一目蓮の探し物。或いは、大自然テーマパーク。
一目蓮の探し物。或いは、大自然テーマパーク。


●竜巻警報発令中
ぐるぐると……。
 砂を巻き上げ、風が渦巻く。
 あ、っと言う間に発生した竜巻は、その大きさこそ人間よりも少し大きいか、という程度のものだった。
 渦巻く風の中央に、良く良く見れば人のそれに似た眼球が確認できるだろう。
 ぎょろり、と。
 前後左右を眼球が眺めまわし、竜巻は消えた。
 一迅の風を残して、眼球も消え去る。
 どうやらその眼球、竜巻が発生している最中にしか肉眼では確認できないようだ。
 かと思えば、数十メートルほど離れた位置に、再び発生した竜巻は、今度は水を巻き上げた。
 消えて、そしてまた現れる。その度に眼球は何かを探すように、ぎょろぎょろと視線を彷徨わせているのだった……。

 竜巻が発生しているのは、とあるテーマパークの園内だ。
 半径1,5キロほどのほぼ円形をしたテーマパークで、大自然をテーマに作られたものである。
 例えば、砂漠エリアや密林エリア、荒野に海、渓谷と実に5つのエリアに分かれている。各エリアには、そのエリアにふさわしい動物も飼育されているし、ジェットコースターや観覧車などのアトラクションも無数に設置されている。
 特に、園内を回遊しているオープントップバスなど、移動手段としてもアトラクションとしても人気が高い。
 そんな場に現れた、不気味な竜巻の存在に、テーマパークのスタッフは頭を抱えていた。
 人の手に負えるものではない。
 かといって、このまま放置していては、開園も見合わせる必要があるだろう。
 あと一時間後に控えた開園までに、問題を解決してしまいたいのだ。

●一目蓮の探し物
「やっほー♪ 皆集まってる? 集まってるね? じゃあ、作戦会議を始めるよ!」
 そう言って、心なしか浮かれた様子の久方 万里(nCL2000005)が、モニターにテーマパークの映像を映した。
 営業中の光景なのだろう。行き交う人々の楽しそうな笑顔が印象的で、観ていて微笑ましくなる光景だった。
 砂漠エリアや密林エリア、荒野に海、渓谷と順番に各エリアの映像を映し、最後に入口周辺の都市エリアへとカメラは移動する。お土産コーナーなどのあるエリアのようだ。
「制限時間は一時間ほどだね。それまでになんとかしないと、園内に人が入ってきてしまうから。園内は広いけど、今回のターゲットの移動速度は遅いから一度でも補足してしまえば、見失うことはないんじゃないかな?」
 オープントップバスとかも借りれるみたいだし、と万里ははしゃいだ様子でそう告げた。
 園のスタッフとは話がついているのか、開園までの一時間ほど園内には誰も立ち入らないようになっている上、園内を回遊している二台のバスも借り受けることができる。
「今回のターゲットは古妖(一目蓮)。竜巻を巻き起こす古妖みたいね。探し物をしているみたいだけど、その辺りは後ほど。まずはターゲットの特徴から」
 モニターの映像が切り替わる。
 密林エリアに発生した際の姿だろうか。土や木の枝を巻き上げる竜巻の中央に、拳ほどの大きさをした眼球が確認できる。
「どうやら、発生した際に周囲のものを巻き込む性質があるみたい。特殊攻撃なんかは、要注意だね。こちらの使った技の効果を、そのまま自身に反映してしまうから。反面物理攻撃に対しては、竜巻で迎撃するくらいのことしかできないみたい。手足もないから、防御も出来ないだろうね」
 例えば、こちらが炎を巻き起こせば、それを吸いこみ炎の竜巻へと姿を変えるだろう。
 こちらが毒を散布すれば、毒を巻き込み、毒の竜巻へ。
 光線を放てば、竜巻の中に光線を取り込む。
 竜巻が発生している時にしか、姿を確認できないという性質上、こちらは相手が竜巻を纏っている状態でしか戦闘へと移れないのが、厄介な点だ。
「それと、たぶん彼が探しているのはこれね」
 万里がモニターに映したのは、小さな木彫りの像だった。一つ目の鬼のように見える。
「御神体か何かなのかな? どういう経緯か分からないけど、これが園内のどこかにあるみたい。一目蓮はこれを探しているんじゃないかな?」
 一目蓮は(ノックB)(減速)などの状態異常を付与してくる。
「それじゃあ、状態異常に気をつけて、一時間以内に一目蓮を園内から退散させてね♪」
 行ってらっしゃい。
 と、そう言って、万里は仲間達を送り出すのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:病み月
■成功条件
1.時間内に一目蓮を退散させること
2.なし
3.なし
こんにちは、病み月です。
今回の依頼は、テーマパークから古妖を退散させる、というものです。
特殊攻撃を吸収する性質があるので、ご注意ください。
では、以下詳細。

●場所
半径1,5キロほどのテーマパーク。
砂漠エリアや密林エリア、荒野に海、渓谷と5つのエリアに分かれている。
また入口付近は都市エリアとしてお土産コーナーなどの建物が立ち並んでいる。
園内の通りは広く、見通しは良い。
また、オープントップバスを二台まで借りることができる。
園内のどこかに御神体が放置されているようだ。

●ターゲット
古妖(一目蓮)×1
竜巻の中心に眼球が浮いている、という奇妙な姿をしている。
竜巻発生中でしか、眼球を視認することは出来ない。また、竜巻は発生と同時に周囲のものを吸い込む性質がある。水辺で発生すれば水の竜巻と化す。
移動速度は遅い。
特殊攻撃を吸収し、吸収した効果を自身の攻撃に付与する。吸収の際にダメージを受けないわけではないようだ。
御神体を探している。
また、竜巻は時間経過と共にサイズが大きくなり、攻撃力が増加する。一度消えれば、サイズは元に戻る。

【暴風域】→特遠列(減速)
風圧による攻撃。対象の周囲に風の層を作り、速度を低下させる。
【一目蓮流下降気流】→特近列(ノックB)(???)
竜巻で対象を弾き飛ばす。加えて、吸収している特殊攻撃の効果を付与する。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年10月08日

■メイン参加者 8人■

『ちみっこ』
皐月 奈南(CL2001483)
『ストレートダッシュ』
斎 義弘(CL2001487)
『清純派の可能性を秘めしもの』
神々楽 黄泉(CL2001332)
『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)

●探し物
「……成人していて車動かせそうなのは俺だけか?」
 派手な彩色を施されたバスを前に斎 義弘(CL2001487)はそう呟いた。
 空は快晴。遠くからは車の行き交う音と、人々の楽しげなざわめきが聞こえてくる。ここは大自然をテーマとした遊園地。開園までは一時間を切っているというのに、園内には古妖が1体、紛れこんでいる。
「先に御神体を捜索、一目蓮をそこへ誘導、って作戦でいいんだっけ?」
 バスに乗り込みながら『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)はそう問うた。
「たつまきちゃんは、ごしんたいを探しているのかなぁ? たつまきちゃんの大事な物だとしたら風で飛ばされちゃったのか、キラキラしている物だったら泥棒とかカラスに持っていかれちゃったのかも!」
「どうしてテーマパークに御神体が落ちているのかは……、悪いことじゃないといいですけど」
 義弘の運転するバスに乗った飛馬、『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)、大辻・想良(CL2001476)は口ぐちに言葉を発し、今回のターゲットとその目的について憶測を交わす。
 テーマパークへ乗り込んだメンバーは全部で8人。うち3名は、既に自分の足で各々短刀フロアへと移動している。
 走り出したバスを『愛求独眼鬼/パンツハンター』瀬織津・鈴鹿(CL2001285)が手を振りながら見送っている。
 彼女の担当は、園の入口付近にある都市エリア、土産コーナーだ。
「御神体は木彫りらしいからうっかりお土産の木彫りの中に混じってる可能性は無きにしも非ずなの。超直観全開で隅から隅まで探すの」
 バスが見えなくなると、鈴鹿はくるりと踵を返し、目を閉じる。
 超直感を駆使し、古妖(一目蓮)の探し物を見つけるために。

●捜索と遭遇
 ざばり、と水飛沫を上げ『アンシーリーコートスレイヤー』神々楽 黄泉(CL2001332)が海から飛び出した。
 濡れた髪を掻き上げ、首を傾げて空を見上げる。
 黄泉の傍らには、彼女の守護使役である(ぜろ)が泳いでいた。
「ん、あの妖、御神体探してるの? ……解った。探してるなら、見つけて返す」 
 見上げた空に、ほんの一瞬、妖しげな竜巻が見えた気がした。
 ゆっくりと、歩くように自然な動作で黄泉は再び水中へと潜って行った。
 まるで水の抵抗など、ちっとも存在しないかのように。

 テーマパークは、砂漠、密林、荒野、海、渓谷、そして都市と複数のエリアに分かれている。海エリアと密林エリアを繋ぐ通りを『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)とアネモネ・モンクスフード(CL2001508)が歩いていた。
「渚殿よろしくであります!」
「はい、よろしくね。怪我は私に任せてね。しっかり治療するからね」
 腕章を引っ張りながら、渚は答える。
 急ぎ足で通りを進みながら、二人は周囲の観察を続けていた。
 園内の何処かを彷徨う一目蓮を発見し、監視する為だ。
「おや……、あれは?」
 超視力を駆使し、遠方を眺めていたアネモネが、何かを見つけ声を上げる。アネモネの指さす方角を渚が見やる。
 びゅお、と。
 一陣の風が吹き抜けたと同時、二人の視線の先には大きさ2メートルほどの竜巻が発生していた。竜巻の中央に、人の眼球のようなものが確認できる。
「一目蓮だね。追いかけよう」
 ゆっくりと、密林エリアへと進む一目蓮の後を追い、二人は並んで駆け出した。

 守護使役と共に、木々の間を駆け抜け、枝の上へと跳び乗りながら奈南は一目蓮の御神体を探していた。
 鷹の目を駆使しつつ、捜索を続ける奈南の背後で、バキバキと樹の枝が折れる音が響いた。
「ジャングル♪ ジャングル〜♪ …………んん?」
 訝しげな表情を浮かべ、奈南が背後を振り返る。枝の折れる音が次第に大きくなってくる。
 木々をなぎ倒し、草を巻き上げ姿を現したのは暴風を撒き散らす竜巻……一目蓮であった。奈南は、ホッケースティックを構えると、地上へ降りて迎撃体勢を整える。
 そんな奈南の視線の先に、こちらへ駆けて来る渚とアネモネの姿があった。
 挨拶しようと、奈南が右手を上げたその時。
 まっすぐに立っていられないほどの強風が、渚とアネモネに向けて叩きつけられた。

「あぶないっ!」
 咄嗟に飛び出した渚が、強風からアネモネを庇う。叩きつけられた風圧のせいで、自分の身体が酷く重たい。
「渚殿っ! ええい、いざ、今はただの修道騎士……アネモネ・モンクスフード、参る!」
「ちょっ! 監視しないと!」
 攻撃を仕掛けて来た一目蓮に対し、槍を構え挑みかかろうとしたアネモネを、渚は慌てて押しとどめた。
 渚と一目蓮を交互に見やり、アネモネは悔しげに槍を納め、木々の影へと身を隠した。
 渚と奈南は、大きく背後へと跳び退ると、一目蓮の射程圏内から外へと避難し、各々の武器を手にとった。一目蓮の動向を監視する為だ。
 一目蓮の注意を引き付けるため、渚はその視界に姿を晒す。木々の影に身を隠したアネモネは、物影から一目蓮の動きを見やる。
 奈南は、御神体の捜索を続けるためにじりじりと後退。
 一目蓮は、暴風の壁を自身の前に作ったまま、その場に留まり動かない。

「ううん? やっぱりこの辺りにはないみたいなの。早く御神体を見つけてあげないと。古妖さんとは仲良くしたいの……だから穏便に済ませるの」 
 鈴鹿は土産物店から外に出ると、空を見上げて大きく深呼吸を繰り返す。土産物の御菓子の香りだろうか。甘い臭いの混じった空気を肺一杯に吸い込んで、通りを荒野エリアへ向けて歩き始めた。
「見つからなかったから、義弘のおじさんと一緒に荒野エリアを探すの」
 義弘の居る荒野エリアへ向けて、鈴鹿はゆっくりと歩いていく。

 翼を広げ、一面に広がる砂漠の上を、想良が飛ぶ。額にはうっすらと汗が滲んでいた。
 砂の上には、ミミズの張ったような跡が残されている。一目蓮が通った痕跡だ。
「既に古妖が通過済みということは、やっぱりここには御神体はないのでしょうか?」
 別の場所を探すべきか、或いは砂の中や岩影を集中して捜索すべきか思案しながら、想良はくるりと空中でその身を一回転。
 大きく上空へと飛び上がった想良の視界に、通りを歩く鈴鹿の姿が映った。

 渓谷エリアを担当している飛馬は、御神体の捜索に難儀していた。突き出した岩に、流れの速い川、深い渓谷と、その間を渡す吊り橋と、足場は少なく視界は悪い。物を探すには不向きに過ぎる過酷な環境だ。
 事実、このエリアの目玉となるアトラクションは渓流下りである。
「これだけ広けりゃ一目蓮もそりゃー見付けるのに苦労するわな。俺らも分担してやっと全体に手が回るってくらいだし」
 祠や祭壇のようなものがあったりはしないか、と、岩の影や川の畔に目を凝らすが、今の所それらしいものは見つからない。
「しかし、この渓谷……これ絶対、人の手で作ったものじゃないだろう」
 自然を利用したものか、それとも人が作ったものか、渓谷エリアの成り立ちに関しては想像に任せるしかないが、雄大な自然を再現できていることは間違いない。
 水飛沫に濡れた岩場を、這うようにして進んでいると自分がまるで修行者にでもなった気分になる。
「さて……」
 水飛沫を浴びながら、飛馬は捜索を再開した。

「っと、そろそろ時間か。しかし荒野の探索も十分ではないし、手隙の仲間がいれば手伝ってもらうか」
 バスの運転席に乗り込んだ義弘は、荒野を見渡し溜め息を零した。岩や地面の亀裂が多く、御神体の捜索に難儀しているのだ。
 とはいえ、このまま他の仲間を放置して探索を続けるわけにはいかない。
 バスを発進させ、仲間達の元へと向かう。
 道中、渓谷から這い上がって来た飛馬と、汗を滴らせ疲れた顔をしている想良、道を荒野へ向けて歩んでいた鈴鹿を拾い上げた。
「じーちゃんに聞いたことあるぜ。一目蓮ってのは天目一箇っつー片目の龍神のことなんだってな。龍神っていえば水の神。水周りは要注意だと思ったんだけどな」
「もうじき、制限時間ですね。気にしておかないと」
 捜索結果を報告し合う飛馬と想良。義弘も含め、今のところそれらしい物の手掛かりはない。
「義弘おじさんには運転になるべく集中してほしいの。だから捜索は私が頑張るの!」 
 バスの窓から外を覗いて、鈴鹿は超直感をフルに使って、御神体の気配を探っている。
 4人の乗ったバスは、仲間達のもとへと走って行く。

 海の底は、暗く、そして静かだった。
 静寂と、薄暗闇の中、黄泉は海中を散歩するように歩いていく。
 そんな彼女の視界の端で、何かがきらりと光った気がした。
「……?」
 首を傾げ、黄泉は光の元へと歩いていく。
「……これ」
 半ばほど砂に埋もれたそれは、片手で掴める程度の大きさの鬼の像だった。一つ目の鬼だ。目の部分に、小さいが、水のように透き通った宝石が埋め込まれている。
 恐らくこれが、一目蓮の探し物である御神体だろう。やった、と小さく拳を握って黄泉は海上へと上がる。
 いつの間にか、海面には大量の樹の枝や木の葉が浮かんでいた。
 暫し、突如現れた木の枝や木の葉を眺め思案した結果、黄泉は答えに辿り着く。
「一目蓮が、暴れてる?」
 だとすると、戦場は密林エリアだろうか。海中で発見した御神体を握りしめ、黄泉はまっすぐ、密林エリアへ向けて駆け出した。 

 十メートル近い巨大な竜巻。その中心には、拳大の眼球が浮かんでいる。周囲の木や土を吸い上げ、黒い竜巻と化している。
「んんっ!  レッツゴー!!」
 ホッケースティックを振り上げ、奈南が跳んだ。木の上から、眼下の竜巻へ向けて、力任せに重力を乗せた一撃を叩きつける。
 けれど、高速で渦を巻く風と、多分に含まれた木や土に遮られ威力は半減。逆に、奈南の身体が地面へと叩きつけられた。
 奈南と入れ替わるように渚が駆ける。
 メタルケースによる、打ちあげるような一撃は、しかし僅かに竜巻の移動を妨害するに留まった。
 後退した渚は、地面に倒れ伏す奈南へと治療を施す。淡い燐光が周囲に跳び散り、奈南と渚の傷を癒す。
 戦闘を続け、巨大になった一目蓮の相手は骨が折れる。
「とりあえず、治療は任せてね!」
 渚の頬を冷や汗が伝う。回復術のおかげで、戦闘不能になるような大怪我こそ免れているが、抑えきれなくなるのも時間の問題だ。さて、どうしたものか……と、そう考えたその時だ。
 ピクリ、と。
 竜巻の動きが、不自然に一瞬停止した。
 その次の瞬間、まるで空気に溶けるようにして竜巻は何処かへ消え去った。竜巻が消えると共に、一目蓮の本体である眼球も見えなくなる。
「どこへ……?」
 そう呟いたのは、渚であった。
『竜巻が、密林エリアの外にっ! 黄泉殿もいます!』
 奈南と渚、二人の脳裏にアネモネの声が響く。送受心・改による遠距離からの通信だ。
 顔を見合わせ、頷き合って、二人は通りへ
向けて走り出した。

 壁際の通りを歩いていた黄泉は、突風に煽られ足を止めた。壁の向こうには、テーマパークの開園を待つ、多くの人の気配がある。壁には工事中の看板とブルーシートがかけられている。
 しまった、と黄泉は僅かに頬を引きつらせる。
「あ、一目蓮……。探しているのは、これ?」
 数メートルの距離を空け、黄泉の眼前に一目蓮が姿を現す。恐らく、黄泉の手にする御神体の気配を察知し、こちらへやって来たのだろう。
 御神体を差し出した黄泉は、しかし、次の瞬間、強烈な風に煽られ背後の壁へ叩きつけられた。その拍子に、壁の上部から瓦礫や鉄パイプが降って来た。
 その拍子に、黄泉の手を離れた御神体は、風に飛ばされ壁の上部へ引っかかる。
 地面に蹲る黄泉が顔をあげると、そこには壁へ向かって移動を開始した一目蓮の姿があった。
 工事中の壁に一目蓮が接触してしまえば、壁は倒壊しかねない。そうなれば、外に居る一般人にも被害が及ぶ可能性がある。
「これはいけないっ!  修道騎士として無辜の民を護る為に粉骨砕身奉仕していく所存であります!」
 密林から飛び出して来たのアネモネは、一目蓮の眼前に回り込むと素早く槍を振るい、その進行を制止する。アネモネの身体は、火炎に包まれていた。
 アネモネの振るった槍が、竜巻の一部を切り裂いた。
「んっ……」
立ち上がった黄泉が、半月斧を薙ぎ払い、竜巻内部の眼球へと斬撃を加える。風圧のせいか、身体が重たい。身体中に、鉛でも流しこまれたかのように感じる。
黄泉の放った鈍い動作での一撃を、一目蓮は僅かに後退することで回避。
 それならば、と体勢を立て直したアネモネと黄泉は、交互に槍と斧を振るい、竜巻をこれ以上先へ進ませないよう、牽制を続ける。一進一退の攻防。
 だが、どちらかと言えば一目蓮が優勢か。
 と、その時だ。
「助っ人参上!」
「一目蓮さん、こっちだよ!
 そこへ現れたのは、密林エリアから抜けて来た奈南と渚だった。渚の振るったメタルケースが、一目蓮の竜巻へと叩きつけられる。
 その隙に、奈南はまっすぐ壁へ向かって走り去って行った。工事用の足場を頼りに、壁の上部へと駆け上がる。
 御神体を回収する為だ。
 渚の術で傷を癒したアネモネと黄泉は、武器を振り上げ、一目蓮へと挑みかかる。
 少しでも長く、一目蓮の進行を妨害し、一般人の安全を確保するために。

●怒りを鎮めて
 怒っているな……と、鈴鹿は想う。
 それは、彼女の超直感によるものか。とにかく危険だ、と義弘に指示を出しバスを向かわせた先は密林エリア付近の、通りであった。
 工事中の看板をバスの車体で弾き飛ばし、向かった先で目にしたものは、たった今、風に煽られ地面を転がるアネモネと黄泉の姿であった。
 回復に従事していた渚は、壁際に座り込んで肩を激しく上下させている。
 そして、壁の上部には御神体を手にした奈南の姿。
 一目蓮は、奈南へ向かって移動を開始する。高さは5メートルを超え、風の勢いも増している。瓦礫程度ならば、難なく吹き上げられるだろう。
 その状態で、壁に触れれば、工事中のそれは間違いなく倒壊する。
「このモンドロコが目に入らぬかぁ! ……って、こっち来ちゃ駄目だよぉ!」
 奈南は跳んだ。
 少しでも、壁から一目蓮を遠ざけるためだ。
 だが、間に合わない。突風に煽られ、思ったほど遠くへ身体が跳ばない。
 一目蓮が迫る。
 壁まで、ほんの数メートル。奈南の身体が、壁に叩きつけられた。息が詰まる。一瞬、目の前が真白く染まった。思わず、御神体を手放してしまった。落下する御神体。
 自分の身体も、瓦礫や鉄パイプと共に地面に落ちる。
 衝撃を覚悟した、その瞬間。
「よぉし! あとは任せとけっ」
 ぎゃりぎゃりと、路面を削りながら突進して来た大型バスが、壁と一目蓮の間へ割り込んだ。
 落下する奈南の身体を、バスから飛び出した想良が受け止める。
「この古妖って話通じるんでしょうか?」
 想良が翼を打つと、周囲に淡い燐光が舞う。それを浴びると、先ほどまで感じていた身体の重さが、不思議と消えて行くのが分かる。
 状態異常が回復し、本来の速度を取り戻した飛馬が、バスから跳びおり御神体を拾い上げる。
 そのまま、転がるようにして壁際から離れ、密林エリアへと駆け出した。
「このまま、なんとか、平穏無事に終わらせられればいいんだがな……」
 メイス片手にバスから降りて、義弘はそう呟いた。

「怒ってるのか……、話聞いてくれそうにないな!」
 刀を構え、防御に徹する飛馬の額から血が滴る。竜巻の中巻き込まれた木端や瓦礫は、刀では全て裁き切れない。
 御神体を差し出しても、風に弾かれ吹き飛ばされる。怒りに我を忘れ、風量調節さえできなくなっているのだ。
 木々の間を縫うように駆けながら、飛馬は御神体を手に逃げ回る。御神体を返したいのに、返せない。
 どうすればいい? と、飛馬の頬を血混じりの汗が伝う。
「こっちだ!」
 声が響いた。視界の先、木々の間を抜けた先に、メイスを振りかぶった義弘が居る。飛馬は、減速状態に陥り重たくなった身体で、義弘の元へと逃げる。
 滑るように、地面へ倒れ込んだ。
「おら、止まれ!」
 炎によって強化された、義弘渾身の一撃が、ほんの一瞬、一目蓮の纏っていた竜巻を消し飛ばす。
 その瞬間。
 木の上から、一目蓮本体目がけ、飛びおりる影が一つ。
「汝、荒れ狂う者よ。この双刀の一撃で持って静まれ!」
 一閃、二閃、と刃が煌めく。
 鈴鹿による連撃が、一目蓮の本体へと叩き込まれた。刃を背にした、所謂峰打ちというやつだ。
 地面に叩きつけられた一目蓮は、そのままころころと転がり、動きを止める。
 風は止み、そこには力なく転がる大きな眼球だけが残った。

 目を覚ました一目蓮は、飛馬の手渡した御神体を受け取ると、そのまま風と共に去って行った。
 事件は無事に解決したことをテーマパークの係員に伝え終えた義弘は、やれやれと溜め息を零し、仲間の元へと戻る。
「今日はこのまま、遊んで行ってくれだとよ」
 わぁっ! と歓声を上げる仲間達を見ながら、義弘は苦笑いを浮かべる。
 俺は保護者役かな? なんて、若者達を見てそう思ってしまう義弘だった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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