<玉串ノ巫女>黒子衆専属戦術アドバイザー
●本庁会議
古今東西会議というものは、必ず裏の思惑が入り乱れるものだ。
「黒子衆の育成が遅すぎるのではないか」
神社本庁の会議室には液晶モニターが並び、それぞれに相手の顔が表示されていた。しかし殆どの顔は隠され、声も人物を特定できないほどに変えられている。
それらに囲まれているのは、見事な巫女装束に身を包んだ女、初富。そしてそのかたわらで資料を読み上げる豊四季である。
「ですから申し上げておりますように、安全な屋内訓練を重ねているためそれなりの期間が――」
「そんなことは聞いていない! さっさと八ヶ岳の妖を退治しろと言っている! もう依頼から20時間も経過しているぞ! 失敗するようなら出資を打ち切るからな!」
「それは……必ず……」
「黒子衆にはもっと実戦経験を積ませたほうがよいのではないか」
「その通りよ。北陸平野部には妖が沢山出ているからそこを……」
「おい! 自分の土地の掃除をタダでやらせるつもりだろう!?」
「もし優先するのでしたら例の大橋から退治してほしいです」
「交通を妨げる妖を優先するべきだって、小学生でも分かるとおもうんですが」
「貴様、馬鹿にしているのか!?」
「人口密集地を掃除すべきである」
「おたくのマンションが値崩れしっぱなしだからですかぁ?」
「と、とにかく……!」
豊四季は立ち上がった。
「妖との実戦訓練については、検討させていただきます。ですが今のペースですと死亡率が高く……」
「死なせてやればいいだろうが」
中央の画面の誰かが言った。
「偶然神から授かった力を人々のために使うのは覚者に与えられた義務ではないかね? どうせ放って置いてもその力でコンビニ強盗でもするような練習だ、名誉ある社会貢献ができて本人も誇らしいはずだ」
「…………」
豊四季は誰にも聞こえないように舌打ちした。
息を吸う初富。
「神道における神はそこにあるだけのもの。なにもかたらず、なにもこたえず、ただもたらすのみ。妖も因子も、あずかり知らぬことでしょう。他宗教の感覚を持ち込むのは自由ですが、教養深き皆様に置かれましてはお取り違えをされませぬよう……」
「「…………」」
「黒子衆に関しては手を打ちます。会議は終了です」
全てのモニターが消え、暗闇が訪れた。
豊四季はすぐそばにあるスチール製のゴミ箱を蹴飛ばした。
音を立てて転がっていく。
その先には、一人の女が立っていた。
紫の長髪に花飾り。わざとらしい眼鏡と目つきの……。
「九美上……」
「来ちゃった☆」
玉串の巫女は少数精鋭の覚者チームである。
出資者からの過酷な要求に応えるソルジャーであり、一月に一人の割合で死亡者のでるさまは少なからず反感を呼んでいた。
そんな人々の候補生にあたるのが『黒子衆』。
多くの『自称正義の組織』からかき集めた覚者を教育して一定の練度まで育てることを目的としている。
このたび、さらなる戦力拡張の要求を受け、対妖実戦訓練が行なわれることになった。
玉串専属戦術アドバイザーを招集しさらなる練度の上昇を狙ったこの訓練だがしかし……。
●
「その『玉串専属戦術アドバイザー』なんて人はこの世に存在しませーん! キャッ、架空履歴書なんて大犯罪! ココノちゃんこわーい!」
九美上 ココノ(nCL2000152)が心から雑な演技をした。
ここはファイヴ会議室。見知った顔ぶれを前に、ココノはおもむろに煙草を取り出し、火をつける。
「と言うことでですね、そこに私を含めた皆さんをブチ込むことにしました。なりました。皆さんは今日から非覚者でありながら妖と因子に精通したプロの戦術アドバイザーです。あっ、非覚者ってことにしてくださいよ、魂ぶっぱで戦えると思われるとクソメンドーなんで」
今回の目的は『黒子衆』との顔合わせと、実力を示すための軽い戦闘訓練の実施である。
細かいプログラムはココノが用意したものをなぞればいいだろう。
とにかく。
「巫女が月刊グラビア感覚で死ぬのが嫌ってのは分かりますけど、不満は実力ではねのかねきゃなんねーんですよ。そのための実力、出して貰いますからね」
古今東西会議というものは、必ず裏の思惑が入り乱れるものだ。
「黒子衆の育成が遅すぎるのではないか」
神社本庁の会議室には液晶モニターが並び、それぞれに相手の顔が表示されていた。しかし殆どの顔は隠され、声も人物を特定できないほどに変えられている。
それらに囲まれているのは、見事な巫女装束に身を包んだ女、初富。そしてそのかたわらで資料を読み上げる豊四季である。
「ですから申し上げておりますように、安全な屋内訓練を重ねているためそれなりの期間が――」
「そんなことは聞いていない! さっさと八ヶ岳の妖を退治しろと言っている! もう依頼から20時間も経過しているぞ! 失敗するようなら出資を打ち切るからな!」
「それは……必ず……」
「黒子衆にはもっと実戦経験を積ませたほうがよいのではないか」
「その通りよ。北陸平野部には妖が沢山出ているからそこを……」
「おい! 自分の土地の掃除をタダでやらせるつもりだろう!?」
「もし優先するのでしたら例の大橋から退治してほしいです」
「交通を妨げる妖を優先するべきだって、小学生でも分かるとおもうんですが」
「貴様、馬鹿にしているのか!?」
「人口密集地を掃除すべきである」
「おたくのマンションが値崩れしっぱなしだからですかぁ?」
「と、とにかく……!」
豊四季は立ち上がった。
「妖との実戦訓練については、検討させていただきます。ですが今のペースですと死亡率が高く……」
「死なせてやればいいだろうが」
中央の画面の誰かが言った。
「偶然神から授かった力を人々のために使うのは覚者に与えられた義務ではないかね? どうせ放って置いてもその力でコンビニ強盗でもするような練習だ、名誉ある社会貢献ができて本人も誇らしいはずだ」
「…………」
豊四季は誰にも聞こえないように舌打ちした。
息を吸う初富。
「神道における神はそこにあるだけのもの。なにもかたらず、なにもこたえず、ただもたらすのみ。妖も因子も、あずかり知らぬことでしょう。他宗教の感覚を持ち込むのは自由ですが、教養深き皆様に置かれましてはお取り違えをされませぬよう……」
「「…………」」
「黒子衆に関しては手を打ちます。会議は終了です」
全てのモニターが消え、暗闇が訪れた。
豊四季はすぐそばにあるスチール製のゴミ箱を蹴飛ばした。
音を立てて転がっていく。
その先には、一人の女が立っていた。
紫の長髪に花飾り。わざとらしい眼鏡と目つきの……。
「九美上……」
「来ちゃった☆」
玉串の巫女は少数精鋭の覚者チームである。
出資者からの過酷な要求に応えるソルジャーであり、一月に一人の割合で死亡者のでるさまは少なからず反感を呼んでいた。
そんな人々の候補生にあたるのが『黒子衆』。
多くの『自称正義の組織』からかき集めた覚者を教育して一定の練度まで育てることを目的としている。
このたび、さらなる戦力拡張の要求を受け、対妖実戦訓練が行なわれることになった。
玉串専属戦術アドバイザーを招集しさらなる練度の上昇を狙ったこの訓練だがしかし……。
●
「その『玉串専属戦術アドバイザー』なんて人はこの世に存在しませーん! キャッ、架空履歴書なんて大犯罪! ココノちゃんこわーい!」
九美上 ココノ(nCL2000152)が心から雑な演技をした。
ここはファイヴ会議室。見知った顔ぶれを前に、ココノはおもむろに煙草を取り出し、火をつける。
「と言うことでですね、そこに私を含めた皆さんをブチ込むことにしました。なりました。皆さんは今日から非覚者でありながら妖と因子に精通したプロの戦術アドバイザーです。あっ、非覚者ってことにしてくださいよ、魂ぶっぱで戦えると思われるとクソメンドーなんで」
今回の目的は『黒子衆』との顔合わせと、実力を示すための軽い戦闘訓練の実施である。
細かいプログラムはココノが用意したものをなぞればいいだろう。
とにかく。
「巫女が月刊グラビア感覚で死ぬのが嫌ってのは分かりますけど、不満は実力ではねのかねきゃなんねーんですよ。そのための実力、出して貰いますからね」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.戦闘訓練の実施
2.集団戦闘による妖の撃破
3.なし
2.集団戦闘による妖の撃破
3.なし
まず黒子衆に『うちらは戦闘のプロだよ』と分からせるために戦闘行為をしてみせる必要があります。
この担当は最低1人だけでも構いません。
黒子衆の新米数名を一気に相手取ってみたり、強そうな相手をたたきのめしてみたりです。やり方は人によって異なると思うので、担当者にお任せします。
次に妖を集団で撃破します。
ランク1の生物系妖が5体出現しているので、これを黒子衆20人係で撃破します。
皆さんは黒子衆に指示を出したり、危ないときだけフォローしたりという形で戦闘に加わります。
●エネミーデータ
・生物系妖ランク1、5体
熊に似た妖で全長3m。豪腕による物理攻撃が予想されます。
戦闘能力は把握できていないので、現場で把握する必要があります。
●味方データ
・黒子衆花組
黒子衆という玉串の巫女候補のひとつ。
平均レベル5。平均名数だいたい10前後。おそらく魂一個。
ちゃんと言い聞かせないと勝手に命数復活とかして挙げ句死ぬので、撃破できないと判断したらちゃんと撤退させましょう。
因子や五行はバラバラ。巫女には必須スキルになるので五人に一人の割合でエネミースキャンを持っています。
●アドバイザーとしての振るまい
皆さんは非覚者でありながら因子と妖に精通した戦術のプロとして乗り込みます。
なので以下の点を必ず守ってください。
・アテンド能力も使わず、見えない振りをする。
・術式を使わない。
・神具を使わない。
・魂使用や命数復活をしない。
・不自然なレベルの技能スキルを使わない
尚、プレイングにこれらの注意事項を書かなくても、しっかり守っているものとして判定します。(文字数割かなくて平気です)
妖戦では20人の黒子衆を複数のチームに分けそれぞれのコーチとなって指示を出します。
『戦闘に関する指示を出す係』『危なくなったらフォローする係』に分かれてもOKです。
最低成功条件を満たすにはここまでで大丈夫です。
そこから先は、今後どうしていきたいかを踏まえて皆さんでご相談ください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年09月30日
2016年09月30日
■メイン参加者 6人■

●達人
瞑目して立つ納屋 タヱ子(CL2000019)。
彼女を四人がかりで取り囲み刀を構える者たちがいた。
足音を殺しながら死角を伺い、背後から首を狙う。
接触の数センチ手前で刃を二本指ではさんで止めるタヱ子。
強引に引き寄せて全体のバランスを乱し、懐から抜けるように相手の背後へ。
左右から回り込むように同時に振り込まれた刀は肩と足首をそれぞれ狙ったが、スタンピングによって足下の刀を押さえつけ、天空へ突き上げるような掌底でもって刀の軌道を無理矢理変えてかわしていく。
反転したタヱ子に力強い突きを繰り出すも、胸の前でがしりと刀身を掴まれた。
刃の左右を圧迫するという半端な持ち方で、しかし万力で固定したかのように硬く動かない。
なんとか引き抜こうとする力をそのまま利用して、タヱ子は相手を遠くへと突き飛ばした。
「おわかり、頂けましたか」
「そんな。私たちがこんな子供に……」
呆然と座り込む女たち。
彼女らは玉串黒子衆と呼ばれる『玉串の巫女候補』の覚者たちである。
ぱちぱちと拍手して後ろから現われる『くれないのそら』七墜 昨良(CL2000077)。
「代わりに戦うことはしないけど、戦い方を教えることはできる。私たちはそういう連中だよ。付き合い方、わかったかな?」
黒子衆の訓練場へやってきたファイヴ覚者たちは、非覚者の戦術アドバイザーと偽って訓練を始めていた。
といっても多くの覚者は非覚者をナメてかかっているフシがあるので、一旦実力で分からせてやる必要があった。
軽く組み手を行ないながら複数の黒子衆と渡り合う賀茂 たまき(CL2000994)。
それを離れた所で眺める、『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)と九美上 ココノ(nCL2000152)。
「たまきさんは盾を使って戦っているようですけれど、大丈夫なんでしょうか」
「神具の特殊性能でも発揮しない限りは大丈夫でしょう。パッと見で分かるモンでもないですしね」
「そういうものなんでしょうか……」
流石に非覚者のフリをして戦う経験がないラーラである。不安はかなりあったが……。
「そう難しく考えないでくださいよ。仙人とか魔術師とかどうやって存在してたと思ってるんですか。どうせ紀元前からあったんですよあんなもん」
「あんなもんって……それにタヱ子さんやたまきさんは覚醒せずに戦っていますよね。体術が使えるのはともかく、なぜあんな風に戦えるんでしょう」
「なぜって、実戦を死ぬほど経験したからでしょうに。そのへんのガキだって、紛争地帯で三十回くらい死ねば戦い方を覚えますよ」
「……」
「『死んで覚える』っていうでしょう? 普通の兵士は間一髪助かって間接的に覚えていくんですけど、皆さん普通に死んでますしね。心当たりあるんじゃないですか」
「たしかに……」
これまで何十回と戦ってきたが、そのたびに死んでもおかしくない状況におかれてきた。もし覚者じゃなければ何度死んだか分からない。
「戦うときには必ず覚醒しちゃうから気づいてないかもしれないですけど、もう皆さん、生身でも相当やれるんですよ。海外の紛争地帯で傭兵でもやったらどうです。いい金になりますよ」
『なんちゃって』と雑なふざけ方をして、ココノは煙草を吹かし始めた。
「全力で来てください! ほんとに怪我するから!」
鹿ノ島・遥(CL2000227)はカラテの構えをとると、拳銃やトンファーなどで武装した黒子衆に囲まれていた。
背後から銃撃。
遥は銃撃の気配を察して先にかわし、指に挟んでいた小石を投擲。
ただの小石だというのに相手は激しく吹き飛び、後ろの壁に叩き付けられた。
二人がかりで棍棒を振り込んでくる黒子衆。
遥は振り返りざま、純粋な突きを放った。
それだけで空気が爆ぜ、まるでワイヤー仕掛けの拳法映画のように相手がまとめて吹き飛んでいく。
「あ、あれ……? 手加減したんだけど、そんな派手に飛ばなくていいんだぜ? 気を遣ってくれてんのか?」
「……あ、ありえない」
自らの異常さに無自覚なのか、遥はからからと笑って頭をかいていた。
その一方で、『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がへそのごまを綺麗にとる裏技を解説しながら無数の術式攻撃をひらひらとかわしていた。
炎を纏った蹴りや雷撃を謎の高速移動でかわし、ウザいくらい背後に回っては『ガッテンしていただけましたか?』とか聞き始める嫌がらせを続けた。
飛来する水礫を素手で受け止め、握りつぶすプリンス。
これを自分たち以上のレベルにまで引き上げるのはそう簡単ではない……が。それだけ実戦の機会が玉串の巫女にはあるということだろう。
「ねえ、貴公たち普段なにしてるの? 素振り?」
炎の蹴りを人差し指で止めたプリンスに、姿勢を正しながら黒子衆の少女が応えた。
「正義活動に決まってるじゃないですか。私たち、元々妖を倒す組織にいたんです。でも六実さんたちに勧誘というか……その……」
「ンー」
プリンスはふと、玉串の巫女と初めて顔を合わせた時を思い出した。
彼女たちはいたずらに活動する組織を回っては注意をして、見込みがあれば巫女の候補生として引き入れていたと、確か語っていた。
「ここにいればもっと強くなれるし、もっと妖を倒せるでしょう? 初富様なんて、一月に何十件もの討伐依頼をこなしているって聞きますし……私も早く強くなって、本隊の巫女に加わりたいです! 『六実』を襲名するのが目標なんです!」
玉串の巫女はどうやら妖退治に引っ張りだこらしい。イチャモンつけてきた所と魂ぶっぱで死んでる所しか見ていなかったが、どうやら普段はかなり堅実に活動していると見える。
ファイヴのように夢見を大量に確保しているわけでもないので、すべて事前情報ナシで戦っているのだろう。
「みなさん!」
そうこうしていると、たまきたちがスポーツドリンクを手にやってきた。
「集団戦闘の訓練を始めましょう。そして明日は、いよいよ実戦です」
●実戦訓練
山中を移動する熊妖。
五体がそれぞれバラバラに移動している。
昨良は横に控えた黒子衆の女に双眼鏡を手渡した。
「地形と敵の位置を確認してね。基本だよ」
「はい……!」
真面目な女だ。思い込みも激しそうな性格をしている。
昨良はさりげなく周りの様子をうかがってみた。
こちらの戦力は20人だが、平均レベルは5程度。
ファイヴで例えると、ヒノマル陸軍との大規模戦闘をおこした時と同程度と思っていい。
「場合によっては罠を仕掛けてもいいし、通りすがりの人間を盾にしてもいい」
「そんな……」
「生きて、勝てばいいんだよ。あとは、余裕かな」
「余裕……」
昨良は担当の黒子衆に予算のちょろまかしか方スケジュールのごまかし方なんかをこっそり教えていた。最初は彼女たちも渋っていたが、昨良のもっともな物言いに最後は納得し、今では従順に言うことを聞いている。
「それじゃあ行こうか。突撃」
昨良の部隊が突撃を始めたのを確認すると、遥とタヱ子の舞台も突撃を始めた。
「戦闘に入ったらエネミースキャンで必ず能力をチェックしろ! 命がけで戦うのと死ぬのを前提に戦うのは違うからな!」
「戦闘続行の是非を、ヒーラーかスキャナーが判断してください。できれば両方の技能をもっているのが望ましいですが」
言いながら、タヱ子は自分たちの戦い方を思い返していた。
ファイヴはなんだかんだいってフリーな組織である。統率や規則といったものが乏しく、おのおのが自分の判断で動いている。
依頼達成のために協力することは多いが、それでも自分の仕事をこなすだけこなして、持て余したリソースはそのまま放っておくことが多い印象だ。
「生きていれば今より強くなって、多くの敵と戦える! 死んだら終わりだぞ! お前の代わりに頼るな! 残りの仕事を他人に押しつけんな!」
今回は四人一組のチームをつくり、それぞれにアドバイザーをつけて運用するスタイルをとった。
最初にぶつかったのは遥とタヱ子の部隊だ。前へ出すぎた妖を八人がかりで取り囲み、激しくぶつかり合う。
戦力差や相性からいって苦戦する敵ではないだろう。
判断を分けたのは負傷したメンバーへの回復。つまりヒールワークだった。
戦闘における最高のヒールワークは、誰一人戦闘不能にならず全員がほぼ万全の状態で戦い続けることだが、相手がよほど弱くない限りそんな事態にはならない。
うっかりいつもの癖で『体力半数以下の場合』や『命数復活した仲間には』『回復が必要ないときは』といったルーチンを組んでしまいがちだが、回復パターンも戦闘の性質や目的に合わせて変えていかないと必ずどこかで派手に転ぶことになる。
今回に関しては、大ダメージを受けた仲間は二発目に耐えられる自信が無いかぎりはあえて回復せずに撤退。もしくは後衛に逃げて戦闘を続行するというパターンをとった。
「敵が近接攻撃に限られている場合、ダメージは前衛に集中します。逆に相手も遠距離攻撃が可能なら回復役の消耗に注意してください!」
ラーラの呼びかけに応じて、彼女の部隊が側面攻撃を開始。
遥たちの舞台に集中しようとしていた妖が直撃をうけ、そこへ昨良の部隊が取り囲むという形で押しつぶしていく。
「戦闘訓練では魂使用や命数復活を禁止します。正攻法で勝てない時は撤退しましょう。中衛より後ろに抜かれないために隊列ブロックに気を配って、後衛からの回復はこまめに行なってください」
回復が追いつかないと判断すると、ラーラは即座に部隊を引かせた。
「一人で倒せない敵にも、仲間と協力すれば太刀打ちできます。もちうる力で目の前の苦境にあらがってください。あなたたちが行き抜いて強くなることで、救える命もあると忘れないでください!」
「あっちもやってるね。余たちも行こうよ」
「はい、では……」
たまきとプリンスは合同で一つの部隊を率いると、まずは先頭をきって妖へと突撃した。
コンビネーションアタックで妖の攻撃を防御したり、牽制してから直撃を狙ったりといった動きを見せる。
「これはほんの一例です。それと――魂使用や命数復活は行なわないこと。次につなげることの重要性を考えてください」
「チーム野中に無謀な振る舞いをしてる民がいたら注意してね。一人で急に喧嘩売ったりしないようにね。一人崩れただけで普通に全滅するからね」
「連携によって状況を打破できて、次に繋がります。妖さんに対してであったり、仲間に対してであったり……一度でダメなら、また作戦を練り直して戦えばいいんです」
プリンスは力で上回る相手に頭で対抗するすべを、たまきは叶わない相手に対して一度退いて立て直す心構えを伝授した。
「折角積み上げたものも、つながらなくては意味が無くなってしまいますから……」
たまきたちの部隊は、たまに妖とタイマンはりたがるメンバーがいたものの軽く小突いて下がらせ、力押しがダメなら一度別の部隊に任せてその場を離れ、回復で体勢を立て直してから前回の反省を活かして倒すというやり方で妖を攻略していった。
充分に戦い方をしみこませた黒子衆が五体の妖を全て倒すのに、そう時間はかからなかった。
●次につなげるために
戦闘を終えた黒子衆たちは、充実した様子でお互いをねぎらっていた。
たまきの配る肉まんを食べたり、訓練のスケジュールを軽く誤魔化して休息をとったりと余裕を見せている。
「まるで君たちは爆弾だね」
「爆弾……?」
肉まんをもてあそぶ昨良に、担当の黒子衆が怪訝そうに言った。
「君たちを都合よく使って喜んでる連中は……自分以外の妖を消して、人間も消して、まるで妖みたいだね。妖は、どうするんだっけ?」
「……」
「なんてね」
肉まんを食いちぎる昨良。
黒子衆に芽生えた僅かな反逆思想をそのままにして。
「もっと来いよ、まだ立てるだろ!」
遥は足腰の立たなくなった女性たちの前に仁王立ちし、さらなるラウンドを要求していた。
そばではタヱ子が黒子衆の連携スパーリングに付き合っている。
「私たちの考え方を、分かってくれたんですね」
「みたいだね」
プリンスは肉まんをむしゃむしゃやりながら、黒子衆たちとの会話をいくつか思い返していた。
『玉串の巫女』は今のプリンスたちよりもずっとレベルが高いが、それは組織自体のレベルキャップが高いことと、それに見合うだけの豊富な実戦機会が裏付けになっていた。
しかし(どこもそうだが)夢見は一人か二人いればいいほうで、予知も望んでできるものではない。大体は通報を受けて駆けつけ、敵のランクも分からないまま実戦に投入されている。
その中の数パーセントほどが至難クラスの戦闘依頼になっていて……と、後はラーラたちの知る通りである。
「ねえ整形してる民」
「殺すぞクソ王子」
「上位者に接触したいんだけど、できる?」
「……」
煙草をくわえていたココノは、プリンスの発言に目を細めた。
「『どっち』の上位者かによりますねえ。出資者ですか? 管理者ですか? 前者に会わせるのはちょっとしたリスクですけど、初富サンに会わせるならこっそり都合できますよ。移動中や休憩中は近づけませんから、戦闘中に混ざるカンジになりますけど」
「でも、先に皆さんを実戦で使えるようにするのが先かもしれませんね」
ラーラから見て、黒子衆はかなり危なっかしい連中だった。
全能感の強い者や、妖を過剰に憎んでいる者や、軽い選民思想を持った者も混じっている。
こういう連中は勝手に死にたがったり、他人に迷惑をかけてでも目標を達することを誇ったりする欠点を備えている。これらは訓練では補えず、隣の誰かが死ぬか自分が死ぬかしなければ変わらないとされていた。
ココノがすっくと立ち上がる。
「裏側に潜りたいなら私が代わりに回り込みますよ。それより、出資者のひとりが黒子衆の実戦投入を強く要求してます。近々投入されるでしょうけど、今の彼女たちにはかなり荷が重いですから、コマンダーを必要とする筈です。そのうち回しますよ」
煙が空へ上っていく。
未来がどう変わっていくのか、それはまだ、誰も知らぬこと。
瞑目して立つ納屋 タヱ子(CL2000019)。
彼女を四人がかりで取り囲み刀を構える者たちがいた。
足音を殺しながら死角を伺い、背後から首を狙う。
接触の数センチ手前で刃を二本指ではさんで止めるタヱ子。
強引に引き寄せて全体のバランスを乱し、懐から抜けるように相手の背後へ。
左右から回り込むように同時に振り込まれた刀は肩と足首をそれぞれ狙ったが、スタンピングによって足下の刀を押さえつけ、天空へ突き上げるような掌底でもって刀の軌道を無理矢理変えてかわしていく。
反転したタヱ子に力強い突きを繰り出すも、胸の前でがしりと刀身を掴まれた。
刃の左右を圧迫するという半端な持ち方で、しかし万力で固定したかのように硬く動かない。
なんとか引き抜こうとする力をそのまま利用して、タヱ子は相手を遠くへと突き飛ばした。
「おわかり、頂けましたか」
「そんな。私たちがこんな子供に……」
呆然と座り込む女たち。
彼女らは玉串黒子衆と呼ばれる『玉串の巫女候補』の覚者たちである。
ぱちぱちと拍手して後ろから現われる『くれないのそら』七墜 昨良(CL2000077)。
「代わりに戦うことはしないけど、戦い方を教えることはできる。私たちはそういう連中だよ。付き合い方、わかったかな?」
黒子衆の訓練場へやってきたファイヴ覚者たちは、非覚者の戦術アドバイザーと偽って訓練を始めていた。
といっても多くの覚者は非覚者をナメてかかっているフシがあるので、一旦実力で分からせてやる必要があった。
軽く組み手を行ないながら複数の黒子衆と渡り合う賀茂 たまき(CL2000994)。
それを離れた所で眺める、『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)と九美上 ココノ(nCL2000152)。
「たまきさんは盾を使って戦っているようですけれど、大丈夫なんでしょうか」
「神具の特殊性能でも発揮しない限りは大丈夫でしょう。パッと見で分かるモンでもないですしね」
「そういうものなんでしょうか……」
流石に非覚者のフリをして戦う経験がないラーラである。不安はかなりあったが……。
「そう難しく考えないでくださいよ。仙人とか魔術師とかどうやって存在してたと思ってるんですか。どうせ紀元前からあったんですよあんなもん」
「あんなもんって……それにタヱ子さんやたまきさんは覚醒せずに戦っていますよね。体術が使えるのはともかく、なぜあんな風に戦えるんでしょう」
「なぜって、実戦を死ぬほど経験したからでしょうに。そのへんのガキだって、紛争地帯で三十回くらい死ねば戦い方を覚えますよ」
「……」
「『死んで覚える』っていうでしょう? 普通の兵士は間一髪助かって間接的に覚えていくんですけど、皆さん普通に死んでますしね。心当たりあるんじゃないですか」
「たしかに……」
これまで何十回と戦ってきたが、そのたびに死んでもおかしくない状況におかれてきた。もし覚者じゃなければ何度死んだか分からない。
「戦うときには必ず覚醒しちゃうから気づいてないかもしれないですけど、もう皆さん、生身でも相当やれるんですよ。海外の紛争地帯で傭兵でもやったらどうです。いい金になりますよ」
『なんちゃって』と雑なふざけ方をして、ココノは煙草を吹かし始めた。
「全力で来てください! ほんとに怪我するから!」
鹿ノ島・遥(CL2000227)はカラテの構えをとると、拳銃やトンファーなどで武装した黒子衆に囲まれていた。
背後から銃撃。
遥は銃撃の気配を察して先にかわし、指に挟んでいた小石を投擲。
ただの小石だというのに相手は激しく吹き飛び、後ろの壁に叩き付けられた。
二人がかりで棍棒を振り込んでくる黒子衆。
遥は振り返りざま、純粋な突きを放った。
それだけで空気が爆ぜ、まるでワイヤー仕掛けの拳法映画のように相手がまとめて吹き飛んでいく。
「あ、あれ……? 手加減したんだけど、そんな派手に飛ばなくていいんだぜ? 気を遣ってくれてんのか?」
「……あ、ありえない」
自らの異常さに無自覚なのか、遥はからからと笑って頭をかいていた。
その一方で、『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がへそのごまを綺麗にとる裏技を解説しながら無数の術式攻撃をひらひらとかわしていた。
炎を纏った蹴りや雷撃を謎の高速移動でかわし、ウザいくらい背後に回っては『ガッテンしていただけましたか?』とか聞き始める嫌がらせを続けた。
飛来する水礫を素手で受け止め、握りつぶすプリンス。
これを自分たち以上のレベルにまで引き上げるのはそう簡単ではない……が。それだけ実戦の機会が玉串の巫女にはあるということだろう。
「ねえ、貴公たち普段なにしてるの? 素振り?」
炎の蹴りを人差し指で止めたプリンスに、姿勢を正しながら黒子衆の少女が応えた。
「正義活動に決まってるじゃないですか。私たち、元々妖を倒す組織にいたんです。でも六実さんたちに勧誘というか……その……」
「ンー」
プリンスはふと、玉串の巫女と初めて顔を合わせた時を思い出した。
彼女たちはいたずらに活動する組織を回っては注意をして、見込みがあれば巫女の候補生として引き入れていたと、確か語っていた。
「ここにいればもっと強くなれるし、もっと妖を倒せるでしょう? 初富様なんて、一月に何十件もの討伐依頼をこなしているって聞きますし……私も早く強くなって、本隊の巫女に加わりたいです! 『六実』を襲名するのが目標なんです!」
玉串の巫女はどうやら妖退治に引っ張りだこらしい。イチャモンつけてきた所と魂ぶっぱで死んでる所しか見ていなかったが、どうやら普段はかなり堅実に活動していると見える。
ファイヴのように夢見を大量に確保しているわけでもないので、すべて事前情報ナシで戦っているのだろう。
「みなさん!」
そうこうしていると、たまきたちがスポーツドリンクを手にやってきた。
「集団戦闘の訓練を始めましょう。そして明日は、いよいよ実戦です」
●実戦訓練
山中を移動する熊妖。
五体がそれぞれバラバラに移動している。
昨良は横に控えた黒子衆の女に双眼鏡を手渡した。
「地形と敵の位置を確認してね。基本だよ」
「はい……!」
真面目な女だ。思い込みも激しそうな性格をしている。
昨良はさりげなく周りの様子をうかがってみた。
こちらの戦力は20人だが、平均レベルは5程度。
ファイヴで例えると、ヒノマル陸軍との大規模戦闘をおこした時と同程度と思っていい。
「場合によっては罠を仕掛けてもいいし、通りすがりの人間を盾にしてもいい」
「そんな……」
「生きて、勝てばいいんだよ。あとは、余裕かな」
「余裕……」
昨良は担当の黒子衆に予算のちょろまかしか方スケジュールのごまかし方なんかをこっそり教えていた。最初は彼女たちも渋っていたが、昨良のもっともな物言いに最後は納得し、今では従順に言うことを聞いている。
「それじゃあ行こうか。突撃」
昨良の部隊が突撃を始めたのを確認すると、遥とタヱ子の舞台も突撃を始めた。
「戦闘に入ったらエネミースキャンで必ず能力をチェックしろ! 命がけで戦うのと死ぬのを前提に戦うのは違うからな!」
「戦闘続行の是非を、ヒーラーかスキャナーが判断してください。できれば両方の技能をもっているのが望ましいですが」
言いながら、タヱ子は自分たちの戦い方を思い返していた。
ファイヴはなんだかんだいってフリーな組織である。統率や規則といったものが乏しく、おのおのが自分の判断で動いている。
依頼達成のために協力することは多いが、それでも自分の仕事をこなすだけこなして、持て余したリソースはそのまま放っておくことが多い印象だ。
「生きていれば今より強くなって、多くの敵と戦える! 死んだら終わりだぞ! お前の代わりに頼るな! 残りの仕事を他人に押しつけんな!」
今回は四人一組のチームをつくり、それぞれにアドバイザーをつけて運用するスタイルをとった。
最初にぶつかったのは遥とタヱ子の部隊だ。前へ出すぎた妖を八人がかりで取り囲み、激しくぶつかり合う。
戦力差や相性からいって苦戦する敵ではないだろう。
判断を分けたのは負傷したメンバーへの回復。つまりヒールワークだった。
戦闘における最高のヒールワークは、誰一人戦闘不能にならず全員がほぼ万全の状態で戦い続けることだが、相手がよほど弱くない限りそんな事態にはならない。
うっかりいつもの癖で『体力半数以下の場合』や『命数復活した仲間には』『回復が必要ないときは』といったルーチンを組んでしまいがちだが、回復パターンも戦闘の性質や目的に合わせて変えていかないと必ずどこかで派手に転ぶことになる。
今回に関しては、大ダメージを受けた仲間は二発目に耐えられる自信が無いかぎりはあえて回復せずに撤退。もしくは後衛に逃げて戦闘を続行するというパターンをとった。
「敵が近接攻撃に限られている場合、ダメージは前衛に集中します。逆に相手も遠距離攻撃が可能なら回復役の消耗に注意してください!」
ラーラの呼びかけに応じて、彼女の部隊が側面攻撃を開始。
遥たちの舞台に集中しようとしていた妖が直撃をうけ、そこへ昨良の部隊が取り囲むという形で押しつぶしていく。
「戦闘訓練では魂使用や命数復活を禁止します。正攻法で勝てない時は撤退しましょう。中衛より後ろに抜かれないために隊列ブロックに気を配って、後衛からの回復はこまめに行なってください」
回復が追いつかないと判断すると、ラーラは即座に部隊を引かせた。
「一人で倒せない敵にも、仲間と協力すれば太刀打ちできます。もちうる力で目の前の苦境にあらがってください。あなたたちが行き抜いて強くなることで、救える命もあると忘れないでください!」
「あっちもやってるね。余たちも行こうよ」
「はい、では……」
たまきとプリンスは合同で一つの部隊を率いると、まずは先頭をきって妖へと突撃した。
コンビネーションアタックで妖の攻撃を防御したり、牽制してから直撃を狙ったりといった動きを見せる。
「これはほんの一例です。それと――魂使用や命数復活は行なわないこと。次につなげることの重要性を考えてください」
「チーム野中に無謀な振る舞いをしてる民がいたら注意してね。一人で急に喧嘩売ったりしないようにね。一人崩れただけで普通に全滅するからね」
「連携によって状況を打破できて、次に繋がります。妖さんに対してであったり、仲間に対してであったり……一度でダメなら、また作戦を練り直して戦えばいいんです」
プリンスは力で上回る相手に頭で対抗するすべを、たまきは叶わない相手に対して一度退いて立て直す心構えを伝授した。
「折角積み上げたものも、つながらなくては意味が無くなってしまいますから……」
たまきたちの部隊は、たまに妖とタイマンはりたがるメンバーがいたものの軽く小突いて下がらせ、力押しがダメなら一度別の部隊に任せてその場を離れ、回復で体勢を立て直してから前回の反省を活かして倒すというやり方で妖を攻略していった。
充分に戦い方をしみこませた黒子衆が五体の妖を全て倒すのに、そう時間はかからなかった。
●次につなげるために
戦闘を終えた黒子衆たちは、充実した様子でお互いをねぎらっていた。
たまきの配る肉まんを食べたり、訓練のスケジュールを軽く誤魔化して休息をとったりと余裕を見せている。
「まるで君たちは爆弾だね」
「爆弾……?」
肉まんをもてあそぶ昨良に、担当の黒子衆が怪訝そうに言った。
「君たちを都合よく使って喜んでる連中は……自分以外の妖を消して、人間も消して、まるで妖みたいだね。妖は、どうするんだっけ?」
「……」
「なんてね」
肉まんを食いちぎる昨良。
黒子衆に芽生えた僅かな反逆思想をそのままにして。
「もっと来いよ、まだ立てるだろ!」
遥は足腰の立たなくなった女性たちの前に仁王立ちし、さらなるラウンドを要求していた。
そばではタヱ子が黒子衆の連携スパーリングに付き合っている。
「私たちの考え方を、分かってくれたんですね」
「みたいだね」
プリンスは肉まんをむしゃむしゃやりながら、黒子衆たちとの会話をいくつか思い返していた。
『玉串の巫女』は今のプリンスたちよりもずっとレベルが高いが、それは組織自体のレベルキャップが高いことと、それに見合うだけの豊富な実戦機会が裏付けになっていた。
しかし(どこもそうだが)夢見は一人か二人いればいいほうで、予知も望んでできるものではない。大体は通報を受けて駆けつけ、敵のランクも分からないまま実戦に投入されている。
その中の数パーセントほどが至難クラスの戦闘依頼になっていて……と、後はラーラたちの知る通りである。
「ねえ整形してる民」
「殺すぞクソ王子」
「上位者に接触したいんだけど、できる?」
「……」
煙草をくわえていたココノは、プリンスの発言に目を細めた。
「『どっち』の上位者かによりますねえ。出資者ですか? 管理者ですか? 前者に会わせるのはちょっとしたリスクですけど、初富サンに会わせるならこっそり都合できますよ。移動中や休憩中は近づけませんから、戦闘中に混ざるカンジになりますけど」
「でも、先に皆さんを実戦で使えるようにするのが先かもしれませんね」
ラーラから見て、黒子衆はかなり危なっかしい連中だった。
全能感の強い者や、妖を過剰に憎んでいる者や、軽い選民思想を持った者も混じっている。
こういう連中は勝手に死にたがったり、他人に迷惑をかけてでも目標を達することを誇ったりする欠点を備えている。これらは訓練では補えず、隣の誰かが死ぬか自分が死ぬかしなければ変わらないとされていた。
ココノがすっくと立ち上がる。
「裏側に潜りたいなら私が代わりに回り込みますよ。それより、出資者のひとりが黒子衆の実戦投入を強く要求してます。近々投入されるでしょうけど、今の彼女たちにはかなり荷が重いですから、コマンダーを必要とする筈です。そのうち回しますよ」
煙が空へ上っていく。
未来がどう変わっていくのか、それはまだ、誰も知らぬこと。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
