刃持つ 彼岸の花が死を告げる
●彼岸に咲く花
彼岸花――
学名はリコリス・アジラータ。六枚の赤い花弁を咲かせる有毒性のある植物で、夏の終わりから秋にかけて、枝も葉もない赤い花を咲かせる。
『死人花』『幽霊花』など様々な異名を持つ花で、不吉として忌み嫌われることもある。だが同時に『曼珠沙華』の異名を持ち、天上の花として吉兆を意味することもある。
秋に彼岸に告げる赤い花。
それを象徴するかのように、一つの『死』が赤い花畑の中に立っていた。
着物の色は闇を示すかのように黒く。
手にした刀は赤い花弁を映すように濁りなく。
周囲を渦巻く幽鬼はその『死』に従う様に周囲を漂う。
そこに『ある』だけで死を生み出す妖。秋の彼岸に咲き、赤い花を咲かせる死の象徴。
例えるなら『赤の死神』――
●FiVE
「危険な妖です」
開口一番、久方 真由美(nCL2000003)は告げた。
「分類するなら『心霊系・妖』でしょう。『死』と言う概念を背負った『自然系・妖』という意見もあります。ランクは3」
ランク3の妖。先々月に討伐したランク4には劣るが、それでも油断ならない相手なのは確かだ。
「この妖は周囲の低ランク心霊系妖を集めます。今は数が少ないですが、放置すればかなりの数が集まることが予知されています。そうなればかなりの脅威になるでしょう」
人に害為す妖。ランクが低いとはいえ、戦闘訓練を積んでいない人間に対抗できるものではない。それが多数集まるとなれば、それだけで脅威だ。そうなる前にこの妖を叩いておく必要がある。
「繰り返しますが、危険な妖です。危なくなったら退くことも考慮に入れてください」
幸いにして、逃げる者は負わないようだ。この地に縛られているのか、それとも別の理由があるのか。
ともあれ危険な妖を放置することはできない。覚者達は神具を手に会議室を出た。
彼岸花――
学名はリコリス・アジラータ。六枚の赤い花弁を咲かせる有毒性のある植物で、夏の終わりから秋にかけて、枝も葉もない赤い花を咲かせる。
『死人花』『幽霊花』など様々な異名を持つ花で、不吉として忌み嫌われることもある。だが同時に『曼珠沙華』の異名を持ち、天上の花として吉兆を意味することもある。
秋に彼岸に告げる赤い花。
それを象徴するかのように、一つの『死』が赤い花畑の中に立っていた。
着物の色は闇を示すかのように黒く。
手にした刀は赤い花弁を映すように濁りなく。
周囲を渦巻く幽鬼はその『死』に従う様に周囲を漂う。
そこに『ある』だけで死を生み出す妖。秋の彼岸に咲き、赤い花を咲かせる死の象徴。
例えるなら『赤の死神』――
●FiVE
「危険な妖です」
開口一番、久方 真由美(nCL2000003)は告げた。
「分類するなら『心霊系・妖』でしょう。『死』と言う概念を背負った『自然系・妖』という意見もあります。ランクは3」
ランク3の妖。先々月に討伐したランク4には劣るが、それでも油断ならない相手なのは確かだ。
「この妖は周囲の低ランク心霊系妖を集めます。今は数が少ないですが、放置すればかなりの数が集まることが予知されています。そうなればかなりの脅威になるでしょう」
人に害為す妖。ランクが低いとはいえ、戦闘訓練を積んでいない人間に対抗できるものではない。それが多数集まるとなれば、それだけで脅威だ。そうなる前にこの妖を叩いておく必要がある。
「繰り返しますが、危険な妖です。危なくなったら退くことも考慮に入れてください」
幸いにして、逃げる者は負わないようだ。この地に縛られているのか、それとも別の理由があるのか。
ともあれ危険な妖を放置することはできない。覚者達は神具を手に会議室を出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『赤の死神』の打破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
一面の彼岸花よりも、道端に咲いている一輪の彼岸花のほうに心惹かれます。
●敵情報
・『赤の死神』
心霊系妖、ランク3。人間の姿を模した妖です。曼珠沙華の意匠を施した黒い着物を着て、日本刀を持っている女性の姿をしています。
存在するだけで低ランクの心霊系妖を呼び寄せる性質を持ち、早急に倒すべしという判断が下されました。
会話できるほどの知性はなく、生きている者に攻撃を加えてきます。
攻撃方法
剃刀花 物近列 刃を振るい、近寄るものを傷つけます。〔流血〕〔二連〕
死人花 物遠貫3 巨大なオーラが髑髏の手と化し、真っ直ぐ振り下ろされます。(100%、50%、25%)
痺れ花 特遠単 痺れる様な毒の吐息を放ちます。〔猛毒〕〔痺れ〕
狐花 特遠全 突如体が発火します。〔火傷〕〔弱体〕〔鈍化〕〔負荷〕〔ダメージ0〕
幽霊花 P 戦場に存在する『幽霊』の数に比例して、物攻&特攻上昇。
彼岸花 P 死に誘う彼岸の花。全ての攻撃に、防御側の『100-<現在の命数>』点の防御不可ダメージが追加で発生します。
・幽霊(×3~)
『赤の死神』に引き寄せられるようにやってきた妖です。心霊系妖、ランク1。半透明な人の姿をしています。
五ターン毎に三体の『幽霊』が『赤の死神』と同じ場所に出現します。
『赤の死神』が戦闘不能になれば、霧散していきます。
攻撃方法
冷たい手 特近単 生命力のない手で触れてきます。〔Mアタック50〕
怨嗟の声 特遠単 死を拒絶する声で生者を恨みます。〔不安〕
●場所情報
とある山の中腹にある彼岸花の群生地。一面の赤い花畑の真ん中に妖はいます。
時刻は昼。足場や広さなどは戦闘に影響しないものとします。
戦闘開始時、敵前衛に『赤の死神』『幽霊(×3)』がいます。覚者との距離は二十メートル。事前付与は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年09月14日
2016年09月14日
■メイン参加者 8人■

●
「ランク3か、強そうだ。気合い入れていくぜ」
彼岸花の中に立つ妖を見て『デジタル陰陽師』成瀬 翔(CL2000063)は頬を叩く。気合を入れて戦わなければ返り討ちに会うだろう。心を熱く滾らせながら、思考は冷静に。呼吸を正して、浄化の力を仲間に付与した。
「ランク3の妖かー。俺、実は戦うの初めてだったりするんだよな」
目の前の妖を見ながら『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は刀を構える。太刀と脇差。その二本を手に妖の前に立つ。強い相手という事は聞いている。自分の剣術がどれだけ通じるか。そんな挑戦でもあった。
「ふっ、幽霊が寄ってくると案内人みたいですねっ」
妖の周囲に集まる低ランクの魂たち。それを見ながら『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)は頷いた。身体を器物化しながら派手な光と共に覚醒して前に進む、どういう理由で生まれたかはわからないが、これを滅ぼすのが浅葱の正義。歩みに迷いはなかった。
「ふんっ! 彼岸花だから死の象徴とは短絡な妖だな」
吐き捨てる様に言い放つ『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)。彼岸花には『死』以外のイメージもあり、死を表向きに出すのは鼻に対する冒涜だ。花屋としてそんなたんらくな妖は生かしておけないと斧を手にする。
「そうだな。縁起が悪いと言われるが綺麗な花だ」
頷くように『花守人』三島 柾(CL2001148)が彼岸花を見ながら呟く。体内の炎を活性化させながら、一面に広がる紅色の花びらを見た。綺麗な花だが、ここまで沢山咲いていると恐怖を感じる。
「確かに綺麗なはずなのに、あの世に惹きこまれそう」
『月下の白』白枝 遥(CL2000500)もまた、一面の彼岸花畑に恐怖を感じていた。網膜に写る赤は、まるで別世界に紛れ込んだかのような錯覚を与える。その空気を払う様に力を抜き、神具をを手にした。
「彼岸花、か。この花が散る姿は、血が舞うようで悲しみを覚えるが……」
思い出に浸るように『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)が息を吐く。水の力を活性化させて浄化作用を増しながら、赤い花畑を見る。そしてそこに立つ妖を。思うことは色々あるが、人に害為すのなら討たねばならない。
「不吉な印象も多いけど、この赤い花は死者を迎い入れ慰める立派な花だって父様と母様が言ってた」
『愛求独眼鬼/パンツハンター』瀬織津・鈴鹿(CL2001285)は今は傍にいない両親を思い出しながら呟いた。父と母が大好きだった花。その二人に彼岸花の事を教えてもらった。眼前に広がる赤の絨毯。そこに立つ黒い着物。言葉なく、刀を抜き放つ。
『赤の死神』は覚者の存在を感知すると、持っている日本刀をちらつかせる。此処より先、入りし者は死を覚悟せよ。言葉なく、しかしはっきりと拒絶を伝える。覚者達もそれを感じながら、戦場に進む。
死を運ぶ妖。それを阻止する覚者。両者はそうであるのが当然であるかの如く、互いの武器を向け合い戦いに挑んだ。
●
開幕を告げたのは『赤の死神』だった。刀を一閃すると炎が走り、覚者達を包み込む。
「貴女は敬意をもって倒すの」
その炎のカーテンを抜けて走り込む鈴鹿。白い長髪をふわりと回しながら妖を見る。妖は人に害為す者。不倶戴天の存在。だが、それは敬意を抱いてはいけない理由ではない。彼岸花に断つ死の妖。その視線を受け止める。
足を止めると同時に両手を合わせる鈴鹿。右手に父親、左手に母親の温もりを思い出しながらパン、と音を立てる。動作と同時に体内に循環させた天の源素を解放し、妖の周囲に霧を発生させる。視界を奪い、その攻撃力を下げる為に。
「父様、母様、力を貸してください」
「死者を集める妖か」
『赤の死神』の周囲に集う低ランクの妖を見ながら、柾は神具を構えなおす。妖は討たねばならない。それは道理だ。このまま放置すればこの低ランク妖がどうなるか。それ以前に、この『赤の死神』が人の住む地に移動すれば。それだけは避けねばならない。
一秒後の自分の姿をイメージし、その通りに体を動かす。否、柾の体は思うよりも速く動いていた。近づきながら気弾を放ち、その踏み込みの勢いを殺すことなく前進する。腰の筋肉を弛緩させ、回転させながら拳を穿つ。
「体術が全く効かないわけじゃないが、やはり効きは悪いな」
「心霊系だからな。だけど効いてるのは確かだ!」
妖の様子を見ながら翔が口を開く。痛がっているわけではないが、攻撃の度に妖が薄まっていく。攻撃を積み重ねれば打破は出来るはずだ。問題はそれまでにこちらが立っていられるか。ランク3という名称は決して楽観できる相手ではないことを翔は知っている。
妖の炎を振り払いながら走り込み、印を切る翔。指先に集う天の源素。それが激しい稲光と化す。翔の指が天を刺すように掲げられれば、指先の稲光は高く空に向かって飛び、そして妖の群れに向かって落ちていく。雷撃が妖を穿っていく。
「話ができるなら、名前ぐらいは聞きたかったな」
「この地に何か所縁があるのかもしれん。後で調べてみるか」
薙刀を構え、行成が翔の言葉に応える。心霊系妖は、その発生に何かしらの依代が存在することがある。それはこの地か? 彼岸花か? あるいは別の何かか? そこにこの妖の『名』があるのかもしれない。だが今は妖退治が優先だ。
相手の足を止めるために、全力で間合いを詰める行成。妖の刀を薙刀で受け止め、神具ごしに妖を見る。冷たく、そして鋭い殺気を含んだ瞳。その殺気を振り払うように薙刀を振るう。炎を纏った一閃が妖達の体勢を崩す。
「彼岸花には再会を待つ意味もある。異名が多かったはずだ」
「赤い彼岸花の花言葉は『情熱』『再開』『想うはあなたひとり』だ。異名は全国に千近くあるぜ」
花屋である義高が笑みを浮かべて応える。毒を持ち、死を想起させる彼岸花。だが有毒の植物など幾らでもある。花を正しく取り扱わない人間が決めつけた死のイメージ。そしてそれに引っ張られる妖。花を大事にする者として、許しがたいことだった。
一気に間合いを詰めて、手にした斧を振りかぶる。幽霊がざわめくが、それを無視するかのように『赤の死神』に向かい斧を振ろ下ろした。精霊顕現の紋様が光り、土の力が神具に伝わる。重量と源素が絡み合った刃が妖に叩き込まれる。
「前がもし傷つけ、殺すことを望むのであれば、もちろん殺される覚悟もあるんだろうなぁ!?」
「死神さんですからねっ。その覚悟はあるのでしょうっ」
刃から伝わる説明できない何か。それを感じながら浅葱が答えた。殺気に乗せられたのは死闘の意志。それは自らの命を懸けている者のみが発する気。妖と人間が同じとは思わないが、確かにそれを感じさせる意志はあった。
その殺気を受け止めながら、浅葱は笑みを浮かべる。相手の正義、自分の正義。それが異なるというのなら、答えは一つ。相手の体勢を崩しながら拳を叩き込み、その勢いのまま妖を投げ飛ばす。今こそ力を振るうときだ。
「さあ、死を忘れるぐらい拳で語り合ってみましょうかっ」
「あの世に引き込まれたくないものね」
神具を握りしめながら遥が言葉を挟む。一面の彼岸花。黒の着物と日本刀。この世ならざる恐怖を想像してしまう。確かに綺麗な光景なのに。否、奇麗な光景だからこそ、目を奪われそのまま死に誘われそうになる。
そんな思いを振り払いながら、遥は戦場に目を移した。傷ついた仲間たちを見やり、水の源素を体内で循環させる。冷たく、そして澄んだ水。透明な湖をイメージし、源素を解き放った。術は仲間の傷を冷やし、包み込み、そして癒していく。
「呆けてる暇はない、ね。さあ頑張ろう!」
「言われなくとも頑張るさ!」
気合を入れる様に叫ぶ飛馬。相手の攻撃を刀で受け止めながら、その速さと強さに歯軋みしていた。一撃一撃が重く、そして速い。だがそれを受け止めてこその巖心流。身に着けた剣術は確かに役に立っていた。
飛馬は相手の攻撃を受け止めながら、仲間の覚者に手を触れて呼吸を整える。体内の『気』を手のひらに伝え、注ぐように相手に送り込む。念じる戦の祝詞が相手に渡り、仲間の攻撃を活性化していく。
「でも最後まで立ってるためには、ちょっとばかし気合が要りそうだ」
飛馬の言葉に無言で頷く覚者達。相手は強く、そして時間が経てば幽霊が集まりさらに強くなる。ただ神具を振るうだけでは、勝ち目はないだろう。僅かな隙が敗北を生む。相手の攻撃は無言でそれを告げていた。
「くそっ!」
「まだ負けられないの!」
「流石に楽じゃないかな」
義高、鈴鹿、遥が『赤の死神』により体力を削られ、命数を削られる。なんとか意識を保つが、楽観できる状況ではない。
『赤の死神』に引き寄せられて、幽霊が増える。時間は覚者に味方をしない。
覚者達はそれでも臆することなく戦いに挑む。
●
赤い花が戦いの風に揺れる。
覚者達は『赤の死神』打破を中心に動いていた。単体攻撃で『赤の死神』を狙いながら、範囲攻撃で幽霊を巻き込みつつ攻める。
妖の戦術は幽霊の攻撃でバッドステータスの抵抗力を弱め、『赤の死神』の攻撃効率を上げていく、と言う形だ。
「精神的誘惑の抵抗をあげる技能では、幽霊の不安をはねかえせませんかっ」
「バッドステータスに対する抵抗にはならないのか……」
龍の心をもって幽霊の術に抵抗しようとした浅葱と飛馬は、残念そうに拳を握る。
「柾さん、翔」
「分かってる」
「護りは任せておきな!」
行成の言葉に柾と翔が頷く。目線と足の動きで、互いの意図を察して動き出す。
「諸諸の禍事、罪、穢有らむをば。祓へ給ひ清め給へと白す事を――」
吹き荒れる妖の炎を前に翔が祝詞を唱える。それは祓詞。罪や穢れを払いのける言葉。それと共に涼風が翔を中心に吹き、仲間を包む炎を打ち払った。
「聞こし食せと恐み恐みも白す」
「冷たく燃え上がれ、我が炎……彼岸花の燃える赤に打ち負けぬ様に!」
その風が来るのが分かっていたかのように、行成は攻勢に出ていた。刀身に華があしらわれている薙刀を回転させ、その回転に幽霊たちを巻き込むように舞う。刃の演武は『赤の死神』をも巻き込む。そして回転を縫うように割り込む影一つ。
「限界まで炎を叩き込む!」
割り込んだ影の名前は柾。長柄の武器を振るう行成が目を引き、柾の姿を一瞬逸らさせたのだ。わずか一瞬。だがその隙を逃すことなく懐に入った柾は、ここが好機とばかりに炎の拳を叩き込む。
「目で捉えてどうこうできる動きじゃねえな……!」
義高は鍛えられた観察眼で相手の攻撃を見切ろうとしたが、その困難さを実感する。見えた、と思った瞬間にはすでに攻撃されているのだ。それに集中すれば、押される可能性が高い。諦めて『ギュスターブ』を振るい、攻撃に出る。
「癖やパターンも……読み切れそうにないか」
義高と同じく妖の目線や体幹の向きから攻撃を見切ろうとしていた飛馬も、音を上げた。一の構えから派生する技は八以上。構え自体がどれだけあるかわからない。その全てを知るには時間が足りない。見るだけで攻撃がかわせるほど『武』が甘くないのは知っている。
「まだだ……!」
「倒れるわけにはいかないよ」
「きついですねっ」
度重なる『赤の死神』の攻撃に行成、柾、浅葱が命数を削る。
「回復しますよっ。誰も倒れさせはしませんからねっ」
浅葱は疲弊した仲間を癒す為に回復に移行する。体術の効きにくい心霊系妖に打撃を加えるよりは、回復を行った方が効率よいと判断したからか。生命力を相手に受け渡し、前衛を中心に傷を癒していく。
「ありがとう。何とか持ち直すよ」
肩で息をしながら遥が回復の術を行使する。妖からの攻撃は飛馬が庇ってくれる。今は回復を続けて、仲間の体力を維持するのが自分の役割だ。油断すれば死に引き込まれかねない。この彼岸花に引きずられるように――
「これ以上は無理なの。一旦回復に回るの!」
前に出て『赤の死神』の剣筋を見切ろうとしていた鈴鹿は。予想以上の攻撃で疲弊して諦める。毒の衣をまとい相手に相応のダメージを与えていたが、鈴鹿自身はそれ以上の傷を受けていた。限界を悟り、下がって回復を行う。
「幽霊の数が増えたか……!」
「仕方ない。積極的に潰していこう」
そして時が経つにつれ、低ランクの幽霊が増える。それにより切れ味を増す『赤の死神』の刃。柾は積極的に幽霊排除に動き、幽霊に打撃を加えていく。しかし、
「気力の限界が近い……!」
覚者とて、無限に攻撃できるわけではない。幽霊の攻撃は冷たく気力を削ってくる。それ自体は夢見から得た情報でわかっていた。故に浅葱と翔は気力回復の術式を用意していた。
(押されている……いや、攻撃手の不足か)
戦局を冷静に見やり、覚者は今の状況に気づく。現在攻勢に出ているのは行成、柾、義高の三人。鈴鹿は攻撃から回復に移行し、飛馬は回復を行う遥を庇っている。浅葱と翔は仲間の気力を回復するのに手いっぱいだ。
体力回復二名、気力回復二名と言う状況の為、覚者の継戦能力が途絶えるという事態はすぐにはない。幽霊の攻撃は鬱陶しくはあるが弱く、高い殲滅力を持つ『赤の死神』は一体しかいない。妖のダメージと覚者の回復のシーソーゲーム。その間に『赤の死神』を攻め続ければ、何時かは妖が倒れて覚者の勝ちだ。
これが通常の妖退治なら。
だが――
「っ! ……幽霊が増えた!」
妖の数が増えれば、シーソーのバランスは崩れる。
(幽霊増加のデメリットを軽視し過ぎたか……!)
覚者達は誰一人倒れないようにバランスよく攻撃と回復と防御を配分した。それは当たり前の判断だ。
だが敵の数が増えるという事は、相手も戦力を増すという事。その戦力を削がない限り、敵の数は増え続けることになる。そして攻撃手が不足すれば、相手の戦力を削りきれないことになる。
最初は幽霊を範囲の術式で攻撃していた覚者も、ダメージ蓄積により回復に移行する。それは幽霊に対する有効的な火力がへり、少しずつ幽霊への殲滅力が減ることに繋がっていた。
攻撃手が回復に回らなければ。幽霊を率先して倒す覚者がいれば。全ての火力を『赤の死神』に向けることができれば。たらればなど、詮無きことだ。
幽霊の数が増えて力を増した死神の刀技。それに少しずつ押され始める。
「後一歩、だというのに……!」
『赤の死神』の疲弊は激しい。見た目にも体は削れ、その霊体は崩壊寸前だ。だが、その一歩が不足していた。状況が分かっていても急な作戦変更は不可能だ。迷えば刃が乱れ、術に戸惑いが生まれる。
「――撤退だ!」
次の幽霊が集まる直前のタイミングで、誰かが叫ぶ。その言葉に弾けるように覚者達は退路を確認し、撤退に移る。
『赤の死神』はそれを追おうとはしない。戦場に殺意を残し、退く覚者達を静かに見ていた。
●
無事帰還した覚者達は、FiVEに報告を行う。そして迅速にAAAに連絡し、山に続く道を封鎖してもらった。山はしばらくAAAによる監視体制に入ることになる。
彼岸花が散るまで、山付近で心霊系妖による襲撃が増加する事となった。
覚者達は山の伝承を調べる事が出来た。あの山にかつて何があって、どういう理由であの妖が生まれたかを。
「――これか?」
戦国時代、隣国の姫があの山を越えようと従者を連れて逃げようとする話があった。姫は逃げきれず、従者と山中で討たれる。その亡骸を守るように、その地に彼岸花が咲き乱れたという。
「つまりあの妖の姿は従者で……姫の亡骸を守るために立っていたという事か」
「あの幽霊は?」
「姫を守るための援軍と言った所だろうな。外道に堕しても主を守ろうという意志か」
無論、憶測だ。真実は誰にもわからない。
ただ言えることは、妖はまだあの場に立っているという事だ。
彼岸に咲く赤い花。
それを象徴するかのように、一つの『死』が今も立っていた。
「ランク3か、強そうだ。気合い入れていくぜ」
彼岸花の中に立つ妖を見て『デジタル陰陽師』成瀬 翔(CL2000063)は頬を叩く。気合を入れて戦わなければ返り討ちに会うだろう。心を熱く滾らせながら、思考は冷静に。呼吸を正して、浄化の力を仲間に付与した。
「ランク3の妖かー。俺、実は戦うの初めてだったりするんだよな」
目の前の妖を見ながら『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は刀を構える。太刀と脇差。その二本を手に妖の前に立つ。強い相手という事は聞いている。自分の剣術がどれだけ通じるか。そんな挑戦でもあった。
「ふっ、幽霊が寄ってくると案内人みたいですねっ」
妖の周囲に集まる低ランクの魂たち。それを見ながら『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)は頷いた。身体を器物化しながら派手な光と共に覚醒して前に進む、どういう理由で生まれたかはわからないが、これを滅ぼすのが浅葱の正義。歩みに迷いはなかった。
「ふんっ! 彼岸花だから死の象徴とは短絡な妖だな」
吐き捨てる様に言い放つ『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)。彼岸花には『死』以外のイメージもあり、死を表向きに出すのは鼻に対する冒涜だ。花屋としてそんなたんらくな妖は生かしておけないと斧を手にする。
「そうだな。縁起が悪いと言われるが綺麗な花だ」
頷くように『花守人』三島 柾(CL2001148)が彼岸花を見ながら呟く。体内の炎を活性化させながら、一面に広がる紅色の花びらを見た。綺麗な花だが、ここまで沢山咲いていると恐怖を感じる。
「確かに綺麗なはずなのに、あの世に惹きこまれそう」
『月下の白』白枝 遥(CL2000500)もまた、一面の彼岸花畑に恐怖を感じていた。網膜に写る赤は、まるで別世界に紛れ込んだかのような錯覚を与える。その空気を払う様に力を抜き、神具をを手にした。
「彼岸花、か。この花が散る姿は、血が舞うようで悲しみを覚えるが……」
思い出に浸るように『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)が息を吐く。水の力を活性化させて浄化作用を増しながら、赤い花畑を見る。そしてそこに立つ妖を。思うことは色々あるが、人に害為すのなら討たねばならない。
「不吉な印象も多いけど、この赤い花は死者を迎い入れ慰める立派な花だって父様と母様が言ってた」
『愛求独眼鬼/パンツハンター』瀬織津・鈴鹿(CL2001285)は今は傍にいない両親を思い出しながら呟いた。父と母が大好きだった花。その二人に彼岸花の事を教えてもらった。眼前に広がる赤の絨毯。そこに立つ黒い着物。言葉なく、刀を抜き放つ。
『赤の死神』は覚者の存在を感知すると、持っている日本刀をちらつかせる。此処より先、入りし者は死を覚悟せよ。言葉なく、しかしはっきりと拒絶を伝える。覚者達もそれを感じながら、戦場に進む。
死を運ぶ妖。それを阻止する覚者。両者はそうであるのが当然であるかの如く、互いの武器を向け合い戦いに挑んだ。
●
開幕を告げたのは『赤の死神』だった。刀を一閃すると炎が走り、覚者達を包み込む。
「貴女は敬意をもって倒すの」
その炎のカーテンを抜けて走り込む鈴鹿。白い長髪をふわりと回しながら妖を見る。妖は人に害為す者。不倶戴天の存在。だが、それは敬意を抱いてはいけない理由ではない。彼岸花に断つ死の妖。その視線を受け止める。
足を止めると同時に両手を合わせる鈴鹿。右手に父親、左手に母親の温もりを思い出しながらパン、と音を立てる。動作と同時に体内に循環させた天の源素を解放し、妖の周囲に霧を発生させる。視界を奪い、その攻撃力を下げる為に。
「父様、母様、力を貸してください」
「死者を集める妖か」
『赤の死神』の周囲に集う低ランクの妖を見ながら、柾は神具を構えなおす。妖は討たねばならない。それは道理だ。このまま放置すればこの低ランク妖がどうなるか。それ以前に、この『赤の死神』が人の住む地に移動すれば。それだけは避けねばならない。
一秒後の自分の姿をイメージし、その通りに体を動かす。否、柾の体は思うよりも速く動いていた。近づきながら気弾を放ち、その踏み込みの勢いを殺すことなく前進する。腰の筋肉を弛緩させ、回転させながら拳を穿つ。
「体術が全く効かないわけじゃないが、やはり効きは悪いな」
「心霊系だからな。だけど効いてるのは確かだ!」
妖の様子を見ながら翔が口を開く。痛がっているわけではないが、攻撃の度に妖が薄まっていく。攻撃を積み重ねれば打破は出来るはずだ。問題はそれまでにこちらが立っていられるか。ランク3という名称は決して楽観できる相手ではないことを翔は知っている。
妖の炎を振り払いながら走り込み、印を切る翔。指先に集う天の源素。それが激しい稲光と化す。翔の指が天を刺すように掲げられれば、指先の稲光は高く空に向かって飛び、そして妖の群れに向かって落ちていく。雷撃が妖を穿っていく。
「話ができるなら、名前ぐらいは聞きたかったな」
「この地に何か所縁があるのかもしれん。後で調べてみるか」
薙刀を構え、行成が翔の言葉に応える。心霊系妖は、その発生に何かしらの依代が存在することがある。それはこの地か? 彼岸花か? あるいは別の何かか? そこにこの妖の『名』があるのかもしれない。だが今は妖退治が優先だ。
相手の足を止めるために、全力で間合いを詰める行成。妖の刀を薙刀で受け止め、神具ごしに妖を見る。冷たく、そして鋭い殺気を含んだ瞳。その殺気を振り払うように薙刀を振るう。炎を纏った一閃が妖達の体勢を崩す。
「彼岸花には再会を待つ意味もある。異名が多かったはずだ」
「赤い彼岸花の花言葉は『情熱』『再開』『想うはあなたひとり』だ。異名は全国に千近くあるぜ」
花屋である義高が笑みを浮かべて応える。毒を持ち、死を想起させる彼岸花。だが有毒の植物など幾らでもある。花を正しく取り扱わない人間が決めつけた死のイメージ。そしてそれに引っ張られる妖。花を大事にする者として、許しがたいことだった。
一気に間合いを詰めて、手にした斧を振りかぶる。幽霊がざわめくが、それを無視するかのように『赤の死神』に向かい斧を振ろ下ろした。精霊顕現の紋様が光り、土の力が神具に伝わる。重量と源素が絡み合った刃が妖に叩き込まれる。
「前がもし傷つけ、殺すことを望むのであれば、もちろん殺される覚悟もあるんだろうなぁ!?」
「死神さんですからねっ。その覚悟はあるのでしょうっ」
刃から伝わる説明できない何か。それを感じながら浅葱が答えた。殺気に乗せられたのは死闘の意志。それは自らの命を懸けている者のみが発する気。妖と人間が同じとは思わないが、確かにそれを感じさせる意志はあった。
その殺気を受け止めながら、浅葱は笑みを浮かべる。相手の正義、自分の正義。それが異なるというのなら、答えは一つ。相手の体勢を崩しながら拳を叩き込み、その勢いのまま妖を投げ飛ばす。今こそ力を振るうときだ。
「さあ、死を忘れるぐらい拳で語り合ってみましょうかっ」
「あの世に引き込まれたくないものね」
神具を握りしめながら遥が言葉を挟む。一面の彼岸花。黒の着物と日本刀。この世ならざる恐怖を想像してしまう。確かに綺麗な光景なのに。否、奇麗な光景だからこそ、目を奪われそのまま死に誘われそうになる。
そんな思いを振り払いながら、遥は戦場に目を移した。傷ついた仲間たちを見やり、水の源素を体内で循環させる。冷たく、そして澄んだ水。透明な湖をイメージし、源素を解き放った。術は仲間の傷を冷やし、包み込み、そして癒していく。
「呆けてる暇はない、ね。さあ頑張ろう!」
「言われなくとも頑張るさ!」
気合を入れる様に叫ぶ飛馬。相手の攻撃を刀で受け止めながら、その速さと強さに歯軋みしていた。一撃一撃が重く、そして速い。だがそれを受け止めてこその巖心流。身に着けた剣術は確かに役に立っていた。
飛馬は相手の攻撃を受け止めながら、仲間の覚者に手を触れて呼吸を整える。体内の『気』を手のひらに伝え、注ぐように相手に送り込む。念じる戦の祝詞が相手に渡り、仲間の攻撃を活性化していく。
「でも最後まで立ってるためには、ちょっとばかし気合が要りそうだ」
飛馬の言葉に無言で頷く覚者達。相手は強く、そして時間が経てば幽霊が集まりさらに強くなる。ただ神具を振るうだけでは、勝ち目はないだろう。僅かな隙が敗北を生む。相手の攻撃は無言でそれを告げていた。
「くそっ!」
「まだ負けられないの!」
「流石に楽じゃないかな」
義高、鈴鹿、遥が『赤の死神』により体力を削られ、命数を削られる。なんとか意識を保つが、楽観できる状況ではない。
『赤の死神』に引き寄せられて、幽霊が増える。時間は覚者に味方をしない。
覚者達はそれでも臆することなく戦いに挑む。
●
赤い花が戦いの風に揺れる。
覚者達は『赤の死神』打破を中心に動いていた。単体攻撃で『赤の死神』を狙いながら、範囲攻撃で幽霊を巻き込みつつ攻める。
妖の戦術は幽霊の攻撃でバッドステータスの抵抗力を弱め、『赤の死神』の攻撃効率を上げていく、と言う形だ。
「精神的誘惑の抵抗をあげる技能では、幽霊の不安をはねかえせませんかっ」
「バッドステータスに対する抵抗にはならないのか……」
龍の心をもって幽霊の術に抵抗しようとした浅葱と飛馬は、残念そうに拳を握る。
「柾さん、翔」
「分かってる」
「護りは任せておきな!」
行成の言葉に柾と翔が頷く。目線と足の動きで、互いの意図を察して動き出す。
「諸諸の禍事、罪、穢有らむをば。祓へ給ひ清め給へと白す事を――」
吹き荒れる妖の炎を前に翔が祝詞を唱える。それは祓詞。罪や穢れを払いのける言葉。それと共に涼風が翔を中心に吹き、仲間を包む炎を打ち払った。
「聞こし食せと恐み恐みも白す」
「冷たく燃え上がれ、我が炎……彼岸花の燃える赤に打ち負けぬ様に!」
その風が来るのが分かっていたかのように、行成は攻勢に出ていた。刀身に華があしらわれている薙刀を回転させ、その回転に幽霊たちを巻き込むように舞う。刃の演武は『赤の死神』をも巻き込む。そして回転を縫うように割り込む影一つ。
「限界まで炎を叩き込む!」
割り込んだ影の名前は柾。長柄の武器を振るう行成が目を引き、柾の姿を一瞬逸らさせたのだ。わずか一瞬。だがその隙を逃すことなく懐に入った柾は、ここが好機とばかりに炎の拳を叩き込む。
「目で捉えてどうこうできる動きじゃねえな……!」
義高は鍛えられた観察眼で相手の攻撃を見切ろうとしたが、その困難さを実感する。見えた、と思った瞬間にはすでに攻撃されているのだ。それに集中すれば、押される可能性が高い。諦めて『ギュスターブ』を振るい、攻撃に出る。
「癖やパターンも……読み切れそうにないか」
義高と同じく妖の目線や体幹の向きから攻撃を見切ろうとしていた飛馬も、音を上げた。一の構えから派生する技は八以上。構え自体がどれだけあるかわからない。その全てを知るには時間が足りない。見るだけで攻撃がかわせるほど『武』が甘くないのは知っている。
「まだだ……!」
「倒れるわけにはいかないよ」
「きついですねっ」
度重なる『赤の死神』の攻撃に行成、柾、浅葱が命数を削る。
「回復しますよっ。誰も倒れさせはしませんからねっ」
浅葱は疲弊した仲間を癒す為に回復に移行する。体術の効きにくい心霊系妖に打撃を加えるよりは、回復を行った方が効率よいと判断したからか。生命力を相手に受け渡し、前衛を中心に傷を癒していく。
「ありがとう。何とか持ち直すよ」
肩で息をしながら遥が回復の術を行使する。妖からの攻撃は飛馬が庇ってくれる。今は回復を続けて、仲間の体力を維持するのが自分の役割だ。油断すれば死に引き込まれかねない。この彼岸花に引きずられるように――
「これ以上は無理なの。一旦回復に回るの!」
前に出て『赤の死神』の剣筋を見切ろうとしていた鈴鹿は。予想以上の攻撃で疲弊して諦める。毒の衣をまとい相手に相応のダメージを与えていたが、鈴鹿自身はそれ以上の傷を受けていた。限界を悟り、下がって回復を行う。
「幽霊の数が増えたか……!」
「仕方ない。積極的に潰していこう」
そして時が経つにつれ、低ランクの幽霊が増える。それにより切れ味を増す『赤の死神』の刃。柾は積極的に幽霊排除に動き、幽霊に打撃を加えていく。しかし、
「気力の限界が近い……!」
覚者とて、無限に攻撃できるわけではない。幽霊の攻撃は冷たく気力を削ってくる。それ自体は夢見から得た情報でわかっていた。故に浅葱と翔は気力回復の術式を用意していた。
(押されている……いや、攻撃手の不足か)
戦局を冷静に見やり、覚者は今の状況に気づく。現在攻勢に出ているのは行成、柾、義高の三人。鈴鹿は攻撃から回復に移行し、飛馬は回復を行う遥を庇っている。浅葱と翔は仲間の気力を回復するのに手いっぱいだ。
体力回復二名、気力回復二名と言う状況の為、覚者の継戦能力が途絶えるという事態はすぐにはない。幽霊の攻撃は鬱陶しくはあるが弱く、高い殲滅力を持つ『赤の死神』は一体しかいない。妖のダメージと覚者の回復のシーソーゲーム。その間に『赤の死神』を攻め続ければ、何時かは妖が倒れて覚者の勝ちだ。
これが通常の妖退治なら。
だが――
「っ! ……幽霊が増えた!」
妖の数が増えれば、シーソーのバランスは崩れる。
(幽霊増加のデメリットを軽視し過ぎたか……!)
覚者達は誰一人倒れないようにバランスよく攻撃と回復と防御を配分した。それは当たり前の判断だ。
だが敵の数が増えるという事は、相手も戦力を増すという事。その戦力を削がない限り、敵の数は増え続けることになる。そして攻撃手が不足すれば、相手の戦力を削りきれないことになる。
最初は幽霊を範囲の術式で攻撃していた覚者も、ダメージ蓄積により回復に移行する。それは幽霊に対する有効的な火力がへり、少しずつ幽霊への殲滅力が減ることに繋がっていた。
攻撃手が回復に回らなければ。幽霊を率先して倒す覚者がいれば。全ての火力を『赤の死神』に向けることができれば。たらればなど、詮無きことだ。
幽霊の数が増えて力を増した死神の刀技。それに少しずつ押され始める。
「後一歩、だというのに……!」
『赤の死神』の疲弊は激しい。見た目にも体は削れ、その霊体は崩壊寸前だ。だが、その一歩が不足していた。状況が分かっていても急な作戦変更は不可能だ。迷えば刃が乱れ、術に戸惑いが生まれる。
「――撤退だ!」
次の幽霊が集まる直前のタイミングで、誰かが叫ぶ。その言葉に弾けるように覚者達は退路を確認し、撤退に移る。
『赤の死神』はそれを追おうとはしない。戦場に殺意を残し、退く覚者達を静かに見ていた。
●
無事帰還した覚者達は、FiVEに報告を行う。そして迅速にAAAに連絡し、山に続く道を封鎖してもらった。山はしばらくAAAによる監視体制に入ることになる。
彼岸花が散るまで、山付近で心霊系妖による襲撃が増加する事となった。
覚者達は山の伝承を調べる事が出来た。あの山にかつて何があって、どういう理由であの妖が生まれたかを。
「――これか?」
戦国時代、隣国の姫があの山を越えようと従者を連れて逃げようとする話があった。姫は逃げきれず、従者と山中で討たれる。その亡骸を守るように、その地に彼岸花が咲き乱れたという。
「つまりあの妖の姿は従者で……姫の亡骸を守るために立っていたという事か」
「あの幽霊は?」
「姫を守るための援軍と言った所だろうな。外道に堕しても主を守ろうという意志か」
無論、憶測だ。真実は誰にもわからない。
ただ言えることは、妖はまだあの場に立っているという事だ。
彼岸に咲く赤い花。
それを象徴するかのように、一つの『死』が今も立っていた。
■シナリオ結果■
失敗
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
