【紳士怪盗】怪盗団XIVと恋人の像
●老紳士ジョン・スミスからの依頼
この依頼に関わるキーワードは二つ。
『怪盗団XIV』と『恋人の像』です。
順番に説明していきましょう。
怪盗団XIVとは、隔者だけで構成された4人組の泥棒チームです。
皆さんと……そうですね、ある程度は対抗できるような戦闘力と、泥棒のテクニックを持ち合わせています。
彼らの標的は決まって古妖、もしくは古妖の生み出した特別な品でした。
その特異性を悪用したり、コレクターに売り払ったりという活動をしているのです。
そんな彼らが次に標的としたのが、『恋人の像』です。
恋人の像は、通常は別々の名前で呼ばれている石膏の彫像です。
アフロディーテとアレースをかたどった像として、それぞれ別の所有者のもとに存在しています。
勿論、皆さんに盗み出して頂く以上、ただの彫像ではありませんよ。
この像は70年代中頃から古妖となって、世界中のコレクターの間を転々としてきました。
動いたり喋ったりはしないのですが、二つの像を引き合わせた時、持ち主が心臓発作によって死ぬという恐ろしい特異性を持っています。
これらを別々に盗み出し、別々に保管する必要があるのです。
アフロディーテ像は富豪の屋敷に。
アレース像は美術館に展示されています。
それぞれにチームを分けてあたって頂く必要があるでしょう。
分かる限りの情報はお教えします。
成功を、祈っていますよ。
この依頼に関わるキーワードは二つ。
『怪盗団XIV』と『恋人の像』です。
順番に説明していきましょう。
怪盗団XIVとは、隔者だけで構成された4人組の泥棒チームです。
皆さんと……そうですね、ある程度は対抗できるような戦闘力と、泥棒のテクニックを持ち合わせています。
彼らの標的は決まって古妖、もしくは古妖の生み出した特別な品でした。
その特異性を悪用したり、コレクターに売り払ったりという活動をしているのです。
そんな彼らが次に標的としたのが、『恋人の像』です。
恋人の像は、通常は別々の名前で呼ばれている石膏の彫像です。
アフロディーテとアレースをかたどった像として、それぞれ別の所有者のもとに存在しています。
勿論、皆さんに盗み出して頂く以上、ただの彫像ではありませんよ。
この像は70年代中頃から古妖となって、世界中のコレクターの間を転々としてきました。
動いたり喋ったりはしないのですが、二つの像を引き合わせた時、持ち主が心臓発作によって死ぬという恐ろしい特異性を持っています。
これらを別々に盗み出し、別々に保管する必要があるのです。
アフロディーテ像は富豪の屋敷に。
アレース像は美術館に展示されています。
それぞれにチームを分けてあたって頂く必要があるでしょう。
分かる限りの情報はお教えします。
成功を、祈っていますよ。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.恋人の像を両方盗み出す
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●役割分担
このシナリオはアフロディーテ側とアレース側に担当を分け、
その上でバトル担当と盗み担当に分かれる必要があります。
●『怪盗団XIV』
盗みに精通した隔者だということだけ分かっています。
仮面を被って人相は分かりません。
彼らに先回りして、(現地近辺で)バトルに持ち込みます。
もし戦闘に負けたり彼らが対象の屋内に入ってしまったら失敗となります。
●アフロディーテ側
大富豪の屋敷に美術品のひとつとして置かれています。
しかし屋敷の電子セキュリティは極めて高く、突破能力が求められます。
まず入り口はすべて顔認証を必要とします。顔を完全に似せるか壁を透過して内側から開けるかする必要があるでしょう。
次に屋敷内は赤外線センサーが張り巡らされ、普通に動くだけではセンサーにひっかかり警報が鳴ってしまいます。
天井付近スレスレを通るくらいが妥当でしょう。
怪盗団XIVのカイト(銃装備)とニーサム(剣装備)が向かっています。
彼らと戦い、勝つか時間を稼ぎきるかして盗みを成功させましょう。
●アーレス側
美術館には電子セキュリティはほとんど用いていませんが、代わりに警備員が多数配置されています。
美術館周辺を2~3名。内部を3名。持ち回りで巡回しています。見つけ次第手元の警報ブザーを鳴らします。警報が鳴ると館内のあらゆる緊急システムが(音声認識によって)作動する仕組みになっており、盗みがほぼ失敗します。
警備員に見つからないように目的の彫像を盗み出しましょう。
怪盗団XIVからはクライブ(槍)とアハト(ダブルナイフ)が向かっています。
美術館から離れた広場で戦い、勝つか時間を稼ぎきるかして盗みを成功させましょう。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年10月29日
2016年10月29日
■メイン参加者 6人■

●クライブとアハト
闇夜を音も無く駆ける二人の男女。韋駄天足と思しき速さだが、静粛性があまりに高い。
怪盗団XIVのクライブとアハトだ。
たらたらとすすむクライブを、アハトがイライラした様子でせかしているようだ。
「そんなに急ぐことねえだろ。お宝は逃げねえよ」
「それでもプロの泥棒なの?」
「俺は金が貰えればなんでもいいんだよ。お前だってそりゃ同じ――」
急に停止したアハト。
クライブはいぶかしんで彼女の前に出た。
「どうした?」
「誰か居る……」
アハトの視線の先。闇夜から浮き出るように、黒いスーツの男が現われた。
八重霞 頼蔵(CL2000693)だ。
「失礼……ああ、困ったな。この先の台詞を考えていなかったよ」
非人間的な動きをする覚者二人を前に悠長に振る舞う頼蔵に、アハトは警戒心を限界まで高めている。
一方のクライブは、頼蔵の振る舞いをただ鵜呑みにしたようだ。
「なんだてめえ。邪魔なんだよ。どけよ」
守護使役から槍を取り出し、構えるクライブ。馬上で使うような西洋風の突撃槍だ。それだけで彼の戦い方がなんとなく推察できる。
が、頼蔵は相変わらずの調子で肩をすくめた。
「アンタ、目的は」
アハトの問いかけに、『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)が応えた。
背後から現われるようにだ。
自然と警戒心が増し、アハトはナイフを抜いた。
湾曲した小ぶりなナイフ。スピードタイプか。
世界のあらゆることがそうであるように、敵を知るときは既に戦いが始まっているときだ。
夢見というのは本当に便利なものだと、心の奥で思った。
であると同時に、備えあれば憂いなし。とも。
「『あれ』は、あなたたちには渡しません」
「渡さないで、どうするって?」
「こちらが頂きます」
「はんっ……!」
アハトとクライブは同時に逆方向へと走った。
頼蔵へはアハトが。
クーへはクライブが。
アハトは即座に加速。
頼蔵の首を狙ってナイフを振り込む。
対する頼蔵もまた加速。
ナイフを高速バックスウェーで回避する。
クライブは槍に炎を纏わせてクーへと突撃。そらをプレッシャーアタックで迎え撃つクー。
闇夜のバトルが始まった。
●アーレスの涙
一方その頃。
「電子セキュリティのない美術館って……」
『怪盗ラビットナイト』稲葉 アリス(CL2000100)は白い布を持って壁に張り付いていた。
近くをライトをもった警備員が通り過ぎていく。
はらりと布を下ろし、抜き足差し足で移動する。
大半の美術館が大もうけ出来ていたのはバブル時代までという。
当時無線機器をふんだんに使ったセキュリティを張り巡らせていた施設は日本逢魔化のあおりを受けて大胆なセキュリティ破綻をおこし、コストの捻出に追われたとも。
覚者や妖、ないしは古妖なんでものまで跋扈するようになった以上、人間の目が一番信用できると考える美術館があってもおかしくはないだろう。
アリス、もといラビットナイトにとっては好都合なことなのだが。
「扉のそばには……誰も居ないピョン」
窓に張り付いて内部を伺い、そっと物質透過で侵入。
警報装置が無いことを確認。
慎重に館内を移動していく。
足音を感知。
壁に張り付く。
館内を移動中の警備員が目で立ち止まった。布を広げて壁にまぎれたラビットナイトのほうにライトを向け、数秒。
「気のせいか……」
再びライトを眼前に戻し、歩き始めた。
足音が充分に遠ざかったのを確認して、ラビットナイトは展示室へ。
「これが彫像ピョン……?」
予め渡されていたスケッチを取り出し、翳してみる。
その姿と全く同じ彫像が、むき出しの状態で台座に置かれていた。
重量感知センサーのたぐいがないことをあらかた確認してから、彫像を持ち上げる。
多少重いが、持ち出せないほどじゃない。
誰にでも分かる例えになるか不安ではあるが、美術室に置かれているヘルメスの石膏像が近い。
最短距離を考えるラビットナイト。
本当に最短の最短なら、まっすぐいって物質透過でピョンが最短なのだが、彫像が思ったようにスルッといかなかった場合が心配だ。イケそうな気はするが、アーレス像そのもので試したわけじゃないので確証がない。
「仕方ないぴょん。ステルスしながらじわじわ移動するしかないピョン……」
彫像を抱えたまま歩きだそうとして……遠くから聞こえる足音に警戒してステルスを発動。ピタリと床に伏せる。
じっとしている間、ふとアーレス像の目尻に小さな光を見つけた気がした。
宝石? いや違う。マイクロチップ、でもない。
「もしかしてだけど……二つの像を合わせたら何か分かるピョン?」
一方こちらは雷蔵たち。
「チッ、粘るじゃないか」
「そうかな。こちらは精一杯でね」
アハトの繰り出すナイフをサーベルで受け流していく頼蔵。口ぶりとは裏腹に余裕のある態度だった。
だが、本当に余裕があるかと言われれば嘘になる。
アハトとクライブ。戦闘力もなかなかのものだ。
圧倒するにはもう一人か二人は必要だろう。
とはいえないものはない。
隙あらば頼蔵たちを抜けて美術館へ行こうとするようなそぶりを見せるので、こちらも思うように集中攻撃が狙えないという事情もある。
とはいえこちらも場数を踏んだ覚者たちである。
盗みの専門家にひけはとらない。
クーはトンファーソードを翼のように広げると、アハトめがけてダッシュ。
と同時に頼蔵もアハトの急所に狙いをつけて拳銃を構えた。
「アハト、あぶねえ!」
飛び込むクライブ。
アハトを突き飛ばし、頼蔵の連射とクーのクロスアタックの直撃をうけた。
「い、いてえ……」
槍を取り落としそうになりつつも、果敢に構え直すクライブ。
頼蔵はクーに目配せをした。
「別段、殺し合いのために来ているわけでもないのだよ、こちらは」
「何が言いてえ……」
「逃げたまえ。なんなら最後までしていくかね」
頼蔵はサーベルの先端を指で撫で、口元を歪めて見せた。
「アハト、まだやれる。俺は戦えるぞ」
「馬鹿。退くよ。そんな怪我で盗みが出来るか」
クライブの耳を引っ張って、アハトは頼蔵に振り向いた。
「『覚えてろ』とは言わないよ。あんたたちとは、また会う気がするからね」
頼蔵たちがラビットナイトと合流したのは、それから暫く後のことだった。
●アフロディーテの瞳
エルフィリア・ハイランド(CL2000613)は屋敷の庭に身を潜め、ゆっくりと進んでいた。
普段と異なるレオタードに鳥のような仮面。派手なようで、素顔を相手の印象から打ち消すには丁度いい変装である。
「泥棒仕事だなんて、ファイブの中ではレアケースね。怪盗団『三月兎』のゲストキャラってところで、頑張らせて貰おうかしら……」
胸元からスケッチを取り出す。
「それにしても、アフロディーテね……出会った途端に持ち主が死ぬなんて、皮肉なアイテムもあったものだわ」
●カイトとニーサム
自動車が停まる。
ヘッドライトに照らされた、少女の姿を見て止まる。
『怪盗騎士ガーウェイン』天堂・フィオナ(CL2001421)を見て、止まる。
「誰かな、僕の邪魔をするのは」
車の運転席を下りるカイト。
下りたときには既に銃を抜き、フィオナに向けていた。
それでも微動だにしないフィオナに、ただ者では無い気配を察するカイト。
「何者だい?」
「怪盗団『三月兎』だ。悪い盗みはよくないぞ!」
「怪盗団が盗みを否定するのかい?」
「わ、私たちは善い盗みだから……!」
「なるほど」
朗らかな声がした。
助手席のドアが開き、笑顔の男が下りてくる。
彼がニーサムか、と思うと同時に、フィオナの全身に怖気が走った。
ニーサムは笑顔だった。
「正論だな。だが無意味だ」
満面を通り越した、不自然過ぎるほどの、気持ち悪さや狂気すら感じる笑顔だった。
しかも、仮面もつけない素顔のままだというのに、人相が全く記憶に残らない。
「別に説き伏せて帰らせようってんじゃねえさ」
重々しい斧を肩に担ぎ、蔵王・戒と蒼鋼壁で防御形態を整える『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)。
フィオナの横に立って、ニーサムたちをにらみ付ける。
義高はフィオナに小声で語りかけた。
「奴らは泥棒だ。強行突破をするたあ考えづらい。倒すことは考えなくていい。とにかくエルフィリアが彫像を盗み出すまで粘るんだ。根性でな」
「まかせろ、根性には自信がある」
剣を構え、走り出すフィオナ。
と同時に彼女の身体を青い炎が取り巻き、衣装をきらびやかなものへと変貌させ、剣に光をもたらしていく。
「覚悟しろ、二人とも!」
「覚悟するのは君のほうさ」
カイトは薙ぎ払うように銃を乱射。
半防御形態で突っ込むフィオナと、ニーサムが剣でぶつかり合った。
ニーサムの剣は真っ赤な宝石のような剣だった。だというのに重々しい。
狂気的な笑顔のまま、フィオナを半歩押し込む。
「諦めなさい。抵抗しても死ぬだけだ」
「あ、諦めない……!」
側面をとって殴りかかろうとする義高。
その更に背後をとったカイトが銃を連射してきた。
「うおっ!」
銃装備くせにスピードタイプか。
「やべえな、こいつは防戦一方になるかもしれねえぞ」
不本意かもしれないが、エルフィリアはなかなかに怪盗の素質があった。
地面をはって進み、壁ギリギリのラインを警報装置に気づかれないレベルの位置から飛行によって屋根へと移る。
上空を警戒するカメラも、壁と屋根の表面までは写さない。
屋根をしばらく進んだ所で、館内見取り図を取り出して大体の位置を目測。ゆっくりと身体を沈み込ませるように物質透過していった。
急に天井に現われたりはしない。
屋根裏に一度入り、耳を当てて内部が無人であることを確認してから再び物質透過。飛行しながらなので天井付近で浮遊しつつだ。とはいえあまり翼をばさばさやっていてはなにに引っかかるかわからない、慎重に、最低限の飛行だけでゆっくりと進んでいく。
「アフロディーテの彫像っていうのは……あれね」
真上までやってきて、ゆっくりと降下。ガラスケースを外した――ところで、警報装置が鳴り響いた。
「ま、そうなるわよね!」
エルフィリアは即座に彫像を抱いて飛行。加速。更に加速。
大きな窓ガラスを突き破り、駆けつけた警備員らしき男の制止をふりきって空の彼方へダッシュした。
警報の音は遠くまで響いた。
「どうやらまんまと足止めを食ったというわけか。実に見事だよ、今回は君たちが上手だったようだ」
そう言うカイトだが、ろくな怪我はしていない。
高速移動と回避術で攻撃をかわし続け、時には自己回復までかけるちょっぴり陰険な戦闘術を使うのだ。一番泥棒っぽい戦い方とも言える。
一方のニーサムは容赦のない打撃を入れてきて、フィオナと義高を只管にいたぶった。
集中攻撃で突破するというより、両者にダメージを与えて撤退するよう脅迫するような戦い方である。
これにはさすがのフィオナたちも苦しめられたが……。
「足止めは成功したみたいだ、HAGEBE……」
「み、みたいだな……」
斧を杖代わりに立ち、義高が空を見上げる。
空を、マグライトを持ったエルフィリアが飛んでいく。成功の合図だ。
それを追いかけようと車に走るカイト――の足に、フィオナががしりと組み付いた。
被っていたシルクハットが落ち、長い髪が晒される。
「行かせないぞ! 仲間に手出しはさせない!」
「しつこいな……!」
銃を額につきつけるカイト。
「はなしたまえ!」
「いやだ!」
引き金に指をかけるが、引き切れない。カイトは強く歯噛みした。
「少女の額を撃てないか。紳士的だな」
ニーサムがそう言って、笑顔のまま、カイトの足ごと剣で切断した。
「だがそれも無意味だ」
「うぐ……!?」
目を見開くカイトを車の中に放り込み、自らが運転席に乗り込むニーサム。
だがエルフィリアは既に追いかけられないほどの距離まで逃げていた。
ニーサムは笑顔のまま、フィオナと義高を見た。
「次に会う時は、あなたたちの死ぬときだ。覚えておくといい」
走り去る車のテールライトを、義高は薄れ行く意識のなかで見送った。
●瞳と涙の向き合うとき
スミスの用意したセーフハウスに集まった六人。
クー、頼蔵、フィオナ、アリス、義高、エルフィリア。
彼らは彫像をそれぞれファイブに預け、離れた場所に保管するようにした。
その過程で……。
「おっさん、なんだその機械は」
「3Dスキャナ……の親戚とでも言いましょうか。重要なのは機械ではなく、このデータですよ」
スミスはそう言って頼蔵に目配せをした。
頷く雷蔵。
「アーレスとアフロディーテが特異性を発揮したのは随分昔のことだが、その後持ち主を移るうち、ある人物の手元を行き違うようにして通過している」
「ある人物……とは?」
クーの問いかけに、スミスがほんのりと微笑む。
「まさかっ」
頭にひえぴたをつけたフィオナが起き上がった。
「ええ、私です。この二つを引き合わせれば死んでしまう。なら、引き合わせること自体がセキュリティになりえる……と考えました」
「アーレスの涙。そしてアフロディーテの瞳。それらを向き合わせ、特殊な光を通すと……」
頼蔵がシミュレーションデータをディスプレイに表示する。
「こいつは?」
「地図、ね……」
義高とエルフィリアが画面に顔を近づけた。
断層分けした立体マップだ。
迷宮のように入り組んだ通路。縦に長いエレベーターシャフト。複数の扉に、球形シェルターに似た……。
「金庫だピョン」
アリス、いやラビットナイトが呟いた。
直感ゆえのものだろう。
「つまり、それが次なる標的、ということでしょうか。私たちは大金に興味はありませんが」
「えっでも」
「ありませんよ」
ラビットナイトの二度見を遮るクーである。
「ご安心ください。今回も今までと同じ、人々に危害を加える道具タイプの古妖です」
「ってことは、持ち主が不幸になる宝石とかか? 今度は一体?」
頭をぐっとなで上げる義高。
「持ち主が大金持ちになります」
「――」
目を光らせたラビットナイトを一旦引き下げ、フィオナが身を乗り出した。
「なんだか聞いたことがあるぞ、それって……」
「他者の幸運を吸い取って、持ち主を大金持ちにする古妖です」
「また業の深いアイテムねえ……」
腕組みするエルフィリア。
しかし。
肝心なことがある。
「ところでこれ、どこの金庫なの?」
「それなんですが」
スミスは真顔で言った。
「オーシャンズイレブンはご存じで?」
「カジノか」
闇夜を音も無く駆ける二人の男女。韋駄天足と思しき速さだが、静粛性があまりに高い。
怪盗団XIVのクライブとアハトだ。
たらたらとすすむクライブを、アハトがイライラした様子でせかしているようだ。
「そんなに急ぐことねえだろ。お宝は逃げねえよ」
「それでもプロの泥棒なの?」
「俺は金が貰えればなんでもいいんだよ。お前だってそりゃ同じ――」
急に停止したアハト。
クライブはいぶかしんで彼女の前に出た。
「どうした?」
「誰か居る……」
アハトの視線の先。闇夜から浮き出るように、黒いスーツの男が現われた。
八重霞 頼蔵(CL2000693)だ。
「失礼……ああ、困ったな。この先の台詞を考えていなかったよ」
非人間的な動きをする覚者二人を前に悠長に振る舞う頼蔵に、アハトは警戒心を限界まで高めている。
一方のクライブは、頼蔵の振る舞いをただ鵜呑みにしたようだ。
「なんだてめえ。邪魔なんだよ。どけよ」
守護使役から槍を取り出し、構えるクライブ。馬上で使うような西洋風の突撃槍だ。それだけで彼の戦い方がなんとなく推察できる。
が、頼蔵は相変わらずの調子で肩をすくめた。
「アンタ、目的は」
アハトの問いかけに、『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)が応えた。
背後から現われるようにだ。
自然と警戒心が増し、アハトはナイフを抜いた。
湾曲した小ぶりなナイフ。スピードタイプか。
世界のあらゆることがそうであるように、敵を知るときは既に戦いが始まっているときだ。
夢見というのは本当に便利なものだと、心の奥で思った。
であると同時に、備えあれば憂いなし。とも。
「『あれ』は、あなたたちには渡しません」
「渡さないで、どうするって?」
「こちらが頂きます」
「はんっ……!」
アハトとクライブは同時に逆方向へと走った。
頼蔵へはアハトが。
クーへはクライブが。
アハトは即座に加速。
頼蔵の首を狙ってナイフを振り込む。
対する頼蔵もまた加速。
ナイフを高速バックスウェーで回避する。
クライブは槍に炎を纏わせてクーへと突撃。そらをプレッシャーアタックで迎え撃つクー。
闇夜のバトルが始まった。
●アーレスの涙
一方その頃。
「電子セキュリティのない美術館って……」
『怪盗ラビットナイト』稲葉 アリス(CL2000100)は白い布を持って壁に張り付いていた。
近くをライトをもった警備員が通り過ぎていく。
はらりと布を下ろし、抜き足差し足で移動する。
大半の美術館が大もうけ出来ていたのはバブル時代までという。
当時無線機器をふんだんに使ったセキュリティを張り巡らせていた施設は日本逢魔化のあおりを受けて大胆なセキュリティ破綻をおこし、コストの捻出に追われたとも。
覚者や妖、ないしは古妖なんでものまで跋扈するようになった以上、人間の目が一番信用できると考える美術館があってもおかしくはないだろう。
アリス、もといラビットナイトにとっては好都合なことなのだが。
「扉のそばには……誰も居ないピョン」
窓に張り付いて内部を伺い、そっと物質透過で侵入。
警報装置が無いことを確認。
慎重に館内を移動していく。
足音を感知。
壁に張り付く。
館内を移動中の警備員が目で立ち止まった。布を広げて壁にまぎれたラビットナイトのほうにライトを向け、数秒。
「気のせいか……」
再びライトを眼前に戻し、歩き始めた。
足音が充分に遠ざかったのを確認して、ラビットナイトは展示室へ。
「これが彫像ピョン……?」
予め渡されていたスケッチを取り出し、翳してみる。
その姿と全く同じ彫像が、むき出しの状態で台座に置かれていた。
重量感知センサーのたぐいがないことをあらかた確認してから、彫像を持ち上げる。
多少重いが、持ち出せないほどじゃない。
誰にでも分かる例えになるか不安ではあるが、美術室に置かれているヘルメスの石膏像が近い。
最短距離を考えるラビットナイト。
本当に最短の最短なら、まっすぐいって物質透過でピョンが最短なのだが、彫像が思ったようにスルッといかなかった場合が心配だ。イケそうな気はするが、アーレス像そのもので試したわけじゃないので確証がない。
「仕方ないぴょん。ステルスしながらじわじわ移動するしかないピョン……」
彫像を抱えたまま歩きだそうとして……遠くから聞こえる足音に警戒してステルスを発動。ピタリと床に伏せる。
じっとしている間、ふとアーレス像の目尻に小さな光を見つけた気がした。
宝石? いや違う。マイクロチップ、でもない。
「もしかしてだけど……二つの像を合わせたら何か分かるピョン?」
一方こちらは雷蔵たち。
「チッ、粘るじゃないか」
「そうかな。こちらは精一杯でね」
アハトの繰り出すナイフをサーベルで受け流していく頼蔵。口ぶりとは裏腹に余裕のある態度だった。
だが、本当に余裕があるかと言われれば嘘になる。
アハトとクライブ。戦闘力もなかなかのものだ。
圧倒するにはもう一人か二人は必要だろう。
とはいえないものはない。
隙あらば頼蔵たちを抜けて美術館へ行こうとするようなそぶりを見せるので、こちらも思うように集中攻撃が狙えないという事情もある。
とはいえこちらも場数を踏んだ覚者たちである。
盗みの専門家にひけはとらない。
クーはトンファーソードを翼のように広げると、アハトめがけてダッシュ。
と同時に頼蔵もアハトの急所に狙いをつけて拳銃を構えた。
「アハト、あぶねえ!」
飛び込むクライブ。
アハトを突き飛ばし、頼蔵の連射とクーのクロスアタックの直撃をうけた。
「い、いてえ……」
槍を取り落としそうになりつつも、果敢に構え直すクライブ。
頼蔵はクーに目配せをした。
「別段、殺し合いのために来ているわけでもないのだよ、こちらは」
「何が言いてえ……」
「逃げたまえ。なんなら最後までしていくかね」
頼蔵はサーベルの先端を指で撫で、口元を歪めて見せた。
「アハト、まだやれる。俺は戦えるぞ」
「馬鹿。退くよ。そんな怪我で盗みが出来るか」
クライブの耳を引っ張って、アハトは頼蔵に振り向いた。
「『覚えてろ』とは言わないよ。あんたたちとは、また会う気がするからね」
頼蔵たちがラビットナイトと合流したのは、それから暫く後のことだった。
●アフロディーテの瞳
エルフィリア・ハイランド(CL2000613)は屋敷の庭に身を潜め、ゆっくりと進んでいた。
普段と異なるレオタードに鳥のような仮面。派手なようで、素顔を相手の印象から打ち消すには丁度いい変装である。
「泥棒仕事だなんて、ファイブの中ではレアケースね。怪盗団『三月兎』のゲストキャラってところで、頑張らせて貰おうかしら……」
胸元からスケッチを取り出す。
「それにしても、アフロディーテね……出会った途端に持ち主が死ぬなんて、皮肉なアイテムもあったものだわ」
●カイトとニーサム
自動車が停まる。
ヘッドライトに照らされた、少女の姿を見て止まる。
『怪盗騎士ガーウェイン』天堂・フィオナ(CL2001421)を見て、止まる。
「誰かな、僕の邪魔をするのは」
車の運転席を下りるカイト。
下りたときには既に銃を抜き、フィオナに向けていた。
それでも微動だにしないフィオナに、ただ者では無い気配を察するカイト。
「何者だい?」
「怪盗団『三月兎』だ。悪い盗みはよくないぞ!」
「怪盗団が盗みを否定するのかい?」
「わ、私たちは善い盗みだから……!」
「なるほど」
朗らかな声がした。
助手席のドアが開き、笑顔の男が下りてくる。
彼がニーサムか、と思うと同時に、フィオナの全身に怖気が走った。
ニーサムは笑顔だった。
「正論だな。だが無意味だ」
満面を通り越した、不自然過ぎるほどの、気持ち悪さや狂気すら感じる笑顔だった。
しかも、仮面もつけない素顔のままだというのに、人相が全く記憶に残らない。
「別に説き伏せて帰らせようってんじゃねえさ」
重々しい斧を肩に担ぎ、蔵王・戒と蒼鋼壁で防御形態を整える『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)。
フィオナの横に立って、ニーサムたちをにらみ付ける。
義高はフィオナに小声で語りかけた。
「奴らは泥棒だ。強行突破をするたあ考えづらい。倒すことは考えなくていい。とにかくエルフィリアが彫像を盗み出すまで粘るんだ。根性でな」
「まかせろ、根性には自信がある」
剣を構え、走り出すフィオナ。
と同時に彼女の身体を青い炎が取り巻き、衣装をきらびやかなものへと変貌させ、剣に光をもたらしていく。
「覚悟しろ、二人とも!」
「覚悟するのは君のほうさ」
カイトは薙ぎ払うように銃を乱射。
半防御形態で突っ込むフィオナと、ニーサムが剣でぶつかり合った。
ニーサムの剣は真っ赤な宝石のような剣だった。だというのに重々しい。
狂気的な笑顔のまま、フィオナを半歩押し込む。
「諦めなさい。抵抗しても死ぬだけだ」
「あ、諦めない……!」
側面をとって殴りかかろうとする義高。
その更に背後をとったカイトが銃を連射してきた。
「うおっ!」
銃装備くせにスピードタイプか。
「やべえな、こいつは防戦一方になるかもしれねえぞ」
不本意かもしれないが、エルフィリアはなかなかに怪盗の素質があった。
地面をはって進み、壁ギリギリのラインを警報装置に気づかれないレベルの位置から飛行によって屋根へと移る。
上空を警戒するカメラも、壁と屋根の表面までは写さない。
屋根をしばらく進んだ所で、館内見取り図を取り出して大体の位置を目測。ゆっくりと身体を沈み込ませるように物質透過していった。
急に天井に現われたりはしない。
屋根裏に一度入り、耳を当てて内部が無人であることを確認してから再び物質透過。飛行しながらなので天井付近で浮遊しつつだ。とはいえあまり翼をばさばさやっていてはなにに引っかかるかわからない、慎重に、最低限の飛行だけでゆっくりと進んでいく。
「アフロディーテの彫像っていうのは……あれね」
真上までやってきて、ゆっくりと降下。ガラスケースを外した――ところで、警報装置が鳴り響いた。
「ま、そうなるわよね!」
エルフィリアは即座に彫像を抱いて飛行。加速。更に加速。
大きな窓ガラスを突き破り、駆けつけた警備員らしき男の制止をふりきって空の彼方へダッシュした。
警報の音は遠くまで響いた。
「どうやらまんまと足止めを食ったというわけか。実に見事だよ、今回は君たちが上手だったようだ」
そう言うカイトだが、ろくな怪我はしていない。
高速移動と回避術で攻撃をかわし続け、時には自己回復までかけるちょっぴり陰険な戦闘術を使うのだ。一番泥棒っぽい戦い方とも言える。
一方のニーサムは容赦のない打撃を入れてきて、フィオナと義高を只管にいたぶった。
集中攻撃で突破するというより、両者にダメージを与えて撤退するよう脅迫するような戦い方である。
これにはさすがのフィオナたちも苦しめられたが……。
「足止めは成功したみたいだ、HAGEBE……」
「み、みたいだな……」
斧を杖代わりに立ち、義高が空を見上げる。
空を、マグライトを持ったエルフィリアが飛んでいく。成功の合図だ。
それを追いかけようと車に走るカイト――の足に、フィオナががしりと組み付いた。
被っていたシルクハットが落ち、長い髪が晒される。
「行かせないぞ! 仲間に手出しはさせない!」
「しつこいな……!」
銃を額につきつけるカイト。
「はなしたまえ!」
「いやだ!」
引き金に指をかけるが、引き切れない。カイトは強く歯噛みした。
「少女の額を撃てないか。紳士的だな」
ニーサムがそう言って、笑顔のまま、カイトの足ごと剣で切断した。
「だがそれも無意味だ」
「うぐ……!?」
目を見開くカイトを車の中に放り込み、自らが運転席に乗り込むニーサム。
だがエルフィリアは既に追いかけられないほどの距離まで逃げていた。
ニーサムは笑顔のまま、フィオナと義高を見た。
「次に会う時は、あなたたちの死ぬときだ。覚えておくといい」
走り去る車のテールライトを、義高は薄れ行く意識のなかで見送った。
●瞳と涙の向き合うとき
スミスの用意したセーフハウスに集まった六人。
クー、頼蔵、フィオナ、アリス、義高、エルフィリア。
彼らは彫像をそれぞれファイブに預け、離れた場所に保管するようにした。
その過程で……。
「おっさん、なんだその機械は」
「3Dスキャナ……の親戚とでも言いましょうか。重要なのは機械ではなく、このデータですよ」
スミスはそう言って頼蔵に目配せをした。
頷く雷蔵。
「アーレスとアフロディーテが特異性を発揮したのは随分昔のことだが、その後持ち主を移るうち、ある人物の手元を行き違うようにして通過している」
「ある人物……とは?」
クーの問いかけに、スミスがほんのりと微笑む。
「まさかっ」
頭にひえぴたをつけたフィオナが起き上がった。
「ええ、私です。この二つを引き合わせれば死んでしまう。なら、引き合わせること自体がセキュリティになりえる……と考えました」
「アーレスの涙。そしてアフロディーテの瞳。それらを向き合わせ、特殊な光を通すと……」
頼蔵がシミュレーションデータをディスプレイに表示する。
「こいつは?」
「地図、ね……」
義高とエルフィリアが画面に顔を近づけた。
断層分けした立体マップだ。
迷宮のように入り組んだ通路。縦に長いエレベーターシャフト。複数の扉に、球形シェルターに似た……。
「金庫だピョン」
アリス、いやラビットナイトが呟いた。
直感ゆえのものだろう。
「つまり、それが次なる標的、ということでしょうか。私たちは大金に興味はありませんが」
「えっでも」
「ありませんよ」
ラビットナイトの二度見を遮るクーである。
「ご安心ください。今回も今までと同じ、人々に危害を加える道具タイプの古妖です」
「ってことは、持ち主が不幸になる宝石とかか? 今度は一体?」
頭をぐっとなで上げる義高。
「持ち主が大金持ちになります」
「――」
目を光らせたラビットナイトを一旦引き下げ、フィオナが身を乗り出した。
「なんだか聞いたことがあるぞ、それって……」
「他者の幸運を吸い取って、持ち主を大金持ちにする古妖です」
「また業の深いアイテムねえ……」
腕組みするエルフィリア。
しかし。
肝心なことがある。
「ところでこれ、どこの金庫なの?」
「それなんですが」
スミスは真顔で言った。
「オーシャンズイレブンはご存じで?」
「カジノか」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
