【攫ワレ】正面からの突入
●今度は正面から……!
以前、『F.i.V.E.』の覚者達は、とある人身売買組織『テイク』を壊滅に追いやっている。
彼らは自分達の思うように振る舞い、力の弱い覚者を攫って捕らえ、いくつかの組織へと販売を繰り返して活動資金を得ていた。彼らも知らぬうちに、何か大きな組織に操作されている節がある。最後に現れた七星剣幹部、『濃霧』霧山・譲がそれを示唆していた。
霧山についてはまだ分からぬことも多く、今は再び姿を現すのを待つ状況。
その間に、覚者達は『テイク』のメンバーに売られた覚者の行く末を調べていた。その最中で見つけたのが、『カーヴァ生体工学研究所』である。この地下には、攫われて売られた挙句、捕らわれの身となった覚者達の姿があった。
「今回は、捕らわれの覚者の救出を考えておるのじゃが……」
『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)は、会議室に集まった覚者達へと告げる。
一般の組織である『F.i.V.E.』。下手に手を出すと、こちらが悪者にされかねないと言うことで、前回はこの研究所へと潜入を行った。
それによって、数人の子供の覚者が捕らわれている動かぬ証拠を手にした覚者達。しばし時間はかかったが、AAAの協力の元、研究所へと突入することとなった。
「突入には、鬼頭三等の助力を願うことになったのじゃ」
「牙王……群狼討伐作戦の折、世話になったな」
AAAの三等、鬼頭・雄司。今回の1件は彼がカバーしてくれることとなる。突入に当たっては、人身売買罪、逮捕・監禁罪容疑で、研究所所長、コーディ・カーヴァ以下、職員数名を拘束することとなる。
予定としては、昼間に令状を取ったAAAが隊員が武装の上で敷地を囲むのを待ってから、鬼頭と覚者で研究所へ突入する。
「まず、俺が所長カーヴァを呼び出し、令状を出そう。相手は応戦することが予想される。俺もライフルでの応戦はするが……」
「基本、職員は非覚者じゃが、所長のコーディと副所長の静永は覚者じゃからの」
現地点であれば、研究所側もまだ警戒も薄いが、令状を出した後、捕らえた覚者の少年少女を戦力として、あるいは盾として前に出すことが考えられる。
捕らわれの子供は7人。敵の抵抗もある為、全員の救出は難しいかもしれないが、出来る限りこのタイミングで子供の救出を目指したい。
「相手が素直に応じるとは思えん。主らの助力なしには切り抜けるのは困難だと思っている」
鬼頭も語る。職員がどういう態度で出てくるかはなんとも言えない。
おそらく、多勢に無勢と逃げる可能性が高いが、職員の逃走に当たっては、前回覚者達が使った地上裏手入り口以外に、別途用意されている可能性は高い。
また、職員達は研究に有用と判断された子供の保護を、全力で阻止してくるだろう。脅威となるのは、所長、副所長のみなので、その2人さえ上手く抑えれば、力押しでなんとかなる可能性もあるが……。
「我々はあくまで、正面から突入する為のきっかけだと思って欲しい。後は主ら次第だ」
「うむ。……うちのように、捕らえられた子供達を助けて欲しいのじゃ」
鬼頭の言葉の後、けいが覚者達に子供達の解放を願うのだった。
以前、『F.i.V.E.』の覚者達は、とある人身売買組織『テイク』を壊滅に追いやっている。
彼らは自分達の思うように振る舞い、力の弱い覚者を攫って捕らえ、いくつかの組織へと販売を繰り返して活動資金を得ていた。彼らも知らぬうちに、何か大きな組織に操作されている節がある。最後に現れた七星剣幹部、『濃霧』霧山・譲がそれを示唆していた。
霧山についてはまだ分からぬことも多く、今は再び姿を現すのを待つ状況。
その間に、覚者達は『テイク』のメンバーに売られた覚者の行く末を調べていた。その最中で見つけたのが、『カーヴァ生体工学研究所』である。この地下には、攫われて売られた挙句、捕らわれの身となった覚者達の姿があった。
「今回は、捕らわれの覚者の救出を考えておるのじゃが……」
『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)は、会議室に集まった覚者達へと告げる。
一般の組織である『F.i.V.E.』。下手に手を出すと、こちらが悪者にされかねないと言うことで、前回はこの研究所へと潜入を行った。
それによって、数人の子供の覚者が捕らわれている動かぬ証拠を手にした覚者達。しばし時間はかかったが、AAAの協力の元、研究所へと突入することとなった。
「突入には、鬼頭三等の助力を願うことになったのじゃ」
「牙王……群狼討伐作戦の折、世話になったな」
AAAの三等、鬼頭・雄司。今回の1件は彼がカバーしてくれることとなる。突入に当たっては、人身売買罪、逮捕・監禁罪容疑で、研究所所長、コーディ・カーヴァ以下、職員数名を拘束することとなる。
予定としては、昼間に令状を取ったAAAが隊員が武装の上で敷地を囲むのを待ってから、鬼頭と覚者で研究所へ突入する。
「まず、俺が所長カーヴァを呼び出し、令状を出そう。相手は応戦することが予想される。俺もライフルでの応戦はするが……」
「基本、職員は非覚者じゃが、所長のコーディと副所長の静永は覚者じゃからの」
現地点であれば、研究所側もまだ警戒も薄いが、令状を出した後、捕らえた覚者の少年少女を戦力として、あるいは盾として前に出すことが考えられる。
捕らわれの子供は7人。敵の抵抗もある為、全員の救出は難しいかもしれないが、出来る限りこのタイミングで子供の救出を目指したい。
「相手が素直に応じるとは思えん。主らの助力なしには切り抜けるのは困難だと思っている」
鬼頭も語る。職員がどういう態度で出てくるかはなんとも言えない。
おそらく、多勢に無勢と逃げる可能性が高いが、職員の逃走に当たっては、前回覚者達が使った地上裏手入り口以外に、別途用意されている可能性は高い。
また、職員達は研究に有用と判断された子供の保護を、全力で阻止してくるだろう。脅威となるのは、所長、副所長のみなので、その2人さえ上手く抑えれば、力押しでなんとかなる可能性もあるが……。
「我々はあくまで、正面から突入する為のきっかけだと思って欲しい。後は主ら次第だ」
「うむ。……うちのように、捕らえられた子供達を助けて欲しいのじゃ」
鬼頭の言葉の後、けいが覚者達に子供達の解放を願うのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.7人中4人以上、捕らわれの覚者を解放すること
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
人身売買組織によって売られた覚者の子供達。
AAAの協力を得て、正面から研究所への突入を図りますが、さて……。
●状況
『カーヴァ生体工学研究所』は滋賀県某所にあり、
街中の大きな敷地に、建てられています。
建物は地上3階から地下2階。
地上部は研究員個別の研究室や、会議室、事務室などがあります。
今回は昼間、AAAの鬼頭と一緒に
正面から堂々と突入する形をとります。
地下2階の牢に、
覚者の少年少女7人(後述の戦闘参加の2人含む)が捕らえられております。
こちらの解放を目指したいところですが、
全員の首に金属製の枷をつけられており、
研究所職員の合図で強力な電撃が走るようです。
子供達はこれをひどく嫌がり、
職員の思い通りに行動しようとします。
●敵
敵の抵抗次第では交戦することになります。
○覚者……戦闘に参加する可能性があるのは、4人。
戦力とならない覚者は戦いに参加しません。
・所長・コーディ・カーヴァ……55歳。アメリカ人。
やや日本語が不慣れな部分があり、片言で喋ることがあります。
来日した後、覚者となっております。現×天。能力は不明です。
・副所長・静永・高明(しずなが・たかあき)……29歳。日本人。
優れた手腕で副所長の座に上り詰めた男です。
覚者であり、暦×土。ナックルをメインに攻撃してきます。
スキルは不明です。
・捕らわれの覚者・南里・昌樹(なんり・まさき)(械×水)
前回、牢に捉えられていた10歳の少年です。
首に金属製の枷をつけられております。
戦いにおいてはハンドガンを所持させられます。
・捕らわれの覚者・簗鶏・怜佳(やなとり・れいか)(翼×木)
前回、脱出時に命令されて攻撃してきた9歳の少女です。
同じく、首に金属製の枷をつけられております。
戦いにおいてはハンドガンを所持させられます。
○研究員×8人……ごく普通の一般人です。
一応、妖に備えてハンドガンなどを持ってはいますが、
基本は普通の一般人です。
○警備員×10人……武装した民間の警備員。
一般人であり、ハンドガン、ライフルを所持しています。
●NPC
○鬼頭・雄司(きとう・ゆうじ)……AAAの三等。小隊を率いています。
鬼頭自身はライフルをメインに武装しております。
部下は研究所の敷地を囲むようにハンドガンと盾を所持し、布陣しております。
それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年10月22日
2016年10月22日
■メイン参加者 8人■

●突入の前に
滋賀県某所、カーヴァ生体工学研究所。
「また、ここに来たわね」
『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)がその建物と、周囲を見回す。現在、敷地の回りはAAAが取り囲んでいる。
「それにしても、AAAと共闘で正面突破とはね」
今回は力業で攻め入る作戦。正攻法での突入ということもあり、研究所からの抵抗があると予想される。
「正面突破、か。またこの間みたいに、子供達に戦わせるんだろうな」
『第一接近遭遇』成瀬 翔(CL2000063)は、前回の潜入時、地下に囚われた自分より年下の子供の姿を目にしている。彼らは研究という名目で捕らえられ、拷問とも思える責め苦を受けているのだ。
同じく、その作戦に参加していた『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328) も子供達の安否を気遣う。
「望まぬ戦いを強いられ、利用されてる子達を助けないと……」
「あいつらの心も体も、これ以上傷つかないうちに助け出してやりたい。できれば全員っ!」
亮平も翔も、彼らの保護の為に全力で作戦に臨む。
「子供達を捕まえてひどいことするなんて、子ども向け番組に出てくる『悪の組織』そのまんまやん」
茨田・凜(CL2000438) は研究所に呆れと怒りを覚える、彼女もまた、何としても子供達を救出したいと考えていた。
「子供達を暴力で脅して言う事を聞かせる等、言語道断。許し難い行いですわ!」
『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268) は研究所に対して激しく憤る。覚者としての力は救いを求める誰かの為にあると考える彼女も、皆と目的と同じくしていた。
「何だ、遠足かね……ん? 売られた子供達を探すのか。成る程、それは取り戻さないといかんね」
ふらりと現れたフルフェイスの男、緒形 逝(CL2000156) 。子供は国の宝であり、悪用はダメだと彼は主張する。小さく資源と呟いたのは聞き流しておきたい。
「ちょいと頑張って子供達を見付けよう。ダメな大人達は1人も残さず、シバき倒そうかねえ」
「そうね、子供達の為に頑張りましょうか」
逝の言葉にエメレンツィアは頷く。人身売買組織の1件に関与していた七星剣幹部について考えながらも、そこに現れたAAAの三等、鬼頭・雄司に、彼女は挨拶を交わす。
「久しぶりね、キトウ。今回も一緒に頑張りましょう」
「よろしく頼む」
鬼頭はすでに突入、逮捕の為の令状をとり、所長、コーディ・カーヴァ以下、研究員の拘束、囚われの子供達の保護を目指している。
「時代劇のご一行様のように、令状を出したらハハァーで終われば楽なのですのに……。現実の悪人共は実に往生際が悪いものなので」
『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732) がそこで、嘆息する。普段は車椅子を常用している彼女は、この場に乗り捨てるわけには行かないと考え、すでに覚醒して両脚で立っている。
「ですが、今回はAAAもいることですし、そういった面倒事は任せて、捕らわれのトレジャー様を確保する方を頑張りましょうか」
こちらの方がより面倒なのだがと、槐はさらに溜息をつくのだった。
会話の間にも、メンバー達は突入に備えて出来ることを行う。
翔は守護使役の空丸に、屋上の様子を探らせる。ヘリポートがあるのを確認し、覚者達はそちらが脱出路になる可能性を考えていた。
同時に、『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403) は土の心を使い、敷地の地面を探らせる。元々地下がある建物。出口が分かれば、AAAに封鎖を頼もうと考えたのだが、入り組んだ地下はなかなか地形把握が難しい。どうやら抜け道はありそうだが、1つではないらしいのだ。これではすぐに対策を打つというわけにもいかない。
また、周辺車両をパンクさせる手も考えたが、手段として反社会的であることなどもあり、AAAが許容しなかった。
そして、亮平が送受心を発動させ、仲間同士の伝達を可能にする。
こうして出来る範囲で準備を整えた一行は鬼頭にその旨を告げ、作戦を開始するのだった。
●研究所突入!
さて、覚者達は鬼頭を先頭にして研究所内へと入っていく。
鬼頭が受付で所長を呼び出すと、数分した後、所長カーヴァがゆっくりと1人で現れた。
「これはこれは、AAAに『F.i.V.E.』……でしたか。ヨウコソお越しくださいマシタ」
にやりと笑うカーヴァに対し、待たされてやや焦れていた鬼頭がすぐに令状を出す。
「『カーヴァ生体工学研究所』所長、コーディ・カーヴァ。貴様に逮捕状が出ている」
現状は未成年監禁罪での罪状メインだが、人身売買罪、傷害罪などもつくことになるだろう。
「ハテ……何のコトデスカネ?」
「とぼけても無駄です。人体実験の証拠もつかんでいるのですよ」
クーが前回潜入したメンバーによる報告書の情報を、カーヴァへと告げる。
「前回のネズミはあなた達デシタカ……」
カーヴァはこの状況においても、不敵な笑みを崩さない。
もちろん、覚者達は相手の出方を警戒する。エメレンツィアは動体視力を使い、所長の姿を注視していた。
亮平はそれ以外の職員が姿を見せぬこと察して、鷹の目で周囲を見回す。また、彼は守護使役のぴよーて3世に偵察を行わせる。とはいえ、天井に遮られ、広範囲を見渡すとは至らなかったが。
突然の訪問で、研究所側も警戒は薄かったはずだ。
しかし、AAAの展開、そして、覚者達もしばし、突入にはしばしの時間を要した。しかも、副所長は未だに姿を見せない。この短時間に、カーヴァは対策をしたというのだろうか。
逝は感情探査しつつ、視界にいない人員を確認する。
(廊下側に警備兵が控えとるね)
逝が仲間達へとそれを伝えると、メンバー達はいつでも動けるようにと構えを取っていた。
「『Your base are belong to us.』なのです」
『お前たちの基地は全て我々が頂いた』。槐がそう告げると。所長は降伏することなく口元を吊り上げ、見る見るうちに若者の姿へと代わりながら、後方へと飛びのく。
「ハハハ、できるものなら、やってみてくだサーイ!」
所長が後方へと跳躍したタイミングで、建物内から警備兵達がぞろぞろと現れる。
抵抗を見せると分かったメンバー達は、所長を追おうとするが警備兵10名が一挙に押し寄せ、壁を成す。それにより、メンバー達は行く手を遮られ、警備兵の対処を余儀なくされる。
所長を足止めする気だった槐は、分かっていながらも逃げられたことに顔を顰めつつ、目の前の邪魔な警備兵の対処を行う。鬼頭もライフルを構えて応戦を始めていた。
「それなら、強行突破です」
子供達の救出の為にクーは覚醒し、両腕両脚を犬のそれへと変えた上で、自らの体に土を鎧のように纏っていく。
メンバー達は次々に覚醒していった。大人の姿に変貌したいのりは次の攻撃に備えて集中する。
「警備員は何も知らねーだろうし……、悪いけどしばらく寝ててくれ」
こちらも青年の姿となった翔が雷雲を発生させ、警備員に雷を落としていく。いのりも術式を組み立て、警備員達を眠りへと誘う。
ハンドガンやライフルで武装する警備員達。武装している彼らの殺傷能力は厄介だが、一般人には変わりない。
念の為にと所長の攻撃に警戒し、治癒力を高めた香りを振りまいていた槐が、今度は警備員を眠らせていった。
しばしの時間を要しはしたが、覚者達は警備員達を倒し、無力化する。
「こいつらの捕獲はこちらで行う。早く中へ」
鬼頭が覚者達に願う。相手も力を発現させた者、その対処は覚者達の方が上手だ。頷くメンバー達は研究所の地下へと向かって行った。
●子供が囚われている地下牢へ……!
突入する覚者達が目指すは地下2階、子供達が囚われている牢屋だ。
現状、屋上にヘリが到着するなど、状況に変化は見られない。クーも仲間を追うように地下に向かう。
その間、凜は入り口そばの警備室にて、何とか警備システムをハッキングしてみようと操作を行う。さすがに、敵もシステムにプロテクトをかけており、やすやすとは破らせてはくれない。時間がかかると考えた彼女は已む無く仲間を追うことにする。
だが、メンバー達は地下1階にて足止めを食うことになる。おそらく、所長カーヴァの命で待機していた研究員達がハンドガンを構え、地上階から降りてくる覚者達を出迎えたのだ。
「来たぞ、応戦しろ!」
発砲してくる職員達。たった数分でこれだけの警戒態勢を取ったことに、覚者達も戸惑いを隠せない。
研究員は8名。覚者も8名。突破せねば、階下に向かうことは難しい。
「お前ら、子供を人体実験してるなんて、ひでーと思わねーのか!?」
翔はワーズ・ワースも使用しつつ、必死に研究員達に呼びかける。だが、職員達は聞く耳を持たない。
「我々の研究をこんなところで、終わらせるわけにはいかない……!」
想像以上に、彼らの意思は固い。それだけ、研究に尽力しているのだろう。
「まあ、幾らでも撃ってごらん。そんな玩具如きで如何にかなるようなものでは無いから」
逝は岩の鎧を纏い、職員に呼びかける。
「道を踏み外した人間に、手心は必要ありませんね」
彼らは少なくとも、進んで人体実験を行っていたのは間違いない。ならばこそ殺しはしないが、手加減など加えない。彼女は職員へと強烈なプレッシャーを与え、そいつを卒倒させてしまう。
亮平は状況を見つつ、眠りへと誘う空気で研究員を包み込み、眠らせようとした。
それに屈し、ぱたり、ぱたりと倒れて眠りに落ちる職員達。すかさず、亮平がロープを取り出し、メンバーと手分けして拘束していく。
だが、そんな中、1人がそれに耐えていた。
「こちらを視なさい!」
それならと、いのりはその職員へと魔眼を使う。すると、その研究員は目から光を失い、催眠状態へと陥った。
「子供達の首輪の電撃を操作している者は誰ですか。どうやって操作しているのですか?」
「……スイッチで、起動……おそらく、副所長が……」
いのりはしばしこの職員と意思疎通を行い、爆発の危険がないかなど確認していたようだ。
さらに覚者達は階下へ。地下2階へと移動したメンバーは、地下牢を目指すが……。
「ん、こっちにもいるな」
常に、子供達の恐怖や嫌悪感といった感情を探っていた逝が地下牢とは逆方向の通路を見ると、壁の中から所長と囚われの子供覚者2人が現れる。
「フフフ、予め、シズナガの助言で、幾つか抜け穴を作っていたのデスヨ」
含み笑いをする、若々しい姿のカーヴァ。どうやら、それを知っていたのは、彼と副所長の静永だけだったらしい。
カーヴァは捕らえた2人の子供達を盾にしてくる。後方にいた静永の手には、何かのスイッチ。あれが、電気ショックを起こすスイッチに違いないと、エメレンツィアは確信する。
「う、ううっ」
「嫌です、嫌です……」
そして、2人の子供達はそのスイッチに怯え、泣きながらハンドガンをこちらへ突きつけてきた。
「包囲は完了済みです。大人しく投降を勧めますが」
「残念だが、ここで研究を終わらせるわけにはいかん」
クーが呼びかけるも、静永は首を振って覚者達へと返す。AAAが敷地を取り囲んだ地点で彼は準備を始め、首輪のスイッチを手にし、この2人だけ確保していたのだろう。
(君達を助けに来た)
怯える子供達に、亮平が送受心で呼びかける。
(敵に勘ぐられないよう眠らせてから保護したい。武器を構えて抵抗するフリをしてくれ)
(大丈夫、絶対にみんな助けるから安心してくれ)
翔もまた、言葉を掛ける。その対象は、前回顔を合わせている械の因子持ちの少年、南里・昌樹。そして、翼の少女、簗鶏・怜佳だ。返答をしない彼らの後からは、常に静永がスイッチのボタンに手をかけていた。
「ここで行われている事は、私が貴方を潰すに余りある理由です」
クーは怒りを隠そうともせず、今度こそ所長を足止めしようと飛びかかろうとする。
「お手並み、拝見デース」
カーヴァは雷獣の術式を組み立て、前線の覚者に雷を落として来る。ただの研究者かと思いきや、覚者としての力もかなり持っていたようだ。
(さすがに、天行の力で電流を流すわけではないようね)
エメレンツィアは、目の前の子供を救い出すことを最優先に考えている。
先ほどいのりが催眠状態となった職員から、首輪の仕掛けを聞いていた。基本的にはスタンガンの強力なもの。スイッチも遠隔操作で行うタイプらしい。
(直接食べさせる方がいいのだろうけれど……)
彼女は凜と協力し、恵みの雨を降らして仲間を癒しながら考える。さすがに戦いの最中では、それも難しいが……。
「うっ……うっうっ」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
子供2人は覚者としての力を使おうとはせず、涙を流してハンドガンを発射してくる。
それを主立って受けていたのは、逝、亮平だ。
囚われ、売られ、さらに実験と称した責め苦……。彼らは今まで辛い思いをしてきたはず。だからこそ、亮平はそんな子供達を傷つけたくないと、反撃することなく耐えていた。
仲間達がそれを受け止めはしてくれているが、凜は斜線がこちらに通ってしまうことを懸念しつつ、強化弱体といった支援。それに、癒しの滴などで仲間を回復する。
(お腹だけは被弾したらいけないんよ)
銃弾には細心の注意を払い、凜は術式を組み立て続ける。
「逮捕なら裁判を受けられるが、抵抗するなら射殺許可があるのですよ」
大人しく投降をするよう促す槐。しかしながら、彼らに応じる様子は微塵も感じられない。
気になるのは、静永だ。彼は一切攻撃せずに自らの体を岩で固め、スイッチに手をかけたままだ。
それを抑えようとしていたのは翔だ。数の利を生かして後方にいる静永へ、波動弾を放出する。翔は敵が前方だけでなく、壁にも目をやっていることに気づく。
(あん中にも、通路があんだろーな)
ならば、そこに逃げる可能性は十分と、翔は静永を抑えようとする。
手前では、クーがカーヴァへ鋭い蹴りを喰らわせる。さらに、逝が地を這うような軌跡を描き、直刀・悪食をカーヴァの体深くへと食い込ませる。
「『F.i.V.E.』の皆サンは、厄介デスネー……」
「……所長、離脱を」
静永はぐいっと怜佳の手をつかみ、壁の中に沈み込む。カーヴァも昌樹を捕らえようとしたが、そこで槐が脱力させてきたことで、その体を掴み損ねる。
「……ッ、引きマショウ。ここは私達の負けデース」
カーヴァもまた、壁の中に消える。追おうとした覚者達だったが、その壁は堅く、もう何者も通さじと行く手を阻むのだった。
●保護は出来たが……
子供達につけられた首輪の解除は、地下の特殊な設備で行う必要があると聞いたいのり。
「助けに来ましたわ!」
彼女は地下牢へと向かい、捕らえられたままの子供達へと呼びかける。
すでに、現在詰めていた職員も警備員も対処済みの状況。いのりは鍵を開けて子供達を保護していく。逝はこの場に6人いることを確認していた。
その後、覚者達は保護した子供達から首輪をとることにする。
この場は手っ取り早く、凜の守護使役ばくちゃんと、エメレンツィアの守護使役、チュロに首輪を食べてもらっていた。
ただ、それぞれ一つ食べるだけでおなか一杯になったこともあり、捕まえた職員にいのりが首輪を外すよう指示する形をとっていた。
「ありがとう……」
「よかった、よかったよお……」
首輪から介抱された子供達は戸惑いながらも、安堵の為か涙を流してしまっていた。
地上へと戻った覚者達へ、鬼頭が済まなさそうに頭を下げた。
「すまん。側面の手薄な部分を抜けられてしまった……」
建物の至る所に抜け道を作っていたのは、その研究内容もあって、常に危機管理意識があったのだろう。建物横へと地下から昇って来た所長達は、警備員や職員確保の為にAAAの人員を割かれて囲いが薄くなった箇所を見定め、強行突破してしまったらしい。
その行方はAAAが追っているようだが、今は保護した子供達のケアをメンバー達は行う。
亮平はその覚者達の因子を確認する。彩、現、暦、獣、怪。そして、保護した械の因子の昌樹。連れ去られた少女は翼とバラバラで、亮平はそれに共通性を見出すことはできなかったようだ。
「もう安心ですわ」
いのりがにっこりと子供達へと微笑む。
「クッキーを上げましょう。よく頑張りました」
また、クーがクッキーを差し出し、凜もまた普段から持っているお菓子を差し出してギュッと握り締める。子供達は最初、覚者達にやや警戒心を見せてはいたが、徐々に心を開き始めていたようだ。
メンバー達は保護した子供達を『F.i.V.E.』に連れて行き、体と精神のケアの為、病院へと連れて行くことにする。
心無い職員による、研究と称した暴行の数々。今なお身を震わせる子供達の話を、翔は優しく聞いていた。
「だから、助けると言っただろ」
「でも、怜佳が……」
昌樹の言葉に、覚者達は彼から目を背けてしまった。
かくして、研究所を舞台とした捕り物は未解決のまま終わることとなる。
覚者達は取り逃がした所長ら2名、そして、今なお彼らの手の内にある怜佳の救出が出来なかったことに、覚者達は悔しさをにじませるのである……。
滋賀県某所、カーヴァ生体工学研究所。
「また、ここに来たわね」
『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)がその建物と、周囲を見回す。現在、敷地の回りはAAAが取り囲んでいる。
「それにしても、AAAと共闘で正面突破とはね」
今回は力業で攻め入る作戦。正攻法での突入ということもあり、研究所からの抵抗があると予想される。
「正面突破、か。またこの間みたいに、子供達に戦わせるんだろうな」
『第一接近遭遇』成瀬 翔(CL2000063)は、前回の潜入時、地下に囚われた自分より年下の子供の姿を目にしている。彼らは研究という名目で捕らえられ、拷問とも思える責め苦を受けているのだ。
同じく、その作戦に参加していた『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328) も子供達の安否を気遣う。
「望まぬ戦いを強いられ、利用されてる子達を助けないと……」
「あいつらの心も体も、これ以上傷つかないうちに助け出してやりたい。できれば全員っ!」
亮平も翔も、彼らの保護の為に全力で作戦に臨む。
「子供達を捕まえてひどいことするなんて、子ども向け番組に出てくる『悪の組織』そのまんまやん」
茨田・凜(CL2000438) は研究所に呆れと怒りを覚える、彼女もまた、何としても子供達を救出したいと考えていた。
「子供達を暴力で脅して言う事を聞かせる等、言語道断。許し難い行いですわ!」
『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268) は研究所に対して激しく憤る。覚者としての力は救いを求める誰かの為にあると考える彼女も、皆と目的と同じくしていた。
「何だ、遠足かね……ん? 売られた子供達を探すのか。成る程、それは取り戻さないといかんね」
ふらりと現れたフルフェイスの男、緒形 逝(CL2000156) 。子供は国の宝であり、悪用はダメだと彼は主張する。小さく資源と呟いたのは聞き流しておきたい。
「ちょいと頑張って子供達を見付けよう。ダメな大人達は1人も残さず、シバき倒そうかねえ」
「そうね、子供達の為に頑張りましょうか」
逝の言葉にエメレンツィアは頷く。人身売買組織の1件に関与していた七星剣幹部について考えながらも、そこに現れたAAAの三等、鬼頭・雄司に、彼女は挨拶を交わす。
「久しぶりね、キトウ。今回も一緒に頑張りましょう」
「よろしく頼む」
鬼頭はすでに突入、逮捕の為の令状をとり、所長、コーディ・カーヴァ以下、研究員の拘束、囚われの子供達の保護を目指している。
「時代劇のご一行様のように、令状を出したらハハァーで終われば楽なのですのに……。現実の悪人共は実に往生際が悪いものなので」
『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732) がそこで、嘆息する。普段は車椅子を常用している彼女は、この場に乗り捨てるわけには行かないと考え、すでに覚醒して両脚で立っている。
「ですが、今回はAAAもいることですし、そういった面倒事は任せて、捕らわれのトレジャー様を確保する方を頑張りましょうか」
こちらの方がより面倒なのだがと、槐はさらに溜息をつくのだった。
会話の間にも、メンバー達は突入に備えて出来ることを行う。
翔は守護使役の空丸に、屋上の様子を探らせる。ヘリポートがあるのを確認し、覚者達はそちらが脱出路になる可能性を考えていた。
同時に、『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403) は土の心を使い、敷地の地面を探らせる。元々地下がある建物。出口が分かれば、AAAに封鎖を頼もうと考えたのだが、入り組んだ地下はなかなか地形把握が難しい。どうやら抜け道はありそうだが、1つではないらしいのだ。これではすぐに対策を打つというわけにもいかない。
また、周辺車両をパンクさせる手も考えたが、手段として反社会的であることなどもあり、AAAが許容しなかった。
そして、亮平が送受心を発動させ、仲間同士の伝達を可能にする。
こうして出来る範囲で準備を整えた一行は鬼頭にその旨を告げ、作戦を開始するのだった。
●研究所突入!
さて、覚者達は鬼頭を先頭にして研究所内へと入っていく。
鬼頭が受付で所長を呼び出すと、数分した後、所長カーヴァがゆっくりと1人で現れた。
「これはこれは、AAAに『F.i.V.E.』……でしたか。ヨウコソお越しくださいマシタ」
にやりと笑うカーヴァに対し、待たされてやや焦れていた鬼頭がすぐに令状を出す。
「『カーヴァ生体工学研究所』所長、コーディ・カーヴァ。貴様に逮捕状が出ている」
現状は未成年監禁罪での罪状メインだが、人身売買罪、傷害罪などもつくことになるだろう。
「ハテ……何のコトデスカネ?」
「とぼけても無駄です。人体実験の証拠もつかんでいるのですよ」
クーが前回潜入したメンバーによる報告書の情報を、カーヴァへと告げる。
「前回のネズミはあなた達デシタカ……」
カーヴァはこの状況においても、不敵な笑みを崩さない。
もちろん、覚者達は相手の出方を警戒する。エメレンツィアは動体視力を使い、所長の姿を注視していた。
亮平はそれ以外の職員が姿を見せぬこと察して、鷹の目で周囲を見回す。また、彼は守護使役のぴよーて3世に偵察を行わせる。とはいえ、天井に遮られ、広範囲を見渡すとは至らなかったが。
突然の訪問で、研究所側も警戒は薄かったはずだ。
しかし、AAAの展開、そして、覚者達もしばし、突入にはしばしの時間を要した。しかも、副所長は未だに姿を見せない。この短時間に、カーヴァは対策をしたというのだろうか。
逝は感情探査しつつ、視界にいない人員を確認する。
(廊下側に警備兵が控えとるね)
逝が仲間達へとそれを伝えると、メンバー達はいつでも動けるようにと構えを取っていた。
「『Your base are belong to us.』なのです」
『お前たちの基地は全て我々が頂いた』。槐がそう告げると。所長は降伏することなく口元を吊り上げ、見る見るうちに若者の姿へと代わりながら、後方へと飛びのく。
「ハハハ、できるものなら、やってみてくだサーイ!」
所長が後方へと跳躍したタイミングで、建物内から警備兵達がぞろぞろと現れる。
抵抗を見せると分かったメンバー達は、所長を追おうとするが警備兵10名が一挙に押し寄せ、壁を成す。それにより、メンバー達は行く手を遮られ、警備兵の対処を余儀なくされる。
所長を足止めする気だった槐は、分かっていながらも逃げられたことに顔を顰めつつ、目の前の邪魔な警備兵の対処を行う。鬼頭もライフルを構えて応戦を始めていた。
「それなら、強行突破です」
子供達の救出の為にクーは覚醒し、両腕両脚を犬のそれへと変えた上で、自らの体に土を鎧のように纏っていく。
メンバー達は次々に覚醒していった。大人の姿に変貌したいのりは次の攻撃に備えて集中する。
「警備員は何も知らねーだろうし……、悪いけどしばらく寝ててくれ」
こちらも青年の姿となった翔が雷雲を発生させ、警備員に雷を落としていく。いのりも術式を組み立て、警備員達を眠りへと誘う。
ハンドガンやライフルで武装する警備員達。武装している彼らの殺傷能力は厄介だが、一般人には変わりない。
念の為にと所長の攻撃に警戒し、治癒力を高めた香りを振りまいていた槐が、今度は警備員を眠らせていった。
しばしの時間を要しはしたが、覚者達は警備員達を倒し、無力化する。
「こいつらの捕獲はこちらで行う。早く中へ」
鬼頭が覚者達に願う。相手も力を発現させた者、その対処は覚者達の方が上手だ。頷くメンバー達は研究所の地下へと向かって行った。
●子供が囚われている地下牢へ……!
突入する覚者達が目指すは地下2階、子供達が囚われている牢屋だ。
現状、屋上にヘリが到着するなど、状況に変化は見られない。クーも仲間を追うように地下に向かう。
その間、凜は入り口そばの警備室にて、何とか警備システムをハッキングしてみようと操作を行う。さすがに、敵もシステムにプロテクトをかけており、やすやすとは破らせてはくれない。時間がかかると考えた彼女は已む無く仲間を追うことにする。
だが、メンバー達は地下1階にて足止めを食うことになる。おそらく、所長カーヴァの命で待機していた研究員達がハンドガンを構え、地上階から降りてくる覚者達を出迎えたのだ。
「来たぞ、応戦しろ!」
発砲してくる職員達。たった数分でこれだけの警戒態勢を取ったことに、覚者達も戸惑いを隠せない。
研究員は8名。覚者も8名。突破せねば、階下に向かうことは難しい。
「お前ら、子供を人体実験してるなんて、ひでーと思わねーのか!?」
翔はワーズ・ワースも使用しつつ、必死に研究員達に呼びかける。だが、職員達は聞く耳を持たない。
「我々の研究をこんなところで、終わらせるわけにはいかない……!」
想像以上に、彼らの意思は固い。それだけ、研究に尽力しているのだろう。
「まあ、幾らでも撃ってごらん。そんな玩具如きで如何にかなるようなものでは無いから」
逝は岩の鎧を纏い、職員に呼びかける。
「道を踏み外した人間に、手心は必要ありませんね」
彼らは少なくとも、進んで人体実験を行っていたのは間違いない。ならばこそ殺しはしないが、手加減など加えない。彼女は職員へと強烈なプレッシャーを与え、そいつを卒倒させてしまう。
亮平は状況を見つつ、眠りへと誘う空気で研究員を包み込み、眠らせようとした。
それに屈し、ぱたり、ぱたりと倒れて眠りに落ちる職員達。すかさず、亮平がロープを取り出し、メンバーと手分けして拘束していく。
だが、そんな中、1人がそれに耐えていた。
「こちらを視なさい!」
それならと、いのりはその職員へと魔眼を使う。すると、その研究員は目から光を失い、催眠状態へと陥った。
「子供達の首輪の電撃を操作している者は誰ですか。どうやって操作しているのですか?」
「……スイッチで、起動……おそらく、副所長が……」
いのりはしばしこの職員と意思疎通を行い、爆発の危険がないかなど確認していたようだ。
さらに覚者達は階下へ。地下2階へと移動したメンバーは、地下牢を目指すが……。
「ん、こっちにもいるな」
常に、子供達の恐怖や嫌悪感といった感情を探っていた逝が地下牢とは逆方向の通路を見ると、壁の中から所長と囚われの子供覚者2人が現れる。
「フフフ、予め、シズナガの助言で、幾つか抜け穴を作っていたのデスヨ」
含み笑いをする、若々しい姿のカーヴァ。どうやら、それを知っていたのは、彼と副所長の静永だけだったらしい。
カーヴァは捕らえた2人の子供達を盾にしてくる。後方にいた静永の手には、何かのスイッチ。あれが、電気ショックを起こすスイッチに違いないと、エメレンツィアは確信する。
「う、ううっ」
「嫌です、嫌です……」
そして、2人の子供達はそのスイッチに怯え、泣きながらハンドガンをこちらへ突きつけてきた。
「包囲は完了済みです。大人しく投降を勧めますが」
「残念だが、ここで研究を終わらせるわけにはいかん」
クーが呼びかけるも、静永は首を振って覚者達へと返す。AAAが敷地を取り囲んだ地点で彼は準備を始め、首輪のスイッチを手にし、この2人だけ確保していたのだろう。
(君達を助けに来た)
怯える子供達に、亮平が送受心で呼びかける。
(敵に勘ぐられないよう眠らせてから保護したい。武器を構えて抵抗するフリをしてくれ)
(大丈夫、絶対にみんな助けるから安心してくれ)
翔もまた、言葉を掛ける。その対象は、前回顔を合わせている械の因子持ちの少年、南里・昌樹。そして、翼の少女、簗鶏・怜佳だ。返答をしない彼らの後からは、常に静永がスイッチのボタンに手をかけていた。
「ここで行われている事は、私が貴方を潰すに余りある理由です」
クーは怒りを隠そうともせず、今度こそ所長を足止めしようと飛びかかろうとする。
「お手並み、拝見デース」
カーヴァは雷獣の術式を組み立て、前線の覚者に雷を落として来る。ただの研究者かと思いきや、覚者としての力もかなり持っていたようだ。
(さすがに、天行の力で電流を流すわけではないようね)
エメレンツィアは、目の前の子供を救い出すことを最優先に考えている。
先ほどいのりが催眠状態となった職員から、首輪の仕掛けを聞いていた。基本的にはスタンガンの強力なもの。スイッチも遠隔操作で行うタイプらしい。
(直接食べさせる方がいいのだろうけれど……)
彼女は凜と協力し、恵みの雨を降らして仲間を癒しながら考える。さすがに戦いの最中では、それも難しいが……。
「うっ……うっうっ」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
子供2人は覚者としての力を使おうとはせず、涙を流してハンドガンを発射してくる。
それを主立って受けていたのは、逝、亮平だ。
囚われ、売られ、さらに実験と称した責め苦……。彼らは今まで辛い思いをしてきたはず。だからこそ、亮平はそんな子供達を傷つけたくないと、反撃することなく耐えていた。
仲間達がそれを受け止めはしてくれているが、凜は斜線がこちらに通ってしまうことを懸念しつつ、強化弱体といった支援。それに、癒しの滴などで仲間を回復する。
(お腹だけは被弾したらいけないんよ)
銃弾には細心の注意を払い、凜は術式を組み立て続ける。
「逮捕なら裁判を受けられるが、抵抗するなら射殺許可があるのですよ」
大人しく投降をするよう促す槐。しかしながら、彼らに応じる様子は微塵も感じられない。
気になるのは、静永だ。彼は一切攻撃せずに自らの体を岩で固め、スイッチに手をかけたままだ。
それを抑えようとしていたのは翔だ。数の利を生かして後方にいる静永へ、波動弾を放出する。翔は敵が前方だけでなく、壁にも目をやっていることに気づく。
(あん中にも、通路があんだろーな)
ならば、そこに逃げる可能性は十分と、翔は静永を抑えようとする。
手前では、クーがカーヴァへ鋭い蹴りを喰らわせる。さらに、逝が地を這うような軌跡を描き、直刀・悪食をカーヴァの体深くへと食い込ませる。
「『F.i.V.E.』の皆サンは、厄介デスネー……」
「……所長、離脱を」
静永はぐいっと怜佳の手をつかみ、壁の中に沈み込む。カーヴァも昌樹を捕らえようとしたが、そこで槐が脱力させてきたことで、その体を掴み損ねる。
「……ッ、引きマショウ。ここは私達の負けデース」
カーヴァもまた、壁の中に消える。追おうとした覚者達だったが、その壁は堅く、もう何者も通さじと行く手を阻むのだった。
●保護は出来たが……
子供達につけられた首輪の解除は、地下の特殊な設備で行う必要があると聞いたいのり。
「助けに来ましたわ!」
彼女は地下牢へと向かい、捕らえられたままの子供達へと呼びかける。
すでに、現在詰めていた職員も警備員も対処済みの状況。いのりは鍵を開けて子供達を保護していく。逝はこの場に6人いることを確認していた。
その後、覚者達は保護した子供達から首輪をとることにする。
この場は手っ取り早く、凜の守護使役ばくちゃんと、エメレンツィアの守護使役、チュロに首輪を食べてもらっていた。
ただ、それぞれ一つ食べるだけでおなか一杯になったこともあり、捕まえた職員にいのりが首輪を外すよう指示する形をとっていた。
「ありがとう……」
「よかった、よかったよお……」
首輪から介抱された子供達は戸惑いながらも、安堵の為か涙を流してしまっていた。
地上へと戻った覚者達へ、鬼頭が済まなさそうに頭を下げた。
「すまん。側面の手薄な部分を抜けられてしまった……」
建物の至る所に抜け道を作っていたのは、その研究内容もあって、常に危機管理意識があったのだろう。建物横へと地下から昇って来た所長達は、警備員や職員確保の為にAAAの人員を割かれて囲いが薄くなった箇所を見定め、強行突破してしまったらしい。
その行方はAAAが追っているようだが、今は保護した子供達のケアをメンバー達は行う。
亮平はその覚者達の因子を確認する。彩、現、暦、獣、怪。そして、保護した械の因子の昌樹。連れ去られた少女は翼とバラバラで、亮平はそれに共通性を見出すことはできなかったようだ。
「もう安心ですわ」
いのりがにっこりと子供達へと微笑む。
「クッキーを上げましょう。よく頑張りました」
また、クーがクッキーを差し出し、凜もまた普段から持っているお菓子を差し出してギュッと握り締める。子供達は最初、覚者達にやや警戒心を見せてはいたが、徐々に心を開き始めていたようだ。
メンバー達は保護した子供達を『F.i.V.E.』に連れて行き、体と精神のケアの為、病院へと連れて行くことにする。
心無い職員による、研究と称した暴行の数々。今なお身を震わせる子供達の話を、翔は優しく聞いていた。
「だから、助けると言っただろ」
「でも、怜佳が……」
昌樹の言葉に、覚者達は彼から目を背けてしまった。
かくして、研究所を舞台とした捕り物は未解決のまま終わることとなる。
覚者達は取り逃がした所長ら2名、そして、今なお彼らの手の内にある怜佳の救出が出来なかったことに、覚者達は悔しさをにじませるのである……。
