるハロウィンだが、古妖の力を使って暴れるのはやり過ぎだ。ここで止めて、楽しいハロウィンを迎えるのだ。
「殺気だってるねぇ。ま、これも祭りの華ってやつだな」
煙管を吸い、紫煙を吐く大煙管。煙が晴れれば変化を解いた大きな狸がそこにいた。煙管を肩に担ぎ、戦いの構えを取る。
古妖の行き過ぎた悪戯からハロウィンの祭を守るための闘いが、ここに切って落とされた。
●
「行け、雷獣! 痺れさせちまえ!」
一番槍を取ったのは翔だった。覚醒して大人の姿になった翔が神具の『スマートフォン』を操作する。周りの人間が巻き込まれないことを確認した後に、術式を展開するために源素を活性化させる。防御は仲間に任せ、攻撃に徹すると心に決めて。
稲妻が翔の指先に集い、稲妻の獣と化す。それは翔の意のままに動き、雄たけびを上げるように古妖に襲い掛かった。煙管を狙って落としたかったのだが、それでも煙管を落とさないのは古妖の煙草愛ゆえか。
「大人ってなんで煙草なんか吸うのかなー。煙いだけじゃん、あれ」
「こいつは大人の味さ。据えて初めて一人前よ」
「吸えない大人もいるのだがな」
肩をすくめて柾が大煙管に言葉を返す。大人の全員がタバコを吸えるわけではない。そもそも大人の魅力はタバコが吸えるだけではない。少なくとも、煙草を貰えないからと言って悪戯する古妖には言われたくはない。
両手に装着したショットガントレットを合わせ、最前線で古妖と相対する。全身の細胞を源素の炎で活性化し、柾はその拳を振り上げる。ジャブからのワンツー。ボクシングの基本動作。ジャブが相手の防御の隙を生み、そこに叩き込まれる炎の拳。
「炎が欲しいのか? ならやるよ」
「あちあち! 火力強すぎだぜ、兄ちゃん」
「ならばワシの薙刀で火種を切ってやろうか?」
『妖薙濡烏』を手に樹香が見栄を切る。戦いの前に切りそろえられた髪が、そよ風に吹かれて揺れる。その風が収まると同時に大煙管に向かい神具を振り下ろす。古妖の持つ煙管と打ち合い、金属音が響き渡った。
樹香は神具に力を込めながら、心の中は静かに思考していた。思うより早く体が動く。薙刀を押して相手のバランスを崩し、そのまま振るわれる二連撃。盾に横に振るわれる攻撃に古妖は翻弄され、体の傷は増えていく。
「人に悪さをする化け狸。いざ、退治してみせようぞ」
「そいつは御免だ。狸らしく煙に巻いて逃げてやろうか」
「徳島の化け狸とは思えぬ言葉じゃな。どっしり構えて煙管を吸わんか」
久永の言葉ににやりと笑う古妖。久永はこの化け狸の事を知っていた。川に顕れて船を沈める化け狸。それなりに有名な古妖がこの程度で尻尾を巻いて逃げる等ありえない。大煙管の笑みは、その挑発に乗った笑みだ。
霧を放って古妖の視界を奪った後に、久永は眠りの雲を生み出す。体内で活性化させた天の源素。眠りに誘う微粒子を生み、手にした扇で風を生んでその微粒子を飛ばす。それを吸い込んだ大煙管は倒れ込み、いびきをかいた。それを見て久永は呟く。
「うむ。見事な『狸寝入り』だな」
「ち。バレたか」
「少しだけ、寝てた、よ」
頭をかく大煙管の嘘を見破る日那乃。呆然としているように見えて、見る所は見ている。顔を逸らす古妖を含めて、しっかりと戦場を見回す。傷ついている人間を見定め、誰を回復すべきかを吟味していた。
日那乃は古妖から十分に距離を取り、書物を手にする。体の中を清らかな水が流れ、湖に注がれるイメージを描く。そのイメージを維持したまま術式を展開し、恵みの雨を戦場に降り注がせる。水は傷口を冷やし、そして癒していく。
「深想水いるなら、言って。移動する」
「バッドステータスはボクの方でやるよ」
日那乃の言葉に応える紡。だらけている様に見えるが、やるべきことはやる。棒付キャンディを舐めながら、青色の羽を広げる。大煙管の悪戯は不運を告げると言う。だがその不運を取り払えば、怖くはないのだ。
天の源素を振りまきながら舞う紡。その後に、大煙管に不運を告げられた者達を癒すべく別の舞を踊る。仲間を支援しながら、回復も行う。仲間を支えること。それが紡の戦い。仲間に対する強い信頼が根底にあった。
「悪戯は程度を弁えないとただの迷惑行為ですよ」
「そういう祭りなんだろ? 多少の行き過ぎは目ぇつぶってくれよ」
「お祭り騒ぎに浮かれる気持ちはわかりますが、はしゃぎ過ぎたらお祭りが台無しになってしまいますよ?」
鞘に山吹の装飾が施された打刀を手に美久が古妖を嗜める。ハロウィンが祭りとして受け入れられるのも、その悪戯が笑って許されるからだ。行き過ぎた享楽は祭りの妨げになる。祭りを楽しむためにも、行き過ぎた悪戯を止めなくては。
痛覚を意図的にオフにして、僅かに距離を置いて古妖と相対する美久。打刀で空中に文字を描くように振るいながら、体内の源素を練り上げる。古妖の足元から生まれた植物が大煙管の足に絡まり、その動きを封じていく。
「捕まえました、狸さん!」
「おおっと、だがまだまだ戦えるぜ」
「なら俺が相手だ」
両手に日本刀を一本ずつ持った飛馬が第煙管の前に立ちふさがる。祖父と父の名を冠する日本刀。己の家族と共に戦うという意志がそこに備わっていた。その意思を瞳に乗せて、真っ直ぐに古妖を見ながら戦いに挑む。
仲間に振り下ろされた一撃を、飛馬の刀が塞ぐ。第煙管の重量をそのまま受け止めるのではなく、刀の歪曲部分を使って器用に逸らす。最小限の力と動きで防御する。これが祖父の教え。その技術は心と共に飛馬に伝えられていた。
「なかなかつえーなお前。気に入ったぞ」
「そりゃどうも。できれば気にったまま見逃してくれると嬉しいね」
大煙管の軽口に、いいよと答える者はいない。そこに反省の色は見えないからだ。
古妖と覚者。南瓜夜行の闘いは、時ともに加速していく。
●
大煙管の紫煙で包まれた戦場のなか、覚者達は連携だって戦う。
前衛に柾と樹香を置き、中衛に翔と美久と飛馬が、そして後衛に久永と紡と日那乃を敷いた陣形で古妖を攻める。
「なかなかやるのぅ」
「まだ負けてねーぞ!」
大煙管が翻り、樹香と柾を庇っていた飛馬が命数を削るほどの傷を負うも、足を止めることなく覚者は古妖に攻撃を加えていく。
「大狸よ、観念せい」
膝をつくほどの傷を受けても引くことなく樹香は薙刀を振るう。力無き者から身を張って戦うのが覚者の努め。祖母の教えは樹香の心の中で正しく継承されていた。たとえ傷ついても、平和なハロウィンを守るために薙刀を振るう。
「回復、いる人言って?」
自分の目で確認しながら、念のために尋ねる日那乃。施される癒しが大煙管からの与えられる傷を癒していく。どこか一線を引いた表情をしながら、しかし最も仲間の傷を癒すために尽力する。それが日那乃と言う覚者だ。
「タバコよりも甘いチョコの方がずっと美味しいですよ!」
神具を振るいながら美久が言葉を放つ。煙草の煙はまだ未成年の美久にはきつすぎる。それよりもチョコの方が心地良い。街はハロウィン。煙草よりもお菓子の方が喜ばれる祭りなのだ。
「翔、不幸を祓ってあげる」
相棒の翔にかけられたバッドステータスを解除しながら、紡がその肩を叩く。隙あらば大煙管に攻撃を仕掛けようと思っていたが、そんな余裕はなさそうだ。だが負けるとは思っていない。相棒を含め、信頼できる仲間がいるのだから。
「一気に攻めるぜ!」
相棒に肩を叩かれ、指先で印を切りながら翔が術を放つ。稲妻が戦場を走り、古妖を打ち据える。ハロウィンに災難を運ぶ大煙管。トリックオアトリートを言えるのは子供だけなのだ。タバコが吸える大人がやっていいモノではない。
「こちらの方が効率が良いか?」
久永は赤色の翼を羽ばたかせ、風の弾丸を大煙管に叩き込む。稲妻による痺れで大煙管が動けないなら、気力消費を考えて翼人の技を使った。鋭い風の矢が大煙管に叩き込まれる。コミカルに痛がる大煙管を見ながら、あとひと息かと目算した。
「これ以上仲間に傷つけさせねーぞ!」
古妖の攻撃を受け流しながら飛馬は吼える。大煙管の攻撃範囲は体で覚えた。体幹、足の向き、腕の位置、それらから次の攻撃を予測し、攻撃を止める。将棋の如く相手の次の手を予測し、それに合わせて刀を構える。
「さすがというべきなのかな」
柾は大煙管の動きを見ながら、称賛を送る。本来武器ではない物を振るい、覚者とやりあっているのだ。元々の運動神経もあるが、それだけあの煙管が手になじんでいるという事なのだろう。だがその動きも、ある程度は見切った。
回復を重ねながら、堅実な攻めで大煙管を追い詰める覚者達。その終局が見えてきた。
「たはぁ……煙草吸ってないから眩暈がしてきたぜ」
「タバコの吸い過ぎで運動不足になってるんじゃないですか?」
目に見えて大煙管の動きが鈍ってきている。そのふらつきは演技ではないだろう。
「ならばこれで決めさせてもらおう!」
柾が拳を構えて大煙管の前に立つ。その構えは非業の死を遂げたとあるプロボクサーの構え。気力を振り絞って放つ渾身のストレート。弦を引き絞るように全身の筋肉を引き絞り、弓が矢を放つがごとく真っ直ぐに放たれる拳。
「不幸を運ぶのはここまでだ、大煙管!」
狸の腹に叩き込まれるストレート。その一撃を受けて、目を回して古妖は倒れ込んだ。
●
「あー。きつかった」
しばらくして目を覚ました大煙管。命に別状はなさそうだった。
「煙草詰めてやったぜー」
起き上がった大煙管に、翔は煙管を渡す。そこにはいろいろと詰め込まれていた。火をつけてそれを吸う大煙管だが、一服吸った後に咳き込んだ。
「うえっほ! なんじゃこりゃ!? おい坊主ども、煙管に何詰めやがった!」
「オレは栗入り枯葉!」
「とうがらし、一瓶」
「ああ、俺もだ」
「黒胡椒白胡椒をえいっと入れてみました」
翔、日那乃、柾、美久が順に白状する。その後に、
「トリックオアトリート!」
ハロウィン恒例のセリフで、悪戯行為を締めくくった。その言葉に大煙管は一度は肩をすくめるが、すぐに笑いだす。
「がっはっは。まあ仕方ないか。お菓子持ってないからな」
「案外殊勝だな。煙草に悪戯されて怒ると思ったのに」
「難が来るのは人間だけじゃない。俺も災難に会うものさ」
刀を納めた飛馬の言葉に額を叩いて仕方ないと認める大煙管。
「人に不幸を運ぶのはこれくらいで我慢しとこうよ。そしたら分けてもらえるよ……こんな風にね?」
紡は大煙管に近づき、刻み煙草を渡す。煙管を満たすには程遠いが仕方ないとそれを受け取り、懐から出した小さな煙管に詰めて吸い始める。
「ま、負けちまったから仕方ねぇか。要望通り、引っ込むぜ」
「いや、それには及ばぬ。大煙管よ。お主も共に、楽しまぬかの?」
腰を上げて去ろうとする大煙管に声をかける樹香。悪戯が過剰じゃなければ、ハロウィンの参加は構わない。この格好も仮装に一種とみられるだろう。
「遠路はるばる町中までやってきたのだ。共に祭りを楽しみたいなら歓迎しよう」
大季節の傷を癒しながら久永が言葉を重ねる。わざわざこちらまでやってきたのだ。それを無下にする気はない。ハロウィン用のお菓子を渡し、祭りに誘う。
他の覚者達からの反論はなかった。元々懲らしめる程度の闘いだ。不幸を祭に運ばなければ、大きな問題はない。
「おう。そいつはありがたいね。それじゃ、言葉に甘えて楽しませてもらうぜ」
「じゃあ行きましょう。あ、僕のお気に入りのチョコをあげます!」
「よし! 菓子貰いに行こうぜ!」
「とりっくおあとりーとー」
「そう言えば、さっきの煙管の味はどうだった?」
「酷い悪戯だ! とどめの一撃並に聞いたぜ!」
「ところで余にも煙草をくれないか?」
わいのわいのと言いながら表通りに向かう覚者達。そこにはハロウィンの行列が待っていた。
ハロウィン。
本来は秋の収穫を祝い悪霊を追い出すケルトの祭りだが、巡り巡って今では仮装行列のようになっている。
祭は時代によって変化する。
悪霊を追い出す祭の中に、妖魅が混じっていることも。
その妖魅と人間が仲良く楽しんでいることも。
仮装行列の宴は、今年も幸福な笑い声に包まれていた。
ハッピーハロウィン!
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『シガレットチョコ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

■あとがき■
どくどくです。
自主的に仮装してくれる皆様に感謝を。
ハロウィンに出す古妖は結構迷いましたが、シャレにならない悪戯という事で大煙管を。徳島県からの出張でございます。
何かをねだる妖怪というのは探せば結構あるもので、ハロウィンとマッチしたのではと勝手に思っています。
勿論、きついお灸をすえられるところまで。
さて、幻想夜行のハロウィンを楽しんでください。
それではまた、五麟市で。
自主的に仮装してくれる皆様に感謝を。
ハロウィンに出す古妖は結構迷いましたが、シャレにならない悪戯という事で大煙管を。徳島県からの出張でございます。
何かをねだる妖怪というのは探せば結構あるもので、ハロウィンとマッチしたのではと勝手に思っています。
勿論、きついお灸をすえられるところまで。
さて、幻想夜行のハロウィンを楽しんでください。
それではまた、五麟市で。
