鳴り止まぬ怒号
鳴り止まぬ怒号


●死闘
 川原に相対し佇む二人の男の影。静寂が支配するその光景に緊張走る。
 片一方は白い胴着姿をしており、何処まで鍛えればここまでの体躯に辿り着くのか、熊とも呼べる程の巨体をし、両腕を肩まで上げ、構えを取っていた。
 また片一方も逞しく、それでありながら形の整った体躯をしており、輝きを放つ刀を手に、対面する相手を見据えていた。
 刀身の長い刀を手にした男が一足早く動き出し、胴着姿の男へと、勝るとも劣らない大腕を振り上げ、上段の構えから、刀を振り下ろした。
 刹那、振り下ろした刀身が、宙で金縛りに見舞われたかの如く静止する。
 胴着姿の男の頬に、ひやりとした汗が流れた。そして、口端を吊り上げ笑みを浮かべた。
 胴着姿の男が、両の掌で挟み込み、受け止めていた刀身を捻るようにして連れ去る、自由を奪ったそれを、地面へと放り捨てる。
 それを受け、即座に刀を拾い上げようと動いた、男の視界が固まる。
 まるで無駄のない動きから放たれた、上段回し蹴りが、その視界へと固定され、側頭部へと触れたか触れないか判断する間に、男は地に伏していた。
「強くなったらいつでも挑戦しに来い、俺はいつでも受けてたつぞ」
 胴着姿の男が言葉を放つ。その言葉には自信が満ち溢れていた。そして、倒れる男を尻目に去る。
 真葉 涯。この男にとって、武道こそが人生だった。
 生ける時間の大半を、心技体の鍛錬に費やし、様々な流派の門を潜り、士と闘い、臨死を繰り返し、新たなる閃きを行い、自らの流を信じ、己を磨き続けてきた。
 男にとって闘争とは、何物も勝ることのない生き甲斐だった。その日までは。

●目覚め
 涯は何時かの光景を思い返していた。その時と同じ場所、同じような光景の中で。
 地に伏せ真上を見上げる。薄れる視界の中、何処からか声が聞こえてくる。
「所詮目覚められないお前はその程度だったと言う訳だ。強くなったらいつでも挑戦しに来い、俺はいつでも受けてたつぞ」
 何時しか聞いた様な言葉が発せられ、男の笑い声が遠のいていく。
 暫くの時が流れ、何時しか天からは雨が降り注いでいた。
 それはとても冷たかった。負った傷の深さを、痛感させる様な、激しい雨だった。
 涯は、その場から動けぬまま、全身に雨を浴び続けた。
「大丈夫か?」
 何時からその場に居たのか、黒いスーツに身を包んだ男が、涯を見下ろし声を掛けていた。
 その冷静な声に、不思議と涯は心を動かされた。涯の抑えていた蓋が開け放される。
「なろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!」

●事件
「最近覚者達が無差別に襲われる事件が急増している。夢見の情報から犯人である一人の犯行現場が掴めた。お前達にはその人物の無力化に当たってもらう」
 中 恭介(nCL2000002)が、招集され集まった覚者達へと依頼の説明を始める。
「犯人は真葉 涯、最近力が発現した、『破綻者』(バンク)だ」
 恭介が放った破綻者という言葉に、覚者達の表情に緊張が走る。
「犯人が覚者を狙っている事から無視をすることはできない。無力化が難しければ討伐も辞さんだろう」
 恭介は一旦一息置く様に瞳を閉じ、話を続ける。
「俺はその犯人を知っている。もし無力化ができるようならば、F.i.V.E.への引き込みを考えている」
 覚者達はその言葉に恭介を見据える。何か知っているのだろうか、そうしていると恭介が続ける。
「それは飽くまで無力化に成功した場合の話だ。お前達は犯行の阻止、そしてチームの安否を重点に置き、任に当たれ。以上だ」
 その言葉を最後に、恭介は会議室を出て行った。
 覚者達は、破綻者の阻止へと動き出す。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:そよそよ
■成功条件
1.破綻者の無力化
2.なし
3.なし
こんにちは!STそよそよです!
今回はシリアス寄りな戦闘シナリオとなります!激しい戦闘を予想しております!

敵となる真葉 涯は、自我を失いかけている『破綻者』。深度(カテゴリ)は2となっております。
夕刻の○町浜辺で、犯人の真葉 涯は、覚者である、過去に決闘を行った男性を狙っております。
自らの力によって制御のできない状態となっているため、戦闘は避けられないものとなります。
まだ自我は残っているため、話や意思疎通は可能です。
但し、覚者へと激しい怒りを抱いているため、辛辣な言葉が返ってくる恐れがあります。
PC様の行動によってシナリオ展開が変わっていきます。
敵となる涯は、破綻者という事や、発現前から力を有していた事から、程々に強いです。
止める方法や有効な言動が見られた場合、成功確率は増えます。

●敵データ
・真葉 涯
 武道をこよなく愛していた男性。
 相まみれ死闘を行った相手に、相手の力の発現後、一方的に負かされた過去がある。
 無差別に人を襲い、その目標は全て覚者を狙っている。

・攻撃手段
 正拳:鍛え上げた拳で一撃を加えます。近距離単体にダメージ。
 鋭刃脚:裂くような鋭い蹴りを放ちます。近距離単体にダメージ。
 地烈:地を這うような軌跡から、跳ね上がるような連撃を放ちます。近距離列にダメージ。
 閂通し:攻撃した相手そのものより、後ろの相手に対して攻撃を行う。近距離に貫通ダメージ。
 烈波:気の弾丸を広範囲に放ち、一斉掃射します。遠距離列にダメージ。
 小手返し:相手の力を利用して攻撃を行う。近距離単体にダメージ。
 体力強化・壱:自身の体力を底上げします。

●夢見さん情報
夕刻の○町浜辺で、涯に、男性覚者が襲われ、重傷となる予知夢を見ております。
場所は、人目のつき難い海岸での戦闘となります。
足元にはごつごつとした、大小まばらな岩が落ちています。
岩壁が傍にあり、位置が波打つ浜辺に挟まれているため、多少狭い場所での戦いとなります。
具体的には同列に二名以上並ぼうとすると、入水することとなり、何かしらのペナルティを受ける可能性があります。
海へと入水する、或いは飛行する、等を行えば、場所は広くなります。

●いきなりQ&A!
Q:夕刻になるまで泳いでいてもいいですか?!
A:遠足ではございません!泳ぐのであれば程々にしておきましょう!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2016年09月25日

■メイン参加者 6人■

『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『見守り続ける者』
魂行 輪廻(CL2000534)
『突撃巫女』
神室・祇澄(CL2000017)

●死闘
 覚者達は夕刻、目標覚者を見つけ後を追っていた。
「信じられん……、お前は本当に真葉涯なのか……? 何だ、何だその力はぁあ!」
 着物姿の男が前方へと叫ぶ。列になっていた覚者達は、海へと広がりその前方を確認する。
 そこには、巨大な体躯をした、白い道着姿の真葉 涯が、拳を丸め腕を横へと突き出し、岩壁を粉砕し巨大な穴を作り上げていた。
「この力が何かだと……?」
 涯が突き出した腕をゆらりと垂らし腕を動かす。刹那、獅子王 飛馬(CL2001466)は身を切られるような殺気を感じる。飛馬は悪い予感が過り直ぐ様水上を駆け出した。
「何故こんなことが出来る。何故こんな力が現れる。……それは」
 低く唸るような声、その声がビリビリと振動し、声に力を増していく。
「俺が言いたい方だぁあっ!」
 激しい怒号とも取れる叫びが着物姿の男へと向けられる。涯が腕を突き出した刹那、開かれた掌から巨大な気の弾丸が射出され着物姿の男へと襲いかかる。
「うわぁっ!」
 着物姿の発した声が、巨大な気の弾丸に飲み込まれようとしていた。
 その刹那、水上から跳躍し飛び出した飛馬が、宙で無銘の二刀太刀を引き抜き、刀身を半月に上らせるように描き、迫りきった気弾を斜めに逸らす様に弾かせる。
 刀身に弾かれた気弾は、勢いをそのままに上空へと飛んで行き、瞬く間にその視界から遠ざかり消えていった。
 勢いを抑えるように岩壁に背を付け、着物姿の男が無事なことに飛馬は一息つく。着物姿の男は後ろに倒れたのか尻餅をついており既に戦意は見られない。
「ちょっと待った。相手は俺らが引き受けるぜ」
 その声に頷く様に、覚者達が前へと姿を見せる。それを見た涯が覚者達を見据える。
「オマエ達も覚者か」
 涯の見据える眼に、怒りがこみ上げていることが分かる。
 激しい殺気の込められた瞳に見据えられる。それを見て、悲鳴を上げながら着物姿の男は逃げ出した。
 それとは真逆に、視界の先で前へと出た魂行 輪廻(CL2000534)が涯へと声を掛ける。
「ん~、まずは落ち着きなさいな♪」
 本来であれば警戒心を抱かせない様な笑顔で宥める。
 涯は表情を一切緩めず、駆け出すと、一直線に輪廻へと向かい、鍛え上げられた豪腕を振りかぶり、輪廻へと拳を強く握らせた正拳突きを放った。
 輪廻はそれを見て徐に服に手を伸ばし、隠していた刀を取り出すと、涯の放つ突きの軌道に合わせ、鞘付きの刀を縦に構え拳を受け止める。
 激しい衝撃が刀を伝わり輪廻の腕を痺れさせる。輪廻は驚く程早く刀を持つことを諦め、刀から手を離す。
 刹那、輪廻は笑みを浮かべたまま姿勢を低くし、涯の足へと鋭い足払いを放った。
 涯は足を払われ宙に浮きながら、地に近い方の腕で受身を取ろうと腕を地に伸ばす。
 それを狙っていたかの如く、輪廻が低い体勢から両腕で、涯の伸ばした腕を掴み、勢いのまま涯を背負い地面へと力強く叩きつけた。
 予想だにしない投げ方により、涯は背を強く打つ。しかし鍛え上げられた体躯は直ぐ様起き上がり、物ともしないように構えを取りなおした。
「……と、言っても当然落ち着く訳無いわよねぇ」
 笑顔を崩さず微笑みながら輪廻が涯へと向き合う。
「なら……戦いながらで良いから貴方の内を吐き出しなさい。貴方のお腹の中の悪い虫を全部吐き出すまで、付き合ってあげるわよん♪」
 構える涯へと構える輪廻。それは相対する武道家として一番解りやすく、あるべき姿にも映る。
 涯の背後で石を踏む足音がする。涯は音に気が付き振り返った。そこには正面に無防備で立つ酒々井 数多(CL2000149)が居た。
「あなたが、真葉 涯さんね」
 今すぐにでも攻撃の行える構えの涯が数多を睨みつける。しかし数多は構えない。
「うちの中さんって人がすごい貴方のことを気にかけてた。うちにこいって。けど、はい、そうですかと来れるようなものじゃないわよね」
 数多が指を涯へと突きつけ高らかに宣言する。
「私は櫻火真陰流、酒々井数多。尋常に勝負を申し込むわ! 私たちが勝ったら私達のいうことをききなさい。武術家にとっては、それが一番わかり易いでしょ?」
 涯はその言葉を肯定と取るように、構えを取りなおす。それを見た数多も相対し、構えをとり、体内に宿る炎を灼熱化させ戦闘態勢へと入る。
 それにつられるように、覚者達は各々自己強化を行い、戦闘態勢へと移っていく。
「(何故、力が、ですか、……。)」
 神室・祇澄(CL2000017)は涯を見据え、物思いに沈む。
「武を志す、者として、この方の、気持ちは、わかる気が、します」
 祇澄は腰に差した双刀に手をかけ、その手へと視線を下ろす。
「ですが、その行いは、断じて許せる、ものでは、ありません」
 外からは見られない、目深にかかった髪奥の眼に、決意が宿る。
「持てる技、全てで、お応えしましょう。神室神道流、神室祇澄。いざ、参ります!」
 祇澄が双刀を引き抜き、水平薙ぎ、切り上げと流れるように、目にも止まらぬ二連撃を繰り出す。
 その太刀筋から放たれた剣閃が、飛翔する燕のごとく涯の体を通り過ぎ斬りつける。
 涯は前後挟まれている状況から、回避を行わず、両腕でその斬撃を耐え凌いでいく。
 祇澄は狭い足場をものともせず、舞う様に動き、次々に斬撃を繰り出していく。
「この舞を、止められますか」
 受けの構えを取っていた涯は、舞いながら回転する祇澄の手首を素早く掴み、攻撃の手を止めた。
「磨き上げた、武とは違う、純粋な力」
 祇澄は冷静にその力を認める。
「ともすると、暴力的な、その力は、積み上げた、経験を、覆して、しまいます」
 髪奥の眼が、悲しみの表情に変わる。
「力に溺れた、今の貴方は、武人ではなく、ただの乱暴者、です。自らの武に、誇りを持つならば、正々堂々と、果たし合おうでは、ありませんか!」
 祇澄は本心を曝け出し、涯に迫り想いを伝える。
 しかし、涯の眼には再び怒りが宿り、怒号を上げ暴れだし、祇澄の手を放り放った。
「オレは……このような力を望んではイナイッッ!!」
 それを見ていた葦原 赤貴(CL2001019)が、自己強化を追え、水上を歩行し、両刃の剣を構える。
「(後方には冷静な回復役、地上には信頼する姉貴分がいる。オレは、着実に削り取っていけばいい)」
 戦況からそう判断し、赤貴は目標である涯を睨みつける。
 赤貴は涯へ怒りを覚えていた。武道を志す者はいくらでも見てきた。そして剣を交えてきた。
 今共に戦う仲間もそうだ。皆力に翻弄されその中で道を見つけ、戦い続けている者達だ。
「因子なぞ、力の一要素に過ぎない。その程度で崩れる信念なら、この場で跡形もなく砕いてやる」
 その刹那、涯が、怒号を上げ不意に動き出す。
 前衛にいた祇澄へと、涯が素早く間合いを詰め、片足を振り上げ鋭い蹴りを放とうとする。
「容赦などするものか」
 祇澄が攻撃を受けようと双刀を目前で構えた刹那、その足元から突如巨大な岩槍が隆起する。
 岩槍は蹴りを放つ涯の腹部を貫き、大きく涯を後ろへ押し返す様に連れ去った。
「イカれて醜態を晒すのが武道か。それがオマエの人生か」
 岩槍に貫かれ、身動きの取れぬ涯へと赤貴が歩み寄り声を掛ける。
「オレは……命を懸け、武の道を極めようとしていた……。ソレヲ、ココノチカラガスベテムニカエラセタノダッ!!」
 涯が拳を振り下ろし巨大な岩槍を、まるで木屑の塊の様に粉砕する。
 涯は大きな傷を負ったことをものともせず、素早く足取りを刻み、赤貴へと迫り、鋭い突きを放つ。
「カクシャ……、ソノヨウナモノハイテハナランッ!!」
 赤貴は両刃の剣、沙門叢雲を体の前に構え、涯の片腕とは思えない圧倒的力を、全身の力を用いて受け止める。
「隔者も憤怒者も、妖すらも。いつでもどこでも似たような事を言う。最近の流行らしいな」
 赤貴は焦りなど、表情にはまるで出さず。素早く背後へと下がりながら水上へと移動し、強力な攻撃を凌ぎきる。
「(立ち直れるならば、共に戦える。ここで終わるなら、それまで。できなければ死ぬ、それだけのことだ)」
 赤貴と入れ替わるように前衛へと躍り出た数多が、入水しながらも、祇澄と同時に素早い剣技を放っていく。
 祇澄の舞うような剣技に比べ、数多の剣技は一打一打が力強く、致命傷を避けていた涯の防御術すらを圧倒していく。
「(力ってなんだろう? 強さってなんだろう?)」
 数多は、目にも止まらぬ斬撃を涯へと浴びせながら、それはどこか他人が行っているものの様に物思いに沈んでいた。
「(私だって武術家の端くれ。いつだってそれを求めて生きてきたしこれからも。武術の極みを目指して強くなりたい)」
 その想いは一打一打放たれるその力から容易に分かる。
「(そうね、わかってる。覚者になってその伸びは一気に加速した。今までの自分がなんだったのかと思うくらいに)」
 数多は、初めて力の発現した時のことを思い返す。その時、数多は、涯と同じ事を思っていた筈だった。
「(だけど)」
 刹那、涯が再び激しい怒号を上げ、数多はその場へと引き戻される。
 涯が守りの構えを取っていた両腕を振り上げ、勢いよく地面へと叩きつけた。
 叩きつけられた地面が大きく凹み、周囲に落ちていた大小まばらな岩が弾け飛び散り、傍に居た数多と祇澄へ飛散し、攻撃の手を止める。
 刹那、涯が下ろした腕を巻き上げ、まるで地面を捲りあげる様な激しい地裂を巻き起こした。
 飛散する岩石に視界を阻まれ、不意を突かれた数多と祇澄はその地裂に巻き込まれ、大きく背後へと弾き飛ばされる。
「――っつ……」
「ぅっ……」
 手痛い反撃を受け、弾き飛ばされた先で、数多と祇澄は立ち上がろうとするが、ダメージが大きく直ぐに立ち上がることができない。
「大丈夫か、少し待ってな」
 直ぐ様駆け寄った香月 凜音(CL2000495)が経典を手にし、開くことはせず、慣れたように読経し、水行の術式を顕現させ、自周囲に恵の雨を降り注がせる。
 降り注いだ潤しの雨は、傷付き倒れる二人の身体に触れると、負っていた傷を治癒させていき、また負傷の痛みを和らげさせていった。
「俺分身出来ないから、同時全回復はできねー。危なくなったら前・中衛は交代しながら戦ってくれな」
 そう忠告しながら、ひとまず凜音は中衛へと移動し、味方を吹き飛ばした涯を見据える。
「(武道の道を歩んでいた者からすれば、相手の発現が理由で負かされた。……となればいい気はしないだろうな)」
 深い傷を負いながらも、それでも尚怒りを顕にさせている涯を見据え、凛音は物思いに沈む。
「この世は不条理なものばかりだから、荒れたくなるのも理解できる。―――が。自我を失いかけるほどの怒りを覚える理由は俺には分からんな」
 凛音は考えた結果、そう結論付いた。だからこそまだ戻れる。
「真葉……だったか?」
 気が付けば凛音は言葉を口にしていた。面倒くさがりの凛音自身その言葉に驚きながらも、顔を向けた涯へと続ける。
「いーじゃねーの。発現した奴を恨まなくても。お前さんはそのまま自分を鍛えなよ。で、こんなに強いんだ、って、お前さんを負かす奴らを地面に叩きつけて証明して来いよ」
 その毒気の抜かれる様な言葉に、涯は一瞬動きを止める。しかし、やはり何かを思い返すのか、再び眼に怒りを宿し、鋭い表情で睨みつける。
「(他人に迷惑かけるんじゃねーよ。と言いたい所だが偶には、な)」
 凛音はそれ以上は何も言わず、前衛の欠けたその場を、持ちこたえようと、慣れない構えを取る。
 その構えを見据え、涯が大きな怒号を上げると、凛音目掛けて駆け出し、勢いを乗せた正拳突きを放とうとする。
「待て待て、そんなん受けきれるわけねーだろ」
 あまりの涯の速度に、避けるか受けるかの判断もできぬまま、凛音は両腕を前に構え、痛打を覚悟した。
「危ねえにーちゃん」
 水上を駆ける飛馬が、海面を力強く蹴り大きく前方へと跳躍し、涯の放った渾身の突きが凛音へと衝突する既の所へと割り込み、その身で拳を受け止めた。
「ごふっ……」
 突きを腹部へと受けた飛馬の体が、空中で静止する。それ程までに深く入った突きは、蔵王で強化し、日々の鍛錬で打たれ強い飛馬にも堪える程の衝撃だった。
「助かった、あんがとな、……って大丈夫か?」
 涯が腕を引き、宙から放たれた飛馬を凛音が受け止める。
 飛馬は息荒く、地に膝を付きながらも上体を上げ涯を見据える。
「その型、その無駄のない攻撃。単なる発現だけの力じゃねーな」
 飛馬は道場の跡取りであり、一つの型を極める難しさを理解していた。
 数打を見し、浴びただけでその型をどれだけ修練してきたか、飛馬は肌で感じていた。
「あんたそれでいいのか?」
 その言葉に涯の表情がぴくりと揺れる。
「あんたが修めてきた流派の中には自律を教える流派だって沢山あったはずだろ。敵を倒す前に、自分に負けちまってるじゃねーか」
 ここに集った6人の覚者達。それを同時に相手し、臨機応変に立ち回るその対応力は、一つの流派だけを見てきた者では到底不可能と思える。
 ともすれば気の遠くなる程の流派と対峙し、修得してきた事が分かる。だからこそ、飛馬は自我を失いかけているその男を惜しんだ。
「ぶち当たった壁の大きさ、挫折の大きさはわかんねーけどさ。まずは自分を取り戻そうぜ?」
 先程の突きを受け、口端から血を流しながらも、飛馬は笑みを浮かべ、手を差しだす。
「修行なら付き合う……一緒に強くならねーか?」
 涯の怒りに塗れていた眼が、飛馬の差し出した手を見据える。
 暫くの時が流れた。涯も、その言葉を受け、迷ったのだろう。
 しかし、いくばくかの時が経ち、静寂を破るように涯が呻き声を上げ頭を揺らし始める。
「チガウ、コノチカラハオレノジツリョクデハ……ナイッ!」
 涯は苦しみ喘ぐように、叫びをあげながら激しく暴れ、力を放出させていく。
 このままでは涯の肉体が持たない。誰もがそう感じていた。
「なるほどねん~、それで苦しんでいたわけなのねぇ~」
 輪廻が暴れる涯へと近寄る。相も変わらず笑顔は崩さないが、その声はどこか雰囲気が違う。
 その声に反応するように、涯が素早く振り向き、輪廻へと鋭い突きを放つ。
「貴方みたいに不器用で一つに真っすぐにしか生きれない人は堅苦しくてちょーっと苦手だけど……でも、嫌いじゃないわよん」
 輪廻がその突きを半ほど上体を逸らし回避する。そして涯の懐へと姿勢を低くし、潜り込む。
「だから、良かったら次もやりたいと思わないかしらん?」
 にこっと微笑んだ輪廻の表情が、霞がかるように揺らいだ。
 刹那、目にも止まらぬ三連撃が。涯の急所へと放たれ、重みを帯びた強力な突きが巨体を突き飛ばした。
 蹌踉めき、涯は遂にその巨体を支えきれず膝を付く。しかし目に宿った怒りはまだ消えていない。
「グォオッ!!」
 その時、背後から、傷を負っていた数多が立ち上がり、前へと進み涯へと近付いていく。
「あなたも、もう覚者よ。発現した力は今までとは世界を変えるわ」
 数多が静かに涯へと声を掛ける。その声に反応し、叫ぶ涯が数多へと顔を向ける。
「できなかったことができるようになる。まるで運命にあざ笑われてるかのようね」
 数多は片腕を力強く岩壁へと叩きつけた。
 数多の拳が岩壁に衝突し、音を立て崩れる。
 岩壁に大きな穴を開け、その隣には同程度の大きな穴が空いていた。
「貴方は覚者が憎いんじゃない!この力が疎ましくて困惑してるだけ!」
 数多が叫びその声を発する。それを聞いていた涯の目が大きく見開かれた。
「だから、そんなクソ食らえな力に振り回されてんじゃないわよ!」
 数多は感情を昂ぶらせ、言葉を続ける。
「私達は武術家よ!なら自分が得た力を認めて力を上手につかって、自分の強さに変えなさいっての!」
「ヌォオッ!!」
 涯は、最大限に見開いた眼で数多を睨み、渾身の突きを放つ。
 迫る拳を、数多は素早く跳躍し避け、岩壁を蹴り、再び跳躍すると、涯を飛び越え後ろへと回り込み着地する。
 そして、二人は同時とも思える折に、振り返る。
 そこには、数多の伸ばした手に握られた、刀の刃先が涯の顔前で止まっていた。
「強い貴方と私もっと戦いたいわ! だからきなさい! FiVEに」
 数多が普段の表情で、微笑む。
 その表情を見据えていた涯の体が揺れ、膝を折り、ゆっくりと地面に倒れ込む。
「オレハ……」
 暴走を止め、怒りの表情を弱めた涯が、体を半分転がし仰向けに空を眺める。それはいつか見たときとは違う、敗北の空だった。
「やっと止まったか、手間かけさせるんじゃねーよ」
 凛音が疲れたように体を伸ばす。
「インヴァース。力を求める覚者を集めているチームだ」
 赤貴が名刺を涯へと投げる。涯は、視線を動かしそれを掴んだ。
「覚者として高みを求める気があるならば、歓迎する」
「あっ、私もいるから、来なさいね!」
 去ろうとする赤貴に覆い被さりながら数多が微笑む。
「力を、求めるのでしたら、いつでも、挑戦しに、来てください。私はいつでも、受けて立ちます」
「おう、俺もつよくなりてーし、いつでも受けて立つぜ」
 祇澄と飛馬も微笑む。それが伝わったか伝わらないか、涯は目を閉じ気を失った。
「あら~皆ぼろぼろねん♪帰ってシャワーを浴びるわよん、勿論みんなでねん♪」
 輪廻は問題発言をしながら微笑む。涯を連れ、覚者達は戻るべき場所へと戻っていった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

破綻者である真葉涯の無力化を成功させた結果から、成功となりました!
その後、真葉 涯はFiVEの処置により自我を取り戻し、FiVEの一員となり、覚者の現れに関する要因を調べていくこととなりました。

今回のMVPもやはり迷いました!
迷って迷って迷った結果。涯の心情を的確に理解し、涯に敗北を認めさせた酒々井 数多様をMVPと致しました!
皆様の熱い戦闘と心理描写の詰まったプレイングを読みながら、やはり甲乙付け難く、またまた良い意味で苦しめさせて頂きました!
今回はご参加ありがとうございます!また描写させて頂く機会が御座いましたらよろしくお願い致します!




 
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