灰薫り、炭火仰げや、秋サンマ
●
練炭を七輪にいれ、網を添えて火をつける。
筒で息を吹き入れ火を膨らませれば頃合いだ。
生のサンマを一匹。
菜箸で乗せる。
ちりちりと焼け始めるサンマの皮を菜箸で返しているうちに、ぽたりぽたりと油が落ちる。
やがてあがる煙が顔にかからぬように、うちわでゆるゆるあおいで焼き目を眺めよう。
サンマの香りが立ちのぼる。
頃合いだ。
網から上げて更に乗せ、箸をさせばほっくりと暖かい空気がたちのぼり、開いてみれば広がっていく魚肉の香り。
さあ何をつけるべきか。
まずはそのまま頬張るか。
それとも醤油。
大根おろし。
七味や塩こしょうも悪くない。いっそマヨネーズやゆずポン酢でも……。
●
「ぴゃあぁぁああぁぁぁああああああぁぁぁぁああ!」
文鳥 つらら(nCL2000051)が涎たらしたままびくんびくんけいれんしていた。
ある時現われた古妖『もったいないおばけ』への対応依頼が説明されていたのだが、なんか途中から秋のサンマはウマイという話にシフトし、そのうちサンマを使った料理が色々あるみたいな話にシフトし、最終的にはサンマは七輪で焼くとどうのっていう原点回帰に至ったことで……ついにつららの食欲が決壊したのだった。
「おなかすきました……」
いつも飢えてるつららちゃんである。
さておき、お話を最初に戻そう。
古妖『もったいないおばけ』は九十九里に現われたサンマである。
若者の魚離れだかなんだかでサンマたべに来なくなったらしく、めっちゃ水揚げされたのに捨てちゃう未来をうれいた古妖がサンマを大量にお空に泳がせたというよくわかんない現象である。
しかしいつまでもサンマがお空泳いでるとちょっとコワいし、漁業関係者の皆さんにも多大なダメージが入りそうなのでこれを解消しようとファイヴに依頼が来たのだった。
方法は簡単。
浜に出て、サンマを美味しく食べればよい。
量や質よりも『気持ち』が大事だ。
なんなら焼くだけでも充分イイが、折角なので料理も出来るように海の家設備を貸してくれるらしい。
「しゃんまぁ……」
さあみんな! 旬のサンマを食べに行こう!
練炭を七輪にいれ、網を添えて火をつける。
筒で息を吹き入れ火を膨らませれば頃合いだ。
生のサンマを一匹。
菜箸で乗せる。
ちりちりと焼け始めるサンマの皮を菜箸で返しているうちに、ぽたりぽたりと油が落ちる。
やがてあがる煙が顔にかからぬように、うちわでゆるゆるあおいで焼き目を眺めよう。
サンマの香りが立ちのぼる。
頃合いだ。
網から上げて更に乗せ、箸をさせばほっくりと暖かい空気がたちのぼり、開いてみれば広がっていく魚肉の香り。
さあ何をつけるべきか。
まずはそのまま頬張るか。
それとも醤油。
大根おろし。
七味や塩こしょうも悪くない。いっそマヨネーズやゆずポン酢でも……。
●
「ぴゃあぁぁああぁぁぁああああああぁぁぁぁああ!」
文鳥 つらら(nCL2000051)が涎たらしたままびくんびくんけいれんしていた。
ある時現われた古妖『もったいないおばけ』への対応依頼が説明されていたのだが、なんか途中から秋のサンマはウマイという話にシフトし、そのうちサンマを使った料理が色々あるみたいな話にシフトし、最終的にはサンマは七輪で焼くとどうのっていう原点回帰に至ったことで……ついにつららの食欲が決壊したのだった。
「おなかすきました……」
いつも飢えてるつららちゃんである。
さておき、お話を最初に戻そう。
古妖『もったいないおばけ』は九十九里に現われたサンマである。
若者の魚離れだかなんだかでサンマたべに来なくなったらしく、めっちゃ水揚げされたのに捨てちゃう未来をうれいた古妖がサンマを大量にお空に泳がせたというよくわかんない現象である。
しかしいつまでもサンマがお空泳いでるとちょっとコワいし、漁業関係者の皆さんにも多大なダメージが入りそうなのでこれを解消しようとファイヴに依頼が来たのだった。
方法は簡単。
浜に出て、サンマを美味しく食べればよい。
量や質よりも『気持ち』が大事だ。
なんなら焼くだけでも充分イイが、折角なので料理も出来るように海の家設備を貸してくれるらしい。
「しゃんまぁ……」
さあみんな! 旬のサンマを食べに行こう!

■シナリオ詳細
■成功条件
1.しゃんまをたべりゅう
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
つららちゃんは美味しく食べる係として一週間前からめっちゃ飢えております。
古妖『もったいないおばけ』はサンマを美味しく食べてくれることを望んでいます。
これに応え、おいしく食べてあげましょう。
OPでも述べましたが量や質は別として、気持ちが満たされているかが重要となっております。
美味しく食べる身体や心の準備をしたり、美味しく食べさせるように料理のしかたや盛りつけを工夫したりしましょう。
担当をわけたり、料理を交換するのも良いかも知れませんね。
調理器具は大体そろっているので持参する必要はありません。
食材もまあだいたい持ってることにしましょう。プレイングが食材リストになるととてもつらいので。
食べる場所としましては、海の家(今は開いていない)の場所を借ります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年10月07日
2016年10月07日
■メイン参加者 6人■

●サンマが美味しい季節になって参りました
「しゃんまあぁ……」
ゲル状の文鳥 つらら(nCL2000051)がうつろな目で言った。
なんかバ○ルスライムみたくなったつららを十河 瑛太(CL2000437)がゆっさゆっさと揺り起こす。
「おい、おきろ。しぬぞ。サンマは目の前だから」
「めにょまえぇ……」
こいつはダメだ、という顔でむっくり起きる瑛太。
顔を上げると、海岸沿いをサンマの群れが飛んでいた。
「奇っ怪な……」
額に手を当てる『サイレントファイア』松原・華怜(CL2000441)。
サンマは古くから食べられてきただけあって見た目もグロくないし小さいので威圧感もない。空を飛んでいる姿は、遠くから見れば銀色の帯にしか見えないのでさほどつらくないが、『お魚がお空を飛び回っている』という光景には、現実慣れした人にとって軽い精神疲労を誘発させていた。
ということで、気分を変えるべく缶コーヒーをカシュっとやる華怜である。
「あ、皆もうついてたんだ」
その辺をジョギングしてきたであろう『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)が、なんだかスポーティーな格好でブレーキをかけた。
皆、というのは本をぱらぱらめくりながら難しい顔をしている『覚悟の事務員』田中 倖(CL2001407)や、大きな土鍋を背負って軽く亀みたくなってる『陶磁重装甲』納屋 タヱ子(CL2000019)たちである。
「おい、なんだ。ジョギングなんてしてきたのか?」
リュックから七輪を箱ごと取り出して組み立て始める『フローズン大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)。
彼に言われて、悠乃はスポーツタオルで額をぬぐった。
「今日の目的は美味しく頂くことだからね。お腹減らすために準備運動。あ、つららちゃんはこっちでお腹の準備運動しといてね」
ウィダー的なやつをつららに加えさせてちゅうちゅうさせる悠乃。
「ぜりい、うまい……」
つららがバ○ルスライムから青スライムくらいまで戻り始める。
そこに土鍋かぶせてマ○ンスライムみたくするタヱ子。
「うちだと、この時期は週に二回はサンマが出るんですけど……足りなかったんでしょうか」
「季節柄を考えても多いですね……」
ぱたんと本を閉じる倖。
「まあ、しかし、最近の若い子たちが魚を食べたがらないというのはよく聞く話ですね。骨をとるのを面倒くさがったり、生臭さを嫌ったりと。かくいう僕も内臓の苦みやエグみがどうも……」
眼鏡のブリッジに中指を添えてうつむく倖。
「心配すんなって。新鮮な魚は苦みがねえのよ。そらっ」
駆が身体を地面から浮かせ、サンマたちへと歩き出した。
「喰ってやるから下りてこーい!」
空に浮かんでいるサンマをひたっすらキャッチするパートは、この際だから削っておこうと思う。
倖が眼鏡を外してブーメランみたく飛ばして空中のサンマが次々に爆発するCG映像を想像していて頂きたい。
実際は投網をテレキネシスで持ち上げて引っ張り下ろしたんだけど、多分その絵はあんまり派手じゃないと思うから。
と言うわけで。
「火と、網と、サンマ!」
ジュージューいって焼けるサンマをひっくり返すさまを、もう想像して頂いて構わない。
悠乃はサンマを箸でひっくり返しながら、その焼け具合を軽く押して確かめていた。
銀色の表面がほんのりと焦げ付き、ぷくぷくと小さく膨らんではしぼむ。
特に油ののった秋口のサンマは、火の通りからして違うのだ。
それもとったばかりとなれば。
「半分に切って焼くと油が落ちすぎてもったいないんです。ので、こうして……」
焼いた魚は日本人の心と言って差し支えない。身体になじむこの香り。塩をまぶすなり醤油をかけるなりすれば尚のことよかろう。
そのすぐそばでは、倖が包丁と料理本を手に唸っていた。
眼鏡の奥で視線が右から左へゆっくりと動き、そしてぱたんと本を閉じる。
「どなたか、さばいたお魚を分けて頂けませんか」
「諦めたんですね」
手際よくサンマをさばきつつ、華怜が発泡スチロールの皿に積んだサンマを『どうぞ』と指さした。
カットする予定だったけど、まあなんだ、折角プレイングに書いてくれたことだし、サンマのさばきかたを見ていってくださいな。
「まずは頭を落として開きます」
今の小中学校で魚のさばき方を実際にやらせているのかは知らないが、義務教育時代をちょっと思い出しながら想像して欲しい。
まず。カマ下といってエラのちょい後ろあたりに包丁をいれて、骨でいうところの首の付け根あたりをすとんと切る要領で頭を落とす。
でもって腹のラインに沿って包丁の先っぽ辺りを引くようにスーッと切る。このとき中央まで包丁を突っ込んでノコギリみたいにぎこぎこやってると後々大変なことになるので浅く切ろう。
「次に血合いを抜きます」
血合いというのは、魚のなんか赤黒い所である。実際にやってもらわんと要領を説明しづらいのだが、ぬいっと抜いてちょきっと切れる。
この後お腹部分から開いて包丁の背中くいっとやることで内臓もろとも残りの血合いを書き出して、最後は水でわしわし洗う。
この一連の動作が、いわゆる『魚をさばく』というやつである。
魚をさばけない成人が増えた昨今ではあるが、逆に言うと多くの人が魚をさばくことなく魚を食べていられる社会構造ができてきたと言うべきやもしれぬ。余談である。
さておき。
「文鳥さん。お料理はもう少しかかるので、お先にこちらをどうぞ」
華怜は新鮮なサンマをおろして小骨をとると、スライスして刺身を一皿作った。
「しゃしみい……」
軽く人間の思考力を捨てつつあるつららが、華怜からお刺身をひとつまみあーんして貰った。
もぐもぐむぐむぐ……しゃきん。
「秋刀魚美味しゅうございます」
つららが人間に戻った。
いっぽう、『あの人お刺身ひときれでどれだけ回復してるんだろう』という顔で眺めつつ、土鍋のそばで経過を見守るタヱ子がいた。
海の家を借りているだけあって大型炊飯ジャーがないわけじゃあないが、ここはあえての土鍋である。
「おいしくいただくためには、サンマをうけとめる白ご飯も美味しくなくてはいけません」
美味しく食べると言われて土鍋に考えが至る辺りタヱ子もなかなか古風な家に育っているのやもしれぬ。週二でサンマだって言うし。
そうしている間にも、タヱ子は湯を沸かしつつ青ネギを切っていた。
目指すはサンマのすり身団子を入れたお味噌汁である。
「すり身ですか。色々と調理方法があるものですね……」
倖は、タヱ子から借りた本を再びぱらぱらめくった。
いっそこのまま九十九里にあるサンマ料理の専門店を紹介してしまおうかと思ったがそれはとどめておいて、サンマでできる様々な料理について触れておこう。
大体の人が想像する焼き魚とお刺身は当然として、サンマには様々な料理が存在する。
食感の楽しいつみれ汁や、骨まで食べられる煮付け。
すり身をパン粉で焼いたハンバーグや、細かく切った身を並べてチーズをのせたグラタン風。酢でしめたりトマトとあえたり唐辛子につけたりとそれはもうやりたい放題である。
この中で倖が挑戦したのは、オーブンを使ったチーズ焼きだった。
「お菓子作りの要領でできるかと思いまして……」
『お菓子は芸術、料理は科学』という言葉があって、微妙に使う感性が異なるらしい。
が、基本はいつも一緒である。
その一方で、駆はなめろうを作っていた。
「なめろうってえのは、刻んだ魚肉にネギやらショウガやら味噌やら加えたやつだ。ご飯に乗っけて喰うとウマイ。でもって、次にこれだ」
駆が指さしたのは大きな七輪だった。ついさっき組み立てていたやつである。
「サンマを七輪で焼くってのは、風景としても美味しいよな。需要はあるだろ」
「おー……」
横で見ていた瑛太が一緒になって七輪にサンマをのせていった。
「俺サンマ好きだぜ。醤油かけなくても味が濃いし、においだけでもいいよな。やばいよ」
とか言いながらじゅうじゅう焼けるサンマを眺める瑛太。
駆はよーしよしとか言いながら、リュックから刺身醤油やらポン酢やら取り出していた。
しばらくすればサンマも焼ける。
サンマが焼ければ、食事の時間だ。
テーブルいっぱいに並べられたサンマ料理の数々。
「定食屋さんの気分だね」
ただでさえ多い料理の隙間を埋めるかのように、新たなお皿を置いていく悠乃。
焼きサンマの他に唐揚げも作っていたようだ。
普通に下ろして三つくらいに切った唐揚げもあるが、横に添えるように骨をカリッと揚げたものもついていた。華怜が刺身のついでに作ったものである。
更には、切り身を丁寧に円形に並べて花形に飾り付けていく華怜。
「新鮮なサンマの味。堪能することにしましょう」
頷く駆。お茶碗には一人分ずつのご飯が盛られ、なめろうもそっと添えられている。
「なんつーか、見た目が既にうまい」
「たべましょう! たべましょうとも!」
また語彙が軽く死んでいるつららが、お箸を握って目をキラッキラさせていた。
そこへお味噌汁を運んでくるタヱ子。
「定食屋さんでもここまで出ないと思いますけど……」
「品数多いってのは、いいことだぜ」
フォークを握って目をキラッとさせる瑛太。
最後にチーズ焼きを持ってきた倖が、テーブルにドンと耐熱皿を置いて椅子に腰掛けた。
「こうして大勢で食卓を囲むのも、楽しい者ですね」
『然様』
『サンマを美味しく食べるコツ』
『それは喜ぶこと』
なんか知らんけどサンマを一回り大きくしてついでに金色に塗ったようなヤツが三匹くらいで輪になって空を泳いでいた。
「なんだこいつ」
「新しい食材じゃなさそうだ」
「流れからして『もったいないおばけ』さんでしょうか」
「ではお言葉に甘えまして……」
皆は並んだ食材に手を合わせた。
「「いただきます」」
古妖たちが満足と共に昇天していったのは、語るべくもなかろう。
飽食化していく日本社会。海に囲まれた土地ゆえに魚に恵まれはしたが、そんな魚を食べづらいからと嫌う子供も多いという。
だがこうしてしっかりと向き合ってみれば、とても身近でとても健康的な、そしてなにより美味しい食べ物である。
9月から10月にかけてはサンマが大量にとれ、スーパーでも手が届きやすい形で並ぶころだろう。
運送技術や漁業技術の進んだ昨今はピークと言われる8~9月からズレてもとても美味しい状態でいただける。
もしここに並んだお刺身や、つみれ汁や、唐揚げや、チーズ焼きや、なめろうや、そしてなによりご飯と並んだ焼きサンマを食べたいと思ったなら。
手に取ってみるのも、よかろう。
「しゃんまあぁ……」
ゲル状の文鳥 つらら(nCL2000051)がうつろな目で言った。
なんかバ○ルスライムみたくなったつららを十河 瑛太(CL2000437)がゆっさゆっさと揺り起こす。
「おい、おきろ。しぬぞ。サンマは目の前だから」
「めにょまえぇ……」
こいつはダメだ、という顔でむっくり起きる瑛太。
顔を上げると、海岸沿いをサンマの群れが飛んでいた。
「奇っ怪な……」
額に手を当てる『サイレントファイア』松原・華怜(CL2000441)。
サンマは古くから食べられてきただけあって見た目もグロくないし小さいので威圧感もない。空を飛んでいる姿は、遠くから見れば銀色の帯にしか見えないのでさほどつらくないが、『お魚がお空を飛び回っている』という光景には、現実慣れした人にとって軽い精神疲労を誘発させていた。
ということで、気分を変えるべく缶コーヒーをカシュっとやる華怜である。
「あ、皆もうついてたんだ」
その辺をジョギングしてきたであろう『スポーティ探偵』華神 悠乃(CL2000231)が、なんだかスポーティーな格好でブレーキをかけた。
皆、というのは本をぱらぱらめくりながら難しい顔をしている『覚悟の事務員』田中 倖(CL2001407)や、大きな土鍋を背負って軽く亀みたくなってる『陶磁重装甲』納屋 タヱ子(CL2000019)たちである。
「おい、なんだ。ジョギングなんてしてきたのか?」
リュックから七輪を箱ごと取り出して組み立て始める『フローズン大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)。
彼に言われて、悠乃はスポーツタオルで額をぬぐった。
「今日の目的は美味しく頂くことだからね。お腹減らすために準備運動。あ、つららちゃんはこっちでお腹の準備運動しといてね」
ウィダー的なやつをつららに加えさせてちゅうちゅうさせる悠乃。
「ぜりい、うまい……」
つららがバ○ルスライムから青スライムくらいまで戻り始める。
そこに土鍋かぶせてマ○ンスライムみたくするタヱ子。
「うちだと、この時期は週に二回はサンマが出るんですけど……足りなかったんでしょうか」
「季節柄を考えても多いですね……」
ぱたんと本を閉じる倖。
「まあ、しかし、最近の若い子たちが魚を食べたがらないというのはよく聞く話ですね。骨をとるのを面倒くさがったり、生臭さを嫌ったりと。かくいう僕も内臓の苦みやエグみがどうも……」
眼鏡のブリッジに中指を添えてうつむく倖。
「心配すんなって。新鮮な魚は苦みがねえのよ。そらっ」
駆が身体を地面から浮かせ、サンマたちへと歩き出した。
「喰ってやるから下りてこーい!」
空に浮かんでいるサンマをひたっすらキャッチするパートは、この際だから削っておこうと思う。
倖が眼鏡を外してブーメランみたく飛ばして空中のサンマが次々に爆発するCG映像を想像していて頂きたい。
実際は投網をテレキネシスで持ち上げて引っ張り下ろしたんだけど、多分その絵はあんまり派手じゃないと思うから。
と言うわけで。
「火と、網と、サンマ!」
ジュージューいって焼けるサンマをひっくり返すさまを、もう想像して頂いて構わない。
悠乃はサンマを箸でひっくり返しながら、その焼け具合を軽く押して確かめていた。
銀色の表面がほんのりと焦げ付き、ぷくぷくと小さく膨らんではしぼむ。
特に油ののった秋口のサンマは、火の通りからして違うのだ。
それもとったばかりとなれば。
「半分に切って焼くと油が落ちすぎてもったいないんです。ので、こうして……」
焼いた魚は日本人の心と言って差し支えない。身体になじむこの香り。塩をまぶすなり醤油をかけるなりすれば尚のことよかろう。
そのすぐそばでは、倖が包丁と料理本を手に唸っていた。
眼鏡の奥で視線が右から左へゆっくりと動き、そしてぱたんと本を閉じる。
「どなたか、さばいたお魚を分けて頂けませんか」
「諦めたんですね」
手際よくサンマをさばきつつ、華怜が発泡スチロールの皿に積んだサンマを『どうぞ』と指さした。
カットする予定だったけど、まあなんだ、折角プレイングに書いてくれたことだし、サンマのさばきかたを見ていってくださいな。
「まずは頭を落として開きます」
今の小中学校で魚のさばき方を実際にやらせているのかは知らないが、義務教育時代をちょっと思い出しながら想像して欲しい。
まず。カマ下といってエラのちょい後ろあたりに包丁をいれて、骨でいうところの首の付け根あたりをすとんと切る要領で頭を落とす。
でもって腹のラインに沿って包丁の先っぽ辺りを引くようにスーッと切る。このとき中央まで包丁を突っ込んでノコギリみたいにぎこぎこやってると後々大変なことになるので浅く切ろう。
「次に血合いを抜きます」
血合いというのは、魚のなんか赤黒い所である。実際にやってもらわんと要領を説明しづらいのだが、ぬいっと抜いてちょきっと切れる。
この後お腹部分から開いて包丁の背中くいっとやることで内臓もろとも残りの血合いを書き出して、最後は水でわしわし洗う。
この一連の動作が、いわゆる『魚をさばく』というやつである。
魚をさばけない成人が増えた昨今ではあるが、逆に言うと多くの人が魚をさばくことなく魚を食べていられる社会構造ができてきたと言うべきやもしれぬ。余談である。
さておき。
「文鳥さん。お料理はもう少しかかるので、お先にこちらをどうぞ」
華怜は新鮮なサンマをおろして小骨をとると、スライスして刺身を一皿作った。
「しゃしみい……」
軽く人間の思考力を捨てつつあるつららが、華怜からお刺身をひとつまみあーんして貰った。
もぐもぐむぐむぐ……しゃきん。
「秋刀魚美味しゅうございます」
つららが人間に戻った。
いっぽう、『あの人お刺身ひときれでどれだけ回復してるんだろう』という顔で眺めつつ、土鍋のそばで経過を見守るタヱ子がいた。
海の家を借りているだけあって大型炊飯ジャーがないわけじゃあないが、ここはあえての土鍋である。
「おいしくいただくためには、サンマをうけとめる白ご飯も美味しくなくてはいけません」
美味しく食べると言われて土鍋に考えが至る辺りタヱ子もなかなか古風な家に育っているのやもしれぬ。週二でサンマだって言うし。
そうしている間にも、タヱ子は湯を沸かしつつ青ネギを切っていた。
目指すはサンマのすり身団子を入れたお味噌汁である。
「すり身ですか。色々と調理方法があるものですね……」
倖は、タヱ子から借りた本を再びぱらぱらめくった。
いっそこのまま九十九里にあるサンマ料理の専門店を紹介してしまおうかと思ったがそれはとどめておいて、サンマでできる様々な料理について触れておこう。
大体の人が想像する焼き魚とお刺身は当然として、サンマには様々な料理が存在する。
食感の楽しいつみれ汁や、骨まで食べられる煮付け。
すり身をパン粉で焼いたハンバーグや、細かく切った身を並べてチーズをのせたグラタン風。酢でしめたりトマトとあえたり唐辛子につけたりとそれはもうやりたい放題である。
この中で倖が挑戦したのは、オーブンを使ったチーズ焼きだった。
「お菓子作りの要領でできるかと思いまして……」
『お菓子は芸術、料理は科学』という言葉があって、微妙に使う感性が異なるらしい。
が、基本はいつも一緒である。
その一方で、駆はなめろうを作っていた。
「なめろうってえのは、刻んだ魚肉にネギやらショウガやら味噌やら加えたやつだ。ご飯に乗っけて喰うとウマイ。でもって、次にこれだ」
駆が指さしたのは大きな七輪だった。ついさっき組み立てていたやつである。
「サンマを七輪で焼くってのは、風景としても美味しいよな。需要はあるだろ」
「おー……」
横で見ていた瑛太が一緒になって七輪にサンマをのせていった。
「俺サンマ好きだぜ。醤油かけなくても味が濃いし、においだけでもいいよな。やばいよ」
とか言いながらじゅうじゅう焼けるサンマを眺める瑛太。
駆はよーしよしとか言いながら、リュックから刺身醤油やらポン酢やら取り出していた。
しばらくすればサンマも焼ける。
サンマが焼ければ、食事の時間だ。
テーブルいっぱいに並べられたサンマ料理の数々。
「定食屋さんの気分だね」
ただでさえ多い料理の隙間を埋めるかのように、新たなお皿を置いていく悠乃。
焼きサンマの他に唐揚げも作っていたようだ。
普通に下ろして三つくらいに切った唐揚げもあるが、横に添えるように骨をカリッと揚げたものもついていた。華怜が刺身のついでに作ったものである。
更には、切り身を丁寧に円形に並べて花形に飾り付けていく華怜。
「新鮮なサンマの味。堪能することにしましょう」
頷く駆。お茶碗には一人分ずつのご飯が盛られ、なめろうもそっと添えられている。
「なんつーか、見た目が既にうまい」
「たべましょう! たべましょうとも!」
また語彙が軽く死んでいるつららが、お箸を握って目をキラッキラさせていた。
そこへお味噌汁を運んでくるタヱ子。
「定食屋さんでもここまで出ないと思いますけど……」
「品数多いってのは、いいことだぜ」
フォークを握って目をキラッとさせる瑛太。
最後にチーズ焼きを持ってきた倖が、テーブルにドンと耐熱皿を置いて椅子に腰掛けた。
「こうして大勢で食卓を囲むのも、楽しい者ですね」
『然様』
『サンマを美味しく食べるコツ』
『それは喜ぶこと』
なんか知らんけどサンマを一回り大きくしてついでに金色に塗ったようなヤツが三匹くらいで輪になって空を泳いでいた。
「なんだこいつ」
「新しい食材じゃなさそうだ」
「流れからして『もったいないおばけ』さんでしょうか」
「ではお言葉に甘えまして……」
皆は並んだ食材に手を合わせた。
「「いただきます」」
古妖たちが満足と共に昇天していったのは、語るべくもなかろう。
飽食化していく日本社会。海に囲まれた土地ゆえに魚に恵まれはしたが、そんな魚を食べづらいからと嫌う子供も多いという。
だがこうしてしっかりと向き合ってみれば、とても身近でとても健康的な、そしてなにより美味しい食べ物である。
9月から10月にかけてはサンマが大量にとれ、スーパーでも手が届きやすい形で並ぶころだろう。
運送技術や漁業技術の進んだ昨今はピークと言われる8~9月からズレてもとても美味しい状態でいただける。
もしここに並んだお刺身や、つみれ汁や、唐揚げや、チーズ焼きや、なめろうや、そしてなによりご飯と並んだ焼きサンマを食べたいと思ったなら。
手に取ってみるのも、よかろう。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
