<嘆きの前夜>震える涙
●
まるで、天に祈りでも捧げるように。
人々は皆、静かに身を潜め、肩が触れ合う程に狭く密集し、膝を折って座り、両手を合わせていた。
何処かの屋内だろうか――……しかし、暗くてよく廻りが見えない。
分かるのは、人々の群れが、玉座に座る者へ身体を向けていること。
玉座に座る者が、深く息をつき、ゆったりと立ち上がると、人骨で出来た杖を天高く掲げる。
「またひとつ、お告げを受けた」
どよめく周囲。
「再びの不幸が訪れる前に、皆、使徒として指名を全うせよ」
神の声を聴いたかのように、人々は言の葉に一喜一憂の表情を魅せた。
●
「最近、気になる行方不明事件がある」
久方相馬は新聞を広げながら言っていた。
覚者の誘拐事件は連日、よくある――よくあるとは思いたくはないが――。
例えば、覚者組織の犯行。憤怒者の犯行。
しかし今回のケースは珍しい。
「発現していない人間が、発現していない人間を攫っているんだぜ」
なんで。
――と思うのだが、真相はまだ見えない。
拉致、誘拐、行方不明とあれば警察も動いているのだろうが、未だその全貌は明らかになってはいない。
「多分、その一端だと思われる事件を夢で見た。女の子が攫われる予定だから、とりあえずそれを阻止と、出来るだけ情報を集めてきてくれると、助かる!
これ目を通して、あとは宜しく頼むぜ!」
相馬はそう言いながら、詳細の書かれた資料を手渡した。
●
ターゲットは、泉花枝(イズミ・ハナエ)18歳。
高校卒業後、大学入学前で、ある意味無職の数日を楽しんでいる。
彼女は、通っていた高校のミスコンでも優勝する程に一目惹くアイドルのような顔立ちと、そこそこボリュームのある胸、身長は平均的だが細く、愛くるしい姿をしている。
性格は優しく穏やか。
特に誰かから恨みを買うことは無いが、元彼がストーカー染みていて、一度バイト場まで押しかけて来て警察沙汰になった事があるくらいだ。それから、「恋愛なんてもういいよ……」との事で、今は女の子の友人と中心に付き合っている。
今現在はストーカー被害は無い模様なので、ストーカーが直接事件に関係していることは無い。
友達は多い方では無いが、付き合っている女の友人たちとのかなり仲が良いようで、バイトが休みの日は必ず友人たちとファミレスで喋っているとかなんとか。
――という感じの、どこにでもいそうな女の子である。
特段、これまで覚者や妖等、神秘的な事件に巻き込まれたことは無い。
家族にも発現者はいない。
覚者は「嫌いじゃないけれど好きでもないなあ……あ、でも空飛べるのなら翼人になりたいなって思ったことはある!」くらいの目線で見ている、きわめて普通の世界の人間である。
彼女は、本日夜20時、バイトの終了し、その後忽然と姿を消す。
それを阻止するのが今回の任務である。
まるで、天に祈りでも捧げるように。
人々は皆、静かに身を潜め、肩が触れ合う程に狭く密集し、膝を折って座り、両手を合わせていた。
何処かの屋内だろうか――……しかし、暗くてよく廻りが見えない。
分かるのは、人々の群れが、玉座に座る者へ身体を向けていること。
玉座に座る者が、深く息をつき、ゆったりと立ち上がると、人骨で出来た杖を天高く掲げる。
「またひとつ、お告げを受けた」
どよめく周囲。
「再びの不幸が訪れる前に、皆、使徒として指名を全うせよ」
神の声を聴いたかのように、人々は言の葉に一喜一憂の表情を魅せた。
●
「最近、気になる行方不明事件がある」
久方相馬は新聞を広げながら言っていた。
覚者の誘拐事件は連日、よくある――よくあるとは思いたくはないが――。
例えば、覚者組織の犯行。憤怒者の犯行。
しかし今回のケースは珍しい。
「発現していない人間が、発現していない人間を攫っているんだぜ」
なんで。
――と思うのだが、真相はまだ見えない。
拉致、誘拐、行方不明とあれば警察も動いているのだろうが、未だその全貌は明らかになってはいない。
「多分、その一端だと思われる事件を夢で見た。女の子が攫われる予定だから、とりあえずそれを阻止と、出来るだけ情報を集めてきてくれると、助かる!
これ目を通して、あとは宜しく頼むぜ!」
相馬はそう言いながら、詳細の書かれた資料を手渡した。
●
ターゲットは、泉花枝(イズミ・ハナエ)18歳。
高校卒業後、大学入学前で、ある意味無職の数日を楽しんでいる。
彼女は、通っていた高校のミスコンでも優勝する程に一目惹くアイドルのような顔立ちと、そこそこボリュームのある胸、身長は平均的だが細く、愛くるしい姿をしている。
性格は優しく穏やか。
特に誰かから恨みを買うことは無いが、元彼がストーカー染みていて、一度バイト場まで押しかけて来て警察沙汰になった事があるくらいだ。それから、「恋愛なんてもういいよ……」との事で、今は女の子の友人と中心に付き合っている。
今現在はストーカー被害は無い模様なので、ストーカーが直接事件に関係していることは無い。
友達は多い方では無いが、付き合っている女の友人たちとのかなり仲が良いようで、バイトが休みの日は必ず友人たちとファミレスで喋っているとかなんとか。
――という感じの、どこにでもいそうな女の子である。
特段、これまで覚者や妖等、神秘的な事件に巻き込まれたことは無い。
家族にも発現者はいない。
覚者は「嫌いじゃないけれど好きでもないなあ……あ、でも空飛べるのなら翼人になりたいなって思ったことはある!」くらいの目線で見ている、きわめて普通の世界の人間である。
彼女は、本日夜20時、バイトの終了し、その後忽然と姿を消す。
それを阻止するのが今回の任務である。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.泉花枝の保護
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
情報収集と、敵の撃退はやれたらという風になっております
●状況
非覚者が非覚者を攫う出来事が発生している。
今回のターゲットは泉という少女だ。彼女を保護するのが優先である。
今回彼女から敵を撃退しても、今後再び同じことが起きる可能性を視野にいれ、
保護することを任務とします
●敵:???
・非覚者の群れ
非覚者であるが、非覚者を攫っている
武器は、拳銃、バールのようなもの、バッド、などなど。銃とかどこで手に入れたのだか
初級の体術を使用し、人数は6人です
乗用車を使用する可能性が高いです
狂気的なまでに泉を追ってきます
●救出対象
・泉花枝
18歳の少女です。オープニングの通り、なんの変哲もない少女です
無事、彼女を保護してください
彼女の家族への配慮は不要です
PL情報ですが、彼女の家族が今後狙われるということは一切ありません
●場所
・時間は彼女がバイトの終わる20時の、10分前に接触可能です
敵との遭遇は20時以降となります
バイト場は駅近くのハンバーガーショップで、20時になると花枝は裏口から出て、帰路につきます
●その他
・彼女の帰路はいつも通っている道があります。そこは薄暗く人気がありません
しかし大通りへ誘導したからといえ、敵の追跡が途絶えるということはありません
白昼堂々だろうと、大胆にも彼らは攫って行きます
・オープニングの冒頭は相馬から聞いたとして、PCが知っていて構いません
それではご縁がありましたら、よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年04月07日
2017年04月07日
■メイン参加者 6人■

●
よく焼けた肉と、芋を揚げる油の香りが若者の胃袋を刺激する店内は、いつも通りの活気で賑わっていた。
近くに学校が多いためか、学生服の少年少女たちが僅かなスペースに身を寄せ合い、勉強道具を広げながら在り来たりな話をしている。
その中で、せっせと働く店員の一人が、大きな声で「いらっしゃいませ!」と笑顔を作った。
それが、泉花枝。今回の拉致の対象者である。
「あの、お客様? ご注文でしたらあちらの列にお並びください」
「えっと、あ! ごめんなさい、違うんです! その」
「奏空さん、メモです、メモ」
「あ、うん!」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と納屋 タヱ子(CL2000019)の顔を順番に見た花枝は、0円のスマイルのまま、なんだろう? という顔を向けていた。
奏空はメモを取り出し、それを渡しながら小声かつ、視線を少し上にあげて子犬のような仕草を無意識に行いつつ。
「自分はファイヴの者で、事件を未然に防ぐ為に動いてます。周囲に聞かれたくないので直接心に話しかけていいですか?」
と言えば、一瞬だけ笑顔が消えた花枝が「えっ」と声を上げてから、周囲を見回した。
「にわかに信じ難いけれど……ファイヴの探偵見習いくん?」
「はい、工藤奏空と申します」
「本物……? うーん、他人の空似ってわけでも無さそうだし。でも今ちょっと混んでるから、後でもいいですか?」
「はい、心に話しかけてでも宜しければ、お仕事中でも問題無いかと……」
「うん、じゃあそれで宜しく。覚者さんって便利なんだねっ」
花枝を呼ぶ声が聞こえ、彼女はカウンターの奥へと消えていく。その後ろ姿を見ながら、タヱ子も、奏空も、
「普通に、いい子ですね」
「うん。本当に覚者に対して寛容な子だなあって思ったよ。俺のことも知ってたみたいだね」
「そんな子がどうして攫われるのでしょうか……」
「それを調べるのが俺達の役目」
『静かに見つめる眼』東雲 梛(CL2001410)は出来立てのポテトを齧りながら、お店の手前の駐車スペースの段差に腰かけていた。
黒の瞳は絶えず左右を見回しながら不審者を探しつつ、逆に、梛の人魂を珍しそうに見て来る一般人たちが往来するばかりである。
『やっぱり予定の20時までは何も起こらないとみた』
梛は心でそう呟きながら、それを一斉送信していく。
『警戒は続ける』
と返ってきた声は『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)のものだ。
『難しいことは分かんねーけど、要は危ない目に遭うねーちゃんを守れば良いんだろ? それに、夢見のにーちゃんが夢に見るくらいだ。普通の誘拐事件って訳でもないんだろうしな』
『俺は怪しい宗教家関連の事件と、見ているけれど』
『いかにも。その系列の事件は多すぎるのも問題だな』
飛馬は花枝のバイト場の屋上から、やがて夕暮れから夜を迎えていく景色を見ながらつぶやいた。
「花枝ねーちゃんは、持っていかせないからな」
「花枝に、護衛の許可が取れた見たいじゃぞ」
「お! 上手くやってくれたんだな!!」
『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)が話しかける先、『刃に炎を、高貴に責務を』天堂・フィオナ(CL2001421)が右手を大きく振っていた。
フィオナの瞳には、花枝が笑いながら会釈をしている姿が見えている。どうやらファイヴの仲間たちが周囲にいることもきちんと認識してくれているようだ。
「守備は万全だぞ! いつ敵が来ても、問題なく対応できるぞ!」
「そうじゃの。来ないのが一番なのじゃが……」
樹香の見上げた先、星が瞬き始め、月が薄っすらとその姿を輝かせ始めている。
どこからか吹く風も冷たくなり始め――刻一刻と、其の時を待ちわびていた。
●
――午後20時。
帰宅を開始した花枝が裏側から出た、すぐ扉の隣に飛馬が腕を組んで立っていた。花枝は少しだけ驚いてから会釈をし、裏口の先に奏空とタヱ子が小さく頭を下げた。
「じゃあ、宜しくお願いしますね」
「うん、俺達に任せてね」
「きちんと守って見せます」
「大丈夫だろ。あ、それと」
飛馬が指をさした先、梛とフィオナ、そして樹香も軽く会釈をした。
「彼らもファイヴさん? 沢山、来てくれたんだね」
「ああ、それくらいの事件だってことだ」
「実感ないなあ……」
飛馬と喋りながら、歩き出す花枝。
フィオナは回り込んで、不安気な花枝の両手を握った。
「大丈夫だ! 私たちが来たからには、安心して欲しい。絶対に護る、約束する!」
「そ……そう? うん、だいじょうぶ、疑ってないよ、ありがとう」
ひとつの約束はかわされた。
ファイヴの覚者たちとしては、このまま直ぐにでも花枝をファイヴの護送車に乗せてしまいたいところではあったのだが。
そうすれば、今回敵である彼らは五麟まで追ってくるくらいの執着心を魅せたか、それとも諦めたかは分からない――恐らくは、追ってくる可能性のほうが高いかもだが。あの五麟だ、ファイヴのおひざ元だ、もっと人数を増やして攻めてきたかもわからない。
たかが一塊の少女がために、そこまでしてくる奴らなのである。
少しの望みとしては、彼ら敵を捕まえれば今後の情報が分岐を迎えるであろうということ。
そして一人でも逃がせば、今度は数で襲い掛かってくるであろうという推測も尾を引くものがある。
道中、タヱ子は言った。
「思うに、花枝さんは今回、偶々、敵の犠牲者になってしまったんだと思います」
「偶々……ですか」
「はい、想像の域を超えませんが。そんな気がします」
「うーんそうだね、私もそう思う。だって本当に私、そういうのに関係ないからさ……妖とか憤怒者とか、怖いけど」
其の時梛は遠目から花枝を見ていた。
どうやら彼女からはこれといって何も情報は得られない。特別なものの類も見当たらない、普通の人間なのである。
「これから発現する……とか、無いかな」
隣にいた樹香に話しかけてみたところ、樹香も腕を組んで暫く瞳を瞑って考えてみたものの。
「それは神様にしかわからないことじゃ。推測も憶測も予測もできぬもの、それが発現じゃろう」
「神様、ね」
梛は神様という言葉に、意味深に瞳を細めた。
戻って、花枝を囲む飛馬とフィオナが目で合図した。まだ情報は引き出せないかと。
「まあこんなご時世だ色々あるだろ」
「そうだな。なんか交友関係でなんかあったとかないか!?」
「うーーん? そうだねえ、私自慢だけど友達とはこれといって仲悪くないんだ。喧嘩もするよ、でもだからって拉致なんかに繋がらないと思うから」
「そりゃそうだな」
「うん、そうだな」
二人は納得しながら、彼女の交友関係には何もないことを知る。しかし、あ! と花枝は思い出したように言った。
「最近、そういえば見られているなあ~~っていう感覚はよくあったかも?」
「それはいつ頃からだ?」
「そう! そういう情報が欲しかったぞ!!」
「いつ頃……、友達とイベントに―――」
――こちら、249003号。標的0007を発見。使徒としての任務を遂行する。
キキキキィ!! と音がして曲がり角から派手に旋回した車が一台。
「来たぞ!!」
フィオナの声に一斉に覚醒した覚者の中央で、タヱ子は花枝を抱きかかえた。
「結構いきなりなんだね!!」
「必ず、護ります」
覚者たちの手前で速度を落とした車は、速度が止まるよりも早く、後部座席側から人間がぞろぞろと湧き出て来る。
その手には、雑貨屋とかでも買えるものもあれば、どこから手に入れたのか不明な拳銃などなど、多種多様。
「あんた達は憤怒者? どうしてこの子を狙ったの?」
梛の声が響く――返事は無い。
「ここで話した方が後で楽だよ? 話さないと痛い目にあうかも」
再びの問いかけ――返事は無い。
「彼らは彼らの世界に浸っちゃってるね」
梛は強制的に戦闘へと体勢を変えた。バールのようなものを持った男が一目散にタヱ子と花枝を目指して走った時、その間に奏空が割って入る。振り落とされたバールを、逆手に持った奏空の刃が弾く。
「彼女には、触れさせやしない!!」
「ぐっ!!」
奏空の言葉を受け流すような、いや、最初から言葉なんて受け付けていないような鬼の形相をした一般人であった。
空いた片手で眠りを誘う霧を発生させると、男がぐらついて膝をついたのだが、後ろ側から拳銃を持った女性が、膝をついた男の腕を打ち、銃声の驚いた花枝の叫び声が上がった。
「なんでだ!! 仲間同士だろ!!」
フィオナが言葉を強く放ちながら、拳銃を持つ女の肩を剣で貫く。微量の出血、だが女は眉ひとつ動かそうとはしなかった。まるで人形――いや、人形じゃない、彼らはきちんと意思がある。
しかしその意思が、あまりにも頑丈過ぎるのだ。
「往こうぞ、濡烏。我が手の届く範囲は、護る」
花枝を車に引き込まんとする引く手は数多。樹香はその手を全て刈り取る気持ちで長柄の刃を躍らせた。
ひとつ、くるりと回せば敵の二人がバッドに打たれたボールのように飛び、しかし再び立ち上がってはこちらを向いた。
「まるで、機械人形みたいだ」
直感的な状況を口ずさんだ梛。彼らはひとつの目的を『絶対に』達成させたいのだろう。しかしその考えは、どこまでも狂気的だ。きっと彼らは、諦めるという文字を頭に刻んではいない。
ガァン!! と銃声が再び響いた。体格のいい男が腰から抜いた銃でタヱ子をの左腹部に軽く穴を空ける。どこまでいっても軽くだ。
化け物が。
と呟かれた声は、タヱ子の耳に届いている。ぎゅうと身を縮こまらせている花枝が、半ば泣きそうになりながら「大丈夫なの!?」と声を荒げたが、タヱ子としては銃で撃たれるとか日常茶飯事のようなもの。
梛の銀雪棍、飛馬の刀が銃を撃った男を右と左から挟み込んで打撃。白目をむいた男は立ち上がることは無かった。
「巌心流は守りの剣……けどな、守りを知れば必殺の太刀筋だって見えて来んだよ。ま、今回は峰打ちだから安心してくれ」
刀に着いた血を払いながら背中で語った飛馬。
そしてじわりじわりと敵を追い詰めていく。集まった覚者の練度に対して、今回の敵のレベルは相当下であった。
まるで朝飯前程度の仕事になってしまったが、ここから一気に覚者のラッシュは始まっていく。
敵から見れば、もはや逃げてもいいような状況であるにも関わらず、敵は一向に花枝を目線で追っている。ゾっと背筋が冷えた花枝は、タヱ子にぎゅうっと身体を押し付けながら震えていた。
「覚悟しろ!!」
フィオナの声と共に、彼女は月明りを背に跳躍した。女の銃口が彼女の軌跡を追い、銃声が響くものの弾を縦に切ったフィオナ。
ガラティーンを血に染めるわけではなく、フィオナはあくまでも得物を鈍器として扱い、命まで取らぬように細心の注意を払うのだ。
口から吐しゃ物を出しながら、腹部を打たれ、くの字に曲がった女はフィオナの前で倒れる。その後ろでは梛が得物で男のバールを受け止めている。得物同士の接する場所から火花が散り、梛と男が離れてから再びぶつかり合い、交差、そして男が倒れた。
ナイフを持った男が奏空の後ろに回り込み、腕を回転させてきたのを奏空は体勢を低くして回避。からぶった勢いで体勢を崩した相手を、下から顎を殴りつけて歯が数本抜けながらも男はバク宙回転してから地面に転がる。
そして、飛馬と樹香が二人を追い詰める。
両刀と薙刀。相手は、ナイフとバッドだ。
ナイフの女が飛馬の懐に入ってきては心臓目掛けて切っ先を向けたが、飛馬は身体を捻って回避。
同じく、バッドの男は大胆にも樹香の目の前から両腕を振りかぶったが、がら空きの胴を樹香は柄で払い、吹き飛ばした。
地面へ転げたナイフの女の背に立った飛馬。一度だけ降伏勧告をしようとしたが、今までの動向を思えばそれを聞いてくれるのは難しいだろう。再びの打撃、首に近いあたりの背に衝撃を刀の柄で落とされた女は、あっさりと地面へと伏せった。
樹香はゆらりと長柄を横に振り切る。その姿は大鎌を振る死神のようにも見えていたことだろう。それを一瞬の間を置いてから薙ぎ、男は衝撃と風圧に吹き飛び、壁にぶつかってから力無く倒れた。
そして最後。
仲間に腕を打たれた男がゆらりと立っていた。口からひゅーひゅーと音を出しながら、しかし男の瞳は諦めた色をしていない。
人間の体力差としては、覚者と人間に差は大きい。とっくにこの男の体力は尽きているのが一般人の体力としては普通なのだが、明らかに限界を超えながらも立っている。
「何故、そこまでする――!!」
飛馬の呼び声には何も答えない。代わりに男は銃口とタヱ子へと向けた――打っても、タヱ子はさらりと受け止めても体力が少し削れる程度だろうに。
銃声が響く前に、覚者は一斉に男へと得物を振り上げた。
●
「ありがとうございます! ……あ、でもおうちには帰れない……んですね」
花枝は帰りの護送車のなかで、落ち込んだ顔をしていた。
何はともあれ、『今日』襲撃に来た敵は倒したが、花枝を野放しにすれば『次』がある可能性が高いのだ。
今日の襲撃者もたかだか、一部であろう。
「すみません……五麟は、いいところだよ」
「だと、いいんだけれど」
奏空の声かけにも、しゅんと落ち込んでしまった彼女の表情は戻せなかった。
時は戻り、結果として敵を捕らえた覚者たちだ。
あれから拘束を終え、意識を取り戻した人間たちであったが、誰一人口を割ることは無かった。
代わりに、車の後部座席からは、呻き声が聞こえ、フィオナが一目散に車を調べてからその『発現していない少女』を抱き上げて戻ってきた。
「女の子が!! すぐに、救急車を!! なんか……薬臭いぞこの子!」
目が虚ろ、口から泡をふきつつ、しかし表情は笑っている少女。明らかな異常な姿に、花枝はぽつりとつぶやいた。
「私も、そうなる予定……だったのかな……」
―――――
――――
―――
――
それから数日、花枝は五麟に住み、もう一人の少女は今だ病院のなかで眠っている。
再び集まった六人。
タヱ子は言う。
「あれから花枝さん、発現しませんね。もう一人の方もそうですが」
花枝はこれからも、発現することは無いだろう。
もう一人の少女も同じだ。
奏空は言う。
「敵の身元も調べたけど、職種はバラバラで、学生から主婦とかまで。統一性も無かったんだよね……。所持品も武器と携帯だけ。
携帯は今回捕らえた人たちとのやりとりとアドレスだけだった」
敵側の種類は様々である。
梛は言う。
「宗教系が怪しいかな。それならどんな職種でもいいし、あそこまで狂信的に向かってくる理由は余程だろうし。
相馬にそこらへんは調べてもらってる。最近活発な宗教が無いか――とか」
ともなれば情報待ちである。
飛馬は言う。
「花枝のねーちゃんを、生贄か、それとも使徒の仲間にでもするつもりだと思っていたが、薬漬けにされたねーちゃんを見ると、生贄あたりが妥当か」
宗教に、生贄。
樹香は言う。
「そういえば、二人とも少女じゃな」
少女ばかりが狙われる。
フィオナは言う。
「生贄だとして、花枝でないといけない理由ってなんだ? ともあれ覚者絡みでなくてもそうでなくても、女の子は護らなきゃだ!」
今回の事件はこれで解決としよう。
花枝はまだ狙われ続けるが、五麟から出ない限りは無事を約束できることだろう。
次の犠牲の少女は誰か。
それとももう、犠牲の少女は出ているのか――。
よく焼けた肉と、芋を揚げる油の香りが若者の胃袋を刺激する店内は、いつも通りの活気で賑わっていた。
近くに学校が多いためか、学生服の少年少女たちが僅かなスペースに身を寄せ合い、勉強道具を広げながら在り来たりな話をしている。
その中で、せっせと働く店員の一人が、大きな声で「いらっしゃいませ!」と笑顔を作った。
それが、泉花枝。今回の拉致の対象者である。
「あの、お客様? ご注文でしたらあちらの列にお並びください」
「えっと、あ! ごめんなさい、違うんです! その」
「奏空さん、メモです、メモ」
「あ、うん!」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と納屋 タヱ子(CL2000019)の顔を順番に見た花枝は、0円のスマイルのまま、なんだろう? という顔を向けていた。
奏空はメモを取り出し、それを渡しながら小声かつ、視線を少し上にあげて子犬のような仕草を無意識に行いつつ。
「自分はファイヴの者で、事件を未然に防ぐ為に動いてます。周囲に聞かれたくないので直接心に話しかけていいですか?」
と言えば、一瞬だけ笑顔が消えた花枝が「えっ」と声を上げてから、周囲を見回した。
「にわかに信じ難いけれど……ファイヴの探偵見習いくん?」
「はい、工藤奏空と申します」
「本物……? うーん、他人の空似ってわけでも無さそうだし。でも今ちょっと混んでるから、後でもいいですか?」
「はい、心に話しかけてでも宜しければ、お仕事中でも問題無いかと……」
「うん、じゃあそれで宜しく。覚者さんって便利なんだねっ」
花枝を呼ぶ声が聞こえ、彼女はカウンターの奥へと消えていく。その後ろ姿を見ながら、タヱ子も、奏空も、
「普通に、いい子ですね」
「うん。本当に覚者に対して寛容な子だなあって思ったよ。俺のことも知ってたみたいだね」
「そんな子がどうして攫われるのでしょうか……」
「それを調べるのが俺達の役目」
『静かに見つめる眼』東雲 梛(CL2001410)は出来立てのポテトを齧りながら、お店の手前の駐車スペースの段差に腰かけていた。
黒の瞳は絶えず左右を見回しながら不審者を探しつつ、逆に、梛の人魂を珍しそうに見て来る一般人たちが往来するばかりである。
『やっぱり予定の20時までは何も起こらないとみた』
梛は心でそう呟きながら、それを一斉送信していく。
『警戒は続ける』
と返ってきた声は『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)のものだ。
『難しいことは分かんねーけど、要は危ない目に遭うねーちゃんを守れば良いんだろ? それに、夢見のにーちゃんが夢に見るくらいだ。普通の誘拐事件って訳でもないんだろうしな』
『俺は怪しい宗教家関連の事件と、見ているけれど』
『いかにも。その系列の事件は多すぎるのも問題だな』
飛馬は花枝のバイト場の屋上から、やがて夕暮れから夜を迎えていく景色を見ながらつぶやいた。
「花枝ねーちゃんは、持っていかせないからな」
「花枝に、護衛の許可が取れた見たいじゃぞ」
「お! 上手くやってくれたんだな!!」
『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)が話しかける先、『刃に炎を、高貴に責務を』天堂・フィオナ(CL2001421)が右手を大きく振っていた。
フィオナの瞳には、花枝が笑いながら会釈をしている姿が見えている。どうやらファイヴの仲間たちが周囲にいることもきちんと認識してくれているようだ。
「守備は万全だぞ! いつ敵が来ても、問題なく対応できるぞ!」
「そうじゃの。来ないのが一番なのじゃが……」
樹香の見上げた先、星が瞬き始め、月が薄っすらとその姿を輝かせ始めている。
どこからか吹く風も冷たくなり始め――刻一刻と、其の時を待ちわびていた。
●
――午後20時。
帰宅を開始した花枝が裏側から出た、すぐ扉の隣に飛馬が腕を組んで立っていた。花枝は少しだけ驚いてから会釈をし、裏口の先に奏空とタヱ子が小さく頭を下げた。
「じゃあ、宜しくお願いしますね」
「うん、俺達に任せてね」
「きちんと守って見せます」
「大丈夫だろ。あ、それと」
飛馬が指をさした先、梛とフィオナ、そして樹香も軽く会釈をした。
「彼らもファイヴさん? 沢山、来てくれたんだね」
「ああ、それくらいの事件だってことだ」
「実感ないなあ……」
飛馬と喋りながら、歩き出す花枝。
フィオナは回り込んで、不安気な花枝の両手を握った。
「大丈夫だ! 私たちが来たからには、安心して欲しい。絶対に護る、約束する!」
「そ……そう? うん、だいじょうぶ、疑ってないよ、ありがとう」
ひとつの約束はかわされた。
ファイヴの覚者たちとしては、このまま直ぐにでも花枝をファイヴの護送車に乗せてしまいたいところではあったのだが。
そうすれば、今回敵である彼らは五麟まで追ってくるくらいの執着心を魅せたか、それとも諦めたかは分からない――恐らくは、追ってくる可能性のほうが高いかもだが。あの五麟だ、ファイヴのおひざ元だ、もっと人数を増やして攻めてきたかもわからない。
たかが一塊の少女がために、そこまでしてくる奴らなのである。
少しの望みとしては、彼ら敵を捕まえれば今後の情報が分岐を迎えるであろうということ。
そして一人でも逃がせば、今度は数で襲い掛かってくるであろうという推測も尾を引くものがある。
道中、タヱ子は言った。
「思うに、花枝さんは今回、偶々、敵の犠牲者になってしまったんだと思います」
「偶々……ですか」
「はい、想像の域を超えませんが。そんな気がします」
「うーんそうだね、私もそう思う。だって本当に私、そういうのに関係ないからさ……妖とか憤怒者とか、怖いけど」
其の時梛は遠目から花枝を見ていた。
どうやら彼女からはこれといって何も情報は得られない。特別なものの類も見当たらない、普通の人間なのである。
「これから発現する……とか、無いかな」
隣にいた樹香に話しかけてみたところ、樹香も腕を組んで暫く瞳を瞑って考えてみたものの。
「それは神様にしかわからないことじゃ。推測も憶測も予測もできぬもの、それが発現じゃろう」
「神様、ね」
梛は神様という言葉に、意味深に瞳を細めた。
戻って、花枝を囲む飛馬とフィオナが目で合図した。まだ情報は引き出せないかと。
「まあこんなご時世だ色々あるだろ」
「そうだな。なんか交友関係でなんかあったとかないか!?」
「うーーん? そうだねえ、私自慢だけど友達とはこれといって仲悪くないんだ。喧嘩もするよ、でもだからって拉致なんかに繋がらないと思うから」
「そりゃそうだな」
「うん、そうだな」
二人は納得しながら、彼女の交友関係には何もないことを知る。しかし、あ! と花枝は思い出したように言った。
「最近、そういえば見られているなあ~~っていう感覚はよくあったかも?」
「それはいつ頃からだ?」
「そう! そういう情報が欲しかったぞ!!」
「いつ頃……、友達とイベントに―――」
――こちら、249003号。標的0007を発見。使徒としての任務を遂行する。
キキキキィ!! と音がして曲がり角から派手に旋回した車が一台。
「来たぞ!!」
フィオナの声に一斉に覚醒した覚者の中央で、タヱ子は花枝を抱きかかえた。
「結構いきなりなんだね!!」
「必ず、護ります」
覚者たちの手前で速度を落とした車は、速度が止まるよりも早く、後部座席側から人間がぞろぞろと湧き出て来る。
その手には、雑貨屋とかでも買えるものもあれば、どこから手に入れたのか不明な拳銃などなど、多種多様。
「あんた達は憤怒者? どうしてこの子を狙ったの?」
梛の声が響く――返事は無い。
「ここで話した方が後で楽だよ? 話さないと痛い目にあうかも」
再びの問いかけ――返事は無い。
「彼らは彼らの世界に浸っちゃってるね」
梛は強制的に戦闘へと体勢を変えた。バールのようなものを持った男が一目散にタヱ子と花枝を目指して走った時、その間に奏空が割って入る。振り落とされたバールを、逆手に持った奏空の刃が弾く。
「彼女には、触れさせやしない!!」
「ぐっ!!」
奏空の言葉を受け流すような、いや、最初から言葉なんて受け付けていないような鬼の形相をした一般人であった。
空いた片手で眠りを誘う霧を発生させると、男がぐらついて膝をついたのだが、後ろ側から拳銃を持った女性が、膝をついた男の腕を打ち、銃声の驚いた花枝の叫び声が上がった。
「なんでだ!! 仲間同士だろ!!」
フィオナが言葉を強く放ちながら、拳銃を持つ女の肩を剣で貫く。微量の出血、だが女は眉ひとつ動かそうとはしなかった。まるで人形――いや、人形じゃない、彼らはきちんと意思がある。
しかしその意思が、あまりにも頑丈過ぎるのだ。
「往こうぞ、濡烏。我が手の届く範囲は、護る」
花枝を車に引き込まんとする引く手は数多。樹香はその手を全て刈り取る気持ちで長柄の刃を躍らせた。
ひとつ、くるりと回せば敵の二人がバッドに打たれたボールのように飛び、しかし再び立ち上がってはこちらを向いた。
「まるで、機械人形みたいだ」
直感的な状況を口ずさんだ梛。彼らはひとつの目的を『絶対に』達成させたいのだろう。しかしその考えは、どこまでも狂気的だ。きっと彼らは、諦めるという文字を頭に刻んではいない。
ガァン!! と銃声が再び響いた。体格のいい男が腰から抜いた銃でタヱ子をの左腹部に軽く穴を空ける。どこまでいっても軽くだ。
化け物が。
と呟かれた声は、タヱ子の耳に届いている。ぎゅうと身を縮こまらせている花枝が、半ば泣きそうになりながら「大丈夫なの!?」と声を荒げたが、タヱ子としては銃で撃たれるとか日常茶飯事のようなもの。
梛の銀雪棍、飛馬の刀が銃を撃った男を右と左から挟み込んで打撃。白目をむいた男は立ち上がることは無かった。
「巌心流は守りの剣……けどな、守りを知れば必殺の太刀筋だって見えて来んだよ。ま、今回は峰打ちだから安心してくれ」
刀に着いた血を払いながら背中で語った飛馬。
そしてじわりじわりと敵を追い詰めていく。集まった覚者の練度に対して、今回の敵のレベルは相当下であった。
まるで朝飯前程度の仕事になってしまったが、ここから一気に覚者のラッシュは始まっていく。
敵から見れば、もはや逃げてもいいような状況であるにも関わらず、敵は一向に花枝を目線で追っている。ゾっと背筋が冷えた花枝は、タヱ子にぎゅうっと身体を押し付けながら震えていた。
「覚悟しろ!!」
フィオナの声と共に、彼女は月明りを背に跳躍した。女の銃口が彼女の軌跡を追い、銃声が響くものの弾を縦に切ったフィオナ。
ガラティーンを血に染めるわけではなく、フィオナはあくまでも得物を鈍器として扱い、命まで取らぬように細心の注意を払うのだ。
口から吐しゃ物を出しながら、腹部を打たれ、くの字に曲がった女はフィオナの前で倒れる。その後ろでは梛が得物で男のバールを受け止めている。得物同士の接する場所から火花が散り、梛と男が離れてから再びぶつかり合い、交差、そして男が倒れた。
ナイフを持った男が奏空の後ろに回り込み、腕を回転させてきたのを奏空は体勢を低くして回避。からぶった勢いで体勢を崩した相手を、下から顎を殴りつけて歯が数本抜けながらも男はバク宙回転してから地面に転がる。
そして、飛馬と樹香が二人を追い詰める。
両刀と薙刀。相手は、ナイフとバッドだ。
ナイフの女が飛馬の懐に入ってきては心臓目掛けて切っ先を向けたが、飛馬は身体を捻って回避。
同じく、バッドの男は大胆にも樹香の目の前から両腕を振りかぶったが、がら空きの胴を樹香は柄で払い、吹き飛ばした。
地面へ転げたナイフの女の背に立った飛馬。一度だけ降伏勧告をしようとしたが、今までの動向を思えばそれを聞いてくれるのは難しいだろう。再びの打撃、首に近いあたりの背に衝撃を刀の柄で落とされた女は、あっさりと地面へと伏せった。
樹香はゆらりと長柄を横に振り切る。その姿は大鎌を振る死神のようにも見えていたことだろう。それを一瞬の間を置いてから薙ぎ、男は衝撃と風圧に吹き飛び、壁にぶつかってから力無く倒れた。
そして最後。
仲間に腕を打たれた男がゆらりと立っていた。口からひゅーひゅーと音を出しながら、しかし男の瞳は諦めた色をしていない。
人間の体力差としては、覚者と人間に差は大きい。とっくにこの男の体力は尽きているのが一般人の体力としては普通なのだが、明らかに限界を超えながらも立っている。
「何故、そこまでする――!!」
飛馬の呼び声には何も答えない。代わりに男は銃口とタヱ子へと向けた――打っても、タヱ子はさらりと受け止めても体力が少し削れる程度だろうに。
銃声が響く前に、覚者は一斉に男へと得物を振り上げた。
●
「ありがとうございます! ……あ、でもおうちには帰れない……んですね」
花枝は帰りの護送車のなかで、落ち込んだ顔をしていた。
何はともあれ、『今日』襲撃に来た敵は倒したが、花枝を野放しにすれば『次』がある可能性が高いのだ。
今日の襲撃者もたかだか、一部であろう。
「すみません……五麟は、いいところだよ」
「だと、いいんだけれど」
奏空の声かけにも、しゅんと落ち込んでしまった彼女の表情は戻せなかった。
時は戻り、結果として敵を捕らえた覚者たちだ。
あれから拘束を終え、意識を取り戻した人間たちであったが、誰一人口を割ることは無かった。
代わりに、車の後部座席からは、呻き声が聞こえ、フィオナが一目散に車を調べてからその『発現していない少女』を抱き上げて戻ってきた。
「女の子が!! すぐに、救急車を!! なんか……薬臭いぞこの子!」
目が虚ろ、口から泡をふきつつ、しかし表情は笑っている少女。明らかな異常な姿に、花枝はぽつりとつぶやいた。
「私も、そうなる予定……だったのかな……」
―――――
――――
―――
――
それから数日、花枝は五麟に住み、もう一人の少女は今だ病院のなかで眠っている。
再び集まった六人。
タヱ子は言う。
「あれから花枝さん、発現しませんね。もう一人の方もそうですが」
花枝はこれからも、発現することは無いだろう。
もう一人の少女も同じだ。
奏空は言う。
「敵の身元も調べたけど、職種はバラバラで、学生から主婦とかまで。統一性も無かったんだよね……。所持品も武器と携帯だけ。
携帯は今回捕らえた人たちとのやりとりとアドレスだけだった」
敵側の種類は様々である。
梛は言う。
「宗教系が怪しいかな。それならどんな職種でもいいし、あそこまで狂信的に向かってくる理由は余程だろうし。
相馬にそこらへんは調べてもらってる。最近活発な宗教が無いか――とか」
ともなれば情報待ちである。
飛馬は言う。
「花枝のねーちゃんを、生贄か、それとも使徒の仲間にでもするつもりだと思っていたが、薬漬けにされたねーちゃんを見ると、生贄あたりが妥当か」
宗教に、生贄。
樹香は言う。
「そういえば、二人とも少女じゃな」
少女ばかりが狙われる。
フィオナは言う。
「生贄だとして、花枝でないといけない理由ってなんだ? ともあれ覚者絡みでなくてもそうでなくても、女の子は護らなきゃだ!」
今回の事件はこれで解決としよう。
花枝はまだ狙われ続けるが、五麟から出ない限りは無事を約束できることだろう。
次の犠牲の少女は誰か。
それとももう、犠牲の少女は出ているのか――。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
